説明

作業車両のエンジン負荷制御装置

【課題】エンジンの目標回転数と実回転数との偏差の変化の傾向に応じて、エンジンの負荷(ポンプの吸収トルク)の調整を効果的に実施することが可能な作業車両のエンジン負荷制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン負荷制御装置30は、エンジン1の出力を、ローダ用油圧ポンプ8のような可変容量型油圧ポンプを介してローダ用油圧シリンダ14等の油圧アクチュエータに伝達するホイルローダ50に搭載されている。コントローラ18が、エンジン回転数センサ1aおよびストロークセンサ17aにおいて検出されたエンジン1の目標回転数と実回転数とに基づいて、これらの単位時間当たりの接近率αを算出し、接近率αの大きさに応じて各油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力が、駆動輪に伝達されるとともに複数の可変容量型油圧ポンプを介して作業機用油圧アクチュエータを含む複数の油圧アクチュエータに伝達される作業車両のエンジン負荷制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ホイルローダ等の作業車両では、エンジンが走行用駆動源および作業機用駆動源となっている。すなわち、エンジンの出力がトルクコンバータを介して駆動輪に伝達されることで、車両を走行させることができる。また、エンジンは、作業機の油圧ポンプを含む各種の油圧ポンプを駆動し、この油圧ポンプが油圧アクチュエータを介して作業機等の各種の装置を駆動する。具体的には、例えば、エンジンがステアリング用油圧ポンプを駆動すると、ステアリング用油圧ポンプから吐出された圧油がステアリング用油圧シリンダに供給されてステアリング機構を駆動することができる。また、エンジンがローダ用油圧ポンプを駆動すると、ローダ用油圧ポンプから吐出された圧油がローダ用油圧シリンダに供給されてローダを駆動することができる。
【0003】
このようにホイルローダでは、1つのエンジンの出力が走行駆動用および作業機等の各種装置の駆動用の双方に用いられる。このため、作業機等にかかる負荷の大きさに応じて、走行駆動用として使用されるエンジン出力の大きさが変化してしまうことになる。
【0004】
例えば、エンジン回転数がローアイドル回転数(アイドリング状態)にある場合は、エンジン回転数が高回転域にあるときと比較して、急激な油圧負荷の上昇に対するエンジントルクの上昇が鈍くなる。したがって、アイドリング状態で、ステアリングを切りながら積み荷が積み込まれたローダを持ち上げるという、高油圧負荷が急激にかかる作業を行うと、急激な油圧負荷上昇にエンジンのトルク上昇が追いつかず、エンジンが停止する場合がある。
【0005】
また、走行しながらローダやステアリング機構を作動させる状況下では、エンジン出力が作業機用およびステアリング用油圧負荷として消費されるために、それを差し引いたエンジン出力分しか走行負荷に対して使用することができない。このため、十分な牽引力が得られなかったり、あるいは車速を上昇させるために長時間を要したりする等、オペレータのアクセル操作に対するレスポンスが低下する。
例えば、特許文献1には、目標回転数と実回転数との偏差に基づいて油圧ポンプの最大吸収トルクを制御するスピードセンシング制御を行う際に、エンジン出力に余裕がある場合には、エンジン出力を有効に利用することが可能な油圧建設機械のポンプトルク制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−108155号公報(平成16年4月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のポンプトルク制御装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたポンプトルク制御装置では、目標回転数と実回転数との偏差に基づいてポンプの最大吸収トルクを制御しているが、上記制御中における目標回転数と実回転数の偏差の変化の傾向までは認識できない。このため、例えば、偏差の大きさが同じ値である場合には、偏差が大きくなっている途中か、小さくなっている途中か、あるいは安定しているのかが分からない。この結果、単に、目標回転数と実回転数との偏差に応じた制御だけでは、エンジンの負荷状態を正確に把握してエンジンの負荷制御を効果的に行うことができるとは言い難い。
【0008】
本発明の課題は、エンジンの目標回転数と実回転数との偏差の変化の傾向に応じて、エンジンの負荷(ポンプの吸収トルク)の調整を効果的に実施することが可能な作業車両のエンジン負荷制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、回転数指示装置によって回転数が制御されるエンジンの出力が、駆動輪に伝達されるとともに可変容量型油圧ポンプを介して油圧アクチュエータに伝達される作業車両のエンジン負荷制御装置であって、目標回転数検出部と、実回転数検出部と、変化率算出部と、制御部と、を備えている。目標回転数検出部は、回転数指示装置からの指示内容を受けてエンジンの目標回転数を検出する。実回転数検出部は、エンジンの実際の回転数を検出する。変化率算出部は、目標回転数検出部における検出結果と実回転数検出部における検出結果との差の単位時間当たりの変化量を算出する。制御部は、実回転数と目標回転数との偏差に対する可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの関係を予め設定するとともに、変化率算出部において算出された変化率の大きさに応じて、実回転数と目標回転数との偏差に対する可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの関係を複数設定するように制御を行う。
【0010】
ここでは、例えば、ホイルローダ等の作業車両において、回転数指示装置からの指示内容(アクセル開度等)に基づいて検出されるエンジンの目標回転数と、エンジンの実際の回転数(実回転数)とをそれぞれ取得し、その偏差(第1偏差)を算出する。次に、所定時間経過後にも同様に、エンジンの目標回転数と、エンジンの実際の回転数(実回転数)とをそれぞれ取得してその偏差(第2偏差)を算出する。そして、変化率算出部において、第1偏差と第2偏差との単位時間当たりの変化量(変化率)を算出する。制御部は、この変化率の大きさに応じて、エンジンにかかる負荷状態を正確に把握して、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する。
【0011】
具体的には、例えば、上記変化率が大きい場合には、目標回転数に対して実回転数が急速に近づいていることを意味するため、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を通常よりも小さくするように制御を行う。一方、上記変化率が小さい場合には、目標回転数に対して実回転数がゆっくり近づいていることを意味するため、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を通常よりも大きくするように制御を行う。
【0012】
これにより、上記変化率が大きい場合には、エンジンの実回転数がすぐに目標回転数に達することが予想されるため、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を小さくして、作業機等の油圧アクチュエータの動作を速めることで、エンジンの吹き上がり時間を短縮しつつ、作業機等を用いた作業性も向上させることができる。一方、上記変化率が小さい場合には、エンジンの実回転数が目標回転数に達するまでまだ時間がかかることが予想されるため、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を大きくして、エンジンの吹き上がりの方を優先させることで、エンジンの吹き上がり時間を従来よりもさらに短縮することができる。
【0013】
この結果、エンジンの目標回転数と実回転数との偏差が同じ値である場合でも、その状況に応じて可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を適切に調整することができる。
【0014】
第2の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、可変容量型油圧ポンプおよび油圧アクチュエータは、それぞれ対応するように複数設けられている。そして、制御部は、複数の可変容量型油圧ポンプごとに、変化率に応じて可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクを変更する制御を行う。
【0015】
ここでは、例えば、ステアリング、ファン、作業機用として、複数の油圧アクチュエータに対応する複数の可変容量型油圧ポンプを備えている。そして、制御部は、上記変化率の大きさに応じて、複数の可変容量型油圧ポンプをそれぞれ制御する。
【0016】
これにより、ステアリング、ファン、作業機をそれぞれ駆動する油圧アクチュエータに対応する可変容量型油圧ポンプごとに最適な最大吸収トルクを設定して、エンジンの回転数を短時間で上昇させながら、作業機等による作業性も向上させることができる。
【0017】
第3の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1または第2の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、制御部は、可変容量型油圧ポンプにおける吐出量を制御するEPC電流を制御して、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する制御を行う。
【0018】
ここでは、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する際には、制御部は、可変容量型油圧ポンプの吐出量を調整するEPC電流を制御する。
これにより、可変容量型油圧ポンプにおける最大吸収トルクの大きさを、可変容量型油圧ポンプの吐出量の調整によって容易に制御することができる。
【0019】
第4の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、制御部は、回転数指示装置への入力と油圧アクチュエータへの動作指令とが、ほぼ同時に行われたことを検出して、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する制御を行う。
【0020】
ここでは、回転数指示装置への入力(例えば、アクセルペダルの踏込み)と油圧アクチュエータへの動作指令(例えば、ステアリングや作業機等の操作)とが、ほぼ同時に行われた場合に、上述した可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する制御を行う。
【0021】
通常、エンジンが低い回転数で維持されたローアイドル状態において、ステアリングや作業機用操作レバー等を急に操作しながらアクセルを踏込んだ場合、可変容量型油圧ポンプの容量が急激に増大してエンジンの回転数の上昇が妨げられる。
【0022】
このため、このような状況下において上述した可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルク制御を行うことで、エンジンの回転数上昇を円滑に行いながら、ステアリングや作業機等の操作も効率よく実施することができる。
【0023】
第5の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、制御部は、変化率を、所定時間経過毎に算出する。
【0024】
ここでは、制御部が、上述したエンジンの目標回転数と実回転数との偏差の変化率の算出を、所定時間経過毎に行う。
これにより、エンジンにかかる負荷の状態がどのように遷移しているかを容易に認識して、状況の変化に応じて最適な下げ幅になるように可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクを調整することができる。
【0025】
第6の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、制御部は、変化率が所定の閾値以上である場合には、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクを調整する制御を実施しない。
【0026】
ここでは、上述した可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの調整制御を、上記変化率が所定の大きさ以上になった場合には実施しないように制御を行う。
ここで、エンジンの目標回転数と実回転数との差の単位時間当たりの変化率が所定値以上になった場合には、実回転数が目標回転数に対して急速に近づいていることを意味する。
【0027】
これにより、上記変化率の大きさが所定値以上になることを検知した場合には、最大吸収トルクの低減量をそのままの設定値としても、エンジンの実回転数はすぐに目標回転数まで達するものと思われるため、可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの低減量の調整制御を実施することなく、通常の制御状態へと移行することができる。
【0028】
第7の発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置は、第1から第6の発明のいずれか1つに係る作業車両のエンジン負荷制御装置であって、回転数指示装置は、エンジンの回転数を調整するアクセルペダルである。
【0029】
ここでは、回転数指示装置としてアクセルペダルを用いている。
これにより、目標回転数検出部では、アクセルペダルの踏込み量に応じて、目標回転数を容易に検出することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る作業車両のエンジン負荷制御装置によれば、エンジンの目標回転数と実回転数との偏差が同じ値である場合でも、エンジンにかかる負荷の状況に応じて可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅をより適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業車両のエンジン負荷制御装置を搭載したホイルローダの構成を示す側面図。
【図2】図1のホイルローダに搭載されたエンジン負荷制御装置の構成を示す制御ブロック図。
【図3】図2に含まれるローダ用油圧ポンプのPC制御ブロック図。
【図4】図2に含まれるコントローラの入出力情報を示す制御ブロック図。
【図5】エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すグラフ。
【図6】エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すグラフ。
【図7】エンジンの目標回転数と実回転数との偏差の大きさに応じて油圧ポンプにおける最大吸収トルクを調整する際に、目標回転数と実回転数との接近率によって異なる制御を行うことを示すグラフ。
【図8】(a)は、ステアリング用油圧ポンプにおける最大吸収トルクと目標回転数と実回転数との偏差の大きさとの関係を示すグラフ。(b)は、目標回転数と実回転数との接近率によって異なる制御を行うための、ステアリング用油圧ポンプにおける最大吸収トルクに対するPC−EPC電流値との関係を示すテーブル。
【図9】(a)は、ファン用油圧ポンプにおける最大吸収トルクと目標回転数と実回転数との偏差の大きさとの関係を示すグラフ。(b)は、目標回転数と実回転数との接近率によって異なる制御を行うための、ファン用油圧ポンプにおける最大吸収トルクに対するPC−EPC電流値との関係を示すテーブル。
【図10】(a)は、ローダ用油圧ポンプにおける最大吸収トルクと目標回転数と実回転数との偏差の大きさとの関係を示すグラフ。(b)は、目標回転数と実回転数との接近率によって異なる制御を行うための、ローダ用油圧ポンプにおける最大吸収トルクに対するPC−EPC電流値との関係を示すテーブル。
【図11】目標回転数と実回転数との接近率αが0<α<1.5の場合における補間方法を示すグラフ。
【図12】本発明の一実施形態に係るエンジンの負荷低減制御の流れを示すフローチャート。
【図13】本発明の他の実施形態に係るエンジンの負荷低減制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態に係る油圧回路の制御作業車両のエンジン負荷制御装置を搭載したホイルローダについて、図1〜図12を用いて説明すれば以下の通りである。
[ホイルローダ50の構成]
本発明の一実施形態に係るホイルローダ(作業車両)50は、図1に示すように、車体51と、車体の前部に装着されたリフトアーム52と、このリフトアーム52の先端に取り付けられたバケット53と、車体51を支持しながら回転して車体を走行させる4本のタイヤ54と、車体51の上部に搭載されたキャブ55と、を備えている。
【0033】
車体51は、エンジン1(図2参照)を収納するエンジンルームと、リフトアーム52およびバケット53を駆動するための制御バルブ、アクチュエータ(油圧シリンダ13,14、油圧モータ15)等を制御するコントローラ(制御部、変化率算出部)18(図2参照)と、を有している。また、車体51には、図2に示すように、上記エンジン1やコントローラ18等が搭載されている。なお、図2に示す制御ブロックの構成については、後段にて詳述する。
【0034】
リフトアーム52は、先端に取り付けられたバケット53を持ち上げるためのアーム部材であって、併設されたリフトシリンダによって駆動される。
バケット53は、リフトアーム52の先端に取り付けられており、バケットシリンダによってダンプおよびチルトされる。
【0035】
キャブ55は、転倒時運転者保護構造(ROPS構造)を有し、複数の鋼管と鋼板とを組み合わせて構成されるオペレータ用の運転室を形成している。そして、キャブ55は、車体51の中央部分よりもやや前方に配置されている。
【0036】
[ホイルローダ50の内部構成]
(主な構成)
ホイルローダ50は、図2に示すように、主に、エンジン1と、このエンジン1によって駆動される走行側の機構および作業機側の機構や、これらの機構を制御するためのコントローラ18等を含むエンジン負荷制御装置(作業車両のエンジン負荷制御装置)30を、内部に備えている。そして、エンジン1と各機構との間には、歯車および軸からなるPTO(パワー・テイク・オフ)機構6が設けられている。
【0037】
エンジン1はディーゼルエンジンであって、その出力の制御は、シリンダ内に噴射する燃料の量を調整することで行われる。このようなシリンダ内に噴射する燃料の量の調整は、エンジン1の燃料ポンプに付設されたガバナを制御することで行われる。本実施形態では、ガバナとして一般的なオールスピード制御方式のガバナが用いられる。すなわち、ガバナによって、アクセルペダル(回転数指示装置)17の踏み込み量に応じた目標回転数と実際のエンジン回転数との差がなくなるように、燃料噴射量が増減される。
【0038】
走行側機構は、エンジン1の出力が入力されるトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2に連結されたトランスミッション3と、トランスミッション3の出力軸に連結されたデファレンシャルギア4と、駆動輪5とを有している。トランスミッション3は、前進用油圧クラッチ、後進用油圧クラッチ、複数の変速用クラッチ等を備えており、各油圧クラッチをオン、オフ制御することにより、前後進の切り換えおよび変速が行われる。
【0039】
このホイルローダ50は、エンジン1によって駆動される機構として、走行系の機構以外に、主に、ステアリング機構、車体の前部に設けられたローダ(ともに図示せず)およびファン16を有している。
【0040】
これらの各機構を駆動するために、油圧ポンプ(可変容量型油圧ポンプ)7〜9およびアクチュエータ(油圧シリンダ13,14および油圧モータ15)が設けられている。すなわち、ステアリング機構を駆動するために、ステアリング用油圧ポンプ7、ステアリング用制御弁11およびステアリング機構に接続されたステアリング用油圧シリンダ13が設けられている。また、ローダを駆動するために、ローダ用油圧ポンプ8、ローダ用制御弁12およびローダに接続されたローダ用油圧シリンダ14が設けられている。さらに、ファン16を駆動するために、ファン用油圧ポンプ9およびファン用油圧モータ15が設けられている。そして、これらの各油圧ポンプ7,8,9は、PTO機構6を介してエンジン1に連結されている。また、トルクコンバータ2用として、トルコン潤滑用油圧ポンプ10も設けられている。この油圧ポンプ10は、PTO機構6を介してエンジン1に連結されている。
【0041】
なお、ステアリング用油圧ポンプ7、ローダ用油圧ポンプ8およびファン用油圧ポンプ9は、それぞれ斜板7a,8a,9aを有する可変容量型油圧ポンプであり、それぞれ斜板7a,8a,9aの傾転角を変更することにより、ポンプ容量q(cc/rev)を制御することが可能である。
【0042】
(エンジン負荷制御のための構成)
さらに、本実施形態のホイルローダ50では、エンジン1の負荷制御を行うために、図2に示すように、エンジン負荷制御装置30が、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ(実回転数検出部)1aと、アクセルペダル17の開度を検出するストロークセンサ(目標回転数検出部)17aと、ステアリング用油圧ポンプ7aの吐出圧を検出する吐出圧センサ7bと、コントローラ18と、を有している。
【0043】
コントローラ18は、CPU、RAM、ROM等からなるマイクロコンピュータであって、図2に示すように、エンジン回転数センサ1aのセンサ出力、アクセルペダル17のストロークセンサ17aのセンサ出力、ステアリング用油圧ポンプ7aの吐出圧センサ7bのセンサ出力がそれぞれ入力される。そして、コントローラ18は、エンジン1、各油圧ポンプ7,8,9に対して制御信号を出力する。
【0044】
例えば、ローダ側のローダ用油圧ポンプ8を制御するために、図3に示すような制御ブロックが形成されている。なお、図3では、ローダ用油圧ポンプ8を制御するための構成を示しているが、他の可変容量型油圧ポンプ7,9についても同様の制御ブロックが構成されているため、ここではその説明を省略する。
【0045】
本実施形態では、図3に示すように、油圧ポンプ8の斜板8aを制御するために、PC弁(馬力制御弁)19およびサーボ弁20が設けられている。PC弁19には、油圧ポンプ8の吐出圧Pp(kg/cm2)がパイロット圧として入力されるとともに、コントローラ18からの制御信号i1が入力される。サーボ弁20には、PC弁19からの圧油が供給されており、これにより油圧ポンプ8の容量qを制御している。より詳細には、PC弁19によって、油圧ポンプ8の吐出圧Ppと油圧ポンプ8の容量qの積が一定トルクを超えないように、油圧ポンプ8の斜板8aが制御される。したがって、エンジン1の回転数が一定であれば、油圧ポンプ8の吐出圧Ppと油圧ポンプ8の容量qの積が一定の馬力を超えないように、油圧ポンプ8の斜板8aが制御される。
【0046】
さらに、コントローラ18には、図4に示すように、アクセルペダル信号(アクセル開度)、エンジン回転数、変速段信号、FNR(前進、中立、後進)信号、ブームシリンダボトム圧、ローダ用油圧ポンプ吐出圧、ステアリング用油圧ポンプ吐出圧、およびトランスミッション(TM)スピードセンサ信号等が入力される。そして、コントローラ18からは、エンジンコントローラ21に対してスロットル変更信号を出力し、エンジンコントローラ21からは燃料噴射インジェクタ制御信号が出力される。また、コントローラ18は、入力されたアクセルペダル信号やエンジン回転数等に応じて、ローダ用油圧ポンプPC−EPC電流の最適値を算出し、それを油圧ポンプ8に対して出力する。なお、他の油圧ポンプ7,9に対しても同様に、ステアリング用油圧ポンプPC−EPC電流、ファン用油圧ポンプPC−EPC電流がそれぞれ出力される。
【0047】
具体的には、コントローラ18は、エンジン1の目標回転数と実回転数との偏差の大きさに応じて、エンジン1の吹き上がり性向上およびエンスト防止機能を実現するためのPC−EPC電流(mA)を決定する。なお、PC−EPC電流とは、図3に示すコントローラ18からPC弁19に出力される信号iに対応しており、電流値が大きいほど斜板8aの傾転角度が小さくなって油圧ポンプ吐出量が絞られ、油圧ポンプの吸収トルクが小さくなる(ポンプ容量が小さくなる)。よって、このPC−EPC電流を制御して、油圧ポンプ8における最大吸収トルクを低下させることで、結果としてエンジン1の負荷を低減することができる。なお、他の油圧ポンプ7,9についても同様である。
【0048】
<各機構の動作>
エンジン1の出力は、図2に示すように、トルクコンバータ2を介してトランスミッション3に入力され、このトランスミッション3において、前後進用油圧クラッチのオン、オフ制御によって前後進が切り換えられる。また、変速用油圧クラッチのオン、オフ制御によって、変速制御が行われる。そして、トランスミッション3の出力は、図2に示すように、デファレンシャルギア4を介して駆動輪5に伝達される。
【0049】
一方、エンジン1の出力は、図2に示すように、PTO機構6を介して各油圧ポンプ7,8,9,10に伝達され、各油圧ポンプが駆動される。
ステアリング用油圧ポンプ7が駆動されると、図2に示すように、その吐出圧油がステアリング用制御弁11を介してステアリング用油圧シリンダ13に供給される。このステアリング用油圧用シリンダ13に圧油が供給されると、ステアリング機構が作動して車体を所望の方向へ旋回させることができる。なお、ステアリング用制御弁11のスプールは、図示しないステアリングハンドルの操作に応じて移動する。このため、それに応じてステアリング用制御弁11の開口面積が変化し、ステアリング用油圧シリンダ13に供給される流量が変化する。
【0050】
また、ローダ用油圧シリンダ13が駆動されると、図2に示すように、その吐出圧油がローダ用制御弁12を介してローダ用油圧シリンダ14に供給される。ローダ用油圧シリンダ14に圧油が供給されると、ローダが作動する。すなわち、ローダを構成するブームを上昇あるいは下降させ、バケットをチルトさせることができる。なお、ローダ用制御弁12のスプールは、図示しないローダ用操作レバーの操作に応じて移動する。このため、それに応じて制御弁12の開口面積が変化し、ローダ用油圧シリンダ14に供給される流量が変化する。
【0051】
ファン用油圧ポンプ9が駆動されると、図2に示すように、その吐出圧油がファン用油圧モータ15に供給され、冷却用ファン16が作動する。
トルコン潤滑用油圧ポンプ10が駆動されると、吐出圧油がトルクコンバータ2に供給され、トルクコンバータ2が潤滑される。
【0052】
<エンジン1の制御>
次に、アクセルペダル17によるエンジン1の制御について説明する。図5はエンジン回転数N、エンジントルクTeおよび油圧負荷の関係を示したものである。図5において、最大トルク線で規定される領域が、エンジン1が出力し得る性能を示している。エンジン1は、ガバナによって、エンジントルクが最大トルク線を超えて排気煙限界とならないように、またエンジン回転数Nがハイアイドル回転数NHを超えて過回転とならないように制御される。
【0053】
例えば、アクセルペダル17が最大限に踏込まれると、コントローラ18によってアクセルペダル17の踏込み量に応じた最大目標回転数が設定され、ガバナによって、定格点とハイアイドル点NHとを結ぶ最高速レギュレーションラインFe上で調速が行われる。アクセルペダル17の踏込み量が小さくなり、目標回転数が小さくなるに伴って、レギュレーションラインFe-1,Fe-2,・・・Fe-n・・・FLが順次定められ、各レギュレーションライン上で調速が行われる。
【0054】
アクセルペダル17の踏み込み量が最小、つまり踏み込まれていないときは、目標回転数としてローアイドル回転数NLが設定され、ローアイドル点NLを結ぶレギュレーションラインFL上で調速が行われる。このとき、油圧負荷Tpが矢印Aに示すように変動すると、エンジン1の出力とポンプ吸収馬力とが釣り合うマッチング点Vは、その変動に従いレギュレーションライン上を移動する。
【0055】
ここで、エンジン1の特性上、レギュレーションライン上でマッチング点が低負荷から高負荷まで移動する時間は、高回転数域(ハイアイドル回転数NH)よりも低回転数域(ローアイドル回転数NL)の方が長くかかる。すなわち、高回転数域よりも低回転数域の方がエンジン1のレスポンスが悪くなってしまう。
【0056】
このため、従来の作業車両のエンジン負荷制御装置では、油圧負荷が低負荷であってマッチング点V0でマッチングしていた状態で、高油圧負荷Tp1が急激にかかったときに、エンジントルクをマッチング点V1(図6参照)まで上昇させる制御が間に合わず、図6のBで示すように、エンジンが停止してしまう場合があった。
【0057】
また、作業機用操作レバーやステアリング等を急操作した場合等、作業機等の油圧ポンプ7〜9側に高い油圧負荷がかかった状態でアクセルペダル17を踏込んだ場合にも、エンジン回転数がアクセルペダル17の踏込み量に応じた目標回転数に達する(吹き上がり)までに時間がかかってしまう等、アクセルペダル17を操作した際のレスポンスが悪くなり、オペレータにストレスを与えるおそれがある。この結果、オペレータはエンジン回転の吹き上がりを早めようとアクセルペダル17をさらに余分に踏み込んでしまうので、燃費を悪化させてしまう要因となってしまう。
【0058】
<エンジン負荷低減制御>
そこで本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、まず、エンジン1の目標回転数と実回転数との偏差の大きさに基づいて、ローダ用油圧ポンプ8の吸収トルクを低下させてエンジン1にかかる負荷を低減する制御を実行する。
【0059】
具体的には、例えば、ホイルローダ50において、ローアイドル状態から作業機用操作レバーとアクセルペダル17とをほぼ同時に急操作した場合には、コントローラ18が、以下のような制御を行う。
【0060】
すなわち、コントローラ18は、アクセルペダル17の踏込み量に対応するエンジン1の目標回転数と実際のエンジン1の回転数(実回転数)とを、ストロークセンサ17aおよびエンジン回転数センサ1aにおける出力として受信する。そして、コントローラ18は、その目標回転数と実回転数との偏差が所定値よりも大きいか否かを判定する。そして、この偏差が所定値以上である場合には、エンジン1に大きな負荷がかかっていると判断して、各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクを抑えるように、PC−EPC電流を適切な値に設定する制御を行う。
【0061】
これにより、作業機駆動用の油圧ポンプ8の斜板傾転角を変化させる当初速度を遅らせて油圧ポンプ7〜9における吐出量の増加を抑制することで、作業機側(ローダ側)等の油圧ポンプ7〜9へエンジン出力の大部分が使われてしまうことを防止して、エンジン回転数をスムーズに上昇させることができる。そして、エンジン回転数センサ1aにおいて検出されるエンジン1の実回転数が上昇するにつれて、各油圧ポンプ7〜9の吐出量を増加させるように制御を行うことで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、作業機等の操作速度も向上させることができる。
【0062】
この結果、オペレータは、自分の踏込み量と近いイメージでエンジン1が吹き上がることを感じることができるため、余計にアクセルペダル17を踏込んでしまうことはない。よって、作業機用操作レバーとアクセルペダル17とをほぼ同時に大きく操作した場合にエンジン1が吹き上がらないことに起因する燃費低下を回避することができる。
【0063】
なお、本実施形態のように、全ての油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを調整する場合には、全ての油圧ポンプ7〜9における吸収トルクの合計が所定値以下になるように制御を行えばよい。
【0064】
<最大吸収トルク制御の内容>
ここでは、上述した制御によって油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを低下させる制御について、ローダ用油圧ポンプ8を例に挙げて詳しく説明する。
【0065】
上述したように、PC弁19は、油圧ポンプ8の吐出圧Ppをパイロット圧として入力し、吐出圧Ppに応じた駆動圧油をサーボ弁20に供給することで、油圧ポンプ8の容量qを制御している。
【0066】
そして、ローダ用油圧ポンプ8では、油圧負荷、すなわち吸収トルクが最大吸収トルクを超えない範囲で、ポンプ吐出圧に応じてポンプ容量qが制御される。
ここで、PC弁19には、上述した制御によってコントローラ18から制御信号i1が入力されており、この制御信号i1に応じて最大吸収トルクが制御される。この制御信号i1によってPC弁19に与えられる電流値が高くなればなるほど、ポンプ容量の減少を開始するポンプ吐出圧の値が小さくなり、最大吸収トルク値が小さな値に設定される。
【0067】
したがって、上述した制御によって得られたPC−EPC電流値をPC弁19に与えることにより、エンジン1の目標回転数および実回転数を参照して、ローダ用油圧ポンプ8の吸収トルクを、最小の低下率で小さくすることができる。したがって、エンジン1のエンストを防止できるとともに、アクセルペダル17の踏み込みに対するレスポンスの悪化を抑えることができ、かつ作業機等を有効に動作させることができる。
【0068】
<目標回転数と実回転数との接近率に応じた最大吸収トルク調整制御の内容>
さらに、本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、上述した各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルク制御によって各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクを低下させてエンジン1にかかる負荷の大きさをコントロールするとともに、エンジン1の目標回転数に対する実回転数の接近率(変化率)の大きさに応じて、以下のような制御を行う。
【0069】
すなわち、エンジン負荷制御装置30では、コントローラ18が、エンジン1の目標回転数に対する実回転数の単位時間当たりの接近量である接近率α、すなわち目標回転数と実回転数との偏差の単位時間当たりの変化量(変化率)を、以下の関係式(1)によって算出する。そして、コントローラ18は、この接近率αの大きさに応じて、上述した吸収トルク制御によって設定された各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクの低下量をさらに適切に調整する。
α=[(Ne1−No1)−(Ne2−No2)]/(t2−t1) ・・・・・(1)
(ただし、時刻t1のときのエンジン1の目標回転数Ne1、実回転数No1とし、時刻t2のときのエンジン1の目標回転数Ne2,実回転数No2とする。)
【0070】
ここで、接近率αの値が小さい場合には、時刻t1における目標回転数と実回転数との偏差と時刻t2における目標回転数と実回転数との偏差とがほとんど変化しておらず、エンジン1に負荷がかかり続けていることを意味する。このため、接近率αの値が小さい場合には、油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクをさらに低下させるようにPC−EPC電流を制御してエンジン1にかかる負荷をより抑えてやることが望ましい。
【0071】
一方、接近率αの値が大きい場合には、時刻t1における目標回転数と実回転数との偏差に対して時刻t2における目標回転数と実回転数との偏差が順調に小さくなってきており、エンジン1に負荷が軽くなってきていることを意味する。このため、接近率αの値が大きい場合には、油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクの低下量が若干小さくなるようにPC−EPC電流を制御して、作業機等の油圧ポンプ7〜9側にエンジン1の出力を向けてやることが望ましい。
【0072】
これにより、例えば、エンジン1の目標回転数と実回転数との接近率αがα1、α2、α3(α1<α2<α3)である場合には、図7に示すように、時刻t2における目標回転数Neと実回転数Noとの偏差の大きさに応じて、上述した最大吸収トルク低減制御によって設定された各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクを低下させる量を、適切に調整することができる。そして、本実施形態では、このような接近率αの大きさに応じて最大吸収トルクの低下量を調整する制御を、図8(a)〜図10(b)に示すように、ステアリング用油圧ポンプ7、ローダ用油圧ポンプ8およびファン用油圧ポンプ9のそれぞれについて行う。
【0073】
なお、図8(a)〜図10(b)に示す例では、横軸を時刻t2における目標回転数Ne2と実回転数No2との偏差(Ne2−No2)、縦軸を油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルク(Maxを100%とする。)とし、接近率αは0〜1.5rpm/msの範囲内で変化するものとする。本実施形態の場合、ローアイドル750rpmからハイアイドル2245rpmまでの吹き上がり時間は1秒である。よって、接近率αの最大値(1.5rpm/ms)は、ハイ−ローアイドリングの回転数の偏差(1500rpm)とその吹き上がり時間(1秒)とに基づいて設定したものである。
【0074】
(ステアリング用油圧ポンプ7に対する制御)
ステアリング用油圧ポンプ7については、図8(a)に示すように、時刻t2における目標回転数Ne2と実回転数No2との偏差の大きさと、ステアリング用油圧ポンプ7の最大吸収トルクとの関係を示すグラフにおいて、接近率α=1.5の場合にはα=0の場合と比較して、回転数の偏差(Ne2−No2)が比較的大きい場合の油圧ポンプ7の最大吸収トルクの低下量を小さく(図8(a)中の点線参照)するように制御を行う。
【0075】
より詳細には、接近率α=0の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦600のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクは70%とする。そして、回転数の偏差が600<Ne2−No2<1500のときには、図8(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜70%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0076】
一方、接近率α=1.5の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦900のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクを80%まで絞る。そして、回転数の偏差が900<Ne2−No2<1500のときには、図8(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜80%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0077】
なお、このようなステアリング用油圧ポンプ7の最大吸収トルクの設定値の増減は、上述したPC−EPC電流を制御することで行われる(図8(b)参照)。具体的には、回転数の偏差Ne2−No2=1500の場合におけるPC−EPC電流値は、接近率α=0の場合には240mAであるのに対して、接近率α=1.5の場合には160mAとしている。このように、接近率αの値が大きい場合には、PC−EPC電流を小さくすることで、油圧ポンプ7における吐出量を増やして最大吸収トルクの低下量を減らし、油圧ポンプ7側へのエンジン1の出力を回すことで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、ステアリングの操作に対する応答性を向上させることができる。
【0078】
(ファン用油圧ポンプ9に対する制御)
ファン用油圧ポンプ9についても、図9(a)に示すように、時刻t2における目標回転数Ne2と実回転数No2との偏差の大きさと、ファン用油圧ポンプ9の最大吸収トルクとの関係を示すグラフにおいて、接近率α=1.5の場合にはα=0の場合と比較して、回転数の偏差(Ne2−No2)が比較的大きい場合の油圧ポンプ9の最大吸収トルクの低下量を小さく(図9(a)中の点線参照)するように制御を行う。
【0079】
より詳細には、接近率α=0の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦400のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクを15%まで絞る。そして、回転数の偏差が400<Ne2−No2<1500のときには、図9(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜15%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0080】
一方、接近率α=1.5の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦800のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクを50%まで絞る。そして、回転数の偏差が800<Ne2−No2<1500のときには、図9(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜50%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0081】
なお、このようなファン用油圧ポンプ9の最大吸収トルクの設定値の増減は、ステアリング用油圧ポンプ7と同様に、上述したPC−EPC電流を制御することで行われる(図9(b)参照)。具体的には、回転数の偏差Ne2−No2=1500の場合におけるPC−EPC電流値は、接近率α=0の場合には680mAであるのに対して、接近率α=1.5の場合には400mAとしている。このように、接近率αの値が大きい場合には、PC−EPC電流を小さくすることで、油圧ポンプ9における吐出量を増やして最大吸収トルクの低下量を減らし、油圧ポンプ9側へのエンジン1の出力を回すことで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、ファン回転数の切り換え操作に対する応答性を向上させることができる。
【0082】
(ローダ用油圧ポンプ8に対する制御)
ローダ用油圧ポンプ8についても、図10(a)に示すように、時刻t2における目標回転数Ne2と実回転数No2との偏差の大きさと、ローダ用油圧ポンプ8の最大吸収トルクとの関係を示すグラフにおいて、接近率α=1.5の場合にはα=0の場合と比較して、回転数の偏差(Ne2−No2)が比較的大きい場合の油圧ポンプ8の最大吸収トルクの低下量を小さく(図10(a)中の点線参照)するように制御を行う。
【0083】
より詳細には、接近率α=0の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦200のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクを15%まで絞る。そして、回転数の偏差が200<Ne2−No2<1500のときには、図10(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜15%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0084】
一方、接近率α=1.5の場合、回転数の偏差Ne2−No2≦500のときには最大吸収トルクは100%のままとする。また、回転数の偏差Ne2−No2=1500のときには最大吸収トルクを45%まで絞る。そして、回転数の偏差が500<Ne2−No2<1500のときには、図10(a)に示すように、最大吸収トルク100%〜45%間を線形補間することで、回転数の偏差Ne2−No2に対する最大吸収トルクを求めることができる。
【0085】
なお、このようなローダ用油圧ポンプ8の最大吸収トルクの設定値の増減は、ステアリング用油圧ポンプ7等と同様に、上述したPC−EPC電流を制御することで行われる(図10(b)参照)。具体的には、回転数の偏差Ne2−No2=1500の場合におけるPC−EPC電流値は、接近率α=0の場合には680mAであるのに対して、接近率α=1.5の場合には440mAとしている。このように、接近率αの値が大きい場合には、PC−EPC電流を小さくすることで、油圧ポンプ8における吐出量を増やして最大吸収トルクの低下量を減らし、油圧ポンプ8側へのエンジン1の出力を回すことで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、作業機用操作レバー等の操作に対する応答性を向上させることができる。
【0086】
本実施形態では、以上のように、エンジン1の目標回転数Neに対する実回転数Noの単位時間当たりの接近率αの大きさに応じて、上述したエンジン負荷低減制御によって設定された各油圧ポンプ7~9の最大吸収トルクの低減量を、より適切な値になるように調整する。
【0087】
これにより、目標回転数Neと実回転数Noとの偏差が同じ値であっても、その前後における上記偏差の変化を踏まえて最大吸収トルクの低減量を調整することで、エンジン1へかかる負荷の状態をより正確に把握して、エンジン1の吹き上がり性とともに、作業機等の操作時における応答性も向上させることができる。
【0088】
また、本実施形態では、図8(a)、図9(a)および図10(a)に示すように、ステアリング用油圧ポンプ7、ローダ用油圧ポンプ8およびファン用油圧ポンプ9のそれぞれについて、最大吸収トルクと回転数の偏差との関係を示すグラフを異なるグラフとしている。
【0089】
具体的には、ステアリング用油圧ポンプ7については、他の油圧ポンプ8,9よりも操作時における重要度が高いことを考慮して、図8(a)に示すように、他の油圧ポンプ8,9に対応する図10(a)および図9(a)に示すグラフよりも最大吸収トルクの低減量を小さくしている。
【0090】
これにより、例えば、ホイルローダ50のステアリングあるいは作業機用操作レバーをアクセルペダル17とほぼ同時に操作して、エンジン1の吹き上がり性が低下してしまう状況下においても、ローダ用油圧ポンプ8あるいはファン用油圧ポンプ9の最大吸収トルクをより大きく低減させるように制御を行うことで、ステアリング用油圧ポンプ7における吐出量を確保して、ステアリングの応答性が低下してしまうことを防止することができる。
【0091】
(0<α<1.5の場合の線形補間方法)
ここでは、上述した接近率αの値が、0<α<1.5の場合における回転数の偏差Ne2−No2と油圧ポンプ7~9の最大吸収トルクとの関係を示すグラフにおける線形補間の方法について、ローダ用油圧ポンプ8において接近率α=1の場合を例に挙げて図11を用いて説明すれば以下の通りである。
【0092】
すなわち、図11に示すように、まず、接近率α=1.0の場合に、最大吸収トルクがMax100%、回転数の偏差(Ne2−No2)が最大となるグラフ上の点Aを求める。ここでは、接近率α=0の場合と接近率α=1.5の場合とで最大吸収トルク100%時におけるそれぞれの回転数の偏差(Ne2−No2)の最大値の間の値を接近率αの値を用いて比例補間していく。このとき、求める点の横軸(Ne2−No2)の値は、以下の計算によって求められる。
[(500−200)/(1.5−0)]×1.0+200=400
よって、点Aの座標は、(400,100)として求められる。
【0093】
次に、接近率α=1.0の場合に、回転数の偏差(Ne2−No2)=1500rpmのときの最大吸収トルクを求める。このとき、図11に示すグラフ上の点Bとすると、点Bの座標の縦軸(最大吸収トルク)の値は以下のような計算式によって求められる。
[(50−15)/(1.5−0)]×1.0+15=38.3
よって、点Bの座標は、(1500,38.3)として求められる。
【0094】
この結果、点A,Bの座標間を線形補間した直線を、接近率α=1.0における回転数の偏差(Ne2−No2)に対する最大吸収トルク線とすることができる。
【0095】
なお、ステアリング用油圧ポンプ7およびファン用油圧ポンプ9についても、同様の線形補間方法によって、回転数偏差(Ne2−No2)に対する最大吸収トルク線を求めることができる。
【0096】
<エンジン1の負荷低減制御の流れ>
ここでは、上述したエンジン1の負荷低減制御の流れを、図12を用いて説明する。
すなわち、ステップS1において、例えば、作業機用操作レバーとアクセルペダル17とがほぼ同時に操作されると、ステップS2において、コントローラ18が、エンジン回転数センサ1aおよびアクセルペダル17のストロークセンサ17aにおける検出結果に基づいて、目標回転数Neと実回転数Noとの偏差を算出する。
【0097】
次に、ステップS3では、コントローラ18が、この偏差(Ne2−No2)>200であるか否かを判定する。ここで、回転数の偏差が上記条件を満たす場合には、そのままステップS4へ進み、上記条件を満たさない場合にはステップS1へと戻って、作業機用操作レバーとアクセルペダル17とがほぼ同時に操作されたことが検出されるまで待機する。なお、ここで偏差(Ne2−No2)>200を、油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを低減するエンジン負荷低減制御の開始条件としたのは、図8(a)〜図10(b)に示すグラフにおいて、最大吸収トルクを100%より低下させる制御が開始される回転数の偏差の最小値が、ローダ用油圧ポンプ8におけるNe−No>200であるためである。
【0098】
次に、ステップS4において、回転数の偏差(Ne−No)の大きさに応じて、油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを低減する際の低減量を設定する。
次に、ステップS5において、エンジン1の目標回転数Neと実回転数Noの単位時間当たりの接近率αを、上記関係式(1)に基づいて算出する。
【0099】
次に、ステップS6において、接近率αの値が、0<α<1.5の範囲内であるか否かを判定し、上記範囲内である場合にはそのままステップS7へと進み、上記範囲外である場合にはステップS7を経由せずにステップS8へと進む。
【0100】
ステップS7では、接近率αの大きさに応じて、油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクの低減量を調整した値に設定し直す。
ステップS8では、ステップS7において設定された調整後の低減量の設定値、あるいはステップS7を経由していない場合にはステップS4において設定された低減量の設定値に基づいて、油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクの低減制御、つまりエンジン負荷低減制御を実施する。
【0101】
[本エンジン負荷制御装置30の特徴]
(1)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30は、図2に示すように、エンジン1の出力を、ローダ用油圧ポンプ8のような可変容量型油圧ポンプを介してローダ用油圧シリンダ14等の油圧アクチュエータに伝達するホイルローダ50に搭載されている。そして、コントローラ18が、エンジン回転数センサ1aおよびストロークセンサ17aにおいて検出されたエンジン1の目標回転数Neと実回転数Noとに基づいて、これらの単位時間当たりの接近率αを算出し、図7等に示すように、接近率αの大きさに応じて各油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを調整する。
【0102】
ここで、接近率αは、値が大きい場合には、エンジン1の実回転数Noが急速に目標回転数Neに対して近づいていることを意味し、値が小さい場合には、エンジン1の実回転数Noがなかなか目標回転数Neに対して近づかないことを意味する。
【0103】
これにより、算出された接近率αの大きさを参照することで、エンジン1の目標回転数Neと実回転数Noとの偏差が同じ値であっても、その前後における偏差の変化の傾向まで認識することができる。よって、上記偏差の値に応じて設定された油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクの低減量を適切な値になるように調整して、エンジン1の出力をエンジン1側、作業機やステアリング等を駆動する側に適切に配分して、エンジン1の吹き上がり性および作業機等の操作時における応答性を向上させることができる。
【0104】
(2)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30は、図2に示すように、複数の油圧ポンプ7〜9を制御対象としており、図8(a)〜図10(b)に示すように、上記接近率αの大きさに応じて各油圧ポンプ7〜9ごとに異なる最大吸収トルク低減制御を行う。
【0105】
これにより、油圧ポンプ7〜9についての操作時の重要性を考慮して、各油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクの低減量を設定することで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、所望の油圧ポンプ7〜9の応答性を向上させてホイルローダ50による作業性を向上させることができる。
【0106】
(3)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、図3および図8(b)等に示すように、上記接近率αの大きさに応じて各油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを低減する制御を行う際には、各油圧ポンプ7〜9に接続されたPC弁19に対して付与されるPC−EPC電流を調整することで制御を行う。
【0107】
これにより、コントローラ18においてPC−EPC電流を制御することで、容易に各油圧ポンプ7〜9における吐出量を調整して、最大吸収トルクの低減量を調整することができる。
【0108】
(4)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、図12に示すように、作業機用操作レバーとアクセルペダル17とがほぼ同時に操作された場合に、上述した接近率αの大きさに応じて最大吸収トルクを調整してエンジン負荷低減制御を行う。
【0109】
これにより、作業機用操作レバーを操作したことでローダ用ポンプ8の吐出量を上げたいところ、エンジン1の吹き上がりを待ってエンジン1の実回転数が上昇してからローダ用ポンプ8の吐出量を上げるように制御することで、エンジン1の吹き上がり性を向上させつつ、ローダ用ポンプ8における操作の応答性も確保することができる。
【0110】
(5)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、図12に示すように、ステップS6において上記接近率αが所定値(α=1.5)以上である場合には、ステップS7における油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクの低減量の調整制御を行わずに、ステップS8において最大吸収トルクの低減制御を実施する。
【0111】
これにより、接近率αの値が所定値以上である場合には、最大吸収トルクの低減量を調整しなくてもすぐにエンジン1の実回転数が目標回転数に達することが想定されるため、調整制御を行うことなく、そのままの設定値で最大吸収トルクの低減制御を実施することができる。
【0112】
(6)
本実施形態のエンジン負荷制御装置30では、図2に示すように、上記接近率αを算出するために必要なエンジン1の目標回転数を検出する手段として、アクセルペダル17に取り付けられたストロークセンサ17aを用いている。
これにより、アクセルペダル17の踏込み量に応じて、適宜正確にエンジン1の目標回転数を検出することができるため、上記接近率αを正確に算出することができる。
【0113】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0114】
(A)
上記実施形態では、図12に示すように、エンジン1の目標回転数Neと実回転数Noとの偏差が所定値以上である場合であって、目標回転数Neと実回転数Noとの単位時間当たりの接近率αが所定の範囲内である場合には、接近率αの大きさに応じて最適な最大吸収トルクになるように制御を行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
例えば、図13に示すように、1回目の接近率αを算出してから制御実施(ステップS5〜S8)の後、ステップS9〜ステップS13の処理を追加してもよい。
すなわち、ステップS9において、所定時間経過すると、ステップS10において、再度接近率αを算出する。そして、ステップS11からステップS13では、ステップS6からステップS8と同様の制御を行って、再度最大吸収トルクの低減量を調整する。
【0116】
この場合には、例えば、制御が開始されてから作業機用操作レバーやステアリング等をより大きく操作した場合等に、エンジン1の吹き上がりに時間がかかっているときには、再度接近率αを算出し、このαの大きさに応じて最大吸収トルクの低減量を再度調整することができる。この結果、制御開始後におけるエンジン負荷の増大にも対応可能なエンジン負荷制御装置を提供できる。
【0117】
(B)
上記実施形態では、図12に示すように、エンジン1の目標回転数と実回転数との偏差が所定値(例えば、ローダ用油圧ポンプ8では200rpm)より大きい場合であって、偏差の単位時間当たりの変化率を示す接近率αが0<α<1.5の場合に、各油圧ポンプ7〜9において、α=0を基準とする低減量よりも最大吸収トルクの低減量を上昇させる(低減量を減らす)ように制御を行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0118】
例えば、接近率α=0.5を低減量の調整制御の基準とした場合には、接近率αが0<α<0.5の場合には、油圧ポンプの最大吸収トルクを基準となる低減量よりも下げるように制御を行ってもよい。つまり、基準となるグラフよりも下方にずらすように最大吸収トルクの低減量をさらに大きくしてもよい。この場合には、通常よりも目標回転数に対してエンジンの実回転数をより早く近づけることが可能になる。
【0119】
(C)
上記実施形態では、図8(a)〜図10(b)に示すように、最大吸収トルクを調整する制御対象となる油圧ポンプとして、3つの油圧ポンプ(ステアリング、ファン、ローダ)7〜9を搭載したホイルローダ50を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0120】
例えば、作業機用の油圧ポンプを1つだけ、あるいは4つ以上搭載したホイルローダ等の作業車両に対しても、本発明の適用は可能である。
なお、上記実施形態のように、複数の油圧ポンプを搭載した作業車両であっても、制御対象とする油圧ポンプを1つあるいは2つに限定して、最大吸収トルクを制御するようにしてもよい。
【0121】
(D)
上記実施形態では、図8(a)〜図10(b)に示すように、各油圧ポンプ7〜9における最大吸収トルクを調整する制御として、例えば、ステアリング用油圧ポンプ7では回転数の偏差が600rpm以上で制御を実施するのに対して、ファン用油圧ポンプ9では400rpm以上、ローダ用油圧ポンプ8では200rpm以上で制御実施するように、各油圧ポンプ7〜9ごとに回転数の偏差に異なる閾値を設定して最大吸収トルクを調整する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
例えば、各油圧ポンプにおける制御条件となる回転数の偏差の閾値として、同じ500rpm以上に設定してもよい。
ただし、各油圧ポンプごとの重要度を考慮して、例えば、ステアリング用油圧ポンプ7のように、操作上特に重要な油圧ポンプほど最大吸収トルクを抑える制御を後回しにすることで、作業車両の操作性を確保しつつエンジンの吹き上がりを向上させるという点では、上記実施形態のように、各油圧ポンプごとに異なる閾値を設定して制御を行うことがより好ましい。
【0123】
(E)
上記実施形態では、図12に示すように、アクセルペダル17の操作と作業機用操作レバーの操作とを、ほぼ同時に行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0124】
例えば、作業機用操作レバーを急操作している際に、遅れてアクセルペダルを踏込んだ場合等においても、エンジンの出力を油圧ポンプ側からエンジン回転を上昇させる側へと転換することで、踏込み当初のエンジンの吹き上がりを向上させるという、上記と同様の効果を得ることができる。
【0125】
さらに、アクセルペダルの踏込みとほぼ同時に操作される対象としては、作業機用操作レバーに限定されるものではなく、例えば、ステアリングを操作した場合や、ステアリングと作業機用操作レバーとの双方を操作した場合についても、同様に本発明を適用することができる。
【0126】
(F)
上記実施形態では、図2に示すように、ストロークセンサ17aにおいて検出されるアクセルペダル17の踏込み量に応じて、エンジン1の目標回転数を検出する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、オペレータの意思としてのアクセル操作レバー等、回転数をオペレータが指示するものであれば、本発明の適用は同様に可能である。
【0127】
(G)
上記実施形態では、図3および図8(b)等に示すように、各油圧ポンプ7〜9の最大吸収トルクを制御する手段として、各油圧ポンプ7〜9における吐出量を調整するためのPC−EPC電流を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0128】
例えば、各油圧ポンプの最大吸収トルクを調整する手段としては、PC−EPC電流の調整以外の方法を用いてもよい。
【0129】
(H)
上記実施形態では、本発明に係るエンジン負荷制御装置としてのコントローラ18を、図1に示すように、ホイルローダ50に搭載した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、油圧ショベルや油圧クレーン等の他の建設機械に対しても、本発明を適用することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の作業車両のエンジン負荷制御装置は、エンジンの目標回転数と実回転数との偏差の変化の傾向に応じて、エンジンの負荷(ポンプの吸収トルク)の調整を効果的に実施することができるという効果を奏することから、エンジンの出力によって油圧ポンプを駆動する各種作業車両に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 エンジン
1a エンジン回転数センサ(実回転数検出部)
2 トルクコンバータ
3 トランスミッション
4 デファレンシャルギア
5 駆動輪
6 PTO(パワーテイクオフ)機構
7 ステアリング用油圧ポンプ(可変容量型油圧ポンプ)
7a 斜板
7b 吐出圧センサ
8 ローダ用油圧ポンプ(可変容量型油圧ポンプ)
8a 斜板
9 ファン用油圧ポンプ(可変容量型油圧ポンプ)
9a 斜板
10 トルコン潤滑用油圧ポンプ
11 ステアリング用制御弁
12 ローダ用制御弁
13 ステアリング用油圧シリンダ(アクチュエータ)
14 ローダ用油圧シリンダ(アクチュエータ)
15 ファン用油圧モータ(アクチュエータ)
16 ファン
17 アクセルペダル(回転数指示装置)
17a ストロークセンサ(目標回転数検出部)
18 コントローラ(制御部、変化率算出部)
19 PC弁
20 サーボ弁
21 エンジンコントローラ
30 エンジン負荷制御装置(作業車両のエンジン負荷制御装置)
50 ホイルローダ(作業車両)
51 車体
52 リフトアーム
53 バケット
54 タイヤ
55 キャブ
Ne 目標回転数
No 実回転数
S ステップ
α 接近率(変化率)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数指示装置によって回転数が制御されるエンジンの出力が、駆動輪に伝達されるとともに可変容量型油圧ポンプを介して油圧アクチュエータに伝達される作業車両のエンジン負荷制御装置であって、
前記回転数指示装置からの指示内容を受けて前記エンジンの目標回転数を検出する目標回転数検出部と、
前記エンジンの実際の回転数を検出する実回転数検出部と、
前記目標回転数検出部における検出結果と前記実回転数検出部における検出結果との差の単位時間当たりの変化量を算出する変化率算出部と、
前記実回転数と前記目標回転数との偏差に対する前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの関係を予め設定するとともに、前記変化率算出部において算出された前記変化率の大きさに応じて、前記実回転数と前記目標回転数との偏差に対する前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの関係を複数設定するように制御を行う制御部と、
を備えている作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項2】
前記可変容量型油圧ポンプおよび前記油圧アクチュエータは、それぞれ対応するように複数設けられており、
前記制御部は、複数の前記可変容量型油圧ポンプごとに、前記変化率に応じて前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクを変更する制御を行う、
請求項1に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記可変容量型油圧ポンプにおける吐出量を制御するEPC電流を制御して、前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する制御を行う、
請求項1または2に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記回転数指示装置への入力と前記油圧アクチュエータへの動作指令とが、ほぼ同時に行われたことを検出して、前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクの下げ幅を調整する制御を行う、
請求項1から3のいずれか1項に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記変化率を、所定時間経過毎に算出する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記変化率が所定の閾値以上である場合には、前記可変容量型油圧ポンプの最大吸収トルクを調整する制御を実施しない、
請求項1から5のいずれか1項に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。
【請求項7】
前記回転数指示装置は、前記エンジンの回転数を調整するアクセルペダルである、
請求項1から6のいずれか1項に記載の作業車両のエンジン負荷制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−197790(P2012−197790A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115645(P2012−115645)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2006−338741(P2006−338741)の分割
【原出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】