説明

作業車両の減速ペダル装置

【課題】従来から静油圧式無段変速装置を搭載した乗用管理機に、前輪操舵機構と後輪操舵機構と四輪操舵機構とを装備して走行と旋回を行う場合、変速操作と操舵機構の切替操作とは、別々に行う構成であって、オペレータに煩わしい操作の負担を強いる課題があった。
【解決手段】この発明は、静油圧式無段変速装置(1)によって駆動車輪(2)を伝動する作業車両(3)に、前輪操舵機構(4)と四輪操舵機構(5)とを装備して操舵可能に構成し、前記静油圧式無段変速装置(1)は、操縦座席(6)から操作可能な位置に設けた減速ペダル(7)によって変速操作可能に構成し、該減速ペダル(7)は、踏み込み操作によって、減速操作と併せて前輪操舵機構(4)から四輪操舵機構(5)への切替操作を可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、HST等の無段変速装置で車輪を伝動する作業車両の減速ペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の作業車両は、前輪操舵機構と後輪操舵機構と、更に、これら両操舵機構を同時に機能させる四輪操舵機構とが装備され、走行速度や旋回場所の広さ、その他、作業の種類(作業内容)等に応じて、いずれかの操舵機構を選択して、迅速で、安全に操舵する構成としている。
【0003】
一方、静油圧式無断変速装置は、車両の走行速度を無段階に変速したり、正逆転の切替えによって前・後進の切替が簡単に操作できる特徴があり、この種の作業車両には広く利用されている。そして、例えば、特開平9−13428号公報には、静油圧式無段変速装置を搭載して減速操作する減速ペダルを装備した技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−13428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から静油圧式無段変速装置を搭載したトラクタ等に、前輪操舵機構と後輪操舵機構と、両操舵機構を同時に作用させる四輪操舵機構とを装備して走行、及び旋回を行う場合、変速操作と操舵機構の切替操作とは、それぞれ個別に行う構成となっており、オペレータには煩わしい操作の負担を強いる課題があった。
【0005】
従来の乗用管理機と称するトラクタは、静油圧式無段変速装置の減速ペダル(出願人が提示した特許文献1参照)と、各操舵機構間の切替をボタン操作で行う構成になっており、走行速度ときわめて関連性の大きい操舵機構との間であっても、それぞれ別々に切替操作を必要としていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この出願の請求項1に記載した発明は、無段変速装置(1)によって駆動輪(2)を伝動する作業車両(3)に、前輪操舵機構(4)と四輪操舵機構(5)とを装備していずれか一方に切替えて操舵可能に構成し、前記無段変速装置(1)は、前記作業車両(3)の操縦座席(6)から操作可能な位置に設けた減速ペダル(7)によって走行出力を変速操作可能に構成し、該減速ペダル(7)は、これの踏み込み操作によって、前記無段変速装置(1)の減速操作と、併せて前輪操舵機構(4)から四輪操舵機構(5)に切替操作する構成とした作業車両の減速ペダル装置であって、減速操作と操舵機構の切替操作とを減速ペダル(7)の一回の踏み込み操作で行うことができるものである。
【0007】
従って、この発明は、従来の2つの操作を別々に行う煩わしさを、減速ペダル(7)の一回の踏み込み操作によって同時に行うことができるものとなった。
特に、作業車両(3)は、作業時に減速ペダル(7)を踏んで減速したときには、低速走行時に使用頻度の高い四輪操舵に切替えられるから、オペレータの操作上の負担を軽減できる利点と、旋回場所が限られた狭い圃場で、低速走行を続けながら作業が楽にできる。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、前記減速ペダル(7)は、踏み込み操作によって無段変速装置(1)を減速する場合、作業速度で走行中には、踏み込み初期の減速比率を低くし、走行速度で走行中には、踏み込み末期の減速比率を低くしながら減速する構成とした請求項1記載の作業車両の減速ペダル装置であって、作業中には使用頻度の高い高速ゾーンでゆっくりした車速調整ができるようになり、又路上における走行中では、急停車を回避するために踏み込み末期の減速比率を低くすることが走行安全性を高めるために有効である。
【発明の効果】
【0009】
まず、請求項1に記載した発明は、従来、個別に行っていた2つの操作を、減速ペダル(7)を踏み込む一回の操作で行うことができる構成として、オペレータの操作負担を大幅に軽減した特徴がある。
【0010】
そして、この発明は、減速ペダル(7)の踏み込みで減速すると、同時に、作業中に使用頻度の高い四輪操舵機構に切替えられるから、限られた狭いスペースの圃場で低速走行しながら四輪操舵で小回りの効く旋回作業ができる特徴がある。
【0011】
また請求項2に記載した発明は、作業中(作業速度で走行中)には、減速ペダル(7)の踏み込み初期の減速比率を低くしているから、高速範囲でゆっくりした車速調整が可能となり、圃場作業を能率よく行うことができる特徴がある。
【0012】
また路上走行中は、減速ペダル(7)の踏み込み末期の減速比率を低くすることによって、急停車を避けて停車直前の車体の前のめり現象を防止して、自然に近い状態で止めることができ、路上における走行の安全性を確保できる特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本件出願の発明は、静油圧式無段変速装置1によって駆動輪2を伝動する作業車両3に、前輪操舵機構4と後輪操舵機構16と、両方の操舵が同時にできる四輪操舵機構5とを装備していずれか一つに切替えて操舵する構成としている。そして、前記静油圧式無段変速装置1は、前記作業車両3の操縦座席6から操作可能な位置に設けた減速ペダル7によって走行出力を変速操作可能に構成している。そして、該減速ペダル7は、これの踏み込み操作によって、前記静油圧式無段変速装置1の減速操作と、併せて前輪操舵機構4から四輪操舵機構5に切替操作ができる構成としている。
【0014】
したがって、この発明は、従来、個別に行っていた2つの操作を減速ペダルの踏み込み操作で行うことができるものとなったから、オペレータの操作負担を大幅に軽減すると共に、低速走行で行う作業時に使用度の高い四輪操舵機構5に切替えて作業効率を上げながら楽に作業ができるものとなった。
【0015】
以下、この発明を図面に基づいて具体的に説明する。
乗用管理機3は、図2と図3に示すように、本件出願の作業車両3に相当し、車体フレーム10上に操縦座席6を配置して設け、その前方位置にステアリングハンドル11を設けて操舵可能に構成している。そして、乗用管理機3は、図1の操作パネル12上に配置しているFWS切替スイッチ13に電気的に接続している前輪操舵機構4と、4WS切替スイッチ14に電気的に接続している四輪操舵機構(前輪操舵機構4と後輪操舵機構16との両機構)5と、RWS切替スイッチ15に電気的に接続した後輪操舵機構16とを装備している。そして、上記各操舵機構4,5,16は、それぞれの切替スイッチ13,14,15のいずれかを選択して操作し切替えると、該当する操舵機構が作動可能となって、前記ステアリングハンドルの操作で旋回できる構成となっている。
【0016】
そして、乗用管理機3は、図2に示すように、車体フレーム10の前後部に左右一対の前輪19,19と左右一対の後輪20,20を軸架して設け四輪駆動としている。そして、上記前輪19,19は、連動ロッド21によって左右両輪19,19が同一方向に連動可能に連結され、パワステ機構に接続した操舵ロッド22で操舵力が伝達される構成としている。そして、上記後輪20,20は、連動ロッド23で左右の車輪が連動可能に連結され、後輪側のパワステ機構に接続した操舵ロッド24で操舵力が伝達されるように連結した構成としている。
【0017】
そして、上記2つの操舵ロッド22,24は、それぞれの操舵機構とパワーステアリング機構とを介して前記ステアリングハンドル11に接続し、操舵力を個別に連結した車輪側に伝達する構成としている。そして、前輪19,19側の操舵ロッド22は、前輪操舵または四輪操舵を選択して前記切替スイッチ13,又は14をON操作したときにハンドル11の切角に基づく操舵力を前輪に伝達する構成としている。そして、後輪側の操舵ロッド24は、後輪操舵または四輪操舵を選択して前記切替スイッチ14,又は15をON操作したときにハンドル11の操舵力を後輪に伝達する構成としている。
【0018】
またエンジン27は、図2図3に示すように、ステアリングハンドル11の前方に配置しているボンネットカバー28で覆われたエンジンルームに搭載し、回転動力を下方の静油圧式無段変速装置1(HST)を介して走行ミッション装置29へ伝動する構成としている。
【0019】
そして、静油圧式無段変速装置1は、図4に示すように、前述したエンジン27の出力軸30から主クラッチ31を経由した回転動力が入力される構成としている。そして、静油圧式無段変速装置1は、従来から公知の如く、油圧ポンプと油圧モータとから構成されており、上記回転動力が油圧ポンプ側に入力されてポンプが駆動され、圧送された作動油がモータ側に送られて循環する過程で正逆転の切替、増減速の変速が行われて油圧モータから走行ミッション装置29に出力される構成としている。
【0020】
この場合、静油圧式無段変速装置1は、機外から操作されるトラニオン軸32によって傾斜角度が調節される斜板によって、作動油の圧送、循環が規制、変更されて上記のとおり、変速された回転動力が走行ミッション装置29側へ出力する構成となっている。
【0021】
そして、電動シリンダ33は、図5に示すように、コントローラ34に接続して設け、該コントローラ34から出力される制御信号に基づいて伸縮作動する電磁式で、ピストン35の先端部をトラニオンアーム36を介して前記トラニオン軸32に接続して回転操作する構成にしている。そして、減速ペダル7は、基部側に設けたポジションセンサ37によって検出された踏み込み量が前記コントローラ34に検出情報として入力される構成としている。
【0022】
また前記コントローラ34は、上記ポジションセンサ37から入力される減速ペダル7の踏み込み量に応じて前記電動シリンダ33に制御信号を出力して、トラニオンアーム36を介してトラニオン軸32を回転操作する構成としている。
【0023】
また上記電動シリンダ33は、ピストン35の移動位置を検出するポジションセンサが設けられている。そして、減速ペダル7は、図1に示すように、踏み込み操作によってON、OFFの切替操作ができる位置にリミットスイッチ38が設けられ、該リミットスイッチ38からFWS切替スイッチ13と4WS切替スイッチ14とに切替信号を送るように接続して構成している。
【0024】
このように、減速ペダル7は、これを踏み込んで静油圧式無段変速装置1を減速側に操作すると、同時に、4WS切替スイッチ14をONとし、FWS切替スイッチ13をOFFに切換えができるものとなっている。従って、前記乗用管理機3は、減速ペダル7を踏み込んでいる間は、減速走行が続き、それと同時に、四輪操舵機構(前輪操舵機構4と後輪操舵機構16との双方が働く状態)5も、常に操舵可能な状態にある。
【0025】
また前記乗用管理機3では、減速ペダル7から足を離して開放すると、踏み込み前の速度に復帰して、前輪操舵機構4に戻って操舵機構が働く状態になるものである。
また前記走行ミッション装置29は、図4に外観を示す通り、4段の変速を可能にした主変速装置40と、高速(走行速度)と低速(作業速度)との2段の切替を可能にした副変速装置41とを内装した構成としている。
【0026】
そして、前記コントローラ34は、減速ペダル7の踏み込み操作によって静油圧式無段変速装置1を減速する場合、作業速度(A)で走行中には、踏み込み初期の減速比率を低くし、走行速度(B)で走行中には、踏み込み末期の減速比率を低くしながら減速する構成としている。この場合の減速比率は、図6にグラフで示すように、作業速度(副変速装置41を低速に切替えた走行の場合)(A)では踏み始め当初の減速変化率を緩やかにして減速し、走行速度(副変速装置41を高速にして走行している場合)(B)では踏み切る直前の範囲で減速変化率を緩やかにして減速する構成にしている。
【0027】
以上のように構成すると、乗用管理機3は、作業中において、作業速度(A)の範囲内にあっては、使う頻度の高い速い側の速度範囲で車速の調整ができるようになる実用的な特徴がある。そして、乗用管理機3は、路上を走行速度(A)で走行中には、減速ペダル7を踏み切る位置の直前(停車直前)の限られた範囲で車速調整が可能になるから、急停止を避けることができ高速走行中の安全を確保できる特徴がある。
【0028】
尚、上記の構成は、減速ペダル7をそのまま変速レバーに置き換えて構成しても同様の作用、効果が期待できる。即ち、変速レバーとトラニオン軸32の双方に変速位置を検出できるポジションセンサを設け、更に作業速度と走行速度とを検出するセンサを配置して、これらをコントローラ34に接続する。
【0029】
そして、コントローラ34は、変速レバーの操作に基づき、前記図6の作業速度(A)と走行速度(B)と同様の変速パターンが取れるように構成する。
このように、変速レバーを減速ペダル7に置き換えて構成すると、乗用管理機3は、走行速度(B)では停止直前の減速比率が低いために車体の前のめりが少なくなる特徴があり、作業速度(A)でも減速ペダル7と同様な作用・効果が期待できる。
【0030】
次に、静油圧式無段変速装置1の変速レバーのニュートラル位置が確実に保持できる実施例について説明する。
一般に、この種の静油圧式無段変速装置1は、変速レバーをニュートラル位置に正確に保持することはきわめて難しいことが知られており、ニュートラル位置に操作して保持した状態でしばらく経過すると、乗用管理機が自然に移動している場合が多い。これは、操作レバーがニュートラル位置から離れて保持されているためであるが、現実に、操作レバーをニュートラル位置に正確に操作して保持することは困難である。
【0031】
そこで、本件実施例は、図7に示すように、減速ペダル7と静油圧式無段変速装置1のアンロードバルブ操作部45とを操作ワイヤー46で連動・操作可能に接続して構成している。したがって、本件実施例は、減速ペダル7を最大まで踏み込むと、操作ワイヤー46を経由して操作され、アンロードバルブ操作部45がバルブを強制的に押し込んでクラッチが切れた状態と同様になる。
【0032】
このように、静油圧式無段変速装置1をニュートラル位置に操作して出力を停止する場合には、従来のように操作レバーをニュートラル位置に操作したとき、関連してアンロードバルブを強制的に押し込んで作動油の循環を絶つことによって出力を停止するものである。したがって、静油圧式無段変速装置1は、ニュートラル位置に操作するとき、強制的に中立にするから、操作レバーを中立にしてしばらくすると、乗用管理機が元の位置から移動していた等の危険性が解消される。
【0033】
次に前記乗用管理機を防除作業車とした場合において、散布エラーが発生したとき、静油圧式無段変速装置1が自動的に減速制御されて車速が遅くなって、異常散布の範囲をできるだけ狭くすると共に、すぐに、オペレータに異常散布である旨を警告する実施例について説明する。
【0034】
まずコントローラ48は、図8に示すように、散布薬液の配管経路に設けた流量センサを、入力側に接続し、この流量センサが異常を検出すると、それが入力される構成としている。そして、コントローラ48は、操作シリンダ49へ送る作動油の油路を切替えるソレノイドバルブ50に制御信号を出力して切替操作ができるように接続して構成している。そして、静油圧式無段変速装置1は、上記操作シリンダ49からトラニオンレバー51を介してトラニオン軸52が減速側に操作される構成としている。
【0035】
そして、警報表示ランプ53は、車体の操作パネル54上に設けてコントローラ48からの制御信号によって点滅表示する構成としている。
以上述べたように、前記防除作業車は、作業中に、流量センサによって散布エラーが検出され、コントローラ48に入力されると、静油圧式無段変速装置1が減速されて車速が自動的に落とされ、操作パネル54上の警報表示ランプ53が点滅表示してオペレータに異常を警報することができる。このように、防除作業機は、散布エラーが発生して散布量が急激に減少すると、流量センサがすぐに検出してコントローラ48に検出情報を入力して、静油圧式無段変速機1を減速して車速を大幅に減速する。したがって、防除作業車は、散布エラーのままで走行する距離が短くなってエラーのままに通過する範囲を狭めて、オペレータが気づいて停車するまで実害が少なくなる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】操作パネルと電気的に接続した減速ペダルの側面図。
【図2】乗用管理機の平面図。
【図3】乗用管理機の側面図。
【図4】静油圧式無段変速装置と伝動機構の側面図。
【図5】減速ペダルから操作力が静油圧式無段変速装置に伝達する経路図。
【図6】作業速度と走行速度との減速曲線を示すグラフ。
【図7】減速ペダルと静油圧式無段変速装置とを操作可能に接続した側面図。
【図8】実施例の説明用分解図
【符号の説明】
【0037】
1 静油圧式無段変速装置
2 駆動輪
3 乗用管理機
4 前輪操舵機構
5 四輪操舵機構
6 操縦座席
7 減速ペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速装置(1)によって駆動車輪(2)を伝動する作業車両(3)に、前輪操舵機構(4)と四輪操舵機構(5)とを装備していずれか一方に切替えて操舵可能に構成し、前記無段変速装置(1)は、前記作業車両(3)の操縦座席(6)から操作可能な位置に設けた減速ペダル(7)によって走行出力を変速操作可能に構成し、該減速ペダル(7)は、これの踏み込み操作によって、前記無段変速装置(1)の減速操作と併せて前輪操舵機構(4)から四輪操舵機構(5)に切替操作する構成とした作業車両の減速ペダル装置。
【請求項2】
前記減速ペダル(7)は、踏み込み操作によって無段変速装置(1)を減速する場合、作業速度(A)で走行中には、踏み込み初期の減速比率を低くし、走行速度(B)で走行中には、踏み込み末期の減速比率を低くしながら減速する構成とした請求項1記載の作業車両の減速ペダル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−30777(P2007−30777A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219680(P2005−219680)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】