説明

使用済み炭酸ガスの再生方法

【課題】炭酸ガス洗浄手段から排気される使用済み炭酸ガスを、再使用可能な高純度の液化炭酸ガスとして効率的に再生することのできる使用済み炭酸ガスの再生方法を提供する。
【解決手段】炭酸ガス洗浄手段から排気された使用済み炭酸ガスを蒸留塔1に導入して精留し、この使用済み炭酸ガスに含まれる不純物を除去する蒸留工程と、上記蒸留塔1から抽気される高純度の気化炭酸ガスを、凝縮器3に導入して液化する再液化工程とを備え、この再液化後の再生炭酸ガスを、上記炭酸ガス洗浄手段での洗浄に再利用するという構成をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の液化炭酸ガスを洗浄液とした炭酸ガス洗浄装置から排気される使用済み炭酸ガスから、汚染物や不要物等を除去して炭酸ガスを浄化し、上記炭酸ガス洗浄装置の洗浄液として再利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類,寝具等の布製品をドライクリーニングする方法として、有機溶剤を用いず、被洗浄物の表面や内部等に残留しにくい炭酸ガス(二酸化炭素)を洗浄剤として用いたクリーニング方法が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
また、炭酸ガスを洗浄剤とした洗浄方法は、半導体製造プロセスにおける半導体基板の洗浄、電気・電子部品や光学部材からの不要物の除去等にも用いられており、液化炭酸ガス,ドライアイススノー,ドライアイスフレーク,亜臨界または超臨界状態の炭酸ガス、あるいは、洗浄力を向上させる添加剤を添加した液化炭酸ガス等を使用した炭酸ガス洗浄方法が種々提案されている(例えば、特許文献2〜3等を参照)。
【0004】
ところで、これらの炭酸ガス洗浄方法に用いる洗浄装置は、通常、不純物が少なく、高純度の炭酸ガスを洗浄に多量に使用する。しかしながら、汚染物等を含む洗浄後の炭酸ガスを、使用毎に洗浄装置外(大気中)に放出していては、地球温暖化等の環境面で好ましくなく、そのコストも嵩んでしまう。
【0005】
そこで、これら炭酸ガス洗浄装置には、洗浄槽から排気される液化炭酸ガスを、汚染物等を除去するフィルタを通して浄化・再生する回収工程が設けられている。また、洗浄終了後に、洗浄槽内に残る高圧のガス(気化炭酸ガス)を圧縮して回収するガス回収装置が備え付けられているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−516838号公報
【特許文献2】特開2002−237481号公報
【特許文献3】特開2006−297371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなフィルタを通して汚染物等を除去する方法では、被洗浄物の洗浄によって炭酸ガスに混入した汚染物や不要物等の不純物を、完全に取り除くことができず、高純度の炭酸ガスが必要とされる電気・電子部品や光学部材の洗浄には、上記再生した炭酸ガスを使用できないという問題があった。
【0008】
また、特に、精密な加工処理を必要とする半導体部品工業分野等において、例えば半導体ウエハのように、微細な異物の管理を行なわねばならない被洗浄物の場合は、上記炭酸ガス中に含まれている油分やパーティクル等が、被洗浄物に付着残留したり、被洗浄物を傷つけたりして、大きな問題となってしまう。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、炭酸ガス洗浄手段から排気される使用済み炭酸ガスを、再使用可能な高純度の液化炭酸ガスとして効率的に再生することのできる使用済み炭酸ガスの再生方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法は、炭酸ガス洗浄手段から排気された使用済み炭酸ガスを蒸留塔に導入して精留し、この使用済み炭酸ガスに含まれる不純物を除去する蒸留工程と、上記蒸留塔から抽気される高純度の気化炭酸ガスを、凝縮器に導入して液化する再液化工程とを備え、この再液化後の再生炭酸ガスを、上記炭酸ガス洗浄手段での洗浄に再利用するという構成をとる。
【0011】
すなわち、本願の発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ね、その結果、被洗浄物由来の汚染物等を含む炭酸ガス(洗浄液)を浄化・再生する場合には、つぎの(1)〜(3)の手法が有効なことを見出した。
(1)油分や高沸点有機物等を除去するには蒸留精製が有効なこと。
(2)パーティクルや低沸点有機物を除去するにはフィルタおよび/または吸着剤が有効なこと。
(3)また、これらの組み合わせにより、より高純度な炭酸ガスを精製可能なこと。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のような知見を基礎としてなされたものであり、本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法は、炭酸ガスを用いて被洗浄物を洗浄する工程から排気された使用済み炭酸ガスを、蒸留塔に導入して精留し、この精留後に上記蒸留塔から抽気される気化炭酸ガスを、凝縮器を用いて再液化することにより、上記使用済み炭酸ガス中の不純物等を、効率的にかつ高精度に除去することができる。したがって、本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法は、炭酸ガス洗浄手段から排気された炭酸ガスを、大気中に放出することなく、有効に再生し活用することが可能になる。しかも、本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法は、地球環境にも優しく、経済的にも優れる。
【0013】
また、本発明において、そのなかでも、上記蒸留塔から抽気される気体状態の炭酸ガスを、吸着容器に導入して上記炭酸ガスに含まれる不純物を吸着除去した後、上記凝縮器に導入して液化する場合は、使用済み炭酸ガス中のパーティクルや低沸点有機物等が、効率的に除去される。したがって、この使用済み炭酸ガスの再生方法は、上記蒸留による高純度に加え、再生炭酸ガス中に半導体基板等を傷付けるおそれのあるパーティクル等が非常に少ない、という利点を有する。
【0014】
そして、本発明において、それらのなかでも、特に、加熱用熱交換器,冷却用熱交換器,圧縮機,膨張機構および作動流体からなるヒートポンプを備え、このヒートポンプを用いて、上記蒸留工程の蒸留塔に温熱を供給するとともに、上記再液化工程の凝縮器に冷熱を供給する場合には、このヒートポンプ内の作動流体を通じて、上記蒸留塔側で必要な熱エネルギー(温熱)と、上記凝縮器側で必要な熱エネルギー(冷熱)とが、高効率で輸送・交換される。したがって、本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法は、蒸留工程の加熱源と再液化工程の冷却源を個別に設けた従来の方法に比べ、その運転にかかるエネルギーやコストを大幅に低減することができる。
【0015】
なお、この使用済み炭酸ガスの再生方法においては、液化炭酸ガスを気化させるために必要な熱量(温熱)と、気化した炭酸ガスを液化するのに必要な熱量(冷熱)とが、ほぼ等しいことから、上記ヒートポンプサイクルに後から追加するエネルギー(すなわちランニングコスト)が非常に少なく済むという利点がある。また、蒸留工程の加熱源と再液化工程の冷却源とを個別に設置する必要がないため、設備を簡素化できるという利点も有する。
【0016】
さらに、本発明において、ヒートポンプを用いる再生方法のなかでも、特に、上記ヒートポンプの作動流体を上記蒸留塔の蒸発器および上記凝縮器に循環させる流路を設け、上記ヒートポンプの加熱用熱交換器に上記蒸発器の機能を兼用させ、上記冷却用熱交換器に上記凝縮器の機能を兼用させて、上記蒸留工程における炭酸ガスの加熱と上記再液化工程における炭酸ガスの冷却とに必要なエネルギーを、上記ヒートポンプの作動流体を通じて直接供給する場合は、つぎのような利点が生じる。すなわち、このようにすると、上記蒸留工程における液化炭酸ガスの加熱と、上記再液化工程における気化炭酸ガスの冷却とが、二次的な熱媒体や蓄熱手段等を介さず、ヒートポンプの作動流体でダイレクトに行なわれる。したがって、この使用済み炭酸ガスの再生方法は、さらに熱エネルギーのロスが少なく、高い熱効率で炭酸ガスを浄化再生することができる。
【0017】
なお、本願における「ヒートポンプ」とは、加熱用熱交換器,冷却用熱交換器,圧縮機,膨張機構およびこれらを循環する流路と、この流路の中に充填された作動流体等から構成され、上記圧縮機による圧縮によって生じる高温の作動流体により、上記加熱用熱交換器を通過する他の液体や気体等を加熱するとともに、上記膨張機構を通過した時に起こる作動流体の膨張によって生じる低温の作動流体により、上記冷却用熱交換器を通過する他の液体や気体等を冷却するシステム,回路あるいはそのサイクルそのものの総称である。したがって、作動流体により系内で熱エネルギーを輸送する蒸気圧縮式ヒートポンプや気体液化式ヒートポンプ等は包含するが、発熱・吸熱反応を利用した吸収式ヒートポンプや吸着式ヒートポンプ等のいわゆるケミカルヒートポンプは包含しない。また、ここで言う「膨張機構」は、「膨張弁」あるいは「オリフィス」を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の第1実施形態を示すフロー図である。
【図2】本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の第2実施形態を示すフロー図である。
【図3】本発明の使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の第3実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の概略構成を説明するフロー図である。
【0021】
ここで、図1中の一点鎖線より右側のブロックは、本実施形態の炭酸ガス再生装置に、汚染物等を含む使用済み(被洗浄物を洗浄した後の)炭酸ガスを供給する洗浄工程(炭酸ガス洗浄手段)の一構成例であり、図中の符号21は高純度の液化炭酸ガスを貯留する洗浄液タンク、22は被洗浄物を洗浄するための洗浄槽、23は洗浄後の使用済み炭酸ガスから異物等を取り除くトラップ、24は洗浄後の使用済み炭酸ガスを貯留する回収タンク、25は回収タンク24から使用済み炭酸ガスを圧送するためのポンプ、26は上記洗浄槽22から排気されたガスを圧縮して回収するための圧縮機、27は高純度の未使用液化炭酸ガスを補給するためのリザーバタンクを示す。
【0022】
また、図1中の二点鎖線で描かれた上記洗浄工程は、上記洗浄槽22内に被洗浄物(例えば半導体ウエハ等)を収容して密閉した後、この洗浄槽22に洗浄液タンク21から液化炭酸ガス(洗浄液)を供給し、その液化炭酸ガスを洗浄槽22内の被洗浄物上に吹き付ける等の操作により、被洗浄物に付着した油分やパーティクル等の汚染物を除去する。そして、洗浄に用いられた炭酸ガスは、液相と気相に分けて回収される。すなわち、洗浄槽22内の液相(液化炭酸ガス)は、洗浄槽22下側の流路から排気され、トラップ23によって異物等を取り除いた後、回収タンク24に貯留される。また、洗浄槽22の上部に残る気相(気化炭酸ガス)は、排気口から圧縮機26に導入され、この圧縮機26で圧縮されて、同様に回収タンク24に貯留される。
【0023】
本実施形態における炭酸ガス再生装置は、図1の実線部分で示すように、上記炭酸ガス洗浄手段から排気された使用済み炭酸ガスを精留する蒸留塔1と、この蒸留塔1から抽気される気化炭酸ガスを液化する凝縮器3と、これら蒸留塔1と凝縮器3との間に配設された吸着筒2(吸着容器)と、上記蒸留塔1の蒸発器4に温熱を供給する加熱源6と、上記凝縮器3に冷熱を供給する冷却源7と、これらを相互に接続する流路(配管等)とから構成されている。
【0024】
蒸留塔1は、蒸発缶とその内部に配置された精留棚等を備え、後述する加熱源6から供給された温熱(温水等)を用いて、上記蒸発缶内に導入された使用済み炭酸ガスを精留するためのものである。上記蒸留塔1の下方には、加熱コイルを有する蒸発器4が配置され、その上方には、複数段の棚板(精留棚)または規則充填物(パッキング)等が配設されている。また、蒸留塔1の上部には、気化した炭酸ガスを吸着筒2へ供給する流路が上方に延びているとともに、その最下部には、上記蒸発缶内で蒸発せず、液相として濃縮された不純物等を、廃液として系外へ排気するための配管等が配設されている。なお、蒸留塔1の上部には、凝縮器3で再液化された高純度の液化炭酸ガスの一部を、上記蒸留塔1内の棚板の上方に還流液として還流させるための流路が接続されている。
【0025】
凝縮器3は、上記蒸留塔1で蒸発して発生した高純度の気化炭酸ガスを、後述する冷却源7から供給された冷熱(冷水等)を用いて液化するためのものであり、その下側には、再液化後の再生炭酸ガスを上記洗浄工程の洗浄液タンク21に供給する(戻す)流路と、この液化炭酸ガスの一部を、先に述べた蒸留塔1の精留棚の上方に還流させるための流路とが設けられている。
【0026】
また、蒸留塔1と凝縮器3との間に配設された吸着筒2は、その内部にフィルタあるいは吸着剤等が収納されており、上記蒸留塔1で発生した気体状態の炭酸ガスを導入・通過させるようになっている。なお、この吸着筒2は、洗浄対象物によっては使用しない場合もあるため、これを迂回して蒸留塔1で気化した炭酸ガスを凝縮器3に供給する流路(バイパスライン)が設けられている。
【0027】
また、この吸着筒2に収容される吸着剤としては、活性炭,アルミナ,シリカゲル,モレキュラシーブ等があげられ、これらの中の1種もしくはこれらを組み合わせて使用される。そして、上記吸着筒2に収容されるフィルタは、洗浄対象物の要求に応じてメッシュサイズが選択されるが、一般的には1μm程度のインラインフィルタが使用される。なお、フィルタには他のメッシュサイズのフィルタを用いてもよく、さらには、これら吸着剤とフィルタとを併用してもよい。
【0028】
そして、蒸留塔1の蒸発器4(加熱コイル)に温熱を供給する加熱源6としては、ヒータやボイラ等の他、液化炭酸ガスを加熱可能な種々の熱源を使用することができる。また、凝縮器3の冷却コイル5に冷熱を供給する冷却源7としては、冷水製造装置や装置外の空気(大気)の他、気化炭酸ガスを冷却可能な種々の熱源を使用することができる。
【0029】
上記構成の炭酸ガス再生装置を用いた使用済み炭酸ガスの再生は、まず、ポンプ25を用いて、上記洗浄工程の回収タンク24に貯留された使用済み炭酸ガスを蒸留塔1の蒸発缶内に導入する。
【0030】
そして、加熱源6から供給された温熱により蒸発器4の加熱コイルを加温して、上記蒸発缶内の液化炭酸ガスを蒸発させる。この時、蒸留塔1の下部では、使用済みの液化炭酸ガスが、被洗浄物に由来する油分や高沸点有機物等を液相に残して蒸発することから、上記使用済み炭酸ガスから、これら不純物が取り除かれる。
【0031】
また、蒸留塔1の上部には、上記高純度の液化炭酸ガスの一部を凝縮器3から還流させる流路が接続されていることから、この蒸留塔1内で、凝縮器3から還流した液化炭酸ガス(還流液)と、蒸発器4により蒸発した気体状態の炭酸ガスとが向流接触し、上記気化した炭酸ガスがさらに高純度となる。
【0032】
つぎに、高沸点有機物等が除去され高純度となった気体状態の炭酸ガスは、吸着筒2に導入され、その内部に収容されたフィルタや吸着剤等によって、上記蒸留塔1で取り除ききれなかったパーティクルや低沸点有機物等がろ過・吸着される。
【0033】
その後、この高純度でかつパーティクル等を含有しない気化炭酸ガスは、凝縮器3に導入され、この凝縮器3の冷却コイル5によって冷却されて液化する。また、この液化した炭酸ガスは、その大部分が上記洗浄工程の洗浄液タンク21に貯留されて、被洗浄物の洗浄に再利用される。
【0034】
上記のように、本実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法は、蒸留塔1と凝縮器3を組み合わせることにより、使用済み炭酸ガス中の不純物等を効率的に除去することができる。したがって、本実施形態の使用済み炭酸ガスの再生方法は、炭酸ガス洗浄手段から排気された炭酸ガスを、大気中に放出することなく、有効に活用することが可能になる。
【0035】
また、この炭酸ガス再生方法によれば、使用済み炭酸ガス中のパーティクルや低沸点有機物等が高精度に除去される。したがって、本実施形態の再生方法により得られた再生炭酸ガスは、上記蒸留による高純度に加え、再生炭酸ガス中に、油分や半導体基板等を傷付けるおそれのあるパーティクル等が非常に少なく、上記半導体基板等の洗浄工程に、好適に再利用することができる。
【0036】
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の概略構成を説明するフロー図である。なお、第1実施形態と同様の機能を有する構成部材には同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0037】
本実施形態における炭酸ガス再生装置の特徴は、第1実施形態における加熱源6と冷却源7に代えて、上蒸留工程の蒸留塔1に必要な温熱と、上記再液化工程の凝縮器3に必要な冷熱とを供給するヒートポンプが配設されている点である。また、このヒートポンプと蒸留塔1との間には、上記ヒートポンプで使用している作動流体とは異なる熱媒(本実施形態においては温水)を循環させる熱媒循環流路Hが設けられているとともに、上記ヒートポンプと凝縮器3との間には、上記作動流体とは異なる冷媒(本実施形態においては冷水)を循環させる冷媒循環流路Cが設けられている。
【0038】
上記ヒートポンプは、圧縮機10−加熱用熱交換器12−膨張温度調節用熱交換器14−膨張弁11−冷却用熱交換器13−圧縮温度調節用熱交換器15の順に循環する作動流体流路(配管)と、この流路の中に充填された作動流体とから構成されており、上記加熱用熱交換器12と冷却用熱交換器13との間で熱を相互に移動・交換することのできるヒートポンプサイクル(回路)を形成している。
【0039】
また、本実施形態においては、上記熱媒循環流路Hの熱媒および冷媒循環流路Cの冷媒として水が用いられ、上記ヒートポンプの加熱用熱交換器12から蒸留塔1の蒸発器4に対しては、熱媒としての温水が供給されている。そして、上記ヒートポンプの冷却用熱交換器13から凝縮器3に対しては、冷媒としての冷水が供給され、これら温水と冷水を介して、上記蒸発器4での加熱と凝縮器3での冷却に必要な熱が供給されるようになっている。
【0040】
なお、図2において、図中の符号16は温水を貯留する温水タンク、符号17は冷水を貯留する冷水タンクを示す。また、図中の符号Pはこれら温水と冷水を循環させるためのポンプである。
【0041】
上記構成によっても、本実施形態の使用済み炭酸ガスの再生方法は、炭酸ガス洗浄手段から排気された炭酸ガスを、大気中に放出することなく、有効に活用することができる。また、本実施形態の再生方法により得られた再生炭酸ガスは、上記蒸留による高純度に加え、再生炭酸ガス中に、油分や半導体基板等を傷付けるおそれのあるパーティクル等が非常に少なく、上記半導体基板等の洗浄工程に、好適に再利用することができる。
【0042】
しかも、本実施形態における炭酸ガス再生装置は、上記ヒートポンプ内の作動流体を通じて、上記蒸留塔1で必要な熱エネルギー(温熱)と、上記凝縮器3で必要な熱エネルギー(冷熱)とが、高効率で輸送・交換される。したがって、上記ヒートポンプを用いた使用済み炭酸ガスの再生方法は、蒸留工程の加熱源と再液化工程の冷却源を個別に設けた従来の再生方法に比べ、その運転にかかるエネルギーやコストを低減することが可能になる。
【0043】
つぎに、本発明の第3実施形態について説明する。
図3は、本発明の第3実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法に用いる炭酸ガス再生装置の概略構成を説明するフロー図である。なお、第1,第2実施形態と同様の機能を有する構成部材には同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0044】
本実施形態における炭酸ガス再生装置が、上記第2実施形態と異なる点は、上記ヒートポンプの作動流体を、上記蒸留塔1の蒸発器4および上記凝縮器3に循環させる流路が形成され、上記ヒートポンプの加熱用熱交換器12が、上記蒸発器4の加熱コイルを兼用し、上記ヒートポンプの冷却用熱交換器13が、上記凝縮器3の冷却コイル(図1,図2における符号5)を兼用するように配置されている点である。
【0045】
上記構成によっても、本実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法は、先に述べた第1,第2実施形態と同様、炭酸ガス洗浄手段から排気された炭酸ガスを、大気中に放出することなく、有効に活用することができる。また、本実施形態の再生方法により得られた再生炭酸ガスは、上記蒸留による高純度に加え、再生炭酸ガス中に、油分や半導体基板等を傷付けるおそれのあるパーティクル等が非常に少なく、上記半導体基板等の洗浄工程に、好適に再利用することができる。
【0046】
さらに、本実施形態における炭酸ガス再生装置は、蒸留工程の蒸発器4に直接温熱を供給する加熱用熱交換器12と、再液化工程の凝縮器3に直接冷熱を供給する冷却用熱交換器13とが、一つのヒートポンプサイクル内に配置されていることから、このヒートポンプ内の作動流体を通じて、上記蒸発器4側で必要な熱エネルギー(温熱)と、上記凝縮器3側で必要な熱エネルギー(冷熱)とが、ダイレクトに輸送・交換される。
【0047】
しかも、上記炭酸ガス再生装置においては、蒸留塔1内の液化炭酸ガスを気化させるために必要な熱量(温熱)と、気化した炭酸ガスを凝縮器3で液化するのに必要な熱量(冷熱)とが、ほぼ等しくなるという利点がある。
【0048】
したがって、本実施形態における使用済み炭酸ガスの再生方法は、蒸留工程の加熱源と再液化工程の冷却源とを個別に設けた従来の再生方法に比べ、その運転にかかる消費エネルギーやコストを大幅に低減することができる。また、環境面でも、エネルギー面でも、地球に優しい炭酸ガス再生方法とすることができる。
【0049】
また、本実施形態における炭酸ガス再生装置は、蒸留工程の加熱源と再液化工程の冷却源とを個別に設置する必要がないため、設備を簡素化できるという利点も有する。
【0050】
なお、上記3つの実施形態では、半導体ウエハ等を精密洗浄するドライクリーニング装置から排気された使用済み炭酸ガスを再生する方法を例に説明したが、本発明は、その他の構成の炭酸ガス洗浄装置から排気される使用済み炭酸ガスに適用でき得ることはいうまでもない。
【0051】
また、洗浄工程を複数組備える炭酸ガス洗浄装置は勿論、リンス工程や仕上げ工程等、1バッチ中に液化炭酸ガスを洗浄槽に何度も使用する装置や、バッチ式の洗浄装置以外にも、被洗浄物を連続で洗浄する連続洗浄装置等に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、衣類,寝具等の布製品のドライクリーニングや、半導体製造プロセスにおける半導体基板の洗浄、電気・電子部品や光学部材からの不要物の除去等、高圧の液化炭酸ガスを洗浄液とした炭酸ガス洗浄装置から排気される使用済み炭酸ガスから、汚染物や不要物等を除去して炭酸ガスを浄化し、上記炭酸ガス洗浄装置の洗浄液として再利用する方法に広く適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 蒸留塔
2 吸着筒
3 凝縮器
4 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス洗浄手段から排気された使用済み炭酸ガスを蒸留塔に導入して精留し、この使用済み炭酸ガスに含まれる不純物を除去する蒸留工程と、上記蒸留塔から抽気される高純度の気化炭酸ガスを、凝縮器に導入して液化する再液化工程とを備え、この再液化後の再生炭酸ガスを、上記炭酸ガス洗浄手段での洗浄に再利用することを特徴とする使用済み炭酸ガスの再生方法。
【請求項2】
上記蒸留塔から抽気される気化炭酸ガスを、吸着容器に導入して上記炭酸ガスに含まれる不純物を吸着除去した後、上記凝縮器に導入して液化する請求項1記載の使用済み炭酸ガスの再生方法。
【請求項3】
加熱用熱交換器,冷却用熱交換器,圧縮機,膨張機構および作動流体からなるヒートポンプを備え、このヒートポンプを用いて、上記蒸留工程の蒸留塔に温熱を供給するとともに、上記再液化工程の凝縮器に冷熱を供給する請求項1または2記載の使用済み炭酸ガスの再生方法。
【請求項4】
上記ヒートポンプの作動流体を上記蒸留塔の蒸発器および上記凝縮器に循環させる流路を設け、上記ヒートポンプの加熱用熱交換器に上記蒸発器の機能を兼用させ、上記冷却用熱交換器に上記凝縮器の機能を兼用させて、上記蒸留工程における炭酸ガスの加熱と上記再液化工程における炭酸ガスの冷却とに必要なエネルギーを、上記ヒートポンプの作動流体を通じて直接供給する請求項3記載の使用済み炭酸ガスの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−20885(P2011−20885A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166673(P2009−166673)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】