説明

信号源位置推定方法

【課題】無線を使う地上移動通信において、マルチビームアンテナの利用により信号源または干渉源の位置を特定する。
【解決手段】インパルスレスポンスに示される各パスについて、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、前記検出したビームの組のアンテナ利得の差に対応する方位角を推定するステップと、地形情報、並びに建物の位置および形状を少なくとも示す建物情報を含む地図情報を取得し、前記位置推定局の位置を基準とし、少なくとも2つのパスの方位角並びに電波の伝達速度に基づいて、前記地図上に前記各パスに対応する到来予測経路線を前記相対遅延時間が大きい順序で描画するステップと、前記地図上で、すべての前記パスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するステップと、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチビームアンテナを用いた信号源位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、単一性指向ビームを用いて干渉波の到来方向を推定する方法が知られている。図18は、従来の干渉波到来方向の推定方法を示す図である。図18に示すように、従来は、単一性指向ビームを、水平方向および垂直方法に物理的に走査させ、干渉波の到来方向を推定していた。
【0003】
また、例えば、特開平11−266228号公報(特許文献1)には、マルチビームアンテナシステムが開示されている。このマルチビームアンテナシステムは、CDMA無線基地局において、受信側アレーアンテナの複数のアンテナ素子で受信した信号に受信ビームフォーマRBFでビームフォーミングを施して複数の上りビームを電気的に形成する。そして、これらの複数の上りビームのうち最適なビーム(例えば電力最大のビーム)に基づいて受信を行なう。また、送信信号にビームフォーミングを施す送信ビームフォーマTBFを設け、制御部CNTは上り受信信号の有無に基づいて、下りビームフォーミングを行なって上り受信ビームと同一方向の下り送信ビームを形成するか、あるいは下りビームフォーミングを行なわないか制御する。
【0004】
また、伝搬路を推定する方法としては、単一の広帯域信号における受信スペクトル特性を観測して、伝搬路の状況を推定する方法が知られている。
【0005】
また、特開2000−040987号公報(特許文献2)には、無線通信システムが開示されている。この無線通信システムでは、基地局装置に設けられた自動等価器で伝搬路特性を推定し、その推定結果に基づいて、端末装置に送信する下り送信データに対して伝搬路の逆特性を付加し、その伝搬路の逆特性が付加されたデータを送信データとして端末装置へ送信する。
【特許文献1】特開平11−266228号公報
【特許文献2】特開2000−040987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図18に示す方法では、信号源(希望波または干渉波)の位置(到来方向)を推定するためのビームの走査に大きな時間がかかり、装置も大掛かりになってしまう。また、伝搬路の推定においては、単一の広帯域信号の受信スペクトルの観測のみでは、伝搬路状況と関連するような顕著な特徴が現れないため、十分な伝搬路状況の推定は容易でない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、無線を使う地上移動通信において、マルチビームアンテナの利用により信号源または干渉源の位置を特定することができる信号源位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の信号源位置推定方法は、電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能なマルチビームアンテナを備えた位置推定局による信号源位置推定方法であって、前記マルチビームアンテナで水平方向にビームフォーミングを行なって、隣接する一組のビームのアンテナ利得の差をビームの組毎に検出するステップと、受信信号に対して高速フーリエ変換を行なって、チャネル推定を行なうステップと、前記チャネル推定後の信号に対して逆高速フーリエ変換を行なって、インパルスレスポンスを算出するステップと、前記インパルスレスポンスに示される複数のパス相互の相対遅延時間を求めるステップと、前記インパルスレスポンスに示される各パスについて、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、前記検出したビームの組のアンテナ利得の差に対応する方位角を推定するステップと、地形情報、並びに建物の位置および形状を少なくとも示す建物情報を含む地図情報を取得し、前記位置推定局の位置を基準とし、少なくとも2つのパスの方位角並びに電波の伝達速度に基づいて、前記地図上に前記各パスに対応する到来予測経路線を前記相対遅延時間が大きい順序で描画するステップと、前記地図上で、すべての前記パスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するステップと、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0009】
このように、推定した方位角および各パス相互の相対遅延時間に基づいて、地図上で、すべてのパスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するので、見通し外であっても、高い精度で信号源の方向を推定することができる。また、電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能であるため、水平方向にビームフォーミングされたアンテナパターンから、垂直方向にビームフォーミングされたアンテナパターンへ、瞬時に切り替えることができる。その結果、従来技術のように、信号源到来方向の検知のために、ビーム走査する必要が無く、短時間で信号源の位置推定を行なうことができる。また、干渉回避および周波数の有効利用を促進することが可能となる。さらに、ソフトウェア無線機を使用することにより、従来のハードウェアに大きな変更を加えることなく、本発明の実施が可能となる。
【0010】
(2)また、本発明の信号源位置推定方法は、電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能なマルチビームアンテナを備えた位置推定局による信号源位置推定方法であって、前記マルチビームアンテナで水平方向および垂直方向にビームフォーミングを行なって、隣接する一組のビームのアンテナ利得の差をビームの組毎に検出するステップと、受信信号に対して高速フーリエ変換を行なって、チャネル推定を行なうステップと、前記チャネル推定後の信号に対して逆高速フーリエ変換を行なって、インパルスレスポンスを算出するステップと、前記インパルスレスポンスに示される複数のパス相互の相対遅延時間を求めるステップと、前記インパルスレスポンスに示される各パスについて、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、前記検出したビームの組のアンテナ利得の差に対応する方位角および仰角を推定するステップと、地形情報、並びに建物の位置および形状を少なくとも示す建物情報を含む地図情報を取得し、前記位置推定局の位置を基準とし、少なくとも2つのパスの方位角または仰角並びに電波の伝達速度に基づいて、前記地図上に前記各パスに対応する到来予測経路線を前記相対遅延時間が大きい順序で描画するステップと、前記地図上で、すべての前記パスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するステップと、を少なくとも含むことを特徴としている。
【0011】
このように、推定した方位角、仰角および各パス相互の相対遅延時間に基づいて、地図上で、すべてのパスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するので、見通し外であっても、高い精度で信号源の方向を推定することができる。また、仰角を考慮することができるので、見通しにおいては大地反射のパスを用いて信号源の位置を特定することも可能となる。また、電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能であるため、水平方向にビームフォーミングされたアンテナパターンから、垂直方向にビームフォーミングされたアンテナパターンへ、瞬時に切り替えることができる。その結果、従来技術のように、信号源到来方向の検知のために、ビーム走査する必要が無く、短時間で信号源の位置推定を行なうことができる。また、干渉回避および周波数の有効利用を促進することが可能となる。さらに、ソフトウェア無線機を使用することにより、従来のハードウェアに大きな変更を加えることなく、本発明の実施が可能となる。
【0012】
(3)また、本発明の信号源位置推定方法において、各到来予測経路線の先頭位置相互の距離を示す先頭位置間距離を算出し、前記先頭位置間距離が最小となる時間を求め、この時間における各到来予測経路線上の位置がすべて含まれる領域を特定するステップをさらに含むことを特徴としている。
【0013】
このように、先頭位置間距離が最小となる時間を求め、この時間における各到来予測経路線上の位置がすべて含まれる領域を特定するので、位置推定誤差を補正することが可能となる。すなわち、角度の推定、地図上の描画およびインパルスレスポンスの算出時などにおいて、誤差が発生する可能性があるが、このような誤差があっても、一定の領域を特定する補正を行なうことによって、信号源の位置を推定することが可能となる。
【0014】
(4)また、本発明の信号源位置推定方法において、前記到来予測経路線が、前記地図上の障害物に衝突した場合、電波の反射および回折の原理に基づいて描画を行なうことを特徴としている。
【0015】
このように、電波の反射および回折の原理に基づいて描画を行なうので、より正確な描画を行なうことができる。例えば、レイトレーシング法を用いることによって、電波の反射および回折を地図上で表現することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、推定した方位角および各パス相互の相対遅延時間に基づいて、地図上で、すべてのパスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するので、見通し外であっても、高い精度で信号源の方向を推定することができる。また、電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能であるため、水平方向にビームフォーミングされたアンテナパターンから、垂直方向にビームフォーミングされたアンテナパターンへ、瞬時に切り替えることができる。その結果、従来技術のように、信号源到来方向の検知のために、ビーム走査する必要が無く、短時間で信号源の位置推定を行なうことができる。また、干渉回避および周波数の有効利用を促進することが可能となる。さらに、ソフトウェア無線機を使用することにより、従来のハードウェアに大きな変更を加えることなく、本発明の実施が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。図1において、無線基地局100は、受信側のアレーアンテナANTを備えており、このアレーアンテナANTは、複数のアンテナ素子AR〜ARを有している。また、無線基地局100は、送信側のアレーアンテナANTを備えており、このアレーアンテナANTは、複数のアンテナ素子AT〜ATを有している。
【0018】
受信回路RV〜RVは、受信信号の高周波増幅、周波数変換などを行なう。送信回路SD〜SDは、周波数変換、高周波増幅などを行なう。受信ビームフォーマRBFは、N個のアンテナ素子AR〜ARで受信した信号に対して受信ビームフォーミングを施し、M本の上り受信ビームB〜Bを電気的に形成する。送信ビームフォーマTBFは、送信信号に送信ビームフォーミングを施してアンテナ素子入力信号を発生し、これら入力信号を各アンテナ素子に入力することにより所定方向の指向性を有する送信ビームを生成することができる。
【0019】
制御部CNTは、受信ビームフォーマRBFおよび送信ビームフォーマTBFを制御して希望するビームを生成する。受信部RVは、信号検波や誤り訂正などを行ない、送信部SDは、送信データに変調などを施す。電力モニターPWMは、任意のビームにおける受信電力を観測し、信号源到来角の推定に利用される。スペクトルモニターSPMは、任意のビームにおいて受信される信号スペクトルを観測し、伝送路の状況推定に利用される。なお、図1には、送信および受信の両方の構成を示しているが、信号源の位置を推定する場合には、受信機能だけを用いる。
【0020】
図2は、本発明の信号源位置推定方法の基本的な考え方を、水平方向(方位角方向)に対して示す図である。本発明では、2つの隣接するビームにおける受信電力の差を検出し、その差(=アンテナ利得の差)より信号源到来角度を求める。すなわち、位置推定局(以下、単に「推定局」と呼称することもある。)では、予め隣接ビームの利得差を計算しておき、2つの検出電力差から、到来角を算出する。例えば、図2に示すように、ビーム4の受信電力(アンテナ利得)と、ビーム5の受信電力(アンテナ利得)との差を求め、図2中、向かって右側に示すように、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、検出したビーム4と5のアンテナ利得の差に対応する方位角を推定する。垂直方向(仰角方向)に対しても、同様に考えられる。
【0021】
図3(a)は、水平方向の信号源到来角を求める際に用いられる、水平方向にビームフォーミングを行なった場合のマルチビームアンテナ利得特性の一例を示している。また、図3(b)は、垂直ビームを示している。また、図4は、垂直方向の信号源到来角を求める際に用いられる、垂直方向にビームフォーミングを行なった場合のマルチビームアンテナ利得特性を示している。図3の水平方向と垂直方向を入れ替え、アンテナから見て低仰角方向の4ビームを用いている。
【0022】
本発明における信号源位置推定方法では、これらのマルチビームアンテナシステムを用いた位置推定局において、水平方向と垂直方向の信号源到来角度の推定を行なうことで信号源の位置を推定する。
【0023】
次に、本発明の信号源の位置推定方法の手順について説明する。図5(a)に示す位置推定局のマルチビームアンテナにおいて、図3(a)に示す水平方向のビームフォーミングを行なう。この状態で、信号源の受信電力が最大となるビームと、それに隣接するビームのうち受信電力がより大きい方のビームとの間の受信電力差を求める。予め計算しておいた当該2ビーム間の利得差と方位角の関係より、方位角を算出し、水平方向の信号源到来角度の推定値とする。
【0024】
図5(b)に示す位置推定局のマルチビームアンテナにおいて、図4に示す垂直方向のビームフォーミングを行なう。この状態で、信号源の受信電力が最大となるビームと、それに隣接するビームのうち受信電力がより大きい方のビームとの間の受信電力差を求める。予め計算しておいた当該2ビーム間の利得差と仰角の関係より、仰角を算出し、垂直方向の信号源到来角度の推定値とする。
【0025】
水平方向と垂直方向の信号源到来角度の推定値より、信号源の位置推定を行なう。信号源の高さが未知の場合は信号源の方向のみ推定可能であるが、信号源の高さが既知の場合は、信号源の位置が推定可能である。
【0026】
マルチビームアンテナを用いて位置推定を行なう場合、そのままでは多重路伝搬した信号を伝搬路毎に分けることができない。この場合、多重成分のすべてから位置推定を行なわなければならない。その結果、伝搬減衰の小さい伝搬路を通った信号、すなわち、受信電力の大きな信号成分が支配的となり、誤差が大きくなってしまう。
【0027】
また、コグニティブ無線では、周囲の無線環境を測定し、無線方式やアンテナなどの最適な制御を行なう必要がある。無線環境のうち、基本的な特性の一つとして、伝搬路状況があるが、これを特別なハードウェア(測定器やアンテナ等)の追加をすることなく、容易に測定することが求められている。また、上記のような環境制御のためには、推定値を受信機内部において、リアルタイムで得られる必要がある。
【0028】
本実施形態は、このような要望に応えるべく、以下のような手法を実現している。まず、伝搬路の伝達関数と、伝達関数から導かれるインパルスレスポンスについて説明する。図6は、受信信号から伝達関数を求める機能を有する伝搬状態モニター装置の概略構成を示す図である。例えば、WiMAXのようなOFDM通信方式では、RF部60において、受信波(受信信号)を得て、A/D変換部61でアナログ/ディジタル変換をした後で、FFT回路62でマルチキャリア復調を行なう。その後、チャネル推定部63において、マルチパスで歪んだ信号を補償するために、チャネル推定を行なう。そして、チャネル等化部64で伝搬路等化を行ない、復号部65で復号化を行なう。チャネル推定には、送信側で付加されるプリアンブル信号を利用し、受信機側で持っている既知の信号と比較することにより行なう。この伝搬状態モニター装置50は、チャネル推定部63で得られた振幅および位相を出力する。なお、図6では、この振幅および位相をPCで表示できるように構成されている。
【0029】
図7は、伝搬状態モニター装置の試験構成例を示す図である。多重路伝搬を模擬的に再現するために、等価的なベースバンド信号を波形データとして作成し、それをSG(信号発生器)に入力し、RF信号を得る。図8は、多重路伝搬モデルの振幅と位相を示す図である。図8の左上と左下に、図6で示した伝搬状態モニター装置で得られた各サブチャネルの振幅と位相のスペクトル(伝達関数)の一例を示す。また、図8の右上と右下に図7に示すSGで設定したパラメータから計算した各サブチャネルの振幅と位相のスペクトル(伝達関数)の一例を示す。図8に示すように、伝搬状態モニター装置で得られた各サブチャネルの振幅と位相のスペクトル(図6)と、SGで設定したパラメータから計算した各サブチャネルの振幅と位相のスペクトル(図7)とは、よく一致している。
【0030】
図9は、伝搬状態モニター装置により測定した伝達関数の逆フーリエ変換した特性(インパルスレスポンス)を示す図である。このインパルスレスポンスは、伝搬路の遅延プロファイルとしての意味を有する。図9において、遅延時間に応じて発声するピーク(極値)は、マルチパスにおける各遅延成分を表している。このように、伝達関数を逆フーリエ変換することにより、多重伝搬した信号を遅延成分ごとに分けることができる。図10は、パス(Path)1から3までが得られた場合のインパルスレスポンスの例を示す図である。図10に示すように、インパルスレスポンスの時間軸の分解能以上の時間差を有する場合、受信電力の大きなインパルスを選択することが可能である。そして、受信電力の大きなインパルスを選択し、各パスの相対的な遅延時間(相対遅延時間)を算出する。
【0031】
(信号源位置推定の実施例)
図11は、上記のように電波の到来方向推定方法を用いて、ビームの受信電力差から書くパスの到来方向を特定する様子を示す図である。任意の基準線を決定し、各パスの到来方向がこの基準線からどのくらいの角度を有しているかを測定する。具体的には、マルチビームアンテナをON/OFFしながら、各パスが、それぞれどのインパルスレスポンスに対応するのかを判断する。
【0032】
図12(a)および(b)は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。図12(a)に示すように、右から2番目のビームだけをONとし、図12(b)に示すインパルスレスポンスのパス1の受信レベルがその他のビームをONとしたときよりも大きい場合、図12(a)に示すパスCと図12(b)に示すパス1とが対応すると判定する。
【0033】
図13は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。図13(a)に示すように、右から3番目のビームだけをONとし、図13(b)に示すインパルスレスポンスのパス2の受信レベルがその他のビームをONとしたときよりも大きい場合、図13(a)に示すパスBと図13(b)に示すパス2とが対応すると判定する。図14は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。図14(a)に示すように、右から4番目のビームだけをONとし、図14(b)に示すインパルスレスポンスのパス3の受信レベルがその他のビームをONとしたときよりも大きい場合、図14(a)に示すパスAと図14(b)に示すパス3とが対応すると判定する。以上のようにして得られたパスの対応関係を位置推定用パラメータとしてまとめると、以下の表のようになる。
【0034】
【表1】

図15は、本実施形態に係る信号源の位置推定方法の一例を示す図である。上記の表で示したパラメータを得たら、これを地図上に展開し、信号源の位置を推定する。ここでは、例えば、レイトレーシングによる伝搬特性のシミュレーション技術を用いることができる。なお、地図情報は地形データおよび詳細の建物データ(例えば、建物の形状、高さデータ等)が入っているものを使用する。
【0035】
図16は、地図情報を用いた信号源の位置推定手順を示すフローチャートである。まず、GPS等を使い、自局位置(位置推定局の位置)を検出し、地図上に自局位置をプロットする(ステップS1)。次に、自局位置から上記の表の到来角度方向に電波の伝達速度(3.0×10m/s)で到来予想経路線を引く(ステップS2)。各パスの到来予想経路線は一番到来時間が遅かったパスから引き始め、相対遅延時間後に次のパスを引いて行く。ここでは、例えば、パス3、パス2、パス1の順番で線を引くものとしている。ここで、到来予想経路線が地図上の建物等の障害物にぶつかった場合、レイトレーシング法の技術を用い、反射、回折させて到来予想経路線を描いて行く(ステップS3)。すべてのパスの到来予想経路線が同じ時刻に交わる場所が信号源であると判定(推定)する(ステップS4)。
【0036】
図17は、本実施形態に係る補正方法の一例を示す図である。すなわち、角度の推定、地図上の描画およびインパルスレスポンスの算出時などにおいて、誤差が発生する可能性がある。このため、誤差がある一定の範囲で存在することを考慮した補正を行なう。図17に示すように、信号源の推定位置の補正には、まず、各パスの予想線の先頭点間距離を求める。そして、この先頭点間距離が最少となる時間を求め、この時間にプロットされる各パスの先頭点で囲まれたエリアの範囲内に干渉局があると予想する。これにより、誤差があっても、一定の領域を特定する補正を行なうことによって、信号源の位置を推定することが可能となる。また、別の推定位置補正例として、各パスの交点が任意に時間に合致するようにθ1、2、3にプラスマイナス10度程度の誤差を付け、シミュレーションを行なう方法もある。
【0037】
なお、以上の説明では、3つのパスを用いた例を示したが、本発明は、これに限定されるわけではなく、少なくとも2つのパスを用いて信号源の位置を推定することが可能である。これにより、見通し外の無線環境において、信号源の位置を推定することができる。一方、見通しの無線環境においても、大地反射を考慮することによって、複数のパスを得ることができる。本実施形態では、電波の方向角のみならず、仰角も測定することができるからである。なお、地図上で建物の高さなどの3次元的な情報が得られる場合は、本実施形態を適用し、例えば、高さ方向で切断した断面図上に作図を行なうことにより、信号源の位置を推定することが可能となる。
【0038】
また、見通しの無線環境において、パスが1つしか認識できない場合であっても、受信電力を考慮することによって、信号源の位置を特定することも可能である。この場合、受信電力値と距離との関係を予めテーブルとして持っておき、1つのパスの到来方向を特定し、受信電力を測定することによって、信号源までの距離を求めることができる。そして、地図情報を用いることによって、信号源の位置を特定することが可能となる。
【0039】
さらに、上記の説明では、信号源が停止している場合(固定されている場合)を例にとって示したが、信号源が移動している場合であっても、本発明を適用することが可能である。信号源が移動している場合であっても、瞬間の位置を求めることができるからである。
【0040】
以上説明したように、従来の信号源の位置推定方法では、受信機からみた信号源からの電波の到来角度方向しか分らなかった。本実施形態では、地図情報を活用するので、反射・回折を考慮することができ、位置推定精度を高めることが可能となった。なお、本発明は、災害時等など、あらかじめ置局設計を行なわずに基地局を配置したい場合などに、干渉源となり得る既存の基地局の位置を把握し、複数基地局の置局を容易に行なう為の手段としての活用が期待できる。また、本発明に係る信号源位置推定方法は、携帯電話のIP化が進んだときの基地局へのエントランス回線、コグニティブ無線システムの基地局間リンクなどに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の信号源位置推定方法の基本的な考え方を、水平方向(方位角方向)に対して示す図である。
【図3】(a)は、水平方向の信号源到来角を求める際に用いられる、水平方向にビームフォーミングを行なった場合のマルチビームアンテナ利得特性の一例を示している。(b)は、垂直ビームを示している。
【図4】垂直方向の信号源到来角を求める際に用いられる、垂直方向にビームフォーミングを行なった場合のマルチビームアンテナ利得特性を示す図である。
【図5】(a)は、位置推定局を1局設ける場合、各位置推定局における水平方向のビームフォーミングの様子を示す図である。(b)は、位置推定局を1局設ける場合、各位置推定局における垂直方向のビームフォーミングの様子を示す図である。受信信号から伝達関数を求める機能を有する伝搬状態モニター装置の概略構成を示す図である。
【図6】受信信号から伝達関数を求める機能を有する伝搬状態モニター装置の概略構成を示す図である。
【図7】伝搬状態モニター装置の試験構成例を示す図である。
【図8】多重路伝搬モデルの振幅と位相を示す図である。
【図9】伝搬状態モニター装置により測定した伝達関数の逆フーリエ変換した特性(インパルスレスポンス)を示す図である。
【図10】パス(Path)1から3までが得られた場合のインパルスレスポンスの例を示す図である。
【図11】電波の到来方向推定方法を用いて、ビームの受信電力差から書くパスの到来方向を特定する様子を示す図である。
【図12】(a)および(b)は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。
【図13】(a)および(b)は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。
【図14】(a)および(b)は、パスの到来方向とインパルスレスポンスを対応させる動作を示す図である。
【図15】本実施形態に係る信号源の位置推定方法の一例を示す図である。
【図16】地図情報を用いた信号源の位置推定手順を示すフローチャートである。
【図17】本実施形態に係る補正方法の一例を示す図である。
【図18】従来の干渉波の到来方向推定方法の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
100 無線基地局
ANT 受信アレーアンテナ
ANT 送信アレーアンテナ
AR〜AR 受信アンテナ素子
AT〜AT 送信アンテナ素子
CNT 制御部
PWM 電力モニター
RBF 受信ビームフォーマ
RV 受信部
RV〜RV 受信回路
SD 送信部
SD〜SD 送信回路
SPM スペクトルモニター
TBF 送信ビームフォーマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能なマルチビームアンテナを備えた位置推定局による信号源位置推定方法であって、
前記マルチビームアンテナで水平方向にビームフォーミングを行なって、隣接する一組のビームのアンテナ利得の差をビームの組毎に検出するステップと、
受信信号に対して高速フーリエ変換を行なって、チャネル推定を行なうステップと、
前記チャネル推定後の信号に対して逆高速フーリエ変換を行なって、インパルスレスポンスを算出するステップと、
前記インパルスレスポンスに示される複数のパス相互の相対遅延時間を求めるステップと、
前記インパルスレスポンスに示される各パスについて、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、前記検出したビームの組のアンテナ利得の差に対応する方位角を推定するステップと、
地形情報、並びに建物の位置および形状を少なくとも示す建物情報を含む地図情報を取得し、前記位置推定局の位置を基準とし、少なくとも2つのパスの方位角並びに電波の伝達速度に基づいて、前記地図上に前記各パスに対応する到来予測経路線を前記相対遅延時間が大きい順序で描画するステップと、
前記地図上で、すべての前記パスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする信号源位置推定方法。
【請求項2】
電子制御により水平方向および垂直方向へビームフォーミングが可能なマルチビームアンテナを備えた位置推定局による信号源位置推定方法であって、
前記マルチビームアンテナで水平方向および垂直方向にビームフォーミングを行なって、隣接する一組のビームのアンテナ利得の差をビームの組毎に検出するステップと、
受信信号に対して高速フーリエ変換を行なって、チャネル推定を行なうステップと、
前記チャネル推定後の信号に対して逆高速フーリエ変換を行なって、インパルスレスポンスを算出するステップと、
前記インパルスレスポンスに示される複数のパス相互の相対遅延時間を求めるステップと、
前記インパルスレスポンスに示される各パスについて、予め取得した各ビームの組のアンテナ利得の差と方位角とが一対一に対応付けられたデータを参照して、前記検出したビームの組のアンテナ利得の差に対応する方位角および仰角を推定するステップと、
地形情報、並びに建物の位置および形状を少なくとも示す建物情報を含む地図情報を取得し、前記位置推定局の位置を基準とし、少なくとも2つのパスの方位角または仰角並びに電波の伝達速度に基づいて、前記地図上に前記各パスに対応する到来予測経路線を前記相対遅延時間が大きい順序で描画するステップと、
前記地図上で、すべての前記パスの到来予測経路線が同一時刻で交差する位置を判定するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする信号源位置推定方法。
【請求項3】
各到来予測経路線の先頭位置相互の距離を示す先頭位置間距離を算出し、前記先頭位置間距離が最小となる時間を求め、この時間における各到来予測経路線上の位置がすべて含まれる領域を特定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の信号源位置推定方法。
【請求項4】
前記到来予測経路線が、前記地図上の障害物に衝突した場合、電波の反射および回折の原理に基づいて描画を行なうことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の信号源位置推定方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図5】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−236707(P2009−236707A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83600(P2008−83600)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるための特許出願
【出願人】(599108264)株式会社KDDI研究所 (233)
【Fターム(参考)】