説明

偏光フィルムの製造方法および製造装置

【課題】優れた光学特性を有すると共に、一軸延伸後の乾燥の際に生じるネックインを抑制して幅広の偏光フィルムを得る。
【解決手段】一軸延伸されて所定の水分を含むフィルム(41)を、所定の温度に制御された乾燥用のロール(33)に巻き付けて連続的に送りながら乾燥する。このとき、所定温度の乾燥空気をフィルム(41)に吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムから偏光フィルムを得る偏光フィルムの製造方法および製造装置に関するものであり、さらに詳しくいえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールの誘導体からなるポリビニルアルコール系のフィルムを、二色性物質または二色性染料で染着する染着工程と、フィルムを一軸延伸する延伸工程と、一軸延伸され所定の水分を含んだフィルムを乾燥する乾燥工程と、を含む偏光フィルムの製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビジョン装置、パソコン用モニタ装置等の表示装置として、近年液晶パネル、いわゆるLCDの需要が拡大している。LCDは、液晶組成物からなる液晶の層と、液晶の層を挟み込んでシールドしている2枚の透明基板と、2枚の透明板の表面に貼り付けられている2枚の偏光フィルムとを基本構造として、さらに、バックライトを導く導光板等の所定の機能を付加する複数枚の板、シート等が貼り合わされて製造されている。偏光フィルムは、いわゆる偏光軸を有し、所定の振動方向の光だけを透過して他の振動方向の光を吸収する。LCDを構成している2枚の偏光フィルタは、互いに偏光軸が直交するように貼り合わされているので、LCDの裏面から照らされているバックライトは通常遮光されてLCDの表面には届かないが、液晶に電圧を印加すると液晶の層で光の振動方向が変化して偏光フィルタを通過させることができる。このようにLCDでは、液晶に印加する電圧を制御して画像を表示させている。
【0003】
LCDの製造に不可欠の偏光フィルムは、従来周知のように、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等の誘導体からなる、ポリビニルアルコール系のフィルム、すなわちPVA系フィルムに、ヨウ素等の二色性物質や有機性染料からなる二色性染料を染着させて、一方向に引き延ばすいわゆる一軸延伸をかけて製造されている。そして、このような偏光フィルム、すなわち偏光素子には、図5に示されているように、トリアセチルセルロース(TAC)等からなる保護層と、表面保護フィルムが貼り合わされている。所定の強度を得るためと、湿度によって加水分解されて偏光度が落ちることを防ぐためである。
【0004】
原料のフィルムを一軸延伸するときに、そして延伸後のフィルムを乾燥するときに、延伸方向と直交する方向、すなわちフィルムの幅方向にネックインと呼ばれる収縮が生じる。原料のPVA系フィルムは、ロール状に巻き取られた原反として供給されているが、一般に流通している原反のフィルムの幅は規格化されている。従って、格別に幅広のフィルムを原料にしない限り、一軸延伸時および乾燥時に生じるネックインの大きさが、得られる偏光フィルムの幅を決定してしまう。近年、LCDの大型化が進み、より幅広の偏光フィルムが求められるようになってきており、必要な光学特性を維持しながらネックインを抑制して幅広の偏光フィルムを得る技術が求められている。
【0005】
フィルムは、フィルムを送り出す2本の延伸用ロール間で一軸延伸されるが、下流側の延伸用ロールの周速度を上流側の延伸用ロールの周速度よりも大きくして、フィルムに張力を与えて延伸する。このとき、フィルムが延伸用ロール上を滑らないように、それぞれの延伸用ロールにはニップロールが設けられ、フィルムはニップロールと延伸用ロールとで挟まれて送り出されるようになっている。代表的な一軸延伸法には、延伸ロールに加熱ロールを用いてフィルムを加熱しながら大気中で延伸する、いわゆる乾式延伸法と、フィルムを所定の溶液中に浸しながら延伸する、いわゆる湿式延伸法とが知られている。乾式延伸法は、比較的ネックインを抑制できるがフィルムが破断しやすいという欠点があり、充分に延伸することができず必要な光学特性を得にくい。一方、湿式延伸法はネックインは抑制し難いが、フィルムが破断しにくく充分に延伸できるので、必要な光学特性が得やすい。従って、近年湿式延伸法が主流になってきている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−350638号公報
【0007】
特許文献1には、所定の相対湿度に保たれた大気中においてフィルムを延伸する、いわゆるセミドライ延伸法を実施する、フィルム製造装置が記載されている。図6には、このフィルム製造装置の一部である、フィルム延伸装置101が示されている。フィルム延伸装置101は、PVA系フィルムの原反121からフィルム122を送り出す送出部120と、装置内を所定の温度に維持すると共に相対湿度80〜95%の未飽和状態に維持してフィルム122を調湿するクリーンユニット部124と、延伸部とからなり、延伸部は、第1のニップロール125、延伸室138、第2のニップロール127等からなる。延伸室138には、フィルム122が導入される入口部134とフィルム122が導出される出口部135とにそれぞれシールボックスが設けられ、室内と室外の大気を遮断している。そして、延伸室138の室内には所定の水温に調節された水槽136と所定のヒータとが設けられ、室内が所定の温度に維持されていると共に、結露しない程度の相対湿度であって、実質的な飽和蒸気状態に維持されている。また、延伸室138内には延伸されるフィルム122をガイドする延伸ガイドロール126、126、…が設けられ、これらのロール面の摩擦によってネックインが抑制されるようになっている。下流側の第2のニップロール127は、上流側の第1のニップロール125よりも、高い周速度で駆動されるように制御されており、フィルム122は第1、2のニップロール125、127間、すなわち延伸室138内で延伸されるようになっている。特許文献1に記載のフィルム延伸装置101によると、原反121から送り出されたフィルム122は、クリーンユニット部124において調湿され、延伸室138において飽和蒸気下で延伸されるので、乾式延伸法の効果と湿式延伸法の効果を融合した効果が得られる。すなわち、ネックインを抑制しながら、光学特性に優れた幅広の偏光フィルムを得ることができる。
延伸されたフィルムは、所定の溶液に浸漬されて処理された後に、従来周知のドライヤ乾燥装置に送られて、熱風により乾燥される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のフィルム製造装置によっても、一軸延伸時のネックインを比較的抑制することができるので、比較的幅広の偏光フィルムを得ることができるが、改良すべき点も見受けられる。例えば、特許文献1に記載のフィルム製造装置においては、乾燥時のネックインについて格別に考慮されてはいない。一軸延伸されたフィルムには、延伸時に生じた幅方向の応力が残留しているので、フィルムの含水率が低下するときにネックインが生じてしまう。特許文献1に記載のフィルム製造装置においては、周知のドライヤ乾燥装置によってフィルムを乾燥しているので、乾式延伸法や湿式延伸法を実施する従来周知のフィルム製造装置と同様に、乾燥時のネックインを防ぐことはできない。従って、充分に広い幅の偏光フィルムは得られない。また、特許文献1に記載のフィルム延伸装置101は、フィルムを調湿するために格別にクリーンユニット部124を必要とするので構造が複雑で装置全体が大型化してしまう。さらには、延伸室138は飽和蒸気状態に保つ必要があるので、入口部134と出口部135には格別にシールボックスを必要とし、装置が複雑で高価になっている。延伸時の相対湿度についても改良すべき点が見受けられる。特許文献1に記載のフィルム延伸装置101においては、延伸室138を、結露が生じない程度の相対湿度であって実質的な飽和蒸気状態に維持する必要がある。すなわち、気温よりもわずかに露点が低くなるように湿度を制御する必要があるので、高度な制御を要し、高価な制御装置を必要とする。さらには、飽和蒸気状態近傍の相対湿度にすると、フィルム122とガイドロール126、126のロール面に働く摩擦力は低下するので、延伸時のネックインを充分に抑制することができない。
【0009】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、偏光フィルムの製造方法、およびそのような製造方法の実施に使用される製造装置を提供することを目的とし、具体的にはフィルムの乾燥時に生じるネックインを抑制できると共に、延伸時においても充分にネックインを抑制して、光学特性に優れた幅広の偏光フィルムを得ることができる偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とし、また格別に装置が大型化することなく、制御も容易でありながら、光学特性に優れた幅広の偏光フィルムを製造することができる偏光フィルムの製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、染着され一軸延伸されたPVA系フィルムを乾燥用のロールに巻き付けて連続的に送りながら乾燥する。そして、このような乾燥用のロールを所定の温度に制御すると共に、乾燥用のロールに巻き付けられたフィルムに所定温度の温風を吹き付けて乾燥するように構成される。また、フィルムの一軸延伸は、フィルムを所定の溶液に浸漬した後に、所定の相対湿度の大気中で実施するように構成される。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールの誘導体からなるポリビニルアルコール系のフィルムを、二色性物質または二色性染料で染着する染着工程と、前記フィルムを一軸延伸する延伸工程と、一軸延伸され所定の水分を含んだ前記フィルムを乾燥する乾燥工程と、を含む偏光フィルムの製造方法において、前記乾燥工程は、前記フィルムを乾燥用のロールに巻き付けて連続的に送りながら乾燥するように構成される。また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記乾燥工程は、前記乾燥用のロールを所定の温度に制御すると共に、前記乾燥用のロールに巻き付けられた前記フィルムに所定温度の温風を吹き付けて実施するように構成され、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の製造方法において、2本以上の前記乾燥用のロールを使用し、前記フィルムの一方の面を第1番目の前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥した後に、他方の面を第2番目の前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥し、以下前記フィルムの面を交互に前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥するように構成される。さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の製造方法において、前記一軸延伸工程は、前記フィルムを所定の溶液に浸漬する工程の後に実施すると共に、所定の相対湿度の大気中で実施するように構成され、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の製造方法において、前記相対湿度は、50%〜60%であるように構成される。
【0012】
請求項6に記載の発明は、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールの誘導体からなるポリビニルアルコール系のフィルムを、二色性物質または二色性染料で染着して、一軸延伸されて所定の水分を含んでいるフィルムを乾燥装置により乾燥して偏光フィルムを得る、偏光フィルムの製造装置であって、前記乾燥装置は、温度調節されてフィルムが巻き付けられるようになっている乾燥用のロールと、前記乾燥用のロールのロール面に乾燥用空気を吹き付けるエアーノズルとからなるように構成される。そして、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の製造装置において、前記乾燥用のロールは所定の間隔に配置され、それぞれに温度が制御される2本以上のロールからなるように構成され、請求項8に記載の発明は、請求項6または請求項7に記載の製造装置において、該製造装置には、その内部が50〜60%の相対湿度の雰囲気に調節される、一軸延伸装置が設けらるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によると、染着され延伸されたPVA系フィルムを、所定温度に制御された乾燥用のロールに巻き付けて連続的に送りながら、巻き付けられたフィルムに所定温度の温風を吹き付けて乾燥するので、フィルムを効率よく乾燥することができる。このとき、本発明によると、乾燥用のロールに巻き付けて乾燥するので、フィルムは乾燥用のロールの表面に密着し、ロール面とフィルムとの間には摩擦力が働く。この摩擦力により、乾燥されるときにフィルムは横方向に収縮し難くなり、ネックインは抑制される。これにより、幅広の光学特性に優れた偏光フィルムを得ることができるという本発明に特有の効果が得られる。また、他の発明によると、2本以上の乾燥用のロールを使用し、フィルムの一方の面を第1番目の乾燥用のロールに巻き付けて乾燥した後に、他方の面を第2番目の乾燥用のロールに巻き付けて乾燥して、フィルムの面を交互に巻き付けて乾燥するので、フィルムを均一に乾燥することができ、フィルムの縁がカールすることもない。さらに、他の発明によると、フィルムを一軸延伸する前に、フィルムを所定の溶液に浸漬するように構成されているので、クリーンユニット装置を格別に必要としない。したがって、シンプルな装置に構成することができ、偏光フィルム製造装置全体が大型化することもない。また、一軸延伸は、所定の相対湿度の大気中で実施するので、一軸延伸時のネックインを抑制しながら、光学特性に優れた幅広の偏光フィルムを得ることができる。そして、50〜60%の相対湿度の大気中でフィルムを一軸延伸する発明によると、フィルムとロール面との間には充分な摩擦力が働くので、さらにネックインが抑制されて幅広の偏光フィルムが得られる。制御される相対湿度の範囲は比較的大きく、気温と露点との差も比較的大きいので、湿度の制御は容易であり、安価な制御装置で偏光フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る偏光フィルム製造装置1は、図1の(ア)に模式的に示されているように、原料のフィルムを膨潤させる膨潤槽2、ヨウ素等の二色性物質または有機性染料からなる二色性染料でフィルムを染着する染着槽3、架橋剤を添加して高分子を網目構造にしてフィルムに所定の強度を与える架橋槽4、所定の相対湿度の大気中でフィルムを延伸する延伸装置5、延伸されたフィルムの色相調節を行う補色槽6、水分を含んだフィルムを所定の水分含有率まで乾燥する第1の乾燥装置7、さらにフィルムを乾燥する第2の乾燥装置8、前記各槽2、3、…間に設けられフィルムを挟んで送り出すと共にフィルムを水切りする複数本のニップロールN1、N2、…、フィルムをガイドする案内ロール2b、3b、A1、…等から構成されている。
【0015】
このような偏光フィルム製造装置1の、膨潤槽2、染着槽3、架橋槽4、補色槽6、および第2の乾燥装置8は、従来周知の偏光フィルム製造装置のそれぞれの槽や装置と同様に構成されている。以下これらの装置については簡単に説明する。
膨潤槽2には所定の溶液2aが満たされており、原料のフィルムが、溶液2a中に設けられている案内ロール2bに案内されて溶液2aに浸漬されると、フィルムの表面に付着した汚れやフィルムに添加されているブロッキング防止剤等が洗浄されると共に、フィルムは適度な水分を吸収して膨潤するようになっている。この膨潤によって、後工程の染着の際に染色ムラが生じることを防ぐことができる。このような溶液2aは、pH値が所定の範囲内になるように、かつミネラル分の濃度、雑菌の個数、色度、臭気等が所定の範囲を超えないように調整されたいわゆる生産水に、必要に応じてヨウ化カリウム、ホウ酸、柔軟剤等が添加され所定濃度に調整されている。
【0016】
染着槽3には、前記した所定の生産水に、ヨウ素等の二色性物質や有機性染料からなる二色性染料が所定の濃度になるように添加された、溶液3aが満たされている。従って、溶液3a中に設けられている案内ロール3bによって、フィルムが溶液中に浸漬されると、フィルムは二色性物質や二色性染料で染着される。架橋槽4には、前記した所定の生産水に、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物やグリオキザール、グルタルアルデヒド等の架橋剤が添加された溶液4aが満たされている。溶液4a中に設けられている案内ロール4bによって、フィルムが溶液4aに浸漬されると、フィルムを構成する高分子が架橋されて、フィルムに所定の強度が与えられるようになっている。架橋槽4においてもフィルムには必要な水分が供給される。
【0017】
補色槽6には、所定の生産水に、微量のヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウム等のヨウ素化合部が添加された溶液6aが満たされている。補色槽6内に設けられている案内ロール6bに案内されて、フィルムが溶液6aに浸漬されると、他の前処理においてフィルムに付着したホウ酸等の不要残存物が洗浄されると共に、色相も調節される。第2の乾燥装置8は、従来周知のいわゆるドライヤ乾燥装置であり、熱風を送風する送風機、電気パネルヒータ等が内部に設けられ、フィルムが装置内を送られる間に、フィルムが乾燥されるようになっている。
【0018】
次に、図1の(イ)により、第1の実施の形態に係る延伸装置5について説明する。延伸装置5は、所定の高さの壁面を有する延伸槽11と蓋体12とによって実質的に密閉され、フィルムが延伸装置5内に導かれるフィルム導入口14とフィルムが延伸装置5内から引き出されるフィルム導出口15だけが所定の大きさで開口している。従って、延伸装置5の内部であって、フィルムが延伸される延伸エリア17は外部の大気から実質的に遮断されている。延伸槽11には、所定深さになるように温水11aが入れられている。この温水11aは延伸槽11内に設けられている水温制御装置19によって60±5℃になるように制御されている。従って、延伸エリア17の空気は相対湿度が50〜60%になるように維持されている。つまり、延伸槽11と水温制御装置19は、温水11aによって延伸エリア17の相対湿度を調節する湿度調節装置になっている。このような延伸エリア17には、水平方向に並べられた、比較的大径の第1〜3の延伸ロール21、22、23が設けられ、第1〜3の延伸ロールのロール面に密接するように第1〜3のニップロール26、27、28が設けられている。第1の延伸ロール21と第1のニップロール26、第2の延伸ロール22と第2のニップロール27、第3の延伸ロール23と第3のニップロール28は、それぞれフィルムを挟んで送り出す一対のロールになっている。これらのロール21、26、…は、金属ロールがニトリルゴム(NBR)又はエチレンプロピレンゴム(EPDM)によりライニングされているが、ライニングする代わりに硬質クロームメッキを施された金属ロールを適用することもできる。これらのロール21、26、…は、いずれも温水11aには漬けられてはいない。フィルム導入口14の近傍には、架橋槽4で処理されたフィルムを延伸エリア17に引き入れるニップロールN3が設けられ、フィルム導出口15の近傍には、案内ロールA1が設けられ、補色槽6に送られるフィルムがガイドされるようになっている。
【0019】
本実施の形態に係る乾燥装置、すなわち第1の乾燥装置7について説明する。第1の乾燥装置7は、図1の(ウ)に示されているように、フィルムを引き取りながらフィルムの水切りを行う一対の水切りロール31、31と、フィルムに付着している水滴を吹き飛ばすエアーナイフ32、32と、フィルムを巻き付けながら乾燥する乾燥用ロール33と、乾燥用ロール33の所定のロール面を覆うように設けられ、フィルムに乾燥空気を吹き付けるエアーノズル34と、乾燥用ロール33のロール面に接するように設けられているニップロール35と、から構成されている。このような乾燥用ロール33は、ロール面が鏡面加工されていると共に、内部に温水循環装置やヒータ等の加熱手段が設けられ、ロール面の温度を制御できるようになっている。ロール面の温度は50±10℃、好ましくは50±5℃に制御されている。また、乾燥用ロール33はフィルムの送り速度に合わせて駆動できるようになっており、フィルムを乾燥用ロール33の表面に密着させて送り出しながら乾燥するようになっている。
【0020】
本実施の形態に係る偏光フィルム製造装置1の作用を説明する。偏光フィルムの原料となるフィルムには、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等の誘導体からなる、ポリビニルアルコール系のフィルム、いわゆるPVA系フィルムが適用される。原料のPVA系フィルムは所定の幅に揃えられてロール状に巻かれた原反として供給されている。このような原反40を偏光フィルム製造装置1の最上流部、すなわち膨潤槽2の近傍に取り付ける。フィルム41を原反40から引き出して膨潤槽2に導いて、膨潤槽2の溶液2a中で膨潤させる。膨潤するとフィルム41の幅は20〜30%広がると共に、重量が70〜90%増加する。また、フィルム41の厚さが例えば75μmの場合、膨潤すると厚さが16〜19μm増加する。膨潤されたフィルム41を、染着槽3に導いて溶液3a中で染着する。次いでフィルム41を、架橋槽4の溶液4a中で架橋処理すると共に、フィルム41に所定の水分を与える。フィルム41をニップロールN3で挟んで水切りしてフィルム41の水分率が所定の範囲になるように調整して、延伸装置5に導く。ニップロールN3はロール面がニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム等からなり、フィルム41を挟む力を制御すればフィルム41の水分率を調整することができる。フィルム41の水分率は、延伸に適した50±10重量%、好ましくは50±5重量%に調整される。
【0021】
フィルム41を、フィルム導入口14から延伸装置5の延伸エリア17に導き、導かれたフィルム41を各ロール21、26、…、に以下のようにして掛け回す。最初に、フィルム41を第1のニップロール26に約半周巻き付けながら、第1の延伸ロール21と第1のニップロール26によって挟み、そして、第1の延伸ロール21の約4分の3に巻き付けた後に送り出す。従って、フィルム41は、ロールの軸方向から見ると図1の(イ)に示されているように、第1の延伸ロール26と第1のニップロール31に、逆S字状を呈するように巻き付けられることになる。次いで、フィルム41を引き出して第2の延伸ロール22に巻き付けて、第2の延伸ロール22と第2のニップロール27とで挟んだ後、再び第2の延伸ロール22に巻き付けながら下流に導く。そして、フィルム41を第3の延伸ロール23と第3のニップロール28に、S字状を呈するように巻き付けて送り出す。そして、フィルム41をフィルム導出口15から送り出し、案内ロールA1を経由して下流に送り出す。
【0022】
第1〜3の延伸ロール21、22、23は、それぞれ独立して周速度を制御して駆動することができ、第1の延伸ロール21よりも第2の延伸ロール22の方が、第2の延伸ロール22よりも第3の延伸ロール23の方が周速度が大きい。従って、フィルム41を、第1、2の延伸ロール21、22の間において一軸延伸して、第2、3の延伸ロール22、23の間でさらに一軸延伸する。このときフィルム41は、相対湿度が50〜60%に維持された延伸エリア17で、いわゆるセミドライ延伸法によって一軸延伸される。従って、フィルム41は、第1〜3の延伸ロール21、22、23のロール面に密着して滑りにくく、ネックインは抑制される。
【0023】
延伸装置5で一軸延伸されたフィルム41を案内ロールA1、A2、ニップロールN4を経由して補色槽6に導く。フィルム41を補色槽6の溶液6aに浸漬して色相調整する。フィルム41を、ニップロールN5を経由して第1の乾燥装置7に導く。
【0024】
フィルム41を、水切りロール31、31で引き取るときに充分に水切りして、大部分の水滴を除く。わずかに付着して残った水滴も、エアーナイフ32、32によって吹き飛ばす。このようにしてフィルム41の表面に付着した水滴を除去した後、フィルム41を乾燥用ロール33に巻き付ける。温度が調節されている乾燥用ロール33によってフィルム41を加熱すると共に、エアーノズル34からフィルム41に温度が調節されている乾燥用空気を吹き付ける。乾燥用空気と乾燥用ロール33の熱とによってフィルム41は所定の含水率になるまで乾燥される。このとき、フィルム41と乾燥用ロール53の表面は密接し、フィルム41と乾燥用ロール53の表面との間には摩擦力が作用している。この摩擦力により、フィルム41の幅方向の収縮は規制される。これにより、乾燥時に発生するネックインが抑制される。フィルム41を、ニップロール35、案内ロールA3を経由して第2の乾燥装置8に送り出す。なお、第1の乾燥装置7でフィルム41を完全に乾燥しても良いが、本実施の形態においては、第1の乾燥装置7においては水分含有率が約30%になるようにフィルム41を乾燥する。水分含有率が30%以下になると、その後第2の乾燥機8でフィルムを乾燥してもネックインは生じにくい。
【0025】
第2の乾燥装置8で、従来周知のようにフィルム41を乾燥すると偏光フィルムが得られる。得られた偏光フィルムを、図に示されていない巻き取り機で巻き取る。あるいは、他の装置に送って、所定の強度を得ると共に湿度から保護するため、トリアセチルセルロース(TAC)等からなる保護層を貼り合わせる。
【0026】
本実施の形態においては、延伸装置5の第1〜3の延伸ロール21、22、23は、図2において矢印Y1、Y2で示されているように、水平方向に移動可能に設けられている。従って、第1、2の延伸ロール21、22のロール間の隙間と、第2、3の延伸ロール22、23のロール間の隙間を調節したり、ロール同士を密着させることもできる。ロール間の隙間を調節すると、延伸間距離を調節することができる。例えば、第2、3の延伸用ロール22、23のロール径が310mmのとき、ロール間の隙間Gを1mmにすれば、第2、3の延伸用ロール22、23の間の、ロール面に密着していないフィルム41の距離、すなわち延伸間距離Sは約25mmになる。延伸時に生じるネックインは、延伸間距離が長いほど大きくなる。本実施の形態に係る延伸装置5においては、延伸間距離を調節できるので、延伸時に発生するネックインの大きさを調節することができる。
【0027】
図3には、第1の乾燥装置7の他の実施の形態が示されている。前記実施の形態に係る第1の乾燥装置7の構成要素と同じような要素には、同じ参照番号を付けて詳しくは説明しない。本実施の形態に係る乾燥装置7’には、第1の乾燥用ロール33aと第2の乾燥用ロール33bが設けられていると共に、第1、2の乾燥用ロール33a、33bに対応して、第1、2のエアーノズル34a、34bが設けられている。従って、フィルム41はフィルムの一方の面が第1の乾燥ロール33aに巻き付いて乾燥し、次いでフィルムの他方の面が第2の乾燥ロール33bに巻き付いて乾燥する。フィルム41は均一に乾燥されるので、フィルムの縁が反ることはなく、ネックインを充分に抑制して、幅広で品質の良い偏光フィルムを得ることができる。
【実施例1】
【0028】
延伸方法の違いによるネックインの大きさを比較する実験を行った。本実施の形態に係る延伸装置においてフィルムを一軸延伸する、いわゆるセミドライ延伸法を実施して実施例1の偏光フィルムを得、本実施の形態に係る延伸装置の第1〜3の延伸ロール21、22、23を全て温水11a中に没して、従来周知の湿式延伸法を実施して比較例1の偏光フィルムを得、それぞれのネックインの大きさを調べた。一軸延伸以外の工程は全て同様に実施した。すなわち、原反から引き出したフィルムを膨潤槽、染着槽、架橋槽のそれぞれに浸漬する処理と、一軸延伸した後に補色槽に浸漬して従来周知のドライヤ乾燥装置で乾燥する処理については同様に実施した。延伸倍率についても同様とし、一軸延伸は、第1の延伸をニップロールN3と第1の延伸ロール21の間において、第2の延伸を第1、2の延伸ロール21、22の間において、第3の延伸を第2、3の延伸ロール22、23の間の間においてそれぞれ実施して総合の延伸倍率が5.9倍になるようにした。
実施例1と比較例1の偏光フィルムを製造した各工程におけるフィルム幅の変化が、図4の(ア)のグラフに示されている。グラフの縦軸には原反のフィルム幅を100%とするフィルム幅が、横軸には各工程が示されている。グラフから、湿式延伸法よりもセミドライ延伸法の方がネックインを抑制できることが分かる。
【実施例2】
【0029】
乾燥方法の違いによるネックインの大きさを比較する実験を行った。本実施の形態に係る第1の乾燥装置において、いわゆるロール乾燥を実施して実施例2の偏光フィルムを得、従来周知のドライヤ乾燥機において、いわゆるドライヤ乾燥をテストして比較例2の偏光フィルムを得、それぞれのネックインの大きさを調べた。フィルムの乾燥以外の工程は全て同様に実施した。すなわち、原反から引き出したフィルムを膨潤槽、染着槽、架橋槽のそれぞれに浸漬する処理と、本実施の形態に係る延伸装置でフィルムを一軸延伸した後に補色槽に浸漬する処理については同様に実施した。延伸倍率についても同様とし、一軸延伸は、第1の延伸をニップロールN3と第1の延伸ロール21の間において、第2の延伸を第1、2の延伸ロール21、22の間において、第3の延伸を第2、3の延伸ロール22、23の間の間においてそれぞれ実施して総合の延伸倍率が5.9倍になるようにした。実施例2と比較例2の偏光フィルムを製造した各工程におけるフィルム幅の変化が、図4の(イ)のグラフに示されている。グラフの縦軸には原反のフィルム幅を100%とするフィルム幅が、横軸には各工程が示されている。このグラフから、ロール乾燥の方がドライヤ乾燥よりもネックインを抑制できることが分かる。ドライヤ乾燥をすると、乾燥時の幅方向の収縮、すなわちネックインは15%になってしまうが、ロール乾燥をすると、ネックインは充分に抑制されて4%に過ぎないことが分かる。
【0030】
本発明の偏光フィルム製造装置は、上記実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、フィルムは本実施の形態に係る延伸装置によって延伸して、第1の乾燥装置で乾燥するように説明されているが、他の延伸装置によってフィルムを延伸して、第1の乾燥装置で乾燥しても良い。例えば、従来周知の乾式延伸法や湿式延伸法によってフィルムを延伸した後に、本実施の形態に係る第1の乾燥装置の乾燥用ロールに巻き付けて乾燥しても、乾燥時のネックインを抑制できることは明らかである。また、ドライヤ乾燥を実施する第2の乾燥装置を設けずに、ロール乾燥を実施する第1の乾燥装置によってフィルムを完全に乾燥するようにしても良い。乾燥装置についても変形が可能である。例えば、乾燥用ロールは3本以上設けても良い。このように実施すると、フィルムを複数のロール面に密接させながらゆっくりと乾燥することができるので、充分にムラなく乾燥できる。さらには、乾燥装置には、格別にエアーノズルを設けなくても実施できる。このときは、乾燥用のロールの熱のみによって乾燥することになる。エアーノズルから吹き出される温風の風圧の大きさ、方向等によってはフィルムが変形することもあり得るが、乾燥用のロールのみで乾燥すると、このような変形を避けることができる。また、乾燥用のロールの温度は格別に制御せず、制御された温風のみによって乾燥することができるのは明らかである。
【0031】
本実施の形態に係る延伸装置についても変形が可能である。例えば、延伸エリア17の相対湿度は、延伸槽11に入れられた温水11aを水温制御装置19によって温度制御して維持されているように説明されているが、加湿器を設けても同様に相対湿度を維持することができる。さらには、本実施の形態に係る延伸装置においては、フィルムの一軸延伸は、第1、2の延伸ロール間と第2、3の延伸ロール間の2回実施するように説明されているが、どちらか一方の1回だけ実施するようにしてもよいし、さらに第3、4、…の延伸ロールを設けて、3回以上実施するようにしてもよい。また、延伸ロールは、特に温度調節するようには説明されていないが、フィルムを加熱するために延伸ロールの内部に加熱体を設けて、延伸ロール全体を加熱するように実施することもできる。このように実施すると、フィルムはより延伸されやすい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の偏光フィルム製造装置によると、ネックインを抑制して幅広のフィルムを得ることができるので、偏光フィルム以外の他の用途のフィルムの製造にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態に係る偏光フィルム製造装置を模式的に示す図で、その(ア)は、偏光フィルム製造装置全体を模式的に示す側面図、その(イ)は本実施の形態に係る延伸装置を模式的に示す側面図、その(ウ)は本実施の形態に係る乾燥装置を模式的に示す側面図である。
【図2】本実施の形態に係る延伸装置の作用を説明するための側面図である。
【図3】第2の実施の形態に係る乾燥装置を模式的に示す側面図である。
【図4】延伸方法と乾燥方法の違いによるネックインの大きさを評価した実験の結果を示すグラフで、その(ア)は本実施の形態に係る延伸方法および従来周知の湿式延伸法のそれぞれによってフィルムを一軸延伸したときのフィルムの幅の変化を表すグラフ、その(イ)は本実施の形態に係る乾燥方法および従来周知のドライヤ乾燥方法のそれぞれによってフィルムを乾燥したときのフィルムの幅の変化を表すグラフである。
【図5】偏光フィルムの構造を模式的に示す、偏光フィルム断面の斜視図である。
【図6】従来周知のセミドライ延伸方法の実施に使用される延伸装置を模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 偏光フィルム製造装置 2 膨潤槽
3 染着槽 4 架橋槽
5 延伸装置 6 補色槽
7 第1の乾燥装置 8 第2の乾燥装置
11 延伸槽 11a 温水
21、22、23 第1〜3の延伸ロール
26、27、28 第1〜3のニップロール
32、32 エアーナイフ
33 乾燥用ロール 34 エアーノズル
40 原反 41 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールの誘導体からなるポリビニルアルコール系のフィルムを、二色性物質または二色性染料で染着する染着工程と、前記フィルムを一軸延伸する延伸工程と、一軸延伸され所定の水分を含んだ前記フィルムを乾燥する乾燥工程と、を含む偏光フィルムの製造方法において、
前記乾燥工程は、前記フィルムを乾燥用のロールに巻き付けて連続的に送りながら乾燥することを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、前記乾燥工程は、前記乾燥用のロールを所定の温度に制御すると共に、前記乾燥用のロールに巻き付けられた前記フィルムに所定温度の温風を吹き付けて実施することを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法において、2本以上の前記乾燥用のロールを使用し、前記フィルムの一方の面を第1番目の前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥した後に、他方の面を第2番目の前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥し、以下前記フィルムの面を交互に前記乾燥用のロールに巻き付けて乾燥することを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の製造方法において、前記一軸延伸工程は、前記フィルムを所定の溶液に浸漬する工程の後に実施すると共に、所定の相対湿度の大気中で実施することを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、前記相対湿度は、50%〜60%であることを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項6】
ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールの誘導体からなるポリビニルアルコール系のフィルムを、二色性物質または二色性染料で染着して、一軸延伸されて所定の水分を含んでいるフィルムを乾燥装置により乾燥して偏光フィルムを得る、偏光フィルムの製造装置であって、
前記乾燥装置は、温度調節されてフィルムが巻き付けられるようになっている乾燥用のロールと、前記乾燥用のロールのロール面に乾燥用空気を吹き付けるエアーノズルとからなることを特徴とする、偏光フィルムの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の製造装置において、前記乾燥用のロールは所定の間隔に配置され、それぞれに温度が制御される2本以上のロールからなることを特徴とする、偏光フィルムの製造装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の製造装置において、該製造装置には、その内部が50〜60%の相対湿度の雰囲気に調節される、一軸延伸装置が設けられていることを特徴とする、偏光フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−15314(P2009−15314A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145162(P2008−145162)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(502291850)株式会社久保設計 (3)
【Fターム(参考)】