説明

作業機械の旋回圧制御装置

【課題】慣性モーメントの変化を把握することなく、また急な旋回操作に対する旋回動作の立ち上がりを損なうことなく、旋回ハンチングを抑制できる作業機械の旋回圧制御装置を提供する。
【解決手段】旋回用リモコンバルブ15のパイロット圧出力ラインは、シャトルバルブ16を経て、旋回ハンチングを抑制する旋回ハンチング抑制弁17にも連通させる。旋回ハンチング抑制弁17は、高圧選択手段14により高圧選択した旋回駆動圧が脈動により上昇したとき旋回駆動油の一部をドレンさせて旋回ハンチングを抑制するものであり、旋回駆動圧導出ライン14cに接続したメインバルブ18と、旋回駆動圧ライン14dに接続したパイロットバルブ19と、メインバルブ18のスプール両端間を連通する通路中に設けたオリフィス20と、このオリフィス20に並列接続したチェックバルブ21とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回型の作業機械における旋回ハンチングを抑制する作業機械の旋回圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
後方小旋回ショベルなどの作業アームの姿勢によって旋回系の慣性モーメントが大きく変わる油圧ショベルでは、作業アームを最少リーチ状態にして慣性モーメントを小さくした状態で、旋回操作レバーを操作すると、操作レバーの少しの揺れから旋回動作がハンチングする不具合が生じる。
【0003】
このような旋回ハンチングを防止する建設機械の旋回油圧回路として、建設機械の上部旋回体の旋回動作用方向流量制御弁と該方向流量制御弁を操作するリモコン弁との間に、可変容量ピストン室を形成する第1ピストン室を備えた2段リリーフバルブを設け、前記上部旋回体の慣性モーメントの大きさに応じて前記第1ピストン室の容量を変化させることにより、前記2段リリーフバルブのリリーフ圧変化時間を変化させると共に、前記方向流量制御弁の切換時間を変化させるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−4338号公報(第3−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、慣性モーメントの大きさによって方向流量制御弁のパイロット圧の立ち上げ方を調整するものであるが、このような技術では、慣性モーメントの変化を把握することは難しいとともに、急なレバー操作をしたときに旋回動作の立ち上がりが鈍る問題がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、慣性モーメントの変化を把握することなく、また急な旋回操作に対する旋回動作の立ち上がりを損なうことなく、旋回ハンチングを抑制できる作業機械の旋回圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された発明は、下部走行体に対して旋回可能に設けられた上部旋回体を旋回駆動圧により旋回駆動する旋回モータと、この旋回モータの正転側および逆転側の旋回駆動圧を高圧選択する高圧選択手段と、高圧選択された旋回駆動圧が脈動により上昇したとき旋回駆動流体の一部をドレンさせて旋回ハンチングを抑制する旋回ハンチング抑制弁とを具備した作業機械の旋回圧制御装置である。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の作業機械の旋回圧制御装置における旋回ハンチング抑制弁が、旋回駆動圧の脈動により一方のパイロット室と他方のパイロット室との間に発生する差圧により作動するスプールを有するメインバルブと、旋回操作に応じて発生する旋回操作圧によって、高圧選択された旋回駆動圧をメインバルブの一方のパイロット室に導く位置に切換作動されるパイロットバルブと、パイロットバルブから旋回駆動圧の供給を受けた瞬間の一方のパイロット室を他方のパイロット室より高圧にする差圧発生用のオリフィスと、オリフィスに並列接続され他方のパイロット室から圧を抜く方向性を有するチェックバルブとを具備したものである。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項2記載の作業機械の旋回圧制御装置におけるオリフィスおよびチェックバルブが、メインバルブのスプール内に設けられたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載された発明によれば、旋回モータの正転側および逆転側の旋回駆動圧を高圧選択手段により高圧選択し、旋回駆動圧が脈動し、急激に増加したときは、旋回ハンチング抑制弁が旋回駆動流体の一部をドレンさせるので、慣性モーメントの変化を把握することなく、旋回ハンチングを抑制できる。
【0010】
請求項2に記載された発明によれば、旋回操作に応じて発生する旋回操作圧によって切換作動されるパイロットバルブにより、高圧選択された旋回駆動圧をメインバルブの一方のパイロット室に導くことで、旋回操作速度に応じた切換作動速度のパイロットバルブによりメインバルブが切換操作されるので、急な旋回操作に対する旋回動作の立ち上がりを損なうことなく、旋回ハンチングを抑制できる。さらに、メインバルブは、一方のパイロット室が低圧になったとき、チェックバルブにより他方のパイロット室も直ちに低圧にして高圧に備え、一方のパイロット室が高圧になったとき、オリフィスにより一方と他方のパイロット室間で直ちに差圧を発生させてスプールを動かすことができるので、応答性のよいメインバルブにより、旋回ハンチングを効果的に抑制できる。
【0011】
請求項3に記載された発明によれば、オリフィスおよびチェックバルブを、メインバルブのスプール内に設けたので、旋回ハンチング抑制弁をコンパクトに構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図3に示されるように、下部走行体1に対して上部旋回体2が旋回可能に設けられ、この上部旋回体2に対して、油圧シリンダ3a,4a,5aにより作動されるブーム3、アーム4およびバケット5からなる作業装置Aが搭載されている。
【0014】
図1に示されるように、上部旋回体2に搭載されたエンジン6には、このエンジン6により駆動されるメインポンプ7,8が設置され、これらのメインポンプ7,8から吐出された作動油の供給ラインには、コントロールバルブ9が設けられ、このコントロールバルブ9の内部には、各種流体圧アクチュエータ(油圧シリンダおよび油圧モータ)の作動方向および作動速度を制御する方向流量制御弁が設置され、これらの方向流量制御弁の出力ポートは、対応する流体圧アクチュエータのポートに連通されている。
【0015】
例えば、旋回系方向流量制御弁10の2つの出力ポートは、旋回モータ11の2つのポートに連通されている。この旋回モータ11の出力軸は、旋回減速機12に接続され、この旋回減速機12を介し、下部走行体1に対して上部旋回体2を旋回駆動流体としての旋回駆動油の圧力すなわち旋回駆動圧により旋回駆動する。
【0016】
旋回系方向流量制御弁10と旋回モータ11の一方のポート間に配設された一方の油圧ラインと、他方のポート間に配設された他方の油圧ラインとの間には、相互に逆向きのクロスオーバーリリーフバルブ13a,13bと、旋回モータ11の正転側および逆転側の旋回駆動圧すなわち左右圧力を高圧選択するための高圧選択手段14を構成する1対のチェックバルブ14a,14bとが設置されている。これらのチェックバルブ14a,14bは、相対して設置され、中間部より旋回駆動圧導出ライン14cが引出され、この旋回駆動圧導出ライン14cの途中より旋回駆動圧ライン14dが分岐されている。
【0017】
旋回系方向流量制御弁10のスプール両端のパイロット室は、旋回用操作弁としての旋回用リモコンバルブ15に連通され、この旋回用リモコンバルブ15のパイロット圧出力ラインには、左右のリモコンバルブ15a,15bから出力されたパイロット2次圧の高圧選択を行うシャトルバルブ16が設けられている。このシャトルバルブ16は、旋回ハンチングを抑制する旋回ハンチング抑制弁17に連通されている。旋回用リモコンバルブ15には、パイロットポンプ15pからパイロット1次圧が供給されている。
【0018】
旋回ハンチング抑制弁17は、高圧選択手段14により高圧選択された旋回駆動圧が脈動により上昇したとき旋回駆動油の一部をドレンさせて旋回ハンチングを抑制するものであり、旋回駆動圧導出ライン14cに接続されたメインバルブ18と、旋回駆動圧ライン14dに接続されたパイロットバルブ19と、メインバルブ18のスプール両端間を連通する通路中に設けられたオリフィス20と、このオリフィス20に並列接続されたチェックバルブ21とを備えている。なお、22は、作動油を収容したタンクである。
【0019】
図2に示されるように、旋回ハンチング抑制弁17のメインバルブ18は、スプール23が弁本体24の内部に摺動自在に嵌合され、弁本体24の下部内に設けられたスプリング25によりスプール23が上方へ付勢されている。
【0020】
旋回ハンチング抑制弁17のパイロットバルブ19は、非作動位置の室aと、旋回作動時に旋回用リモコンバルブ15からの旋回操作圧すなわち旋回パイロット圧により切換わる室bとを備えている。
【0021】
旋回ハンチング抑制弁17のメインバルブ18は、スプール23の一端側で弁本体24内に、高圧選択された旋回駆動圧が旋回駆動圧ライン14dから導かれる一方のパイロット室cが形成され、スプール23の他端側で弁本体24内に、スプール非作動時にタンク22に連通されスプール23の移動によりタンク22への連通を遮断される他方のパイロット室dが形成され、このパイロット室dにスプリング25が設けられ、このスプリング25によりスプール23を一方のパイロット室c側へ付勢している。
【0022】
メインバルブ18のスプール23は、旋回駆動圧の脈動により一方のパイロット室cと他方のパイロット室dとの間に発生する差圧により作動するものであり、パイロットバルブ19は、旋回用リモコンバルブ15の旋回操作に応じて発生する旋回操作圧としての旋回リモコン圧によって、高圧選択手段14により高圧選択された旋回駆動圧をメインバルブ18の一方のパイロット室cに導く位置に切換作動されるものである。
【0023】
オリフィス20は、パイロットバルブ19からの旋回駆動圧の供給を受けた瞬間の一方のパイロット室cを他方のパイロット室dより高圧にする差圧発生用の絞りであり、また、チェックバルブ21は、オリフィス20に並列接続され他方のパイロット室dから圧を抜く方向性を有する逆止弁であり、これらのオリフィス20およびチェックバルブ21は、メインバルブ18のスプール23内に内蔵設置されている。
【0024】
弁本体24には旋回圧ポートgおよびタンクポートhが設けられ、スプール23の周面には、これらのポートg,h間を連通可能なノッチiが設けられ、高圧選択された旋回駆動圧をスプール23の移動によりタンク22に連通する。パイロット室dは、スプール23の下端周面に設けられたノッチjにより、タンクポートhに連通されている。
【0025】
そして、旋回ハンチング抑制弁17のパイロットバルブ19は、旋回用リモコンバルブ15の左右のパイロット2次圧を高圧選択した圧力で制御され、旋回リモコン圧が立つと、旋回駆動圧をメインバルブ18のパイロット室cに導くことが可能となる。このメインバルブ18には、上記パイロットバルブ19の出力圧すなわち旋回駆動圧が導かれ、メインバルブ18の一方のパイロット室cにこの旋回駆動圧が直接作用する。対抗するパイロット室dには、行き側にオリフィス20、戻り側にチェックバルブ21を介して旋回駆動圧を導く。このパイロット室dは、スプール23が作動していない場合はノッチjによりタンク22に繋り、スプール23が動くとタンク22へのラインがカットされ、オリフィス20を介して前記旋回駆動圧が導かれる構造とする。
【0026】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0027】
旋回用リモコンバルブ15を操作して、そのパイロット2次圧により旋回系方向流量制御弁10をパイロット操作すると、同時に、旋回ハンチング抑制弁17のパイロットバルブ19にもパイロット2次圧が導かれ、パイロットバルブ19が室aから室bに切換わり、メインバルブ18のパイロット室cにチェックバルブ14aまたは14bを介して旋回モータ11の旋回駆動圧が導かれる。
【0028】
このとき、メインバルブ18の一方のパイロット室cには旋回駆動圧が直接導かれ、一方、対抗する他方のパイロット室dにはオリフィス20を経て旋回駆動圧が導かれる。また、パイロット室dは、パイロット室cに圧力が立っておらず、スプール23が作動していない場合は、ノッチjを経てタンク22に導かれ低圧状態にある。しかも、パイロット室dは容積を大きくしているので、パイロット室cに比べ圧力の変化は滑らかになる。
【0029】
したがって、上部旋回体2の旋回動作がハンチングして高圧選択手段14から取出された旋回駆動圧が脈動すると、旋回駆動圧が急激に上昇変動した瞬間は、スプール23内のオリフィス20により一方のパイロット室cと他方のパイロット室dとの間に発生した差圧により、スプール23が、図2のX方向に押されて移動し、このスプール23のノッチiの変位により、旋回圧ポートgがタンクポートhに繋がり、旋回駆動圧油の一部がタンク22に逃がされ、旋回駆動圧のピーク圧が平滑化されてダンピングが改善され、旋回ハンチングが抑制される。
【0030】
旋回駆動圧が緩やかに変化する定常旋回の場合は、パイロット室cとパイロット室dの圧力は、ほぼ同じように変化するので、スプール23は図2の状態から動かない。したがって、旋回駆動圧油はタンク22に逃げない。
【0031】
このため、慣性モーメントの変化に関係なく、旋回ハンチングを抑制でき、急激な旋回駆動圧の変化が生じたときのみ、旋回駆動圧油の極一部をタンク22に逃がすので、定常旋回速度の低下は起こらない。また、急激な旋回駆動圧の上昇が解消すると、スプール23は直ちに元の状態に復帰することから、ハンチングを抑制する場合に逃がす旋回駆動圧油は極微量であるので、急操作で大幅な応答遅れが生じるおそれはない。
【0032】
このように、旋回モータ11の正転側および逆転側の旋回駆動圧を高圧選択手段14により高圧選択し、旋回駆動圧が脈動し、急激に増加したときは、旋回ハンチング抑制弁17が旋回駆動油の一部をドレンさせるので、慣性モーメントの変化を把握することなく、旋回ハンチングを抑制できる。
【0033】
また、旋回操作に応じて発生する旋回操作圧によって切換作動されるパイロットバルブ19により、高圧選択された旋回駆動圧をメインバルブ18の一方のパイロット室cに導くことで、旋回操作速度に応じた切換作動速度のパイロットバルブ19によりメインバルブ18が切換操作されるので、急な旋回操作に対する旋回動作の立ち上がりを損なうことなく、旋回ハンチングを抑制できる。
【0034】
さらに、メインバルブ18は、一方のパイロット室cが低圧になったとき、チェックバルブ21により他方のパイロット室dも直ちに低圧にして高圧に備え、一方のパイロット室cが高圧になったとき、オリフィス20により一方と他方のパイロット室c,d間で直ちに差圧を発生させてスプール23を動かすことができるので、応答性のよいメインバルブ18により、旋回ハンチングを効果的に抑制できる。
【0035】
オリフィス20およびチェックバルブ21を、メインバルブ18のスプール23内に設けたので、旋回ハンチング抑制弁17をコンパクトに構成できる。
【0036】
そして、高圧選択手段14や旋回ハンチング抑制弁17は、既存の作業機械にも後付けが可能である。
【0037】
本発明は、油圧ショベル、クレーン車などの旋回型の作業機械に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る作業機械の旋回圧制御装置の一実施の形態を示す流体圧回路図である。
【図2】同上制御装置の旋回ハンチング抑制弁を示す断面図である。
【図3】同上制御装置を搭載した作業機械の側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 下部走行体
2 上部旋回体
11 旋回モータ
14 高圧選択手段
17 旋回ハンチング抑制弁
18 メインバルブ
19 パイロットバルブ
20 オリフィス
21 チェックバルブ
23 スプール
c 一方のパイロット室
d 他方のパイロット室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体に対して旋回可能に設けられた上部旋回体を旋回駆動圧により旋回駆動する旋回モータと、
この旋回モータの正転側および逆転側の旋回駆動圧を高圧選択する高圧選択手段と、
高圧選択された旋回駆動圧が脈動により上昇したとき旋回駆動流体の一部をドレンさせて旋回ハンチングを抑制する旋回ハンチング抑制弁と
を具備したことを特徴とする作業機械の旋回圧制御装置。
【請求項2】
旋回ハンチング抑制弁は、
旋回駆動圧の脈動により一方のパイロット室と他方のパイロット室との間に発生する差圧により作動するスプールを有するメインバルブと、
旋回操作に応じて発生する旋回操作圧によって、高圧選択された旋回駆動圧をメインバルブの一方のパイロット室に導く位置に切換作動されるパイロットバルブと、
パイロットバルブから旋回駆動圧の供給を受けた瞬間の一方のパイロット室を他方のパイロット室より高圧にする差圧発生用のオリフィスと、
オリフィスに並列接続され他方のパイロット室から圧を抜く方向性を有するチェックバルブと
を具備したことを特徴とする請求項1記載の作業機械の旋回圧制御装置。
【請求項3】
オリフィスおよびチェックバルブは、メインバルブのスプール内に設けられた
ことを特徴とする請求項2記載の作業機械の旋回圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−127313(P2009−127313A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304008(P2007−304008)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】