説明

低温焼成磁器および低温焼成磁器組成物

【課題】 高熱膨張係数、低誘電率、低誘電損失および耐薬品性に優れた低温焼成磁器および低温焼成磁器組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の低温焼成磁器組成物は、38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に前記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成の複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%とで構成され、前記SiOからなる母材に対する前記複数のガラス粒子の割合が、質量比率で3〜7%であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や各種電子部品を搭載した多層配線基板用の低温焼成磁器および低温焼成磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を迎え、情報伝達はより高速化、高周波化が進み、搭載される半導体素子もより高速化、高集積化され、更に実装により高密度が要求されるようになり、光通信や高速インターフェースといったGHzレベル以上の高周波信号を処理する電子機器として携帯電話やPDA(Personal Digital Assistants)などモバイル機器が急速に発達している。
【0003】
このような電子機器に使用される配線基板としては、多層回路基板が用いられている。具体的には、ガラスセラミックスからなる絶縁基体(磁器)と、銅や銀からなる低抵抗の配線導体とを含む構成の多層回路基板である。
【0004】
この多層回路基板は、マサーボードなどの有機樹脂を含む高熱膨張係数のプリント基板に実装したときに、プリント基板との間の熱膨張差による応力で実装部分が剥離したりクラックが生じたりしてしまうのを防止するために、磁器の熱膨張係数がプリント基板の熱膨張係数と近い値(高熱膨張係数)であることが要求される。
【0005】
また、製造工程におけるめっき処理の際に、磁器がめっき液によって侵食され、侵食された部分にめっき液が残留し、磁器表面に黒い残痕が残るという問題があることから、磁器には耐薬品性が要求される。
【0006】
さらに、使用される周波数帯域はますます高周波側に移行しつつある。ここで、高周波信号の伝送がなされる多層回路基板においては、高周波信号を損失なく伝送するために、磁器の高周波領域での誘電率が低くおよび誘電損失が小さいことが要求される。
【0007】
そこで、これらの要求を同時に満足する多層回路基板の開発が進められている。
【0008】
しかしながら、誘電率を低く熱膨張係数を高くしようとすると、フィラーとして添加するシリカの量を増やす必要があり、フィラーとして添加するシリカの量が増えると必然的にガラスの量が減ることで焼成後の磁器の緻密度が低下し、耐薬品性が低下してしまうとともに誘電損失が大きくなってしまう。
【0009】
一方、誘電損失を小さく耐薬品性を向上させようとすると、必然的にシリカ量を少なくすることで、磁器の低誘電率、高熱膨張係数を達成できなくなる。このように、熱膨張率および誘電率と耐薬品性および誘電損失とは所謂トレードオフの関係にあり、これらを同時に満足することは困難であった。
【0010】
例えば、BaOを含有するガラスと、金属酸化物およびコージェライトを含有する無機フィラーとからなる磁器組成物を焼成することで、コージェライトとガラス中のBaO成分とが反応してセルジアンが主結晶相として析出し、低誘電率および耐薬品性に優れた高熱膨張磁器が提案されている(特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2003−40670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された高熱膨張磁器においては、セルジアンを析出させるためにコージェライトのフィラー比率を多くしており、高熱膨張といえどもまだまだ十分に満足のいく熱膨張係数が得られておらず、さらなる高熱膨張化が求められている。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、高熱膨張係数、低誘電率、低誘電損失および耐薬品性に優れた低温焼成磁器および低温焼成磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、結晶相がクォーツ、エンスタタイト、六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンからなり、非結晶相がSiO、BaOおよびMgOを含んでおり、リートベルト解析における質量比で、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記クォーツの割合が4以上、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記エンスタタイトの割合が2以上であり、かつ前記BaOと前記MgOとの和に対する前記SiOの割合が7以上であることを特徴とする低温焼成磁器である。
【0014】
また本発明は、38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に前記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成のガラス粒子が複数被着された複合粉末45〜35質量%とで構成され、前記SiOからなる母材に対する前記複数のガラス粒子の割合が、質量比率で3〜7%であることを特徴とする低温焼成磁器組成物である。
【0015】
この低温焼成磁器組成物から低温焼成磁器を製造するにあたり、焼成早期の段階で、SiOからなる母材の表面に被着しているガラス粒子が軟化し、母材の表面を濡れ広がる。その結果、ガラスが軟化流動して、軟化したガラスがSiOからなる母材の表面に濡れ拡がっている時間を多く確保できる。すなわち、ガラス転移温度から結晶化開始温度までの温度域が広くなる。したがって、低温焼成磁器の緻密化が促進される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に前記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成の複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%とで構成され、前記SiOからなる母材に対する前記複数のガラス粒子の割合が、質量比率で3〜7%である低温焼成磁器組成物を焼成することで、結晶相がクォーツ、エンスタタイト、六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンからなり、非結晶相がSiO、BaOおよびMgOを含んでおり、リートベルト解析における質量比で、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記クォーツの割合が4以上、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記エンスタタイトの割合が2以上であり、かつ前記BaOと前記MgOとの和に対する前記SiOの割合が7以上であり、高熱膨張係数、低誘電率、低誘電損失および耐薬品性に優れた低温焼成磁器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の低温焼成磁器は、結晶相がクォーツ、エンスタタイト、六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンからなり、非結晶相がSiO、BaOおよびMgOを含んでおり、リートベルト解析における質量比で、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記クォーツの割合が4以上、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記エンスタタイトの割合が2以上であり、かつ前記BaOと前記MgOとの和に対する前記SiOの割合が7以上である。
【0018】
リートベルト解析における質量比で、六方晶セルジアンと単斜晶セルジアンとの和に対するクォーツの割合が4以上であることにより、熱膨張係数が14×10−6/℃〜16×10−6/℃と高い結晶相であるクォーツの析出が多く、また誘電率の高い結晶相である六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンの析出が少ないことで、高熱膨張係数、低誘電率の低温焼成磁器が得られる。
【0019】
また、リートベルト解析における質量比で、六方晶セルジアンと単斜晶セルジアンとの和に対するエンスタタイトの割合が2以上であることにより、耐薬品性に優れた低温焼成磁器が得られる。なぜなら、エンスタタイトの密度のほうが、六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンの密度よりも、磁器(結晶相と非結晶相)との密度の差が小さく、ガラスが結晶化する前後の体積収縮率差を小さくすることができ、焼成後の磁器内部に発生するボイド量を少なくすることができるからである。
【0020】
さらに、リートベルト解析における質量比で、BaOとMgOとの和に対するSiOの割合が7以上であることにより、高熱膨張係数の低温焼成磁器が得られる。非結晶相(ガラス成分)中のそれぞれの成分の熱膨張係数は、SiOが0.5×10−6/℃、BaOが3×10−6/℃、MgOが3.3×10−6/℃であり、この非結晶相においても高熱膨張係数成分が多く含まれることで、高熱膨張係数の低温焼成磁器が得られるからである。ただし、非結晶相中のBaOとMgOとの和に対するSiOの比が10以上であると、BaOが電極間距離を増大させてしまい、静電容量が小さくなり誘電率が上昇してしまうので、この比は10未満であるのが好ましい。
【0021】
このような低温焼成磁器は、以下に示す本発明の低温焼成磁器組成物を原料として製造することができる。
【0022】
本発明の低温焼成磁器組成物は、38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に前記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成の複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%とで構成され、前記SiOからなる母材に対する前記複数のガラス粒子の割合が、質量比で3%以上であることを特徴とする。
【0023】
まず、ガラス粉末の組成について説明する。ガラス成分に含まれるSiO、Al、MgO、B、SrO、ZrO、CaOおよびBaOの各含有割合(mol%)を上記のような範囲としたのは、以下のような理由による。
【0024】
SiOの含有量が38mol%未満であると、ガラスの網目構造の安定性が悪くなり、ガラス結晶化時の粘度が低下して焼成後の低温焼成磁器の表面に膨れが発生しやすくなるとともに、焼結性が悪くなって耐薬品性が低下する。一方、SiOの含有量が48mol%を超えると、結晶化開始温度が低下してガラス転移温度と結晶化開始温度との差が小さくなり、ガラスの濡れている時間が減少することで焼結性が低下する。また、SiOが多いことによって、エンスタタイト(MgSiO)などの珪酸酸化物を多量に析出しやすくなり、熱膨張係数が低下することにもなる。
【0025】
Alの含有量が6mol%未満であると、シリカ系失透(クリストバライトおよびトリジマイトの生成)を抑制できなくなり、ガラスが分相化しやすくなる。一方、Alの含有量が9mol%を超えると、ガラス中の網目構造の安定性がよすぎるため、ガラスの粘度が上昇して濡れ広がりにくくってしまう。したがって、磁器が緻密化しにくくなり、焼結性が低下する。
【0026】
MgOの含有量が27mol%未満であると、ガラスを作製する工程でガラスが失透しやすくなる。失透したガラスは、ガラス転移温度、屈伏温度、結晶化開始温度などが、失透していないガラスと比較して異なることがあり、そのため、同一条件で焼成しても、低温焼成磁器の密度が変動したり、析出する結晶の割合が異なるため、低温焼成磁器の各種特性が異なってしまうことがある。一方、MgOの含有量が37mol%を超えると、粘性温度曲線が緩やかになって結晶化開始温度が高くなることにより、磁器の緻密化を望めるが、コージェライトの析出量が多くなって低温焼成磁器の熱膨張係数が極端に低下してしまうおそれがある。
【0027】
の含有量が5mol%未満であると、ガラスの粘度が上昇してガラス転移温度が高くなり、低温焼成が困難となるおそれがある。一方、Bの含有量が10mol%を超えると、ガラスの粘度が下がることによる効果はあるが、ガラスの結晶化が阻害され、低温焼成磁器中の結晶化していない相(非結晶相)が増加する。ガラス中のBの熱膨張係数は0.5ppm/℃であり、非結晶相のB量が多くなることで、非結晶相の熱膨張係数が必然的に低下してしまう。
【0028】
ZrOの含有量が1mol%未満であると、ガラスの密度が小さくなり耐薬品性が低下する。また、ZrO含有量が3mol%を超えると、ZrOはSiOに対して価数が大きいため、ガラスの網目構造を強固にし、ガラスの粘度が高くなる。これにより、焼成時の濡れ性が低下し、焼結性の低下が懸念される。
【0029】
CaOの含有量が1mol%未満であると、ガラス粘度が高くなりガラス転移温度および結晶化開始温度が高温側にシフトするため、磁器の焼結性が低下する。CaOの含有量が3mol%を超えると、高温域でのガラス粘度を低下させ、電気的絶縁性を高くする効果があるが、コージェライトの析出量が多くなって低温焼成磁器の熱膨張係数が極端に低下してしまうおそれがある。
【0030】
BaOの含有量が6mol%未満であると、焼成後の結晶化していない相(非結晶相)のBaO量が少なくなるため、非結晶相の熱膨張係数が低くなるおそれがある。また、BaOの含有量が9.5mol%を超えると、粘性温度曲線が緩やかになって結晶化開始温度が高くなることにより、磁器の緻密化が望める。しかし、BaOを含む複合酸化物である六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンの析出量が多くなり、磁器と結晶相との密度の差が大きくなることで、結晶化する際の体積収縮率が増大する。これにより、磁器中のボイドが粗粒になるおそれがある。
【0031】
そして、上記組成のガラス粉末55〜65質量%に対して、SiOからなる母材の表面に上記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成の複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%を混合していることが重要である。ガラス粉末が55質量%未満の場合(複合粉末が45質量%を超える場合)、複合粉末の比表面積に対して軟化するガラスの量が少ないため、低温焼成磁器の緻密化が促進されない。一方、ガラス粉末が65質量%を超える場合(複合粉末が35質量%未満の場合)、複合粉末の比表面積に対してガラス量が多いため、焼結性(緻密度)の向上が期待できる。しかし、ガラス成分から焼成後に析出するエンスタタイト、セルジアンの析出量が多くなるため、相対的にクォーツの析出量が少なくなり、磁器の熱膨張係数が低下するおそれがある。
【0032】
そして、SiOからなる母材に対する複数のガラス粒子の割合が、質量比率で3〜7%であることが重要である。これにより、SiOからなる母材の表面に十分な量のガラス粒子が被着されることとなり、母材の表面を濡れさせるのに十分な液相量を得ることができ、十分に緻密化した低温焼成磁器を得ることができる。また、ガラス粉末の量に対して微量であるので、ガラス粉末の組成に影響を与えることが少ない。
【0033】
この低温焼成磁器組成物を用いて低温焼成磁器を製造することで、焼成早期の段階で、SiOからなる母材の表面に被着しているガラス粒子が軟化し、母材の表面を濡れ広がる。その結果、軟化流動したガラスがSiOからなる母材の表面に濡れ拡がっている時間が多くなる。すなわち、ガラス転移温度から結晶化開始温度までの温度域が広くなる。したがって、低温焼成磁器の緻密化が促進され、焼成後の結晶相としてクォーツを多く析出させることができる。
【0034】
もし、SiOからなる母材の表面にガラス粒子を被着させない場合、ガラスの軟化点は高く、ガラスが軟化するまでSiOの再配列は起こらないため、高温側で体積収縮が起こり、低温焼成磁器の緻密化を促進させることはできない。
【0035】
また、SiOからなる母材の表面にガラス以外の粒子を被着させた場合、この複合粒子の比表面積が大きいものとなり、濡れ拡がるガラス量が不足してしまい、低温焼成磁器の緻密化は期待できない。
【0036】
さらに、Alを除く以外にガラスの軟化点を低温側へシフトさせる方法として、
MgO、BaO、CaO、SrO、LiO、NaO等を多くする方法がある。この方法によれば、ガラス構造を非架橋構造に変換させて、ガラス自身の安定性を低下させることで粘度を低下せしめ、ガラス転移温度を低温側へシフトさせることができる。
【0037】
しかし、この方法では、ガラス転移温度を低温側へシフトさせると同時に結晶化開始温度も低温側へシフトさせてしまう。したがって、SiOからなる母材に軟化したガラスが濡れる温度域が変動しないことから、緻密化の促進は期待できない。
【0038】
これに対し、ガラス中のAlを除くことで、Alはガラス中の4配位として網目構造中から除外され、ガラスの密度が低下することでガラス転移温度を低温化へシフトさせるので、結晶化開始温度を低温化へシフトさせてしまうことがない。
【0039】
なお、複数のガラス粒子において、上記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成とは、42.9〜48.9mol%のSiO、31.2〜37.2mol%のMgO、5.9〜9.9mol%のB、0.4〜0.8mol%のZrO、2.0〜3.0mol%のCaOおよび8.0〜10.0mol%のBaOとなる。
【0040】
次に、本発明の低温焼成磁器の製造方法について説明する。
【0041】
まず、出発原料として、上述の低温焼成磁器組成物であるガラス粉末と複合粉末とを、焼成温度、熱膨張係数、析出する結晶相の量に応じて、所定の比率で混合する。すなわち、38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%とを混合する。なお、SiOからなる母材に対する複数のガラス粒子の割合は、質量比率で3〜7%である。複数のガラス粒子のガラス組成は、上記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成であって、42.9〜48.9mol%のSiO、31.2〜37.2mol%のMgO、5.9〜9.9mol%のB、0.4〜0.8mol%のZrO、2.0〜3.0mol%のCaOおよび8.0〜10.0mol%のBaOとなる。
【0042】
ここで、低温焼成磁器中のボイドの最大径を小さくし焼結性を高めるという理由から、低温焼成磁器組成物を構成するガラス粉末の平均粒径は、1.0〜4.0μmが好ましく、特に1.0〜2.0μmが好ましい。
【0043】
また、複合粉末におけるSiOからなる母材の平均粒径は1.0〜6.0μmが好ましく、特に1.0〜4.0μmが好ましい。そして、このようなSiOからなる母材に、比表面積40〜50m/gのガラス粒子を、ミルの回転時間(周速が80〜90m/SEC)、処理時間3分〜5分、材料投入量20g〜30gという条件で被着させたものである。
【0044】
ガラス粉末と複合粉末との混合物に適当な有機バインダーを添加した後、所望の成型方法、たとえば、ドクターブレード法、圧延法、金型プレス法などにより所定の形状に成型後、焼成する。焼成にあたっては、まず、成型のために配合した有機バインダー成分を除去する。有機バインダーの除去は、500〜750℃の大気雰囲気中または窒素雰囲中で行なわれる。このとき、成型体の収縮開始温度は700〜850℃であることが望ましく、かかる収縮開始温度が700℃よりも低いと有機バインダーの除去が困難になるため、成型体中のガラス粉末の特性、特に転移温度、屈伏温度を制御することが望ましい。
【0045】
そして、250〜350℃/時の昇温速度で昇温した後、850℃〜1050℃の温度範囲で1〜数時間程度焼成することを特徴としている。特に、焼成温度としては880〜950℃が好ましい。この場合の焼成雰囲気は、用いる金属配線層の金属種によって適宜選択される。金属配線層としては、銅または銀を主成分とすることが望ましく、銅を用いる場合は非酸化性雰囲気が、銀を用いる場合は酸化性雰囲気が好適に用いられる。焼成温度が850℃より低いと低温焼成磁器が緻密化することが難しく、1050℃を越えると後述する配線基板を作製する場合に、銅や銀などの金属配線層との同時焼成が難しくなる。
【0046】
本発明においては、上記のような低温焼成磁器組成物を用いることで、焼成早期の段階でSiOからなる母材の表面に被着したガラスが軟化し、前記母材の表面に濡れ広がることでボイドを微粒化し、磁器の緻密化を促進する。また、焼成後の結晶相としてフィラーとして添加したクォーツを効率よく析出させることで低誘電率、高熱膨張の磁器を得ることを可能とした。
【0047】
このような低温焼成磁器を絶縁層として多層配線基板を作製することができる。多層配線基板を作製する場合には、上記のようにグリーンシートを成形し、パンチング、ドリル、レーザ照射などでビアホールを形成する。
【0048】
そして、ビアホール内に銅または銀などを主成分とする導体ペーストを充填してビア導体を形成する。一方、グリーンシートの表面には、ビア導体と同じ金属を含む配線パターン用の導体ペーストを用いてスクリーン印刷により配線導体を形成する。その厚みは15〜30μmとすることが望ましい。
【0049】
ビア導体および配線導体を形成したグリーンシートを複数積層し、所定の温度条件で焼成して多層配線基板を得ることができる。
【実施例】
【0050】
本発明の低温焼成磁器組成物および低温焼成磁器について具体的に作製した。
【0051】
まず、ガラス粉末として、表1に示す含有割合のガラス粉末と、複合粉末を用意し、ガラス粉末が62質量%、複合粉末が38質量%となるように秤量混合して低温焼成磁器組成物を得た。
【0052】
ガラス粉末の平均粒径は1.5μmであり、複合粉末は、平均粒径1.5μmのSiOからなる母材(SiO粉末)に比表面積46m/gのガラス粒子を被着させたものである。複合粉末の質量は、SiOからなる母材の質量とこれに被着した複数のガラス粒子の質量との和であり、表中では、SiOからなる母材に対する複数のガラス粒子の割合(質量比)を比率Aとした。
【0053】
次に、この低温焼成磁器組成物に、有機バインダーおよび有機溶剤を添加し十分混合してスラリーを作製しドクターブレード法により厚み100μmのグリーンシートを作製した。得られたグリーンシートを積層し、700℃の水蒸気を含有する窒素雰囲気中で3時間脱バインダー処理した後、前記焼成法に基づき焼成を行なった。昇温速度は300℃/時とし、860℃で1時間焼成した。上記のように焼成して得られた低温焼成磁器に対して、以下のような評価を行った。
【0054】
(熱膨脹係数)
熱膨脹係数を測定するための試験片は、長さ10mm、一辺4.5mmの角柱とした。熱機械分析装置を用いて室温から400℃における熱膨張曲線を測定し、線膨張率を求め、熱膨脹係数とした。
【0055】
(誘電率および誘電損失)
円柱共振器法にて10GHzで測定した。
【0056】
(結晶相の同定)
結晶相の同定は、磁器のX線回折(XRD)測定の結果をリートベルト法で解析して行った。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」、共立出版株式会社、1999年9月、p.492−499に記載されている方法を用いた。
【0057】
具体的には、評価対象の試料にZrOの標準試料を加えて、ディフラクトメーター法で測定した2θ=10°以上80°以下の範囲のX線回折パターンに対して、RIETAN−2000プログラムを使用することにより、ZrOの標準試料により回折されたパターンと加えたZrOの標準試料の量の相関関係から、評価対象の試料中に含まれる結晶構造と量を評価した。
【0058】
そして、リードベルト法より求めた結晶の量が、試料の10質量%以上の結晶相を表1の析出主結晶相の欄に記載し、試料の1質量%以上10質量%未満であった結晶相を表1の析出副結晶相の欄に記載した。
【0059】
(温度特性)
ガラス成分の転移温度、屈伏温度、結晶化開始温度を示差熱分析(リガク製TAS−200)装置を用いて求めた。
【0060】
上記の評価方法による試験を行なった結果を表1に示す。
【0061】
なお、表中では、リートベルト解析における質量比で、六方晶セルジアンと単斜晶セルジアンとの和に対するクォーツの割合を比率Bとし、六方晶セルジアンと単斜晶セルジアンとの和に対するエンスタタイトの割合を比率Cとし、BaOとMgOとの和に対するSiOの割合を比率Dとした。
【表1】

【0062】
試料No.1〜7はガラス成分中のSiO量を他元素と置換した結果である。試料No.6では、SiO量を増加したことにより、エンスタタイト(MgSiO)の析出量が多くなり熱膨張係数の低下が見られた。また、試料No.7では、SiO量が少ないことにより、低温焼成磁器を緻密化しにくくなり、焼結性の低下から誘電損失の上昇が確認された。
【0063】
試料No.8〜18はガラス成分中のAl、MgO、BaO量を他元素と置換した結果である。試料No.10は、Al量を増加したことによるガラスの粘度上昇から、焼結性が劣化し誘電率が上昇していることが確認された。また、セルジアン結晶相の析出量が多くなったことによる熱膨張係数の低下があった。試料No.13は、MgO量を増加したことでコージェライト(Mgl4Si)の析出量が多くなり、熱膨張係数の低下があった。試料No.14は、MgO量が減少したことで、結晶化開始温度が低温側へシフトし、母材が軟化したガラスに濡れる温度域が少なくなったことによる焼結性の低下が確認された。試料No.17はBaO量を増加したことによって、BaOを含む複合酸化物の析出量が増大し、誘電率の上昇が確認された。試料No.18は、BaO量が少ないことで、熱膨張係数の低下が確認された。
【0064】
試料No.19〜24はガラス組成は一定で、母材に被着するガラス粉末の量を変更した結果である。試料No.22、23、24は被着するガラス量が少ないために、焼結早期でガラスが軟化し、シリカの表面を濡れさせるのに十分な液相量を得ることが出来なくなるため、磁器の緻密化が出来ず、誘電損失の上昇が確認された。また、結晶相としてクォーツを析出しにくくなり、熱膨張係数が低下した。
【0065】
試料No.1〜5、8〜9、11〜12、15〜16、19〜21は、焼成後の結晶相としてクォーツを効率よく析出し、且つシリカからなる母材にガラスを被着することで焼結性を向上させることで高熱膨張、低誘電損失、低誘電率を可能とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶相がクォーツ、エンスタタイト、六方晶セルジアンおよび単斜晶セルジアンからなり、非結晶相がSiO、BaOおよびMgOを含んでおり、リートベルト解析における質量比で、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記クォーツの割合が4以上、前記六方晶セルジアンと前記単斜晶セルジアンとの和に対する前記エンスタタイトの割合が2以上であり、かつ前記BaOと前記MgOとの和に対する前記SiOの割合が7以上であることを特徴とする低温焼成磁器。
【請求項2】
38〜48mol%のSiO、6〜9mol%のAl、27〜37mol%のMgO、5〜10mol%のB、0.25〜1mol%のZrO、1〜3mol%のCaOおよび6〜9.5mol%のBaOからなるガラス粉末55〜65質量%と、SiOからなる母材の表面に前記ガラス粉末の組成からAlを除いた組成の複数のガラス粒子が被着された複合粉末45〜35質量%とで構成され、前記SiOからなる母材に対する前記複数のガラス粒子の割合が、質量比率で3〜7%であることを特徴とする低温焼成磁器組成物。

【公開番号】特開2008−297178(P2008−297178A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147263(P2007−147263)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】