説明

保持シール材

【課題】より簡便に表裏の判別をすることのできる保持シール材を提供する。
【解決手段】無機繊維からなるマット11と、マットに縫い付けられ、マットに識別情報を付与する糸とからなることを特徴とする保持シール材10。マットは積層された複数枚のマットからなり、複数枚のマットが糸により縫い付けられている保持シール材。糸は、保持シール材の第1面11aに露出する上糸16aと、保持シール材の第2面12aに露出する下糸16bとからなり、上糸と下糸の色が異なる保持シール材。糸に有機顔料又は無機顔料が添着されている保持シール材。保持シール材の厚さ方向に沿って切断した断面において、マットに縫い付けられた糸は、マットの表面のうち糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下に位置する保持シール材。糸がマットに縫い付けられる開始点は、マットの外周から30mm以上離間している保持シール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される無機繊維からなる保持シール材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
無機繊維からなる保持シール材としては、特許文献1に記載されたような、1枚のマットからなる保持シール材が知られている。また、特許文献2に記載されたような、複数枚のマットが積層されてなる保持シール材も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−214156号公報
【特許文献2】特開2007−218221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保持シール材を構成するマットは、その製造工程に起因して表面と裏面の表面粗さが異なっている。通常は表面粗さの小さい、より平滑な面を排ガス処理体に接触する面とすることが排ガス処理体に保持シール材を巻き付ける際の巻き付け性の向上の観点から望ましい。そのため、保持シール材には表面と裏面の区別があり、排ガス処理体に接触する面とケーシングに接触する面とが予め決まっている。
1枚のマットからなる保持シール材を用いる場合、表裏の判別は主に表面と裏面の手触りの相違に基づき作業者の感覚に依拠して行っている。そのため、作業者が表裏の判別作業に熟練していない場合には保持シール材の表裏を誤って排ガス浄化装置に配設してしまい、作業性を損なうことがあった。
【0007】
特許文献1には、保持シール材の表裏を判別するために、マットのいずれか一方の表面を有機系や無機系の顔料で着色することが記載されている。
しかしながら、マット表面に添着された顔料はマットの搬送時などの摩擦や振動により剥がれ落ちることがあり、着色が不鮮明になることがある。
また、マットには有機バインダが含浸されていることが多く、顔料は有機バインダに添着されにくいため、マットに添着された顔料がマットから剥がれ落ち易く、着色が不鮮明となるという問題点がある。そのため、保持シール材の表裏を誤って排ガス浄化装置に配設することがある。
【0008】
また、複数枚のマットからなる保持シール材は、長手方向の長さが相対的に長い外周側マット及び長手方向の長さが相対的に短い内周側マットからなる。このような保持シール材は、外周側マットをケーシングに接触させ、内周側マットを排ガス処理体に接触させるように配置される。保持シール材がこのように配置されると、内周側マット及び外周側マットの両方が隙間なく嵌合されるため、より強い保持力が得られる。
すなわち、複数枚のマットからなる保持シール材を用いる場合にも、その表裏を区別して排ガス浄化装置に配設する必要がある。
保持シール材の表裏を誤って排ガス浄化装置に配設すると、強い保持力が得られないという問題がある。
【0009】
特許文献2には、複数枚のマットをミシン加工による結束部によって相互に固定させることが記載されている。
このような方法で複数枚のマットが固定されてなる保持シール材の表裏の判別は、外周側マット及び内周側マットの長手方向の長さを作業者が目視で確認することによって行われることが多い。しかしながら、特許文献2の図面に記載されているように、複数枚のマットの両端の位置がともにずれている場合などには、マットの長さの確認に手間がかかることがある。そのため、より簡便に表裏の判別をすることのできる保持シール材が望まれている。
【0010】
また、マットにはロット番号や製造履歴等の情報が付与される。マットへの情報の付与は、インクジェットによるマットへの直接印字や情報を印字したテープのマットへの貼り付けといった方法により行われる。
しかしながら、インクジェットによりマットへ直接印字された情報は不鮮明となることがある。そして、インクジェットによりマットへ直接印字された情報は、保持シール材の梱包、輸送時の擦れに起因してさらに不鮮明になることがある。
また、情報を印字したテープは、保持シール材の梱包、輸送時の擦れにより剥がれることがある。
また、情報を印字したテープをマットに貼り付けた場合、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける作業を行う際の作業性(巻き付け性)が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の保持シール材は、無機繊維からなるマットと、上記マットに縫い付けられ、上記マットに識別情報を付与する糸とからなることを特徴とする。
【0012】
上記保持シール材では、識別情報は、マットに縫い付けられた糸により付与されている。マットに縫い付けられた糸は、マットに強固に固定されているため、保持シール材の梱包、輸送時に剥がれたり不鮮明になったりすることがない。また、糸によって付与された識別情報は、インクジェットによりマットに直接印字された情報と比べて鮮明である。
また、マットに添着された顔料により付与された識別情報と異なり、糸により付与された識別情報はマットから剥がれ落ちることがない。
このように、糸により識別情報を付与することによって、マットに強固かつ鮮明に識別情報を付与することができる。
マットに強固かつ鮮明に識別情報が付与されていると、例えば、熟練していない作業者であっても保持シール材の表裏の判別を容易に行うことができる。
【0013】
また、識別情報を付与する糸は、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際の作業性を低下させることがない。すなわち、糸により識別情報が付与された保持シール材は、巻き付け性にも優れる。
【0014】
請求項2に記載の保持シール材では、上記マットは積層された複数枚のマットからなり、上記複数枚のマットが上記糸により縫い付けられている。
【0015】
上記保持シール材においては、複数枚のマットの固定と識別情報の付与をともに糸により行うことができる。すなわち、複数枚のマットの固定と識別情報の付与を別の手段で行う場合に比べて製造工程を簡略化するとともに、部材の点数を減らすことができる。
また、複数枚のマットを糸により縫い付けて固定することによって保持シール材の表裏が決定されるが、マットの固定と同時に表裏を示す識別情報を付与することができるため、保持シール材の表裏を示す識別情報が誤って付与されることが防止される。
【0016】
請求項3に記載の保持シール材では、上記糸は、保持シール材の第1面に露出する上糸と、保持シール材の第2面に露出する下糸とからなり、上記上糸と上記下糸の色が異なる。
【0017】
保持シール材の第1面に露出する上糸と保持シール材の第2面に露出する下糸を異なった色の糸とすることにより、作業者は糸の色の違いに基づき保持シール材の表裏(保持シール材の第1面と保持シール材の第2面)を簡便に判別することができる。
【0018】
請求項4に記載の保持シール材では、上記糸に有機顔料又は無機顔料が添着されている。また、請求項5に記載の保持シール材では、上記糸に無機顔料が添着されている。
【0019】
糸には顔料が添着されやすいので、マットに顔料を添着させた場合と異なり、顔料が剥がれ落ちることが防止される。
また、顔料を無機顔料とした場合には、その耐熱性が高いため、エンジン近傍の高温となる箇所で保持シール材が使用された後においても識別情報が残留する。
そのため、保持シール材が高温環境下で使用された後に不具合等があった場合にも製品の製造履歴等の識別情報を確認することが可能となる。
【0020】
請求項6に記載の保持シール材では、保持シール材の厚さ方向に沿って切断した断面において、マットに縫い付けられた糸は、マットの表面のうち糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下に位置する。
【0021】
糸がこのような位置にあると、糸が他の部材と接触して擦れる可能性が低くなるため、識別情報をより鮮明な状態で長期間保持させることができる。
【0022】
請求項7に記載の保持シール材では、上記糸が上記マットに縫い付けられる開始点は、上記マットの外周から30mm以上離間している。
【0023】
糸がマットに縫い付けられる開始点では、縫い付けの際に糸の端部が縫い付けられておらず、その端部は自由端となる。そして、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける工程において糸の端部が保持シール材の外周から飛び出ていると、糸が他の箇所に引っ掛かることがあるため、好ましくない。
保持シール材において、糸がマットに縫い付けられる開始点が、マットの外周から30mm以上離間していると、糸の端部が保持シール材の外周から飛び出ることがないため、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける工程をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示す保持シール材においてミシン縫いされた部位の一部を模式的に示す断面図である。
【図3】図3(a)は、排ガス浄化装置の一例を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示した排ガス浄化装置のA−A線断面図である。
【図4】図4(a)は、ハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図4(b)は、ケーシングの一例を模式的に示す斜視図である。
【図5】図5は、排ガス浄化装置を製造する手順を模式的に示した斜視図である。
【図6】図6(a)は、実施例1で製造した保持シール材において糸によって付与された識別情報の振動試験前後での写真であり、図6(b)は、比較例1で製造した保持シール材においてインクジェットにより付与された識別情報の振動試験後の写真であり、図6(c)は、比較例2で製造した保持シール材において印字されたシールによって付与された識別情報の振動試験後の写真である。
【図7】図7は、本発明の第二実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
【図8】図8は、本発明の第三実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
【図9】図9は、本発明の第四実施形態の保持シール材の断面の一部を模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の第五実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
以下、本発明の保持シール材の一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第一実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
図1に示したように、本実施形態の保持シール材10では、所定の長手方向の長さ(以下、単に全長ともいう。図1中、矢印L、Lで示す)、幅(図1中、矢印Wで示す)及び厚さを有する平面視略矩形の2枚のマット11、12が積層されている。
【0026】
また、マット11、12のそれぞれの端部のうち、一方の端部には、凸部13a、14aが形成されており、他方の端部には、凹部13b、14bが形成されている。これらマット11の凸部13a及び凹部13b、並びに、マット12の凸部14a及び凹部14bは、後述する排ガス浄化装置を組み立てるために排ガス処理体に保持シール材10を巻き付けた際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。
【0027】
マット11、12は、無機繊維からなる素地マットに対してニードリング処理を施して得られるニードルマットである。なお、ニードリング処理とは、ニードル等の繊維交絡手段を素地マットに対して抜き差しすることをいう。マット11、12では、比較的平均繊維長の長い無機繊維がニードリング処理により3次元的に交絡している。このマットは、長手方向に垂直な幅方向でニードリング処理されている。
なお、交絡構造を呈するために、無機繊維はある程度の平均繊維長を有しており、例えば、無機繊維の平均繊維長は、50μm〜100mm程度であればよい。
【0028】
本実施形態の保持シール材には、保持シール材の嵩高さを抑えたり、排ガス浄化装置の組み立て前の作業性を高めたりするために、さらに有機バインダ等のバインダが含まれていてもよい。
【0029】
図1に示した保持シール材10では、厚さ1.5〜15mmの2枚のマットが積層されているが、積層するマットの数は特に限定されず、3枚以上であってもよい。複数枚のマットのうち全長が最も短いマット(以下、最短マットともいう)が排ガス処理体の周囲に巻き付けられるマットであり、次いで、最短マットより全長の長いマットが積層され、その後順次積層されていくにつれて、マットの全長が長くなっていく。なお、図1に示した保持シール材10のように保持シール材が2枚のマット11、12で構成されていても、マット11を最短マットという。
【0030】
本実施形態の保持シール材では、マット11とマット12とが2箇所の糸、すなわち糸16及び糸17で互いに固定されている。本実施形態の保持シール材における糸16及び糸17の固定方法は、ミシン縫いであり、これによりマット11とマット12とが互いに強固に固定されている。
【0031】
次に、ミシン縫いの詳細について、図2を参照しつつ説明する。
図2は、図1に示す保持シール材においてミシン縫いされた部位の一部を模式的に示す断面図である。
図2に示したように、保持シール材10においては、上糸16a、下糸16bでの本縫い(ミシン縫い)によりマット11、12が固定されている。
【0032】
保持シール材10では、糸16は、保持シール材10の一方の表面である保持シール材の第1面11aに露出する上糸16aと、保持シール材10の他方の表面である保持シール材の第2面12aに露出する下糸16bからなる。
そして、上糸16aの色と下糸16bの色とが異なっている。
【0033】
上糸16aの色と下糸16bの色とが異なっていると、保持シール材10を取り扱う作業者は上糸16aと下糸16bの色の違いに基づき保持シール材10の表裏(保持シール材の第1面11aと保持シール材の第2面12a)を簡便に判別することができる。
すなわち、糸16は保持シール材10の表裏を示す識別情報であるといえる。
糸の色は特に限定されず、赤色、青色、黄色、緑色、黒色等であってもよく、これらの色の中から識別が容易な色の組み合わせを選択すればよい。
例えば、上糸を赤色とし、下糸を黒色とする等の組み合わせが挙げられる。
また、糸の色は、透明でなく、かつ、マットの色と異なる色であることが望ましい。
【0034】
糸の材質及び太さは特に限定されるものではないが、木綿やポリエステルからなる直径0.1〜5mmのミシン糸であることが望ましい。
また、糸への着色は、糸に添着された有機顔料又は無機顔料によってされていることが望ましい。
【0035】
また、糸により識別情報を付与する領域(以下、識別情報付与領域ともいう)は特に限定されるものでないが、作業者が容易に視認できるように、識別情報が大きく表示されるように大きめに設けておくことが望ましい。
識別情報付与領域の具体的な広さとしては、識別情報を付与する領域の最大長さが50mm以上であることが望ましい。
より具体的には、図1に示すようにマットの幅(保持シール材の幅)と同じだけの長さの識別情報付与領域が設けられていることが望ましい。
【0036】
次に、本実施形態の保持シール材の製造方法を説明する。
まず、保持シール材を構成するマットとして所定の全長のニードルマットを用意する。ニードルマットは、上述したニードリング処理を素地マットに施すことで作製することができる。素地マットでは、無機繊維が紡糸工程を経て緩く絡み合っている。この緩く絡み合った無機繊維に対してニードリング処理を施すことで、より複雑に無機繊維が絡み合い、バインダが存在しなくてもある程度の形状維持が可能な交絡構造を有するマットとすることができる。
【0037】
長さの異なる複数の素地マットに対してこのニードリング処理を施して、本実施形態の保持シール材の製造に必要な複数のマットを作製する。ここで、排ガス処理体に巻き付けられることになる最短マットの全長は、排ガス処理体の円周長に対応していることから、まず、最短マットの全長を排ガス処理体の円周長に基づいて決定する。次いで、最短マットの外側に位置することになるマットの全長は、排ガス処理体の直径に、巻き付けた際の最短マットの厚さを加えた直径に対する円周長に対応することから、この円周長を求めて最短マットの外側に位置するマットの全長を決定する。これらの手順を順に繰り返し、積層させる複数のマットのそれぞれの全長を決定していく。
【0038】
こうしてニードリング処理を施したマットに必要に応じてバインダを付着させる。マットにバインダを付着させることで、無機繊維同士の交絡構造をより強固なものとすることができるとともに、マットの嵩高さを抑えることができる。
【0039】
バインダとしては、アクリル系ラテックスやゴム系ラテックス等を水に分散させて調製したエマルジョンを用いることができる。このバインダをスプレー等を用いてマット全体に均一に吹きかけて、バインダをマットに付着させる。
【0040】
その後、バインダ中の水分を除去するために、マットを乾燥させる。乾燥条件としては、例えば、95〜150℃で1〜30分間乾燥させればよい。乾燥工程を経ることでマットを作製することができる。
【0041】
本実施形態では、長さの異なる複数のマットを作製し、複数のマットを長さが長くなる順で、又は、短くなる順で積層していく。積層させるマットの数は、保持シール材に求められる保持力や保温性能に応じて変更すればよい。代表的な積層手順としては、最も全長の長いマットを初めに敷き、積層するにつれて全長が短くなるように、順次マットを積層していく。積層させるマットの相対位置は、積層される全長の短いマットがその下にある全長の長いマットのどちらかの端から飛び出さないような位置に積層してもよく、互いに長手方向にずれて全長の長いマットのどちらかの端から飛び出すような位置に積層してもよい。
【0042】
次に、積層した複数のマットをミシン縫いにより糸で互いに固定する。このとき、上糸と下糸で色が異なる糸を用いてミシン縫いを行うことによって、保持シール材の表裏に露出する糸の色が異なるようにすることができる。
【0043】
ミシン縫いの詳細な方法としては、例えば、上糸として、直径が1mm、色が赤色で、上撚りをZ撚りとした糸を用い、下糸として、直径が1mm、色が黒色で、上撚りをZ撚りとした糸を用いて縫い目長さが10mmの本縫いを行い、端部となる部分で返し縫いする方法が挙げられる。
このような方法によって本実施形態の保持シール材を製造することができる。
【0044】
次に、本実施形態の保持シール材を用いた排ガス浄化装置の一例について図3(a)及び図3(b)を用いて説明する。
図3(a)は、排ガス浄化装置の一例を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示した排ガス浄化装置のA−A線断面図である。
図3(a)及び図3(b)に示したように、排ガス浄化装置20は、多数のセル31がセル壁32を隔てて長手方向に並設された柱状の排ガス処理体30と、排ガス処理体30を収容するケーシング40と、排ガス処理体30とケーシング40との間に配設され、排ガス処理体30を保持する保持シール材10とから構成されている。
ケーシング40の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
なお、排ガス浄化装置20では、図3(b)に示すように、排ガス処理体30として、各々のセルにおけるいずれか一方が封止材33によって目封じされたハニカムフィルタ30を用いている。
【0045】
上述した構成を有する排ガス浄化装置20を排ガスが通過する場合について図3(b)を用いて以下に説明する。
図3(b)に示したように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置20に流入した排ガス(図3(b)中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、ハニカムフィルタ30の排ガス流入側端面30aに開口した一のセル31に流入し、セル31を隔てるセル壁32を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁32で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面30bに開口した他のセル31から流出し、外部に排出される。
【0046】
次に、排ガス浄化装置20を構成するハニカムフィルタ及びケーシングについて図4(a)、図4(b)を用いて説明する。
なお、保持シール材10の構成については、既に述べているので省略する。
図4(a)は、ハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図4(b)は、ケーシングの一例を模式的に示す斜視図である。
【0047】
図4(a)に示したように、ハニカムフィルタ30は、主に多孔質セラミックからなり、その形状は円柱状である。また、ハニカムフィルタ30の外周には、ハニカムフィルタ30の外周部を補強したり、形状を整えたり、ハニカムフィルタ30の断熱性を向上させたりする目的で、シール材層34が設けられている。
なお、ハニカムフィルタ30の内部の構成については、上述した本実施形態の排ガス浄化装置の説明で既に述べたとおりである(図3(b)参照)。
【0048】
次いで、ケーシング40について説明する。図4(b)に示すケーシング40は、主にステンレス等の金属からなり、その形状は、円筒状である。また、その内径は、ハニカムフィルタ30の端面の直径とハニカムフィルタ30に巻付けられた状態の保持シール材10の厚さとを合わせた長さより若干短くなっており、その長さは、ハニカムフィルタ30の長手方向(図4(a)中、矢印aの方向)における長さと略同一となっている。
【0049】
次いで、排ガス浄化装置の製造方法について図面を参照して説明する。
図5は、排ガス浄化装置を製造する手順を模式的に示した斜視図である。
【0050】
従来公知の方法により作製した円柱形状のハニカムフィルタ30の外周に上記工程で製造した保持シール材10を凸部13aと凹部13bとが嵌合するように、かつ、凸部14aと凹部14bとが嵌合するようにして巻き付ける。そして、図5に示したように、保持シール材10を巻き付けたハニカムフィルタ30を所定の大きさを有する円筒状であって、主に金属等からなるケーシング40に圧入することで排ガス浄化装置を製造する。
【0051】
圧入後にシール材が圧縮して所定の反発力(すなわち、ハニカムフィルタを保持する力)を発揮するために、ケーシング40の内径は、保持シール材10を巻き付けたハニカムフィルタ30の保持シール材10の厚さを含めた最外径より少し小さくなっている。
【0052】
本実施形態の保持シール材では、複数のマットが糸縫いにより互いに強固に固定されているので、排ガス処理体に巻き付ける際にも幅方向での位置ずれがなく、取扱い性が良好である。
また、糸により表裏の識別情報が付与されているので、保持シール材を巻き付ける作業者が保持シール材の表裏を簡便に判別することができる。
そのため、保持シール材の表裏を誤って巻き付けることが防止される。
【0053】
以下に、本実施形態の保持シール材及び排ガス浄化装置の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態の保持シール材では、識別情報は、マットに縫い付けられた糸により付与されている。マットに縫い付けられた糸は、マットに強固に固定されているため、保持シール材の梱包、輸送時に剥がれたり不鮮明になったりすることがない。また、糸によって付与された識別情報は、インクジェットによりマットに直接印字された情報と比べて鮮明である。
また、マットに添着された顔料により付与された識別情報と異なり、糸により付与された識別情報はマットから剥がれ落ちることがない。
このように、糸により識別情報を付与することによって、マットに強固かつ鮮明に識別情報を付与することができる。
マットに強固かつ鮮明に識別情報が付与されていると、例えば、熟練していない作業者であっても保持シール材の表裏の判別を容易に行うことができる。
また、識別情報を付与する糸は、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際の作業性を低下させることがない。すなわち、本実施形態の保持シール材は、巻き付け性に優れる。
【0054】
(2)本実施形態の保持シール材では、マットは積層された複数枚(例えば、2枚)のマットからなり、上記複数枚(例えば、2枚)のマットが上記糸により縫い付けられている。
本実施形態の保持シール材においては、複数枚のマットの固定と識別情報の付与をともに糸により行うことができる。すなわち、複数枚のマットの固定と識別情報の付与を別の手段で行う場合に比べて製造工程を簡略化するとともに、部材の点数を減らすことができる。
また、複数枚のマットを糸により縫い付けて固定することによって保持シール材の表裏が決定されるが、マットの固定と同時に表裏を示す識別情報を付与することができるため、保持シール材の表裏を示す識別情報が誤って付与されることが防止される。
【0055】
(3)本実施形態の保持シール材では、糸は、保持シール材の第1面に露出する上糸と、保持シール材の第2面に露出する下糸とからなり、上記上糸と上記下糸の色が異なる。
保持シール材の第1面に露出する上糸と保持シール材の第2面に露出する下糸を異なった色の糸とすることにより、作業者は糸の色の違いに基づき保持シール材の表裏(保持シール材の第1面と保持シール材の第2面)を簡便に判別することができる。
【0056】
(4)本実施形態の保持シール材では、糸に有機顔料又は無機顔料が添着されている。特に、無機顔料が添着されていることが望ましい。
糸には顔料が添着されやすいので、マットに顔料を添着させた場合と異なり、顔料が剥がれ落ちることが防止される。
また、顔料を無機顔料とした場合には、その耐熱性が高いため、エンジン近傍の高温となる箇所で保持シール材が使用された後においても識別情報が残留する。
そのため、保持シール材が高温環境下で使用された後に不具合等があった場合にも製品の製造履歴等の識別情報を確認することが可能となる。
【0057】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例では、保持シール材の表裏に関する識別情報を付与する識別情報付与手段を変更して保持シール材を製造した。そして、保持シール材の表裏の識別性及び識別情報の耐久性を評価した。
【0058】
(実施例1)
アルミナ−シリカ組成を有するアルミナ繊維製の素地マットとして、組成比がAl:SiO=72:28である素地マットを用意した。この素地マットに対し、ニードリング処理を施すことで、嵩密度が0.15g/cmであり、目付量が1050g/mであるニードル処理マットを作製した。
【0059】
別途、アクリル系ラテックスを水に充分に分散させることで、アクリル系ラテックスエマルジョンを調製しておき、これをバインダとして用いた。
【0060】
次に、ニードル処理マットを平面視寸法で全長1054mm×幅295mmに裁断した。裁断したニードル処理マットのアルミナ繊維量に対し3.0重量%となるように、裁断したニードル処理マットに対してスプレーを用いてバインダを均一に吹き付けた。
【0061】
その後、バインダを付着させたニードル処理マットを140℃の温度で5分間通気乾燥させることにより、最短マットを作製した。
【0062】
さらに、全長を1100mmとしたこと以外は上記手順と同様に、最短マットの外側に位置するマット(以下、最外マットともいう)を作製した。
作製した2枚のマットの目付量は、1050g/mであった。また、マットの厚さは、ともに6.5mmであった。また、マットの色はともに白色であった。
【0063】
このようにして作製した2枚のマットを、それぞれのマットの全長を2等分する位置が上下で重なるように、最短マットを上にして積層させた。
【0064】
そして、無機顔料を用いて赤色に着色した木綿糸からなる上糸、及び、無機顔料を用いて黒色に着色した木綿糸からなる下糸をミシンに装着し、ミシン縫いを行って2枚のマットを糸により固定した。
得られた保持シール材の第1面(最短マットの表面)には赤色の上糸が露出しており、保持シール材の第2面(最外マットの表面)には黒色の下糸が露出していた。
【0065】
糸による識別情報の付与領域は、1mm(糸の幅)×285mm(マットの幅−10mm)であり、図1に示すような2ヶ所に識別情報付与領域を設けた。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様にして2枚のマットを積層したのち、上糸と下糸で同じ黒色の木綿糸を使用してミシン縫いを行って2枚のマットを固定して保持シール材を製造した。
保持シール材の表裏の識別のため、保持シール材の第1面にインクジェットにより表裏を示す文字を印字した。文字の印字領域は10mm(高さ)×105mm(文字幅×桁数)であった。
【0067】
(比較例2)
実施例1と同様にして2枚のマットを積層したのち、上糸と下糸で同じ黒色の木綿糸を使用してミシン縫いを行って2枚のマットを固定して保持シール材を製造した。
保持シール材の表裏の識別のため、表裏を示す文字を印字したシールを保持シール材の第1面に貼り付けた。シール上の文字の印字領域は30mm(高さ)×80mm(長さ)であった。
【0068】
(比較例3)
実施例1と同様にして2枚のマットを積層して保持シール材を製造した。
2枚のマットの固定及び保持シール材の表裏の判別のため、その一部に表裏を示す文字を印字したテープバンドを保持シール材に巻き付けて固定した。テープバンド上の文字の印字領域は50mm(テープ幅)×295mm(マットの幅)であった。
なお、保持シール材の表裏でテープバンドの色を変更することによって表裏の識別を行うことも検討したが、工程が煩雑になり困難であったため実施しなかった。
【0069】
(比較例4)
実施例1と同様にして2枚のマットを積層したのち、上糸と下糸で同じ黒色の木綿糸を使用してミシン縫いを行って2枚のマットを固定して保持シール材を製造した。
保持シール材の表裏の判別のため、保持シール材の第1面の全体に黄色の有機顔料を添着させて、その第1面が黄色、第2面が白色の保持シール材を製造した。
【0070】
(表裏の識別性の評価)
実施例及び比較例で製造した保持シール材の表裏の識別性を目視で観察して評価した。
具体的には、保持シール材を高さ100cmの机上に置き、保持シール材の最も観察者に近い側面から50cm離れた位置から観察者が観察することによって評価した。
表1には、実施例及び比較例の保持シール材の表裏の識別性について、識別が容易であった場合を○、識別が容易でなかった場合を×で示した。
実施例1で製造した保持シール材では、保持シール材の第1面と第2面で異なる色の糸が露出しており、糸により鮮明に識別情報が付与されていたため、表裏の識別が容易であった。
【0071】
しかしながら、比較例1で製造した保持シール材では、印字が不鮮明であり表裏の識別が容易ではなかった。
インクジェットによる印字が不鮮明であるのは、無機繊維からなるマットの表面が平坦でないことに起因すると考えられる。
比較例2〜4で製造した保持シール材では、鮮明に識別情報が付与されており、表裏の識別が容易であった。
【0072】
(巻き付け性及び識別情報の耐久性の評価)
実施例及び比較例で製造した保持シール材を直径13インチの排ガス処理体に巻き付け、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際の巻きやすさ、すなわち巻き付け性を評価した。
また、保持シール材を巻き付けた排ガス処理体をケーシングに入れて排ガス浄化装置として、振動試験を行い、振動試験後に識別情報が識別可能な状態で維持されているか(識別情報の耐久性)を評価した。
【0073】
振動試験は、周波数160Hz、加速度30G、振幅0.58mm、保持時間10hr、室温、振動方向Z軸方向(上下)の条件で行った。この振動試験を10回繰り返した。
そして、排ガス浄化装置を分解して保持シール材を取り出し、保持シール材の表面に付与された識別情報の様子を目視で観察して評価した。
【0074】
表1には、実施例及び比較例の保持シール材における巻き付け性を、巻き付けが容易にできた場合を○、巻き付ける際の作業性が悪かった場合を×で示した。
また、実施例及び比較例の保持シール材における識別情報の耐久性について、目視で観察して、振動試験後でも識別情報が識別可能な状態で維持されていた場合を○、識別情報が識別可能な状態で維持されていなかった場合を×で示した。
実施例1で製造した保持シール材では、巻き付け性が良好であり、振動試験後であってもマットに識別情報が識別可能な状態で維持されていた。
【0075】
図6(a)は、実施例1で製造した保持シール材において糸によって付与された識別情報の振動試験前後での写真である。
この写真から、振動試験前後で識別情報としての糸の状態に変化はみられないことがわかる。
【0076】
比較例2及び3で製造した保持シール材では、印字されたシール、印字されたテープバンドがそれぞれ巻き付け作業の際に邪魔となり、巻き付け性に劣っていた。
【0077】
比較例1及び比較例3で製造した保持シール材では、振動により印字が擦れて不鮮明になっていた。
図6(b)は、比較例1で製造した保持シール材においてインクジェットにより付与された識別情報の振動試験後の写真である。
この写真から、インクジェットにより付与された印字が振動により擦れて不鮮明になっていることがわかる。
【0078】
比較例2で製造した保持シール材では、振動により印字が擦れて不鮮明になるとともに、シールの剥がれも生じていた。
図6(c)は、比較例2で製造した保持シール材において印字されたシールによって付与された識別情報の振動試験後の写真である。
この写真から、識別情報が印字されたシールの図中右下が振動により剥がれていることがわかる。
【0079】
比較例4で製造した保持シール材では、振動により保持シール材の表面が削れており、マットに添着された顔料が剥がれて薄くなっていた。
すなわち、比較例1〜4で製造した保持シール材では、振動試験後にマットに識別情報が識別可能な状態で維持されていなかった。
【0080】
【表1】

【0081】
このように、実施例1で製造した保持シール材では、保持シール材の表裏の識別性が良好であり、その良好な識別性を振動試験後にも良好な状態で維持することができた。また、実施例1で製造した保持シール材は巻き付け性にも優れていた。
【0082】
(第二実施形態)
次に、本発明の保持シール材の一実施形態である第二実施形態について説明する。
本実施形態の保持シール材は、識別情報が文字による情報であり、マットに縫い付けられた糸により文字が描かれて文字による情報が付与されている。
【0083】
図7は、本発明の第二実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
図7に示す保持シール材110では、糸116が文字の形に縫いつけられており、識別情報が文字で付与されている。
文字で表す情報としては、例えば、ロット番号や製品の名称等に関する情報が挙げられるが、その情報の種類は特に限定されるものではない。
【0084】
また、本発明の第二実施形態の保持シール材は、糸により識別情報が文字で付与されていればよく、上糸と下糸の色が同じであってもよく、異なっていても良い。
上糸と下糸の色が異なっていれば、本発明の第一実施形態の保持シール材と同様にその表裏を簡便に判別することができる。
本発明の第二実施形態の保持シール材のその他の構成は本発明の第一実施形態の保持シール材と同様であるのでその詳細な説明を省略する。
【0085】
本発明の第二実施形態の保持シール材においても、本発明の第一実施形態と同じ効果(1)〜(4)に加えて以下の効果を発揮することができる。
(5)本実施形態の保持シール材では、糸により識別情報が文字で付与されている。糸により付与された識別情報は耐久性が高いため、糸によりロット番号等の文字で表される情報を付与することによって使用後であっても製品の製造履歴等を確認することが容易となる。
【0086】
(第三実施形態)
次に、本発明の保持シール材の一実施形態である第三実施形態について説明する。
本実施形態の保持シール材は、識別情報が二次元コードによる情報である。
二次元コードとしては、例えばQRコード等が挙げられる。
【0087】
図8は、本発明の第三実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
図8に示す保持シール材210では、糸216がQRコードの形に縫いつけられており、識別情報が二次元コードで付与されている。
二次元コードで付与する情報としては、例えば、ロット番号、製品の名称、製造履歴、原材料等の情報が挙げられるが、その情報の種類は特に限定されるものではない。
本発明の第三実施形態の保持シール材のその他の構成は第一実施形態の保持シール材と同様であるのでその詳細な説明を省略する。
【0088】
本発明の第三施形態の保持シール材においても、本発明の第一実施形態及び第二実施形態と同じ効果(1)〜(5)を発揮することができる。
【0089】
(第四実施形態)
次に、本発明の保持シール材の一実施形態である第四実施形態について説明する。
本発明の第四実施形態の保持シール材では、保持シール材の厚さ方向に沿って切断した断面において、マットに縫い付けられた糸は、マットの表面のうち糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下に位置する。
【0090】
図9は、本発明の第四実施形態の保持シール材の断面の一部を模式的に示す断面図である。
図9に示す保持シール材310では、マット311に縫い付けられた糸316は、糸が縫いつけられていない部位からなる平面320よりも凹んで、下に位置している。
【0091】
糸316がこのような部位に位置していると、保持シール材を排ガス処理体に巻き付けてケーシング内に配置した際に、ケーシングや排ガス処理体に直接接触するのはマット311の表面のうち糸が縫い付けられていない平面320であり、糸316はケーシングや排ガス処理体に直接接触しにくい。
そのため、排ガス浄化装置に振動が加わったとしても糸がケーシングや排ガス処理体と接触して擦れる可能性が低い。そのため、識別情報をより鮮明な状態で長期間保持させることができる。
【0092】
マットに縫い付けられた糸を、糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下に位置させる方法としては、上糸及び/又は下糸の張力を調整する方法が挙げられ、例えば、マットの反発力によって緩まない程度に糸の張力を調整すればよい。
また、上糸の張力を相対的に弱くし、下糸の張力を相対的に強くすると、上糸と下糸のマットの厚み方向における交点が下糸側になるため、上糸を糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下方に位置させることが可能となる。
【0093】
本発明の第四実施形態の保持シール材のその他の構成は本発明の第一実施形態の保持シール材と同様であるのでその詳細な説明を省略する。
また、本発明の第四実施形態の保持シール材においても、本発明の第一実施形態と同じ効果(1)〜(4)を発揮することができる。
【0094】
(第五実施形態)
次に、本発明の保持シール材の一実施形態である第五実施形態について説明する。
本発明の第五実施形態の保持シール材では、糸が上記マットに縫い付けられる開始点がマットの外周から30mm以上離間している。
【0095】
図10は、本発明の第五実施形態の保持シール材の一例を模式的に示す平面図である。
図10に示す保持シール材410では、ミシン縫いによりマットが糸416により縫い付けられている。そして、ミシン縫いにより糸がマットに縫い付けられる開始点420とマットの外周421との距離(図10中に符号Xで示す長さ)が30mm以上となっている。
【0096】
ミシン縫いを行うと、開始点420において糸416の端部の糸416aが縫い付けられていない自由端の状態となる。
そして、マットに縫い付けられていない糸が平面視した保持シール材の外周から飛び出ていると、飛び出た糸が保持シール材を巻き付ける工程において邪魔になったり、他の箇所に引っ掛かることがあるため好ましくなく、保持シール材を巻き付ける工程の作業性が低下することがある。
【0097】
ミシン縫いを行った際にマットに縫い付けられていない糸の長さが30mm以上となることは通常は無い。そのため、本実施形態の保持シール材のように、ミシン縫いにより糸がマットに縫い付けられる開始点がマットの外周から30mm以上離間していると、マットに縫い付けられていない糸が平面視した保持シール材の外側に飛び出すことが防止される。よって、保持シール材を巻き付ける工程の作業性が低下することが防止される。
【0098】
また、ミシン縫いにより糸がマットに縫い付けられた際の終点430とマットの外周431との距離(図10中に符号Yで示す長さ)も30mm以上となっていることが望ましい。
終点430において糸416の端部の糸416bが縫い付けられていない場合も、上述した端部の糸416aと同様に自由端の状態となるためである。
【0099】
また、糸がマットに縫い付けられる開始点とマットの外周との距離は、マットの幅(図1中、矢印Wで示す距離)の50%以下であることが望ましい。この距離が50%を超えると、マットの長手方向に平行な側面側からマットがめくれ上がりやすくなる。
また、糸がマットに縫い付けられる開始点とマットの外周との距離(図10中に符号Xで示す長さ)と糸がマットに縫い付けられた際の終点とマットの外周との距離(図10中に符号Yで示す長さ)の合計が、マットの幅の50%以下であることがより望ましい。
【0100】
本発明の第五実施形態の保持シール材のその他の構成は本発明の第一実施形態の保持シール材と同様であるのでその詳細な説明を省略する。
また、本発明の第五実施形態の保持シール材においても、本発明の第一実施形態と同じ効果(1)〜(4)を発揮することができる。
【0101】
(その他の実施形態)
本発明の保持シール材は、複数のマットが積層されている態様に限定されるものではなく、本発明の保持シール材は1枚のマットのみを有していても良い。
1枚のマットのみを有する保持シール材に対しても、マットに縫い付けられた糸によってマットに強固かつ鮮明に識別情報を付与することができる。
マットの枚数が1枚であっても、その表裏を区別する必要性はあり、また、文字による識別情報を付与することも有効である。
【0102】
マットが積層されている場合の態様は、図1に示したような最短マットが平面視で他のマットのどちらかの端から飛び出さないような位置に積層されている態様に限定されない。
例えば、最短マットと、最短マットの全長より長い全長を有するマット(以下、長いマットともいう)とが互いに長手方向にずれるように積層されていてもよい。具体的には、平面視した際に最短マットの左端が長いマットの左端よりも飛び出しており、長いマットの右端が最短マットの右端より大幅に飛び出しているような態様であってもよい。
また、最短マットと、最短マットの全長より長い全長を有するマットの左端が揃えられており、右端において長いマットが最短マットの右端から飛び出しているような態様であってもよい。
【0103】
本発明の保持シール材には、印刷等により識別情報が付与された布等を糸により縫い付けることによって識別情報が付与されていてもよい。糸により縫い付けることによって付与された識別情報は、シールによって貼り付けられて付与された識別情報と比較して剥がれにくく、振動に対する耐久性に優れる。
【0104】
本発明の保持シール材における糸の材質としては、例えば、レーヨン、キュプラ、アセテート等のセルロース系繊維、ナイロン、テトロン、アクリル、ビニロン、オペロン、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の合成繊維、木綿、絹等の天然繊維等が挙げられる。
【0105】
本発明の保持シール材においてミシン縫いを行う際の縫合方法としては、上述した本縫いに限られず、例えば、しつけ縫い等であってもよい。
これらの中では、本縫いがより望ましい。マット材同士をより確実に固定することができるからである。
【0106】
本発明の保持シール材においてミシン縫いを行う際の糸の撚り方は特に限定されず、単糸段階で下撚りや、合糸後に上撚りを入れてもよい。また、Z撚り(左撚り)でもよくS撚り(右撚り)でもよいが、ミシンの釜の回転による撚り戻りを防止するために、上撚りをZ撚りとすることが望ましい。
【0107】
本発明の保持シール材の短辺に形成された凹部及び凸部の形状は、凹部と凸部とが嵌合することができる形状であれば特に限定されないが、一組の凹部及び凸部からなる場合には、一方の短辺の一部に幅10mm×長さ10mm〜幅300mm×長さ100mmの大きさに渡って突出した凸部が形成されており、他方の短辺の一部にそれに嵌合する形状の凹部が形成されていることが望ましい。このような凹部及び凸部の形状を有する保持シール材を用いて排ガス浄化装置を製造する場合には、保持シール材で排ガス処理体を確実に保持することができるので、取り扱い性に優れることとなる。
また、上記保持シール材の短辺には、互いに嵌合する複数の凹部及び凸部が形成されていてもよいし、凹部及び凸部が形成されていなくてもよい。
【0108】
マットを構成する無機繊維としては、特に限定されず、アルミナ−シリカ繊維であってもよく、アルミナ繊維、シリカ繊維等であってもよい。また、ガラス繊維であってもよい。耐熱性や耐風蝕性等、保持シール材に要求される特性等に応じて変更すればよい。アルミナ−シリカ繊維を無機繊維として用いる場合には、例えば、アルミナとシリカとの組成比が、60:40〜80:20の繊維を用いることができる。
【0109】
マットを構成する無機繊維の平均繊維長は、30μm〜120mmであることが望ましく、50μm〜100mmであることがより望ましい。また、無機繊維の平均繊維径は、2〜12μmであることが望ましく、3〜10μmであることがより望ましい。
【0110】
保持シール材の製造に用いられる有機バインダとしては、上述したアクリル系樹脂に限られず、例えば、アクリルゴム等のゴム、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール等の水溶性有機重合体、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等であってもよい。これらの中では、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが特に望ましい。
【0111】
排ガス浄化装置を構成するケーシングの材質は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属類が挙げられる。
【0112】
排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体は、図4(a)に示したような全体が一の焼結体で構成された一体型排ガス処理体であってもよく、あるいは、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム焼成体が、接着材層を介して複数個結束されて得られる集合型排ガス処理体であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10、110、210、310、410 保持シール材
11、12、311 マット
11a 保持シール材の第1面
12a 保持シール材の第2面
16、17、116、216、316、416 糸
16a 上糸
16b 下糸
320 糸が縫いつけられていない部位からなる平面
420 糸がマットに縫い付けられる開始点
421 マットの外周

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維からなるマットと、
前記マットに縫い付けられ、前記マットに識別情報を付与する糸とからなることを特徴とする保持シール材。
【請求項2】
前記マットは積層された複数枚のマットからなり、
前記複数枚のマットが前記糸により縫い付けられている請求項1に記載の保持シール材。
【請求項3】
前記糸は、保持シール材の第1面に露出する上糸と、保持シール材の第2面に露出する下糸とからなり、
前記上糸と前記下糸の色が異なる請求項1又は2に記載の保持シール材。
【請求項4】
前記糸に有機顔料又は無機顔料が添着されている請求項1〜3のいずれかに記載の保持シール材。
【請求項5】
前記糸に無機顔料が添着されている請求項4に記載の保持シール材。
【請求項6】
保持シール材の厚さ方向に沿って切断した断面において、
マットに縫い付けられた糸は、マットの表面のうち糸が縫い付けられていない部位からなる平面よりも下に位置する請求項1〜5のいずれかに記載の保持シール材。
【請求項7】
前記糸が前記マットに縫い付けられる開始点は、前記マットの外周から30mm以上離間している請求項1〜6のいずれかに記載の保持シール材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−214194(P2011−214194A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83769(P2010−83769)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】