説明

低周波スペクトルによりサンプルを特徴付けるシステムおよび方法

【解決手段】分子回転を示すサンプル(200)を調査する方法と装置を提供すること。
【課題】サンプルは、磁気シールドと電磁シールドの両方を備える容器(50)内に配置され、ガウスノイズがサンプル内に注入される。注入されたノイズに重ね合わせられているサンプル源放射からなる電磁時間領域ノイズが検出される。この信号は、周波数領域成分との相互相関が求められた信号について同じサンプルにより出力された第2の時間領域信号との相互相関が求められる。信号は高速フーリエ変換「fft」によりグラフ化され、DC〜50kHzの周波数範囲内の周波数領域スペクトルを出力する。このスペクトルから、調査対象のサンプルに固有の1つまたは複数の低周波信号成分が識別される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低周波スペクトルによりサンプルを特徴付けるシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子または分子化合物の特徴付けを行うさまざまな分光分析ツール(spectroscopic tool)がある。例えば、限定しないが、X線、UV、可視光線、赤外線、およびマイクロ波分光法ならびに原子および電子スピン共鳴(NMRおよびESR)分光法などがある。一般に、分光分析ツールは、少なくとも4種類の化学分析問題(chemical-analytical problem)で有用である。すなわち、第1は、分光学的特徴、例えば、スペクトル成分に応じて原子および分子化合物の特徴付けを行う問題、第2は、化合物を構成する原子のスペクトル特性に応じて化合物の原子組成を決定する問題、第3は、化合物内の原子間相互作用のスペクトル特性に応じて分子化合物の2−Dまたは3−D立体配座を決定する問題、第4は、検出対象の化合物の顕著なスペクトル特性に応じてサンプル内の成分、例えば、汚染物質を検出し識別する問題である。
【0003】
大多数の既存の分光分析ツールには、感度、得られる情報、測定のし易さ、およびコストに関して、特有の長所を備えている。各ツールは他の方法では得られない情報を提供するので、一般的に、できるだけ多くの関連する分光分析ツールを化学分析的なものに関係させられると有益である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Temperton、「Implementation of a Self-Sorting In-Place Prime Factor FFT Algorithm」、Journal of Computation Physics、58巻、283頁、1985年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一態様として、分子回転(molecular rotation)を呈するサンプルを調査(interrogate)する装置を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による装置は、磁気シールド(magnetic shielding)および電磁シールド(electromagnetic shielding)の両方を備えたサンプル容器(sample container)、サンプルに注入(injection)するためのガウスノイズ源(source of Gaussian noise for injection into the sample)、注入するガウスノイズ(injected Gaussian noise)に重畳(superimpose)されたサンプル源放射(sample source radiation)からなる電磁時間領域信号(electromagnetic time-domain signal)を検出する検出器(detector)、時間領域信号と同じサンプルまたは類似のサンプルから別々に検出された時間領域信号とを格納するためのストレージデバイス、を備えている。
【0007】
電子式コンピュータは、ストレージデバイスに格納されている信号に対して処理オペレーションを施すことにより、(i)検出された時間領域信号と第2の時間領域信号との相互相関を求めて、DCから50kHzまでの周波数範囲内の周波数領域スペクトル(frequency domain spectrum)を生成(produce)し、(ii)サンプルに固有のスペクトルのうち低周波スペクトル成分(loew−frequency spectral component)に関連した情報を含む出力を発生(generate)する。
【0008】
この容器(container)は、サンプル保持領域(sample−holding region)、サンプル領域を囲む磁気遮蔽ケージ(magnetic shielding cage)、磁気遮蔽ケージ内に収められ且つサンプル領域(sample region)を囲むファラデーケージ(Faraday cage)を備えた減衰チューブ(attenuation tube)としてもよい。サンプル容器(sample container)は、容器内のサンプルを選択された温度に維持するための温度コントローラ(temperature controller)を備えることができる。
【0009】
ガウスノイズ源(source of Gausian noise)は、ガウスノイズ発生器(Gaussian noise generator)と、磁気ケージ(magnetic cage)およびファラデーケージに収められノイズ発生器からノイズ出力信号を受信するヘルムホルツコイルと、を備えることができる。インジェクタ(indector)は、非定常複合信号成分(non-stationary composite signal component)を生成するのに十分な振幅(amplitude)の定常白色ガウスノイズ(stationary white Gaussian noise)をサンプルに注入(inject)するように設計されているのが好ましい。好ましい注入白色ノイズ周波数(injected white-noise frequency)は、DCから2kHzまでの範囲である。
【0010】
装置内の検出器(detector)は、電流信号(current signal)を出力する1次微分超伝導グラジオメータ(first−derivative superconducting gradiometer)、および、その電流信号を増幅電圧信号(amplified voltage signal)に変換(convert)するためにグラジオメータに接続されているSQUIDを備えることができる。この検出器はさらに、時間依存性信号(time-dependent signal)における定常ノイズ成分(stationary noise components)を除去する際に使用するため、上記ノイズ源(noise source)および上記SQUIDに接続されており、ノイズ源からガウスノイズを受け取り、サンプルに注入されたガウスノイズとは反転された形でガウスノイズをSQUIDに出力する信号インバータ(signal inverter)を備えることができる。
【0011】
相互相関周波数スペクトル(cross−correlated frequency spectrum)をフーリエ変換して、サンプル成分のプロット(plot of sample component)を周波数の関数として生成することができ、その相関値(correlation value)はスペクトル成分振幅(spectral−component amplitude)として表される。生成される周波数領域は、DCから6.5kHzまでの範囲内にあるのが好ましい。低周波信号成分の観察範囲の一例は、100から1200Hzである。
【0012】
コンピュータは、出力生成の際に、相互相関スペクトルの相関(cross−correlated spectral correlation)が背景スペクトルノイズ(background spectral noise)よりも高い(above)選択された統計的尺度(selected statistical measure)を持つスペクトルにおいて、低周波信号成分の周波数を識別する動作が可能である。この特徴は、例えば、低周波信号成分に関して知られているサンプル物質(known sample material)を特徴付ける際に有用である。
【0013】
サンプル内の1つまたは複数の成分を識別する際に使用するため、コンピュータは、出力生成に関して、(ii)相互相関スペクトルの相関(cross-correlated spectral correlation)が背景スペクトルノイズを超える選択された統計的尺度を持つ(i)DCから50kHzの選択された周波数範囲で(a)サンプル信号成分の周波数を識別し、(b)そのようなサンプル信号成分と、サンプル内に存在しているのではないかと疑われる知られている化合物(known compound)の固有低周波信号成分(characteristic low−frequency signal component)とを比較し、(c)その固有低周波信号の周波数がサンプル信号周波数(sample-signal frequency)のうち1つまたは複数に対応する場合、ある化合物(a compound)がサンプル内に存在(present)するものと識別するように動作することが可能である。
【0014】
この装置は、本発明の他の態様により、分子回転(molecular rotation)を呈するサンプルを調査(interrogate)するための方法を実施することができる。この方法を用いて液体サンプル(liquid sample)内の1つまたは複数の成分(component)を識別(identify)する場合、その成分の検出は、百万分の一または百億分の一のレベル(part per million and part per 10 billion level)で行うことができる。
【0015】
場合によっては、ある化合物の低周波信号成分の1つまたは複数が、通常2Hz未満の範囲の濃度依存性周波数シフト(concentration-dependent frequency shift)を呈することがある。この実施形態では、ある化合物を識別することは、その周波数シフト(frequency shift)によりサンプル成分の濃度(concentration of a sample component)を近似(approximate)することを含むことができる。また場合によっては、ある化合物の低周波信号成分の1つまたは複数が、濃度依存性スペクトル相互相関(concentration-dependent cross−spectral correlation)を示すことがある。この実施形態では、ある化合物を識別することは、そのスペクトル相互相関(cross−spectral correlation)から化合物の濃度(concentration of the compound)を近似(approximate)することを含むことができる。
【0016】
また、対象物質(material of interest)に関連した低周波スペクトルシグネチャ(low−frequency spectral signature)を開示している。このシグネチャ(signature)は、上記の方法により発生するDC〜50kHzの周波数範囲の周波数成分のリスト(list)または表(tabulation)を含み、好ましくは、振幅(amplitude)が背景スペクトルノイズ(background spectral noise)よりも上(above)の選択された統計的尺度(selected statistical measure)を持つ成分(component)を含む。
【0017】
さらに本発明の他の態様では、対象物質(material of interest)に関連した時間領域信号を含む。この時間領域信号は、
その物質のサンプルを磁気シールドおよび電磁シールドの両方を備えた容器に入れ、
サンプルにガウスノイズを注入し、
注入したガウスノイズに重畳(superimpose)されたサンプル源放射(sample source radiation)からなる電磁時間領域信号(electromagnetic time−domain signal)を記録(record)する、
ステップにより生成される。
【0018】
重ね合わせされた例えば、上記の方法により、対象物質に関連する低周波信号シグネチャを発生する際に、この信号を使用することができる。
【0019】
本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、添付図面に関して、本発明の以下の詳細な説明を読むとより完全に明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態により形成された分子電磁シグナリング検出装置の一実施形態を示す等角投影図である。
【図2】図1に示されているファラデーケージとその内容の拡大詳細図である。
【図3】図1および図2に示されている減衰チューブの1つの拡大断面図である。
【図4】図2に示されているファラデーケージとその内容の断面図である。
【図5】図1ないし図4に示されている本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】本明細書で説明されているヘルムホルツ変圧器のコイルを支えるフレームの拡大詳細図である。
【図7】他の電磁放射検出システムを示す図である。
【図8】上述した各図の検出システムに含まれる処理ユニットを示す図である。
【図9】図8とは別の処理ユニットを示す図である。
【図10】本システムによって実行される信号検出および処理を示す流れ図である。
【図11A】第1のサンプルのエミッションを表すスペクトルプロット図である。
【図11B】第2のサンプルのエミッションを表すスペクトルプロット図である。
【図12A】非相関時間領域サンプル信号をフーリエ変換することにより生成される、飽和NaClのサンプルにおける、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域内のスペクトルプロット図である。
【図12B】相互相関サンプルスペクトルをフーリエ変換することにより生成される、飽和NaClのサンプルにおける、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域内のスペクトルプロット図である。
【図13A】非相関時間領域サンプル信号をフーリエ変換することにより生成される、アルキルエーテルサルフェートのサンプルにおける、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域内のスペクトルプロット図である。
【図13B】相互相関サンプルスペクトルをフーリエ変換することにより生成される、アルキルエーテルサルフェートのサンプルにおける、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域内のスペクトルプロット図である。
【図14A】脱イオン水のサンプルに対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図14B】飽和NaCl溶液に対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図14C】脱イオン水の1%NaClの溶液に対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図14D】飽和NaBrサンプルに対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図14E】脱イオン水中のアルキルエーテルサルフェートに対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図14F】サンプルなしに対する、500〜530Hzの範囲のスペクトル領域におけるスペクトルプロット図である。
【図15A】1:100重量/体積溶液にて50秒の記録と40分の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内のスペクトルプロット図である。
【図15B】重量/体積希釈率が1:10000であり、スペクトルが50秒の記録と40分の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内におけるスペクトルプロット図である。
【図15C】重量/体積希釈率が1:1000000である、スペクトルが50秒の記録と40分の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内におけるスペクトルプロット図である。
【図15D】重量/体積希釈率が1:100000000であり、スペクトルが50秒の記録と40分の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内におけるスペクトルプロット図である。
【図15E】重量/体積希釈率が1:10000000000であり、スペクトルが50秒の記録と40分の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内におけるスペクトルプロット図である。
【図15F】重量/体積希釈率が1:10000000000であり、スペクトルが4:25分の記録、12時間の相関で生成された、アミノ酸のサンプルの500〜535Hzの範囲のスペクトル領域内におけるスペクトルプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
各図面において、同一の参照番号は、同一または実質的に類似している要素または動作を示す。特定の要素または活動の説明が簡単に判るように、参照番号の最上位桁または複数の上位桁は、要素が最初に紹介された図番号を示している。
【0022】
I.定義
以下の用語は、特に断りのない限り以下に示す定義を持つ。
【0023】
「分子回転を呈するサンプル」とは、気体、液体、または固体の形をとることができ(固体金属以外)、サンプルを構成するまたはサンプル内に存在する分子化合物または原子イオンの1つまたは複数が回転を示すサンプル物質のことである。
【0024】
「磁気シールド」とは、シールド材料の透磁率の結果として磁束の通過を抑制または防止するシールドのことである。
【0025】
「電磁シールド」とは、例えば、標準ファラデー電磁シールドのことである。
【0026】
「時間領域信号」または「時系列信号」とは、経時変化する短時間の信号特性を持つ信号のことである。
【0027】
「サンプル源放射」とは、磁場内の分子双極子の回転の結果生じる磁束放射のことである。
【0028】
「ガウスノイズ」とは、電力分布がガウス分布であるランダムノイズのことである。
【0029】
「定常白色ガウスノイズ」とは、予測可能な成分を持たないランダムガウスノイズのことである。
【0030】
「周波数領域スペクトル」とは、時間領域信号のフーリエ周波数をグラフにしたものである。
【0031】
「スペクトル成分」とは、周波数、振幅、および/または位相領域で測定可能な時間領域信号の1つだけの、または繰り返しのある特質のことである。スペクトル成分は、通常、周波数領域内に存在する信号を意味する。
【0032】
第1のサンプルに関して「類似のサンプル」とは、同じサンプルまたは、第1のサンプルと実質的に同じサンプル成分を持つサンプルのことである。
【0033】
「ファラデーケージ」とは、不要な電磁放射用にグラウンドへの電気的パスを備える電磁シールド構成のことで、これにより、電磁環境を穏やかにできる。
【0034】
II.装置
注目しているサンプルの低周波電磁放射または信号を検出し、処理し、表示するシステムおよび方法を以下で詳述する。一実施形態では、知られている白色またはガウスノイズ信号がサンプルに持ち込まれる。ガウスノイズは、サンプルからの電磁放射が信号検出システムにより十分検出できるように構成される。検出された信号の集まりは、まとめて処理されるため、再現性および統計的妥当性が保証される。その結果得られる放射パターンつまりスペクトルは、特定の物質として表示、格納、かつ/または識別することができる。
【0035】
以下の説明では、本発明の実施形態を完全に理解できるように、またその記述を可能にするため具体的内容を説明する。ただし、当業者であれば、こうした具体的内容がなくても本発明を実施できることを理解するであろう。他の例では、よく知られている構造および機能については、本発明の実施形態の説明をいたずらにわかりにくくしないために詳しく示されても説明されてもいない。
【0036】
以下で詳しく説明するが、本発明の実施形態は、低閾値分子電磁信号の反復可能な検出および記録のための装置および方法を実現することを対象とする。磁気遮蔽されたファラデーケージにより、サンプル物質および検出装置を外部の電磁信号から遮蔽する。磁気遮蔽されたファラデーケージ内にあるコイルは、白色またはガウスノイズを注入し、非鉄トレイはサンプルを保持し、グラジオメータは低閾値分子電磁信号を検出する。さらに装置は、超電導量子干渉デバイス(「SQUID」)およびプリアンプを備える。
【0037】
この装置は、サンプルをノイズコイルおよびグラジオメータの近くにある磁気遮蔽されたファラデーケージ内に配置することにより使用される。白色ノイズは、ノイズコイル内に注入され、分子電磁信号が確率共鳴を通じて高められるまで変調される。その後、グラジオメータとSQUIDにより、ファラデーケージによる外部干渉とノイズコイルにより発生する場から遮蔽されている、強化された分子電磁信号が検出され、測定される。次に、信号は増幅され、適切な記録または測定機器に伝送される。
【0038】
図1を参照すると、外から内への方向で、磁気シールドである導電性金網箱16および電磁シールドを備える内側導電性金網箱18および20を備えるシールド構造10が示されている。他の実施形態では、外側磁気シールドは、アルミニウム−ニッケル合金コーティングを施した固体アルミニウム板材質で形成され、電磁シールドは、それぞれ固体アルミニウムで形成される2つの内側壁構造により実現される。
【0039】
図2を参照すると、ファラデーケージ10は、上部が開いており、側面開口部12および14を備える。ファラデーケージ10は、さらに、3つの銅製金網箱16、18、および20からなり、互いに入れ子になっている。銅製金網箱16、18、および20はそれぞれ、各箱の間の誘電体バリア(図には示されていない)により他の箱から電気的に絶縁されている。
【0040】
側面開口部12および14はさらに、干渉の外部発生源から箱の内側を絶縁しながらファラデーケージ10の内側にアクセスできるように減衰チューブ22および24を備える。図3を参照すると、減衰チューブ24は、3つの銅製金網管26、28、および30からなり、互いに入れ子になっている。外側銅製金網箱16、18,および20は、それぞれ、銅製金網管26、28、および30の1つに電気的に接続されている。減衰チューブ24は、さらに、キャップ32で蓋をされており、キャップには穴34が開いている。減衰チューブ22も、同様に、銅製金網管26、28、および30からなるが、キャップ32を含まない。
【0041】
図2を再び参照すると、低密度非鉄サンプルトレイ50がファラデーケージ10の内側に取り付けられている。サンプルトレイ50は、減衰チューブ22および側面開口部12を通じてファラデーケージ10から取り外せるように取り付けられている。3本の棒52は、それぞれファラデーケージ10の中心縦軸から減衰チューブ22の一番外側のエッジまでの距離よりも長く、サンプルトレイ50に取り付けられている。3本棒52は減衰チューブ22の内側湾曲に沿うように適合されており、減衰チューブ内に棒を留めることによりサンプルトレイ50をファラデーケージ10の中心に配置できる。例示されている実施形態では、サンプルトレイ50および棒52は、グラスファイバエポキシ製である。当業者であれば、サンプルトレイ50および棒52は、他の非鉄材質でもよく、トレイを1本の棒など他の手段によりファラデーケージ10に取り付けることも可能であることを容易に理解するであろう。
【0042】
図2を再び参照すると、ファラデーケージ10内とサンプルトレイ50の上には凍結剤デュアー100が取り付けられている。開示されている実施形態では、デュアー100は、ファラデーケージ10の上部の開口部内に収まるように適合されており、製品としてはTristan Technologies, Inc.のModel BMD−6 Liquid Helium Dewarである。デュアー100は、グラスファイバエポキシ複合材料製である。視野の非常に狭いグラジオメータ110は、その視野がサンプルトレイ50を包含するようにデュアー100内の適所に取り付けられている。例示されている実施形態では、グラジオメータ110は、通常は直径1センチメートル、2%バランスの一次軸検出コイル(first order axial detection coil)であり、超伝導体で形成される。グラジオメータは、平面型グラジオメータを除く任意の形態のグラジオメータとすることができる。グラジオメータ110は、1つの低温直流超伝導量子干渉デバイス(「SQUID」)120の入力コイルに接続されている。開示されている実施形態のSQUIDはTristan Technologies,Inc製のModel LSQ/20 LTS dc SQUIDである。当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、高温または交流SQUIDが使用されることが可能であることを理解するであろう。他の実施形態では、SQUID 120は、ノイズ抑制コイル124を備える。
【0043】
グラジオメータ110およびSQUID 120の開示されている組み合わせでは、磁場を測定した場合、感度は5マイクロテスラ/√Hzである。
【0044】
SQUID 120の出力はTristan Technologies,Inc.製Model SP極低温ケーブル130に接続されている。極低温ケーブル130は、デュアー100内で、またデュアー100なしで温度に耐えることができ、SQUID 120から外部のファラデーケージ10およびデュアー100に取り付けられている磁束ロックループ140に信号を転送する。開示されている実施形態の磁束ロックループ140は、Tristan Technologies,Inc.製のiFL−301−L Flux Locked Loopである。
【0045】
図1を参照すると、磁束ロックループ140は、さらに、高水準出力回路142を介してSQUID 120から受信した信号を増幅し、iMC−303 iMAG(登録商標)SQUIDコントローラ150に出力する。磁束ロックループ140は、さらに、ケーブル144をSQUIDコントローラ150に接続するモデルCC−60の6メートル光ファイバ複合体を介して接続される。ケーブル144およびSQUIDコントローラ150を接続する光ファイバは、Tristan Technologies,Inc.製である。コントローラ150は、外部の磁気遮蔽ケージ40に取り付けられている。光ファイバ接続ケーブル144は、SQUIDコントローラ150から磁束ロックループ140に制御信号を伝送し、さらに、測定対象の電磁干渉の発生の可能性を減じることができる。当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、他の磁束ロックループ、接続ケーブル、およびSQUIDコントローラが使用されることが可能であることを理解するであろう。
【0046】
SQUIDコントローラ150は、さらに、高分解能アナログデジタルコンバータ152、デジタイズされた信号を出力するための標準GP−IBバス154、アナログ信号を出力するためのBNCコネクタ156を備える。例示されている実施形態では、BNCコネクタは、パッチコード162を通じてデュアルトレースオシロスコープ160に接続されている。
【0047】
図2を参照すると、サンプルトレイがファラデーケージ10内に完全に挿入された場合に2要素ヘルムホルツ変圧器60がサンプルトレイ50のいずれかの側に取り付けられる。例示されている実施形態では、ヘルムホルツ変圧器60のコイル巻き線62および64は、25キロヘルツの周波数中心、および8.8メガヘルツの自己共振周波数で、50キロヘルツ範囲の直流電流で動作するように設計されている。例示されている実施形態では、コイル巻き線62および64は、一般に、形状が矩形であり、おおよそ高さ8インチ(20.32cm)幅4インチ(10.16cm)である。他のヘルムホルツコイル形状も使用が可能であるが、グラジオメータ110およびサンプルトレイ50がヘルムホルツコイルにより発生する磁場内に配置されるように形状およびサイズが設定されなければならない。コイル巻き線62および64はそれぞれ、2つの低密度非鉄フレーム66および68の一方に取り付けられる。フレーム66および68は、蝶番で互いに接続され、脚70で支えられる。フレーム66および68は、脚70にスライドできるように取り付けられており、デュアー100の下側部分に関してフレームの縦方向の移動を行える。フレームの移動により、ヘルムホルツ変圧器60のコイル巻き線62および64を調整しグラジオメータ110で受け取る白色ノイズの振幅を変化させることができる。脚70は、ファラデーケージ10の底部に置かれるか、またはエポキシ樹脂で固定される。例示されている実施形態では、フレーム66および68および脚70は、グラスファイバエポキシ製である。本発明の精神と範囲を逸脱することなく、サンプルトレイ50の回りで変圧器またはコイルの他の配置が使用されることが可能である。
【0048】
図4を参照すると、ファラデーケージとその内容の断面図が示されており、デュアー100およびファラデーケージ10に関して、ヘルムホルツ変圧器60の巻き線62が示されている。また図4では、サンプルトレイ50およびサンプル200の位置にも留意されたい。
【0049】
図5を参照すると、ヘルムホルツコイル巻き線62および64が縦の向きに固定され、追加ノイズコイル300がサンプルトレイ50の下に配置されている他の実施形態が示されている。追加ノイズコイル300の巻き線は、ヘルムホルツ変圧器60の縦巻線62および64に実質的に垂直であり、追加ノイズコイル300の巻き線はしたがって、ファラデーケージ10の底部に対し実質的に平行な向きにある。
【0050】
この他の実施形態では、ノイズはヘルムホルツコイルを供給するのと同様に同一のツイストペア線(図に示されていない)からノイズコイル300に供給される。ノイズ源は、ヘルムホルツコイルにノイズを供給するために使用される同じノイズ発生器である。ノイズは、追加ノイズ出力接続または平衡型スプリッタ(balanced splitter)を介してノイズ発生器でサンプリングされ、出力接続からノイズ発生器に送られる。追加ノイズコイル300でのノイズ信号の減衰は、調整可能なRF信号減衰回路によるものであり、多くは市販のものを利用できるか、または適当な直列の固定値RF減衰フィルタを介して利用することができる。
【0051】
図6を参照すると、ヘルムホルツ変圧器60のコイルを支えるフレームの詳細が示されており、図6の基準点は図4の表示から90度であり、ファラデーケージ10を省いている。フレーム66および68は、実質的に互いに縦の位置または平行な位置のヘルムホルツコイルのコイル巻き線を示すように配置される。フレーム66’および68’は、前記フレームを接合する蝶番付き接続部の軸を中心として前記フレームが回転することを示しており、ヘルムホルツ変圧器のコイル巻き線を互いに非平行関係となるように配置する。
【0052】
図1を再び参照すると、振幅調整可能白色ノイズ発生器80は、磁気遮蔽ケージ40の外部にあり、電気的ケーブル82によりフィルタ90を介してヘルムホルツ変圧器60に電気的に接続されている。図3を参照すると、ケーブル82は、側面開口部12、減衰チューブ24、および穴34を使用してキャップ32を経由して引き回される。ケーブル82は、それぞれ内部および外部の磁気シールド86および88で囲まれた銅のツイストペア線84を含む同軸ケーブルである。他の実施形態では、導線は、銀または金などの導電性非磁性体としてよい。内部および外部磁気シールド86および88は、キャップ32で終端し、エンドキャップから図1に示されているヘルムホルツ変圧器までの残りの距離にまたがるようにツイストペア線84を残す。内部磁気シールド86は、キャップ32を通じてファラデーケージ16に電気的に接続されているが、外部磁気シールドは、図1に示されている磁気シールドされた箱40に電気的に接続されている。
【0053】
図1を参照すると、白色ノイズ発生器80は、0から100キロヘルツまでの周波数スペクトルにまたがるほぼ均一なノイズを発生することができる。例示されている実施形態では、フィルタ90は、50キロヘルツを超えるノイズを除去するが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、他の周波数範囲も使用されることが可能である。
【0054】
ノイズ発生器80は、さらに、パッチコード164を通じてデュアルトレースオシロスコープ160の他方の入力に電気的に接続されている。
【0055】
図1、図2、および図3を参照すると、測定対象の物質200のサンプルは、サンプルトレイ50上に置かれ、サンプルトレイは、ファラデーケージ10内に置かれる。第1の実施形態では、白色ノイズ発生器80を使用して、ヘルムホルツ変圧器60内に白色ノイズを注入する。ノイズ信号により、グラジオメータ110内に誘導電圧が発生する。次に、グラジオメータ110内の誘導電圧は、SQUID 120により検出されて増幅され、さらにSQUIDからの出力は、磁束ロックループ140により増幅され、SQUIDコントローラ150に送られ、その後、デュアルトレースオシロスコープ160に送られる。また、デュアルトレースオシロスコープ160は、白色ノイズ発生器80により発生した信号を表示するのにも使用される。
【0056】
白色ノイズ信号は、白色ノイズ発生器80の出力を変更し、図2に示されているように、サンプル200を中心としてヘルムホルツ変圧器60を回転することにより調整される。フレーム66および68の蝶番付き接続部の軸を中心にヘルムホルツ変圧器60を回転すると、グラジオメータ110に関してその位相が変化する。所望の位相変化に応じて、フレーム66および68の蝶番付きの接続部により、巻き線62および64を互いに平行な状態のままにしながら、サンプルトレイ50を中心に約30から40度回転させることができる。さらに蝶番付き接続部により、巻き線62および64を平行位置から約60度ほど回転させ、グラジオメータ110に関してヘルムホルツ変圧器60により発生する磁場の信号位相を変化させることができる。状況によっては他の向きが好ましい場合があるが、位相の標準的な調整は、この平行外れ向きを含み、例えば、不規則な形状のサンプル200に対応できる。ノイズを印加し、そのノイズが検出を求められている分子電磁放射よりも30から35デシベル高くなるまで調整する。このノイズレベルでは、ノイズは確率共鳴のよく知られている現象を通じて分子電磁信号の特性を帯びる。求めている確率積は、グラジオメータ110により検出される信号を反映するオシロスコープのトレースが白色ノイズ発生器80から信号を直接反映するトレースから変化する場合に観察される。他の実施形態では、信号は、市販の機器により記録され、かつ/または処理されることが可能である。
【0057】
他の実施形態では、分子電磁信号を検出する方法は、さらに、SQUID 120のノイズ抑制コイル124を通じてヘルムホルツ変圧器60で印加された元のノイズ信号と位相が180度ずれているノイズを注入することを含む。求められる確率積は、グラジオメータ110により検出される信号を反映するオシロスコープのトレースが非ランダムになった場合に観察されることが可能である。
【0058】
どのようにノイズが注入され、調整されるか関係なく、確率積は、スペクトルのピークの増大があった場合を観察することにより判別されることも可能である。スペクトルのピークは、オシロスコープ160上で折れ線グラフとして、または数値として、または他のよく知られている測定デバイスにより観察されることが可能である。
【0059】
本発明の実施形態では、外部干渉なしで閾値が極めて低い分子電磁信号を検出するための方法および装置を提示する。これらはさらに、さまざまな信号記録および処理機器により容易に使用可能な形式で信号を出力することも規定する。
【0060】
次に、図7を参照すると、上の図の分子電磁放射検出および処理システムに対する他の実施形態が示されている。システム700は、処理ユニット704に結合されている検出ユニット702を備える。処理ユニット704は検出ユニット702の外部にあるものとして示されているが、処理ユニットの少なくとも一部は検出ユニット内に配置されることが可能である。
【0061】
図7Aの断面図に示されている、検出ユニット702は、入れ子になっている、または互いに同心上にある複数のコンポーネントを含む。サンプル箱またはファラデーケージ706は、金属製箱708内に入れ子になっている。サンプル箱706と金属製箱708はそれぞれ、アルミニウム材質のものとすることができる。サンプル箱706は、真空内に保持し、プリセットされている温度になるように温度制御することができる。金属製箱708は、ローパスフィルタとして機能するように構成されている。
【0062】
サンプル箱706と金属製箱708との間で、サンプル箱706を取り囲んでいるのは、一組の平行な加熱コイルまたは素子710である。さらに1つまたは複数の温度センサ711が、加熱素子710およびサンプル箱706に近い位置に配置されている。例えば、4つの温度センサをサンプル箱706の外装の回りの異なる位置に配置されることが可能である。加熱素子710および温度センサ711は、サンプル箱706の内部の温度を特定の温度に保つように構成されている。
【0063】
シールド712は、金属製箱708を取り囲んでいる。シールド712は、サンプル箱706用に追加の磁場遮蔽または絶縁を行うように構成されている。シールド712は、鉛または他の磁気シールド材料で構成されることが可能である。シールド712は、サンプル箱706および/または金属製箱708が十分な遮蔽を備えていればオプションである。
【0064】
シールド712を囲んでいるのは、G10絶縁が施されている凍結剤層716である。凍結剤は、液体ヘリウムとすることができる。凍結剤層716(凍結剤デュアーとも呼ばれる)の動作温度は、4Kである。凍結剤層716を囲んでいるのは、外側シールド718である。外側シールド718は、ニッケル合金製であり、磁気シールドとなるように構成されている。検出ユニット702によりに実現される磁気遮蔽総量は、カーテシアン座標系の3つの直交する平面に沿って約−100dB、−100dB、および−120dBである。
【0065】
上述のさまざまな要素は、エアギャップまたは誘電体バリア(図に示されていない)により互いに電気的に絶縁されている。また、これらの要素は、説明を簡単にするため互いに関してスケーリングするようには示されていないことを理解していただきたい。
【0066】
サンプルホルダ720は、手動でまたは機械により、サンプル箱706内に配置されることが可能である。サンプルホルダ720は、サンプル箱706の上部から下げたり、上げたり、取り外したりできる。サンプルホルダ720は、渦電流を引き込まない材質のものであり、固有の分子回転をほとんどまたはまったく示さない。例えば、サンプルホルダ720の材質を高品質ガラスまたはパイレックス(登録商標)にすることができる。
【0067】
検出ユニット702は、固体、液体、または気体のサンプルを取り扱えるように構成されている。検出ユニット702内では、さまざまなサンプルホルダを利用されることが可能である。例えば、サンプルのサイズに応じて、より大きなサンプルホルダが使用されることも可能である。他の例としては、サンプルが空気と反応する場合、サンプルホルダは、サンプルの周囲をカプセル化するか、または気密シールを形成するように構成されることが可能である。さらに他の例では、サンプルが気体状態の場合に、サンプルは、サンプルホルダ720を使用せずにサンプル箱706内に導かれることが可能である。このようなサンプルでは、サンプル箱706は真空に保たれる。サンプル箱706の上の真空シール721は、真空を保持および/またはサンプルホルダ720を収納するのを補助する。
【0068】
検出コイルとも呼ばれる、ヘルムホルツコイル722およびヘルムホルツコイル724は、それぞれ、サンプルホルダ720の上下に配置される。ヘルムホルツコイル722、724のコイル巻き線は、直流(DC)から約50キロヘルツ(kHz)範囲で動作し、中心周波数は25kHz、自己共振周波数は8.8MHzである。ヘルムホルツコイル722、724は、二階微分形式であり、約100%のカップリングを実現するように構成されている。一実施形態では、コイル722、724は、一般的に、形状は矩形であり、G10の留め具で適所に固定される。コイル722、724はグラジオメータとして機能する。
【0069】
凍結剤層716および出力シールド718、一対のヘルムホルツコイル726および728は、縦に配置される。コイル726および728はそれぞれ、互いに無関係に上げ下げできる。コイル726および728は、白色またはガウスノイズ発生コイルとも呼ばれ、室温または周囲温度になっている。コイル726、728により発生するノイズは約0.10ガウスである。
【0070】
サンプルおよびコイル722、724からの放射の間のカップリングの程度は、コイル722、724に関してサンプルホルダ720を再配置することにより、またはサンプルホルダ720に関してコイル726、728の一方または両方を再配置することにより、変更されることが可能である。
【0071】
処理ユニット704は、コイル722、724、726、および728に電気的に結合されている。処理ユニット704は、コイル726、728によりサンプルに注入する白色ノイズまたはガウスノイズを指定する。処理ユニット104は、さらに、注入されたガウスノイズと混合されたサンプルの電磁放射からコイル722、724で誘導電圧を受け取る。
【0072】
図8を参照すると、本発明のいくつかの態様を採用する処理ユニットはサンプルトレイ840を含み、このトレイにより、サンプル842はファラデーケージ844およびヘルムホルツコイル746に挿入され、また、そこから除去されることが可能である。SQUID/グラジオメータ検出器アセンブリ848は、凍結剤デュアー850内に配置されている。磁束ロックループ852は、SQUID/グラジオメータ検出器アセンブリ848とSQUIDコントローラ854との間に結合される。SQUIDコントローラ854は、Tristan社が販売しているモデルiMC−303 iMAGマルチチャネルコントローラとすることもできる。
【0073】
アナログノイズ発生器856は、位相ロックループ858にノイズ信号(上述のような)を供給する。位相ロックループのx軸出力は、ヘルムホルツコイル846に送られ、例えば20dBだけが減衰されることが可能である。位相ロックループのy軸出力は、信号スプリッタ860により分割される。y軸出力の一部分が、グラジオメータ用に別の入力を用意しているSQUIDのノイズ除去コイルに入力される。y軸信号の他の部分は、Tektronix TDS 3000bのようなフーリエ関数を持つアナログ/デジタルオシロスコープなどのオシロスコープ862に入力される。つまり、位相ロックループのx軸出力により、ヘルムホルツコイルが駆動され、その反転した形式であるy軸出力は分割されSQUIDおよびオシロスコープに入力される。したがって、位相ロックループは、信号インバータとして機能する。オシロスコープトレースを使用して、アナログノイズ信号を監視し、例えば、非定常スペクトル成分を発生するのに十分なレベルのノイズが得られる場合を判別する。アナログテープレコーダまたは記録デバイス864は、コントローラ854に結合されており、デバイスから出力された信号を記録し、これは広帯域(例えば、50kHz)レコーダであるのが好ましい。PCコントローラ866は、例えば、RS 232ポートを介してコントローラ854とインターフェースするMS Windows(登録商標)ベースのPCとすることができる。
【0074】
図9には、処理ユニットの他の実施形態のブロック図が示されている。デュアル位相ロックイン増幅器(dual phase lock-in amplifier)202は、第1の信号(例えば、「x」またはノイズ信号)をコイル726、728に、第2の信号(例えば、「y」またはノイズ除去信号)を超伝導量子干渉デバイス(SQUID)206のノイズ除去コイルに供給するように構成されている。増幅器202は、外部基準なしでロックするように構成され、Perkins Elmerモデル7265 DSPロックイン増幅器とすることができる。この増幅器は、初期基準周波数にロックし、その後基準周波数を除去して、自走し「ノイズ」にロックするようにできる、「仮想モード」で動作する。
【0075】
アナログノイズ発生器200は、増幅器202に電気的に結合されている。発生器200は、増幅器202を介してコイル726、728でアナログ白色ガウスノイズを発生または誘起するように構成される。例えば、発生器200は、General Radio社が製造するモデル1380でよい。
【0076】
インピーダンス変換器(impedance transformer)204は、SQUID 206と増幅器202の間に電気的に結合される。インピーダンス変換器204は、SQUID 206と増幅器202の間のインピーダンス整合をとるように構成される。
【0077】
SQUID 206のノイズ除去の機能(noise cancellation feature)は、オンまたはオフにすることができる。ノイズ除去機能がオンの場合、SQUID 206は検出された放出からの注入ノイズ成分を除去または無効にすることができる。ノイズ除去を行うには、コイル726、728への第1の信号は、検出が求められる分子電磁放出よりも20dB上のノイズ信号である。このレベルでは、注入ノイズは確率共鳴を通じて分子電磁信号の特性を帯びる。SQUID 206への第2の信号は、45dBのノイズ除去信号であり、SQUID出力のノイズを無効にするのに十分な振幅で第1の信号から反転されたものである(例えば、第1の信号に関して180度の位相はずれ)。
【0078】
SQUID 206は、低温直接素子SQUIDである。例えば、SQUID 206は、Tristan Technologies,Inc製のモデルLSQ/20 LTS dC SQUIDである。別法として、高温または交流SQUIDを使用することもできる。組み合わされたコイル722、724(例えば、グラジオメータ)およびSQUID 206(SQUID/グラジオメータ検出器アセンブリと総称する)は、約5マイクロテスラ/4Hzの磁場測定感度を持つ。コイル722、724内の誘導電圧が検出され、SQUID 206により増幅される。SQUID 206の出力は、おおよそ0.2〜0.8マイクロボルトの範囲内の電圧である。
【0079】
SQUID 206の出力は、SQUIDコントローラ208への入力である。SQUIDコントローラ208は、SQUID 206の動作状態を制御し、さらに検出された信号の条件を設定するように構成される。例えば、SQUIDコントローラ208は、Tristan Technologies,Inc製のiMC−303 iMAGマルチチャネルSQUIDコントローラである。磁束ロックループは、SQUIDとSQUIDコントローラの間に動作するように配置されることが可能である。
【0080】
SQUIDコントローラ208の出力は、増幅器210に入力される。増幅器210は、0〜100dBの範囲内の利得を得られるように構成されている。おおよそ20dBの利得は、ノイズ除去ノードがSQUID 206でオンにされている場合に得られる。おおよそ50dBの利得は、SQUID 206がノイズ除去機能を実現していない場合に得られる。
【0081】
増幅された信号は、レコーダまたは格納デバイス212に入力される。レコーダ212は、アナログ増幅信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号を格納するように構成されている。一実施形態では、レコーダ212は1Hz当たり8600個のデータ点を格納し、2.46Mビット/秒を処理することができる。例えば、レコーダ212は、Sony製デジタルオーディオテープ(DAT)レコーダとすることができる。DATレコーダを使用することにより、生信号またはデータセットは、必要に応じて表示または特定の処理のため第三者に送られることが可能である。
【0082】
ローパスフィルタ214は、レコーダ212からデジタイズされたデータセットをフィルタ処理する。ローパスフィルタ214は、アナログフィルタであり、バターワースフィルタとすることができる。カットオフ周波数は約50kHzである。
【0083】
バンドパスフィルタ216は、次に、フィルタ処理されたデータセットをフィルタ処理する。バンドパスフィルタ216は、DCから50kHzの範囲の帯域幅を持つデジタルフィルタになるように構成される。バンドパスフィルタ216は、異なる帯域幅に合わせて調整されることが可能である。
【0084】
バンドパスフィルタ216の出力は、フーリエ変換プロセッサ218への入力である。フーリエ変換プロセッサ218は、時間領域であるデータセットを周波数領域内のデータセットに変換するように構成されている。フーリエ変換プロセッサ218は、高速フーリエ変換(FFT)タイプの変換を実行する。
【0085】
フーリエ変換されたデータセットは、相関および比較プロセッサ220への入力である。またレコーダ212の出力は、プロセッサ220への入力である。プロセッサ220は、このデータセットとすでに記録されているデータセットとの相関を求め、閾値を決定し、ノイズ除去を実行する(ノイズ除去がSQUID 206で行われない場合)。プロセッサ220の出力は、サンプルの分子低周波電磁放射のスペクトルを表す最終データセットである。
【0086】
さらに、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)などのユーザインターフェース(UI)222を少なくともフィルタ216およびプロセッサ220に接続して信号処理パラメータを指定することもできる。フィルタ216、プロセッサ218、およびプロセッサ220は、ハードウェア、ソフトウェア、またはファームウェアとして実装されることが可能である。例えば、フィルタ216およびプロセッサ218は、1つまたは複数の半導体チップ内に実装されることが可能である。プロセッサ220は、コンピューティングデバイス内にソフトウェアで実装されることが可能である。
【0087】
この増幅器は、初期基準周波数にロックし、その後基準周波数を除去して、自走し「ノイズ」にロックするようにできる、「仮想モード」で動作する。アナログノイズ発生器(General Radio社製の真のアナログノイズ発生器により発生)では、ヘルムホルツコイルおよびノイズ除去コイルにそれぞれ、20dBおよび45−dBの減衰を必要とする。
【0088】
ヘルムホルツコイルでは、スイートスポットは、1%の1/100のバランスで約1立方インチ(16.387064cm)とすることができる。他の実施形態では、ヘルムホルツコイルは、縦方向に、回転させて(縦のアクセスを中心に)、平行から移動して、パイ型形状に広げることができる。一実施形態では、SQUID、グラジオメータ、および駆動変圧器(コントローラ)は、それぞれ、1.8、1.5、および0.3マイクロヘンリの値を持つ。ヘルムホルツコイルは、スイートスポットで1A当たり0.5ガウスの感度を持つことができる。
【0089】
確率論的応答には約10から15マイクロボルトが必要になることがある。これまで、システムでは、ノイズを注入することによりSQUIDデバイスの感度を上げていた。SQUIDデバイスの感度は、ノイズがなければ約5フェムトテスラであった。このシステムでは、ノイズを注入し、この確率共鳴応答を使用することにより25から35dBほど感度を高めることができており、これは約1500%の増大に相当する。
【0090】
システムから信号を受け取って記録した後、メインフレームコンピュータ、スーパーコンピュータ、または高性能コンピュータなどのコンピュータは、カリフォルニア州リッチモンドにあるSystat SoftwareのAutosignalソフトウェア製品を採用することなどにより、Flexproソフトウェア製品で後処理をしながら、前処理および後処理の両方を実行する。FlexproはDewetron,Inc.社のデータ(統計)解析ソフトウェアである。このAutosignalおよびFlexpro製品では、以下の式またはオプションが使用可能である。
【0091】
離散フーリエ変換:
変換
【0092】
【数1】

【0093】
逆変換
【0094】
【数2】

【0095】
FFTアルゴリズム:
Tempertonの素因数FFTを使用したBest Exact N手法(非特許文献1を参照)。
【0096】
データテーパリングウィンドウ(Data Tapering Windows(登録商標)):
[cs4 BHarris min] 0.35875-0.48829*cos(2*Pi*i/(n-1))+0.14128*cos(4*Pi*i/(n-1))-0.01168*(6*Pi*i/(n-1)),i=0.n-1
[矩形] 固定された形状テーパリングは利用できない(オシロスコープ)
大きさ: sqrt(Re*Re+Im*Im)[Re=実数成分、Im=虚数成分]
振幅: 2.0*sqrt(Re*Re+Im*Im)/n
db,decibels:10.0*log10(Re*Re+Im*Im)
平均レプリケート:
レプリケートは、1e−8の精度の範囲内に収まるX値に基づく。
【0097】
基準減算:
基準信号減算(ベースラインノイズ)は、X(時間)軸に沿って各点(チャネル)でY軸(振幅)に対して実行される。負のY値はゼロにされる。
【0098】
相互相関:
この関数は、総和および積分を使用して相互相関関数を計算する。信号は短時間であるため、相関関数は、直接の乗算および積分を使用して計算される。ソースチャネル(データ系列)の外にある計算に必要な値はすべて、0とみなされる。t<0となる点も計算する。
【0099】
フーリエ有意水準:
モンテカルロデータはパラメトリックモデルに当てはめられる。データサイズNが唯一の係数であれば、1変量TableCurve 2Dパラメトリックモデルが使用される。セグメントサイズおよびオーバーラップがさらに影響要因となるセグメント化されたFFTでは、3変量チェビシェフ多項式が実装される。これらは、Autosignalのもとで選択されたオプションである。個々にデータセットを分析するか、またはまずデータセット1が分析され、次にデータセット1の後の半分、そしてデータセット2の最初の半分、次にデータセット2、次に後の半分というようにオーバーラップして分析されることが可能である。
【0100】
システム100によって実行される信号検出および処理の流れ図が図10に示されている。サンプルを注目している場合、少なくとも4回信号検出またはデータラン(data run)が実行される、つまり、第1回のデータランはサンプルなしで時刻t1に実行され、第2回のデータランはサンプル付きで時刻t2に実行され、第3回のデータランはサンプル付きで時刻t3に実行され、第4回のデータランはサンプルなしで時刻t4に実行される。複数のデータランからデータセットの実行および収集を行うことにより、最終的な(例えば、相関が求められた)データセットの精度が向上する。4回のデータランでは、システム100のパラメータおよび条件は一定(例えば、温度、増幅度、コイルの位置、ノイズ信号など)に保たれる。
【0101】
ブロック300において、適切なサンプル(または第1回または第4回のデータランであれば、サンプルはない)はシステム100内に置かれる。ノイズが注入されていなければ、所定のサンプルは電磁放射を約0.001マイクロテスラ以下の振幅でDC〜50kHzの範囲内で放出する。このような低放射を捕捉するために、白色ガウスノイズがブロック301で注入される。
【0102】
ブロック302において、コイル722、724により、サンプルのエミッションおよび注入ノイズを表す誘導電圧を検出する。誘導電圧は、データランの持続時間に対する時間の関数として電圧値の連続ストリーム(振幅と位相)を含む。データランは長さ2〜20分とすることができ、したがって、データランに対応するデータセットは時間の関数として2〜20分分の電圧値を含む。
【0103】
ブロック304において、注入されたノイズは誘導電圧が検出されると除去される。このブロックは、SQUID 206のノイズ除去機能がオフになっていると省略される。
【0104】
ブロック306において、データセットの電圧値は、ノイズ除去がブロック304で実行されたかどうかに応じて、20〜50dBだけ増幅される。ブロック308で、増幅データセットはアナログデジタル(A/D)変換を受け、レコーダ212内に格納される。デジタイズされたデータセットは、数百万行のデータを含む可能性がある。
【0105】
取得されたデータセットが格納された後、ブロック310において、サンプルの少なくとも4回のデータランが実行されたか(例えば、少なくとも4つのデータセットを取得したか)をチェックして調べる。所定のサンプルに対する4つのデータセットが得られた場合、ローパスフィルタ処理がブロック312で実行される。そうでない場合、次のデータランが開始する(ブロック300に戻る)。
【0106】
デジタイズされたデータセットのローパスフィルタ処理(ブロック312)およびバンドパスフィルタ処理(ブロック314)の後、データセットはフーリエ変換ブロック316で周波数領域に変換される。
【0107】
次に、ブロック318において、似たデータセットの各データ点での互いの相関関係が求められる。例えば、第1回のデータラン(例えば、ベースラインまたは周囲ノイズデータラン)に対応する第1のデータセットおよび第4回のデータラン(例えば、他のノイズデータラン)に対応する第4のデータセットの互いの相関が求められる。所定の周波数での第1のデータセットの振幅値がその所定の周波数での第4のデータセットの振幅値と同じであれば、その所定の周波数に対する相関値または数は1.0となる。別法として、相関値の範囲は0〜100に設定されることも可能である。そのような相関または比較はまた、第2回および第3回のデータラン(例えば、サンプルデータラン)に対して実行される。取得されたデータセットは格納されているため、それらは、残りのデータランが完了すると後からアクセス可能である。
【0108】
SQUID 206がノイズ除去を行わない場合、所定の閾値レベルがそれぞれの相関データセットに適用され、統計的に無関係な相関値を排除する。データランの長さ(データランが長いほど、取得データの精度は高まる)および他の種類のサンプルに対するサンプルの実際のエミッションスペクトルの可能な類似性に応じて、さまざまな閾値を使用することができる。閾値レベルに加えて、相関の平均をとる。閾値および相関の平均を使用すると、注入ノイズ成分はその結果得られる相関データセット内で非常に小さくなる。
【0109】
ノイズ除去がSQUID 206で行われれば、閾値および相関の平均を使用することは不要である。
【0110】
2つのサンプルデータセットが相関サンプルデータセットに精緻化され、2つのノイズデータセットが相関ノイズデータセットに精緻化された後、相関ノイズデータセットは相関サンプルデータセットから減算される。その結果得られるデータセットは最終的なデータセット(例えば、サンプルのエミッションスペクトルを表すデータセット)である(ブロック320)。
【0111】
1Hz当たり8600個のデータ点があり得、また最終的なデータセットにはDC〜50kHzの周波数範囲のデータ点があり得るため、最終的データセットには数億行のデータが含まれる可能性がある。各行のデータは、周波数、振幅、位相、および相関値を含むことができる。
【0112】
図11Aおよび図11Bでは、サンプルエミッションスペクトルの例が示されている。図11Aに示されているフーリエプロット400は、飽和塩化ナトリウム溶液のサンプルのスペクトルに対応する。図11Bに示されているフーリエプロット500は、酵素のサンプルのスペクトルに対応する。
【0113】
III.方法および応用
この節では、サンプルの調査を行う上述の装置の使い方およびサンプルの特徴付けおよびサンプル成分の検出を行う装置のさまざまな応用を説明する。また、本発明により、サンプルの特徴付けが可能な低周波数分光分析シグネチャまたはデータセット、および例えば、サンプル分光分析シグネチャを生成する際に使用されるサンプルの時間領域信号も開示される。
【0114】
A.サンプルを調査(interrogating a sample)する方法
本発明の方法の目的は、調査対象のサンプルに関係する分光分析情報を生成することである。以下でわかるように、情報は、サンプルについて識別された固有振動数に基づいて、選択された低周波スペクトル範囲内のスペクトルプロット形式、またはサンプルを特徴付ける低周波スペクトル成分を識別するデータセット、またはサンプルまたはサンプル成分の実際の識別とすることができる。
【0115】
サンプルは、分子回転、および好ましくは磁場、例えば地球の磁場内での分子回転が低周波電磁放射を発生する効果を有するような双極子モーメントを持つ、原子または分子成分、例えば、イオン化または非イオン化形態、またはプロトン化または非プロトン化形態のイオン塩成分または分子化合物を含む任意の材料とすることができる。サンプルは、通常、液体サンプルであるが、サンプルの少なくとも1つの成分が1つまたは複数の回転自由度を持つ限り、気体または固体または半固体でもよい。通常のサンプルは、水溶性または有機溶液であり、1つまたは複数の溶質成分を有し、溶媒内に溶解されている、注目するサンプル物質である。
【0116】
サンプルは、適当な容器、好ましくは観測可能な低周波スペクトル成分がほとんどないパイレックス(登録商標)ガラスなどの容器内に置かれ、その後、この容器は、第II節で説明するような装置容器内に配置される。サンプルが装置容器内に配置されると、ガウスノイズ発生器がアクティブ化され、ガウスノイズがサンプル内に注入される。注入されたガウスノイズの振幅(平均振幅)は、非定常複合時間領域信号成分を十分発生できる程度であるのが好ましい。これは、例えば、フーリエ変換機能を備えるオシロスコープを使用し、適当な範囲、例えば200〜800Hzウィンドウにおいて周波数領域信号を観測することにより実行される。検出可能な周波数成分が最初に観察されると、適当なノイズレベルが選択される。
【0117】
ノイズ注入時に、記録デバイスは、プリセットされている時間間隔で検出器からの時間領域電磁信号を記録する。記録間隔は、必要な最終的スペクトル分解に応じて、比較的短くてもよく、例えば、30〜60秒とするか、または数分以上とすることができる。記録された信号は、適当な信号格納デバイス、例えば、テープまたはハードディスクに格納され、後から、ここで説明する信号処理オペレーションで使用することができる。
【0118】
一般に、同じサンプルまたはあまり好ましくないが、同一のサンプルまたは注目する同じサンプル成分を持つサンプルの第2の時間領域信号と記録されているサンプル時間領域信号の相互相関を求めることによりサンプル信号成分を強化することが望ましい。第2の信号の記録時間は、第1の信号の記録時間と同じであるのが好ましい。2つの信号の相互相関は、時間領域内で標準相互相関アルゴリズムを使用して求められる。これにより、スプレッドシートまたはスペクトルにより、時間が経過しても持続する両方の信号に共通の信号スペクトル成分、および両方の信号に共通のスペクトル成分間の関係を測定する各成分に対する相関値を識別する。
【0119】
信号相互相関により得られたスペクトル分解能の向上は、図12Aと図12B、および図13Aと13Bで見られる。これらの図は、周波数領域内の第1の時間依存信号の高速フーリエ変換(図12Aおよび図13A)または第1および第2の相互相関周波数領域スペクトル(上記のスプレッドシート)の高速フーリエ変換(図12Bおよび図13B)であり、周波数領域と500〜530Hzのスペクトル範囲内のスペクトル成分がグラフになっている。
【0120】
NaClサンプルについて図12Aと図12Bを比較すると、相互相関信号処理を行うと、信号対ノイズ比が著しく向上し、ピークが522.5Hzであるサンプル特有のスペクトル成分がより詳しく明らかにされ、さらに著しく精緻化されたピーク位置を出力することがわかる。類似の(および例の)結果は、アルキルエーテルサルフェートのサンプルについて観察されており、500〜530Hz範囲のスペクトル特徴は非相関信号と相関信号についてそれぞれ図13Aと図13Bに示されている。NaClサンプルの場合と同様、相関信号から導かれるスペクトルによって、かなり低い信号対ノイズ比が得られ、またサンプル特有のスペクトル成分に関するかなりの詳細と情報も得られる。従来のように信号相関が適用され、周波数および位相(周波数と振幅ではなく)に関係するスプレッドシートを出力することができる。
【0121】
上からの相関時間領域スペクトルは、高速フーリエ変換をスペクトルに適用することにより周波数領域にプロットされ、そこではスペクトル相関値はy軸に振幅として表される。プロットは、DC〜50kHzの周波数範囲、好ましくはDC〜6.5kHzの範囲内である。以下でわかるように、多くのサンプルの主要なスペクトル特徴は、100〜1500Hzの範囲内、特に500〜550Hzの範囲内に見られ、したがって、生成されるスペクトルは、それに応じて、例えば500〜530Hzの範囲に制限されることが可能である。FTTは、よく知られているFTTアルゴリズムにより実行される。相関時間領域信号もまた、あるいは別法として、位相領域または振幅または大きさ領域の信号に変換され、サンプルスペクトルの位相または振幅成分に関係する信号情報を抽出することができる。
【0122】
相互相関またはFFTステップにより周波数領域スペクトルが生成されると、調査対象のサンプルに特有な1つまたは複数の低周波信号成分を識別するためにスペクトルが使用される。このステップは、直接の表示からユーザによって、またはスペクトルのコンピュータ分析により、実行されることが可能である。
【0123】
図14A〜図14Fは、脱イオン水のサンプル(図14A)、飽和NaCl溶液(図14B)、脱イオン水の1%NaCl(図14C)、飽和NaBr(図14D)、アルキルエーテルサルフェート(図14E)、および空のサンプル容器(図14F)に対するスペクトル特徴を示しており、すべて約500〜530のスペクトル範囲にある。周知のように、各サンプルは、きちんと定義された周波数の1つまたは複数のピークにより特徴付けられる独特のスペクトル成分を持つ。
【0124】
B.サンプルの特徴付け
本発明の他の態様によれば、上記の方法は、物質の低周波シグネチャ信号としてここでは呼ばれる、所定のサンプルの低周波スペクトル成分のデータセットを生成するために使用される。
【0125】
上の複数のサンプルについて示されている500〜530のスペクトル範囲は、さまざまなサンプルで顕著なスペクトル特徴を持つことを説明するために選択された。サンプルのスペクトル周波数成分のより完全なデータセットを得るために、より広い周波数範囲、例えば100〜1500Hzにわたるスペクトル成分が決定されるべきである。一態様では、本発明は、所定のサンプル物質、例えば、溶媒、気体、または溶液の溶質成分に関連するスペクトル成分のデータセットを含む。データセットは、例えば、100〜1500Hz範囲のサンプルの低周波スペクトル成分のリストを含み、そのスペクトル相互相関には背景スペクトルノイズよりも上の選択された統計的尺度、またはサンプルに特有のそれらの成分のうち選択されたものを持つ。
【0126】
所定のサンプルに関する低周波データセットを生成するうえで、さまざまな信号分析方法が使用されることが可能である。一方法例では、相互相関サンプル信号スペクトルは、相互相関ノイズ(サンプルなし)信号と比較される。このアルゴリズムは、次に、相互相関サンプルスペクトルおよび相互相関ノイズスペクトル間で増分値、例えば、0.1Hz間隔で進み、各周波数点での相関値を見て、その点でのサンプル相関からノイズ相関を減算し、補正された相関値の周波数のグラフを得る。これらの値は、特定のサンプルに相対的であり、例えば、ノイズ成分の相対的振幅に依存する。
【0127】
一般に、(そのサンプル内の他の値に相対的に)より高い相関値を持つ周波数成分は、同じサンプルを何回調査しても持続する(観察される)傾向がある。持続するのを識別するために、2つまたはそれ以上のサンプルセットでそのサンプルについて観察された周波数成分は、上記のようにそれぞれ得られ、比較されて、2つの(または利用可能であればそれ以上の)セット内に見られるもののみ、そのサンプルに対するデータセットの有効な成分としてみなされる。以下の表では、複数のサンプルに対するデータセット(テーブル内で識別されている)は、単一のサンプル調査から決定された相関とともに与えられる。イタリック体で示される値(通常は、より小さな相関値を持つ)は、同じサンプル物質からの複数のデータセット内で持続することは見られなかった。
【0128】
したがって、例えば、表1の中の飽和NaClサンプルについては、522.58、523.12、523.47、および523.85Hzのスペクトル成分はサンプル同士で相関があり、周波数範囲500〜530Hzでサンプルに対しデータセットを形成する。データセットの追加メンバは、拡大された周波数範囲に含められることが可能である。
【0129】
同様に、表3のアミノ酸サンプルについては、データセットは、約250〜1400Hzの周波数範囲内の262.93、257.81、257.23、536.68、448.05、531.37、528.80、593.44、588.68、583.74、578.61、769.59、および744.14での成分を含む。NaClに関してアミノ酸サンプルのスペクトル組成が大きいほど、一部は、サンプル分子の複雑さが増すことを反映するものと思われる。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【0133】
上記のデータは、単純な分子サンプルおよびより複雑な分子サンプルが特有の低周波スペクトル成分に関して特徴付けられることを示している。また所定のサンプル物質に関連付けられているデータセットは(表に示されているように)スペクトル成分の関連する相関値をも含むことができる。データセットは、例えば、未知のサンプル内の成分を識別する場合および/またはサンプル内の物質の相対的濃度を推定する際に使用されることが可能である。サンプル内の低濃度成分を識別する方法の使用法については、次の節で説明する。
【0134】
C.サンプル内の成分の識別
未知の汚染物質を含む液体サンプル、または検出することが望まれる汚染物質を保持または担持することが可能な他のサンプルなど、複数成分サンプル物質内に存在する、サンプル成分、例えば微量汚染物質を検出することが望ましい場合が多い。
【0135】
本発明の他の態様によるサンプルの成分を検出する分析方法は、(i)DCから50kHzまでの間の選択された周波数範囲内の、(ii)スペクトル相互相関が上述のように背景スペクトルノイズよりも高い選択された統計的尺度を持つサンプルの低周波サンプルスペクトル成分を第1に識別することを含む。
【0136】
その後、サンプルスペクトル成分は、サンプル内に存在することが疑われる知られている化合物の固有低周波スペクトル成分と比較される。通常の例では、サンプル成分は、サンプル内にあることが疑われる、検出されることを望んでいる成分のそれぞれのデータセットに対して比較される。成分、例えば化合物は、その固有低周波スペクトル成分が知られているサンプルの1つまたは複数の低周波スペクトル成分に対応する場合にサンプル内に存在していると識別される。
【0137】
図15A〜図15Fのセットに示されているように、化合物(アミノ酸)の検出は、非常に低いレベル、例えば、10億分の1以下の範囲で実行することができる。特に、希釈度が1:10000000000w/vであっても、約531Hzでの固有スペクトル成分が観察される。これらの図は、信号振幅、対応するスペクトル成分相関が化合物の希釈度が上がるとともに減少することを示している。しかし、低濃度での信号振幅の損失は、記録時間を、この例では、最初の図のグループの50秒から最も希釈されているサンプル(図15F)の4.25分まで延長することにより補正されることが可能である。
【0138】
上記の例のように、スペクトル成分振幅が濃度の低下とともに減少する場合、その化合物に対するデータセットはさらに濃度依存性振幅情報も含むと仮定すると、化合物の量は信号振幅に基づいて推定されることが可能である。
【0139】
また、場合によっては、固有スペクトル成分の周波数は濃度の変化とともにシステマティックに3Hz程度シフトすることがあることが観察されている。このような化合物では、サンプル内に存在する物質の量は、スペクトル成分の1つまたは複数における振幅および/または周波数シフトの変化により推定されることが可能である。濃度依存性周波数シフトを示す物質に関して、その化合物に対するデータセットが濃度依存性周波数だけでなく特定の成分に対する濃度依存性振幅を含むことは理解されるであろう。
【0140】
D.時間領域信号
さらに他の態様では、本発明は対象物質に関連する時間領域信号を含む。時間領域信号、およびその発生方法については、すでに上で説明した。簡単に言うと、信号は、注目するサンプルを、磁気シールドおよび電磁シールドの両方を備えた容器内に配置し、ガウスノイズをサンプル内に注入し、注入されたガウスノイズ上に重畳されたサンプル源放射からなる電磁時間領域信号を記録することにより発生される。
【0141】
この信号は、スペクトル成分データセットが物質の特徴付けに使用されるのと同様に、サンプルを特徴付けるために使用されることが可能である。別法として、信号は、対象物質に関連するスペクトル成分の低周波信号シグネチャを生成するために使用されることが可能である。信号シグネチャは、上でも説明されているように、(i)記録された時間領域信号と同じサンプルまたは類似のサンプルから別に記録された第2の時間領域信号との相互相関を求めることにより、生成されることが可能であり、これにより、DCから50kHzまでの周波数範囲内の周波数領域スペクトルを出力することができる。
【0142】
上記のことから、本明細書では例示を目的に本発明の特定の実施形態が説明されているが、本発明の精神と範囲を逸脱することなくさまざまな修正が加えられることは理解されるであろう。したがって、本発明は付属の請求項で規定されている場合を除き制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子回転を示すサンプルを調査する装置であって、
前記サンプルを受け取るように適合され、磁気シールドと電磁シールドの両方を有する容器と、
前記容器の中に入れられた前記サンプルに注入するガウスノイズの発生源と、
前記注入されたガウスノイズに重畳されたサンプル源放射からなる電磁波の時間領域信号を検出する検出器と、
前記時間領域信号、および、前記サンプルと同じサンプルもしくは類似のサンプルから別個に検出された第2の時間領域信号を格納するストレージデバイスと、
前記ストレージデバイスから格納信号を受け取り、
(i)検出された前記時間領域信号と前記第2の時間領域信号との相互相関を求め、DCから50kHzまでの周波数範囲内における周波数領域スペクトルを出力し、
(ii)前記サンプルの特性である前記スペクトルの低周波スペクトル成分に関連した情報を含む出力を生成することにより、前記格納信号を処理するように適合されている電子式コンピュータと、
を具備したことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図14F】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【図15F】
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【公開番号】特開2010−14733(P2010−14733A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240544(P2009−240544)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【分割の表示】特願2003−580829(P2003−580829)の分割
【原出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【出願人】(504154182)ナティビス インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】