説明

作動筋−拮抗筋作用を有する動力付き人工膝

人工膝は、並列をなす2つの直列弾性アクチュエーターからなる作動筋−拮抗筋配列を備え、膝関節、該膝関節に接続されて脚部材と並列をなす屈曲用及び伸展用アクチュエーター、及び、該アクチュエーターに独立にエネルギーを供給して、該膝関節及び該脚部材の動きを制御するためのコントローラを含んでいる。屈曲用アクチュエーターは、屈曲用モーターと屈曲用弾性要素の直列結合を含み、伸展用アクチュエーターは、伸展用モーターと伸展用弾性要素の直列結合を含む。センサーは、コントローラにフィードバックを提供する。屈曲用アクチュエーター及び伸展用アクチュエーターを一方向性とすることができ、この場合、屈曲用弾性要素及び伸展用弾性要素は直列ばねである。代わりに、伸展用アクチュエーターを双方向性とすることができ、この場合、伸展用弾性要素は一組の予め圧縮された直列ばねである。代替的には、屈曲用弾性要素を非線形漸軟ばねとし、伸展用弾性要素を非線形漸硬ばねとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2010年1月30日に出願された米国仮特許出願第61/148,545号の利益を主張するものであり、該仮特許出願の全開示内容は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、2009年10月29日に出願された同時係属出願である米国特許出願第12/608,627号(該出願は、2006年12月19日に出願されたが放棄された米国特許出願第11/642,993の継続出願であって、2005年12月19日に出願されたがすでに失効している米国仮特許出願第60/751,680号の利益を主張するものである)の一部継続出願であって、米国特許出願第11/395,448号、第11/495,140号、第11/600,291号、及び第11/499,853号(これは、米国特許第7,313,463号として特許されており、2005年8月4日に出願された米国仮特許出願第60/705,651の出願日の利益を主張するものである)の一部継続出願であり、かつ、米国特許出願第11/395,448号の一部継続出願である。これらの米国特許出願の全開示内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0003】
本願はまた、Hugh M. Herr、Daniel Joseph Paluska、及びPeter Dilworthによって2006年3月31日に出願された「Artificial human limbs and jointsemploying actuators, springs and Variable-Damper Elements」と題する米国特許出願第11/395,448号の一部継続出願である。米国特許出願第11/395,448号は、2005年3月31日に出願された米国仮特許出願第60/666,876号の出願日の利益、並びに、2005年8月1日に出願された米国仮特許出願第60/704,517号の出願日の利益を主張するものである。
【0004】
本願はまた、Hugh M. Herr、Samuel K. Au, Peter Dilworth及びDaniel Joseph Paluskaによって2006年7月29日に出願された「An Artificial Ankle-Foot System with Spring, Variable-Damping, andSeries-Elastic Actuator Components」と題する米国特許出願第11/495,140号の一部継続出願である。米国特許出願第11/495,140号は、2005年8月1日に出願された米国仮特許出願第60/704,517号の出願日の利益を主張するものであり、また、米国特許出願第11/395,448号の一部継続出願である。
【0005】
本願はまた、Hugh M. Herr、Conor Walsh、Daniel Joseph Paluska、Andrew Valiente、Kenneth Pasch、及びWilliamGrandによって2006年11月15日に出願された「Exoskeletons for running and walking」と題する米国特許出願第11/600,291号の一部継続出願である。米国特許出願第11/600,291号は、2005年11月15日に出願された米国仮特許出願第60/736,929号の出願日の利益を主張するものであり、かつ、米国特許出願第11/395,448号、11/499,853号、及び11/495,140号の一部継続出願である。
【0006】
本願は、上記の特許出願の各々の出願日の利益を主張するものであって、上記の出願の各々の開示を参照によって組み込んでいる。
【0007】
連邦支援の研究開発に関する陳述
本発明は、米国復員軍人援護局によって授与された認可番号VA241-P-0026下に米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明において所定の権利を有する。
【0008】
本発明は、人工装具、外骨格装具、矯正器具、または、ロボット装置に使用するための人工関節及び義肢、特に、動力付きの人工膝関節に関する。
【背景技術】
【0009】
ほとんどの市販の義足及び下肢装具は受動性であって、歩行サイクル中に関節生体力学(関節バイオメカニクス)を複製するために正の機械力を提供することができない。動力付きの膝システムの設計に対する既存のアプローチは、関節に直接結合された単一のモーター−トランスミッションシステムを使用することに主に焦点を当てていた。しかしながら、そのようなダイレクトドライブ(直接駆動)構成は、平坦な地面上を歩行している場合でさえも、生物学的膝関節の機械的挙動(または力学的挙動)を完全にエミュレート(模倣)するためには、大きな電力を消費する。このエネルギー非効率性の1つの理由は、脚の受動的な動力学特性、弾性エネルギー貯蔵、及び、腱様構造の復帰(復元)作用を十分に使用していないことにある。
【0010】
大腿切断者用の膝義足は、受動性、可変ダンピング式(variable-damping:可変制動式)、動力付きの3つの主なグループに分類することができる。受動性の人工膝(関節)は、動作用の電源(動力源)を必要としないが、一般的に、可変ダンピング式の人工装具よりも環境外乱に対する適応力が小さい。可変ダンピング式の膝(関節)は、電源(動力源)を必要とするが、それは、ダンピング(制動)レベルを変更するために必要となるだけである。一方、動力付きの人工膝は、膝の非保存性の正の仕事を実行することができる。
【0011】
可変ダンピング式の膝は、機械的に受動性の構成と比べると、異なる歩行速度に対して膝の安定度及び適応性を改善することを含むいくつかの利点を提供する。可変ダンピング式の膝は完全に受動性の膝機構に対していくつかの利点を提供するものの、正の機械力を生成することはできず、それゆえ、(椅子などに)座った状態からの立ち上がり動作、平坦な地面の歩行、及び、階段/斜面の上り歩行などの運動のために人間の膝関節の正の仕事段階を再現することができない。もっともなことだが、大腿切断者は、可変ダンピング式の膝の技術を使用するときに、たとえば、大腿を切断していない者に比べて、歩行パターンが非対称であり、歩行速度が低下し、及び、大きな代謝エネルギーが要求されるといった臨床上の問題に直面する。
【0012】
動力付きの人工装具、整形具、外骨格装具、及びロボット脚システムの設計に対する現在のアプローチは、関節に直接結合された単一のモーター−トランスミッションシステムを使用することに主に焦点を当てている。そのようなダイレクトドライブ(直接駆動)構成は、人間の脚の機械的挙動(または力学的挙動)を完全にエミュレート(模倣)するためには大きな電力を消費する。本明細書で提示する生体模倣型の膝は、受動性の動力学を利用し、及び、弾性エネルギー貯蔵及び腱様構造の復帰作用を用いて、電力要件を最小限にする。該膝は、オンボード電源(たとえば基板上の電源)からの小さな電力消費でもって、平坦な地面を歩行している間、人間と同様の膝の力学特性を再現することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、1つの側面において、並列に配置された2つの直列弾性アクチュエーターの作動筋−拮抗筋構造(または、作動体−拮抗体構造ともいう。以下同じ)を含む人工膝(膝義足)である。この人工膝の設計は、2つの直列弾性クラッチ機構及び可変ダンパーを含む、可変インピーダンス人工膝モデルによって動機付けされた。人間の歩行データを利用して、モデルの関節が生物学的に動くように制御した。モデルのパラメータは、ある時間にわたる該モデルの膝関節トルクと生物学的膝(関節)の値と間の差の二乗の和を最小にする最適化方式を用いて得られる。最適化された値を用いて、作動筋−拮抗筋構造を有する人工膝の機械的構成及び有限状態制御構成を指定する。2つの好適な実施形態が開発された。
【0014】
本発明による膝を、そのアーキテクチャに起因して、歩行サイクルの立脚期中は、作動筋−拮抗筋式の直列弾性クラッチ要素として挙動するように、遊脚期中は、可変ダンパーとして挙動するように制御することができ、これによって、平坦な地面上を歩行する場合に、エネルギー効率の良い人工膝装置が得られる。膝の実施形態は、直列弾性力検出機能を有して完全に動力化(たとえば電動化)されており、したがって、膝関節トルクを、階段や斜面を上る歩行や、座った姿勢から立ち上がるといったよりエネルギーコストの高いタスクに対して直接制御することができる。それゆえ、膝のアーキテクチャは、非保存性の大きな機械力による移動に対応するように設計されてると共に、依然として、平坦な地面における非常に効率の良い歩行モードを提供する。
【0015】
開示されている本発明は、1つの側面において、義脚(人工脚のこと)部材に対して回転可能であり、かつ、該義脚部材に結合可能な膝関節、該義脚部材に並列をなして、膝関節に接続された直列弾性屈曲用アクチュエーター(series-elastic flexion actuator)と、屈曲アクチュエーターからみて義脚部材の反対側において該義脚部材と並列をなして膝関節に接続された直列弾性伸展用アクチュエーターと、膝関節及び結合された義脚部材の動きを制御するために屈曲用モーター及び伸展用モーターに異なる時刻に独立にエネルギー(電力)を供給するためのコントローラとを備える動力付きの人工膝であって、該屈曲用アクチュエーターは、膝関節を回転させる力を加えて義脚部材を曲げるためのものであり、該伸展用アクチュエーターは、膝関節を回転させる力を加えて義脚部材を伸展させるためのものである。屈曲用アクチュエーターは、屈曲用モーターと屈曲用弾性要素の直列結合を備え、伸展用アクチュエーターは、伸展用モーターと伸展用弾性要素の直列結合を備える。好適な実施形態では、少なくとも1つのセンサーが、コントローラにフィードバックを提供するために使用される。センサーは、好ましくは、膝関節の角変位及び角加速度、膝関節におけるトルク、屈曲用弾性要素の圧縮、伸展用弾性要素の圧縮、屈曲用モーターの回転、伸展用モーターの回転、及び/または、歩行面との接触に応答するセンサーが含まれるが、これらには限定されない。
【0016】
好適な実施形態では、屈曲用アクチュエーター及び伸展用アクチュエーターは一方向性であり、屈曲用弾性要素及び伸展用弾性要素は直列ばね(series spring)である。別の好適な実施形態では、屈曲用アクチュエーターは一方向性であり、伸展用アクチュエーターは双方向性であり、屈曲用弾性要素は直列ばね(series spring)であり、伸展用弾性要素は一組の予め圧縮された直列ばね(pre-compressedseries springs:予圧縮直列ばね)である。可変速歩行に特に適した別の好適な実施形態では、屈曲用弾性要素は、非線形性の漸軟ばね(softening spring)であり、伸展用弾性要素は非線形性の漸硬ばね(hardeningspring)である。
【0017】
本発明の他の側面、利点、及び新規な特徴は、以下の本発明の詳細な説明及び添付の図面からより明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】水平な地面上の歩行時の典型的な膝の生体力学的特性を視覚的に示す図であり、膝関節が損傷を受けていない被験者が、自己選択した速度で水平な地面を歩行しているときの歩行サイクルの割合(%)に対する、該被験者の膝関節の角度、トルク及びパワーの曲線をプロットしたものである。
【図1B】水平な地面上の歩行時の典型的な膝の生体力学的特性を視覚的に示す図であり、膝関節トルクを、5つの歩行段階(歩行期)を示す膝関節の角度位置に対してプロットしたものである。
【図2A】本発明の1側面にしたがう、可変インピーダンスの人工膝モデルの例示的な実施形態である。
【図2B】図1A及び図1Bからの生物学的トルクデータに対して、図2Aのモデルからの最適化結果をプロットしたものである。
【図3】本発明の1側面にしたがう、動力付き作動筋−拮抗筋膝の略機構図である。
【図4A】本発明にしたがう、能動性の人工膝の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の側面図である。
【図4B】本発明にしたがう、能動性の人工膝の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の矢状面での断面図である。
【図4C】本発明にしたがう、能動性の人工膝の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の後面図である。
【図5】図4A〜図4Cの能動性の人工膝の例示的な実施形態の主要な構成要素の分解図である。
【図6】図4A〜図4Cの能動性の人工膝の例示的な実施形態の主要な構成要素の別の分解図である。
【図7A】本発明の1側面にしたがう、図1A及び図1Bに示す損傷を受けていない膝の挙動を再現するように実施された、水平な地面上の歩行用の有限状態コントローラ(finite state controller)の略図である。
【図7B】図7Aのコントローラについて、肢切断者が水平な地面を歩行しているときの膝の有限状態制御の遷移を視覚的に示している。
【図8】A〜Eは、本発明の1側面にしたがう、自己選択した速度で水平な地面を歩行しているときの、動力付き人工装具の予備的な歩行評価から得られた結果を示している。
【図9A】本発明にしたがう、能動性の人工膝の別の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の側面図である。
【図9B】本発明にしたがう、能動性の人工膝の別の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の矢状面での断面図である。
【図9C】本発明にしたがう、能動性の人工膝の別の例示的な実施形態の構造設計(機械設計)の後面図である。
【図10】図9A〜図9Cの能動性の人工膝の例示的な実施形態の主要な構成要素の分解図である。
【図11A】本発明にしたがう、能動性の膝の直列弾性要素の力対変位挙動について、最適化された非線形多項式フィッティング(当てはめ)をした結果を示す。
【図11B】本発明の1側面にしたがう、可変速度歩行用の可変インピーダンス人工膝モデルの例示的な実施形態を示す。
【図11C】図11Bのモデルを用いて、第1の歩行速度について、人工膝モデルの出力トルクを生物学的膝(関節)トルクデータと比較して示したグラフである。
【図11D】図11Bのモデルを用いて、第1の歩行速度と異なる第2の歩行速度について、人工膝モデルの出力トルクを生物学的膝(関節)トルクデータと比較して示したグラフである。
【図11E】図11Bのモデルを用いて、第1及び第2の歩行速度と異なる第3の歩行速度について、人工膝モデルの出力トルクを生物学的膝(関節)トルクデータと比較して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にしたがう可変インピーダンス人工膝は、作動筋−拮抗筋構成において並列に配置された2つの直列弾性アクチュエーターを有する。人工膝モデルは、可変ダンパーと、膝関節をまたぐ2つの直列弾性クラッチユニットを備える。可変インピーダンス制御構成によって、水平な地面上の定常歩行の間、人間の膝と同様の力学的特性が得られる。人工膝の可変インピーダンス特性に起因して、歩行中の所要電力を適度に抑えることができ、これによって、エネルギー効率の良い動力付き膝(たとえば電動式の膝)を提供することができる。1つの用途において、本発明にしたがう可変インピーダンス人工膝は、テザリング(制御したり動作させるための外部との接続)を要しない生体模倣型のロボット脚の一部として利用できるという利点がある。
【0020】
本明細書で使用している以下の用語は、以下に示す内容を明白に含むものであるが、それらには限定されない。
【0021】
「アクチュエーター」は、後述するタイプのモーターを意味する。
【0022】
「作動筋」は、別の要素である拮抗筋によって抵抗または反作用を受ける収縮性要素を意味する。
【0023】
「作動筋−拮抗筋アクチュエーター」は、互いに対して逆に動作する(少なくとも)2つのアクチュエーターを備えるメカニズム(装置)を意味し、1つのアクチュエーターは、エネルギーが供給されたときに2つの要素を互いに引き寄せる作動筋アクチュエーターであり、別のアクチュエーターは、エネルギーが供給されたときに2つの要素を引き離すように作用する拮抗筋アクチュエーターである。
【0024】
「拮抗筋」は、別の要素である作動筋によって抵抗または反作用を受ける膨張性要素を意味する。
【0025】
「生体模倣」は、関節や四肢などの生体構造や生体機構の特性及び挙動をまねる(模倣する)人工の構造または機構を意味する。
【0026】
「背屈」は、足の先端が上に向かって動くように足関節を曲げることを意味する。
【0027】
「弾性」は、伸張や圧縮による変形後に元の形状に回復する能力を意味する。
【0028】
「伸展」は、関節における肢の骨間の角度を大きくする該肢の関節のまわりの曲げ運動を意味する。
【0029】
「屈曲」は、関節における肢の骨間の角度を小さくする該肢の関節のまわりの曲げ運動を意味する。
【0030】
「モーター」は、供給されたエネルギーを機械エネルギー(または力学的エネルギー)に変換することによって運動を生じさせ、または運動を与える能動要素を意味し、電気モーター/電気アクチュエーター、空気圧モーター/空気圧アクチュエーター、または、油圧モーター/油圧アクチュエーターを含む。
【0031】
「足底屈」は、足の先端が下に向かって動くように足関節を曲げることを意味する。
【0032】
「ばね」は、圧縮後や伸張後に元の形状に復帰する金属コイルやリーフ構造(leaf structure)などの弾性デバイスを意味する。
【0033】
水平な地面を歩行しているときの人間の膝関節の生体力学。図1A及び図1Bは、水平な地面を歩行しているときの典型的な人間の膝の生体力学的特性を表す図である。図1Aには、男性の被験者(体重は81.9kg)の膝(関節)の角度、トルク、パワー(動力)の曲線(power curve)が、水平な地面を自己選択した速度(1.31m/秒)で歩行しているときの歩行サイクルの割合(%)に対してプロットされている。平均値(実線。N=10の歩行実験)及び1標準偏差(破線)がプロットされている。図1Bには、膝関節トルクが、5つの歩行期を示す膝関節の角度位置に対してプロットされている。5つの歩行期を分離する重要な歩行事象は、踵接地(HS)105、立脚期の最大屈曲(MSF)110、立脚期の最大伸展(MSE)115、足指離地(toe off :TO)120、及び、遊脚期の最大屈曲(MWF)125である。
【0034】
図1A及び図1Bからわかるように、5つの別個の段階すなわち歩行期を用いて、水平な地面上を歩行しているときの膝(関節)の生体力学的特性(バイオメカニクス)が記述されている。これらの歩行段階について次に説明する。
【0035】
(1)踵接地(HS)105から始まって、立脚期の膝(関節)はわずかに(15°程度)屈曲を開始する。この立脚期屈曲(Stance Flexion)130の段階によって、(地面への)衝突の際の衝撃を吸収することが可能である。この段階中は、膝(関節)を、立脚期伸展(Stance Extension)段階135に備えてエネルギーを蓄えるばねとしてモデル化することができ(リニア(線形)トルク対傾斜角度。図1B参照)。
【0036】
(2)立脚期の最大屈曲(MSF)110に達した後、(歩行サイクルの15%の時点で)膝関節は伸展を開始して、(歩行サイクルの42%の時点で)立脚期の最大伸展(MSE)115に達する。この膝(関節)の伸展期間は、立脚期伸展(Stance Extension)段階135と呼ばれる。立脚期伸展135の間、膝(関節)は、立脚期屈曲130の剛性に類似した剛性を有するばねとして動作する(リニアトルク対傾斜角度。図1B参照)。ここで、剛性は、実際の関節の剛性ではなく、トルク対角度曲線の勾配として定義される準静的剛性である。
【0037】
(3)立脚後期すなわち前遊脚期(Pre-Swing)140(歩行サイクルの42%から62%)の間は、支持脚の膝(関節)は、遊脚期屈曲(Swing Flexion)段階145に備えて、それが急速に屈曲する期間を開始する。前遊脚期140の間、膝(関節)が足指離地120に備えて屈曲を開始するときに、膝(関節)はばねのように動作する(リニアトルク対傾斜角度。図1B参照)が、立脚期屈曲130及び立脚期伸展135のときよりもその剛性は小さい。
【0038】
(4)股関節が曲がると、脚は地面から離れるが膝(関節)は屈曲を継続する。足指離地120の時点で、歩行の遊脚期屈曲段階145が開始する。この期間全体にわたって(歩行サイクルの62%〜73%)、膝(関節)のパワー(動力)は、膝(関節)トルクが膝(関節)の回転速度を遅らせるために、一般的に負である(図1A参照)。したがって、遊脚期屈曲145の間は、膝(関節)を可変ダンパーとしてモデル化することができる。
【0039】
(5)遊脚期屈曲145中に最大屈曲角(60°程度)に達すると、膝(関節)は前方への伸展を開始する。遊脚期伸展(Swing Extension)150の間(歩行サイクルの73%〜100%)は、膝(関節)パワーは、次の立脚期に備えて遊脚を減速させるために一般的に負である。したがって、遊脚期伸展150期間中の膝(関節)を、遊脚期屈曲145と同じように、可変ダンパーとしてモデル化することができる。膝(関節)が完全に伸展すると、足が再び地面に置かれて、次の歩行サイクルが開始する。
【0040】
準受動性の人工膝モデル及び最適化。説明されている膝(関節)の生体力学的特性が与えられた場合には、水平な地面上における定常歩行の間、人間と同様の膝力学特性を生成することが可能であって、ダンピング(制動)と剛性の両方を変更することが可能な可変インピーダンス人工膝に対する要求が生じることは明らかである。そのような人工装具の例は、(立脚期の膝力学構造をモデル化するための)2つの拮抗する単関節直列弾性クラッチ205、210、及び、(遊脚期の力学構造をモデル化するための)1つの可変ダンピング要素215を備える、図2Aに示す例示的な膝モデルである。このモデルでは、直列ばね220、225の各々を、それぞれのクラッチ205、225を作動させることによって係合(または連結。以下同じ)させることができ、また、そのクラッチを開くことによって切り離すことができる。モデルの制約のために、各クラッチは、各歩行サイクルの間に1回だけ接続することがきる。さらに、クラッチが接続されると、直列ばねがその全てのエネルギーを解放して、クラッチにかかる力がゼロになったときのみ、クラッチを切り離すことができる。
【0041】
直列弾性クラッチモデルのパラメータを、膝関節の生体力学的挙動に合致するように変更した。モデルのパラメータは、伸展用ばねの剛性と屈曲用ばねの剛性に対応する2つのばね定数(k、k)、及び、相対的な膝(関節)伸展角及び膝(関節)屈曲角(θE及びθ)であり、かかるパラメータでもって、伸展用ばね及び屈曲用ばねは立脚期の間係合する。伝統的に、伸展用ばね(伸筋ばねともいう)は、係合すると膝関節を伸ばす(伸展させる)傾向があり、一方、屈曲用ばね(屈筋ばねともいう)は膝(関節)を曲げる(屈曲させる)傾向がある。膝モデルを、ある時間にわたるモデルの膝関節トルク値と生物学的膝関節のトルク値との2乗差の和を最小にする最適化方式を用いて生物力学的データに適合させた。より具体的には、最適化のために使用された費用関数は、
【数1】


であった。ここで、τibioとτisimは、それぞれ、生物学的トルクデータと膝モデルから得られる、歩行サイクルのi番目の割合(%)において膝関節のまわりに加えられる角トルク(angular torque)であり、τmaxbioは、歩行サイクル中の関節における最大の生物学的トルクである。費用関数(1)は、伸筋ばねが、踵接地時(θE=0)に常に係合するという制約によって最小化された。この制約は、肢喪失者の安全対策として、踵接地時における膝(関節)の曲がりを制限するために適用された。
【0042】
費用関数(1)の所望の大域的最小点(global minimum)の決定は、先ず、該大域的最小点を含む領域を見つけるための遺伝的アルゴリズムを使用して実施され、次に、制約(または条件)のない勾配最適化ツール(gradient optimizer)によってその大域的最小点の正確な値が決定された。直列弾性クラッチ要素のパラメータを変更することによる費用関数(1)の最適化の後、該モデルの可変ダンパーを用いて、直列弾性要素が負の機械的力を十分に吸収できない領域における人工膝モデルのトルク値と生物学的トルク値とを完全に一致させた。生物学的膝(関節)のトルク値は、1.31m/秒で歩く体重が81.9kgで身長が1.87mの健康な被験者の10回の歩行実験から得られた動力学的及び運動学的データを用いて、逆動力学計算(inverse dynamics calculation)から得られた。
【0043】
図2Bには、図2Aのモデルから得られた最適化の結果が、図1A及び図1Bからの生物学的トルクデータと対比してプロットされている。図2Bに示されているように、上側のグラフ245では、膝モデルの最適化された正味のトルク出力250が、損傷を受けていない人間の膝関節のトルクプロファイルと比較されており、平均255と1標準偏差260、265の両方が示されている(N=10の歩行実験)。図1A及び図1Bから採用された生物学的データは、自己選択した速度(歩行速度=1.31m/秒)で歩く肢が損傷していない被験者(体重=81.9kg)についてのものである。下側のグラフ270には、直列弾性クラッチ要素の伸展用ばね275及び屈曲用ばね280、並びに、可変ダンパー285からのトルク寄与が示されている。最適化ツールは、kE=160N.m/ラジアンに等しい伸展用ばねの剛性、137N.m/ラジアンに等しい屈曲用ばねの剛性、及び、0.27ラジアン(15.46°)に等しい屈曲用ばねの膝係合角度(knee engagement angle:膝関節への接続角度)を与える。
【0044】
モデルのトルク出力は、実験値と良好に合致する。最適化手順によって制約されるので、伸展用ばねは、踵接地時に係合して、立脚期初期の膝(関節)の屈曲中にエネルギーを蓄える。膝(関節)が伸び始めると、屈曲用ばねが係合して、伸展用ばねがそのエネルギーを解放するときにエネルギーを蓄積する。遊脚期中は、モデルの可変ダンパーは、負のパワーの領域において生物学的トルク値に正確に一致する。遊脚期の中期及び終期には、パワーは、生物学的データでは正であり、したがって、ダンパーは、それらの歩行領域においてゼロトルクを出力する。
【0045】
本発明の1側面にしたがう作動筋−拮抗筋膝の単純化した機構図を図3に示す。図3に示されているように、作動筋−拮抗筋作用を有する人工膝300は、2つの一方向性の直列弾性アクチュエーター、直列弾性伸展用アクチュエーター305、及び、直列弾性屈曲用アクチュエーター310を備える。人工膝300の一方向性アクチュエーター305、310の各々は、トランスミッション(動力伝達装置)335、340を介して接続されたモーター315、320及び直列ばね325、330から構成される。伸展用モーター315及び屈曲用モーター320を独立して用いて、各直列ばね325、330を係合させる膝(関節)角度を制御することができる。脚の上部350と下部355の間の膝関節345は、ケーブル駆動式のトランスミッションによって、装置の長手方向に沿って自由に移動できるリニアキャリッジ(台車)に結合されている。このキャリッジを、電気モーターによって駆動されるボールねじによって位置決めされる伸展用ばね325及び屈曲用ばね330によっていずれの側にも係合させることができる。好適な実施形態では、一方向性の直列弾性アクチュエーター305、310の両方は、ボールねじ(Nook industries,10×3mm)に結合された2:1ベルトドライブから構成されたトランスミッション335、340を特徴とする。
【0046】
図2Aの例示的な膝モデルの原理は、例示的な2つの好適な物理的実施形態において具現化されている。1つの好適な実施形態では、図4A〜図4Cに示すように、作動筋−拮抗筋様の動作を行う能動性の人工膝は、2つの一方向性の直列弾性アクチュエーターを備える。図5及び図6は、図4A〜図4Cの能動性の人工膝の例示的な実施形態の主要な構成要素の分解図である。
【0047】
図4A〜図4C、図5及び図6に示されているように、一方向性のアクチュエーターは、伸展用アクチュエーター402及び屈曲用アクチュエーター404である。人工膝の伸展用アクチュエーター402は、トランスミッションを介して接続された伸展用モーター406及び直列ばね408から構成される。伸展用アクチュエーターは、膝関節410の近く(たとえば隣接位置)にある。伸展用トランスミッションは、精密なボールねじ416ドライブに結合されたタイミングプーリー412及びタイミングベルト(またはベルト)414駆動系から構成される。人工膝の屈曲用アクチュエーター404は、トランスミッションを介して接続された屈曲用モーター418及び直列ばね420から構成される。屈曲用トランスミッションは、精密なボールねじ426ドライブに結合されたタイミングプーリー422及びタイミングベルト(またはベルト)424駆動系から構成される。伸展用アクチュエーター402及び屈曲用アクチュエーター404を独立して用いて、直列ばね408、420の各々を係合させる膝関節410の角度を制御することができる。
【0048】
直列弾性伸展用アクチュエーター402の動力付き要素(伸展用電気モーター406)を、(MaxonのRE40モーターなどの)ブラシ付きDCモーター(brushed DC motor)または(MaxonのEC-powermax 30などの)ブラシレスDCモーターとすることができる。この伸展用モーターは、タイミングプーリー−ベルトドライブ412、414機構を直接駆動する。この機構は、1:2速度伝達比(変速比)を有する。タイミングプーリー−ベルトドライブ機構412、414は、(Nook industries,10×3mmなどの)ボールねじ416を回転させる。伸展用アクチュエーター402のボールねじ416が回転すると、結合されたボールナットハウジング428が直線変位する。ボールナットハウジング428は、伸展用直列ばねケージ430に直接取り付けられている。伸展用直列ばねケージ430は、伸展用ばね408を安全に収容している。したがって、結合されたボールナットハウジング428が直線変位すると、伸展用直列ばねケージは直線変位を生じることができる。ボールナットハウジングは、該ボールナットハウジングに組み込まれているリニア軸受のために最小の摩擦状態で、2つの直線状の精密な鋼鉄製のガイドレール432に沿って移動する。2つの精密なガイドレール432の各々は、膝のメインフレーム(膝本体)434の対応する内部側壁に取り付けられる。
【0049】
直列弾性屈曲用アクチュエーター404の動力付き要素(屈曲用電気モーター418)を、(MaxonのRE40、RE30モーターなどの)ブラシ付きDCモーター(brushed DC motor)または(MaxonのEC-powermax 30や22などの)ブラシレスDCモーターとすることができる。この屈曲用モーターは、タイミングプーリー−ベルトドライブ422、424機構を直接駆動する。この機構は、1:2速度伝達比(変速比)を有する。プーリー−ベルトドライブ機構422、424は、(Nook industries,10×3mmなどの)ボールねじ426を回転させる。屈曲用アクチュエーター404のボールねじ426が回転すると、結合されたボールナットハウジング436が直線変位する。ボールナットハウジング436は、屈曲用直列ばねケージ438に直接取り付けられている。屈曲用直列ばねケージ438は、屈曲用ばね420を安全に収容している。したがって、結合されたボールナットハウジング436が直線変位すると、屈曲用直列ばねケージは直線変位を生じることができる。ボールナット支持体436は、ボールナットハウジングに組み込まれているリニア軸受のために最小の摩擦状態で、2つの直線状の精密な鋼鉄製のガイドレール432に沿って移動する。2つの精密なガイドレール432の各々は、膝のメインフレーム(膝本体)434の対応する内部側壁に取り付けられる。
【0050】
膝関節410の回転は、ケーブル駆動式トランスミッションに取り付けられたリニアキャリッジ442の直線変位に結合される。ケーブル駆動式トランスミッションは、2つのスチールケーブル(鋼鉄製ケーブル)440から構成される。各スチールケーブル440の2つの端部は、膝関節Uリンク支持体444に取り付けられる。各ケーブルが、膝の各側部に配置された対応するジョイントプーリー446に巻き付いている。側部のジョイントプーリー446の各々は、下側のアダプター448に取り付けられた軸を有する。リニアキャリッジ442は、2つの鋼鉄製の精密なレールガイド432で支持されて、該ガイド上を案内される。各レールは、膝のメインフレーム434の内部側壁に沿って延在している。精密なレールとリニアキャリッジ442の間の低摩擦は、リニアキャリッジ442の内部に組み込まれたリニア軸受によって得られる。スチールケーブル440によって、リニアキャリッジ442の直線変位を膝関節410の回転運動に結合することが可能になる。
【0051】
リニアキャリッジ442を、伸展用ばね408及び屈曲用ばね420の直線運動を用いて、個別に係合させることができる。両方のばねは、それらの対応する直列弾性アクチュエーターの駆動動作によって独立して位置決めされる。直列弾性アクチュエーター402、404の各々は、水平な地面上の歩行と、階段の上りなどのより多くのエネルギーを要するタスク(動作)の両方に対して十分なパワー(動力)を提供することができる。
【0052】
全ての作動機構は、下肢の解剖学上の外皮に似た構造を有する膝のメインフレーム434に対応するアルミニウム構造によって完全に支持される。膝のメインフレームは、該フレームに従来の高性能のロボット短下肢装具を取り付け可能にする下側アダプター448を有する。膝関節のUリンク支持体444と膝のメインフレームを結合することによって、膝関節410に対応する回転自由度が生まれる。膝関節のUリンク支持体444は、標準的な人工装具のピラミッド形アダプター450の取り付けを可能し、これによって、人工膝を、通常の大腿ソケットに取り付けることができ、かつ、肢喪失者が装着することが可能になる。
【0053】
かかる機能要件に基づいた、図4A〜図4C、図5、及び図6の実施形態の膝(関節)のサイズ、角度範囲(単位deg=度)、及び、最大トルク値の設計パラメータが表1に記載されている。
【表1】

【0054】
オンボードコントローラへのリアルタイムフィードバック情報は、オンボード固有のセンサーによって提供される。図4A〜図4C、図5及び図6の実施形態によって利用されるこれらのセンサーが表2に記載されている。
【表2】

【0055】
膝(関節)の角変位は、膝のメインフレーム434の左外面に固定されたデジタル直線エンコーダー452によって間接的に測定される。膝関節410の回転運動は、スチールケーブル440トランスミッションを介してリニアキャリッジ442の変位に結合される。直列弾性アクチュエーターのばね408、420の各々の圧縮度は、対応するホール効果センサー454、456で測定される。これらのセンサーは、ばね408、420が圧縮されている間に、ばねケージ430、438の各々に取り付けられた磁石の近さが変化したときに生じる磁界の変化を測定する。各モーターの回転は、対応するモーター406、418の背面に取り付けられたモーターデジタルエンコーダー458、460によって測定される。地面との相互作用は、力感知式フットパッド(force sensitive footpad)(不図示)で測定される。このフットパッドによって、脚が歩行面上にある時点と歩行面から離れている時点を検出することができ、ユーザが装着しているロボット人工膝がどの歩行段階にあるかをコントローラが決定するのを支援する。
【0056】
全ての電子回路は、単一のオンボードマイクロコントローラベースのシステムに実装される。モーターは、Hブリッジ(H-bridge)コントローラによって駆動され、その速度は、20kHzパルス幅変調(PWM)によって決定され、電力は、(6セルのリチウムポリマー電池(定格22.2V)などの)DCバッテリー(直流電池)によって供給される。アナログセンサーは、10ビットアナログ−デジタル変換器(ADC)によって読み取られた。該システムは、(AVRなどの)オンボードマイクロコントローラによって制御され、USB及び/またはブルートゥース(Bluetooth)によってモニタ(監視)することができる。全ての処理はオンボードで実行され、電力は、比較的小さな電池(質量=0.15kg)によって供給される。試作機(プロトタイプ)は、完全に自立型であり、テザリング(制御したり動作させるための外部との接続)を必要としない。
【0057】
有限状態制御方式。水平な地面上の歩行用の有限状態コントローラは、図1A及び図1Bに示す損傷のない膝(関節)の挙動を再現するために実施された。この状態機械は図7Aに示されている。3つの状態が制御作用及び遷移条件と共に図示されている。コントローラの3つの状態は、立脚初期状態(Early Stance:ES)710、前遊脚状態(Pre-Swing:PW)720、及び遊脚状態(SW)730である。準受動的平衡点制御(quasi-passive equilibrium point control)が、状態ES710及びPW720用に実施され、SW状態730の間は、可変ダンピング制御が利用された。状態間の遷移は、3つの測定である、踵と地面の接触、つま先(足指)と地面の接触、及び膝(関節)角度によって主に決定された。
【0058】
状態遷移及びその識別のために、該システムは以下の変数を用いた。
踵接触(H)。H=1は、踵が地面に接触していることを示し、H=0は、踵が地面から離れている状態を示す。
足指接触(T)。T=1は、足指が地面に接触していることを示し、T=0は、足指が地面から離れている状態を示す。
膝(関節)角度(θ)は、膝関節の相対角度である。全ての膝角度は屈曲角である。角度θE、θFは、それぞれ、立脚期中に伸展用ばね、屈曲用ばねが係合する角度を規定する。さらに、θは、遊脚期の屈曲時の膝関節の角度であり、θは、遊脚期の伸展時の膝関節の角度である。
【0059】
次に各状態について説明する。立脚初期状態(ES)710は踵接地(HS)から開始する。踵が地面に接触する(H=1)と、伸展用モーターの軸(シャフト)は、高いPD利得制御を用いてロックされ、この場合の所望の軸速度はゼロである。次に、伸展用ばねは、踵接地時の膝の位置と等価なばね平衡角度θEで係合する。次に、伸展用ばねは、膝(関節)の伸展に備えて、立脚初期に膝(関節)が屈曲している間にエネルギーを蓄える。膝(関節)が屈曲している間、屈曲用ばねの平衡点θFは、位置制御を用いて、膝の出力接合部(knee output joint)に結合されたリニアキャリッジを精密に追跡するようにサーボ制御される(サーボ制御とは、サーボ機構による制御のこと)。膝(関節)が立脚初期状態において最大に屈曲すると、膝(関節)は伸展を開始し、屈曲用モーターの軸はロックされる。次に、屈曲用ばねは、膝(関節)の屈曲が最大となったときの膝(関節)の位置と等価なばね平衡角θFで係合する。エネルギーは、最初に、伸展用ばねから解放されて、その後、屈曲用ばねに蓄えられる。
【0060】
前遊脚期状態(PW)720は、踵が地面から離れ(H=0)て、膝(関節)角度が小さくなる(θ<3°)と開始する。この状態では、伸展用ばねの平衡点θEは、無負荷(zero load)の下で位置制御され、膝(関節)が遊脚期に備えて屈曲するときにリニアキャリッジを精密に追跡する。屈曲用ばねは、それの現在の平衡位置θFを維持する(モーター軸はロックされたままである)。したがって、膝(関節)がPW全体にわたって屈曲すると、屈曲用ばねに蓄積されたエネルギーが解放される。
【0061】
遊脚状態(SW)730は、足指離地(T=0)で開始する。伸展用ばねの平衡角θEは、無負荷の下で膝(関節)角度の追跡を継続する。膝(関節)が20°を超えて屈曲する(θ>20°)と、屈曲用ばねの平衡角θFは、θ=15°に対応する位置へと無負荷の下でサーボ制御される。膝(関節)が60°を超えて屈曲する(θ>60°)と、伸展用ばねが係合する。伸展用モーターの軸に対する低利得ダンピング制御によって、伸展用モーター及びトランスミッションをバックドライブ(backdrive)して、膝(関節)の過屈曲を低減するための可変ダンパーとして動作させる。膝(関節)が伸展を開始し、及び、60°未満の角度(θ<60°)になると、伸展用ばねの平衡角θEは、再び、無負荷の下でリニアキャリッジを追跡して、伸展している間中膝(関節)を追従する。膝(関節)が、遊脚後期(遊脚期の後半)において15°を超えて伸展を継続すると、屈曲用ばねが係合する。この場合も、屈曲用モーターの軸に対する低利得ダンピング制御によって、屈曲用モーター及びトランスミッションをバックドライブして、屈曲用ばねの平衡角θFが3°に達するまで、遊脚をなめらかに減速させるための可変ダンパーとして動作させる。遊脚時に膝(関節)が5°を超えて(θ<5°)伸展すると、伸展用ばねの平衡角θEは、後続の歩行サイクルの踵接地時における係合及びエネルギー貯蔵に備えて、3°にサーボ制御される。
【0062】
図7Aの状態機械の遷移を示す有限状態制御図を図7Bに示す。図7Bのグラフは、図4A〜図4C、図5及び図6の実施形態において実施された制御方式によって、水平な地面上の3つの連続する歩行サイクルについてコントローラの状態遷移が行われる様子を例示している。水平な地面上の歩行の場合の制御状態は、立脚初期状態(Early Stance:ES=状態1)750、前遊脚期状態(Pre-Swing:PW=状態2)760、及び遊脚期状態(SW=状態3)770として定義される。システムは、各歩行サイクルにおいて状態シーケンス1−2−3(ES−PW−SW)を経た。コントローラは、3つの連続する歩行サイクルを通じて状態1−2−3と着実に移行した。
【0063】
自己選択した速度(0.81m/秒)での水平な地面の歩行中に、動力付き人工装具の予備的な歩行評価から得られた結果を図8のA〜Eに示す。人工膝の膝関節角度(図8のA)、正味のトルク(図8のB)、及び、パワー(図8のC)が、平坦な地面の歩行(肢喪失被験者の体重=97kg、歩行速度=0.81m/秒)について、歩行サイクルの割合(%)に対してプロットされている(N=10の歩行実験について、平均は実線で、1標準偏差は破線で示されている)。図8のDには、直列弾性アクチュエーターの伸展用ばね(下側の線)及び屈曲用ばね(上側の線)からのトルクの寄与がプロットされている。図8のEには、膝関節トルクが膝関節角度位置に対してプロットされており、立脚期中の2つの特性剛性(characteristic stiffness)が示されている。
【0064】
これらの人工膝の値は、図1Aに示す、体重と身長が調和している肢を喪失していない人の損傷のない膝機構のものと定性的に合致している。人工膝は、図8のAに示されている損傷のない膝の運動学(的特性)に類似して、立脚初期には、膝(関節)の伸展後に、膝(関節)の屈曲(最大14.5°程度の屈曲角)を行う。立脚終期には、人工膝は、遊脚期に備えて急速な膝(関節)の屈曲を行う。該膝は、遊脚期において、最大61°程度の屈曲角まで屈曲し、その後、踵接地の前に前方に伸展する。図8のB及びCに示すように、人工膝の膝関節トルク及びパワー(動力)は、立脚初期の膝屈曲中は負である。図1Aに示す損傷のない膝(関節)データでは、膝関節トルク及びパワーは、踵接地後、初めは正であるが、膝が屈曲を継続するにつれて急速に負になる。人工膝は、図8のBに示すように、立脚初期の開始時には類似の挙動を示した。かかる挙動をしたのは、肢喪失者が、踵接地時に初めに膝を伸ばし、これによって屈曲用ばねを係合させたがすぐに膝の屈曲を継続して伸展用ばねを係合させたためである。踵接地の後すぐに伸展用ばねを圧縮することは、過度の座屈を被らないように膝を制限し、これによって、人工膝を装着した肢喪失者の安全をより確実に守るのに役立った。損傷のない膝と人工膝のいずれについても、立脚期における膝(関節)の伸展中、トルクは、初めは負で、その後正になり、膝(関節)パワーは、初めは正で、その後負になる。さらに、前遊脚期中は、トルク及びパワー(動力)は、初めは正で、その後、遊脚期に備えて負になる。遊脚期の間、損傷のない膝と人工膝のいずれについても、パワーは、膝(関節)の最大屈曲(負のトルク)を制限し、その後、遊脚期における伸展(正のトルク)中に遊脚を滑らかに減速させるために一般に負である。
【0065】
図8のDには、一方向性の直列弾性アクチュエーターの各々からのトルクの寄与が、歩行サイクルの割合(%)に対してプロットされている。屈曲用ばねは、肢喪失者の膝(関節)の短い伸展に起因して、踵接地後すぐに一時的に係合する。立脚期における膝の屈曲が生じるとすぐに、伸展用ばねは、人工膝モデルと同様に係合する。立脚期における屈曲中に、屈曲用ばねは、膝の出力接合部(knee output joint)に結合されたリニアキャリッジを精密に追跡するときにそのエネルギーを急速に失う。その後、屈曲用ばねは、立脚初期中において膝(関節)の屈曲が最大になったときに再び係合し、立脚期における伸展中及び前遊脚期中にエネルギーを蓄える。遊脚期では、膝の屈曲が最大のときの伸展用モーター、及び、立脚終期における屈曲用モーターは、膝の最大屈曲を制限し、かつ、立脚終期において遊脚をなめらかに減速させるために、それぞれ、能動的にバックドライブされる。図8のEには、人工膝の膝(関節)トルクが、膝(関節)の角度位置に対してプロットされている。損傷のない人間の膝(図1B)と同様に、人工膝は、立脚期中に2つの特性剛性を有する。立脚初期の屈曲及び伸展段階中の膝(関節)の剛性は、前遊脚期中に比べて大きい。
【0066】
図4A〜図4C、図5及び図6の人工膝の実施形態は、歩行中の電気エネルギーを最小にするために、組み込まれた直列弾性要素を可変インピーダンス制御と組み合わせて利用する。この方式によれば、膝の挙動は、人工膝と損傷のない膝機構とで合致する。機械設計アーキテクチャと制御を組み合わせた場合には、人工膝の電気モーターは、水平な地面の歩行中、膝関節に対して正の仕事を行わず、その結果、所要電力が適度に収まる。
【0067】
水平な地面の歩行中の人工装具(人工膝)可変インピーダンス制御によって、人工膝の所要電力は、0.81m/秒の平均歩行速度での定常歩行実験中は小さい(8Watts electrical(8ワットエレクトリカル))。研究者は、歩数カウントモニター装置を用いて、片側の脚を失った活動的な人が、一日に3060±1890歩だけ歩くことを見出した。モーターの所要電力(電力(パワー)=電流×電圧)を見積もるために、オンボードモーター電流検出を用いて各モーターの電流を直接測定し、並びに、モーター電圧を見積もるために、モーター速度、モーター速度定数(motor speed constant)、及びモーター抵抗値を使用した。肢喪失者が、中程度の歩行速度で5000歩だけ歩く場合を想定すると、オンボード電池のサイズを推定することができる。たとえば、0.13kgのリチウムポリマー電池(エネルギー密度は165ワット時/kg)は、5000歩の動力付き歩行を可能にするであろう(8ワット×1.95秒/サイクル×5000サイクル=78キロジュール)。この電池質量は、他の市販の動力付き膝に必要な電池の1/5以下である。
【0068】
図9A〜図9Cに示す第2の好適な実施形態では、能動性の人工膝は、作動筋−拮抗筋アーキテクチャをなすように配置された2つのアクチュエーターを備える。図10は、図9A〜図9Cの能動性の人工膝の例示的な実施形態の主要な構成要素の分解図である。本発明にしたがう能動性の人工膝のこの実施形態では、2つのアクチュエーターの一方は、伸展用直列弾性アクチュエーター902であり、他方は、屈曲用アクチュエーター904である。伸展用アクチュエーター902は双方向性であり、屈曲用アクチュエーター904は一方向性である。人工膝の膝関節906の近くにある伸展用アクチュエーター902は、トランスミッションを介して接続された伸展用モーター908及び一組の予め圧縮されている直列ばね910から構成される。伸展用トランスミッションは、精密なボールねじ916ドライブに結合されたタイミングプーリーセット912及びベルト914駆動システムから構成される。人工膝の一方向性屈曲用アクチュエーター904は、トランスミッションを介して接続された屈曲用モーター918及び直列ばね920から構成される。屈曲用トランスミッションは、親ねじ(lead-screw)926ドライブに結合されたタイミングプーリーセット922及びベルト924駆動システムから構成される。伸展用アクチュエーター902及び屈曲用アクチュエーター904を独立に用いて、直列ばね910、920を係合させることができる膝関節906の角度を制御することができる。
【0069】
伸展用アクチュエーター902の電気モーター908を、(MaxonのRE40モーターなどの)ブラシ付きDCモーター(brushed DC motor)または(MaxonのEC-powermax30などの)ブラシレスDCモーターとすることができる。この伸展用モーターは、タイミングプーリー−ベルトドライブ914、928機構を直接駆動する。この機構は、1:2速度伝達比(変速比)を有する。タイミングプーリー−ベルトドライブ機構914、928は、(Nook industries,10×3mmなどの)ボールねじ916を回転させる。伸展用アクチュエーター902のボールねじ916が回転すると、結合されたボールナットハウジング930が直線変位する。ボールナットハウジング930は、伸展用直列弾性ばねケージ932に直接取り付けられている。伸展用直列弾性ばねケージ932は、2つの同一の予め圧縮されている受動性の機械ばね(該ばねの剛性は、モデルの伸展用アクチュエーターの剛性と同じである)からなるばねの組910を安全に収容する。したがって、結合されたボールナットハウジング930が直線変位すると、伸展用直列弾性ばねケージ932は直線変位を生じる。ボールナットハウジング930は、2つの直線状の鋼鉄製のガイドレール934に沿って移動する。これら2つのレールの各々は、ハウジングの対応する側壁936に取り付けられる。ばねケージ932は、それに組み込まれているころ軸受938によって支持されたガイドレールに沿って移動する。伸展用アクチュエーター902は、スチールケーブルドライブシステム940に取り付けられているので、膝関節906の回転運動に直接結合される。
【0070】
屈曲用アクチュエーター904の電気モーター918を、(MaxonのRE40、RE30モーターなどの)ブラシ付きDCモーター(brushed DC motor)または(MaxonのEC-powermax30や22などの)ブラシレスDCモーターとすることができる。この屈曲用モーターは、タイミングプーリー−ベルトドライブ922、924機構を直接駆動する。この機構は、1:2速度伝達比(変速比)を有する。プーリー−ベルトドライブ機構922、924は、(Nook industries,10×3mmなどの)親ねじ926を回転させる。屈曲用アクチュエーター904の親ねじ926が回転すると、結合されたボールナットハウジング942が直線変位する。ボールナットハウジング942は、屈曲用直列ばねケージ944に直接取り付けられている。屈曲用直列ばねケージ944は、屈曲用ばね920を安全に収容する。したがって、結合されたボールナットハウジング942が直線変位すると、屈曲用直列ばねケージは直線変位を生じることができる。ボールナットハウジング942は、該ボールナットハウジングに組み込まれているローラー938のために最小の摩擦状態で、2つの直線状の鋼鉄製のガイドレール934に沿って移動する。屈曲用アクチュエーター904は、膝関節906の回転運動に直接に結合されてはいないが、動作時には、膝を曲げることができ、伸展用直列弾性ばねケージ932をバックドライブする。
【0071】
膝関節932は、伸展用直列弾性ばねケージ932に接続された組をなす2つのスチールケーブルドライブ940に結合される。該直列弾性ケージは、2つの鋼鉄製の精密なガイドレール934によって支持されて案内される。スチールケーブル940は、直列弾性ばねケージ932の直線変位を膝関節906の回転運動に結合できるようにする。
【0072】
スチールケーブル940の各々の2つ端部は、膝関節の駆動ハブ944に取り付けられる。駆動ハブ944は膝関節ハウジング946によって支持される。各ケーブルは、膝関節906から離れた側の膝の各側部に配置された対応するジョイントプーリー948に巻き付いている。側部のジョイントプーリー948の各々は、対応する側壁936に取り付けられた軸を有する。対応するケーブルテンショナ949を調整して、側部のジョイントプーリー948を調節することによって、各ケーブルドライブ940に独立に張力をかけることができる。直列弾性アクチュエーター902、904の各々は、水平な地面上の歩行と、階段の上りなどのより多くのエネルギーを要するタスク(動作)の両方に対して十分なパワー(動力)を提供することができる。
【0073】
全ての作動機構は、膝の側壁936、上側のピラミッド形アダプター928、及び下側のピラミッド形アダプター950のアッセンブリー(組立体)に対応するアルミニウム構造によって完全に支持される。この構造は、下肢の解剖学上の外皮に似た支持フレームを提供する。下側のピラミッド形アダプター950は、従来の高性能のロボット短下肢装具を人工膝に取り付け可能にする。標準的な人工装具用上側ピラミッド形アダプター928によって、人工膝を、通常の大腿ソケットに取り付けること、及び、大腿切断者が装着することが可能になる。人工膝の構成は、駆動アクチュエーター及び機構に容易にアクセスできるようにする着脱可能な側部及び前部のカバーを有しているので、人工膝のメンテナンスが容易である。
【0074】
図9A〜図9C及び図10の実施形態の膝(関節)のサイズ、角度範囲(単位deg=度)、及び、最大トルク値の設計パラメータが表3に記載されている。
【表3】

【0075】
膝の固有の感覚システム(センサーシステム)は、オンボードの制御電子回路にフィードバックを提供する。これらのセンサーは表4に記載されている。
【表4】


これらのセンサーは、歩行中の、膝関節906の角変位、各直列弾性要素の変位及び変形、及び、膝と環境(地面)との力/接触相互作用をモニタする。
【0076】
膝の角変位は、膝関節906に配置されたアブソリュートエンコーダー952によって直接測定される。このセンサー952は、関節の回転と連動するエンコーダーハウジング953上に搭載されている。各アクチュエーターの直列弾性ばね910、920の圧縮度は、対応するホール効果センサー954、956で測定される。これらのセンサーは、ばね910、920が圧縮されている間に、ばねケージ932、944の各々に取り付けられた磁石の近さが変化したときに生じる磁界の変化を測定する。各モーターの回転は、対応するモーター908、918の背面に取り付けられたモーターデジタルエンコーダー958、960によって測定される。地面との相互作用は、力感知式フットパッド(force sensitive footpad)(不図示)で測定される。このフットパッドによって、脚が歩行面に接触している時点を検出することができ、ユーザーが装着しているロボット人工膝がどの歩行段階にあるかをコントローラが決定できるようにする。地面との相互作用を測定するために使用される他の方法は、膝のフレーム(具体的には、すねカバー962内)に搭載されて、装着された下側ピラミッド形アダプター950を貫通する歪みゲージを使用することである。このセンサー情報は、膝に関して相互作用する力及びトルクに関する情報を提供するものであり、かつ、膝関節におけるトルクを計算するための情報を提供することができる。この情報は、コントローラが歩行段階を判定するのを支援する。この実施形態について考慮されている別のセンサーは、膝のメインフレームに取り付けられた慣性測定ユニット(不図示)を使用するものであり、これによって、コントローラが、歩行サイクル中の向き及び加速度を特定することが可能になる。
【0077】
人工膝に自律性(テザリングを用いない制御)をもたらす電子機器一式が内蔵されている。電子機器は、膝の側壁及び後壁(後ろの壁)に組み付けられたグループをなす5つのプリント回路基板(PCB)に実装されている。これらの基板のうちの2つは、アクチュエーターの制御用に割り当てられ、他の1つのボードは、膝の制御方式全体の監視を担当し、他の1つのボードは、外部の監視用PC/ラップトップシステムとの接続及び通信用に割り当てられ、最後の1つのボードは、膝に設置された慣性測定ユニットのデータの処理を担当する。電子機器一式は、PICマイクロコントローラ技術に基づき、定格電圧22.2Vの6セルリチウムポリマー電池によって給電される。モーター基板は、最大20KHzまでの制御が可能なブラシレスコントローラを備える。システムの挙動を、USBを用いて、または、Wi-Fi(ワイファイ)相互接続による無線通信によって、モニターして更新することができる。
【0078】
有限状態制御方式。歩行サイクル中の5つの段階を用いて、最小のエネルギー消費で膝の生体力学を模倣するために準受動性の膝モデルを利用する、水平な地面歩行用の膝制御方式が確立された。
【0079】
立脚期の膝は、踵接地から開始して、わずかに(15度程度)屈曲し始める。この立脚期屈曲段階は、衝突時の衝撃吸収を可能にする。この段階の間は、膝の伸展用アクチュエーターは、膝の屈曲中にエネルギーが蓄積されるときにばね平衡位置を維持することによってそれの直列弾性要素を係合させる。この場合、モーターは、係合クラッチ(または、かみ合いクラッチ)として動作している。
【0080】
立脚期において屈曲が最大になると、(15%程度の歩行サイクルで)膝関節は伸展を開始して、(42%程度の歩行サイクルで)立脚期における最大伸展(MSE)状態に達する。この膝の伸展期間を立脚伸展段階(Stance Extension phase)と呼ぶ。立脚伸展段階の間、屈曲用アクチュエーターは、膝が伸展し始めたときにエネルギーが蓄積されるようにそれの直列ばねを位置決めし、これによって、伸展用ばねのエネルギーを伝達できるようにする。このエネルギー伝達によって、立脚期中に剛性を調整することが可能になる。屈曲用アクチュエーターのトランスミッションは親ねじを備えているので、該アクチュエーターが線形ばね(linear spring)を位置決めするとすぐに、モーターはもはや正の動力を提供せず、したがって、エネルギー消費全体が最小になるということに言及しておくのは重要である。これは、「常時閉(ノーマルクローズ)」設定状態におけるモデルのクラッチ係合挙動を効果的に利用している。
【0081】
立脚期後半または前遊脚期の間(約42%〜約62%の歩行サイクル)は、支持脚の膝は、遊脚期に備えて急速に屈曲する期間を開始する。前遊脚期の間、膝は、足指離地に備えて屈曲しはじめ、屈曲用ばねに蓄積されたエネルギーが解放されて、足指離地の前にユーザーを支援する。
【0082】
脚が地面から離れて膝は屈曲を継続する。足指離地時に、歩行の遊脚期屈曲段階が開始する。この期間全体(62%〜73%歩行サイクル)にわたって、膝(関節)トルクが膝の回転速度を遅くするため、膝のパワー(動力)は一般に負である。したがって、遊脚期屈曲段階中は、膝の伸展用アクチュエーターを回生要素(または再生要素)として利用することができ、該アクチュエーターがバックドライブされているときに、遊脚期中に減少したエネルギーをオンボードの電池に蓄積することができ、脚は新たな歩行サイクルを開始するために再配置される。
【0083】
遊脚期中に最大の屈曲角(約60°)に達すると、膝は前方への伸展を開始する。遊脚期伸展段階(約73%〜約100%歩行サイクル)の間、膝のパワー(動力)は、次の立脚期に備えて遊脚を減速させるために一般に負である。この段階では、伸展用アクチュエーターは、エネルギー回生(またはエネルギー再生)を提供して人工膝のエネルギー効率を改善するための要素として使用される。この段階の間、屈曲用モーターは、新たな歩行サイクルに備えて線形ばねを再配置する。
【0084】
可変速歩行用の人工膝。説明されている能動性の人工膝の実施形態は、肢喪失者にK3レベル(すなわち、多様な歩調で歩行する能力または潜在的能力を有するレベル)で歩き回る能力を提供することが意図されている。肢喪失者の速度の変化に適応可能であって、かつ、最適なエネルギー効率レベルを維持することが可能な人工膝を提供するためには、両方の直列弾性要素を、非線形性のものとし、かつ、肢喪失者の体重に合わせて調整する必要がある。
【0085】
速度適応性を評価するために、前述した最適化方式を用いて、可変インピーダンス膝モデルを、1.0m/秒、1.3m/秒、及び1.6m/秒の速度で歩行している損傷を受けていない被験者からの生体力学的データに適合させた。最適化の結果は、歩行サイクル中の両方の直列弾性要素の係合角度と共に、それらの直列弾性要素に(それぞれの歩行速度における)線形剛性値をもたらした。それぞれのばねと歩行速度について、最初に最大の力−変位のデータ対が選択された。同じ力対変位空間に全てのデータ対をプロットすることによって、屈曲用ばね及び伸展用ばねについて最適な非線形ばね関数(non-linear spring function。または非線形ばね作用)を推定することが可能となった。図11Aは、本発明にしたがう能動性の膝の直列弾性要素の力対変位の挙動について、最適化された非線形多項式フィッティングを行った結果をプロットしたものである。具体的には、2次の多項式フィッティングが、モデルの伸展用ばね1105に対して実施され、区分的多項式(piecewise polynomial)フィッティングが、屈曲用ばね1110に対して実施された。
【0086】
図11Aのデータによって示唆されているように、可変速歩行用途の場合は、図2の伸展用直列弾性要素を、非線形の漸硬(hardening)弾性要素で置換し、かつ、図2の屈曲用要素を漸軟ばね(softening spring)で置換する必要がある。図11Bは、本発明の1側面にしたがう、可変速歩行用の可変インピーダンス人工膝モデルの例示的な実施形態を示している。図11Bに示すように、該モデルは、2つの単関節直列弾性クラッチ1120、1125、2つの非線形ばね1130、1135、及び可変ダンピング要素1140を備える。
【0087】
これらの非線形ばね関数(または非線形ばね作用)を用いて、人工膝モデルの出力トルクを生物学的膝(関節)トルクデータと比較した。図11C〜図11Eには、図11Bに示すモデルを用いて3つの異なる歩行速度について行ったこの比較が示されている。図11C〜図11Eでは、最適化された膝モデル1150、1155、1160の正味のトルク出力を、損傷を受けていない人間の膝関節のトルクプロファイルと比較しており、各速度について、平均1165、1170、1175と1標準偏差1180、1182、1184、1186、1188、1190(N=10の歩行実験)の両方が示されている。該モデルの適合度は、各歩行速度における決定係数(coefficient of determination)Rによって提供される。生物学的データは、1.0m/秒(図11C)、1.3m/秒(図11D)、1.6m/秒(図11E)の3つの異なる速度で歩いている肢の損傷がない被験者(体重=66.2kg)について得られたデータである。選択された速度の各々について、歩行速度±5%の範囲が許容された。
【0088】
可変速歩行用の人工膝モデルを、当業者にはすぐにわかる構成要素及び材料を用いて、図2のモデルについて説明した実施形態の場合と類似のやり方で物理的に実施することができること、及び、図4A〜図4C、及び図9A〜図9Cの実施形態に適する任意の変形及び修正が図11Bのモデルを用いて実施する場合にも適するものであることが、当業者には明らかであろう。
【0089】
さらに、本発明の好適な実施形態を開示したが、多くの他の実施例が当業者には想起されるであろうし、それらの実施例は全て本発明の範囲内のものである。上述の種々の実施形態の各々を、説明した他の実施形態と組み合わせて多数の特徴を提供することができる。さらに、本明細書では、本発明の装置及び方法の複数の個別の実施形態を説明したが、本明細書に記載されているのは、本発明の原理の適用の例示に過ぎない。したがって、当業者による他の配列(構成)、方法、変更形態、及び置換もまた、本発明の範囲内のものとみなされるのであり、本発明は、添付の特許請求の範囲以外によっては限定されない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力付き人工膝であって、
義肢部材に対して回転可能で、かつ、該義肢部材に結合可能な膝関節と、
前記膝関節を回転させるための力を加えて、前記義肢部材を屈曲させるための直列弾性屈曲用アクチュエーターであって、前記膝関節に接続されて前記義肢部材と並列をなし、かつ、屈曲用モーターと屈曲用弾性要素の直列結合を含む直列弾性屈曲用アクチュエーターと、
前記膝関節を回転させるための力を加えて前記義肢部材を伸展させるための直列弾性伸展用アクチュエーターであって、前記膝関節に接続されて、前記屈曲用アクチュエーターからみて前記義肢部材の反対側において前記義肢部材と並列をなし、かつ、伸展用モーターと伸展用弾性要素の直列結合を含む直列弾性伸展用アクチュエーターと、
異なる時刻に前記屈曲用モーター及び前記伸展用モーターに独立にエネルギーを供給して、前記膝関節及び結合された義肢部材の位置、インピーダンス、及び非保存トルクを制御するためのコントローラ
を組み合わせて備える動力付き人工膝。
【請求項2】
前記コントローラにフィードバックを提供するように構成された少なくとも1つのセンサーをさらに備える、請求項1の人工膝。
【請求項3】
前記センサーは、前記膝関節の角変位、前記屈曲用弾性要素の圧縮、前記伸展用弾性要素の圧縮、前記屈曲用モーターの回転、前記伸展用モーターの回転の少なくとも1つに応答する、請求項2の人工膝。
【請求項4】
前記屈曲用アクチュエーター及び前記伸展用アクチュエーターが一方向性である、請求項1の人工膝。
【請求項5】
前記屈曲用弾性要素及び前記伸展用弾性要素は直列ばねである、請求項4の人工膝。
【請求項6】
前記屈曲用アクチュエーターが一方向性であり、前記伸展用アクチュエーターが双方向性である、請求項1の人工膝。
【請求項7】
前記屈曲用弾性要素が直列ばねであり、前記伸展用弾性要素が、一組の予め圧縮されている直列ばねである、請求項6の人工膝。
【請求項8】
前記屈曲用弾性要素が非線形漸軟ばねであり、前記伸展用弾性要素が非線形漸硬ばねである、請求項1の人工膝。
【請求項9】
前記屈曲用アクチュエーターが、バックドライブができないトランスミッションを備える、請求項1の人工膝。


【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【公表番号】特表2012−516717(P2012−516717A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548374(P2011−548374)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/022760
【国際公開番号】WO2010/088616
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】