説明

信号処理装置、プログラムおよび信号処理方法

【課題】マルチパスによる受信品質の劣化を抑制する。
【解決手段】信号処理装置のフィルタ12を制御するコントローラ16において、検出部163、推定部164および更新部165を設ける。OFDM信号が入力されたフィルタ12からFFT、伝送路推定部、IFFT15を介して検出部163に入力された信号に基づいて、検出部163は、主波に対して遅延した電波の振幅と遅延とを検出し、推定部164に伝達する。推定部164は、検出部163から伝達された振幅に応じて、伝送路の伝達関数のパラメータを推定してパラメータデータ167を生成する。更新部165は、パラメータデータ167に基づいて、伝送路の伝達関数をキャンセルするためのフィルタ係数を演算し、新たにフィルタ12のフィルタ係数を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重(OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex))変調方式の復調に関するものであり、特にマルチパス伝搬路における耐遅延干渉特性改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の地上波デジタルテレビ放送では、伝送方式としてOFDM(直交周波数分割多重;Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が採用されている。OFDM方式は、送信信号を複数の搬送波に分割して送信するマルチキャリア伝送方式の1つであり、マルチパス伝送路の周波数選択性フェージングに強い、各サブチャネルのスペクトルが密に配置でき、周波数利用効率が高い、などの利点がある。
【0003】
OFDMでは、マルチパスによる符号間干渉の影響を完全に取り除くために、ガード期間を設けている。ガードインターバルは各OFDMシンボルの前に配置される。ガードインターバルをマルチパス伝搬路の最大遅延時間より大きくしておくと、遅延波のシンボルが希望波のシンボルに入らないようにすることができるので、符号間干渉は生じない。さらに、ガードインターバルは、各シンボル後部の一部のコピーであり、伝送路推定と等化により、反射波の影響を完全に取り除くことができる。
【0004】
しかしながら、マルチパス伝搬路において、希望波に対する遅延波の遅延時間がガードインターバル期間を超えると、ISI(Inter-Symbol-Interference)が発生し、伝送路推定と等化にしても反射波の影響を取り除くことができなくなり、信号は著しく劣化し、信号は完全に復調することができない。このとき、遅延した電波の振幅が、先に受信された電波(主波)の振幅に比べて充分に小さければ(減衰していれば)問題はないが、そうでない場合には、干渉による問題が生じる。
【0005】
ガードインターバルを超えた反射波が発生した場合、それを検出し、キャンセルする方法は、特許文献1や特許文献2に提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−298434号公報
【特許文献2】特開2004−343546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の技術における方法は複雑すぎて、データ処理が膨大となるという問題があった。この場合、回路規模と演算力の限られるLSIでの実装が難しいという問題も生じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、比較的簡易にマルチパスによる受信品質の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号を処理する信号処理装置であって、前記OFDM信号からフィルタリングされた信号を生成するフィルタと、前記フィルタを制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する検出部と、前記検出部によって検出された前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する推定部と、前記推定部によって推定されたパラメータに基づいて、前記フィルタのフィルタ係数を更新する更新部とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る信号処理装置であって、前記フィルタによりフィルタリングされた信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、前記フーリエ変換部からの信号に基づいて伝送路推定を行う伝送路推定部と、前記伝送路推定部からの信号を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部とをさらに備え、前記検出部は、前記逆フーリエ変換部からの信号に基づいて、前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明に係る信号処理装置であって、前記検出部は、前記主波に対する前記遅延した電波の遅延時間を検出し、前記遅延時間と第1閾値とを比較した結果に応じて、前記推定部に前記パラメータの推定を実行させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明に係る信号処理装置であって、前記検出部は、前記遅延した電波の振幅と第2閾値とを比較した結果に応じて、前記推定部に前記パラメータの推定を実行させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、コンピュータ読み取り可能なプログラムであって、前記コンピュータによる前記プログラムの実行は、前記コンピュータを、主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号からフィルタリングされた信号を生成するフィルタを制御するコントローラであって、前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する検出部と、前記検出部によって検出された前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する推定部と、前記推定部によって推定されたパラメータに基づいて、前記フィルタのフィルタ係数を更新する更新部とを備えるコントローラとして機能させることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号を処理する信号処理方法であって、(a)前記OFDM信号をフィルタ係数を用いてフィルタリングする工程と、(b)前記(a)工程により生成された信号に基づいて、前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する工程と、(c)前記(b)工程において検出した前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する工程と、(d)前記パラメータに基づいて、前記フィルタ係数を更新する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1ないし6に記載の発明では、検出された遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定し、推定されたパラメータに基づいて、フィルタのフィルタ係数を更新することにより、遅延した電波の影響を除去することができる。したがって、マルチパスによる受信品質の劣化を抑制することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、検出部は、主波に対する遅延した電波の遅延時間を検出し、遅延時間と第1閾値とを比較した結果に応じて、推定部にパラメータの推定を実行させることにより、例えば、遅延した電波による干渉が問題になる場合にのみパラメータの推定を実行させることができる。したがって、不要な演算処理を抑制することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、検出部は、遅延した電波の振幅と第2閾値とを比較した結果に応じて、推定部にパラメータの推定を実行させることにより、例えば、遅延した電波による干渉が問題になる場合にのみパラメータの推定を実行させることができる。したがって、不要な演算処理を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0019】
<1. 実施の形態>
<1−1. 構成および機能>
図1は、本発明に係る信号処理装置10を示す図である。信号処理装置10は、A/D変換部11、フィルタ12、FFT13、伝送路推定部14、IFFT15およびコントローラ16を備える。
【0020】
A/D変換部11は、一般的なA/Dコンバータ回路であって、入力されるアナログ信号を、デジタル信号に変換してフィルタ12に向けて出力する。
【0021】
フィルタ12は、IIR (無限インパルス応答) フィルタであって、A/D変換部11からの信号r(n)(時間領域におけるOFDM信号)からマルチパスによって遅延した信号を除去する。フィルタ12のフィルタ係数は、コントローラ16によって制御可能とされている。
【0022】
FFT13はフィルタ12からの信号を入力信号とし、当該入力信号にフーリエ変換を行って、伝送路推定部14に向けて出力する。
【0023】
また、伝送路推定部14は、パイロット信号(Scattered Pilot)を使って、放送波が受信機に到達するまでの伝送路の状況を推定する機能を有する。伝送路推定部14における具体的な演算は従来の技術を採用できるため詳細な説明は省略するが、伝送路推定部14は周波数領域における伝送路伝達関数を求める。伝送路推定部14からの出力信号は、IFFT15の入力信号となる。
【0024】
さらに、IFFT15は、入力信号に逆フーリエ変換を行って、出力信号を生成する。すなわち、伝送路推定部14で求めた伝送路伝達関数を伝送路インパルス応答(時間領域)に変換する。
【0025】
コントローラ16は、CPU160と記憶装置161とを備えており、コンピュータとしての機能を有している。CPU160は、記憶装置161に記憶されているプログラム162に従って動作し、各種データの演算や制御信号の生成を行う。
【0026】
図2は、信号処理装置10が備える機能ブロックをデータの流れとともに示す図である。図2に示す検出部163、推定部164および更新部165が、CPU160がプログラム162に従って動作することによって実現される機能ブロックである。
【0027】
検出部163は、IFFT15からの入力に基づいて、主波に対する遅延した電波の振幅Aと遅延時間Tとを検出する。
【0028】
また、検出部163は、振幅Aおよび遅延時間Tと、予め記憶装置161に記憶されている設定データ166とに基づいて、動作モードを、「監視モード」と「適応モード」との間で切り替える機能を有する。
【0029】
なお、設定データ166には、予め第1閾値Q1、第2閾値Q2および第3閾値Q3が設定されているものとするが、詳細な説明は後述する。また、「監視モード」とは、フィルタ係数を更新せずにそのまま維持しつつ監視するモードであり、「適応モード」とは、フィルタ係数を新たに求めて更新することによりフィルタ12を適応させるモードである。
【0030】
さらに、検出部163は、切り替えた結果(動作モード)を推定部164に伝達する。なお、動作モードとして「適応モード」を伝達する場合、検出部163は動作モードとともに振幅Aも推定部164に伝達する。
【0031】
推定部164は、検出部163から伝達される動作モードが「適応モード」である場合には、同時に検出部163から伝達される振幅Aに応じて、パラメータ(後述する)を推定して、パラメータデータ167を生成する。
【0032】
更新部165は、パラメータデータ167に基づいて、フィルタ12のフィルタ係数を演算により新たに生成する。更新部165は、生成したフィルタ係数をフィルタ12にセット(更新)することにより、フィルタ12を制御する。
【0033】
<1−2. マルチパスの影響を除去する原理>
信号処理装置10において、マルチパスの影響を除去する原理を説明する前に、マルチパスの影響を除去しなければならない状況について説明する。
【0034】
受信機側で主波に対して遅延した電波が受信されたとしても、遅延した電波の振幅が充分に小さければ、遅延が大きくても、実用上、問題とはならない。例えば、主波の伝送経路に対して、充分に長い距離を経由して到達する電波は、遅延した電波として受信されたとしても、振幅が充分に減衰するため、問題とはならない。
【0035】
したがって、通常問題とされる「マルチパス」とは、単に、距離の異なる複数の伝送経路を意味するのではない。主波の伝送経路の他に、主波に対して遅延する電波であって、かつ主波に対して充分に大きい振幅(影響を無視できない状態)で受信される電波(以下、「遅延波」と称する)の伝送経路が1以上存在する状況を言う。すなわち、複数の伝送経路が存在し、かつ、それぞれの伝送経路を経由した電波が充分に大きい振幅で受信されるとともに、それぞれの伝送経路を経由した電波の受信時間に時差(以下、「遅延時間」と称する)を生じる場合に、その複数の伝送経路を「マルチパス」と呼ぶ。
【0036】
詳細は後述するが、本発明では、マルチパスが生じているか否か(マルチパス環境にあるか否か)は、検出部163が判定する。
【0037】
以下では、マルチパスが生じている場合に、その影響を除去する原理を説明するため、マルチパスの数を「P」とするが、上記説明から明らかなように、「P」は充分に大きい振幅で受信される電波の数(主波を含む)を示すのであって、受信機側で受信された全ての電波の数を示すものではない。また、遅延波が少なくとも1以上存在しなければ「マルチパス」の問題は生じないので、「P」は2以上の自然数であり、遅延波の数は「P−1」と表現できる。
【0038】
上記のように、マルチパスの数を「P」として、マルチパスによってP波が存在する状況において、0番目の電波(主波)の振幅α0を「1」、遅延τ0を「0」とおくと、式1が成立する。
【0039】
【数1】

【0040】
式1における受信信号r(n)をフーリエ変換すると、そのスペクトルは、式2で表現できる。
【0041】
【数2】

【0042】
すなわち、式3に示されるようなフィルタ係数G(k)を求めれば、受信信号のスペクトルから送信された信号のスペクトルを、式4に示すように求めることができる。したがって、式3に示されるようにフィルタ12を制御すれば、フィルタ12によってフィルタリングされた信号は、マルチパスの影響が除去された信号となることがわかる。
【0043】
【数3】

【0044】
【数4】

【0045】
式3からも明らかであるが、この原理によれば、P波のマルチパスが存在する場合、2(P−1)個のパラメータを決定しない限り、フィルタ係数G(k)が求まらないことがわかる。
【0046】
一方、現実の環境下を評価すると、多くの場合、実際に問題となるのは、遅延波が1つの場合である。すなわち、信号処理装置10の実用上、2波のマルチパス(P=2)について、影響を除去できれば充分に効果を発揮すると言える。
【0047】
2波のマルチパス環境において、マルチパスの伝達関数H(k)は、式5で求まる。
【0048】
【数5】

【0049】
したがって、これを式3に代入すれば、フィルタ12のフィルタ係数G(k)に対して、式6が成立する。
【0050】
【数6】

【0051】
本実施の形態における信号処理装置10では、推定部164が、式6におけるαとτとを推定し、これに基づいてパラメータデータ167を生成する。また、更新部165は、パラメータデータ167に示されるαとτとに基づいて、式6を演算して、フィルタ係数G(k)を新たに生成し、フィルタ係数G(k)を更新する。
【0052】
このようにして、フィルタ12がコントローラ16(更新部165)によって制御され、マルチパスの影響が除去(キャンセル)される。以上が、信号処理装置10において、マルチパスの影響を除去する原理である。
【0053】
<1−3. 動作>
次に、信号処理装置10の動作を、コントローラ16の動作を中心に説明する。
【0054】
図3は、信号処理装置10の動作を示す流れ図である。
【0055】
信号処理装置10は、まず、初期設定(ステップS1)を実行する。この初期設定において、フィルタ12のフィルタ係数G(k)が「1」に初期化される。
【0056】
OFDM信号がフィルタ12に入力され、当該OFDM信号に対するフィルタリング処理が実行される(ステップS2)。
【0057】
次に、フィルタ12からの信号に対して、FFT13がフーリエ変換(FFT)を実行し(ステップS3)、FFT13によってフーリエ変換された信号に対して伝送路推定部14による伝送路推定が実行される(ステップS4)。これにより、伝送路伝達関数が求まる。さらに、伝送路推定部14からの信号がIFFT15に入力され、逆フーリエ変換(IFFT)される(ステップS5)。
【0058】
このようにして、フィルタ12によってフィルタリングされた信号は、FFT13、伝送路推定部14およびIFFT15によってそれぞれ処理され、コントローラ16の入力信号となる。
【0059】
IFFT15による処理(ステップS5)が終了すると、コントローラ16によって制御処理(ステップS6)が実行される。
【0060】
図4は、コントローラ16による制御処理の詳細を示す流れ図である。
【0061】
制御処理では、まず、検出部163がIFFT15からの入力信号に基づいて、遅延した電波の振幅A(主波に対する振幅)と、遅延時間T(主波に対する遅延時間)とを演算により検出する(ステップS11)。
【0062】
次に、検出部163は、検出した遅延時間Tと第1閾値Q1とを比較し、遅延時間Tが第1閾値Q1より大きいか否かを判定する(ステップS12)。先述のように、第1閾値Q1は設定データ166に予め設定されている情報であるが、OFDM方式におけるガードインターバル長に応じて設定するのが好ましい。OFDM方式では、ガードインターバル長よりも短い遅延であれば、遅延波の振幅に関わらず、干渉の問題は生じないからである。
【0063】
したがって、遅延時間Tが第1閾値Q1以下である場合(ステップS12においてNo)、検出部163は、動作モードを「監視モード」にセットし(ステップS13)、制御処理を終了する。この場合、後述するステップS20は実行されないので、フィルタ12のフィルタ係数G(k)は更新されることなく、現在の値が維持される。
【0064】
一方、遅延時間Tが第1閾値Q1より大きい場合(ステップS12においてYes)、検出部163は、さらに、ステップS11で求めた振幅Aと第2閾値Q2とを比較し、振幅Aが第2閾値Q2より大きいか否かを判定する(ステップS14)。先述のように、第2閾値Q2は設定データ166に予め設定されている情報である。この第2閾値Q2は、OFDM方式において、干渉による問題を発生させる程に、遅延した電波の振幅が大きいか否かを判定するための閾値として、予め実験等によって求めることができる。
【0065】
振幅Aが第2閾値Q2以下である場合(ステップS14においてNo)、検出部163は、ステップS13を実行して、制御処理を終了する。この場合も、フィルタ係数G(k)は維持される。
【0066】
一方、振幅Aが第2閾値Q2より大きい場合、検出部163は、動作モードを「適応モード」にセットし(ステップS15)、振幅Aとともに推定部164に伝達する。
【0067】
このように検出部163が、遅延時間Tと振幅Aとに基づいて動作モードを切り替えることにより、信号処理装置10は、マルチパスの影響を除去しなければならない状況が生じているか否かを容易に判定できる。したがって、必要な場合にのみ、フィルタ係数の更新処理を実行するので、演算処理を抑制することができる。
【0068】
ステップS15が実行され、動作モードが適応モードにセットされると、推定部164は、検出部163から伝達された振幅Aと第3閾値Q3とを比較し、振幅Aが第3閾値Q3より大きいか否かを判定する(ステップS16)。なお、第3閾値Q3は、第2閾値Q2より大きい値である。
【0069】
振幅Aが第3閾値Q3より大きい場合(ステップS16においてYes)、推定部164は、伝送路の伝達関数H(k)におけるパラメータのうち(式5参照)、αの値を現状のまま固定しておき、τの値を推定する(ステップS17)。ステップS17では、例えば、現状のτの値を一旦微増(または微減)させ、再度、ステップS17が実行された場合には、そのときの振幅Aの値と、前回の振幅Aの値とを比較して、振幅Aの値が小さくなるように、τの値を微調整する。このようにして、ステップS17が繰り返されることにより、最終的には、振幅Aが第3閾値Q3以下となるτが推定される。
【0070】
一方、振幅Aが第3閾値Q3以下である場合(ステップS16においてNo)、推定部164は、τの値を現状のまま固定し、αの値を推定する(ステップS18)。ステップS18におけるαの値の推定も、ステップS17におけるτの推定と同様に実行できる。このようにして、ステップS18が繰り返されることにより、最終的には、振幅Aが第2閾値Q2以下となるαとτとが推定される。
【0071】
ステップS17またはS18を実行すると、推定部164は、推定したパラメータ(αまたはτ)に基づいてパラメータデータ167を生成する。さらに、更新部165が、生成されたパラメータデータ167に基づいて、式6を演算し(ステップS19)、フィルタ12のフィルタ係数G(k)を求める。
【0072】
次に、更新部165は、求めたフィルタ係数G(k)をフィルタ12に伝達することにより、フィルタ12のフィルタ係数G(k)を更新し(ステップS20)、制御処理を終了して図3に示す処理に戻る。
【0073】
図3に戻って、制御処理が終了すると、再びステップS2のフィルタリング処理が実行される。すなわち、制御処理において、ステップS20が実行されていれば、フィルタ12のフィルタ係数G(k)が変更された状態で、その後のフィルタリング処理が行われる。一方、制御処理において、ステップS20が実行されていなければ、フィルタ12のフィルタ係数G(k)が維持された状態で、その後のフィルタリング処理が行われる。
【0074】
以上のように、本実施の形態における信号処理装置10は、主波に対する遅延した電波の振幅を検出する検出部163と、検出部163によって検出された遅延した電波の振幅に応じて、パラメータを推定する推定部164と、推定部164によって推定されたパラメータに基づいて、フィルタ12のフィルタ係数を更新する更新部165とを備えることにより、遅延した電波の影響を除去することができる。したがって、マルチパスによる受信品質の劣化を抑制することができる。
【0075】
また、検出部163は、遅延した電波の振幅と第2閾値Q2とを比較した結果に応じて、推定部164にパラメータの推定を実行させることにより、例えば、遅延した電波による干渉が問題になる場合にのみパラメータの推定を実行させることができる。したがって、不要な演算処理を抑制することができる。
【0076】
また、検出部163は、主波に対する遅延した電波の遅延時間Tを検出し、遅延時間Tと第1閾値Q1とを比較した結果に応じて、推定部164にパラメータの推定を実行させることにより、例えば、遅延した電波による干渉が問題になる場合にのみパラメータの推定を実行させることができる。したがって、不要な演算処理を抑制することができる。
【0077】
なお、本実施の形態における信号処理装置10では、主波と主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号を、FFT13、伝送路推定部14およびIFFT15によって処理することにより、マルチパスによる振幅Aと遅延時間Tとを求めるように構成している。したがって、伝送路推定部14からの出力信号をそのまま等化処理への入力信号とすることができるとともに、IFFT15の出力信号をそのまま同期制御処理への入力信号とすることができる。すなわち、FFT13、伝送路推定部14およびIFFT15を兼用することにより、信号処理装置10を用いれば、このような信号を生成する構成を別途用意する必要がない。
【0078】
<2. 変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0079】
例えば、図3および図4に示した各工程は例示であって、このような内容および順番に限定されるものではない。
【0080】
また、CPU160がプログラム162を実行することにより、ソフトウェア的に実現されると説明した機能ブロックについて、その一部または全部を専用の回路で構成し、ハードウェア的に実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る信号処理装置を示す図である。
【図2】信号処理装置が備える機能ブロックをデータの流れとともに示す図である。
【図3】信号処理装置の動作を示す流れ図である。
【図4】コントローラによる制御処理の詳細を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0082】
10 信号処理装置
11 A/D変換部
12 フィルタ
13 FFT
14 伝送路推定部
15 IFFT
16 コントローラ
160 CPU
161 記憶装置
162 プログラム
163 検出部
164 推定部
165 更新部
166 設定データ
167 パラメータデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号を処理する信号処理装置であって、
前記OFDM信号からフィルタリングされた信号を生成するフィルタと、
前記フィルタを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する推定部と、
前記推定部によって推定されたパラメータに基づいて、前記フィルタのフィルタ係数を更新する更新部と、
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記フィルタによりフィルタリングされた信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部からの信号に基づいて伝送路推定を行う伝送路推定部と、
前記伝送路推定部からの信号を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換部と、
をさらに備え、
前記検出部は、前記逆フーリエ変換部からの信号に基づいて、前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号処理装置であって、
前記検出部は、前記主波に対する前記遅延した電波の遅延時間を検出し、前記遅延時間と第1閾値とを比較した結果に応じて、前記推定部に前記パラメータの推定を実行させることを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の信号処理装置であって、
前記検出部は、前記遅延した電波の振幅と第2閾値とを比較した結果に応じて、前記推定部に前記パラメータの推定を実行させることを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
コンピュータ読み取り可能なプログラムであって、前記コンピュータによる前記プログラムの実行は、前記コンピュータを、
主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号からフィルタリングされた信号を生成するフィルタを制御するコントローラであって、
前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する推定部と、
前記推定部によって推定されたパラメータに基づいて、前記フィルタのフィルタ係数を更新する更新部と、
を備えるコントローラとして機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
主波と前記主波に対して遅延した電波とを含む受信電波から得られるOFDM信号を処理する信号処理方法であって、
(a) 前記OFDM信号をフィルタ係数を用いてフィルタリングする工程と、
(b) 前記(a)工程により生成された信号に基づいて、前記主波に対する前記遅延した電波の振幅と遅延とを検出する工程と、
(c) 前記(b)工程において検出した前記遅延した電波の振幅と遅延とに応じて、パラメータを推定する工程と、
(d) 前記パラメータに基づいて、前記フィルタ係数を更新する工程と、
を備えることを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−160386(P2008−160386A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345844(P2006−345844)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】