説明

作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置

【課題】エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置を提供する。
【解決手段】酸素と水素との燃焼に伴って空気より比熱比の高い作動ガスが膨張可能である複数の燃焼室CCと、複数の燃焼室CCにそれぞれ連通する複数の吸気分岐通路17aを含んで構成され作動ガスを燃焼室CCの排気側から吸気側に循環させ吸気分岐通路17aを介して再び燃焼室CCに供給可能な循環経路とが設けられた作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置30において、酸素が供給される酸素供給室35と、酸素供給室35に連通して設けられ当該酸素供給室35内の酸素を複数の吸気分岐通路17aにそれぞれ供給可能な複数の供給口36と、酸素供給室35内の圧力を調節することで供給口36から供給される酸素の供給量を調節可能な調節手段32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置に関し、特に排気ガス中に含まれる作動ガスを燃焼室の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室に供給可能な作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンとして、排気ガス中に含まれる作動ガスを燃焼室の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室に供給可能な、いわゆる、閉サイクルエンジンである作動ガス循環型エンジンが知られている。このような作動ガス循環型エンジンは、酸化剤としての酸素と、燃料としての水素と、空気より比熱比の高い作動ガスとが供給される燃焼室と、作動ガスを燃焼室の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室に供給可能な循環経路とを備え、燃焼室にて水素の燃焼に伴って作動ガスが熱膨張することで動力を発生させると共に、基本的にはこの作動ガスが大気へと放出されることなく循環経路を介して再び燃焼室に供給される。
【0003】
従来の作動ガス循環型エンジンとしては、例えば、下記の特許文献1に開示された水素エンジンが知られている。特許文献1に記載されている水素エンジンは、燃焼室に酸素と、水素とが供給されると共に、熱効率を高めるべく作動ガスとして、例えば、単原子ガスからなり空気より比熱比が大きいアルゴンが循環されている。この作動ガス循環型エンジンは、燃焼室内での水素の燃焼によってアルゴンを熱膨張させ、これによりピストンを押し下げて動力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−93681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような特許文献1に記載されている水素エンジンでは、例えば、複数の燃焼室(気筒)を備える多気筒型のエンジンである場合に、循環経路を循環する作動ガスに対して、複数の燃焼室にそれぞれ連通する複数の吸気分岐通路より循環方向上流側の吸気集合通路において酸素噴射弁などにより酸素を供給することがある。これにより、この水素エンジン(作動ガス循環型エンジン)は、例えば、燃焼室ごとに各吸気分岐通路に対してそれぞれ酸素噴射弁を設けることなく、1つの酸素噴射弁(気筒数より少ない数の酸素噴射弁)により各燃焼室に酸素を供給することができるので、より簡易に燃焼室に酸素を供給する装置を構成することができる。これにより、例えば、水素エンジンを構成する部品点数を抑制することができ、製造コストを抑制することができる。
【0006】
しかしながらこの場合、この水素エンジン(作動ガス循環型エンジン)の酸素を供給する装置は、各燃焼室から相対的に離間した位置である吸気集合通路に酸素を供給することとなることから、その分、酸素が吸気集合通路に供給されてから各吸気分岐通路を介して各燃焼室に到達するまでの経過時間が相対的に長くなり、この結果、例えば、エンジン出力の過渡運転時における応答性が悪化するおそれがあった。
【0007】
そこで本発明は、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、酸素と水素との燃焼に伴って空気より比熱比の高い作動ガスが膨張可能である複数の燃焼室と、前記複数の燃焼室にそれぞれ連通する複数の吸気分岐通路を含んで構成され前記作動ガスを前記燃焼室の排気側から吸気側に循環させ前記吸気分岐通路を介して再び前記燃焼室に供給可能な循環経路とが設けられた作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置において、前記酸素が供給される酸素供給室と、前記酸素供給室に連通して設けられ当該酸素供給室内の前記酸素を前記複数の吸気分岐通路にそれぞれ供給可能な複数の供給口と、前記酸素供給室内の圧力を調節することで前記供給口から供給される前記酸素の供給量を調節可能な調節手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、上記作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置において、前記吸気分岐通路内の圧力を検出する吸気圧力検出手段と、前記吸気分岐通路内の温度を検出する吸気温度検出手段と、前記調節手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、要求される前記酸素の供給量と、前記吸気圧力検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の圧力と、前記吸気温度検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の温度とに基づいて、前記調節手段を制御して前記酸素供給室内の圧力を調節するように構成してもよい。
【0010】
また、上記作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置において、前記吸気分岐通路内の温度を検出する吸気温度検出手段と、前記調節手段を制御する制御手段とを備え、前記供給口は、前記吸気分岐通路内の圧力と前記酸素供給室内の圧力との圧力比が臨界圧力比以下となるように形成され、前記制御手段は、要求される前記酸素の供給量と、前記吸気温度検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の温度とに基づいて、前記調節手段を制御して前記酸素供給室内の圧力を調節するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置によれば、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置が適用される作動ガス循環型エンジンの模式的な概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の必要酸素量マップである。
【図5】図5は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給量マップである。
【図6】図6は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の吸気管内圧力と供給圧力との関係を説明する線図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の変形例1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図である。
【図10】図10は、本発明の変形例1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の変形例2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図である。
【図12】図12は、本発明の変形例2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置が適用される作動ガス循環型エンジンの模式的な概略構成図、図2は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図、図3は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャート、図4は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の必要酸素量マップ、図5は、本発明の実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給量マップである。
【0015】
本実施形態の酸素供給装置30が適用される作動ガス循環型エンジン1は、図1に示すように、酸化剤としての酸素(O)、燃料としての水素(H)及び空気より比熱比の高く、水素の燃焼に伴って動力を発生させる作動ガス、ここではアルゴン(Ar)が供給される燃焼室CCと、この燃焼室CCの吸気側と排気側とを繋ぐ循環経路20とを備え、作動ガスが大気へと放出されることなく循環経路20を介して再び燃焼室CCに供給されるよう構成した、いわゆる閉サイクルエンジンである。この作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室CC内で水素を燃焼させ、この水素の燃焼に伴って作動ガスを熱膨張させて動力を発生させるものである。つまり、作動ガスは、燃焼室CCにおいて、酸素供給装置30から供給される酸素と水素供給装置40から供給される水素との反応に伴って発生する反応熱、すなわち、水素の燃焼(発熱反応)に伴って発生する燃焼熱により膨張する。
【0016】
また、本実施形態の酸素供給装置30が適用される作動ガス循環型エンジン1は、図2に示すように、複数の燃焼室(気筒)CC、ここでは4つの燃焼室CCを備える多気筒型の作動ガス循環型エンジンである。なお、図1に例示するエンジン本体10は、1気筒のみを図示している。
【0017】
この作動ガス循環型エンジン1は、図1、図2に示すように、燃焼室CCが形成されるエンジン本体10と、燃焼室CCの吸気側と排気側とを繋ぐ循環経路20と、燃焼室CCに酸素を供給する酸素供給装置30と、燃焼室CCに水素を供給する水素供給装置40と、作動ガス循環型エンジン1の各部を制御する電子制御装置(ECU)50とを備える。エンジン本体10の燃焼室CCと循環経路20とは、ともに作動ガスが充填されており、作動ガスは、燃焼室CCと循環経路20との間で循環する。
【0018】
本実施形態の燃焼室CCは、エンジン本体10に形成される。このエンジン本体10の燃焼室CCは、上述したように、酸素と、この酸素によって燃焼しここでは燃焼により水蒸気を生成する水素と、作動ガスとが供給され、水素の燃焼に伴って作動ガスが膨張可能であると共に水素の燃焼後の排気ガスとして水蒸気と作動ガスとを排気可能なものである。
【0019】
具体的には、エンジン本体10は、複数の燃焼室CC、ここでは4つの燃焼室CCを形成するシリンダヘッド11、シリンダブロック12及びピストン13を備えている。ピストン13は、4つの燃焼室CCに対応して4つ設けられている。各ピストン13は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト19に連結し、シリンダヘッド11の下面の凹部11aとシリンダブロック12のシリンダボア12aとの間に区画される空間内に往復運動可能に配置される。各燃焼室CCは、シリンダヘッド11の凹部11aの壁面とシリンダボア12aの壁面とピストン13の頂面13aとで囲まれた空間によって構成される。
【0020】
エンジン本体10は、シリンダヘッド11に吸気ポート11b及び排気ポート11cが形成されている。吸気ポート11bと排気ポート11cとは、ともに循環経路20の一部をなすものである。吸気ポート11b、排気ポート11cは、各燃焼室CCに対応して複数設けられている。各吸気ポート11b、排気ポート11cは、それぞれ一端が燃焼室CC内に開口している。エンジン本体10は、各吸気ポート11bの燃焼室CC側の開口部分にそれぞれ吸気バルブ15が配設されている。吸気バルブ15は、開弁時にこの吸気ポート11bの燃焼室CC側の開口を開く一方、閉弁時にこの吸気ポート11bの燃焼室CC側の開口を閉じるものである。エンジン本体10は、各排気ポート11cの燃焼室CC側の開口部分にそれぞれ排気バルブ16が配設されている。排気バルブ16は、開弁時にこの排気ポート11cの燃焼室CC側の開口を開く一方、閉弁時にこの排気ポート11cの燃焼室CC側の開口を閉じるものである。
【0021】
吸気バルブ15や排気バルブ16としては、例えば、不図示のカムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動されるものがある。この種の吸気バルブ15や排気バルブ16においては、そのカムシャフトとクランクシャフト19の間にチェーンやスプロケット等からなる動力伝達機構を介在させることによってそのカムシャフトをクランクシャフト19の回転に連動させ、予め設定された開閉時期に開閉駆動させる。また、このエンジン本体10は、吸気バルブ15と排気バルブ16の開閉時期やリフト量を変更可能な、いわゆる可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を備えていてもよく、これにより、その吸気バルブ15や排気バルブ16の開閉時期やリフト量を運転条件に応じた好適なものへと変更できるようになる。さらにまた、このエンジン本体10は、このような可変バルブ機構と同様の作用効果を得るべく、電磁力を利用して吸気バルブ15や排気バルブ16を開閉駆動させる、いわゆる電磁駆動弁を適用してもよい。
【0022】
また、エンジン本体10は、各吸気ポート11bの燃焼室CC側とは反対側の開口に吸気管17が接続される一方、各排気ポート11cの燃焼室CC側とは反対側の開口に排気管18が接続されている。吸気管17と排気管18とは、ともに循環経路20の一部をなすものである。吸気管17は、筒状に形成され内部を流体が通過可能なものであり、後述するように各燃焼室CCに作動ガスとしてのアルゴン(Ar)と、酸化剤としての酸素(O)とを供給するための吸気通路である。つまり、各燃焼室CCは、各吸気バルブ15の開弁時に、この吸気管17から吸気ポート11bを介して酸素と作動ガスとが供給(吸気)される。一方、排気管18は、筒状に形成され内部を流体が通過可能なものであり、後述するように燃料としての水素(H)の燃焼後の排気ガスとして、燃焼室CCから作動ガスとしてのアルゴン(Ar)と、水蒸気(HO)とを排出するための排気通路である。つまり、燃焼室CCは、排気バルブ16の開弁時に、燃料の燃焼後の排気ガスとして、排気ポート11cを介して水蒸気と作動ガスとを排気管18に排気する。
【0023】
ここで、この吸気管17は、吸気分岐通路としての吸気分岐管部17aと、吸気集合通路としての吸気集合管部17bとを含んで構成される。吸気分岐管部17a、吸気集合管部17bは、ともに内部を作動ガスなどの流体が通過可能な通路として形成される。吸気分岐管部17aは、燃焼室CCに対応して設けられ、すなわち、ここでは4つ設けられる。複数の吸気分岐管部17aは、複数の燃焼室CCにそれぞれ連通する。つまり、吸気分岐管部17aと燃焼室CCとは、1つの燃焼室CCに対して1つの吸気分岐管部17aが連通している。吸気集合管部17bは、これら複数の吸気分岐管部17aの燃焼室CC側とは反対側の端部に設けられる。
【0024】
具体的に言えば、各吸気分岐管部17aは、それぞれ一端が各吸気ポート11bの他端(燃焼室CC内に開口している端部とは反対側の端部)と接続され各吸気ポート11bを介して各燃焼室CCに連通する一方、他端が他の吸気分岐管部17aの他端と集合して吸気集合管部17bに接続される。つまり、複数の吸気分岐管部17aは、吸気集合管部17b側で集合している。したがって、各燃焼室CCに向かって流れる作動ガスなどの流体は、吸気集合管部17bから各吸気分岐管部17aに分岐し、各吸気ポート11bを介して各燃焼室CCに導入される。なお、この吸気管17は、吸気集合管部17bの任意の箇所で吸気分岐管部17a側の吸気分岐管(吸気マニホールド)と吸気集合管部17b側の主吸気管とに分割されて構成されていてもよい。
【0025】
排気管18は、排気分岐通路としての排気分岐管部18aと、排気集合通路としての排気集合管部18bとを含んで構成される。排気分岐管部18a、排気集合管部18bは、ともに内部を作動ガスなどの流体が通過可能な通路として形成される。排気分岐管部18aは、燃焼室CCに対応して設けられ、すなわち、ここでは4つ設けられる。複数の排気分岐管部18aは、複数の燃焼室CCにそれぞれ連通する。つまり、排気分岐管部18aと燃焼室CCとは、1つの燃焼室CCに対して1つの排気分岐管部18aが連通している。排気集合管部18bは、これら複数の排気分岐管部18aの燃焼室CC側とは反対側の端部に設けられる。
【0026】
具体的に言えば、各排気分岐管部18aは、それぞれ一端が各排気ポート11cの他端(燃焼室CC内に開口している端部とは反対側の端部)と接続され各排気ポート11cを介して各燃焼室CCに連通する一方、他端が他の排気分岐管部18aの他端と集合して排気集合管部18bに接続される。つまり、複数の排気分岐管部18aは、排気集合管部18b側で集合している。したがって、各燃焼室CCから流れ出る作動ガスなどの流体は、各排気ポート11cを介して各排気分岐管部18aに流れ、排気集合管部18bで集合して循環方向下流側に向かって流れる。なお、この排気管18は、排気集合管部18bの任意の箇所で排気分岐管部18a側の排気分岐管(排気マニホールド)と排気集合管部18b側の主排気管とに分割されて構成されていてもよい。
【0027】
循環経路20は、排気管18に排気された排気ガス中に含まれる作動ガスを燃焼室CCの排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室CCに供給可能なものである。循環経路20は、上述した吸気ポート11b及び排気ポート11cと、吸気ポート11bの他端と排気ポート11cの他端とを繋ぐ循環通路21とを含んで構成される。これにより、この循環経路20内と燃焼室CC内とは、基本的には閉塞された空間をなす。循環通路21は、筒状に形成され内部を流体が通過可能なものであり、上述の吸気管17(吸気分岐管部17a、吸気集合管部17b)と排気管18(排気分岐管部18a、排気集合管部18b)とは、この循環通路21の一部をなす。
【0028】
この作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20と燃焼室CCとからなる閉塞された空間内に作動ガスが充填される。作動ガス循環型エンジン1は、この作動ガスを循環経路20の吸気管17、吸気ポート11bから燃焼室CC内、燃焼室CC内から循環経路20の排気ポート11c、排気管18、そして、この排気ポート11c、排気管18から循環通路21を介して再び吸気管17、吸気ポート11bへと循環させる。作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20において、作動ガスが吸気管17の吸気集合管部17b、吸気管17の吸気分岐管部17a、吸気ポート11b、燃焼室CC、排気ポート11c、排気管18の排気分岐管部18a、排気管18の排気集合管部18bを順に介して循環通路21を通って再び吸気集合管部17b、吸気分岐管部17a、吸気ポート11b、燃焼室CCへと循環する。つまり、循環経路20は、燃焼室CCの吸気側(吸気ポート11b側)と排気側(排気ポート11c側)とを燃焼室CCの外部で接続し、基本的には作動ガスを大気へと放出することなく再び燃焼室CCに供給する。さらに言えば、循環経路20は、両端が燃焼室CCに連通すると共に一端からは水蒸気と作動ガスとを含む排気ガスが燃焼室CCから流入し、他端からは燃焼室CCが吸気する酸素と作動ガスとが燃焼室CCに対して流出可能である。ここでは、作動ガス循環型エンジン1は、吸気バルブ15が開弁した際に、循環経路20内の酸素、作動ガスが吸気ポート11bを介して燃焼室CCに供給される。また、作動ガス循環型エンジン1は、排気バルブ16が開弁した際に、燃焼室CC内の排気ガスが排気ポート11cに排出される。
【0029】
さらに具体的には、循環経路20の循環通路21は、例えば、第1循環通路21aと、第2循環通路21bとを含んで構成されている。第1循環通路21aは、吸気ポート11bの他端(燃焼室CC内に開口している端部とは反対側の端部)と後述する凝縮器60の作動ガス排出口60bとを繋ぐものである。また、第2循環通路21bは、排気ポート11cの他端(燃焼室CC内に開口している端部とは反対側の端部)とこの凝縮器60の排気ガス導入口60aとを繋ぐものである。上述の吸気管17は、第1循環通路21aの一部をなす一方、排気管18は、第2循環通路21bの一部をなす。
【0030】
ここで、循環経路20と燃焼室CCとからなる閉塞された空間内に充填される作動ガスとしては、空気より比熱比の高いガスが用いられる。作動ガスは、例えば、単原子ガスが用いられる。ここでは、本実施形態の作動ガスは、空気よりも比熱比の高いものであって、例えば、単原子ガスであるアルゴン(Ar)やヘリウム(He)等の希ガスが用いられる。本実施形態では、作動ガスは、上述のようにアルゴン(Ar)を用いるものとして説明する。
【0031】
酸素供給装置30は、酸化剤としての酸素を燃焼室CCに供給するものである。本実施形態の酸素供給装置30は、酸素を吸気分岐通路としての吸気分岐管部17aに供給し、この吸気分岐管部17aから吸気ポート11bを介して燃焼室CCに供給する。なお、この酸素供給装置30の詳細な説明は後述する。
【0032】
水素供給装置40は、燃焼室CCに燃料としての水素を供給するものであり、本実施形態では水素を燃焼室CCに直接供給するものである。水素供給装置40は、水素貯留タンク41と、水素噴射弁42と、水素供給通路43と、レギュレータ44とを含んで構成される。
【0033】
水素貯留タンク41は、燃料としての水素を例えば70MPa程度の高圧の状態で貯留するものである。
【0034】
水素噴射弁42は、水素貯留タンク41に貯留された高圧の水素を燃焼室CCに直接噴射するものである。水素噴射弁42は、水素を燃焼室CC内に直接噴射可能なようにシリンダヘッド11に設けられる。この水素噴射弁42は、電子制御装置50によって制御される。電子制御装置50は、例えば、運転者がこの作動ガス循環型エンジン1に要求する要求エンジン負荷やエンジン回転数等の運転状態に応じて水素の噴射時期や噴射量、言い換えれば供給量を制御する。
【0035】
水素供給通路43は、水素貯留タンク41と水素噴射弁42を繋ぐものである。レギュレータ44は、この水素供給通路43上に設けられる。
【0036】
レギュレータ44は、水素供給通路43におけるレギュレータ44よりも下流側の圧力を設定圧力に調整するものである。言い換えれば、このレギュレータ44は、水素供給通路43における水素の流量を制御するものである。レギュレータ44は、電子制御装置50によって制御される。
【0037】
なお、この水素供給装置40は、この水素供給通路43上に水素流量計やサージタンクを備えていてもよく、この場合、レギュレータ44、水素流量計、サージタンクは、例えば、水素供給通路43における水素の供給方向に対して、上流側(水素貯留タンク41側)から下流側(水素噴射弁42側)に向かってレギュレータ44、水素流量計、サージタンクの順で設けられればよい。水素流量計は、水素供給通路43における燃料の流量を計測する手段であって、レギュレータ44で調整された燃料の流量の計測を行う。この水素流量計の計測信号は、電子制御装置50に送信される。また、サージタンクは、水素噴射弁42による燃料の噴射時に水素供給通路43内に発生する脈動の低減を図るものである。
【0038】
本実施形態の作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室CC内に水素と酸素を供給し、水素を拡散燃焼させるものとして例示する。すなわち、上記のように構成される作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室CC内に形成された高温の圧縮ガス(酸素(O)及びアルゴン(Ar))の中に高圧の水素(H)を噴射することにより、この水素の一部が自己着火し、水素と圧縮ガス(酸素)とが拡散混合しながら燃焼する。この燃焼室CC内での水素の燃焼によって、燃焼室CCの中では、水素と酸素(O)が反応して水蒸気(HO)が生成されると共に、比熱比の大きいアルゴン(Ar)が熱膨張を起こす。この結果、この作動ガス循環型エンジン1は、水素の拡散燃焼とアルゴンの熱膨張とによってピストン13が押し下げられ、これにより動力を発生する。
【0039】
そして、作動ガス循環型エンジン1は、水素の燃焼とアルゴンの熱膨張とが一通り終わった際(例えば、ピストン13が下死点近くに位置している際)、排気バルブ16の開弁に伴って、燃焼室CC内から水蒸気とアルゴンとを含む排気ガスが排気ポート11cを介して排気管18に排出される。ここで、排出された排気ガス中のアルゴンは、エンジン本体10の熱効率を高めるために、循環経路20を介して燃焼室CCの排気側から吸気側に循環させ再び吸気側から燃焼室CCに供給する必要がある。しかしながら、同時に排出された排気ガス中の水蒸気は、3原子からなる分子(3原子分子)であり、単原子からなるアルゴンよりも比熱比が小さいので、アルゴンと共に燃焼室CCへ循環させてしまうと、エンジン本体10の熱効率を低下させるおそれがある。このため、この作動ガス循環型エンジン1は、排気ガスの中に含まれる水蒸気を取り除く手段を循環経路20上に設けている。
【0040】
具体的には、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20を流動する排気ガスの中に含まれる水蒸気を取り除く手段として、凝縮器60を備える。さらに、この作動ガス循環型エンジン1は、冷却水循環路61と、冷却水ポンプ62と、ラジエータ63とを備える。
【0041】
凝縮器60は、循環経路20に設けられ排気ガス中に含まれる水蒸気を凝縮して凝縮水(HO)とするものである。凝縮器60は、循環通路21上の第2循環通路21bと第1循環通路21aとの間に設けられる。つまり、凝縮器60は、循環経路20上の後述する酸素噴射弁32よりも排気側に設けられる。また、凝縮器60は、冷却水循環路61が内部を通るようにして接続されている。
【0042】
冷却水循環路61は、凝縮器60に熱交換媒体としての冷却水を循環させるものであり、冷却水が流動可能である。この冷却水循環路61は、閉じられた環状の経路になっており、内部に冷却水が充填されている。
【0043】
冷却水ポンプ62は、冷却水循環路61の経路上に設けられており、冷却水循環路61の冷却水は、この冷却水ポンプ62が駆動することで冷却水循環路61を循環することができる。
【0044】
ラジエータ63は、冷却水循環路61の経路上に設けられており、冷却水循環路61を循環する冷却水を冷却可能なものである。ラジエータ63は、この作動ガス循環型エンジン1を搭載する車両の走行風などにより冷却水循環路61を循環する冷却水を冷却可能である。
【0045】
したがって、この凝縮器60は、冷却水循環路61を循環しラジエータ63により冷却された冷却水が内部に循環、供給されることで、この冷却水と循環経路20を流れる排気ガスとを熱交換させ排気ガスを冷却することにより、排気ガスに含まれる水蒸気(HO)を液化、凝縮して凝縮水とし排気ガスから分離する。すなわち、凝縮器60は、排気ガスをアルゴンと凝縮水とに分離することができる。このとき、凝縮器60にて循環経路20の排気ガスと熱交換をすることで熱を吸収し温度が上昇した冷却水は、冷却水循環路61を循環し再びラジエータ63を通過する際に放熱することで温度が低下し、すなわち、冷却される。つまり、冷却水循環路61を循環する冷却水は、凝縮器60にて吸収した熱をラジエータ63で放熱する。
【0046】
そして、凝縮器60によって分離されたアルゴンは、凝縮器60の作動ガス排出口60bを介して第1循環通路21aに排出される。一方、凝縮器60によって分離された凝縮水は、凝縮器60の凝縮水排出口60cを介して凝縮水排出通路64に排出され、循環経路20の系外、ここでは後述する貯留タンク70に排出される。
【0047】
なお、この凝縮器60とラジエータ63とは、エンジン運転中に想定し得る最も高温の排気ガスが燃焼室CCから排出された際に、その排気ガス中の水蒸気が液化・凝縮される温度にまで排気ガス温度を下げることのできる容量(換言すれば排気ガスの冷却性能)に設定される。
【0048】
上記のように構成される作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室CC内での水素の燃焼に伴って比熱比の大きいアルゴンが熱膨張を起こすことでピストン13が押し下げられ、このピストン13がシリンダボア12a内で往復運動を繰り返すことにより、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を1つのサイクルとしてこのサイクルを繰り返す。ピストン13の往復運動は、コネクティングロッド14によってクランクシャフト19に伝達され、コネクティングロッド14とクランクシャフト19との作用により往復運動が回転運動に変換され、クランクシャフト19が回転する。
【0049】
作動ガス循環型エンジン1は、クランクシャフト19の回転に伴って吸気バルブ15や排気バルブ16が往復運動し、循環経路20と燃焼室CCとの連通と遮断とを繰り返すことにより、吸排気を行ない上記の4つの行程を繰り返す。
【0050】
すなわち、作動ガス循環型エンジン1は、吸気行程において、吸気バルブ15が開弁する一方、排気バルブ16が閉弁すると共に、ピストン13が上死点側から下死点側に移動することにより、循環経路20の吸気管17、吸気ポート11bを介して燃焼室CCに酸素とアルゴンとが吸気される。
【0051】
次に、作動ガス循環型エンジン1は、圧縮行程において、吸気バルブ15が閉弁し吸気バルブ15と排気バルブ16の両方が閉弁状態となると共に、ピストン13が下死点側から上死点側に移動することにより、燃焼室CC内の酸素、アルゴンが圧縮され温度が上昇する。
【0052】
次に、作動ガス循環型エンジン1は、燃焼行程において、燃焼室CC内に形成された高温の圧縮ガス(酸素及びアルゴン)の中に高圧の水素を噴射することにより、この水素の一部が自己着火し、水素と圧縮ガス(酸素)とが拡散混合しながら燃焼する。そして、水素が燃焼すると、これに伴って比熱比の大きいアルゴンが熱膨張を起こし、この水素の拡散燃焼とアルゴンの熱膨張とによってピストン13が押し下げられ、これにより、作動ガス循環型エンジン1は、動力を発生する。
【0053】
次に、作動ガス循環型エンジン1は、排気行程において、吸気バルブ15が閉弁状態を維持する一方、排気バルブ16が開弁すると共に、ピストン13が下死点側から上死点側に移動することにより、水蒸気とアルゴンとを含む排気ガスが燃焼室CC内から循環経路20の排気ポート11cを介して排気管18に排出される。
【0054】
そして、作動ガス循環型エンジン1は、水蒸気とアルゴンとを含む排気ガスが燃焼室CC内から循環経路20に排出され、この排気ガスが燃焼室CCに向けて循環経路20を循環する際には、凝縮器60にて排気ガス中の水蒸気が液化・凝縮され分離される。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、比熱比の小さい水蒸気が燃焼室CCに供給されず、比熱比の大きい作動ガスとしてのアルゴンが燃焼室CCへと再び供給されるので、作動ガスによる熱効率の高い運転を行うことができる。
【0055】
この間、電子制御装置50は、クランクシャフト19の回転位置や、車両の運転席に設けられるアクセルペダル(不図示)の操作量であるアクセル開度、循環ガス中の水素又は酸素の残存量等の運転状態に応じて、酸素供給装置30からの酸素の供給量、水素供給装置40からの水素の供給量を制御する。
【0056】
具体的には、この電子制御装置50は、クランク角センサ51、アクセル開度センサ52、水素濃度センサ53と、酸素濃度センサ54などの種々のセンサが電気的に接続されている。
【0057】
クランク角センサ51は、作動ガス循環型エンジン1のクランクシャフト19の回転角度であるクランク角度を検出するものである。クランク角センサ51は、検出信号を電子制御装置50に送信する。電子制御装置50は、例えば、検出されたクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、作動ガス循環型エンジン1の回転速度としてエンジン回転数(rpm)を算出する。なおここで、エンジン回転数は、言い換えれば、クランクシャフト19の回転速度に対応し、このクランクシャフト19の回転速度が高くなれば、クランクシャフト19の回転数であるエンジン回転数も高くなる。
【0058】
アクセル開度センサ52は、作動ガス循環型エンジン1を搭載する車両のアクセルペダル(不図示)に設けられており、アクセルペダル(不図示)の操作量に相当するアクセル開度を検出するものである。アクセル開度センサ52は、検出信号を電子制御装置50に送信する。なお、このアクセル開度センサ52が検出するアクセル開度は、運転者がこの作動ガス循環型エンジン1に対して要求する要求エンジン負荷(要求負荷率)に応じた値である。
【0059】
水素濃度センサ53は、循環経路20を循環する循環ガス中の水素濃度を検出するものであり、酸素濃度センサ54は、循環経路20を循環する循環ガス中の酸素濃度を検出するものである。水素濃度センサ53と酸素濃度センサ54とは、各々検出信号を電子制御装置50に送信する。
【0060】
電子制御装置50は、クランク角センサ51、アクセル開度センサ52の検出信号に基づいて、運転者がこの作動ガス循環型エンジン1に要求する要求エンジン負荷(要求負荷率)やエンジン回転数等の運転状態に応じて酸素供給装置30、水素供給装置40による酸素、水素の供給量(噴射量)や供給時期(噴射時期)を制御する。運転者がこの作動ガス循環型エンジン1に要求する要求エンジン負荷は、作動ガス循環型エンジン1を搭載する車両のアクセル開度などに基づいて設定される。電子制御装置50は、例えば、作動ガス循環型エンジン1の要求エンジン負荷(要求負荷率)と現在のエンジン回転数とに基づいて、現在のエンジン回転数において、作動ガス循環型エンジン1に要求された要求エンジン負荷を得ることができる水素、酸素の供給量を決定する。
【0061】
ここで、燃焼室CCから排出された排気ガスの中には、水蒸気やアルゴンだけでなく、水素又は酸素が含まれていることがある。例えば、酸素に対して水素の燃焼室CCへの供給量の方が所定よりも多いときには、未燃焼の水素が残り、そのまま循環経路20へと排出される。また、水素に対して酸素の燃焼室CCへの供給量の方が所定よりも多いときには、酸素が残り、そのまま循環経路20へと排出される。このため、排気ガス中の水素や酸素は、凝縮器60で排気ガス中の水蒸気が分離された後のアルゴンと共に凝縮器60の作動ガス排出口60bから第1循環通路21aに排出される。したがって、排気ガス中の水素や酸素もアルゴンと同様に循環経路20を循環し再び燃焼室CCに供給される。
【0062】
そこで、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20を排気側から吸気側に循環するガス(循環ガス)中の水素又は酸素の量を検出し、水素又は酸素が燃焼室CCに到達する時期を見計らって、水素供給装置40からの水素の供給量又は酸素供給装置30からの酸素の供給量を調節している。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室CC内における水素又は酸素の過多を防ぐことができる。
【0063】
例えば、電子制御装置50は、水素濃度センサ53、酸素濃度センサ54の検出信号に基づいて、循環ガス中の水素、酸素の残存量を把握し、その水素、酸素が燃焼室CCに到達する時期を見計らって、酸素供給装置30、水素供給装置40による酸素、水素の供給量を制御する。
【0064】
ところで、この作動ガス循環型エンジン1のように複数の燃焼室CCを備える多気筒型の作動ガス循環型エンジンである場合に、例えば、循環経路20を循環する作動ガスに対して、吸気集合管部17bにおいて酸素噴射弁などにより酸素を供給することがある。これにより、このような作動ガス循環型エンジンは、例えば、複数の燃焼室CCごとに各吸気分岐管部17aに対してそれぞれ酸素噴射弁を設けることなく、1つの酸素噴射弁(気筒数より少ない数の酸素噴射弁)により各燃焼室CCに酸素を供給することができるので、より簡易に燃焼室CCに酸素を供給する装置を構成することができる。これにより、例えば、作動ガス循環型エンジンを構成する部品点数を抑制することができ、製造コストを抑制することができる。
【0065】
しかしながらこの場合、この作動ガス循環型エンジンの酸素を供給する装置は、各燃焼室CCから相対的に離間した位置である吸気集合管部17bに酸素を供給することとなることから、その分、酸素が吸気集合管部17bに供給されてから各吸気分岐管部17aを介して各燃焼室CCに到達するまでの経過時間が相対的に長くなり、この結果、例えば、エンジン出力の過渡運転時における応答性が悪化するおそれがある。特に、このような作動ガス循環型エンジンの場合、酸素と作動ガスとの混合性を高めることで吸気集合管部17bから各吸気分岐管部17aを介して各燃焼室CC(気筒)に分配される酸素量を均等にするために、各吸気分岐管部17aの上流側に位置する吸気集合管部17bの容積が相対的に大きくなる傾向にあり、この結果、吸気集合管部17bの酸素噴射弁の酸素噴射位置から燃焼室CCまでの吸気通路容積が相対的に大きくなる傾向にあり、このため、エンジン出力の過渡運転時における応答性の悪化がより顕著になるおそれがある。
【0066】
そこで、本実施形態の作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、図1、図2に示すように、調節手段としての酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して、各吸気分岐管部17aに対応して設けられる供給口としての噴射ノズル36から供給される酸素の供給量を調節することで、エンジン出力の過渡運転時における応答性の向上を図っている。
【0067】
具体的には、酸素供給装置30は、酸素貯留タンク31と、酸素噴射弁32と、酸素供給通路33と、レギュレータ34と、酸素供給室35と、噴射ノズル36と、デリバリパイプ37とを含んで構成される。この酸素供給装置30は、酸素貯留タンク31に貯留された酸素を酸素噴射弁32からデリバリパイプ37内の酸素供給室35に噴射し、この酸素供給室35内の酸素を複数の噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに噴射して各燃焼室CCに酸素を供給するものである。
【0068】
酸素貯留タンク31は、酸化剤としての酸素を例えば70MPa程度の高圧の状態で貯留するものである。
【0069】
酸素噴射弁32は、酸素貯留タンク31に貯留された高圧の酸素を酸素供給室35に直接噴射するものである。酸素噴射弁32は、酸素を酸素供給室35内に直接噴射可能なようにデリバリパイプ37に設けられる。この酸素噴射弁32は、電子制御装置50によって制御される。
【0070】
酸素供給通路33は、酸素貯留タンク31と酸素噴射弁32を繋ぐものである。レギュレータ34は、この酸素供給通路33上に設けられる。
【0071】
レギュレータ34は、酸素供給通路33におけるレギュレータ34よりも下流側の圧力を設定圧力に調整するものである。言い換えれば、このレギュレータ34は、酸素供給通路33における酸素の流量を制御するものである。レギュレータ34は、電子制御装置50によって制御される。
【0072】
なお、この酸素供給装置30は、この酸素供給通路33上に酸素流量計やサージタンクを備えていてもよい。酸素流量計は、酸素供給通路33における酸素の流量を計測する手段であって、レギュレータ34で調整された酸素の流量の計測を行う。この酸素流量計の計測信号は、電子制御装置50に送信される。また、サージタンクは、酸素噴射弁32による酸素の噴射時に酸素供給通路33内に発生する脈動の低減を図るものである。
【0073】
酸素供給室35は、デリバリパイプ37の内部に形成される。デリバリパイプ37は、両端部が閉塞した円筒状に形成される。酸素供給室35は、このデリバリパイプ37の中空の内部空間部として区画される。この酸素供給室35は、後述の複数の噴射ノズル36に対する酸素の分配部として機能する。
【0074】
また、この酸素供給室35を形成するデリバリパイプ37は、上述したように酸素噴射弁32が設けられる。酸素噴射弁32は、デリバリパイプ37の内部空間部、すなわち、酸素供給室35に噴射口が位置するようにデリバリパイプ37に設けられる。
【0075】
これにより、酸素供給室35は、酸素噴射弁32から酸素が噴射され供給される。そして、この酸素供給室35は、酸素噴射弁32から噴射される酸素の噴射量が調節されることで、内部の圧力が調節される。言い換えれば、上述の酸素噴射弁32は、酸素を酸素供給室35に噴射すると共に、その噴射量が電子制御装置50によって制御されることで、この酸素供給室35内の圧力を調節することができる。
【0076】
噴射ノズル36は、デリバリパイプ37の外面に酸素供給室35に連通するようにして設けられる。噴射ノズル36は、複数の吸気分岐管部17aに対応して複数、ここでは4つ設けられる。各噴射ノズル36は、各吸気分岐管部17aの内部空間に連通する。つまり、噴射ノズル36は、デリバリパイプ37の外面に設けられると共に、デリバリパイプ37の内部空間部である酸素供給室35と、吸気分岐管部17aの内部空間である作動ガスなどの流体が通過可能な通路部とを連通するものである。噴射ノズル36と吸気分岐管部17aとは、1つの吸気分岐管部17aに対して1つの噴射ノズル36が連通している。
【0077】
これにより、各噴射ノズル36は、酸素供給室35内の酸素を各吸気分岐管部17aの内部空間にそれぞれ噴射して供給可能である。このとき、各噴射ノズル36は、酸素供給室35内の圧力に応じた供給量(噴射量)で酸素を吸気分岐管部17aの内部空間に噴射して供給する。
【0078】
したがって、この酸素供給装置30は、酸素貯留タンク31に貯留された酸素を酸素噴射弁32からデリバリパイプ37内の酸素供給室35に噴射し、この酸素供給室35内の酸素を複数の噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに噴射することで、各燃焼室CCに酸素を供給することができる。この間、酸素供給装置30は、酸素供給室35が複数の噴射ノズル36に対する酸素の分配部として機能すると共に、酸素噴射弁32から噴射される酸素の噴射量が電子制御装置50によって制御され調節されることで、酸素供給室35の内部の圧力が調節され、これにより、各噴射ノズル36から酸素供給室35内の圧力に応じた供給量(噴射量)で酸素が吸気分岐管部17aの内部に噴射され供給される。つまり、酸素供給装置30は、電子制御装置50によって酸素噴射弁32による酸素の噴射量が調節され、酸素供給室35内の圧力が調節されることで、酸素供給室35内の圧力と吸気分岐管部17a内の圧力との圧力差に応じた供給量で各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に酸素が噴射され供給される。
【0079】
この結果、この作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、例えば、複数の燃焼室CCごとに各吸気分岐管部17aに対してそれぞれ酸素噴射弁を設けることなく、気筒数より少ない数の調節手段としての酸素噴射弁32、ここでは、1つの酸素噴射弁32により各燃焼室CCに酸素を供給することができるので、より簡易に燃焼室CCに酸素を供給する装置を構成することができ、製造コストを抑制することができる。
【0080】
そして、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、例えば、吸気集合管部17bと比較して各燃焼室CCに相対的に近接した位置である各吸気分岐管部17aに酸素を供給することから、その分、酸素が各吸気分岐管部17aに供給されてから各吸気ポート11bを介して各燃焼室CCに到達するまでの経過時間を相対的に短くすることができる。したがって、この作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、酸素供給室35から各吸気分岐管部17aを介して各燃焼室CC(気筒)に分配される酸素量をほぼ均等にした上で、酸素が各吸気分岐管部17aに供給されてから各吸気ポート11bを介して各燃焼室CCに到達するまでの経過時間を相対的に短くすることができることから、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【0081】
ここで、本実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、図1、図2に示すように、電子制御装置(ECU)50にさらに、酸素供給室圧力検出手段としての供給圧力センサ55と、吸気圧力検出手段としての吸気管内圧力センサ56と、吸気温度検出手段としての吸気管内温度センサ57とが電気的に接続されている。また、この作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、機能概念的に、電子制御装置(ECU)50に、制御手段としての酸素供給制御部80と、水素供給制御部81とが設けられている。
【0082】
ここで、電子制御装置50は、マイクロコンピュータを中心として構成され処理部50a、記憶部50b及び入出力部50cを有し、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。入出力部50cには作動ガス循環型エンジン1を含む車両の各部を駆動する不図示の駆動回路、上述した各種センサが接続されており、この入出力部50cは、これらのセンサ等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部50bには、作動ガス循環型エンジン1や酸素供給装置30の各部を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部50bは、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。処理部50aは、不図示のメモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも上述の酸素供給制御部80、水素供給制御部81を有している。電子制御装置50による各種制御は、各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部50aが前記コンピュータプログラムを当該処理部50aに組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて制御信号を送ることにより実行される。その際に処理部50aは、適宜記憶部50bへ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、この酸素供給装置30の各部を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、電子制御装置50とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0083】
そして、供給圧力センサ55は、酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pを検出するものである。供給圧力Pは、言い換えれば、デリバリパイプ37内の圧力であるデリバリパイプ内圧力に相当する。吸気管内圧力センサ56は、吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力(吸気圧)Pを検出するものである。吸気管内圧力Pは、循環経路20内の系内圧力に相当する。吸気管内温度センサ57は、吸気分岐管部17a内の温度である吸気管内温度(吸気温度)Tを検出するものである。供給圧力センサ55、吸気管内圧力センサ56、吸気管内温度センサ57は、各々検出信号を電子制御装置50に送信する。なお、ここでは、吸気管内圧力センサ56、吸気管内温度センサ57は、それぞれ1つずつ設けられ、複数の吸気分岐管部17aのうちの1つの内部空間の吸気管内圧力(吸気圧)P、吸気管内温度(吸気温度)Tを検出するものとして説明するが、これに限らず、それぞれ複数設けられていてもよい。またここでは、吸気管内圧力センサ56、吸気管内温度センサ57は、吸気分岐管部17aにおいて、噴射ノズル36よりも燃焼室CCの吸気側の位置(作動ガスの循環方向に対して噴射ノズル36よりも下流側の位置)で吸気管内圧力P、吸気管内温度Tを検出している。
【0084】
酸素供給制御部80は、酸素供給装置30の駆動を制御するものであり、水素供給制御部81は、水素供給装置40の駆動を制御するものである。酸素供給制御部80、水素供給制御部81は、基本的には上述したように、各種センサの検出信号に基づいて、要求エンジン負荷(要求負荷率)、エンジン回転数、循環ガス中の水素、酸素の残存量等の運転状態等の運転状態に応じて、酸素供給装置30、水素供給装置40による酸素、水素の供給量(噴射量)や供給時期(噴射時期)を制御する。
【0085】
本実施形態の酸素供給制御部80は、さらに具体的に言えば、酸素噴射弁32を制御するものである。酸素供給制御部80は、酸素噴射弁32の駆動を制御し、酸素噴射弁32から酸素供給室35への酸素の噴射量を調節することで、酸素供給室35内の圧力、すなわち、供給圧力Pを調節する。これにより、酸素供給制御部80は、供給圧力Pと吸気管内圧力Pとの圧力差に応じて供給圧力P側から吸気管内圧力P側に流れる酸素流量、すなわち、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の供給量(噴射量)を制御する。
【0086】
ここでは、酸素供給制御部80は、要求される酸素の供給量と、吸気管内圧力センサ56が検出した吸気管内圧力Pと、吸気管内温度センサ57が検出した吸気管内温度Tとに基づいて、酸素噴射弁32を制御して供給圧力Pを調節する。酸素供給制御部80は、例えば、要求エンジン負荷(要求負荷率)に応じたアクセルペダル操作量(アクセル開度)、エンジン回転数、系内酸素濃度などに基づいて、要求される酸素の供給量である要求酸素供給量mを設定する。そして、酸素供給制御部80は、要求酸素供給量m、吸気管内圧力P、吸気管内温度Tに基づいて、要求される供給圧力である要求供給圧力P’を設定する。そして、酸素供給制御部80は、供給圧力センサ55が検出した実際の供給圧力Pが要求供給圧力P’に収束するように、酸素噴射弁32の駆動を制御し、酸素噴射弁32から酸素供給室35への酸素の噴射量を調節する。
【0087】
次に、図3のフローチャートを参照して本実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30の酸素供給制御を説明する。なお、この制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
【0088】
まず、電子制御装置50の酸素供給制御部80は、アクセル開度センサ52の検出信号に基づいて、現在のアクセルペダル操作量(アクセル開度)を取得する(S100)。このアクセルペダル操作量(アクセル開度)は、要求エンジン負荷(要求負荷率)に応じた値である。
【0089】
次に、酸素供給制御部80は、クランク角センサ51の検出信号に基づいて、現在のエンジン回転数を取得する(S101)。
【0090】
次に、酸素供給制御部80は、酸素濃度センサ54の検出信号に基づいて、循環経路20を循環する循環ガス中の現在の酸素濃度、すなわち、現在の系内酸素濃度を取得する(S102)。
【0091】
次に、酸素供給制御部80は、S100で取得したアクセルペダル操作量(アクセル開度)、S101で取得したエンジン回転数、S102で取得した系内酸素濃度に基づいて、要求酸素供給量mを設定する(S103)。
【0092】
酸素供給制御部80は、例えば、図4に例示する必要酸素量マップm01に基づいて、必要酸素量を求める。この必要酸素量マップm01は、横軸がエンジン回転数、縦軸がアクセルペダル操作量(アクセル開度)を示す。必要酸素量マップm01は、エンジン回転数、アクセルペダル操作量(アクセル開度)と必要酸素量との関係を記述したものである。この必要酸素量は、現在のエンジン回転数において、アクセルペダル操作量(アクセル開度)に応じた要求エンジン負荷を得るための必要水素量に対応した酸素量である。この必要酸素量マップm01では、必要酸素量は、エンジン回転数の増加にともなって増加し、アクセルペダル操作量(アクセル開度)の増加にともなって増加する。必要酸素量マップm01は、エンジン回転数、アクセルペダル操作量(アクセル開度)と必要酸素量との関係が予め設定された上で記憶部50bに格納されている。酸素供給制御部80は、この必要酸素量マップm01に基づいて、S100で取得したアクセルペダル操作量(アクセル開度)とS101で取得したエンジン回転数とから、必要酸素量を求める。
【0093】
なお、本実施形態では、酸素供給制御部80は、必要酸素量マップm01を用いて必要酸素量を求めたが、本実施形態はこれに限定されない。酸素供給制御部80は、例えば、必要酸素量マップm01に相当する数式に基づいて必要酸素量を求めてもよい。以下で説明する種々のマップについても同様である。
【0094】
そして、酸素供給制御部80は、例えば、図5に例示する酸素供給量マップm02に基づいて、要求酸素供給量mを求める。この酸素供給量マップm02は、横軸が必要酸素量、縦軸が系内酸素濃度を示す。酸素供給量マップm02は、必要酸素量、系内酸素濃度と酸素供給量との関係を記述したものである。この酸素供給量は、酸素供給装置30から供給する酸素量である。この酸素供給量マップm02では、酸素供給量は、必要酸素量の増加にともなって増加し、系内酸素濃度の増加、つまり、循環経路20の残留酸素の増加にともなって減少する。酸素供給量マップm02は、必要酸素量、系内酸素濃度と酸素供給量との関係が予め設定された上で記憶部50bに格納されている。酸素供給制御部80は、この酸素供給量マップm02に基づいて、上述した必要酸素量と、S102で取得した系内酸素濃度とから、要求酸素供給量mを求める。
【0095】
次に、酸素供給制御部80は、吸気管内圧力センサ56、吸気管内温度センサ57の検出信号に基づいて、現在の吸気管内圧力P、現在の吸気管内温度Tを取得する(S104)。
【0096】
次に、酸素供給制御部80は、S103で設定した要求酸素供給量m、S104で取得した吸気管内圧力P、吸気管内温度Tに基づいて、要求供給圧力P’を設定する(S105)。
【0097】
酸素供給制御部80は、例えば、下記の数1に示す数式(1)に基づいて、要求酸素供給量m、S104で取得した吸気管内圧力P、吸気管内温度Tから要求供給圧力P’を算出する。この数式(1)において、mは要求酸素供給量、P’は要求供給圧力、Pは吸気管内圧力、Tは吸気管内温度、Cは流量係数、Aは噴射ノズル36のノズル(噴射口)面積、κは酸素の比熱比、Mは酸素分子量、Rは一般気体定数を表す。
【0098】
【数1】

【0099】
次に、酸素供給制御部80は、供給圧力センサ55の検出信号に基づいて、現在の供給圧力Pを取得する(S106)。
【0100】
次に、酸素供給制御部80は、S105で設定した要求供給圧力P’と、S106で取得した供給圧力Pとを比較し、供給圧力Pが要求供給圧力P’以上であるか否かを判定する(S107)。
【0101】
酸素供給制御部80は、供給圧力Pが要求供給圧力P’以上であると判定した場合(S107:Yes)、酸素噴射弁32の駆動を制御し閉弁状態とし(S108)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。この場合、酸素噴射弁32がもともと閉弁状態であった場合にはこの閉弁状態を継続する。
【0102】
酸素供給制御部80は、供給圧力Pが要求供給圧力P’より小さいと判定した場合(S107:No)、供給圧力Pが要求供給圧力P’となるように酸素噴射弁32による酸素の必要噴射量を算出し、この必要噴射量に基づいてマップなどを用いて酸素噴射弁32の開弁期間(噴射期間)を設定し、この開弁期間に基づいて酸素噴射弁32の駆動を制御し(S109)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0103】
以上で説明した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30によれば、酸素と水素との燃焼に伴って空気より比熱比の高い作動ガスが膨張可能である複数の燃焼室CCと、複数の燃焼室CCにそれぞれ連通する複数の吸気分岐管部17aを含んで構成され作動ガスを燃焼室CCの排気側から吸気側に循環させ吸気分岐管部17aを介して再び燃焼室CCに供給可能な循環経路20とが設けられた作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30において、酸素が供給される酸素供給室35と、酸素供給室35に連通して設けられこの酸素供給室35内の酸素を複数の吸気分岐管部17aにそれぞれ供給可能な複数の噴射ノズル36と、酸素供給室35内の圧力を調節することで各噴射ノズル36から供給される酸素の供給量を調節可能な酸素噴射弁32とを備える。
【0104】
したがって、この作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、気筒数より少ない数の調節手段としての酸素噴射弁32により各燃焼室CCに酸素を供給することができると共に、各燃焼室CCに相対的に近接した各吸気分岐管部17aに酸素を供給することができることから、簡易な構成でエンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【0105】
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30によれば、吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力Pを検出する吸気管内圧力センサ56と、吸気分岐管部17a内の温度である吸気管内温度Tを検出する吸気管内温度センサ57と、酸素噴射弁32を制御する酸素供給制御部80とを備え、酸素供給制御部80は、要求される酸素の供給量である要求酸素供給量mと、吸気管内圧力センサ56が検出した吸気管内圧力Pと、吸気管内温度センサ57が検出した吸気管内温度Tとに基づいて、酸素噴射弁32を制御して酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pを調節する。したがって、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30は、酸素供給制御部80が要求酸素供給量m、吸気管内圧力P、吸気管内温度Tに基づいて、酸素噴射弁32を制御し、要求酸素供給量mを実現するように供給圧力Pと吸気管内圧力Pとの圧力差を調節することで、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aを介して各燃焼室CCに供給される酸素の供給量を簡易に適正に調節することができる。
【0106】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図、図7は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の吸気管内圧力と供給圧力との関係を説明する線図、図8は、本発明の実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。実施形態2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置と略同様の構成であるが吸気分岐通路内の圧力と酸素供給室内の圧力との圧力比が臨界圧力比以下に設定される点で実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0107】
本実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230は、図6に示すように、上述の実施形態1で説明した吸気管内圧力センサ56を備えていない。
【0108】
ここで、本実施形態の酸素供給装置230は、吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力Pと酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pとの圧力比が臨界圧力比以下に設定される。
【0109】
具体的には、酸素供給装置230は、酸素の噴射方向の下流側の圧力である吸気管内圧力Pと上流側の圧力である供給圧力Pとの圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36が形成される。各噴射ノズル36は、圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるような径にそのノズル径(噴射口径)が設定されて形成される。つまり、酸素供給装置230は、吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力Pと酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pとの圧力比が下記の数2に示す数式(2)の関係式を満たすように各噴射ノズル36の形状が構成される。この数式(2)において、Pは供給圧力、Pは吸気管内圧力、κは酸素の比熱比を表す。
【0110】
【数2】

【0111】
図7は、本実施形態の酸素供給装置230における吸気管内圧力Pと供給圧力Pとの関係を説明する図である。本図中、線L1は、供給圧力P=吸気管内圧力Pを表し、この線L1を境界として、吸気管内圧力P>供給圧力Pの領域では、各噴射ノズル36から酸素が噴射されない一方、吸気管内圧力P<供給圧力Pの領域では、各噴射ノズル36から酸素が噴射される。そして、線L2は、臨界圧力比を表し、本実施形態の酸素供給装置230は、各噴射ノズル36のノズル径(噴射口径)を適正に設定することで、圧力比P/Pが臨界圧力比以下の領域Aになるように設定される。
【0112】
ここで、臨界圧力比とは、噴射ノズル36を通る気体、ここでは酸素の流速が音速に達したときの上流側と下流側との圧力比に相当する。例えば、気体である酸素が流れる噴射ノズル36の上流側の圧力である供給圧力Pと下流側の圧力である吸気管内圧力Pとの差を大きくして、上下流の圧力比P/P(下流/上流)が臨界圧力比以下になると、噴射ノズル36のスロート部(一番狭い部分)を通る酸素の流速は音速と同等になる。このとき、噴射ノズル36のスロート部における酸素の流速は、噴射ノズル36の下流側の状態、すなわち、噴射ノズル36の下流側の圧力である吸気管内圧力Pに依存しなくなり、 いったん音速に達した後は、圧力差が大きい限り、すなわち、圧力比P/P(下流/上流)が臨界圧力比以下である限り音速から変化することはなくなる。
【0113】
つまり、酸素供給装置230は、圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36が形成されることで、各噴射ノズル36の酸素の噴射方向下流側の流れ場の変動によらず、すなわち、各噴射ノズル36の酸素の噴射方向の下流側の吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力Pの変動によらず、常に一定流量で各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに酸素を噴射することができる。さらに言えば、酸素供給装置230は、吸気管内圧力Pの変動にかかわらず供給圧力Pを調節することで、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の供給量(噴射量)を適正に調節することができる。
【0114】
この結果、この酸素供給装置230は、圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36が形成されることで、常に一定流量で各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに酸素を噴射することができることから、吸気脈動や循環経路20内の圧力の変動、各吸気分岐管部17a間での吸気管内圧力Pのバラツキなどにかかわらず、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の酸素流量(単位時間当たりの酸素供給量であり酸素供給率)を一定とすることができ、各噴射ノズル36からの酸素の供給量のバラツキを抑制することができる。
【0115】
特に、この酸素供給装置230が適用される作動ガス循環型エンジン1は、各燃焼室CCの吸気側と排気側とが循環経路20により繋がれていることから循環経路20の系内の圧力が変動することで吸気管内圧力Pの変動が大きくなり易い傾向にあるが、酸素供給装置230は、上記のように圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36を構成することで、吸気管内圧力Pの変動の影響を受けにくくすることができるので好適である。
【0116】
そして、本実施形態の制御手段としての酸素供給制御部280は、圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36が形成されることで、要求される酸素の供給量と、吸気管内温度センサ57が検出した吸気管内温度Tとに基づいて、すなわち、吸気管内圧力Pによらずに酸素噴射弁32を制御して供給圧力Pを調節し、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の供給量(噴射量)を制御することができ、よって、より簡易な構成で適正に酸素の供給量を調節することができる。
【0117】
次に、図8のフローチャートを参照して本実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230の酸素供給制御を説明する。なお、この制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。また、本実施形態の酸素供給装置230の酸素供給制御におけるS100からS103、S106からS109は、実施形態1の酸素供給装置30の酸素供給制御(図3参照)におけるS100からS103、S106からS109と同様であるのでその説明は省略する。
【0118】
本実施形態の酸素供給制御部280は、S103にて要求酸素供給量mを設定した後、吸気管内温度センサ57の検出信号に基づいて、現在の吸気管内温度Tを取得する(S204)。
【0119】
次に、酸素供給制御部280は、S103で設定した要求酸素供給量m、S204で取得した吸気管内温度Tに基づいて、要求供給圧力P’を設定し(S205)、S106に移行し、以降の処理を実行する。
【0120】
酸素供給制御部280は、例えば、下記の数3に示す数式(3)に基づいて、要求酸素供給量m、吸気管内温度Tから要求供給圧力P’を算出する。この数式(3)において、mは要求酸素供給量、P’は要求供給圧力、Tは吸気管内温度、Cは流量係数、Aは噴射ノズル36のノズル(噴射口)面積、κは酸素の比熱比、Mは酸素分子量、Rは一般気体定数を表す。
【0121】
【数3】

【0122】
以上で説明した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230によれば、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230は、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、気筒数より少ない数の調節手段としての酸素噴射弁32により各燃焼室CCに酸素を供給することができると共に、各燃焼室CCに相対的に近接した各吸気分岐管部17aに酸素を供給することができることから、簡易な構成でエンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【0123】
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230によれば、吸気分岐管部17a内の温度である吸気管内温度Tを検出する吸気管内温度センサ57と、酸素噴射弁32を制御する酸素供給制御部280とを備え、各噴射ノズル36は、各吸気分岐管部17a内の圧力である吸気管内圧力Pと酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pとの圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように形成され、酸素供給制御部280は、要求される酸素の供給量である要求酸素供給量mと、吸気管内温度センサ57が検出した吸気管内温度Tとに基づいて、酸素噴射弁32を制御して酸素供給室35内の圧力である供給圧力Pを調節する。したがって、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置230は、圧力比P/Pが臨界圧力比以下となるように各噴射ノズル36が形成されることで、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の酸素流量を吸気管内圧力Pにかかわらず一定とすることができ、酸素供給制御部280が要求酸素供給量m、吸気管内温度Tに基づいて、酸素噴射弁32を制御し、要求酸素供給量mを実現するように供給圧力Pを調節することで、吸気管内圧力Pによらずに各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aを介して各燃焼室CCに供給される酸素の供給量をより簡易に適正に調節することができる。
【0124】
なお、上述した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0125】
以上の説明では、調節手段は、酸素噴射弁32であるものとして説明したがこれに限らない。
【0126】
図9は、本発明の変形例1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図、図10は、本発明の変形例1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。変形例1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置と略同様の構成であるが調節手段の構成が実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0127】
本変形例に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30Aは、図9に示すように、調節手段としての酸素噴射弁32を備えず、かわりにレギュレータ34が本発明の調節手段に相当する。
【0128】
すなわち、この酸素供給装置30Aは、レギュレータ34が酸素供給通路33におけるレギュレータ34よりも下流側の圧力を調整することで、酸素供給室35内の圧力を調節する。レギュレータ34は、酸素供給通路33の絞り、すなわち、酸素供給通路33の開度を調節することで、酸素供給通路33におけるレギュレータ34よりも下流側の圧力を調整し、酸素供給室35内の圧力を調節する。レギュレータ34は、その絞り量(酸素供給通路33の開度)が電子制御装置50によって制御されることで、この酸素供給室35内の圧力を調節する。
【0129】
本変形例の酸素供給制御部80は、レギュレータ34の駆動を制御し、レギュレータ34の絞り量(酸素供給通路33の開度)を調節することで、酸素供給室35内の圧力、すなわち、供給圧力Pを調節する。これにより、酸素供給制御部80は、供給圧力Pと吸気管内圧力Pとの圧力差に応じて供給圧力P側から吸気管内圧力P側に流れる酸素流量、すなわち、各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aの内部に噴射される酸素の供給量(噴射量)を制御する。
【0130】
この場合、酸素供給制御部80は、図10のフローチャートに示すように、供給圧力Pが要求供給圧力P’以上であると判定した場合(S107:Yes)、レギュレータ34の駆動を制御し絞りを全閉状態とする一方(S108A)、供給圧力Pが要求供給圧力P’より小さいと判定した場合(S107:No)、供給圧力Pが要求供給圧力P’となるようにマップなどを用いてレギュレータ34の絞り量(酸素供給通路33の開度)を算出し、この絞り量(酸素供給通路33の開度)に基づいてレギュレータ34を制御する(S109A)。
【0131】
この場合であっても、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30Aは、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、レギュレータ34が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、各燃焼室CCに相対的に近接した各吸気分岐管部17aに酸素を供給することができることから、簡易な構成でエンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。なお、実施形態2における調節手段をレギュレータ34により構成してもよい。
【0132】
また、以上の説明では、酸素供給装置30、230は、レギュレータ34を備えるものとして説明したがこれに限らない。
【0133】
図11は、本発明の変形例2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の模式的な概略構成図、図12は、本発明の変形例2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置の酸素供給制御を説明するフローチャートである。変形例2に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置と略同様の構成であるがレギュレータ34を備えない点で実施形態1に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0134】
本変形例に係る作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30Bは、図11に示すように、レギュレータ34を備えず、かわりにタンク内圧検出手段としてのタンク内圧力センサ58Bを備えている。
【0135】
タンク内圧力センサ58Bは、酸素貯留タンク31内の圧力であるタンク内圧力Pを検出するものである。タンク内圧力センサ58Bは、検出信号を電子制御装置50に送信する。
【0136】
この場合、酸素供給制御部80は、図12のフローチャートに示すように、供給圧力Pが要求供給圧力P’より小さいと判定した場合(S107:No)、タンク内圧力センサ58Bの検出信号に基づいて現在のタンク内圧力Pを取得し(S109b)、供給圧力Pが要求供給圧力P’となるように酸素噴射弁32による酸素の必要噴射量を算出し、この必要噴射量とS109bで取得したタンク内圧力Pとに基づいてマップなどを用いて酸素噴射弁32の開弁期間(噴射期間)を設定し、この開弁期間に基づいて酸素噴射弁32の駆動を制御する(S109B)。
【0137】
この場合であっても、作動ガス循環型エンジン1の酸素供給装置30Bは、酸素供給室35内の酸素を各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給すると共に、酸素噴射弁32が酸素供給室35内の圧力を調節して各噴射ノズル36から各吸気分岐管部17aに供給される酸素の供給量を調節することで、各燃焼室CCに相対的に近接した各吸気分岐管部17aに酸素を供給することができることから、簡易な構成でエンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。なお、実施形態2においてレギュレータ34を備えない構成とした場合も同様である。
【0138】
また、以上の説明では、本発明の吸気分岐通路は、吸気管17の吸気分岐管部17aであるものとして説明したが、吸気分岐通路は、吸気ポート11bであってもよい。この場合、供給口としての各噴射ノズル36は、酸素供給室35内の酸素を各吸気分岐通路としての吸気ポート11bに供給可能な構成であればよい。また、酸素供給室は、デリバリパイプ37内の内部空間部であるものとして説明したが、例えば、シリンダヘッド11内に形成されていてもよい。
【0139】
また、以上の説明では、作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置が適用される作動ガス循環型エンジンは、水素が燃焼室CC内に直接噴射されるよう水素噴射弁42を設けるものとして説明したが、水素噴射弁42は、水素を吸気ポート11bに噴射させるべくシリンダヘッド11に取り付けられてもよい。この場合であっても、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【0140】
また、以上の説明では、作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置が適用される作動ガス循環型エンジンは、水素を拡散燃焼させるものとして例示したが、燃料に対して図示しない点火プラグで点火して、いわゆる、火花点火燃焼させる形態のものであってもよく、その水素に対して点火プラグで点火して着火の補助を行い拡散燃焼させる形態のものであってもよい。つまり、以上で説明した本発明の作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、燃焼形態の異なる作動ガス循環型エンジンに適用してもよく、この場合であっても、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上のように、本発明に係る作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置は、エンジン出力の過渡運転時における応答性を向上することができるものであり、排気ガス中に含まれる作動ガスを燃焼室の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室に供給可能な種々の作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0142】
1 作動ガス循環型エンジン
10 エンジン本体
11b 吸気ポート
11c 排気ポート
17 吸気管
17a 吸気分岐管部(吸気分岐通路)
17b 吸気集合管部
18 排気管
19 クランクシャフト
20 循環経路
21 循環通路
30、30A、30B、230 酸素供給装置
31 酸素貯留タンク
32 酸素噴射弁(調節手段)
33 酸素供給通路
34 レギュレータ
35 酸素供給室
36 噴射ノズル(供給口)
37 デリバリパイプ
40 水素供給装置
50 電子制御装置
55 供給圧力センサ
56 吸気管内圧力センサ(吸気圧力検出手段)
57 吸気管内温度センサ(吸気温度検出手段)
58B タンク内圧力センサ
80、280 酸素供給制御部(制御手段)
81 水素供給制御部
CC 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と水素との燃焼に伴って空気より比熱比の高い作動ガスが膨張可能である複数の燃焼室と、前記複数の燃焼室にそれぞれ連通する複数の吸気分岐通路を含んで構成され前記作動ガスを前記燃焼室の排気側から吸気側に循環させ前記吸気分岐通路を介して再び前記燃焼室に供給可能な循環経路とが設けられた作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置において、
前記酸素が供給される酸素供給室と、
前記酸素供給室に連通して設けられ当該酸素供給室内の前記酸素を前記複数の吸気分岐通路にそれぞれ供給可能な複数の供給口と、
前記酸素供給室内の圧力を調節することで前記供給口から供給される前記酸素の供給量を調節可能な調節手段とを備えることを特徴とする、
作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置。
【請求項2】
前記吸気分岐通路内の圧力を検出する吸気圧力検出手段と、
前記吸気分岐通路内の温度を検出する吸気温度検出手段と、
前記調節手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、要求される前記酸素の供給量と、前記吸気圧力検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の圧力と、前記吸気温度検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の温度とに基づいて、前記調節手段を制御して前記酸素供給室内の圧力を調節する、
請求項1に記載の作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置。
【請求項3】
前記吸気分岐通路内の温度を検出する吸気温度検出手段と、
前記調節手段を制御する制御手段とを備え、
前記供給口は、前記吸気分岐通路内の圧力と前記酸素供給室内の圧力との圧力比が臨界圧力比以下となるように形成され、
前記制御手段は、要求される前記酸素の供給量と、前記吸気温度検出手段が検出した前記吸気分岐通路内の温度とに基づいて、前記調節手段を制御して前記酸素供給室内の圧力を調節する、
請求項1に記載の作動ガス循環型エンジンの酸素供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−209801(P2010−209801A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57029(P2009−57029)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】