説明

促進剤を含む固体経口剤形

【課題】薬理活性成分を、該活性成分の生物学的利用能および/または吸収を高める促進剤と共に含む固体経口剤形の提供。
【解決手段】促進剤は中等度鎖脂肪酸のエステル、エーテルもしくは塩、または中等度鎖脂肪酸の誘導体であり、好ましくは室温で固体で、炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有するものである。促進剤は、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウムおよびラウリン酸ナトリウムからなる群より選択される。固体経口剤形は遅延放出剤形のような制御放出剤形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、促進剤を含む固体経口剤形に関するものである。特に、本発明は、薬理活性成分を、該活性成分の生物学的利用能および/または吸収を高める促進剤と組み合わせて含む、遅延放出剤形のような制御放出剤形からなる固体経口剤形に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GITの管腔側をおおう上皮細胞は、経口投与後の薬物送達に対して大きなバリアーとなる。しかし、薬物の送達および輸送を促進するために利用しうる輸送経路として4つの経路が認められている。すなわち、経細胞輸送経路、傍細胞(paracellular)輸送経路、輸送体(carrier)介在型経路およびトランスサイトーシス輸送経路である。通常の薬物、ペプチド、タンパク質、巨大分子、またはナノもしくはミクロ粒子系のような薬物がこれらの輸送経路の1以上と「相互作用」することができれば、結果として、その薬物のGITから下層循環系への送達が増大する可能性がある。
【0003】
いくつかの薬物は頂細胞膜に存在する栄養素のための輸送系(輸送体介在型ルート)を利用する。巨大分子もまた、エンドサイトーシスされた小胞において細胞を横切って輸送されうる(トランスサイトーシスルート)。しかし、多くの薬物は細胞を介した受動拡散(経細胞ルート)または細胞間受動拡散(傍細胞ルート)のいずれかにより腸上皮を横切って輸送される。親油性の薬物は経細胞ルートによって上皮に浸透するが、親水性の薬物は傍細胞ルートに限られる。
【0004】
傍細胞経路は腸上皮の全表面積の0.1%未満を占めるにすぎない。さらに、細胞の頂端部のまわりに連続した帯を形成している密着帯(tight junction)が、隣接細胞同士の間にシールを作ることによって細胞間への浸透を制限する。それゆえ、ペプチドのような親水性薬物の経口吸収は厳しい制限を受けている。薬物吸収に対するその他のバリアーとしては、管腔の刷子縁(brush border)または腸の上皮細胞に存在する加水分解酵素、さらなる拡散バリアーを提供しうる上皮膜の表面上の水性境界層の存在、水性境界層と結び付いた粘液層、頂端膜を横切ってプロトン勾配を形成する酸微気候(acid microclimate)などがある。また、薬物の吸収(最終的には生物学的利用能)は、薬物を腸管腔に戻すP糖タンパク質調節型輸送やシトクロムP450代謝などの他のプロセスによっても減少することがある。
【0005】
したがって、GIT細胞層を横切って薬物を送達するための新しいストラテジーが、特にペプチド、タンパク質、巨大分子の薬物をはじめとする親水性薬物のために必要とされている。
【0006】
可能性のある吸収促進剤が多数同定されている。例えば、中等度鎖グリセリド類は腸粘膜からの親水性薬物の吸収を増強できることが実証されている(Pharm. Res. (1994), 11, 1148-54)。しかしながら、それらの鎖長および/または組成の重要性は不明であり、それゆえに、それらの作用機構についてもまったく理解されていない。カプリン酸ナトリウムは傍細胞ルートによる薬物の腸吸収を促進することが報告されている(Pharm. Res. (1993) 10, 857-864; Pharm. Res. (1988), 5, 341-346)。米国特許第4,656,161号(BASF AG)には、非イオン性界面活性剤(例えば、エチレンオキシドと脂肪酸、脂肪アルコール、アルキルフェノール、またはソルビタンもしくはグリセロール脂肪酸エステルとの反応により製造できるもの)を添加することによって、ヘパリンやヘパリン様物質の腸内吸収能を高める方法が開示されている。米国特許第5,229,130号(Cygnus Therapeutics Systems)には、皮膚浸透促進剤として植物油を用いて製剤化された経皮投与用の薬理活性物質に対する皮膚の浸透性を高める組成物が開示されている。皮膚への浸透はまた、ある種のカルボン酸ナトリウムによっても促進されることが知られている[Int. J. of Pharmaceutics (1994), 108, 141-148]。さらに、生物学的利用能を高めるための精油の使用も公知である(US 5,66,386 AvMax Inc. など)。精油はシトクロムP450代謝およびP糖タンパク質調節型輸送(薬物を血流から腸に戻す)のいずれかまたは両方を低下させるように作用すると教示されている。
【0007】
ところが、薬物吸収の増強はしばしば腸壁に対する損傷と関係がある。その結果、GIT促進剤の広範な使用はそれらの潜在的毒性および副作用により制限されることが多い。さらに、特にペプチド、タンパク質または巨大分子の薬物に関しては、GIT促進剤と輸送経路の1つとの「相互作用」は、一時的または可逆的であるべきであり、例えば、傍細胞ルートを介した輸送を増強するような密着帯との一時的な相互作用つまり密着帯の開口であるべきである。
【0008】
上述したように、可能性のある促進剤は多数知られている。しかしながら、このことが対応する数の促進剤含有製品にはつながらない。目下、スウェーデンと日本で使用が承認されている、そのような製品の一つとして、ドクタシリン(DoktacillinTM)座薬がある[Lindmarkら, Pharmaceutical Research (1997), 14, 930-935]。この座薬はアンピシリンと中等度鎖脂肪酸であるカプリン酸(C10)ナトリウムを含有するものである。
【0009】
薬物と促進剤との併用投与を促進しうる固体経口剤形を提供することが望ましい。他の剤形と比べたときの固体経口剤形の利点は、製造が簡単であること、さまざまな制御放出および持続放出製剤を製剤化できること、投与が容易であること、などである。液剤の形をした薬物の投与は、血流中の薬物濃度のプロファイルを制御するのが容易でない。一方、固体経口剤形は応用がきき、例えば、薬物放出の程度および持続時間を最大にするように、また、治療に望ましい放出プロファイルに従って薬物を放出するように、改変することが可能である。また、患者のコンプライアンスを高める投与の便利さや、固体経口剤形に関連した製造のコストに関する利点も見逃せない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,656,161号
【特許文献2】米国特許第5,229,130号
【特許文献3】US 5,66,386
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Pharm. Res. (1994), 11, 1148-54
【非特許文献2】Pharm. Res. (1993) 10, 857-864
【非特許文献3】Pharm. Res. (1988), 5, 341-346
【非特許文献4】Int. J. of Pharmaceutics (1994), 108, 141-148
【非特許文献5】Pharmaceutical Research (1997), 14, 930-935
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による固体経口剤形は薬物と促進剤を含み、その際、該促進剤は中等度鎖脂肪酸の塩、エステル、エーテルまたは中等度鎖脂肪酸の誘導体であり、好ましくは、それは室温で固体であって、炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有するものである。ただし、(i) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエステルである場合、炭素原子数6〜20の炭素鎖長はカルボン酸部分の炭素鎖長を指し、(ii) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエーテルである場合、少なくとも1つのアルコキシ基は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有するものとする。
【0013】
好ましくは、促進剤は中等度鎖脂肪酸の塩、エステル、エーテルまたは中等度鎖脂肪酸の誘導体であり、好ましくは、それは室温で固体であって、炭素原子数8〜14の炭素鎖長を有するものである。ただし、(i) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエステルである場合、炭素原子数8〜14の炭素鎖長はカルボン酸部分の炭素鎖長を指し、(ii) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエーテルである場合、少なくとも1つのアルコキシ基は炭素原子数8〜14の炭素鎖長を有するものとする。より好ましくは、促進剤は炭素原子数8〜14の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸のナトリウム塩で、このナトリウム塩は室温で固体のものである。最も好ましくは、促進剤はカプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである。薬物と促進剤は1:100000〜10:1(薬物:促進剤)、好ましくは1:1000〜10:1の比で存在しうる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態においては、薬物はペプチド、タンパク質、オリゴ糖、多糖などの巨大分子であり、例えば、TRH、未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン、インスリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、酢酸ロイプロリド、ゴセレリン(goserelin)、ナフェレリン(naferelin)、ブセレリン(buserelin)、シクロスポリン、カルシトニン、バソプレシン、デスモプレシン、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アレンドロネート(alendronate)、エチドロネート(etidronate)またはそれらの塩を含む。
【0015】
固体経口剤形は錠剤、多粒子剤またはカプセル剤であり得る。多粒子剤は錠剤の形をしていても、カプセル内に封入されていてもよい。錠剤は単層または多層錠剤とすることができ、多層錠剤は1つの層または全部の層に圧縮した多粒子を含んでいても、含まなくてもよい。固体経口剤形は好ましくは制御放出剤形である。より好ましくは、それは遅延放出剤形である。この剤形はポリマー、好ましくは速度制御ポリマーまたは遅延放出ポリマーでコーティングすることができる。ポリマーを促進剤および薬物と共に圧縮して、制御放出マトリックス剤形のようなマトリックス剤形を形成することもできる。次いで、このマトリックス剤形にポリマーコーティングを施してもよい。
【0016】
本発明の他の実施形態としては、固体経口剤形の製造方法、固体経口剤形を患者に投与することによる症状の治療方法、ならびに医薬の製造における薬物および促進剤の使用が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1に記載した、C8、C10、C12、C14、C18およびC18:2のナトリウム塩と3H-TRHが、Caco-2単層におけるTEER (Ωcm2) に及ぼす影響を、0分および30分の間隔で2時間まで測定した結果を示す。
【図2】図2は、実施例1に記載した、C8、C10、C12、C14、C18およびC18: 2のナトリウム塩がCaco-2単層内の3H-TRH輸送に対するPappに及ぼす影響を示す。
【図3】図3は、実施例1に記載した閉ループラットモデルにおいて、NaC8またはNaC10 (35 mg)促進剤と共に500μgのTRHを十二指腸にボーラス投与した後の血中TRH濃度−時間プロフィールを示す。
【図4】図4は、実施例1に記載した閉ループラットモデルにおいて、NaC8またはNaC10 (35 mg)促進剤と共に1000μgのTRHを十二指腸にボーラス投与した後の血中TRH濃度−時間プロフィールを示す。
【図5】図5は、実施例2に記載した閉ループラットモデルにおいて、異なるレベルのカプリン酸ナトリウム(C10)(10mgおよび35mg)と共に、USP ヘパリン(1000 IU)を投与した後の、4時間にわたるAPTT応答を示す。
【図6】図6は、実施例2に記載した閉ループラットモデルにおいて、異なるレベルのカプリル酸ナトリウム(C8) (10mgおよび35mg) の存在下、USP ヘパリン(1000 IU)を投与した後の、5時間にわたる抗第Xa因子応答を示す。
【図7】図7は、実施例2に記載した閉ループラットモデルにおいて、異なるレベルのカプリン酸ナトリウム(C10) (10mgおよび35mg) の存在下、USP ヘパリン(1000 IU)を投与した後の、5時間にわたる抗第Xa因子応答を示す。
【図8】図8は、a) 皮下 USP ヘパリン溶液 (5000 IU);b) USPヘパリン(90000 IU)およびNaC10を含有する経口非被覆即時放出性錠剤; c) USPヘパリン(90000 IU)およびNaC8を含有する経口非被覆即時放出性錠剤;ならびにd) 実施例2に記載した本発明の方法で製造したUSPヘパリン(90000 IU)およびカプリン酸ナトリウムを含有する経口非被覆持続放出性錠剤、を投与した後8時間までのイヌにおける抗第Xa因子応答の平均値を示す。
【図9】図9は、パルナパリンナトリウム(parnaparin sodiumu)(低分子量ヘパリン(LMWH)1000 IU)のリン酸緩衝食塩水溶液を、35mgの異なる促進剤(カプリル酸ナトリウム (C8)、ノナン酸ナトリウム(C9)、カプリン酸ナトリウム (C10)、ウンデカン酸ナトリウム (C11)、ラウリン酸ナトリウム (C12))および異なる二成分促進剤の50:50の混合物の存在下、ラットの十二指腸に投与した後3時間にわたる、該ラット (n=8) 開ループモデルにおける抗第Xa因子応答を示す。基準製品は、250 IUのパルナパリンナトリウムを皮下投与したものとした。対照溶液は、1000 IUのパルナパリンナトリウムを含有するが促進剤を含有しない溶液を十二指腸に投与したものとした。
【図10】図10は、イヌに、異なるレベルのカプリン酸ナトリウム (0.0g (対照)、0.55g、1.1g)を含有するロイプロリド (20 mg) 溶液を、十二指腸投与した後8時間にわたる、ロイプロリドの平均血中レベルを示す。
【図11】図11は、550mgのカプリン酸ナトリウムの存在下で、パルナパリンナトリウム (90,000 IU)を、溶液として(10ml)および即時放出性錠剤として経口投与した後8時間にわたる、イヌにおける抗第Xa因子応答の平均値を示す。
【図12】図12は、カプリン酸ナトリウムの存在下で、パルナパリンナトリウム (90,000 IU)を、溶液として(240ml)および即時放出性錠剤として経口投与した後24時間にわたる、ヒトにおける抗第Xa因子応答の平均値を示す。
【図13】図13は、異なる用量のカプリン酸ナトリウム (0.55 g、1.1 g、1.65 g) の存在下、異なる用量のパルナパリンナトリウム (20,000 IU, 45,000 IU, 90,000 IU)を含有する15mlの溶液を空腸投与した後24時間にわたる、ヒトにおける抗第Xa因子応答の平均値を示す。
【図14】図14は、45,000 IUのパルナパリンナトリウムを、(a)0.55gのカプリン酸ナトリウムを含有する即時放出性カプセル剤として;(b) Eudragit Lでコーティングした0.55gのカプリン酸ナトリウムを含有する急速崩壊性錠剤として;(c) Eudragit Lでコーティングした促進剤を含有しない急速崩壊性錠剤として、経口投与した後8時間にわたる、イヌにおける抗第Xa因子応答の平均値を示す。
【図15】図15は、45,000 IUのLMWHおよび0.55 gのカプリン酸ナトリウムを経口、空腸内および結腸内に同時投与した後8時間にわたる、イヌにおける抗第Xa因子応答の平均値を、皮下投与した場合と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数を表す表現であっても、文脈上明らかにそうでないと示さない限り、複数の指示物も含むものとする。従って、例えば、「促進剤」という表現には、1種以上の促進剤の混合物も含まれ、「薬物」という表現には、1種以上の薬物に対する言及も含まれる。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「促進剤」(enhancer)とは、薬物、特に親水性および/または巨大分子性薬物の、ヒトなどの動物のGITを横切る輸送を増強する能力のある化合物(または化合物の混合物)をいい、このような促進剤は中等度鎖脂肪酸の塩、エステルもしくはエーテル、または中等度鎖脂肪酸の誘導体であり、好ましくは室温で固体であり、炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有し、(i) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエステルである場合、その炭素原子数6〜20の鎖長は、カルボン酸部分の鎖長を指し、そして (ii) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエーテルである場合、少なくとも1つのアルコキシ基は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する、という条件を有する。好ましくは、促進剤は中等度鎖脂肪酸のナトリウム塩である。最も好ましくは、促進剤はカプリン酸ナトリウムである。
【0020】
本明細書で使用する場合、「中等度鎖脂肪酸の誘導体」には、炭素原子数6〜20の長さを有する炭素鎖を少なくとも1つ有する脂肪酸誘導体が含まれる。この炭素鎖は、様々な程度の飽和度を有することによって特徴づけられる。言い換えると、該炭素鎖は、例えば、完全に飽和しているか、または部分的に不飽和(すなわち、1個以上の炭素−炭素多重結合を有する)である。用語「脂肪酸誘導体」は、エステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、アミドおよびニトリルなどのアシル誘導体ならびにエーテルおよびグリセリド(モノ-、ジ-またはトリ-グリセリドなど)をも包含することを意味する。用語「脂肪酸誘導体」は、酸基(または誘導体)の反対側の炭素鎖末端もまた、上記部分(すなわち、エステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、アミド、ニトリル、エーテルおよびグリセリド部分)の1つで官能化されている中等度鎖脂肪酸をさらに包含することを意味する。従って、このような2官能性の脂肪酸誘導体は、例えば二酸およびジエステル(官能基部分は同じ種類のものである)ならびに異なる官能基部分を含む2官能性化合物、例えば、酸部分(またはそのエステルもしくは塩)の反対側の脂肪酸炭素鎖の末端にアミド部分を含む中等度鎖脂肪酸またはそのエステルもしくは塩のようなアミノ酸およびアミノ酸誘導体を含む。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「薬物」には、ヒトを含む動物に経口投与するのに適した通常の薬物を含む、任意の薬物が含まれる。用語「薬物」はまた、明示的に、経口ではあまり吸収されないもの、例えば、親水性薬物または巨大分子性薬物、例えば、ペプチド;タンパク質;オリゴ糖;多糖;またはホルモン、限定するモノではないが、インスリン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子調節タンパク質、心房性ナトリウム利尿タンパク質、コロニー刺激因子、ベタセロン(betaseron)、エリスロポイエチン (EPO)、インターフェロン、ソマトロピン(somatropin)、ソマトトロピン(somatotropin)、ソマトスタチン、インスリン様増殖因子(ソマトメジン)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、組織プラスミノーゲンアクチベータ(TPA)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、抗利尿ホルモン(ADH)もしくはバソプレシンおよびこれらの類似体(例えば、デスモプレシン)、副甲状腺ホルモン(PTH)、オキシトシン、エストラジオール、成長ホルモン、酢酸ロイプロリド、酢酸ゴセレリン、ナフェレリン、ブセレリン、第VIII因子、インターロイキン(インターロイキン2など)およびこれらの類似体;ならびに抗凝血剤、例えば、ヘパリン、ヘパリノイド、低分子量ヘパリン、ヒルジンおよびこれらの類似体など;ビスホスホネート、例えば、アレンドロネートおよびエチドロネート(etidronate);五糖(抗凝血性五糖など);抗原;アジュバントなども包含する。薬物化合物自体は、結晶形態または無定形のナノ粒子、ミクロ粒子またはそれより大きい粒子の形態でありうる。
【0022】
該薬物は、ナノ粒子またはミクロ粒子薬物送達系に含ませることができ、該系において薬物はナノ粒子またはミクロ粒子によって保持されるか、カプセル化されるか、会合または結合される。好ましくは、薬物は、結晶形態もしくは無定形であるか、またはナノ粒子もしくはミクロ粒子と会合しているものを含まない形態である。
【0023】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な量の薬物」とは、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトにおいて、治療上有用な応答を引き出す薬物の量をいう。
【0024】
本明細書で使用する場合、「治療上有効な量の促進剤」とは、経口投与による治療上有効な量の薬物の摂取を可能にする促進剤の量をいう。浸透性の低い薬物の胃腸への送達を増強する際の促進剤の有効性は、投与する部位に依存し(実施例6、7および12を参照されたい)、最適な送達をもたらす部位は、薬物および促進剤に依存することがわかっている。
【0025】
本発明の固体経口剤形は、錠剤、多粒子剤またはカプセル剤でありうる。好ましい固体経口剤形は、胃における薬物および促進剤の放出を最小限に抑え、そして胃での促進剤の局所濃度の希釈を最小限に抑え、薬物および促進剤を腸で放出する遅延放出性剤形である。特に好ましい固体経口剤形は、遅延放出性で急速放出型(rapid onset)の剤形である。このような剤形は、胃での薬物および促進剤の放出を最小限に抑え、そして胃における促進剤の局所濃度の希釈を最小限に抑えるが、腸の好適な部位に到達すると薬物および促進剤を即座に放出し、吸収部位における薬物および促進剤の局所濃度を最大にすることによって浸透性の低い薬物の送達を最大限に増加させる。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「錠剤」には、限定するものではないが、即時放出性 (IR) 錠剤、持続放出性 (SR) 錠剤、マトリックス錠剤、多層錠剤、多層マトリックス錠剤、長期放出性錠剤、遅延放出性錠剤、パルス放出性錠剤などが含まれ、これらのうちのいずれかまたはすべては、場合により一種以上のコーティング材料でコーティングされうる。コーティング材料としては、ポリマーコーティング材料、例えば、腸溶コーティング、速度制御コーティング、半透性コーティングなどが挙げられる。用語「錠剤」にはまた、浸透送達系が含まれ、該系においては、薬物化合物を浸透剤(および場合によりその他の賦形剤)と組み合わせ、半透膜でコーティングする。該半透膜は、薬物化合物がそこから放出されうる隙間を規定する。本発明の実施に特に有用な錠剤固体経口剤形には、IR錠剤、SR錠剤、被覆IR錠剤、マトリックス錠剤、被覆マトリックス錠剤、多層錠剤、被覆多層錠剤、多層マトリックス錠剤および被覆多層マトリックス錠剤からなる群より選択されるものが含まれる。好ましい錠剤剤形は、腸溶被覆錠剤剤形である。特に好ましい錠剤は腸溶性で急速放出型の錠剤剤形である。
【0027】
本発明の実施に特に有用なカプセル固体経口剤形には、即時放出性カプセル剤、持続放出性カプセル剤、被覆即時放出性カプセル剤、被覆持続放出性カプセル剤(遅延放出性カプセル剤を含む)からなる群より選択されるものが含まれる。好ましいカプセル剤形は、腸溶性のカプセル剤形である。特に好ましいカプセル剤形は、腸溶性の急速放出型カプセル剤形である。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「多粒子」とは、複数の分離した粒子、ペレット、ミニ錠剤ならびにこれらの混合物および組み合わせを意味する。経口剤形が多粒子カプセル剤である場合、硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセルを適宜使用して、多粒子を含有させることができる。あるいは、サッシェ(1回分の量を入れる袋)を適宜使用して、多粒子を含有させることができる。所望により、多粒子は、速度制御ポリマー材料を含む層でコーティングしてもよい。本発明の多粒子経口剤形は、in vitroおよび/またはin vivoでの放出特性が異なる、粒子、ペレットまたはミニ錠剤の二種以上の集団の混合物を含みうる。例えば、多粒子経口剤形は、好適なカプセル中に即時放出性成分および遅延放出性成分の混合物を含みうる。
【0029】
あるいは、多粒子および一種以上の補助賦形剤物質を多層錠剤などの錠剤形態に圧縮できる。典型的には、多層錠剤は、同一の有効成分を同一または異なるレベルで含有し、同じまたは異なる放出特性を有する2層を含みうる。あるいは、多層錠剤は、各層に異なる有効成分を含みうる。このような錠剤(単層または多層のもの)は、場合により制御放出ポリマーでコーティングして追加の制御放出特性を付与できる。好ましい多粒子剤形には、遅延放出性の急速放出型ミニ錠剤を含むカプセル剤が含まれる。特に好ましい多粒子剤形には、即時放出性ミニ錠剤を含む遅延放出性カプセル剤が含まれる。最も好ましい多粒子剤形には、遅延放出性顆粒を含むカプセル剤が含まれる。特に最も好ましい多粒子剤形には、即時放出性顆粒を含む遅延放出性カプセル剤が含まれる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態のいくつかを以下に記載する。各場合において、薬物は治療効果を引き出すのに十分な任意の量で存在することができ、適宜に、実質的に、光学的に純粋な1種類のエナンチオマーの形態で存在しても、エナンチオマーの混合物(ラセミ体を含む)として存在してもよい。薬物化合物は、好適には治療効果を引き出すのに十分な任意の量で存在する。当業者に理解されるように、使用する薬物化合物の実際の量は、問題となる薬物化合物の効力に依存することになる。薬物化合物の量は、好適には、約0.5μg〜約1000mgの範囲にありうる。促進剤は、好適には、経口投与による治療上有効な量の薬物の摂取を可能にするのに十分な任意の量で存在する。好ましくは、薬物および促進剤は1:100000〜10:1(薬物:促進剤)、好ましくは1:1000〜10:1の比で存在する。使用する実際の薬物対促進剤の比は、薬物化合物の効力および促進剤の増強活性に依存することになる。
【0031】
第1の実施形態では、本発明の固体経口剤形は、薬物および促進剤を、錠剤に圧縮された混合物として含む。
【0032】
第2の実施形態では、本発明の固体経口剤形は、薬物、促進剤および速度制御ポリマー材料を、錠剤に圧縮された混合物として含む。本明細書で使用する場合、用語「速度制御ポリマー材料」には、本発明の固体経口剤形からの薬物化合物の放出を制御または遅延する能力がある親水性ポリマー、疎水性ポリマーならびに親水性ポリマーおよび/または疎水性ポリマーの混合物が含まれる。好適な速度制御ポリマー材料には、ヒドロキシアルキルセルロース、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリ(エチレン)オキシド;アルキルセルロース、例えば、エチルセルロースおよびメチルセルロ−ス;カルボキシメチルセルロース、親水性セルロース誘導体;ポリエチレングリコール;ポリビニルピロリドン;酢酸セルロース;酢酸酪酸セルロース;酢酸フタル酸セルロース;酢酸トリメリト酸セルロース;フタル酸ポリ酢酸ビニル;フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース;酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリアセタールジエチルアミノ酢酸ビニル;ポリ(アルキルメタクリレート)およびポリ(酢酸ビニル)からなる群より選択されるものが含まれる。その他の好適な疎水性ポリマーには、アクリル酸もしくはメタクリル酸およびそれらに対応するエステルから誘導されるポリマーおよび/またはコポリマー、ゼイン、ろう、セラック、ならびに水素化植物油が含まれる。本発明の実施に特に有用なのは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸エステルポリマーであり、例えば、Eudragit(登録商標)(Rohm GmbH, Darmstadt, Germany)として市販されているものである。具体的にはEudragit L、Eudragit S、Eudragit RL、Eudragit RSコーティング材料およびこれらの混合物である。これらのポリマーのいくつかを、遅延放出性ポリマーとして使用して、薬物が放出される部位を調節することができる。このようなポリマーとして、Eudragit(登録商標)(Rohm GmbH, Darmstadt, Germany)として市販されているポリメタクリル酸エステルポリマーが挙げられる。具体的にはEudragit L、Eudragit S、Eudragit RL、Eudragit RSコーティング材料およびこれらの混合物である。
【0033】
第3の実施形態では、本発明の固体経口剤形は、多層錠剤を含む。典型的には、このような多層錠剤は、薬物および促進剤を即時放出性形態で含有する第1層ならびに薬物および促進剤を持続、徐放、制御または調節放出性形態で含有する第2層を含みうる。別の実施形態では、多層錠剤は、薬物を含有する第1層と促進剤を含有する第2層を含みうる。各層は、独立に、薬物および促進剤の放出を調節するために選択した賦形剤をさらに含みうる。従って、薬物および促進剤は、同一または異なる速度で、それぞれ第1層および第2層から放出されうる。あるいは、多層錠剤の各層は、薬物および促進剤の双方を同量または異なる量で含みうる。
【0034】
第4の実施形態では、本発明の固体経口剤形は、薬物および促進剤を多粒子形態の混合物として含む。薬物および促進剤は、多粒子を形成する粒子、ペレットまたはミニ錠剤の同一または異なる集団として含まれる。固体経口剤形が多粒子である場合、サッシェおよびカプセル(硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセルなど)を適宜使用して、該多粒子を含有させることができる。本発明の多粒子固体経口剤形は、in vivoおよび/またはin vitroでの放出特性が異なる粒子、ペレットまたはミニ錠剤の2種以上の集団の混合物を含みうる。例えば、多粒子経口剤形は、好適なカプセルに含まれた即時放出性成分および遅延放出性成分の混合物を含みうる。
【0035】
上述の実施形態の任意の場合において、制御放出性コーティングを最終剤形(カプセル剤、錠剤、多層錠剤など)に塗布しうる。制御放出性コーティングは典型的には上記の速度制御ポリマー材料を含みうる。このようなコーティング材料の溶解特性はpH依存性でもpH非依存性でもよい。
【0036】
本発明の固体経口剤形の種々の実施形態はさらに、補助賦形剤、例えば、希釈剤、滑沢剤、崩壊剤、可塑剤、粘着防止剤、不透明化剤、色素、香味料などを含みうる。当業者に理解されるように、賦形剤の厳密な選択およびその相対的量はある程度最終剤形に依存することになる。
【0037】
好適な希釈剤としては、例えば、製薬上許容される不活性充填剤(微晶質セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖および/またはこれらの任意の混合物など)が挙げられる。希釈剤の例として、商標名Avicel(FMC Corp., Philedelphia, PA)、例えば、Avicel pH101、Avicel pH102およびAvicel pH112として市販されている微晶質セルロース;ラクトース、例えば、ラクトース一水和物、無水ラクトースおよびPharmatose DCL21;リン酸水素カルシウム、例えば、Emcompress;マンニトール;デンプン;ソルビトール;スクロース;ならびにグルコースなどが挙げられる。
【0038】
好適な滑沢剤としては、圧縮される粉末の流動性に対して作用する物質、例えば、コロイド状二酸化珪素(Aerosil 200(商標)など)、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウムが挙げられる。
【0039】
好適な崩壊剤には、例えば、わずかに架橋したポリビニルピロリドン、トウモロコシ(corn)デンプン、ジャガイモデンプン、トウモロコシ(maize)デンプンおよび改質デンプン、クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose sodium)、架橋ポビドン、ナトリウムデンプングリコレートならびにこれらの組み合わせおよび混合物が含まれる。
【実施例】
【0040】
実施例1 TRH含有錠剤
(a) Caco-2単層
細胞培養:Caco-2細胞を、1%(v/v) 非必須アミノ酸;10% ウシ胎仔血清および1% ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDulbecco改変Eagles培地(DMEM)(4.5g/L グルコース)中で培養した。細胞を37℃にてCO2 5%、湿度95%のもとで培養した。細胞を増殖し、標準組織培養フラスコ中で拡大し、100% コンフルエンスに達したときに継代した。次いでCaco-2細胞を、ポリカーボネート製フィルターインサート(Costar,12mm直径,0.4μm孔径)上に5 x 105細胞/cm2の密度でまき、6ウェル培養プレート中で2日毎に培地交換をして培養した。フィルター上にまいてから20日〜30日の間で、継代30〜40のコンフルエントな単層を、これらの研究を通して使用した。
【0041】
経上皮輸送研究:様々なMCFAナトリウム塩の、3H-TRH輸送(頂端側から側底側への流れ)に与える効果を、次の通り試験した:TRH流束実験の時間ゼロで、3H-TRH 15.0μCi/ml(0.2μM)を頂端側に加えた。輸送実験は、25mM N-[2-ヒドロキシエチル]-ピペラジン-N'-[2-エタンスルホン酸](HEPES)バッファーを含有するHanks平衡塩類溶液(HBSS)、pH 7.4中で、37℃にて実施した。溶解度が異なるので、様々な濃度の異なるMCFAナトリウム塩および様々な頂端側バッファーを、表1に示すように使った。全ての事例において、側底側室には標準のHBSS+HEPESを含有させた。
【表1】

【0042】
細胞培養培地を除去した後、単層を、予め加温したHBSS(37℃)を含有するウェル中に入れた。HBSSは、頂端側 1mlおよび側底側 2mlとした。単層を37℃で30分間インキュベートした。次に、時間ゼロで、頂端側HBSSを、促進剤化合物を含むかまたは含まず、放射標識化合物を含有する関連する頂端側試験溶液と置き換えた。単層の経上皮電気抵抗(TEER)を、時間ゼロおよび120分まで30分間隔で、単層の完全性(integrity)をモニターするEvomを備えたMillicell ERSチョップスティックス装置(Millipore(U.K.)Ltd., Hertfordshire,英国)を使って測定した。プレートをインキュベーター(37℃)内の軌道振とう機上に取り付けた。単層を横切る輸送は、120分まで30分間隔で、側底側でサンプリング(1ml)することにより追跡した。30分間隔毎に、各インサートを新鮮な予め加温したHBSS 2mlを含有する新しいウェルに移した。頂端側のストック放射能は、t=0分とt=120分に10μlのサンプルを取って測定した。シンチレーション液(10ml)を各サンプルに加え、各サンプルの1分間当たりの崩壊をWallacシステム1409シンチレーションカウンターで測定した。各時点における頂端側および側底側の溶液の3H-TRH濃度の平均値を計算した。見かけの透過係数をArtursson[Artursson P., J. Pharm. Sci. 79:476-482 (1990)]が記載した方法を使って計算した。
【0043】
図1は、3H-TRHならびにC8、C10、C12、C14、C18およびC18:2ナトリウム塩の、Caco2単層のTEER(Ωcm2)に対する効果を2時間にわたって示す。C8、C10、C14、C18のデータは、対照と比較してTEERの僅かな低下を示す。一方、C12のデータは何らかの細胞損傷(TEERの低下)を示し、この低下は恐らくここに使用した促進剤のより高い濃度の結果であろう。
【0044】
図2は、C8、C10、C12、C14、C18およびC18:2ナトリウム塩の、Caco-2単層を横切る3H-TRHのPappに対する効果を示す。対照と比較すると、C8、C10、C12およびC14のナトリウム塩は、使用濃度において透過係数Pappにかなりの増加を示した。このC12塩に対して観察された高いPapp値はこの高い促進剤濃度における細胞損傷を示しているかもしれないことに注目すべきである。
【0045】
ミトコンドリア毒性アッセイ:ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ(MDH)活性を、細胞生存のマーカーとして、MDH存在下のテトラゾリウム塩の色変に基づく方法を使ってアッセイした。細胞を回収して計数し、そして96ウェルプレートに約106細胞/mlの密度(1ウェル当たり細胞懸濁液100μl)でまいた。次に、細胞を37℃にて24時間、CO25%を含む加湿空気中でインキュベートした。複数のウェルを、表1に示した濃度の各MCFAナトリウム塩溶液を用いて処置し、プレートを2時間、インキュベートした。インキュベートした後、MTT標識試薬10μlを各ウェルに加え、4時間置いた。可溶化バッファー(100μl;表1参照)を各ウェルに加え、プレートをさらに24時間、インキュベートした。各サンプルの570nmにおける吸収を分光光度計(Dynatech MR7000)を使って測定した。
【0046】
(b) in vivo投与(閉ループのラットモデル)
in vivoラット閉ループ試験は、Doluisioら[Doluisio J. T.ら, Journal of Pharmaceutical Science (1969), 58, 1196-1200]およびBraydenら[Brayden D.: Drug Delivery Pharmaceutical News (1997), 4(1)]の方法に改変を加えて実施した。雄Wistar種ラット(体重範囲250g〜350g)を塩酸ケタミン/アセプロマジンを用いて麻酔した。腹部で正中線切開を行い、周囲の血管を損じないよう注意しながら、十二指腸(7〜9cmの組織)のセグメントを幽門括約筋から約5cm離して取出した。37℃に加温したサンプル溶液(C8またはC10(35mg)およびTRH(500μgおよび1000μg)を含有するPBS)および対照(TRH(500μgおよび1000μg)だけを含有するPBS)を十二指腸セグメントの管腔(lumen)中に直接、26G注射針を使って投与した。十二指腸内投与全容積(サンプルおよび対照)は1mg/kgであった。セグメントの近位末端を結紮(ligate)し、そのループに等張生理食塩水(37℃)をスプレーして湿分を与え、次いで膨張しないようにしつつ腹腔に戻した。切開部を外科クリップにより閉じた。1グループの動物に、参照として、TRHを含むPBS(0.2ml中に100μg)を皮下注射により投与した。
【0047】
図3は、閉ループラットモデルにおいて、NaC8またはNaC10(35mg)促進剤の存在下、TRH 500μgを十二指腸ボーラス投与した後の、血清TRH濃度-時間プロフィールを示す。図4は、閉ループラットモデルにおいて、NaC8またはNaC10(35mg)促進剤の存在下、TRH 1000μgを十二指腸にボーラス投与した後の、血清TRH濃度-時間プロフィールを示す。図3および図4から、それぞれの事例で、促進剤が存在するとTRHの血清レベルが対照TRH溶液よりも有意に増加することが観察され、促進剤の存在下で薬物の吸収が増加することを示す。
【0048】
(c) 錠剤化
溶液におけるNaC8およびNaC10のTRHに対する促進効果が確立したので、即時放出性(IR)および持続放出性(SR)TRH錠剤などを製剤化することができる。IRおよびSR処方を以下の表2および3に記載する。
【表2】

【表3】

【0049】
実施例2 ヘパリン含有錠剤
(a) 閉ループラットセグメント
上記実施例1(a)で実施した方法を、TRHの代わりにUSPヘパリンを使いかつ十二指腸内でなく回腸内に投与して、繰り返した。腹部にて正中線切開を行い、回腸の遠位末端を、回腸-盲腸接続部から約10cmの位置に配置した。周囲の血管を損じないよう注意して、7〜9cmの組織を取出し、遠位末端を結紮した。活性化プロトロンビン時間(APTT)応答により示されるヘパリン吸収は、(尾動脈より新しく採取した)全血の1滴をBiotrack 512凝血モニターの試験カートリッジ上に置いて測定した。APTT測定は、様々な時点で行った。図5は、異なるカプリン酸(C10)ナトリウムレベル(10および35mg)におけるUSPヘパリン(1000 ul)のAPTT応答を示す。APTT応答を血流中へのヘパリン吸収の指標として使うと、促進剤を含有しない対照ヘパリン溶液と比較した、カプリン酸ナトリウムの存在下における吸収の有意な増加が明白である。
【0050】
クエン酸塩添加血液サンプルを3000rpmで15分間、遠心分離して、抗第Xa因子分析用の血漿を得た。図6は、カプリル酸ナトリウム(C8、10mgおよび35mg)存在下のUSPヘパリン(1000 iu)の抗第Xa因子応答を示す。図7は、カプリン酸ナトリウム(C10、10mgおよび35mg)存在下のUSPヘパリン(1000 iu)の抗第Xa因子応答を示す。それぞれの事例における対照は、促進剤を含有しない同じヘパリン濃度の溶液である。NaC8(投与量35mg)およびNaC10(10mgおよび35mgの両方の投与量)に対して観察された抗第Xa因子活性の有意な増加は、促進剤を含有しない対照ヘパリン溶液と比較したヘパリン吸収の増加を示す。
【0051】
(b) 錠剤化
(i) IR錠剤
ヘパリンナトリウムUSP(197.25 IU/mg、Scientific Protein Labs., Waunkee, WIから入手)および促進剤(カプリル酸ナトリウム、NaC8およびカプリン酸ナトリウム、NaC10;Napp Technologies, New Jerseyから入手)を含有する即時放出性(IR)錠剤を、表4に詳述した処方により、Manesty(E)単独錠剤プレスを使い、該ブレンドを直接圧縮して製剤した。ブレンドは次のように調製した。ヘパリン、促進剤および錠剤賦形剤(添加するコロイドシリカおよびステアリン酸マグネシウムを除いて)を容器中に秤量した。コロイドシリカを入れる場合は、425μmふるいを通して容器中にふるい入れ、次に、該混合物を4分間混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを加えてさらに1分間混合した。
【表4】

【0052】
上記のように製剤化された錠剤の力価は、ヘパリンのアズール染料定量に基づくヘパリンアッセイを使って試験した。アッセイすべきサンプルをアズールA染料溶液に加え、ヘパリン含量を626nmにおけるサンプル溶液の吸収から計算した。表4に詳述した選択したバッチに対する錠剤データと力価を表5に示す。
【0053】
この実施例によるIR錠剤のpH 7.4のリン酸バッファー中における溶解プロフィールは、様々な時点にてサンプリングし、ヘパリンアッセイにより測定した。
【0054】
ヘパリン/カプリル酸ナトリウム:バッチ1および2からの錠剤は迅速な放出をもたらし、15分間で薬物化合物100%を与える。バッチ4からの錠剤も迅速な放出をもたらし、30分間で100%を与える。
【0055】
ヘパリン/カプリン酸ナトリウム:バッチ5および6からの錠剤は、迅速な放出をもたらし、15分間で薬物化合物100%を与える。
【表5】

【0056】
(ii) SR錠剤
上記(i)に使ったのと同じ方法を使い、持続放出性(SR)錠剤を表6に示した処方により製剤化した。制御放出性錠剤の力価は、上記(i)と同じ方法を使って測定した。錠剤の詳細および選択したバッチの力価を表7に示す。
【0057】
この実施例によるSR錠剤の溶解プロフィールを、様々な時点にサンプリングし、pH 7.4におけるヘパリンアッセイにより決定した。
【0058】
ヘパリン/カプリル酸ナトリウム:バッチ8、9および11に対する溶解データを表8に示す。このデータから、15% Methocel K100LVを含有し、5% ナトリウムデンプングリコレートを含有するおよび含有しない(バッチ8および9)ヘパリン/カプリル酸ナトリウムSR錠剤は持続放出を与え、3〜4時間の間に100%放出が起った。10%マニトールを含有するバッチ11はより速い放出を与えた。
【0059】
ヘパリン/カプリン酸ナトリウム:バッチ13および14に対する溶解データを表8に示す。このデータから、20% Methocel K100LV(バッチ13)を含有するヘパリン/カプリン酸ナトリウムSR錠剤は6時間にわたる薬物化合物の持続放出を与えたことが分かる。Methocel K15M(バッチ14)をMethocel K100LVの代わりに使うと、薬物化合物の放出は8時間後においても完全でなかった。
【表6】

【表7】

【表8】

【0060】
(iii) 腸溶錠剤
バッチ7および15から得た錠剤を、表9に詳述したコーティング溶液を用いて腸溶性コートを施した。錠剤は5%w/wコーティング溶液を用い、側方換気したコーティング皿(Freund Hi-Coata)を使ってコートした。崩壊試験はVanKel崩壊試験機VK100E4635中で実施した。崩壊媒質は、最初、1時間は胃液pH1.2に擬似させ、次にリン酸バッファーpH7とした。記録した崩壊時間は、リン酸バッファーpH7.4への導入から完全崩壊までの時間とした。バッチ7から得た腸溶コート錠剤の崩壊時間は34分24秒であったが、バッチ15から得た腸溶コート錠剤の崩壊時間は93分40秒であった。
【表9】

【0061】
(c) イヌによる研究
上記表5および表6のバッチ3、7および15から得た錠剤を、5匹のイヌのグループに単一用量クロスオーバー研究で、経口投与した。各グループに次を投与した:(1)ヘパリン90000 IUおよびNaC10促進剤550mgを含有する経口投与無コートIR錠剤(バッチ7);(2)ヘパリン90000 IUおよびNaC8促進剤550mgを含有する経口投与無コートIR錠剤(バッチ3);(3)ヘパリン90000 IUおよびNaC10促進剤550mgを含有する経口投与無コートSR錠剤(バッチ15);(4) 皮下(s.c.)投与ヘパリン溶液(5000 IU、対照)。抗第Xa因子分析用の血液サンプルを、頚静脈から様々な時点に採集した。処置前および後の全ての動物の臨床検査で、被験体に対する副作用は認められなかった。図8は、各処置ならびに参照のヘパリン溶液皮下注射の平均第Xa因子応答を示す。図8のデータは、本発明による全ての製剤に対して血漿抗第Xa因子活性が増加したことを示す。この結果は、NaC8およびNaC10促進剤のいずれを使っても生物活性ヘパリンの送達に成功することを示すものである。IR処方で同じ投与量のヘパリンを使った時、NaC10促進剤を用いると、NaC10投与量はNaC8投与量に比較して低い(NaC10投与量はNaC8投与量の半量であった)にも関わらず、より大きな抗第Xa因子応答が観察された。抗第Xa因子応答は、SR錠剤として処方することにより、IR製剤と比較してより長い時間プロフィールにわたって持続できる。
【0062】
実施例3 ラットにおける十二指腸内投与後の低分子量ヘパリン(LMWH)の全身的利用能に対する促進剤の効果
雄Wistar種ラット(250g〜350g)を、塩酸ケタミン(80mg/kg)とマレイン酸アセプロマジン(acepromazine maleate)(3mg/kg)の混合物を筋内注射して麻酔した。必要によりハロタンガスも投与した。腹部を正中線切開し、十二指腸を取出した。
【0063】
パルナパリンナトリウム(LMWH)(Opocrin SBA, Modena,イタリア)を含有し、促進剤を含有するかまたは含有しないリン酸緩衝化生理食塩水(pH 7.4)中に再構成した試験溶液を、幽門から約10〜12cmの腸内に挿入されたカニューラを経由して投与(1ml/kg)した。この処理中、腸は生理食塩水により湿分を保たせた。薬物投与後、腸セグメントを注意深く腹中に戻し、切開部を外科クリップを使って閉じた。非経口参照溶液(0.2ml)は首の背部のひだ(fold)に皮下投与した。
【0064】
血液サンプルを尾動脈から様々な時間間隔で採取し、血漿抗第Xa因子活性を測定した。図9は、開ループラットモデル(n=8)において、様々な促進剤[カプリル酸ナトリウム(C8)、ノナン酸ナトリウム(C9)、カプリン酸ナトリウム(C10)、ウンデカン酸ナトリウム(C11)、ラウリル酸ナトリウム(C12)]および様々な促進剤の50:50二成分混合物の35mgの存在下、パルナパリンナトリウム(LMWH)(1000 IU)のリン酸緩衝化生理食塩水溶液を該ラットの十二指腸内に投与した後3時間にわたる、平均抗第Xa因子応答を示す。基準製品は、パルナパリンナトリウム250 IUの皮下投与したものとした。対照溶液は、パルナパリンナトリウム1000 IUを含有し促進剤を含まない溶液を十二指腸中へ投与したものとした。
【0065】
図9は、ラットへの十二指腸中投与後、LMWHの全身送達は、促進剤の不在下では相対的に乏しいことを示す;しかし、中等度鎖脂肪酸のナトリウム塩を同時投与すると、ラット腸からのLMWHの全身送達は有意に増加した。
【0066】
実施例4 イヌにおける十二指腸投与後のロイプロリド(Leuprolide)の全身的利用能に対する促進剤の効果
ビーグル種イヌ(10〜15kg)をメデトミジン(medetomidine)(80μg/kg)を用いて鎮静化し、内視鏡を口、食道および胃を経由して十二指腸中に挿入した。酢酸ロイプロリド(Mallinckrodt Inc, St. Louis, MO)を含有し脱イオン水に再構成した促進剤を含むかまたは含まない試験溶液(10ml)を、内視鏡を経由して十二指腸に投与した。内視鏡を取出した後、沈静化はアティパメゾル(atipamezole)(400μg/kg)を使って解いた。0.5ml滅菌水に再構成したロイプロリド1mgを含有する非経口参照溶液を、静脈と皮下にそれぞれ投与した。
【0067】
血液サンプルを頚静脈から様々な時間間隔で採取し、血漿ロイプロリドレベルを測定した。得た平均血漿ロイプロリドレベルを図10に示した。結果は、促進剤を伴わないで十二指腸中に投与したときロイプロリドの全身送達は無視できたが、促進剤を同時投与するとかなりの促進剤投与量に依存するロイプロリドの全身送達増加をもたらすことを示し;促進剤の上位投与量では8%の平均%の相対的な生物学的利用能が観察された。
【0068】
実施例5 イヌにおける経口投与後のLMWHの全身的利用能に対する促進剤の効果
(a) 顆粒の製造
パルナパリンナトリウム(47.1%)、カプリン酸ナトリウム(26.2%)、マンニトール(16.7%)およびExplotabTM(Roquette Freres, Lestrem,フランス)(10.0%)を含有するブレンド200gを、Kenwood Chefミキサーで、水を造粒溶媒として使って造粒した。得た顆粒を、オーブン中で67〜68℃にてトレイ乾燥し、振動造粒機内の1.25mm、0.8mmおよび0.5mmのふるいをそれぞれ通して粒度を小さくした。得た顆粒の実力価はラベルクレームの101.1%と決定した。
【0069】
(b) LMWH 30,000 IU/カプリン酸ナトリウム183mg即時放出性錠剤の製造
上記顆粒を0.5%ステアリン酸マグネシウムと5分間、袋混合した。得たブレンドを、13mm円形凹型機械を使ってRiva Piccalo錠剤プレスで、パルナパリンナトリウム30,000 IUおよびカプリン酸ナトリウム183mgの目標錠剤含量で錠剤化した。錠剤は、平均錠剤硬度108N、平均錠剤重量675mgを有した。錠剤の実LMWH含量は、ラベルクレームの95.6%と決定した。
【0070】
錠剤の崩壊試験を実施した。1つの錠剤を崩壊かごの6つのチューブのそれぞれに入れた。崩壊装置は、37℃にて脱イオン水を使い、毎分29〜30サイクルで運転した。錠剤崩壊は、550秒で完全であった。
【0071】
(c) LMWH 90,000 IU/カプリン酸ナトリウム0.55 g溶液の製造
パルナパリンナトリウム90,000 IUおよびカプリン酸ナトリウム0.55gを、個々にガラスびん中に秤量し、得た粉末混合物を水10mlを用いて再構成した。
【0072】
(d) イヌ生物研究評価
パルナパリンナトリウム90,000 IUおよびカプリン酸ナトリウム550mgを、両方とも溶液剤形(上記溶液組成物10mlに等しい)および迅速崩壊錠剤の剤形(上記錠剤組成物の3錠に等しい)で、単一用量、非無作為化、クロスオーバー研究にて、6匹の雌ビーグル種イヌ(9.5〜14.4Kg)の群に、処置間に7日のウォッシュアアウトをおいて、投与した。パルナパリンナトリウム5000 IUを含有する皮下注射を参照として使用した。
【0073】
血液サンプルを、頚静脈から様々な時間間隔に採集し、抗第Xa因子活性を決定した。データを基線抗第Xa因子活性に対して調整した。得た平均血漿抗第Xa因子レベルを図11にまとめた。錠剤および溶液剤形の両方とも、皮下参照レベルと比較すると、良い応答を示した。血漿抗第Xa因子レベルにより決定した、固体剤形からのパルナパリンナトリウムの平均送達量は、対応する溶液剤形からの送達量よりかなり大きかった。
【0074】
実施例6 ヒトにおける経口投与後のLMWHの全身的利用能に対する促進剤の効果
(a) 顆粒の製造
パルナパリンナトリウム(61.05%)、カプリン酸ナトリウム(33.95%)およびポリビニルピロリドン(Kollidon 30, BASF AG, Ludwigshafen,ドイツ)(5.0%)をGral 10中で5分間混合し、次いで混合しながら、水を、蠕動ポンプを使い、全材料が明らかに顆粒となるまで徐々に加えた。
【0075】
得た顆粒を、オーブン中でそれぞれ50℃で24時間、トレイ乾燥した。乾燥した顆粒をFitzmill M5Aを使い、30メッシュのふるいを通して粉砕した。
【0076】
(b) LMWH 45,000 IU/カプリン酸ナトリウム275mg即時放出性錠剤の製造
パルナパリンナトリウム/カプリン酸ナトリウム/ポリビニルピロリドン顆粒(78.3%)をマンニトール(16.6%)、エキスプロタブ(explotab)(5.0%)およびステアリン酸マグネシウム(1.0%)と共に、10リットルVコーンブレンダー中で5分間混合した。得たブレンド(480.41mg/g)の力価はラベルクレームの100.5%であった。
【0077】
該ブレンドを、LMWH 45,000 IUおよびカプリン酸ナトリウム275mgの目標含量で、Piccola 10ステーションプレスで13mm円形標準凹型機械を使って自動モードにて錠剤化した。得た即時放出性錠剤は、平均錠剤重量1027mg、平均錠剤硬度108 Nおよび97%ラベルクレームの力価を有した。錠剤は、850秒までの崩壊時間およびpH1.2バッファー中に30分で100%溶解を示した。
【0078】
(c) LMWH 90,000 IU/カプリン酸ナトリウム550mg溶液の製造
それぞれLMWH 45,000 IUおよびカプリン酸ナトリウム275mgを含む即時放出性錠剤の2錠を水30mlに再構成した。
【0079】
(d) ヒト生物研究評価
LMWH 90,000 IU/カプリン酸ナトリウム550mgを、健康なヒトのボランティア12人に、溶液剤形(上記溶液剤形の30mlに等しい)および固体剤形(上記組成の2錠に等しい)の両方として、オープンラベル、3回処置、各投与間に7日のウォッシュアウトを置く3期間研究で経口投与した;処置A(即時放出性錠剤)およびB(経口溶液)は無作為化した方法でクロスオーバーしたが、処置C(市販注射用LMWH製品であるFLuxumTM SC(Hoechst Marion Roussel) 6,400 IU))は、単一ブロックとして上記被験者に投与した。
【0080】
血液サンプルを様々な時間間隔で採取し、抗第Xa因子活性を測定した。得た平均抗第Xa因子レベルを図12に示す。処置AおよびBは、皮下参照処置と比較すると、思いがけなく低い応答を示した。しかし、血漿抗第Xa因子レベルにより測定したLMWHの平均送達量については、固体剤形からの平均送達量は、対応する溶液剤形からの平均送達量(平均%の生物学的利用能が0.9%しか観察されなかった)よりかなり高かったことに注目すべきである。
【0081】
実施例7 ヒトにおける空腸内投与後のLMWHの全身的利用能に対する促進剤の効果
(a) 溶液の製造
次のLMWH/カプリン酸ナトリウムの組合わせを、脱イオン水15mlを用いて調製した:
(i) LMWH 20,000 IU、カプリン酸ナトリウム 0.55g;
(ii) LMWH 20,000 IU、カプリン酸ナトリウム 1.1g;
(iii) LMWH 45,000 IU、カプリン酸ナトリウム 0.55g;
(iv) LMWH 45,000 IU、カプリン酸ナトリウム 1.1g;
(v) LMWH 45,000 IU、カプリン酸ナトリウム 1.65g。
【0082】
(b) ヒト生物研究評価
健康なヒトのボランティア11人までについてのオープンラベル、6処置期間クロスオーバー研究で、上記溶液それぞれ15mlを、鼻空腸挿管(nasojejunal intubation)を経由して空腸内に投与した。本研究では、皮下参照としてFluxumTM SCの3200IUを含めた。血液サンプルを様々な時間間隔で採取し、抗第Xa因子活性を測定した。得た平均抗第Xa因子レベルを図13に示す。
【0083】
本研究の各処置に対する平均%の相対的な生物学的利用能は、実施例6の溶液剤形に対して観察された平均%の生物学的利用能よりかなり高かったことに注目すべきであり;5%〜9%の範囲で平均%の生物学的利用能が本研究の処置で観察されたことは、カプリン酸ナトリウムを含有する好ましいLMWH経口剤形は胃における薬物および促進剤の放出を最小化しかつ小腸における薬物および促進剤の放出を最大化するように設計すべきであることを示唆した。
【0084】
実施例8 LMWHと促進剤を含有する遅延放出性錠剤の製造
(a) LMWH/カプリン酸ナトリウム顆粒の製造
パルナパリンナトリウム:カプリン酸ナトリウム(0.92:1)の500gバッチを、Gral 10で、造粒溶媒としてKollidon 30の50%水溶液を使って造粒した。得た顆粒をNiro空気流動層乾燥器(Aeromatic Fluidised Bed Drier)中で、最終製品温度25℃にて60分間乾燥した。乾燥した顆粒をFitzmill M5A中で30メッシュのふるいを通して粉砕した。得た乾燥顆粒の力価は、ラベルクレームの114.8%と決定した。
【0085】
(b) LMWH 22,500 IU/カプリン酸ナトリウム275mg即時放出性錠剤の製造
上記顆粒(77.5%)を、10 lのVコーンブレンダー中のマンニトール(16%)、PolyplasdoneTM XL(ISP, Wayne, NJ)(5%)およびAerosilTM(1%)(Degussa, Rheinfelden,ドイツ)に加え、10分間混合した。得たブレンドにステアリン酸マグネシウム(0.5%)を加え、混合をさらに3分間続けた。
【0086】
得たブレンドを、Piccola錠剤プレスで、13mm円形標準凹型機械を使い、平均錠剤重量772mgおよび平均錠剤硬度140Nに錠剤化した。
【0087】
得た錠剤の実力価は1錠当たりLMWH 24,017 IUと決定した。
【0088】
(c) LMWH 22,500 IU/カプリン酸ナトリウム275mg遅延放出性錠剤の製造
上記錠剤を、Eudragit L 12.5(50%)、イソプロピルアルコール(44.45%)、セバシン酸ジブチル(3%)、タルク(1.3%)、水(1.25%)を含有するコーティング溶液を用いて、ハイコーター(Hicoater)中でコーティングして、最終重量%が5.66%の増加とした。
【0089】
得た腸溶性錠剤は、pH 1.2溶液における1時間崩壊試験後でも無傷のままであり;pH 6.2媒質において32〜33分後に完全な崩壊が観察された。
【0090】
実施例9 LMWHと促進剤を含有する即時放出性カプセル剤の製造
(a) LMWH 22,500 IU/カプリン酸ナトリウム275mg即時放出性カプセル剤の製造
前実施例の(a)項で得た顆粒を、サイズ00の硬ゼラチンカプセル中に前実施例の錠剤の顆粒含量に等しい目標充填重量になるよう手で充填した。
【0091】
実施例10 促進剤なしのLMWHを含有する遅延放出性錠剤の製造
(a) LMWH顆粒の製造
パルナパリンナトリウム:AvicelTM pH101(0.92:1)(FMC, Little Island, Co. Cork,アイルランド)の500gバッチを、Gral 10中で、造粒溶媒としてKollidon 30の50%水溶液を使って造粒した。得た顆粒をNiro 空気流動層乾燥器中で排ガス温度38℃にて60分間、乾燥した。乾燥顆粒をFitzmill M5Aで30メッシュのふるいを通して粉砕した。得た乾燥顆粒の力価はラベルクレームの106.5%と決定した。
【0092】
(b) LMWH 22,500 IU即時放出性錠剤の製造
上記顆粒(77.5%)を、25 LのVコーンブレンダー中のマンニトール(21%)およびエーロシル(aerosil)(1%)に加え、10分間混合した。得たブレンドにステアリン酸マグネシウム(0.5%)を加え、混合をさらに1分間続けた。
【0093】
得たブレンドを、Piccola錠剤プレスで、13mm円形標準凹型機械を使い、平均錠剤重量671mgおよび平均錠剤硬度144Nに錠剤化した。
得た錠剤の実力価は、1錠当たりLMWH 21,651 IUと決定した。
【0094】
(c) LMWH 22,500 IU遅延放出性錠剤の製造
上記錠剤を、Eudragit L 12.5(50%)、イソプロピルアルコール(44.45%)、セバシン酸ジブチル(3%)、タルク(1.3%)および水(1.25%)を含有するコーティング溶液を用いて、ハイコーター(Hicoater)中でコーティングして、最終重量%が4.26%の増加とした。
得た腸溶性錠剤は、pH 1.2溶液における1時間崩壊試験後でも無傷のままであり;pH 6.2媒質において22分後に完全な崩壊が観察された。
【0095】
実施例11 イヌにおける経口投与後のLMWHの全身的利用能に対する、促進剤を含有する制御放出性剤形の効果
(a) イヌ研究評価
LMWH 45,000 IUを、8匹のビーグル種イヌに、オープンラベル、非無作為化クロスオーバーブロック設計で、(a)カプリン酸ナトリウム550mgを含有する即時放出性カプセル剤の剤形(実施例9により製造したカプセル剤の2錠に等しい)、(b)カプリン酸ナトリウム550mgを含有する遅延放出性錠剤の投与(実施例8により製造した錠剤の2錠に等しい)および(c)促進剤を含有しない遅延放出性錠剤の投与(実施例10により製造した錠剤の2錠に等しい)として投与した。本研究は皮下投与参照としてFluxumTM SCの3,200 IUを含めた。
【0096】
血液サンプルを、頚静脈から様々な時間間隔で採集し、抗第Xa因子活性を測定した。得た平均血漿抗第Xa因子レベルを図14に示した。
【0097】
カプリン酸ナトリウムが不在のとき、促進剤なしの遅延放出性固体剤形からのLMWHの全身送達は最小であったことに注目すべきである。対照的に、カプリン酸ナトリウムを含有する遅延放出性LMWH固体剤形の投与後には、良好な抗第Xa因子応答が観察された。カプリン酸ナトリウムを含有する遅延放出性剤形からの平均抗第Xa因子応答は、同じレベルの薬物および促進剤を含有する即時放出性剤形からの平均抗第Xa因子応答よりもかなり高かった。
【0098】
実施例12 促進剤を同時投与した後のイヌにおけるLMWHの全身的利用能に対する、投与部位の効果
4匹のビーグル種イヌ(10〜15Kg)に、空腸および大腸にそれぞれカテーテルを外科的に取り付けた。脱イオン水で再構成したカプリン酸ナトリウムと共にLMWHを含有する試験溶液(10ml)を、イヌに経口でまたは腸内カテーテルを経由して投与した。本研究には皮下参照としてFluxumTM SCの3,200 IUを含めた。
【0099】
血液サンプルを上腕静脈から様々な時間間隔で採取し、抗第Xa因子活性を測定した。得た平均抗第Xa因子レベルを図15に示す。結果は、促進剤が存在するとLMWHの腸吸収は胃からの吸収よりかなり高いことを示す。
【0100】
実施例13 ロイプロリドを含有する錠剤
実施例1および2に使われたのと同じ種類の手法に従い、ロイプロリドを含有するIR錠剤を、表10に詳述の処方によって調製することができる。
【表10】

【0101】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されるものでない。実際、本明細書に記載した内容に加えて本発明の様々な改変は、以上の説明および付随する図面から当業者には明らかであろう。かかる改変は添付した特許請求の範囲内にあると意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物と促進剤とを含む固体経口剤形であって、該促進剤は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸の塩である、上記固体経口剤形。
【請求項2】
中等度鎖脂肪酸の塩が室温で固体である、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項3】
炭素鎖長が炭素原子数8〜14である、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項4】
促進剤が中等度鎖脂肪酸のナトリウム塩である、請求項2に記載の固体経口剤形。
【請求項5】
促進剤がカプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウムおよびラウリン酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項4に記載の固体経口剤形。
【請求項6】
薬物が多糖、オリゴ糖、タンパク質またはペプチドである、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項7】
多糖が低分子量ヘパリンである、請求項6に記載の固体経口剤形。
【請求項8】
ペプチドが黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体である、請求項6に記載の固体経口剤形。
【請求項9】
薬物がTRH、未分画ヘパリン、インスリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、ロイプロリド、ゴセレリン、ゲノトロピン、ナフェレリン、ブセレリン、アレンドロネート、シクロスポリン、カルシトニン、バソプレシン、デスモプレシンおよびこれらの塩からなる群より選択される、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項10】
薬物と促進剤が1:100000〜10:1(薬物:促進剤)の比で存在する、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項11】
剤形が錠剤、カプセル剤または多粒子剤の剤形である、請求項1に記載の固体経口剤形。
【請求項12】
剤形が制御放出剤形である、請求項11に記載の固体経口剤形。
【請求項13】
錠剤が速度制御ポリマー材料をさらに含む、請求項11に記載の固体経口剤形。
【請求項14】
速度制御ポリマーがHPMCである、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項15】
速度制御ポリマーがアクリル酸もしくはメタクリル酸およびそれらのそれぞれのエステルから誘導されるポリマー、あるいはアクリル酸もしくはメタクリル酸およびそれらのそれぞれのエステルから誘導されるコポリマーである、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項16】
薬物と促進剤と少なくとも1種の補助賦形剤が錠剤の形に圧縮され、その後に速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項17】
薬物と促進剤と少なくとも1種の補助賦形剤が錠剤の形に圧縮され、その後に遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項12に記載の固体経口剤形。
【請求項18】
薬物、促進剤、速度制御ポリマーおよび少なくとも1種の補助賦形剤が圧縮されて、制御放出マトリックス錠剤を形成している、請求項12に記載の固体経口剤形。
【請求項19】
制御放出マトリックスが速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項18に記載の固体経口剤形。
【請求項20】
制御放出マトリックスが遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項18に記載の固体経口剤形。
【請求項21】
薬物、促進剤および少なくとも1種の補助賦形剤が多層錠剤の形に圧縮され、その後に速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項22】
薬物、促進剤および少なくとも1種の補助賦形剤が多層錠剤の形に圧縮され、その後に遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項12に記載の固体経口剤形。
【請求項23】
薬物と促進剤が速度制御ポリマー材料中に分散され、多層錠剤の形に圧縮されている、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項24】
多層錠剤が速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項23に記載の固体経口剤形。
【請求項25】
多層錠剤が遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項23に記載の固体経口剤形。
【請求項26】
薬物、促進剤、少なくとも1種の補助賦形剤および速度制御ポリマー材料が多粒子の剤形に組み合わされている、請求項13に記載の固体経口剤形。
【請求項27】
多粒子が離散した粒子、ペレット、ミニ錠剤、またはこれらの組合せを含む、請求項26に記載の剤形。
【請求項28】
in vitroまたはin vivo放出特性が異なっている粒子、ペレットまたはミニ錠剤の2以上の集団のブレンドを含む、請求項27に記載の固体経口剤形。
【請求項29】
多粒子剤が硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセル内に封入されている、請求項26に記載の剤形。
【請求項30】
カプセルが速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項29に記載の剤形。
【請求項31】
カプセルが遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項29に記載の固体経口剤形。
【請求項32】
多粒子剤がサッシェ内に包含されている、請求項26に記載の剤形。
【請求項33】
離散粒子またはペレットが錠剤の形に圧縮されている、請求項27に記載の剤形。
【請求項34】
錠剤が速度制御ポリマー材料でコーティングされている、請求項33に記載の剤形。
【請求項35】
錠剤が遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項33に記載の剤形。
【請求項36】
離散粒子またはペレットが多層錠剤に圧縮されている、請求項27に記載の剤形。
【請求項37】
多層錠剤が速度制御ポリマー材料でコーティングされている、請求項36に記載の剤形。
【請求項38】
多層錠剤が遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項36に記載の剤形。
【請求項39】
医学的症状の患者に、該症状の治療に用いられる治療有効量の薬物を促進剤と共に投与することを含んでなる、該症状の治療方法であって、薬物および促進剤が請求項1に記載の固体経口剤形の形をしている、上記方法。
【請求項40】
薬物による治療が可能な医学的症状を治療するための医薬の製造における薬物および促進剤の使用であって、薬物および促進剤が請求項1に記載の固体経口剤形の形をしている、上記使用。
【請求項41】
固体経口剤形の製造方法であって、下記の工程:
a) 薬物と、促進剤と、場合により付加的賦形剤と、を混合してブレンドを形成すること、ここで、該促進剤は、室温で固体でありかつ炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸または中等度鎖脂肪酸のエステル、エーテル、塩もしくは誘導体であること、ただし、(i) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエステルである場合、炭素原子数6〜20の炭素鎖長はカルボン酸部分の炭素鎖長を指し、(ii) 促進剤が中等度鎖脂肪酸のエーテルである場合、少なくとも1つのアルコキシ基は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有すること、
b) i) 該ブレンドを直接圧縮して、固体経口剤形を形成すること、または
ii) 該ブレンドを顆粒化して、固体経口剤形に組み入れるための顆粒を形成すること、または
iii) 該ブレンドを噴霧乾燥して、固体経口剤形に組み入れるための多粒子を形成すること、により、該ブレンドから固体経口剤形を形成すること、を含んでなる、上記方法。
【請求項42】
薬物と促進剤を1:100000〜10:1(薬物:促進剤)の比で混合する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
薬物と促進剤とを含む固体経口剤形であって、該促進剤は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸のエステルであり、この場合、炭素原子数6〜20の炭素鎖長はカルボン酸部分の炭素鎖長を指すものである、上記固体経口剤形。
【請求項44】
中等度鎖脂肪酸のエステルが室温で固体である、請求項43に記載の固体経口剤形。
【請求項45】
薬物と促進剤とを含む固体経口剤形であって、該促進剤は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸のエーテルであり、この場合、少なくとも1つのアルコキシ基は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有するものである、上記固体経口剤形。
【請求項46】
中等度鎖脂肪酸のエーテルが室温で固体である、請求項45に記載の固体経口剤形。
【請求項47】
薬物と促進剤とを含む固体経口剤形であって、該促進剤は炭素原子数6〜20の炭素鎖長を有する中等度鎖脂肪酸の誘導体である、上記固体経口剤形。
【請求項48】
中等度鎖脂肪酸の誘導体が室温で固体である、請求項47に記載の固体経口剤形。
【請求項49】
剤形がカプセル剤である、請求項11に記載の固体経口剤形。
【請求項50】
カプセル剤が速度制御ポリマーでコーティングされている、請求項49に記載の固体経口剤形。
【請求項51】
カプセル剤が遅延放出ポリマーでコーティングされている、請求項49に記載の固体経口剤形。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−67115(P2012−67115A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243450(P2011−243450)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2000−600624(P2000−600624)の分割
【原出願日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【出願人】(508345254)メリオン リサーチ III リミテッド (2)
【Fターム(参考)】