低NOx・低煤塵燃焼方法およびボイラ燃焼室
【課題】石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用する低NOxボイラにおいて、さらに効果的にNOxと煤塵の発生を抑制する低NOx・低煤塵燃焼方法および低NOx・低煤塵のボイラ燃焼室を提供する。
【解決手段】燃料と1次燃焼空気を供給するバーナー5を備えた高温還元燃焼室2と、高温還元燃焼室と絞り部4を介して接続された低温酸化燃焼室3であって2段燃焼用空気吹き込みノズル7を備える低温酸化燃焼室3とを有するボイラ燃焼室1において、バーナー5の燃焼空気配管に蒸気配管20を接続し、1次燃焼用空気に水蒸気を加えて水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させて、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制する。
【解決手段】燃料と1次燃焼空気を供給するバーナー5を備えた高温還元燃焼室2と、高温還元燃焼室と絞り部4を介して接続された低温酸化燃焼室3であって2段燃焼用空気吹き込みノズル7を備える低温酸化燃焼室3とを有するボイラ燃焼室1において、バーナー5の燃焼空気配管に蒸気配管20を接続し、1次燃焼用空気に水蒸気を加えて水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させて、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油系残渣であるオイルコークスのような難燃性固体燃料を燃料として用いるボイラにおける、低NOx・低煤塵燃焼方法及びボイラ燃焼室に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の保全や燃料コストの節約の観点から、たとえば、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることがある。しかし、オイルコークスなどの石油系残渣燃料を燃焼させる場合は、煤塵の発生量が増加する。
出願人は、既に、高温還元燃焼室と低温酸化燃焼をする2段燃焼室を備えることによって、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることができるようにした低NOxボイラを開発している。
【0003】
本願出願人により開示された低NOxボイラは、高温還元燃焼室をボイラ燃焼室の最上流部に形成し、その下流に内周壁を水冷壁構造とし側壁に2段燃焼用空気ノズルを取り付けた2段燃焼室を設けたボイラで、高温還元燃焼室において還元雰囲気中で燃料を1次燃焼させ、高温還元燃焼室で発生した燃焼ガスを高温還元燃焼室開口の絞り部を通して2段燃焼室に供給し、2段燃焼室において未燃燃料を過剰空気中でより低温で燃焼させる低温酸化燃焼を行わせるものである。
【0004】
高温還元燃焼室において燃料過濃の状態で平均約1450〜1550℃の高温で燃焼を行わせ、絞り部を通って2段燃焼室に侵入してきた燃焼ガスに2段燃焼用空気ノズルから新たに燃焼用空気を供給して酸化雰囲気とし、2段燃焼室の燃焼ガス排出位置で1100℃程度になるような比較的低温で燃焼を完結させる。
炭素燃料の燃焼におけるNOxの発生量は、還元雰囲気中では高温になるほど少なく、酸化雰囲気中では低温になるほど少なくなるので、炭素燃料を高温還元燃焼と低温酸化燃焼の2段階に燃焼させることで、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0005】
本願出願人が開示した特許文献1には、新しい形式の低NOxボイラであって、炉底に溜まる燃焼灰を連続排出できるようにして長期の連続運転を可能にした倒立形低NOxボイラが記載されている。
特許文献1に開示された倒立形低NOxボイラは、ボイラ燃焼室の最上部に高温還元燃焼室を備え、その下方に絞り部を介して接続された2段燃焼室を備えたもので、上部の高温還元燃焼室において還元雰囲気中で燃料を1次燃焼させ、下部の2段燃焼室においてより低温の酸化雰囲気中で未燃燃料を燃焼させる低温酸化燃焼を行わせる。
【0006】
ボイラ燃焼室内で発生する燃焼灰は、2段燃焼室の底に設けた灰排出機構により運転を妨げずに随時燃焼灰を排出することができるので、ボイラ運転を長期に亘って継続することができる。また、仮に底に設けた開口から外気が侵入したとしても、既に燃焼は完結しているため、低NOx低煤塵燃焼性能を保つことができる。
特許文献1で開示した低NOxボイラは、オイルコークスなどの石油系残渣を低NOxかつ低煤塵で燃焼させるボイラとして利用することができる。
【0007】
また、特許文献2は、バーナーの周囲に設けた2次バーナーに供給する2次燃料に水噴霧または水蒸気噴霧を混合して冷却し、比較的低温で緩慢な燃焼をさせることでNOxの生成を抑制するようにした、低NOxバーナーの構造を開示するものである。
低NOxバーナーの2次バーナーは、本来、燃料を希釈状態で低温燃焼させて低NOx化を図るものであるが、ボイラなどのように炉内温度が高い場合には2次燃料が希釈される前に燃焼が開始されるため、NOxの生成を抑制することができなかった。特許文献2に開示されたバーナーは、2次バーナーの周囲から水噴霧などを行って2次燃料を積極的に冷却または希釈することにより、低NOx化を実現するものである。
【0008】
なお、特許文献2における低NOxバーナーは、バーナーの周囲に2次バーナーを配置するので、特許文献1に記載のボイラのように、バーナーにおいて発生する燃焼ガスを2次バーナーのある別室に搬送してボイラ制御の下でより低温状態で完燃させる方式を採用することはできない。
【0009】
高温還元燃焼室と2段燃焼室である低温酸化燃焼室とを備えた低NOxボイラは、石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用することができる。特に、特許文献1に示されたような高温還元燃焼室を上に低温酸化燃焼室を下に垂直に配置した倒立形低NOxボイラは、さらに燃焼灰の連続排出が容易なため、連続稼働が可能で、劣質燃料を燃料として燃焼効率の良い低NOx・低煤塵のボイラを構成する。
【0010】
なお、特許文献2に示されたように、2段燃焼用の2次バーナーに供給される2次燃料に蒸気噴霧を混合することにより冷却して、比較的低温で緩慢な燃焼をさせることでNOxの生成を抑制できることが知られている。しかし、特許文献2は、蒸気を1次バーナーに供給する技術的思想を示唆あるいは教示するものではない。
さらに、オイルコークスのような難燃性固体を燃焼させる場合、従来のボイラでは、バーナーに水蒸気を混入すると燃焼性能が低下するため、蒸気噴霧等の混入は採用されることがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−139176号公報
【特許文献2】特開平09−101006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用する低NOxボイラにおいて、さらに効果的にNOxと煤塵の発生を抑制することができる低NOx・低煤塵燃焼方法および低NOx・低煤塵ボイラ燃焼室を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法は、燃料と1次燃焼空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、高温還元燃焼室と絞り部を介して接続された2段燃焼用空気吹き込みノズルを備える低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室において、1次燃焼用空気に水蒸気を加えて高温還元燃焼室における燃焼温度を低下させると共に水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させることにより、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制することを特徴とする。
【0014】
従来普通の技術的思想に基づく限り、石油残渣などの劣質固体燃料を使用する場合に1次燃焼部分に水蒸気を混入することはなかった。これに対して、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法においては、高温還元燃焼雰囲気に蒸気を吹き込むことにより、ボイラ出口におけるNOxの量を低減させると共に、水性ガス化反応(C+H2O → CO+H2)によって未燃炭素と水蒸気から生成する水性ガスを燃料として利用して燃焼効率を向上させ、かつボイラで発生する煤塵量を減少させることができる。
【0015】
また、高温還元燃焼室のバーナーは、高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置されることが好ましく、さらに、バーナーが設置された室内側から見て側壁面の右半面に配置されたバーナーは室内側から見てバーナー軸の周りを反時計方向に回る左旋回流を発生させ、左半面に配置されたバーナーは右旋回流を発生させるように構成されることが好ましい。
このようなバーナー構成を用いると、高温還元燃焼室で外側のガスが天井側に寄せられてから中央部分に降下するようになって、室内で発生する気流が燃料や燃焼ガスを室内に留めるように働くので、高温還元燃焼室における燃料や燃焼ガスの滞留時間が十分確保され、水性ガスが十分に生成されて、NOxや煤塵を効果的に減少させることができる。
【0016】
また、上記課題を解決するため、本発明のボイラ燃焼室は、燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備えた低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室であって、バーナーに設けられた1次燃焼用空気の供給配管に水蒸気の供給配管を接続すると共に、バーナーは高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、側壁面に配置されたバーナーは高温還元燃焼室内の燃焼ガスをバーナーの外側からバーナーの上を通って高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させるように構成されることを特徴とする。
【0017】
なお、低温酸化燃焼室において、絞り部と2段燃焼用空気吹き込みノズルの間に冷却部を形成して、2段燃焼時の燃料ガス温度を低下させるようにすることが好ましい。
また、本発明のボイラ燃焼室は、低温酸化燃焼室が高温還元燃焼室の下に設けられた、倒立形低NOxボイラの燃焼室であることが好ましい。
本発明のボイラ燃焼室を用いることにより、高温還元燃焼雰囲気に蒸気を吹き込んで、ボイラ出口におけるNOx量を抑制し、水性ガス化反応により生成する水性ガスを利用して燃焼効率を向上させると共にボイラで発生する煤塵量を減少させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法によれば、特にオイルコークスなどの劣質燃料を燃料として利用する低NOxボイラにおいて、さらに効果的にNOxと煤塵の発生を抑制することができる。また、本発明のボイラ燃焼室において、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法を実施することにより、ボイラ燃焼室内におけるNOxと煤塵の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1実施形態のボイラ燃焼室を備えた倒立形低NOxボイラの概略構成図である。
【図2】図1に示した倒立形低NOxボイラの一部切り欠き一部透視透視図である。
【図3】高温還元燃焼室におけるバーナーの配置例を説明する概略透視図である。
【図4】アシスト蒸気の有無とNOxおよびCO発生量の関係を示すグラフである。
【図5】アシスト蒸気の有無と燃焼効率の関係を示すグラフである。
【図6】バーナーにおける旋回流の効果を試験したケースの例を示すバーナー配置図である。
【図7】図6のケース1における燃焼室内の気流解析結果を示す図面である。
【図8】図6のケース2における燃焼室内の気流解析結果を示す図面である。
【図9】図6の各ケースにおける燃焼室内の流線図である。
【図10】図6のケース1における燃焼室内の温度分布例を示す図面である。
【図11】図6のケース2における燃焼室内の温度分布例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し実施形態に基づいて本発明について説明する。なお、図番の異なる図面においても、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、理解の容易化を図った。
図1は本発明の1実施形態に係る低NOxボイラのボイラ燃焼室を説明する概略機能図であり、図2はその一部切り欠き一部透視斜視図、図3はボイラ燃焼室の高温還元燃焼室におけるバーナーの配置例を説明する透視図である。本実施態様では、倒立形低NOxボイラを対象としている。
【0021】
本実施態様のボイラ燃焼室を備えた倒立形低NOxボイラは、縦型のボイラ燃焼室1の上端部に高温還元燃焼室2、下段に低温酸化燃焼室3が形成されており、高温還元燃焼室2と低温酸化燃焼室3は高温還元燃焼室2の絞り部4で接続している。絞り部4は、燃焼室水平断面積を20〜50%減少させるような開口を持つことが好ましい。
高温還元燃焼室2には、側壁にバーナー5が設けられており、内壁は、たとえば1450℃から1550℃など、操業中の炉内温度に耐える耐火材6で覆われている。
【0022】
高温還元燃焼室2に設置するバーナー5は、図3に概念的に示すように、複数のバーナー5が、対向する2側面に1列または複数列で水平に並列し、かつ対向するバーナー5から放出される火炎の軸が交差しないように対向千鳥配置で設置することが好ましい。各バーナー5にはそれぞれ図示しない空気供給ノズルが設けられていて、流量を調整した燃焼用空気が供給される。さらに、空気供給ノズルには、蒸気配管20が接続されていて燃焼用空気に蒸気を混入できるようになっている。
図1において、実線で表したバーナー5は、図中向こう側の側壁面2Aに設備され手前側に火炎を噴出するもので、点線で表したバーナーは、図中手前側の側壁面2Bに設備され向こう側に火炎を噴出するものである。
【0023】
バーナー5には、図示しないが、旋回羽根など周知の適宜なスワラーを備えた旋回流発生機構が設けられていて、燃焼用空気を旋回させることによって燃焼ガスが旋回流を形成するようになっている。旋回流の旋回方向はスワラーの空気放出方向により決まる。
本実施態様のボイラでは、図3に示すように、バーナー5が設けられた側壁面2A,2Bを中心縦線21A,21Bで左右2つに分けると、高温還元燃焼室2の内側から見て右の半面に設けられたバーナー5では、気流が部屋の内側から見て火炎軸の周りを反時計方向に回る左旋回流が発生し、左半面に設けられたバーナー5では右旋回流が発生するように構成されている。
【0024】
このようにバーナー5を配置し旋回流の方向を選択すると、各バーナー5で発生する旋回流は、バーナー5の下にあった燃料と燃焼ガスをバーナー5の外側部分に送り、バーナー5外側のガスをバーナー5の上に送り、さらにバーナー5の上のガスをバーナー5の内側部分に送る。したがって、バーナー群全体として、高温還元燃焼室2内の燃料と燃焼ガスを天井の中央部分に集めて室内に滞留する時間を長期化する作用を有するようになる。
【0025】
なお、図では、バーナー5が対向する2つの側壁面2A,2Bのそれぞれに4基ずつ、各段2基が2段に設けられた例を示しているが、これに限るものではなく、バーナー5は対向2側壁面2A,2Bのそれぞれに2基以上設けて、旋回流により、燃料や燃焼ガスを高温還元燃焼室2の天井側に持ち上げて中心方向に搬送するような向きに、旋回方向を選択することにより、本実施例の作用効果をもたらすことができる。
【0026】
再び、図1と図2を参照すると、低温酸化燃焼室3には、冷却部9と2段燃焼部10と灰排出部8とが形成される。
冷却部9は、低温酸化燃焼室3の入り口になる絞り部4と側壁に設けられた2段燃焼用空気ノズル7の間に形成され、高温還元燃焼室2から絞り部4を介して供給される高温の燃焼ガスを冷却する。
【0027】
冷却部9は、冷却部の形状や側壁の水管について設計することにより、冷却面の熱交換効率、冷却面の面積、水流の温度と量と流速、熱ガスの温度と量と流速などに基づいて、所定の冷却能力を得ることができる。したがって、条件に応じた冷却部9を形成させることにより、燃焼ガスの温度低下量を調整することができる。
【0028】
2段燃焼部10は、側壁に蒸気発生用の水管が配された水冷壁構造となっている。2段燃焼用空気ノズル7は、冷却部9の最下部に接する2段燃焼部10の上端部分の対向する2面の炉壁のそれぞれに、水平に1段または複数段に並んで配置され、冷却部9で冷却された燃焼ガスに新たに空気を供給して、未燃のガスを低温の酸化雰囲気中で2段燃焼させる。
【0029】
低温酸化燃焼室3の底部には、灰排出部8が形成される。灰排出部8は、燃焼室の炉底を鉛直線に対して45°以下、望ましくは35°程度の傾斜面で形成し、傾斜面の下端に灰排出機構を配設したもので、炉底に溜まった燃焼灰を簡素な構造で効率的に炉外に排出することができる。ボイラ燃焼室1内では、上方で高温、下方で低温の温度勾配を持ち、底部では既に燃焼が完結しているため、炉底に開口を設けても、燃焼を乱す物質が炉内に侵入して燃焼ガスの流れを乱すことも少なく、また炉内を負圧に保つことで炉内に発生する有毒なガスが開口から溢流して作業者に害をなすこともない。
【0030】
2段燃焼部10の下方側面に、ガス通路12に通じるガス流出口11が設けられている。ガス通路12は、燃焼ガスを、蒸気過熱器管13とエコノマイザ14を通した上で、後処理工程に搬送する。蒸気過熱器管13とエコノマイザ14が配設されたガス通路の底部にも、燃焼ガスに搬送されてきた燃焼灰を沈降させて排出する灰排出口15が備わっている。
【0031】
本実施態様の倒立形低NOxボイラのボイラ燃焼室1は、ボイラ燃焼室1の上端部に燃料と空気を供給して高温還元雰囲気で燃焼させ、燃焼を上端部から下方に向かって進行させ、ボイラ燃焼室1の中程においてさらに空気を供給してより低温の酸化雰囲気中で未燃ガスの燃焼を完結させ、燃焼ガスを下部側方から取り出すものである。
【0032】
本実施態様のボイラ燃焼室は、ボイラ燃焼室1の上端部における高温還元雰囲気中に水蒸気(アシスト蒸気)を吹き込んで水性ガスを発生させることと高温還元燃焼をするためのバーナー5で発生させる旋回流の回転方向を所定の方向にして低温酸化燃焼室内の燃焼ガスの流速分布及び温度分布を均質にして、燃焼効率をより向上させNOx発生量と未燃分をより抑制することに特徴がある。
【0033】
本実施態様の倒立形低NOxボイラで石油系残渣などの劣質燃料を使用するときは、まず、高温還元燃焼室2におけるバーナー5に燃料と空気を導入して燃焼を開始する。高温還元燃焼室2では、空気の導入を抑制し、空気比を1以下の、たとえば0.6〜0.8程度の還元雰囲気に維持して、燃料に応じて選択されるたとえば1450℃から1550℃の範囲内の高温で燃料を燃焼させる。
【0034】
高温還元燃焼室2での燃焼で高温になった燃焼ガスは、新たに投入される燃料により燃焼ガスが増加するため高温還元燃焼室2から押し出されて絞り部4を通って低温酸化燃焼室3に流下する。
低温酸化燃焼室3に流下した燃焼ガスは、冷却部9を通る間に1200℃から1350℃の範囲内の温度まで冷却され、2段燃焼部10に供給される。
【0035】
2段燃焼部10では、2段燃焼用空気ノズル7から比較的低温の2段燃焼用空気が十分に供給され空気比が1.1程度になり、燃焼ガスの未燃分が酸化雰囲気内で完全に燃焼される。
2段燃焼部10で燃焼が完結する燃焼ガスは、2段燃焼部10内壁の水管と熱交換して1000℃から1100℃程度まで温度低下し、燃焼室の下側側面に設けられたガス流出口11からガス導通路12に流出する。ガス導通路12では、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14においてボイラ給水と熱交換を行った後、後処理工程に流出する。
【0036】
倒立形低NOxボイラでは、炭素燃料が高温還元燃焼室2において高温還元雰囲気で初期燃焼し、さらに2段燃焼室3において低温酸化雰囲気で2段燃焼する。
炭素燃料の燃焼におけるNOxの発生量は、燃焼温度と空気比に強く依存している。空気比1未満すなわち還元雰囲気下では高温になるほどNOx発生量が少なく、空気比1以上の酸化雰囲気下では低温になるほどNOx発生量が少ない。
【0037】
倒立形低NOxボイラでは、この特性を利用して、高温還元燃焼室2の高温還元雰囲気下で中間生成物と反応して窒素に還元されるようにしてフューエルNOxの生成を抑制し、低温酸化燃焼室3においてガス温度が下がった段階で2段燃焼用空気を投入して未燃分を完全に燃焼させることでサーマルNOxの生成を抑制するから、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0038】
本実施態様の倒立形低NOxボイラでは、バーナー5の空気導入部に蒸気配管20からアシスト蒸気を供給することにより、NOx濃度をより低減させる。
図4は、アシスト蒸気を導入しない倒立形低NOxボイラとアシスト蒸気を注入した本実施態様の倒立形低NOxボイラとで、ボイラ出口におけるNOx濃度と一酸化炭素COの濃度を比較した実験の結果を示すグラフである。
【0039】
ボイラ出口におけるNOxは、アシスト蒸気がない場合に平均208ppmであったのが、アシスト蒸気の混入量が大きくなるにつれて低減し、アシスト蒸気がオイルコークスに対して20重量%混入されたときに186ppmと約10%低減しており、アシスト蒸気の混入によりNOxが低減することが分かる。
【0040】
図5は、倒立形低NOxボイラにおいて、アシスト蒸気を加えない場合とアシスト蒸気を20重量%混入した場合について、高温還元燃焼における燃焼効率ηcを測定した結果を示すグラフである。グラフは高温還元燃焼ゾーンにおける空気比を横軸においている。
ボイラにおける燃焼効率が99%以上であれば満足できる水準とされている。
図5によれば、アシスト蒸気を混入しない場合でも空気比0.7以上では燃焼効率が99%以上を達成するが、アシスト蒸気を混入したものでは、さらに広い空気比領域で100%に近い燃焼効率が得られていて、アシスト蒸気の効果が明らかである。
【0041】
また、高温還元燃焼室2の出口におけるCO濃度が、アシスト蒸気が無いときに6,370ppmであったのに対して、アシスト蒸気を20重量%混入すると9,040ppmに上昇したことから、アシスト蒸気の混入により水性ガス化反応が生じて未燃炭素がガス化したことが推定される。
【0042】
なお、図4に表れているように、排気処理装置に導かれるボイラ出口におけるCO濃度は、アシスト蒸気の有無によっては有意な差が見られず、アシスト蒸気を混入してもボイラ出口におけるCO濃度が50ppm前後の水準を維持してそれ以上高くなることはない。これは、水性ガス化反応により増加したCOが低温酸化燃焼により効率よく燃焼して消尽していることを示唆するものである。
【0043】
本実施態様の倒立形低NOxボイラは、高温還元燃焼室2におけるバーナー5を対向千鳥配置とし、さらに各バーナー5における旋回流の旋回方向をシミュレーション解析により最適化している。ここで、対向千鳥配置されたバーナーとは、図3に示すように、複数のバーナーが、対向する2側面に1列または複数列で水平に並列し、かつ対向するバーナーから放出される火炎の軸が交差しないように設置されたものをいう。
【0044】
図6は、バーナーにおける旋回流の効果をシミュレーションした代表的な3つのケースを示すバーナー配置図である。図は、ボイラ燃焼室1の上部燃焼室である高温還元燃焼室2におけるバーナー5の配置と、各バーナー5の旋回流方向、還元燃焼ガス冷却部9を挟んで配置される低温酸化燃焼部10の2段燃焼用空気ノズル7を含む図面となっている。実線で示されたバーナーは図中向こう側の壁面に設置されるもの、点線で示されたバーナーは手前の壁面に設置されるものを示す。図では、バーナーが8基の場合について示すが、2基以上適宜な数のバーナーについても、旋回流の効果を敷衍することができる。
【0045】
図6(a)は、第1のケース(ケース1)であって、バーナーは高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、バーナーが設置された側壁面において側壁面に対向して見て右側の半面に配置されたバーナーのうち上段のものは側壁面に対向して見て反時計方向に旋回する左旋回流、下段のものは右旋回流、また左半面に配置された上段のバーナーは右旋回流、下段は左旋回流を発生させるように、構成されたものである。ケース1では、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナー上下のガスをバーナー群の中心に向かって集めるように流れると推定される。
【0046】
図6(b)は、第2のケース(ケース2)であって、対向千鳥配置になったバーナーは、バーナーが設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーが左旋回流、左半面に配置されたバーナーが右旋回流を発生させて、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナーの外側から天井側に寄せられて、天井側から中央部分に降下するように流れる傾向が出るものと推定される。
図6(c)は、第3のケース(ケース3)であって、対向千鳥配置になったバーナーは、設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーが右旋回流、左半分に配置されたバーナーが左旋回流を発生させて、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナーの上から外側に、また外側からバーナーの下を通って中心部に流れる傾向が出るものと推定される。
【0047】
図7は、図6に示したケース1におけるガス流速について、シミュレーションによる解析結果を示す図面で、ボイラ燃焼室1を幅方向に4等分に分割した分割面上におけるガスの流れ方向と流速を矢の向きと矢の長さで表現したものである。
図7(a)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の1/4の位置に想定した面上におけるガス流分布、図7(b)は、ボイラ燃焼室1の中央断面上におけるガス流分布、図7(c)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の3/4の位置に想定した面上におけるガス流分布を示すガス流速線図である。
【0048】
また、図8は、図6に示したケース2におけるガス流速について、シミュレーションによる解析結果を示す図面である。図8(a)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の1/4の位置、図8(b)は、ボイラ燃焼室1の中央断面、図8(c)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の3/4の位置に想定した面上におけるそれぞれのガス流分布を示すガス流速線図である。
【0049】
図7と図8を比較すると、図7(ケース1の場合)では低温酸化燃焼部10の中央におけるガス流速が大きく側部のガス流速が小さく、幅方向のガス流速の偏りが大きいのに対して、図8(ケース2の場合)では、低温酸化燃焼部10の中央におけるガス流速が比較的遅く、また幅方向のガス流速の偏りが小さくより均等化している。また、高温還元燃焼部2におけるガス流速はケース2の方が遅く、反応時間を長くとることができる。
したがって、ボイラ燃焼室におけるガス流速に関しては、ケース2を採用することが好ましいと言うことができる。
なお、ケース3の場合は比較するまでもない大きな偏りが生じていた。
【0050】
図9は、高温還元燃焼室2内のバーナーからボイラ燃焼室1の出口までの燃料や燃焼ガスの移動経路をたどった流線図である。図9(a)は図6におけるケース1について描かれた流線図、図9(b)は図6のケース2に関する流線図、図9(c)は図6のケース3に関する流線図である。
【0051】
図9(c)は、バーナーにおける旋回流の向きがバーナーの下側から中央部に集めて上側に搬出するようになったケース3における燃焼ガス流線図であるが、運転時には1次燃焼ガスが高温還元燃焼室2内で循環流を形成した後に開口から低温酸化燃焼室3に進出する。図に表されたとおり、低温酸化燃焼室3における燃焼ガスの流路が外側に偏っていて平均化しておらず、室内に滞留部が生じていることが分かる。
【0052】
図9(a)は、図6のケース1における燃焼ガス流線図であるが、高温還元燃焼室2における循環流が減少し、低温酸化燃焼室3内の流線分布は少し偏在している。
図9(b)は、図6のケース2における燃焼ガス流線図であるが、低温酸化燃焼室3における流線は室の隅まで比較的均質に広がっていて、高い効率で燃焼することが期待される。
したがって、ボイラ燃焼室における燃焼ガスの流線図から見た場合にも、ケース2を採用することが好ましいと言うことができる。
【0053】
図10は図6のケース1におけるシミュレーションで得られたボイラ燃焼室内の温度分布を示す図面、図11は図6のケース2におけるボイラ燃焼室内の温度分布例を示す図面である。両図において、(a)図はボイラ燃焼室の端面からボイラ燃焼室の幅(炉幅)の1/4だけ離れた位置における垂直断面上の温度分布状態を示す。また、(b)図はボイラ燃焼室の中央における垂直断面上の温度分布を示し、(c)図はボイラ燃焼室の端面から炉幅の3/4だけ離れた位置における垂直断面上の温度分布状態を示す。
【0054】
図10(ケース1)と図11(ケース2)を比較すると、ケース1では、ボイラ燃焼室の端面からの距離によって温度分布の形態が大きく変動し、さらに温度の等高線も出入りが激しいのに対して、ケース2では、高温還元燃焼室内の温度がより高くNOxの抑制に効果がある上、低温酸化燃焼室内の燃焼ガス温度の分布状態がボイラ燃焼室の端面からの距離に伴う変動が小さく、低温酸化燃焼室の空間を十分活用して効率的に2次燃焼させていることが分かる。
したがって、ボイラ燃焼室内の温度分布の観点からも、ケース2のバーナー配置を採用することが好ましいことが分かった。
【0055】
これら解析の結果から、図6のケース2におけるバーナー群の旋回流の旋回方向割り当て方法が最も好ましいことが裏付けられた。すなわち、バーナーが高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーは左旋回流を発生させるように、また側壁面の左半面に配置されたバーナーは右旋回流を発生させるようにして、高温還元燃焼室で外側のガスが天井側に寄せられてから中央部分に降下するように、構成されたものが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のボイラ燃焼室を適用した倒立形低NOxボイラは、液状、ガス状、微粉状の炭素燃料を燃焼させ、燃焼ガスから熱エネルギを回収する火力ボイラで、燃焼ガス中に含まれるNOxの量を抑制することができる。また、本実施態様の倒立形低NOxボイラ1は、燃焼灰を容易に処理することができるので、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料もボイラ燃料として用いることができる。
【0057】
さらに、高温還元燃焼室のバーナーの燃焼用空気に水蒸気を吹き込むため、燃焼温度が低下してNOxの発生を抑制し、高温還元燃焼室の高温還元雰囲気中に蒸気を吹き込むと水性ガス化反応により未燃炭素から水性ガスを生成させて燃焼効率を向上させる。また、特に高温還元燃焼室においてバーナーの火炎軸の周りに所定の方向に回転する旋回流を発生させることにより、低温酸化燃焼室において、燃焼ガスの流速分布がより均質になり、燃焼効率が向上し、ボイラ出口煤塵量が低減する。
【0058】
なお、横型など他の形式のボイラにおいても、高温還元燃焼室と低温酸化燃焼室を備えて、1450℃から1550℃で燃焼させる高温還元燃焼室の出口で1200℃から1350℃に冷却してから2段燃焼用空気を供給して低温燃焼させるようにすれば、上記低NOxボイラと同様に、炉壁など熱交換面への融着が少なく、バナジウムアタックのないバナジウム酸化物を生成して、熱効率が良く寿命の長いボイラとすることができる。
【0059】
このように、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法および本発明のボイラ燃焼室は、低NOxボイラにおいて、ボイラ出口におけるNOx含有量および煤塵含有量をさらに低減することにより環境汚染を防止して、より大きなエネルギー供給を可能にする。
【符号の説明】
【0060】
1 ボイラ燃焼室
2 高温還元燃焼室
2A,2B 側壁面
3 低温酸化燃焼室
4 絞り部
5 バーナー
6 耐火材
7 2段燃焼用空気ノズル
8 灰排出部
9 冷却部
10 2段燃焼部
11 ガス流出口
12 ガス通路
13 蒸気過熱器管
14 エコノマイザ
15 灰排出口
20 蒸気配管
21A,21B 中心縦線
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油系残渣であるオイルコークスのような難燃性固体燃料を燃料として用いるボイラにおける、低NOx・低煤塵燃焼方法及びボイラ燃焼室に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の保全や燃料コストの節約の観点から、たとえば、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることがある。しかし、オイルコークスなどの石油系残渣燃料を燃焼させる場合は、煤塵の発生量が増加する。
出願人は、既に、高温還元燃焼室と低温酸化燃焼をする2段燃焼室を備えることによって、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることができるようにした低NOxボイラを開発している。
【0003】
本願出願人により開示された低NOxボイラは、高温還元燃焼室をボイラ燃焼室の最上流部に形成し、その下流に内周壁を水冷壁構造とし側壁に2段燃焼用空気ノズルを取り付けた2段燃焼室を設けたボイラで、高温還元燃焼室において還元雰囲気中で燃料を1次燃焼させ、高温還元燃焼室で発生した燃焼ガスを高温還元燃焼室開口の絞り部を通して2段燃焼室に供給し、2段燃焼室において未燃燃料を過剰空気中でより低温で燃焼させる低温酸化燃焼を行わせるものである。
【0004】
高温還元燃焼室において燃料過濃の状態で平均約1450〜1550℃の高温で燃焼を行わせ、絞り部を通って2段燃焼室に侵入してきた燃焼ガスに2段燃焼用空気ノズルから新たに燃焼用空気を供給して酸化雰囲気とし、2段燃焼室の燃焼ガス排出位置で1100℃程度になるような比較的低温で燃焼を完結させる。
炭素燃料の燃焼におけるNOxの発生量は、還元雰囲気中では高温になるほど少なく、酸化雰囲気中では低温になるほど少なくなるので、炭素燃料を高温還元燃焼と低温酸化燃焼の2段階に燃焼させることで、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0005】
本願出願人が開示した特許文献1には、新しい形式の低NOxボイラであって、炉底に溜まる燃焼灰を連続排出できるようにして長期の連続運転を可能にした倒立形低NOxボイラが記載されている。
特許文献1に開示された倒立形低NOxボイラは、ボイラ燃焼室の最上部に高温還元燃焼室を備え、その下方に絞り部を介して接続された2段燃焼室を備えたもので、上部の高温還元燃焼室において還元雰囲気中で燃料を1次燃焼させ、下部の2段燃焼室においてより低温の酸化雰囲気中で未燃燃料を燃焼させる低温酸化燃焼を行わせる。
【0006】
ボイラ燃焼室内で発生する燃焼灰は、2段燃焼室の底に設けた灰排出機構により運転を妨げずに随時燃焼灰を排出することができるので、ボイラ運転を長期に亘って継続することができる。また、仮に底に設けた開口から外気が侵入したとしても、既に燃焼は完結しているため、低NOx低煤塵燃焼性能を保つことができる。
特許文献1で開示した低NOxボイラは、オイルコークスなどの石油系残渣を低NOxかつ低煤塵で燃焼させるボイラとして利用することができる。
【0007】
また、特許文献2は、バーナーの周囲に設けた2次バーナーに供給する2次燃料に水噴霧または水蒸気噴霧を混合して冷却し、比較的低温で緩慢な燃焼をさせることでNOxの生成を抑制するようにした、低NOxバーナーの構造を開示するものである。
低NOxバーナーの2次バーナーは、本来、燃料を希釈状態で低温燃焼させて低NOx化を図るものであるが、ボイラなどのように炉内温度が高い場合には2次燃料が希釈される前に燃焼が開始されるため、NOxの生成を抑制することができなかった。特許文献2に開示されたバーナーは、2次バーナーの周囲から水噴霧などを行って2次燃料を積極的に冷却または希釈することにより、低NOx化を実現するものである。
【0008】
なお、特許文献2における低NOxバーナーは、バーナーの周囲に2次バーナーを配置するので、特許文献1に記載のボイラのように、バーナーにおいて発生する燃焼ガスを2次バーナーのある別室に搬送してボイラ制御の下でより低温状態で完燃させる方式を採用することはできない。
【0009】
高温還元燃焼室と2段燃焼室である低温酸化燃焼室とを備えた低NOxボイラは、石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用することができる。特に、特許文献1に示されたような高温還元燃焼室を上に低温酸化燃焼室を下に垂直に配置した倒立形低NOxボイラは、さらに燃焼灰の連続排出が容易なため、連続稼働が可能で、劣質燃料を燃料として燃焼効率の良い低NOx・低煤塵のボイラを構成する。
【0010】
なお、特許文献2に示されたように、2段燃焼用の2次バーナーに供給される2次燃料に蒸気噴霧を混合することにより冷却して、比較的低温で緩慢な燃焼をさせることでNOxの生成を抑制できることが知られている。しかし、特許文献2は、蒸気を1次バーナーに供給する技術的思想を示唆あるいは教示するものではない。
さらに、オイルコークスのような難燃性固体を燃焼させる場合、従来のボイラでは、バーナーに水蒸気を混入すると燃焼性能が低下するため、蒸気噴霧等の混入は採用されることがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−139176号公報
【特許文献2】特開平09−101006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用する低NOxボイラにおいて、さらに効果的にNOxと煤塵の発生を抑制することができる低NOx・低煤塵燃焼方法および低NOx・低煤塵ボイラ燃焼室を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法は、燃料と1次燃焼空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、高温還元燃焼室と絞り部を介して接続された2段燃焼用空気吹き込みノズルを備える低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室において、1次燃焼用空気に水蒸気を加えて高温還元燃焼室における燃焼温度を低下させると共に水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させることにより、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制することを特徴とする。
【0014】
従来普通の技術的思想に基づく限り、石油残渣などの劣質固体燃料を使用する場合に1次燃焼部分に水蒸気を混入することはなかった。これに対して、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法においては、高温還元燃焼雰囲気に蒸気を吹き込むことにより、ボイラ出口におけるNOxの量を低減させると共に、水性ガス化反応(C+H2O → CO+H2)によって未燃炭素と水蒸気から生成する水性ガスを燃料として利用して燃焼効率を向上させ、かつボイラで発生する煤塵量を減少させることができる。
【0015】
また、高温還元燃焼室のバーナーは、高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置されることが好ましく、さらに、バーナーが設置された室内側から見て側壁面の右半面に配置されたバーナーは室内側から見てバーナー軸の周りを反時計方向に回る左旋回流を発生させ、左半面に配置されたバーナーは右旋回流を発生させるように構成されることが好ましい。
このようなバーナー構成を用いると、高温還元燃焼室で外側のガスが天井側に寄せられてから中央部分に降下するようになって、室内で発生する気流が燃料や燃焼ガスを室内に留めるように働くので、高温還元燃焼室における燃料や燃焼ガスの滞留時間が十分確保され、水性ガスが十分に生成されて、NOxや煤塵を効果的に減少させることができる。
【0016】
また、上記課題を解決するため、本発明のボイラ燃焼室は、燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備えた低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室であって、バーナーに設けられた1次燃焼用空気の供給配管に水蒸気の供給配管を接続すると共に、バーナーは高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、側壁面に配置されたバーナーは高温還元燃焼室内の燃焼ガスをバーナーの外側からバーナーの上を通って高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させるように構成されることを特徴とする。
【0017】
なお、低温酸化燃焼室において、絞り部と2段燃焼用空気吹き込みノズルの間に冷却部を形成して、2段燃焼時の燃料ガス温度を低下させるようにすることが好ましい。
また、本発明のボイラ燃焼室は、低温酸化燃焼室が高温還元燃焼室の下に設けられた、倒立形低NOxボイラの燃焼室であることが好ましい。
本発明のボイラ燃焼室を用いることにより、高温還元燃焼雰囲気に蒸気を吹き込んで、ボイラ出口におけるNOx量を抑制し、水性ガス化反応により生成する水性ガスを利用して燃焼効率を向上させると共にボイラで発生する煤塵量を減少させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法によれば、特にオイルコークスなどの劣質燃料を燃料として利用する低NOxボイラにおいて、さらに効果的にNOxと煤塵の発生を抑制することができる。また、本発明のボイラ燃焼室において、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法を実施することにより、ボイラ燃焼室内におけるNOxと煤塵の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1実施形態のボイラ燃焼室を備えた倒立形低NOxボイラの概略構成図である。
【図2】図1に示した倒立形低NOxボイラの一部切り欠き一部透視透視図である。
【図3】高温還元燃焼室におけるバーナーの配置例を説明する概略透視図である。
【図4】アシスト蒸気の有無とNOxおよびCO発生量の関係を示すグラフである。
【図5】アシスト蒸気の有無と燃焼効率の関係を示すグラフである。
【図6】バーナーにおける旋回流の効果を試験したケースの例を示すバーナー配置図である。
【図7】図6のケース1における燃焼室内の気流解析結果を示す図面である。
【図8】図6のケース2における燃焼室内の気流解析結果を示す図面である。
【図9】図6の各ケースにおける燃焼室内の流線図である。
【図10】図6のケース1における燃焼室内の温度分布例を示す図面である。
【図11】図6のケース2における燃焼室内の温度分布例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し実施形態に基づいて本発明について説明する。なお、図番の異なる図面においても、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、理解の容易化を図った。
図1は本発明の1実施形態に係る低NOxボイラのボイラ燃焼室を説明する概略機能図であり、図2はその一部切り欠き一部透視斜視図、図3はボイラ燃焼室の高温還元燃焼室におけるバーナーの配置例を説明する透視図である。本実施態様では、倒立形低NOxボイラを対象としている。
【0021】
本実施態様のボイラ燃焼室を備えた倒立形低NOxボイラは、縦型のボイラ燃焼室1の上端部に高温還元燃焼室2、下段に低温酸化燃焼室3が形成されており、高温還元燃焼室2と低温酸化燃焼室3は高温還元燃焼室2の絞り部4で接続している。絞り部4は、燃焼室水平断面積を20〜50%減少させるような開口を持つことが好ましい。
高温還元燃焼室2には、側壁にバーナー5が設けられており、内壁は、たとえば1450℃から1550℃など、操業中の炉内温度に耐える耐火材6で覆われている。
【0022】
高温還元燃焼室2に設置するバーナー5は、図3に概念的に示すように、複数のバーナー5が、対向する2側面に1列または複数列で水平に並列し、かつ対向するバーナー5から放出される火炎の軸が交差しないように対向千鳥配置で設置することが好ましい。各バーナー5にはそれぞれ図示しない空気供給ノズルが設けられていて、流量を調整した燃焼用空気が供給される。さらに、空気供給ノズルには、蒸気配管20が接続されていて燃焼用空気に蒸気を混入できるようになっている。
図1において、実線で表したバーナー5は、図中向こう側の側壁面2Aに設備され手前側に火炎を噴出するもので、点線で表したバーナーは、図中手前側の側壁面2Bに設備され向こう側に火炎を噴出するものである。
【0023】
バーナー5には、図示しないが、旋回羽根など周知の適宜なスワラーを備えた旋回流発生機構が設けられていて、燃焼用空気を旋回させることによって燃焼ガスが旋回流を形成するようになっている。旋回流の旋回方向はスワラーの空気放出方向により決まる。
本実施態様のボイラでは、図3に示すように、バーナー5が設けられた側壁面2A,2Bを中心縦線21A,21Bで左右2つに分けると、高温還元燃焼室2の内側から見て右の半面に設けられたバーナー5では、気流が部屋の内側から見て火炎軸の周りを反時計方向に回る左旋回流が発生し、左半面に設けられたバーナー5では右旋回流が発生するように構成されている。
【0024】
このようにバーナー5を配置し旋回流の方向を選択すると、各バーナー5で発生する旋回流は、バーナー5の下にあった燃料と燃焼ガスをバーナー5の外側部分に送り、バーナー5外側のガスをバーナー5の上に送り、さらにバーナー5の上のガスをバーナー5の内側部分に送る。したがって、バーナー群全体として、高温還元燃焼室2内の燃料と燃焼ガスを天井の中央部分に集めて室内に滞留する時間を長期化する作用を有するようになる。
【0025】
なお、図では、バーナー5が対向する2つの側壁面2A,2Bのそれぞれに4基ずつ、各段2基が2段に設けられた例を示しているが、これに限るものではなく、バーナー5は対向2側壁面2A,2Bのそれぞれに2基以上設けて、旋回流により、燃料や燃焼ガスを高温還元燃焼室2の天井側に持ち上げて中心方向に搬送するような向きに、旋回方向を選択することにより、本実施例の作用効果をもたらすことができる。
【0026】
再び、図1と図2を参照すると、低温酸化燃焼室3には、冷却部9と2段燃焼部10と灰排出部8とが形成される。
冷却部9は、低温酸化燃焼室3の入り口になる絞り部4と側壁に設けられた2段燃焼用空気ノズル7の間に形成され、高温還元燃焼室2から絞り部4を介して供給される高温の燃焼ガスを冷却する。
【0027】
冷却部9は、冷却部の形状や側壁の水管について設計することにより、冷却面の熱交換効率、冷却面の面積、水流の温度と量と流速、熱ガスの温度と量と流速などに基づいて、所定の冷却能力を得ることができる。したがって、条件に応じた冷却部9を形成させることにより、燃焼ガスの温度低下量を調整することができる。
【0028】
2段燃焼部10は、側壁に蒸気発生用の水管が配された水冷壁構造となっている。2段燃焼用空気ノズル7は、冷却部9の最下部に接する2段燃焼部10の上端部分の対向する2面の炉壁のそれぞれに、水平に1段または複数段に並んで配置され、冷却部9で冷却された燃焼ガスに新たに空気を供給して、未燃のガスを低温の酸化雰囲気中で2段燃焼させる。
【0029】
低温酸化燃焼室3の底部には、灰排出部8が形成される。灰排出部8は、燃焼室の炉底を鉛直線に対して45°以下、望ましくは35°程度の傾斜面で形成し、傾斜面の下端に灰排出機構を配設したもので、炉底に溜まった燃焼灰を簡素な構造で効率的に炉外に排出することができる。ボイラ燃焼室1内では、上方で高温、下方で低温の温度勾配を持ち、底部では既に燃焼が完結しているため、炉底に開口を設けても、燃焼を乱す物質が炉内に侵入して燃焼ガスの流れを乱すことも少なく、また炉内を負圧に保つことで炉内に発生する有毒なガスが開口から溢流して作業者に害をなすこともない。
【0030】
2段燃焼部10の下方側面に、ガス通路12に通じるガス流出口11が設けられている。ガス通路12は、燃焼ガスを、蒸気過熱器管13とエコノマイザ14を通した上で、後処理工程に搬送する。蒸気過熱器管13とエコノマイザ14が配設されたガス通路の底部にも、燃焼ガスに搬送されてきた燃焼灰を沈降させて排出する灰排出口15が備わっている。
【0031】
本実施態様の倒立形低NOxボイラのボイラ燃焼室1は、ボイラ燃焼室1の上端部に燃料と空気を供給して高温還元雰囲気で燃焼させ、燃焼を上端部から下方に向かって進行させ、ボイラ燃焼室1の中程においてさらに空気を供給してより低温の酸化雰囲気中で未燃ガスの燃焼を完結させ、燃焼ガスを下部側方から取り出すものである。
【0032】
本実施態様のボイラ燃焼室は、ボイラ燃焼室1の上端部における高温還元雰囲気中に水蒸気(アシスト蒸気)を吹き込んで水性ガスを発生させることと高温還元燃焼をするためのバーナー5で発生させる旋回流の回転方向を所定の方向にして低温酸化燃焼室内の燃焼ガスの流速分布及び温度分布を均質にして、燃焼効率をより向上させNOx発生量と未燃分をより抑制することに特徴がある。
【0033】
本実施態様の倒立形低NOxボイラで石油系残渣などの劣質燃料を使用するときは、まず、高温還元燃焼室2におけるバーナー5に燃料と空気を導入して燃焼を開始する。高温還元燃焼室2では、空気の導入を抑制し、空気比を1以下の、たとえば0.6〜0.8程度の還元雰囲気に維持して、燃料に応じて選択されるたとえば1450℃から1550℃の範囲内の高温で燃料を燃焼させる。
【0034】
高温還元燃焼室2での燃焼で高温になった燃焼ガスは、新たに投入される燃料により燃焼ガスが増加するため高温還元燃焼室2から押し出されて絞り部4を通って低温酸化燃焼室3に流下する。
低温酸化燃焼室3に流下した燃焼ガスは、冷却部9を通る間に1200℃から1350℃の範囲内の温度まで冷却され、2段燃焼部10に供給される。
【0035】
2段燃焼部10では、2段燃焼用空気ノズル7から比較的低温の2段燃焼用空気が十分に供給され空気比が1.1程度になり、燃焼ガスの未燃分が酸化雰囲気内で完全に燃焼される。
2段燃焼部10で燃焼が完結する燃焼ガスは、2段燃焼部10内壁の水管と熱交換して1000℃から1100℃程度まで温度低下し、燃焼室の下側側面に設けられたガス流出口11からガス導通路12に流出する。ガス導通路12では、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14においてボイラ給水と熱交換を行った後、後処理工程に流出する。
【0036】
倒立形低NOxボイラでは、炭素燃料が高温還元燃焼室2において高温還元雰囲気で初期燃焼し、さらに2段燃焼室3において低温酸化雰囲気で2段燃焼する。
炭素燃料の燃焼におけるNOxの発生量は、燃焼温度と空気比に強く依存している。空気比1未満すなわち還元雰囲気下では高温になるほどNOx発生量が少なく、空気比1以上の酸化雰囲気下では低温になるほどNOx発生量が少ない。
【0037】
倒立形低NOxボイラでは、この特性を利用して、高温還元燃焼室2の高温還元雰囲気下で中間生成物と反応して窒素に還元されるようにしてフューエルNOxの生成を抑制し、低温酸化燃焼室3においてガス温度が下がった段階で2段燃焼用空気を投入して未燃分を完全に燃焼させることでサーマルNOxの生成を抑制するから、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0038】
本実施態様の倒立形低NOxボイラでは、バーナー5の空気導入部に蒸気配管20からアシスト蒸気を供給することにより、NOx濃度をより低減させる。
図4は、アシスト蒸気を導入しない倒立形低NOxボイラとアシスト蒸気を注入した本実施態様の倒立形低NOxボイラとで、ボイラ出口におけるNOx濃度と一酸化炭素COの濃度を比較した実験の結果を示すグラフである。
【0039】
ボイラ出口におけるNOxは、アシスト蒸気がない場合に平均208ppmであったのが、アシスト蒸気の混入量が大きくなるにつれて低減し、アシスト蒸気がオイルコークスに対して20重量%混入されたときに186ppmと約10%低減しており、アシスト蒸気の混入によりNOxが低減することが分かる。
【0040】
図5は、倒立形低NOxボイラにおいて、アシスト蒸気を加えない場合とアシスト蒸気を20重量%混入した場合について、高温還元燃焼における燃焼効率ηcを測定した結果を示すグラフである。グラフは高温還元燃焼ゾーンにおける空気比を横軸においている。
ボイラにおける燃焼効率が99%以上であれば満足できる水準とされている。
図5によれば、アシスト蒸気を混入しない場合でも空気比0.7以上では燃焼効率が99%以上を達成するが、アシスト蒸気を混入したものでは、さらに広い空気比領域で100%に近い燃焼効率が得られていて、アシスト蒸気の効果が明らかである。
【0041】
また、高温還元燃焼室2の出口におけるCO濃度が、アシスト蒸気が無いときに6,370ppmであったのに対して、アシスト蒸気を20重量%混入すると9,040ppmに上昇したことから、アシスト蒸気の混入により水性ガス化反応が生じて未燃炭素がガス化したことが推定される。
【0042】
なお、図4に表れているように、排気処理装置に導かれるボイラ出口におけるCO濃度は、アシスト蒸気の有無によっては有意な差が見られず、アシスト蒸気を混入してもボイラ出口におけるCO濃度が50ppm前後の水準を維持してそれ以上高くなることはない。これは、水性ガス化反応により増加したCOが低温酸化燃焼により効率よく燃焼して消尽していることを示唆するものである。
【0043】
本実施態様の倒立形低NOxボイラは、高温還元燃焼室2におけるバーナー5を対向千鳥配置とし、さらに各バーナー5における旋回流の旋回方向をシミュレーション解析により最適化している。ここで、対向千鳥配置されたバーナーとは、図3に示すように、複数のバーナーが、対向する2側面に1列または複数列で水平に並列し、かつ対向するバーナーから放出される火炎の軸が交差しないように設置されたものをいう。
【0044】
図6は、バーナーにおける旋回流の効果をシミュレーションした代表的な3つのケースを示すバーナー配置図である。図は、ボイラ燃焼室1の上部燃焼室である高温還元燃焼室2におけるバーナー5の配置と、各バーナー5の旋回流方向、還元燃焼ガス冷却部9を挟んで配置される低温酸化燃焼部10の2段燃焼用空気ノズル7を含む図面となっている。実線で示されたバーナーは図中向こう側の壁面に設置されるもの、点線で示されたバーナーは手前の壁面に設置されるものを示す。図では、バーナーが8基の場合について示すが、2基以上適宜な数のバーナーについても、旋回流の効果を敷衍することができる。
【0045】
図6(a)は、第1のケース(ケース1)であって、バーナーは高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、バーナーが設置された側壁面において側壁面に対向して見て右側の半面に配置されたバーナーのうち上段のものは側壁面に対向して見て反時計方向に旋回する左旋回流、下段のものは右旋回流、また左半面に配置された上段のバーナーは右旋回流、下段は左旋回流を発生させるように、構成されたものである。ケース1では、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナー上下のガスをバーナー群の中心に向かって集めるように流れると推定される。
【0046】
図6(b)は、第2のケース(ケース2)であって、対向千鳥配置になったバーナーは、バーナーが設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーが左旋回流、左半面に配置されたバーナーが右旋回流を発生させて、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナーの外側から天井側に寄せられて、天井側から中央部分に降下するように流れる傾向が出るものと推定される。
図6(c)は、第3のケース(ケース3)であって、対向千鳥配置になったバーナーは、設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーが右旋回流、左半分に配置されたバーナーが左旋回流を発生させて、旋回流により発生する燃焼ガスの気流は、バーナーの上から外側に、また外側からバーナーの下を通って中心部に流れる傾向が出るものと推定される。
【0047】
図7は、図6に示したケース1におけるガス流速について、シミュレーションによる解析結果を示す図面で、ボイラ燃焼室1を幅方向に4等分に分割した分割面上におけるガスの流れ方向と流速を矢の向きと矢の長さで表現したものである。
図7(a)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の1/4の位置に想定した面上におけるガス流分布、図7(b)は、ボイラ燃焼室1の中央断面上におけるガス流分布、図7(c)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の3/4の位置に想定した面上におけるガス流分布を示すガス流速線図である。
【0048】
また、図8は、図6に示したケース2におけるガス流速について、シミュレーションによる解析結果を示す図面である。図8(a)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の1/4の位置、図8(b)は、ボイラ燃焼室1の中央断面、図8(c)は、ボイラ燃焼室1の側壁から炉幅の3/4の位置に想定した面上におけるそれぞれのガス流分布を示すガス流速線図である。
【0049】
図7と図8を比較すると、図7(ケース1の場合)では低温酸化燃焼部10の中央におけるガス流速が大きく側部のガス流速が小さく、幅方向のガス流速の偏りが大きいのに対して、図8(ケース2の場合)では、低温酸化燃焼部10の中央におけるガス流速が比較的遅く、また幅方向のガス流速の偏りが小さくより均等化している。また、高温還元燃焼部2におけるガス流速はケース2の方が遅く、反応時間を長くとることができる。
したがって、ボイラ燃焼室におけるガス流速に関しては、ケース2を採用することが好ましいと言うことができる。
なお、ケース3の場合は比較するまでもない大きな偏りが生じていた。
【0050】
図9は、高温還元燃焼室2内のバーナーからボイラ燃焼室1の出口までの燃料や燃焼ガスの移動経路をたどった流線図である。図9(a)は図6におけるケース1について描かれた流線図、図9(b)は図6のケース2に関する流線図、図9(c)は図6のケース3に関する流線図である。
【0051】
図9(c)は、バーナーにおける旋回流の向きがバーナーの下側から中央部に集めて上側に搬出するようになったケース3における燃焼ガス流線図であるが、運転時には1次燃焼ガスが高温還元燃焼室2内で循環流を形成した後に開口から低温酸化燃焼室3に進出する。図に表されたとおり、低温酸化燃焼室3における燃焼ガスの流路が外側に偏っていて平均化しておらず、室内に滞留部が生じていることが分かる。
【0052】
図9(a)は、図6のケース1における燃焼ガス流線図であるが、高温還元燃焼室2における循環流が減少し、低温酸化燃焼室3内の流線分布は少し偏在している。
図9(b)は、図6のケース2における燃焼ガス流線図であるが、低温酸化燃焼室3における流線は室の隅まで比較的均質に広がっていて、高い効率で燃焼することが期待される。
したがって、ボイラ燃焼室における燃焼ガスの流線図から見た場合にも、ケース2を採用することが好ましいと言うことができる。
【0053】
図10は図6のケース1におけるシミュレーションで得られたボイラ燃焼室内の温度分布を示す図面、図11は図6のケース2におけるボイラ燃焼室内の温度分布例を示す図面である。両図において、(a)図はボイラ燃焼室の端面からボイラ燃焼室の幅(炉幅)の1/4だけ離れた位置における垂直断面上の温度分布状態を示す。また、(b)図はボイラ燃焼室の中央における垂直断面上の温度分布を示し、(c)図はボイラ燃焼室の端面から炉幅の3/4だけ離れた位置における垂直断面上の温度分布状態を示す。
【0054】
図10(ケース1)と図11(ケース2)を比較すると、ケース1では、ボイラ燃焼室の端面からの距離によって温度分布の形態が大きく変動し、さらに温度の等高線も出入りが激しいのに対して、ケース2では、高温還元燃焼室内の温度がより高くNOxの抑制に効果がある上、低温酸化燃焼室内の燃焼ガス温度の分布状態がボイラ燃焼室の端面からの距離に伴う変動が小さく、低温酸化燃焼室の空間を十分活用して効率的に2次燃焼させていることが分かる。
したがって、ボイラ燃焼室内の温度分布の観点からも、ケース2のバーナー配置を採用することが好ましいことが分かった。
【0055】
これら解析の結果から、図6のケース2におけるバーナー群の旋回流の旋回方向割り当て方法が最も好ましいことが裏付けられた。すなわち、バーナーが高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、設置された側壁面の右半面に配置されたバーナーは左旋回流を発生させるように、また側壁面の左半面に配置されたバーナーは右旋回流を発生させるようにして、高温還元燃焼室で外側のガスが天井側に寄せられてから中央部分に降下するように、構成されたものが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のボイラ燃焼室を適用した倒立形低NOxボイラは、液状、ガス状、微粉状の炭素燃料を燃焼させ、燃焼ガスから熱エネルギを回収する火力ボイラで、燃焼ガス中に含まれるNOxの量を抑制することができる。また、本実施態様の倒立形低NOxボイラ1は、燃焼灰を容易に処理することができるので、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料もボイラ燃料として用いることができる。
【0057】
さらに、高温還元燃焼室のバーナーの燃焼用空気に水蒸気を吹き込むため、燃焼温度が低下してNOxの発生を抑制し、高温還元燃焼室の高温還元雰囲気中に蒸気を吹き込むと水性ガス化反応により未燃炭素から水性ガスを生成させて燃焼効率を向上させる。また、特に高温還元燃焼室においてバーナーの火炎軸の周りに所定の方向に回転する旋回流を発生させることにより、低温酸化燃焼室において、燃焼ガスの流速分布がより均質になり、燃焼効率が向上し、ボイラ出口煤塵量が低減する。
【0058】
なお、横型など他の形式のボイラにおいても、高温還元燃焼室と低温酸化燃焼室を備えて、1450℃から1550℃で燃焼させる高温還元燃焼室の出口で1200℃から1350℃に冷却してから2段燃焼用空気を供給して低温燃焼させるようにすれば、上記低NOxボイラと同様に、炉壁など熱交換面への融着が少なく、バナジウムアタックのないバナジウム酸化物を生成して、熱効率が良く寿命の長いボイラとすることができる。
【0059】
このように、本発明の低NOx・低煤塵燃焼方法および本発明のボイラ燃焼室は、低NOxボイラにおいて、ボイラ出口におけるNOx含有量および煤塵含有量をさらに低減することにより環境汚染を防止して、より大きなエネルギー供給を可能にする。
【符号の説明】
【0060】
1 ボイラ燃焼室
2 高温還元燃焼室
2A,2B 側壁面
3 低温酸化燃焼室
4 絞り部
5 バーナー
6 耐火材
7 2段燃焼用空気ノズル
8 灰排出部
9 冷却部
10 2段燃焼部
11 ガス流出口
12 ガス通路
13 蒸気過熱器管
14 エコノマイザ
15 灰排出口
20 蒸気配管
21A,21B 中心縦線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、該高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備える低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室において、前記1次燃焼用空気に水蒸気を加えて前記高温還元燃焼室における燃焼温度を低下させると共に水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させて、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制する低NOx・低煤塵燃焼方法。
【請求項2】
前記バーナーは、前記高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、前記側壁面に配置されたバーナーは前記高温還元燃焼室内の燃焼ガスを前記バーナーの外側から前記バーナーの上を通って前記高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させて、前記高温還元燃焼室における燃焼ガスの滞留時間を増加させる、請求項1記載の低NOx・低煤塵燃焼方法。
【請求項3】
燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、該高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備えた低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室であって、前記1次燃焼用空気の供給配管に水蒸気の供給配管を接続すると共に、前記バーナーは前記高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、前記側壁面に配置されたバーナーは前記高温還元燃焼室内の燃焼ガスを前記バーナーの外側から前記バーナーの上を通って前記高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させるように構成された、ボイラ燃焼室。
【請求項4】
前記低温酸化燃焼室において、前記絞り部と前記2段燃焼用空気吹き込みノズルの間に冷却部を形成して、2段燃焼時の燃料ガス温度を低下させる、請求項3に記載のボイラ燃焼室。
【請求項5】
前記低温酸化燃焼室が前記高温還元燃焼室の下に設けられた、請求項3または4に記載のボイラ燃焼室。
【請求項1】
燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、該高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備える低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室において、前記1次燃焼用空気に水蒸気を加えて前記高温還元燃焼室における燃焼温度を低下させると共に水性ガス化反応により未燃炭素をガス化させて、NOx発生を抑制すると共に煤塵の発生を抑制する低NOx・低煤塵燃焼方法。
【請求項2】
前記バーナーは、前記高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、前記側壁面に配置されたバーナーは前記高温還元燃焼室内の燃焼ガスを前記バーナーの外側から前記バーナーの上を通って前記高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させて、前記高温還元燃焼室における燃焼ガスの滞留時間を増加させる、請求項1記載の低NOx・低煤塵燃焼方法。
【請求項3】
燃料と1次燃焼用空気を供給するバーナーを備えた高温還元燃焼室と、該高温還元燃焼室と絞り部を介して接続され2段燃焼用空気吹き込みノズルを備えた低温酸化燃焼室とを有するボイラ燃焼室であって、前記1次燃焼用空気の供給配管に水蒸気の供給配管を接続すると共に、前記バーナーは前記高温還元燃焼室の対向する側壁面に分離して対向千鳥配置で設置され、前記側壁面に配置されたバーナーは前記高温還元燃焼室内の燃焼ガスを前記バーナーの外側から前記バーナーの上を通って前記高温還元燃焼室の中央部に搬送する旋回流を発生させるように構成された、ボイラ燃焼室。
【請求項4】
前記低温酸化燃焼室において、前記絞り部と前記2段燃焼用空気吹き込みノズルの間に冷却部を形成して、2段燃焼時の燃料ガス温度を低下させる、請求項3に記載のボイラ燃焼室。
【請求項5】
前記低温酸化燃焼室が前記高温還元燃焼室の下に設けられた、請求項3または4に記載のボイラ燃焼室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−107825(P2012−107825A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257682(P2010−257682)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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