説明

保護層で被覆されたシートをレーザ透過溶着により接合する方法

本発明は、レーザ透過溶着によって少なくとも2枚のシート(1、2、6)を接合する方法であって、少なくとも1枚のシート(2、6)を金属保護層で被覆する方法に関する。本発明の方法は、少なくとも1枚の溶接可能なシート(2、6)の片側に、所定の経路に沿って点状の変形部を形成することにより突起(3)を形成すること、シート(1、2、6)を、前記突起(3)が他方の溶接可能なシートに向かって突出するように重ね合わせること、前記シートが突起(3)領域で互いに接するように、所定の経路の両側に配置された挟持手段(4)によってシート(1、2、6)を互いに押圧するように保持すること、並びに、変形部ごとに予め設定された長さ(L)に沿って連続的且つ透過的に適用されるレーザ光線を用いてシートアセンブリを溶接することを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、保護層で被覆されたシートをレーザ透過溶着によって接合する方法に関する。
レーザ透過溶着法では、溶接するシートを合わせて把持することにより確実に溶融させて溶接するように制御する必要がある。更に、亜鉛層等の保護層で被覆されたシートをレーザ透過溶着する間に、シートが溶融し融着し合う温度に達すると保護層の蒸発が起きる。シートが溶接点で密に接していると、蒸発により生成されたガスは溶接プールを介さないと逃げられないため、溶接の質が低下する。
【0002】
蒸発した層から生じる蒸気を排出するための解決策が複数存在している。
独国特許第10042538号明細書によれば、他の2枚のシート間に配置されるシートが不規則な表面を有することで、そのシートが他の2枚のシートに接すると空隙が形成され、生成されたガスがこの空隙を介して逃げられる。しかし、この解決策には、皺を形成するためにシート表面の特殊加工が必要である。
【0003】
独国特許第10053789号明細書によれば、シート間に、一つの構造、例えば開口を有する可撓性フィルムを配置することによって、接合する2枚のシートの間に空間が形成される。この解決策では、別の材料を製造して配置することが必要であり、そのためには当然ながら時間と費用がかかる。
他の方法、例えば欧州特許第337182号明細書に記載の方法では、接合するシートの内の1枚を、その全長にわたってプレス加工することによって変形させる。この長手方向の変形によって、生成したガスの排出及び連続するレーザ光線の案内がいずれも可能となる。しかしながら、この解決策ではシートに大きな衝撃を与えなくてはならず、このことはシートの機械的強度にとって好ましくない。更に、連続するレーザ光線の使用は高価となることが知られている。
【0004】
別の種類のレーザ透過溶着方法が、独国特許第4443826号明細書に開示されており、この方法では、接合するシートを所定の間隔を空けて保持する。これにより、保護層によって生成され得るガスの排出の問題は生じない。シート間に隙間を形成するには、シートを合わせて溶接可能にするために、シートの1つを不連続にプレス加工することが必要である。しかしながら、この方法では、プレス加工及び溶接の作業中に2枚のシートを所定の間隔を空けて保持しなければならない。
【0005】
本発明の目的は、シートに設けられた保護層の蒸発により生成されるガスの排出を可能にするレーザ透過溶着を使用した接合方法であって、実施が容易且つ安価な接合方法を提案することにより、上記欠点を改善することである。本発明による方法は、シートを大きく変形させる必要がないために、シートの機械的強度に全く又はほとんど影響が無いという利点を有している。
【0006】
このために、本発明の主題は、金属保護層で被覆されたシートを少なくとも1枚含む複数のシートをレーザ透過溶着によって接合する方法であって、
− 溶接するシートの少なくとも1枚の上に、所定の経路に沿って不連続な変形部を形成することにより、このように変形させたシートの一方の面に突起を形成するステップ、
− 変形させたシートの突起が、溶接する別のシートに向かって突出するように、溶接するシートを重ね、変形させたシートを金属保護層で被覆するステップ、
− シートが不連続な突起周辺で接するように、所定の経路の両側に配置された把持手段によって、溶接するシートを挟んで保持するステップ、及び
− レーザ光線を用いて、不連続な変形の各々の周辺で所定の長さにわたって非連続的にレーザ透過溶着することにより、シートを互いに溶接するステップ
を含む方法である。
【0007】
一実施形態では、変形させたシートの突起に接するシートも金属保護層によって被覆する。
別の実施形態では、変形させたシートの突起に接するシートのみを金属保護層によって被覆する。
【0008】
いずれにせよ、把持手段がシートを合わせて挟持している間、溶接されるシートの間では、突起の周りに空隙が形成される。これらの空隙は、溶接の質を損なうことなく、保護層の蒸発によって生成されるガスを受容及び/又は排出するのに十分なものである。加えて、レーザ光線を非連続的に、つまり突起の周りのみに適用することで、連続するレーザ光線を使用する方法に比べてコストを削減することができる。
好ましくは、球面状の突起を形成する不連続な変形部を形成する。このような球面状の型押しは、例えばプレス加工によって容易に形成され、同一の方法により容易に再現できるので、溶接の再現性及びその自動化が改善される。
【0009】
有利には、溶接するステップの間に、各突起の周りで所定の長さの線状セグメントに沿ってレーザ光線を適用する。
好ましくは、各セグメントがシート間の接点又はその近傍を通過する。
具体的には、各セグメントが、実質的にシート間の接点で中心合わせされている。
【0010】
特定の実施形態によれば、セグメントは突起の経路にほぼ垂直であるか、又はほぼ突起の経路に沿って配置することができる。
有利には、把持手段は、突起の経路の両側に、同じ所定の間隔をおいて配置される。
【0011】
後述では、非限定的な添付図面を参照しながら本発明を説明する。
図1は、レーザ透過溶着によって接合される2枚の金属シート1及び2を示している。シートの一方又は両方が、亜鉛層等の金属保護層によって被覆されている。
【0012】
例えばプレス加工によって、不連続な変形部が一方のシート2に形成されて、全てがシート2の同じ表面から突出する突起3が形成されている。これらの変形部は所定の経路に沿って形成される。この経路は、2枚のシートを溶接する際の所望の溶接経路に対応している。
好ましくは、変形部は、容易に再現できるように、球面状の突起(図5)を形成するように形成される。当然ながら、他の形状の突起を形成することもできる。
【0013】
2枚のシートを接合するには、変形させたシート2の突起3が他方のシート1に向かって突出するように、それらのシートを重ね合わせる。
2枚のシートは、変形させたシート2が各突起3の周辺で他方のシート1と接するように、把持手段4によって合わせて挟持される。このために、好ましくは、把持手段4を各突起3の両側に配置する。把持手段は、突起の経路の全長に亘って連続して延ばすことができるか、或いは各突起の周辺の不連続に分散した箇所に配置することができる。
【0014】
突起3の存在により、シート1、2を合わせて挟持すると、突起の周囲に空隙5が形成される。この空隙5は、シート1、2の対向する面に設けられる金属保護層が蒸発する間に生成されるガスを受容することができる。
【0015】
同様に、図2は、重ねられた3枚の金属シート1、2及び6の接合を示す。この場合、突起3を設けるために、2枚の外側のシート2及び6を変形させる。これらの突起3は、好ましくは、実質的に同一であり且つ実質的に同一の経路に沿って形成される。その後、図2に示すように、変形させた各シートの突起3が並ぶ経路が重なるように、シート1、2、6を重ねる。
2枚のシートを接合する場合と同様に、3枚のシートを重ねたままで把持手段4によって合わせて挟持することにより、変形させたシート2及び6の突起3が中央のシート1に向かって突出し、突起3が重なる。この時、中央のシート1の両側で、各突起の周りに空隙5が形成され、よってシートの対向する面に設けられている金属保護層の蒸発によって生成されるガスを受容することができる。
【0016】
いずれにせよ、シートが把持手段4によって合わせて挟持されている時、レーザ光線(図示せず)を用いて、各突起3の周辺で非連続的に透過溶着することによって溶接部が形成される。
好ましくは、このレーザ光線は、図3及び4に示すように、線状セグメント7に沿って適用される。
【0017】
図示の実施例においては、このセグメント7は、突起3の経路に実質的に垂直に位置し、把持手段4と整列している(図4)。
好ましくは、セグメント7は、各突起3又はその近傍を通過する。よって、セグメント7は、溶接の質を損なわずに、dtだけ横方向に又はdlだけ長手方向にわずかにずらすことができる(図3)。好ましくは、セグメント7は突起3に中心合わせされる。
【0018】
以下のパラメータを定義する。セグメントの長さをL、セグメントの各端部とそれに対応する把持手段4の間の距離をD(図4)、突起の高さをp(図5)とする。
空隙5の所望の寸法(接合させたシート間の隙間に対応する寸法)は、セグメント7の長さによって異なり、対象となる把持手段4と突起の間の距離(D+L/2)を変えること、及び突起の高さpを変えることによって求められる。
【0019】
実質的に同一の突起を溶接経路に沿って形成することにより、レーザ光線を適用する前に各突起の位置を特定することが容易になるため、溶接を自動化することができる。従って、レーザ光線をセグメントに沿って適用することができ、その際のセグメントの位置と寸法は各突起の位置に対して決められる。
【0020】
本発明による方法は、自動車の分野に利用できる。例えば、本発明による方法を、自動車の内側及び外側のドアパネルの溶接に適用できる。
各パネルは、本発明の方法を用いて他のパネルに接合するためのさねはぎ用溝を備える。
【0021】
パネルの接合は、以下のように行う。
− さねはぎ用溝の1つに突起を形成する。
− 次に、ドアパネルを接合し、所定の位置で把持手段によって挟持する。
− 次に、各突起の位置で、把持手段と整列し、且つ対象となる突起又はその近傍を通過する長さLのセグメントに沿ってレーザ光線を適用する。このステップを、各突起に対して繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による方法の一実施形態により互いに溶接させた2枚のシートの断面図である。
【図2】本発明による方法の別の実施形態により互いに溶接させた3枚のシートの断面図である。
【図3】接合させたシートの平面図であり、変形させたシートの突起に対するレーザ光線セグメントを示す。
【図4】突起、シートを把持する手段、及び変形させたシートの突起を示す平面図である。
【図5】厚さeのシート上に形成された半径rの球面状の突起を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ透過溶着によって少なくとも2枚(1、2、6)のシートであって、シート(2、6)の少なくとも1枚が金属保護層で被覆されているシートを接合する方法であって、
− 溶接するシートの少なくとも1枚(2、6)に、所定の経路に沿って位置する不連続な変形部を生成することにより、そのように変形させたシートの一方の表面上に突起(3)を形成するステップ、
− 変形させたシート(2、6)の突起(3)が、溶接する他方のシートに向かって突出するように、溶接するシート(1、2、6)を重ね合わせるステップであって、変形させたシートが金属層で被覆されるステップ、
− 溶接するシート(1、2、6)が不連続な突起(3)の周囲で接するように、所定の経路の両側に配置した把持手段(4)によって、シート(1、2、6)を合わせて挟持するステップ、及び
− 不連続な変形部の各々の周囲で所定の長さ(L)に亘り、非連続的なレーザ透過溶着法によりレーザ光線を用いてシートを互いに溶接するステップ
を含み、溶接するステップにおいて、各突起(3)の周辺で所定の長さ(L)の線状セグメント(7)であって、突起の経路に対して実質的に垂直なセグメント(7)に沿ってレーザ光線を適用することを特徴とする、接合方法。
【請求項2】
変形させたシートの突起に接するシートも金属保護層によって被覆する、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
変形させたシートの突起に接するシートのみを金属保護層によって被覆する、請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
球面状の突起(3)を形成する不連続な変形部を形成する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項5】
各セグメント(7)が、シート間の接点又はその周辺を通過する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項6】
各セグメント(7)を、シート間の接点に実質的に中心合わせする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項7】
突起の経路の両側に、同じ所定の間隔をおいて把持手段を配置する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−536689(P2008−536689A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507136(P2008−507136)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050255
【国際公開番号】WO2006/111671
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】