説明

信号処理装置および信号処理方法

【課題】応答時間の短縮を図った信号処理装置および信号処理方法を提供すること。
【解決手段】処理対象データを処理する複数のデータ処理部#1〜#3を備え、必要なレスポンスタイム(応答時間)に応じて処理領域(データ量)の空間的広がりを増減することにより、レスポンスタイム(応答時間)を短縮する。つまり同じ速さの目標であっても距離が近ければ近いほど大きく動く(角速度が大きい)ことから、レンジによってアクションに対する要求が違うことに着目し、近距離レンジほどプロセッサに一度に与えられるデータ量を少なくして応答時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理対象アルゴリズムを複数に分割して複数のプロセッサで処理する信号処理装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データ処理の分野において、処理対象データを複数に分割して、分割された処理対象データ夫々を複数のプロセッサ(DSP(Digital Signal Processor)など)で処理してデータ処理の効率化を図るという手法が知られている。レーダ信号を処理する装置にあっては処理負荷が特に大きいので、この種の技術が頻繁に用いられる。例えばラウンドロビン方式では、処理対象データの全領域のデータ量から処理負荷を算出し、その値を基準に複数のプロセッサを使用するマルチプロセッサ構成で処理を実現している(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2001−101150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、複数のプロセッサを用いる並列処理においては、プロセッサの数に応じた処理遅れ(プロセッサ数×処理周期)が生じることは良く知られている。このことは、レーダ装置への応用にあたっては応答時間が増大することに直結するので、追尾ビーム内に目標が入らず追尾をロストするなどといった不具合を引き起こす。すなわち応答時間(レスポンスタイム)の遅れが角度追尾処理に重要な問題を引き起こすので、何らかの対処が望まれている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、応答時間の短縮を図った信号処理装置および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、レーダ装置から出力されるレーダ受信信号を処理する信号処理装置において、入力された処理対象データをその入力時点から処理完了までの応答時間を要して処理する複数のデータ処理部と、前記レーダ装置の覆域におけるレンジと角度とで定義される領域ごとに前記応答時間を基準として設定される優先度に応じて、各領域に対応する処理対象データを前記複数のデータ処理部に振り分け入力する制御部とを具備することを特徴とする信号処理装置が提供される。
【0005】
このような手段を講じることにより、例えば近距離レンジの領域は応答時間が早くなるように設定され、データ処理部に優先的に割り振られる。これにより最小限の遅延で処理結果を得ることができ、応答時間を短縮することが可能になる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、応答時間の短縮を図った信号処理装置および信号処理方法を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、この発明に係わる信号処理装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。この装置は飛行体目標を検知するレーダなどに接続されて用いられるもので、複数の並列プロセッサ(プロセッサエレメント)#1〜#3を用いてラウンドロビン方式により信号処理を行う。レーダ受信信号は入力として装置に与えられ、制御部10によりプロセッサ#1〜#3のいずれかに時分割で与えられる。各プロセッサ#1〜#3による処理の結果は後段の表示装置(図示せず)などに出力される。
【0008】
図2は比較のため既存の技術による並列処理につき示すシーケンス図である。図中Nは処理タイミングを示し、N−1,N,N+1,N+2,…と増えるごとに順次時間の経過した入力データを表す。Tは各プロセッサにおいて1回の処理に要する応答時間であり、レーダのパルス繰返し周期に対応する。
【0009】
図2からわかるように既存の技術では、時間Tの経過するごとに順次プロセッサ#1〜#3が使用される。このためプロセッサの数に応じて処理遅れ(プロセッサ数×処理周期)が生じ、応答時間が増大する。応答時間が増大することにより発生する問題の具体的な例を以下に説明する。
【0010】
一般的な追尾レーダの信号処理で角度追尾を行う場合は、全領域を捜索して目標を検出した後、その目標に向け追尾ビームを指向して追尾処理を行う。角度追尾処理は検出した目標の位置情報から、目標の予測位置(予測距離・予測方位・予測高低角)を算出し、追随ビームを予測方位と予測高低角方向に指向する。予測位置は過去の検出位置情報の履歴から算出されるが、初回の捜索での検出時は過去の位置情報が無いことから、同じ位置に追随ビームを指向する。
【0011】
ここで、近距離領域で高速に移動する目標は、レーダから見て角速度が大きく、同じ位置にビームを指向した場合に初回の検出時刻から時間が経過しているとビーム幅より外側に移動してしまう場合がある。これは、すなわち追尾ビーム内に目標が入らず追尾をロストすることであり重大な問題となる。
【0012】
図3は、この実施形態におけるレーダ覆域の分割を示す模式図である。例えば全周囲レーダであればその覆域は2次元平面上で360°にわたり展開する。図3においてはまず角度に対して覆域を複数の領域に分割し、さらに各領域をレンジ(距離)に対して例えば2つに分割する。例えばNに対応する時点においては近距離領域(N近)と遠距離領域(N遠)とが制御部10により設定される。そして、近距離領域ほど優先度を高くし、プロセッサに優先的に入力する。
【0013】
遠距離領域においては目標の速度が如何に速くとも、レーダからみた角速度により評価するとその変化速度は比較的遅い。従って処理遅延についてはさほどシビアな性能を求められないので、その分、領域の広がりを広くしてデータ量を多くすることができる。逆に近距離領域においては、遅い目標であってもレーダ角速度は早くなり、迅速な対応を求められる。よって領域の広がりを狭くしてデータ量を削減し、その分、処理速度の向上を求めるようにする。図3においてはレンジ方向に1/3を近距離領域、2/3を遠距離領域とする。
【0014】
図4は、図3の分割覆域のもとで実施される並列処理につき説明するためのシーケンス図である。図4に示すように、角度に対して扇状に分割した領域ごとに、2回に分割して処理を行う。例えば(N−1近)領域においてはプロセッサ#1により処理ディレイTで処理結果を得られる。(N近)領域においてはプロセッサ#2により処理ディレイTで処理結果を得られる。このように近距離領域においては常に応答時間Tで結果を得られ、即時対応が可能になる。一方、遠距離領域においては応答時間が3Tとなるが、目標の見かけの速度が遅いのでこれでも十分である。すなわちこの実施形態によれば、近距離領域の応答時間を3TからTに短縮する効果を得ることができる。
【0015】
以上説明したようにこの実施形態では、処理対象データを処理する複数のデータ処理部#1〜#3を備え、必要なレスポンスタイム(応答時間)に応じて処理領域(データ量)の空間的広がりを増減することにより、レスポンスタイム(応答時間)の短縮を実現するようにしている。つまり同じ速さの目標であっても距離が近ければ近いほど大きく動く(角速度が大きい)ことから、レンジによってアクションに対する要求が違うことに着目し、近距離レンジほどプロセッサに一度に与えられるデータ量を少なくして応答時間を短縮するようにしている。
【0016】
上記の手順は、特にレーダが捜索モードから追尾モードに移行する際に特に効果を発揮する。すなわち、捜索から追尾に移行する際に近距離領域の目標検出のみを先行して行い、目標位置情報を算出するようにすれば、近距離目標の追尾動作移行への応答時間を短縮することができる。また、捜索から追尾に移行する際に、目標の脅威度からあらかじめ設定した優先領域に対して最初に処理を行うことにより、高脅威度目標の追尾動作移行への応答時間を短縮することができる。さらには、捜索から追尾に移行する際に、既に追随している目標の捜索領域は捜索の目標検出を実施しないようにすれば、処理負荷を軽減し、追尾動作移行への応答時間を短縮することができる。
これらのことから、応答時間の短縮を図った信号処理装置および信号処理方法を提供することができるようになり、ひいては初探知から追尾に移行する際の応答時間の短縮を図ることが可能になる。
【0017】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではない。この実施形態では近距離ほど処理の優先度を高くしたが、これに限らず例えば目標の脅威度に応じて領域の優先度を可変しても良い。また情勢の変化に応じて目標の脅威度は時々刻々と変化するので、それに応じて各領域の優先度を可変しても良い。このような対応を行うためには信号処理の結果を領域の分割処理にフィードバックすれば良い。
【0018】
また、レーダにより検出され追尾中の目標については、当面の優先度を低くすることができる。そのような目標の存在する領域については優先度を最低にしても良い。このほか、プロセッサエレメントの数など、この発明は実施段階ではこの実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係わる信号処理装置の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図2】比較のため既存の技術による並列処理につき示すシーケンス図。
【図3】この発明の実施形態におけるレーダ覆域の分割の一例を示す模式図。
【図4】図3の分割覆域のもとで実施される並列処理につき説明するためのシーケンス図。
【符号の説明】
【0020】
#1〜#3…プロセッサエレメント(PE)、10…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置から出力されるレーダ受信信号を処理する信号処理装置において、
入力された処理対象データをその入力時点から処理完了までの応答時間を要して処理する複数のデータ処理部と、
前記レーダ装置の覆域におけるレンジと角度とで定義される領域ごとに前記応答時間を基準として設定される優先度に応じて、各領域に対応する処理対象データを前記複数のデータ処理部に振り分け入力する制御部とを具備することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記レンジの近い領域ほど高い優先度を設定することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、存在する目標の脅威度の高い領域ほど高い優先度を設定することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、信号処理の結果に応じて前記優先度を実時間で更新設定することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記レーダ装置が追尾中である目標の存在する領域の優先度を最低とすることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記応答時間の早い処理を要求される領域ほどその広がりを狭くすることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
レーダ装置から出力されるレーダ受信信号を、入力された処理対象データをその入力時点から処理完了までの応答時間を要して処理する複数のデータ処理部により処理する信号処理装置に用いられる信号処理方法において、
前記レーダ装置の覆域におけるレンジと角度とで定義される領域ごとに前記応答時間を基準として優先度を設定し、
各領域に対応する処理対象データを前記複数のデータ処理部に前記優先度に応じて振り分け入力することを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216195(P2008−216195A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57477(P2007−57477)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】