説明

作業車の変速操作装置

【課題】トラニオン軸のデテント機構及びアシスト機構を、構造の複雑化を回避しつつコンパクトに構成する。
【解決手段】主変速レバー13の基部に、主変速レバー13と一体的に回動してトラニオン軸を回動させるカム25と、該カム25のカム面に押接するカムアーム26とを設けると共に、カム25のカム面に、トラニオン軸が中立位置のときにカムアーム26が係合状に押接する中立保持用凹部25aと、トラニオン軸が前進変速領域のときにカムアーム26が押接する前進時押接面25bと、トラニオン軸が後進変速領域のときにカムアーム26が押接する後進時押接面25cとを備え、前進時押接面25b及び/又は後進時押接面25cに、カムアーム26の押接力をトラニオン軸の増速側への操作を補助するように作用させる傾斜を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式無段変速装置を用いて走行動力を無段変速する乗用田植機などの作業車の変速操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラニオン軸の回動位置に応じて走行動力を無段変速する油圧式無段変速装置と、中立位置を介して前進変速操作領域及び後進変速操作領域に回動操作される変速操作レバーと、該変速操作レバーの操作に応じてトラニオン軸を回動させる変速操作装置とを備える作業車が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
通常、この種の変速操作装置は、トラニオン軸や変速操作レバーの回動位置を保持するために、カム部材の係合力で位置保持を行うデテント機構や、摩擦部材の摩擦力で位置保持を行うブレーキ機構などの位置保持機構を備えている。例えば、特許文献1に示される変速操作装置は、トラニオン軸や変速操作レバーの回動位置を、中立位置を含む低速操作範囲ではブレーキ機構によって無段階状に保持し、高速操作範囲ではデテント機構によって段階的に保持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−193816号公報
【特許文献2】特開2002−257229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される変速操作装置では、変速操作レバーを増速側に回動操作する際はトラニオン軸の抵抗により操作荷重が大きくなる一方、変速操作レバーを減速側に回動操作する際はトラニオン軸の戻し力により操作荷重が小さくなるので、良好な操作フィーリングが得られないという問題があった。尚、変速操作レバーの増速側への回動操作時に操作荷重を軽減し、減速側への回動操作時に操作荷重を増加させるアシスト機構を設けることも可能であるが、特許文献2のように専用のアシスト機構を設けると、構造の複雑化を招来するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、トラニオン軸の回動位置に応じて走行動力を無段変速する油圧式無段変速装置と、中立位置を介して前進変速操作領域及び後進変速操作領域に回動操作される変速操作レバーと、該変速操作レバーの操作に応じてトラニオン軸を回動させる変速操作装置とを備える作業車であって、前記変速操作レバーの基部に、変速操作レバーと一体的に回動してトラニオン軸を回動させるカムと、該カムのカム面に押接するカムアームとを設けると共に、カムのカム面に、トラニオン軸が中立位置のときにカムアームが係合状に押接する中立保持用凹部と、トラニオン軸が前進変速領域のときにカムアームが押接する前進時押接面と、トラニオン軸が後進変速領域のときにカムアームが押接する後進時押接面とを備え、前進時押接面及び/又は後進時押接面に、カムアームの押接力をトラニオン軸の増速側への操作を補助するように作用させる傾斜を設けたことを特徴とする。
また、前記カムは、変速操作レバーの回動支軸と同軸上に回動可能に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、変速操作レバーの基部に設けられるカムとカムアームにより、トラニオン軸を中立位置に保持するデテント機構を構成できるだけでなく、カムアームの押接力でトラニオン軸の増速側への操作を補助するようにしたので、トラニオン軸のデテント機構及びアシスト機構を、構造の複雑化を回避しつつコンパクトに構成することができる。
また、請求項2の発明によれば、カムを変速操作レバーの回動支軸と同軸上に設けたので、デテント機構に兼用されるアシスト機構をさらにコンパクト化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】乗用田植機の全体側面図である。
【図2】変速操作装置の全体側面図である。
【図3】変速操作装置の要部正面図である。
【図4】変速操作装置の要部背面図である。
【図5】中立微調節操作の説明図である。
【図6】中立状態を示すカム及びカムアームの側面図である。
【図7】前進操作時を示すカム及びカムアームの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用田植機(作業車)であって、該乗用田植機1は、走行機体2と、走行機体2の後部に昇降リンク機構3を介して連結される植付作業機4とを備えて構成されている。
【0010】
走行機体2は、左右の前輪5及び左右の後輪6を備える乗用型の四輪車両であり、エンジン(図示せず)が搭載されるエンジン搭載部7、エンジン動力を変速するトランスミッションケース8、オペレータが乗車する操作部9などを備えて構成されている。
【0011】
図2〜図4に示すように、トランスミッションケース8の左側面部には、乗用田植機1の主変速機構として機能する油圧式無段変速装置10が設けられている。油圧式無段変速装置10は、エンジンから伝動される動力をトラニオン軸(図示せず)の回動位置に応じて無段変速し、変速した動力をトランスミッションケース8に入力するように構成されている。
【0012】
本実施形態の油圧式無段変速装置10は、斜板式可変容量油圧ポンプと、該ポンプから供給される作動油で駆動する固定容量油圧モータとを組み合せて構成される静油圧式無段変速ユニット(HST)であり、中立位置を介した前進変速領域及び後進変速領域の無段変速が可能となっている。
【0013】
操作部9には、オペレータが座る運転席11が設けられると共に、その前方には、前輪5を操向するステアリングハンドル12や、主変速操作を行う主変速レバー(変速操作レバー)13などの操作具が配置されている。主変速レバー13は、変速操作装置14を介して油圧式無段変速装置10に連繋されており、主変速レバー13の回動操作に応じて油圧式無段変速装置10のトラニオン軸が回動される。
【0014】
主変速レバー13は、第一レバー支軸15を支点とする前後方向の回動と、第二レバー支軸16を支点とする左右方向の回動が許容されており、レバーガイド17に形成されるクランク形状のガイド溝17aに沿って回動操作されるようになっている。具体的には、中立位置における左右方向の回動操作と、中立位置の右端から前方に延出するように確保される前進変速操作領域における前後方向の回動操作(前方操作で増速、後方操作で減速)と、中立位置の左端から後方に延出するように確保される後進変速操作領域における前後方向の回動操作(後方操作で増速、前方操作で減速)とが可能となっている。
【0015】
主変速レバー13の基端部には、レバーアーム18が一体的に設けられており、該レバーアーム18を第一レバー支軸15で回動自在に支持することにより、主変速レバー13の前後方向の回動操作が許容されるようになっている。また、第一レバー支軸15には、主変速レバー13の前後方向の回動位置を保持するためのブレーキ機構19が設けられている。本実施形態のブレーキ機構19は、レバーアーム18を挟むように第一レバー支軸15に回動自在に設けられる一対の摩擦板20と、摩擦板20をレバーアーム18に押し付けるバネ部材21と、摩擦板20を回止めするストッパ部材22とを備えて構成されており、摩擦板20とレバーアーム18との間に生じる摩擦力で主変速レバー13の前後方向の回動位置を保持するようになっている。
【0016】
変速操作装置14は、トラニオンアーム23、ロッド24、カム25及びカムアーム26を備えて構成されている。トラニオンアーム23は、油圧式無段変速装置10のトラニオン軸に一体的に設けられており、ロッド24を介してカム25に連結されている。ロッド24は、長さ調節自在であり、トラニオンアーム23とカム25の相対的な位置関係を変更することが可能であるが、極めて微小な位置変更が要求されるトラニオン軸の中立位置調節は困難である。
【0017】
カム25は、主変速レバー13の前後方向の回動操作に連動するように、主変速レバー13の基部に配置されている。具体的には、第一レバー支軸15に対して回動自在に設けられると共に、融通機構27を介してレバーアーム18に連結されている。これにより、カム25は、主変速レバー13の前後方向の回動操作に連動し、ロッド24及びトラニオンアーム23を介してトラニオン軸を回動させることができる。尚、融通機構27は、トラニオン軸の中立位置調節に際し、レバーアーム18に対するカム25の微小な相対変位を許容するためのものであり、本実施形態では、レバーアーム18に形成されるバカ孔18aと、カム25に突設されてバカ孔18aに遊嵌する連結ピン28によって構成されている。
【0018】
カムアーム26は、ローラ29を備えるアーム部材であり、第一レバー支軸15が突設されるレバーブラケット30に前後回動自在に設けられている。カムアーム26とレバーブラケット30との間には、スプリング31が介設されており、該スプリング31の付勢力でカムアーム26がカム25側に回動することにより、ローラ29がカム25のカム面に押接するようになっている。
【0019】
図6に示すように、カム25のカム面には、中立保持用凹部25aが形成されている。カムアーム26のローラ29は、トラニオン軸が中立位置にあるとき、カム25の中立保持用凹部25aに係合状に押接し、トラニオン軸を中立位置に保持する。つまり、カム25及びカムアーム26は、トラニオン軸を中立位置に保持するデテント機構を構成している。
【0020】
トラニオン軸の中立位置をデテント機構で保持する場合、デテント機構による保持位置とトラニオン軸の中立位置を一致させるための調節(以下、単にトラニオン軸の中立位置調節という)が必要となる。トラニオン軸の中立位置は、ロッド24の長さ調節に基づいて粗調節することは可能であるが、微調節を行うには別途微調節機構を設ける必要がある。
【0021】
本発明の実施形態に係る変速操作装置14では、トラニオン軸を中立位置に保持するデテント機構と、トラニオン軸の中立位置を微調節する中立微調節機構を兼用化している。具体的には、カムアーム26の回動支点を位置調節自在とし、該位置調節に基づいてトラニオン軸の中立位置を微調節するように構成されている。このようにすると、主変速レバー13の基部に設けられるカム25とカムアーム26により、トラニオン軸を中立位置に保持するデテント機構を構成できるだけでなく、トラニオン軸の中立位置を微調節する中立微調節機構を構成することが可能になる。
【0022】
本実施形態では、カムアーム26の回動支点を位置調節自在とするにあたり、微小変位操作が容易な偏芯ナット32を用いる。本実施形態で用いる偏芯ナット32は、カムアーム26の回動支軸として機能する回動支軸部32aと、カムアーム26を抜止めする抜止め部32bと、スパナなどの工具で回し操作するための回し操作部32cと、回動支軸部32aの中心に対して偏芯するように形成されるネジ孔32dとを備えるものであり、図5に示すように、レバーブラケット30の裏側からボルト33をネジ孔32dに締め込むことにより、レバーブラケット30の表側に固定されてカムアーム26の回動支軸として機能し、また、回し操作部32cの回し操作に基づいて回動支軸部32aの中心を微小変位させることにより、トラニオン軸の中立位置を微調節することが可能になる。尚、34は緩み防止用のナットである。
【0023】
上記のように構成された変速操作装置14におけるトラニオン軸の中立位置調節手順について図5を参照して説明する。トラニオン軸の中立位置を微調節する場合は、まず、主変速レバー13を中立位置に操作する。このとき、主変速レバー13は、ブレーキ機構19によって中立位置に保持される。また、主変速レバー13の基部に一体的に設けられるレバーアーム18は、融通機構27を介してカム25に連結されているので、トラニオン軸の中立位置調節に際し、カム25が変位しても、主変速レバー13が連動することが防止される。
【0024】
次に、ナット34及びボルト33を緩め、偏芯ナット32を回し操作可能な状態にする。その後、偏芯ナット32の回し操作部32cを回し操作し、カムアーム26の回動支点位置を変化させる。カムアーム26の回動支点位置を変化させると、ローラ29の位置が変化すると共に、中立保持用凹部25aを介してローラ29と係合しているカム25が回動し、さらには、ロッド24及びトラニオンアーム23を介してトラニオン軸が回動される。そして、トラニオン軸の回動位置が中立位置となったら、その角度(調節済み角度)で偏芯ナット32の回し操作を止め、偏芯ナット32の固定操作を行う。偏芯ナット32の固定操作は、偏芯ナット32の回し操作部32cをスパナで所定の調節済み角度に保持しつつ、別のスパナでボルト33を締め込み操作し、しかる後、緩み防止用のナット34を締め込むことにより行われる。
【0025】
次に、カム25及びカムアーム26で構成されるデテント機構をアシスト機構として機能させるための構成について図6及び図7を参照して説明する。
【0026】
上記のように構成される変速操作装置14では、主変速レバー13を増速側に回動操作する際はトラニオン軸の抵抗により操作荷重が大きくなる一方、主変速レバー13を減速側に回動操作する際はトラニオン軸の戻し力により操作荷重が小さくなって、良好な操作フィーリングが得られない可能性がある。このような問題を解決するために、主変速レバー13の増速側への回動操作時に操作荷重を軽減し、減速側への回動操作時に操作荷重を増加させるアシスト機構を設けることが提案される。しかしながら、専用のアシスト機構を設けると、構造の複雑化を招来するという問題があった。そこで、本発明の実施形態に係る変速操作装置14では、カム25及びカムアーム26で構成されるデテント機構をアシスト機構として機能させることにより上記の問題を解決する。
【0027】
具体的に説明すると、カム25のカム面には、トラニオン軸が中立位置のときにカムアーム26のローラ29が係合状に押接する中立保持用凹部25aと、トラニオン軸が前進変速領域のときにカムアーム26のローラ29が押接する前進時押接面25bと、トラニオン軸が後進変速領域のときにカムアーム26のローラ29が押接する後進時押接面25cとを備えている。前進時押接面25b及び後進時押接面25cは、中立保持用凹部25aの回動軌跡Kと平行ではなく、中立保持用凹部25aから離れるほどカム25の回動中心に近付くような傾斜を備えている。この傾斜は、図7に示すように、カムアーム26の押接力A(スプリング31の付勢力)を、カム25を増速方向に回動させようとする力Bに変換するので、主変速レバー13の増速側への回動操作時に操作荷重を軽減し、減速側への回動操作時に操作荷重を増加させることが可能になる。
【0028】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、トラニオン軸の回動位置に応じて走行動力を無段変速する油圧式無段変速装置10と、中立位置を介して前進変速操作領域及び後進変速操作領域に回動操作される主変速レバー13と、該主変速レバー13の操作に応じてトラニオン軸を回動させる変速操作装置14とを備える乗用田植機1であって、主変速レバー13の基部に、主変速レバー13と一体的に回動してトラニオン軸を回動させるカム25と、該カム25のカム面に押接するカムアーム26とを設けると共に、カム25のカム面に、トラニオン軸が中立位置のときにカムアーム26が係合状に押接する中立保持用凹部25aと、トラニオン軸が前進変速領域のときにカムアーム26が押接する前進時押接面25bと、トラニオン軸が後進変速領域のときにカムアーム26が押接する後進時押接面25cとを備え、前進時押接面25b及び/又は後進時押接面25cに、カムアーム26の押接力をトラニオン軸の増速側への操作を補助するように作用させる傾斜を設けたので、トラニオン軸のデテント機構及びアシスト機構を、構造の複雑化を回避しつつコンパクトに構成することができる。
【0029】
また、カム25は、主変速レバー13の回動支軸と同軸上に回動可能に設けられるので、デテント機構に兼用されるアシスト機構をさらにコンパクト化することが可能になる。
【符号の説明】
【0030】
1 乗用田植機
2 走行機体
10 油圧式無段変速装置
13 主変速レバー
14 変速操作装置
18 レバーアーム
19 ブレーキ機構
20 摩擦板
23 トラニオンアーム
24 ロッド
25 カム
25a 中立保持用凹部
25b 前進時押接面
25c 後進時押接面
26 カムアーム
27 融通機構
28 連結ピン
29 ローラ
31 スプリング
32 偏芯ナット
33 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニオン軸の回動位置に応じて走行動力を無段変速する油圧式無段変速装置と、中立位置を介して前進変速操作領域及び後進変速操作領域に回動操作される変速操作レバーと、該変速操作レバーの操作に応じてトラニオン軸を回動させる変速操作装置とを備える作業車であって、
前記変速操作レバーの基部に、変速操作レバーと一体的に回動してトラニオン軸を回動させるカムと、該カムのカム面に押接するカムアームとを設けると共に、カムのカム面に、トラニオン軸が中立位置のときにカムアームが係合状に押接する中立保持用凹部と、トラニオン軸が前進変速領域のときにカムアームが押接する前進時押接面と、トラニオン軸が後進変速領域のときにカムアームが押接する後進時押接面とを備え、前進時押接面及び/又は後進時押接面に、カムアームの押接力をトラニオン軸の増速側への操作を補助するように作用させる傾斜を設けたことを特徴とする作業車の変速操作装置。
【請求項2】
前記カムは、変速操作レバーの回動支軸と同軸上に回動可能に設けられることを特徴とする請求項1記載の作業車の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228938(P2012−228938A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98078(P2011−98078)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】