説明

保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニット

【課題】 この有限直動案内ユニットは,保持器に保持したピニオンと軌道台に配置したラックとでずれ防止機構を構成し,ピニオンを剛性に富んだ形状に構成する。
【解決手段】 ずれ防止機構20は,保持器3に取り付けられたホルダ10,軌道台1,2の逃げ溝19に配設されたラック5,6,及びラック5,6に噛み合う歯部41を備え且つホルダ10に回転自在に装着されたピニオン4を有する。ピニオン4は,円板状でなる円板部51,円板部51に周方向に均一に隔置して形成された歯部41,及び円板部51の回転中心となってホルダ10に回転自在に保持される軸部21を有する。歯部41は,歯先面61が平坦面であって歯直角平面において両側の歯面65が互いに平行に延びて歯厚が一定の矩形形状の歯形に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,一対の長尺な軌道台を保持器で保持された転動体を介して互いに相対移動させる保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,半導体製造装置等の各種の機械装置では,高加減速化,高速化,コンパクト化,高精度化,低摺動抵抗化等の各種の性能が求められており,これらの機械装置に対して有限直動案内ユニットが多く使用されるようになった。また,従来の保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニットは,小型のものが大半であったが,更に大きなタイプのものへ適用される大型の有限直動案内ユニットが要望されるようになった。
【0003】
従来,有限直動案内ユニットとして,本出願人に係るものが先に特許出願されている。該有限直動案内ユニットは,軌道台間に転動体の保持機能を持つ保持器に配設し,該保持器にラックとピニオンから成る保持器のずれ防止機構を設け,該ずれ防止機構によって保持器の軌道台からの脱落を防止するものであり,保持器に形成された嵌着孔に嵌着されたホルダは,そのフランジ部に設けた複数のピンを保持器に形成したピン孔に嵌入した後に,ピンの端部をカシメ加工し,ホルダを保持器に固着している。ピニオンは,ホルダ部のホルダ孔部にピニオンの軸部を押し込むことによってホルダに回転自在に保持されている。上記有限直動案内ユニットでは,ピニオンは,例えば,従来のインボリュート曲線を基本とした歯形を有するものとは異なり,歯部が円板部の外周から延びる歯元部とそれに一体の半円形の先端部とからなる突出部から構成されている。また,ラックは,長手方向に沿って噛み合うピニオンの突出部の歯部の回転ピッチと合致するピッチで歯溝となる噛み合い凹部が形成され,噛み合い凹部は,ラック歯部と底部によって一体構造に構成されている。また,ピニオンの歯部の先端部の半径よりやや大きい径でなる円形凹部に形成され,ラック歯部は歯先部である先端部が尖ることなく平坦面に形成されている。更に,ラックは軌道溝の逃げ溝に配設されている。また,ピニオンは,保持器に固着されたホルダの嵌挿孔に,円板部を嵌挿すると共にホルダ部のホルダ孔部にピニオンの軸部を押し込むことによって,ホルダを介して保持器に回転自在に保持されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,別のタイプの有限直動案内ユニットとして,本出願人に係るものが先に特許出願されている。該有限直動案内ユニットは,保持器のずれ防止機構を備えており,ラックは,ピニオンが噛み合うための予めきめられた間隔に隔置して設けられた歯部,及び歯部の両側面に長手方向に連続して延び,歯部を互いに連結する側壁部で一体構造に形成され,軌道台の逃げ溝の奥に形成された幅広の底部に配設されている。また,ラックの歯部は,歯先部である先端部が尖ることなく平坦面に形成されている。また,ピニオンは,例えば,従来のインボリュート曲線を基本とした歯形を有するものとは異なり,円板部の外周に隔置して先端部が半径の円形でなる歯部が形成されたものであり,保持器に固着されたホルダの嵌挿孔に,円板部を嵌挿すると共にホルダ部の貫通孔にピニオンの軸部を押し込むことによって,ホルダを介して保持器に回転自在に保持されている(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,従来,回転運動と直線運動の変換装置が知られている。該回転運動と直線運動の変換装置は,ラックにローラを設け,ピニオンに歯を形成したものであり,ラックとピニオンとの間には,予圧が常に加えられるように設けられている。また,ピニオンは修正インボリュート曲線を採用した歯車になっている。また,複数のローラは,ラックの複数の歯と同時に噛み合うように設けられている(例えば,特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−28157号公報
【特許文献2】特開2003−176820号公報
【特許文献3】特開平10−184842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1に開示された有限直動案内ユニットは,大形の有限直動案内ユニットでは,ラック&ピニオンに負荷されるずれ防止の力も大きくなり,ラックを逃げ溝にしっかりと固着し,ピニオンをホルダにしっかりと保持することが必要になっている。また,対向したラックの間隔が多少変化しても,ラック&ピニオンの噛み合いが外れることが無いような構造が要求され,更に改善されるべき問題を有している。即ち,上記有限直動案内ユニットは,小形のものに適しており,大形のものでは,ホルダも大きくなり,ホルダ自身を変形させることが困難になり,また,ピニオンに負荷されるずれ防止の力も大きくなり,ピニオンをホルダに更に堅固に支持する必要がある等の問題を有している。
【0007】
また,上記特許文献2に開示された有限直動案内ユニットは,ホルダを保持器に複数のピンで固着しなければならず,面倒な組立になり,それぞれの部材の加工も困難なものになっている。また,上記有限直動案内ユニットを大形の機械装置に適用する場合には,ピニオンに負荷されるずれ防止の力も大きくなり,ピニオンをホルダにしっかりと支持する必要があるという課題があった。即ち,大形の有限直動案内ユニットでは,ラック&ピニオンに負荷されるずれ防止のカも大きくなり,ピニオンをホルダにしっかりと保持し,長尺状になるラックを逃げ溝に配設する構成が必要であり,また,対向したラックの間隔が多少変化しても,ラック&ピニオンの噛み合いが外れることが無いような構造に構成されなければならないという問題がある。
【0008】
また,上記特許文献3に開示された回転運動と直線運動の変換装置は,ラック&ピニオンによるものであり,回転運動と直線運動との運動変換を可能にする動力伝達装置であり,ピニオンとラックが複雑な歯形に形成されている。しかしながら,有限直動案内ユニットに設ける保持器のずれ防止機構としては,一対のラックとピニオンとのシンプルな噛み合いであり,両者に噛み合いが外れない構造でなければならず,簡単な構成のものが要求されているので,上記のように複雑な変換装置は,有限直動案内ユニットに適用することは不向きなものである。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,従来よりも大形な機械装置に適用可能な保持器のずれ防止機構を備えたものであり,特に,ホルダに収容されて回転自在に装着されるピニオンを上記特許文献1や特許文献2の有限直動案内ユニットよりも大形のものに適用可能な構成にするため,ピニオンの支持構造を堅固に高剛性に構成してラック&ピニオンが保持器ずれの大きな作用力に対抗できるように構成し,軌道台が長尺状になってもラックを軌道台に容易に配設できるように構成し,ピニオンが長尺状に形成されたラック間の位置変動に対してラックに噛み合いできる保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,長手方向壁面に互いに対向する軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記軌道台の前記軌道溝間に形成された軌道路に配設されている複数の転動体を保持する前記長手方向に延びた板状でなる保持器,及び前記保持器が前記軌道台間でずれるのを防止するずれ防止機構を有し,前記ずれ防止機構は,前記軌道台にそれぞれ設けられたラック,及び前記ラックの歯部にそれぞれ噛み合う歯部を備え且つ前記保持器に固設されたホルダに回転自在に装着されたピニオンからなる有限直動案内ユニットにおいて,前記ピニオンは,円板状でなる本体部,前記本体部の外周から延びて周方向に均一に隔置して形成された前記歯部,及び前記本体部の回転中心となって前記ホルダに回転自在に保持される軸部を備えており,前記ピニオンの前記歯部は,歯直角平面における歯先面が平坦であって両側の歯面が互いに平行に延びて歯厚が実質的に均一の矩形形状の歯形に形成されていることを特徴とする有限直動案内ユニットに関する。
【0011】
また,前記ラックは,前記ピニオンが噛み合うための所定間隔に隔置して設けられた歯部,及び前記歯部の両側面に長手方向に連続して延び前記歯部を互いに一体構造に連結する連結柱部で構成され,前記連結柱部間と隣り合う前記歯部間とで囲まれる部分が前記ピニオンの前記歯部が貫通可能な開口部に形成されている。更に,前記ラックの前記歯部は,歯先面が半円形面に形成されている。
【0012】
前記ピニオンは,前記ラックとの噛み合いを滑らかにするために,歯底が円形凹部に形成され,歯末の歯面が円弧面に形成されている。
【0013】
この有限直動案内ユニットにおいて,前記ラックは前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された嵌挿溝に配設され,前記嵌挿溝は前記逃げ溝の溝底から離れた位置に形成され,前記ラックと前記逃げ溝の前記溝底との間には隙間が形成されている。
【0014】
また,前記ホルダは,前記保持器の保持板を挟んで嵌着する一対のホルダ部材から成り,前記ピニオンは,それぞれの前記ホルダ部材に形成された軸受部に回転自在に挟持されている。
【0015】
この有限直動案内ユニットにおいて,前記ホルダは,前記ホルダ部材同士がスナップフィット結合により掛止固定される形状に構成されている。更に,前記スナップフィット結合は,一方の前記ホルダ部材に形成された舌片状に延びる爪部と他方の前記ホルダ部材に形成された係止段部,及び前記他方の前記ホルダ部材に形成された舌片状に延びる爪部と前記一方の前記ホルダ部材に形成された係止段部とで掛止固定されている。
【0016】
また,この発明は,長手方向壁面に互いに対向する軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記軌道台の前記軌道溝間に形成された軌道路に配設されている複数の転動体を保持する前記長手方向に延びた板状でなる保持器,及び前記保持器が前記軌道台間でずれるのを防止するずれ防止機構を有し,前記ずれ防止機構は,前記軌道台にそれぞれ設けられたラック,及び前記ラックの歯部にそれぞれ噛み合う歯部を備え且つ前記保持器に固設されたホルダに回転自在に装着されたピニオンからなる有限直動案内ユニットにおいて,前記ラックは前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された嵌挿溝に配設され,前記嵌挿溝は切削加工により形成されていることを特徴とする有限直動案内ユニットに関する。更に,前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された前記嵌挿溝は,前記逃げ溝の溝底から離れた位置に形成されている。
【発明の効果】
【0017】
この有限直動案内ユニットは,上記のように構成されており,ピニオンに高剛性を持たせ,ピニオンを回転自在に保持するホルダを強固にして大形のものに適用可能に構成し,部品点数が少なく,シンプルな構造で,組立容易でコンパクトに,安価製作でき,応用自在等の各種の作用効果を発揮できるものであり,具体的には,ピニオンの歯形の弦歯厚が一様に厚く,矩形形状に形成され,全歯たけを長く形成して剛性を持たせ,ラック間隔が変動しても,ピニオンとラックとの噛み合いが外れることがなく,安定して滑らかに噛み合うことができ,ピニオンがホルダの窓の両側面でしっかりと支持され,ホルダを保持器に無理な変形を与えることなく簡単に組み込んで保持器に強固に安定して固定でき,ピニオンの軸部が一対のホルダ部材によって挟持して堅固に回転自在に配設される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明による保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニットは,特に,従来よりも大形なものに適用可能な保持器のずれ防止機構を提供することであり,ラック&ピニオンの構成に特徴を有するものであって種々の形式の有限直動案内ユニットに適用できる。この実施例では,ラック&ピニオンが一対の軌道台の間の軌道路内に配設される構造に構成されているが,ホルダの保持器への取付けは保持器にホルダ用嵌着孔が形成できる所であれば,保持器の任意位置に取付け可能であって,例えば,軌道路外に配設するように構成してもよいものである。また,実施例では,一対の軌道台は,同一構造に構成されているが,長さや形状を異にするものでもよく,他の形式になる有限直動案内ユニットにも適用できることは勿論であり,また,実施例では転動体がローラであるが,ボール(図示せず)のタイプの有限直動案内ユニットにも適用できることは勿論である。
【0019】
以下,図面を参照して,この発明による保持器のずれ防止機構を備えた有限直動案内ユニットの実施例について説明する。まず,図1〜図3に示すように,この有限直動案内ユニットは,一対の軌道台1,2間に位置する転動体のローラ13を保持する保持器3に,軌道台1,2に設けたラック5,6に噛み合うピニオン4を有したラック&ピニオンによる保持器3のずれ防止機構20を備えたものである。この有限直動案内ユニットは,軌道台1,2がローラ13を介して互いに相対移動するように構成されている。保持器3は,互いに相対移動する軌道台1,2の軌道溝43間にローラ13を回転自在に保持する板状の保持板9から形成されている。実施例では,軌道台1,2のストローク長さに対して半分のストローク長さで軌道台1,2が相対移動する構造である。しかしながら,この有限直動案内ユニットは,負荷変動,軌道溝43に形成された軌道面7,8の加工精度,立て軸仕様,高速高加減速等の各種の条件によって軌道台1,2の位置が僅かずつ位置ずれして保持器3が位置ずれするので,ピニオン4とラック5,6から成るラック&ピニオン機構から成るずれ防止機構20を保持器3に組み込んで軌道台1,2の互いの位置ずれが防止できるように構成されている。
【0020】
軌道台1,2の両端面59には,軌道台1,2のストローク規制,保持器3の飛び出し規制等を行うため,ストッパとなる端部ねじ14がそれぞれ取り付けられている。ずれ防止機構20は,一対の軌道台1,2のそれぞれに取り付けられたラック5,6の中間位置でラック5,6にそれぞれ同時に噛み合うピニオン4が保持器3に嵌着されているので,保持器3は,軌道台1,2の移動距離(移動速さ)の半分の距離に規制され,ラック&ピニオンのずれ防止機構20が噛み合っている限り,軌道台1,2のずれ移動を規制できるものである。ピニオン4は,保持器3に嵌着したホルダ10内に回転自在に配設され,一対のラック5,6に噛み合っている。また,ピニオン4は,実施例では,図2に示すように,保持器3の中央位置に配置されたホルダ10に回転自在に配設されている。ピニオン4が配置された保持器3の中央位置は,負荷バランス,ストローク長さの確保等から考慮して好ましい位置であるが,場合によっては,ピニオン4の配設位置は,保持器3の任意位置でもよく,複数のピニオン4を配設するように構成することも可能である。
【0021】
軌道台1,2は,実施例では断面略矩形状に形成され,一つの壁面17,18の長手方向に沿って軌道溝43がそれぞれ形成されている。軌道溝43は,V字状の形状に形成されており,長手方向両側に一対の軌道面7,8が位置しており,軌道面7,8間には逃げ溝19が形成されている。軌道台1,2には,ベース等の相手部材にボルト(図示せず)によって軌道台1,2を取り付けるため,軌道溝43が形成された対向面の壁面17,18と直交する上下面の壁面44に所定間隔で取付け用孔15が形成されている。取付け用孔15は,ボルトの頭が隠れるようにザグリ孔16と,ベース側からボルトを螺着できるようにねじ孔46とに形成されている。保持器3は,軌道台1と軌道台2との間に配設され,転動体である複数のローラ13をそれぞれ所定間隔で回転自在に保持するため,長手方向に沿って隔置した多数の保持孔50が形成された保持板9から形成されている。ローラ13は,図4に示すように,保持器3の保持板9の側面42即ち平面に対して軸心が45°傾斜して保持板9に組み込まれ,隣接するローラ13同士が交互に交差して,言い換えれば,隣り合うローラ13の軸心が直交して保持板9に形成された保持爪28によって保持板9に保持されている。
【0022】
この有限直動案内ユニットは,特に,図6〜図8に示されるように,ピニオン4の構成に特徴を有するものであり,ピニオン4は,円板状でなる本体部即ち円板部51,円板部51の外周から延び周方向に均一に隔置して形成された円板部51と一体構造の歯部41,及び円板部51の回転中心となってホルダ10に回転自在に保持される軸部21を備えている。ピニオン4の歯部41は,歯直角平面(又は軸直角平面)における歯先面61が平坦であって両側の歯面65が互いに実質的に平行に延びて弦歯厚である歯厚Sが実質的に一定の矩形形状の歯形に形成されている。また,ピニオン4は,ラック5,6との噛み合いを滑らかにするために,歯底52が円形凹部に形成され,歯末62の歯面が円弧面に形成されている。ピニオン4は,図16に示すように,ラック5,6の間隔が変動しても噛み合いが外れることがないように,充分に噛み合い可能になっており,特に,歯部41の歯形が矩形形状に形成されていることを特徴としている。ピニオン4は,矩形形状の歯形に形成されることによって全歯たけhも長く形成でき,弦歯厚Sも一様に厚く形成でき,剛性を有する形状になっている。また,ピニオン4の歯形は,ラック5,6との噛み合い状態を種々に解析し,ラック5,6と滑らかに噛み合うように,歯部41の歯末62は,歯形修整が施されてアール形状即ち円弧面に形成されている。歯形修整Rmは,図8に示されるように,弦歯厚Sとほぼ同じ長さになる半径Rmに歯末62の両側の外形部分を切り欠きし,平坦面の歯先面61との角部の角RをRsに形成している。また,ピニオン4の歯底部52の歯底面は,ラック5,6の歯先面57の半径Rcより僅かに大きい半径Rfでなる円形凹部に形成されている。ピニオン4の歯数Zは,8〜12個程度に形成されればよく,実施例では,最適な10個の歯数に形成されている。また,ピニオン4は,図7に示されるように,円板部51の幅Bが歯幅B1より僅かに大きく形成され,ホルダ10に保持された状態で,ホルダ10の窓35の側面39と円板部51の両側面47とでしっかりと支持されている。図16には,一対のラック5,6とピニオン4とが中間位置(平衡位置)で噛み合っている状態が示されている。
【0023】
図3,図13〜図15に示すように,ラック5,6は,軌道台1,2の軌道溝43に沿って延びる逃げ溝19内にそれぞれ配設され,逃げ溝19の長手方向の両側面60に形成された嵌挿溝22,23に配設して固着されている。ラック5,6は,軌道台1,2の全長に渡って設けてもよいが,軌道台1,2の少なくとも作動範囲を含んだ必要部分の長さにあれば十分である。また,ラック5,6は,軌道台1,2の端面59に開口する嵌挿溝22,23から挿通して配設することができる。図3及び図16に示すように,ずれ防止機構20を構成するピニオン4は,保持器3に嵌着したホルダ10内に回転自在に配設され,対向した一対のラック5,6に噛み合っている。ラック5,6は,図9〜図16に示すように,ピニオン4が噛み合うための所定間隔に隔置して設けられた歯部53,及び歯部53の両側面に長手方向に連続して延び前記歯部を互いに一体構造に連結する一対の側壁部を構成する連結柱部54で構成されている。連結柱部54間と隣り合う歯部53間とで囲まれる部分は,ピニオン4の歯部41が貫通可能な開口部56に形成されている。ラック5,6の歯部53は,歯先面57が半円形面に形成されている。また,ラック5,6は,軌道台1,2の軌道溝43の逃げ溝19に形成された嵌挿溝22,23に配設されている。軌道台1,2に形成された嵌挿溝22,23は,逃げ溝19の溝底63から離れた位置に形成され,ラック5,6と溝底63との間に隙間58が形成されている。ラック5,6の全高さは,実質的に全歯たけhcとなって全歯たけhcを長く形成でき,歯厚Scも厚く形成できるものになっており,ラック5,6は剛性の大きい構造に構成されている。ラック5,6は,全高さhcが小さく形成されているので,軌道台1,2の軌道面7,8間に形成された小さなスペースの逃げ溝19に配設可能になっている。
【0024】
ラック5,6は,軌道台1,2の逃げ溝19に形成された嵌挿溝22,23に嵌挿されて固定され,その固定状態は,ラック5,6の長手方向の端面が軌道台1,2の端面59に取り付けられた端部ねじ14に突き当たる状態になっている。この場合は,軌道台1,2の全長とラック5,6の全長は,等しくなっている。ラック5,6が軌道台1,2より短い場合には,軌道台1,2と同一長さにするため,ラック5,6の端面に当接してダミーとなるスペーサ(図示せず)を配設し,スペーサ端面が軌道台1,2に固定した端面ねじ14に突き当たる状態に構成することができる。この有限直動案内ユニットは,大形であり,軌道台1,2が長尺状になり,それに伴って,ラック5,6の嵌挿溝22,23も長尺状に形成しなければならないことになる。そのため,この有限直動案内ユニットでは,長尺状でなる嵌挿溝22,23を簡単に安価に形成するためにカッタによる切削加工を採用しているので,嵌挿溝22,23は切削加工できる形状に形成されている。嵌挿溝22,23の形状は,逃げ溝19の溝底63から底上げした位置に形成され,カッタによってこの位置設定により切削加工が可能になっている。
【0025】
図13〜図15に示すように,軌道台1,2に形成した嵌挿溝22,23は,ラック5,6の歯部53の底面が逃げ溝19の溝底63との間に隙間58を有する位置に形成されている。従って,ラック5,6の構成における開口部56からピニオン4の歯先面61が貫通してラック5,6の歯部53の底面から突出しても,ピニオン4の歯先面61は逃げ溝19の溝底63に干渉することなく隙間58によって許容される構造になっている。図16に示すように,嵌挿溝22,23の切削加工により,一対のラック5,6のラック間隔(又は,基準ピッチ位置間)がバラツキ(変動)があっても,ピニオン4との充分な噛み合いを確保することが可能になっている。また,ラック5,6は,ピニオン4と滑らかに噛み合うために,ラック5,6の歯部53は断面が半円形の歯先面57に形成されている。また,ラック5,6の歯先面57には,図3に示す組立状態にあって,転動体のローラ13と接触しないようにV字状の凹部の逃げ部48が形成されている。
【0026】
また,この実施例では,ラック5,6及びホルダ10は合成樹脂で製作されている。ピニオン4は,金属射出成形(Metal Injection Molding parts )で製作されている部品(いわゆる型物)で形成されている。従って,ピニオン4は勿論のこと,ラック5,6及びホルダ10は所望の形状に形成できるものである。金属射出成形の工程は,例えば,金属微粉末を作製し,金属微粉末をバインダーと混練し,次いで混練物でペレットを作り,該ペレットを射出成形してピニオンの成形物を作製し,該成形物を凍結乾燥してバインダーを気化脱脂して成形物からバインダーを除去し,脱バインダーの成形物を焼結炉で焼結して最終製品のピニオン4を作製することができる。
【0027】
次に,特に図3,図5及び図17を参照して,ずれ防止機構20を保持するホルダ10について説明する。ホルダ10は,ピニオン4を回転自在にして遊びを極力小さくし且つしっかりと保持できる構造になっている。また,ホルダ10は,保持器3にしっかりと固着できるものになっている。ホルダ10は,特に,同一に構成された一対のホルダ部材11,12で構成されており,嵌着孔30において保持板9の一側面42に位置するホルダ部材11とホルダ部材11に対向して保持板9の他側面42に位置するホルダ部材12とから成る。ホルダ部材11,12は,長手方向の両側にそれぞれ延びる袖部38によって嵌着孔30の周りの保持板10の縁面29を両側から狭着して保持板9に固設される。従って,ホルダ10は,保持板9を挟んで嵌着する一対のホルダ部材11,12から成り,ピニオン4をホルダ部材11,12に形成された軸受部36で回転自在に挟持して支持し,ピニオン4との遊びを極力小さくしているので,ホルダ10は,ピニオン4をしっかりと保持できるものになっている。また,ホルダ10は,一対のホルダ部材11,12が保持板9をしっかりと挟持して保持板9に固着される構造になっている。ホルダ部材11,12は,互いに対向するそれぞれの係合面40が相補性形状に配置される同一形状に形成されており,ピニオン4を嵌挿するための細長い矩形状の窓35が中央に形成された略矩形板状に形成されている。
【0028】
ホルダ10は,ホルダ部材11,12同士がスナップフィット結合により掛止固定される形状に構成されており,スナップフィット結合は,一方のホルダ部材11又は12に形成された舌片状に延びるフックである爪部49と他方のホルダ部材12又は11に形成された係止段部26又は27,及び他方のホルダ部材12又は11に形成された舌片状に延びる爪部49と一方のホルダ部材11又は12に形成された係止段部27又は26とで掛止固定されている。ホルダ部材11,12は,ピニオン4を窓35に嵌挿させて組み込んだ状態で,保持器3である保持板9に形成された嵌着孔30に嵌合させて互いに対向させると共に,ホルダ部材11,12を互いに対向した状態でスナップフィット結合により係止固定することによって保持板9に固着できる。ホルダ10は,ホルダ部材11,12を合体すると,それぞれの係合面40の凸部31,32になる嵌合部が合わさって保持板9の嵌着孔30に一致して嵌合することになる。保持板9の嵌着孔30は,例えば,ローラ13の保持孔50の二つ分の大きさになる矩形状の窓即ち嵌着孔30に形成されている。保持板9の全長にわたって保持孔50が形成された素材から,実施例では中央部分に位置する保持孔50間の部分を打ち抜いて嵌着孔30を形成したものである。ホルダ10は,上記のように,同一構成のホルダ部材11,12を合体し,スナップフィット結合方式になっているので,部品点数が少なく,単純な構造,安価,組立容易,コンパクト,応用自在等の効果を発揮するものになっている。
【0029】
ホルダ部材11,12は,それらにそれぞれ形成された窓35の面である側面39がピニオン4の側部47をしっかりと規制するため,窓35の長手方向全長にわたって十分な壁面を持つように,側面39を形成する部分が山形状の凸部66に形成されている。また,ホルダ部材11,12に設けた凸部31,32は,それらの外面が保持板9の嵌着孔30に嵌合する形状に形成されている。保持板9に対向するホルダ部材11,12の内面の対向面は,それらの周面が袖部38になる係合面40を構成し,対向する係合面40が保持板9の嵌着孔30の周囲の縁面29と当接して保持板9を挟み込むことになる。即ち,保持板9の嵌着孔35に対向する係合面40間の部分は,保持板9の嵌着孔35にしっくりと嵌合するため,係合面40より突出して嵌合部となる凸部31,32に形成されている。また,凸部31,32は,嵌着孔35の丁度半分のサイズにそれぞれ形成され,ホルダ部材11,12の長手方向の一方側に形成されている。更に,ホルダ部材11,12は,一方のホルダ部材11又は12の凸部31又は32の突出量が保持板9の板厚よりも僅かに小さいものになっており,他方のホルダ部材12又は11の袖部38の面と同一面即ち凸部31,32の無い面に対向するように互いに配設されている。
【0030】
また,ホルダ部材11,12の対向面である係合面40には,ピニオン4の軸部21をホルダ部材11,12でしっかりと回転自在に保持するために,軸部21を包み込むように凹部となる軸受部36がホルダ部材11,12の窓部35の中央の両側に形成されている。また,互いのホルダ部材11,12は,互いにぴったりと高精度に合体するために,一方の対角線上に軸受部36を挟んで2つの位置決めピン33が突出して形成され,他方の対角線上になる180°点対称の位置に位置決めピン33を嵌入するピン孔34が形成されている。また,ホルダ部材11,12の長手方向の一方の端部には,保持板9の対向面42から垂下して延びる舌片状の爪部24,25がそれぞれ形成され,それらの他方の端部には,爪部25又は24を挿通するため凹部になる挿入溝37がそれぞれ形成されている。ホルダ部材11,12にそれぞれ設けた舌片状の爪部24,25は,先端部がフック49にそれぞれ形成されている。ホルダ部材11,12の挿入溝37に続く外面の窓部35の端部を形成する部分には,爪部24,25のフック49がそれぞれ係止する平面状の係止段部26,27が形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による有限直動案内ユニットは,半導体製造装置,精密測定器,検査機,組立器,工作機械,各種ロボット等の各種機械装置に使用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による有限直動案内ユニットの実施例を断面部分を含んで示す斜視図である。
【図2】図1の有限直動案内ユニットを示す正面図である。
【図3】図2の有限直動案内ユニットにおけるA−A断面を示す断面図である。
【図4】図1の有限直動案内ユニットにおける保持器を示す平面図である。
【図5】図4の保持器におけるB−B断面を示す断面図である。
【図6】図1の有限直動案内ユニットに組み込まれたピニオンを示す正面図である。
【図7】図6のピニオンにおけるC−C断面を示す断面図である。
【図8】図6のピニオンの符号P部分を示す拡大正面図である。
【図9】図1の有限直動案内ユニットに組み込まれたラックを示す正面図である。
【図10】図9のラックを示す平面図である。
【図11】図9のラックを示す側面図である。
【図12】図10のラックにおけるD−D断面を示す断面図である。
【図13】図2の有限直動案内ユニットにおける軌道台へのラックの配設状態を示す端面図である。
【図14】図13の軌道台へのラックの配設状態のE−E断面における長手方向の一部分を示す断面図である。
【図15】図13の軌道台へのラックの配設状態の長手方向の一部分を示す平面図である。
【図16】図1におけるずれ防止機構を構成するピニオンとラックとの噛み合い状態を示す説明図である。
【図17】図1におけるずれ防止機構の組立状態を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1,2 軌道台
3 保持器
4 ピニオン
5,6 ラック
9 保持板
10 ホルダ
11,12 ホルダ部材
13 ローラ(転動体)
17,18 壁面
19 逃げ溝
20 ずれ防止機構
21 軸部
22,23 嵌挿溝
24,25 爪部
26,27 係止段部
36 軸受部
41 歯部
43 軌道溝
45 軌道路
51 円板部(本体部)
53 歯部
54 連結柱部
56 開口部
57 歯先部
58 隙間
61 歯先面
62 歯末
63 溝底
65 歯面
S 歯厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向壁面に互いに対向する軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記軌道台の前記軌道溝間に形成された軌道路に配設されている複数の転動体を保持する前記長手方向に延びた板状でなる保持器,及び前記保持器が前記軌道台間でずれるのを防止するずれ防止機構を有し,前記ずれ防止機構は,前記軌道台にそれぞれ設けられたラック,及び前記ラックの歯部にそれぞれ噛み合う歯部を備え且つ前記保持器に固設されたホルダに回転自在に装着されたピニオンからなる有限直動案内ユニットにおいて,
前記ピニオンは,円板状でなる本体部,前記本体部の外周から延びて周方向に均一に隔置して形成された前記歯部,及び前記本体部の回転中心となって前記ホルダに回転自在に保持される軸部を備えており,前記ピニオンの前記歯部は,歯直角平面における歯先面が平坦であって両側の歯面が互いに平行に延びて歯厚が実質的に均一の矩形形状の歯形に形成されていることを特徴とする有限直動案内ユニット。
【請求項2】
前記ラックは,前記ピニオンが噛み合うための所定間隔に隔置して設けられた歯部,及び前記歯部の両側面に長手方向に連続して延び前記歯部を互いに一体構造に連結する連結柱部で構成され,前記連結柱部間と隣り合う前記歯部間とで囲まれた部分が前記ピニオンの前記歯部が貫通可能な開口部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項3】
前記ラックの前記歯部は,歯先面が半円形面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項4】
前記ピニオンは,前記ラックとの噛み合いを滑らかにするために,歯底が円形凹部に形成され,歯末の歯面が円弧面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項5】
前記ラックは前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された嵌挿溝に配設され,前記嵌挿溝は前記逃げ溝の溝底から離れた位置に形成され,前記ラックと前記逃げ溝の前記溝底との間には隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項6】
前記ホルダは,前記保持器の保持板を挟んで嵌着する一対のホルダ部材から成り,前記ピニオンは,それぞれの前記ホルダ部材に形成された軸受部に回転自在に挟持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項7】
前記ホルダは,前記ホルダ部材同士がスナップフィット結合により掛止固定される形状に構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項8】
前記スナップフィット結合は,一方の前記ホルダ部材に形成された舌片状に延びる爪部と他方の前記ホルダ部材に形成された係止段部,及び前記他方の前記ホルダ部材に形成された舌片状に延びる爪部と前記一方の前記ホルダ部材に形成された係止段部とで掛止固定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有限直動案内ユニット。
【請求項9】
長手方向壁面に互いに対向する軌道溝がそれぞれ形成された相対移動する一対の軌道台,前記軌道台の前記軌道溝間に形成された軌道路に配設されている複数の転動体を保持する前記長手方向に延びた板状でなる保持器,及び前記保持器が前記軌道台間でずれるのを防止するずれ防止機構を有し,前記ずれ防止機構は,前記軌道台にそれぞれ設けられたラック,及び前記ラックの歯部にそれぞれ噛み合う歯部を備え且つ前記保持器に固設されたホルダに回転自在に装着されたピニオンからなる有限直動案内ユニットにおいて,前記ラックは前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された嵌挿溝に配設され,前記嵌挿溝は切削加工により形成されていることを特徴とする有限直動案内ユニット。
【請求項10】
前記軌道台の前記軌道溝の逃げ溝に形成された前記嵌挿溝は,前記逃げ溝の溝底から離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の有限直動案内ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2007−232062(P2007−232062A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53407(P2006−53407)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】