説明

信号伝送コイル通信装置

【課題】第1に、通信が容易化され、電波障害等も発生せず、第2に、特に電力磁場の影響を受けず、耐ノイズ性に優れており、第3に、位置検出機能も発揮可能であり、第4に、小型,軽量化等が達成され、第5に、ゼロ点等が克服され、滑らかで継続的な通信が可能となる、信号伝送コイル通信装置を提案する。
【解決手段】この信号伝送コイル通信装置Dは、例えば、電機自動車8用の非接触給電装置1等の設置対象に付設される。そして、通信時に僅かの空隙空間9を介して対向位置決めされ、対称構造の対をなすコイル16,17を備えている。コイル16,17は、平面略8字形状や、平面ループ形状や、平面磁性体への平面直交巻形状等の巻線形状をなし、例えば、給電コイル3や受電コイル5の中央空間15に、埋め込まれる。なおコイル16,17について、複数の巻線形状のもの等を組み合わせることも考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送コイル通信装置に関する。例えば、非接触給電装置において使用される、信号伝送用のコイル通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
例えば非接触給電装置は、電磁誘導の相互誘電作用に基づき、外部地上の給電スタンド等の電源側,給電側から、電気自動車等の車載されたバッテリー側,受電側に、電力を供給する。
そして、その給電に際しては、磁性体に巻回された1次側の給電コイルが、同様に磁性体に巻回された2次側の受電コイルに、対峙位置決めされ、もって給電コイルでの磁束形成により、受電コイルに誘電起電力を生成せしめて、電力を供給する。
このような非接触給電装置は、次の先行技術文献情報にも示したように、公知であり、電気自動車のバッテリー充電用等に、公用されている。
【0003】
《先行技術文献情報》
非接触給電装置としては、例えば、次の特許文献1,2,3に示されたものが挙げられる。
【特許文献1】特許第3630452号公報(特開平6−256505号公報)
【特許文献2】国際公開第92/17929号
【特許文献3】国際公開第99/08359号
【0004】
《特願2006−273933について》
ところで、本特許出願の発明者および出願人は、非接触給電装置について更に研究,、開発を進め、平成18年10月5日付にて特願2006−273933として、特許出願をした。
そして、この特許出願に係る発明は、非接触給電装置の給電コイルや受電コイルとして、扁平渦巻き状コイルを採用すると共に、その磁性体として平板状のものを採用したこと、を特徴とする。
【0005】
《従来技術》
さて非接触給電装置では、給電に際し、充電指示,要求電力等の情報伝達が必要となる。すなわち、電気自動車等の受電側から、外部地上の給電スタンド等の給電側に対し、給電に関する情報伝達が必要となる。
そして、非接触給電装置であることに鑑み、当然のことながら、受電側と給電側間に接続ケーブル等は存在せず、この種従来例では、至近距離での電波通信方式の通信装置A(図4の説明図の想像線表示を参照)を始め、赤外線通信方式や光波通信方式の通信装置Aが使用されていた。
すなわち、前述したこの種従来例の非接触給電装置では、受電側と給電側間において、至近距離ではあるが一定の距離が存する外部空間Hを介して、情報伝達を行う通信装置Aが使用されており、情報伝達用の通信信号が、受電側から給電側へと変調,送信,受信,復調されていたが、このような通信信号の送受信は、一定距離の外部空間Hを介して実施されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種従来例の通信装置Aについては、次の問題が指摘されていた。
《第1の問題点》
第1に、通信エラーが多発していた。すなわち、従来の通信装置A、例えば非接触給電装置で使用される通信装置Aでは、一定距離が存する外部空間Hを介して信号の送受信,情報伝達が行われていた。
そこで、外部空間Hの分だけ通信距離が遠く長く、もって電波通信方式の場合は、例えば周囲の電子機器の電波にて、通信時に混信等の電波障害を受け易く、光波通信方式の場合は、太陽光等の強い光の妨害を受け易く汚れによる感度低下も加わる等、通信エラーが発生し易かった。電波通信方式の場合は、電波法の規制もあり、このような通信エラー対策は容易ではなかった。
【0007】
《第2の問題点》
第2に、そこで例えば非接触給電装置では、給電に際し対峙位置決めされる給電側や受電側、つまりその受信コイルや給電コイルの近傍に、それぞれ、例えば電波通信方式の通信装置Aを配設することも検討された。つまり、前述した外部空間Hに比し通信距離が極めて近く短い場所に、通信装置Aをそれぞれ配設することも検討された。
しかしながら、このように受電コイルや給電コイルの近傍に、送信用の通信装置Aや受信用の通信装置Aを設けると、受電コイルや給電コイルの電力伝送磁場による誘起電圧により、そのノイズの影響を受けてしまう、という問題が指摘され、このような通信装置Aの採用は見送られていた。
すなわち非接触給電装置では、給電コイルと受電コイル間での電磁誘導の相互誘電作用に基づき、電力が伝送されるが、電力伝送中にその強電磁界で通信装置Aにて通信信号の信号伝送を行うと、この強電磁界の影響を受けてしまい、電力磁場による誘起電圧により、通信装置Aの通信信号がそのノイズの影響を受ける、という問題が指摘されていた。
【0008】
《第3の問題点》
第3に、ところで非接触給電装置では、給電に際し、その受電側の受電コイルと給電側の給電コイルとが、対峙位置決めされることが必要であるが、その位置決め操作が容易でなかった。
すなわち給電に際し、両コイルを、給電可能なX,Y,Z方向の距離内に、ある程度正確に位置するようにセットアップすること、つまり両者の相対的位置ずれを許容範囲内に位置決め操作することは、容易でなかった。つまり、その為の位置情報取得が困難であり、もって位置決め操作が非常に面倒であった。
【0009】
《第4の問題点》
第4に、通信装置Aについて、より一層の小型,軽量化が望まれていた。すなわち、この種の通信装置Aは、例えば非接触給電装置に付設されるが、特にその受電側については、電気自動車等に常時車載されることに鑑み、その小型,軽量化が切望されていた。
そこで、これに付設される通信装置A、特に受電側,送信側の通信用コイル等についても、より一層の小型化,軽量化,部品点数の削減等が要求されていた。
【0010】
《本発明について》
本発明の信号伝送コイル通信装置は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、通信距離の短縮により、電波障害等が発生せず、第2に、特に電力磁場の影響を受けず、耐ノイズ性に優れており、第3に、位置情報検出機能も発揮可能であり、第4に、小型,軽量化等が達成され、第5に、感度ゼロ点等が克服され、継続的な通信が可能となる、信号伝送コイル通信装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
《請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。請求項1の信号伝送コイル通信装置は、所定の距離を隔てて形成される空隙を介して、互いに対向して配置され、且つそれぞれ所定の口径と形状を有するコイル対から成ると共に、該コイルに入射した所望外の電磁波を自身で打ち消すことで、安定した信号送受信が可能なこと、を特徴とする。
請求項2については次のとおり。請求項2の信号伝送コイル通信装置は、請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面略8字形状を持つこと、を特徴とする。
請求項3については次のとおり。請求項3の信号伝送コイル通信装置は、請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面2重フープ形状を持つこと、を特徴とする。
請求項4については次のとおり。請求項4の信号伝送コイル通信装置は、請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面磁性体に直交巻して配置した平面直交巻形状を持つこと、を特徴とする。
【0012】
請求項5については次のとおり。請求項5の信号伝送コイル通信装置は、請求項2,3,又は4の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、所望の通信信号以外の電磁波が入射した場合、送信側,受信側の該コイル各々が、そのコイル巻線形状により電磁波を打ち消して、安定した信号伝送を可能とすること、を特徴とする。
請求項6については次のとおり。請求項6の信号伝送コイル通信装置は、請求項2,3,又は4の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、それぞれの該コイルを送信側,受信側において複数組み合わせて構成し、所望の通信信号以外の電磁波が入射した場合、送信側,受信側の該コイル各々が、そのコイル巻線形状の相互作用により電磁波を打ち消し、継続して信号伝送を可能とすること、を特徴とする。
請求項7については次のとおり。請求項7の信号伝送コイル通信装置は、請求項2,3,4,5,又は6の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルが設置された物体の相対的位置ずれを判別可能なこと、を特徴とする。
【0013】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)この通信装置は、例えば非接触給電装置等の設置対象に各々付設され、その間の通信に使用される。
(2)そして、通信時に僅かの空隙空間を介して対向位置決めされる、対をなすコイルを備えている。非接触給電装置の場合は、送信側コイルが、電力伝送用の受電コイルの中央空間に埋め込まれ、受信側コイルが、電力伝送用の給電コイルの中央空間に埋め込まれる。
(3)そこで、通信装置の受信側コイルと送信側コイルを対峙位置決めすると、結果的に、給電装置の給電コイルと受電コイルが対向位置決めされる。
(4)そしてまず、通信装置のコイル間で、例えば充電指示,要求電力等の給電情報が、送受信される。
(5)これにより、給電コイルから受電コイルに電力が供給される。
(6)さてそこで、この通信装置では次のようになる。まず、通信距離が極く短い空隙空間を介して信号伝送が行われるので、外部からの電磁波障害,電波障害を受けない。
(7)又、そのコイルは、巻線形状に起因して、通信信号以外の電磁波を打ち消すようになっている。例えば、電力伝送磁場による誘起電圧をキャンセル可能であり、給電中でもノイズの影響なく通信可能である。
(8)更に、位置情報検出機能により、設置対象物体の相対的位置ずれを、判別可能である。非接触給電装置の場合は、受電コイルが給電コイルに必要な精度をもって対峙位置決めされたか否かの位置情報を、コイル間の通信感度により検出可能である。
(9)又、この通信装置は、コイルの口径,形状等から、小型化,軽量化等が容易である。
(10)なお、巻線形状の異なるコイルを組み合わせること等により、感度ゼロ点等が克服され、通信範囲であればどこでも安定した通信が可能となる。
(11)さてそこで、本発明の信号伝送コイル通信装置は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0014】
《第1の効果》
第1に、通信距離が短縮され、電波障害等も発生しない。すなわち、本発明の信号伝送コイル通信装置は、相互の距離が極く近い物体間に設置される。例えば、非接触給電装置の給電時に対峙位置決めされる給電コイルと受電コイルに、通信用コイルを、それぞれ埋め込み配設可能である。
そこで、極く短い通信距離での通信が可能となり、前述したこの種従来例の通信装置のように、一定距離が存する外部空間を介して信号の送受信が行われ、もって周囲の電子機器等の電磁波や電波にて、混信等の電磁波障害,電波障害を受けるようなことがない等、通信エラーが解消される。
【0015】
《第2の効果》
第2に、特に電力磁場の影響を受けず、耐ノイズ性に優れた安定通信が実現される。すなわち、本発明の信号伝送コイル通信装置では、その通信用コイルに入射した所望外の電磁波を、そのコイル巻線形状に起因して打ち消すことが可能である。
例えば、非接触給電装置の電力供給用の受電コイルや給電コイルに、その通信用コイルを埋め込み配設しても、非接触給電磁場による誘起電圧をキャンセルすることができ、もって、給電中の強電磁界中でもその電磁界の影響を受けることなく、ノイズに影響されない耐ノイズ性の高い安定通信が実現される。
【0016】
《第3の効果》
第3に、位置情報検出機能も発揮可能である。すなわち、本発明の信号伝送コイル通信装置は、その通信用コイルが設置された物体間の相対的位置ずれを、判別可能である。
例えば、非接触給電装置にて使用された場合、通信用のコイル間での通信感度があるレベルに達したことが確認されると、給電用のコイル間も、給電可能な位置に入ったことになる。つまり、その位置ずれの程度,是非を、確認,判別できるようになる。
このように、位置情報検出機能,位置ずれ判別機能を発揮可能であり、例えば非接触給電装置にて使用された場合、受電コイルと給電コイルとの対峙位置決め操作が、面倒だったこの種従来例に比し、大きく簡単容易化される。
【0017】
《第4の効果》
第4に、小型化,軽量化等も達成される。すなわち、本発明の信号伝送コイル通信装置は、通信距離が極く短いと共に、その通信コイルの巻線形状等もあり、外部空間を経由する前述したこの種従来例の通信装置に比し、小型化,軽量化,部品点数の削減等が容易である。
そこで、例えば非接触給電装置において使用された場合、その受電側が電気自動車に車載されることに鑑み、共に車載,付設される通信装置の小型化,軽量化の意義は大きい。例えば、受電コイルのデッドスペースに、その通信用コイルを埋め込んでしまうことが可能である。
【0018】
《第5の効果》
第5に、感度ゼロ点等が克服され、継続的な通信が可能となる。すなわち、本発明の信号伝送コイル通信装置では、その通信用コイルについて、コイル巻線形状や取付角の異なるもの等を複数組み合わせて構成することにより、感度が落ち込んで悪化し通信が一旦途絶えるゼロ点等が、克服されるようになる。
すなわち、通信感度が一旦減少したりすることがなく、通信信号の感度に凹凸なくなだらかとなり、通信を安定的に継続可能となる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
《図面について》
以下、本発明の信号伝送コイル通信装置を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。図1〜図4は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供する。
そして図1は、そのコイル形状の説明図であり、(1)図は第1例を、(2)図は第2例を、(3)図は第3例を示す。図2は、構成ブロック図であり、(1)図はその1例を、(2)図は他の例を示す。図3は、適用例の要部の平断面図である。図4の(1)図は、適用例の全体説明図、(2)図は、適用例の構成ブロック図である。
【0020】
《非接触給電装置1について》
本発明の信号伝送コイル通信装置(以下、単に通信装置Dという)は、代表例として非接触給電装置1において、使用される。そこでまず、図3,図4を参照して、非接触給電装置1について説明しておく。
非接触給電装置1は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、外部から非接触で電力を供給する。すなわち、給電時に近接対峙位置決めされた1次側,給電側2の給電コイル3と、2次側,受電側4の受電コイル5との間で、給電コイル3での磁束形成により、受電コイル5に誘導起電力を生成させて、給電コイル3から受電コイル5に電力を伝送するようになっている。
図示例では、給電側2の給電コイル3、つまり外部地上側の給電スタンド6等の送電用コントローラCO付の電源7に接続された給電コイル3が、受電側4の受電コイル、つまり電気自動車8や電車の下面に車載された受電コイル5に対し、給電時に物理的接続なしに非接触で、ほんの僅かなエアギャップつまり空隙空間9を介して、例えば10cm以下の数cm程度で近接対峙位置決めされ、もって電力が伝送される。
【0021】
電力を送る電磁誘導の相互誘電作用については、次の通り。すなわち、給電コイル3に交流を励磁電流として通電すると、電流に比例した磁界がその軸上に生じ、磁束が直角方向に環状に形成される。そして、このように形成され変化する磁束が、受電コイル5を貫き鎖交することにより、受電コイル5に起電力が生成される。このように、磁場を形成し磁界を利用して、電力が供給される。
そして、このような非接触給電装置1の給電コイル3と受電コイル5とは、給電時において上下等で対称の同一構造をなすのが、代表的である。
なお、図4に示した電気自動車8において、受電側4は、充電用コントローラCOを備えると共に、車載のバッテリーBに接続されており、給電により充電されたバッテリーBにて、そのモータMが駆動される。図中、INはインバータ、SWはスイッチである。
そして、図示した給電コイル3や受電コイル5は、前述した特願2006−273933に係るものである。すなわち、この給電コイル3や受電コイル5は、導線を同一面で肉薄の扁平状に渦巻き巻回した円環構造よりなり、それぞれ、凹凸のないフラットな平板状をなす磁心コアつまり磁性体10,11に、配設されている。
そして、このような形状等の給電コイル3と磁性体10、受電コイル5と磁性体11を、それぞれ組合わせて採用したことにより、給電に際し対峙位置決めされた給電側2と受電側4間の空隙空間9中の磁路において、磁束が平行,一様,疎に分布するようになる。もって磁束密度が低く、磁束形成用の励磁電力が小さくて済み、ジュール熱損失も低減されるようになる。
なお図3に示したように、給電コイル3とその磁性体10の表面や、受電コイル5とその磁性体11の表面は、それぞれモールド樹脂12で被覆固定されている。図中13は、モールド樹脂12中に混入された発泡材、14は背板であり、15は、給電コイル3や受電コイル5の巻回中央部に形成された円状の中央空間である。
非接触給電装置1は、このようになっている。
【0022】
《通信装置Dの概要》
次に、本発明の通信装置Dの概要について、図2〜図4を参照して説明する。まず、この通信装置Dは、図示例では、上述した非接触給電装置1に設置して使用されており、その信号伝送用のコイル16,17は、非接触給電装置1の電力伝送用の給電,受電コイル3,5に組込まれている。
図3,図4に示した図示例では、給電側2の扁平渦巻き巻回されて円環構造をなす給電コイル3について、これまでデッドスペースに過ぎなかったその円状の中央空間15に、信号伝送用のコイル17具体的には受信側18のコイル17が、埋め込まれている。これと共に、受電側4の扁平渦巻き巻回されて円環構造をなす5についても、これまでデッドスペースに過ぎなかったその円状の中央空間15に、信号伝送用のコイル16、具体的には送信側19のコイル16が、埋め込まれている。
そこで給電に際し、非接触給電装置1の給電側2の給電コイル3と受電側4の受電コイル5とが、ほんの僅かな空隙空間9を介して近接対峙位置決めされると共に、当然、通信装置2の受信側18のコイル16と送信側19のコイル17も、空隙空間9を介して近接対峙位置決めされる。
【0023】
そして、通信装置Dの送信側19では、図2に示したように、充電指示,要求電力等の給電に関する情報を表わす通信信号Sが、変調部20で搬送波Cを利用して変調される。
そして、送信側19のコイル16から、搬送波Cにて変調された通信信号Sの電磁波が、空隙空間9に発射され、空隙空間9を介して受信側18のコイル17に入射される。このように、高周波コイルの電磁誘導に基づき送受信された電磁波は、受信側18の復調部21で、元の通信信号Sへと復調,検波される。
このようにして、通信信号Sの送受信,情報伝達が行われる。図中22は、特定周波数の通信信号Sのみを通過させる、バンドパスフィルタである。
通信装置Dは、概略このようになっている。
【0024】
《コイル16,17について》
次に、上述したように高周波コイルの電磁誘導に基づき通信信号Sを伝送する、この通信装置Dで使用されるコイル16,17について、図1を参照して説明する。
このコイル16,17は、通信時において、所定の距離を隔てて形成される空隙空間9を介して、互いに対向して位置決め配置されると共に、それぞれ所定の口径と形状を有している。
そして、コイル16,17に入射した所望外の電磁波を、自身で打ち消すことができ、もって安定した信号送受信が可能となっている。つまり、所望の通信信号S以外の電磁波が入射した場合は、送信側19,受信側18のコイル16,17各々が、そのコイル巻線形状により、この所望外の電磁波を打ち消し、もって安定した信号伝送が可能となっている。
【0025】
このような通信装置Dのコイル16,17について、更に詳述する。まず、送信側19のコイル16と受信側18のコイル17とは、通信時において10cm以下程度、例えば3cm〜6cm程度の所定距離寸法の空隙空間9を介して、上下等で対向位置決め配設される、一対の同一構造よりなる。
そして、図1の(1)図に示した第1例のコイル16(17)は、略円口径を備えると共に、そのコイル形状が平面略8の字形状をなす。もって、このコイル16(17)は、略8の字の構成両部について、逆方向にコイルが形成され対称的に電流が流れることに起因して、給電コイル3や受電コイル5による電力伝送磁場によってコイル16(17)に生じる誘起電圧も、向きが逆となる。
もって、電力磁場による誘起電圧をキャンセルすることができ、その電磁波を打ち消すことができる。通信信号S以外の電磁波が入射しても、その巻線形状に基づきこれを打ち消し、もって通信信号Sによる安定した通信が可能となる。
次に、図1の(2)図に示した第2例のコイル16(17)は、コイル形状が大円口径と小円口径の平面二重フープ形状をなす。そこで、このコイル16(17)は、それぞれ外側と内側とで逆巻きとされ逆向きに電流が流れることに起因して、給電コイル3や受電コイル5による電力伝送磁場による誘起電圧も、向きが逆となる。
もって、電力磁場による誘起電圧をキャンセルすることができ、その電磁波を打ち消すことができる。通信信号S以外の電磁波が入射しても、その巻線形状に基づきこれを打ち消して、通信信号Sによる安定した通信が可能となる。
【0026】
更に、図1の(3)図に示した第3例のコイル16(17)は、コイル形状が、平面磁性体23に直交巻して配置された平面直交巻形状よりなる。
すなわち、上述した第1例,第2例のコイル16,17は空芯であったのに対し、この第3例のコイル16(17)は、例えば円形の平面磁性体23に複数巻回されており、図示例では、平面磁性体23の外表面の表裏にわたり複数本が平行巻されている。そして、このように平面磁性体23に巻回されたコイル16(17)は、結果的に、給電コイル3や受電コイル5のコイル面と直交する面に、そのコイル面が形成されることになる。つまりコイル16(17)は、平面磁性体23に巻回されることにより、給電コイル3や受電コイル5に対し、直交巻された形状関係,位置関係となる。
そこで、この信号伝送用のコイル16(17)は、電力伝送用の給電コイル3や受電コイル5とは、それぞれ発生する大部分の磁束成分が、互いに斜行そして直交するようになる。つまり、コイル16(17)の磁束成分は、給電コイル3や受電コイル5に対して鎖交すると共に、給電コイル3や受電コイル5の磁束成分は、コイル16(17)に対して鎖交する。
このように、互いの磁束成分が直交しコイルに鎖交するので、相互間で影響を及ぼすことはなくなる。つまり、電力磁場による誘起電圧を発生させることなくキャンセルすることができ、その電磁波を打ち消すことができる。コイル16(17)は、通信信号S以外の電磁波が入射しても、その巻線形状に基づき影響を受けることなく、これを打ち消し、もって通信信号Sによる安定した通信が可能となる。
コイル16,17は、このようになっている。
【0027】
《コイル16,17の組み合わせ使用について》
次に、このようなコイル16,17の組み合わせ使用について、図2の(2)図,図3を参照して説明する。この通信装置Dでは、コイル16,17について、それぞれ複数組み合わせ重ねて使用する構成を、感度ゼロ点等の克服対策として、採用することが考えられる。
すなわち、上述した第1例,第2例,第3例のコイル16,17を、送信側19や受信側18について、単独もしくは複数組み合わせのどちらの構成としても、所望の通信信号S以外の電磁波が入射した場合には、送信側19や受信側18のコイル16,17各々が、そのコイル巻線形状の相互作用によりその電磁波を打ち消し、もって安定した信号伝送を可能とすることができる。
【0028】
このようなコイル16,17の構成について、更に詳述する。まず、コイル16,17は、このコイル巻線形状に基づき、前述したように、通信信号S以外の電磁波を打ち消すことができる。
しかしながら、このような送信側19のコイル16と受信側18のコイル17に、上述した第1例,第2例,第3例のコイルを単独で使用した場合、相互間のX,Y平面方向の僅かな位置ずれで、通信感度が落ち込んで悪化し、最悪の場合は通信不能となり、通信が途絶える可能性もある、感度ゼロ点があり、通信範囲内ならばどこでも通信可能な訳ではない。
このようなゼロ点等の対策としては、前述した各例、つまり図1の(1)図の第1例,図1の(2)図の第2例、図1の(3)図の第3例のコイル16,17のゼロ点位置が、コイル特性上相違し各例間で相互にずれていることに着目し、これらを組み合わせて重ねて併用すると共に、それぞれ独立して送受信させ、もって両者の特性を足し合わせることにより、このようなゼロ点等の克服が可能となる。つまり、ゼロ点に到達したものがある場合に、その時にゼロ点に到達しない方の出力を取り出すようにする。
【0029】
なお第1に、この場合、各例の搬送波Cのキャリア周波数は、各例毎に異なって設定される。
なお第2に、異なった例の2種類併用によらず、同一例(例えば第1例)を2組用いると共に、相互間の角度を同一平面で例えば90度等、回転させずらして配置する2種類の組み合わせによっても、このようなゼロ点等克服の可能性がある(この場合は、搬送波Cのキャリア周波数は同一に設定可)。
第3に、このような2種類の組み合わせ(Dual−Modulation方式)によらず、3種類の組み合わせ(Third−Modulation方式)を採用すると、ゼロ点等の克服が一段と確実化する。
例えば、角度を90度等ずらした第1例の2種類に、1種類の第3例を併用し、合計3種類の組み合わせとすると、ゼロ点位置が3種類相互間で大きくずれるので、より効果的なゼロ点対策となり、一段となだらかな通信感度が実現可能となる。つまり、1つのコイル16,17がゼロ点に到達していても、他の2つのコイル16,17は、ゼロ点に到達していないことになり、より確実なゼロ点等の対策が可能となる。
【0030】
ゼロ点等に関し、図面に基づき更に具体的に説明する。図2の(1)図の通信装置Dでは、第1例の平面略8字形状の送信側19のコイル16と、同第1例の平面略8字形状の受信側18のコイル17とが、ぞれぞれ単独使用されており、相互間の位置決め次第ではゼロ点に入ってしまう可能性がある。
これに対し、図2の(2)図,図3の通信装置Dでは、送信側19について、第1例の平面略8字形状のコイル16と、第3例の平面直交巻形状のコイル16とが、重ねて用いられている。受信側18についても、同様に、第1例の平面略8字形状のコイル17と、第3例の平面直交巻形状のコイル17とが、重ねて用いられている。
そこで、この図2の(2)図の通信装置Dでは、図2の(1)図の通信装置Dとは異なり、第1例のコイル16,17相互間の出力、又は第2例のコイル16,17相互間の出力のいずれかを、取出し,抽出できれば、ゼロ点が克服された通信信号Sの受信、そしてなだらかな通信感度が実現されることになる。
すなわち、図2の(2)図の通信装置Dにあっては、同じ通信信号Sについて、第1例のコイル16,17用の変調部20と第2例のコイル16,17用の変調部20とで、異なる変調をかけ、事後、それぞれの復調部21で復調した後、得られた2つの通信信号Sを、OR回路ORを経由させることにより、第1例のコイル16,17や第2例のコイル16,17のゼロ点が、特性上相互にずれているので、それぞれのゼロ点等が克服されるようになる。
コイル特性上、例えば第1例のコイル16,17間の通信信号Sが、ゼロ点に到達している時は、第2例のコイル16,17間の通信信号Sは、ゼロ点には到達しておらず、第1例側がゼロ点に到達していない時に、第2例側がゼロ点に到達する。従って、両者の通信信号Sを検出することにより、両者が相互補完され、もってゼロ点等つまり感度不良のない通信が実現される。
コイル16,17の組み合わせは、このように行われる。
【0031】
《位置情報検出機能について》
次に、この通信装置Dの位置情報検出機能について、図4を参照して説明する。この通信装置Dでは、その位置情報検出機能に基づき、送信側19,受信側18のコイル16,17が設置された物体、例えば電気自動車8の相対的位置ずれを、判別可能である。
このような位置情報検出機能について、更に詳述する。例えば、通信装置Dが非接触給電装置1において使用された場合、通信サイドにおいて、送信側19のコイル16からの電磁波を、受信側18のコイル17が、ある感度以上で受信できたことが確認されると、電力供給サイドにおいて、受電コイル5と給電コイル3間も、電力供給可能,電力伝送可能な位置に入ったことが、判別,確認可能となる。
つまり、通信装置Dにおいて、通信可能な予め設定されたX,Y,Z方向の距離範囲に位置決めされ、そのことが通信感度により確認されると、非接触給電装置1の電気自動車8に車載された受電コイル5が、給電スタンド6の給電コイル3上に、給電可能なX,Y,Z方向の距離範囲に、位置決めされたことも確認されたことになる。
このように、コイル16,17個体による感度分布が既知であることを利用し、移動による感度軌跡の履歴と比較することにより、コイル16,17が設置された物体間の相対的空間位置、そして相対的位置ずれが把握可能となる。
【0032】
《作用等》
本発明の通信装置Dは、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)この通信装置Dは、例えば図示の非接触給電装置1等の設置対象に付設され、もって設置対象間の信号伝送用、つまり通信用に使用される(図4を参照)。
【0033】
(2)そして通信装置Dは、通信時において、僅かの空隙空間9を介して対向位置決め配置されると共に、対称構造の対をなすコイル16,17を備えている(図2、図4を参照)。
図示例では、通信装置Dの送信側19の信号伝送用コイル16が、電力伝送用の受電コイル5の中央空間15に、埋め込まれている。これと共に、通信装置Dの受信側18の信号伝送用コイル17が、電力伝送用の給電コイル3の中央空間15に、埋め込まれている(図3,図4を参照)。
【0034】
(3)そこで、通信装置Dの受信側18のコイル17に対し、送信側19のコイル16を、空隙空間9を介して対向位置決め配置すると、電力伝送つまり給電のために、給電側2の給電コイル3に対し受電側4の受電コイル5が、空隙空間9を介して近接対峙位置決めされることになる(図4を参照)。
【0035】
(4)それから、通信装置Dのコイル16からコイル17へと、充電指示,要求電力等の給電情報が、通信信号Sにて送受信され、情報伝達される(図2を参照)。
【0036】
(5)これにより非接触給電装置1では、給電コイル3から受電コイル5へと、電力供給が開始される。すなわち、電磁誘導の相互誘電作用により電力伝送が行われ、もって、受電側4の電気自動車8等のバッテリーBが、充電される(図4を参照)。
【0037】
(6)さてそこで、この通信装置Dにあっては、以下の各点のようになる。まず、この通信装置Dでは、通信距離が極く短い10cm以下程度、例えば数cm程度の空隙空間9を介して、信号伝送が実施される。
そこで、例えば近くの電子機器等による、電磁波障害,電波障害を受けることがなく、通信エラーは発生しない(図4を参照)。
【0038】
(7)特に、この通信装置Dのコイル16,17は、その巻線形状に起因して、通信信号S以外の電磁波を打ち消すようになっている(図1を参照)。
図示例の通信装置Dは、非接触給電装置1の電力伝送用の受電コイル5や給電コイル3に埋め込み配設されているが、その非接触の電力伝送磁場,電磁界による誘起電圧を、キャンセル可能であり、耐ノイズ性に優れている。つまり給電中でも、ノイズの影響なく通信可能である(図4を参照)。
【0039】
(8)更に、この通信装置Dは、位置情報検出機能を発揮可能であり、そのコイル16,17の設置対象物体の相対的位置ずれを、判別可能である。
例えば、非接触給電装置1にて使用された場合は、受電コイル5が給電コイル3に対し、給電可能に対峙位置決めされたか否か、つまりその位置情報そして位置ずれを、通信装置Dのコイル16,17間の通信感度により、検出可能である(図4を参照)。
【0040】
(9)又、この通信装置Dは、そのコイル16,17間の通信距離が極めて近くできると共に、そのコイル16,17の口径,形状等からも、小型化,軽量化,部品点数削減等が、極めて容易に可能である。
例えば、非接触給電装置1に使用された図示例では、コイル径が9cm〜16cm程度であり、給電コイル3や受電コイル5のデッドスペースとなっていた中央空間15に、埋め込み配設される(図4を参照)。
【0041】
(10)この通信装置Dは、そのコイル16,17について、それぞれ、巻線形状の異なるもの(図1の(1)図,(2)図,(3)図を参照)を、複数組み合わせたり、同一巻線形状でも90度等ずらしたものを加えたりすることにより、いわゆるゼロ点等が克服される。
すなわち、各コイル16,17について、それぞれ固有のゼロ点が相互補完され、もって、通信信号Sの送受信中に途中で感度不良が生じたり、一旦送受信が途絶えたりすることは、回避される(図2の(2)図,図3を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る信号伝送コイル通信装置について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、そのコイル形状の説明図であり、(1)図は第1例を、(2)図は第2例を、(3)図は第3例を示す。
【図2】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成ブロック図であり、(1)図はその1例を、(2)図は他の例を示す。
【図3】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、適用例の要部の平断面図である。
【図4】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、(1)図は、適用例の全体説明図、(2)図は、適用例の構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1 非接触給電装置
2 給電側
3 給電コイル
4 受電側
5 受電コイル
6 給電スタンド
7 電源
8 電気自動車
9 空隙空間
10 磁性体
11 磁性体
12 モールド樹脂
13 発泡材
14 背板
15 中央空間
16 コイル
17 コイル
18 受信側
19 送信側
20 変調部
21 復調部
22 バンドパスフィルタ
23 平面磁性体
A 通信装置(従来例)
B バッテリー
C 搬送波
D 通信装置(本発明)
H 外部空間
M モータ
S 通信信号
CO コントローラ
IN インバータ
OR OR回路
SW スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の距離を隔てて形成される空隙を介して、互いに対向して配置され、且つそれぞれ所定の口径と形状を有するコイル対から成ると共に、該コイルに入射した所望外の電磁波を自身で打ち消すことで、安定した信号送受信が可能なこと、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面略8字形状を持つこと、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項3】
請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面2重フープ形状を持つこと、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項4】
請求項1に記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルの形状が、平面磁性体に直交巻して配置した平面直交巻形状を持つこと、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項5】
請求項2,3,又は4の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、所望の通信信号以外の電磁波が入射した場合、送信側,受信側の該コイル各々が、そのコイル巻線形状により電磁波を打ち消して、安定した信号伝送を可能とすること、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項6】
請求項2,3,又は4の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、それぞれの該コイルを送信側,受信側において複数組み合わせて構成し、所望の通信信号以外の電磁波が入射した場合、送信側,受信側の該コイル各々が、そのコイル巻線形状の相互作用により電磁波を打ち消し、継続して信号伝送を可能とすること、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。
【請求項7】
請求項2,3,4,5,又は6の何れかに記載した信号伝送コイル通信装置において、送信側,受信側の該コイルが設置された物体の相対的位置ずれを判別可能なこと、を特徴とする信号伝送コイル通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−288889(P2008−288889A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131978(P2007−131978)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17,18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発,エネルギー有効利用基盤技術先導研究,非接触給電装置の研究」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000187208)昭和飛行機工業株式会社 (72)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】