説明

作業機の傾斜制御装置

【課題】 角度センサ27からの検出情報に基づいて姿勢制御用の駆動機構を作動制御して作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、安価に入手できる角度センサを用いた簡単な角度検出手段を用いて安定した傾斜制御を比較的精度よく行えるようにする。
【解決手段】 角度センサ27からの検出情報の低周波成分に基づいて姿勢制御用の駆動機構を起動させ、角度センサ27からの検出情報の高周波成分に基づいて駆動機構の作動を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、田植機、農用トラクタ、コンバインなどの作業機において左右方向の傾斜制御(ローリング制御)や前後方向の傾斜制御(ピッチング制御)などを行う場合に利用する傾斜制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記傾斜制御における傾斜角度の検出には重力式の角度センサや各種の角速度センサが利用される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3479366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
角度センサと応答性に優れた角速度センサを組み合わせることで応答性および精度の高い傾斜制御を行うことができるものであるが、角速度センサは高価であるとともに零点補正などの処理を行う必要があり、角度検出手段が全体的に複雑なものとなる。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、安価に入手できる角度センサを用いた簡単な角度検出手段を用いて安定した傾斜制御を比較的精度よく行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、角度センサからの検出情報に基づいて姿勢制御用の駆動機構を作動制御して作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、
前記角度センサからの検出情報の低周波成分に基づいて前記駆動機構を起動させ、前記角度センサからの検出情報の高周波成分に基づいて前記駆動機構の作動を停止させるように構成してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、高周波成分を除去した低周波成分に基づいて傾斜制御作動が起動されるので細かい振動などに反応することがなく、起動に若干遅れが含まれることにはなるが傾斜制御が安定して行われる。また、傾斜制御作動の停止は高周波成分を含んだ検知情報に基づいて行われるので、低周波成分に基づいて作動停止する場合に比べて早い目の作動停止が実行され、オーバーシュートに起因するハンチングが未然に回避される。
【0007】
従って、第1の発明によると、安価に入手できる角度センサを用いた簡単な角度検出手段を用いて安定した傾斜制御を比較的精度よく行うことができる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記駆動機構を電動アクチュエータで構成するとともに、電動アクチュエータが通電作動された後、角度センサからの検出情報の高周波成分に基づく停止指令にかかわらず設定時間だけ連続して通電作動が実行されるよう設定してあるものである。
【0009】
上記構成によると、電動アクチュエータは起動電流が大きいので、起動直後に停止指令をかけると、大電流を流したままでアクチュエータ駆動回路のリレーを切換えることになり、リレー接点が溶着してオン故障するおそれがあるが、通電作動が開始されてから設定時間は停止指令を無視するので、電流が低く安定している状態で通電遮断が行われることになり、リレー接点がオン故障することが未然に回避される。
【0010】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記作業装置が、走行機体に前記駆動機構を介してローリング駆動可能に連結されたものである。
【0011】
上記構成によると、作業装置を左右所定姿勢に安定させて対地作業することができ、田植機の苗植付け装置を水平制御して植付け全条の植付け深さを安定化したり、農用トラクタに連結したロータリ耕耘装置を水平制御して耕幅全体の耕深を安定化したりするのに有効に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、本発明に係る作業機の一例として施肥装置付きの乗用型田植機が示されている。この乗用型田植機は、機体前部にエンジン8が搭載されるとともに4輪駆動で走行可能に構成された走行機体1の後部に、平行四連リンク構造のリンク機構2を介して6条植え仕様の苗植付け装置(作業装置)3が昇降自在に連結され、機体後部に施肥装置4が装備されるとともに機体前部の左右に予備苗のせ台5を備えた構造となっており、前記リンク機構2を油圧シリンダ6で上下に駆動揺動することで苗植付け装置3を昇降制御することができるようになっている。また、苗植付け装置3は、リンク機構2の後端部に前後方向支点X周りにローリング自在に連結されるとともに、リンク機構2の後端上部に備えたローリング用の駆動機構7によって苗植付け装置3をローリング制御するようになっている。
【0013】
図1,2に示すように、前記苗植付け装置3は、横長角筒状の植付けフレーム11、走行機体1から取り出された作業用動力を受けるフィードケース12、一定ストロークで左右に往復横移動する苗のせ台13、回転式の植付け機構14、および、後部左右に2条分づつの植付け機構14を備えた3個の植付けケース15、田面の植付け箇所を均平整地する3個の整地フロート16、等を備えている。なお、詳細な構造は省略するが、並列配備された整地フロート16群のうちの中央のものは、苗植付け装置3の田面に対する高さを検知する接地センサSFとして利用されており、この接地センサSFの上下揺動変位が電気的に検知され、その検知情報に基づいて前記油圧シリンダ6の制御弁を作動制御することで、苗植付け装置3の対地高さを一定に維持して植付け深さを安定維持する自動植付け深さ制御が実行されるようになっている。
【0014】
図3に示すように、ローリング用の前記駆動機構6は、リンク機構2の後端上部に連結したブラケット8に前後向き支点p周りに左右揺動な項な駆動アーム21と、これをギヤ減速機構9を介して揺動駆動する電動モータ(電動アクチュエータ)22とから構成されており、苗のせ台13を横移動可能に苗のせ面背部から支持するよう前記植付けフレーム11から立設された苗のせ台支持枠23の上部左右箇所と前記駆動アーム21の遊端とがバネ24を介して連結されている。つまり、苗植付け装置3は駆動アーム21に対して弾性融通をもって所定小範囲で自由ローリング可能に支持されており、苗植付け装置3が整地フロート16を介して接地している状態では、走行機体1が多少左右傾斜しても苗植付け装置3は田面に接地追従するようになっている。
【0015】
そして、前記駆動機構6の電動モータ22は、苗植付け装置3に装備された後述する傾斜角検出手段からの検出情報に基づいて作動制御され、走行機体1が耕盤の凹凸等によって左右に傾斜して苗植付け装置3が傾斜しかかっても、その傾斜を復元させる方向に苗植付け装置3がローリング制御されて、常に設定傾斜角(一般に水平)に安定維持され、もって、左右の各植付け部位での植付け深さに差異の少ない植付けが行われるようになっている。
【0016】
また、リンク機構2の後端上部に連結した前記ブラケット8と苗のせ台13の背面における左右箇所とに亘ってローリング復帰用バネ25が張設されており、苗のせ台13の往復横移動によって移動方向側のローリング復帰用バネ25が伸ばされることで、苗のせ台13の横移動に伴うローリング支点X周りの重量バランスの崩れを是正する方向の回動力がローリング復帰用バネ25によってもたらされるようになっている。
【0017】
前記傾斜角検出手段には、苗植付け装置3の左右方向の傾斜角度を検知する重力式の角度センサ27が備えられており、この角度センサ27からの検出信号に基づいて苗植付け装置3をローリング制御するため基本的なブロック図が図4に、また、図5にそのフロー図が示されている。
【0018】
すなわち、角度センサ27からの生の検出信号である傾斜角度θ2と、ローパスフィルタ28をかけて高周波成分を除去した低周波成分の傾斜角度θ1とが角度検出情報として取り出され(♯01)、傾斜角度θ1が傾斜角度設定器29によって設定された目標傾斜角度θ0に対して減算処理され(♯02)、傾斜角度θ1と目標傾斜角度θ0との偏差Δθ1(=|θ0-θ1|)が予め入力設定された不感帯εより大きいと、その偏差が不感帯内に収まる方向に電動モータ22が設定時間t1以上通電制御される(♯03〜♯07)。
【0019】
また、電動モータ22が設定時間t1以上通電制御され後、傾斜角度θ2と目標傾斜角度θ0の偏差Δθ2=(|θ0-θ2|)が不感帯ε以内になると、電動モータ22への通電が断たれ、これによって苗植付け装置3が目標傾斜角度θ0に安定維持される。
【0020】
なお、乗用型田植機においては、ほとんどの植付け田面が水平であるので、前記目標傾斜角度θ0を水平に設定することで、苗植付け装置3を田面と平行な水平姿勢に維持して全条での植付け深さを均一にすることができるが、畦際において田面が左右に傾斜しているような水田における畦際での植付け作業においては、傾斜角度設定器29を調節して目標傾斜角度θ0を田面の傾斜に合わせて調整することで、傾斜した田面と平行な植付けを行って植付け深さを均一化を図ることができるものとなる。
【0021】
また、前記駆動アーム21の基部にはこのポテンショメータ30が配備されて駆動アーム21の揺動位置が連続的に検知されており、図5のフロー図中に示されるように、電動モータ22に通電指令が出された後、設定時間t2が経過しても駆動アーム21が角度変化しないことがポテンショメータ30からの情報に基づいて判断されると、電動モータ22の駆動回路中に断線や接触不良などの故障が発生しているものとし、警報手段の作動、等の異常処理ルーチンに移行するようになっている(♯05,♯06,♯11)。
【0022】
〔他の実施例〕
【0023】
(1)上記実施例では、走行機体1にローリング自在に連結された作業装置(苗植付け装置)3のローリング制御に本発明を利用する場合を例示したが、作業装置3を前後方向に傾斜姿勢変更可能に構成した作業機では、作業装置3の前後方向傾斜姿勢を安定維持するピッチング制御に利用することもできる。また、コンバインのように搭載脱穀装置の左右傾斜姿勢および前後傾斜姿勢を水平に維持することが望ましい作業機においては、本発明方法を走行機体1自体のローリング制御やピッチング制御に応用することもできる。
【0024】
(2)走行機体1に角度センサ27を装着して走行機体1の左右傾斜角度を検知し、この検出情報に基づいて走行機体1に連結した作業装置3を逆方向に駆動傾斜させて地面に対して所定の傾斜角度に安定維持するローリング制御に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】苗植付け装置の背面図
【図3】ローリング用駆動機構の縦断側面図
【図4】ローリング制御系のブロック図
【図5】ローリング制御のフロー図
【符号の説明】
【0026】
1 走行機体
3 作業装置
22 電動アクチュエータ
27 角度センサ
t1 設定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度センサからの検出情報に基づいて姿勢制御用の駆動機構を作動制御して作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、
前記角度センサからの検出情報の低周波成分に基づいて前記駆動機構を起動させ、前記角度センサからの検出情報の高周波成分に基づいて前記駆動機構の作動を停止させるように構成してあることを特徴とする作業機の傾斜制御装置。
【請求項2】
前記駆動機構を電動アクチュエータで構成するとともに、電動アクチュエータが通電作動された後、角度センサからの検出情報の高周波成分に基づく停止指令にかかわらず設定時間だけ連続して通電作動が実行されるよう設定してある請求項1記載の作業機の傾斜制御装置。
【請求項3】
前記作業装置が、走行機体に前記駆動機構を介してローリング駆動可能に連結されたものである請求項1または2記載の作業機の傾斜制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−262800(P2006−262800A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86654(P2005−86654)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】