説明

低複屈折性アクリル系共重合体の熱安定化された樹脂組成物

【課題】低複屈折性アクリル系共重合体の熱安定化された樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(ii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、及び(iii)酸無水物繰り返し単位からなる低複屈折性アクリル系共重合体に特定の有機リン系化合物が添加混合された樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低複屈折性アクリル系共重合体の熱安定化された樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、低複屈折性アクリル系共重合体の成形加工時の熱履歴における酸化分解等による熱着色、熱劣化を改良した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸系共重合体は、従来のメタクリル樹脂と同等の優れた機械的性質、耐候性、透明性を保持するとともに、従来のメタクリル樹脂が持ちえなかった優れた耐熱性を有する樹脂として広く知られている。(特許文献1,2)
近年では、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置などのフラットパネルディスプレイや、赤外線センサー、光導波路などの進歩に伴い、透明性に優れるだけでなく光学材料としての光学特性(いわゆる低複屈折性)を有する材料が求められようになってきている。(特許文献3)
【0003】
従来、耐熱性の高いメタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸系共重合体の組成は一般にメタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸=35〜90/5〜35/5〜30重量%(スチレン/無水マレイン酸重量比≧1)であったが、複屈折値は、通常のPMMAよりも大きくなるという欠点があった。(特許文献3、特許文献4)
一方、例えば、自動車用部品としてのテールランプでは、ランプ自体の大型化、照度アップからくる発熱の増加、およびコスト低減に伴う薄肉化の両面から、従来の材料に比較して、より高い耐熱性を有する材料が要求されている。また、自動車、二輪者(オートバイ)のメーターカバー、太陽熱エネルギー利用の温水器カバー等直射日光下で温度が非常に上昇する部品などでも耐熱性の材料が求められている。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−58045号公報
【特許文献2】特開昭55−102614号公報
【特許文献3】特許第2886893号公報
【特許文献4】WO2007/061041号公報
【特許文献5】特開昭60−60150号公報
【特許文献6】特公平6−99610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記共重合体は、通常のメタクリル樹脂(例えば、PMMA)に比べて高温成形では着色しやすいという欠点を有している。即ち、上述した成形品の大型化、薄肉化に伴って、より高温での成形や高温滞留時間が延びることによって成形加工時の熱変色問題が表面化してきている。
熱変色という課題に対し、種々検討が行われ、熱可塑性樹脂の熱着色、熱劣化防止剤として汎用のフェノール系化合物、アミン系化合物、金属せっけん、亜リン酸エステル系化合物、リン酸エステル系化合物、含硫黄化合物を配合しても熱安定性に顕著な効果は得られず、まだこれら化合物の併用も熱着色に充分な効果が得られないこと、唯一、フォスフォフェナンスレン化合物が、熱安定性の改良に効果があることが開示されている。(特許文献6)
本発明は、低複屈折性アクリル系共重合体の熱安定化された樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、耐熱性を有する低複屈折性アクリル系共重合体とある特定の有機リン系化合物からなる樹脂組成物が格段に熱安定性に優れることを見出しなされた。
すなわち本発明は、
[1]下記アクリル系共重合体100重量部に対して、下記一般式(A)で表されるフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種0.01〜2.0重量部を添加混合してなる熱安定化された樹脂組成物。
アクリル系共重合体:
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるアクリル系共重合体。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
フォスファフェナンスレン系化合物:
【0014】
【化5】

【0015】
(但し、式中Rは水素原子、水酸基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基を、RおよびRは各々水素原子、炭素数8以下のアルキル基、または炭素数8以下のアルコキシ基を示す。)
【0016】
[2]下記アクリル系共重合体100重量部に対して、下記一般式(A)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種0.01〜2.0重量部と、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物のうち少なくとも1種0.01〜1.0重量部を添加混合してなる熱安定化された樹脂組成物。
アクリル系共重合体:
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるアクリル系共重合体。
【0017】
【化6】

【0018】
(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0019】
【化7】

【0020】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
フォスファフェナンスレン系化合物:
【0024】
【化10】

【0025】
(但し、式中Rは水素原子、水酸基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基を、RおよびRは各々水素原子、炭素数8以下のアルキル基、または炭素数8以下のアルコキシ基を示す。)
【0026】
[3]アクリル系共重合体が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するアクリル系共重合体からなる[1]又は[2]に記載の熱安定化された樹脂組成物。
【0027】
【化11】

【0028】
(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0029】
[4]アクリル系共重合体が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の熱安定化された樹脂組成物。
[5]アクリル系共重合体が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導されるアクリル系共重合体よりなることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の熱安定化された樹脂組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0030】
特定の有機リン系化合物を添加混合することにより著しく熱安定性が改良され、高温での加熱成形加工時においても優れた着色防止効果を有する低複屈折性アクリル系共重合体の樹脂組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[低複屈折性アクリル系共重合体]
本発明のアクリル系共重合体は、下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるアクリル系共重合体である。
【0032】
【化12】

【0033】
(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0034】
【化13】

【0035】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0039】
さらに好ましいアクリル系共重合体は、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するアクリル系共重合体である。
【0040】
【化16】

【0041】
(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0042】
アクリル系共重合体において、式(1)で表される繰り返し単位は、メタクリル酸、及びメタクリル酸エステル単量体から誘導される。使用されるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル;などが挙げられる。メタクリル酸、及びメタクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらメタクリル酸エステルのうち、アルキル基の炭素数が1〜7であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られたアクリル系共重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0043】
式(1)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性の観点から10〜70質量%、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは40〜70質量%である。
式(2)で表される繰り返し単位は、芳香族ビニル単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0044】
式(2)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性、耐熱性の観点から5〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
式(3)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、無置換及び/又は置換無水マレイン酸から誘導される。使用される単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸などが挙げられる。これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、無水マレイン酸が好ましい。
また、式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、後述する繰り返し単位間での縮合環化反応により誘導され、例えば、無水グルタル酸などが挙げられる。
【0045】
本発明の共重合体(a)において、式(3)又は式(4)であらわされる環状酸無水物繰り返し単位は、空気中の湿気など外的環境により一部加水分解を受け開環する可能性がある。本発明の共重合体(a)では、光学的特性や耐熱性の観点から、その加水分解率は10モル%未満であることが望ましい。さらに5モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましい。
ここで、加水分解率(モル%)は、{1−(加水分解後の環状酸無水物量(モル))/加水分解前の環状酸無水物量(モル)}×100で求められる。
【0046】
式(3)又は式(4)で示される環状酸無水物繰り返し単位の含有割合は、本発明のアクリル系共重合体が高い耐熱性と光学特性(特に、後述する位相差の制御)をより高度に達成するために、20〜50質量%、好ましくは20〜45質量%である。但し、本発明のアクリル系共重合体中、式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と式(3)又は式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)は、好ましくは1より大きく、10以下であり、より好ましくは1より大きく、5以下である。
式(5)で表される繰り返し単位は、芳香族基を有するメタクリレート単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、メタクリル酸ベンジルが特に好ましい。
式(5)で示される繰り返し単位の含有割合は、本発明の効果である光学的特性(特に、光弾性係数を極小化する)を発現させる上で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0047】
本発明の共重合体は、残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計が、共重合体100重量部に対して0.5重量部以下であり、好ましくは0.4重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。残存単量体の合計が、0.5重量部を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱・耐候性が低下するなど実用に適さない成形体が得られ問題である。本発明でいう残存揮発分量とは、先述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副生水、及び副生アルコールの合計量をいう。
本発明のアクリル系共重合体のGPC測定法によるPMMA換算の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜400,000、好ましくは40,000〜300,000、より好ましくは70,000〜200,000であり、その分子量分布(Mw/Mn)は1.8〜3.0、好ましくは1.8〜2.7、より好ましくは1.8〜2.5の範囲である。
本発明のアクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、樹脂組成で任意に制御できるが、産業上の応用性の観点から、好ましくは120℃以上に制御される。より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上に制御される。
【0048】
本発明のアクリル系共重合体の製造法は公知の懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の重合方法を適用して製造でき、特に限定されない。例えば、特公昭63−1964号公報、特開昭60−147417号公報、特許第387964号公報、特開昭61−49325号公報などに記載されている方法等を用いることができる。アクリル系共重合体は、分子量、組成等がことなる2種以上のものを同時に用いることができる。
また、本発明のアクリル系共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/メタアクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリメタアクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、環状オレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を混合することができる。
【0049】
[有機リン化合物]
本発明のフォスファフェナンスレン系化合物は、下記一般式(A)表わされる。
【0050】
【化17】

【0051】
(但し、式中Rは水素原子、水酸基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基を、RおよびRは各々水素原子、炭素数8以下のアルキル基、または炭素数8以下のアルコキシ基を示す。)
【0052】
具体的には、下記に構造式で表される化合物である。
【0053】
【化18】

【0054】
本発明のフォスファフェナンスレン系化合物の添加量は、アクリル系共重合体100重量部に対して0.01〜2.0重量部、より好ましくは0.05〜1.0重量部である。
フォスファフェナンスレン系化合物が、0.01重量部未満では熱安定化効果は認められず、また2.0重量部を越えた時は着色防止効果は良好であるが熱変形温度が低下し好ましくない。
また本発明は前記アクリル系共重合体100重量部に対して、一般式(A)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種0.01〜2.0重量部と、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物のうち少なくとも1種0.01〜1.0重量部を添加混合してなる熱安定化されたメタクリル共重合体樹脂組成物である。
【0055】
本発明のこれらフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種類とヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物のうち少なくとも1種とを組み合せることによりフォスファフェナンスレン系化合物単独と同等あるいはそれ以上の効果が発揮される。
一方、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物あるいは亜リン酸エステル系化合物単独では全く効果がみられない。
ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,2‘−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1−ビス−(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)3,5,5−トリメチルヘキサン、テトラキス−〔メチレン−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)、メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート、4,4’−メチレンビス−(2−t−ブチル−6−メチルフェノール)、4,4‘−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−5−t−ブチルフェノール)などが挙げられる。
【0056】
チオジプロピオン酸系化合物の具体例としては、ジオクチルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
また、亜リン酸エステル系化合物の具体例としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイトなどが挙げられる。
これらのヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物はフォスファフェナンスレン系化合物と併用することで効果を発現する。
【0057】
併用する場合、アクリル系共重合体100重量部、フォスファフェナンスレン系化合物0.01〜2.0重量部、より好ましくは0.05〜1.0重量部に対対し、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物のうち1種もしくは2種以上の組合せで0.01〜1.0重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部である。1.0重量部を越えると熱変形温度が低下するとともに、アクリル系共重合体の熱着色、熱劣化に対して効果さは保持されるが、添加剤自体による着色が増加し好ましくない。
また、限定されることはないがフォスファフェナンスレン系化合物の併添加量は、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物あるいは亜リン酸エステル系化合物の添加量より多い方が好ましい。
【0058】
本発明のアクリル系共重合体は、必要に応じて公知の色剤、紫外線吸収剤・酸化防止剤等の安定剤、各種添加剤を使用してもよい。例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
また本発明の組成物を得る方法は特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサーでアクリル系共重合体と添加剤を混合し、押出機を用いて溶融混練してペレットとする方法、あるいは展着剤等を用いてアクリル系共重合体のペレットに添加剤をまぶす方法等如何なる方法によっても混合することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
本願発明に用いられる各測定値の測定方法は次のとおりである。
(a)アクリル系共重合体の解析
(1)繰り返し単位
H−NMR測定より、(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(ii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、(iii)芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位、及び(iv)酸無水物繰り返し単位を同定し、その存在量を算出した。
測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX−400
測定溶媒:CDCl、又はd−DMSO
測定温度:40℃
【0060】
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
(3)分子量
重量平均分子量、及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販標準PMMA換算により求めた。
【0061】
(b)光学特性評価
(1)光学フィルムサンプルの作製
(a)プレスフィルムの成型
真空圧縮成型機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)を用いて、大気圧下、260℃、で25分間予熱後、真空下(約10kPa)、260℃、約10MPaで5分間圧縮してプレスフィルムを成型した。
(b)延伸フィルムの成型
インストロン社製5t引張り試験機を用いて、延伸温度(Tg+20)℃、延伸速度(500mm/分)で一軸フリー延伸して延伸フィルムを成形した。延伸倍率は、100%、200%、及び300%で延伸した。
(2)複屈折の測定
大塚電子製RETS-100を用いて、回転検光子法により測定を行った。複屈折の値は、波長550nm光の値である。複屈折(Δn)は、以下の式により計算した。
Δn=nx-ny
(Δn:複屈折、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な屈折率)
複屈折(Δn)の絶対値(|Δn|)は、以下のように求めた。
|Δn|=|nx-ny|
【0062】
(3)位相差の測定
<面内の位相差>
大塚電子(株)製RETS-100を用いて、回転検光子法により波長400〜800nmの範囲について測定を行った。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Re)は以下の関係にある。
Re=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Re:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|nx-ny|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率)
【0063】
<厚み方向の位相差>
王子計測機器(株)製位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用いて、波長589nmにおける位相差を測定し、得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して測定値とした。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Rth)は以下の関係にある。
Rth=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Rth:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|(nx+ny)/2-nz|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率、nz:面外で延伸方向と垂直な厚み方向の屈折率)
(理想となる、3次元方向について完全等方的等方性であるフィルムでは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)ともに0となる。)
【0064】
(4)光弾性係数の測定
Polymer Engineering and Science1999,39,2349−2357に詳細について記載のある複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)、試験片幅は6mmで測定を行った。複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め光弾性係数(C)を計算した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σ≦10MPaの間のデータを用いた。
=|Δn|/σ
|Δn|=|nx-ny|
(C:光弾性係数、σ:伸張応力、|Δn|:複屈折の絶対値、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向の垂直な屈折率)
【0065】
(c)樹脂組成物の評価
(1)熱着色の尺度
ハンターの測色色差計により測定したb値を用いた。
(2)全光線透過率およびヘイズ
ASTMD1003準拠
(3)熱変形温度
ASTMD648準拠
(4)メルトフローインデックス
ASTMD1238準拠
[低複屈折性アクリル系共重合体]
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸
【0066】
[合成例1]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0067】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするアクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/MAH=61/11/27wt%
分子量:Mw=19.5×10;Mw/Mn=2.23
Tg:141℃
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸/メタクリル酸ベンジル
【0068】
[合成例2]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)9.6g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0069】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするアクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAH=61/12/1/27wt%
分子量:Mw=18.8×10;Mw/Mn=2.08
Tg:142℃
【0070】
[合成例3]
合成例2において、メタクリル酸メチル499g、スチレン42g、メタクリル酸ベンジル48g、無水マレイン酸371gに変更した以外は、合成例2と同様の操作を行ってアクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAH=60/11/5/24wt%
分子量:Mw=20.2×10;Mw/Mn=2.36
Tg:138℃
メタクリル酸メチル/スチレン/メタクリル酸/無水グルタル酸
【0071】
[合成例4]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル900g、スチレン36g、メタクリル酸ベンジル48g、メタクリル酸(MAA)216g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0072】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して前駆体を得た。該前駆体を脱揮装置を附帯したラボプラストミルで加熱処理(処理温度:250℃、真空度:133hPa(100mmHg))して目的とするアクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAA/無水グルタル酸
=70/5/4/4/21wt%
分子量:Mw=11.4×10;Mw/Mn=2.40
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0073】
[比較合成例1]
合成例1において、メタクリル酸メチル960gを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行って熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA=100wt%
分子量:Mw=10×10;Mw/Mn=1.89
Tg:121℃
【0074】
[比較合成例2]
合成例1において、メタクリル酸ベンジルを用いることなく、メタクリル酸メチル768g、スチレン144g、無水マレイン酸48gに変更した以外は、合成例1と同様の操作を行って熱可塑性樹脂を得た。
組成:MMA/St/MAH=76/17/7wt%
分子量:Mw=13.4×10;Mw/Mn=2.01
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0075】
[評価例1〜4、比較評価例1,2]
合成例1〜4、及び比較合成例1、2で得られたアクリル系共重合体を用いて、前述の方法に従いプレスフィルムを成型した。該プレスフィルムから前述の方法に従い100%延伸フィルムを成型し、その光学特性を評価した。測定結果を表2に示す。
本発明の低複屈折性アクリル系共重合体は、従来のメタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸共重合体(比較合成例2)と異なり、複屈折値が極小化されており、耐熱性も高いことが判る。
[樹脂組成物]
低複屈折性アクリル系京重合体と特定の有機リン化合物との樹脂組成物の熱安定性を評価した。
【0076】
[実施例1]
アクリル系共重合体(合成例1)100部および(A−1)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物0.5部をヘンシェルミキサーで混合した後、40φの押出機を用いシリンダー温度230℃で溶融混練しペレットを得た。次いで、射出成形機を用いシリンダー温度230℃で射出成形した。
【0077】
[比較例1]
フォスファフェナンスレン系化合部(A−1)を除いた以外、実施例1と全く同様にしてアクリル系共重合体(合成例1)を射出成形した。
【0078】
[実施例2]
アクリル系共重合体(合成例2)100部および(A−4)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物1.0部をヘンシェルミキサーで混合した後、40φの押出機を用いシリンダー温度230℃で溶融混合しペレットを得た。次いで、射出成形機を用いシリンダー温度230℃で射出成形した。
【0079】
[比較例2]
フォスファフェナンスレン系化合部(A−4)を除いた以外、実施例2と全く同様にしてアクリル系共重合体(合成例2)を射出成形した。
【0080】
[実施例3]
アクリル系共重合体(合成例3)100部および(A−8)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物0.2部をヘンシェルミキサーで混合した後、40φの押出機を用いシリンダー温度230℃で溶融混練しペレットを得た。次いで、射出成形機を用いシリンダー温度230℃で射出成形した。
【0081】
[比較例3]
フォスファフェナンスレン系化合部(A−8)を除いた以外、実施例3と全く同様にしてアクリル系共重合体(合成例3)を射出成形した。
【0082】
[実施例4]
アクリル系共重合体(合成例4)100部および(A−8)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物0.2部をヘンシェルミキサーで混合した後、40φの押出機を用いシリンダー温度230℃で溶融混練しペレットを得た。次いで、射出成形機を用いシリンダー温度230℃で射出成形した。
【0083】
[比較例4]
フォスファフェナンスレン系化合部(A−8)を除いた以外、実施例4と全く同様にしてアクリル系共重合体(合成例4)を射出成形した。
これらの熱安定性評価結果を表3に示す。
【0084】
[実施例5〜9]
合成例1と同一のアクリル系共重合体100重量部に対して、フォスファフェナンスレン系化合物の種類、添加量、ならびにヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物、および亜リン酸エステル系化合物の種類、添加量を種々変化させてヘンシェルミキサーで混合した後、実施例1と同様の方法によりペレット化、射出成形を行ない成形片を得た。
これらの熱安定性評価結果を表4に示す。
【0085】
[比較例5〜14]
合成例1と同一のメタクリル共重合体100部に対して、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物、亜リン酸エステル系化合物およびその他熱可塑性樹脂の熱安定剤として汎用の添加剤を用い、実施例1と同様の方法によりペレット化、射出成形して成形片を得た。
これらの熱安定性評価結果を表5に示す。
成形品の外観がよいものを○、外観が悪いものを×で表している。本発明の低複屈折性アクリル系共重合体と特定の有機リン化合物との樹脂組成物が熱安定性に優れていることが判る。
【0086】
なお、表3〜表5で用いている添加剤はそれぞれ以下の略号で表わされている。
(B−1) 2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
(B−2) 2,2‘−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)
(B−3) テトラキス−〔メチレン−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン
(B−4) 4,4‘−チオビス−(2−t−ブチル−6−メチルフェノール)
(C−1) ジラルリルチオジプロピオネート
(C−2) ジステアリルチオジプロピオネート
(D−1) トリフェニルホスファイト
(D−2) ジフェニルイソデシルホスファイト
(E−1) ジ−t−ドデシルジスルフィド
(E−2) ジオクチルスズジラウレート
(E−3) ステアリン酸カルシウム
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0092】
成形加工時による着色変化のない低複屈折性アクリル系共重合体の樹脂組成物は、光学材料として、光学フィルム、プラスチック基板、レンズ、光ファイバー、光導波路などに好適である。また、車両用ランプレンズ、メーターパネル、バイザー、照明カバーなどの射出成形体にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アクリル系共重合体100重量部に対して、下記一般式(A)で表されるフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種0.01〜2.0重量部を添加混合してなる熱安定化された樹脂組成物。
アクリル系共重合体:
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるアクリル系共重合体。
【化1】

(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【化2】

(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【化3】

【化4】

(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
フォスファフェナンスレン系化合物:
【化5】

(但し、式中Rは水素原子、水酸基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基を、RおよびRは各々水素原子、炭素数8以下のアルキル基、または炭素数8以下のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
下記アクリル系共重合体100重量部に対して、下記一般式(A)で表わされるフォスファフェナンスレン系化合物の少なくとも1種0.01〜2.0重量部と、ヒンダードフェノール系化合物、チオジプロピオン酸系化合物および亜リン酸エステル系化合物のうち少なくとも1種0.01〜1.0重量部を添加混合してなる熱安定化された樹脂組成物。
アクリル系共重合体:
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるアクリル系共重合体。
【化6】

(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【化7】

(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【化8】

【化9】

(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
フォスファフェナンスレン系化合物:
【化10】

(但し、式中Rは水素原子、水酸基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基を、RおよびRは各々水素原子、炭素数8以下のアルキル基、または炭素数8以下のアルコキシ基を示す。)
【請求項3】
アクリル系共重合体が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するアクリル系共重合体からなる請求項1又は2に記載の熱安定化された樹脂組成物。
【化11】

(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項4】
アクリル系共重合体が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱安定化された樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系共重合体が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導されるアクリル系共重合体よりなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱安定化された樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−1526(P2011−1526A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147937(P2009−147937)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】