説明

作業車両の動力伝達構造

【課題】部品点数を削減することができる作業車両の動力伝達構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ミッションケース8の後部にPTO伝動部8Bを形成し、該PTO伝動部8BにリヤPTO軸230及びミッドPTO軸240を支持する作業車両となるトラクタ1の動力伝達構造であって、PTO入力軸220から減速機構270を介して、前記リヤPTO軸230に動力を伝達するとともに、前記リヤPTO軸230からミッドPTOクラッチ290を介して前記ミッドPTO軸240に動力を伝達可能に構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の動力伝達構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リヤPTO軸とミッドPTO軸を備えた作業車両の動力伝達構造は公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に示す作業車両の動力伝達構造においては、エンジンの動力が、PTO系伝動軸(PTO入力軸)から、ミッドPTO伝動ギヤ列を介して、ミッドPTO軸に伝達されるように構成されるとともに、前記PTO系伝動軸(PTO入力軸)から、リヤPTO伝動ギヤ列を介して、リヤPTO軸に伝達されるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す作業車両の動力伝達構造においては、ミッドPTO軸及びリヤPTO軸のそれぞれに、減速機構(ミッドPTO伝動ギヤ列及びリヤPTO伝動ギヤ列)が設けられるので、部品点数が増加するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、部品点数を削減することができる作業車両の動力伝達構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、ミッションケースの後部にPTO伝動部を形成し、該PTO伝動部にリヤPTO軸及びミッドPTO軸を支持する作業車両の動力伝達構造であって、PTO入力軸から減速機構を介して、前記リヤPTO軸に動力を伝達するとともに、前記リヤPTO軸からミッドPTOクラッチを介して前記ミッドPTOに動力を伝達可能に構成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
請求項1においては、リヤPTO軸の動力を減速させる減速機構を、ミッドの動力を減速させる減速機構に兼用して、部品点数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業車両の全体側面図。
【図2】トランスミッションの全体構成を示す図。
【図3】クラッチ機構及びPTOブレーキの全体構成を示す図。(a)走行クラッチが「切」、PTOクラッチが「切」、PTOブレーキが「入」。(b)走行クラッチが「入」、PTOクラッチが「入」、PTOブレーキが「切」。
【図4】PTO伝動部の動力伝達構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明に係る作業車両の一実施例をトラクタ1とし、トラクタ1の全体構成について、図1を用いて説明する。なお、図1に記載する矢印Fの向きを前方向として、前後左右方向を規定する。
【0012】
トラクタ1においては、機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置され、その前部でフロントアクスルを介して左右一対の前輪3・3に支持されるとともに、その後部でリアアクスルを介して左右一対の後輪4・4に支持される。機体フレーム2の前部にはボンネット5で覆われたエンジン6が設けられ、前記ボンネット5の後方には運転操作部9が設けられ、機体フレーム2の後部には後述するトランスミッション7(図2参照)を収納するミッションケース8が設けられる。
【0013】
以下では、図2を用いて、作業車両の変速装置であるトランスミッション7について説明する。
【0014】
トランスミッション7は、駆動源となるエンジン6(図1参照)からの動力を変速した後に出力するものである。トランスミッション7は、ミッション入力軸20、クラッチ機構200、走行変速装置となるベルト式無段変速機40、出力軸170、前輪駆動伝達軸180、PTOブレーキ210、PTO入力軸220、リヤPTO軸230、およびミッドPTO軸240等を具備し、ミッションケース8に収納される。
【0015】
前記エンジン6からの動力はミッション入力軸20に伝達された後、クラッチ機構200を介してベルト式無段変速機40およびPTO入力軸220に伝達される。
ベルト式無段変速機40に伝達された動力は、当該ベルト式無段変速機40において無段階に変速された後、出力軸170および前輪駆動伝達軸180に伝達される。
出力軸170に伝達された動力は、最終減速機構(不図示)等を介して前記トラクタ1の後輪4・4へと伝達される。
前輪駆動伝達軸180に伝達された動力は、前車軸(不図示)等を介して前記トラクタ1の前輪3・3へと伝達される。
また、PTO入力軸220に伝達された動力は、ギヤ等を介してリヤPTO軸230およびミッドPTO軸240へと伝達される。
【0016】
このように構成されたトランスミッション7において、ベルト式無段変速機40における変速比を変更することにより、前記トラクタ1の車速を任意に調節することができる。
また、リヤPTO軸230およびミッドPTO軸240へと伝達された動力により、リヤPTO軸230に連結された作業機(例えば、ロータリ耕耘装置等)、およびミッドPTO軸240に連結された作業機、本実施形態においては、ミッドモア10(図1参照)を駆動させることができる。
さらに、クラッチ機構200により前記エンジン6からPTO入力軸220への動力の伝達が遮断された場合、PTOブレーキ210によってPTO入力軸220の回動が制動される。
【0017】
以下では、ベルト式無段変速機40の各部について説明する。ベルト式無段変速機40は、変速入力軸50、入力プーリ60、油圧シリンダ70、油圧サーボ機構80、伝達軸90、出力プーリ100、出力部材110、カム機構120、付勢部材130、ベルト140、および遊星歯車機構150等を具備する。
【0018】
図2に示す変速入力軸50は、ミッション入力軸20に連結され、当該ミッション入力軸20からの動力を伝達するものである。変速入力軸50は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
変速入力軸50の前後中途部には、他の部分と比べて直径が大きい拡径部50aが形成される。
変速入力軸50の後端部近傍には、スプライン嵌合によって変速入力ギヤ51が当該変速入力軸50と相対回転不能に連結される。変速入力ギヤ51は、クラッチ機構200のギヤに歯合され、当該クラッチ機構200を介してミッション入力軸20の動力が伝達可能とされる。なお、変速入力ギヤ51の変速入力軸50への連結方法は上記スプライン嵌合に限定するものではなく、変速入力ギヤ51を変速入力軸50と一体的に形成すること等が可能である。
変速入力ギヤ51のすぐ後ろでは、軸受52が変速入力軸50に嵌合される。また、拡径部50aの前方では、軸受53が変速入力軸50に嵌合される。軸受52はトランスミッション7を収容するミッションケース8に、軸受53はフロントケース81に、それぞれ支持されることによって、変速入力軸50がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0019】
入力プーリ60は、変速入力軸50上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。入力プーリ60は、入力側固定シーブ61、および入力側可動シーブ63等を具備する。
【0020】
油圧シリンダ70は、入力側可動シーブ63を変速入力軸50上でその軸線方向に摺動させるためのものである。油圧シリンダ70は、可動側シリンダケース71、および固定側シリンダケース73等を具備する。
【0021】
油圧サーボ機構80は、油圧シリンダ70を介して入力側可動シーブ63の動作を制御するためのものである。油圧サーボ機構80は、フロントケース81、サーボスプール83、フィードバックスプール、およびスプールスプリング等を具備する。
【0022】
伝達軸90は、変速入力軸50からの動力を伝達するものである。伝達軸90は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
伝達軸90の前端部近傍には、他の部分と比べて直径が大きい拡径部90aが形成される。
拡径部90aの前方では、軸受91が伝達軸90に嵌合される。軸受91がミッションケース8に支持されることによって、伝達軸90がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0023】
出力プーリ100は、伝達軸90上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。出力プーリ100は、出力側固定シーブ101、および出力側可動シーブ103等を具備する。
【0024】
出力部材110は、カム機構120からの動力を遊星歯車機構150へと伝達するためのものである。
【0025】
カム機構120は、出力プーリ100および出力部材110間のトルクの伝達を可能とするものである。カム機構120は、第一カム121、および第二カム122等を具備する。
【0026】
付勢部材130は、出力側可動シーブ103を前方へと付勢するものである。付勢部材130の付勢力によって、出力側可動シーブ103は前方、すなわち出力側固定シーブ101と近接する方向へと付勢される。
【0027】
ベルト140は、入力プーリ60の溝および出力プーリ100の溝に巻回され、入力プーリ60の動力を出力プーリ100へと伝達するものである。ベルト140は、金属製の薄板が重ねられたバンドと、金属製のエレメントからなる金属ベルトである。なお、本発明はこれに限るものではなく、ベルト140としてゴム製、チェーン製、または樹脂製のベルトを用いてもよい。
【0028】
入力プーリ60の溝に巻回されたベルト140は、油圧シリンダ70により所定の力で入力側可動シーブ63が入力側固定シーブ61側へと押されることで、入力プーリ60に挟持される。出力プーリ100の溝に巻回されたベルト140は、付勢部材130の付勢力等により所定の力で出力側可動シーブ103が出力側固定シーブ101側へと押されることで、出力プーリ100に挟持される。
【0029】
遊星歯車機構150は、2つの動力を合成して出力するためのものである。遊星歯車機構は、サンギヤ151、リングギヤ152、キャリヤギヤ153、プラネタリ軸155・155・・・、プラネタリギヤ157・157・・・、および遊星出力部材163等を具備する。
【0030】
以下では、上述の如く構成されたベルト式無段変速機40における動力伝達、および変速の概要について説明する。
【0031】
前記エンジンからの動力がミッション入力軸20およびクラッチ機構200を介して変速入力軸50に伝達されると、当該変速入力軸50とともに入力プーリ60も回動される。入力プーリ60が回動されると、ベルト140を介して出力プーリ100が回動される。出力プーリ100が回動されると、当該出力プーリ100に固設された第一カム121が回動される。第一カム121が回動すると、第一カム121の後面(傾斜面)と第二カム122の前面(傾斜面)とが当接し、第一カム121の回動に伴って第二カム122が回動される。第二カム122が回動されると、出力部材110を介して遊星歯車機構150のサンギヤ151が回動される。サンギヤ151が回動されると、当該サンギヤ151と歯合しているプラネタリギヤ157・157・・・がプラネタリ軸155・155・・・の周りを回動(自転)する。
【0032】
一方、前記エンジンからの動力がミッション入力軸20およびクラッチ機構200を介して(すなわち、入力プーリ60、出力プーリ100、およびベルト140によって変速されることなく)遊星歯車機構150のキャリヤギヤ153に伝達されると、キャリヤギヤ153とともに、当該キャリヤギヤ153に支持されたプラネタリギヤ157・157・・・が伝達軸90の周りを回動(公転)する。
【0033】
このように、ミッション入力軸20からベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力、およびミッション入力軸20からベルト140を介さずに直接遊星歯車機構150に伝達される動力が、当該遊星歯車機構150のプラネタリギヤ157・157・・・によって合成される。当該合成された動力は、プラネタリギヤ157・157・・・と歯合しているリングギヤ152、および遊星出力部材163を介して出力軸170へと伝達される。
【0034】
以下では、図2及び図3を用いて、クラッチ機構200及びPTOブレーキ210の構成について詳細に説明する。
【0035】
クラッチ機構200は、ミッション入力軸20に伝達されたエンジン6の動力を、走行系動力伝達構造及びPTO系動力伝達構造のそれぞれに伝達または遮断するものである。
【0036】
図2に示すように、ミッション入力軸20は、軸心方向を前後方向として配置され、その前部及び後部が軸受21・22を介してミッションケース8に支持される。ミッション入力軸20の一端20a(前側)は、ミッションケース8より前方に突出してエンジン6からの動力が伝達される。ミッション入力軸20の他端20b(後側)は、ミッションケース8の前後方向略中央に配置されて、該他端20b側に、クラッチ機構200及びPTOブレーキ210が一体的に配置される。
【0037】
なお、ミッションケース8は、前部ケース8a、中ケース8b、後部ケース8cよりなり、前後に三分割可能に構成される。中ケース8bの前上部にクラッチ機構200及びPTOブレーキ210が収納され、前部ケース8aの上下中央部から下部にベルト式無段変速機40が収納され、中ケース8bの後部と後部ケース8cの間にPTO伝動部8Bが配置される。ミッションケース8を、前記前部ケース8aと中ケース8bと後部ケース8cとに分割可能に構成することで、組立やメンテナンスが容易に行えるようにしている。
【0038】
図3(a)及び(b)に示すように、前記ミッション入力軸20には、第一作動油路20cと、第二作動油路20dと、が軸心と平行に形成される。第一作動油路20cと第二作動油路20dの一端(前端)は、ミッション入力軸20の前部から油圧バルブと接続され、第一作動油路20cの他端(後端)は、走行クラッチ250を作動させるための後述する第一油室200aと連通され、第二作動油路20dの他端(後端)は、PTOクラッチ260を作動させるための後述する第二油室200b及びPTOブレーキ210を作動させるための後述する第三油室210aと連通される。
【0039】
クラッチ機構200は、クラッチケース201と、出力ギヤ202と、伝動軸となる筒軸203と、第一多板群204と、第二多板群205と、第一ピストン206と、第二ピストン207と、を備える。クラッチ機構200は、前側を、クラッチケース201、出力ギヤ202、第一多板群204及び第一ピストン206で構成される多板式の走行クラッチ250として、後側を、クラッチケース201、筒軸203、第二多板群205及び第二ピストン207で構成される多板式のPTOクラッチ260として、走行クラッチ250とPTOクラッチ260とが一体的に構成される。ここで、走行クラッチ250は、ミッション入力軸20に伝達されたエンジン6の動力を、走行変速装置となるベルト式無段変速機40を含む走行系動力伝達構造に伝達または遮断させるものであり、クラッチ250は、ミッション入力軸20に伝達されたエンジン6の動力を、後述するPTO入力軸220を含むPTO系動力伝達構造に伝達または遮断させるものである。
【0040】
クラッチケース201は、二重筒状であり、内筒部201aと、外筒部201bと、これら内筒部201a及び外筒部201bにおける軸心方向の中途部同士を連結する連結部201cと、で構成され、前方を開放した前側の空間と、後方を開放した後側の空間と、を形成している。内筒部201aは、前記ミッション入力軸20の後部に相対回転不能に外嵌される。外筒部201bには、後述する摩擦板204A・204A・・・と摩擦板205A・205A・・・を係合するためのスプラインが形成されている。
【0041】
出力ギヤ202は、前記クラッチケース201の前方に配置され、軸受23・24を介して、前記ミッション入力軸20に回転自在に支持される。出力ギヤ202の後面には、前記内筒部201aよりも大きく外筒部201bよりも小さい径で後方に突出する円筒形状の突出部202aが形成され、該突出部202aが、前記クラッチケース201の内筒部201a、外筒部201b、及び連結部201cで囲まれた前側の空間に挿入される。突出部202aの外周には後述する摩擦板204B・204B・・・を係合するためのスプラインが形成されている。また、出力ギヤ202は、変速入力ギヤ51と噛合されて、ベルト式無段変速機40を含む走行系動力伝達構造に動力が伝達される構成とされる。
【0042】
筒軸203は、軸心方向を前後方向として前記クラッチケース201の後方に配置される。筒軸203の前部には、前記内筒部201aよりも大きく外筒部201bよりも小さい径で前方に突出する円筒形状の突出部203aが形成され、該突出部203aが、前記クラッチケース201の内筒部201a、外筒部201b、及び連結部201cで囲まれた後側の空間に挿入される。該突出部203aの外周には後述する摩擦板205B・205B・・・を係合するためのスプラインが形成される。
【0043】
前記筒軸203の前部内周は、ニードル軸受25を介してミッション入力軸20に軸支されるとともに、前記筒軸203の前部外周は、前記軸受22を介してミッションケース8に支持される。また、前記軸受22を支持する支持部の後部外周にスプラインが形成され、後述する摩擦板212A・212A・・・が係合される。筒軸203の後端部は、ミッション入力軸20の延長上に設けられたPTO入力軸220の一端220a(前端)に相対回転不能に嵌入される。
【0044】
第一多板群204は、駆動側となる複数の摩擦板204A・204A・・・と、従動側となる複数の摩擦板204B・204B・・・と、で構成され、共通のクラッチケース201に収納される。複数の摩擦板204A・204A・・・は、前記クラッチケース201の外筒部201bにおける前側の内周面に、前後方向に摺動自在に並設され、複数の摩擦板204B・204B・・・は、前記出力ギヤ202の突出部202aにおける外周面に、前後方向に摺動自在に並設され、各摩擦板204Aと各摩擦板204Bとが、交互に配設される。
【0045】
第二多板群205は、駆動側となる複数の摩擦板205A・205A・・・と、従動側となる複数の摩擦板205B・205B・・・と、で構成され、共通のクラッチケース201に収納される。複数の摩擦板205A・205A・・・は、前記クラッチケース201の外筒部201bにおける後側の内周面に、前後方向に摺動自在に並設され、複数の摩擦板205B・205B・・・は、前記筒軸203に設けられ、詳細には、前記筒軸203の突出部203aにおける外周面に、前後方向に摺動自在に並設され、各摩擦板205Aと各摩擦板205Bとが、交互に配設される。
【0046】
第一ピストン206は、略円盤形状であり、前記クラッチケース201における前側の内筒部201a、外筒部201b、及び連結部201cで囲まれた空間に、前後方向に摺動自在に嵌入される。第一ピストン206とクラッチケース201との間には、第一油室200aが形成され、該第一油室200aは、前記第一作動油路20cと連通される。第一ピストン206の外周側端部には、前方に突出する押圧部206aが形成される。第一ピストン206の内周側と前記内筒部201aの端部に設けた係止リング252との間には、バネ等の第一付勢部材251が介装されて、第一ピストン206は後方(走行クラッチ250非作動側)に付勢される。
【0047】
第二ピストン207は、略円盤形状であり、前記クラッチケース201における後側の内筒部201a、外筒部201b、及び連結部201cで囲まれた空間に、前後方向に摺動自在に嵌入される。第二ピストン207とクラッチケース201との間には、第二油室200bが形成され、該第二油室200bは、前記第二作動油路20dと連通される。第二ピストン207の外周端には、後方に突出する押圧部207aが形成される。第二ピストン207の内周側と前記内筒部201aの端部に設けた係止リング262との間には、バネ等の第二付勢部材261が介装されて、第二ピストン207は前方(PTOクラッチ260非作動側)に付勢される。
【0048】
中ケース8bの前上部にブレーキホルダ部8Aが形成され、該ブレーキホルダ部8AにPTOブレーキ210が収納されている。PTOブレーキ210は、PTO入力軸220へ動力を伝達しない時、つまり、PTOクラッチ260を「切」とした時にPTO入力軸220を制動するものである。PTOブレーキ210は、クラッチ機構200の後部に配置される。PTOブレーキ210は、多板式のブレーキであり、ブレーキホルダ部8A内面に形成される係合部211と、前記筒軸203と、第三多板群212と、第三ピストン213と、を備える。このように、共通の伝動軸となる筒軸203でPTOクラッチ260及びPTOブレーキ210を構成して、部品点数を削減するとともに、コンパクトに構成しているのである。
【0049】
係合部211は、後述する摩擦板212B・212B・・・を係合可能に構成している。
【0050】
第三多板群212は、回動側となる複数の摩擦板212A・212A・・・と、固定側となる複数の摩擦板212B・212B・・・と、で構成される。複数の摩擦板212A・212A・・・は、前記筒軸203に設けられ、詳細には、前記筒軸203の軸心方向中途部における外周面に前後方向に摺動自在に並設され、複数の摩擦板212B・212B・・・は、前記係合部211の内周面に、前後方向に摺動自在に並設され、各摩擦板212Aと各摩擦板212Bとが、交互となるように配設される。
【0051】
第三ピストン213は、略円盤形状であり、前記筒軸203の後部に、前後方向に摺動自在に外嵌される。第三ピストン213と筒軸203との間には、第三油室210aが形成され、該第三油室210aは、前記第二作動油路20dと連通される。第三ピストン213の前面には、押圧部213aが形成される。また、第三ピストン213の外周には、段部213bが形成され、該段部213bと前記ブレーキホルダ部8Aに設けた係止リング215との間にはバネ等の第三付勢部材214が介装され、第三ピストン213は、第三付勢部材214によりブレーキホルダ部8Aに対して前方(制動側)に付勢される。
【0052】
また、前記ミッション入力軸20には、不図示の潤滑油路が前記第一作動油路20c及び前記第二作動油路20dと平行に形成され、第一多板群204、第二多板群205、第三多板群212及びニードル軸受25に送油される構成とされる。
【0053】
そして、図3(a)に示すように、クラッチ機構200及びPTOブレーキ210においては、走行クラッチ250が「切」となるように操作具が操作された状態では、第一付勢部材251の付勢力により第一ピストン206の押圧部206aが第一多板群204から離間して、該第一多板群204における隣接する摩擦板204A・204B同士が圧接されず、クラッチケース201と出力ギヤ202とが一体的に回転しない。すなわち、クラッチケース201から出力ギヤ202に動力が伝達されず遮断される。
【0054】
また、PTOクラッチ260が「切」となるように操作具が操作された状態では、第二付勢部材261の付勢力により、第二ピストン207の押圧部207aが第二多板群205から離間して、該第二多板群205における隣接する摩擦板205A・205B同士が圧接されず、クラッチケース201と筒軸203とが一体的に回転しない。すなわち、クラッチケース201から筒軸203に動力が伝達されず遮断される。
【0055】
同時に、第三付勢部材214の付勢力により第三ピストン213の押圧部213aが第三多板群212を押圧して、該第三多板群212における隣接する摩擦板212A・212B同士が圧接されて、筒軸203が制動された状態となる。
【0056】
そして、図3(b)に示すように、クラッチ機構200及びPTOブレーキ210において、走行クラッチ250が「入」となるように操作具が操作されると、油圧バルブが切り換えられて不図示の油圧ポンプから作動油αが、第一作動油路20cを介して、第一油室200aに送油され、該作動油αにより第一ピストン206が第一付勢部材251の付勢力に抗して前方に移動する。これにより、第一ピストン206の押圧部206aが、第一多板群204を押圧して、該第一多板群204における隣接する摩擦板204A・204B同士が圧接されて、クラッチケース201と出力ギヤ202とが一体的に回転する。すなわち、クラッチケース201から出力ギヤ202に動力が伝達される。
【0057】
また、PTOクラッチ260が「入」となるように操作具が操作されると、油圧バルブが切り換えられて不図示の油圧ポンプから作動油βが、第二作動油路20dを介して、第二油室200bに送油され、該作動油βにより第二ピストン207が第二付勢部材261の付勢力に抗して後方に移動する。これにより、第二ピストン207の押圧部207aが、第二多板群205を押圧して、該走行クラッチ250における隣接する摩擦板205A・205B同士が圧接されて、クラッチケース201と筒軸203とが一体的に回転する。すなわち、クラッチケース201から筒軸203に動力が伝達される。
【0058】
同時に、油圧バルブが切り換えられて不図示の油圧ポンプから作動油βが、第二作動油路20dを介して、第三油室210aに送油され、該作動油βにより第三ピストン213が第三付勢部材214の付勢力に抗して後方に移動する。これにより、第三ピストン213の押圧部213aが第三多板群212から離間して、該第三多板群212における隣接する摩擦板212A・212B同士が圧接されず、筒軸203がミッションケース8に対して相対回転可能となる。すなわち、筒軸203が回転可能となる。
【0059】
以上のように、本発明の一実施形態に係るトラクタ1においては、ミッション入力軸20の延長上にPTO入力軸220が配置されて、駆動源となるエンジン6からの動力が前記ミッション入力軸20の一端20aに伝達されて、該ミッション入力軸20から走行変速装置となるベルト式無段変速機40及び前記PTO入力軸220に伝達可能に構成される作業車両となるトラクタ1の動力伝達構造において、前記ミッション入力軸20の他端20b側に、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210を一体的に配置したものである。
【0060】
これにより、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210を一体的に配置するので、ミッションケース8の前部ケース8aと中ケース8bとを分離するだけで、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210が現出してこれらを同時にメンテナンスすることができ、メンテナンス性を向上させることができる。また、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210が油圧作動式である場合は、作動油路を集中して配置することができ、同様にメンテナンス性を向上させることができる。また、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210をトランスミッション7の略中央に配置することができ、重量バランスが良好となる。
【0061】
また、前記走行クラッチ250、前記PTOクラッチ260及び前記PTOブレーキ210は多板式に構成され、前記走行クラッチ250の摩擦板204A・204Bと、前記PTOクラッチ260の摩擦板205A・205Bと、を共通のクラッチケース201に収納し、前記PTOクラッチ260の摩擦板205Bと、前記PTOブレーキ210の摩擦板212Aと、を共通の伝動軸となる筒軸203に設けたものである。
【0062】
これにより、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210の部品点数を削減することができる。また、走行クラッチ250、PTOクラッチ260及びPTOブレーキ210をコンパクトに構成することができる。
【0063】
以下では、図4を用いて、PTO入力軸220からリヤPTO軸230及びミッドPTO軸240までの動力伝達構造について詳細に説明する。
【0064】
ミッションケース8の後部、詳細には、ミッションケース8の中ケース8bと後部ケース8cの間の空間内にPTO伝動部8Bが形成される。PTO伝動部8Bは、PTO入力軸220、リヤPTO軸230、減速機構270、アイドルギヤ235、ミッドPTO軸240、ミッドPTOクラッチ290等を備える。
【0065】
PTO入力軸220は、軸心方向を前後方向として配置され、その後部が軸受221・222を介して中ケース8b及び後部ケース8cに支持される。PTO入力軸220の他端220b(後端)には、駆動ギヤ223が固設される。または、PTO入力軸220と一体的に形成される。
【0066】
リヤPTO軸230は、軸心方向を前後方向として配置され、その前部が軸受231・232を介して中ケース8b及び後部ケース8cに支持される。リヤPTO軸230の一端230a(前端)には、前記駆動ギヤ223と噛合する従動ギヤ233が固設される。リアPTO軸230の他端230b(後端)は、ミッションケース8(後部ケース8c)から後方に突出されて、ユニバーサルジョイント等を介して作業機の入力軸と連結可能とされる。
【0067】
前記従動ギヤ233は、前記駆動ギヤ223より大きい径とされ、駆動ギヤ223と従動ギヤ233とで減速機構270が形成されて、駆動ギヤ223に伝達された動力が減速される。また、前記従動ギヤ233は、アイドルギヤ235と噛合される。アイドルギヤ235は、前記従動ギヤ233と略同径であり、軸受236・237を介して中ケース8b及び後部ケース8cに支持される。
【0068】
ミッドPTO軸240は、軸心方向を前後方向として配置され、その中途部が軸受241を介して中ケース8bに支持され、その後部が軸受242を介して後部ケース8cに支持される。ミッドPTO軸240の一端240a(後端)には、伝動ギヤ243が回転自在に外嵌され、該伝動ギヤ243の前方であって、ミッドPTO軸240の中途部には、シフタ244が相対回転不能に外嵌される。ミッドPTO軸240の他端240b(前端)は、ミッションケース8から前方に突出される。詳細には、中ケース8bの後部には後部壁8dが形成され、該後部壁8d及び後部ケース8cの下部が中ケース8bの前部側面よりも側方に突出され、その突出部分の前面よりミッドPTO軸240の他端240bが前方へ突出される。
【0069】
ミッドPTO軸240のケース内の中途部で、その外周面には、軸心方向と平行なスプライン240cが形成される。スプライン240c上には、軸心方向と直角な貫通孔240dが形成される。貫通孔240dには、二つの剛球245・245と、これら二つの剛球245・245間に介設される不図示の付勢部材と、が嵌入される。
【0070】
前記伝動ギヤ243は、筒状であり、その後部には、歯部243aが形成される。歯部243aは、アイドルギヤ235と噛合される。歯部243aは、前記アイドルギヤ235より小さい径とされ、アイドルギヤ235と伝動ギヤ243とで増速機構280が形成されて、アイドルギヤ235に伝達された動力が増速される。また、伝動ギヤ243の前部には、スプライン部243bが形成される。
【0071】
前記シフタ244は、ミッドPTO軸240に対して摺動可能、かつ、相対回転不能に嵌合される。すなわち、シフタ244は、筒状であり、その内周面には、前記ミッドPTO軸240のスプライン240c及び前記伝動ギヤ243のスプライン部243bと係合するスプライン溝244aが軸心方向と平行に形成される。スプライン溝244aには、前記二つの剛球245・245と係合する前後のリング状溝244b・244cが形成される。
【0072】
そして、前記伝動ギヤ243と前記シフタ244とでミッドPTOクラッチ290が形成される。すなわち、ミッドPTOクラッチ290が「切」となるように操作具が操作されると、シフタ244が前方に摺動して、二つの剛球245・245がシフタ244の前側のリング状溝244bと係合する。これにより、シフタ244のスプライン溝244aが、伝動ギヤ243のスプライン部243bと係合されず、シフタ244と、伝動ギヤ243とが一体的に回転しない。すなわち、伝動ギヤ243からシフタ244に動力が伝達されず遮断される。
【0073】
また、ミッドPTOクラッチ290が「入」となるように操作具が操作されると、シフタ244が後方に摺動して、二つの剛球245・245がシフタ244の後側のリング状溝244cと係合する。これにより、シフタ244のスプライン溝244aが、伝動ギヤ243のスプライン部243bと係合されて、シフタ244と、伝動ギヤ243とが一体的に回転する。すなわち、伝動ギヤ243からシフタ244に動力が伝達される。
【0074】
このようなPTO入力軸220からリヤPTO軸230及びミッドPTO軸240までの動力伝達構造においては、PTO入力軸220に伝達された動力は、減速機構270を介して、リヤPTO軸230に伝達される。その一方で、リヤPTO軸230に伝達された動力は、リヤPTO軸230から、増速機構280及びミッドPTOクラッチ290を介して、ミッドPTO軸240に伝達される。このように、リヤPTO軸230の動力を減速させる減速機構270を、ミッドPTO軸240の動力を減速させる減速機構に兼用して、部品点数を削減しているのである。なお、前記減速機構270を、ギヤ列等で構成して可変速機構とすることも可能である。
【0075】
そして、車体後部に装着された作業機を駆動させる場合は、PTOクラッチ260を「入」、PTOブレーキ210を「切」とし、リヤPTO軸230に動力を伝達して駆動させる。ミッドモア10等の車体中央下部に装着された作業機を駆動させる場合は、PTOクラッチ260を「入」、PTOブレーキ210を「切」、ミッドPTOクラッチ290を「入」とし、ミッドPTO軸240に動力を伝達して駆動させる。
【0076】
なお、リヤPTO軸230の一端230a等にリヤPTOクラッチを設ける構成とすることも可能である。このような場合は、リヤPTOクラッチと、ミッドPTOクラッチ290とを連動させて、これらクラッチが背反して作動(例えば、リヤPTOクラッチが「入」ならば、ミッドPTOクラッチ290が「切」)するように構成することが望ましい。
【0077】
更に、ミッションケース8の後部ケース8cを中ケース8bに対して分解することにより、PTO伝動部8B内のメンテナンスが容易に行えるようにしている。すなわち、ミッションケース8の後部ケース8cを取り外すだけで、減速機構270、リヤPTO軸230、増速機構280、ミッドPTO軸240及びミッドPTOクラッチ290等が現出するので、これらの組立やメンテナンスが容易に行えるのである。
【0078】
また、PTO伝動部8B内に作業系の動力伝達構造を集中して配置するので、作業系の動力伝達構造のメンテナンスが容易に行える。すなわち、走行系の動力伝達構造と作業系の動力伝達構造を分離して、メンテナンス性を向上させることができる。
【0079】
以上のように、本発明の一実施形態に係るトラクタ1においては、ミッションケース8の後部にPTO伝動部8Bを形成し、該PTO伝動部8BにリヤPTO軸230及びミッドPTO軸240を支持する作業車両となるトラクタ1の動力伝達構造であって、PTO入力軸220から減速機構270を介して、前記リヤPTO軸230に動力を伝達するとともに、前記リヤPTO軸230からミッドPTOクラッチ290を介して前記ミッドPTO軸240に動力を伝達可能に構成したものである。
【0080】
これにより、リヤPTO軸230の動力を減速させる減速機構270を、ミッドPTO軸240の動力を減速させる減速機構に兼用して、部品点数を削減することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 トラクタ(作業車両)
6 エンジン(駆動源)
7 トランスミッション
8 ミッションケース
20 ミッション入力軸(入力軸)
40 ベルト式無段変速機(走行変速装置)
200 クラッチ機構
201 クラッチケース
203 筒軸(伝動軸)
204A 摩擦板(走行クラッチの駆動側の摩擦板)
204B 摩擦板(走行クラッチの従動側の摩擦板)
205A 摩擦板(PTOクラッチの駆動側の摩擦板)
205B 摩擦板(PTOクラッチの従動側の摩擦板)
210 PTOブレーキ
212A 摩擦板(PTOブレーキの回動側の摩擦板)
212B 摩擦板(PTOブレーキの固定側の摩擦板)
220 PTO入力軸
230 リヤPTO軸
240 ミッドPTO軸
250 走行クラッチ
260 PTOクラッチ
270 減速機構
290 ミッドPTOクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースの後部にPTO伝動部を形成し、該PTO伝動部にリヤPTO軸及びミッドPTO軸を支持する作業車両の動力伝達構造であって、
PTO入力軸から減速機構を介して、前記リヤPTO軸に動力を伝達するとともに、前記リヤPTO軸からミッドPTOクラッチを介して前記ミッドPTOに動力を伝達可能に構成したことを特徴とする作業車両の動力伝達構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101614(P2012−101614A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250358(P2010−250358)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】