説明

保湿効果又は老化防止効果を有する少なくとも2つの浸透圧調節物質を含有する化粧品組成物

【課題】皮膚の保湿を回復、維持、又は増強する、及び/又は皮膚を様々な種類のストレスから保護する、及び/又は皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ若しくは遅らせる、又はその効果を弱める、或いは細胞又は組織の長寿命を促進する組成物を提供する。
【解決手段】タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを含む、化粧品組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な発明】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを含有する新規の化粧品組成物に関し、また化粧品組成物中、特に保湿及び/又は老化防止組成物中の活性化粧薬剤(以下、「活性薬剤」と呼ぶ)としてのその使用に関する。
【0002】
コスモトロピックな分子は、脱水などの高浸透圧ストレスに応じて細胞によって特に蓄積される有機化合物であり、その後それらは急速にそこから放出される(Kwon and Handler,Current Opin.Cell.Biol.;1995;7:465−471 and Haussinger 1996;Biochem.J 313:697−710)。
【0003】
これらの化合物は、一般的な「浸透圧調節物質」という用語でも知られており、高濃度であっても非常にわずかにしか細胞を撹乱させず、その上、前記細胞のタンパク質の機能を妨げない(Burg et al.,Annu.Rev.Physiol. 1997;59:437−455)。
【0004】
国際公開第91/914 435号パンフレットは、有効量の浸透圧調節物質又は前駆体の投与を含む、浸透圧性疾患の治療方法を開示している。
【0005】
国際公開第03/005 979号パンフレットは、皮膚恒常性の機能障害を治療又は予防するために、特に乾燥肌若しくは敏感肌をケア、治療、又は予防するために、化粧品組成物において少なくとも1つの浸透圧調節物質を使用することを開示している。
【0006】
これらの発行物はいずれも、本発明の主題である浸透圧調節物質の相乗作用的組み合わせを開示しておらず、或いは特に保湿及び/又は保護及び/又は老化防止の分野で、前記組み合わせについて実証された顕著な化粧品特性を明らかにしていない。
〔発明の目的〕
【0007】
本発明の主な目的は、特に保湿効果及び/又は保護効果及び/又は老化防止効果を有する化粧品組成物中の、新規の化粧品活性薬剤(以下、「活性薬剤」と呼ぶ)を提供することである。
【0008】
本発明の主な目的はまた、皮膚の保湿を回復、維持、若しくは増強する、及び/又は皮膚を様々な種類のストレスから保護する、及び/又は皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ若しくは遅らせる、又はその効果を弱める、また或いは細胞若しくは組織の長寿命を促進する、優れた能力を有する化粧品組成物の新規活性薬剤を提供することである。
【0009】
本発明の主な目的はまた、上記の新規活性薬剤によって、皮膚を保湿する、又は抗ストレス保護効果若しくは老化防止効果をもたらす、美容ケアの方法を提供することである。
【0010】
本発明の主な目的はまた、重大な副作用、特に皮膚の炎症を何ら伴うことなく繰り返しの皮膚への施用に適合する、新規の化粧品活性薬剤を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、特に単純で、比較的安価で、工業規模で使用可能な解決法によって、技術的問題を解決することである。
〔発明の概要〕
【0012】
本発明はこのように、少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを含む化粧品薬剤及び/又は化粧品組成物に関し、また化粧品組成物中の活性薬剤として少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを新規に使用することにも関する。
【0013】
前記組み合わせは特に、皮膚の保湿を回復、維持、若しくは増強すること、及び/又は皮膚を様々な種類のストレスから保護すること、及び/又は皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ若しくは遅らせること、又はその効果を弱めること、また或いは細胞若しくは組織の長寿命を促進することを可能にする。
【0014】
本発明はまた、肌を保湿する、又は抗ストレス効果若しくは老化防止保護効果をもたらす美容ケアの方法にも関し、化粧品組成物中の活性薬剤として少なくとも2つの浸透圧調節物質のそのような組み合わせを含む。
〔発明の詳細な説明〕
【0015】
本発明の第1の主題は、タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを含む化粧品薬剤である。
【0016】
タウリン誘導体のうち、ヒポタウリンが挙げられる。
本発明によれば、イノシトールはミオイノシトールとも呼ばれる。
ベタインはそれ自体、トリメチルグリシンとして区別されることなく知られている。
トレハロースは好ましくはD−トレハロースの形である。
少なくとも2つの浸透圧調節物質を含む組み合わせのうち、タウリン又はその誘導体、及びイノシトールを含む組み合わせが好ましい。
【0017】
1つの好ましい実施形態によれば、前記組み合わせは、タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される3つの浸透圧調節物質を含む。
これらの組み合わせのうち、好ましい組み合わせは、タウリン又はその誘導体、イノシトール、及びベタインから構成される。
【0018】
別の好ましい実施形態によれば、前記組み合わせは、タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される4つの浸透圧調節物質を含む。
これらの組み合わせのうち、好ましい組み合わせは、タウリン、イノシトール、D−トレハロース、及びベタインから構成される。
これらの組み合わせには、当業者にとって予期しない形で、表皮細胞中のシャペロンタンパク質HSPA1Aの相乗作用的な発現を刺激することを可能にする。
第1の変形形態によれば、組み合わせ中の最小量で存在する浸透圧調節物質の重量に対する、上記組み合わせ中の各浸透圧調節物質の重量比は、1〜10の間、好ましくは1〜5の間、さらにより好ましくは1〜2の間である。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態の変形形態によれば、タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む組み合わせの各浸透圧調節物質の重量比は、1/1/1/1〜1/2/2/2の間である。本発明による浸透圧調節物質の組み合わせは、相乗作用的であり予期しない効果をもたらすことが分かった。またしたがって、少なくとも1つの美容上許容可能な賦形剤をも含む化粧品組成物中の活性薬剤として使用することができる。
【0020】
このように化粧品薬剤は、所望の美容効果を得るために、浸透圧調節物質の前記組み合わせを有効量含む。
【0021】
第2の主題は、本明細書の上記で規定し、又は後述するような本発明による化粧品薬剤を0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.01重量%〜2重量%含む化粧品組成物である。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態によれば、この組成物は、浸透圧調節物質の上記の組み合わせが単層膜又は多重膜のリポソームなどの脂質小胞中に封入されていることを特徴とする。
1つの好ましい実施形態によれば、脂質小胞はホスファチジルコリンを含有する両親媒性脂質に基づき、特にレシチンに基づく。
【0023】
本発明の別の好ましい変形形態によれば、組成物は上記の組み合わせに加えてD−キシロースを含む。
本発明による化粧品組成物は、1つ又は複数の他の化粧品活性薬剤を含んでいてもよい。
本発明による浸透圧調節物質の組み合わせについて実証される化粧品特性は、同様の及び/又は相補的な美容効果を有する化粧品活性薬剤の存在下で改善されうる。
【0024】
先に定義したような浸透圧調節物質の組み合わせの他に、本発明による化粧品組成物はこのように、保湿特性を有する1つ又は複数の他の植物抽出物又は分子を含んでもよい。例えば、グリコール(特にグリセロール)、又は天然ポリオール、天然又は合成セラミド、ヒアルロン酸、又はより低分子量のそれらの断片、或いは天然保湿因子(NMF)の分子構成要素の全て又は一部、例えば乳酸塩、クエン酸塩、尿素、PCA(ピロリドンカルボン酸)塩、Na、K、Ca2+、又はMg2+イオン、セリン、シトルリン、アラニン、及びスレオニン、或いは脂質構成要素、例えばコレステロール及びコレステロール硫酸、並びにω−3、ω−6、及びω−9を含めた脂肪酸である。
【0025】
本発明による組成物中でやはり好都合に使用できる他の化粧品薬剤のうち、より詳細には次のものが挙げられる。
−皮膚のアクアポリンの生合成を刺激する分子又は抽出物、例えばアジュガトルケスタニカ(Ajuga turkestanica)の抽出物、バンダセルレア(Vanda coerulea)の抽出物、レチノイン酸、及びレチノール、或いは、マデカッソシド(madecassoside)及びアシアチコシド(asiaticoside)などの種類のヘテロシドが豊富である、ウスベニアオイ(Malva sylvestris)の抽出物及びセンテラアジアティカ(Centella asiatica)の抽出物の組み合わせ、
−プロフィラグリン(profilaggrin)及びフィラグリン(filaggrin)の生合成を活性化する分子又は抽出物、例えばバンバラマメ(Voandzeia subterranea)の種子の抽出物、
−インボルクリン及びタイプ1のトランスグルタミナーゼの生合成を活性化する分子又は抽出物、例えばポリフェノール、特にエピガロカテキン−3−ガレート及びそれを含有する抽出物、
−カスパーゼ14を活性化する分子又は抽出物。これらの分子又は抽出物はフィラグリンの分解に関与してNMF成分を生じることが注目されよう。緑茶ポリフェノール、特にエピガロカテキン−3−ガレート及びそれを含有する抽出物が例として挙げられよう、
−表皮のカリクレインを刺激する分子又は抽出物。これらの分子又は抽出物は皮膚表面での落屑(desquamation)を調節することが注目されよう。ノパルサボテン(nopal)の抽出物が特にその例として挙げられよう、
−表皮脂質の合成を刺激する分子又は抽出物。これらの分子又は抽出物は角質層の水分バリア効果及び皮膚の柔軟性において不可欠な役割を果たすことが注目されよう。ヒマワリ(Helianthus annuus L.)又はヘチマ(Luffa cylindrica)の種子の抽出物、及び/又はこれらの脂質を保護する抗酸化剤、例えばトコフェロール及びその誘導体、特にパルミチン酸エステル及び酢酸エステルなどのエステルが例として特に挙げられよう、
−角化細胞の最終分化及び/又はトランスグルタミナーゼを刺激することにより皮膚バリアを増強する分子又は抽出物、特にβ−エクジソン、又はグルコン酸カルシウムなどのカルシウム誘導体、
−表皮の再生を刺激する分子又は抽出物、特にトウモロコシ油、及び/又は表皮の胚芽コンパートメント(germinativecompartment)及び幹細胞を保護するもの、例えばリン酸トコフェロール、
−β−1インテグリンの発現を刺激する、及び/又は胚芽角化細胞が真皮・上皮接合部へ接着するのを促進する分子又は抽出物、例えばアスパラギン酸マグネシウム又は塩化マンガン、
−密着結合の形成を促進する分子又は抽出物。したがってこれらの分子又は抽出物は細胞間の水分損失を制限することが注目されよう。西洋クリ(Castanea sativa)の抽出物が特にその例として挙げられよう、
−受容体cd44の発現、及びその天然リガンドであるヒアルロン酸の結合を刺激する分子又は抽出物、例えばグルコン酸カルシウム、
−表皮中のグリコサミノグリカン(GAG)の合成を刺激する分子又は抽出物、特にキシロース誘導体、より詳細には、C−β−D−キシロピラノシド−n−プロパン−2−オン、C−β−D−(3,4,5−トリアセトキシ)キシロピラノシド−n−プロパン−2−オン、又はC−β−D−キシロピラノシド−2−ヒドロキシプロパン−2−オン、及びそれらの誘導体などの、C−グリコシド、
−ATPの細胞間の量を増加させる分子又は抽出物、例えばピルビン酸塩及びクエン酸塩、
−ミトコンドリアの完全性の保護及び維持を確実にする分子又は抽出物、例えばハネセンナ(Senna alata)又はラミナリアディギタータ(Laminaria digitata)の抽出物、及びヘキサペプチドPhe−Val−Ala−Pro−Phe−Proなどのペプチド、
−他のシャペロンタンパク質の産生を刺激する分子又は抽出物、例えばHSP70のためのエクトイン(ectoin)、HSP27のためのクルクミン(ジフェルロイルメタン)、又はHSP47のためのスケレトネマコスタータム(Skeletonema costatum)の抽出物。
【0026】
さらに、本発明による浸透圧調節物質の組み合わせの他に、それ自体は美容効果を欠く物質として定義されるが、化粧品組成物中に活性薬剤を混ぜ込む又は前記組成物を調合するのに有用である、少なくとも1つの美容上許容可能な賦形剤を化粧品組成物は含む。
【0027】
この賦形剤は、より詳細には、顔料、着色剤、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、電解質、pH調整剤、抗酸化剤、及び保存料、並びにそれらの混合物から選択することができる。
【0028】
本発明による化粧品組成物は、例えば、美容液、ローション、エマルション(例えばクリーム)、或いはヒドロゲル(好ましくはマスク、又はスティック若しくはパッチの形態であってもよい)、或いはシャンプー又はヘアコンディショナーなどの頭皮用衛生用品、或いはメーキャップ用品、特に爪への施用に向けられた組成物、例えばマニキュアであってもよい。
【0029】
本発明の1つの変形形態によれば、上記の浸透圧調節物質の組み合わせは、脂質小胞、例えば単層膜又は多重膜のリポソーム中に封入されている。
【0030】
脂質小胞を含む化粧品組成物自体は、前記活性薬剤、すなわち場合により上記の分子又は抽出物と混合された浸透圧調節物質の組み合わせが角質層を通して拡散するのを容易にするために、好ましくは水性ゲルの形態、又は水中油(O/W)型のエマルションの形態で調合される。
【0031】
脂質小胞を含む化粧品組成物が水中油型エマルションである特定の事例において、前記小胞はエマルションの水性相中で、前記水性相に多糖を加えることにより、より具体的にはアルギン酸ナトリウムを加えることにより、さらに著しく安定化される。
【0032】
本発明による化粧品組成物は、皮膚保湿効果を回復、維持、又は増強する、特に望ましい効果を有する。
【0033】
本発明による化粧品組成物はまた、皮膚を様々な種類のストレスから保護する、特に望ましい効果も有する。
【0034】
最終的に、この組成物は皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ又はその速度を落とす効果を有する。
【0035】
本発明の主題はまた、先に規定したような、化粧品組成物中の活性薬剤として、タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを、皮膚の保湿を回復、維持、若しくは増強するため、及び/又は皮膚を様々な種類のストレスから保護するため、及び/又は皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ若しくは遅らせるため、又はその効果を弱めるため、或いは細胞若しくは組織の長寿命を促進するために使用することでもあり、前記組み合わせは単独で、又は先に規定した、若しくは実施例を含めた下記の説明に由来するような他の美容上の活性薬剤と組み合わせて使用される。
【0036】
本発明の主題はまた、皮膚を保湿する、及び/又は皮膚をいかなる種類のストレスからも保護する、及び/又はその代わりに老化防止効果をもたらす美容ケアの方法でもあり、この方法は、顔又は体の皮膚の気になる部分に、先に規定した、又は実施例を含めた下記の説明に由来するような、化粧品組成物中の少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせの有効量を施用することを含み、これは本発明の不可欠な部分をなす。
【0037】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、実施例、特に前記組み合わせを用いた化粧品組成物の実施例に照らせば明らかになろう。これら実施例のデータは単純に例証として示すものであり、したがって本発明の範囲をどのような形であれ限定するものではない。
【0038】
どんな先行技術と比較しても新規であると思われるいかなる特徴においても、実施例は本発明の不可欠な部分をなす。
【0039】
実施例において、別途指示されない限り、全ての百分率は重量基準で与えられ、温度は摂氏温度であり、圧力は気圧である。
【実施例】
【0040】
〔発明の実施例〕
実施例1:正常ヒト表皮角化細胞によるHSPA1A産生の刺激の実証
材料及び方法
細胞型:浸漬した単層の正常ヒト角化細胞(NHK)、高コンフルエント後及び3回継代培養。
培地:上皮成長因子(EGF Sigma)を2.5ng/mL、下垂体抽出物(EP Invitrogen)を2.5μg/mL、及びゲンタマイシン(Sigma)を25μg/mL加えた低カルシウムK−SFM(Invitrogen)。様々な化合物で処理する場合、この培地をEGF及びEPを加えないK−SFM培地で置き換える。
処理時間:様々なコスモトロープ(kosmotrope)、及び他の分子又は抽出物、並びにそれらの組み合わせを用いて、24時間。
試験化合物:タウリン、D−トレハロース、イノシトール、及びベタイン(Sigma)を培地中に溶解させ、166及び500μg/mLの濃度で試験する。或いは、溶解度又は細胞毒性の理由のためにこれが不可能な場合は、実質的により低濃度で試験する。
重量で1/1/1/1の割合であるこれら4つの化合物の組み合わせを、同じ濃度で試験する。
RT−QPCRによるHMSPA1AのmRNAの分析:培養期間の終わりに、培養上清を取り除き、PBS(Invitrogen)で洗浄した細胞をTri−reagent(Sigma)の溶液で覆い、次いで直ちに−80℃で凍結する。
Tri−reagentの供給元(Sigma)のプロトコルに従って全RNAの抽出を行い、DNA−free kit(Ambion)を用いて微量のDNAの除去を行う。Oligo(dT)プライマー及び酵素superscript II(Gibco)を用いて逆転写反応を行う。
Light Cycler(Roche Molecular Systems,Inc.)を用い、供給元が推奨する手順に従って、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)反応を行う。この試験で用いられるプライマー対は下記の断片の増幅を可能にする:
ヒト熱ショックタンパク質HSP70タンパク質1A(略称HSPA1A;Gene bank NM 02045;断片サイズ213bp)、及び、標的HSPA1Aの相対的な発現を決定するための参照遺伝子(ケアテイカー遺伝子)として働く、肝臓グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ1A(略称G3PDH;Gene bank NM 02046;断片サイズ269bp)。
反応培地(10μL)は、2種の標的mRNA(HSPA1A及びG3PDH)用のプライマー、2.5μLの10倍希釈cDNA、酵素Taq DNAポリメラーゼを含有する反応混合物(Roche)、SYBR Green I蛍光色素(伸長段階中に2本鎖DNAへ取り込まれることになる)、及びMgClから形成される。
増幅したDNAへの蛍光の取り込みは、PCRサイクルの過程で連続的に測定される。使用されるマーカーが同じならば、試料がなくなるのが遅いほど(サイクル数が多い)、mRNAの初期コピー数が少ない。
正常ヒト角化細胞の培養物を、非細胞毒性用量(166及び500μg/mL)の4種の各浸透圧調節物質、すなわちタウリン、D−トレハロース、イノシトール、及びベタインによって別々に、24時間処理する。HMSPA1Aの転写発現をRT−PCRにより測定する。
対照(未処理細胞)は、100%発現に相当するように正規化する。
【0041】
結果
これらの浸透圧調節物質には、応答の強い不均一性が示される。タウリンではそれぞれ171%及び139%、D−トレハロースではそれぞれ142%及び181%の、中程度であるが有意のHSPA1A発現の刺激作用が見られる。
その一方で、イノシトール(それぞれ90%及び101%)又はベタイン(それぞれ52%及び85%)では、有意の刺激作用を示すことができない。
予想外に、重量で1/1の組み合わせに相当するタウリン及びイノシトールの混合物による角化細胞の処理は、HSPA1A発現の活性化因子として認められ、166μg/mLで+476%である。
これは重量比1/1/1のタウリン、イノシトール、及びベタインの組み合わせの場合も同様であり、この組み合わせはHSPA1Aの発現を166μg/mLにて+455%で刺激する。
これはまた重量比1/1/1/1のタウリン、D−トレハロース、イノシトール、及びベタインから成る4つの浸透圧調節物質の組み合わせの場合も同様であり、この組み合わせはHSPA1Aの発現に対して、個別に選択されるコスモトロピックな各化合物による刺激よりもはるかに有意な刺激を与える(166及び500μg/mLのそれぞれの用量の混合物において、404%及び400%の刺激作用)。
ヒポタウリンもまた、タウリンよりも効果的にHSPA1Aの発現を有意に刺激する(166μg/mLで+379%)。
これらの結果は、HSPA1A発現の刺激におけるこれらの組み合わせの相乗作用的効果、並びに、皮膚を保湿する、組織の長寿命を促進する、細胞の老化を防ぐ又は治療する、及び皮膚細胞のストレスに対する耐性を改善するための化粧品組成物中の活性薬剤として、これらの組み合わせを使用することの価値を実証している。
【0042】
実施例2:保湿ローション
下記の化粧品組成物は保湿ローションである(百分率は組成物の重量に対する重量基準で表される):
トレハロース 0.05
イノシトール 0.05
ベタイン 0.05
タウリン 0.03
D−キシロース 0.05
他の賦形剤(香料、保存料を含む) 十分量
水 十分量 100
この組成物は、所望の保湿効果を得るために顔の皮膚に毎日施用するローションである。
【0043】
実施例3:普通肌用デイクリーム
百分率は最終組成物の重量に対する重量基準で表される。
トレハロース 0.1
イノシトール 0.1
ベタイン 0.1
タウリン 0.06
D−キシロース 0.001
乳化賦形剤(香料、保存料を含む) 十分量
精製水 十分量 100
この組成物は、上記の4つの浸透圧調節物質の相乗作用的組み合わせ及びD−キシロースを含む水中油型エマルションである。
このクリームは所望の保湿効果を得るために顔の皮膚に毎日施用する。
【0044】
実施例4:乾燥肌用デイクリーム
百分率は最終組成物の重量に対する重量基準で表される。
トレハロース 0.1
イノシトール 0.1
ベタイン 0.1
タウリン 0.06
D−キシロース 0.001
乳化賦形剤(香料、保存料を含む) 十分量
精製水 十分量 100
この組成物は水中油型エマルションであり、その配合は乾燥肌に適合している。そのため賦形剤の中にはシアバター及びホホバエステルが含まれ、それらの栄養特性、皮膚軟化特性、及び実質的な特性は、賦形剤を乾燥肌に向けられた組成物中で使用するのに特に適したものにする。
この組成物は所望の保湿を得るために顔の皮膚に毎日施用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む群から選択される少なくとも2つの浸透圧調節物質の組み合わせを含む、化粧品薬剤。
【請求項2】
タウリン誘導体のうちのヒポタウリンを含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
トレハロースがD−トレハロースの形である、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
タウリン又はその誘導体及びイノシトールの組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
タウリン又はその誘導体、イノシトール、及びベタインの組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
タウリン又はその誘導体、D−トレハロース、イノシトール、及びベタインの組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
D−キシロースも含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項8】
浸透圧調節物質の組み合わせが脂質小胞中に封入されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項9】
脂質小胞が単層膜リポソーム又は多重膜リポソームである、請求項8に記載の薬剤。
【請求項10】
脂質小胞がホスファチジルコリンを含有する両親媒性脂質に基づく、請求項8又は9に記載の薬剤。
【請求項11】
前記両親媒性脂質がレシチンを含む、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
組み合わせ中の各浸透圧調節物質の重量比が、前記組み合わせ中に最小量で存在する、組み合わせ中の浸透圧調節物質の重量に対して、1〜10の間の範囲である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項13】
最小量で存在する浸透圧調節物質の重量に対して、各浸透圧調節物質の前記重量比が1〜5の間の範囲である、請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
タウリン又はその誘導体、イノシトール、ベタイン、及びトレハロースを含む組み合わせの各浸透圧調節物質の重量比が、1/1/1/1〜1/2/2/2の間である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項15】
美容上許容可能な賦形剤と共に、請求項1〜14のいずれか一項に規定される前記化粧品薬剤を0.001重量%〜10重量%含む、化粧品組成物。
【請求項16】
美容液、ローション、エマルション、クリーム、ヒドロゲル、マスク、スティック、パッチ、頭皮用衛生用品、シャンプー、ヘアコンディショナー、メーキャップ用品、爪用組成物、マニキュアの形態で調合されている、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
浸透圧調節物質の前記組み合わせに加えて、
−保湿特性を有する1つ又は複数の他の植物抽出物若しくは分子、
−天然保湿因子(NMF)の少なくとも1つの分子構成要素、
−コレステロール及びコレステロール硫酸から選択される脂質構成要素、及び
−脂肪酸
のうちの1つ又は複数を含む、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
−保湿特性を有する前記植物抽出物又は分子が、グリコール、グリセロール、天然ポリオール、天然又は合成セラミド、ヒアルロン酸、又はより低分子量のそれらの断片から選択され、
−天然保湿因子(NMF)の前記分子構成要素が、乳酸塩、クエン酸塩、尿素、ピロリドンカルボン酸塩、Na、K、Ca2+、Mg2+、セリン、シトルリン、アラニン、及びスレオニンから選択され、
−前記脂肪酸が、ω−3、ω−6、及びω−9から選択される、
請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
−皮膚のアクアポリンの生合成を刺激する分子又は抽出物、
−プロフィラグリン及びフィラグリンの生合成を活性化する分子又は抽出物、
−インボルクリン及びタイプ1のトランスグルタミナーゼの生合成を活性化する分子又は抽出物、
−カスパーゼ14を活性化する分子又は抽出物、
−表皮のカリクレインを刺激する分子又は抽出物、
−表皮脂質の合成を刺激する分子又は抽出物、
−表皮脂質を保護する抗酸化剤、
−角化細胞の最終分化若しくはトランスグルタミナーゼ、又はその両方を刺激することにより皮膚バリアを増強する分子又は抽出物、
−表皮の再生を刺激する分子又は抽出物、
−表皮の胚芽コンパートメント及び幹細胞を保護する分子又は抽出物、
−β−1インテグリンの発現を刺激する、又は胚芽角化細胞が真皮・上皮接合部へ接着するのを促進する分子又は抽出物、
−密着結合の形成を促進する分子又は抽出物、
−受容体CD44の発現、及びその天然リガンドであるヒアルロン酸の結合を刺激する分子又は抽出物、
−表皮中のグリコサミノグリカン(GAG)の合成を刺激する分子又は抽出物、
−ATPの細胞間の量を増加させる分子又は抽出物、
−ミトコンドリアの完全性の保護及び維持を確実にする分子又は抽出物、
−他のシャペロンタンパク質の産生を刺激する分子又は抽出物、例えばHSP70のためのエクトイン、HSP27のためのクルクミン(ジフェルロイルメタン)、又はHSP47のためのスケレトネマコスタータムの抽出物
から選択される、1つ又は複数の他の物質も含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
−皮膚のアクアポリンの生合成を刺激する前記分子又は抽出物が、アジュガトルケスタニカの抽出物と、バンダセルレアの抽出物と、レチノイン酸及びレチノールと、ヘテロシドが豊富である、ウスベニアオイの抽出物及びセンテラアジアティカの抽出物の組み合わせとから選択され、
−プロフィラグリン及びフィラグリンの生合成を活性化する前記分子又は抽出物が、バンバラマメの種子の抽出物であり、
−インボルクリン及びタイプ1のトランスグルタミナーゼの生合成を活性化する前記分子又は抽出物が、エピガロカテキン−3−ガレート及びそれを含有する抽出物から選択されるポリフェノールであり、
−カスパーゼ14を活性化する前記分子又は抽出物が、緑茶ポリフェノール、エピガロカテキン−3−ガレート及びそれを含有する抽出物から選択され、
−表皮のカリクレインを刺激する前記分子又は抽出物がノパルサボテンの抽出物であり、
−表皮脂質の合成を刺激する前記分子又は抽出物が、ヒマワリ又はヘチマの種子の抽出物から選択され、
−表皮脂質を保護する抗酸化剤が、トコフェロール及びその誘導体、パルミチン酸トコフェロール、酢酸トコフェロールから選択され、
−皮膚バリアを増強する前記分子又は抽出物が、β−エクジソン、カルシウム誘導体、グルコン酸カルシウムから選択され、
−表皮の再生を刺激する前記分子又は抽出物がトウモロコシ油から選択され、
−表皮の胚芽コンパートメント及び幹細胞を保護する前記分子又は抽出物がリン酸トコフェロールであり、
−β−1インテグリンの発現を刺激する、又は胚芽角化細胞が真皮・上皮接合部へ接着するのを促進する前記分子又は抽出物が、アスパラギン酸マグネシウム及び塩化マンガンから選択され、
−密着結合の形成を促進する前記分子又は抽出物が西洋クリの抽出物であり、
−受容体CD44の発現、及びその天然リガンドの結合を刺激する前記分子又は抽出物がグルコン酸カルシウムであり、
−グリコサミノグリカン(GAG)の合成を刺激する前記分子又は抽出物が、キシロース誘導体、C−グリコシド、C−β−D−キシロピラノシド−n−プロパン−2−オン、C−β−D−(3,4,5−トリアセトキシ)キシロピラノシド−n−プロパン−2−オン、又はC−β−D−キシロピラノシド−2−ヒドロキシプロパン−2−オン、及びそれらの誘導体から選択され、
−ATPの細胞間の量を増加させる前記分子又は抽出物が、ピルビン酸塩及びクエン酸塩から選択され、
−ミトコンドリアの完全性の保護及び維持を確実にする前記分子又は抽出物が、ハネセンナの抽出物、ラミナリアディギタータの抽出物、ペプチドのヘキサペプチドPhe−Val−Ala−Pro−Phe−Proから選択され、
−他のシャペロンタンパク質の産生を刺激する前記分子又は抽出物が、HSP70のためのエクトイン、HSP27のためのクルクミン(ジフェルロイルメタン)、及びHSP47のためのスケレトネマコスタータムの抽出物から選択される、
請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
水性ゲル又は水中油型エマルションの形態であり、浸透圧調節物質の組み合わせが脂質小胞中に封入されている、請求項15〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物の水性相中で、多糖を前記水性相へ添加することにより脂質小胞が安定化する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
皮膚の保湿を回復、維持、又は増強するため、様々な種類のストレスから保護するため、皮膚の老化の兆候が現れるのを防ぐ若しくは遅らせる、又はその効果を弱めるため、細胞又は組織の長寿命を促進するために調合されている、請求項15〜22のいずれか一項に記載の組成物。

【公開番号】特開2010−150258(P2010−150258A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−288162(P2009−288162)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(502189579)エルブイエムエイチ レシェルシェ (68)
【Fターム(参考)】