説明

体温計

【課題】環境温度変化に対して体温が十分断熱状態にあって保温されているかどうかを監視通報し、併せて深部体温も表示可能な、手軽に使えて、装着時に邪魔にならない貼り付け型連続体温計を提供する。
【解決手段】測定プローブは一定の熱容量と熱伝導性を有し、生体の体表面に密着して変形可能な素材でできた円盤状の本体の体表面側の中央部と端部に、それぞれ第1の温度検出手段と第2の温度検出手段を配置し、本体周辺部を薄くすることで生体からの熱伝導を変化させて体温を測定し、両者の温度差により、外部環境温度に対して体温が十分断熱状態にあるかを判断し、体表面温度を深部体温推定値として表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温を測定する体温計に関し、とくに体温測定を含む生体情報モニター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭において体温を測る場面で最も多いのは、風邪やインフルエンザに感染して発熱した時の体温測定である。医師の診察を受け、その後は布団に入り安静にしていることが多いであろう。体温測定は、病態の進行や回復の状態を判断する際の有効な手段であるが、布団の中で安静にしている時にも、手軽に、意識せず、連続的に体温を測定することが可能になれば、急な体温上昇を素早く察知したり、逆に回復に向って体温が低下している状況を知って安心することができ、安静休養をサポートする新しいタイプの機器となりえる。
【0003】
従来の水銀体温計や電子体温計は、一回の測定に数分を要し、また体温計を脇の下や口腔に保持し続ける必要があるため、無意識かつ連続的に体温をモニターする用途には適していないことは明白である。
【0004】
このような目的のためには、体表面に小型の体温計を貼り付けて、ベッドサイドに設置した表示装置あるいは腕時計型表示装置に無線で体温を連続的にモニターできる装置が望まれる。
【0005】
体表面に体温計を貼り付けて体温を測定する場合の問題点は、貼り付けた体温計の違和感と、体表面温度が外部環境の温度の影響を受けやすく、深部体温とは異なった体温が得られてしまう点である。体表面温度から深部体温を推定する手段は、すでにいくつかの方法が特許出願として出願されている。
【0006】
特許文献1は体表面に設置した断熱材を熱伝導体で覆い、その上部に設置したヒーターを用いて、断熱材の体表面側と熱伝導体側の温度差がなくなるように調整して深部体温を推定するものである。温度差がなければ体表面からの熱の放散がなくなり、体表面温度が深部体温と一致するという原理に基づいている。
【0007】
特許文献2は体表面に断熱材を配置し、断熱材表面から放散される熱流量と、体表面温度との関係を熱平衡状態における一次元熱伝導方程式で近似して求めたもので、ヒーターが不要であるが、体表面付近の生体の熱伝導率や深部までの距離に推定値を用いる必要があり、測定精度に問題があった。
【0008】
特許文献3は、特許文献2と同じ構成であるが、時間項を含む一次元熱伝導方程式を用いて近似することで、生体の熱伝導率や深部までの距離の項をキャンセルして深部体温を推定することができる。
【0009】
特許文献4は、特許文献2と同じ構成の体温計を2つ用意し、断熱材の厚さ等の熱的な条件を変えて、体表面上の2ヶ所での体温を測定することで、生体の熱伝導率や深部までの距離の項をキャンセルしたものである。
【特許文献1】特開昭55−29794号公報(4頁、図2)
【特許文献2】特開昭61−120026号公報(5頁、図1)
【特許文献3】特表2001−522466号公報(25頁、図2)
【特許文献4】特開2006−308538号公報(49頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1から特許文献4に示した深部体温測定法は、いずれも体表面温度から深部体温温度を正確に求めることを目的に発明されたものである。特許文献1の方法は、ヒーター電力を供給するためには体に貼り付けたセンサー部を外部装置と有線で接続する必要があり、安静の邪魔になる。特許文献2から特許文献4の方法では、深部体温の推定を正確に行うためには、体表面上に設置した断熱材の表面からの熱放散がある一定量以上ないと正確な深部体温の推定が出来ない。しかし、熱放散があると言う事は、体温が外部に逃げていることであり、体表面が冷えている状態を意味する。これは風邪の治療のために布団の中で温かい状態で安静にしていることと相反する事である。
【0011】
貼り付け型の無意識連続体温モニター装置に必要な機能は、深部体温を正確に推定することではなく、外部環境温度に対して体温が十分断熱状態にあって保温されているかどうか、すなわち正しい安静状態にあるかをモニター表示および通報し、併せて、十分な断熱状態にある場合には深部体温の変化をモニター表示できる機能を有した、手軽に使えて、装着に邪魔にならず、違和感がない装置を作ることが課題となる。本発明の体温計は、従来の体温計と異なり、正しい安静、睡眠、休息をサポートする新しいタイプの機器である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の体温計は、生体の表面に密着して変形可能な本体と、本体の生体との接触面に配置された第1の温度検出手段と、第1の温度検出手段と異なる部位の本体の生体との接触面に配置された第2の温度検出手段と、第1の温度検出手段および第2の温度検出手段を用いて所定の時間間隔で温度を計測するための制御手段と、計測した温度の時間変化から体温を演算して求める演算手段と、体温を表示する表示手段とを有することを特徴とする。
【0013】
また本発明の体温計は、第1の温度検出手段により計測された温度と、第2の温度検出手段により計測された温度との差が所定の温度以下に達したことで本体が密着した体表面の温度が熱平衡状態であると判定することが好ましい。
【0014】
また、本体は、粘着性を有する素材を用いて体表面に密着させて使用することすることが好ましい。
【0015】
また本発明は、表示手段を含む表示装置は、第1の温度検出手段および第2の温度検出手段を含む測定プローブと離れた場所に設置してあることすることが好ましい。
【0016】
また本発明は、表示装置と測定プローブは無線通信でデータを伝えることすることが好ましい。
【0017】
また本発明は、測定プローブは固有の認識番号を有し、無線通信で認識番号を伝えることすることが好ましい。
【0018】
また本発明は、測定プローブは充電可能な蓄電手段を有し、充電により再使用可能なことすることが好ましい。
【0019】
また本発明は、蓄電手段は電力受信コイルと電力受信手段を有し、表示装置は電力送信手段と電力送信コイルを有し、電磁誘導により表示装置から蓄電手段を充電することすることが好ましい。
【0020】
また本発明は、表示装置は所定のタイミングで間欠的に電力送信手段と電力送信コイルを用いて電磁界を発生させ、測定プローブは、受信コイルと電力受信手段を用いて電磁界を検出することで、表示装置と測定プローブが所定の距離以内に位置していることを判断することすることが好ましい。
【0021】
また本発明は、測定プローブと表示装置が所定の距離以内に位置しているときは、測定プローブを低消費電力状態で動作させることすることが好ましい。
【0022】
また本発明は、測定プローブと表示装置が所定の距離以内に位置しているときは、蓄電手段の充電状態に応じて、蓄電手段を充電するすることが好ましい。
【0023】
また本発明は、蓄電手段の充電状態を送信手段と送信アンテナと受信アンテナと受信手段を用いて表示装置に伝え、表示手段に表示することすることが好ましい。
【0024】
また本発明は、表示手段は、表示手段が設置された場所の温度と湿度を検出し、表示手段に表示することすることが好ましい。
【0025】
また本発明は、表示手段は、測定した体温と、体表面が熱平衡状態にあるかどうかの情報と、測定した体温の変化に応じた所定のメッセージと、測定プローブと表示装置とが所定の距離以内に位置しているかに関する情報と、蓄電手段の充電状態に関する情報とのうちから選ばれる1つ以上を表示することすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、安静状態で睡眠あるいは休息中の体温が、外部環境温度に対して十分断熱状態にあって体温が保温されているかどうかを容易にモニターすることが可能になる。
【0027】
また、本発明により、十分な断熱状態にある場合の深部体温の変化を連続モニターできる。また、従来の深部体温推定のような複雑な演算も不要となり、低価格な装置を作ることが可能となる。
【0028】
また、使い方に関して、本発明の体温計を表示装置の格納場所から取り外して、体の一部に貼り付けるだけで体温連続モニターが可能で、電源スイッチのオンオフや動作モードの設定、電池交換などのメンテナンスが不要な使いやすい体温計が実現できる。
【0029】
また、本発明により、睡眠、休息中の体温を看護者が離れた場所でモニター可能となり、安心した看護が可能となる。たとえば、睡眠中に布団がずれて体温が下がったことなどを検知し看護者に知らせることが可能となる。また、急激に体温が上昇したような場合は、離れた場所にいる看護者に緊急事態を知らせることが可能となる。
【0030】
また、本発明の体温計を複数個、装着することで部位毎の温度情報が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の体温計は、体表面に貼り付けて体温を測定する測定部と、測定した体温データを元に得られた体表面あるいは深部温度、警報などを表示する表示部から構成されている
。以下図面を用いて本発明の体温計の最適な実施形態を説明する。
【0032】
第1の実施形態
図1は本発明の体温計の測定部の構造を示す図である。測定プローブ1の本体2は一定の熱容量と熱伝導性を有し、生体5の体表面4に密着して変形可能な素材で出来ている。本体2の形状は円盤状、あるいは矩形状であり、本体2の体表面側の中央部と端部にはそれぞれ第1の温度検出手段3と第2の温度検出手段4が配置され、本体2の温度が体表面を通じて生体の体温により変化する様子を測定することが出来る。
【0033】
本体2の素材にはシリコーンゲルシートのように体表面に沿って密着し、体の動きに対して容易に変形して違和感のない素材が適している。
【0034】
本体の中心部は厚く、周辺部は薄くすることで生体からの熱が伝わったときの温度変化が異なるようになっている。本体を構成する素材の熱伝導度、あるいは熱容量を中心部と周辺部とで変えることで、生体からの熱が伝わったときの温度変化が異なるようにしてもよい。たとえば本体を構成する素材に異なる熱的性質を有する粉末を含有させ、その含有率を中心部と周辺部で変化させる等の方法が考えられる。一定の厚さの本体を用いた場合でも、周辺部に比べて中央部分の熱容量が大きいので、本体の厚さを一定にすることも可能である。
【0035】
第1の温度検出手段3および第2の温度検出手段4には、温度依存性を有する抵抗体であるサーミスタや白金測温体、半導体チップ上に構成された温度センサー回路、たとえば拡散抵抗やポリシリコン薄膜の温度依存性や、PN接合の順方向電圧の温度依存性、リングオシレータやマルチバイブレータ等の発振回路における発振周波数の温度依存性などを用いることができる。
【0036】
図2は、第1の実施形態における体温計の回路ブロックを示す図である。第1の温度検出手段3および第2の温度検出手段4で測定した温度は演算手段10で、体表面温度の変化の様子を把握し、体表面温度の算出と、各種警報の判定を行う。制御手段11は、所定の時間間隔で温度を測定し、演算を行い、表示手段12に結果を表示させるための制御を行う回路である。測定時間間隔は数秒から数分に1回程度が適しているが、それに限られることはない。体温の変化が急な場合は測定時間間隔を短くし、安定な場合は長くすることで、体温情報の精度を犠牲にすることなく、消費電力を下げることが可能である。
【0037】
図3は、第1の実施形態の体温計が生体に貼り付けられた状態での温度変化を説明するための熱回路を示している。熱回路においては、熱伝導度の逆数を抵抗で、熱容量を容量で、熱源を電圧源で表す。熱回路は本来分布定数回路で表現されるべきものであるが、ここでは近似的に集中定数回路で表現している。生体の深部体温を熱源Tb、生体深部から体表面までの熱抵抗をRb、第1の温度検出手段4で検出された温度をTc、第2の温度検出手段4で検出された温度をTsとする。本体2の中心部の厚さ方向の熱抵抗をRc、周辺部の熱抵抗をRsとする。本体2の中心付近の熱容量と周辺部の熱容量では、本体の厚さが異なるため熱容量が異なる。第1の温度測定手段3付近の本体の熱容量をCc、第2の温度測定手段4付近の本体の熱容量をCsとする。熱容量CcとCsの間は、本体2の横方向の熱伝導に相当する熱抵抗をRaで接続されているものとする。環境温度は熱源Teで表し、外部環境と本体の間の熱抵抗をReとする。
【0038】
ここで、外部環境温度Teは、部屋の温度であり、熱抵抗Reは、布団に入った状態では、布団および布団と本体2の間の空気層の熱抵抗である。熱平衡状態に達した状態での温度TcとTsは次にように表せる。
【0039】
Tc=Te+(Tb−Te)×(Rc+Re)/(Rb+Rc+Re)
・・・数式(1)
Ts=Te+(Tb−Te)×(Rs+Re)/(Rb+Rs+Re)
・・・数式(2)
布団に入った状態では、熱抵抗Reは本体2の熱抵抗Rc、Rsに比べて十分に大きいと考えられるので、図4に示すように簡略化でき、温度TcとTsは次のように表せる。
【0040】
Tc=Te+(Tb−Te)×Re/(Rb+Re) 数式(3)
Ts=Te+(Tb−Te)×Re/(Rb+Re) 数式(4)
つまり、十分熱平衡に達すれば、やがて温度TcとTsは同じになる。
この温度を平衡温度Tsatとする。
【0041】
外部環境温度Teと同じ温度の測定プローブ1を体表面に貼り付けたときの温度TcとTsの変化は、それぞれの熱抵抗と熱容量からなる時定数DTcおよびDTsをもって、TeからTsatに変化する。
【0042】
Tc=Te+(Tsat−Te)×e-DTc 数式(5)
Ts=Te+(Tsat−Te)×e-DTs 数式(6)
ここでeは自然対数の底を表す。
【0043】
時定数は、熱容量と熱容量に接続された熱抵抗の合成抵抗の積で表せるので、次のようになる。
【0044】
DTc=Cc/(1/Rb+1/Re) 数式(7)
DTs=Cs/(1/Rb+1/Re) 数式(8)
すなわち、時定数DTc、DTsはそれぞれ熱容量CcとCsに比例している。
【0045】
以上の計算では、横方向の熱抵抗Raを考慮しなかったが、Raを考慮すると、時定数DTcとDTsは互いに接近した値になる。
【0046】
以上をまとめると、中心部温度Tcと周辺部温度Tsは、最初、環境温度Teからスタートして、本体2の厚さに比例した時定数をもって平衡温度Tsatに達する。
【0047】
図5は本体2に設置した温度検出手段の温度変化の様子を示した図である。本体を体表面に貼り付ける前の状態では、本体2は外部環境温度と同じTeにある。ここでTeは深部体温Tbより低いものとする。時間t0で本体2を体表面4に貼り付けると、第1の温度検出手段で測定した温度Tcと第2の温度検出手段で測定した周辺部の温度Tsが体表面を通じて体温で暖められて上昇する。時間t1の時、差が最大になり、その後はTcとTsの温度差は減少して、平衡温度Tsatに収束する。
【0048】
本体2の温度が平衡状態に達すると、中心部と周辺部の温度差が小さくなるので、この温度差を演算回路で判定して十分断熱状態にあるかどうかを判断する。例えば、温度差が±0.05℃以下に達した場合を断熱状態と判定することが出来る。
【0049】
十分断熱状態に達した後の体表面温度は深部体温に近い温度であると判断し、表示装置には「平衡状態に達した事」や「表示中の体温は深部体温に近い事」を意味するメッセージを表示装置に表示する。逆に、温度差が大きい場合は、布団の保温状態が悪いので「しっかり布団を掛けてください」という意味の警報メッセージを出すことが出来る。
【0050】
また、布団を掛けなおしたり、布団が体からずれた場合は、温度が急激に低下すると同
時に、周辺温度が先に低下することになるので、この差を検知して布団内温度の急激な低下と判断して適当な警報メッセージを出すことが出来る。
【0051】
結局、本発明は2つの温度検出手段を熱的条件の異なる条件下に置くことで、体温が平衡状態に達しているかどうかの判定が可能である。本実施形態では本体2の形状は円盤状、あるいは矩形状としてその中央部と周辺部に2つの温度検出手段を配したが、形状は楕円形や長方形、さらには任意形状でもよく、場所も中央と端に限るものではない。また、温度検出手段は2つに限られず、3つ以上の温度検出手段を熱的条件の異なる条件下においた場合でもよい。また、本実施形態では体表面側に温度検出手段を設けたが、本体2の上側(体表面側と逆側)に設置してもよい。
【0052】
第2の実施形態
図6は本発明の体温計の第2の実施形態の測定部の構造を示す図である。第1の実施形態と異なり、測定プローブ1は、本体2を覆うように断熱材7を配置している。断熱材の厚さや熱伝導率を変えることで、外部環境からの熱流の出入りに対する本体2の温度変化の時定数を数分から数時間まで選定することでき、これにより環境温度に対する体表面温度の変化を小さく、あるいは任意に設定することが出来る。
【0053】
本体2の形状は第1の実施形態と異なり、中央部から周辺部にかけて厚さが薄くなってゆく形状を有している。これは、体表面に貼り付けた時の変形に対する違和感を減らす効果がある。厚さの変化を連続的に薄くしても勿論よい。断熱材としてはウレタンやポリスチレン等の発泡樹脂が適しているが、綿、羊毛などの天然素材を用いることもできる。
【0054】
本実施形態では、本体2が外部環境温度の変化の影響を受けにくくなり、熱平衡状態に到達した時点での体表面温度を深部体温に近づけることができる。
【0055】
第3の実施形態
図7は本発明の体温計の第3の実施形態の回路ブロックを示す図である。演算手段10と温度表示手段12の間のデータのやり取りを無線化することで、温度表示手段12を分離して任意の場所に設置できるようにした形態である。測定プローブ1側は演算手段側で得られたデータを送信手段13を用いて搬送波を変調し、アンテナ14から電波として送信する。表示装置40側ではアンテナ15で受信した電波を受信手段16でデータに復調し、表示手段12に表示する。測定プローブ1側の回路は制御回路11Tで制御し、表示装置40側の回路は制御手段16Rで制御する。無線には、生体への電磁波の影響が小さい微弱な電波を使うことが望ましい。周波数は、アンテナの小型化に有利なUHF帯、例えば300から900MHz帯が適している。搬送波の変調方式は、ASK(Amplitude Shift Keing)やFSK(Frequency Shift Keing)方式の回路が容易で適している。演算手段10は、測定プローブ側に搭載されているが、一部あるいは、すべての機能を分離して表示手段側に搭載してもよい。ただし、体表面温度が平衡状態に到達したかどうかを判断して、その結果により温度測定のタイミングを変えたり、急激な温度変化を生じた際に温度測定のタイミングを短くする等の処理を実現するには、測定プローブ側に演算手段の一部あるいは全部を搭載しておくことが望ましい。
【0056】
環境温度検出手段50と環境湿度検出手段51は表示装置を設置してある場所の温度および湿度を測定し、表示手段12に表示する。環境温度および環境湿度を体温と同時にグラフ表示することで体温変化への影響を読み取ることが出来る。
【0057】
同一周波数で複数の測定プローブ1の同時使用を可能にするためは、固有の認識番号を与え、測定データと一緒に送信するようにする。表示装置側では、認識番号によって発信
元の測定プローブを識別することが可能になる。データ送信のタイミングをランダムにすることで、複数測定プローブから混信を防ぐことが可能である。もちろん測定プローブ毎に使用する周波数を変えても良い。その場合は、表示装置40は、一定時間毎に使用した周波数を走引する必要がある。
【実施例】
【0058】
本発明の実施例を図面を用いて説明する。図8は測定プローブ1の構造を示す図である。図8(a)は測定プローブ1の製造工程における位置B−B’部分で折り曲げて接着する前の状態を示す平面図である。本体2および断熱材7は破線で示してある。図8(b)は、位置B−B’部分で折り曲げて接着した後におけるA−A’部分の断面図である。構造は第2の実施形態を基本にしており、第3の実施形態に記載の無線化に対応させたものである。本体2は直径20mm、中心部厚さ3mmのシリコーン系のゲルシートを用いた。回路基板20は電子部品を実装した厚さ0.1mmのフレキシブル基板であり、本体2の上面から傾斜部にそって裏面(体表面)側に位置B−B’部分で折り曲げて接着されている。この回路基板20上には、第1の温度検出手段3および第2の温度検出手段4、その他必要な回路を1チップ化したIC21、二次電池22、水晶振動子23が搭載されている。温度検出手段3および温度検出手段4はプリント配線26、27でIC21に接続されている。断熱材7には厚さ5mmの発泡ウレタンを用い、回路基板20と本体2を覆うように接着した。測定プローブ1を体表面に貼り付けるため、本体2の体表面側にはシリコーンを原材料とした自己粘着性ゲルを塗布した。自己粘着性を持つため、測定プローブを体表面から何度でも剥がしたり、貼り付けたりすることが可能である。温度検出手段も含めて、電子部品は生体に触れない構造となっている。接着面はシリコーン系の素材であるため、生体に対する安全性が高い。
【0059】
次に本実施例の、回路ブロックを図9を用いて説明する。基本構成は、第3の実施形態と同じである。中心温度測定手段3におよび第2の温度検出手段4には、抵抗値10KΩ、サイズ1.0×0.5×0.3mmのチップサーミスタを用いた。サーミスタと同じ抵抗値をもつチップ抵抗をサーミスタと直列接続して電源−グランド間に配線し、電源電圧をサーミスタと抵抗で分圧した信号をAD(Analog to Digital)コンバータを用いて10bitデジタル信号に変換した。デジタル信号に変換された信号は、あらかじめ取得しておいた校正データを用いて、演算手段10により0.001℃の分解能で温度へ変換し、送信手段13および送信アンテナ24で無線送信した。無線には315MHzの微弱電波を用い、ASK変調を行った。制御手段11は、8bitのCPU(Central Processing Unit)を用い、温度検出のタイミングおよび演算手段および送信手段の制御を行った。温度測定間隔は、2.5秒に1回のタイミングで行った。
【0060】
本実施例の回路ブロックにおいて、第3の実施形態との違いは蓄電手として二次電池22を搭載して、電磁誘導を用いて非接触で充電が可能な点である。二次電池22には直径9mm、厚さ2.1mmの2.4Vリチウムコインバッテリーを用いた。
【0061】
充電は、電力送信手段17で発生させた13.56MHzの高周波電流を電力送信コイル19に流して電磁界を発生させ、測定プローブ1を電力送信コイル19の近傍に近づけることで、電力受信コイル25に電磁誘導で高周波電流を誘起し、電力受信手段18で整流後、二次電池22に充電する。
【0062】
測定プローブ1の動作時間を延ばすために、温度測定中およびデータを無線送信している時以外は、不要回路の電源を切って低電力化した。
【0063】
体温計のIC21には、図9に示す実施例の演算手段10、制御手段11T、送信手段
13、電力受信手段18の各回路が搭載されている。送信アンテナ14および電力受信コイル25は、フレキシブル基板の配線パターンを用いて形成した。表示装置40は受信手段15、表示手段12、制御手段16および電力送信手段17と電力送信コイル19から構成されている。
【0064】
図10は、表示装置40の外観を示す図である。表示装置には、受信アンテナ14、体温グラフ表示部41、スピーカ45、動作モード切替用のスイッチ46、測定プローブ1を未使用時あるいは、充電時に格納する測定プローブ格納部47がある。測定プローブ格納部47に測定プローブ1を格納すると、自動的に体温測定は機能を停止し、二次電池22が充電されるように構成されている。格納部47から測定プローブを取り出すと、自動的に体温測定を開始し、体温データを送信し、結果を体温グラフ表示部41に表示する。体温グラフ表示部42に体温のグラフが、体温表示部43には、体温が数値データで表示される。体温が熱平衡に達していない場合はグラフが点線で表示され、熱平衡に達した後は実線で表示される。メッセージ表示部44には熱平衡に達しているかどうかの情報や、急激な温度低下が生じた際のメッセージ、急激な温度の上昇が生じた場合は、発熱の危険を報知するためのメッセージが表示され、同時にスピーカ45からは音声メッセージが発せられる。スイッチ46を切り替えることで、緊急性の高いメッセージ以外の音声メッセージを停止することができる。また、測定プローブ1を格納部47から取り外した際に、二次電池22の充電が不足している場合も、充電不足のメッセージを発する。表示装置40に時計機能を持たせることも可能である。
【0065】
次に、測定プローブ1と表示装置40の連係動作をフローチャートで説明する。
【0066】
図11は本実施例の体温計の動作を説明するためのフローチャートである。左側のフローチャートが測定プローブ1の動作を示し、右側が表示装置の動作を示している。測定プローブおよび表示装置の動作は、ループ51およびループ52を無限にループをしている。
【0067】
はじめに、測定プローブ1の二次電池22が充電されている状態での動作を説明する。測定プローブ1はステップST1で充電完了かどうかを自身で検査する。今は充電された状態なのでステップST4へ進み、無線を通じて表示装置40に充電完了信号を送り次のステップに進む。ステップST5では、表示装置40からのビーコン信号が受信できたかを調べ、もし過去一定時間(ビーコン周期)以内に受信されていたら、測定プローブ1が格納状態にあると判断して、次のステップST6の温度測定をキャンセルしてループ51の1周を終了する。ステップST5でビーコンが受信されていなかった場合は、測定プローブが体に貼り付けられていると判断し、ステップST6で体温を測定しデータを表示装置に送信してループ51の1周が終了する。
【0068】
ビーコン信号は、電力送信手段17から送られてくる二次電池充電用の高周波信号を利用する。ステップST6で温度測定データを送信する際、およびステップST2での充電要求を送信する際には、それ以前にビーコンを受信したかどうかの情報も併せて送信することで、表示装置40に格納状態にあるかどうかを通知する。この処理をビーコンのアンサーバック処理と呼ぶ。
【0069】
表示装置40では、ステップSR1で充電完了の信号を受けていたので、次のステップSR4へ進む。SR4ではビーコン信号を発信する。ビーコン信号は、一定時間間隔で電力送信手段17を動作させることで実現している。次にステップSR5で体温データを受信する。もしデータが受信できたら、ステップSR6で受信中のメッセージを表示し、ステップSR7で体温判定、すなわち熱平衡状態にあるかどうかを判定し、ステップSR8で体温表示とグラフ表示を更新し、ステップSR9で必要なメッセージを判定して表示す
る。以上で表示装置40のループ52の1周分の処理を終了する。
【0070】
次に測定プローブ1の二次電池22の充電が完了していない場合を説明する。充電が完了していない場合は、ステップST2で充電要求を無線通信経路で送信して、ステップST3で充電用の高周波を電力受信手段18が受信していれば、二次電池22を充電する。もし、測定プローブ1が格納状態になければ充電用高周波は受信できないので充電は行われない。
【0071】
表示装置が充電要求信号を受け取った場合は、ステップSR2で直ちに充電メッセージを表示して電力送信手段17を動作させる。充電メッセージの際、ビーコンのアンサーバック情報をもとに、格納時は、「充電中」のメッセージを、非格納時は「至急プローブを格納して充電してください」のメッセージを表示する。
【0072】
以上説明した処理により、測定プローブ1は電源スイッチがなくても自動的に体温測定をオンオフすることが出来る。また、メッセージ通りに操作すれば、測定プローブ1の二次電池22を常に充電状態に維持できる。
【0073】
表示装置は本実施例では移動可能な据え置き型であるが、腕時計型にして被測定者自身が身につけて使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の体温計の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の体温計の回路ブロックを示す図である。
【図3】本発明の体温計の熱回路を示す図である。
【図4】本発明の体温計の熱回路を示す図である。
【図5】本発明の体温計の温度変化を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の回路ブロックを示す図である。
【図8】本発明の実施例の構造を示す平面図と断面図である。
【図9】本発明の実施例の回路ブロックを示す図である。
【図10】本発明の実施例の表示装置の概観を示す図である。
【図11】本発明の実施例の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1 測定プローブ
2 本体
3 第1の温度検出手段
4 第2の温度検出手段
5 生体
6 体表面
7 断熱材
10 演算手段
11、11T、11R 制御手段
12 表示手段
13 送信手段
14 送信アンテナ
15 受信アンテナ
16 受信手段
17 電力送信手段
18 電力受信手段
19 電力送信コイル
20 回路基板
21 IC
22 二次電池
23 水晶振動子
25 電力受信コイル
26、27 プリント配線
40 表示装置
41 体温グラフ表示部
42 体温グラフ
43 体温表示
44 メッセージ表示
45 スピーカ
46 スイッチ
47 測定プローブ収納部
50 環境温度検出手段
51 環境湿度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の表面に密着して変形可能な本体と、該本体の前記生体との接触面に配置された第1の温度検出手段と、該第1の温度検出手段と異なる部位の前記本体の前記生体との接触面に配置された第2の温度検出手段と、前記第1の温度検出手段および第2の温度検出手段を用いて所定の時間間隔で温度を計測するための制御手段と、計測した温度の時間変化から体温を演算して求める演算手段と、前記体温を表示する表示手段とを有する体温計。
【請求項2】
前記演算手段は、前記第1の温度検出手段により計測された温度と、前記第2の温度検出手段により計測された温度との差が所定の温度以下に達したことで前記本体が密着した体表面の温度が熱平衡状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の体温計。
【請求項3】
前記本体は、粘着性を有する素材を用いて体表面に密着させて使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の体温計。
【請求項4】
前記表示手段を含む表示装置は、前記第1の温度検出手段および前記第2の温度検出手段を含む測定プローブと分離されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の体温計。
【請求項5】
前記表示装置と前記測定プローブは無線通信でデータを伝えることを特徴とする請求項4に記載の体温計。
【請求項6】
前記測定プローブは固有の認識番号を有し、無線通信で認識番号を伝えることを特徴とする請求項5に記載の体温計。
【請求項7】
前記測定プローブは充電可能な蓄電手段を有し、充電により再使用可能なことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の体温計。
【請求項8】
前記蓄電手段は電力受信コイルと電力受信手段とを有し、前記表示装置は電力送信手段と電力送信コイルとを有し、電磁誘導により前記表示装置から前記蓄電手段を充電することを特徴とする請求項7に記載の体温計。
【請求項9】
前記表示装置は所定のタイミングで間欠的に前記電力送信手段と前記電力送信コイルを用いて電磁界を発生させ、前記測定プローブは、前記受信コイルと前記電力受信手段を用いて前記電磁界を検出することで、前記表示装置と前記測定プローブが所定の距離以内に位置していることを判断することを特徴とする請求項8に記載の体温計。
【請求項10】
前記測定プローブと前記表示装置が所定の距離以内に位置しているときは、前記測定プローブを低消費電力状態で動作させることを特徴とする請求項9に記載の体温計。
【請求項11】
前記測定プローブと前記表示装置が所定の距離以内に位置しているときは、前記蓄電手段の充電状態に応じて、前記蓄電手段を充電することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の体温計。
【請求項12】
前記表示手段は、測定した体温と、体表面が熱平衡状態にあるかどうかの情報と、測定した体温の変化に応じた所定のメッセージと、前記測定プローブと前記表示装置とが所定の距離以内に位置しているかに関する情報と、前記蓄電手段の充電状態に関する情報のうちから選ばれる1つ以上を表示することを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の体温計。
【請求項13】
前記蓄電手段の充電状態を前記送信手段と前記送信アンテナと前記受信アンテナと前記受信手段とを用いて前記表示装置に伝え、前記表示手段に表示することを特徴とする請求項7から請求項12のいずれか一項に記載の体温計。
【請求項14】
前記表示手段は、前記表示手段が設置された場所の温度と湿度を検出し、前記表示手段に表示することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の体温計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−80000(P2009−80000A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249267(P2007−249267)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】