説明

作業車

【課題】 運転座席下の空間をラジエータの配設用空間として有効利用しながら、運転座席に搭座する運転者への騒音を簡単な構造で抑制できるようにする。
【解決手段】
運転座席5の横側部に設けられた車体外板50aとの間に吸気用間隙sを隔てて対向するように、車体外板50aの内向き面に対面させてラジエータ42を配置し、そのラジエータ42に対する外気取り込み口を、相対向するラジエータ42と車体外板50aとの間で、下方もしくは後方に開口させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪との間に配備された運転部の後方下部にエンジンが設けられ、かつ運転部における運転座席の下側空間にエンジン冷却用のラジエータが設けられている作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように、エンジンを運転座席の後方側に備え、かつ運転座席の下側空間をラジエータの配設用空間として利用できるようにした技術としては、従来より下記の特許文献1に記載のものが知られている。
この構造では、座席支持体を兼ねる遮蔽カバーと運転座席の横側部に位置する車体外板とを備えて、操縦者が位置する運転部空間と、エンジンが搭載されえる後方下部空間とを区画するように構成されている。そして、ラジエータに対する外気の取り込みは、ラジエータの吸気面に対向配置した車体外板に吸気用スリットを形成することによって車体の横側方から吸い込むように構成されていた。
【0003】
【特許文献1】特開2005−178782号公報(段落番号〔0018〕、及び、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構造では、運転座席下の空間をラジエータの配設用空間として利用できる点では有用なものであるが、ラジエータの吸気面に対向する位置の車体外板に吸気用のスリットを形成するものであるため、次のような問題点がある。
すなわち、この特許文献1に記載の構造では、運転座席下の空間をできるだけ有効に利用するように、ラジエータを車体外板に極力近接させて配置している。この構造において、ラジエータ側での吸気抵抗を少なくするように車体外板に形成されるスリットの開口面積を大きくすると、エンジン側での騒音や冷却ファンの風切り音が、運転座席に搭座する運転者に届き易くなるという問題がある。逆に、スリットの開口面積を小さくすると、ラジエータ側での吸気抵抗が増加するとともに、スリットを通過する吸気の風速が増大することによって風切り音が大きくなるという不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、運転座席下の空間をラジエータの配設用空間として有効利用しながら、運転座席に搭座する運転者への騒音を簡単な構造で抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、次のとおりである。
〔解決手段1〕
本発明は、請求項1の記載のように、前輪と後輪との間に配備された運転部の後方下部にエンジンが設けられ、前記運転部における運転座席の下側空間にエンジン冷却用のラジエータが設けられている作業車において、前記運転座席の横側部に設けられた車体外板との間に吸気用間隙を隔てて対向するように、前記車体外板の内向き面に対面させてラジエータを配置し、そのラジエータに対する外気取り込み口を、相対向するラジエータと前記車体外板との間で、下方もしくは後方に開口させてあることを特徴とする。
【0007】
〔作用及び効果〕
上記構成によれば、次の作用および効果がある。
すなわち、ラジエータに対する外気取り込み口は、相対向するラジエータと前記車体外板との間で、下方もしくは後方に開口させてあるので、その外気取り込み口の開口面積としては、単なるスリットを形成する場合よりも大きく設定し易く、吸気抵抗を低減し易いものである。
また、開口面積を大きくできない場合でも、外気取り込み口が運転座席に対して、下方もしくは後方という、運転座席に搭座する運転者からは比較的遠く、かつ車体外板によって遮られた箇所に存在することになるので、車体外板の横側面に形成する場合に比較して、騒音の程度を抑制できる利点がある。
【0008】
〔解決手段2〕
本発明の作業車における第2の解決手段では、請求項2の記載のように、ラジエータの給水口をラジエータ本体から分離させ、運転座席のシート面から外れた箇所で、ラジエータ本体の上端およびエンジンの冷却ジャケットよりも高い位置に設け、かつ、この給水口を、エンジンとラジエータ本体とを接続する冷却水供給管の途中に設けたものである。
【0009】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段2にかかる本発明の作業車では、前記解決手段1にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、座席下空間をラジエータの配設用空間として利用した場合、そのラジエータに対する給水を行うには、吸水口がラジエータ本体に一体形成されているものであれば、給水作業のつど、運転座席部分を取り外し、若しくは開放構造を設けて開閉することによって行う必要がある。
本発明では、上記のように、給水口を、運転座席のシート面から外れた箇所で、ラジエータ本体の上端およびエンジンの冷却ジャケットよりも高い位置において、エンジンとラジエータ本体とを接続する冷却水供給管の途中に設けたことにより、運転座席部分を取り外し、若しくは開閉操作を要することなく給水でき、給水関連作業の簡素化を図り得る利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔作業車の全体構成〕
図1、図3に示すように、左右一対の操向自在なタイヤ車輪で構成された前輪1と、左右一対のタイヤ車輪で構成された後輪2とを、車体フレーム3の前後に振り分けて配置し、その前後輪1,2の間に、前後輪1,2を駆動する原動部4と、運転座席5および操縦操作部6を備えた運転部7とを設けてある。そして、前記車体フレーム3の後部には、荷台8を荷台後部に位置する車体横向きの軸芯x1まわりで上下揺動自在に装備して作業車を構成してある。
前記原動部4は、運転部7の後方下部に配設されていて、水冷式エンジン40と、トランスミッションケース41とを左右に振り分け配置して、これらを前後に並べる場合に比べて前後長を短縮してあり、トランスミッションケース41からの出力が後輪2、および前輪1に伝達されるように構成されている。
【0011】
〔車体フレームの構成〕
車体フレーム3は、図1、図2に示す如く構成してある。
すなわち、左右一対の角鋼管材を主材とする車体メインフレーム31と、成形加工された金属板材で構成された前部側メインフレーム32と、それらの車体メインフレーム31と前部側メインフレーム32との間にわたって設けられた丸鋼管材でなる中間部フレーム33との組み合わせで構成されている。
【0012】
前記車体メインフレーム31は、左右一対の長尺前後フレーム31aと、その長尺前後フレーム31aの後端部どうしを連結している後連結フレーム31bと、長尺前後フレーム31aの中間部どうしを連結している中連結フレーム31cとを備えて構成されている。
そして、前記左右一対の長尺前後フレーム31a,31aは、その前後方向の中間部で段差部分を形成するように上下方向の屈曲部分を有し、前端側では、後端側に比べて左右の長尺前後フレーム31a,31a同士の間隔が狭くなるように、左右方向で屈曲させた屈曲部分を有している。
前記中間部での段差部分には、左右夫々の長尺前後フレーム31a,31aの高い位置にある部分と、低い位置にある部分とにわたってL字状に屈曲した座席支持フレーム31dを一体に接合してあり、段差部分の強度アップと運転座席5の支持手段とを兼ねるように構成されている。
また、前記左右一対の長尺前後フレーム31a,31aの中間部における段差部分のうち、低い位置にある部分には、中間部フレーム33の中間部分に相当する低い部分を連結固定するための横張りフレーム31eが横向きに延設されている。さらに、この左右一対の長尺前後フレーム31a,31aの前端部は、後述するように中間部フレーム33に連結固定されている。
【0013】
前記前部側メインフレーム32は、前記車体メインフレーム31の左右の長尺前後フレーム31a,31aにわたって載置状態で固定される平板状の床フレーム32aと、その床フレーム32aに引き続いて前方斜め上方に立ち上がり、かつ前後方向に延出される縦壁状フレーム32bと、その縦壁状フレームの前端側で下端側に連設される横フレーム32cとで構成されている。
また、この前部側メインフレーム32には、後述する中間部フレーム33との協働で、前輪1のサスペンション機構10を支持するためのサスペンション支持フレーム32dが、前記縦壁状フレーム32bの上端部と中間部フレーム33のフレーム材との間で固定されている。
【0014】
前記中間部フレーム33は、運転部空間の床側、前側、後側、および天井側に沿って屈曲形成された左右一対の横側部フレーム33a,33aと、その左右の横側部フレーム33a,33a同士を直線的に連結する複数本の直杆状連結フレーム33bと、横側部フレーム33a,33aの前側でさらに前方側へ張り出すようにV字状に屈曲させた前方突出フレーム33cとを備えている。
そして、左右一対の横側部フレーム33a,33aは、運転部7の床側で前記左右一対の長尺前後フレーム31a,31aの横張りフレーム31eの横外端と、前記前部側メインフレーム32の床フレーム32aの横外端とに連結され、さらに、運転部7の後側では、腕杆33dを介して車体メインフレーム31の左右の長尺前後フレーム31a,31aに溶接固定されている。
また、この中間部フレーム33は、運転部7の前側では、前側に位置する直杆状連結フレーム33bから下方の長尺前後フレーム31a,31aの前端に対して溶接固定された縦フレーム33eを介して連結され、さらに前方突出フレーム33cも、さらに前方側の別の縦フレーム33fを介して前部側メインフレーム32の前端側に連結固定されている。
【0015】
前記中間部フレーム33には、運転部7の後側に相当する箇所で、左右の横側部フレーム33a,33aに、搭乗者が肘掛けとして用いることが可能な手摺り34を連設してある。
そして、この中間部フレーム33における左右一対の横側部フレーム33a,33aは、左右一対の転倒保護フレーム71,72としての機能をも兼ねるように構成されたものである。
また、中間部フレーム33における左右一対の横側部フレーム33a,33aは、その上下方向の中間位置の接続部74で上下に分割可能である。
【0016】
〔運転部の構成〕
運転部7においては、前部側メインフレーム32の床フレーム32a上に運転部フロア70が構成され、その前方側にステアリングホイール60を備えた操縦操作部6が配設され、後方側に運転座席5が配設されている。
【0017】
運転座席5は、車体メインフレーム31の座席支持フレーム31d、および中間部フレーム33の両横側部フレーム33aに固定された座席載置台50と、その座席載置台50の上向きの載置面に対して前端側の横軸芯x2周りで起伏揺動自在に装着された着座シート51と、前記座席載置台50の後方立ち上がり部分に固定された背当てシート52とで構成されている。
【0018】
図1および図3,4に示すように、運転座席5の座席載置台50の下側空間のうち右横側部近く位置には、ラジエータ42が座席載置台50の下側空間に潜り込む状態で配置され、座席載置台50の下側空間のうち左横側部近く位置には、燃料タンク46が配置されている。
上記ラジエータ42における熱交換部を内蔵するラジエータ本体43の吸気面42aと座席載置台50の右横側面50aとの間には、外気吸入用の導風経路rが形成されるように、所定の間隙sを形成してある。これによって、ラジエータ42の吸気面42aに対しては、ラジエータ42の背面側(機体内方側)に配置したラジエータファン42bの吸引作用に伴って、座席支持台50の下方側から、および後方側から外気が導入できるように構成されている。
上記座席載置台50の右横側面50aは、車体の外装部材としての車体外板を構成するものであり、この車体外板を利用して前記吸気用の導風経路rを構成している。
【0019】
図1および図3に示すように、座席載置台50の後方側には、延長遮蔽板53が延設されている。この延長遮蔽板53は、座席載置台50の後端縁に接続されるようにして機体後方側へ延長されているものであり、座席載置台50の右横側面50aで覆いきれなかったラジエータ42の吸気面42aの後方下方側に対向する範囲を横側方から覆うように対向し、かつ、さらに後方まで延長されている。
【0020】
〔原動部の構成〕
前記原動部4には、水冷式エンジン40が左側に位置し、トランスミッションケース41が右側に位置する状態で、左右に並置されている。そして、これらの水冷式エンジン40およびトランスミッションケース41は、平面視で前記燃料タンク46およびラジエータ42の左右間隔幅内で、その機体後方側に配設されている。
すなわち、図3に示すように、エンジン40およびトランスミッションケース41は、前記燃料タンク46およびラジエータ42に対して、前後方向でも左右方向でも平面視で位置ずれした状態に配置されていて、原動部4全体の前後方向寸法を短くするように工夫されている。
【0021】
水冷式エンジン40とラジエータ42とは、エンジンの冷却水ジャケット(図外)からラジエータ42の上端側へ熱交換後の冷却水を取り出す戻し側循環パイプ45aと、ラジエータ42の下端端側から冷却ジャケットへ冷却水を供給する供給側循環パイプ45bとからなる冷却水循環パイプ45が接続されている。
そして、本発明の前記ラジエータ42は、その給水口44部分が、熱交換部を内蔵するラジエータ本体43とは別体に構成されていて、その給水口44部分が、図1、図3、および図5に示すように、運転座席5の着座シート51から外れた箇所に設けられている。
【0022】
つまり、給水口44は、ラジエータ本体43の上端およびエンジン40の冷却ジャケットよりも高い位置に設けられた冷却水循環パイプ45の途中箇所で、かつ、機体の横外側から給水作業を行い易いように、比較的横外側に近い位置に、例えば、車体メインフレーム31の長尺前後フレーム31aの近く位置に設けてある。
【0023】
また、この給水口44が配置された箇所は、荷台8が通常の走行状態のように下げられた状態であると、外部から給水口44を開閉操作することができないように、荷台8の下側空間、もしくは、荷台8と運転座席5との間の空間である。したがって、荷台8を横軸芯x1周りで上昇作動させることによって、給水口44周りの空間を開放して外部からの操作が可能であるように配設位置が設定されている。この実施形態において給水口44が設けられる位置は、冷却水循環パイプ45の最高位置である。
【0024】
図3中における符号90は、エンジン燃焼用空気に除塵作用するエヤークリーナ、符号91はプレフィルター、符号92はチャコールキャニスターである。
【0025】
〔他の実施形態の1〕
[1] 上記の実施形態では、ラジエータ42を走行機体の右横側方へ配置した例を示したが、これに限らず、ラジエータ42を走行機体の左横側方へ配置したものであっても差し支えない。
【0026】
〔他の実施形態の2〕
[2] 運転座席5の座席載置台50の横側部に設けられた車体外板との間に形成される吸気用間隙sは、ラジエータ42と前記車体外板との間で、下方もしくは後方の何れか一方のみに開口するものであってもよく、その両方に開口するものであってもよい。
【0027】
〔他の実施形態の3〕
[3] ラジエータ42を、ラジエータ本体43と給水口44とを別々に構成した例を示したが、これに限らずラジエータ本体43と給水口44とを一体に構成した通常のラジエータ42を採用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】作業車全体の側面図
【図2】車体フレーム全体の斜視図
【図3】運転座席と原動部との位置関係を示す平面図
【図4】ラジエータへの吸気構造部分を示す断面図
【図5】原動部の背面図
【符号の説明】
【0029】
3 車体フレーム
5 運転座席
6 操縦操作部
7 運転部
42 ラジエータ
42a 吸気面
43 ラジエータ本体
50 座席載置台
50a 右横側面(車体外板)
s 吸気用間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪との間に配備された運転部の後方下部にエンジンが設けられ、前記運転部における運転座席の下側空間にエンジン冷却用のラジエータが設けられている作業車であって、
前記運転座席の横側部に設けられた車体外板との間に吸気用間隙を隔てて対向するように、前記車体外板の内向き面に対面させてラジエータを配置し、そのラジエータに対する外気取り込み口を、相対向するラジエータと前記車体外板との間で、下方もしくは後方に開口させてあることを特徴とする作業車。
【請求項2】
ラジエータの給水口をラジエータ本体から分離させ、運転座席の着座シートから外れた箇所で、ラジエータ本体の上端およびエンジンの冷却ジャケットよりも高い位置に設け、かつ、この給水口を、エンジンとラジエータ本体とを接続する冷却水循環パイプの途中に設けてある請求項1記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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