説明

係止治具及び半導体装置

【課題】着脱を繰り返しても、ヒートシンクと半導体デバイスとを確実に固定できる係止治具を提供する。
【解決手段】係止治具20は、ピン本体21と、係止部材22と、弾性部材23とを備える。ピン本体21は、筒状体24及びこの筒状体24よりも大きな径を有する頂部25を有する。係止部材22は、ピン本体21の底部26に、このピン本体21の筒状体24の径方向内側に収容された位置と径方向外側に両端が突出する位置との間で出没自在に取り付けられている。弾性部材23は、ピン本体21の筒状体24に挿通され、一方の端部23aがピン本体21の頂部25に当接し他方の端部23bが自由端を構成する。また、弾性部材23は、少なくとも収縮した状態において筒状体24の全長よりも短い全長を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係止治具及び半導体装置に関し、更に詳しくは、ヒートシンクを半導体デバイスに固定するための係止治具、及び係止治具により固定されて成る半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置には、ヒートシンクを備えたものが知られている。ヒートシンクは、冷却が必要な半導体デバイス上に配置されると、半導体デバイスから熱を吸収して外部に放散する機能を有する。特許文献1には、ヒートシンクと、半導体デバイスと、半導体デバイスを実装する基板とを有し、係止治具によって、これらの部材がこの順に互いに固定されて成る半導体装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の係止治具は、ネジ部材と圧縮コイルバネとを有している。ネジ部材は、頂部で圧縮コイルバネの一端を係止し、底部にはネジ溝が形成されている。係止治具では、まず、ネジ部材が基板の貫通孔を貫通し、ヒートシンクに形成されたネジ孔と上記ネジ溝とが螺合し、その上で、圧縮コイルバネの他端が基板に当接して圧縮することで、半導体デバイスとヒートシンクとを固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−139450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の係止治具は、半導体デバイスとヒートシンクとを固定するために、ヒートシンクのネジ孔とネジ部材のネジ溝とを螺合させる構造を有する。このため、ネジ部材を繰り返し着脱すると、ネジ溝やネジ孔の形状が塑性変形等により劣化してしまう。従って、上記係止治具には、着脱を繰り返すと、ヒートシンクを半導体デバイスに確実に固定することが困難となるという問題があった。
【0006】
本発明は、着脱を繰り返しても、ヒートシンクと半導体デバイスとを確実に固定できる係止治具、及び、係止治具により固定されるヒートシンク及び半導体デバイスを有する半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、筒状体及び該筒状体よりも大きな径を有する頂部を有するピン本体と、
前記ピン本体の底部に、該ピン本体の筒状体の径方向内側に収容された位置と径方向外側に両端が突出する位置との間で出没自在に取り付けられた係止部材と、
前記ピン本体の筒状体に挿通され、一方の端部が前記ピン本体の頂部に当接し他方の端部が自由端を構成する弾性部材とを備え、
前記弾性部材は、該弾性部材が少なくとも収縮した状態において前記筒状体の全長よりも短い全長を有する係止治具を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述の係止治具によって、ヒートシンクと、半導体デバイスと、基板とがこの順に互いに固定されている半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の係止治具では、着脱を繰り返しても、ヒートシンクと半導体デバイスとを確実に固定できる。また、本発明の半導体装置では、係止治具によってヒートシンクと、半導体デバイスと、基板とがこの順に互いに確実に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る係止治具、及び係止治具により固定されて成る半導体装置の構成を示す図。
【図2】(a)及び(b)は、図1に示す係止治具の一部を拡大して示す図。
【図3】基板及びヒートシンクに形成された貫通孔に係止治具が挿入された状態を示す図。
【図4】(a)及び(b)は、係止治具を用いて、ヒートシンクを半導体デバイスに取り付ける際の動作を示す図。
【図5】係止治具を取り外す際の動作を示す図。
【図6】(a)及び(b)は、比較例である係止治具、及び係止治具により固定されて成る半導体装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の係止治具は、最小構成として、ピン本体と、係止部材と、弾性部材とを備える。ピン本体は、筒状体及びこの筒状体よりも大きな径を有する頂部を有する。係止部材は、ピン本体の底部に、このピン本体の筒状体の径方向内側に収容された位置と径方向外側に両端が突出する位置との間で出没自在に取り付けられている。弾性部材は、ピン本体の筒状体に挿通され、一方の端部がピン本体の頂部に当接し他方の端部が自由端を構成する。また、弾性部材は、少なくとも収縮した状態において筒状体の全長よりも短い全長を有する。
【0012】
ここで、上記係止治具を用いて、ヒートシンク、半導体デバイス、及び基板をこの順に互いに固定する場合を想定する。係止部材をピン本体の筒状体の径方向内側に収容した状態で、ピン本体の筒状体をヒートシンク及び基板に形成された貫通孔に挿入すれば、ピン本体の塑性変形や貫通孔の劣化を回避できる。
【0013】
続いて、ピン本体の頂部を押し付けて、弾性部材の他方の端部がヒートシンクに当接した状態で、弾性部材を収縮させる。弾性部材を収縮させた状態で、係止部材の両端を筒状体の径方向外側に突出させ、更に、ピン本体の頂部への押し付けを解除すると、弾性部材が伸長して、係止部材の両端が基板に当接する。その結果、ヒートシンク、半導体デバイス、及び基板をこの順に互いに確実に固定できる。従って、係止治具では、着脱を繰り返しても、ピン本体の塑性変形や貫通孔の形状劣化を回避しながら、ヒートシンクと半導体デバイスとを確実に固定できる。
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の例示的な実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る係止治具、及び係止治具により固定されて成る半導体装置の構成を示す図である。図2は、図1に示す係止治具の一部を拡大して示す図である。半導体装置10は、例えば、ヒートシンク11と、半導体デバイス12と、基板13とを有しており、これらの部材が係止治具20によってこの順に互いに固定されている。
【0015】
ヒートシンク11は、冷却が必要な半導体デバイス12の上面に密着固定されると、半導体デバイス12から熱を吸収して外部に放散させる構造を有する。ヒートシンク11は、例えば平面視で矩形状を有し、対角線上の縁部付近に貫通孔11a,11bが形成されている。半導体デバイス12は、ヒートシンク11による冷却が必要なデバイスであって、基板13に実装され、且つ、上面にはヒートシンク11が固定されている。基板13は、上面に半導体デバイス12が実装される実装基板であって、ヒートシンク11に形成された貫通孔11a,11bに対応する位置に、貫通孔13a,13bがそれぞれ形成されている。
【0016】
係止治具20は、ピン本体21と、係止部材22と、弾性部材(以下、スプリング)23とを有する。ピン本体21は、図2(a)及び(b)に示すように、筒状体24と、この筒状体24よりも大きな径を有する頂部25とを有する。また、筒状体24の底部(端部側)26には、切欠き部(溝)27が形成されている。切欠き部27の内部には、筒状体24の長手方向と略直交する方向に沿って延在する回転軸28が、かしめ固定されている。
【0017】
係止部材22は、図2(a)及び(b)に示すように、切欠き部27の内部に形成された回転軸28に回転可能に軸支され、収容状態と突出状態との間で出没自在となっている。収容状態とは、例えば図2に示すように、係止部材22が、筒状体24の径方向内側に収容された位置にある状態をいう。突出状態とは、例えば図1に示すように、係止部材24が、筒状体24の径方向外側に両端が突出する位置にある状態をいう。但し、収容状態及び突出状態の何れにおいても、係止部材22の一部は、切欠き部27に収容されている。また、スプリング23は、例えば図3に示すように、ピン本体21の筒状体24に挿通され、一方の端部23aがピン本体21の頂部25に当接し、また、他方の端部23bが自由端を構成している。
【0018】
以下、図3及び図4を参照して、係止治具20を用いて、ヒートシンク11、半導体デバイス12及び基板13をこの順に互いに固定する際の動作について説明する。まず、基板13に実装された半導体デバイス12の上面に、ヒートシンク11を載置する。次に、ヒートシンク11の貫通孔11a,11bが、基板13に形成された貫通孔13a,13bと重なるように、位置合わせを行う。
【0019】
位置合わせを行った後で、図3に示すように、係止部材22を収容状態とし、その上で、ピン本体21の筒状体24を、スプリング23を介在させてヒートシンク11から基板13に向かって貫通孔11a,13aに挿入する。このとき、スプリング23の自由端を構成する他方の端部23bは、ヒートシンク11の上面に当接している。ここで、ピン本体21の筒状体24を貫通孔11a,13aに挿入する際に、係止部材22が収容状態であるので、筒状体24の壁面と貫通孔11a,13aの壁面とが大きな摩擦力を伴って接触することがなく、筒状体24の塑性変形や貫通孔11a,13aの形状劣化を回避できる。
【0020】
続いて、図4(a)に示すように、ピン本体21の頂部25に、矢印Aで示す方向に荷重を加えて、スプリング23を収縮させる。このときのスプリング23の弾性変形量(収縮量)は、少なくとも、係止部材22が回転軸28に対して回転可能となり、図4(a)に示す収容状態から図4(b)に示す突出状態に移行できる程度とする。このため、スプリング23の弾性変形量は、係止部材22の全長の1/2よりも大きい。また、スプリング23は、収縮した状態での全長が筒状体24の全長よりも短い。
【0021】
次いで、図4(a)に示す矢印Bの方向に荷重を加えて、係止部材22を回転させて、突出状態とする。そして、ピン本体21の頂部25に加えていた荷重を徐々に小さくすると、図4(b)に示すように、スプリング23が伸長して、係止部材22の両端が基板13の下面と当接する。このとき、スプリング23の自由端を構成する他方の端部23bがヒートシンク11の上面に当接し、ヒートシンク11を基板13側に押し付け、また、その反作用で係止部材22の両端が基板13の下面に当接し、基板13をヒートシンク11側に押し付ける。つまり、係止治具20では、スプリング23の付勢力を利用した当接により、ヒートシンク11と半導体デバイス12とを確実に固定できる。
【0022】
そして、係止治具20を用いて、ヒートシンク11、半導体デバイス12、及び基板13がこの順に互いに確実に固定されるので、図1に示す半導体装置10が得られる。
【0023】
次に、図5及び図3を参照して、図4(b)に示した状態から係止治具20を取り外し、更に、半導体デバイス12からヒートシンク11を取り外す場合について説明する。まず、図5に示すように、ピン本体21の頂部25に矢印Cで示す方向に荷重を加えて、スプリング23を収縮させる。ここでは、係止部材22が回転軸28に対して回転可能となり、上記突出状態から上記収容状態に移行できる程度、即ち、弾性変形量が係止部材22の全長の1/2よりも大きくなるまで、スプリング23を収縮させる。
【0024】
続いて、図5に示す矢印Dの方向に荷重を加えて、係止部材22を回転させて、再び収容状態とする。そして、ピン本体21の頂部25に加えていた矢印Cの方向の荷重を抜くと、スプリング23が伸長して、係止治具20が上記図3に示した状態となる。次に、図3に示す状態で、ピン本体21の筒状体24を貫通孔11a,13aから抜き、その後で、半導体デバイス12上からヒートシンク11を取り外す。このように、係止部材22を取り外す場合でも、係止部材22を収容状態とするので、筒状体24の塑性変形や貫通孔11a,13aの形状劣化を回避できる。
【0025】
(比較例)
図6は、比較例としての係止治具、及び係止治具により固定されている半導体装置の構成を示す図である。図6(a)に示す係止治具20Aは、両面テープである。半導体装置10Aは、係止治具20Aによって、ヒートシンク11Aと、半導体デバイス12と、基板13Aとがこの順に互いに固定されている。係止治具20Aが両面テープであるので、上記実施形態の係止治具20と比べて、ヒートシンク11A及び基板13Aにそれぞれ貫通孔を形成する必要がなく、基板13Aの実装面積を多く確保できる。
【0026】
しかし、半導体デバイス12とヒートシンク11Aとは、両面テープでのみ固定されているので、両面テープの粘着力が低下すると、ヒートシンク11Aが半導体デバイス12から脱落する可能性がある。さらに、半導体デバイス12にヒートシンク11Aを固定する作業では、両面テープの粘着効果を十分に得るために、ヒートシンク11Aに荷重を加えるための重りを、ヒートシンク11A上に一定時間載せる必要があり、作業効率が低下してしまう。
【0027】
図6(b)に示す係止治具20Bは、ピン本体21Bとスプリング23Bとを有している。ピン本体21Bには、2つの対向する先端29が形成されている。対向する先端29には、対向面の反対側の面に切欠き29aが形成されている。係止治具20Bでは、ヒートシンク11B及び基板13Bにそれぞれ形成された貫通孔11a,13aにピン本体21Bを挿入し、先端29の切欠き29aを基板13Bの下面に引っ掛けて当接させることで、ヒートシンク11Bを半導体デバイス12に固定している。
【0028】
しかし、係止治具20Bでは、対向する先端29が貫通孔11a,13aを通過する際に、貫通孔11a,13aの壁面に常に接触する。このため、着脱を繰り返すと、ピン本体21Bの材質によっては先端29が塑性変形し、また、貫通孔11a,13aの形状劣化が生じる。従って、係止治具20Bでは、着脱を繰り返すと、先端29の切欠き29aと基板13Bとが十分に引っ掛からず、ヒートシンク11Bが半導体デバイス12から脱落する可能性がある。
【0029】
これに対して、本実施形態では、ヒートシンク11と半導体デバイス12とを密着固定する際に、筒状体24の径方向内側に係止部材22を収容した状態で、貫通孔11a,13aを通過させるので、着脱を繰り返しても、ピン本体21の塑性変形や、基板13の貫通孔13aの形状劣化が発生し難くなり、ヒートシンク11の脱落を低減できる。また、ピン本体21の劣化が低減することで、係止治具20を繰り返し使用できるので、ピン本体21を廃棄する頻度が少なくなり、コストを削減できる。さらに、係止治具20では、係止部材22の両端が、スプリング23の付勢力を用いて基板13の下面に当接するので、ヒートシンク11と半導体デバイス12とを確実に固定できる。
【0030】
上記実施形態では、係止治具20を用いて、ヒートシンク11を半導体デバイス12に密着固定する例について説明したが、これに限定されない。例えば、部品表面のうち貫通孔を形成できない領域上に他の部品を装着する場合に、係止治具20を用いてもよい。
【0031】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の係止治具及び半導体装置は、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
10:半導体装置
11:ヒートシンク
11a,11b:貫通孔
12:半導体デバイス
13:基板
13a,13b:貫通孔
20:係止治具
21:ピン本体
22:係止部材
23:スプリング
23a:一方の端部
23b:他方の端部
24:筒状体
25:頂部
26:底部
27:切欠き部
28:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体及び該筒状体よりも大きな径を有する頂部を有するピン本体と、
前記ピン本体の底部に、該ピン本体の筒状体の径方向内側に収容された位置と径方向外側に両端が突出する位置との間で出没自在に取り付けられた係止部材と、
前記ピン本体の筒状体に挿通され、一方の端部が前記ピン本体の頂部に当接し他方の端部が自由端を構成する弾性部材とを備え、
前記弾性部材は、該弾性部材が少なくとも収縮した状態において前記筒状体の全長よりも短い全長を有する係止治具。
【請求項2】
前記係止部材は、前記筒状体の底部に形成された切欠き部に少なくとも一部が収容され、前記切欠き部の内部に形成され前記筒状体の長手方向と直交方向に延びる軸に、回転可能に軸支される、請求項1に記載の係止治具。
【請求項3】
前記弾性部材の弾性変形量は、前記係止部材の全長の1/2よりも大きい、請求項2に記載の係止治具。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載の係止治具によって、ヒートシンクと、半導体デバイスと、基板とがこの順に互いに固定されている半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−23491(P2011−23491A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166304(P2009−166304)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】