説明

体内埋込型液体ポンプシステム

【課題】超音波の発生位置が多少ずれても、液体の噴出能力を高い状態に維持することができる体内埋込型液体ポンプシステムを提供する。
【解決手段】ポンプ11が、液体を溜める貯留部15と、貯留部15に連通する液体の流出口16とを有している。貯留部15は、内径が流出口16に向かって徐々に小さくなるテーパー状の形状を成している。超音波発生手段12が、流出口16とは反対側に向かって凸状を成す超音波素子を駆動させて超音波を発生させる構成を有し、超音波を、貯留部15を通して流出口16または流出口16の近傍に収束可能に発生させるようになっている。超音波透過材17が、貯留部15と超音波発生手段12との間に設けられている。供給タンク13が、貯留部15に液体を供給可能に設けられ、注入用チューブ14が、流出口16に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内埋込型液体ポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を利用して液体を噴出させる装置としては、超音波発信源と、超音波発信源から放射された縦波超音波が完全反射して、予め規定された焦点に収束する形状を成す反射面を有する固体部材と、縦波超音波によって液体が噴出するよう、その焦点付近に構成された噴出孔とで構成されているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−218100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の超音波を利用した液体噴出装置では、固体部材に対する超音波発信源の設置位置が少しでもずれると、超音波発信源から放射された縦波超音波の反射波が焦点に収束せず、噴出孔からの液体の噴出能力が大きく低下してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、超音波の発生位置が多少ずれても、液体の噴出能力を高い状態に維持することができる体内埋込型液体ポンプシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムは、体内局所に液体を注入するための体内埋込型液体ポンプシステムであって、液体を溜める貯留部と、前記貯留部に連通する前記液体の流出口と、超音波を、前記貯留部内に照射して前記流出口から前記液体を吐出させる超音波発生手段とを、有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムは、超音波発生手段から発生した超音波により、貯留部に溜められた液体中に音響流を発生させ、その音響波により液体を流出口から吐出させるものである。音響流は、超音波の伝搬過程で駆動力を得ることができ、流出口または流出口の近傍に向かって液体の流れを生じさせるため、流出口から液体を噴出させることができる。超音波発生手段による超音波の発生位置が多少ずれても、音響流による流出口に向かう液体の流れは維持されるため、液体の噴出能力は大きく低下せず、液体の噴出能力を高い状態に維持することができる。
【0008】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムで、前記超音波発生手段は、平面状の超音波素子を有する構成、前記流出口とは反対側に向かって凸状または凹状を成す超音波素子を有する構成、前記流出口とは反対側に向かって凸状または凹状を成す面を有する音響レンズを介して、平面状の超音波素子を有する構成、または、リングアレイ状の超音波素子を有する構成を有していることが好ましい。超音波素子の材料は、圧電セラミックスのPZTや圧電単結晶のPMN−PTなどの圧電材料や、CMUTs(capacitive micromachined ultrasonic transducers:静電形マイクロマシーン超音波トランスデューサ)などが好ましい。この場合、超音波発生手段により、超音波を、貯留部内に収束可能に発生させることができる。
【0009】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムで、前記貯留部は、内径が前記流出口に向かって徐々に小さくなる円錐形状の内腔を有することが好ましい。この場合、貯留部の内部形状により、音響流により生じる液体の流れを、流出口に向かって収束させることができる。貯留部の内面の形状は、円錐形状に限定されず、例えばテーパー状、漏斗状、多角錐状、直方体状であってもよい。
【0010】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムで、前記貯留部は、前記流出口とは反対側に超音波透過材を有することが好ましい。超音波透過材の部材は、音響インピーダンスが使用する液体や皮膚に近似する部材が好ましく、具体的にはポリエチレンなどが好ましい。この場合、超音波透過材により、貯留部に溜められた液体内で、音響流を選択的に発生させることができる。
【0011】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムは、前記貯留部に前記液体を供給可能に設けられた供給タンクと、前記流出口に取り付けられた注入用チューブとを、有していてもよい。この場合、液体が噴出しても、供給タンクから貯留部に液体を補充することができ、繰り返しまたは連続して液体を噴出させることができる。また、供給タンクにシリコーン樹脂、ポリイミド、ゴムなどから成る軟質性薄膜を備えていてもよい。この場合、注射等を用いて体外から供給タンクに液体を補充することができる。さらに、注入用チューブの先端を所望の位置に配置することにより、所望の位置に液体を噴出させることができる。
【0012】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムは、注入用チューブまたは流出口に、一定以上の圧力になるまで開放しないバルブを有していてもよい。この場合、不必要に薬剤などの液体を投与することを防止することができる。
【0013】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムは、貯留部の周囲および超音波発生手段の周囲に磁石を設けてもよい。この場合、超音波の発生位置を精度よく合わせることができ、液体の噴出能力をより高い状態に維持することができる。
【0014】
本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムで、前記貯留部は体内に設置可能に設けられ、前記超音波発生手段は体外に設置可能に設けられていることが好ましい。特に、本発明に係る体内埋込型液体ポンプシステムで、前記液体は薬剤から成り、前記貯留部、前記流出口、前記供給タンクおよび前記注入用チューブは、前記体内局所に前記注入用チューブの先端から前記液体を注入できるよう、体内に埋め込み可能に設けられ、前記超音波発生手段は体外から前記超音波を発生可能に設けられていることが好ましい。この場合、薬剤の注入が必要とされる体内局所に、繰り返しまたは連続して薬剤を注入することができる。また、超音波発生手段で体外から超音波を発生させるだけで、体内局所に容易かつ任意に薬剤を注入することができる。超音波発生手段による超音波の発生位置が多少ずれても、薬剤の噴出能力を高い状態に維持することができるため、超音波発生手段を体外に、他の構成を体内に配置しても、薬剤の注入を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超音波の発生位置が多少ずれても、液体の噴出能力を高い状態に維持することができる体内埋込型液体ポンプシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の体内埋込型液体ポンプシステムの(a)使用状態を示す側面図、(b)ポンプを示す断面図、(c)供給タンクを示す斜視図、(d)ポンプを示す斜視図、(e)ポンプおよび供給タンクを示す斜視図である。
【図2】図1に示す体内埋込型液体ポンプシステムの(a)ポンプを示す正面図、(b)ポンプ、供給タンクおよび注入用チューブを示す断面図である。
【図3】図1に示す体内埋込型液体ポンプシステムの超音波発生手段を示す断面図である。
【図4】図1に示す体内埋込型液体ポンプシステムの超音波発生手段による音場測定の(a)測定装置を示す全体構成図、(b)測定に使用する座標系を示す斜視図である。
【図5】図5に示す体内埋込型液体ポンプシステムの超音波発生手段による音場測定の、超音波発生手段からハイドロフォンへ超音波を直接照射したときの(a)XZ平面(Y=0mm)での結果を示すグラフ、(b)XY平面(Z=0mm)での結果を示すグラフである。
【図6】図5に示す体内埋込型液体ポンプシステムの超音波発生手段による音場測定の、超音波発生手段とハイドロフォンとの間にモルモット皮膚を設置したときの(a)XZ平面(Y=0mm)での結果を示すグラフ、(b)XY平面(Z=0mm)での結果を示すグラフである。
【図7】図1に示す体内埋込型液体ポンプシステムの、モルモットに埋め込んだときの駆動実験の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図7は、本発明の実施の形態の体内埋込型液体ポンプシステムおよび体内埋め込み型薬剤供給システムを示している。
【0018】
日本人における遺伝性難聴の大半は、内耳に発現する膜タンパク質に起因する。これまでの薬剤投与手段は、鼓膜に微小な切開を行い、薬剤を蝸牛の正円窓上に塗布するものであった。これに対し、図1に示すように、体内埋込型液体ポンプシステム10は、変異タンパク質に改善の効果を促す物質を恒常的に内耳へと投与するため、体内に電気的な動力を持たず、蝸牛への薬剤投与を行う体内埋め込み型薬剤供給システムから成っている。
【0019】
図1に示すように、体内埋込型液体ポンプシステム10は、ポンプ(Pump)11と超音波発生手段(Ultrasonic transmitter)12と供給タンク(Medicine Storage tank)13と注入用チューブ(Tube)14とを有している。ポンプ11は、薬剤を溜める貯留部15と、貯留部15に連通する薬剤の流出口(Outlet)16とを有している。貯留部15は、内径が流出口16に向かって徐々に小さくなるテーパー状の形状を成している。超音波発生手段12は、流出口16とは反対側に向かって凸状を成す超音波素子を駆動させて超音波(Ultrasound)を発生させる構成を有している。
【0020】
供給タンク13は、貯留部15に薬剤を供給可能に設けられ、注入用チューブ14は、流出口16に取り付けられている。なお、供給タンク13は、少なくとも外壁の一部が、外部から薬剤を注入可能に、シリコーン樹脂製等の軟質性薄膜から成っていることが好ましい。また、供給タンク13は、内部が陰圧になり薬剤吐出の妨げになるのを防ぐため、体積が変化するフレキシブルバルーン等の陰圧防止機構を有していてもよい。注入用チューブ14および、貯留部15と供給タンク13とを連通する流路は、逆流防止バルブ等の逆流防止機構を有していてもよい。
【0021】
側頭部における乳突蜂巣の骨内に作成することができる空間は、短径10mm×長径20mm×奥行15mmの円筒形である。この空間を利用して、ドーナツ型の供給タンク13とポンプ11とが設置されている。供給タンク13に充填した薬剤は、体外に設置した超音波発生手段12から超音波が照射されたときのみ、ポンプ11から注入用チューブ14を通って蝸牛に送出されるようになっている。
【0022】
体内埋込型液体ポンプシステム10では、ポンプ11の駆動力として音響流が使用される。音響流は、超音波の伝搬過程で駆動力を得るものであり、超音波を収束して照射するため、焦点付近で加速流となる細いビーム状の流れが発生する。なお、音響流をポンプ11の貯留部15の内部で選択的に発生させるため、ポンプ11の底面部、すなわち流出口16とは反対側の貯留部15の開口に、超音波透過材(The film of ultrasonic transmission)17が取り付けられている。超音波透過材17は、音響インピーダンスが皮膚に近いポリエチレンから成っている。
【0023】
図2に示すように、ポンプ11は、外枠として真鍮を用いており、供給タンク13と貯留部15との間は、シリコーンチューブ18にて接続されている。また、薬剤を蝸牛へと送出するため、注入用チューブ14として、薄肉のポリイミドチューブを流出口16に接続した。ポンプ11の底面部には、超音波透過材17として、膜厚12μmのポリエチレン膜が貼り付けられ、体外から照射された超音波を透過させるようになっている。
【0024】
図3に示すように、超音波発生手段12は、凹面形状を成し、超音波を収束させるようになっている。中心の穴は、加工する際の原点位置を確認するために存在している。部材には、圧電素子として、PZT(製品名「N−61」、NECトーキン株式会社製)を用いた。図3に示す具体的な一例では、超音波発生手段12は、共振周波数が約3.3MHZであり、14.7mm先に焦点(Focal point)を有している。
【0025】
体内埋込型液体ポンプシステム10は、超音波発生手段12から発生した超音波により、貯留部15に溜められた薬剤中に音響流を発生させることができる。この音響流は、超音波の伝搬過程で駆動力を得ることができ、超音波が収束する流出口16または流出口16の近傍に向かって薬剤の流れを生じさせるため、流出口16から注入用チューブ14を通って薬剤を噴出させることができる。超音波発生手段12による超音波の発生位置が多少ずれても、音響流による流出口16に向かう薬剤の流れは維持されるため、薬剤の噴出能力は大きく低下せず、薬剤の噴出能力を高い状態に維持することができる。
【0026】
体内埋込型液体ポンプシステム10は、蝸牛に、繰り返しまたは連続して薬剤を注入することができる。また、超音波発生手段12で体外から超音波を発生させるだけで、蝸牛に容易かつ任意に薬剤を注入することができる。超音波発生手段12による超音波の発生位置が多少ずれても、薬剤の噴出能力を高い状態に維持することができるため、超音波発生手段12を体外に、他の構成を体内に配置しても、安定した薬剤の注入を行うことができる。
【0027】
[音場の測定]
図4に示すように、超音波発生手段12の超音波焦点位置を調べるため、音場の測定を行った。水中において超音波発生手段12からパルス波を送信し、測定にはハイドロフォン(Hydrophone;NHR−0500)を用いた。超音波発生手段12の設計した焦点位置を原点とし、超音波発生手段12の長軸方向をZ軸、水平方向をX軸、垂直方向をY軸とする。皮膚透過による超音波強度の減衰・焦点位置の移動を測定するため、超音波発生手段12からハイドロフォンへ超音波を直接照射した場合、および、超音波発生手段12とハイドロフォンとの間に厚さ約3mmのモルモット皮膚(Skin)を設置した場合の2つについて、音場の測定を行った。
【0028】
水中に超音波発生手段12のみを設置したときの音場測定結果を図5に、超音波発生手段12とハイドロフォンとの間にモルモット皮膚を設置したときの音場測定結果を図6に示す。図5および図6に示すように、超音波発生手段12の設計通り、超音波発生手段12から14.7mm付近に焦点があることが確認された。また、皮膚を透過させることによる超音波焦点位置の移動はなく、皮膚を透過することにより、超音波強度(Intensity)が約15W/cmから約10W/cmと減衰することが確認された。
【0029】
[駆動実験]
図7に示すように、ポンプ11、供給タンク13および注入用チューブ14を、ホルマリン固定されたモルモット側頭部に埋め込み、体内埋込型液体ポンプシステム10の駆動実験を行った。供給タンク13の内部が陰圧になり液体吐出の妨げになることを防ぐため、供給タンク13の外枠内に、体積が変化するフレキシブルバルーンを設置した。モルモットの皮膚と超音波発生手段12との間に超音波ゲル(Gel)を塗布することにより空気を除去し、超音波発生手段12を皮膚上に設置して、駆動電圧175V、3.3MHzの正弦波形で駆動した。ポンプ11の流出口16には、注入用チューブ14として、外径3.1mm、内径3.0mm、長さ30mmのポリイミドチューブを接続した。
【0030】
体内埋込型液体ポンプシステム10の駆動実験の結果、電圧をかけて超音波発生手段12を駆動させたとき、注入用チューブ14の先端から液体が吐出されるのが確認された。このことから、超音波を体内に伝搬させ、体内に設置したポンプ11の貯留部15の内部に、駆動力となる音響流を発生させることが可能であることが確認できた。体内埋込型液体ポンプシステム10は、体内に駆動部を持たないことから、バッテリーの交換等を必要とせず、MRI検査など強磁場環境下で誤作動をおこすこともない。さらに、システム自体に駆動部を持たないため、破損しにくい等の利点も考えられる。
【符号の説明】
【0031】
10 体内埋込型液体ポンプシステム
11 ポンプ
12 超音波発生手段
13 供給タンク
14 注入用チューブ
15 貯留部
16 流出口
17 超音波透過材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内局所に液体を注入するための体内埋込型液体ポンプシステムであって、
液体を溜める貯留部と、
前記貯留部に連通する前記液体の流出口と、
超音波を、前記貯留部内に照射して前記流出口から前記液体を吐出させる超音波発生手段とを、
有することを特徴とする体内埋込型液体ポンプシステム。
【請求項2】
前記貯留部は体内に設置可能に設けられ、前記超音波発生手段は体外に設置可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の体内埋込型液体ポンプシステム。
【請求項3】
前記超音波発生手段は、平面状の超音波素子を有する構成、前記流出口とは反対側に向かって凸状または凹状を成す超音波素子を有する構成、前記流出口とは反対側に向かって凸状または凹状を成す面を有する音響レンズを介して、平面状の超音波素子を有する構成、または、リングアレイ状の超音波素子を有する構成を有していることを特徴とする請求項1または2記載の体内埋込型液体ポンプシステム。
【請求項4】
前記貯留部は、内径が前記流出口に向かって徐々に小さくなる円錐形状の内腔を有することを特徴とする請求項1、2または3記載の体内埋込型液体ポンプシステム。
【請求項5】
前記貯留部は、前記流出口とは反対側に超音波透過材を有することを特徴とする請求項1、2、3または4記載の体内埋込型液体ポンプシステム。
【請求項6】
前記貯留部に前記液体を供給可能に設けられた供給タンクと、
前記流出口に取り付けられた注入用チューブとを、
有することを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の体内埋込型液体ポンプシステム。


【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68136(P2013−68136A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206641(P2011−206641)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】