説明

低温での水素製造に適した水素製造用改質触媒、及び該触媒を用いた水素製造方法

【課題】重質で脱硫の困難な硫黄化合物を含有する石油系炭化水素を原燃料として水素を製造する場合において、低い温度での水蒸気改質反応においても硫黄被毒や炭素析出による改質触媒、改質器およびその下流に位置するユニットへの悪影響を抑制し、水素製造の開始に要する起動時間を短縮して効果的に水素を製造することができる水蒸気改質触媒、及び該触媒を用いた水素製造方法を提供する。
【解決手段】アルミナ担体に希土類金属を含有させ、ルテニウム、ロジウム、白金の少なくとも1つを含む貴金属成分を担持させてなる水蒸気改質触媒において、触媒に含まれる貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積が100以上で、かつ貴金属成分分散度(%)が70%以下であることを特徴とする水素製造用改質触媒。及びこの触媒を使用して水素製造用燃料油から水素を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を燃料油として水蒸気改質反応を行う水素製造用改質触媒に関する。さらに詳しくは、本発明は、石油系炭化水素を燃料油とする燃料電池向け水素製造において、低い温度での水蒸気改質反応においても炭素析出による改質触媒、改質器およびその下流に位置するユニットへの悪影響を抑制し、水素製造の開始に要する起動時間を短縮して効果的に水素を製造することができる水素製造用改質触媒、及び該触媒を用いた水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識が高まる中で、環境負荷の少ない水素を利用したエネルギーに注目が集まっている。水素を利用したエネルギー技術のひとつとして、水素と酸素の反応からオゾン層破壊や地球温暖化の原因と言われる二酸化炭素の直接排出を伴うことなく電気エネルギーを取り出すことができる燃料電池が注目されている。燃料電池の水素源としては天然ガス、液体燃料、石油系炭化水素など様々な原料が研究されている。特にLPガス、ナフサ、ガソリン、灯油などに代表される石油系炭化水素は広域かつ多量に流通していることから、水素源としても有望視されている。
【0003】
炭化水素の水蒸気改質触媒としては、アルミナ等の担体にニッケルを担持したニッケル系触媒が知られているが、ニッケル系触媒は炭素析出による活性低下を引き起こしやすい欠点を有し、また炭素数の多い炭化水素を原料としたときは多量の水蒸気の共存が必要となって水蒸気原単位が運転コストを引き上げるため、石油系炭化水素には技術的にも経済的にも適用が難しいとされる。一方でルテニウム、ロジウムといった貴金属を用いた貴金属系触媒は、炭素析出抑制効果を持ち水蒸気の使用量を下げられることから、炭化水素用の改質触媒として近年注目されている。これらの貴金属系触媒は炭素析出抑制効果には優れるが、硫黄による触媒被毒を受けやすく、硫黄被毒を受けると炭素析出抑制効果が低下してしまう。
【0004】
灯油などの石油系炭化水素から構成される燃料油には、ベンゾチオフェン化合物、ジベンゾチオフェン化合物といった重質で脱硫の困難な硫黄化合物が含まれるため、燃料油からこれらの難脱硫性硫黄化合物を完全に除去することは難しい。燃料油に含まれるこれらの難脱硫性硫黄化合物が微量であっても、長期間にわたって水素製造を行うと改質触媒はこれらの硫黄化合物による影響を積算的に受けることになる。改質触媒が硫黄被毒を受けると、改質触媒への炭素析出が促されるという問題がある(非特許文献1)ことから、石油系炭化水素から構成される燃料油を用いる水素製造では、硫黄被毒による改質触媒の性能低下を受けやすいという問題があった。
【0005】
燃料電池向け水素を製造するには、改質触媒を有する改質器において通常550〜800℃の高温下で水蒸気改質反応および/または部分酸化反応を行う。この燃料電池システムにおいては、燃料油を改質するために必要な温度が低いほうが予熱量は小さくなり、水素製造に要する昇温時間が短くなることでシステム起動時間が短縮できるので有利になる。しかしながら、従来の改質触媒を用いて低い温度条件で水蒸気改質反応を行うと、燃料油が水素に転化される反応が十分な反応速度が得られず、燃料油から転化した炭素が改質触媒に析出して触媒の寿命を著しく損ない、また燃料油から転化した炭素によって改質器の閉塞が発生したり、改質触媒の下流に位置するユニットに析出した炭素の汚染が生じるなどの問題があった。これを回避するためには、たとえば水素製造の起動時においては改質触媒および改質器の温度が燃料油からの水素転化に必要な反応速度を得るために十分高い温度に達するのを待たなければならないので、燃料電池における水素製造の開始に必要な改質触媒の温度上昇を待つことによって発電開始までに要する時間(起動時間)が掛かるという問題があった。また改質触媒および改質器が高い温度に晒されることによって、改質触媒は熱劣化による性能低下を受けてその触媒寿命を損ない、また改質器はその耐久性低下を防ぐために高温耐久性の高い高価な材料が必要となるのでコストが増加するといった問題があった。
【0006】
このように、灯油などの石油系炭化水素から構成される燃料油を用いて低い温度で水素製造を行うには、低い温度条件において燃料油から水素への転化を効率的に進めることができ、かつ硫黄被毒の影響を受けても炭素析出を起しにくい改質触媒が必要であった。
【0007】
燃料油の改質に際して炭素析出を抑制する改質触媒としては、たとえば特開昭60−147242号公報にあるような、白金族金属の少なくとも1種よりなる活性主成分および銀と希土類金属の1種とよりなり、かつ銀と希土類元素を、活性主成分に対しそれぞれ原子比で0.1以上含有してなる助触媒を触媒担体に担持してなる水蒸気改質用触媒が提案されている。しかしながら、この技術は石油系炭化水素から構成される灯油などの燃料油に適用されたものではない。
【0008】
また特開2000−61307号公報にあるような、60%以上の高い分散度で活性金属であるルテニウムを担持し、長期間維持する実用強度を備えた高分散型水蒸気改質触媒と、該触媒に接触させて水蒸気/炭素比2.8〜10、原料供給量10h-1以下、反応圧力を2気圧以上に保つ水素製造方法が提案されている。しかしながら、この技術は750〜900℃の高温加圧条件での水蒸気改質反応に適用するためのもので、550℃より低い温度条件での水蒸気改質反応に適用されたものではない。
【0009】
また特開2001−276623号公報にあるような、炭化水素の改質活性を有するルテニウムを触媒外表面から触媒中心までの1/3までの部分に全ルテニウム量の50%以上を担持させた触媒が提案されている。しかしながら、この技術は石油系炭化水素から構成される灯油などの燃料油に適用されたものではない。
【0010】
また特開2007−703号公報にあるような、水酸化物を前駆体としてなる活性成分を高分散で担体に担持させた触媒が提案されている。しかしながら、この技術は700〜800℃の高い温度条件での水蒸気改質反応に適用するためのもので、550℃より低い温度条件での水蒸気改質反応に適用されたものではない。
【0011】
また特開2007−98385号公報にあるような、無機酸化物担体上に、ルテニウムを触媒基準、金属換算で0.5〜10質量%と、アルカリ金属を触媒基準、金属換算で0.5〜10質量%含み、ルテニウム分散度が50%以上であり、EPMAにより、触媒断面の中心を通るように触媒外表面から他の外表面まで一方向にアルカリ金属及びルテニウムについて線分析測定したときに、ルテニウムが存在する領域にアルカリ金属も多く存在することを特徴とする水素製造用触媒が提案されている。しかしながらこの方法はアルカリ金属に実質カリウムを使用しているが、カリウムは揮発性が高い金属であるため使用中に流動するガス流によって触媒からカリウムが流出して改質触媒の下流に位置するユニットや他の触媒を汚染する恐れがある(非特許文献2)。
【0012】
このように、石油系炭化水素を燃料油とする燃料電池向け水素製造において、従来の技術で提供される水素製造用改質触媒及び水素製造方法では、改質反応温度の低い温度での水素製造の問題を解決することはできなかった。
【特許文献1】特開昭60−147242号公報
【特許文献2】特開2000−61307号公報
【特許文献3】特開2001−276623号公報
【特許文献4】特開2007−703号公報
【特許文献5】特開2007−98385号公報
【非特許文献1】燃料協会誌 68,39(1989)
【非特許文献2】Oil Gas Journal 74,(7),73(1976)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
石油精製プラントや燃料電池などに関し、ベンゾチオフェン化合物、ジベンゾチオフェン化合物などの重質で脱硫の困難な硫黄化合物を含有する石油系炭化水素を原燃料として水素を製造する場合において、低い温度での水蒸気改質反応においても硫黄被毒や炭素析出による改質触媒、改質器およびその下流に位置するユニットへの悪影響を抑制し、水素製造の開始に要する起動時間を短縮して効果的に水素を製造することができる水蒸気改質触媒、及び該触媒を用いた水素製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水蒸気改質活性を有するルテニウム、ロジウム、白金などの貴金属成分の担体上での状態に着目し、触媒に含まれる貴金属成分が特定の条件を満たすときに、燃料油に含まれる硫黄化合物による積算的な硫黄被毒の影響や初期の急激な触媒活性の低下を抑制し、低い温度条件においても水蒸気改質反応に触媒機能が有効に機能することによって炭素析出を大幅に抑制し、かつ潮解性を有しない希土類金属を用いることによって改質触媒、改質器およびその下流に位置するユニットへの悪影響を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明の水素製造用改質触媒は、
アルミナ担体に、ルテニウム、ロジウム、白金の少なくとも1種を含む貴金属成分と希土類金属を含有させてなる水蒸気改質触媒において、触媒に含まれる貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積が100以上で、かつ貴金属成分分散度(%)が70%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の水素製造用燃料油の他の好適例においては、触媒中の希土類金属の含有量が、触媒の表面積に対して0.1〜5 μmol/m2である。
【0017】
本発明の水素製造用燃料油の他の好適例においては、貴金属成分がルテニウムである。
【0018】
本発明の水素製造用燃料油の他の好適例においては、希土類金属がランタンまたはセリウムを含む。
【0019】
本発明の水素製造用改質触媒の製造方法は、アルミナ担体に、希土類金属を含浸法で導入し、前記希土類金属を含有させたアルミナ担体を酸素存在下600〜800℃で焼成した後、ルテニウム化合物、ロジウム化合物及び白金化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を担持させ、次いで液相で65〜100℃の温度において還元処理を行うことを特徴とする。
また、本発明の水素製造方法は、上述の水素製造用改質触媒を具備する改質部に水素製造用燃料油を供して、改質部の触媒層の入口温度を500℃以下で水蒸気改質反応を開始し、水素を含有する生成物を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって提供された水素製造用改質触媒及び該触媒を用いた水素製造方法によって、低い温度での水蒸気改質反応においても炭素析出による触媒性能の低下を抑制し、かつ改質触媒、改質器およびその下流に位置するユニットへの悪影響を抑制することで、低い温度での改質反応開始が可能となり、起動に要する時間の短い燃料電池システムの運用が可能となる。また改質触媒の活性劣化やコーキングによる改質器の閉塞を抑制し、長期の水素製造が可能となる。また改質温度の低下によって、改質触媒の熱劣化による性能低下を低減し、高温耐久性の高価な材料を用いることなく改質器の耐久性向上、改質器構造の簡易化や材料のコスト低減による経済的な水素製造を実施することが可能となる。
また、本発明の水素製造用改質触媒の製造方法により、上記の優れた特性を有する水素製造用改質触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の内容をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明に用いる水素製造用改質触媒は、アルミナ担体に希土類金属を含有させ、貴金属成分を担持させてなる水蒸気改質触媒において、触媒に含まれる貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積が100以上で、かつ貴金属成分分散度(%)が70%以下であることあることを特徴とする。
【0023】
尚、貴金属成分含有量および貴金属成分分散度はそれぞれ式1、式2で求められる値である。
【0024】
貴金属成分含有量(質量%)=(触媒に含まれる貴金属成分の総量(g)÷触媒の総質量(g))×100 ・・・ (式1)
【0025】
貴金属成分分散度(%)=(触媒1g当たりに吸着したCO分子のモル数÷触媒1g当たりに含まれる貴金属成分のモル数)×100 ・・・ (式2)
ここで、貴金属成分分散度は、貴金属成分に対する化学吸着量を測定する公知の方法により測定することができる。この方法としては、例えばCOガスを用いるパルスインジェクション法を用いることができる。
以下に該パルスインジェクション法について説明する。
COガスのパルスを連続的に触媒を入れた測定セルに注入すると、初めの数パルスまではCOが貴金属成分の表面に吸着され、セルから流出するCO量は注入したCO量より低下するが、貴金属成分表面にCOが吸着され定常状態になると、注入したCOのほとんどが流出するようになる。定常時に流出されるCO量から初めの吸着時のCO量を引き、その差分の和をCO吸着量として求めることができる。このようにして求められたCO吸着量から、貴金属成分に吸着したCOのモル数を算出する。このようにして算出されたCOの吸着量モル数と貴金属成分のモル数から、式(2)により貴金属成分分散度が求められる。
貴金属成分含有量は触媒に含まれる活性成分の量を、貴金属成分分散度は実際の改質反応に作用する貴金属の活性点の割合を示すものであり、従って貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積は、単位重量当たりの触媒に含まれる改質反応触媒活性点の数を示す指標であり、この値が大きいほど触媒に導入された活性成分である貴金属成分が改質反応に効率的に作用する。
【0026】
本発明に用いる水素製造用改質触媒に含まれる貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積は100以上が好ましく、さらに好ましくは140以上である。貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積が100よりも少ないと、反応速度の低い温度条件において燃料油を水素に転化するための十分な改質反応触媒活性点を確保することができないため好ましくない。
【0027】
貴金属成分含有量は触媒の比表面積にも依存するが、概して触媒重量に対して金属として1〜20質量%、好ましくは1.5〜5質量%である。貴金属成分含有量が1質量%よりも少ないと触媒活性点として機能できる貴金属成分の総量が減少して低い温度において充分な触媒活性が得られなくなり、また20質量%よりも多いと貴金属成分分散度が低下して貴金属成分が効果的に機能しないので好ましくない。
【0028】
本発明の水素製造用改質触媒に導入された貴金属成分を水素製造に効果的に利用する上で、貴金属成分分散度は70%以下が好ましく、さらに好ましくは40〜70%である。貴金属成分分散度が40%未満では多量の貴金属成分が必要になり触媒の製造コストが著しく増加するので好ましくない。また70%を越えると水素製造での初期の段階で触媒活性が急速に損なわれてしまうので好ましくない。初期の段階で触媒活性が急速に損なわれる理由は現時点では明らかではないが、融点の高い貴金属成分であっても分散度が高すぎると粒子径が小さくなることで担体上での熱的安定性が減少して、貴金属成分の硫黄被毒や粒子の凝集による性能低下が進みやすくなると考えられる。
【0029】
貴金属成分は、ルテニウム、ロジウム、白金の少なくとも1つから選ばれたものが好ましく、特に好ましくはルテニウムである。
【0030】
貴金属成分を担持させる方法は、公知の含浸法を用いることができる。貴金属成分には貴金属化合物を前駆体として用いることができるが、本発明を満たす貴金属成分含有量及び貴金属成分分散度を得るためには貴金属塩化物を用いることが好ましい。貴金属塩化物が好ましい理由としては必ずしも明らかでないが、還元する際に粒子が細かくなりやすいために分散度が向上するものと考えられる。たとえば貴金属成分としてルテニウムを担持させる方法としては、三塩化ルテニウムなどの化合物を、ルテニウム活性成分の前駆体として用いることができる。特に好ましくは三塩化ルテニウム(無水物又は水和物)を用いる。ロジウムを担持させる方法としては、三塩化ロジウムなどの化合物を、ロジウム活性成分の前駆体として用いることができる。特に好ましくは三塩化ロジウム(無水物又は水和物)を用いる。白金を担持させる方法としては、四塩化白金または二塩化白金などの化合物を、白金活性成分の前駆体として用いることができる。特に好ましくは四塩化白金を用いる。
【0031】
上記の方法で担持された貴金属成分を100℃以下で液相還元処理を行う。液相還元剤を用いることによって改質反応の使用に際しての触媒の前処理還元、又は反応初期の発熱等の負荷を低減させることができ、また還元処理を液相で所定の温度に加温して行うことにより還元処理による貴金属成分分散度の減少を抑制することで目的の貴金属成分分散度を得ることができる。液相還元処理の方法は、例えば、ギ酸、ギ酸のアルカリ金属塩、ホルマリン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて1〜20%の水溶液を調製し、65〜100℃、好ましくは65〜80℃の温度に加温した後に触媒を投入して行う。65℃を下回る条件では貴金属成分分散度が減少するばかりでなく、還元処理に時間が掛かることになり効率的でなく、また100℃を越えると該水溶液を使った液相での処理が困難になるので、好ましくない。
【0032】
希土類金属を用いることによって触媒活性が増加し、かつ炭素析出を抑制することによって低い温度での水素製造における触媒寿命が向上する。希土類金属にはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、イッテルビウムなどが使用できるが、ランタン、セリウムを用いるのが好ましく、ランタンを用いるのがさらに好ましい。これら希土類金属は、いずれか1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの希土類金属は酸化物の他に塩化物、硝酸塩、酢酸塩などの希土類金属化合物を前駆体として使用することができる。
【0033】
希土類金属を含有するアルミナ担体は、希土類金属をアルミナ担体に含浸法で導入することで担体の表面に選択的に分布させることができる。希土類金属をアルミナ表面に選択的に分布させることによって、少量の添加量で大きな効果が得られ、かつ希土類金属がアルミナ表面を被覆することで担体の機械的強度や耐熱性が向上する。物理混合法や練り込み法などではアルミナ担体内部にも希土類金属が分布し、その内部に分布する希土類金属が無駄になって有効な添加効果(以下、対添加量効果)が得られず、さらにアルミナ量の相対的低下が大きくなるので原料コストが増加し、担体の機械的強度を低下させ、希土類金属がアルミナと複合酸化物を形成して担体の比表面積を大幅に損なうなどの負の効果が表れやすくなるため好ましくない。
【0034】
希土類金属をアルミナ担体に含浸法で導入するには、上記希土類金属化合物を含む溶液にアルミナ担体を浸漬させればよい。このとき溶媒としては、水が好ましい。また、含浸させる際は、ポアフィリング法が好ましい。
【0035】
また、希土類金属をアルミナ担体に含浸法で導入し、担体の表面に分布させる際に、活性金属がアルミナと直接接触できるように、希土類金属をアルミナ表面に被覆することが好ましい。希土類金属の量は、触媒の表面積に対して0.1〜5 μmol/m2であることが好ましい。希土類金属の量が触媒の表面積に対して5 μmol/m2を越えるとアルミナ表面の露出が少なくなり貴金属成分分散度が低下するので好ましくない。また希土類金属の量が0.1 μmol/m2より少ないとその添加効果が低くなるのでいずれも好ましくない。より好ましくは0.5 〜5 μmol/m2である。触媒に含まれる希土類金属の量は、アルミナ担体に含浸する溶液中における希土類金属化合物の濃度を調整することにより前記範囲とすることができる。
【0036】
アルミナ担体に含浸法で希土類金属を含有させた後は、貴金属成分を含有させる前に酸素存在下で600〜800℃、好ましくは600〜750℃、より好ましくは600〜650℃で焼成処理して希土類金属を酸化物としてアルミナ担体に固定化する。酸素存在下の焼成は、大気雰囲気での焼成でよい。このとき焼成温度が600℃よりも低いと導入した希土類金属が担体表面で安定化せず水蒸気反応の使用条件下でアルミナ担体が熱履歴による劣化を受けやすくなり、また800℃を超えると導入した希土類金属がアルミナ担体と反応して複合酸化物(アルミネート)を形成しやすく、担体の比表面積を大幅に損なうだけでなく希土類金属が担体骨格内に取り込まれて担体表面に分布する活性金属の貴金属成分に対して効果的に機能しなくなってしまうため好ましくない。
【0037】
本発明の水素製造用改質触媒は、アルミナ担体としては特に組成や構造による制約を受けるものではないが、担持される貴金属成分が充分に分散できるように比表面積が80 m2/g以上、好ましくは100 m2/g以上で、細孔容積は0.1〜0.5 ml/g、好ましくは0.2〜0.5 ml/gであるものが良い。例としてはアルミニウムイソプロポキシドなどを前駆体として用いて、細孔制御の有機材料を添加したものを700℃以上で焼成したものなどを用いることができる。比表面積や細孔容積がこれより小さいと担持させる貴金属の分散性が悪化し所定の活性や触媒寿命が得られなくなり、また逆にこれより大きいと充分な担体強度が得られなくなるので好ましくない。
【0038】
アルミナ担体の形状は、例として球状、円柱状、角柱状、打錠状、針状、膜状、ハニカム構造状などが挙げられる。また担体の成型には、例として加圧成型、押出成型、転動造粒成型、プレス成型などの成型方法が利用できる。いずれも本発明を制約するために特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0039】
改質反応に機能する活性金属である貴金属成分の他に、助触媒成分としてコバルト化合物、ニッケル化合物などを使用することもできる。助触媒成分は希土類金属を酸化物としてアルミナ担体に固定化した後に貴金属成分の担持前、または後に、あるいは貴金属成分と同時に担体に担持することができる。助触媒成分としては特にコバルト化合物が不揮発性なので好ましい。コバルト化合物を貴金属成分と同時に担持することで貴金属成分の分散性を高め、触媒活性が著しく向上するなどの効果を発揮することができる。また貴金属成分に対する楔として働くことで貴金属成分の結晶化を抑制し、改質反応中に進行する貴金属成分分散度の低下を抑制することで触媒劣化を抑制すると考えられる。従ってコバルト化合物と貴金属成分を同時に担持するとこれらの効果がより強調されるので好ましい。コバルト化合物としては硝酸コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト、水酸化コバルト、塩化コバルトなどの化合物を、コバルト助触媒成分の前駆体として一種または複数種用いられるが、特に好ましくは硝酸コバルトが用いられる。コバルトの量は、貴金属成分に対する原子モル比で0.1〜3.0、好ましくは0.1〜1.0、さらに好ましくは0.2〜0.5である。コバルトの貴金属成分に対する原子モル比が0.1未満であると上述の助触媒効果が充分に現れず、また3以上であると余剰のコバルトが逆に貴金属成分の触媒機能を損なうことになるので好ましくない。
【0040】
貴金属成分を担持した後の乾燥処理及び焼成処理は、その条件については特に規定されないが、例えば、空気中、100℃以上で行う。
【0041】
上記の方法で得られた改質触媒は、そのまま改質反応の使用に供することができる。改質反応の事前に改めて還元処理を行うことが好ましいが、改質反応で生じる反応ガス中の水素との接触の結果として還元されるため必ずしも必要とはしない。還元温度を制御することによって触媒性能が向上する場合があり、還元処理を実施する場合は、水素ガス流通下で700℃以下、好ましくは500〜700℃で行う。700℃を越えると水素製造を行う前に貴金属成分分散度が低下して、触媒性能を損なうことになるため好ましくない。
【0042】
本発明の水素製造方法は、上述の改質触媒を具備する改質部に上記の水素製造用燃料油を供して水蒸気改質反応を行い、水素を含有する生成物を得る。改質部の触媒層の入口温度は500℃以下、好ましくは400〜500℃、さらに好ましくは450〜500℃で行う。400℃より低い温度で行うと水素製造に十分な水蒸気改質反応速度を得られず、水素製造に多量の改質触媒が必要となるので好ましくない。
【0043】
本発明の水素製造方法において水素製造用改質触媒を用いる反応形式としては、固定床式、移動床式、流動床式など特に制約を受けるものではない。また本発明の水素製造用改質触媒を用いる反応器としても特に制約を受けるものではない。
【0044】
本発明の水素製造用改質触媒、及び該触媒を用いた水素製造方法は、500℃以下の水蒸気改質反応に用いたときに特にその発明の効果を発揮することができるが、500℃を越える温度の水蒸気改質反応および/または部分酸化改質反応による水素製造に用いることもできる。従って本発明の水素製造方法は、水蒸気改質触媒層の入口温度を常に500℃以下に維持する方法に限定されるものではなく、必要に応じてその入口温度を上げることができる。たとえば定常運転時の改質触媒層の入口温度が最終的には500℃を越える場合であっても、改質部の起動時など入口温度が500℃以下の非定常な状態から本発明を適用することによって起動時間を短縮することができる。本発明の水素製造方法における改質触媒層の出口温度は特に制約を受けるものではないが、好ましくは500〜800℃、さらに好ましくは550〜750℃である。
【0045】
また本発明の水素製造用改質触媒は、単独あるいは他の触媒と併用して使用することもできる。たとえば燃料電池向け水素製造において、燃料油である石油系炭化水素を本発明の水素製造方法を用いて予め低い温度でメタンを含む水素含有ガスに変換する予備改質を行った後、得られた水素含有ガスを引き続き下流の改質部にて高い温度で改質処理を行い、メタンから水素への転化を進めて水素生成量を増加させることもできる。
【0046】
本発明を適用する燃料油の液空間速度(以下。LHSV)は燃料油の種類にも依存するが、通常0.01〜10 hr-1、好ましくは0.1〜5 hr-1である。LHSVが極端に低いと供給される原料の量に対して必要以上の大きさを有する改質器を使うことになり、あるいは原料を供給するポンプまたはマスフローに必要以上の微少量制御が求められるので好ましくない。またLHSVが極端に高いと改質器内における燃料油と触媒層との接触時間が短くなって反応が進まなくなるので好ましくない。
【0047】
燃料油中の炭素量に対する水の供給量のモル比率(以下、スチーム/カーボン比)は燃料油の性状や触媒の種類などにも依存するが、通常0.5〜10 mol/mol、好ましくは1〜5 mol/molである。スチーム/カーボン比が極端に低いと水蒸気改質反応に必要なスチームが不足し、またコーク析出が促進され触媒の性能低下が著しく加速されるので好ましくない。またスチーム/カーボン比が極端に高いと余剰スチームの生成・回収に要するコストが大きくなるので好ましくない。燃料油と水との混合は特に方法の制約を受けないが、それぞれを気化器で加熱してガス状化したものを混合器で混合する方法、あるいはどちらか一方を気化器で加熱してガス状化したものをもう一方の液体に送り込んで混合ガスを生成する方法などがある。混合が不十分で原料と水が不均一な状態で改質器に送られると水蒸気改質反応が触媒層で均一に進まず、触媒層の温度分布や水素の生成量が不安定になるので好ましくない。
【0048】
反応圧力は燃料油の種類にも依存するが、通常0〜10 MPa、好ましくは0〜5 MPaである。反応圧力が5 MPaを越えると高価な耐圧材や機器類を使用した設備が必要となるので経済的に好ましくない。
【0049】
本発明に使用する燃料油は、石油系炭化水素油を含むものを原料油とし、これを脱硫処理して得られるものであり、硫黄含有量が0.05 質量ppm以下かつジベンゾチオフェン類化合物の含有量が0.02 質量ppm以下、好ましくは硫黄含有量が0.05質量ppm以下かつジベンゾチオフェン類化合物の含有量が0.01 質量ppm以下、さらに好ましくはジベンゾチオフェン類化合物を実質含まないものである。硫黄含有量が0.05質量ppmおよび/またはジベンゾチオフェン類化合物が0.02質量ppmを越えると硫黄による触媒の被毒が進み、炭素析出を促すので好ましくない。
【0050】
尚、これらの硫黄含有量は紫外蛍光分析法、ジベンゾチオフェン類化合物の含有量はGC−ICP−MSにて測定されたものである。
【0051】
原料油となる石油系炭化水素油としてはガソリン、ナフサ、灯油、軽油などがあるが、これらの中では取り扱い上灯油が好ましく、さらに好ましくはJISで規定される灯油またはその相当品が好ましい。原料油の脱硫処理の方法は、一般に工業的に利用されている水素化脱硫や吸着分離などの公知の技術を単独または複数用いることができる。たとえば水素化脱硫の一例としては、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステンなどの遷移金属を含む水素化精製触媒を用いて、反応温度200〜400℃、水素/油容積比50〜1000 Nm3/m3、液空間速度0.1〜10 h-1、圧力1〜15MPa-Gなどの反応条件で脱硫処理する方法が挙げられる。
【0052】
原料油の脱硫処理で得られる燃料油は、蒸留初留点が140℃以上かつ蒸留終点が300℃以下である。好ましくは初留点が140〜180℃で、95容量%留出点が270℃以下で、かつ蒸留終点が290℃以下であり、より好ましくは、蒸留初留点が140〜170℃で、95容量%留出点が230〜270℃で、かつ蒸留終点が240〜290℃、更に好ましくは95%容量留出点が260〜270℃で、かつ蒸留終点が270〜290℃である。蒸留初留点が140℃よりも低いと引火性が高くなり、取り扱いが難しくなるので好ましくない。また蒸留終点が300℃よりも高くなると低い温度での水素への改質が困難になるので好ましくない。95%容量留出点が270℃を越えるとジベンゾチオフェン類化合物の含有量が増え、特にアルキル置換基数の多いアルキルジベンゾチオフェン類化合物の含有量が増えるので好ましくない。
【0053】
尚、これらの蒸留性状はJIS K 2254に定める「石油製品−蒸留試験方法」に基づいて測定されたものである。
【0054】
また本発明に使用する燃料油は、構成する炭化水素の組成については特に制限されないが、直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量が25質量%未満であることが好ましい。さらに好ましくは直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量が25質量%未満であり、かつ炭素数18以上の直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量が0.5質量%以下である。直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量が25質量%以上では、低い温度での水素製造において直鎖脂肪族飽和炭化水素が未改質留分として残りやすくなるので好ましくない。また炭素数18以上の直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量が0.5質量%を越えると低い温度での水素製造において未改質の炭化水素が生成物中に残りやすくなるので好ましくない。
【0055】
尚、直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量はガスクロマトグラフィーで測定されたものである。
【0056】
本発明に使用する燃料油は、芳香族含有量は20容積%以下であることが好ましく、さらに好ましくは16〜18容積%であり、かつ二環以上の芳香族化合物の含有量が1.0容積%以下である。芳香族含有量が20容積%を越えると改質触媒の劣化が著しく進み、また低い温度での水素への改質が困難になるので好ましくない。また本発明の水素製造用燃料油は、オレフィン化合物を含まないことが好ましい。オレフィン化合物を含まないとは、分析法にて量的に検出されないことを意味する。オレフィンが含まれると改質触媒に炭素が析出しやすくなり水素製造性能が著しく低下するので好ましくない。
【0057】
尚、芳香族含有量、二環以上の芳香族化合物の含有量およびオレフィン化合物の含有量は石油学会規定JPI−5S−49に定める炭化水素タイプ分析に基づいて測定されたものである。
【0058】
本発明に使用する燃料油は、単独または他の炭化水素との混合で水素製造の原燃料に使用することができる。
【0059】
本発明は水蒸気改質反応に係わる水素製造装置での種々な態様で実施することが可能であり、たとえば製油所などの水素プラントや定置型分散電源における燃料電池用水素製造システムなどで実施可能である。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明の効果をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
JIS1号灯油を市販のコバルト−モリブデン系脱硫触媒を用いてLHSV=1.0h-1、370℃、水素/油=500Nm3/m3、圧力5MPaの条件で370℃の水素化脱硫処理を行い、引き続き市販の酸化亜鉛吸着剤を用いてLHSV=1.0h-1、350℃、圧力5MPaの条件で吸着処理を行い、脱硫灯油を得た。これらのJIS1号灯油および脱硫灯油の性状を表1に示す。
【0062】
尚、これらの硫黄含有量は紫外蛍光分析法、ジベンゾチオフェン類化合物の含有量はGC-ICP-MSで測定されたものである。また蒸留性状はJIS K 2254に定める「石油製品−蒸留試験方法」に基づいて測定されたものである。また直鎖脂肪族飽和炭化水素の含有量はガスクロマトグラフィーで測定されたものである。また芳香族含有量、二環以上の芳香族化合物の含有量およびオレフィン化合物の含有量は石油学会規定JPI−5S−49に定める炭化水素タイプ分析に基づいて測定されたものである。
【0063】
【表1】

【0064】
[触媒の調製]
実施例1(触媒A)
2mm径のアルミナ担体(比表面積120m2/g、細孔容積0.36ml/g)415gに、硝酸ランタン六水和物87.7gが溶解した水溶液150mlをポアフィリング法により含浸した後、110℃で16時間乾燥、引き続き酸素存在下650℃で3時間焼成を実施した。得られたランタン含有担体に、三塩化ルテニウム23.3gと硝酸コバルト(II)六水和物10.2gが溶解した水溶液150mlをポアフィリング法で含浸した後、150℃で16時間乾燥した。得られた触媒にヒドラジン炭酸塩水溶液を用いて70℃に加温して液相還元処理を行い、液相から取り出して150℃で10時間乾燥し、触媒Aを得た。
実施例2(触媒B)
実施例1の方法において、硝酸ランタン六水和物を35.3gとした以外は実施例1と同様の調製方法によって調製を行い、触媒Bを得た。
実施例3(触媒C)
実施例1の方法において、三塩化ルテニウムを35.0gとした以外は実施例1と同様の調製方法によって調製を行い、触媒Cを得た。
比較例1(触媒D)
実施例1の方法において、三塩化ルテニウムを11.7gとした以外は実施例1と同様の調製方法によって調製を行い、触媒Dを得た。
比較例2(触媒E)
実施例1の方法において、三塩化ルテニウム23.3gの代わりとして硝酸ルテニウム27.43gを使用した以外は実施例1と同様の調製方法によって調製を行い、触媒Eを得た。
比較例3(触媒F)
2mm径のアルミナ担体(比表面積120m2/g、細孔容積0.36ml/g)415gに、三塩化ルテニウム23.3gと硝酸コバルト(II)六水和物10.2gが溶解した水溶液150mlをポアフィリング法で含浸した後、150℃で16時間乾燥した。得られた触媒にヒドラジン炭酸塩水溶液を用いて40℃に加温して液相還元処理を行い、液相から取り出して150℃で10時間乾燥し、触媒Fを得た。
【0065】
前述の調製で得られた触媒A〜Fの物性を表2に示す。尚、これらの触媒の比表面積は窒素吸着法で測定された値である。また貴金属成分含有量および希土類成分含有量はICP−MS質量分析法で、貴金属成分分散度は前述の一酸化炭素を用いたガス吸着分析法(金属分散度測定装置BEL−METAL−3SP(日本BEL社製を使用)でそれぞれ測定された値を用いて式1〜3で算出される。
【0066】
【表2】

【0067】
貴金属成分含有量(質量%)=(触媒に含まれる貴金属成分の総量(g)÷触媒の総質量(g))×100 ・・・ (式1)
【0068】
貴金属成分分散度(%)=(触媒1g当たりに吸着したCO分子のモル数÷触媒1g当たりに含まれる貴金属成分のモル数)×100 ・・・ (式2)
【0069】
希土類成分含有量(μmol/m2)=触媒に含まれる希土類成分の総モル量(μmol/g)÷比表面積(m2/g) ・・・ (式3)

式2の触媒に吸着したCO分子のモル数は、触媒試料を50ml/分の水素気流下で400℃で30分間、続いて50ml/分のヘリウム気流下で400℃で20分間前処理を行った後、50℃にてヘリウムガス気流下でCOパルスを注入したときのCO吸着量V50を基に、貴金属成分が担体表面に球体として担持されて1個の貴金属原子に1つのCO分子が吸着するとみなして、式4で求めた。
触媒に吸着したCO分子のモル数(mol/g)=V50/W×(273/(273+t))×(P/101.325)/(22.4×103)・・・(式4)
50:測定温度50℃におけるCO吸着量
W:触媒の試料量(g)
P:測定時の圧力(kPa)
t:測定温度(℃)
図1は、本発明の実施例としての水素製造装置の構成の概略を示したものである。この水素製造装置は、原料の脱硫灯油を貯蔵する燃料油タンクT110と、水を貯蔵する水タンクT120と、それぞれの液体を加熱気化する気化器EV110およびEV120と、加熱気化したそれぞれの液体を混合する混合器M130と、水蒸気改質反応で水素を含む改質ガスを生成する改質器R140と、水蒸気改質反応で生成した改質ガスの一部を採取しその組成を分析するための分析計A150と、改質ガスを冷却して気液に分離する気液分離器S160と、気液分離器S160で分離した液体を回収する液回収タンクT170を備える。改質器R140はその内部に改質触媒を収納する。この他にも温度や流量の制御機器や各部の加熱のための加熱器を備える。
【0070】
燃料油タンクT110および水タンクT120内の液体はポンプまたはマスフローによってその流量を制御することができ、それぞれの気化器EV110およびEV120へと供給される。原料および水はそれぞれの気化器で加熱気化されて混合器M130内で十分に混合された後、改質触媒を収納する改質器R140へ供される。改質器R140内の水蒸気改質反応で生成した改質ガスの一部は分析計A150に送られ、水蒸気改質反応で生成するガス組成を分析することができる。
【0071】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた触媒A〜F 15.0mlを、図1で示される水素製造装置の改質器R140にそれぞれ充填し、原料を供給せずに改質器R140を昇温速度10℃/分で加熱を行い、改質触媒層の入口温度および出口温度がそれぞれ500℃、550℃になるまで昇温を行った。
【0072】
表2で示される脱硫灯油を原料として、原料および水の供給をそれぞれ35.6g/h 、109.8g/h(原料のLHSV=3.0h-1、スチーム/カーボン比=2.5mol/mol)として改質触媒層の入口温度および出口温度がそれぞれ500℃、550℃になるように温度制御を行った状態で、大気圧条件で336時間反応を行った。
【0073】
上述の評価反応中に得られた反応生成物はガスの状態でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで反応生成物の組成を分析した。改質反応における各触媒の触媒活性は、式4で求められるC1転化率を指標に評価した。
【0074】
C1転化率(%)=(反応生成物に含まれるC1化合物のモル数÷原料の脱硫灯油に含まれる炭素の総モル数)×100 ・・・ (式4)

評価反応を所定時間行った後は、改質器の加熱を停止すると同時に水および原料の供給を停止する停止操作を行い、水素製造を停止した。水素製造の停止後に改質器の温度が室温まで温度が低下した状態で、水素製造後の触媒をそれぞれの改質器から抜き出して触媒に付着した炭素付着量の分析を行い、また改質触媒層入口の改質器内壁面に炭素質が析出しているか確認した。
【0075】
各触媒を用いた評価反応における24時間後と288時間後のC1転化率とその比、評価反応後の触媒に付着した炭素付着量および改質器内壁面への炭素質の析出状況をそれぞれ表3に示す。尚、これらの炭素付着量はICP−MS質量分析法で測定された値である。
【0076】
【表3】

【0077】
本発明に基づく実施例1〜3で得られた触媒A〜Cは、比較例1〜3で得られた触媒D〜Gを用いた場合よりもC1転化率が高く高活性を示し、かつ時間が経過しても高転化率を維持し、低い温度での水素製造において性能低下が少ない触媒であることがわかる。また本発明に係わる水素製造用改質触媒を用いることによって、水素製造後の触媒に付着する炭素量が減少し、改質器内壁面への炭素析出が抑制されることが示され、500℃での水蒸気改質反応においても炭素析出による改質触媒の性能低下、および改質器への悪影響が抑制されることが分かる。
【0078】
これらの実施例から、本発明に係わる水素製造用改質触媒によって、低い温度での改質反応開始が可能となり、起動に要する時間の短い燃料電池システムの運用、改質器構造の簡易化や材料のコスト低減による経済的な水素製造を実施することが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によって提供された水素製造用改質触媒および該触媒を用いた水素製造方法によって、低い温度での改質反応開始が可能となり、起動に要する時間の短い燃料電池システムの運用が可能となる。また改質触媒の性能低下や炭素析出による改質器の閉塞を抑制し、長期の水素製造が可能となる。また改質温度の低下によって、改質触媒の熱劣化による性能低下を低減し、高温耐久性の高価な材料を用いることなく改質器の耐久性向上、改質器構造の簡易化や材料のコスト低減による経済的な水素製造を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例で用いた水素製造装置の構成の概略図である。
【符号の説明】
【0081】
T110:燃料油タンク
T120:水タンク
EV110:原料気化器
EV120:水気化器
M130:混合器
R140:改質器
A150:分析計
S160:気液分離器
T170:液回収タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ担体に、ルテニウム、ロジウム、白金の少なくとも1種を含む貴金属成分と希土類金属を含有させてなる水蒸気改質触媒において、触媒に含まれる貴金属成分含有量(質量%)と貴金属成分分散度(%)の積が100以上で、かつ貴金属成分分散度(%)が70%以下であることを特徴とする水素製造用改質触媒。
【請求項2】
触媒中の希土類金属の含有量が、触媒の表面積に対して0.1〜5 μmol/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の水素製造用改質触媒。
【請求項3】
貴金属成分がルテニウムであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の水素製造用改質触媒。
【請求項4】
希土類金属がランタンまたはセリウムを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水素製造用改質触媒。
【請求項5】
アルミナ担体に、希土類金属を含浸法で導入し、前記希土類金属を含有させたアルミナ担体を酸素存在下600〜800℃で焼成した後、ルテニウム化合物、ロジウム化合物及び白金化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を担持させ、次いで液相で65〜100℃の温度において還元処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素製造用改質触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の水素製造用改質触媒を具備する改質部に水素製造用燃料油を供して、改質部の触媒層の入口温度を500℃以下で水蒸気改質反応を開始し、水素を含有する生成物を得ることを特徴とする水素製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−254929(P2009−254929A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104245(P2008−104245)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(591110241)ズードケミー触媒株式会社 (31)
【Fターム(参考)】