説明

体温計及び体温計用断熱材

【課題】 核心温(中枢温)に近似した体温を短時間かつ簡易に測定できる体温計及びそれに用いる断熱材を提供する。
【解決手段】 検温部と、前記検温部及び検温部周辺の体表面を覆うための断熱材と、前記検温部で得られた温度信号を変換し温度情報とする制御部と、温度情報を表示する温度表示部とを備えた体温計。本発明の体温計を用いて、体温を測定する際、検温部1が、粘着剤層5を介して断熱材2で覆われ、人体3に密着されているとともに、断熱材2が粘着剤層5を介して人体3に密着されている。更に、本発明の体温計用として最適な、特定の物性値を有する体温計用断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温を測定する体温計、及びそれに用いる体温計用断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
体温としては、以下に詳細に述べる核心温(中枢温、深部体温)を知ることが医学的に重要である。
恒温動物は重要臓器のある体幹部深部の温度を一定に保ち、細胞・酵素の至適温度を維持することによりその生理機能を保持している。生体の体温は核心部と外郭部に区別され、核心部は生体内部の組織であり循環調節や環境への熱放散の影響を受けない。外郭部は四肢、皮膚・粘膜表面やその近傍の組織であり皮膚血流や発汗作用及びふるえによる熱産生があり、周囲環境との熱交換を行い、核心部と比較して変動的な熱勾配を持っている。この核心部の温度のことを、核心温(中枢温)と言う。体温測定において、被測定者や患者の、病状や状態を確認するには核心温を測定することが重要である。
【0003】
臨床では直腸や食道部に体温計を差し込んで、手術中や重篤な患者の核心温(中枢温)を測定しているが、この方法は侵襲的であり、器官を傷つける恐れがあり、被験者が麻酔等で昏睡している時のみに測定が限定される。
また、非侵襲的な方法としては外頚動脈血流で環流されている鼓膜温の測定が用いられ、内頚動脈にて環流される視床下部に近い体温として採用されている。
また近年は熱流補償型の深部体温計が発売され、一部の病院等で用いられている。これは、プローブの体表側とプローブ外側にそれぞれサーミスタを設け、両者の温度差を検出し、温度差が零になるようにプローブ外側のヒーターを制御して熱流を零とすることにより理想的な断熱材として体内深部の温度を測定している。ただし、体温が外部環境より低い場合は測定できず、また装置も大型で専門知識を有する者の操作が必要であった。
【0004】
一方、従来から、一般家庭での体温測定、乳幼児や寝たきり老人の体温監視、術中の体温管理及び周術期における体温管理のため、簡易に体表面温度として水銀式体温計や電子式体温計で腋窩にて体温を測定したり、その他の体表面で末梢体温を測定したりしている。これは、水銀式体温計や電子式体温計を腋窩に挟み込み、10秒〜10分程度保持した後に、体温を測定するものである。この場合は、腋窩部は本来的に核心温(中枢温)より0.4℃前後低いが、水銀式では、これを便宜的に体温として計測していた。また、電子式では得られた温度を演算しているが、平衡状態温度を短時間で予測したものであり、腋窩では核心温(中枢温)が容易には、測定不可能であった。
【0005】
また、特許文献1には、生体外表面の温度情報から熱伝導方程式に従い、深部温度を算出する電子体温計が開示されている。これは、温度を測定する温度測定手段と、加熱温度を変更可能な可変温度加熱手段と、前記加熱温度と前記温度測定値とに基づいて被測定体内部の温度を推定する内部温度推定手段と、を備えた電子体温計であるが、高精度な加熱手段を必要とするため装置が複雑大型になり高価である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−75262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、核心温(中枢温)に近似した体温を短時間かつ簡易に測定できる体温計及びそれに用いる断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、皮膚表面からの対流、輻射、発汗による蒸散等の熱移動を、体表面に貼付した断熱材により遮断し、皮膚表面を核心温(中枢温)近傍まで昇温させることにより、核心温(中枢温)にほぼ近い体温を測定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、請求項1記載の発明の体温計は、検温部と、前記検温部及び検温部周辺の体表面を覆うための断熱材と、前記検温部で得られた温度信号を変換し温度情報とする制御部と、温度情報を表示する温度表示部とを備えたことを特徴とするものである。
請求項2記載の発明の体温計は、請求項1記載の発明の体温計において、前記断熱材が厚さ方向の圧縮強さ(50%)56N/cm以下、熱伝導率0.12W/(m・K)以下、大きさが9cm以上、及び、厚さが0.5mm〜50mmのシート状であることを特徴とするものである。
請求項3記載の発明の体温計は、請求項1又は2記載の発明の体温計において、断熱材の検温部側の片面に粘着剤層もしくは接着剤層が形成されたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の発明の体温計は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の体温計において、検温部と温度表示部とが有線又は無線で接続されたことを特徴とするものである。
請求項5記載の発明の体温計は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明の体温計において、温度の上限及び/又は下限を設定し、その間を設定温度とする温度域設定部と、検温された温度と設定温度とを比較する演算回路と、検温された温度が設定温度外であれば警報を発する警報発生部を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項6記載の発明の体温計は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明の体温計であって、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する子機、並びに、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、異常温度を知らせる警報発生部、及び、子機からの受信機能を含む送受信機能部を有する親機からなることを特徴とするものである。
請求項7記載の発明の体温計は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明の体温計であって、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する複数の子機、並びに、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、子機ごとに設定可能な異常温度を知らせる警報発生部、子機からの受信機能を含む送受信機能部、及び、子機選択切換部を有する親機からなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の体温計用断熱材は、厚さ方向の圧縮強さ(50%)56N/cm以下、熱伝導率0.12W/(m・K)以下、大きさが9cm以上、及び、厚さが0.5mm〜50mmのシート状であることを特徴とするものである。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられる検温部は、通常、センサー部とも言われるものであり、センサー本体が熱容量の小さなチューブもしくはフィルムで覆われたものである。センサー本体は温度が測定可能なものであれば特には限定されず、センサー本体の材質としては、サーミスタ、サーモカップル、測温抵抗体(Pt)などが挙げられる。これらのうち、サーミスタは繰り返し使用での信頼性が高く、また、小型でもあり、正確でもあるため、特に好ましい。また、センサー部に繋がるリード線部分も、上記の熱容量の小さなチューブもしくはフィルムで覆われていてもよい。また、センサー本体が熱容量の小さい樹脂キャップで覆われていてもよい。
また、センサー部及びリード線をフィルムでカバーしておき、このフィルム及び後述する断熱材を、感染予防のために、被測定者ごとに交換して使用するようにしても良い。
【0014】
上記の検温部、すなわち、センサー部分は、装着後に出来るだけ短時間で核心温(中枢温)を測定開始できることが望ましい。センサー部分の熱容量が大きすぎると、いかに皮膚表面を断熱しても核心温部(37℃前後)からの熱伝導のみでセンサー部を加熱するので、センサー部の昇温は非常に遅くなる。またセンサー部が嵩張る形状であると、断熱材を貼り付けても内部に余分な空間が発生したり、外気への漏れとなる皺が発生したり、腋窩装着時の異物感が強くなるので、出来るだけセンサー部は小型で薄いことが好ましく、平面に近い形状が好ましい。
【0015】
本発明で用いられる断熱材は、検温部及び検温部周辺の体表面を覆うために用いられるものである。
図1に、本発明の体温計を用いて、体温を測定する際の、検温部と断熱材と人体との関係を示す一例の模式的な断面図を示した。検温部1が、粘着剤層5を介して断熱材2で覆われ、人体3に密着されているとともに、断熱材2が粘着剤層5を介して人体3に密着されている。符号4は、検温部1に繋がるリード線であり、これは、ドライバー回路(図示せず)に繋がっている。なお、上記の断熱材2の片面に設けられた粘着剤層5については、詳しくは後述する。
【0016】
断熱材は、測定しようとする、体表面の形状に沿うことが望ましいため、適度に柔軟なシート状であることが好ましい。そのため、厚さ方向の圧縮強さ(50%)は56N/cm以下が好ましく、更に好ましくは8〜16N/cmである。このような材料としては、例えば、ポリエチレン発泡体やウレタン発泡体等が挙げられる。なお、上記圧縮強さは、断熱材を厚さ方向、即ち、使用時の体表面又は検温部に対して垂直になる方向に50%圧縮した時の圧縮抵抗力である。
また、皮膚表面の熱を逃がさないようにするために、その熱伝導率は、0.12W/(m・K)以下が好ましく、0.06W/(m・K)が更に好ましく、0.035〜0.05W/(m・K)が特に好ましい。このような材料としては、例えば、熱伝導率が0.04W/(m・K)のポリスチレン発泡体や、熱伝導率が0.12W/(m・K)のポリプロピレン発泡体が挙げられる。発泡体としては、独立気泡のものが断熱性能の点から好ましい。
【0017】
本発明で用いられる断熱材の大きさを決めるには、被測定者ごとまた同一被測定者でも状態により、動脈の位置や流量、皮膚や骨の厚さが変わり、皮膚からの熱の放散の状況はさらに室温の影響を受け、かなりバラツキがあることを考慮しなければならない。外気の影響を受けることなく、また皮膚表面からの熱の放散(対流、放射、汗による蒸散)の影響を排除するには皮膚表面を一定面積以上外気と遮断する必要がある。しかし、腋窩部は立体的な体表面部位のために、広範囲に完全にシールして断熱することは困難であり、断熱材そのものが熱伝導・熱放射の媒体となる。このため、断熱材が大きすぎると、むしろ外気の流入する隙間が発生しやすくなることもあり、断熱材の寸法、形状は適切な大きさの範囲が存在することになる。
【0018】
腋窩中心部(通常、水銀式体温計で測定する部位)では、後述の実施例で示すように、5cm四方(25cm)から8cm四方(64cm)が昇温時間の短縮、測定値の安定性から特に好ましいものであった。また、腋窩中心より4cm下部では10cm四方以上(100cm以上)が昇温時間の短縮、測定値の安定性から特に好ましいものであった。これらのことから、断熱材の大きさは、9cm以上が好ましく、9cm〜225cmが更に好ましく、16〜64cmが特に好ましい。
また、断熱材の厚みに関しては、15mm以上にしても極端な変化はなく、むしろ厚すぎることによる装着時の違和感が大きくなるので、0.5〜50mmが好ましく、0.5〜5mmが更に好ましい。
【0019】
断熱材の形状は、シート状であれば特に限定されず、例えば、正方形、長方形、円形など、特に限定されないが、装着時の違和感が少なくなるように、また、浮きなく接着するように、コーナー部や辺部が適度な曲率を有するようにするのが好ましい。
【0020】
断熱材の固定方法は、皮膚と断熱材が出来るだけ全面的に密着する方法が好ましい。これは、断熱材の熱流量が極小であっても、皮膚と断熱材が全面的に密着していなければ隙間より空気の対流や汗の蒸散による熱移動が発生し、結果的に体表から熱移動してしまうからである。
【0021】
このため、断熱材の検温部側の片面に粘着剤もしくは接着剤層を全面もしくは外周部に設け、皮膚表面に押圧無しで断熱材を継続的に保持し、センサー近傍での内外気の流動を遮断するようにすることが好ましい。
【0022】
この場合、この粘着剤もしくは接着剤層に離型紙もしくは離型フィルムを仮接着しておくのが好ましい。このようにすると、保管、ハンドリング、粘着剤成分の安定に有効である。
【0023】
この場合、粘着剤もしくは接着剤としては皮膚刺激の少ないものであれば、特に限定されず、例えば、アクリル系、アクリル酸系、ゴム系、シリコン系のものが挙げられる。アクリル酸エステルにアクリル酸を共重合したものが好ましく、更にアスコルビン酸(ビタミンC)が含まれたものが特に好ましい。この場合は、貼付時の肌荒れ等を低減するとともに肌の美白というプラス効果が期待される。
【0024】
さらに、離型紙もしくは離型フィルムに耳部を設け剥離し易くしたものが好ましい。又は、離型紙もしくは離型フィルムにスリット(割り線)を入れ、剥がしやすくかつ所定の部位に仮固定して位置決めしたのちに本格固定し易いものが好ましい。
【0025】
また、断熱材の固定は粘着剤もしくは接着剤を用いることの代わりに、断熱材表面をフィルムやシートで覆い、その内部を真空吸引することにより大気圧との差圧で断熱材を保持することでも可能である(すなわち、大きな吸引パッドで断熱材を押さえつける吸盤方式)。
【0026】
また、断熱材の人体への付着面の反対側の面に、例えば、アルミニウム箔のような熱輻射能の小さいものを存在させても良い。
物体間の輻射熱の相互の授受は物体の絶対温度の4乗とその表面の輻射能及び立体角との積にて行われるため、輻射熱における断熱効果は周りの環境に影響される。したがって冬場のような周囲の物体の温度が低いときに、上記のように構成することにより、輻射熱が奪われることを防止する効果が期待できる。
【0027】
本発明でいう制御部は、検温部で得られた温度信号を変換し温度情報とする機能を有するものであり、具体的には、例えば、A/D変換部、演算回路、メモリ回路、制御回路などを包含するものである。
【0028】
次に、請求項1記載の発明の体温計の回路構成の一例を示すブロック図を図2に示す。
【0029】
本発明の体温計10は、断熱材12で覆われた検温部11、制御回路13、ドライバー回路14、A/D変換部15、演算回路16、温度表示部17、メモリ回路18、電源回路19、電源スイッチ20を備える。
制御回路13は、CPU等からなり、体温計全体の制御を行う。ドライバー回路14は、制御回路13からの信号に基づいて検温部11を駆動する。ドライバー回路14からの出力信号はA/D変換部15においてアナログ信号からデジタル信号に変換されて演算回路16に入力される。演算回路16は、A/D変換部からのデジタル信号に基づいて演算処理を行い、処理結果を制御回路13に出力し、温度表示部17で体温を表示する。また、演算回路16は温度等の測定値をメモリ回路18に記憶させる。電源回路19は電池等を含み、制御回路13及びドライバー回路14に対して電力を供給する。電源スイッチ20は電源の投入・切断を行う。
【0030】
本発明において、検温部と温度表示部とは、有線又は無線で接続される。ここで、接続されるとは、両者が、間接的に、例えば、制御回路、ドライバー回路、A/D変換部、演算回路などを介して、接続される場合も含むものとする。検温部と温度表示部とが有線で接続される場合は、リード線で接続される。リード線は、断熱材と皮膚の間を通すタイプ、もしくは断熱材にリード線の貫通孔を設けたタイプの両方が可能である。
【0031】
本発明の体温計においては、更に、温度の上限及び/又は下限を設定し、その間を設定温度とする温度域設定部と、検温された温度と設定温度とを比較する演算回路と、検温された温度が設定温度外であれば警報を発する警報発生部を備えることが好ましい。
【0032】
これを、図3に示した、本発明の体温計30の回路構成の一例を示すブロック図で説明する。なお、体温計30は、図2に示した体温計10と異なるところは、温度域設定部21と警報発生部22が設けられたことだけであり、その他は体温計10と同一であり、体温計10と同一の符号で示されるものは、同一の機能を有している。従って、異なるところを主として説明し、その他の説明は省略することにする。検温部11で検知された温度信号が、A/D変換部15で変換され、演算回路16において、温度域設定部21で設定されたデータと比較される。次いで、温度表示部17に体温が表示されるとともに、この温度が設定温度外であれば、警報発生部22から警報が発生される。警報としては、例えば、光、音、振動などが挙げられる。
【0033】
また、本発明の体温計においては、熱容量の大きな演算回路、温度表示部及び電源回路は、リード線等により検温部(センサー部)より3〜200cm離した構造とするのが、好ましく、より好ましくは3〜60cmである。
【0034】
また、本発明の体温計は、以下に示す、検温部と子機と親機との関係のように構成しても良い。子機とは、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有するものである。このような機能部を有する子機としては、具体的には、制御回路、ドライバー回路、A/D変換部、演算回路、電源回路及び無線発信機能部を有するものが挙げられる。また、子機は、温度表示部を有していても良いが、これは必須ではない。一方、親機は、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、異常温度を知らせる警報発生部、及び、子機からの受信機能を含む送受信機能部を有するものである。
【0035】
また、本発明の体温計は、以下に示す、検温部と子機と親機との関係のように構成しても良い。子機は、複数からなり、それぞれが、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部、及び、親機へデータを送信する機能部を有するものである。また、子機は、温度表示部を有していても良いが、これは必須ではない。一方、親機は、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、子機ごとに設定可能な異常温度を知らせる警報発生部、子機からの受信機能を含む送受信機能部、及び、子機選択切換部を有するものである。
【0036】
子機と親機とを含む構成の本発明の体温計40の回路構成の一例を示すブロック図を図4に示す。図4は、子機と親機をワイヤレスとし、子機で温度信号をデジタル信号に変換後、親機へデータを送信するタイプの体温計40を示したものであり、図4(a)は検温部と子機を示し、図4(b)は、親機を示す。なお、図4において、図2又は図3に示したものと、同一の符号で示されるものは、同一の機能を有している。従って、異なるところを主として説明し、その他の説明は省略することにする。なお、図4において、上記のように、図2又は図3に示したものと、同一の機能を有するものを、同一の符号で示すようにしたので、結果的に、図4(a)中で示された符号と図4(b)中で示された符号が、同一となる場合があるが、このものは、当然ながら、同一物を指すものではなく、それぞれ異なるものを指している。
【0037】
図4(a)において、破線で囲んで示した部分は、子機41を示す。子機41は、断熱材12で覆われた検温部11に繋がっており、制御回路13、ドライバー回路14、A/D変換部15、演算回路16、温度表示部17、メモリ回路18、電源回路19、電源スイッチ20、及び、子機送受信部23を備える。子機送受信部23は、親機とデータを送受信する機能を有するものである。なお、温度表示部17の具備は必須ではない。
【0038】
図4(b)に示したように、親機42は、制御回路13、温度表示部17、電源回路19、電源スイッチ20、温度域設定部21、警報発生部22、親機送受信部24及び子機選択切換部25を備える。親機送受信部24は、子機とデータを送受信する機能を有するものであり、子機選択切換部25は複数の子機を選択して切換える機能を有するものである。なお、複数の子機を使用しない場合には、子機選択切換部25は取り付ける必要がない。
【0039】
体温計40においては、子機41中で、温度信号がデジタル信号に変換された後、子機送受信部23から親機42に発信され、親機送受信部24で受信される。そして、そのデータが、温度域設定部21で設定されたデータと比較される。次いで、温度表示部17に体温が表示されるとともに、この温度が設定温度外であれば、警報発生部22から警報が発生される。
【0040】
検温部と子機とはリード線で結合するが、リード線の長さは3cm〜200cmが好ましく、3cm〜60cmがより好ましい。このようにすると、腋窩に位置させる検温部と子機をリード線で離すことができるので、測定時に被測定者が仰臥した状態で測定するのに邪魔にならない。また子機が患者の寝返り時に邪魔になりにくい。
【0041】
また、検温部と子機とは無線で接続されてもよい。
また、子機と親機の接続は、有線でも無線でもよい。
【0042】
また、本発明において、検温部の温度信号は、有線又は無線にて子機へ伝達するもの以外に、子機を小さくして断熱材の内側に収まるようにし、リード線を無くし、無線通信により親機へ温度データを送信するように構成しても良い。
【0043】
前述のように、子機には体温の表示機能を有する液晶等の温度表示部を設置してもよい。このようにすると、被測定者が自分自身で体温を確認することが容易になるという利点があるとともに、また親機なしでも子機単独での使用が可能となる。
【0044】
また、子機には、ベッドルーム等に設置可能なフック部もしくは磁石、クランプ等を有するようにしてもよい。このようにすると、子機が落下したり身体の下に潜り込んで破損すること等を防止するのに有効である。
【0045】
上記の本発明の体温計においては、子機から親機へのデータ送信は1secから24Hrに1回、定まったパターンで発信されるように構成するのが好ましい。
【0046】
また、子機と親機は1:1対応を基本とするが、請求項7記載の体温計のように、子機複数を1台の親機で監視可能に構成してもよい。こうすると、集中管理が可能となる。
【0047】
また、本発明の体温計において、リード線、子機及び親機に金属蒸着・メッキ、金属筐体、ステント(網状金属メッシュ)にて電磁波のシールドを施し、手術室内での電気メスによる電磁波障害を低減してもよい。
【0048】
また、本発明の体温計においては、大規模病院等で被測定者の病室から監視するナースセンター等が同一フロア内であっても数十m以上離れていたり、壁があって子機の微弱電波が遮断され届きにくい場合は、病室内のナースコール回線を経由させることも可能である。この場合は、ナースコール回線を使用し電送するための変換・増幅器を設置する。この場合の構成の一例を図4(a)の子機41の図に、付け加えて示した。この図は、子機からの信号が変換・増幅器26を経由し、ナースコール回線へ繋がるところを示したものである。なお、ナースコール回線への接続は、子機から接続され親機まで電送される方式となる。
【0049】
なお、総務省令電波法施行規則第6条の微弱無線局(3mでの電界強度が500μV/m以下)は免許が不要であり、空中線電力が0.01W以下の特定小電力無線局は医療用テレメータ伝送用として400MHz帯が生体信号の伝送に用いられている。ただし、この出力では壁等があると電波が届かない可能性がある。
【0050】
本発明の体温計で体温が測定される部位は、腋窩部及びその近辺が望ましいが、その他の身体部分でも良い。
【0051】
また、本発明の断熱材は、本発明の体温計用の断熱材として特に有用なものであり、厚さ方向の圧縮強さ(50%)56N/cm以下、熱伝導率0.12W/(m・K)以下、大きさが9cm以上、及び、厚さが0.5mm〜50mmのシート状の断熱材である。
【発明の効果】
【0052】
請求項1記載の発明の体温計は、検温部及び検温部周辺の体表面を覆うための断熱材が用いられているので、体温測定に際して、皮膚表面からの対流、輻射、発汗による蒸散等の熱移動を体表面に貼付した断熱材により遮断し、皮膚表面を核心温(中枢温)近傍まで昇温させるため、従来、特殊で大型な熱流補償型体温計か、侵襲的な直腸温度・食道温度のプローブ測定、もしくは定点測定の鼓膜温度でしか測定できなかった核心温(中枢温)に近似した体温を、短時間かつ簡易に測定できる。
また、本発明の体温計を用いると、簡易に長時間連続的に核心温(中枢温)に近い体温を計測することができる。
請求項2記載の発明の体温計は、用いる断熱材が特定の物性等を有するものに限定されているので、核心温(中枢温)に、より近似した体温を短時間かつ簡易に測定できる体温計である。
【0053】
請求項3記載の発明の体温計は、断熱材の検温部側の片面に粘着剤層もしくは接着剤層が形成されているので、皮膚と断熱材が全面的に密着し、皮膚と断熱材の隙間より空気の対流や汗の蒸散による熱移動が発生しにくく、体表から熱移動してしまうことがないので、核心温(中枢温)に、より近似した体温を短時間かつ簡易に測定できる体温計である。
請求項4記載の発明の体温計は、検温部と温度表示部とが有線又は無線で接続されているので、検温部に及ぼす熱容量の大きな温度表示部の影響が少なくなるため、核心温(中枢温)に、より近似した体温を短時間かつ簡易に測定できる体温計である。
請求項5記載の発明の体温計は、設定温度外であれば警報を発する警報発生部を備えているので、体温の異状をより確実に把握できる。
【0054】
請求項6記載の発明の体温計は、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する子機、並びに、デジタル体温表示をする温度表示部、異常温度を知らせる警報発生部、及び、子機からの受信機能を含む送受信機能部を有する親機を備えているので、被測定者から離れたところから、被測定者の体温がわかるため、誰もが容易に核心温近似の体温を継続的に測定、監視することができる。また被測定者の体温の異常を24時間監視、警報発信することが可能となる。
【0055】
請求項7記載の発明の体温計は、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する複数の子機、並びに、デジタル体温表示をする温度表示部、子機ごとに設定可能な異常温度を知らせる警報発生部、子機からの受信機能を含む送受信機能部、及び、子機選択切換部を有する親機を備えているので、被測定者から離れたところから、被測定者の体温がわかるため複数の被測定者の体温の集中管理が容易に行える。また、親子式の信号伝達を行うことにより、誰もが容易に核心温近似の体温を継続的に測定、監視することができる。また被測定者の体温の異常を24時間監視、警報発信することが可能となる。
本発明の体温計用断熱材は、特定の物性値等を有するので、本発明の体温計のための断熱材として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【実施例1】
【0057】
(実施例1)
(1)本発明の体温計の製造
図4に示した回路構成を有する、親子式のワイヤレス体温計を以下のようにして製造した。検温部はサーミスタを使用し、リード線を用いて延長し子機と接続した。断熱材は、ポリエチレン発泡体シート(積水化学工業社製、商品名「ボラーラ」、厚さ方向の圧縮強さ(50%)14N/cm、熱伝導率0.0396W/(m・K)、厚み1.55mm、発泡倍率15倍)を用い、その片面にビタミンC配合粘着剤層を形成した。
上記の、リード線が接続されたサーミスタを、上記の、ポリエチレン発泡体シートに形成された粘着剤層面に固定した。ポリエチレン発泡体シートの大きさが、それぞれ30mm×30mm、40mm×40mm、50mm×50mm、80mm×80mm、100mm×100mm、120mm×120mmのものを用いて、断熱材の大きさのみが異なる6種類の体温計を製造した。なお、サーミスタは、上記の大きさのポリエチレン発泡体シートのほぼ中央部に位置するようにした。
【0058】
なお、上記のポリエチレン発泡体シートの形状は、正方形に近い形状であるが、腋窩部への装着時に、よりフイットし易く違和感が少なくなるように、その四つのコーナー部及び四つの辺は多少の曲率を有するようにされた。例えば、50mm×50mmのサイズのものの場合であれば、図5に示すように、四つのコーナー部の曲率半径は8mmに、四つの辺の曲率半径はそれぞれ100mmに、相対する2辺間の最大距離は56.35mmにされた。
【0059】
(2)体温計の性能評価
得られた体温計の性能評価を以下のように行った。
男性のボランティアの左腕腋窩部(通常の体温計を挟み込む位置)に本発明の体温計の検温部(サーミスタ)を貼り付け、発泡体シート全体が皮膚に密着するように押さえつけた。被測定者は椅子に座り、腕を楽に揃えた状態で安静状態を保った。腋窩部は、通常の体温計による測定時のように圧迫した状態とはしなかった。睡眠時の腕を体側に揃えた状態のイメージを保った。検温部(サーミスタ)の貼り付け直後に、被測定者の右耳部の鼓膜温度を耳式体温計(テルモ社製、ミミッピEM−30CPLB、又は、オムロン社製、耳温計S−30)で計測するとともに、本発明の体温計の測定温度を親機より読み取った。引き続いて、本発明の体温計の親機温度と耳式体温計による鼓膜温の測定を1分ごとに繰り返し、30分間測定した。なお、測定時の室温は、25℃に保った。
この測定は、日を変えて一回目と二回目の二度行った。
【0060】
(3)評価結果
上記(2)で得られた測定結果の一例を図6に示した。これは、第1回目の測定の際の、ポリエチレン発泡体シートの大きさが、50mm×50mmの場合における、本発明の体温計と耳式体温計で測定された温度を示すグラフである。ここで両体温計で測定された温度が一致する時間(図6であれば、5分)を、一致時間と言うことにする。また、本発明の測定値において、温度が最高温度−0.2℃となる時の時間(図6であれば、11分)を平衡時間と言うことにする。
上記(2)で得られたそれぞれの測定結果から、それぞれ一致時間及び平衡時間を求め、図7に、本発明の体温計で用いた断熱材(ポリエチレン発泡体シート)の大きさと一致時間、平衡時間との関係を示すグラフを示した。図7より、断熱材の大きさは、50mm×50mmから80mm×80mm程度が、特に、良好であることがわかる。
【0061】
(比較例1)
ポリエチレン発泡体シート及び粘着剤を用いなかったことの他は、実施例1と同様にして、体温計を作製し、体温計の検温部(サーミスタ)より5mm離れた部分を8×60mmの粘着テープを用いて腋窩部に固定したことの他は、実施例1と同様にして性能評価した。
この場合の測定結果は、図8に示すように、30分間測定しても測定温度の最高値が耳式体温計の測定温度よりも約0.3℃低く、両者の測定値が一致することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の体温計は、核心温(中枢温)を測定するために直腸温度、食道温度もしくは簡易的に鼓膜温度を測定していた分野;一般家庭での体温測定、乳幼児や寝たきり老人の体温監視、術中の体温管理及び周術期における体温管理;家畜の繁殖、飼育、病気の監視における体温管理等に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の体温計を用いて、体温を測定する際の、検温部と断熱材と人体との関係を示す一例の模式的な断面図。
【図2】本発明の体温計の回路構成の一例を示すブロック図。
【図3】本発明の体温計の回路構成の他の例を示すブロック図。
【図4】本発明の体温計の回路構成の他の例を示すブロック図。
【図5】実施例で用いられた略50mm×50mmのサイズのポリエチレン発泡体シートの平面図。
【図6】本発明の体温計と耳式体温計で測定された温度を示すグラフ。
【図7】断熱材の大きさと一致時間、平衡時間との関係を示すグラフ。
【図8】比較例1の体温計と耳式体温計で測定された温度を示すグラフ。
【符号の説明】
【0064】
1 検温部
2 断熱材
3 人体
4 リード線
5 粘着剤層
10、30、40 体温計
11 検温部
12 断熱材
13 制御回路
14 ドライバー回路
15 A/D変換部
16 演算回路
17 温度表示部
18 メモリ回路
19 電源回路
20 電源スイッチ
21 温度域設定部
22 警報発生部
23 子機送受信部
24 親機送受信部
25 子機選択切換部
26 変換・増幅器
41 子機
42 親機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検温部と、前記検温部及び検温部周辺の体表面を覆うための断熱材と、前記検温部で得られた温度信号を変換し温度情報とする制御部と、温度情報を表示する温度表示部とを備えたことを特徴とする体温計。
【請求項2】
前記断熱材が厚さ方向の圧縮強さ(50%)56N/cm以下、熱伝導率0.12W/(m・K)以下、大きさが9cm以上、及び、厚さが0.5mm〜50mmのシート状であることを特徴とする請求項1記載の体温計。
【請求項3】
断熱材の検温部側の片面に粘着剤層もしくは接着剤層が形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の体温計。
【請求項4】
検温部と温度表示部とが有線又は無線で接続されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の体温計。
【請求項5】
温度の上限及び/又は下限を設定する温度域設定部と、検温された温度と設定温度とを比較する演算回路と、検温された温度が設定温度外であれば警報を発する警報発生部を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の体温計。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の体温計であって、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する子機、並びに、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、異常温度を知らせる警報発生部、及び、子機からの受信機能を含む送受信機能部を有する親機からなることを特徴とする体温計。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の体温計であって、少なくとも、検温部の温度信号を受け取る機能部及び親機へデータを送信する機能部を有する複数の子機、並びに、少なくとも、デジタル体温表示をする温度表示部、子機ごとに設定可能な異常温度を知らせる警報発生部、子機からの受信機能を含む送受信機能部、及び、子機選択切換部を有する親機からなることを特徴とする体温計。
【請求項8】
厚さ方向の圧縮強さ(50%)56N/cm以下、熱伝導率0.12W/(m・K)以下、大きさが9cm以上、及び、厚さが0.5mm〜50mmのシート状であることを特徴とする体温計用断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−37631(P2007−37631A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222727(P2005−222727)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(598174129)ユニコン電子株式会社 (2)
【Fターム(参考)】