説明

作業機械

【課題】寒冷地で作動させる場合でも、インバータ装置等の電力制御装置の寿命低下を防止することができる温度調節システムを備えた作業機械を提供する。
【解決手段】
温度調節システム54は、分流装置64と、この分流装置64で分流された冷媒の一方が流れるラジエータ65と、ヒーターコア66と、冷媒温度センサ68と、基板温度センサ70と、コントローラ51等を有する。コントローラ51は、冷媒温度センサ68で測定される冷媒温度Tおよび基板温度センサ70で測定される基板温度Tに基づいて、基板温度Tが推奨使用下限温度T未満の場合、旋回用電動機25や電動機23を停止するために、インバータ・コンバータ28に停止信号を出力する。また、基板温度Tと冷媒温度Tの温度差ΔTがある設定温度差ΔTより小さい場合はヒーターコア66側への冷媒の流量を上げて基板温度Tを上げるよう分流装置64を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に係わり、より具体的には、被駆動部材を駆動する電動アクチュエータと、この電動アクチュエータの駆動を制御する電力制御装置を備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧作業機械の一例である油圧ショベルは、走行体と、この走行体に旋回可能に設けた旋回体と、この旋回体に俯仰動可能に接続されたブーム、アーム及びバケットを含む多関節型の作業装置(フロント装置)とを備えている。これら走行体、旋回体及び作業装置は、このショベルに備えられた駆動装置の被駆動部材を構成している。
【0003】
油圧ショベルの駆動装置は、エンジン等の原動機と、この原動機によって駆動される少なくとも1つの油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出された圧油により駆動され、ブーム、アーム、バケットをそれぞれ駆動するブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダ、走行体を走行させる走行モータ、及び旋回体を走行体に対し旋回させる旋回油圧モータを含む複数の油圧アクチュエータとを有する油圧方式の駆動装置として構成されている。
【0004】
一方、自動車の分野では、エンジンで発電機を駆動し、その発電電力で電動モータを駆動するとともに残りの電力をバッテリに蓄積し、エンジンのパワーが足りない時にバッテリの電力により発電機を電動モータとして駆動してエンジンをアシストする、いわゆるハイブリッド式の駆動装置が提唱されている。
【0005】
近年、油圧ショベル等の油圧作業機械においても、この電動モータを備えたハイブリッド式の油圧作業機械が提案されている。例えば、旋回電動モータを有するハイブリッド式油圧ショベルがある。このショベルは、旋回電動モータを備えることで制動時の運動エネルギーを電気エネルギーとして回生できる(旋回油圧モータは運動エネルギーを熱として放出)ため、省エネルギー化を図れるメリットがある。
【0006】
ところで、電動モータ等の電動アクチュエータ及びその電力制御装置であるインバータ等の電気機器は、発熱を伴うため、ハイブリッド式の作業機械にはこれら電気機器を冷却する冷却システムが搭載されている。この冷却システムは冷却媒体が循環する冷却回路を備え、冷却回路は冷却媒体を冷却するラジエータと冷却媒体を循環するポンプとを有し、ラジエータによって冷却された冷却媒体をポンプで循環させ、その冷却媒体により電動アクチュエータ等の電気機器を冷却する。電気自動車用のそのような冷却システムの一例が例えば特許文献1及び2に記載されている。
【0007】
また特許文献2では、季節に関係なく安定した冷却を行うために、ラジエータとポンプを有する冷却回路と、複数のバルブと、ヒータを有するヒータ循環回路等を備え、外気温度に基づいて複数の切換弁の開閉を制御する。例えば、低温時には、常温時に冷却回路を形成していたバルブを閉じて常温時に閉じていた別のバルブを開き、ヒータ側へ冷媒を流してヒータ回路を形成する。冷却媒体は外部熱源であるヒータにより加温され、回路を暖める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−6811号公報
【特許文献2】特許3497873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、油圧ショベルのような作業機械は寒冷地で作業に供される場合がある。ハイブリッド式の作業機械に備えられる電気機器のうちインバータ装置等の電力制御装置には、大電流が流れる強電基板が設けられている。このような電力制御装置を備えた作業機械を寒冷地で作動させると、強電基板を流れる電力・電流の抵抗発熱によって、基板が急激に加熱され、大きな熱ストレスを受けることになる。この熱ストレスは基板の変形(歪)を生じさせ、この熱ストレスが繰り返されることで寿命低下の可能性が懸念される。また、はんだによって異種金属配線を接続した接点部分は、熱膨張率の違いからこの熱ストレスによる歪によってダメージを受けやすく、接点の接続不良や断線が発生するなどして動作不良が発生する可能性がある。
【0010】
特許文献1に記載の従来技術は、電動モータあるいはインバータ装置等の電力制御装置を冷却するための技術であり、作業機械を寒冷地で作動させる場合の上述した課題を解決することはできない。特許文献2に記載の従来技術では、外気の温度に基づいてバルブを操作して冷却回路とヒータ循環回路とを切り換えているため、電動アクチュエータやインバータ装置自体の冷却効率・暖房効率を向上させることはできる。しかし、インバータ装置の基板に関わる上述した問題の配慮がなされておらず、特許文献1に記載の従来技術と同様、作業機械を寒冷地で作動させた場合の電力制御装置の寿命低下を防止することはできない。
【0011】
本発明の目的は、作業機械を寒冷地で作動させる場合でも、インバータ装置等の電力制御装置の寿命低下を防止することができる温度調節システムを備えた作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、蓄電装置と、この蓄電装置の電力により駆動する電動アクチュエータと、この電動アクチュエータの駆動および前記蓄電装置の充放電を制御する電力制御装置と、この電力制御装置に設けられた基板の温度を調整する温度調整システムとを備える作業機械において、前記温度調整システムは、冷媒を循環させる電動水ポンプと、この電動水ポンプに直列に接続され、前記冷媒を2方向に任意の割合で分流する分流装置と、この分流装置で分流された冷媒の一方が流れるラジエータと、このラジエータに並列に接続され、前記分流装置で分流された冷媒のもう一方が流れるヒーターコアと、前記ラジエータ及び前記ヒーターコアを流れた冷媒が合流する合流部とを有し、前記合流部で合流した冷媒が前記電力制御装置を通過して前記電動水ポンプに戻る冷媒回路と、前記合流部から前記電力制御装置へと流れる冷媒の温度を測定する冷媒温度センサと、前記電力制御装置の基板の温度を測定する基板温度センサと、前記冷媒温度センサで測定される冷媒温度および前記基板温度センサで測定される基板温度が入力されるコントローラとを有し、前記コントローラは、前記冷媒温度センサおよび前記基板温度センサから入力された前記冷媒温度および前記基板温度に基づいて、前記基板温度が推奨使用下限温度よりも低いときは前記電動アクチュエータを停止させるとともに、前記基板温度が前記推奨使用下限温度以上となるように前記分流装置を制御して前記ラジエータ側及び前記ヒーターコア側への冷媒の流量比を調整する。
【0013】
このように構成した本発明においては、作業機械を寒冷地で作動させる場合でも、温度調節システムによってインバータ・コンバータの基板の温度が推奨使用下限温度より低いときは電動アクチュエータを停止し、冷媒温度を制御して基板温度を上昇させて推奨使用下限温度より高くなるようにラジエータ側とヒーターコア側への冷媒の流量比を分流装置で制御する。このため、基板温度が低い場合は基板に大電流が流れず、また基板温度が推奨使用下限温度まで上昇してから電動アクチュエータを駆動するため、基板が熱ストレスによってダメージを受けることが抑制され、電力制御装置の寿命の低下が防止される。
【0014】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の作業機械において、前記コントローラは、前記基板温度が前記推奨使用下限温度以上となって前記電力制御装置を起動させた後は、前記冷媒温度が前記推奨使用下限温度になるように前記分流装置を制御する。
【0015】
これにより、基板温度が推奨使用下限温度以上になった後には冷媒温度が推奨使用下限温度となるように制御するため、安定した冷却が行われて強電基板が熱ダメージを受けないように効率的に制御され、電力制御装置の寿命の低下がより効果的に防止される。
【0016】
また請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の作業機械において、前記ヒーターコア側の冷媒流路から前記電動水ポンプの吸込側に冷媒をバイパスさせる水抜き回路と、この水抜き回路内に設置されている低圧逆止弁付き開閉弁とを更に備え、前記コントローラは、前記ラジエータ側にのみ冷媒が供給される場合は、前記開閉弁を開き、前記水抜き回路を介して前記ヒーターコア側の冷媒を前記電動水ポンプの吸込側へ移動させる制御を行う。
【0017】
これにより、分流装置の分流段階がラジエータ側のみに冷媒が供給されているときは、開閉弁を開いてヒーターコア側の冷媒を電動水ポンプの吸込側に流すように制御されるため、ヒーターコア側の冷媒が必要以上に加熱されて冷媒温度が過度に上昇することを防止し、高温の冷媒が冷媒回路に流れることが抑制され、安定した基板温度制御が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明によれば、作業機械を寒冷地で作動させる場合でも、インバータ装置等の電力制御装置の寿命低下を防止することができる温度調節システムを備えた作業機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの側面図である。
【図2】油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態による温度調節システムの構成を示す図である。
【図4】図3のインバータ・コンバータ部分の拡大図である。
【図5】本発明の実施の形態によるコントローラが行う制御機能を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
以下、作業機械としてハイブリッド式油圧ショベルを例にとって本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
〜油圧ショベルの構成〜
本発明の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの側面図を図1に示す。
【0023】
図1において、ハイブリッド式油圧ショベルは下部走行体10と、この下部走行体10上に旋回可能に設けられた上部旋回体20と、ショベル機構30とを備えている。
【0024】
下部走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の右及び左走行用油圧モータ13,14及びその減速機構等で構成されている。
【0025】
上部旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動される電動機23と、電動機23により発生された電力を蓄えるためのキャパシタ24と、電動機23又はキャパシタ24からの電力により駆動される旋回用電動機25と、旋回用油圧モータ27等を有し、旋回用電動機25と旋回用油圧モータ27の駆動力により下部走行体10に対して上部旋回体20(旋回フレーム21)を旋回駆動させるための旋回機構26等で構成されている。ここで、上部旋回体20は主として旋回用油圧モータ27により駆動され、旋回用電動機25が旋回用油圧モータ27と協調駆動することで、補助的に旋回用電動機25により駆動される。
【0026】
ショベル機構30は、ブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0027】
さらに、上部旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、旋回用油圧モータ27、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧回路装置40が搭載されている。油圧回路装置40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41(図2)及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブユニット42(図2)を含み、油圧ポンプ41はエンジン22によって駆動される。
【0028】
〜システム構成〜
油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を図2に示す。図2中、図1と同じ構成要素には図1と同じ符号を付してある(後の図も同様とする)。また、図2中、二本線は機械的駆動系統を、太線は電気的駆動系統を、通常太さの実線は油圧駆動系統を示す。
【0029】
図2に示すように、エンジン22の駆動力は油圧ポンプ41に伝達される。
【0030】
コントロールバルブユニット42は、アクチュエータごとにスプールと呼ばれる弁部品によって構成される方向制御弁を備え、レバー操作式の旋回用の操作装置52及びその他のそれぞれのレバー操作式の操作装置(図示せず)からの操作信号(操作指令圧力)に応じてそれらの方向制御弁を駆動することで、旋回用油圧モータ27、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及び走行用油圧モータ13,14に供給される圧油の方向と流量を制御する。
【0031】
インバータ・コンバータ28は、コントローラ51からの信号により電動機23の回転速度とトルクを制御するインバータ装置28aと、コントローラ51からの信号により旋回用電動機25の回転速度とトルクを制御するインバータ装置28bと、インバータ装置28bで変換された直流をキャパシタ24に出力する場合に降圧する機能及びキャパシタ24から入力された直流を昇圧する機能を選択的に行う昇降圧チョッパ28cとを備える。
【0032】
キャパシタ24からの直流電力は、インバータ・コンバータ28のインバータ装置28bにより所定の電圧及び周波数のパルス信号に変換され、旋回用電動機25に入力される。また、旋回用電動機25は減速時には発電機特性で使用し、インバータ装置28bは旋回用電動機25により回生された電力を直流に変換してキャパシタ24に蓄える。
【0033】
コントローラ51は、操作装置52の操作信号(操作指令圧力)を検出する圧力センサ53a,53bと旋回用油圧モータ27のメータイン及びメータアウトの圧力を検出する圧力センサ(不図示)からの検出信号に基づいてインバータ・コンバータ28及びコントロールバルブユニット42へ送る信号を演算し、出力する。
例えば、コントローラ51は、上部旋回体20の旋回を停止する操作がされた場合、旋回用電動機25により上部旋回体20の減速或いは停止時のエネルギーを電力として回生するために、インバータ装置28bで変換された直流を昇降圧チョッパ28cで降圧しキャパシタ24に出力する。これにより、キャパシタ24を充電するようになっている。一方、上部旋回体20を旋回させる操作がなされた時に旋回用油圧モータ27と旋回用電動機25を併用する場合、コントローラ51は、キャパシタ24からの直流を昇降圧チョッパ28cで昇圧してインバータ装置28bに出力し、旋回用電動機25を駆動する。
【0034】
以上の構成において、旋回用電動機25および電動機23が本発明における電動アクチュエータに、インバータ・コンバータ28が本発明における電力制御装置に該当する。
【0035】
次に、本実施形態の温度調整システムについて、図を用いて説明する。図3は本発明の温度調節システムを説明する図であり、図4は図3のインバータ・コンバータ28の部分を拡大した図である。
【0036】
温度調節システム54は、冷媒回路55と、冷媒温度センサ68と、基板温度センサ70と、コントローラ51とを有し、インバータ・コンバータ28、旋回用電動機25、冷媒回路55の順に冷媒が流れるように構成されている。
【0037】
冷媒回路55は、電動水ポンプ62と、分流装置64と、この分流装置64で分流された冷媒の一方が流れるラジエータ65と、このラジエータ65に対して並列に接続され、分流装置64で分流された冷媒のもう一方が流れるヒーターコア66と、合流部74と、水抜き回路72と、この水抜き回路72内に設置されている低圧逆止弁付き開閉弁71等とを有する。この冷媒回路55は、温度調整システム54を流れる冷媒の温度を所定の温度に制御し、インバータ・コンバータ28が備える強電基板28a1,28b1や旋回用電動機25自体の冷却をする。
【0038】
電動水ポンプ62は、エンジン22の始動とともに起動し、インバータ・コンバータ28や旋回用電動機25から流れてきた冷媒を分流装置64の方向に循環させている。
【0039】
分流装置64は、電動水ポンプ62に対して直列に接続されており、電動水ポンプ62からの冷媒をラジエータ65側とヒーターコア66側の2方向に任意の割合で分流する。分流装置64が冷媒をすべてラジエータ65側へ分流する段階をL10、すべてヒーターコア66側に分流する段階をL0とし、L0からL10までの11段階に冷媒を分流する。この分流段階はL0からL10までの範囲であり、コントローラ51からの指示にかかわらずこの範囲は逸脱しない。更に分流装置64には、ラジエータ65側とヒーターコア66側への分流段階を検出する傾斜角センサ73が取り付けられており、検出した分流段階の信号をコントローラ51へ出力する。
【0040】
ラジエータ65は流入した冷媒を大気放熱により冷却する。ヒーターコア66はエンジン22の冷却水回路と熱の授受をしており、エンジン22の始動から徐々にエンジン22側の冷却水が温まり、冷媒を加熱する。
【0041】
合流部74は、ラジエータ65及びヒーターコア66を流れた冷媒が合流する箇所であり、この合流部の直前のラジエータ65側およびヒーターコア66側に逆止弁67がそれぞれ取り付けられており、冷媒の逆流を防止している。
【0042】
水抜き回路72は、ヒーターコア66側の冷媒流路から電動水ポンプ62の吸込側に冷媒をバイパスするための回路で、内部に低圧逆止弁付きの開閉弁71が設けられている。開閉弁71は、分流装置64を介さずに電動水ポンプ62の吸込側からヒーターコア66側の冷媒流路に冷媒が流れることと、ヒーターコア66側の冷媒流路から電動水ポンプ62の吸込側へ冷媒が流れることを防止する。
【0043】
冷媒温度センサ68は、合流部74で合流してインバータ・コンバータ28へと流れる冷媒の温度を測定する。この冷媒温度センサ68は、ラジエータ65で冷却された冷媒とヒーターコア66で加熱された冷媒とが十分に混ざり合って温度が均一になる箇所に設けるべく、インバータ・コンバータ28へ冷媒が流入する直前に設けられている。また、冷媒温度センサ68で測定した冷媒温度は、コントローラ51に入力される。
【0044】
基板温度センサ70は、インバータ・コンバータ28内のインバータ装置28a,28bに設けられた強電基板28a1,28b1の温度を測定する。基板温度センサ70で測定した温度はコントローラ51に入力される。
【0045】
〜制御系の構成〜
次に、コントローラ51の電気系統の構成について説明する。
【0046】
コントローラ51は、CPU、ROMおよびRAMを有し、コンピュータプログラムにより、次のように設定されている。
【0047】
コントローラ51は、上述のような操作装置52の操作信号に基づいてインバータ・コンバータ28及びコントロールバルブユニット42へ送る信号を演算して出力するほかに、冷媒温度センサ68で測定される冷媒温度Tおよび基板温度センサ70で測定される基板温度Tに基づいて、インバータ・コンバータ28へ送る信号を演算して出力する。例えば、基板温度Tが、ある推奨使用下限温度T未満の場合、旋回用電動機25や電動機23を停止するために、インバータ・コンバータ28のインバータ装置28a,28bに停止信号を出力する。また、基板温度センサの温度Tがある推奨使用下限温度T以上の場合は、旋回用電動機25や電動機23を起動するために、インバータ・コンバータ28のインバータ装置28a,28bに起動信号を出力する。
【0048】
またコントローラ51は、分流装置64の分流段階の制御を行う。例えば、旋回用電動機25や電動機23が停止しており、基板温度Tと冷媒温度Tの温度差ΔT(=T−T)がある設定温度差ΔTより小さい場合には、分流装置64の分流段階を1段階下げて、ヒーターコア66側への冷媒の流量を上げて冷媒の温度を上昇させ、強電基板28a1,28b1を加熱する。逆に温度差ΔTがある設定温度差ΔTと同じかそれより大きい場合は、分流段階を1段階上げて、ラジエータ65側への冷媒の流量を上げ、冷媒の温度を下げ、強電基板28a1,28b1が急激に加熱されないようにする。また、旋回用電動機25や電動機23が起動している場合、冷媒温度Tが推奨使用下限温度Tになるように分流装置64の分流段階を制御する。
【0049】
更に、傾斜角センサ73から入力される分流装置64の分流段階の情報に応じて開閉弁71の開閉の制御を行う。具体的には、分流装置64の分流段階がL10の場合、ヒーターコア66側の冷媒流路の冷媒が必要以上に加熱されることを防ぐために、開閉弁71を開放して冷媒をヒーターコア66側の冷媒流路から電動水ポンプ62の吸込側に流す。なお、水抜き回路72は電動水ポンプ62より物理的に高い位置に配管されることが望ましい。また、分流装置64の分流段階がL10以外になった場合は、開放弁71を閉鎖する。なお、無電圧状態(エンジン22のOff状態)では、分流装置64の分流段階をL5、開閉弁71を開放状態とすることがよい。
【0050】
〜コントローラの処理機能〜
次に、以上のような構成のコントローラ51の処理機能を図5を用いて説明する。図5は、コントローラ51が行う処理機能を示すフローチャートである。
【0051】
エンジン22が起動すると、コントローラ51は、まず分流装置64の分流段階がL10かどうかを判断する(ステップ101)。この分流段階がL10の場合には、開閉弁71を開放する信号を出力し(ステップ102)、ヒーターコア66側の冷媒流路から電動水ポンプ62の吸込側に水抜き回路72を介して冷媒を流す。分流段階がL10以外の場合は、開閉弁71を閉める信号を出力する(ステップ103)。
【0052】
次にコントローラ51は、基板温度センサ70から入力される基板温度Tが、ある基準によって設定された所定の推奨使用下限温度Tより低いかどうかを判断する(ステップ104)。ここで、基板温度Tが推奨使用下限温度Tより低いと判断すると、コントローラ51は電動アクチュエータ(旋回用電動機25や電動機23)を停止する制御を行う(ステップ105)。なお、推奨使用下限温度Tは、例えば強電基板28a1,28b1が大きな熱ストレスを受けないと判断できる温度に設定すればよい。
【0053】
次にコントローラ51は、基板温度センサ70から入力される基板温度Tと冷媒温度センサ68から入力される冷媒温度Tとの温度差ΔT(=T−T)が、ある基準に基づいて設定された所定の設定温度差ΔTを下回っているかどうかを判断する(ステップ107)。温度差ΔTが設定温度差ΔTを下回っていると判断すると、コントローラ51は、分流装置64の分流段階を一つ下げて、ヒーターコア66側への冷媒の流量を上げ、冷媒の温度を上げる(ステップ108)。温度差ΔTが設定温度差ΔTと同じかそれ以上であると判断すると、コントローラ51は、分流装置64の分流段階を1つ上げて、ラジエータ65側への冷媒の流量を上げ、冷媒の温度を下げる(ステップ109)。なお、設定温度差ΔTをあまり大きく設定すると、強電基板28a1,28b1と冷媒との温度差が大きくなって、強電基板28a1,28b1を急激に加熱することを許容することになり、不必要な熱ストレスを強電基板28a1,28b1に加えることになってしまう。逆にあまり小さく設定すると、強電基板28a1,28b1の加熱に必要以上に時間がかかっていつまでも電動アクチュエータが停止したままとなる。このため、設定温度差ΔTは適度な大きさの値に設定することが望ましい。
【0054】
基板温度Tと冷媒温度Tの温度差ΔTと設定温度差ΔTとの大小に関わらず(ステップ108、ステップ109のどちらのステップであっても)、コントローラ51は再度ステップ101に処理を戻し、上述の処理を繰り返す。
【0055】
ステップ104に戻って、基板温度Tが推奨使用下限温度Tと同じか高いと判断すると、コントローラ51はインバータ・コンバータ28の強電基板28a1,28b1に大電流を流して問題ないと判断し、インバータ・コンバータ28を制御して電動アクチュエータを起動させる(ステップ106)。
【0056】
次にコントローラ51は、冷媒温度Tが推奨使用下限温度Tより低いかどうかを判断する(ステップ110)。冷媒温度Tが推奨使用下限温度Tより低いと判断すると、強電基板28a1,28b1が必要以上に冷却されることがないように、コントローラ51は分流装置64の分流段階を一つ下げてヒーターコア66側への冷媒の流量を上げ、冷媒の温度を上げるように制御する(ステップ111)。また、冷媒温度Tが推奨使用下限温度Tと同じか高いと判断すると、強電基板28a1,28b1の冷却が弱まることがないよう、コントローラ51は分流装置64の分流段階を一つ上げて、ラジエータ65側への冷媒の流量を上げ、冷媒の温度を下げる制御を行う(ステップ112)。これにより基板温度Tを推奨使用下限温度Tを下回ることなく最大限に冷却することが可能になる。
【0057】
冷媒温度Tと推奨使用下限温度Tとの大小に関わらず、(ステップ111、ステップ112のどちらのステップであっても)、コントローラ51は再度ステップ101に処理を戻し、処理を繰り返す。
【0058】
〜効果〜
以上のように構成した本実施の形態によれば、寒冷地等でのエンジン22の作動時でも、インバータ・コンバータ28に設けられた強電基板28a1,28b1の温度Tが、ある所定の推奨使用下限温度Tより低い場合はインバータ・コンバータ28を制御して電動アクチュエータを停止させる。また、並列に接続したラジエータ65とヒーターコア66への冷媒の流量の流量比を調節して冷媒温度を徐々に上昇させて、基板温度Tが推奨使用下限温度Tより高くなるようにラジエータ65側とヒーターコア66側への冷媒の流量比を分流装置64で制御する温度調節システムを備える。このため、寒冷地等の外気温が非常に低く、基板温度Tが非常に低い場合でも、起動直後に強電基板28a1,28b1に大電流が流れず、また基板温度Tが推奨使用下限温度Tまで上昇してから電動アクチュエータを起動するため、強電基板28a1,28b1が熱ストレスによってダメージを受けることが強く抑制され、インバータ・コンバータ28の寿命の低下が防止される。
【0059】
また、基板温度Tが推奨使用下限温度T以上になった後に電動アクチュエータを起動し、そして冷媒温度Tが推奨使用下限温度Tとなるように分流装置64を制御する。このため、強電基板28a1,28b1は安定に冷却され、強電基板28a1,28b1が熱ダメージを受けないように効率的に制御されて、寿命の低下がより効果的に防止される。
【0060】
更に、分流装置64の分流段階がL10のラジエータ65側のみに冷媒が供給される場合には、開閉弁71を開いてヒーターコア66側の冷媒を水抜き回路72を介して電動水ポンプ62の吸込側に流すことで、ヒーターコア66側に残留する冷媒が加熱されて冷媒温度が過度に上昇することを防止でき、高温の冷媒が冷媒回路55に流れることを抑制して安定した基板温度制御が実現され、基板へのダメージをより効果的に低減することができる。
【0061】
<その他>
なお、本発明は、被駆動部材を駆動する電動アクチュエータと、この電動アクチュエータの駆動を制御する電力制御装置を備える作業機械全般に適用が可能であり、本発明の適用はハイブリッド式油圧ショベルに限定されるものではない。例えば、被駆動部材を駆動する電動アクチュエータと、この電動アクチュエータの駆動を制御する電力制御装置を備えたクレーン車、ホイールローダ、フォークリフト、道路機械等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 下部走行体
11a,11b クローラ
12a,12b クローラフレーム
13 右走行用油圧モータ
14 左走行用油圧モータ
20 上部旋回体
21 旋回フレーム
22 エンジン
23 発電機
24 キャパシタ
25 旋回用電動機
26 旋回機構
27 旋回用油圧モータ
28 旋回用インバータ
28a,28b インバータ装置
28a1,28b1 強電基板
28c 昇降圧チョッパ
29 油圧パイロット油圧源
30 ショベル機構
31 ブーム
32 ブームシリンダ
33 アーム
34 アームシリンダ
35 バケット
36 バケットシリンダ
37 旋回用方向制御弁
40 油圧回路装置
41 油圧ポンプ
42 コントロールバルブユニット
51 コントローラ
52 操作装置
53a,53b 圧力センサ
54 温度調節システム
55 冷媒回路
62 電動水ポンプ
64 分流装置
65 ラジエータ
66 ヒーターコア
67 逆止弁
68 冷媒温度センサ
70 基板温度センサ
71 開閉弁
72 水抜き回路
73 傾斜角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、この蓄電装置の電力により駆動する電動アクチュエータと、この電動アクチュエータの駆動および前記蓄電装置の充放電を制御する電力制御装置と、この電力制御装置に設けられた基板の温度を調整する温度調整システムとを備える作業機械において、
前記温度調整システムは、
冷媒を循環させる電動水ポンプと、この電動水ポンプに直列に接続され、前記冷媒を2方向に任意の割合で分流する分流装置と、この分流装置で分流された冷媒の一方が流れるラジエータと、このラジエータに並列に接続され、前記分流装置で分流された冷媒のもう一方が流れるヒーターコアと、前記ラジエータ及び前記ヒーターコアを流れた冷媒が合流する合流部とを有し、前記合流部で合流した冷媒が前記電力制御装置を通過して前記電動水ポンプに戻る冷媒回路と、
前記合流部から前記電力制御装置へと流れる冷媒の温度を測定する冷媒温度センサと、
前記電力制御装置の基板の温度を測定する基板温度センサと、
前記冷媒温度センサで測定される冷媒温度および前記基板温度センサで測定される基板温度が入力されるコントローラとを有し、
前記コントローラは、前記冷媒温度センサおよび前記基板温度センサから入力された前記冷媒温度および前記基板温度に基づいて、前記基板温度が推奨使用下限温度よりも低いときは前記電動アクチュエータを停止させるとともに、前記基板温度が前記推奨使用下限温度以上となるように前記分流装置を制御して前記ラジエータ側及び前記ヒーターコア側への冷媒の流量比を調整することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記コントローラは、
前記基板温度が前記推奨使用下限温度以上となって前記電力制御装置を起動させた後は、前記冷媒温度が前記推奨使用下限温度になるように前記分流装置を制御することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1又は2記載の作業機械において、
前記ヒーターコア側の冷媒流路から前記電動水ポンプの吸込側に冷媒をバイパスさせる水抜き回路と、この水抜き回路内に設置されている低圧逆止弁付き開閉弁とを更に備え、
前記コントローラは、
前記ラジエータ側にのみ冷媒が供給される場合は、前記開閉弁を開き、前記水抜き回路を介して前記ヒーターコア側の冷媒を前記電動水ポンプの吸込側へ移動させる制御を行うことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−26577(P2013−26577A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162503(P2011−162503)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】