説明

偏光スプリッタおよび偏光スプリッタの製造方法ならびに偏光スプリッタを有する投射用インサートを組み込んだ眼用レンズ

本発明は、S偏光の反射がマイクロスクリーンの画像放射ソースの少なくとも1つの放射ピークに局所的な中心を有する、あるいはS偏光の反射が赤、緑および青から選択された波長に対応する少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタに関する。
本発明は、画像をユーザの方向に投射するインサートを組み込む眼用レンズに応用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光スプリッタに関する。本発明はまた、そのような偏光スプリッタの製造方法に関する。さらに本発明は、画像をユーザ方向に投射する、そのような偏光スプリッタを有するインサートを組み込んだ眼用レンズに関する。最後に、本発明は、画像をユーザ方向に投射する、そのような眼用レンズを備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光スプリッタは、光を異なる偏光成分に分離できる光学素子である。光の偏光の方向は、電界の振動面を基準にして定義される。多くの場合、無偏光光は、直交する2つの直線偏光に分離される。その場合、(垂直)S偏光と(平行)P偏光とに区別される。S偏光においては、その振動面は表面の法線と入射ベクトルとによって定められる入射面に垂直である。P偏光においては、その振動面は入射面と平行である。これらの成分は吸収または反射によって分離できる。
【0003】
一般に、偏光スプリッタはP偏光を透過し、S偏光を反射する。理想的な偏光スプリッタは、(所定の波長について)入射面に垂直な偏光光(S)をすべて反射する一方で、入射面に平行な偏光光(P)をすべて透過することが、一般に知られている。偏光分離機能の効率は、(所定の波長において)S偏光のスペクトル反射(Rs)とP偏光のスペクトル透過(Tp)を乗算した積、すなわち(Rs)×(Tp)として表すことができる。偏光スプリッタを製造する目的は、80%を超え、好ましくは90%を超える効率を達成することにあることも、広く知られている。
【0004】
偏光スプリッタは種々の用途に適しており、その用途の中には、画像をユーザ方向に投射するインサートを組み込んだ眼用レンズがある。
【0005】
これは、眼鏡またはマスクのための画像結合系の眼用レンズを意味し、画像がレンズによって決定される光学経路を介して装着ユーザの目の方向に投射される。ここでの用語「レンズ」は、詳細には眼鏡のフレームまたはマスクに装着するように設計できるインサートを含む光学系を指すのに使用される。インサートは、ミラー、ビーム・スプリッタ、偏光スプリッタ・キューブ、1/4波長板、レンズ、ミラー、反射凹レンズ(例えば、マンジャン・ミラー)、回折レンズ、および/またはホログラフィック部品を含むことができる。したがって、ユーザ方向に画像を投射する装置は、眼鏡またはマスクに組み込まれたレンズ、およびマイクロスクリーンなどの画像ソースからなり、マイクロスクリーンは、例えば液晶マイクロスクリーンであり、さらに詳しくは、Kopin社のサイバーディスプレイ・320・マイクロディスプレイ(CyberDisplay 320 micro‐display)である。
【0006】
このような用途においては、偏光スプリッタ素子を用いて、マイクロディスプレイなどの現在使用されているマイクロスクリーンによって放射される偏光を処理する。
【0007】
このような眼用レンズの一例が、図1に示されている。画像が、ソース1によって放射される。ソース1は、偏光(P)を放射する液晶マイクロディスプレイなど、小型化マイクロスクリーンであってよい。投射眼用レンズ10の光学系は対物レンズ2を有する。眼用レンズ10内で画像が通過する光学経路を途中で捕捉するため、ミラー3および偏光スプリッタ4が配置されている。偏光スプリッタ4には、1/4波長板5およびマンジャン・ミラー6が接着されている。
【0008】
この眼用レンズ10は以下のように作用する。すなわち、画像ソース1からの偏光された光が、まず対物レンズ2を通過する。そこを通過した後、光は、光を90°回転させるミラー3によって反射される。次いで、光は偏光スプリッタ4を通過し、偏光成分の一方(S)が反射され、他方(P)が透過する。透過成分は、軸が伝播方向に垂直な面において伝播方向Pに対して45°に配置されている1/4波長板5を通過し、次いでマンジャン・ミラー6に当たり、光が1/4波長板を通って送り返されるように反射される。S偏光された光は、偏光スプリッタによって観察者の目の方向に反射される。したがって、この実施形態によれば、マイクロスクリーンによって放射された偏光を、目7の方向に送り返すことができる。
【0009】
しかし、「理想的な」偏光スプリッタを組み込んでいるこの種の装置は、眼用機能の点で、物体からの光の50%がS偏光され、スプリッタで反射されるため、物体からの光のわずか50%しか目の方向に導かないという欠点を有する。
【0010】
本明細書の説明では、以下の定義が使用される。
【0011】
画像:シースルー画像とは、光線が偏光スプリッタ素子を直接通過するときに観察されるシーンの画像を指す。
【0012】
スクリーン画像:スクリーン画像とは、図1に示すように、表示ガラスに挿入されたレンズを通過する光源(本明細書の例では、マイクロスクリーン)の画像を指す。
【0013】
偏光分離機能の効率:上記を参照されたい。
【0014】
シースルー・ビジョン機能の効率:該当するスペクトル領域において、偏光スプリッタの無偏光光[=1/2(Tp+Ts)]にソースの放射スペクトルを乗算し、ソースの放射スペクトルの積分で除算した結果の数学的積分の値を指す。
【0015】
表示ガラスの画像化機能の透過率:表示ガラスの画像化機能のスペクトル透過率(図1の光学経路によって定められる)にソースの放射スペクトルを乗算し、ソースの[該当するスペクトル領域の]放射スペクトルの積分で除算した結果の数学的積分の値を指す。
【0016】
表示ガラスの画像化機能の透過率ならびにシースルー・ビジョン機能の透過率は、目のスペクトル感度によっても重み付けされることがある点に注意すべきである。したがって、これは、「表示ガラスの画像化機能の明所視(photopic transmission)の透過率」と称される。CIE(国際照明委員会)2°観測者の標準化曲線Yが、目のスペクトル感度を表わす曲線として使用される。
【0017】
局所的な中心を有する:曲線は、次の場合、光源の放射スペクトルについて局所的に中心を有すると言われる。
・放射ソースのスペクトルが、いくつかのピーク形状を有し(この例については、図2を参照)、かつ、
・光ソースの放射ピークの近くで、このソースの放射ピークの半値幅(中間高さ幅)の2倍の大きさのオーダを有する限られたスペクトル領域内において、スペクトル反射率曲線がピーク(または谷)を形成し、その局所極値が、このピークの半値幅の値よりも大きい値までは前記ソースの放射ピークの頂点からスペクトル的に離れていない場合、
・あるいは、2つの曲線が局所的な中心を有するとの仮定について、レイリー基準が当てはまる場合。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明は、高いスクリーン透過率を維持すると同時に「シースルー」ビジョンを向上する偏光スプリッタを提供する。さらに、本発明は、目が受け取る2つの画像の色のバランスを維持することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、詳細には、偏光スプリッタが、マイクロディスプレイが放射する周波数近くの、言い換えると一般に630、520および460nm(それぞれ、赤、緑および青の色に対応する)近くのS偏光を反射すれば充分であるという発見に基づいている。
【0020】
したがって本発明は、S偏光の反射がマイクロスクリーン画像の放射源の少なくとも1つの放射ピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタを提供する。
【0021】
マイクロスクリーンまたはマイクロディスプレイは広く知られており、今日では、LCD技術を基本としている。一例は、Kopin社のマイクロディスプレイである。さらに、このようなマイクロディスプレイのエネルギー放射スペクトルを測定し、その結果から少なくとも1つの放射波長を決定することは容易である。
【0022】
1つの実施形態によれば、スプリッタの反射は少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する。
【0023】
1つの実施形態によれば、スプリッタの反射は可視スペクトル内の少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する。
【0024】
本発明はまた、S偏光の反射が赤、緑および青から選択された波長に対応する少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタを提案する。
【0025】
S偏光の透過は、(この透過が、少なくとも2つの波長に中心を有する場合)「くし形」パターンとなる。
【0026】
1つの実施形態によれば、スプリッタは赤、緑および青に中心を有する偏光Sを反射する。
【0027】
1つの実施形態によれば、スプリッタにおいて、ピーク近くに局所的な中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率曲線の各ピークは、60〜100%の間、好ましくは80〜100%の間の最大レベルを有している
【0028】
1つの実施形態によれば、スプリッタにおいて、S偏光についてのスペクトル反射率曲線は、各ピーク近くに局所的な中心を持たないすべての領域において、0〜35%の間、好ましくは0〜20%の間のレベルを有している
【0029】
1つの実施形態によれば、スプリッタにおいて、ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれが、5〜100nmの間の半値幅、好ましくは20〜80nmの間の半値幅を有している
【0030】
1つの実施形態によれば、P偏光についてのスペクトル透過率と前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率との積から得られるスプリッタにおける曲線のピークのそれぞれが、5〜100nmの間の範囲の半値幅、好ましくは20〜80nmの間の範囲の半値幅を有している。
【0031】
1つの実施形態によれば、スプリッタにおけるP偏光についてのスペクトル透過率は、好ましくは400〜700nmの間のソースの放射スペクトルにおいて、80%を超えており、好ましくは90%を超えている。
【0032】
1つの実施形態において、400〜700nmの間のスプリッタの積分平均透過率は70%より大きい。
【0033】
1つの実施形態によれば、スプリッタは薄い層のスタックで構成される基板を有する。
【0034】
1つの実施形態によれば、スプリッタはホログラフィック素子で構成される基板を有する。
【0035】
1つの実施形態によれば、スタックの材料の1つは二酸化ケイ素である。
【0036】
1つの実施形態によれば、スタックの材料の1つは二酸化ジルコニウムまたはチタン酸プラセオジミウムである。
【0037】
1つの実施形態によれば、本発明によるスプリッタは2つのプリズムで構成されるキューブの形態である。
【0038】
さらに、本発明は、
(1)基板を設けるステップ、および、
(2)薄い層を堆積させるステップ、を有する偏光スプリッタの製造方法に関する。
【0039】
さらに本発明は、画像をユーザの方向に投射する、本発明による偏光スプリッタを含むインサートを有する眼用レンズに関する。
【0040】
1つの実施形態によれば、偏光スプリッタはキューブの形態である。
【0041】
さらに本発明は、画像をユーザの方向に投射する、本発明によるレンズを有する装置に関する。
【0042】
1つの実施形態によれば、投射装置はさらに液晶マイクロスクリーンを備える。
【0043】
1つの実施形態によれば、投射装置の液晶マイクロスクリーンは、赤、緑および青スペクトルのP偏光を放射する。
【0044】
以下、添付の図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明によるスプリッタは、所定の屈折率を有する基板上の薄い層のスタックから構成される。さらに、本発明によるスプリッタは、スタックまたはホログラフィック素子を備える基板から構成できる。
【0046】
例えば、スプリッタは、一方が「高屈折率」材料であり、他方が「低屈折率」材料である2つの材料だけを交互に配置して含んでいるスタックで構成できる。
【0047】
この実施形態は、製造が容易であるという理由から使用されてきた。しかし、「中屈折率」と言われる材料を使用し、例えば異なる20種の材料を20の層から構成されるスタックとして形成して使用することも可能である。
【0048】
高屈折率材料としては、公知の材料であるZrO、あるいはPrTiO(チタン酸プラセオジミウム)が使用できる。後者の場合、材料は、非化学量論的化合物[Merck社からSubstance H2の品名で市販されている]から始まって基板上に堆積され、酸素存在下での真空蒸着によって堆積される。次に、この化合物は酸化され、化学式PrTiOに相当する透明なフィルムが生成される。
【0049】
PrTiOの屈折率は、635nm(基準波長)において2.0095である。ZrOの屈折率は1.9883である。
【0050】
したがって、第2の材料は第1の材料よりも低い屈折率を有している。このような材料として、詳細にはSiOおよびMgFがあり、635nmにおいて1.4786の屈折率であるSiOが、特に適していることが判明している。
【0051】
基板は、スタックを構成する材料に適する任意の透明基板であってもよく、詳細には、無機基板または有機基板のいずれであってもよい。
【0052】
「無機基板」とは、ポリマーから作られる「有機基板」の概念とは対照的に、ミネラルガラスの基板を意味する。
【0053】
有機基板に適切な材料は、例えばポリチオールおよびポリイソシアネートから得られるポリチオウレタン類からなる種類のポリマーである。このような材料およびそれらを得るためのプロセスは、例えば米国特許第4,689,387号および米国特許第4,775,733号に記載されている。
【0054】
適当なポリチオール類には、例えば、ペンタエリスロール・テトラキス(チオグリコレート)、ペンタエリスロール・テトラキス(メルカプト‐プロピオネート)、またはMDO[4‐メルカプトメチル‐3,6‐ジチア‐1,8‐オクタン・ジチオール]が含まれる。ポリイソシアネートは、詳細にはキシリレン・ジイソシアネートであってもよい。
【0055】
特に適切な有機基板の1つは、キシリレン・ジイソシアネート、ペンタエリスリトール・テトラキス(メルカプト‐プロピオネート)、およびMDOをベースとする組成物を重合させることによって得られる。このような製品は、Mitsui社からMR8の商品名で市販されている。
【0056】
無機の基板に関しては、例えばCorning社が市販する材料1.6、コード60043を使用でき、その光学定数はMR8と基本的に同一である。
【0057】
例えばSchott Optical Glass社が市販するBK7も、無機の基板として使用できる。
【0058】
本発明によるスプリッタは、連続する薄い層を蒸着することによって得られる。一般的に、スタックは、5〜20、詳細には10〜15の材料の層を有する。
【0059】
蒸着の段階において、基板を例えば80〜120℃の範囲の、周囲温度を上回る温度に保つことが好ましい。有利には、基板を、蒸着の段階に先立って例えばアルゴンによってイオン清浄化プロセスで処理する。
【0060】
蒸着の段階においては、蒸発速度は通常は1〜10nm/sであり、好ましくは2〜5nm/sである。
【0061】
各層およびそれらの各厚さは、透過率がその近くに中心を有する波長の関数として、従来の方法で当業者により決定される。この目的のためには、例えばアリゾナ州 85716,タクソン,E.Via Rotonda,2745所在のThin Film Center Inc.社が販売する従来のソフトウェア・プログラム「Essential Macleod」のバージョン8.5、2002年を使用することができる。基板の詳細(屈折率を示す)、画像ソースのスペクトル放射曲線に合わせた最適化目標、および材料のリストが入力されると、このソフトウェアはスタックをシミュレートする。
【0062】
本発明による偏光スプリッタは、ユーザの方向に画像を投射するインサートを有する眼用レンズなど、携帯型ビジョン装置を含む種類の用途に最適である。
【0063】
このようなレンズの例が、図1に示されており、その詳細はすでに説明した。従来技術から公知の実施形態(この場合には、求められるスプリッタは「理想の」スプリッタである)と比較して、本発明は、より良好な「シースルー」ビジョン、すなわち物体の眼による観察を可能にする。実際、スプリッタによってすべてのS偏光が反射されない範囲において、平均透過率が向上する。マイクロディスプレイに関しては、1/4波長板の通過後にミラーによって戻されるS偏光の一部だけが、ユーザの目の方向に反射されるため、マイクロディスプレイによってユーザの目の方向に放射される光の透過率の低下が生じる。ただし、スプリッタがマイクロディスプレイの放射波長近くのS偏光を反射するため、この低下は重要ではない。
【0064】
前述のような表示ガラスの例においては、シースルー・ビジョンの効率は、従来の偏光スプリッタで得られる約50%の値から、本発明による偏光スプリッタを使用する場合の約75%の値に達する。同時に、画像化機能の透過率は、約40%の値に低下するだけであり、従来の偏光スプリッタを使用して得られる50%に匹敵する。以上の説明は、すべての点で等しい、特にソースの損失に関して等しい光学系に当てはまる。
【0065】
好ましくは、眼用レンズは、例えばMR8またはBK7などの、薄い層のスタックを上に堆積する基板と同じ材料から作られる。この場合、スプリッタはプリズムの形態で作られる。実際、スプリッタに同じ組成の基板、したがって眼用レンズに使用される材料と同じ屈折率を有する基板を使用することにより、偏光スプリッタを装着者にとって見え難くし、したがってガラスの眼に与える作用によって生じる不快感を少なくする。
【0066】
この種の用途において、屈折率nが眼用レンズの屈折率と大きく異なる場合、有利には、偏光スプリッタを、2つのプリズムで形成されるスプリッタ・キューブの形態で実現できる。このプリズム一方はその面の1つに前述の種類のスタックを有する。偏光スプリッタを、眼用レンズに埋め込むプレートの形態に設計することも可能である。
【0067】
以下に説明する実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。使用したシミュレーション・ソフトウェアは、カリフォルニア州 91107,パサデナ East Foothill Blvd.3280のOptical Research Associate社から市販されている「Code V」、バージョン9.0、2001年9月である。シミュレーションされた透過値は、薄い層のスタックについて使用される公式に基づいて計算されている。さらに、すべての実施例において、Kopin社のマイクロディスプレイ(図2を参照)が使用されている。
【実施例1】
【0068】
屈折率が1.515のBK7の2平面ディスクを、超音波槽(RangeM10、反射防止処理に標準的に使用される)でクリーニングした。
【0069】
このように準備した後、このディスクを、真空状態の蒸着ユニットに導入した。次いで、圧力3.10−5mbarのアルゴンのもとで、アノードにおける電圧120Vおよびイオン電流1Aで、2分間にわたってイオン・クリーニングを行なった。
【0070】
次いで、PrTiOの層を、2.5×10−5mbarの圧力で、以下の条件の下に、表1に示す厚さに堆積させた。
蒸発速度:3nm/s
酸素圧力:5×10−5mbar
蒸発源:電子銃
【0071】
層の厚さをクオーツ・バランスによって監視し、表1に示した厚さに達したときに蒸発を停止させた。
【0072】
次いで、SiOの層を、表1に示す厚さで、同じ条件のもとで堆積させた。
【0073】
合計14の交互の層を堆積させた。このように処理後、最終的にディスクを切断して所望の形状の偏光スプリッタを得る。
【0074】
【表1】

【0075】
このようにして得た偏光スプリッタの光学特性が、45°の入射について図3および4に示されている。図3および4は、偏光スプリッタのスペクトル反射率および透過率を、SおよびP偏光のそれぞれについて示している。透過率は、P偏光について平均で少なくとも95%であるのに対して、S偏光は波長の関数として反射され、この反射(または透過)は赤、緑および青の波長(それぞれ630、520および460nm)の近くに中心を置いていることが注目される。透過率は約25〜30%であり、半値幅は約35〜70nmである。
【0076】
400〜700nmの間の積分平均透過率は約75%であり、眼での観察に関し、従来のスプリッタと比べて25%の増加を示している。
【0077】
視覚的な透過率(目のスペクトル応答による透過の重み付け)は約75%である。
【0078】
さらに、視野の中心および縁部について画像化機能の透過率を測定し、処理に関する角度の影響を決定した。透過率は、図1に示した種類の表示ガラスの例において、標準化CIE(国際照明委員会)ユーザYについて計算される。得られた値は、以下に示すとおりである(FOV:視野、それぞれ−4〜+4°および−5〜+5°)。
【0079】
「青のY」対「視野」
【表2】



【0080】
「緑のY」対「視野」
【表3】



【0081】
「赤のY」対「視野」
【表4】



【0082】
したがって、透過率が視野に関して3つの色の間でよくバランスが取れている傾向が明らかであり、色の認識が画像の全体にわたって保たれることを意味している。
【0083】
マイクロディスプレイの範囲の中心で得られた白の視覚透過率は、(「理想的な」スプリッタによる約54%と比べ)39%であった。この透過率の計算は、他の損失要因を考慮に入れている。このように視覚透過率はわずかに減少するだけなので、目による顕著な知覚を生じさせず、不快を引き起こすこともない。
【0084】
さらに、入射角度の関数としての透過率の変化も測定した。わずかに非対称な特性が赤および青において観測されたが、白のスペクトルにおいては領域全体にわたり、全体の安定性が維持されていた。
【0085】
マイクロディスプレイによって表示される青の色度座標も分析され、装置によって表示された白とマイクロディスプレイによって表示された白との、CIE座標x、y、zの色ずれが分析された。このずれは、ここでは、空間x、yにおける白からのマイクロディスプレイの距離として表わされる。
【0086】
白に対する距離
マイクロディスプレイ(空間x、y)
【表5】

【0087】
本発明によるスプリッタは、画像化プロセスにおいて色が認識される方法にほとんど影響を与えない点に注目できる。本発明によるスプリッタは、マイクロディスプレイの色をほとんど変化させない。
【0088】
スプリッタへの種々の入射角度について、シースルー透過率も計算された。その値は、40°、45°および50°の角度値について、それぞれ74.57%、76.60%および76.28%である。したがって、透過は均一である。
【0089】
「シースルー」モードにおける本発明によるスプリッタの効果を決定するため、比色法による分析も実行した。「シースルー」ビジョンのマイクロディスプレイは、この目的のため白色光のソースとして使用し、およびこの白色光の知覚の変化の観測に使用できる。この結果は、CIE座標x、y、zに基づいて表わされる。入射角度は40°、45°および50°である。結果を以下に示す。
【0090】
【表6】



【0091】
【表7】

【0092】
【表8】

【0093】
これと同じ分析を、赤、緑および青の各色について実行し、上で得られた結果を裏付けた。
【実施例2】
【0094】
手順は、屈折率1.5931のMR8基板(実際には、MR8に相当する無機支持体)上に堆積する点を除き、実施例1と同一である。
【0095】
値を次の表9に示す。
【0096】
【表9】

【0097】
このようにして得た偏光スプリッタの光学特性は、45°の入射について、前述の図3に示したものと基本的に同一である。
【0098】
実施例1に関して導き出されたその他の結論は、必要な変更を加えて、この実施例にも適合する。
【実施例3】
【0099】
手順は実施例1と同一であるが、PrTiOをZrOで置き換えた(堆積の条件は従来どおりである)。
【0100】
結果に変化はなかった。
【実施例4】
【0101】
手順は、実施例2と同一であるが、PrTiOをZrOで置き換えた(堆積の条件は従来どおりである)。
【0102】
結果に変化はなかった。
【0103】
前述の用途の他に、偏光スプリッタは、偏光の供給および処理に関する用途にも有用である。さらに、本発明による偏光スプリッタは、光を円偏光または楕円偏光成分に分離する手段としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】ユーザの方向に画像を投射するインサートを有する眼用レンズの概略図である。
【図2】放射源(Kopin社のサイバーディスプレイ・カラー320マイクロディスプレイ)のスペクトルを表わしている。
【図3】本発明による偏光スプリッタについてのS偏光のスペクトル反射率曲線を示している。
【図4】本発明による偏光スプリッタについてのP偏光のスペクトル透過率曲線を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S偏光の反射が、(1)マイクロディスプレイの画像放射ソースの少なくとも1つの放射ピーク、(2)赤、(3)緑、および(4)青からなるグループから選択された少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項2】
請求項1において、反射は少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項3】
請求項1において、反射は可視スペクトル内の少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項4】
請求項2において、反射は可視スペクトル内の少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項5】
請求項1において、S偏光についての反射は、赤、緑および青に中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項6】
請求項5において、反射が少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、S偏光についての反射は赤、緑および青に中心を有する偏光スプリッタ。
【請求項8】
請求項1において、前記ピークの近くに局所的な中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率曲線のピークは、60〜100%の間に最大レベルを有する偏光スプリッタ。
【請求項9】
請求項1において、前記ピークの近くに局所的な中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率曲線のピークは、80〜100%の間に最大レベルを有する偏光スプリッタ。
【請求項10】
請求項1において、S偏光についてのスペクトル反射率曲線は、前記ピークの近くに局所的な中心を持たないすべての領域において、0〜35%の間のレベルを有する偏光スプリッタ。
【請求項11】
請求項1において、S偏光についてのスペクトル反射率曲線は、前記ピークの周囲に局所的に中心合わせされていないすべての領域において、0〜20%の間のレベルを有する偏光スプリッタ。
【請求項12】
請求項1において、前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれは、5〜100nmの間の半値幅を有する偏光スプリッタ。
【請求項13】
請求項1において、前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれは、20〜80nmの間の半値幅を有する偏光スプリッタ。
【請求項14】
請求項1において、P偏光についてのスペクトル透過率と前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率との積から得られる曲線のピークのそれぞれは、5〜100nmの間の半値幅を有している偏光スプリッタ。
【請求項15】
請求項1において、P偏光についてのスペクトル透過率と前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率との積から得られる曲線のピークのそれぞれは、20〜80nmの間の半値幅を有している偏光スプリッタ。
【請求項16】
請求項1において、P偏光についてのスペクトル透過率は、前記ソースの放射スペクトルにおいて80%よりも大きい偏光スプリッタ。
【請求項17】
請求項16において、前記ソースの放射スペクトルは400〜700nmの間である偏光スプリッタ。
【請求項18】
請求項1において、P偏光についてのスペクトル透過率は、前記ソースの放射スペクトルにおいて90%よりも大きい偏光スプリッタ。
【請求項19】
請求項18において、前記ソースの放射スペクトルは400〜700nmの間である偏光スプリッタ。
【請求項20】
請求項1において、400〜700nmの間の積分平均透過率は70%よりも大きい偏光スプリッタ。
【請求項21】
請求項1において、薄い層のスタックを備えた基板を有する偏光スプリッタ。
【請求項22】
請求項1において、ホログラフィック素子を備えた基板を有する偏光スプリッタ。
【請求項23】
請求項21において、材料の1つは二酸化ケイ素である偏光スプリッタ。
【請求項24】
請求項21において、材料の1つは二酸化ジルコニウムまたはチタン酸プラセオジミウムである偏光スプリッタ。
【請求項25】
請求項1において、2つのプリズムで構成されたキューブの形態である偏光スプリッタ。
【請求項26】
S偏光の反射が、(1)マイクロディスプレイの画像放射ソースの少なくとも1つの放射ピーク、(2)赤、(3)緑、および(4)青からなるグループから選択された少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタの製造方法であって、
(1)基板を設けるステップと、
(2)薄層を堆積させるステップと、を有する方法。
【請求項27】
画像をユーザの方向に投射するインサートを有する眼用レンズであって、このインサートは、S偏光の反射が(1)マイクロディスプレイの画像放射ソースの少なくとも1つの放射ピーク、(2)赤、(3)緑、および(4)青からなるグループから選択された少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタを備えている、眼用レンズ。
【請求項28】
請求項27において、前記偏光スプリッタはキューブの形態を備えている眼用レンズ。
【請求項29】
画像をユーザの方向に投射する装置であって、画像をユーザの方向に投射するインサートを有する眼用レンズを備え、このインサートは、S偏光の反射が(1)マイクロディスプレイの画像放射ソースの少なくとも1つの放射ピーク、(2)赤、(3)緑、および(4)青からなるグループから選択された少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタを備えている投射装置。
【請求項30】
請求項29において、さらに液晶マイクロスクリーンを備えている投射装置。
【請求項31】
請求項30において、前記液晶マイクロスディスプレイは赤、緑および青のP偏光を放射する投射装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S偏光の反射が、マイクロスクリーン画像の放射ソース(1)の少なくとも1つの放射ピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)であって、
前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれが、5〜100nmの間の半値幅、および60〜100%の間の最大レベルを有する偏光スプリッタ(4)。ここで、「局所的な中心を有する」とは、前記マイクロスクリーン画像の1つの放射ピークの近くにおいて、このマイクロスクリーン画像の放射ピークの半値幅の2倍の大きさのオーダを有する限られたスペクトル領域内において、スペクトル反射率曲線がピークを形成し、前記ピークの局所極値が、このピークの半値幅の値よりも大きい値までは前記マイクロスクリーン画像の放射ピークの頂点からスペクトル的に離れていないことをいう。
【請求項2】
請求項1において、反射は少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項3】
請求項1または2において、反射は可視スペクトル内の少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、S偏光の反射は、赤、緑および青から選択された放射波長に対応する少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)。
【請求項5】
S偏光の反射が、赤、緑および青から選択された放射波長に対応する少なくとも1つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)であって、
前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれが、5〜100nmの間の半値幅、および60〜100%の間の最大レベルを有している偏光スプリッタ(4)。ここで、「局所的な中心を有する」とは、放射波長に対応する1つのピークの近くにおいて、この放射ピークの半値幅の2倍の大きさのオーダを有する限られたスペクトル領域内において、スペクトル反射率曲線がピークを形成し、前記ピークの局所極値が、このピークの半値幅の値よりも大きい値までは前記放射ピークの頂点からスペクトル的に離れていないことをいう。
【請求項6】
請求項5において、反射が少なくとも2つのピークに局所的な中心を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、S偏光についての反射は赤、緑および青に中心を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、前記ピークの近くに局所的な中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率曲線のピークは、80〜100%の間の最大レベルを有する偏光スプリッタ(4)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、S偏光についてのスペクトル反射率曲線は、前記ピークの近くに局所的な中心を持たないすべての領域において、0〜35%の間、好ましくは0〜20%の間のレベルを有する偏光スプリッタ(4)
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光のスペクトル反射率曲線のピークのそれぞれは、20〜80nmの間の半値幅を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかにおいて、P偏光についてのスペクトル透過率と前記ピークの1つの近くに中心を有するS偏光についてのスペクトル反射率との積から得られる曲線のピークのそれぞれが、5〜100nmの間の半値幅を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、P偏光についてのスペクトル透過率は、400〜700nmの間のソースの放射スペクトルにおいて、80%よりも大きい偏光スプリッタ(4)
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかにおいて、400〜700nmの間の積分平均透過率は70%よりも大きい偏光スプリッタ(4)
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかにおいて、薄い層からなるスタックを備えた基板を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかにおいて、ホログラフィック素子を備えた基板を有する偏光スプリッタ(4)
【請求項16】
請求項14において、材料の1つは二酸化ケイ素である偏光スプリッタ(4)
【請求項17】
請求項14において、材料の1つは二酸化ジルコニウムまたはチタン酸プラセオジミウムである偏光スプリッタ(4)
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかにおいて、2つのプリズムで構成されたキューブの形態である偏光スプリッタ(4)
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかによる偏光スプリッタ(4)の製造方法であって、
(i)基板を設けるステップと、
(ii)薄い層を堆積させるステップと、を有する方法。
【請求項20】
画像をユーザの方向に投射するインサートを備えた眼用レンズ(10)であって、このインサートは、請求項1〜18のいずれかによる偏光スプリッタ(4)有する、眼用レンズ(10)
【請求項21】
請求項20において、前記偏光スプリッタ(4)はキューブの形態を備えている眼用レンズ(10)
【請求項22】
請求項20または21による眼用レンズ(10)を備えている、画像をユーザの方向に投射する投射装置。
【請求項23】
請求項22において、さらに液晶マイクロスクリーン(1)を備えている投射装置。
【請求項24】
請求項23において、前記液晶マイクロスディスプレイ(1)は赤、緑および青のP偏光を放射する投射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−509248(P2006−509248A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558153(P2004−558153)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003555
【国際公開番号】WO2004/053541
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(505209658)エシロー・インターナショナル (4)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
【Fターム(参考)】