説明

低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物

【課題】製造コストを抑えて製造における操作性や安全性に優れ、良好な接着強度と耐熱性を備える低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】粘度数が80〜300ml/gの範囲の高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱混練して,粘度数が低下して40〜150ml/gの範囲の低粘度ポリアミド樹脂組成物を生成する工程と、低粘度ポリアミド樹脂組成物を冷却する工程と、低粘度ポリアミド樹脂組成物を乾燥する工程とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物に関し、特に、高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上のアルコールを添加して粘度を低下させて、接着強度、流動性及び耐熱性に優れた低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホットメルト系接着剤に使用されるポリアミド樹脂組成物は熱可塑性樹脂であり、高い破断接着強度を有することから梱包用接着剤や製本用接着剤に用いられたり、また、優れた電気絶縁性から電機や電子部品などの固定用接着剤に広く用いられたりしている。近年、携帯電話、デジタルカメラ、モバイル型携帯パーソナルコンピューター及び携帯型音楽プレーヤー等の電気・電子機器は小型化並びに高性能化が進んでおり、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性が高い点が評価されている。
【0003】
ポリアミド系ホットメルト接着剤として、例えば、特許文献1には、「ポリアミド接着剤及びその利用」という名称で、アミン価が5〜50mgKOH/gのポリアミド樹脂とエポキシ化合物とを含有し、硬化性、高温、高湿度下での接着強度及びハンダ耐熱性に優れた多成分で構成される共重合のポリアミド接着剤に関する発明が開示されている。
また、特許文献2には、「ホットメルト接着剤組成物およびその用途」という名称で、ダイマー酸を原料として得られダイマー酸由来の構成単位の少なくとも一部が水素添加されたポリアミド樹脂を含み、酸化防止剤としてペンタエリスリトール・テトラキスが配合され、加熱時の粘度安定性や耐皮張り性に優れた製本用のホットメルト接着剤に関する発明が開示されている。
そして、特許文献3には、「ホットメルト接着剤」という名称で、二価フェノールポリオキシアルキレンエーテル単位を5〜90重量%含有するポリエーテルエステルアミドの少なくとも1種からなり、高い接着力と優れた樹脂強度を備えたホットメルト接着剤に関する発明が開示されている。
さらに、特許文献4には、「ポリアミド系複合材用接着剤」という名称で、カルボキシル末端又はヒドロキシカルボキシル末端のポリアミド縮合前駆体と、ヒドロキシ末端又はヒドロキシカルボキシル末端のポリエステルセグメントを、直接エステル化し、2つの結晶相が形成される高分子量ブロックコポリエステルアミドをベースとする接着剤及び相溶化剤で、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の特性を兼ね備え、機械的特性及び熱的特性に優れたポリアミド系複合材用接着剤に関する発明が開示されている。
【0004】
また、ポリアミド樹脂組成物の無機充填剤に対する樹脂バインダー用途としては、例えば、特許文献5には、「樹脂磁石組成物、その製造方法およびマグネットローラ」という名称で、直径1.5〜2.5mm、長さ1.0〜2.0のペレット状で、相対粘度が1.9〜2.0の範囲内であるポリアミド樹脂の樹脂バインダーと、磁性粉とを主成分とし、磁性粉との均質混合が可能で、コスト性、成形性及び流動性に優れ、パウダー状のポリアミド樹脂バインダーを用いた場合に遜色ない樹脂磁石組成物に関する発明が開示されている。
また、特許文献6には、「樹脂磁石用組成物及び該組成物を用いてなるマグネットローラ」という名称で、数平均分子量5000以下のポリアミド樹脂を含む混合樹脂からなる樹脂バインダーに磁性粉を混合分散してなるものであり、磁性粉の充填量を多くしても良好な溶融流動性を示し、成形加工性に優れ、成形物の高磁力化が達成可能な樹脂磁石用組成物に関する発明が開示されている。
そして、特許文献7には、「合成樹脂磁石用組成物及び樹脂磁石成形物」という名称で、熱可塑性樹脂からなる主材樹脂と重合脂肪酸系ポリアミドとを含む樹脂バインダーに磁性粉を分散混合してなり、溶融時の流動性が良好で、高磁力の樹脂磁石成形物が得られる樹脂磁石用組成物に関する発明が開示されている。
さらに、特許文献8には、「樹脂磁石組成物及び樹脂磁石成形物」という名称で、ポリアミド樹脂を主材とする樹脂バインダーに磁性粉を分散混合してなり、加工助剤としてアルコール可溶性物質を添加したものであり、樹脂バインダー中への磁性粉の分散が促進されて良好な流動性を備えて成形加工性を満たし、樹脂磁石成形物の磁力を向上した樹脂磁石組成物に関する発明が開示されている。
【0005】
また、ポリアミド樹脂組成物の解重合については、例えば、特許文献9には、「汚染された重合体に対する単量体の回収法」という名称で、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリエステルアミド樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種であり且つ約2〜70重量%の非重合体汚染物質を含む原料重合体からなる反応混合物から、解重合剤を用いて解重合して単量体を回収する方法で、ポリアミド樹脂についてはメタノール、エチレングリコール、ポリアミドのオリゴマー、単量体、水またはアンモニアを解重合剤とし、高圧下において容易な解重合を可能とした重合体に対する単量体の回収法に関する発明が開示されている。
ぞして、特許文献10には、「ポリアミドの解重合方法及びポリアミドのモノマーの製造方法」という名称で、ポリアミド樹脂に炭素数2以上のアルコールを超臨界状態で作用させて、高温高圧水によりポリアミド樹脂の解重合反応を行なった場合に生じる金属装置の内部の腐食を防止し、ポリアミド樹脂の解重合反応を行なうことが可能なポリアミドの解重合方法に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−321083号公報
【特許文献2】特開2001−192638号公報
【特許文献3】特開2002−322455号公報
【特許文献4】特開平10−226777号公報
【特許文献5】特開2005−154733号公報
【特許文献6】特開平11−219815号公報
【特許文献7】特開2001−240740号公報
【特許文献8】特開2001−297908号公報
【特許文献9】特表2002−507187号公報
【特許文献10】特開2007−169256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献4に記載された従来の技術では、ポリアミド系接着剤に用いられる樹脂組成物は、用いられる原料が汎用のものではなく製造コストが高くなるという課題があった。
【0008】
また、特許文献5乃至特許文献8に記載された従来の技術では、樹脂バインダーとして使用されている相対粘度が1.9〜2.0の範囲の低粘度のポリアミド樹脂組成物は、低粘度であるためにペレット化工程におけるストランドの安定性が悪く、ロスが極めて多くなり、必ずしも生産性が良好でないという課題があった。
【0009】
そして、特許文献9及び特許文献10に記載された従来の技術では、いずれについても高温高圧下で作用させる構成であり、装置の設置コストが嵩み、また、煩雑で操作性も低いという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、製造コストを抑えて製造における操作性や安全性に優れ、良好な接着強度と耐熱性を備える低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、粘度数が80〜300ml/gの範囲の高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱混練して,粘度数が低下して40〜150ml/gの範囲の低粘度ポリアミド樹脂組成物を生成する工程と、低粘度ポリアミド樹脂組成物を冷却する工程と、低粘度ポリアミド樹脂組成物を乾燥する工程とを有するものである。
上記構成の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法では、粘度数が80〜300ml/gの範囲の高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱混練すると、高粘度ポリアミド樹脂組成物は解重合して粘度数が低下して40〜150ml/gの範囲の低粘度ポリアミド樹脂組成物を生成するという作用を有する。また、低粘度ポリアミド樹脂組成物を冷却すると反応が停止するように作用し、低粘度ポリアミド樹脂組成物を乾燥すると低粘度ポリアミド樹脂組成物に含有する水分や蒸発成分が除去されるように作用する。
【0012】
また、請求項2に記載の発明である低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法において、高粘度ポリアミド樹脂組成物は脂肪族ポリアミド樹脂組成物であるものである。
上記構成の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法では、請求項1に記載の発明の作用に加えて、脂肪族ポリアミド樹脂組成物が備える靭性を生成される低粘度ポリアミド樹脂組成物に付与するように作用する。
【0013】
そして、請求項3に記載の発明である低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法において、高粘度ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、多価アルコールを2〜30重量部添加するものである。
上記構成の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法では、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、生成する低粘度ポリアミド樹脂組成物の接着性と流動性を適正化するように作用する。
【0014】
最後に、請求項4に記載の発明である低粘度ポリアミド樹脂組成物は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法によって製造されるものである。
上記構成の低粘度ポリアミド樹脂組成物では、高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱混練して解重合させて得られるものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法では、汎用の高粘度ポリアミド樹脂組成物に対し、多価アルコールを高温下常圧で作用させて、高粘度ポリアミド樹脂組成物をアルコールによって分解して粘度を低下させ、生成する低粘度ポリアミド樹脂組成物中にアルコールを共重合成分として取り込んで、流動性及び接着性に優れる低粘度ポリアミド樹脂組成物を簡単且つ安価に製造することができる。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法は、高粘度ポリアミド樹脂組成物に脂肪族ポリアミド樹脂組成物を用いることによって、靭性のある低粘度ポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【0017】
そして、本発明の請求項3に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法では、多価アルコールの添加量を調整することによって、良好な接着性と流動性を備える低粘度ポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【0018】
本発明の請求項4に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物は、安価で、接着剤や樹脂バインダーに適した良好な流動特性と接着特性を備えるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の本実施の形態に係る低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物の実施の形態を図1に基づき説明する。
図1は、本発明の本実施の形態に係る低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法の製造工程を示す概念図である。
図1において、低粘度ポリアミド樹脂組成物は、汎用の高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱下で混練し、冷却及び乾燥することによって製造することができる。
【0021】
まず、ステップS1では、高粘度ポリアミド樹脂組成物をラボプラストミル、2軸押出機、バンバリーミキサー及びベッセルなどの混練装置に投入する。投入する高粘度ポリアミド樹脂組成物の粘度数は、汎用に入手可能なポリアミド樹脂組成物の粘度数であるものが好ましく、JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃でポリアミド樹脂ペレットに対して測定した値で80〜300ml/gの範囲、より好ましくは100〜200ml/gである。粘度数が80ml/gより低いと後述の生成される低粘度ポリアミド樹脂組成物の分子量が小さくなり機械的強度が低下し、逆に、粘度が300ml/gより高いと分解に時間を要して、流動性が低下して特性が満足に得られない。なお、本願明細中において粘度数とは、JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃でポリアミド樹脂ペレットに対して測定した値とする。
【0022】
次に、ステップS2では、高粘度ポリアミド樹脂組成物が投入された混練装置に3価以上の多価アルコールを添加する。多価アルコールの添加量は、高粘度ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、2〜30重量部の範囲がよく、さらには5〜25重量部の範囲であるのが好ましい。多価アルコールの添加量が少ないと、後述する生成する低粘度ポリアミド樹脂組成物の接着性及び流動性が低下し、逆に、添加量が多すぎると、低粘度ポリアミド樹脂組成物を接着剤として使用する場合において接着時に気泡が発生して、接着性を低下させる原因となる。
【0023】
続いて、ステップS3では、上記の混練装置を、高粘度ポリアミド樹脂組成物の融点の−10℃から+150℃の温度範囲の加熱下で常圧において混練する。但し、2軸押出機のように滞留時間が短い装置の場合には高粘度ポリアミド樹脂組成物の融点の+50から150℃の温度範囲で加熱し、ベッセル等の滞留時間が長い装置の場合は高粘度ポリアミド樹脂組成物の融点の−10℃から+100℃の温度範囲で加熱することが好ましい。なお、低温で加熱する方が高粘度ポリアミド樹脂組成物の着色が少ないことを考慮すると、ベッセル等の滞留時間が長い装置を用いることが好ましい。
この加熱・混練工程では、高粘度ポリアミド樹脂組成物に多価アルコールが反応し、高粘度ポリアミド樹脂組成物が分解して分子鎖が切断されるとともに、高粘度ポリアミド樹脂組成物の主鎖に多価アルコールが共重合成分として取り込まれて分岐構造が形成される。したがって、本工程では、最初は高粘度である高粘度ポリアミド樹脂組成物は、徐々に分子量が低下して粘度が低下し、最後には液状になり、低粘度ポリアミド樹脂組成物が生成する。
【0024】
そして、ステップS4では、生成した低粘度ポリアミド樹脂組成物を混練装置から外部に取り出して冷却する。最後に、ステップS5において、冷却後の低粘度ポリアミド樹脂組成物が含有する水分及び揮発成分を乾燥して除去する、なお、乾燥は80から120℃の温度範囲で、減圧下で行うことが好ましい。
生成した低粘度ポリアミド樹脂組成物の粘度数は40〜150ml/gの範囲内であることが好ましく、特に、60〜120ml/gの範囲内が好適である。
ここで、粘度数とは、JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃でポリアミド樹脂組成物に対して測定した値である。粘度数が40ml/gより低いと分子量が小さいため、機械的強度が低下し、逆に、粘度数が150ml/gより高いと流動性が低下し、低粘度ポリアミド樹脂組成物を接着剤や樹脂バインダーとして使用する場合には好ましくない。なお、低粘度ポリアミド樹脂組成物の粘度数は、高粘度ポリアミド樹脂組成物の種類及び粘度数と、多価アルコールの種類及び添加量、加熱温度及び時間によって変化する。
【0025】
次に、高粘度ポリアミド樹脂組成物及び多価アルコールについて説明する。
高粘度ポリアミド樹脂組成物には、重合可能なω−アミノ酸類又はそのラクタム類で、好ましくは3員環以上のラクタム類、或いは二塩基酸類とジアミン類などを原料とし、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂組成物を用いることができる。
ω−アミノ酸類としては、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸及び12−アミノドデカン酸が挙げられ、また、ラクタム類としては、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、α−ピロリドン及びα−ピペリドンが挙げられる。
そして、二塩基酸類の具体例としては、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、キシリレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸及びイソフタル酸が挙げられる。また、アミン類としては、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(又は2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンが挙げられる。
【0026】
特に、高粘度ポリアミド樹脂組成物として、好ましくは、ε−カプロラクタムまたはε−アミノカプロン酸を主原料とするポリアミド6樹脂、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩を主原料とするポリアミド66樹脂、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩とε−カプロラクタム又はε−アミノカプロン酸とを主原料とした共重合ポリアミド6/66樹脂、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを主原料とするポリアミドMXD6が挙げられ、これらのポリアミド樹脂組成物をブレンドして用いてもよい。
より好ましくは、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、メタキシリレンジアミン等の芳香族基を含有したモノマーの含有率が10重量%以下の脂肪族ポリアミド樹脂組成物であり、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、共重合ポリアミド6/66樹脂、ポリアミド6/10樹脂、ポリアミド12樹脂等が挙げられ、特に、ポリアミド6樹脂及び共重合ポリアミド6/66樹脂が好適である。これらの脂肪族ポリアミド樹脂組成物は、耐熱性と高靱性を備えるとともに入手しやすい点で好ましい。
【0027】
そして、これらの脂肪族ポリアミド樹脂組成物の中でも、アミド基比率(主鎖の結合(−CH2−)に対する結合(−CONH−)の比率、すなわち、結合(−CONH−)/結合(−CH2−))が1/3〜1/12の範囲にあるものが好ましく、1/4.5〜1/7が更に好ましい。その代表的なものとしては、例えば、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド610樹脂が挙げられる。特に、脂肪族ポリアミド樹脂では、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6/66共重合体が好適であり、これらの樹脂組成物を複数併用してもよい。なお、アミド基比率は1/3に近いほど耐熱性が良好となるが、一方で樹脂組成物のコストも高くなるため、アミド基比率は1/3以下であることが好ましい。また、アミド基比率を1/12以上とすることにより、良好な接着性を維持することができる。
【0028】
また、多価アルコールは、トリメチロールプロパン、グリセリンなどのトリオール類や、ペンタエリスリトールなどの四官能アルコール類や、ソルビトール、シュークロース等の多糖類を用いることができる。中でも、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価又は4価のアルコールが好ましく、特に、グリセリンは沸点が高いのでハンドリングが容易である。
【0029】
次に、低粘度ポリアミド樹脂組成物について説明する。
低粘度ポリアミド樹脂組成物は、前述の通り、高粘度ポリアミド樹脂組成物を3価以上の多価アルコールによって分解して得られるものであり、接着剤や樹脂バインダーとして用いることができる。低粘度ポリアミド樹脂組成物の粘度数は流動性と機械的強度を考慮すると、40〜150ml/gの範囲内で、特に、60〜120ml/gの範囲内が好適である。また、低粘度ポリアミド樹脂組成物の溶融粘度は、180〜220℃の温度において、1000〜30000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に2000〜27000mPa・sの範囲内が好適である。低粘度ポリアミド樹脂組成物を接着剤として用いる場合は、溶融粘度が1000mPa・s未満であると、接着剤としての凝集力に劣るとともに靱性が低下し、30000mPa・sを超えると、塗布性能が劣ることによって接着性が低下する。
【0030】
また、低粘度ポリアミド樹脂組成物を接着剤やバインダー用途に用いる場合に、諸特性向上を目的として一般的に添加されている粘着付与樹脂やワックスなどを添加することも可能である。
粘着付与樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系樹脂、芳香族系樹脂、脂環族系樹脂、クマロン・インデン樹脂等を添加することができる。
ロジン系樹脂としてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、二量化ロジン、ロジンフェノール及びこれらのロジンのグリセリンやペンタエリスリトールなどの各種アルコールエステル類が挙げられ、市販品としては、荒川化学(株)製の商品名エステルガム、ハイペール、スーパーエステル、ペンセル、タマノル等や、イーストマンケミカル社製の商品名ポリペール、ダイマレックス、ハーコリン、フォーラル等が挙げられる。
テルペン系樹脂としては、αピネン、βピネン、ジペンテン、テルペンフェノール、スチレン変性テルペン、及びこれらの水素添加品などが挙げられ、市販品としてはヤスハラケミカル(株)製の商品名YSレジン、YSポリスター、クリアロン等や、アリゾナケミカル社製の商品名ゾナライト、ゾナタック、ナイレッツ等が挙げられる。
【0031】
脂肪族系樹脂は、ナフサ分解油のイソプレンやシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンのようなC5系留分を重合して得た樹脂とその水素添加品で、市販品としてはトーネックス(株)製の商品名エスコレッツ1000や、日本ゼオン(株)製の商品名クイントンや、丸善石油化学(株)製の商品名マルカレッツや、グッドイヤーケミカル製の商品名ウィングタック等が挙げられる。
芳香族系樹脂は、ナフサ分解油のスチレン類やインデン類などのC9系留分を重合したもので、市販品としては東ソー(株)製の商品名ペトコールや、東邦化学(株)製の商品名ハイレジンや、三井化学(株)製の商品名FTRや、イーストマンケミカル社製の商品名クリスタレックス等が挙げられる。
脂環族系樹脂は、分子中に芳香族ではない環状の化合物を持ったものであり、市販品として三井化学(株)製の商品名ハイレッツや、荒川化学(株)製の商品名アルコンや、トーネックス(株)製の商品名エスコレッツ5000等が挙げられる。
なお、これらの粘着付与樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、粘着付与樹脂の軟化点は、70〜155℃の温度範囲が好ましく、さらに好ましくは80〜145℃の温度範囲であり、特に好ましくは、100〜140℃の温度範囲である。粘着付与樹脂の軟化点が70℃未満であると低粘度ポリアミド樹脂組成物の耐熱性が実用範囲以下と低くなり、一方、155℃を超えると低粘度ポリアミド樹脂組成物の接着性が大きく低下するという懸念がある。また、このような粘着付与樹脂配合量は低粘度ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0〜10重量部の範囲内が好ましく、多量に添加すると接着性が低下する。
【0032】
次に、ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスや、更には植物油の水添品であるカスターワックス等がある。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ワックス成分の融点は、好ましくは50〜140℃、さらに好ましくは、60〜120℃、特に好ましくは、65〜105℃の温度範囲である。ワックスの融点が50℃未満であると耐熱性が低下したり冷却時の固化速度が遅くなったりする。一方、140℃を超えると接着性が大幅に低下する。
また、ワックスの配合量は低粘度ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0〜10重量部の範囲内が好ましく、粘着付与樹脂の場合と同様に多量の添加は接着性が阻害される。
さらに、粘着付与樹脂及びワックスのほかにも、酸化防止剤、他の熱可塑性樹脂、ゴム、滑剤、アンチブロッキング剤、着色防止剤、フィラー、可塑剤、増量材等を添加して使用することもできる。
【0033】
そして、低粘度ポリアミド樹脂組成物においては、さらなる靱性の改善のために、既知の柔軟性樹脂やエラストマー、例えば、エチレン−酢酸ビニル樹脂、酸変性ポリオレフィンエラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステル系エラストマー及びウレタン系エラストマー等を1〜30重量%の範囲で配合してもよい。
【0034】
このように構成された本実施の形態においては、高粘度ポリアミド樹脂組成物を3価以上の多価アルコールを用いて加熱下で分解し、低粘度ポリアミド樹脂組成物を製造することができる。また、この分解反応は常圧で行うことができるので、設備コストを抑え、安全で簡単な操作で製造が可能となる。また、高粘度ポリアミド樹脂組成物には汎用のものを用いることができるので、原料コストも抑えることが可能であり、安価な低粘度ポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
そして、製造される低粘度ポリアミド樹脂組成物は、良好な接着性や流動性を有しており、接着剤や樹脂バインダーとして有用な樹脂組成物となる。
ホットメルト接着剤として利用する場合は、220℃以下の温度で融解が可能であるので操作が容易で、手塗り作業でも接着面に均一に塗布させることができる。
また、充填剤のバインダーとして利用する場合は、官能基としてカルボキシル基や水酸基を多数有しているので、充填剤への密着性が良好となる。また、高流動性であるので、微粉タイプの充填剤の間隙にも浸透が可能となる。そして、ポリアミド樹脂の種類を選定して低耐熱性とすると、繊維や木粉のような有機充填剤に対しても充填剤の酸化による変色を防止することができる。
【0035】
続いて、本実施の形態に係る低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物の実施例について説明する。
【実施例】
【0036】
2種類の高粘度ポリアミド樹脂組成物を用いて、それぞれ試料1及び試料2となる低粘度ポリアミド樹脂組成物を作製した。
まず、多価アルコールとしてのグリセリン50gをリービッヒ冷却管付きセパラブルフラスコにて240℃に昇温し、そこにペレット状ポリアミド6樹脂(宇部興産(株)製、商品名UBEナイロン 1011FB、粘度数120ml/g、以下、PA−1と略記する。)250gを、グリセリン温度が低下しないように分割して投入し、褐色の透明融液になるまで撹拌溶解した。均一な液体となったので、攪拌を中止して、水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却するとキャラメル色の固体が得られた。同様の方法で複数回試料の作成を行い、必要量の試料を混合し、100℃で真空乾燥後、室温で粉砕して粉体とし、低粘度ポリアミド樹脂組成物となる試料1とした。
次に、多価アルコールとしてのグリセリン50gをリービッヒ冷却管付きセパラブルフラスコにて240℃に昇温し、そこにペレット状ポリアミド6/66共重合樹脂(宇部興産(株)製、商品名UBEナイロン 5013B、粘度数135ml/g、以下、PA−2と略記する。)250gを、グリセリン温度が低下しないように分割して投入し、褐色の透明融液になるまで撹拌溶解した。均一な液体となったので、攪拌を中止して、水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却するとキャラメル色の固体が得られた。得られた固体はハンマーで強打しても容易に破損しないほど強固なものであった。同様の方法で複数回試料の作成を行い、必要量の試料を混合し、100℃で真空乾燥後、室温で電動のこで切断後、粉砕機にて粉体とし、低粘度ポリアミド樹脂組成物となる試料2とした。
【0037】
次に、以下の方法にて評価を行った。なお、参考までにポリアミド6樹脂(宇部興産(株)製、商品名UBEナイロン 1010X1、粘度数80ml/g、以下、PA−3と略記する。)についても同様の試験を行った。
(1)粘度数
JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃でポリアミド樹脂ペレットまたは粉末に対して測定した。
(2)融点
示差熱分析計にて毎分5℃の昇温速度で測定したときの融解ピークの頂点を融点とした。
(3)軟化温度並びに木材及びポリアミド樹脂組成物への引張剪断接着強度及び引張最大点変位量
木材への接着試験の被接着材として、厚み3mmの木材を選定し、接着面は幅20mm、長さ25mmとした。表2の各試料を190℃で溶融し(PA−1乃至PA−3については220℃)、それぞれ接着面に手塗りで塗布した。なお、PA−3については、溶融粘度がやや高く糸引きが激しく、塗布作業が困難であった。PA−1およびPA−2については溶融粘度が高過ぎ、均一な塗布が不可能であった。接着試験片を常温で放冷後、JISK6833−1及びJISK6850に準じて軟化温度、引張剪断接着強度及び引張最大点変位量をそれぞれ測定した。
ポリアミド樹脂組成物への接着試験の被接着材として、ポリアミド樹脂組成物(PA−1)を溶融温度250℃、金型温度70℃で射出成型にて得たISO引張試験片(厚み4mm)の中央部を切断後、メタノールで表面を洗浄し風乾後、100℃で30分乾燥した。切断した試験片の長さ25mmが重なるように、表2の各試料を190℃で溶融し(PA−3については220℃)、それぞれ接着面に手塗りで塗布した。接着試験片を常温で放冷後、JISK6850に準じて破壊の状態を観察すると同時に引張剪断接着強度及び引張最大点変位量をそれぞれ測定した。
(4)無機充填剤配合組成物の衝撃強度試験
各試料100重量部に対してタルク粉末(林化成社製、タルカンパウダーPK−C、平均粒径11μm)200重量部を、2軸押出機を用いて260℃でコンパウンドし、ペレットを得た。この組成物ペレットを溶融温度260℃、金型温度70℃で射出成型にてISO試験片(厚み4mm)を作製した。この試験片を常温で20日間水中で吸水処理し、10日間風乾後、ISO179に準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。衝撃強さは、粘度数に大きく影響され、粘度数が高くなると高くなり、また充填剤と樹脂との密着性が高いと高くなる傾向にあった。
(5)無機充填剤配合組成物のテーバー摩耗試験
上述のタルク配合組成物を溶融温度260℃、金型温度70℃で射出成型にて得た100×100mm試験片(厚み4mm)の中央に孔あけ加工を行い、テーバー摩耗試験片とした。荷重4.9N、回転速度60rpm、摩耗輪CS−17を使用し、ASTM1044規格に準拠して測定した。単位はmg/1000回である。なお、充填剤の分散が悪く凝集していると数値が大きくなり、また充填剤と樹脂成分との密着性が悪いと数値が大きくなる。
表1乃至表3に各試験結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1は、各試料の粘度数および融点の測定結果である。表1において、多価アルコールでの分解処理により粘度数の低下が認められ、すなわち分子量が低下していることがわかる。また、融点は低下傾向を示しており、アルコール成分が共重合成分として取り込まれて、結晶性が低下していることが考えられる。また、アルコール成分が共重合されることにより接着性が向上する要素となっていると推察される。
【0040】
【表2】

【0041】
表2は、接着剤としての評価である軟化温度の測定結果と、木材及び木材より接着性が不良なポリアミド樹脂組成物への接着試験の結果である。なお、凝集破壊は接着剤層が破断したもので、界面破壊は被接着材面と接着剤の界面で破壊したもので、界面破壊は実際には被接着材への接着性が著しく劣っていることを示している。
表2において、試料1及び試料2の粘度数と近いPA−3は木材に対して良好な接着性を示しているが、試料1及び試料2はさらに高い接着性を示しており、接着性が改善されていることが示唆される。特に、ポリアミド樹脂を被接着材としたときにはPA−3では接着性は低いが、試料1及び試料2は良好な接着性を示している。
【0042】
【表3】

【0043】
表3は、樹脂バインダーとしての衝撃強度、テーバー摩耗の測定結果である。表3において、試料1、試料2及びPA−1、PA−2、PA−3の粘度数の違いを考えると試料1及び試料2の衝撃強度は高く、これは充填剤であるタルクとの接着性が良好であることが原因であると推察される。また、テーバー摩耗量から充填剤がよく分散し、樹脂との接着が良好であることから、摩耗量が少ないものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項4に記載された発明は、接着性、衝撃強度、流動性及び耐熱性に優れた低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法と低粘度ポリアミド樹脂組成物を提供可能であり、接着剤や充填剤の樹脂バインダーなどにおいて利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度数が80〜300ml/gの範囲の高粘度ポリアミド樹脂組成物に3価以上の多価アルコールを添加して加熱混練して,粘度数が低下して40〜150ml/gの範囲の低粘度ポリアミド樹脂組成物を生成する工程と、前記低粘度ポリアミド樹脂組成物を冷却する工程と、前記低粘度ポリアミド樹脂組成物を乾燥する工程とを有することを特徴とする低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記高粘度ポリアミド樹脂組成物は脂肪族ポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記高粘度ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、前記多価アルコールを2〜30重量部添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の低粘度ポリアミド樹脂組成物の製造方法によって製造されることを特徴とする低粘度ポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12439(P2012−12439A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148114(P2010−148114)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(304022632)株式会社 イチキン (7)
【Fターム(参考)】