説明

作業車両

【課題】作業車両において、前進ペダル及び後進ペダルの連動機構を簡素化する。
【解決手段】ペダルブラケット31が有するアーム取付部31aは、前進ペダルアーム21を一側に支持するための第1支持部31cと、後進ペダルアーム22を他側に支持するための第2支持部31dと、を備える。前進ペダルアーム21においては、その一端側には前進ペダル23が取り付けられ、中間部には当該前進ペダルアーム21を第1支持部31cに回動可能に支持させるための回転中心部21aが設けられ、他端側には第1連結部21bが設けられている。後進ペダルアーム22においては、その一端側には後進ペダル24が取り付けられ、中間部には第2連結部22bが設けられ、他端側には当該後進ペダルアーム22を第2支持部31dに回動可能に支持させるための回転中心部22aが設けられている。第1連結部21bと第2連結部22bが、連結部材32によって連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。詳細には、前進ペダル及び後進ペダルを有する作業車両において、前進ペダル及び後進ペダルを連動させるための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば農用トラクタ等の作業車両において、前進ペダルと後進ペダルとを運転座席の足元に備え、オペレータが前進ペダル及び後進ペダルを踏込み操作することにより、機体の前後進操作を行う構成が知られている。このような作業車両においては、前進ペダルを踏み込むとこれに連動して後進ペダルが上昇し、逆に後進ペダルを踏み込むとこれに連動して前進ペダルが上昇するように構成される。また、オペレータが前進ペダル及び後進ペダルから足を離すと(ペダルに対する操作力を解除すると)、両ペダルが中立位置に戻るように構成される。
【0003】
このような前進ペダル及び後進ペダルを実現する構成としては、例えば特許文献1が開示するものがある。特許文献1は、前進ペダルを支持する前進側支軸と、後進ペダルを支持する後進側支軸と、前進ペダル及び後進ペダルの一方を踏み込むことで他方のペダルを上昇させる連結機構と、前進ペダル及び後進ペダルを中立位置へ戻す中立復帰機構と、前進ペダル及び後進ペダルに対する人為操作量を電気信号として検出する電気検出機構と、を単一のブラケットに支持させ、当該ブラケットを機体フレームに着脱可能に設けた構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−183964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、連結機構や中立復帰機構や電気検出機構の構成が複雑で、部品点数が多くなり、コストが上昇するとともに、組立作業やメンテナンス作業に手間が掛かるという問題点を有している。
【0006】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、前進ペダル及び後進ペダルの連動機構を簡単な構成で実現した作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両が提供される。即ち、この作業車両は、第1ペダルが取り付けられた第1ペダルアームと、第2ペダルが取り付けられた第2ペダルアームと、前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームを回転可能に支持するペダルブラケットと、を備える。この作業車両は、前記第1ペダル及び前記第2ペダルのうち、一方のペダルを踏込み操作することにより車体の前進操作を行い、他方のペダルを踏込み操作することにより車体の後進操作を行うように構成されている。前記ペダルブラケットはアーム取付部を有している。前記アーム取付部は、当該アーム取付部の一側に前記第1ペダルアームを回転可能に支持するための第1支持部と、他側に前記第2ペダルアームを回転可能に支持するための第2支持部と、を備える。前記第1ペダルアームにおいては、その一端側には前記第1ペダルが取り付けられ、中間部には当該第1ペダルアームを前記第1支持部に回転可能に支持させるための回転中心部が設けられ、他端側には第1連結部が設けられている。一方、前記第2ペダルアームにおいては、その一端側には前記第2ペダルが取り付けられ、中間部には第2連結部が設けられ、他端側には当該第2ペダルアームを前記第2支持部に回転可能に支持させるための回転中心部が設けられている。そして、前記第1連結部と前記第2連結部が、連結部材によって連結されている。
【0009】
以上の構成で、第1ペダルを下方に移動させるようにして、回転中心部を中心にして第1ペダルアームを回転させると、第1連結部は上方に移動する。一方、第1連結部が上方に移動すると、連結部材によって前記第1連結部と連結されている第2連結部も上方に移動するため、回動中心部を中心にして第2ペダルアームが回転し、第2ペダルが上方に移動する。従って、第1連結部と第2連結部とを連結することにより、第1ペダルと第2ペダルを連動させて互い違いに上下させることが可能となる。このように、ペダルアームに設ける回転中心部及び連結部材の連結部の位置を工夫することにより、簡単な構成で、前進用のペダルと後進用のペダルとを連動させる連動機構を実現することができる。
【0010】
上記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この作業車両は、回転部材を回転可能に支持する中立復帰アームと、前記回転部材を前記第1ペダルアーム又は前記第2ペダルアームに対して押圧するための押圧部材と、を備える。前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームのうち、前記回転部材が押圧されているペダルアームには、前記回転部材が押圧される方向に凹となる凹部が形成されている。そして、前記凹部は、前記回転部材が当該凹部に入り込むときに前記第1ペダル及び前記第2ペダルが中立位置となるように形成されている。
【0011】
これにより、部品点数の少ない簡素な構成の中立復帰機構を得ることができる。
【0012】
上記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この作業車両において、前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームのうち何れか一方は、前記回転中心部を前記アーム取付部に貫通させて当該アーム取付部の反対側から突出させている。そして、前記突出した部分に、当該回転中心部の回転量を電気的に検出するための検出機構を設けている。
【0013】
これにより、部品点数が少なく簡単な構造で、ペダルの操作量を検出することができる。
【0014】
上記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この作業車両において、前記ペダルブラケットは、略垂直に形成された前記アーム取付部と、略水平に形成されたステップ取付部と、で構成される。そして、前記ステップ取付部がステップに取り付けられる。
【0015】
これにより、ペダルブラケットに対してペダルアームをコンパクトに取り付けることができる。また、ペダルブラケットに対してペダルアーム等の構成が支持されており、しかもそのペダルブラケットをステップに取り付ける構成であるので、ペダルアーム等の各構成をユニット的にまとめた状態で車体本体に対して簡単に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示した右側面図。
【図2】キャビン内の様子を示す斜視図。
【図3】トラクタの駆動力伝達機構を示すスケルトン図。
【図4】無段変速機の構成を示す断面拡大図。
【図5】前後進ペダルユニットの外観斜視図。
【図6】前後進ペダルユニットの右側面図。
【図7】前後進ペダルユニットの背面図。
【図8】前後進ペダルユニットの左側面図。
【図9】前後進ペダルユニットの分解斜視図。
【図10】前進ペダルを操作した時の様子を示す左側面図。
【図11】後進ペダルを操作した時の様子を示す左側面図。
【図12】前進ペダルを操作した時の様子を示す右側面図。
【図13】後進ペダルを操作した時の様子を示す右側面図。
【図14】中立復帰アームとアクセル操作アームとの連結を解除した時の様子を示す右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るトラクタ1の全体的な構成を示す右側面図である。
【0018】
図1に示す4輪型の農作業用トラクタ(作業車両)1は、走行機体2を前輪3と後輪4とで支持するとともに、走行機体2の前部に配置されたエンジン5によって後輪4及び前輪3を駆動することにより、走行機体2を前進又は後進させるように構成している。このトラクタ1は、プラウ、ハロー等の図示しない作業機を必要に応じて後部に装着し、種々の作業を行うことが可能に構成されている。
【0019】
前記走行機体2は、エンジンフレーム14と、このエンジンフレーム14の後部に固定された機体フレーム16と、を備える。機体フレーム16の後部には、エンジン5の回転を適宜変速して後輪4及び前輪3に伝達するためのミッションケース17が固定されている。
【0020】
エンジン5はボンネット6によって覆われている。また、前記走行機体2は、ボンネット6の後方に配置されたキャビン7を備える。キャビン7の内部には、オペレータが着席するための運転座席8と、オペレータが走行機体2の操作を行うための操作部と、が配置されている。このキャビン7内部の前記操作部の様子を、図2の斜視図に示す。
【0021】
図2に示すように、キャビン7の内部には、ステアリングハンドル9と、ブレーキペダル26と、クラッチペダル57と、が配置されている。また、ステアリングハンドル9近傍の適宜の位置には、エンジン5の回転数をオペレータの手元で調整するためのアクセルレバー30が配置されている。
【0022】
また、図1及び図2に示すように、キャビン7内には、運転座席8に座ったオペレータが足を置くための水平なステップ板(ステップ部材)12が固定される。図2に示すように、このステップ板12には長孔が形成されており、ステップ板12の下方から当該長孔を介して、前進ペダルアーム(第1ペダルアーム)21及び後進ペダルアーム(第2ペダルアーム)22がキャビン7内に(ステップ板12の上方に)突出している。そして、前進ペダルアーム21の先端には前進ペダル(第1ペダル)23が、後進ペダルアーム22の先端には後進ペダル(第2ペダル)24が、それぞれ取り付けられている。
【0023】
前進ペダル23及び後進ペダル24は、走行機体2の走行速度の無段階変速、及び前後進の切替操作を行うためのものである。即ち、オペレータが前進ペダル23を踏み込むと、その踏込み量(操作量)に応じて無段階に変速された車速で、走行機体2が前進するように構成されている。一方、後進ペダル24を踏み込むと、その踏込み量に応じて無段階に変速された車速で、走行機体2が後進するように構成されている。
【0024】
また、前進ペダル23と後進ペダル24とは、連動して互い違いに上下するように構成されている。即ち、前進ペダル23を踏み込む(下降させる)と、これに連動して後進ペダル24が上昇する。逆に、後進ペダル24を踏み込むと、これに連動して前進ペダル23が上昇する。また、前進ペダル23及び後進ペダル24から足を離すと(操作力を解除すると)、前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置まで復帰し、走行機体2が走行を停止させるように構成されている。
【0025】
なお、前進ペダル23及び後進ペダル24の連動機構及び中立復帰機構については後に詳述する。
【0026】
次に、走行機体2の走行速度の無段階変速、及び前後進の切替えを行うための、駆動力伝達機構について説明する。まず、図3のスケルトン図を参照して、ミッションケース17の内部構造を説明する。なお、トラクタ1は、図略のPTO軸に対してエンジン5の駆動力を変速して伝達するためのPTO変速機構等も備えているが、図3においては省略している。
【0027】
ミッションケース17は、図3に示すように、エンジン5からの動力を入力するための主変速入力軸27を備える。この主変速入力軸27は、エンジン5が備えるフライホイール25と、自在軸継手を備えた伸縮式の動力伝達軸28によって連結される。
【0028】
ミッションケース17は、主変速入力軸27に伝達されたエンジン5の回転を、走行主変速機構である静油圧式の無段変速機29で適宜変速する。そして、その変速された出力回転を後輪用の差動ギア機構58に伝達して、左右の後輪4を駆動する。また、変速された回転は前輪用の差動ギア機構86に伝達され、左右の前輪3を駆動することもできる。
【0029】
図3に示すように、前記無段変速機29は、前記主変速入力軸27と、この主変速入力軸27の径方向外側に配置される筒状の主変速出力軸36と、を備える、いわゆるインライン式HSTとして構成されている。主変速出力軸36は、主変速入力軸27と軸線を一致させて配置されている。また、主変速出力軸36には、主変速出力ギア37,39が固定されている。なお、無段変速機29の詳細な構成については後述する。
【0030】
また、ミッションケース17内には、走行カウンタ軸38と、図示しない逆転軸と、が配置されている。前記走行カウンタ軸38には、前進ギア41と、後進ギア43と、がそれぞれ回転可能に支持されている。前記逆転軸には逆転ギア44が回転可能に支持されている。
【0031】
前進ギア41と走行カウンタ軸38とは、前進クラッチ40によって連結することができる。また、後進ギア43と走行カウンタ軸38とは、後進クラッチ42によって連結することができる。前進ギア41は主変速出力ギア37に噛み合っている。後進ギア43は逆転ギア44に噛み合っており、逆転ギア44は主変速出力ギア39に噛み合っている。
【0032】
そして本実施形態のトラクタ1においては、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作によって、クラッチ40,42の作動を切り替えるように構成されている。即ち、オペレータが前進ペダル23を踏込み操作した場合は、前進クラッチ40が接続されて後進クラッチ42が切断されることにより、主変速出力ギア37と走行カウンタ軸38とが前進ギア41によって連結される。一方、後進ペダル24が踏込み操作された場合は、後進クラッチ42が接続されて前進クラッチ40が切断されることにより、主変速出力ギア39と走行カウンタ軸38とが後進ギア43及び逆転ギア44を介して連結される。
【0033】
以上の構成で、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作に応じて、走行カウンタ軸38の回転方向を切り替え、走行機体2を前進及び後進させることができる。
【0034】
なお、前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置とされた場合は、クラッチ40,42の両方が切断されて、走行駆動力が下流側に伝達されないようになっている。
【0035】
前記走行カウンタ軸38には駆動伝達ギア51が固定されている。また、ミッションケース17内には走行出力軸50が配置されており、当該走行出力軸50には駆動入力ギア52が固定されている。前記駆動伝達ギア51と前記駆動入力ギア52とは噛み合っており、これにより走行カウンタ軸38の回転駆動力が走行出力軸50に伝達される。
【0036】
走行出力軸50の後端部にはピニオン59が設けられており、このピニオン59を介して後輪用の差動ギア機構58に駆動力が伝達される。また、後輪用の差動ギア機構58は左右一対の差動出力軸62を備えており、この差動出力軸62はファイナルギア63等を介して後車軸64に接続されている。以上の構成で、走行駆動力は差動出力軸62から後車軸64に伝達され、左右の後輪4を駆動することができる。
【0037】
一方、走行出力軸50の前端部にはギア70が設けられており、このギア70に伝達された走行駆動力は、ギア71、前輪入力軸72、ギア78を介して前輪駆動ギア75に入力される。この前輪駆動ギア75は、前輪出力軸73に回転可能に支持されている。また、この前輪駆動ギア75は、前輪駆動クラッチ74によって前輪出力軸73と連結することができる。
【0038】
そして、4輪駆動と2輪駆動を切り替えるための図略の切替レバー(又は切替スイッチ)が「4輪駆動」の位置に操作された場合、前輪駆動クラッチ74が接続されるように構成されている。この結果、前輪入力軸72と前輪出力軸73とが前輪駆動ギア75によって連結され、前輪3が後輪4とともに駆動される。一方、上記切替レバー(又は切替スイッチ)が「2輪駆動」の位置に操作されると、前輪駆動クラッチ74が遮断され、前輪3は駆動されない。
【0039】
前輪駆動クラッチ74が接続された場合(4輪駆動とされた場合)は、前輪入力軸72の回転駆動力は、前輪出力軸73を介して前輪用の差動ギア機構86に伝達される。また、前輪用の差動ギア機構86は左右一対の差動出力軸90を備えており、この差動出力軸90はファイナルギア91等を介して前車軸92に接続されている。以上の構成で、走行駆動力は差動出力軸90から前車軸92に伝達され、左右の前輪3を駆動することができる。
【0040】
次に、図4を参照して、無段変速機29の詳細な構成について説明する。図4は、無段変速機29近傍の断面図である。
【0041】
図4に示すように、無段変速機29は、可変容量型の油圧ポンプ部501と、定容量型の油圧モータ部502と、を備えている。前記主変速入力軸27の長手方向中途部には、油圧ポンプ部501及び油圧モータ部502において用いられる共通のシリンダブロック505が固定されている。そして、シリンダブロック505からみて主変速入力軸27の長手方向一側に油圧ポンプ部501が配置され、他側に油圧モータ部502が配置されている。
【0042】
油圧ポンプ部501は、第1ホルダ510と、可動型のポンプ斜板509と、複数のシュー508と、複数のポンププランジャ506と、を備える。
【0043】
第1ホルダ510は、シリンダブロック505に対して軸線方向で対向するようにして、ミッションケース17の内部に固定されている。また、ポンプ斜板509は、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角を変更できるように、第1ホルダ510によって支持されている。このポンプ斜板509には斜板操作シリンダ556が連結されており、この斜板操作シリンダ556を駆動することで、ポンプ斜板509の傾斜角を変更することができる。
【0044】
シュー508はポンプ斜板509上に複数配置され、それぞれがポンプ斜板509に対してスライド可能に構成されている。それぞれのポンププランジャ506は、シリンダブロック505に形成された第1プランジャ孔507に対してスライド可能に挿入される。また、ポンププランジャ506の頭部は、前記シュー508に対して球体自在継手を介して連結されている。
【0045】
前記シリンダブロック505には第1スプール弁536が前記ポンププランジャ506と同数だけ設けられている。この第1スプール弁536は、シリンダブロック505において軸方向に形成された貫通状の第1弁孔532に対し、スライド可能に嵌合している。この第1弁孔532は、その中央部分が第1プランジャ孔507に連通している。また、前記第1ホルダ510には、リング状の第1スプールガイド部材537が固定されている。この第1スプールガイド部材537は主変速入力軸27の外周側に配置されており、その外周面には、前記第1スプール弁536の頭部を係合させるための円環溝が形成されている。
【0046】
リング状の前記第1スプールガイド部材537は、その軸線方向が前記主変速入力軸27の軸線から若干傾斜するように配置されている。従って、その外周の円環溝も傾斜して配置されるので、シリンダブロック505の回転に伴って、第1スプール弁536は第1弁孔532内を軸方向に往復移動する。
【0047】
油圧モータ部502は、第2ホルダ519と、モータ斜板518と、複数のシュー517と、複数のモータプランジャ515と、を備える。
【0048】
第2ホルダ519は、シリンダブロック505に対して軸線方向で対向するようにして、前記主変速入力軸27に対して回転可能に支持されている。この第2ホルダ519は、前記主変速出力軸36に固定されている。また、モータ斜板518は、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角が一定となるようにして、前記第2ホルダ519に取り付けられている。
【0049】
シュー517はモータ斜板518上に複数配置され、それぞれがモータ斜板518に対してスライド可能に構成されている。それぞれのモータプランジャ515は、シリンダブロック505に形成された第2プランジャ孔516に対してスライド可能に挿入される。また、モータプランジャ515の頭部は、前記シュー517に対して球体自在継手を介して連結されている。
【0050】
前記シリンダブロック505には第2スプール弁540がモータプランジャ515と同数だけ設けられている。この第2スプール弁540は、シリンダブロック505において軸方向に形成された貫通状の第2弁孔533に対し、スライド可能に嵌合している。この第2弁孔533は、その中央部分が第2プランジャ孔516に連通している。また、前記第2ホルダ519には、リング状の第2スプールガイド部材541が取り付けられている。この第2スプールガイド部材541は主変速入力軸27の外周側に配置されており、その外周面には、前記第2スプール弁540の頭部を係合させるための円環溝が形成されている。
【0051】
リング状の前記第2スプールガイド部材541は、第1スプールガイド部材537と同様に、その軸線方向が前記主変速入力軸27の軸線から若干傾斜するように配置されている。従って、その外周の円環溝も傾斜して配置されるので、シリンダブロック505の回転に伴って、第2スプール弁540は(第1スプール弁536と連動して)第2弁孔533内を軸方向に往復移動する。
【0052】
前記シリンダブロック505の内部には、第1油室530と、第2油室531と、がそれぞれ形成されている。第1油室530及び第2油室531は何れも円環状に形成され、主変速入力軸27の外周側に配置されている。また、第1油室530及び第2油室531は何れも、第1弁孔532を介して第1プランジャ孔507に連通するとともに、第2弁孔533を介して第2プランジャ孔516に連通している。
【0053】
以上の構成で、シリンダブロック505が1回転すると、第1スプールガイド部材537の作用によって第1スプール弁536が1往復し、第1プランジャ孔507が第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるようになっている。また同時に、第2スプールガイド部材541の作用によって第2スプール弁540が1往復し、第2プランジャ孔516が第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるようになっている。それぞれのプランジャ孔507,516が連通される油室は、シリンダブロック505が180°回転するごとに、第1油室530及び第2油室531の間で切り替えられる。
【0054】
なお、図4において、ポンププランジャ506、第1プランジャ孔507、シュー508、第1弁孔532、第1スプール弁536、モータプランジャ515、第2プランジャ孔516、第2弁孔533、及び第2スプール弁540等については、図面の都合上1つずつしか描かれていないが、実際は、上記に列挙した部品等は主変速入力軸27の周囲に複数並べて配置されている。
【0055】
次に、以上に説明した無段変速機29の動作について詳細に説明する。
【0056】
最初に、ポンプ斜板509が主変速入力軸27の軸線に対して略直交している場合を説明する。この場合は、主変速入力軸27に伝達される動力によってシリンダブロック505が回転しても、ポンププランジャ506が往復動しない。従って、モータプランジャ515も往復動しないので、モータ斜板518はシリンダブロック505と一体的に回転する。従って、主変速入力軸27の回転速度が変更されることなく主変速出力軸36に伝達される。
【0057】
次に、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を一側に傾斜させた場合について説明する。この場合は、シリンダブロック505の回転に従ってポンププランジャ506が往復動するので、第1プランジャ孔507における作動油の吸入及び吐出が繰り返し行われる。そして、第1プランジャ孔507と第2プランジャ孔516との間には、第1スプール弁536及び第2スプール弁540が適宜動作することにより、閉じた油圧回路が第1油室530又は第2油室531を通じて形成される。従って、ポンププランジャ506の吐出行程では第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が圧送され、ポンププランジャ506の吸入行程では逆向きに作動油が戻される。こうして、アキシャルピストンポンプ及びアキシャルピストンモータの動作が行われる。
【0058】
従って、ポンプ斜板509を傾斜させた場合、主変速入力軸27の回転数に、油圧ポンプ部501によって駆動される油圧モータ部502の回転数が加算又は減算されて、主変速出力軸36に伝達される。以上の作用により、無段変速された回転を主変速出力軸36に得ることができる。
【0059】
前述のように、ポンプ斜板509の傾斜角は、斜板操作シリンダ556が駆動されることによって変更される。そして本実施形態のトラクタ1においては、前記斜板操作シリンダ556は、後述の車体コントローラからの制御信号に応じて駆動されるように構成されている。前記車体コントローラは、前進ペダル23及び後進ペダル24の踏込み量(操作量)に応じて前記制御信号を生成し、斜板操作シリンダ556に送信するように構成されている。これにより、前進ペダル23又は後進ペダル24によってポンプ斜板509の傾斜角度を変更し、走行機体2の走行速度を直感的かつ無段階に変速することができる。
【0060】
なお、前進ペダル23及び後進ペダル24を中立位置としたときは、ポンプ斜板509を所定傾斜角度とすることで主変速入力軸27の回転を完全に打ち消し、車速ゼロ状態(停車状態)となるように構成されている。
【0061】
また、ポンプ斜板509には、図略の機械的な連結機構を介して前記クラッチペダル57が接続されており、当該クラッチペダル57を踏み込むことにより、ポンプ斜板509の傾斜角を強制的に前記所定傾斜角度とすることができるように構成されている。これにより、クラッチペダル57の踏込み操作によって主変速入力軸27の回転を完全に打ち消すことができるので、例えば前記車体コントローラが故障して斜板操作シリンダ556の制御に不都合が発生した場合であっても、強制的に車速ゼロ状態(停車状態)とすることができる。
【0062】
次に、本実施形態のトラクタ1が備える前後進ペダルユニット10について説明する。前記前後進ペダルユニット10は、前進ペダルアーム21や後進ペダルアーム22等に関する構成をユニット状にまとめたものである。
【0063】
前後進ペダルユニット10の外観斜視図を図5に示す。また、当該前後進ペダルユニット10の右側面図を図6に、背面図を図7に、左側面図を図8に、それぞれ示す。また、前後進ペダルユニット10の分解斜視図を図9に示す。
【0064】
図5から図8に示すように、前後進ペダルユニット10は、ペダルアーム21,22と、ペダルブラケット31と、連結部材32と、中立復帰機構33と、ポテンショメータ(検出機構)34と、を備えている。
【0065】
ペダルブラケット31は金属板で構成されており、図5及び図7に示すように略直角に折り曲げられて形成されることにより、略垂直な平板部(アーム取付部31a)と、略水平な平板部(ステップ取付部31b)と、が構成されている。そして、図5、図7等に示すように、アーム取付部31aの左右の側面には、ペダルアーム21,22等が取り付けられている。また、図7、図8に示すように、ステップ取付部31bの上面は、ステップ板12の底面に固定されている。
【0066】
このように、ペダルブラケット31が、前後進ペダルユニット10の各構成を支持する役割と、当該前後進ペダルユニット10をトラクタ1の車体本体側(ステップ板12)に取り付けるための部材としての役割と、を兼ねている。これにより、前後進ペダルユニット10をコンパクトに構成することができる。また、前後進ペダルユニット10をユニットとしてまとめて取り扱うことが可能となるので、当該前後進ペダルユニット10をステップ板12に取り付ける際の作業性が向上する。
【0067】
図6の右側面図に示すように、前進ペダルアーム21は、長手方向が斜め前上方を向くようにして配置されている。この前進ペダルアーム21の上端には前進ペダル23が取り付けられており、下端には第1連結部21bが設けられている。また、前進ペダルアーム21の長手方向の中間部には、当該前進ペダルアーム21の回転中心部21aが設けられている。
【0068】
また、図8の左側面図に示すように、後進ペダルアーム22も、長手方向が斜め前上方を向くようにして配置されている。この後進ペダルアーム22の上端には後進ペダル24が取り付けられており、下端には当該後進ペダルアーム22の回転中心部22aが設けられている。また、後進ペダルアーム22の長手方向の中間部には、第2連結部22bが設けられている。
【0069】
次に、ペダルブラケット31に対して、ペダルアーム21,22を支持するための構成について説明する。本実施形態のトラクタ1においては、前進ペダルアーム21はアーム取付部31aの一側に、後進ペダルアーム22はアーム取付部31aの他側に、それぞれ片持ち支持される構成としている。
【0070】
即ち、仮にペダルブラケット31の一側に両方のペダルアーム21,22を支持する構成とした場合、ペダル23,24間の干渉を避けるために両ペダルアーム21,22間にオフセットをとらなければならない。この場合、前記オフセットを確保するために、ペダルアーム21,22のうち何れか一方をペダルブラケット31に支持するための軸部分が長くなり、強度上の問題があるとともにペダルブラケットが大型化してしまうという問題がある。この点、本実施形態では、上記のようにペダルアーム21,22をアーム取付部31aの一側と他側に振り分けてそれぞれ片持ち支持する構成とすることにより、ペダルブラケット31をコンパクトに構成することができる。
【0071】
具体的には、ペダルアーム21,22及びペダルブラケット31の何れか一方にボス部を設け、他方に丸棒状の回動軸を設ける。そして、前記回動軸を前記ボス部に挿入することにより、ペダルアーム21,22を回動可能に片持ち支持する構成になっている。例えば本実施形態では、図9に示すように、前進ペダルアーム21の回転中心部21aは、丸棒状の回動軸として形成されている。一方、アーム取付部31aの一側面には、ボス状に突出する第1支持部31cが形成されている。このボス状の第1支持部31cの内部の挿通孔に対して、当該ボスが突出している側から回転中心部21aを挿入することにより、前進ペダルアーム21をペダルブラケット31に対して回動可能に支持することができる。
【0072】
また、図9に示すように、アーム取付部31aにおいて、前記第1支持部31cが形成されている面と反対側の面には、丸棒状に突出する第2支持部31dが設けられている。一方、後進ペダルアーム22の回転中心部22aは、ボス状に形成されている。そして、丸棒状の回動軸として構成された第2支持部31dを、ボス状の回転中心部22aが突出している側から当該ボスの内部の挿通孔に挿入することにより、後進ペダルアーム22をペダルブラケット31に対して回動可能に支持することができる。
【0073】
次に、連結部材32によって前進ペダルアーム21及び後進ペダルアーム22を連結する構成について説明する。
【0074】
図9に示すように、連結部材32は、適宜曲げられた丸棒状の部材として構成されており、第1端部32aと、リンク部32bと、第2端部32cと、を有している。一方、ペダルアーム21,22に設けられた前記連結部21b,22bは、丸棒状の連結部材32を挿入可能な挿入孔として形成されている。
【0075】
そして、第1端部32aが第1連結部21bに挿入されることにより、連結部材32が、前進ペダルアーム21に対して、前記第1連結部21bを中心に回転可能となるように取り付けられている。同様に、第2端部32cが第2連結部22bに挿入されることにより、連結部材32が、後進ペダルアーム22に対して、前記第2連結部22bを中心に回転可能となるように取り付けられている。
【0076】
なお、連結部材32が前進ペダルアーム21に対して回転する際の軸がブレないようにするため、第1連結部21bは、図9に示すようにボス状に形成されている。
【0077】
以上の構成で、前進ペダルアーム21及び後進ペダルアーム22が、連結部材32のリンク部32bを含んで構成されるリンク機構を介して連結される。これにより、前進ペダル23と後進ペダル24とを連動させることができる。以下、前進ペダル23と後進ペダル24とが連動する様子について、図8、図10及び図11を参照して説明する。図8は前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置にあるときの様子を示す左側面図、図10は前進ペダル23を踏込み操作したときの様子を示す左側面図、図11は後進ペダル24を踏込み操作したときの様子を示す左側面図である。
【0078】
前進ペダル23を踏込み操作したときの様子について説明する。前進ペダルアーム21においては、当該前進ペダルアーム21の長手方向で考えたときに、回転中心部21aから見て前進ペダル23の反対側に第1連結部21bが設けられている。従って、図8に示す中立位置から、図10に示すように前進ペダル23を踏込み操作(即ち、前進ペダル23を下降させる操作)を行うと、前進ペダルアーム21が回転中心部21aを中心にして回動する結果、第1連結部21bは回転中心部21aを中心にして上方に移動する。
【0079】
ここで、第1連結部21bと第2連結部22bとは、連結部材32を介して連結されているから、第1連結部21bが上方に移動すると、連結部材32によって第2連結部22bが上方に押し上げられる。一方、後進ペダルアーム22においては、当該後進ペダルアーム22の長手方向で考えたときに、回転中心部22aから見て、後進ペダル24と第2連結部22bは、同じ側に設けられている。従って、第2連結部22bが連結部材32によって上方に押し上げられると、後進ペダル24も回転中心部22aを中心にして上方に移動する(図10の状態)。
【0080】
一方、後進ペダル24を踏込み操作した場合は、上記の場合とは逆に前進ペダル23が上昇する。即ち、図8の中立位置の状態から後進ペダル24を踏み込むと、第2連結部22bは回転中心部22aを中心にして下方に移動する。従って、連結部材32に押し下げられて第1連結部21bも下方に移動する結果、回転中心部21aを中心にして前進ペダル23が上方に移動する(図11の状態)。
【0081】
以上のように、前進ペダルアーム21と後進ペダルアーム22とを連結部材32によって連結するという簡単な構成で、前進ペダル23と後進ペダル24とを連動させて、互い違いに上下させる機構を実現することができる。
【0082】
次に、前進ペダル23及び後進ペダル24の踏込み量(操作量)を検出するための構成について説明する。
【0083】
本実施形態のトラクタ1においては、前記操作量を、ポテンショメータ34によって電気的に検出することとしている。なお、ペダルの踏込み量に応じて車速を変速する構成は、例えば、無段変速機29のポンプ斜板509と、ペダルアーム21,22と、を機械的なリンク機構等で連結することによっても実現することができる。しかしながら、無段変速機29とペダルアーム21,22等を機械的なリンク機構等で連結した場合、当該リンク機構の取付作業が煩雑となり、前後進ペダルユニット10の取付性が悪化してしまう。この点、実施形態では、ポテンショメータ34によって操作量を電気的に検出する構成とすることにより、機械的な連結構造を少なくして、前後進ペダルユニット10の取付性を向上させている。以下、具体的に説明する。
【0084】
前述のように、第1支持部31cは、ボス状に形成されている(図9を参照)。このボス状の第1支持部31cの内部の挿通孔は貫通状に形成されており、アーム取付部31aの厚み方向一側の空間と他側の空間とを互いに連通している。そして、丸棒状の回転中心部21aを前記挿通孔に挿入すると、当該回転中心部21aの先端部が、アーム取付部31aの他面側に突出するように構成されている。
【0085】
一方、図5及び図8に示すように、アーム取付部31aの、第1支持部31cが形成されている面とは反対側の面には、補助ブラケット35が配置されている。そして、この補助ブラケット35に対して、ポテンショメータ34が固定されている。
【0086】
このポテンショメータ34は、第1支持部31cのボス内部に挿入されて反対側の面から突出した回転中心部21aの前記先端部に取り付けられ、当該回転中心部21aの回動量を電気的に検出するように構成されている。以上の構成により、簡単な構成で、前進ペダルアーム21の回動量を電気的に検出することができる。
【0087】
また、本実施形態では、上記のように前進ペダル23と後進ペダル24とを連動させているので、1つのポテンショメータ34によって、前進ペダル23と後進ペダル24の両方の操作量を電気的に検出することができる。例えば図8の左側面図において、図8の中立位置の状態から、回転中心部21aが時計回りに回転したことをポテンショメータ34が検出した場合、前進ペダル23が踏み込まれたと分かるので、当該時計回りの回転量を前進ペダル23の操作量として検出する。一方、図8の中立位置の状態から、回転中心部21aが反時計回りに回転したことをポテンショメータ34が検出した場合、後進ペダル24が踏み込まれたと分かるので、当該反時計回りの回転量を後進ペダル24の操作量として検出する。
【0088】
このように、1つのポテンショメータ34によって、前進ペダル23又は後進ペダル24の何れが踏み込まれたかに関する情報と、前進ペダル23又は後進ペダル24の踏込み量(操作量)と、を得ることができる。
【0089】
一方、本実施形態のトラクタ1は、図略の車体コントローラを備えている。この車体コントローラは、例えばマイクロコントローラとして構成される。前記ポテンショメータ34の検出値は、この車体コントローラに対して送信されるように構成されている。そして、車体コントローラは、ポテンショメータ34の検出値から、前進ペダル23又は後進ペダル24の何れが踏み込まれたかを判断し、この判断結果に基づいて、前述の前進クラッチ40及び後進クラッチ42の切替えを行う。これにより、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作によって、走行機体2の前進及び後進を切り替えることができる。
【0090】
また、前記車体コントローラは、ポテンショメータ34の検出値から得られる前進ペダル23又は後進ペダル24の踏込み量に基づいて、前述の斜板操作シリンダ556を操作するための制御信号を送信する。この制御信号に基づいて斜板操作シリンダ556が駆動され、ポンプ斜板509の傾斜角が調整される。以上の構成により、前進ペダル23及び後進ペダル24を操作することによって、走行機体2の前進及び後進の走行速度を無段階に変速することができる。
【0091】
次に、前後進ペダルユニット10が備える中立復帰機構33について、図6、図12、図13を参照して説明する。図6は前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置にあるときの様子を示す右側面図、図12は前進ペダル23を踏込み操作したときの様子を示す右側面図、図13は後進ペダル24を踏込み操作したときの様子を示す右側面図である。
【0092】
中立復帰機構33は、中立復帰アーム53と、中立復帰ローラ(回転部材)54と、付勢バネ(押圧部材)55と、を備えている。
【0093】
中立復帰アーム53は、ローラ支持軸53aを有しており、このローラ支持軸53aに対して前記中立復帰ローラ54が回転可能に取り付けられている。一方、ペダルブラケット31のアーム取付部31aであって、第1支持部31cが形成されている側の面には、丸棒状に突出する中立復帰アーム支持部31eが配置されている(図9を参照)。中立復帰アーム53は、この中立復帰アーム支持部31eに対して回転可能に支持されている。
【0094】
以上の構成で、中立復帰ローラ54が、中立復帰アーム支持部31eを中心にして回動可能となっている。なお、この中立復帰ローラ54が中立復帰アーム支持部31eを中心にして回動する平面は、前進ペダルアーム21が回転中心部21aを中心にして回動する平面と、略一致するように構成されている。これにより、中立復帰ローラ54が、前進ペダルアーム21に形成されたカム面21dに対して接触可能となっている。
【0095】
また、付勢バネ55は引張コイルバネとして構成されており、図5及び図8等に示すように、中立復帰アーム53と、補助ブラケット35と、を連結するようにして配置されている。この付勢バネ55によって、中立復帰アーム53が、中立復帰アーム支持部31eを中心にして所定方向に回転するような付勢力が加えられている。そして、この付勢力によって、中立復帰アーム53に支持されている中立復帰ローラ54が、前進ペダルアーム21のカム面21dに対して押圧されるように構成されている。
【0096】
一方、前進ペダルアーム21においては、前記カム面21dのほぼ中央部に、中立復帰ローラ54が付勢されている方向に凹(回転中心部21aに向かって凹)となるような凹部21cが形成されている。なお、この凹部21cは、周囲のカム面21dと滑らかに連続して形成されている。そして、前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置にあるとき(図6の状態のとき)に、中立復帰ローラ54の一部が凹部21cに入り込むように構成されている。
【0097】
ここで、中立復帰ローラ54が凹部21cに嵌まっている状態(図6の中立位置の状態)において、引張コイルバネである付勢バネ55の伸びが最も小さくなるように、前記凹部21cの位置及び回転中心部21aの位置等が適宜設定されている。以上のように構成された中立復帰機構33によって、前進ペダル23及び後進ペダル24を自動的に中立位置に復帰させることができる。
【0098】
以下、具体的に説明する。例えば、図6の中立位置から前進ペダル23を踏み込むと、前進ペダルアーム21が回転中心部21aを中心にして回動する。このとき、図12に示すように、凹部21cを含んだカム面21dが回転中心部21aを中心に移動するため、凹部21cから中立復帰ローラ54が外れるとともに、カム面21dが中立復帰ローラ54を押す。この結果、付勢バネ55の付勢力に逆らって、中立復帰アーム53が回動する。
【0099】
すると、付勢バネ55が伸びることにより、前進ペダルアーム21に対する中立復帰ローラ54の押圧力が増大する。これにより、中立復帰ローラ54の押圧力が最も小さい状態(即ち、中立位置)に戻ろうとする力が前進ペダルアーム21に働く。従って、前進ペダル23から足を離す(踏込み操作を止める)と、中立位置まで前進ペダルアーム21が自動的に回動する。
【0100】
また、図13に示すように、後進ペダル24を踏み込んだ場合も、上記の場合と同様に、付勢バネ55の付勢力に逆らって中立復帰アーム53が回動するので、中立位置に戻ろうとする力が後進ペダルアーム22に働く。従って、後進ペダル24から足を離すと、中立位置まで後進ペダルアーム22が自動的に回動する。
【0101】
以上のように、簡単な構成により、前進ペダル23と後進ペダル24の中立復帰機構を実現することができる。なお、前記凹部21cは、何かの弾みで小さな力が加わった程度では前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置から動かないように保持するとともに、前進ペダル23及び後進ペダル24を中立位置から踏み込んで操作するときに適度なクリック感を与える機能も有している。
【0102】
次に、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作量に連動して、エンジン5の回転数を調整するための構成について説明する。
【0103】
本実施形態のトラクタ1においては、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作量に応じて、エンジン5の回転数を変更することができるように構成されている。これにより、オートマチックの乗用車のような感覚でトラクタ1を運転することが可能となっている。
【0104】
具体的には、本実施形態のトラクタ1は、図6等に示すように、アクセル操作アーム65を備えている。このアクセル操作アーム65の長手方向の一端は、中立復帰アーム53に対して、図5等に示すローラ支持軸53aを中心に回転可能に支持されている。一方、アクセル操作アーム65の長手方向の他端には、アクセル操作ワイヤ66の端部が接続されている。このアクセル操作ワイヤ66は、エンジン5のガバナ装置に対して直接又は間接的に接続されている。従って、アクセル操作ワイヤ66を操作することにより、エンジン5の回転数を調整することができる。
【0105】
また、アクセル操作アーム65と中立復帰アーム53は、連結ピン67が挿通されることにより連結されている。これにより、アクセル操作アーム65は(ローラ支持軸53aを中心に回転しないように)中立復帰アーム53と一体化され、中立復帰アーム53とともに中立復帰アーム支持部31eを中心にして回動する構成となっている。
【0106】
この構成で、前進ペダル23又は後進ペダル24を操作することにより中立復帰ローラ54が前進ペダルアーム21のカム面21dによって押され、中立復帰アーム53が回動すると、当該中立復帰アーム53と一体的にアクセル操作アーム65が回動する。これにより、アクセル操作アーム65の端部に接続されたアクセル操作ワイヤ66が引っ張られる。エンジン5の前記ガバナ装置は、アクセル操作ワイヤ66がアクセル操作アーム65によって引っ張られるに従って、エンジン5の回転数が上昇するように構成されている。
【0107】
以上の構成により、前進ペダル23又は後進ペダル24を踏み込むとエンジン5の回転数が上昇し、前進ペダル23及び後進ペダル24の踏込みを解除すると(中立復帰機構33によって中立位置に戻るため)エンジン5の回転数が低下する。これにより、いわゆるオートマチック車感覚の操作が実現されている。以上のように、前進ペダルアーム21のカム面21d、中立復帰ローラ54及び中立復帰アーム53等は、前進ペダル23又は後進ペダル24をオペレータが操作する操作力を(アクセル操作ワイヤ66を介して)ガバナ装置に伝達する機能を有しているということができる。このように前進ペダル23及び後進ペダル24によってエンジン5の回転数を変更する構成は、トラクタ1を路上や圃場間で高速走行させる際に特に便利である。
【0108】
一方で、圃場内で作業機による作業を行う場合には、図略のPTO軸からの出力をムラ無く一定とすることが好ましい。このため、本実施形態のトラクタ1においては、前進ペダル23及び後進ペダル24によるエンジン5の回転数の操作を行わないようにすることもできる。
【0109】
即ち、前記連結ピン67を外すことにより、アクセル操作アーム65が中立復帰アーム53に対して回動可能な状態とすることができる。このように連結ピン67を外した状態では、図14に示すように前進ペダルアーム21の回動に応じて中立復帰アーム53が回動しても、アクセル操作アーム65の先端部が殆ど移動しないので、アクセル操作ワイヤ66が引っ張られない。従って、エンジン5の回転数を、前進ペダル23又は後進ペダル24の操作量によらず略一定とし、PTO軸(図略)に接続された作業機を安定して駆動することができる。なお、この場合、エンジン5の回転数は、図2に示すアクセルレバー30によって調整することができる。
【0110】
以上で説明したように、本実施形態のトラクタ1は、前進ペダル23が取り付けられた前進ペダルアーム21と、後進ペダル24が取り付けられた後進ペダルアーム22と、前進ペダルアーム21及び後進ペダルアーム22を回転可能に支持するペダルブラケット31と、を備える。このトラクタ1は、前進ペダル23を踏込み操作することにより車体の前進操作を行い、後進ペダル24を踏込み操作することにより車体の後進操作を行うように構成されている。ペダルブラケット31はアーム取付部31aを有している。アーム取付部31aは、当該アーム取付部31aの一側に前進ペダルアーム21を回転可能に支持するための第1支持部31cと、他側面に後進ペダルアーム22を回転可能に支持するための第2支持部31dと、を備える。前進ペダルアーム21においては、その一端側には前進ペダル23が取り付けられ、中間部には当該前進ペダルアーム21を第1支持部31cに回転可能に支持させるための回転中心部21aが設けられ、他端側には第1連結部21bが設けられている。一方、後進ペダルアーム22においては、その一端側には後進ペダル24が取り付けられ、中間部には第2連結部22bが設けられ、他端側には当該後進ペダルアーム22を第2支持部31dに回転可能に支持させるための回転中心部22aが設けられている。そして、第1連結部21bと第2連結部22bが、連結部材32によって連結されている。
【0111】
以上の構成で、前進ペダル23を下方に移動させるようにして、回転中心部21aを中心に前進ペダルアーム21を回転すると、第1連結部21bは上方に移動する。一方、第1連結部21bが上方に移動すると、連結部材32によって前記第1連結部21bと連結されている第2連結部22bも上方に移動するため、回転中心部22aを中心に後進ペダルアーム22が回転して、後進ペダル24が上方に移動する。従って、第1連結部21bと第2連結部22bとを連結することにより、前進ペダル23と後進ペダル24を連動させて互い違いに上下させることが可能となる。このように、ペダルアーム21,22に設ける回転中心部21a,22a及び連結部材32の連結部21b,22bの位置を工夫することにより、簡単な構成で、前進ペダル23と後進ペダル24とを連動させる連動機構を実現することができる。
【0112】
また、本実施形態のトラクタ1は、以下のように構成されている。即ち、このトラクタ1は、中立復帰ローラ54を回転可能に支持する中立復帰アーム53と、中立復帰ローラ54を前進ペダルアーム21に対して押圧するための付勢バネ55と、を備える。中立復帰ローラ54が押圧されている前進ペダルアーム21には、中立復帰ローラ54が押圧される方向に凹となる凹部21cが形成されている。そして、凹部21cは、中立復帰ローラ54が当該凹部21cに入り込むときに前進ペダル23及び後進ペダル24が中立位置となるように形成されている。
【0113】
これにより、部品点数の少ない簡素な構成の中立復帰機構33を得ることができる。
【0114】
また、本実施形態のトラクタ1は、以下のように構成されている。即ち、このトラクタ1において、前進ペダルアーム21は、回転中心部21aをアーム取付部31aに貫通させて当該アーム取付部31aの反対側から突出させている。そして、前記突出した部分に、当該回転中心部21aの回転量を電気的に検出するためのポテンショメータ34を設けている。
【0115】
これにより、部品点数が少なく簡単な構造で、ペダルの操作量を検出することができる。
【0116】
また、本実施形態のトラクタ1は、以下のように構成されている。即ち、このトラクタ1において、ペダルブラケット31は、略垂直に形成されたアーム取付部31aと、略水平に形成されたステップ取付部31bと、で構成される。そして、ステップ取付部31bは、運転席のステップ板12に取り付けられる。
【0117】
これにより、ペダルブラケット31に対してペダルアーム21,22をコンパクトに取り付けることができる。また、ペダルブラケット31に対してペダルアーム等の構成が支持されており、しかもそのペダルブラケット31をステップ板12に取り付ける構成であるので、ペダルアーム等の各構成をユニット的にまとめた状態で車体本体に対して簡単に取り付けることができる。
【0118】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0119】
無段変速機はインライン式のHSTに限らず、例えば通常のHSTでも良い。
【0120】
上記実施形態では前進ペダルアーム21側に中立復帰機構33を設けたが、この構成に代えて後進ペダルアーム22側に中立復帰機構33を設けても良い。
【0121】
また、上記実施形態では前進ペダルアーム21の回転量(正確には前進ペダルアーム21の回転中心部21aの回転量)をポテンショメータ34で検出する構成としたが、後進ペダルアーム22の回転量をポテンショメータで検出するように構成しても良い。
【0122】
また、前進ペダル23及び後進ペダル24の操作量を電気的に検出するための検出機構は、ポテンショメータに限らず、例えばロータリエンコーダでも良い。
【符号の説明】
【0123】
1 トラクタ
21 前進ペダルアーム(第1ペダルアーム)
21a 回転中心部
21b 第1連結部
21c 凹部
22 後進ペダルアーム(第2ペダルアーム)
22a 回転中心部
22b 第2連結部
23 前進ペダル(第1ペダル)
24 後進ペダル(第2ペダル)
31 ペダルブラケット
31a アーム取付部
31b ステップ取付部
31c 第1支持部
31d 第2支持部
33 中立復帰機構
53 中立復帰アーム
54 中立復帰ローラ(回転部材)
55 付勢バネ(押圧部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ペダルが取り付けられた第1ペダルアームと、
第2ペダルが取り付けられた第2ペダルアームと、
前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームを回転可能に支持するペダルブラケットと、
を備え、
前記第1ペダル及び前記第2ペダルのうち、一方のペダルを踏込み操作することにより車体の前進操作を行い、他方のペダルを踏込み操作することにより車体の後進操作を行う作業車両において、
前記ペダルブラケットはアーム取付部を有しており、
前記アーム取付部は、当該アーム取付部の一側に前記第1ペダルアームを回転可能に支持するための第1支持部と、他側に前記第2ペダルアームを回転可能に支持するための第2支持部と、を備え、
前記第1ペダルアームにおいては、その一端側には前記第1ペダルが取り付けられ、中間部には当該第1ペダルアームを前記第1支持部に回転可能に支持させるための回転中心部が設けられ、他端側には第1連結部が設けられており、
前記第2ペダルアームにおいては、その一端側には前記第2ペダルが取り付けられ、中間部には第2連結部が設けられ、他端側には当該第2ペダルアームを前記第2支持部に回転可能に支持させるための回転中心部が設けられており、
前記第1連結部と前記第2連結部が、連結部材によって連結されていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両であって、
回転部材を回転可能に支持する中立復帰アームと、
前記回転部材を、前記第1ペダルアーム又は前記第2ペダルアームに対して押圧するための押圧部材と、
を備え、
前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームのうち、前記回転部材が押圧されているペダルアームには、前記回転部材が押圧される方向に凹となる凹部が形成されており、
前記凹部は、前記回転部材が当該凹部に入り込むときに前記第1ペダル及び前記第2ペダルが中立位置となるように形成されていることを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業車両であって、
前記第1ペダルアーム及び前記第2ペダルアームのうち何れか一方は、前記回転中心部を前記アーム取付部に貫通させて当該アーム取付部の反対側から突出させるように構成し、
前記突出した部分に、当該回転中心部の回転量を電気的に検出するための検出機構を設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の作業車両であって、
前記ペダルブラケットは、略垂直に形成された前記アーム取付部と、略水平に形成されたステップ取付部と、から構成され、
前記ステップ取付部がステップに取り付けられることを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−277554(P2010−277554A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132480(P2009−132480)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】