説明

低誘電性ポリエステル樹脂、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ及びフレキシブルフラットケーブル

【課題】低誘電性ポリエステル樹脂、高い難燃性を有するとともに低誘電率であるフラットケーブル用絶縁テープ、及び、このフラットケーブル用絶縁テープを用いて製造されるフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】イソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体を含有する酸成分と、2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有するポリオール成分とを共重合してなることを特徴とする低誘電性ポリエステル樹脂、絶縁層及び難燃性接着剤層を有し、前記難燃性接着剤層のベース樹脂が、前記低誘電率ポリエステル樹脂を主体とすることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ、並びに、並列に配置した導体を、前記のフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層で挟持して作製されたことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れるとともに誘電率が低く、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの構成材料として好適に用いられる低誘電性ポリエステル樹脂に関する。本発明は、又、この低誘電性ポリエステル樹脂を構成材料とした低誘電率のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ、及び、この絶縁テープを用いるフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ、液晶表示装置、携帯電話、プリンター、自動車、家電製品、複写機、その他等の各種の電気器具製品においては、機器内配線の複雑化に対応して、配線作業の省力化や誤配線防止のために、フレキシブルフラットケーブルが広く使用されてきている。
【0003】
このフレキシブルフラットケーブルは、一般に、テープ状の基材(絶縁層)に接着剤層を積層した絶縁テープを作製し、2枚の絶縁テープの接着剤層間に複数本の導体を並列させて挟持し、接着剤層同士を重ね合わせて熱融着することにより製造される。すなわち、フレキシブルフラットケーブルは、図2で示されるように、(2枚のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層3−1及び3−2を重ね合わせて形成された)接着剤層3内に導体4を含み、かつケーブルの外側の両面に絶縁層1が設けられた構造を有する。又、必要により、絶縁層や接着剤層間に、密着性の向上等の目的で、アンカーコート層2、例えば架橋された樹脂等により構成された層が設けられている。
【0004】
フレキシブルフラットケーブルには難燃性が求められることも多い。そこで、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープには難燃化剤が添加されることが多い。特に、耐熱性の点から、絶縁層や接着剤層を構成する樹脂として広く用いられているポリエステル系樹脂は難燃性に欠けるので、絶縁層や接着剤層を構成する樹脂組成物中に大量の難燃化剤を添加して難燃性を付与する方法が広く行われている。
【0005】
又、フレキシブルフラットケーブルの誘電率が高くなると導体間の静電容量が増加し、特性インピーダンスが低下するため高速伝送特性が低下する。この問題は、伝送信号が高周波化するほど顕著である。そこで、フレキシブルフラットケーブルの低誘電率化が望まれている。近年、携帯電話等では、使用される伝送信号が高周波化されているので、フレキシブルフラットケーブルの低誘電率化への要請も高くなってきており、低誘電率化のため種々の方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1や特許文献2においては、発泡フィルムを絶縁層としたフレキシブルフラットケーブルの適用が提案されている。又、特許文献3では、発泡フィルムを絶縁層としたフレキシブルフラットケーブルの製造に用いられるフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ及びその製法が開示されている。これらは、絶縁層の内部に空洞を含有させることによりフレキシブルフラットケーブルの誘電率を低下させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4120894号公報
【特許文献2】特開2003−31033号公報
【特許文献3】特開2008−251261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3等に記載されている発泡フィルムを絶縁層としたフレキシブルフラットケーブルは、誘電率を所望の値とすることが困難との問題があり、又、絶縁層が発泡構造となると強度が低下する問題があった。そこで、発泡フィルムを用いる方法や絶縁層の発泡等の方法によらずに得られる、誘電率が低い(高速伝送特性が優れた)フレキシブルフラットケーブル、及びその構成材料として使用することができる材料の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、低誘電率でありフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの構成材料として使用できる低誘電性ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。本発明は、又、高い難燃性を有するとともに低誘電率であるフラットケーブル用絶縁テープを提供することを目的とする。本発明は、さらに、このフラットケーブル用絶縁テープを用いて製造され、高い難燃性及び優れた高速伝送特性を有するフレキシブルフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、特定のフタル酸系化合物を含有する酸成分と、2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有するポリオール成分とを共重合して得られる新規ポリエステル樹脂が、低誘電率であり、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層の構成材料として用いられることを見出した。本発明者は、又、この新規ポリエステル樹脂をベース樹脂とするとともに難燃剤を加えて接着剤層を形成することにより、高い難燃性を有しかつ低誘電率であるフラットケーブル用絶縁テープが得られることを見出した。そして、このフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープは、低誘電率を有すること、従って、この絶縁テープを用いることにより、難燃性かつ優れた高速伝送特性を有するフレキシブルフラットケーブルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
請求項1の発明は、イソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体を含有する酸成分と2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有するポリオール成分とを共重合してなることを特徴とする低誘電性ポリエステル樹脂である。
【0012】
この新規なポリエステル樹脂は、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープを構成する接着剤層のベース樹脂として用いられるものであり、かつ誘電率が3.6以下と低いものである。従って、このポリエステル樹脂に難燃剤を加えて接着剤層を形成することにより、高い難燃性を有するとともに低誘電率であるフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープが得られる。
【0013】
なお、低誘電率のポリエステル樹脂は、特許第3232817号公報等で開示されている。さらに、「液晶ポリエステル樹脂組成物及び電子部品用成形品」に関わる特開2007−154169号公報には、液晶ポリエステルの低誘電率化が、「樹脂混合物、電気絶縁用樹脂組成物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法」に関わる特開2008−266383号公報には、キシレン樹脂によるポリエステルの低誘電率化が開示されている。しかし、これらのポリエステル樹脂は、前記の本発明の低誘電性ポリエステル樹脂とは異なるものである。又、これらのポリエステル樹脂を難燃性フラットケーブル用絶縁テープの接着剤層に用いることについては開示されていない。さらに、難燃性の接着剤層を構成するベース樹脂の低誘電率化による難燃性フラットケーブル用絶縁テープの低誘電率化が検討された例も開示されていない。
【0014】
ポリエステル樹脂は、カルボキシル基を2つ有する酸よりなる酸成分と、水酸基を2つ以上有するポリオール成分の縮合反応により得られる高分子であるが、本発明の低誘電性ポリエステル樹脂を構成する酸成分は、イソフタル酸、イソフタル酸誘導体、又はイソフタル酸とイソフタル酸誘導体の混合物を含有するものである。イソフタル酸誘導体とは、イソフタル酸のエステル、ハライド、塩等が含まれ、ポリオール成分と反応してポリエステル樹脂を形成できるものを言う。
【0015】
本発明の低誘電性ポリエステル樹脂は、それを構成するポリオール成分が、2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有することを特徴とする。ポリオール成分が2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールを含有することにより、1kHzの誘電率が3.6以下のポリエステル樹脂を容易に得ることができる。又、直鎖アルキレングリコールを含有することにより、重縮合反応を円滑に行うことができるようになる。
【0016】
2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールとしては、2,2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、及び2,2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上が好ましく用いられる。これらを用いることにより、ポリエステル樹脂の低誘電率化をより容易に実現することができる。直鎖アルキレングリコールとしては、通常、沸点が250℃以下、特に230℃以下のものが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタングリコール等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上が好ましく用いられる。
【0017】
請求項2の発明は、酸成分として、更にテレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体を含有することを特徴とする請求項1に記載の低誘電性ポリエステル樹脂である。この低誘電性ポリエステル樹脂を構成する酸成分は、イソフタル酸、イソフタル酸誘導体、又はイソフタル酸とイソフタル酸誘導体の混合物とともに、テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、又はテレフタル酸とテレフタル酸誘導体の混合物を含有する。テレフタル酸誘導体とは、テレフタル酸のエステル、ハライド、塩等が含まれ、ポリオール成分と反応してポリエステル樹脂を形成できるものを言う。
【0018】
請求項3に記載の発明は、酸成分中におけるイソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体の含有割合が10〜100モル%、テレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体の含有割合が0〜90モル%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低誘電性ポリエステル樹脂である。
【0019】
酸成分中に、イソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導に加えてテレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体を含有させることにより、得られるポリエステル樹脂の溶剤への溶解性が向上し、接着剤の作製が容易になる。従って、テレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体の含有割合は、より好ましくは30モル%以上である。一方、テレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体の含有割合が90モル%を超える場合は、溶剤に対する溶解性が低下する傾向がある。
【0020】
請求項4に記載の発明は、ポリオール成分中における2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールの含有割合が10〜95モル%、直鎖アルキレングリコールの含有割合が5〜90モル%であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂である。ポリオール成分中における2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールが上記範囲より少なすぎて直鎖アルキレングリコールが上記範囲より多すぎる場合は、誘電率が高くなる傾向があり、2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールが上記範囲より多すぎて直鎖アルキレングリコールが上記範囲より少なすぎる場合は、重縮合反応がしにくく分子量が上がらない傾向がある。
【0021】
請求項5に記載の発明は、直鎖アルキレングリコールが、エチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂である。直鎖アルキレングリコールとしては、特に、エチレングリコールが好ましく用いられる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、絶縁層及び難燃性接着剤層を有し、前記難燃性接着剤層のベース樹脂が、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂を主体とすることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープである。
【0023】
難燃性接着剤層は、樹脂及び難燃剤(必要により、フィラー等の他の組成)を混合して構成される。この難燃性接着剤層を構成する樹脂がベース樹脂である。このフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープは、難燃性接着剤層のベース樹脂が低誘電率のポリエステル樹脂により形成されているので、難燃性が付与されたフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープとして低い誘電率を有するものであり、この絶縁テープを用いて、難燃性を有しながらも優れた高速伝送特性を有するフレキシブルフラットケーブルを製造することができる。
【0024】
具体的には、従来品のポリエステル樹脂を主体とするフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープは、発泡を行わない限り、1kHzの誘電率が約3.8程度以上であったが、この絶縁テープでは3.6以下であり従来品よりも低減されている。従って、この絶縁テープを用いて製造されるフレキシブルフラットケーブルの特性インピーダンスを向上させることができ、高周波伝送特性を向上させることができる。なお、「低誘電性ポリエステル樹脂を主体とする」とは、ベース樹脂が、前記の低誘電性ポリエステル樹脂を50重量%以上、好ましくは80重量%以上含むが、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂成分を含んでいてもよいことを意味する。
【0025】
一般的にポリエステル樹脂は、1kHzの誘電率が3.8〜4.1であり、オレフィン系樹脂(誘電率2.2〜2.8程度)等と比較的して誘電率が高い。さらに、難燃性を付与するために各種難燃剤を添加すると誘電率が高くなる傾向にある。そこで、ポリエステル樹脂を用いて絶縁層や接着剤層のベース樹脂を形成し、難燃性のフラットケーブル用絶縁テープを製造する場合、そのテープの1kHzの誘電率を3.0以上、3.6以下とするためには、樹脂の発泡等を行わない限り困難と考えられていた。
【0026】
しかし、本発明者は、前記の低誘電性ポリエステル樹脂を開発するとともに、この低誘電性ポリエステル樹脂をベース樹脂として用い、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ全体の誘電率を低減させたのである。すなわち、ベース樹脂を、1kHzの誘電率が3.6以下のポリエステル樹脂を主体として難燃性接着剤層を形成することにより、1kHzの誘電率が3.6以下であるフラットケーブル用絶縁テープが得られるのである。
【0027】
請求項7の発明は、前記難燃性接着剤層が、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤からなる群から選ばれた少なくとも1つの難燃剤を含有することを特徴とする請求項6に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープである。接着剤層を構成する難燃剤としては、従来、ポリエステルベースの接着剤に使用されている難燃剤、すなわちリン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤から選ばれる難燃剤を用いることができる。
【0028】
請求項8の発明は、前記接着剤層の含有される難燃剤が、リン系難燃剤であることを特徴とする請求項7に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープである。前記の難燃剤の中でも、リン系難燃剤は、環境負荷も比較的小さく、又、絶縁テープの誘電率を上げる影響も小さいので、好ましい。一方、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤は、環境負荷が大きい問題がある。又、窒素系難燃剤は、添加量を増大させると誘電率が上がるとの問題がある。
【0029】
本発明は、前記のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープに加えて、これらを用いて製造されたフレキシブルフラットケーブルを提供する。すなわち、並列に配置した導体を、請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層で挟持して作製されたことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル(請求項9)である。このフレキシブルフラットケーブルは、難燃性であり低誘電率のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープにより形成されているので、難燃性かつ低誘電率であり、その結果、特性インピーダンスが向上されたものである。このフレキシブルフラットケーブルの誘電率、特性インピーダンスは、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層を構成するポリエステル樹脂の誘電率を調整することで制御が可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の低誘電性ポリエステル樹脂は、誘電率が低く、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープを構成する絶縁層のベース樹脂として好適に用いられるものである。本発明のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープは、高い難燃性を有するとともに低誘電率である。そして、このフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープを用いて製造されるフレキシブルフラットケーブルは、高い難燃性及び優れた特性インピーダンスを示し優れた高速伝送特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明を実施するための形態を説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態への変更も可能である。
【0032】
本発明の低誘電性ポリエステル樹脂は、イソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体(場合によりさらにテレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体)を含有する酸成分と、2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有するポリオール成分とを、共重合して得られる。共重合の条件は、後述の実施例1〜3で示すカルボン酸成分とジオール成分を触媒の存在下、公知の方法により先ずエステル化反応を行い、さらに重縮合反応させることにより得られる。
かかるエステル化反応においては、触媒が用いられ、具体的には、酸化リチウム、リチウムメチラート、リチウムエチラート、リチウムグリコレート、酢酸リチウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、ナトリウムグリコレート、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属化合物、酸化亜鉛、ギ酸亜鉛、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、亜鉛グリコレート、安息香酸亜鉛、カプロン酸亜鉛、酪酸亜鉛、吉草酸亜鉛、亜アンチモン酸亜鉛、亜ゲルマン酸亜鉛、ゲルマン酸亜鉛等の亜鉛化合物、酢酸マンガン、クエン酸マンガン、ホウ酸マンガン、マンガングリコレート、亜アンチモン酸マンガン等のマンガン化合物、ギ酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、ヒドロキシ安息香酸コバルト等のコバルト化合物、安息香酸カルシウム、酢酸カルシウム、マロン酸カルシウム、アジピン酸カルシウム、酢酸ストリンチウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム、シュウ酸チタニルストロンチウム、酒石酸チタニルカリウム、酒石酸チタニルアンモニウム、チタングリコレート、チタンアセチルアセテート等のチタン化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモングリコレート、アンチモンアルコラート、酢酸アンチモン、アンチモンフェノレート等のアンチモン化合物、ゲルマニウムアルコレート、ゲルマニウムフェノレート、ゲルマン酸カルウム、ゲルマン酸ナトリウム、ゲルマン酸カルシウム、ゲルマン酸カリウム、ゲルマン酸タリウム、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、ジメチルスズマレエート、ジブチルスズオキサイド、ヒドロキシブチルスズオキサイド、モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)等のスズ化合物等が挙げられ、これらは単独で又は併用して用いられる。これらの中でも、触媒の活性が高い点から、チタン化合物、アンチモン化合物が好ましく、特にテトラブチルチタネート、三酸化アンチモンが好ましい。
該触媒の配合量は、全共重合成分に対して1〜10000ppmであることが好ましく、10〜5000ppmであることがより好ましく、10〜3000ppmであることがさらに好ましい。触媒の配合量が少なすぎると重合反応が充分に進行しない傾向があり、逆に多すぎると反応時間短縮等の利点はなくなり副反応が起こりやすくなる傾向がある。
エステル化反応時の温度については、160〜260℃が好ましく、180〜250℃がより好ましく、200〜250℃がさらに好ましい。温度が低すぎると反応が充分に進まない傾向があり、逆に高すぎると分解等の副反応が起こる傾向がある。又、圧力は通常、常圧下で実施される。
エステル化反応が行われた後縮合反応が行われるが、このときの条件としては、上記のエステル化のときと同様の触媒をさらに同程度の量添加することが好ましい。又、反応温度としては好ましくは220〜260℃、より好ましくは240〜260℃にして、反応系を徐々に減圧して最終的には5hPa以下で反応させることが好ましい。反応温度が低すぎると反応が充分に進行しない傾向があり、逆に高すぎると分解等の副反応が起こる傾向がある。
低誘電性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000〜50000(末端基法による測定)が好ましく、特に12000〜45000、さらに15000〜40000であることが好ましい。数平均分子量が小さすぎると凝集力が低下し接着性が低下する傾向があり、大きすぎる熱圧着時に接着剤の流動性が低下し接着性が低下する傾向にある。
イソフタル酸とテレフタル酸以外に加えても良いモノマーとしては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸及びこれらのアルキルエステル誘導体、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸及びこれらのアルキルエステル誘導体、シクロブタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びこれらのアルキルエステル誘導体等を挙げることができ、これらのカルボン酸成分を、本発明の特性を損なわない範囲で共重合してもよい。
他に加えて良いジオール成分としては、例えば、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、スピログリコール等の脂環族グリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の脂肪族多価アルコールや、ε−カプロラクトン、γ−プチロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸等を挙げることができ、これらのアルコール成分を、本発明の特性を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0033】
図1は、本発明のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの構造を表す模式断面図である。図中、1は絶縁層を、2はアンカーコート層を、3は接着剤層を表す。図1が示すようにこれらは積層して形成されている。
【0034】
絶縁層1を構成する材料としては、機械的強度、寸法安定性等に優れ、かつ、耐熱性、可撓性、耐薬品性、耐溶剤性、屈曲性、絶縁性等に富む樹脂が好適に使用でき、中でも、ポリエステル系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−トを挙げることができる。又、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6等のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等も用いることができる。
【0035】
絶縁層1は、未延伸、あるいは一軸方向又は二軸方向に延伸のいずれでもよく、その厚さは、その表面に接着剤層等を積層する工程の作業性、コスト等より、5〜100μm程度が好ましく、9〜50μm程度がより好ましく、更に好ましくは9〜20μm程度である。又、絶縁層1の表面には、必要に応じて、コロナ処理、ブラズマ処理、オゾン処理、その他等の前処理等を任意に施すことができる。
【0036】
一般に、フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層を構成する材料としては、導体との密接着性に優れていると共に、埋め込み後は、導体との間に空隙等を発生しないものが好ましい。更に、フレキシブルフラットケ−ブルが使用される全ての環境下において、柔軟性、折り曲げ性、耐熱性、難燃性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性、その他の諸特性に優れた性能を有するものが好ましい。接着剤層3を構成する材料として、前記の低誘電性ポリエステル樹脂は、これらの要請も満たすものである。
【0037】
接着剤層3を構成する材料には、さらに難燃剤以外のフィラ−成分が含まれていてもよい。フィラ−成分としては、例えば、ポリアミド系ワックス類、シリカ微粒子、タルク、炭酸カルシウム、有機顔料、酸化チタン等の無機顔料、カ−ボン、ワックス類、その他等を挙げることができる。難燃剤として好適なリン系難燃剤としては、赤燐、リン酸系難燃剤等を挙げることができる。
【0038】
絶縁層1と接着剤層3の間に設けられるアンカーコート層2は、絶縁層1と接着剤層3との密着力を向上させ、その層間剥離等を抑制するとともに、熱接着加工速度を向上させ、又、耐熱接着性を向上させる等の目的で設けられる。なお、アンカーコート層2は必要により設けられるものであり、本発明の必須の構成ではない。
【0039】
アンカーコート層2を構成する樹脂組成物としては、例えば、ポリエステル系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂にイソシアナート基を2個以上有する化合物を混合した架橋性の樹脂を挙げることができ、この樹脂をエージング処理等により架橋して用いることができる。
【0040】
図1に示される本発明のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープは、絶縁層1の片面に、アンカーコート層2、接着剤層3を積層して得られる。積層の方法としては、絶縁層1の片面に、アンカーコート層2、接着剤層3の順で積層する方法、多軸の溶融押出機を用いて、絶縁層1上に、アンカーコート層2、接着剤層3を同時に押し出して、一体成形する方法を挙げることができる。
【0041】
接着剤層3の厚さは、15〜100μm程度が好ましく、20〜40μm程度がより好ましい。接着剤層3は、例えば、その構成成分を溶媒に溶解又は分散した後、絶縁層1上(又はアンカーコート層2上)に塗布し、溶媒を揮発させる方法により形成することができる。
【0042】
図2は、本発明のフレキシブルフラットケーブルの構造を表す模式断面図である。図2で示されるフレキシブルフラットケーブルは、図1の難燃性フラットケーブル用絶縁テープの2枚を各々の接着剤層3の面が対向するように配置し、その層間に、金属等の導体4を介在させた後、加熱ロ−ルあるいは加熱板等を用いて加熱加圧し、接着剤層3を軟化、溶融させて接着剤層3と導体4とを密接着させると共に、導体4を接着剤層3中に埋め込み、さらに、接着剤層3を相互に自己密接着させて導体4との間に空隙等の発生を防止しながら一体化することにより得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例並びに比較例を挙げて、本発明を具体的に、より詳しく説明する。
【0044】
実施例1 ポリエステル樹脂1の製造
攪拌機、精留塔、窒素導入管及び真空装置の付いた反応缶に、テレフタル酸185.9部、イソフタル酸185.9部、エチレングリコ−ル69.5部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール358.7部、触媒としてテトラブチルチタネート0.20部を仕込み、250℃まで除々に内温を上げ、4時間かけてエステル化反応を行った。その後、内温を260℃まで上げ、触媒としてテトラブチルチタネート0.20部仕込み、1hPaまで減圧し、3時間かけて重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂1を得た。
【0045】
実施例2 ポリエステル樹脂2の製造
組成を、テレフタル酸202.6部、イソフタル酸202.6部、エチレングリコール75.7部、1,6−ヘキサンジオール201.8部、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール117.3部に変更した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステル樹脂2を得た。
【0046】
実施例3 ポリエステル樹脂3の製造
組成を、テレフタル酸281.4部、イソフタル酸41.5部、セバシン酸168.5部、エチレングリコール120.6部、ネオペンチルグリコール188.0部に変更した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステル樹脂3を得た。
【0047】
[ポリエステル樹脂1、2、3中の各組成のモル比]
実施例1〜3で得られたポリエステル樹脂1、2、3のそれぞれを、d−クロロホルムに溶解後、バリヤン社製200MHz−NMRでNMR測定を行い、その測定結果より各組成のモル比を求めた。またポリエステル樹脂の数平均分子量は、末端基法により酸価と水酸基価より計算した。その結果を表1に示す。
【0048】
実施例1〜3で得られたポリエステル1、2、3のそれぞれから、1ミリメートル厚のプレスシートを作製し、得られたプレスシートのそれぞれについて、ASTM標準D150−98で規定された方法により1kHzでの誘電率を測定し、その結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示す結果より明らかなように、ジオール成分としてエチレングリコール及びネオペンチルグリコールを用いたポリエステル3(従来のポリエステル)では1kHzでの誘電率は3.8になるのに対して、ジオール成分として2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを含有するものを用いたポリエステル1では3.1、ポリエステル2では3.5であり、誘電率が3.6以下のものが得られた。
【0051】
実施例4〜7、比較例
フレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ及びフレキシブルフラットケーブルの作製
1.接着剤配合(低誘電率接着剤)の作製
前記のようにして得られたポリエステル1、2、3のそれぞれ100重量部を、トルエン/メチルエチルケトン(重量比4/1)混合溶媒230重量部に溶解し、ポリエステル樹脂溶液を作製した。このポリエステル樹脂溶液のそれぞれに、表2に示す組成(固形分に関する重量比)で難燃剤、老化防止剤を添加し接着剤配合とした。なお、難燃剤は接着剤に難燃性を付与するために添加している。又、老化防止剤は高温環境下でのポリエステルの分解防止のために添加している。
【0052】
この配合を、ペイントシェーカーで混合することで接着剤を作製した。接着剤の溶媒を揮発させ、1ミリメートル接着剤シートにプレス成型させたサンプルについて前記と同様にして誘電率測定(1kHz)を行った。その結果を表2示す。ポリエステル3を用いた比較例は誘電率3.8と高いが、ポリエステル1又はポリエステル2を用いた実施例4〜7では誘電率は3.6以下であった。
【0053】
2.絶縁テープの試作
厚み3μmのアンカーコートを塗布した厚み12μmのPETフィルム(三菱樹脂社製ダイヤホイル)上に、前記の接着剤配合を塗工してフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープを作製した。塗工にはドクターブレードを用い、乾燥後の接着剤厚が30μmとなるようにした。このようにして得られた絶縁テープについて前記と同様にして誘電率測定(1kHz)を行った。その結果を表2示す。
【0054】
3.フレキシブルフラットケーブルの作製
得られたフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ2枚の間に、0.5mmピッチで10本の厚さ35μm×幅0.3mmの平型軟銅導体を並列して挟み込み、130℃の熱ロールを通すことでこれをラミネート一体化させてフレキシブルフラットケーブルとした。得られたケーブルの高速伝送特性を調べるため、アジレントテクノロジー社製ネットワークアナライザーE8362B(周波数1GHz)で特性インピーダンス測定を行った。その結果を表2に示す。
【0055】
表2の結果が示すように、比較例、実施例4、5は、いずれも難燃剤としてリン系難燃剤(ホスフィン酸アルミニウム)を同組成比で用いたものであるが、特性インピーダンスは、比較例では123Ωであるのに対し、実施例4では131Ω、実施例5では127Ωであり、低誘電率化によって特性インピーダンスが向上していることが確認された。なお、いずれもポリエステル1を用いている実施例4と実施例6、7を比較すると、リン系難燃剤のみを用いた実施例4と比較して、リン系難燃剤と他の難燃剤を混合して用いている実施例6や、他の難燃剤を用いている実施例7は、誘電率が高く、その結果特性インピーダンスが低くなっている。この結果より、優れた特性インピーダンスを得るためには、難燃剤としてリン系難燃剤が好ましいことが示されている。
【0056】
VW−1垂直燃焼試験の結果、全ての実施例、比較例で難燃試験をクリアすることが分かった。その結果を表2に○で表している。
【0057】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のフラットケーブル用絶縁テープの構造を表す模式断面図である。
【図2】本発明のフレキシブルフラットケーブルの構造を表す模式断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1.絶縁層
2.アンカーコート層
3.接着剤層
4.導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体を含有する酸成分と、2,2−アルキル置換−1,3プロパンジオ−ル及び直鎖アルキレングリコールを含有するポリオール成分とを共重合してなることを特徴とする低誘電性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
酸成分として、更にテレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体を含有することを特徴とする請求項1に記載の低誘電性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
酸成分中におけるイソフタル酸又は/及びイソフタル酸誘導体の含有割合が10〜100モル%、テレフタル酸又は/及びテレフタル酸誘導体の含有割合が0〜90モル%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低誘電性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリオール成分中における2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオールの含有割合が10〜95モル%、直鎖アルキレングリコールの含有割合が5〜90モル%であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
直鎖アルキレングリコールが、エチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂。
【請求項6】
絶縁層及び難燃性接着剤層を有し、前記難燃性接着剤層のベース樹脂が、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の低誘電性ポリエステル樹脂を主体とすることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ。
【請求項7】
前記難燃性接着剤層が、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤からなる群から選ばれた少なくとも1つの難燃剤を含有することを特徴とする請求項6に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ。
【請求項8】
前記接着剤層の含有される難燃剤が、リン系難燃剤であることを特徴とする請求項7に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープ。
【請求項9】
並列に配置した導体を、請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のフレキシブルフラットケーブル用絶縁テープの接着剤層で挟持して作製されたことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31273(P2012−31273A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171758(P2010−171758)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】