説明

信号変調装置及び方法

【課題】 高品質な多値の光信号を得ることができる。
【解決手段】 本発明は、Nチャネル(Nは2以上でN以下の整数)の電気2値信号を、1チャネルの光多値信号に変調する信号変調装置に関する。電気信号を光信号に変調する変調部をN段備え、第1段目の変調部は、第1の電気2値信号を光信号に変調して、第2段目の変調部に供給し、第2段目以降の変調部は、外部変調方式で電気信号を光信号に変調するものであり、第m段目(mは2以上でN以下の整数)の変調部は、第m−1段目の変調部から出力される光信号を光源として、第mの電気2値信号を光信号に変調して出力し、第N段目の変調部が出力する光信号を、光多値信号として出力することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号変調装置及び方法に関し、例えば、光ファイバを用いて高速通信を行う通信装置に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
今日の光ファイバ通信システムにおいて、一般的に電気信号から光信号へ変換する際の変調に使用される符号は、NRZ(Non Return to Zero)符号のオンオフキーイング(On−Off keying)である。これは、伝えたいディジタル信号の「0」,「1」のビットに対応して、光の強度の「無」、「有」の2段階の状態を作り、それを伝送するものである。
【0003】
これに対して、光強度の段階を2段階よりも増やし、多値化した信号(以下、「光多値信号」という)とすることで、シンボルレートを高速化せずに、より多くの情報を送信する方式(以下、「光多値変調方法」という)もある。
【0004】
従来の光多値変調方法の一つとしては、従来非特許文献1に記載された、電気信号の状態で多値信号を生成し、光強度変調する方式がある。
【0005】
しかし、非特許文献1の記載技術のように多値の電気信号を生成する方式では、以下のような問題がある。非特許文献1の記載技術では、N個の2値信号を加算して、2値の多値電気信号を生成する際に、電子回路基板のインピーダンス不整合に起因した高周波成分の反射によって、波形歪みが生じる。また、非特許文献1の記載技術では、アナログ波形を忠実に増幅するような線形な入出力特性を持つ電子回路が必要となる。
【0006】
今日の光伝送装置の変調速度は数十Gbps以上と相当に高速化が進んでいるため、多値数を増やすか、変調速度を上げる必要があるが、非特許文献1の記載技術では、変調速度を高速化する場合には、上記2点の問題は特に顕著となる。
【0007】
そこで、従来、多値の電気信号を取り扱わずに、多値の光信号を生成する方式として、光領域で多値信号を生成する方式がある。光領域で多値信号を生成する方式としては、従来、特許文献1〜4の記載技術がある。
【0008】
特許文献1〜3の記載技術では、N個の光源を用いて、2値の強度変調光をN系統生成し、それらに対して、レベル差をつけて合成することにより、2値の光信号を得るようになっている。
【0009】
特許文献4の記載技術では、同一光源からの出力を導波路上で2分岐して、強度変調可能な2つの変調器で変調後に合波している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−005633号公報
【特許文献2】特開2009−124342号公報
【特許文献3】特開2002−333603号公報
【特許文献4】特開平1−223837号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sheldon Walklin et al, “Multilevel Singnaling for Increasing the Reach of 10Gb/s Lightwave Systems”, Journal of Lightwave Technology, Vol.17, No.11, pp.2235−2248, 1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1、2の記載技術では、合波する光の波長が十分離れていれば干渉は生じないが、それでは波長を異ならせて伝送する波長多重(WDM)と同じになってしまい、多値化のメリットが少なくなってしまう。
【0013】
また、特許文献3の記載技術では、生成したN系統の光を合成する際に、光同士が干渉し合ってビートノイズを生じないようにするために、設計等に高度な要件があり、高品質な多値の光信号を得ることが難しく、実現できたとしてもコストが高くなってしまう。
【0014】
さらに、特許文献4の記載技術の多値変調器を実現するためには、分岐した光信号を再び合波するまでに、光搬送波の位相変動が生じないという条件が必要となる。そのため、特許文献4の記載技術では、導波路基盤の光路差調整及び温度調整などを高精度で行い、光の位相変動が起こらない設計等高度な要件があり、歪みの少ない高品質な波形を得ることが難しい。
【0015】
以上のような従来技術の問題点を鑑み、高品質な多値の光信号を得ることができる信号変調装置及び方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の本発明は、Nチャネル(Nは2以上の整数)の電気2値信号を、1チャネルの光多値信号に変調する信号変調装置において、(1)電気信号を光信号に変調する変調部をN段備え、(2)第1段目の上記変調部は、第1の上記電気2値信号を光信号に変調して、第2段目の上記変調部に供給し、(3)第2段目以降の上記変調部は、外部変調方式で電気信号を光信号に変調するものであり、第m段目(mは2以上でN以下の整数)の上記変調部は、第m−1段目の上記変調部から出力される光信号を光源として、第mの上記電気2値信号を光信号に変調して出力し、(4)第N段目の上記変調部が出力する光信号を、上記光多値信号として出力することを特徴とする。
【0017】
第2本発明は、Nチャネル(Nは2以上の整数)の電気2値信号を、1チャネルの光多値信号に変調する信号変調方法において、(1)電気信号を光信号に変調するN段の変調部のうち、第1段目の上記変調部が、第1の上記電気2値信号を光信号に変調して、第2段目の上記変調部に供給する工程と、(2)第2段目以降の上記変調部は、外部変調方式で電気信号を光信号に変調するものであり、第m段目(mは2以上でN以下の整数)の上記変調部が、第m−1段目の上記変調部から出力される光信号を光源として、第mの上記電気2値信号を光信号に変調して出力する工程と、(3)第N段目の上記変調部が出力する光信号を、上記光多値信号として出力する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高品質な多値の光信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係る信号変調装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る信号変調装置における、入力電気信号の値と、出力光多値信号との関係について示した説明図である。
【図3】第1の実施形態に係るEA変調器の消光特性の例について示した説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る信号復調装置の構成例について示したブロック図である。
【図5】第1の実施形態に係る第1段目のEA変調器に入力される電気信号と消光特性と出力光信号のパワーとの関係について示した説明図である。
【図6】第1の実施形態に係る第2段目のEA変調器に入力される電気信号と消光特性と出力光信号のパワーとの関係について示した説明図である。
【図7】第1の実施形態に係る第3段目のEA変調器に入力される電気信号と消光特性と出力光信号のパワーとの関係について示した説明図である。
【図8】第1の実施形態に係る信号変調装置に入力される電気2値信号と、出力光多値信号の例について示したタイミングチャートである。
【図9】第2の実施形態に係る信号変調装置の機能的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による信号変調装置及び方法の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0021】
図1は、第1の実施形態の信号変調装置10の機能的構成を示すブロック図である。
【0022】
信号変調装置10には、3チャネル(ビット長)の電気2値信号を有するディジタル電気信号SEを、1チャネルの光多値信号SOに変調して出力する装置である。
【0023】
なお以下において、ディジタル電気信号SEを構成する各チャネル(各ビット)の値を、それぞれB1、B2、B3と表すものとする。また、B1〜B3のそれぞれの値は、0レベル又は1レベルで表されるものとする。そして、任意の時点のディジタル電気信号SE(nは1以上の整数)を構成する各チャネル(各ビット)の値を、B1、B2、B3と表すものとする。例えば、B1、B2、B3の次の信号の値は、B1、B2、B3と表すものとする。図1では、例として、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)を3として、ディジタル電気信号SEの値(すなわち、B1、B2、B3の値の組み合わせ)に応じたパワーの光信号を光多値信号SOとして出力するが、ディジタル電気信号SEを構成するチャネル数(ビット長)は2以上であれば限定されないものである。
【0024】
図2は、ディジタル電気信号SEの各チャネルの値(B1〜B3の値)と、光多値信号SOとの関係について示した説明図である。
【0025】
図2では、例えば、B1、B2、B3の値が000(B1=B2=B3=0)の場合には、信号変調装置10は、光多値信号SOとして、P000のパワーの光信号を出力し、001(B1=B2=0、B3=1)の場合にはP001のパワーの光信号を出力することを示している。このように、信号変調装置10では、図2の例に示すように、SE(B1、B2、B3)のそれぞれの値(000、001、010、…、111)に対応するパワー(P000、P001、P010、…、P111)の光信号を出力する。
【0026】
なお、ここでは、P111〜P000>0[mw]であるものとする。また、ここでは、例として、P000〜P111のそれぞれの値の差分は同じ(等間隔)であるものとして説明する。例えば、P000の値とP001の値との差分と、P001の値とP010の値との差分は同じ幅となる。
【0027】
信号変調装置10は、Continuous Wave Laser Diode(以下、「CW−LD」という)11、3つの電気2値信号発生部12−1〜12−3、2つの遅延素子13(13−1、13−3)、3つの振幅調整部14(14−1〜14−3)、3つのバイアス調整部15(15−1〜15−3)、及び3つのElectroAbsorption(以下、「EA」という)変調器16(16−1〜16−3)を有している。
【0028】
電気2値信号発生部12−1〜12−3は、ディジタル電気信号SEを発生させるものであり、例えば、既存のパルスパターン発生器などを用いることができる。
【0029】
電気2値信号発生部12−1〜12−3には、それぞれディジタル電気信号SEを構成する各チャネル(各ビット)のデータ(パルスパターン)がセットされている。そして、電気2値信号発生部12−1〜12−3は、図示しない基準クロック発生器(既存のクロック発生器を適用することができる)などによって同期したタイミングで、それぞれにセットされたデータ(パルスパターン)に基づく電気2値信号を出力する。すなわち、図1では、電気2値信号発生部12−1〜12−3は、それぞれB1、B2、B3の値(レベル)の電気2値信号を、上述の基準クロック発生器で同期された所定のビットレートBR[bps]で出力する。
【0030】
なお、図1においては、電気2値信号発生部12−1〜12−3を、信号変調装置10内部に備えているが、信号変調装置10から電気2値信号発生部12を省略し、外部からディジタル電気信号SEの供給を受けるようにしても良い。また、電気2値信号発生部12−1〜12−3が発生するディジタル電気信号SEのデータ(パルスパターン)だけについて外部から供給を受け、供給されたデータ(パルスパターン)に基づいて、電気2値信号発生部12−1〜12−3がディジタル電気信号SEを発生させるようにしても良い。
【0031】
信号変調装置10では、電気2値信号発生部12−1〜12−3から出力された電気2値信号のそれぞれについて、振幅調整部14−1〜14−3により所定の振幅に調整され、さらに、バイアス調整部15−1〜15−3により所定のバイアスに調整されて、EA変調器16−1〜16−3に入力される。振幅調整部14としては、例えば、既存の振幅調整を行う回路(可変利得増幅器や、減衰器等)を適用することができる。また、バイアス調整部15も既存の電気信号のバイアスを調整する回路を適用することができる。
【0032】
また、信号変調装置10では、電気2値信号発生部12−2、12−3から出力された電気2値信号のそれぞれについて、遅延素子13−2、13−3を用いて、遅延させ、EA変調器16−2、16−3に入力される。一方、電気2値信号発生部12−1から出力された電気2値信号については、遅延させずにEA変調器16−1に入力されている。遅延素子13としては、既存の電気信号を所定時間遅延させるフェーズシフタ等を用いることができる。
【0033】
なお、以下では、EA変調器16−1〜16−3のそれぞれに入力される電気2値信号をse1〜se3と呼ぶものとする。
【0034】
CW−LD11は、波長λの連続光を発する光源である。CW−LD11としては、既存のレーザ・ダイオードを適用することができる。
【0035】
信号変調装置10では、CW−LD11により発せられた連続光に、se1〜se3を重畳することにより、光多値信号SOを生成する。EA変調器16は、既存のEA変調器(電界吸収型の変調器)を適用することができる。なお、EA変調器16は、電界吸収型のものに限らず、外部変調方式により、電気信号を光信号に変調する装置であれば、他の方式のものに置き換えるようにしても良い。
【0036】
1段目のEA変調器16−1では、CW−LD11から供給される連続光を光源として、電気2値信号se1を光信号に変調し、EA変調器16−2に供給している。そして、2段目のEA変調器16−2では、EA変調器16−1から供給される光信号を光源として、電気2値信号se2を光信号に変調し、EA変調器16−3に供給している。そして、最終段(3段目)のEA変調器16−3では、2段目のEA変調器16−2からの光信号を光源として、電気2値信号se3を光信号に変調し、光多値信号SOとして出力している。
【0037】
すなわち、m段目(2段目以降、但し最終段を除く)のEA変調器16では、m−1段目のEA変調器16から出力される光信号が光源として供給されている。そして、m段目(2段目以降、但し最終段を除く)のEA変調器16が出力する光信号は、次のm+1段目のEA変調器16へ光源として供給されている。このように、信号変調装置10では、複数のEA変調器16が連結されている。
【0038】
図1では、信号変調装置10では、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)が3であるため、3段のEA変調器16−1〜16−3が配置されているが、それ以上のチャネル数(ビット長)のディジタル信号を変調する場合には、そのチャネル数(ビット長)分のEA変調器16を、図1と同様に連結する必要がある。また、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)が2である場合には、3段目のEA変調器16−3に係る構成を省略して、EA変調器16−2までの構成とするようにしても良い。例えば、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)がmである場合には、m段のEA変調器16−1〜16−mが連結される。なお、2段目以降のEA変調器16のそれぞれには、対応する電気2値信号発生部12、遅延素子13、振幅調整部14、及びバイアス調整部15が配置される。また、図1では、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)が3であるため、光多値信号SOは2値(=8値)の光信号となるが、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)がmである場合には、光多値信号SOは2値の光信号となる。
【0039】
以下では、例として、EA変調器16−1に入力されるse1は、振幅がV〜Vで、オフセットレベルVb1の信号であるものとする。また、ここでは、se1が、Vb1+V〜Vb1−Vの範囲で変動する信号であるものとする。そして、この場合、B1の値が1の場合にはse1はVb1+Vの値を示し、B1の値が0の場合には、se1はVb1−Vの値を示すものとする。
【0040】
また、以下では、EA変調器16−2には、振幅がV/2〜V/2で、オフセットレベルVb2(Vb2=Vb1−V/2であるものとする)の信号が入力されるものとする。se1と同様にse2は、Vb2+V/2〜Vb2−V/2の範囲で変動する信号であるものとする。そして、この場合、B2の値が1の場合にはse2はVb2+V/2の値を示し、B2の値が0の場合には、se2はVb2−V/2の値を示すものとする。
【0041】
さらに、以下では、EA変調器16−3には、振幅がV/4〜V/4で、オフセットレベルVb3(Vb3=Vb2−V/4であるものとする)の信号が入力されるものとする。se1、2と同様にse3は、Vb3+V/4〜Vb3−V/4の範囲で変動する信号であるものとする。そして、この場合、B3の値が1の場合にはse3はVb3+V/4の値を示し、B3の値が0の場合には、se3はVb3−V/4の値を示すものとする。
【0042】
このように、それぞれのEA変調器16には、異なる振幅の電気2値信号が供給されている。具体的には、m段目のEA変調器16−mに供給される電気2値信号をsemとすると、semの振幅は、(V/2m−1〜V/2m−1)となる。また、semのオフセットレベルをVbmとするとVbm=Vbm−1−V/2m−1となる。
【0043】
なお、V、V及びVb1は、EA変調器16−1〜16−3の消光特性に応じた値に設定することが望ましい。ここでは、EA変調器16−1〜16−3の消光特性は全て同じであるものとして説明する。
【0044】
図3は、EA変調器の消光特性の例について示した説明図である。
【0045】
図3では、横軸がEA変調器に入力される電気信号の電圧(Inverse bias)を示しており、縦軸が、EA変調器により消光されるパワー(Extinction Power)表している。そして、一般に、EA変調器は、図3に示すような非線形な領域と線形な領域を併せ持った消光特性を有する。よって、EA変調器16では、この線形な領域を用いて動作させることが望ましい。
【0046】
例えば、EA変調器16の消光特性が図3のようになっていた場合には、se1〜se3の信号値がこの線形な領域内(例えば、1[V]〜2[V]の間)となるように、V、V及びVb1の値を設定する(例えば、V=V=0.5[V]、Vb1=1.5[V])ことが望ましい。
【0047】
次に、EA変調器16−1〜16−3による信号処理の概要について説明する。
【0048】
上述の通り、信号変調装置10では、EA変調器16−1〜16−3を用いて、CW−LD11により発せられた連続光に、se1〜se3を重畳することにより、光多値信号SOを生成している。
【0049】
具体的には、例えば、B1、B2、B3の値が、111であった場合には、EA変調器16−1から出力される光信号のパワーはP100に相当し、EA変調器16−2から出力される光信号のパワーがP110に相当し、EA変調器16−3から出力される光信号(光多値信号SO)のパワーがP111となる。
【0050】
なお、以下において、EA変調器16−1から出力される光信号のパワーは、P(B1=0の場合)、P(B1=1の場合)のいずれかで表すものとする。また、EA変調器16−2から出力される光信号のパワーは、P00(B1=0、B2=0の場合)、P01(B1=0、B2=1の場合)、P10(B1=1、B2=0の場合)、P11(B1=1、B2=1の場合)のいずれかで表されるものとする。なお、EA変調器16−3から出力される光信号のパワーは、光多値信号SOと同様の形式で表すものとする。
【0051】
次に、遅延素子13の機能について説明する。
【0052】
上述のように、信号変調装置10では、CW−LD11から出力された連続光に、EA変調器16−1〜16−3を用いて段階的に2値電気信号se1〜se3を変調(重畳)している。しかし、電気2値信号発生部12−1〜12−3から電気信号が出力されると同時に、EA変調器16−1〜16−3で信号の変調を開始してしまうと、例えば、EA変調器16−1における信号の変調が行われる前に、後段のEA変調器16−2、16−3での変調が行われてしまうことになる。そこで、信号変調装置10では、遅延素子13−2、13−3を設けて、2段目以降のEA変調器16−2、16−3に電気信号が入力されるタイミングを調整している。
【0053】
遅延素子13が無い場合、例えば、B1、B2、B3の値が、000から111に遷移したとすると、EA変調器16−1から出力される光信号のパワーがPからPに遷移する前に、一番後段のEA変調器16−3から出力される光信号のパワーがP000からP001に遷移してしまうことになる。このようなタイミングのずれにより、光多値信号SOの波形の歪みを生じる等の問題が生じる場合がある。そのため、信号変調装置10では、遅延素子13−2、13−3を設けて、EA変調器16−1〜16−3の状態が、前段から後段にかけて順番に重畳するように調整されている。すなわち、遅延素子13に設定される遅延時間は、後段になるほど大きな遅延時間に設定されている。
【0054】
遅延素子13−2、13−3のそれぞれに設定される遅延時間は、限定されないものであるが、例えば、実験やシミュレーションにより、適当な時間を求めて設定するようにしても良い。例えば、遅延素子13−2に設定する遅延時間としては、前段のEA変調器16−1で光信号が変調されてから、EA変調器16−2で光信号が変調されるまでに要する時間に等しい時間(以下、「t」と呼ぶ)を適用するようにしても良い。遅延素子13−3についても同様に、EA変調器16−1、16−2で光信号が変調され、EA変調器16−3で光信号が変調されるまでに要する時間に等しい時間(以下、「t」と呼ぶ)を適用するようにしても良い。また、遅延素子13−2、13−3のそれぞれに設定される遅延時間は、実験やシミュレーションにより、光多値信号SOの波形の歪みが最も少なくなる値に設定するようにしても良い。
【0055】
また、例えば、2段目の遅延素子13−2に設定する遅延時間tが求められた場合に、3段目の遅延素子13−3に設定する遅延時間tを2×tと設定するようにしても良い。このように、2段目に設定する遅延時間tだけを実験やシミュレーションにより取得し、例えば、m段目(3段目以降)の遅延素子13に設定する遅延時間tを(m−1)×tと設定するようにしても良い。
【0056】
次に、信号変調装置10から出力される光多値信号SOを、もとのディジタル電気信号SEと同様の形式のディジタル電気信号に復調する構成について説明する。
【0057】
図4は、信号復調装置30の構成例について示したブロック図である。
【0058】
例えば、信号変調装置10が光信号の送信側の通信装置に配置されている場合には、信号復調装置30は受信側の通信装置に配置されるものである。
【0059】
信号復調装置30は、光多値信号SOを受光して電気信号に変換する受光部31と、受光部31から与えられた多値の電気信号を、もとのディジタル電気信号SEと同様の形式のディジタル電気信号に変換するAD変換器32を有している。
【0060】
受光部31は、既存の光電変換を行う変換器を適用することができる。また、AD変換器32としては、既存のアナログ電気信号をディジタル電気信号に変換する変換器を適用することができる。
【0061】
AD変換器32では、受光部31から出力される信号の出力電圧に応じて、入力された光多値信号SOの値がP000、P001、P010、…、P111のいずれであったのかを判定し、その判定結果に応じたディジタル電気信号を出力するように成されている。
【0062】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第1の実施形態の信号変調装置の動作(実施形態の信号変調方法)を説明する。
【0063】
まず、EA変調器16−1〜16−3のそれぞれに係る動作を説明する。
【0064】
電気2値信号発生部12−1から出力された電気2値信号(B1の信号)は、振幅調整部14−1及びバイアス調整部15−1により調整され、EA変調器16−1に、se1として入力される。
【0065】
そして、EA変調器16−1では、se1が、CW−LD11から与えられる連続光を光源として光信号に変調され、EA変調器16−2に与えられる。
【0066】
図5は、EA変調器16−1に入力されるse1と、EA変調器16−1の消光特性と、EA変調器16−1から出力される光信号のパワーとの関係について示した説明図である。
【0067】
図5では、EA変調器16−1の消光特性は、L10に示すような特性があるものとして説明している。
【0068】
そして、図5に示すように、EA変調器16−1に入力されるse1の値は、Vb1−V(B1=0の場合)又は、Vb1+V(B1=1の場合)となっている。
【0069】
EA変調器16−1では、入力されるse1の値と、L10に示す消光特性に基づいて、P又はPのパワーの光信号が出力される。
【0070】
例えば、EA変調器16−1では、se1としてVb1−V(B1=0の場合)が入力されると、L10に示す消光特性により、出力する光信号のパワーはPとなる。また、EA変調器16−1で、se1としてVb1+V(B1=1の場合)が入力されると、L10に示す消光特性により、出力する光信号のパワーはPとなる。
【0071】
次に、EA変調器16−2の動作について説明する。
【0072】
電気2値信号発生部12−2から出力された電気信号(B2の信号)は、遅延素子13−2により所定時間遅延され、さらに、振幅調整部14−2及びバイアス調整部15−2により調整され、EA変調器16−2に、se2として入力される。
【0073】
そして、EA変調器16−2では、se2が、EA変調器16−1から与えられる光信号を光源として光信号に変調され、EA変調器16−3に与えられる。
【0074】
図6は、EA変調器16−2に入力されるse2と、EA変調器16−2の消光特性と、EA変調器16−2から出力される光信号のパワーとの消光特性の関係について示した説明図である。
【0075】
図6では、EA変調器16−1から入力された光信号のパワーがPだった場合のEA変調器16−2の消光特性は、L20で表されるものとして説明している。また、図6では、EA変調器16−1から入力された光信号のパワーがPだった場合のEA変調器16−2の消光特性は、L21で表されるものとして説明している。
【0076】
そして、図6に示すように、EA変調器16−2に入力されるse2の値は、Vb2−V/2(B2=0の場合)又は、Vb2+V/2(B2=1の場合)となっている。
【0077】
EA変調器16−2では、EA変調器16−1から入力される光信号のパワーの値と、入力されるse2の値と、L20又はL21に示す消光特性とに基づいて、P00、P01、P10、P11のいずれかのパワーの光信号が出力される。
【0078】
例えば、EA変調器16−2で、EA変調器16−1から入力される光信号のパワーの値がP、入力されるse2の値がVb2+V/2(B2=1の場合)であった場合を想定する。この場合、EA変調器16−2では、Vb2+V/2(B2=1の場合)にL20の消光特性が適用され、出力される光信号のパワーはP01となる。
【0079】
次に、EA変調器16−3の動作について説明する。
【0080】
電気2値信号発生部12−3から出力された電気信号(B3の信号)は、遅延素子13−3により所定時間遅延され、さらに、振幅調整部14−3及びバイアス調整部15−3により調整され、EA変調器16−3に、se3として入力される。
【0081】
そして、EA変調器16−3では、se3が、EA変調器16−2から与えられる光信号を光源として光信号に変調され、光多値信号SOとして出力される。
【0082】
図7は、EA変調器16−3に入力されるse3と、EA変調器16−3の消光特性と、EA変調器16−3から出力される光信号のパワーとの消光特性の関係について示した説明図である。
【0083】
図7では、EA変調器16−2から入力された光信号のパワーが、P00、P01、P10、P11だった場合のEA変調器16−3における消光特性は、それぞれL30、L31、L32、L33で表されるものとして説明している。
【0084】
そして、図7に示すように、EA変調器16−3に入力されるse3の値は、Vb3−V/4(B3=0の場合)又は、Vb3+V/4(B3=1の場合)となっている。
【0085】
EA変調器16−3では、EA変調器16−2から入力される光信号のパワーの値と、入力されるse3の値と、L30〜L33のいずれかに示す消光特性とに基づいて、P000〜P111のいずれかのパワーの光信号が出力される。
【0086】
例えば、EA変調器16−3で、EA変調器16−2から入力される光信号のパワーの値がP10、入力されるse3の値がVb2+V/4(B3=1の場合)であった場合を想定する。この場合、EA変調器16−3では、Vb2+V/4(B3=1の場合)にL32の消光特性が適用され、出力される光信号のパワーはP101となる。
【0087】
次に、信号変調装置10全体の動作について説明する。
【0088】
図8は、信号変調装置10に入力されるディジタル電気信号SE(B1、B2、B3)と、光多値信号SOの内容の例について示したタイミングチャートである。
【0089】
図8では、ディジタル電気信号SE(B1、B2、B3)に基づいて、電気2値信号発生部12−1〜12−3のそれぞれから出力される波形と、EA変調器16−1〜16−3により変調された結果出力される光多値信号SOの波形を示している。なお、図8では、EA変調器16−1〜16−3のそれぞれの動作時間等については図示を省略している。
【0090】
図8では、T1〜T6のそれぞれのタイミングが、上述の図示しない基準クロック発生器により同期されたタイミングを示しており、T1〜T6のそれぞれのタイミングで、電気2値信号発生部12−1〜12−3から出力される電圧値が遷移している。
【0091】
そして、図8では、電気2値信号発生部12−1〜12−3から出力される信号の遷移に応じて出力される光多値信号SOのパワーが遷移している。
【0092】
例えば、タイミングT2からT3の間では、電気2値信号発生部12−1〜12−3は、それぞれB1=1、B2=1、B3=1に基づく電気信号を出力しているので、光多値信号SOのパワーはP111となっている。
【0093】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0094】
(A−3−1)信号変調装置10では、ディジタル電気信号SEのチャネル数(ビット長)分EA変調器16を連結して、それぞれのEA変調器16に、ディジタル電気信号SEに基づく電気2値信号を入力している。そして、2段目以降のEA変調器16では、前段のEA変調器16から出力される光信号を光源として、入力された電気2値信号を変調することにより、全ての電気2値信号を重畳した光多値信号SOを生成している。これにより、信号変調装置10では、従来波形歪みなく生成することが困難であった多値の電気信号を取り扱うことなく、一つの光源から多値変調の光信号を生成することが可能となる。
【0095】
(A−3−2)信号変調装置10では、連結されたEA変調器16−1〜16−3が、それぞれse1〜se3を光信号に変調しているだけなので、特許文献1〜4の記載技術のように、複数の光信号を合波する方式をとっていない。
【0096】
例えば、特許文献4の記載技術では、導波路基盤の光路差調整及び温度調整などを高精度で行い、光の位相変動が起こらない設計が要求される。また、特許文献3の記載技術では、光信号の合波に伴うビートノイズ発生を抑圧するためには、光変調信号発生手段が出力する波長を異なる値とするか、若しくは偏波を直交させなければならないという制限がある(特許文献3の段落0017参照)。そのため、特許文献3の記載技術では、光変調信号発生手段は、それぞれ、入力される電気信号に基づいて2値の振幅変調光信号を互いに異なる波長または偏波で発生するようになっている(特許文献3の、図1、図2、図6、図7、図9、及び段落0036参照)。
【0097】
すなわち、第1の実施形態の信号変調装置10では、従来の特許文献1〜4の記載技術のように、複数の光信号を合波する構成と採用せず、光多値信号の生成に、高度な設計及び制御が必要ないため、容易に歪みの少ない高品質の光多値信号が生成でき、さらに、従来技術よりも低コストで構築することができる。
【0098】
(B)第2の実施形態
以下、本発明による信号変調装置及び方法の第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0099】
図9は、第2の実施形態の信号変調装置10Aの機能的構成について示したブロック図である。
【0100】
第2の実施形態の信号変調装置10Aは、第1の実施形態のCW−LD11、振幅調整部14−1、バイアス調整部15−1、及びEA変調器16−1が、LDドライバ17及び直接変調LD18に置き換わっている点で第1の実施形態と異なっている。
【0101】
直接変調LD18は、光源である半導体レーザに電気信号を加えることにより、電気信号を光信号に変調する直接変調方式の信号変調器である。直接変調LD18としては、既存の直接変調方式の信号変調器を適用することができる。
【0102】
LDドライバ17は、電気2値信号発生部12−1から出力された電気信号に基づいて、直接変調LD18を駆動させるドライバである。LDドライバ17としては、既存の直接変調方式の信号変調器に用いるドライバを適用することができる。
【0103】
第1の実施形態では、電気2値信号発生部12−1から出力された電気信号を、EA変調器を用いて光信号に変調していたが、第2の実施形態では、EA変調器ではなく直接変調方式の信号変調器(直接変調LD18)を用いている。
【0104】
直接変調方式の信号変調器は、EA変調器よりも安価であるため、第2の実施形態の信号変調装置10Aは、第1の実施形態よりも安価に構築することができる。
【0105】
また、第2の実施形態では、1段目にEA変調器ではなく直接変調方式の信号変調器を用いているため、第1の実施形態よりもEA変調器を1段少なくすることができ、消光比のより高い光多値信号SOが得られる。
【0106】
(C)他の実施形態
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0107】
(C−1)上記の各実施形態では、2段目以降のEA変調器のそれぞれに入力する電気2値信号(se2、se3)は、遅延素子により遅延処理が施されているが、遅延素子を省略するようにしても良い。遅延素子は、光多値信号SOに発生する歪み等を抑制するために挿入しているが、光多値信号SOに遅延素子を挿入しなければならないほどの精度が要求されない場合(例えば、光多値信号SOの周波数が低い等)には、遅延素子を省略することができる。
【0108】
(C−2)上記の各実施形態では、振幅調整部、バイアス調整部を設けて、電気2値信号発生部から出力される信号を調整している。しかし、電気2値信号発生部から出力される信号の振幅やバイアスが最初から所定の値に調節されている場合には、振幅調整部及びバイアス調整部省略するようにしても良い。
【符号の説明】
【0109】
10…信号変調装置、11…CW−LD、12、12−1〜12−3…電気2値信号発生部、13、13−2、13−3…遅延素子、14、14−1〜14−3…振幅調整部、15、15−1〜15−3…バイアス調整部、16−1〜16−3…EA変調器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nチャネル(Nは2以上の整数)の電気2値信号を、1チャネルの光多値信号に変調する信号変調装置において、
電気信号を光信号に変調する変調部をN段備え、
第1段目の上記変調部は、第1の上記電気2値信号を光信号に変調して、第2段目の上記変調部に供給し、
第2段目以降の上記変調部は、外部変調方式で電気信号を光信号に変調するものであり、第m段目(mは2以上でN以下の整数)の上記変調部は、第m−1段目の上記変調部から出力される光信号を光源として、第mの上記電気2値信号を光信号に変調して出力し、
第N段目の上記変調部が出力する光信号を、上記光多値信号として出力する
ことを特徴とする信号変調装置。
【請求項2】
上記電気2値信号のそれぞれの振幅が異なるように調整する信号調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の信号変調装置。
【請求項3】
上記信号調整手段では、第1段目の上記変調部に供給する第1の上記電気2値信号の振幅をVとした場合に、第m段目の上記変調部に供給する第mの上記電気2値信号の振幅は、V/2とすることを特徴とする請求項2に記載の信号変調装置。
【請求項4】
第1段目の上記変調部は、直接変調方式により第1の電気2値信号を光信号に変調するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の信号変調装置。
【請求項5】
Nチャネル(Nは2以上の整数)の電気2値信号を、1チャネルの光多値信号に変調する信号変調方法において、
電気信号を光信号に変調するN段の変調部のうち、第1段目の上記変調部が、第1の上記電気2値信号を光信号に変調して、第2段目の上記変調部に供給する工程と、
第2段目以降の上記変調部は、外部変調方式で電気信号を光信号に変調するものであり、第m段目(mは2以上でN以下の整数)の上記変調部が、第m−1段目の上記変調部から出力される光信号を光源として、第mの上記電気2値信号を光信号に変調して出力する工程と、
第N段目の上記変調部が出力する光信号を、上記光多値信号として出力する工程とを有する
ことを特徴とする信号変調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−49801(P2012−49801A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189677(P2010−189677)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】