説明

低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルの製造方法

【課題】
多価アルコールと脂肪酸エステルのエステル化の反応工程のみによって、低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルを安価、且つ容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
多価アルコールと脂肪酸を仕込み、酸系触媒を添加してエステル化反応を行ない、一旦冷却後に酸系触媒を追加し、再度エステル化反応を行なうことにより、低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルが得られ、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸系触媒を用いて得られる低酸価、低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルに関する。本発明によって得られる多価アルコール脂肪酸エステルは、低酸価、低水酸基価であり、溶媒を使用せず、精製工程を必要としないエステル化反応工程のみにより安価、且つ容易に製造できる。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、化粧品、医薬品、食品、電子機器、印刷、潤滑など幅広い分野で使用されている。近年、これらエステルを使用する分野の技術進歩に伴い、それぞれの分野に適応したエステルの品質が要求されている。このうち、多価アルコール脂肪酸エステルの一種であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、人体、及び環境への安全性が高いこと、多種類の組成を得ることができ汎用性が高いことなどから、特に、食品、化粧品、工業用品において多く用いられている。このポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンに脂肪酸または脂肪酸エステルを反応させることによって得られるが、親水基であるポリグリセリンの重合度、および疎水基である脂肪酸の鎖長を種々選択することにより、広範囲のHLBのエステルが得られるという特徴がある。そのため、乳化剤、ゲル化剤、結晶調整剤、潤滑剤、ワックスなどそれぞれの要望に応じた設計がなされている。例えば、エンジンオイルなどの潤滑油に使用する場合では、低酸価、低水酸基価であることが要求されており、これにより、長寿命化及び熱酸化安定性が優れた潤滑油が得られることが示されている(特許文献1)。また、電子写真用トナーのワックスとして使用する場合においても、低酸価、低水酸基価であることが要求されており、これによりトナーにおける低温定着性や耐ブロッキング性の改善に繋がることが示されている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−193882号公報
【特許文献2】特開2002−212142号公報
【0004】
一般に、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、原料の一つとして、グリセリンを水酸化ナトリウムなどのアルカリ触媒の存在下、高温にて重合し、脱臭、脱色して得られたポリグリセリンと脂肪酸を原料としてエステル化反応することによって製造されている。
【0005】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの合成において、水酸基価が低いエステル生成物を得るには、ポリグリセリンの水酸基当量に対して、過剰量の脂肪酸を用いる必要がある。そのため、脂肪酸の余剰分が最終生成物中に含有されるため、酸価が高いものが得られる。一方、酸価が低いエステル生成物を得るには、脂肪酸のカルボン酸当量に対してポリグリセリンを過剰に用いなければならず、結果として最終生成物中には水酸基が残存した成分が含有されてしまう。したがって、通常のエステル化反応のみで、低酸価、且つ低水酸基のポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることは困難であった。
【0006】
このような課題を解決する製造方法としては、エステル化反応により得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを、溶媒に希釈した後、中和・水洗分液による精製工程を取り入れた方法により、残存する遊離脂肪酸を除去する方法が示されている(特許文献2)。この方法により、低酸価、低水酸基価のポリグリセリン脂肪酸エステルは得られるものの、製造コストの上昇に加え、製造時間の延長や、さらには廃水、廃溶媒処理、あるいは溶媒のリサイクル処理などの点において不経済であり、また、溶媒の使用においては環境負荷が否めないものであった。また、多価アルコールの脂肪酸エステルの製造方法として、無触媒、または酸触媒存在下で得られたエステル化生成物を、ゼオライト、または活性白土と接触させることにより、未反応のアルコール成分を除去する方法が示されている(特許文献3)。この方法により、酸価が5mgKOH/g以下、未反応多価アルコール含量が0.1重量%未満である多価アルコール脂肪酸エステルは得られるものの、重合度の高いポリグリセリンについて適用した場合では、部分エステル化合物が同時に除去されることによる収率の低下を招くこと、あるいは、部分エステル化合物が完全に除去されなかった場合においては、最終生成物中に水酸基を含有する成分が混在するため、水酸基価は高くなるといった懸念が存在した。さらに、同様の多価アルコールの脂肪酸エステルの製造方法として、多価アルコールと脂肪酸のエステル化反応によって得られる生成物を、水の存在下に加熱し、未反応多価アルコール成分を、一旦エステル化生成物中に溶解させた後に、再結晶化させることにより、分別除去する方法が示されている(特許文献4)。この方法は、高い結晶化温度を有するトリメチロールプロパンやペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコールには適用できる方法であるが、グリセリンやポリグリセリンでは再結晶化が起こらず、未反応成分を除去するための方法としては有用なものではなかった。
【0007】
【特許文献3】特許第2978307号公報
【特許文献4】特開平5−140038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、こうした事情に鑑み、多価アルコールと脂肪酸エステルのエステル化の反応工程のみによって、低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルを安価、且つ容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明者らは、エステル化反応の触媒として特定の酸系触媒を選択し、触媒の添加方法の違いによって得られるエステル生成物の酸価、及び水酸基価が異なることを見出した。その結果、多価アルコールと脂肪酸を仕込み、酸系触媒を添加してエステル化反応を行ない、一旦冷却後に酸系触媒を追加し、再度エステル化反応を行なうことにより、低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルが得られ、上記の課題を解決することを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、低酸価、且つ低水酸基価の多価アルコール脂肪酸エステルが得られ、更に酸価が3mgKOH/g以下、水酸基価が5mgKOH/gの高純度な品質を有する多価アルコール脂肪酸エステルは、遊離脂肪酸などの不純物の混入による性能低下や、水酸基含有成分の混入による吸湿が嫌われる、トナー用ワックス、プラスチック用滑剤、潤滑油、可塑剤、インク溶剤、塗料添加剤などの用途において使用することができ、遊離脂肪酸や水酸基を含有する成分などの不純物により引き起こされる経時的な性能劣化や、品質変化を低減し、所望の性能を長期間維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。ただし、部、及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0012】
本発明で使用される多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては直鎖若しくは分岐の飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の何れでも良い。飽和脂肪酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられ、不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、エルカ酸などが挙げられる。これら直鎖若しくは分岐の飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸を単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0013】
本発明で使用される多価アルコール脂肪酸エステルを構成する多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。その他の多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、スピログリコール、1,4−フェニレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、エリトリット、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、2−メチルプロパントリオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられ、これらを単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0014】
本発明で使用されるグリセリンは、天然グリセリン、合成グリセリンの何れでもよく、また、純度95%以上のものが好ましい。例えば、日本薬局方、医薬部外品原料規格、食品添加物公定書等に収載されているグリセリンを使用することができ、阪本薬品工業株式会社製の精製グリセリンなどが挙げられる。
【0015】
本発明で使用されるポリグリセリンは、水酸基価から算出した平均重合度が2〜20のものを使用する。また、この範囲のポリグリセリンを単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)および(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
上記(式2)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0016】
本発明の多価アルコール脂肪酸エステルのエステル化反応に使用する脂肪酸量は、多価アルコールの水酸基当量に対して75mol%〜120mol%であることが好ましく、80mol%〜110mol%がより好ましい。この範囲にすると、酸価が3mgKOH/g、水酸基価が5mgKOH/gの多価アルコール脂肪酸エステルを得ることができる。ここで、多価アルコールの水酸基当量とは、多価アルコールの水酸基1個あたりの分子量を意味する。ポリグリセリンを例にすると水酸基数は前述した平均重合度(n)を用いてn+2で算出される。
【0017】
本発明の多価アルコール脂肪酸エステルのエステル化の反応温度は160〜260℃であり、好ましくは200〜250℃である。エステル化の反応温度が低過ぎると反応速度が遅くなり、酸価、水酸基価が高くなる。また、エステル化の反応温度が高過ぎると得られるポリグリセリン脂肪酸エステルに着色が生じやすくなるためこの範囲が好ましい。また、エステル化の反応温度はこの範囲内であれば、反応途中に上昇あるいは、降下させても構わない。
【0018】
本発明の多価アルコール脂肪酸エステルのエステル化反応に用いる酸系触媒としては、(オルト)リン酸、ポリリン酸、及び、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイトなどの酸性リン酸エステルが好ましく、これらを単独で使用しても二種類以上を併用しても良い。この他に酸系触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、また、塩化第一スズ、塩化第二スズ、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジアセテート、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどのルイス酸触媒、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの脂肪族ヒドロキシ酸、さらにサリチル酸、没食子酸などの芳香族ヒドロキシ酸などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0019】
本発明の多価アルコール脂肪酸エステルのエステル化反応に使用する触媒の添加は反応開始時の添加に加え、反応途中に新たに追加する工程を有する。これは反応中に触媒の効果が低下し、反応速度を向上させるために行なう工程であり、触媒の添加回数は2回以上であればよく、好ましくは2回である。触媒の添加が3回以上の場合では、得られる生成物の色が悪化しやすい。
【0020】
本発明の多価アルコール脂肪酸エステルのエステル化反応に使用する触媒の総添加量は、得られる多価アルコール脂肪酸エステルに対して、好ましくは0.015〜0.60%であり、さらに好ましくは0.06〜0.40%である。さらに、反応開始時の触媒の添加量は0.01〜0.30%であり、好ましくは0.05〜0.20%である。また、反応途中の触媒の追加量は0.001〜0.30%であり、好ましくは0.005%〜0.20%である。触媒の添加量を、上記の範囲にすると、酸価3mgKOH/g、且つ水酸基価5mgKOH/g以下の品質を得ることができ、又、得られる生成物の着色を抑えることができる。
【0021】
本発明のエステル化反応は、多価アルコールと脂肪酸を仕込み、酸系触媒を添加してエステル化反応を行ない、好ましくは、酸価が3mgKOH/g以下、水酸基価10mgKOH/g以下となった時点で、一旦冷却後に酸系触媒を追加し、再度エステル化反応を行なうのがよい。この方法により、酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価が5mgKOH/g以下の多価アルコール脂肪酸エステルを得ることができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、今回使用した多価アルコールは、グリセリン(阪本薬品工業株式会社製、精製グリセリン)、ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製、平均重合度2)、ヘキサグリセリン(阪本薬品工業株式会社製、ポリグリセリン#500、平均重合度6)、デカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製、ポリグリセリン#750、平均重合度10)、ペンタエリスリトールである。以下、本発明の実施例及び比較例を示す。ただし、%は、特に断りのない限り重量基準であり、触媒量はエステル化生成物に対する重量%で示す。また、得られるエステル化生成物については、色(ガードナー法)、酸価、水酸基価(ピリジン−無水酢酸法)を社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」基準油脂分析試験法Iに従って試験した。
【0023】
(実施例1)
(多価アルコール脂肪酸エステル1の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、グリセリン(阪本薬品工業株式会社製、精製グリセリン)を180.8g、2−エチルヘキサン酸を707.6g、リン酸を0.10%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.05%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー3、酸価が2.0mgKOH/g、水酸基価が4.5mgKOH/gのグリセリン2−エチルヘキサン酸エステルが得られた。
【0024】
(実施例2)
(多価アルコール脂肪酸エステル2の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、グリセリン(阪本薬品工業株式会社製、精製グリセリン)を69.6g、ベヘン酸を771.3g、リン酸を0.05%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、水酸基価が10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.05%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、酸価が2.8mgKOH/g、水酸基価が5.2mgKOH/gであったため、再び160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.02%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー10、酸価が2.8mgKOH/g、水酸基価が1.0mgKOH/gのグリセリンベヘン酸エステルが得られた。
【0025】
(実施例3)
(多価アルコール脂肪酸エステル3の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度2)を118.2g、ステアリン酸を727.9g、リン酸を0.03%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら245℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.03%添加した。その後、再び245℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー4、酸価が0.8mgKOH/g、水酸基価が3.8mgKOH/gのジグリセリンステアリン酸エステルが得られた。
【0026】
(実施例4)
(多価アルコール脂肪酸エステル4の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度2)を91.3g、ベヘン酸を748.3g、リン酸を0.05%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.03%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー6、酸価が1.2mgKOH/g、水酸基価が2.5mgKOH/gのジグリセリンベヘン酸エステルが得られた。
【0027】
(実施例5)
(多価アルコール脂肪酸エステル5の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ヘキサグリセリン(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度6)を173.7g、オレイン酸を687.6g、ポリリン酸を0.08%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら243℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、ポリリン酸を新たに0.003%添加した。その後、再び243℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が1.2mgKOH/g、水酸基価が2.4mgKOH/gのヘキサグリセリンオレイン酸エステルが得られた。
【0028】
(実施例6)
(多価アルコール脂肪酸エステル6の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ヘキサグリセリン(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度6)を156.5g、ステアリン酸を703.8g、リン酸を0.10%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら245℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.002%添加した。その後、再び245℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が3.0mgKOH/g、水酸基価が2.0mgKOH/gのヘキサグリセリンステアリン酸エステルが得られた。
【0029】
(実施例7)
(多価アルコール脂肪酸エステル7の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、デカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度10)を319.7g、2−エチルヘキサン酸を585.5g、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイトを0.22%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイトを新たに0.002%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー6、酸価が2.2mgKOH/g、水酸基価が1.2mgKOH/gのデカグリセリン2−エチルヘキサン酸エステルが得られた。
【0030】
(実施例8)
(多価アルコール脂肪酸エステル8の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、デカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度10)を148.6g、ベヘン酸を703.5g、リン酸を0.01%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.01%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が1.8mgKOH/g、水酸基価が4.5mgKOH/gのデカグリセリンベヘン酸エステルが得られた。
【0031】
(実施例9)
(多価アルコール脂肪酸エステル9の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ペンタエリスリトールを117.2g、オレイン酸を729.3g、オレイルアシッドホスフェイトを0.20%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら243℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、オレイルアシッドホスフェイトを新たに0.10%添加した。その後、再び243℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が2.8mgKOH/g、水酸基価が4.8mgKOH/gのペンタエリスリトールオレイン酸エステルが得られた。
【0032】
(実施例10)
(多価アルコール脂肪酸エステル10の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ペンタエリスリトールを84.0g、ベヘン酸を756.0g、リン酸を0.05%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下、且つ水酸基価10mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、リン酸を新たに0.02%添加した。その後、再び250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が0.8mgKOH/g、水酸基価が3.3mgKOH/gのペンタエリスリトールベヘン酸エステルが得られた。
【0033】
以上の実施例で合成した多価アルコール脂肪酸エステルを表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
(比較例1)
(多価アルコール脂肪酸エステル11の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、グリセリン(阪本薬品工業株式会社製、精製グリセリン)を180.8g、2−エチルヘキサン酸を707.6g、リン酸を0.15%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー4、酸価が3.5mgKOH/g、水酸基価が4.0mgKOH/gのグリセリン2−エチルヘキサン酸エステルが得られた。
【0036】
(比較例2)
(多価アルコール脂肪酸エステル12の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、デカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度10)を186.8g、ステアリン酸を674.7g、水酸化ナトリウムを0.10%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら245℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー5、酸価が2.2mgKOH/g、水酸基価が18.2mgKOH/gのデカグリセリンステアリン酸エステルが得られた。
【0037】
(比較例3)
(多価アルコール脂肪酸エステル13の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ペンタエリスリトールを80.0g、ベヘン酸を760.2g、水酸化ナトリウムを0.05%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら250℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー8、酸価が3.3mgKOH/g、水酸基価が15.6mgKOH/gのペンタエリスリトールベヘン酸エステルが得られた。
【0038】
(比較例4)
(多価アルコール脂肪酸エステル14の合成)
温度計、攪拌機、窒素吹き込み管、排気ラインを備えた反応器に、ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製:平均重合度2)を112.8g、ステアリン酸を733.7g、水酸化ナトリウムを0.05%仕込み、一定量の窒素を吹き込み、且つ撹拌しながら245℃まで昇温し反応を行なった。酸価が3mgKOH/g以下に達した時点で、一旦160℃以下まで冷却し、水酸化ナトリウムを新たに0.05%添加した。その後、再び245℃まで昇温し反応を行なった。その結果、色がガードナー10、酸価が1.3mgKOH/g、水酸基価が14.0mgKOH/gのジグリセリンステアリン酸エステルが得られた。
【0039】
以上の比較例で合成した多価アルコール脂肪酸エステルを表2に示した。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明で得られた酸価が3mgKOH/g以下、水酸基価が5mgKOH/gの高純度な品質を有する多価アルコール脂肪酸エステルは、遊離脂肪酸などの不純物の混入による性能低下や、水酸基含有成分の混入による吸湿が嫌われる、トナー用ワックス、プラスチック用滑剤、潤滑油、可塑剤、インク溶剤、塗料添加剤などの用途において使用することができ、遊離脂肪酸や水酸基を含有する成分などの不純物により引き起こされる経時的な性能劣化や、品質変化を低減し、所望の性能を長期間維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール、及び脂肪酸を原料とし、酸系触媒が2回以上添加される工程を有するエステル化反応を行うことを特徴とする多価アルコール脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
酸系触媒が(オルト)リン酸、ポリリン酸、酸性リン酸エステルの何れかであることを特徴とする請求項1記載の多価アルコール脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
多価アルコールが、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンより選ばれる一種、又は二種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の多価アルコール脂肪酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−195717(P2010−195717A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42920(P2009−42920)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】