偏光分離素子及びそれを有する投影装置
【課題】選択性偏光分離素子を投影装置の色分解色合成手段に用いることにより、高いコントラストが得られる信頼性、耐久性に優れた投影装置を得ること。
【解決手段】互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていること。
【解決手段】互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光分離素子及びそれを有する投影装置に関する。
【0002】
例えばS偏光に対して第一波長帯域を透過、第一波長帯域と異なる第二波長帯域を反射、且つP偏光に対して第一波長帯域を反射、第二波長帯域を透過させる波長選択性のある偏光分離素子に関し、特に液晶による光変調素子を用いた投影装置に好適なものである。
【背景技術】
【0003】
従来より、偏光分離素子としては、2つのプリズムに挟まれた屈折率が高い誘電体薄膜より成るH層と低いL層を交互に多数積層した誘電体多層膜により、偏光分離するプリズム型の偏光ビームスプリッタ(PBS)がよく知られている。
【0004】
この誘電体多層膜は、入射するP偏光を透過、S偏光を反射させる光学特性を有する。この偏光分離素子の原理はP偏光については入射角度がプリズムの材料の屈折率nP、H層の屈折率nH、L層の屈折率nLの関係がブリュ−スター角θBとおよそ一致することによりP偏光は透過する。S偏光についてはH層とL層の界面における反射を用い、多層膜干渉により反射する。
【0005】
このPBSの特性は、入射角度、使用波長の変化による材料の分散により、設計の条件から外れると、悪化する。特に、ブリュ−スター角の条件は各定数に対して敏感であるため、S偏光と比較すると、P偏光のほうが悪化しやすい。
【0006】
画像投影装置(投影装置)に用いられる光学系においては、光源から放射される光束の分布が一定の角度範囲を有する場合が多く、使用波長も可視光帯域全域と広いため、一般的に偏光分離膜の層数の追加や膜厚の修正により使用角度範囲、使用波長帯域において良好な特性となるように設計されている。
【0007】
非特許文献1にはP偏光を反射、S偏光を透過するPBSが報告されている。ここでは入射角度を高屈折率プリズム(材料の屈折率が高いプリズム)と低屈折率薄膜(材料の屈折率が低い薄膜)の臨界角以上の角度とすることにより、全反射減衰を発生させる。全反射減衰した光は位相が変化するため、設けられた多層膜による干渉によりP偏光を透過、S偏光を反射する原理を用いてPBSを実現している。これより、広い入射角度範囲で良好な特性を得ている。
【0008】
一方、屈折率が高い誘電体薄膜より成るH層と低いL層を交互に積層した誘電体多層膜によるダイクロイックフィルタもよく知られている。
【0009】
このダイクロイックフィルタもH層とL層の界面における反射による多層膜干渉を用いて、特定波長帯域を透過または反射させる光学特性を有する。膜構成はハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の機能を実現する多くの構成が知られており、特に赤、緑、青色の波長帯域をそれぞれ分離するには長波長透過フィルタ、波長バンドパスフィルタ、短波長透過フィルタ等を用いることができる。ダイクロイックフィルタは入射角度、偏光条件が設計の条件から外れると、光学特性が悪化する。
【0010】
入射角度を変化させると薄膜材料の光学アドミタンスが変化し、P偏光に対する透過帯域が広がり(反射帯域が狭くなり)、S偏光に対する透過帯域が狭くなる(反射帯域が広がる)。この結果、透過帯域から反射帯域へシフトする遷移波長がP偏光とS偏光に対して逆方向に変化する。
【0011】
このため、一般的に偏光分離膜の層数の追加や膜厚の修正により使用角度範囲を広げたり、P偏光とS偏光の偏光依存が小さくなるように設計する。逆にこの偏光による特性の違いを利用して設計する場合もある。
【0012】
これらのPBSやダイクロイックフィルタを用いて画像投影装置の色分解合成光学系(色分解色合成手段)が構成される。
【0013】
図27に従来の液晶による反射型の光変調素子を用いた画像投影装置の一例を示す。
【0014】
矢印は白表示(画像情報が白色)における赤、緑、青色光のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0015】
光源51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域の光線30を透過、赤波長帯域の光線40、青波長帯域の光線20を反射する。
【0016】
ダイクロイックミラー53aにより透過された緑波長帯域の光線30はPBS54aを反射し、緑用液晶による反射型光変調素子55gに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、PBS54a,PBS54cを透過し、投射レンズ系(投影光学系)57に入射し、投影される。
【0017】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性位相子56bによりP偏光21に変換され、PBS54bを透過し、青用液晶による反射型光変調素子55bに入射し、変調される。
【0018】
白表示の場合、変調された光はS偏光20となって射出されるため、PBS54bを反射し、波長選択性位相子56rによりS偏光20のまま維持され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0019】
ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性位相子56bによりS偏光40のまま維持され、PBS54bを反射し、赤用液晶による反射型光変調素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、PBS54bを透過し、波長選択性位相子56rによりS偏光40に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0020】
黒表示(画像情報が黒色)の場合はいずれの光も液晶による反射型変調素子55r,55g,55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、各光学部材を介して同じ光路で再び光源51側に戻る。このような色分解合成手段により高精細な液晶による反射型光変調素子の利点を活かし、且つ小型な装置を構成している。
【0021】
従来のPBSは使用波長帯域全域においてP偏光を透過、S偏光を反射することを目的としている。非特許文献1に記載されているPBSはP偏光を反射、S偏光を透過する。いずれのPBSも使用波長帯域全帯域に対して偏光分離する素子であり、波長帯域によって第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させるような波長選択性があり、且つ異なる波長帯域で偏光分離特性が逆になるPBSはこれまで報告されていない。
【0022】
また、ダイクロイックフィルタは斜入射によりP偏光に対する透過帯域が広がり、S偏光に対する透過帯域が狭くなるため、偏光分離する波長帯域が現れるが、P偏光は透過、S偏光は反射するのみで、P偏光は反射、S偏光は透過することはなく、波長帯域によって第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させるような特性となることはない。
【0023】
一方、図27に示す画像投影装置における色分解合成には、2枚の波長選択性位相子56b,56rが必要不可欠である。この波長選択性位相子56b,56rは特許文献1に記載されているように複屈折を有する複数の延伸ポリカーボネートフィルムの異方性軸をそれぞれ特定の角度で積層させるため、成膜法を用いて誘電体多層膜で形成されるPBSやダイクロイックフィルタと比較して、製作方法が複雑で、高価な光学素子となる。
【0024】
また、ポリカーボネートは高分子フィルムであるため、材料の物理的性質上、熱、湿度、紫外線等の外部環境の影響を非常に受けやすく、色分解合成手段の信頼性、耐久性が低下する。また、面精度が低いために光学系中に用いるとフレアの原因となっている。一方、投射レンズの各レンズは反射防止膜にも依存するが、若干の反射が存在し、戻り光として色分解合成手段側に戻ってくる。従来の色分解合成手段ではこの戻り光が液晶による光変調素子まで戻るため、フレアの原因となっている。
【0025】
また、特許文献2には、波長選択性位相子を使用しない液晶による反射型光変調素子を用いた投影装置が開示されている。同公報では、青波長帯域のP偏光を反射、S偏光を透過し、且つ緑と赤帯域のP偏光を透過、S偏光を反射する作用を有するPBSを用いた色分解色合成手段を開示している。しかし、このPBSについては機能のみが示されており、実際の実現方法に関しては開示されていない。
【非特許文献1】Li Li and J. A. Dobrowolski, Appl. Opt., vol.39, p.2754, 2000.
【特許文献1】特表平11−504441号公報
【特許文献2】特開平11−153774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
偏光分離素子として第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させる波長選択性のある偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)は実現されていない。
【0027】
本発明は、この第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させる波長選択性偏光分離素子の提供を目的とする。
【0028】
この他、本発明はこの波長選択性偏光分離素子を投影装置の色分解色合成手段(色分解合成光学系)に用いることにより、構成が簡素化され、しかも高いコントラストが得られる信頼性、耐久性に優れた投影装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1の発明の偏光分離素子は、
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴としている。
【0030】
請求項2の発明の偏光分離素子は、
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴としている。
【0031】
請求項3の発明は請求項1又は2の発明において、
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回以上積層した多層膜であることを特徴としている。
【0032】
請求項4の発明は請求項1乃至3のいずれか1項の発明において、
前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であることを特徴としている。
【0033】
請求項5の発明は請求項1乃至4のいずれか1項の発明において、
前記第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、前記第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含むことを特徴としている。
【0034】
請求項6の発明は請求項1乃至5のいずれか1項の発明において、
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、
前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、
前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下であることを特徴としている。
【0035】
請求項7の発明は請求項1乃至6のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、
前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下であることを特徴としている。
【0036】
請求項8の発明は請求項1乃至7のいずれか1項の発明において、
前記多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれていることを特徴としている。
【0037】
請求項9の発明は請求項1乃至8のいずれか1項の発明において、
前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つは、互いに屈折率が異なる層を含むことを特徴としている。
【0038】
請求項10の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0039】
請求項11の発明の偏光分離素子は請求項10の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足することを特徴としている。
【0040】
請求項12の発明の偏光分離素子は請求項10又は11の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴としている。
【0041】
請求項13の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0042】
請求項14の発明の偏光分離素子は請求項13の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足することを特徴としている。
【0043】
請求項15の発明の偏光分離素子は請求項13又は14の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足することを特徴としている。
【0044】
請求項16の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0045】
請求項17の発明の偏光分離素子は請求項16の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足することを特徴としている。
【0046】
請求項18の発明の偏光分離素子は請求項16又は17の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴としている。
【0047】
請求項19の発明の画像表示素子は、
第1の画像表示素子と、
第2の画像表示素子と、
前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、
前記色合成光学系が、請求項1〜18いずれかに記載の偏光分離素子を有することを特徴としている。
【0048】
請求項20の発明の画像表示装置は、
第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、
前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、
光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、
前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、
前記照明光学系が、請求項1〜18に記載の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、
前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成した上で前記投射光学系に導くことを特徴としている。
【0049】
この他本発明の偏光分離素子は、
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0050】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれることを特徴としている。
【0051】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,H層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第1多層膜を含み、該第1多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0052】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,H層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第2多層膜を含み、該第2多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0053】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を2つの光学部材の間に狭持した偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、M層,L層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第5多層膜を含み、該第5多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0054】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を2つの光学部材の間に狭持した偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、M層,L層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第4多層膜を含み、該第4多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第2波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれることを特徴としている。
【0055】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,M層,L層,H層の順番で繰返し、積層した第6多層膜を含み、該第6多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0056】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,M層,L層,H層の順番で繰返し、積層した第7多層膜を含み、該第7多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0057】
◎前記多層膜構造にはS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有する第3多層膜が含まれることを特徴としている。
【0058】
本発明の画像表示装置は、
◎複数の反射型液晶表示素子と、
複数の色光でそれぞれ対応する前記複数の反射型液晶表示素子を照明し、該複数の反射型液晶表示素子からの複数の色光を合成して投射する光学系とを有する画像表示装置であって、
前記光学系が前記記載のいずれかに記載の偏光分離素子を用いて、前記複数の反射型液晶表示素子からの前記複数の色光を合成することを特徴としている。
【0059】
特に、前記偏光分離素子の多層膜に対して、前記光学系の光軸が略45度なしていることや、前記偏光分離素子の多層膜に入射する光線の入射角度範囲が10°以内の角度範囲であること等を特徴としている。
【0060】
本発明の投影装置は、
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、偏光の方向を90°回転する1/2波長板と、該光変調素子により変調された光を合成する偏光ビームスプリッタと、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【0061】
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、該光変調素子により変調された光を合成するダイクロイックプリズムと、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【0062】
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、該光変調素子により変調された光を合成するダイクロイックプリズムと、該光源手段側へのもれ光、又は/及び戻り光を遮断する偏光子と、直線偏光を円偏光に回転する1/4波長板と、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、ある波長帯域において、S偏光を透過、P偏光を反射することが可能な偏光分離素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明の実施例を以下で説明する。
【0065】
各実施例の偏光分離素子は、第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に(連続して)積層した多層膜を含む偏光分離素子である。ここで、この偏光分離素子は、第一波長領域の光(少なくとも450〜480nmの30nm以上の帯域幅を持つ領域の光、より好ましくは440〜485nmの光)に対しては、S偏光の透過率(少なくとも70%以上)がP偏光の透過率(少なくとも30%以下)よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光(少なくとも600〜630nmの30nm以上の帯域幅を持つ領域の光、より好ましくは590〜640nmの光)に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。又は、第一波長領域の光(好ましくは400〜500nmの青色波長領域内の少なくとも一部の波長領域の光)に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光(好ましくは570〜700nmの赤色波長領域内の少なくとも一部の波長領域の光)に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。
【実施例1】
【0066】
図1は本実施例1の波長選択性のある偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)の要部概略図であり、この図1ではこの波長選択性偏光分離素子の特性を簡略に示している。本実施例1の波長選択性偏光分離素子1は入射側プリズム(光学部材)11と射出側プリズム(光学部材)12とを接合して構成されている。この入射側プリズム11の入射面110および射出側プリズム12の射出面121に対して45度傾いた面に、後述する構成の多層膜構造10が設けられている。
【0067】
この波長選択性偏光分離素子の多層膜構造10に対して入射する光束の、(設計上の)入射角度は45°である(つまり、入射角度45度で入射した光に対してほぼ理想的な特性を有する)。波長選択性偏光分離素子1の特性は偏光方向、波長帯域により異なる。波長選択性偏光分離素子1は、ある波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率より高く(S偏光の反射率がP偏光の反射率よりも低く)、それとは異なる波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも低く(S偏光の反射率がP偏光の反射率よりも高く)なるような特性を有する偏光分離素子である。
【0068】
S偏光の青波長帯域(少なくとも450〜480nmの波長帯域、好ましくは445〜480nm)の光線20及びS偏光の赤波長帯域(少なくとも600〜630nmの波長帯域、好ましくは590〜640nm)の光線40が波長選択性偏光分離素子に入射するとする。この場合、図1(a)に示すように青波長帯域の光線20が多層構造10を透過して射出面121から射出し、赤波長帯域の光線40が多層膜構造10を反射して射出面111から射出する。P偏光の青波長帯域の光線21および赤波長帯域の光線41が入射する場合は、図1(b)に示すように青波長帯域の光線21が多層膜構造10を反射して射出面111から射出し、赤波長帯域の光線41が多層構造10を透過して射出面121から射出する。
【0069】
実施例1の波長選択性偏光分離素子1に設けられる多層膜構造10は、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をH、M、H、Lの順番で積層した多層膜が含まれるように構成されている。このときの各層の屈折率や膜厚を以下に記載したように適切に設定することによりS偏光を透過し、P偏光を反射する波長帯域を持つ偏光分離素子を構成することができる。
【0070】
ここで、この偏光分離素子1は、屈折率が1.85の材料で構成された入射側プリズム11と、この入射側プリズムより射出側に設けられた、屈折率が2.32の材料で構成された高屈折率層(以下、H層と称する)と、屈折率1.39の材料で構成された低屈折率層(以下、L層と称する)と、、屈折率1.65の中屈折率層(以下、M層と称する)と言う3種類(又は4種類以上)の互いに異なる屈折率を持つ材料からなる多層膜と、この多層膜の射出側に設けられた屈折率1.55の接着剤とにより構成されている。
【0071】
ここで、H層、L層、M層の材料の屈折率をそれぞれnH、nL、nMとし、H層、L層、M層の膜厚(実際の厚さであって、空気換算長ではない)をそれぞれdH、dL、dM、設計波長(ここでは550nm)をλとする。さらに、設計波長における、H層、L層、M層それぞれの1/4波長膜厚(H層の場合は、H=λ/(4nH)、L層の場合は、L=dL=λ/(4nL)、M層の場合は、M=λ/(4nM)となる)をH、L、Mとするとき、入射側から順に、入射側プリズム、1.0×L、0.5×H、1.0×M、0.5×H、接着剤の順に積層した多層膜(以下においては、このような多層膜を、Prism|1.0L 0.5H 1.0M 0.5H| 接着剤と表すこととする)の、波長550nmのS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図2(a)に示す。ここで、入射側プリズム及び射出側に設けられた接着剤は、屈折率が同じであれば材料は別のもの(例えば入射側が接着剤で、射出側がプリズム等)であっても構わない。
【0072】
この図2(a)において、入射角度42-44度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。さらに、この多層膜のL層、H層、M層、H層(又はH層、M層、H層、L層)の繰り返し構造を10回繰返した多層膜を持つ偏光分離素子の波長550nmのS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図2(b)に示す。ここで、L層、H層、M層、H層の繰り返し構造を10回繰返した多層膜を持つ偏光分離素子の構造を、「Prism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤」と表すこととする。
【0073】
図2(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図3に示す。基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光を反射、P偏光を透過している特性が得られている。つまり波長選択性偏光分離素子の基本特性となっていることがわかる。検討の結果、多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適切に選択することにより良好な偏光分離素子を得ている。すなわち、前述の第1多層膜内で繰り返し積層される「H層、M層、H層、L層」の各々の膜厚を「b×H、c×M、d×H、a×L」としたとき、0<a<3, 0<b≦1, 0<c<5, 0<d≦1(ただし、a,b,c,dは実数。)
を満足するように多層膜、或いはその多層膜を有する偏光分離素子の設計を行う。
【0074】
さらに、この第1多層膜の多層膜構造が以下の関係を満たすように構成すれば、さらに角度特性の良好な多層膜或いは偏光分離素子を得ることができる。
0<a<1.5, 0<b≦1, 0<c<2, 0<d≦1(ただし、a,b,c,dは実数。)
しかし、図3の透過波長帯域(入射角45°)には若干のリップルが見られる。このリップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚の調節(最適化)を行った。ここで、入射側プリズム11はOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。尚、以下の各実施例においてH層、L層、M層の材料は同様のものが適用できる。
【0075】
その膜厚を調整した第1多層膜の各層の膜厚を表1に示し、その多層膜を有する偏光分離素子の透過率特性(入射角45°)を図4に示す。この表の中の層数番号は入射側からの順番であり、この表1より分かるように、第1多層膜の層数は全部で40層となった。
【0076】
図4を見れば分かるように、第1多層膜に対して入射角45度で入射する光のうち、青波長帯域(特に440〜480nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に580〜660nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【0077】
なお、層数、膜厚はこの表1に記載したものに限定されるものではない。若干、膜厚が変化したもの、或いは、多層膜の中に、表1に記載していない膜が1、2層挟まれていたとしても、本実施例に記載の範囲と実質的に同じである。
【0078】
また、リップルの低減のために最適化手法を用いたが、単層または多層の調整層を設計し、その調整層を積層するように最適化を行った多層膜を用いることも可能である。また、対称多層膜構造等の従来の各膜設計手法を用いても同等の光学特性が得られるため、最適化の手法は本実施例1に記載した手法に限定されるものではない。
【0079】
また、偏光分離値の仕様、使用中心角度、使用角度範囲により、必要な層数が異なるため、本発明は、表1及びその他の表に記載した層数に限定されるものではない。
【0080】
また、H層、M層、L層の各層の間に光学的作用を及ぼさない又は光学的作用の小さな層を設けても良い。例えば屈折率をn、厚さをdとしたとき
nd≦2nm
程度の層を設けても良く、これに限定されない。
【0081】
尚、ここで、H層は最も高い屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層であり、M層はH層より低い屈折率領域に属する屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層であり、L層はM層より低い屈折率領域に属する屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層である。従って、L層、H層、M層、H層の繰り返し構造を有する多層膜構造においては、H層は隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有しており、L層は隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有しており、M層は隣り合う一方の薄膜よりは屈折率が高く、他方の薄膜よりは屈折率が低い層である。勿論、H層、M層、L層それぞれの材料の種類は1種類である必要は無く、それぞれの屈折率領域に属する材料であれば、複数の材料を用いても構わない。
【0082】
また、この実施例の多層膜構造において、このL層、H層、M層、H層(又はH層、M層、H層、L層の順の多層膜)の構造が10回以上(少なくとも5回以上)繰返されている(好ましくは他の層を挟まずに連続して繰り返し積層されている)ことが望ましい。
【0083】
また、この多層膜(第1多層膜)は、S偏光に関しては第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して前記第一波長帯域の透過率が低く、前記第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有しており、この第一波長帯域および第二波長帯域は共に30nm以上(好ましくは50nm以上)の帯域幅があり、且つその30nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上(好ましくは75%以上)であることが望ましい。
【0084】
また、波長選択性偏光分離素子は図1にように入射側プリズム11と射出側プリズム12の間に多層膜構造10が配置されている。このため多層膜が形成されていない側のプリズムと接着剤との接合面において反射が生じ、この反射は透過帯域の透過率の減少となる。このため、プリズムと接着剤との接合面に反射防止構造を設けることが好ましい。反射防止構造はよく知られている単層または多層反射防止膜等を用いることができる。
【0085】
また、この実施例1に記載した偏光分離素子も以下の実施例に記載した偏光分離素子も、においても、可視領域の光はほとんど吸収しない。従って、本明細書に記載の、偏光分離素子の透過率を示す図においては「透過率」についてしか記載していないが、本実施例中に記載の偏光分離素子は可視領域の光をほとんど吸収しないため、偏光分離素子の「反射率」については容易に知ることができる。従って、偏光分離素子の「反射率」については特に図面等では記載しないが、「100%−(透過率)≒(反射率)」と考えることにより、実質的に記載があるものとする。尚、ここで、この偏光分離素子における可視領域の光の吸収率(400〜700nmの波長の光がほぼ均等に存在する白色光に対する吸収率)は、多くても2%以下で、好ましくは0.5%以下である。
【0086】
以上のことは、以下の各実施例においても同様である。
【0087】
参考の為に表1より以下に実数a,b,c,dを求めてみる。
【0088】
nH、nL、nMを各々H層、L層、M層の材料の屈折率、λを設計波長、
H=λ/(4nH)、L=dL=λ/(4nL)、M=λ/(4nM)であるからL層、H層、M層、H層の膜厚は順にa×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)となる。
【0089】
まず第1層の低屈折率相のL層について膜厚dLと実数aとの関係を求めてみると次のようになる。
【0090】
dL=a×λ/(4nL) より
a=dL×(4nL)/λ
となる。ここで表−1より
dL=70.66(nm)
λ=550(nm)
nL=1.39
を代入すると
a=0.714
となる。
【0091】
同様に第2層の高屈折率層のH層について実数bを求めてみると
b=dH×(4nH)/λ
に
dH=26.45(nm)
λ=550(nm)
nH=2.32
を代入すると
b=0.446
となる。
【0092】
第3層の中間屈折率層のM層に関する実数cは
c=dM×(4nM)/λ
に
dM=96.53(nm)
λ=550(nm)
nM=1.65
を代入すると
c=1.158
となる。
【0093】
第4層の高屈折率層のH層に関する実数dは
d=dH×(4nH)/λ
に
dH=39.69(nm)
λ=550(nm)
nH=2.32
を代入すると
c=0.670
となる。
【0094】
以下同様の計算により各層に関する実数a〜dを求めることができる。
【0095】
尚、実数a〜dの範囲は各層における数値範囲の値を示しているが、複数層のうちいくつかの層については実数a〜dの数値範囲から外れていても、分光特性に大きな変化がない。
【0096】
従って実数a〜dは低屈折率層、高屈折率層、中間屈折率層、高屈折率層の順で積層される各層における実数a〜dの平均値をa',b',c',d'として取り扱っても良い。
【0097】
実数a〜dの求め方及び数値範囲に関する平均値a',b',c',d'の取扱いについては以下の各実施例についても全く同様である。
【実施例2】
【0098】
実施例1の表1で示した多層膜(第1多層膜とする)は特定入射角(実施例1では45度)において設計されている。図2(b)の角度特性を見れば、角度変化(設計入射角度、実施例1の場合は45度、からの入射角のずれ)に対して光学特性(透過特性、反射特性等)が敏感に変化する。そこで、この実施例2では、実施例1よりも角度変化に対して鈍感な(角度変化に強い)偏光分離素子(多層膜)を設計する。
【0099】
なぜなら、投影装置(プロジェクタ等)の色分解合成手段(色分解合成光学系等に使われる偏光分離素子)に入射する光束の入射角度は所定の分布を有しており、設計値(例えば45度)とは異なる角度で入射する光も存在するからである。
【0100】
このような第1多層膜に対して、以下に示す第2多層膜を積層することにより、角度特性の良好な偏光分離素子の提供を可能としている。第2多層膜は、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番(勿論、最初の層はどの層であっても構わない。すなわち、例えばH層、M層、H層、L層の順番でも構わない。)で積層した多層膜であって、S偏光入射に対して青波長帯域の透過率が高く、且つP偏光入射に対して青波長帯域の透過率が低く、赤波長帯域の透過率が高い機能を有する。
【0101】
ここで、入射側プリズム11の材料の屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおける構成がおおよそにおいて「Prism|0.7L 0.35H 1.5M 0.35H| 接着剤」という構成の偏光分離素子の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図5(a)に示す。ここでは、入射角度40-48度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。
【0102】
さらに、この多層膜構造を10回繰返した「Prism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤」という構成の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図5(b)に示す。図5(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この第2多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図6に示す。第1多層膜の図3と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性で、S偏光とP偏光で強い偏光分離が見られるが、第2多層膜ではさらにS偏光の反射帯域(略500-650nmの帯域)を屈折率・膜厚を調整することで透過させていることが特徴である。これを利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第2多層膜の基本特性となっていることがわかる。
【0103】
この第2多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がほとんどなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。このように、第1多層膜と第2多層膜を積層することにより、角度特性の良好な波長選択性の偏光分離機能を持った多層膜又はその多層膜を有する偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)の提供が可能となる。
【0104】
ここで、この第2多層膜内で繰り返し積層される「H層、M層、H層、L層」の各々の膜厚を「b×H、c×M、d×H、a×L」としたとき、
0<b≦a≦c<5, 0<d≦a≦c<5(ただし、a,b,c,dは実数。)
を満足するように、多層膜を構成すれば、角度特性が良好な偏光分離素子を得ることができる。
【0105】
さらに好ましくは、以下の関係式を満足すると良い。
0<b≦a≦c<2, 0<d≦a≦c<2
以上のような、低入射角度における阻止帯域拡大を目的とした第2多層膜と、第1多層膜とを積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚の調整(最適化)を行った。ここで、入射側プリズム11はOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で103層となった。この多層膜、及びその多層膜を有する偏光分離素子内の各膜厚を表2に示し、45±5度の入射角度で入射するS偏光、P偏光に対する偏光分離素子の透過率特性を図7に示す。この図7より、45±5度の入射角度範囲(実質的に40〜50度の入射角度範囲内すべて)において、青波長帯域(特に440〜480nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に590〜640nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【実施例3】
【0106】
本実施例3においては、S偏光入射に対して青波長帯域(第一波長帯域)の透過率が高く、赤波長帯域(第二波長帯域)の透過率が低く、且つP偏光入射に対して赤波長帯域の透過率が高い光学特性を有する第3多層膜を設計し、この第3多層膜と実施例2で用いた第2多層膜(青波長帯域においてS偏光光の透過率が高く且つP偏光光の透過率が低くて、赤波長帯域においてP偏光光の透過率が高い特性を持つ膜)とを積層して偏光分離膜を構成している。
【0107】
この第3多層膜は、例えばP偏光入射については多層膜の屈折率から求められるブリュースター角を満たし、S偏光入射についてはダイクロイックフィルタとして機能することにより可能である。また、ダイクロイックフィルタにおけるS偏光とP偏光のカットオフ波長を調整することによっても設計することができる。
【0108】
この第3多層膜の設計例を表3、この第3多層膜に対して可視光領域(400〜700nm)の光が40度、45度、50度で入射する際の透過率特性(透過率の変化)を図8に示す。ここで、入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層(後述するL2層)はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。この第3多層膜の設計例においては、層数は全部で24層である(勿論層数は24層以外でも構わない)。この第3多層膜の透過率特性を示している図8を見れば、45±5度(実質的に40〜50度の角度範囲内)の入射角度で第3多層膜(入射側プリズムと射出側の接着剤を含んだ偏光分離素子)に入射するS偏光に対しては青波長帯域の光を透過し、赤波長帯域の光を反射しており、且つ45±5度(実質的に40〜50度の角度範囲内)の入射角度で第3多層膜(入射側プリズムと出射側の接着剤を含んだ偏光分離素子)にP偏光入射に対しては、赤波長帯域の光を透過し(青波長帯域の光も透過し)ていることがわかる。
【0109】
上記の第2多層膜と第3多層膜とを積層することにより、この実施例3の偏光分離素子に用いる多層膜を作成する。具体的な設計においては第2多層膜の阻止帯域幅(S偏光を透過し、P偏光を反射させる帯域)拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚の調整(最適化)を行った。この膜厚の調整を行った多層膜を用いる偏光分離素子の入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L1層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、L2層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側の材料は屈折率1.55の接着剤とした。また、この偏光分離素子に用いる多層膜のうち、前述の第2多層膜に想到する部分は、H層、M層、L1層を含むH、M、H、L1層より成る多層膜とし、前述の第3多層膜に想到する部分は、H層、M層、L2層より成る多層膜を用いた。層数は全部で144層である。ここで、L1層、L2層は、広い意味でL層(低屈折率層)に含まれており、後述するH1層、H2層は同じくH層に、M1層、M2層はM層に含まれるものとする。
【0110】
このようにして設計した偏光分離素子のにおける各層の膜厚を表4に示し、その偏光分離素子の多層膜に対して45±5度の入射角度で入射するS偏光、P偏光の透過率特性(可視領域の光に対する透過率特性)を図9に示す。この図9を見れば分かるように、青波長帯域(特に435〜490nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に590〜640nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【実施例4】
【0111】
実施例1〜3においては、第一波長帯域(偏光分離素子がS偏光を透過してP偏光を反射する帯域)が青波長帯域、第二波長帯域(偏光分離素子がP偏光を透過してS偏光を反射する帯域)が赤波長帯域である。これに対して実施例4は第一波長帯域を赤波長帯域、第二波長帯域を青波長帯域とした実施例である。設計は実施例3と同様に、第2多層膜および第3多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。設計結果の各膜厚を表5、入射角度45°±5°での透過率を図10に示す。
【0112】
入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L1層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、L2層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M1層はY2O3(波長550nmにおける屈折率1.80)、M2層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。
【0113】
第2多層膜はH層、M1層、L1層を含むH、M、H、L(L1)を繰り返し積層して成る多層膜、第3多層膜は、H層、M2層、L2層より成る多層膜を用いた。層数は全部で164層である。45±5度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過、赤波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0114】
このように波長選択偏光分離素子は波長帯域に限定しなく、仕様に応じた特性が可能である。また、よく知られているようにすべての層の膜厚を均一にシフトさせることにより波長帯域をシフトさせることも可能である。
【実施例5】
【0115】
実施例5は、L層にMgF2を用いず、低屈折率薄膜材料として広く用いられているSiO2を用いた場合の実施例である。設計は実施例2と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。
【0116】
設計結果の各膜厚を表6、入射角度45°±5°での透過率を図11に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はY2O3(波長550nmにおける屈折率1.80)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で203層である。45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。SiO2はMgF2と比較して屈折率が高いため、MgF2を用いた場合より層数が増える。H層についても同様であり、TiO2ではなく、Ta2O5などの薄膜を用いても設計することが可能である。これより、波長選択性偏光分離素子を可能にする薄膜は材料に限定されない。
【実施例6】
【0117】
実施例6は、入射側プリズムに商品名PBH56を用いず、比較して低屈折率なガラスの一つであるOHARA社商品名S-LAL14を用いた場合の実施例である。設計は実施例2,5と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。
【0118】
設計結果の各膜厚を表7、入射角度45°±5°での透過率を図12に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名S-LAL14(波長550nmにおける材料の屈折率1.70)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で232層である。
【0119】
45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。商品名S-LAL14は商品名PBH56比較して屈折率が低いため、商品名PBH56を用いた場合より層数が増えてしまうが、入射側のガラスには限定されない。
【実施例7】
【0120】
実施例7は、基本膜構成であるL、H、M、Hの順番を繰返して設計する際の2つのH層が異なる材料であり、基本膜構成がL、H1、M、H2の順番を繰返した場合の実施例である。
【0121】
設計は実施例2、5、6と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。設計結果の各膜厚を表8、入射角度45°±5°での透過率を図13に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H1層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、H2層はTa2O5(波長550nmにおける屈折率2.15)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で151層である。
【0122】
45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。L、 H、 M、 Hの順番を繰返す際に必ずしも同じ種類の薄膜である必要はないことがわかる。また、L、 H1、 M、 H1、 L、 H2、 M、 H2の順番のように繰返すごとに異なる薄膜材料を用いても同様である。このことはM層、L層についても同様である。
【実施例8】
【0123】
実施例2〜7において、第2多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率、膜厚を調整することにより実現できることを示した。本発明者はこの第2多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をM層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率、膜厚を調整する第5多層膜により第2多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0124】
ここで第5多層膜はL,M,H,M層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0125】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成がPrism|2.1M 1.2L 2.1M 0.6H | 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図14(a)に示す。
【0126】
入射角度42-45度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。さらに、この多層膜構造を10回繰返したPrism|(2.1M 1.2L 2.1M 0.6H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図14(b)に示す。
【0127】
図14(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図15に示す。
【0128】
実施例2の図6と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第5多層膜の基本特性となっていることがわかる。また、図6と比較すると同じ層数でもP偏光の反射率が下がっていることがわかる。これよりL層、H層、M層、H層を繰返した場合より多層膜の層数が減少する。一方、角度特性は敏感であることがわかり、入射角度範囲を広くすると層数は増加する。
【0129】
この第5多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。
【0130】
この結果、第4多層膜をM層,L層,M層,H層の多層膜とし、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第2波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれる第4多層膜は第5多層膜を積層することにより、角度特性の良好な素子が可能となる。
【0131】
検討の結果、第4、第5多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×M b×L c×M d×H)
0<a<6, 0<c<6, d<b, 0<b<5, 0<d<2
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0132】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×M b×L c×M d×H)
0<a<3, 0<c<3, d<b, 0<b<2, 0<d<1
具体的な設計においては第1多層膜と低入射角度における阻止帯域拡大のために層数を増やした第5多層膜を積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚最適化を行った。
【0133】
また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で65層である。結果を各膜厚を表9、入射角45°±2°における透過率を図16に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例9】
【0134】
実施例8において、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をM層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより得られる第5多層膜を設計し、第4多層膜を積層している。実施例9の偏光分離素子はM層、L層、M層、H層の順番で積層した第5多層膜と第3多層膜を積層して構成している。
【0135】
ここで第3多層膜はS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有するものである。
【0136】
具体的な設計においては第5多層膜の阻止帯域幅拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため、膜厚最適化を行った。また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で63層である。結果を各膜厚を表10、入射角45°±2°における透過率を図17に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例10】
【0137】
本発明の波長選択性偏光分離素子は図1にように入射側プリズム11と射出側プリズム12の間に多層膜構造10が配置されている。このため多層膜が形成されていない側のプリズムと接着剤との接合面において反射が生じ、この反射は透過帯域の透過率の減少となる。この対策として前述したようにプリズムと接着剤との接合面に反射防止構造を設けることが挙げられるが、実施例10では第1多層膜を入射側プリズム11側と射出側プリズム12側に分割してそれぞれ積層し、接着剤により接合されたものである。中間の接着剤は非干渉媒質となるため、これを考慮した設計が必要となる。第1多層膜を構成する第5多層膜、第3多層膜を入射側、射出側のプリズムにそれぞれ積層させることにより、それぞれの膜設計が機能的にも分割しているため、設計が容易となり、また、製作に対して有利である。
【0138】
具体的な設計においては入射側、射出側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、第3多層膜のH層はTa2O5(波長550nmにおける屈折率2.15)、L層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤、第5多層膜はH層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)とした。層数は第5多層膜が63層、第3多層膜が13層である。結果を各膜厚を表11、12、第3多層膜、第5多層膜を含む全ての入射角45°±2°における透過率を図18に示す。透過率Tは非干渉媒質の接着剤の多重反射を考慮した次式を用いて算出した。
【0139】
【数1】
【0140】
ただし、T1、T2はそれぞれ第3多層膜の透過率、第5多層膜の透過率である。透過率から45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0141】
また、多層膜を入射側、射出側に分割する場合、実施例10のように機能別に分割しない設計も可能であるため、これに限定されない。また、対称多層膜構造の用いた場合も同等の光学特性が得られ、かつ入射側、射出側とも同じ膜となるため、同一プロセスで成膜できるという利点を有する。これらに限定されない。
【実施例11】
【0142】
実施例1において、第1多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより実現できることを示した。本発明者はこの第1多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整する第6多層膜により第2多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0143】
ここで第6多層膜はL,M,L,H層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0144】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成が Prism|(0.5L 1.7M 0.5L 0.5H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の入射角45度における透過率の波長特性を図19に示す。
【0145】
実施例1の図3と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光を反射、P偏光を透過している特性が得られている。つまり波長選択性偏光分離素子の基本特性となっていることがわかる。
【0146】
検討の結果、第6多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより良好な偏光分離素子を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<a<3, 0<b<5, 0<c<3, 0<d≦1
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0147】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<a<1.5, 0<b<2, 0<c<1.5, 0<d≦1
しかし、図19の透過波長帯域にはリップルが見られる。このリップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚最適化を行った。また、入射側プリズム11はOHARA社商品名S-LAH55(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。
層数は全部で40層である。結果を各膜厚を表13、入射角45°における透過率を図20に示す。表の層数番号は入射側からの順番である。入射角45度において、青波長帯域(略430-490nm)はS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域(略580-650nm)はS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例12】
【0148】
実施例2〜7において、第2多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより実現できることを示した。また、実施例8〜10において、M層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより第2多層膜と同様の第5多層膜が実現できることを見出した。
【0149】
本発明者はこの第2乃至第5多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整する第7多層膜により第2乃至第5多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0150】
ここで第7多層膜はL,M,L,H層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0151】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.9M 0.5L0.32H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の入射角45°における透過率の波長特性を図21に示す。
実施例2の図6、実施例8の図15と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第7多層膜の基本特性となっていることがわかる。
【0152】
この第7多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。
【0153】
この結果、第1乃至第第6多層膜と第7多層膜を積層することにより、角度特性の良好な素子が可能となる。
【0154】
検討の結果、第7多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<d≦a≦b<5, 0<d≦c≦b<5
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0155】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<d≦a≦b<3, 0<d≦c≦b<3
具体的な設計においては第6多層膜と低入射角度における阻止帯域拡大のために層数を増やした第7多層膜を積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚最適化を行った。
【0156】
入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で100層である。結果を各膜厚を表14、入射角45°±2°における透過率を図22に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0157】
なお、第6多層膜と同様の特性である第2多層膜と第7多層膜を積層しても同等な特性が得られることは明らかであり、これに限定されない。
【実施例13】
【0158】
実施例12において、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより得られる第7多層膜を設計し、第6多層膜を積層している。実施例13の偏光分離素子はL層、M層、L層、H層の順番で積層した第7多層膜と第3多層膜を積層して構成している。
【0159】
ここで第3多層膜はS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有するものである。
【0160】
具体的な設計においては第7多層膜の阻止帯域幅拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため、膜厚最適化を行った。また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で117層である。結果を各膜厚を表15、入射角45°±2°における透過率を図23に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例14】
【0161】
図24は本発明の実施例1〜13の偏光分離素子を用いた投影装置の実施例14の要部概略図である。同図は色分解色合成手段として波長選択性偏光分離素子を用い、複数の信号に合わせて偏光方向を変調する複数の反射型液晶表示素子55b,55g,55rを用い投影光学系57で液晶に基づく画像を投影する構成を示している。
【0162】
矢印は白表示(画像情報が白色)における赤、緑、青色のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0163】
具体的に20,21は青波長帯域のS,P偏光光線、30,31は緑波長帯域のS,P偏光光線、40,41は赤波長帯域のS,P偏光光線である。
【0164】
光源(光源手段)51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光20,30,40はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域(波長およそ500〜580nm)の光線30を透過、赤波長帯域(波長およそ580〜650nm)の光線40、青波長帯域(波長およそ430〜490nm)の光線20を反射させる。
【0165】
ダイクロイックミラー53aを透過した緑波長帯域の光線30はPBS54aで反射し、緑用の反射型液晶表示素子55gに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、2つのPBS54a,PBS54cを透過して投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0166】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性偏光分離素子1を透過し、青用の反射型液晶表示素子55bに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光21となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を反射し、1/2波長板58によりS偏光20に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0167】
ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性偏光分離素子1を反射し、赤用の反射型液晶表示素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を透過し、1/2波長板58によりS偏光40に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0168】
黒表示(画像情報が黒色)の場合はいずれの光も反射型液晶表示素子55r,55g.55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、光学部材を介し同じ光路で再び光源51側に戻る。1/2波長板58は波長依存性のないものが好ましい。
【0169】
図27の従来の反射型液晶表示素子を用いた液晶投影光学系のPBS54bを波長選択性偏光分離素子1に置き換えることによって2つの波長選択性位相子56b,56rを使う必要がなくなる。
【0170】
実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子は真空蒸着等により製作できる誘電体多層膜であるため、波長選択性偏光分離素子の課題を改善し、簡易な構成で信頼性、耐久性の向上、高い面精度を実現した色分解合成手段が実現できる。また、波長選択性位相子がなくなるため、全体の透過率が上がり、投影する光量も上がる。
【0171】
図24の色分解合成手段は一例であり、光学部品、色分解の波長帯域、光線方向等が図24と異なる場合も波長選択性偏光分離素子によって投影装置が可能となる。特に、各素子間に偏光子を設けることにより特定偏光を遮断し、各素子からもれるもれ光が低減でき、コントラスト向上に有効である。また、図24では偏光変換素子52によりS偏光に変換されるが、P偏光であっても同様な投影装置が可能であり、これに限定されない。
【0172】
また、色分解合成系において各プリズムは温度上昇に伴う応力発生より位相差が生じるため、伝播光の偏光状態が変化してしまう。このため、光弾性定数の低いものを用いることが好ましく、光弾性定数0.09×10-8cm2/N のOHARA社PBH56のような低い光学部材を用いる方が好ましい。また、応力の発生を低減するものを用いることも好ましい。応力はヤング率、膨張係数の関数で与えられるため、ヤング率・膨張係数の低いものを用いることが好ましく、OHARA社S-LAL14、S-LAH55等のような光学部材を用いる方が好ましい。
【0173】
また、実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子の特性において、照明光学系、素子の製造ばらつき、光源手段の分光分布等を考慮すると、第一波長帯域および第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、且つその30nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上でないと投影装置の明るさ、コントラストが十分得られない。さらに第一波長帯域および第二波長帯域は共に50nm以上の帯域幅があり、且つその50nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が75%以上であるほうが好ましい。さらに、帯域幅が広く、S偏光とP偏光の透過率の差が大きいほど好ましいことは明らかであってこれらの設計も可能である。
【0174】
以上のことは以下の各実施例においても同様である。
【実施例15】
【0175】
図25は、本発明の実施例15の投影装置の要部概略図である。実施例15は実施例14と同様に実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子と反射型液晶表示素子を用いた投影装置である。図25において矢印は白表示における赤、緑、青色のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0176】
光源(光源手段)51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光20,30,40はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域の光線30を透過、赤波長帯域の光線40、青波長帯域の光線20を反射させる。ダイクロイックミラー53aを透過した緑波長帯域の光線30はPBS54aで反射し、緑用の液晶による反射型液晶表示素子55gに入射し、変調される。
【0177】
白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、PBS54a,を透過し、ダイクロイックプリズム53bを透過し、投射レンズ系57に入射し、投影される。ダイクロイックプリズム53bは緑波長帯域のP偏光を透過、青、赤波長帯域のP偏光を反射させる多層膜をプリズムで挟み込んだ素子である。
【0178】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性偏光分離素子1を透過し、青用の反射型液晶表示素子55bに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光21となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を反射し、ダイクロイックプリズム53bを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性偏光分離素子1を反射し、赤用の反射型液晶表示素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を透過し、ダイクロイックプリズム53bを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0179】
黒表示の場合はいずれの光も液晶変調素子55r,55g.55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、光学部材を介し同じ光路で再び光源51側に戻る。
【0180】
実施例15では1/2波長板を用いていないため、全体の透過率が上がり、光量が増加する。図27の従来の反射型液晶表示素子を用いた投影装置のPBS54bを波長選択性偏光分離素子1に置き換えることによって2つの波長選択性位相子56b,56rを使う必要がなくなる。実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子は真空蒸着等により製作できる誘電体多層膜であるため、波長選択性偏光分離素子の課題を改善し、簡易な装置で信頼性、耐久性の向上、高い面精度を実現した色分解合成手段が実現できる。また、波長選択性位相子がなくなるため、全体の透過率が上がり、投影する光量も上がる。
【実施例16】
【0181】
図26は本発明の実施例16の投影装置の要部概略図である。
【0182】
実施例16は実施例15の投影装置についてさらにコントラストの向上、フレアを低減したものである。
【0183】
図中実線がS偏光、波線がP偏光、一点鎖線は円偏光である。
【0184】
実施例16が実施例15と異なる点はPBS54aとダイクロイックプリズム53bとの間、波長選択性偏光分離素子1とダイクロイックプリズム53bとの間にS偏光を遮断する偏光子59を各々配置する。また、ダイクロイックプリズム53bと投射レンズ系57との間に1/4波長板60を設置する。
【0185】
偏光子59によりPBS54aおよび波長選択性偏光分離素子1のもれ光が遮断されるため、コントラストが向上する。特に黒表示の際に反射型液晶表示素子から反射されるS偏光がPBS54aおよび波長選択性偏光分離素子1からもれるもれ光が遮断できる。また、投射レンズ系57の各レンズは反射防止膜にも依存するが、若干の反射が存在し、戻り光として色分解合成手段に戻る。
【0186】
図27の従来の色分解合成手段ではこの戻り光が液晶による光変調素子まで戻るため、フレアの原因となる。これに対して、本実施例では図26(a)のように1/4波長板60を射出した光が青、緑、赤色の波長帯域それぞれが円偏光22,32,42となり、投射レンズ57に入射し、投影される。投影レンズ57からの戻り光22,32,42は図26(b)に示すように、1/4波長板60を透過してS偏光20,30,40となる。ダイクロイックプリズム53bにより透過および反射び分解されるが、透過・反射のいずれでも偏光子59により遮断される。
【0187】
このため、戻り光が液晶による光変調素子まで戻らないため、フレア低減が可能である。図26(a),(b)の色分解合成手段は一例であり、光学部品、色分解の波長帯域、光線方向等が図26と異なる場合も波長選択性偏光分離素子によって投影装置が可能となる。
【0188】
以上のように各実施例の投影装置は、光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換手段と、波長帯域により光を分解合成する手段と、実施例1〜13のいずれか1つの偏光分離素子による光の色分解および合成の両方の機能を有する光学手段と、偏光方向を変調する光変調手段と、合成された光を投影する投影手段を有している。
【0189】
また、これら実施例の投影装置(画像表示装置)は、複数の反射型液晶表示素子(反射型液晶パネル)と、複数の色光でそれぞれ対応する前記複数の反射型液晶表示素子を照明し、該複数の反射型液晶表示素子からの複数の色光を合成して投射する光学系とを有する画像表示装置であって、前記光学系が実施例1〜のいずれかに記載の偏光分離素子を用いて、前記複数の反射型液晶表示素子からの前記複数の色光を合成している。ここで、前記偏光分離素子の多層膜(多層膜構造が構成されている面)に対して、前記光学系の光軸が略45度(44〜46度の範囲)なしている。前記偏光分離素子の多層膜に入射する光線の入射角度範囲が10度以内の角度範囲(つまり、40〜50度の角度範囲で多層膜構造が形成されている面に入射する)である。
【0190】
以上のように、各実施例によれば、3つの異なる屈折率(互いに異なる3つの屈折率領域)を持つ薄膜を積層した波長選択性のある偏光分離素子を用いることで、反射型の液晶プロジェクターの光学系の色分解合成手段において、波長選択性位相変換素子が不要な光学系(投影装置)が実現でき、小型、耐久性の高い光学系が可能となる。また、投射レンズから反射した戻り光を遮断する色分解合成手段の構成が実現でき、コントラスト向上およびフレアの低減が可能な光学系が得られる。
【0191】
以上述べた本実施例について、表16を用いて説明する。表16に記載したのは、実施例1〜13の偏光分離素子に用いられる多層膜の主な構成部分の概略構成(多層膜の概略構成)と、入射側プリズムの材料とその屈折率、高屈折率層の屈折率、中屈折率層の屈折率、低屈折率層の屈折率、出射側に配置された接着剤の屈折率、高屈折率層と中屈折率層の屈折率差、中屈折率層と低屈折率層の屈折率差、波長430nmでのP偏光の透過率(%)、波長430nmでのS偏光の透過率(%)、波長430nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長490nmでのP偏光の透過率(%)、波長490nmでのS偏光の透過率(%)、波長490nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長580nmでのP偏光の透過率(%)、波長580nmでのS偏光の透過率(%)、波長580nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長650nmでのP偏光の透過率(%)、波長650nmでのS偏光の透過率(%)、波長650nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)である。
【0192】
ここで、波長430nmと波長490nmという波長は、第1〜3、5〜13実施例の偏光分離素子がS偏光を透過しP偏光を反射する領域(すなわち第一波長領域)の下限値と上限値であり、第4実施例においてはS偏光を反射しP偏光を透過する領域(すなわち第2波長領域)の大まかな下限値と上限値である(実施例によって10〜20nm前後の違いがある)。
【0193】
そして、波長580nmと波長650nmという波長は、第1〜3、5〜13実施例の偏光分離素子がP偏光を透過しS偏光を反射する領域(すなわち第2波長領域)の下限値と上限値であり、第4実施例においてはP偏光を反射しS偏光を透過する領域(すなわち第1波長領域)の大まかな下限値と上限値である(実施例によって10〜20nm前後の違いがある)。
【0194】
また、ここで透過率の差を示しているが、波長430nmから波長490nmの範囲内におけるP偏光とS偏光の透過率の差は、波長430nmにおける透過率の差及び波長490nmにおける透過率の差以上である。波長580nmから波長650nmの範囲内においても同様のことが言える。
【0195】
本実施例において長波長側の波長を650nmの代わりに670nm程度に設定しても良い。
【0196】
ここで、表16より以下のことが言える。尚、以下の記載は表16を見れば分かるように、本実施例のうちの少なくとも一部の実施例が満たしている条件である。
【0197】
入射側に配置されたプリズム(他の透過型の光学部材であれば別の部材でも構わない)の屈折率は、1.55(好ましくは1.65)以上2.1(好ましくは1.90)以下であることが望ましい。
【0198】
高屈折率層の屈折率は、2.0(好ましくは2.1)以上2.6(好ましくは2.35)以下であることが望ましい。
【0199】
中屈折率層の屈折率は、1.59(好ましくは1.60)以上1.9(好ましくは1.82)以下であることが望ましい。
【0200】
低屈折率層の屈折率は、1.25(好ましくは1.35)以上1.56(好ましくは1.50)以下であることが望ましい。
【0201】
出射側の接着剤の屈折率は、1.40(好ましくは1.50)以上1.70(好ましくは1.60)以下であることが望ましい。
【0202】
高屈折率層と中屈折率層との屈折率の差は、0.35(好ましくは0.48)以上0.9(好ましくは0.70)以下であることが望ましい。
【0203】
中屈折率層と低屈折率層との屈折率の差は、0.12(好ましくは0.15)以上0.55(好ましくは0.42)以下であることが望ましい。
【0204】
また、第一波長領域は、少なくとも450〜480nm(好ましくは430〜490nm)の領域を含んでいることが望ましい。また、実施例4のように600〜630nm(好ましくは585〜630nm)の領域を含んでいても良い。そして、この第一波長領域においては、S偏光の透過率は60%(より好ましくは80%、さらに好ましくは90%)以上であることが望ましく、P偏光の透過率は、40%(より好ましくは32%、さらに好ましくは20%)以下であることが望ましい。その結果として、S偏光とP偏光の透過率の差は、60%(より好ましくは70%、さらに望ましくは80%)以上であることが望ましい。実施例4に関しては、S偏光の透過率が40%(より望ましく30%、より好ましくは20%)以下であることが望ましく、P偏光の透過率が60%(より望ましくは80%、さらに好ましくは90%)以上であることが望ましい。その結果として、実施例4に関しては、S偏光とP偏光の透過率の差は、60%(より好ましくは70%)以上である。
【0205】
また、第二波長領域は、少なくとも600〜630nm(好ましくは590〜650nm)の波長領域を含んでいることが望ましい。また、実施例4のように450〜480nm(好ましくは430〜490nm)の領域を含んでいても良い。また、この第2波長領域においては、S偏光の透過率は40%(好ましくは20%、より望ましくは10%)以下であって、P偏光の透過率は60%(好ましくは80%、より好ましくは90%)以上である。その結果としてS偏光とP偏光の透過率の差は、60%(好ましくは70%、より好ましくは75%)以上である。実施例4に関しては、S偏光の透過率が40%(好ましくは15%、より好ましくは7%)以下であり、P偏光の透過率が60%(好ましくは70%)以上である。その結果としてS偏光とP偏光との透過率差は、60%(好ましくは70%、より好ましくは72%)以上である。
【0206】
また、以上より、すべての実施例に関して、以下のことが言える。
【0207】
本実施例に記載した偏光分離素子は、第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。また、同じく偏光分離素子であって、第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。ここで、前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回(好ましくは10回)以上積層した多層膜である。
【0208】
また、前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であって、その第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含む。
【0209】
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下である。
【0210】
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下である。また、この多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれている。また、前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つ(ここでは実施例5において、中屈折率層の材料として2種類、低屈折率層の材料として2種類の材料を用いる例を示しているが、勿論高屈折率層の材料として2種類の材料を用いる例も考えられる。)は、互いに屈折率が異なる層を含む。
【0211】
次に、実施例1〜7に関して以下のことが言える。
【0212】
前述の第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲である。さらに、第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足する。さらに望ましくは、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足する。
【0213】
次に実施例8〜10に関して以下のことが言える。
【0214】
第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲である。さらに、前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足する。さらに望ましくは、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足する。
【0215】
次に実施例11〜13に関して以下のことが言える。
【0216】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲である。さらに、第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足する。さらに望ましくは、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足する。
【0217】
また、実施例14〜16に関しては以下のことが言える。実施例14〜16に記載した画像表示装置は、第1の画像表示素子と、第2の画像表示素子と、前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、前記色合成光学系が、前述の偏光分離素子を有する。また、実施例14〜16に記載した画像表示装置は、第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、前記照明光学系が、前述の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成し、前記投射光学系に導く。
【0218】
【表1】
【0219】
【表2】
【0220】
【表3】
【0221】
【表4】
【0222】
【表5】
【0223】
【表6】
【0224】
【表7】
【0225】
【表8】
【0226】
【表9】
【0227】
【表10】
【0228】
【表11】
【0229】
【表12】
【0230】
【表13】
【0231】
【表14】
【0232】
【表15】
【0233】
【表16】
【0234】
【表17】
【0235】
【表18】
【0236】
【表19】
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】:波長選択性のある偏光分離素子の基本動作を模式的に示す図である。(a)はS偏光入射、(b)はP偏光入射の場合である。
【図2】:(a)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|1.0L 0.5H 1.0M 0.5H| 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図3】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】:実施例1の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】:(a)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|0.7L 0.35H 1.5M 0.35H接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】:実施例2の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】:実施例3における第3多層膜のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】:実施例3の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】:実施例4の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】:実施例5の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】:実施例6の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】:実施例7の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】:(a)は入射側プリズムの屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|2.1M 1.2L 2.1M 0.6H| 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(2.1M 1.2L 2.1M 0.6H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.6H 2.1M 1.2L 2.1M)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図16】:実施例8の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図17】:実施例9の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】:実施例10における波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.7M 0.5L 0.5H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図20】:実施例11の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図21】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.9M 0.5L0.32H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である
【図22】:実施例12の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図23】:実施例13の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図24】:実施例14の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。
【図25】:実施例15の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。
【図26】:実施例16の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。(a)は白表示時、(b)は投射レンズ系からの戻り光の光路を示す図である。
【図27】従来の液晶による反射型光変調素子を用いた液晶投影装置を示した図である。
【符号の説明】
【0238】
1:波長選択性偏光分離素子
11,12:光学部材
10:多層構造
20:青波長帯域のS偏光光線
21:青波長帯域のP偏光光線
22:青波長帯域の円偏光光線
30:緑波長帯域のS偏光光線
31:緑波長帯域のP偏光光線
32:緑波長帯域の円偏光光線
40:赤波長帯域のS偏光光線
41:赤波長帯域のP偏光光線
42:赤波長帯域の円偏光光線
51:光源
52:偏光変換素子
53a:ダイクロイックミラー(S偏光の青・赤波長帯域を反射、緑波長帯域を透過)
53b:ダイクロイックプリズム(P偏光の青・赤波長帯域を反射、緑波長帯域を透過)
54a,54b,54c:偏光ビームスプリッタ
55b,55g,55r:液晶による反射型光変調素子
56b,56r:波長選択性位相子
57:投射レンズ系
58:1/2波長板
59:偏光子
60:1/4波長板
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光分離素子及びそれを有する投影装置に関する。
【0002】
例えばS偏光に対して第一波長帯域を透過、第一波長帯域と異なる第二波長帯域を反射、且つP偏光に対して第一波長帯域を反射、第二波長帯域を透過させる波長選択性のある偏光分離素子に関し、特に液晶による光変調素子を用いた投影装置に好適なものである。
【背景技術】
【0003】
従来より、偏光分離素子としては、2つのプリズムに挟まれた屈折率が高い誘電体薄膜より成るH層と低いL層を交互に多数積層した誘電体多層膜により、偏光分離するプリズム型の偏光ビームスプリッタ(PBS)がよく知られている。
【0004】
この誘電体多層膜は、入射するP偏光を透過、S偏光を反射させる光学特性を有する。この偏光分離素子の原理はP偏光については入射角度がプリズムの材料の屈折率nP、H層の屈折率nH、L層の屈折率nLの関係がブリュ−スター角θBとおよそ一致することによりP偏光は透過する。S偏光についてはH層とL層の界面における反射を用い、多層膜干渉により反射する。
【0005】
このPBSの特性は、入射角度、使用波長の変化による材料の分散により、設計の条件から外れると、悪化する。特に、ブリュ−スター角の条件は各定数に対して敏感であるため、S偏光と比較すると、P偏光のほうが悪化しやすい。
【0006】
画像投影装置(投影装置)に用いられる光学系においては、光源から放射される光束の分布が一定の角度範囲を有する場合が多く、使用波長も可視光帯域全域と広いため、一般的に偏光分離膜の層数の追加や膜厚の修正により使用角度範囲、使用波長帯域において良好な特性となるように設計されている。
【0007】
非特許文献1にはP偏光を反射、S偏光を透過するPBSが報告されている。ここでは入射角度を高屈折率プリズム(材料の屈折率が高いプリズム)と低屈折率薄膜(材料の屈折率が低い薄膜)の臨界角以上の角度とすることにより、全反射減衰を発生させる。全反射減衰した光は位相が変化するため、設けられた多層膜による干渉によりP偏光を透過、S偏光を反射する原理を用いてPBSを実現している。これより、広い入射角度範囲で良好な特性を得ている。
【0008】
一方、屈折率が高い誘電体薄膜より成るH層と低いL層を交互に積層した誘電体多層膜によるダイクロイックフィルタもよく知られている。
【0009】
このダイクロイックフィルタもH層とL層の界面における反射による多層膜干渉を用いて、特定波長帯域を透過または反射させる光学特性を有する。膜構成はハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の機能を実現する多くの構成が知られており、特に赤、緑、青色の波長帯域をそれぞれ分離するには長波長透過フィルタ、波長バンドパスフィルタ、短波長透過フィルタ等を用いることができる。ダイクロイックフィルタは入射角度、偏光条件が設計の条件から外れると、光学特性が悪化する。
【0010】
入射角度を変化させると薄膜材料の光学アドミタンスが変化し、P偏光に対する透過帯域が広がり(反射帯域が狭くなり)、S偏光に対する透過帯域が狭くなる(反射帯域が広がる)。この結果、透過帯域から反射帯域へシフトする遷移波長がP偏光とS偏光に対して逆方向に変化する。
【0011】
このため、一般的に偏光分離膜の層数の追加や膜厚の修正により使用角度範囲を広げたり、P偏光とS偏光の偏光依存が小さくなるように設計する。逆にこの偏光による特性の違いを利用して設計する場合もある。
【0012】
これらのPBSやダイクロイックフィルタを用いて画像投影装置の色分解合成光学系(色分解色合成手段)が構成される。
【0013】
図27に従来の液晶による反射型の光変調素子を用いた画像投影装置の一例を示す。
【0014】
矢印は白表示(画像情報が白色)における赤、緑、青色光のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0015】
光源51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域の光線30を透過、赤波長帯域の光線40、青波長帯域の光線20を反射する。
【0016】
ダイクロイックミラー53aにより透過された緑波長帯域の光線30はPBS54aを反射し、緑用液晶による反射型光変調素子55gに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、PBS54a,PBS54cを透過し、投射レンズ系(投影光学系)57に入射し、投影される。
【0017】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性位相子56bによりP偏光21に変換され、PBS54bを透過し、青用液晶による反射型光変調素子55bに入射し、変調される。
【0018】
白表示の場合、変調された光はS偏光20となって射出されるため、PBS54bを反射し、波長選択性位相子56rによりS偏光20のまま維持され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0019】
ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性位相子56bによりS偏光40のまま維持され、PBS54bを反射し、赤用液晶による反射型光変調素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、PBS54bを透過し、波長選択性位相子56rによりS偏光40に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0020】
黒表示(画像情報が黒色)の場合はいずれの光も液晶による反射型変調素子55r,55g,55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、各光学部材を介して同じ光路で再び光源51側に戻る。このような色分解合成手段により高精細な液晶による反射型光変調素子の利点を活かし、且つ小型な装置を構成している。
【0021】
従来のPBSは使用波長帯域全域においてP偏光を透過、S偏光を反射することを目的としている。非特許文献1に記載されているPBSはP偏光を反射、S偏光を透過する。いずれのPBSも使用波長帯域全帯域に対して偏光分離する素子であり、波長帯域によって第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させるような波長選択性があり、且つ異なる波長帯域で偏光分離特性が逆になるPBSはこれまで報告されていない。
【0022】
また、ダイクロイックフィルタは斜入射によりP偏光に対する透過帯域が広がり、S偏光に対する透過帯域が狭くなるため、偏光分離する波長帯域が現れるが、P偏光は透過、S偏光は反射するのみで、P偏光は反射、S偏光は透過することはなく、波長帯域によって第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させるような特性となることはない。
【0023】
一方、図27に示す画像投影装置における色分解合成には、2枚の波長選択性位相子56b,56rが必要不可欠である。この波長選択性位相子56b,56rは特許文献1に記載されているように複屈折を有する複数の延伸ポリカーボネートフィルムの異方性軸をそれぞれ特定の角度で積層させるため、成膜法を用いて誘電体多層膜で形成されるPBSやダイクロイックフィルタと比較して、製作方法が複雑で、高価な光学素子となる。
【0024】
また、ポリカーボネートは高分子フィルムであるため、材料の物理的性質上、熱、湿度、紫外線等の外部環境の影響を非常に受けやすく、色分解合成手段の信頼性、耐久性が低下する。また、面精度が低いために光学系中に用いるとフレアの原因となっている。一方、投射レンズの各レンズは反射防止膜にも依存するが、若干の反射が存在し、戻り光として色分解合成手段側に戻ってくる。従来の色分解合成手段ではこの戻り光が液晶による光変調素子まで戻るため、フレアの原因となっている。
【0025】
また、特許文献2には、波長選択性位相子を使用しない液晶による反射型光変調素子を用いた投影装置が開示されている。同公報では、青波長帯域のP偏光を反射、S偏光を透過し、且つ緑と赤帯域のP偏光を透過、S偏光を反射する作用を有するPBSを用いた色分解色合成手段を開示している。しかし、このPBSについては機能のみが示されており、実際の実現方法に関しては開示されていない。
【非特許文献1】Li Li and J. A. Dobrowolski, Appl. Opt., vol.39, p.2754, 2000.
【特許文献1】特表平11−504441号公報
【特許文献2】特開平11−153774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
偏光分離素子として第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させる波長選択性のある偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)は実現されていない。
【0027】
本発明は、この第一波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、第一波長帯域と異なる第二波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過させる波長選択性偏光分離素子の提供を目的とする。
【0028】
この他、本発明はこの波長選択性偏光分離素子を投影装置の色分解色合成手段(色分解合成光学系)に用いることにより、構成が簡素化され、しかも高いコントラストが得られる信頼性、耐久性に優れた投影装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1の発明の偏光分離素子は、
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴としている。
【0030】
請求項2の発明の偏光分離素子は、
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴としている。
【0031】
請求項3の発明は請求項1又は2の発明において、
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回以上積層した多層膜であることを特徴としている。
【0032】
請求項4の発明は請求項1乃至3のいずれか1項の発明において、
前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であることを特徴としている。
【0033】
請求項5の発明は請求項1乃至4のいずれか1項の発明において、
前記第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、前記第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含むことを特徴としている。
【0034】
請求項6の発明は請求項1乃至5のいずれか1項の発明において、
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、
前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、
前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下であることを特徴としている。
【0035】
請求項7の発明は請求項1乃至6のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、
前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下であることを特徴としている。
【0036】
請求項8の発明は請求項1乃至7のいずれか1項の発明において、
前記多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれていることを特徴としている。
【0037】
請求項9の発明は請求項1乃至8のいずれか1項の発明において、
前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つは、互いに屈折率が異なる層を含むことを特徴としている。
【0038】
請求項10の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0039】
請求項11の発明の偏光分離素子は請求項10の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足することを特徴としている。
【0040】
請求項12の発明の偏光分離素子は請求項10又は11の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴としている。
【0041】
請求項13の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0042】
請求項14の発明の偏光分離素子は請求項13の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足することを特徴としている。
【0043】
請求項15の発明の偏光分離素子は請求項13又は14の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足することを特徴としている。
【0044】
請求項16の発明の偏光分離素子は請求項1乃至9のいずれか1項の発明において、
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲であることを特徴としている。
【0045】
請求項17の発明の偏光分離素子は請求項16の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足することを特徴としている。
【0046】
請求項18の発明の偏光分離素子は請求項16又は17の発明において、
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴としている。
【0047】
請求項19の発明の画像表示素子は、
第1の画像表示素子と、
第2の画像表示素子と、
前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、
前記色合成光学系が、請求項1〜18いずれかに記載の偏光分離素子を有することを特徴としている。
【0048】
請求項20の発明の画像表示装置は、
第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、
前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、
光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、
前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、
前記照明光学系が、請求項1〜18に記載の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、
前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成した上で前記投射光学系に導くことを特徴としている。
【0049】
この他本発明の偏光分離素子は、
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0050】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、ある層を挟んで上下に該ある層とは異なった層の順番で繰返し、積層した多層膜を含み、該多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれることを特徴としている。
【0051】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,H層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第1多層膜を含み、該第1多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0052】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,H層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第2多層膜を含み、該第2多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0053】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を2つの光学部材の間に狭持した偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、M層,L層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第5多層膜を含み、該第5多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0054】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を2つの光学部材の間に狭持した偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、M層,L層,M層,H層の順番で繰返し、積層した第4多層膜を含み、該第4多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第2波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれることを特徴としている。
【0055】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,M層,L層,H層の順番で繰返し、積層した第6多層膜を含み、該第6多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0056】
◎互いに異なる屈折率を有する3種類以上の薄膜を積層した多層膜構造を有する偏光分離素子において、該多層膜構造は、隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有するH層、隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有するL層、H層とL層の屈折率の間の屈折率を有するM層を、L層,M層,L層,H層の順番で繰返し、積層した第7多層膜を含み、該第7多層膜は、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることを特徴としている。
【0057】
◎前記多層膜構造にはS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有する第3多層膜が含まれることを特徴としている。
【0058】
本発明の画像表示装置は、
◎複数の反射型液晶表示素子と、
複数の色光でそれぞれ対応する前記複数の反射型液晶表示素子を照明し、該複数の反射型液晶表示素子からの複数の色光を合成して投射する光学系とを有する画像表示装置であって、
前記光学系が前記記載のいずれかに記載の偏光分離素子を用いて、前記複数の反射型液晶表示素子からの前記複数の色光を合成することを特徴としている。
【0059】
特に、前記偏光分離素子の多層膜に対して、前記光学系の光軸が略45度なしていることや、前記偏光分離素子の多層膜に入射する光線の入射角度範囲が10°以内の角度範囲であること等を特徴としている。
【0060】
本発明の投影装置は、
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、偏光の方向を90°回転する1/2波長板と、該光変調素子により変調された光を合成する偏光ビームスプリッタと、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【0061】
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、該光変調素子により変調された光を合成するダイクロイックプリズムと、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【0062】
◎光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換素子と、波長帯域により光を反射と透過に分離するダイクロイックミラーと、偏光状態により光を反射と透過に分離する偏光ビームスプリッタと、前記記載のいずれかの偏光分離素子と、信号に合わせて偏光方向を変調する光変調素子と、該光変調素子により変調された光を合成するダイクロイックプリズムと、該光源手段側へのもれ光、又は/及び戻り光を遮断する偏光子と、直線偏光を円偏光に回転する1/4波長板と、合成された光を投影する投影レンズと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、ある波長帯域において、S偏光を透過、P偏光を反射することが可能な偏光分離素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明の実施例を以下で説明する。
【0065】
各実施例の偏光分離素子は、第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に(連続して)積層した多層膜を含む偏光分離素子である。ここで、この偏光分離素子は、第一波長領域の光(少なくとも450〜480nmの30nm以上の帯域幅を持つ領域の光、より好ましくは440〜485nmの光)に対しては、S偏光の透過率(少なくとも70%以上)がP偏光の透過率(少なくとも30%以下)よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光(少なくとも600〜630nmの30nm以上の帯域幅を持つ領域の光、より好ましくは590〜640nmの光)に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。又は、第一波長領域の光(好ましくは400〜500nmの青色波長領域内の少なくとも一部の波長領域の光)に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光(好ましくは570〜700nmの赤色波長領域内の少なくとも一部の波長領域の光)に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。
【実施例1】
【0066】
図1は本実施例1の波長選択性のある偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)の要部概略図であり、この図1ではこの波長選択性偏光分離素子の特性を簡略に示している。本実施例1の波長選択性偏光分離素子1は入射側プリズム(光学部材)11と射出側プリズム(光学部材)12とを接合して構成されている。この入射側プリズム11の入射面110および射出側プリズム12の射出面121に対して45度傾いた面に、後述する構成の多層膜構造10が設けられている。
【0067】
この波長選択性偏光分離素子の多層膜構造10に対して入射する光束の、(設計上の)入射角度は45°である(つまり、入射角度45度で入射した光に対してほぼ理想的な特性を有する)。波長選択性偏光分離素子1の特性は偏光方向、波長帯域により異なる。波長選択性偏光分離素子1は、ある波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率より高く(S偏光の反射率がP偏光の反射率よりも低く)、それとは異なる波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも低く(S偏光の反射率がP偏光の反射率よりも高く)なるような特性を有する偏光分離素子である。
【0068】
S偏光の青波長帯域(少なくとも450〜480nmの波長帯域、好ましくは445〜480nm)の光線20及びS偏光の赤波長帯域(少なくとも600〜630nmの波長帯域、好ましくは590〜640nm)の光線40が波長選択性偏光分離素子に入射するとする。この場合、図1(a)に示すように青波長帯域の光線20が多層構造10を透過して射出面121から射出し、赤波長帯域の光線40が多層膜構造10を反射して射出面111から射出する。P偏光の青波長帯域の光線21および赤波長帯域の光線41が入射する場合は、図1(b)に示すように青波長帯域の光線21が多層膜構造10を反射して射出面111から射出し、赤波長帯域の光線41が多層構造10を透過して射出面121から射出する。
【0069】
実施例1の波長選択性偏光分離素子1に設けられる多層膜構造10は、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をH、M、H、Lの順番で積層した多層膜が含まれるように構成されている。このときの各層の屈折率や膜厚を以下に記載したように適切に設定することによりS偏光を透過し、P偏光を反射する波長帯域を持つ偏光分離素子を構成することができる。
【0070】
ここで、この偏光分離素子1は、屈折率が1.85の材料で構成された入射側プリズム11と、この入射側プリズムより射出側に設けられた、屈折率が2.32の材料で構成された高屈折率層(以下、H層と称する)と、屈折率1.39の材料で構成された低屈折率層(以下、L層と称する)と、、屈折率1.65の中屈折率層(以下、M層と称する)と言う3種類(又は4種類以上)の互いに異なる屈折率を持つ材料からなる多層膜と、この多層膜の射出側に設けられた屈折率1.55の接着剤とにより構成されている。
【0071】
ここで、H層、L層、M層の材料の屈折率をそれぞれnH、nL、nMとし、H層、L層、M層の膜厚(実際の厚さであって、空気換算長ではない)をそれぞれdH、dL、dM、設計波長(ここでは550nm)をλとする。さらに、設計波長における、H層、L層、M層それぞれの1/4波長膜厚(H層の場合は、H=λ/(4nH)、L層の場合は、L=dL=λ/(4nL)、M層の場合は、M=λ/(4nM)となる)をH、L、Mとするとき、入射側から順に、入射側プリズム、1.0×L、0.5×H、1.0×M、0.5×H、接着剤の順に積層した多層膜(以下においては、このような多層膜を、Prism|1.0L 0.5H 1.0M 0.5H| 接着剤と表すこととする)の、波長550nmのS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図2(a)に示す。ここで、入射側プリズム及び射出側に設けられた接着剤は、屈折率が同じであれば材料は別のもの(例えば入射側が接着剤で、射出側がプリズム等)であっても構わない。
【0072】
この図2(a)において、入射角度42-44度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。さらに、この多層膜のL層、H層、M層、H層(又はH層、M層、H層、L層)の繰り返し構造を10回繰返した多層膜を持つ偏光分離素子の波長550nmのS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図2(b)に示す。ここで、L層、H層、M層、H層の繰り返し構造を10回繰返した多層膜を持つ偏光分離素子の構造を、「Prism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤」と表すこととする。
【0073】
図2(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図3に示す。基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光を反射、P偏光を透過している特性が得られている。つまり波長選択性偏光分離素子の基本特性となっていることがわかる。検討の結果、多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適切に選択することにより良好な偏光分離素子を得ている。すなわち、前述の第1多層膜内で繰り返し積層される「H層、M層、H層、L層」の各々の膜厚を「b×H、c×M、d×H、a×L」としたとき、0<a<3, 0<b≦1, 0<c<5, 0<d≦1(ただし、a,b,c,dは実数。)
を満足するように多層膜、或いはその多層膜を有する偏光分離素子の設計を行う。
【0074】
さらに、この第1多層膜の多層膜構造が以下の関係を満たすように構成すれば、さらに角度特性の良好な多層膜或いは偏光分離素子を得ることができる。
0<a<1.5, 0<b≦1, 0<c<2, 0<d≦1(ただし、a,b,c,dは実数。)
しかし、図3の透過波長帯域(入射角45°)には若干のリップルが見られる。このリップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚の調節(最適化)を行った。ここで、入射側プリズム11はOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。尚、以下の各実施例においてH層、L層、M層の材料は同様のものが適用できる。
【0075】
その膜厚を調整した第1多層膜の各層の膜厚を表1に示し、その多層膜を有する偏光分離素子の透過率特性(入射角45°)を図4に示す。この表の中の層数番号は入射側からの順番であり、この表1より分かるように、第1多層膜の層数は全部で40層となった。
【0076】
図4を見れば分かるように、第1多層膜に対して入射角45度で入射する光のうち、青波長帯域(特に440〜480nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に580〜660nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【0077】
なお、層数、膜厚はこの表1に記載したものに限定されるものではない。若干、膜厚が変化したもの、或いは、多層膜の中に、表1に記載していない膜が1、2層挟まれていたとしても、本実施例に記載の範囲と実質的に同じである。
【0078】
また、リップルの低減のために最適化手法を用いたが、単層または多層の調整層を設計し、その調整層を積層するように最適化を行った多層膜を用いることも可能である。また、対称多層膜構造等の従来の各膜設計手法を用いても同等の光学特性が得られるため、最適化の手法は本実施例1に記載した手法に限定されるものではない。
【0079】
また、偏光分離値の仕様、使用中心角度、使用角度範囲により、必要な層数が異なるため、本発明は、表1及びその他の表に記載した層数に限定されるものではない。
【0080】
また、H層、M層、L層の各層の間に光学的作用を及ぼさない又は光学的作用の小さな層を設けても良い。例えば屈折率をn、厚さをdとしたとき
nd≦2nm
程度の層を設けても良く、これに限定されない。
【0081】
尚、ここで、H層は最も高い屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層であり、M層はH層より低い屈折率領域に属する屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層であり、L層はM層より低い屈折率領域に属する屈折率領域に属する屈折率を有する薄膜の層である。従って、L層、H層、M層、H層の繰り返し構造を有する多層膜構造においては、H層は隣り合う薄膜の屈折率より高い屈折率を有しており、L層は隣り合う薄膜の屈折率より低い屈折率を有しており、M層は隣り合う一方の薄膜よりは屈折率が高く、他方の薄膜よりは屈折率が低い層である。勿論、H層、M層、L層それぞれの材料の種類は1種類である必要は無く、それぞれの屈折率領域に属する材料であれば、複数の材料を用いても構わない。
【0082】
また、この実施例の多層膜構造において、このL層、H層、M層、H層(又はH層、M層、H層、L層の順の多層膜)の構造が10回以上(少なくとも5回以上)繰返されている(好ましくは他の層を挟まずに連続して繰り返し積層されている)ことが望ましい。
【0083】
また、この多層膜(第1多層膜)は、S偏光に関しては第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して前記第一波長帯域の透過率が低く、前記第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有しており、この第一波長帯域および第二波長帯域は共に30nm以上(好ましくは50nm以上)の帯域幅があり、且つその30nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上(好ましくは75%以上)であることが望ましい。
【0084】
また、波長選択性偏光分離素子は図1にように入射側プリズム11と射出側プリズム12の間に多層膜構造10が配置されている。このため多層膜が形成されていない側のプリズムと接着剤との接合面において反射が生じ、この反射は透過帯域の透過率の減少となる。このため、プリズムと接着剤との接合面に反射防止構造を設けることが好ましい。反射防止構造はよく知られている単層または多層反射防止膜等を用いることができる。
【0085】
また、この実施例1に記載した偏光分離素子も以下の実施例に記載した偏光分離素子も、においても、可視領域の光はほとんど吸収しない。従って、本明細書に記載の、偏光分離素子の透過率を示す図においては「透過率」についてしか記載していないが、本実施例中に記載の偏光分離素子は可視領域の光をほとんど吸収しないため、偏光分離素子の「反射率」については容易に知ることができる。従って、偏光分離素子の「反射率」については特に図面等では記載しないが、「100%−(透過率)≒(反射率)」と考えることにより、実質的に記載があるものとする。尚、ここで、この偏光分離素子における可視領域の光の吸収率(400〜700nmの波長の光がほぼ均等に存在する白色光に対する吸収率)は、多くても2%以下で、好ましくは0.5%以下である。
【0086】
以上のことは、以下の各実施例においても同様である。
【0087】
参考の為に表1より以下に実数a,b,c,dを求めてみる。
【0088】
nH、nL、nMを各々H層、L層、M層の材料の屈折率、λを設計波長、
H=λ/(4nH)、L=dL=λ/(4nL)、M=λ/(4nM)であるからL層、H層、M層、H層の膜厚は順にa×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)となる。
【0089】
まず第1層の低屈折率相のL層について膜厚dLと実数aとの関係を求めてみると次のようになる。
【0090】
dL=a×λ/(4nL) より
a=dL×(4nL)/λ
となる。ここで表−1より
dL=70.66(nm)
λ=550(nm)
nL=1.39
を代入すると
a=0.714
となる。
【0091】
同様に第2層の高屈折率層のH層について実数bを求めてみると
b=dH×(4nH)/λ
に
dH=26.45(nm)
λ=550(nm)
nH=2.32
を代入すると
b=0.446
となる。
【0092】
第3層の中間屈折率層のM層に関する実数cは
c=dM×(4nM)/λ
に
dM=96.53(nm)
λ=550(nm)
nM=1.65
を代入すると
c=1.158
となる。
【0093】
第4層の高屈折率層のH層に関する実数dは
d=dH×(4nH)/λ
に
dH=39.69(nm)
λ=550(nm)
nH=2.32
を代入すると
c=0.670
となる。
【0094】
以下同様の計算により各層に関する実数a〜dを求めることができる。
【0095】
尚、実数a〜dの範囲は各層における数値範囲の値を示しているが、複数層のうちいくつかの層については実数a〜dの数値範囲から外れていても、分光特性に大きな変化がない。
【0096】
従って実数a〜dは低屈折率層、高屈折率層、中間屈折率層、高屈折率層の順で積層される各層における実数a〜dの平均値をa',b',c',d'として取り扱っても良い。
【0097】
実数a〜dの求め方及び数値範囲に関する平均値a',b',c',d'の取扱いについては以下の各実施例についても全く同様である。
【実施例2】
【0098】
実施例1の表1で示した多層膜(第1多層膜とする)は特定入射角(実施例1では45度)において設計されている。図2(b)の角度特性を見れば、角度変化(設計入射角度、実施例1の場合は45度、からの入射角のずれ)に対して光学特性(透過特性、反射特性等)が敏感に変化する。そこで、この実施例2では、実施例1よりも角度変化に対して鈍感な(角度変化に強い)偏光分離素子(多層膜)を設計する。
【0099】
なぜなら、投影装置(プロジェクタ等)の色分解合成手段(色分解合成光学系等に使われる偏光分離素子)に入射する光束の入射角度は所定の分布を有しており、設計値(例えば45度)とは異なる角度で入射する光も存在するからである。
【0100】
このような第1多層膜に対して、以下に示す第2多層膜を積層することにより、角度特性の良好な偏光分離素子の提供を可能としている。第2多層膜は、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番(勿論、最初の層はどの層であっても構わない。すなわち、例えばH層、M層、H層、L層の順番でも構わない。)で積層した多層膜であって、S偏光入射に対して青波長帯域の透過率が高く、且つP偏光入射に対して青波長帯域の透過率が低く、赤波長帯域の透過率が高い機能を有する。
【0101】
ここで、入射側プリズム11の材料の屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおける構成がおおよそにおいて「Prism|0.7L 0.35H 1.5M 0.35H| 接着剤」という構成の偏光分離素子の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図5(a)に示す。ここでは、入射角度40-48度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。
【0102】
さらに、この多層膜構造を10回繰返した「Prism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤」という構成の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図5(b)に示す。図5(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この第2多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図6に示す。第1多層膜の図3と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性で、S偏光とP偏光で強い偏光分離が見られるが、第2多層膜ではさらにS偏光の反射帯域(略500-650nmの帯域)を屈折率・膜厚を調整することで透過させていることが特徴である。これを利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第2多層膜の基本特性となっていることがわかる。
【0103】
この第2多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がほとんどなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。このように、第1多層膜と第2多層膜を積層することにより、角度特性の良好な波長選択性の偏光分離機能を持った多層膜又はその多層膜を有する偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)の提供が可能となる。
【0104】
ここで、この第2多層膜内で繰り返し積層される「H層、M層、H層、L層」の各々の膜厚を「b×H、c×M、d×H、a×L」としたとき、
0<b≦a≦c<5, 0<d≦a≦c<5(ただし、a,b,c,dは実数。)
を満足するように、多層膜を構成すれば、角度特性が良好な偏光分離素子を得ることができる。
【0105】
さらに好ましくは、以下の関係式を満足すると良い。
0<b≦a≦c<2, 0<d≦a≦c<2
以上のような、低入射角度における阻止帯域拡大を目的とした第2多層膜と、第1多層膜とを積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚の調整(最適化)を行った。ここで、入射側プリズム11はOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で103層となった。この多層膜、及びその多層膜を有する偏光分離素子内の各膜厚を表2に示し、45±5度の入射角度で入射するS偏光、P偏光に対する偏光分離素子の透過率特性を図7に示す。この図7より、45±5度の入射角度範囲(実質的に40〜50度の入射角度範囲内すべて)において、青波長帯域(特に440〜480nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に590〜640nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【実施例3】
【0106】
本実施例3においては、S偏光入射に対して青波長帯域(第一波長帯域)の透過率が高く、赤波長帯域(第二波長帯域)の透過率が低く、且つP偏光入射に対して赤波長帯域の透過率が高い光学特性を有する第3多層膜を設計し、この第3多層膜と実施例2で用いた第2多層膜(青波長帯域においてS偏光光の透過率が高く且つP偏光光の透過率が低くて、赤波長帯域においてP偏光光の透過率が高い特性を持つ膜)とを積層して偏光分離膜を構成している。
【0107】
この第3多層膜は、例えばP偏光入射については多層膜の屈折率から求められるブリュースター角を満たし、S偏光入射についてはダイクロイックフィルタとして機能することにより可能である。また、ダイクロイックフィルタにおけるS偏光とP偏光のカットオフ波長を調整することによっても設計することができる。
【0108】
この第3多層膜の設計例を表3、この第3多層膜に対して可視光領域(400〜700nm)の光が40度、45度、50度で入射する際の透過率特性(透過率の変化)を図8に示す。ここで、入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層(後述するL2層)はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。この第3多層膜の設計例においては、層数は全部で24層である(勿論層数は24層以外でも構わない)。この第3多層膜の透過率特性を示している図8を見れば、45±5度(実質的に40〜50度の角度範囲内)の入射角度で第3多層膜(入射側プリズムと射出側の接着剤を含んだ偏光分離素子)に入射するS偏光に対しては青波長帯域の光を透過し、赤波長帯域の光を反射しており、且つ45±5度(実質的に40〜50度の角度範囲内)の入射角度で第3多層膜(入射側プリズムと出射側の接着剤を含んだ偏光分離素子)にP偏光入射に対しては、赤波長帯域の光を透過し(青波長帯域の光も透過し)ていることがわかる。
【0109】
上記の第2多層膜と第3多層膜とを積層することにより、この実施例3の偏光分離素子に用いる多層膜を作成する。具体的な設計においては第2多層膜の阻止帯域幅(S偏光を透過し、P偏光を反射させる帯域)拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚の調整(最適化)を行った。この膜厚の調整を行った多層膜を用いる偏光分離素子の入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L1層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、L2層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側の材料は屈折率1.55の接着剤とした。また、この偏光分離素子に用いる多層膜のうち、前述の第2多層膜に想到する部分は、H層、M層、L1層を含むH、M、H、L1層より成る多層膜とし、前述の第3多層膜に想到する部分は、H層、M層、L2層より成る多層膜を用いた。層数は全部で144層である。ここで、L1層、L2層は、広い意味でL層(低屈折率層)に含まれており、後述するH1層、H2層は同じくH層に、M1層、M2層はM層に含まれるものとする。
【0110】
このようにして設計した偏光分離素子のにおける各層の膜厚を表4に示し、その偏光分離素子の多層膜に対して45±5度の入射角度で入射するS偏光、P偏光の透過率特性(可視領域の光に対する透過率特性)を図9に示す。この図9を見れば分かるように、青波長帯域(特に435〜490nm)の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く(S偏光を透過し、P偏光を反射し)、赤波長帯域(特に590〜640nm)の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高い(S偏光を反射し、P偏光を透過する)偏光分離素子(波長選択性偏光分離素子)を提供することが可能となる。
【実施例4】
【0111】
実施例1〜3においては、第一波長帯域(偏光分離素子がS偏光を透過してP偏光を反射する帯域)が青波長帯域、第二波長帯域(偏光分離素子がP偏光を透過してS偏光を反射する帯域)が赤波長帯域である。これに対して実施例4は第一波長帯域を赤波長帯域、第二波長帯域を青波長帯域とした実施例である。設計は実施例3と同様に、第2多層膜および第3多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。設計結果の各膜厚を表5、入射角度45°±5°での透過率を図10に示す。
【0112】
入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L1層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、L2層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M1層はY2O3(波長550nmにおける屈折率1.80)、M2層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。
【0113】
第2多層膜はH層、M1層、L1層を含むH、M、H、L(L1)を繰り返し積層して成る多層膜、第3多層膜は、H層、M2層、L2層より成る多層膜を用いた。層数は全部で164層である。45±5度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過、赤波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0114】
このように波長選択偏光分離素子は波長帯域に限定しなく、仕様に応じた特性が可能である。また、よく知られているようにすべての層の膜厚を均一にシフトさせることにより波長帯域をシフトさせることも可能である。
【実施例5】
【0115】
実施例5は、L層にMgF2を用いず、低屈折率薄膜材料として広く用いられているSiO2を用いた場合の実施例である。設計は実施例2と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。
【0116】
設計結果の各膜厚を表6、入射角度45°±5°での透過率を図11に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はSiO2(波長550nmにおける屈折率1.49)、M層はY2O3(波長550nmにおける屈折率1.80)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で203層である。45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。SiO2はMgF2と比較して屈折率が高いため、MgF2を用いた場合より層数が増える。H層についても同様であり、TiO2ではなく、Ta2O5などの薄膜を用いても設計することが可能である。これより、波長選択性偏光分離素子を可能にする薄膜は材料に限定されない。
【実施例6】
【0117】
実施例6は、入射側プリズムに商品名PBH56を用いず、比較して低屈折率なガラスの一つであるOHARA社商品名S-LAL14を用いた場合の実施例である。設計は実施例2,5と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。
【0118】
設計結果の各膜厚を表7、入射角度45°±5°での透過率を図12に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名S-LAL14(波長550nmにおける材料の屈折率1.70)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で232層である。
【0119】
45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。商品名S-LAL14は商品名PBH56比較して屈折率が低いため、商品名PBH56を用いた場合より層数が増えてしまうが、入射側のガラスには限定されない。
【実施例7】
【0120】
実施例7は、基本膜構成であるL、H、M、Hの順番を繰返して設計する際の2つのH層が異なる材料であり、基本膜構成がL、H1、M、H2の順番を繰返した場合の実施例である。
【0121】
設計は実施例2、5、6と同様に、第1多層膜および第2多層膜を積層し、膜厚最適化を行った。設計結果の各膜厚を表8、入射角度45°±5°での透過率を図13に示す。入射側プリズムはOHARA社商品名PBH56(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H1層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、H2層はTa2O5(波長550nmにおける屈折率2.15)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で151層である。
【0122】
45±5度の角度範囲において青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。L、 H、 M、 Hの順番を繰返す際に必ずしも同じ種類の薄膜である必要はないことがわかる。また、L、 H1、 M、 H1、 L、 H2、 M、 H2の順番のように繰返すごとに異なる薄膜材料を用いても同様である。このことはM層、L層についても同様である。
【実施例8】
【0123】
実施例2〜7において、第2多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率、膜厚を調整することにより実現できることを示した。本発明者はこの第2多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をM層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率、膜厚を調整する第5多層膜により第2多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0124】
ここで第5多層膜はL,M,H,M層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0125】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成がPrism|2.1M 1.2L 2.1M 0.6H | 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図14(a)に示す。
【0126】
入射角度42-45度において若干ではあるが透過率がP偏光よりもS偏光のほうが大きくなっている。さらに、この多層膜構造を10回繰返したPrism|(2.1M 1.2L 2.1M 0.6H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性を図14(b)に示す。
【0127】
図14(a)と比較してS偏光とP偏光の透過率の差が大きくなっており、偏光分離が明確な特性となっている。この多層膜について、入射角45度における透過率の波長特性を図15に示す。
【0128】
実施例2の図6と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第5多層膜の基本特性となっていることがわかる。また、図6と比較すると同じ層数でもP偏光の反射率が下がっていることがわかる。これよりL層、H層、M層、H層を繰返した場合より多層膜の層数が減少する。一方、角度特性は敏感であることがわかり、入射角度範囲を広くすると層数は増加する。
【0129】
この第5多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。
【0130】
この結果、第4多層膜をM層,L層,M層,H層の多層膜とし、S偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第2波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、該第一波長帯域及び第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、かつ第一波長帯域には、S偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれる第4多層膜は第5多層膜を積層することにより、角度特性の良好な素子が可能となる。
【0131】
検討の結果、第4、第5多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×M b×L c×M d×H)
0<a<6, 0<c<6, d<b, 0<b<5, 0<d<2
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0132】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×M b×L c×M d×H)
0<a<3, 0<c<3, d<b, 0<b<2, 0<d<1
具体的な設計においては第1多層膜と低入射角度における阻止帯域拡大のために層数を増やした第5多層膜を積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚最適化を行った。
【0133】
また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で65層である。結果を各膜厚を表9、入射角45°±2°における透過率を図16に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例9】
【0134】
実施例8において、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をM層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより得られる第5多層膜を設計し、第4多層膜を積層している。実施例9の偏光分離素子はM層、L層、M層、H層の順番で積層した第5多層膜と第3多層膜を積層して構成している。
【0135】
ここで第3多層膜はS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有するものである。
【0136】
具体的な設計においては第5多層膜の阻止帯域幅拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため、膜厚最適化を行った。また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で63層である。結果を各膜厚を表10、入射角45°±2°における透過率を図17に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例10】
【0137】
本発明の波長選択性偏光分離素子は図1にように入射側プリズム11と射出側プリズム12の間に多層膜構造10が配置されている。このため多層膜が形成されていない側のプリズムと接着剤との接合面において反射が生じ、この反射は透過帯域の透過率の減少となる。この対策として前述したようにプリズムと接着剤との接合面に反射防止構造を設けることが挙げられるが、実施例10では第1多層膜を入射側プリズム11側と射出側プリズム12側に分割してそれぞれ積層し、接着剤により接合されたものである。中間の接着剤は非干渉媒質となるため、これを考慮した設計が必要となる。第1多層膜を構成する第5多層膜、第3多層膜を入射側、射出側のプリズムにそれぞれ積層させることにより、それぞれの膜設計が機能的にも分割しているため、設計が容易となり、また、製作に対して有利である。
【0138】
具体的な設計においては入射側、射出側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、第3多層膜のH層はTa2O5(波長550nmにおける屈折率2.15)、L層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤、第5多層膜はH層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)とした。層数は第5多層膜が63層、第3多層膜が13層である。結果を各膜厚を表11、12、第3多層膜、第5多層膜を含む全ての入射角45°±2°における透過率を図18に示す。透過率Tは非干渉媒質の接着剤の多重反射を考慮した次式を用いて算出した。
【0139】
【数1】
【0140】
ただし、T1、T2はそれぞれ第3多層膜の透過率、第5多層膜の透過率である。透過率から45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0141】
また、多層膜を入射側、射出側に分割する場合、実施例10のように機能別に分割しない設計も可能であるため、これに限定されない。また、対称多層膜構造の用いた場合も同等の光学特性が得られ、かつ入射側、射出側とも同じ膜となるため、同一プロセスで成膜できるという利点を有する。これらに限定されない。
【実施例11】
【0142】
実施例1において、第1多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより実現できることを示した。本発明者はこの第1多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整する第6多層膜により第2多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0143】
ここで第6多層膜はL,M,L,H層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0144】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成が Prism|(0.5L 1.7M 0.5L 0.5H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の入射角45度における透過率の波長特性を図19に示す。
【0145】
実施例1の図3と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光を反射、P偏光を透過している特性が得られている。つまり波長選択性偏光分離素子の基本特性となっていることがわかる。
【0146】
検討の結果、第6多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより良好な偏光分離素子を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<a<3, 0<b<5, 0<c<3, 0<d≦1
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0147】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<a<1.5, 0<b<2, 0<c<1.5, 0<d≦1
しかし、図19の透過波長帯域にはリップルが見られる。このリップルの低減と波長帯域の調整をするため膜厚最適化を行った。また、入射側プリズム11はOHARA社商品名S-LAH55(波長550nmにおける材料の屈折率1.85)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。
層数は全部で40層である。結果を各膜厚を表13、入射角45°における透過率を図20に示す。表の層数番号は入射側からの順番である。入射角45度において、青波長帯域(略430-490nm)はS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域(略580-650nm)はS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例12】
【0148】
実施例2〜7において、第2多層膜は高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、H層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより実現できることを示した。また、実施例8〜10において、M層、L層、M層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより第2多層膜と同様の第5多層膜が実現できることを見出した。
【0149】
本発明者はこの第2乃至第5多層膜について、検討の結果、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整する第7多層膜により第2乃至第5多層膜と同様の特性が実現できることを見出した。
【0150】
ここで第7多層膜はL,M,L,H層の多層膜でS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、且つP偏光に対して第一波長帯域の透過率が低く、第一波長帯域と異なる第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有し、第一波長帯域および第二波長帯域は、共に30nm以上の帯域幅があり、且つS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上の帯域が含まれていることである。
【0151】
入射側プリズム11はOHARA社製S-LAH55で、その材料の屈折率は1.84、H層(H層の材料)は屈折率2.32、L層(L層の材料)は屈折率1.39、M層(M層の材料)は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤として、2つのプリズムを接着した。波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.9M 0.5L0.32H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の入射角45°における透過率の波長特性を図21に示す。
実施例2の図6、実施例8の図15と同様に基本的に透過帯域と反射帯域が交互に現れるエッジフィルタの特性であるがS偏光とP偏光で強い偏光分離が見られることが特徴である。この強い偏光分離を利用することにより、およそ青波長帯域(第一波長帯域)はS偏光を透過、P偏光を反射しているのに対し、赤波長帯域(第二波長帯域)はS偏光とP偏光を透過している特性、つまり第7多層膜の基本特性となっていることがわかる。
【0152】
この第7多層膜は設計波長をシフトさせた多層膜同士を積層させると、S偏光は全波長帯域(波長略420nm〜650nm)において透過しているため影響がなく(リップルは大きくなってしまうが)、P偏光の阻止波長帯域のみが広がる。このため、他の多層膜と積層することにより全体として青波長帯域のP偏光の透過率のみを下げることが可能となる。
【0153】
この結果、第1乃至第第6多層膜と第7多層膜を積層することにより、角度特性の良好な素子が可能となる。
【0154】
検討の結果、第7多層膜が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することにより角度特性の良好な偏光分離素子を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<d≦a≦b<5, 0<d≦c≦b<5
ただし、a,b,c,dは実数、HはdH=λ/(4nH)の高屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、LはdL=λ/(4nL)の低屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号、MはdM=λ/(4nM)の中間屈折率層の1/4波長膜厚の表記記号を表す。nH、nL、nMはそれぞれH層、L層、M層の屈折率、dH、dL、dMはそれぞれH層、L層、M層の膜厚、λは設計波長である。
【0155】
さらに多層膜構造が以下の基本膜構成の関係を満たし、各層の屈折率、膜厚を適当に選択することによりさらに角度特性の良好な偏光分離素を得ている。
(a×L b×M c×L d×H)
0<d≦a≦b<3, 0<d≦c≦b<3
具体的な設計においては第6多層膜と低入射角度における阻止帯域拡大のために層数を増やした第7多層膜を積層し、リップルの低減と波長帯域の調整をするために膜厚最適化を行った。
【0156】
入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で100層である。結果を各膜厚を表14、入射角45°±2°における透過率を図22に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【0157】
なお、第6多層膜と同様の特性である第2多層膜と第7多層膜を積層しても同等な特性が得られることは明らかであり、これに限定されない。
【実施例13】
【0158】
実施例12において、高い屈折率を有するH層、低い屈折率を有するL層、H層とL層の中間の屈折率を有するM層の3種類の薄膜をL層、M層、L層、H層の順番で積層し、屈折率・膜厚を調整することにより得られる第7多層膜を設計し、第6多層膜を積層している。実施例13の偏光分離素子はL層、M層、L層、H層の順番で積層した第7多層膜と第3多層膜を積層して構成している。
【0159】
ここで第3多層膜はS偏光に対して第一波長帯域の透過率が高く、第二波長帯域の透過率が低く、且つP偏光に対して第二波長帯域の透過率が高い光学特性を有するものである。
【0160】
具体的な設計においては第7多層膜の阻止帯域幅拡大のために層数を増やし、リップルの低減と波長帯域の調整をするため、膜厚最適化を行った。また、入射側プリズムはOHARA社S-LAH55(波長550nmにおける屈折率1.84)、H層はTiO2(波長550nmにおける屈折率2.32)、L層はMgF2(波長550nmにおける屈折率1.39)、M層はAl2O3(波長550nmにおける屈折率1.65)、射出側は屈折率1.55の接着剤とした。層数は全部で117層である。結果を各膜厚を表15、入射角45°±2°における透過率を図23に示す。45±2度の角度範囲において、青波長帯域のS偏光を透過、P偏光を反射、赤波長帯域のS偏光を反射、P偏光を透過しており、波長帯域、偏光分離とも良好な特性であることがわかる。
【実施例14】
【0161】
図24は本発明の実施例1〜13の偏光分離素子を用いた投影装置の実施例14の要部概略図である。同図は色分解色合成手段として波長選択性偏光分離素子を用い、複数の信号に合わせて偏光方向を変調する複数の反射型液晶表示素子55b,55g,55rを用い投影光学系57で液晶に基づく画像を投影する構成を示している。
【0162】
矢印は白表示(画像情報が白色)における赤、緑、青色のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0163】
具体的に20,21は青波長帯域のS,P偏光光線、30,31は緑波長帯域のS,P偏光光線、40,41は赤波長帯域のS,P偏光光線である。
【0164】
光源(光源手段)51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光20,30,40はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域(波長およそ500〜580nm)の光線30を透過、赤波長帯域(波長およそ580〜650nm)の光線40、青波長帯域(波長およそ430〜490nm)の光線20を反射させる。
【0165】
ダイクロイックミラー53aを透過した緑波長帯域の光線30はPBS54aで反射し、緑用の反射型液晶表示素子55gに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、2つのPBS54a,PBS54cを透過して投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0166】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性偏光分離素子1を透過し、青用の反射型液晶表示素子55bに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光21となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を反射し、1/2波長板58によりS偏光20に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0167】
ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性偏光分離素子1を反射し、赤用の反射型液晶表示素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を透過し、1/2波長板58によりS偏光40に変換され、PBS54cを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0168】
黒表示(画像情報が黒色)の場合はいずれの光も反射型液晶表示素子55r,55g.55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、光学部材を介し同じ光路で再び光源51側に戻る。1/2波長板58は波長依存性のないものが好ましい。
【0169】
図27の従来の反射型液晶表示素子を用いた液晶投影光学系のPBS54bを波長選択性偏光分離素子1に置き換えることによって2つの波長選択性位相子56b,56rを使う必要がなくなる。
【0170】
実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子は真空蒸着等により製作できる誘電体多層膜であるため、波長選択性偏光分離素子の課題を改善し、簡易な構成で信頼性、耐久性の向上、高い面精度を実現した色分解合成手段が実現できる。また、波長選択性位相子がなくなるため、全体の透過率が上がり、投影する光量も上がる。
【0171】
図24の色分解合成手段は一例であり、光学部品、色分解の波長帯域、光線方向等が図24と異なる場合も波長選択性偏光分離素子によって投影装置が可能となる。特に、各素子間に偏光子を設けることにより特定偏光を遮断し、各素子からもれるもれ光が低減でき、コントラスト向上に有効である。また、図24では偏光変換素子52によりS偏光に変換されるが、P偏光であっても同様な投影装置が可能であり、これに限定されない。
【0172】
また、色分解合成系において各プリズムは温度上昇に伴う応力発生より位相差が生じるため、伝播光の偏光状態が変化してしまう。このため、光弾性定数の低いものを用いることが好ましく、光弾性定数0.09×10-8cm2/N のOHARA社PBH56のような低い光学部材を用いる方が好ましい。また、応力の発生を低減するものを用いることも好ましい。応力はヤング率、膨張係数の関数で与えられるため、ヤング率・膨張係数の低いものを用いることが好ましく、OHARA社S-LAL14、S-LAH55等のような光学部材を用いる方が好ましい。
【0173】
また、実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子の特性において、照明光学系、素子の製造ばらつき、光源手段の分光分布等を考慮すると、第一波長帯域および第二波長帯域は共に30nm以上の帯域幅があり、且つその30nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が60%以上でないと投影装置の明るさ、コントラストが十分得られない。さらに第一波長帯域および第二波長帯域は共に50nm以上の帯域幅があり、且つその50nm以上の帯域幅を有する第一波長領域、第二波長領域におけるS偏光とP偏光の透過率の差が75%以上であるほうが好ましい。さらに、帯域幅が広く、S偏光とP偏光の透過率の差が大きいほど好ましいことは明らかであってこれらの設計も可能である。
【0174】
以上のことは以下の各実施例においても同様である。
【実施例15】
【0175】
図25は、本発明の実施例15の投影装置の要部概略図である。実施例15は実施例14と同様に実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子と反射型液晶表示素子を用いた投影装置である。図25において矢印は白表示における赤、緑、青色のそれぞれの光線の光路を示している。実線がS偏光、破線がP偏光である。
【0176】
光源(光源手段)51から発光し、偏光変換素子52により偏光がS偏光にそろえられた白色光20,30,40はダイクロイックミラー53aにより緑波長帯域の光線30を透過、赤波長帯域の光線40、青波長帯域の光線20を反射させる。ダイクロイックミラー53aを透過した緑波長帯域の光線30はPBS54aで反射し、緑用の液晶による反射型液晶表示素子55gに入射し、変調される。
【0177】
白表示の場合、変調された光はP偏光31となって射出されるため、PBS54a,を透過し、ダイクロイックプリズム53bを透過し、投射レンズ系57に入射し、投影される。ダイクロイックプリズム53bは緑波長帯域のP偏光を透過、青、赤波長帯域のP偏光を反射させる多層膜をプリズムで挟み込んだ素子である。
【0178】
ダイクロイックミラー53aにより反射された青波長帯域の光線20は波長選択性偏光分離素子1を透過し、青用の反射型液晶表示素子55bに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光21となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を反射し、ダイクロイックプリズム53bを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。ダイクロイックミラー53aにより反射された赤波長帯域の光線40は波長選択性偏光分離素子1を反射し、赤用の反射型液晶表示素子55rに入射し、変調される。白表示の場合、変調された光はP偏光41となって射出されるため、波長選択性偏光分離素子1を透過し、ダイクロイックプリズム53bを反射し、投射レンズ系57に入射し、投影される。
【0179】
黒表示の場合はいずれの光も液晶変調素子55r,55g.55bにより入射と同じ偏光のまま射出されるため、光学部材を介し同じ光路で再び光源51側に戻る。
【0180】
実施例15では1/2波長板を用いていないため、全体の透過率が上がり、光量が増加する。図27の従来の反射型液晶表示素子を用いた投影装置のPBS54bを波長選択性偏光分離素子1に置き換えることによって2つの波長選択性位相子56b,56rを使う必要がなくなる。実施例1〜13の波長選択性偏光分離素子は真空蒸着等により製作できる誘電体多層膜であるため、波長選択性偏光分離素子の課題を改善し、簡易な装置で信頼性、耐久性の向上、高い面精度を実現した色分解合成手段が実現できる。また、波長選択性位相子がなくなるため、全体の透過率が上がり、投影する光量も上がる。
【実施例16】
【0181】
図26は本発明の実施例16の投影装置の要部概略図である。
【0182】
実施例16は実施例15の投影装置についてさらにコントラストの向上、フレアを低減したものである。
【0183】
図中実線がS偏光、波線がP偏光、一点鎖線は円偏光である。
【0184】
実施例16が実施例15と異なる点はPBS54aとダイクロイックプリズム53bとの間、波長選択性偏光分離素子1とダイクロイックプリズム53bとの間にS偏光を遮断する偏光子59を各々配置する。また、ダイクロイックプリズム53bと投射レンズ系57との間に1/4波長板60を設置する。
【0185】
偏光子59によりPBS54aおよび波長選択性偏光分離素子1のもれ光が遮断されるため、コントラストが向上する。特に黒表示の際に反射型液晶表示素子から反射されるS偏光がPBS54aおよび波長選択性偏光分離素子1からもれるもれ光が遮断できる。また、投射レンズ系57の各レンズは反射防止膜にも依存するが、若干の反射が存在し、戻り光として色分解合成手段に戻る。
【0186】
図27の従来の色分解合成手段ではこの戻り光が液晶による光変調素子まで戻るため、フレアの原因となる。これに対して、本実施例では図26(a)のように1/4波長板60を射出した光が青、緑、赤色の波長帯域それぞれが円偏光22,32,42となり、投射レンズ57に入射し、投影される。投影レンズ57からの戻り光22,32,42は図26(b)に示すように、1/4波長板60を透過してS偏光20,30,40となる。ダイクロイックプリズム53bにより透過および反射び分解されるが、透過・反射のいずれでも偏光子59により遮断される。
【0187】
このため、戻り光が液晶による光変調素子まで戻らないため、フレア低減が可能である。図26(a),(b)の色分解合成手段は一例であり、光学部品、色分解の波長帯域、光線方向等が図26と異なる場合も波長選択性偏光分離素子によって投影装置が可能となる。
【0188】
以上のように各実施例の投影装置は、光源手段と、無偏光の光の偏光方向を揃える偏光変換手段と、波長帯域により光を分解合成する手段と、実施例1〜13のいずれか1つの偏光分離素子による光の色分解および合成の両方の機能を有する光学手段と、偏光方向を変調する光変調手段と、合成された光を投影する投影手段を有している。
【0189】
また、これら実施例の投影装置(画像表示装置)は、複数の反射型液晶表示素子(反射型液晶パネル)と、複数の色光でそれぞれ対応する前記複数の反射型液晶表示素子を照明し、該複数の反射型液晶表示素子からの複数の色光を合成して投射する光学系とを有する画像表示装置であって、前記光学系が実施例1〜のいずれかに記載の偏光分離素子を用いて、前記複数の反射型液晶表示素子からの前記複数の色光を合成している。ここで、前記偏光分離素子の多層膜(多層膜構造が構成されている面)に対して、前記光学系の光軸が略45度(44〜46度の範囲)なしている。前記偏光分離素子の多層膜に入射する光線の入射角度範囲が10度以内の角度範囲(つまり、40〜50度の角度範囲で多層膜構造が形成されている面に入射する)である。
【0190】
以上のように、各実施例によれば、3つの異なる屈折率(互いに異なる3つの屈折率領域)を持つ薄膜を積層した波長選択性のある偏光分離素子を用いることで、反射型の液晶プロジェクターの光学系の色分解合成手段において、波長選択性位相変換素子が不要な光学系(投影装置)が実現でき、小型、耐久性の高い光学系が可能となる。また、投射レンズから反射した戻り光を遮断する色分解合成手段の構成が実現でき、コントラスト向上およびフレアの低減が可能な光学系が得られる。
【0191】
以上述べた本実施例について、表16を用いて説明する。表16に記載したのは、実施例1〜13の偏光分離素子に用いられる多層膜の主な構成部分の概略構成(多層膜の概略構成)と、入射側プリズムの材料とその屈折率、高屈折率層の屈折率、中屈折率層の屈折率、低屈折率層の屈折率、出射側に配置された接着剤の屈折率、高屈折率層と中屈折率層の屈折率差、中屈折率層と低屈折率層の屈折率差、波長430nmでのP偏光の透過率(%)、波長430nmでのS偏光の透過率(%)、波長430nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長490nmでのP偏光の透過率(%)、波長490nmでのS偏光の透過率(%)、波長490nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長580nmでのP偏光の透過率(%)、波長580nmでのS偏光の透過率(%)、波長580nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)、波長650nmでのP偏光の透過率(%)、波長650nmでのS偏光の透過率(%)、波長650nmでのS偏光とP偏光の透過率差(%)である。
【0192】
ここで、波長430nmと波長490nmという波長は、第1〜3、5〜13実施例の偏光分離素子がS偏光を透過しP偏光を反射する領域(すなわち第一波長領域)の下限値と上限値であり、第4実施例においてはS偏光を反射しP偏光を透過する領域(すなわち第2波長領域)の大まかな下限値と上限値である(実施例によって10〜20nm前後の違いがある)。
【0193】
そして、波長580nmと波長650nmという波長は、第1〜3、5〜13実施例の偏光分離素子がP偏光を透過しS偏光を反射する領域(すなわち第2波長領域)の下限値と上限値であり、第4実施例においてはP偏光を反射しS偏光を透過する領域(すなわち第1波長領域)の大まかな下限値と上限値である(実施例によって10〜20nm前後の違いがある)。
【0194】
また、ここで透過率の差を示しているが、波長430nmから波長490nmの範囲内におけるP偏光とS偏光の透過率の差は、波長430nmにおける透過率の差及び波長490nmにおける透過率の差以上である。波長580nmから波長650nmの範囲内においても同様のことが言える。
【0195】
本実施例において長波長側の波長を650nmの代わりに670nm程度に設定しても良い。
【0196】
ここで、表16より以下のことが言える。尚、以下の記載は表16を見れば分かるように、本実施例のうちの少なくとも一部の実施例が満たしている条件である。
【0197】
入射側に配置されたプリズム(他の透過型の光学部材であれば別の部材でも構わない)の屈折率は、1.55(好ましくは1.65)以上2.1(好ましくは1.90)以下であることが望ましい。
【0198】
高屈折率層の屈折率は、2.0(好ましくは2.1)以上2.6(好ましくは2.35)以下であることが望ましい。
【0199】
中屈折率層の屈折率は、1.59(好ましくは1.60)以上1.9(好ましくは1.82)以下であることが望ましい。
【0200】
低屈折率層の屈折率は、1.25(好ましくは1.35)以上1.56(好ましくは1.50)以下であることが望ましい。
【0201】
出射側の接着剤の屈折率は、1.40(好ましくは1.50)以上1.70(好ましくは1.60)以下であることが望ましい。
【0202】
高屈折率層と中屈折率層との屈折率の差は、0.35(好ましくは0.48)以上0.9(好ましくは0.70)以下であることが望ましい。
【0203】
中屈折率層と低屈折率層との屈折率の差は、0.12(好ましくは0.15)以上0.55(好ましくは0.42)以下であることが望ましい。
【0204】
また、第一波長領域は、少なくとも450〜480nm(好ましくは430〜490nm)の領域を含んでいることが望ましい。また、実施例4のように600〜630nm(好ましくは585〜630nm)の領域を含んでいても良い。そして、この第一波長領域においては、S偏光の透過率は60%(より好ましくは80%、さらに好ましくは90%)以上であることが望ましく、P偏光の透過率は、40%(より好ましくは32%、さらに好ましくは20%)以下であることが望ましい。その結果として、S偏光とP偏光の透過率の差は、60%(より好ましくは70%、さらに望ましくは80%)以上であることが望ましい。実施例4に関しては、S偏光の透過率が40%(より望ましく30%、より好ましくは20%)以下であることが望ましく、P偏光の透過率が60%(より望ましくは80%、さらに好ましくは90%)以上であることが望ましい。その結果として、実施例4に関しては、S偏光とP偏光の透過率の差は、60%(より好ましくは70%)以上である。
【0205】
また、第二波長領域は、少なくとも600〜630nm(好ましくは590〜650nm)の波長領域を含んでいることが望ましい。また、実施例4のように450〜480nm(好ましくは430〜490nm)の領域を含んでいても良い。また、この第2波長領域においては、S偏光の透過率は40%(好ましくは20%、より望ましくは10%)以下であって、P偏光の透過率は60%(好ましくは80%、より好ましくは90%)以上である。その結果としてS偏光とP偏光の透過率の差は、60%(好ましくは70%、より好ましくは75%)以上である。実施例4に関しては、S偏光の透過率が40%(好ましくは15%、より好ましくは7%)以下であり、P偏光の透過率が60%(好ましくは70%)以上である。その結果としてS偏光とP偏光との透過率差は、60%(好ましくは70%、より好ましくは72%)以上である。
【0206】
また、以上より、すべての実施例に関して、以下のことが言える。
【0207】
本実施例に記載した偏光分離素子は、第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。また、同じく偏光分離素子であって、第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有する。ここで、前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回(好ましくは10回)以上積層した多層膜である。
【0208】
また、前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であって、その第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含む。
【0209】
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下である。
【0210】
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下である。また、この多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれている。また、前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つ(ここでは実施例5において、中屈折率層の材料として2種類、低屈折率層の材料として2種類の材料を用いる例を示しているが、勿論高屈折率層の材料として2種類の材料を用いる例も考えられる。)は、互いに屈折率が異なる層を含む。
【0211】
次に、実施例1〜7に関して以下のことが言える。
【0212】
前述の第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲である。さらに、第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足する。さらに望ましくは、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足する。
【0213】
次に実施例8〜10に関して以下のことが言える。
【0214】
第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲である。さらに、前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足する。さらに望ましくは、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足する。
【0215】
次に実施例11〜13に関して以下のことが言える。
【0216】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲である。さらに、第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、設計波長をλとし、前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足する。さらに望ましくは、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足する。
【0217】
また、実施例14〜16に関しては以下のことが言える。実施例14〜16に記載した画像表示装置は、第1の画像表示素子と、第2の画像表示素子と、前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、前記色合成光学系が、前述の偏光分離素子を有する。また、実施例14〜16に記載した画像表示装置は、第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、前記照明光学系が、前述の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成し、前記投射光学系に導く。
【0218】
【表1】
【0219】
【表2】
【0220】
【表3】
【0221】
【表4】
【0222】
【表5】
【0223】
【表6】
【0224】
【表7】
【0225】
【表8】
【0226】
【表9】
【0227】
【表10】
【0228】
【表11】
【0229】
【表12】
【0230】
【表13】
【0231】
【表14】
【0232】
【表15】
【0233】
【表16】
【0234】
【表17】
【0235】
【表18】
【0236】
【表19】
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】:波長選択性のある偏光分離素子の基本動作を模式的に示す図である。(a)はS偏光入射、(b)はP偏光入射の場合である。
【図2】:(a)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|1.0L 0.5H 1.0M 0.5H| 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図3】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(1.0L 0.5H 1.0M 0.5H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】:実施例1の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】:(a)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|0.7L 0.35H 1.5M 0.35H接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.7L 0.35H 1.5M 0.35H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】:実施例2の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】:実施例3における第3多層膜のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】:実施例3の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】:実施例4の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】:実施例5の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】:実施例6の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】:実施例7の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】:(a)は入射側プリズムの屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|2.1M 1.2L 2.1M 0.6H| 接着剤の波長500nmにおけるS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。(b)は入射側プリズムの屈折率は1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(2.1M 1.2L 2.1M 0.6H)10 | 接着剤の場合のS偏光、P偏光の透過率の角度特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.6H 2.1M 1.2L 2.1M)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図16】:実施例8の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図17】:実施例9の波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図18】:実施例10における波長選択性偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.7M 0.5L 0.5H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図20】:実施例11の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図21】:入射側プリズムの材料の屈折率が1.85、H層は屈折率2.32、L層は屈折率1.39、M層は屈折率1.65、射出側は屈折率1.55の接着剤とし、波長550nmにおいての膜構成がPrism|(0.5L 1.9M 0.5L0.32H)10 | 接着剤の入射角度45度におけるS偏光、P偏光の透過率の波長特性のシミュレーション結果を示す図である
【図22】:実施例12の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図23】:実施例13の波長選択性の偏光分離素子のS偏光、P偏光の透過率のシミュレーション結果を示す図である。
【図24】:実施例14の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。
【図25】:実施例15の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。
【図26】:実施例16の波長選択性の偏光分離素子と液晶による反射型光変調素子を用いた画像投影装置を示す図である。(a)は白表示時、(b)は投射レンズ系からの戻り光の光路を示す図である。
【図27】従来の液晶による反射型光変調素子を用いた液晶投影装置を示した図である。
【符号の説明】
【0238】
1:波長選択性偏光分離素子
11,12:光学部材
10:多層構造
20:青波長帯域のS偏光光線
21:青波長帯域のP偏光光線
22:青波長帯域の円偏光光線
30:緑波長帯域のS偏光光線
31:緑波長帯域のP偏光光線
32:緑波長帯域の円偏光光線
40:赤波長帯域のS偏光光線
41:赤波長帯域のP偏光光線
42:赤波長帯域の円偏光光線
51:光源
52:偏光変換素子
53a:ダイクロイックミラー(S偏光の青・赤波長帯域を反射、緑波長帯域を透過)
53b:ダイクロイックプリズム(P偏光の青・赤波長帯域を反射、緑波長帯域を透過)
54a,54b,54c:偏光ビームスプリッタ
55b,55g,55r:液晶による反射型光変調素子
56b,56r:波長選択性位相子
57:投射レンズ系
58:1/2波長板
59:偏光子
60:1/4波長板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴とする偏光分離素子。
【請求項2】
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴とする偏光分離素子。
【請求項3】
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回以上積層した多層膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光分離素子。
【請求項4】
前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項5】
前記第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、前記第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項6】
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、
前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、
前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項7】
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、
前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項8】
前記多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項9】
前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つは、互いに屈折率が異なる層を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項10】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項11】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足することを特徴とする請求項10に記載の偏光分離素子。
【請求項12】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴とする請求項10又は11に記載の偏光分離素子。
【請求項13】
前記第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項14】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足することを特徴とする請求項13に記載の偏光分離素子。
【請求項15】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足することを特徴とする請求項13又は14に記載の偏光分離素子。
【請求項16】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項17】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足することを特徴とする請求項16に記載の偏光分離素子。
【請求項18】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴とする請求項16又は17に記載の偏光分離素子。
【請求項19】
第1の画像表示素子と、
第2の画像表示素子と、
前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、
前記色合成光学系が、請求項1〜18いずれかに記載の偏光分離素子を有することを特徴とする画像表示素子。
【請求項20】
第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、
前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、
光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、
前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、
前記照明光学系が、請求項1〜18に記載の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、
前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成した上で前記投射光学系に導くことを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率が70%以上であり、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴とする偏光分離素子。
【請求項2】
第1範囲内の屈折率を有する第1層と、前記第1範囲と重複しない第2範囲内の屈折率を有する第2層と、前記第1及び第2範囲と重複しない第3範囲内の屈折率を有する第3層とを、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して積層した多層膜を含む偏光分離素子であって、
第一波長領域の光に対しては、S偏光の透過率がP偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域の光とは異なる第二波長領域の光に対しては、P偏光の透過率がS偏光の透過率よりも60%以上高く、
前記第一波長領域も前記第二波長領域も30nm以上の帯域幅を有することを特徴とする偏光分離素子。
【請求項3】
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層、前記第1層、前記第3層の順に連続して5回以上積層した多層膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光分離素子。
【請求項4】
前記第一波長領域及び前記第二波長領域は、共に可視光領域内(400nm以上700nm以下)の波長であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項5】
前記第一波長領域が450nm〜480nmの帯域を含み、前記第二波長領域が600nm〜630nmの帯域を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項6】
前記第1、2、3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層の屈折率が、2.0以上2.6以下であり、
前記中屈折率層の屈折率が、1.59以上1.9以下であり、
前記低屈折率層の屈折率が、1.25以上1.56以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項7】
前記第1、第2、第3層のうち屈折率が最も高い層をH層(高屈折率層)、2番目に屈折率が高い層をM層(中屈折率層)、最も屈折率が低い層をL層(低屈折率層)とするとき、
前記高屈折率層と前記中屈折率層との屈折率の差が、0.35以上0.9以下であり、
前記中屈折率層と前記低屈折率層との屈折率の差が、0.12以上0.55以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項8】
前記多層膜は、屈折率が1.55以上2.10以下の第1材料からなる物質と、屈折率が1.40以上1.70以下の第2材料からなる物質との間に挟まれていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項9】
前記第1層、前記第2層、前記第3層の少なくとも1つは、互いに屈折率が異なる層を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項10】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項11】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<a<3、 0<b≦1、 0<c<5、 0<d≦1
を満足することを特徴とする請求項10に記載の偏光分離素子。
【請求項12】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のH層、M層、第2のH層、L層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のH層、前記M層、前記第2のH層、前記L層の膜厚を、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)、a×λ/(4nL)とするとき、
0<b≦a≦c<5、 0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴とする請求項10又は11に記載の偏光分離素子。
【請求項13】
前記第1、第2、第3範囲のうち2番目に屈折率が高い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項14】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<6、 0<c<6、d<b、 0<b<5、0<d<2
を満足することを特徴とする請求項13に記載の偏光分離素子。
【請求項15】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のM層、L層、第2のM層、H層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のM層、前記L層、前記第2のM層、前記H層の膜厚を、a×λ/(4nM)、b×λ/(4nL)、c×λ/(4nM)、d×λ/(4nH)とするとき、
0<a<3、 0<c<6、d<b、 0<b<2、0<d<1
を満足することを特徴とする請求項13又は14に記載の偏光分離素子。
【請求項16】
前記第1、第2、第3範囲のうち最も屈折率が低い範囲が前記第1範囲であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏光分離素子。
【請求項17】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<a<3、 0<b<5、d<b、 0<c<3、0<d≦1
を満足することを特徴とする請求項16に記載の偏光分離素子。
【請求項18】
前記第1、第2、第3層のうち最も屈折率が高い層をH層、2番目に屈折率が高い層をM層、最も屈折率が低い層をL層とし、
前記H層、L層、M層の各々の屈折率をnH、nL、nMとし、
設計波長をλとし、
前記多層膜が第1のL層、H層、第2のL層、M層の順に連続して積層されているものとし、
前記第1のL層、前記H層、前記第2のL層、前記M層の膜厚を、a×λ/(4nL)、b×λ/(4nH)、c×λ/(4nL)、d×λ/(4nM)とするとき、
0<b≦a≦c<5、0<d≦a≦c<5
を満足することを特徴とする請求項16又は17に記載の偏光分離素子。
【請求項19】
第1の画像表示素子と、
第2の画像表示素子と、
前記第1の画像表示素子から出射する第1画像光と、前記第2の画像表示素子から出射する第2画像光とを合成する色合成光学系とを備えており、
前記色合成光学系が、請求項1〜18いずれかに記載の偏光分離素子を有することを特徴とする画像表示素子。
【請求項20】
第1色光に対応する第1の反射型液晶表示素子と、
前記第1色光とは異なる第2色光に対応する第2の反射型液晶表示素子と、
光源からの光で前記第1、第2反射型液晶表示素子を照明する照明光学系と、
前記第1、第2反射型液晶表示素子からの光を被投射面に投射する投射光学系とを有する画像表示装置であって、
前記照明光学系が、請求項1〜18に記載の偏光分離素子を含み、第1偏光状態の前記第1色光と前記第1偏光状態の前記第2色光とを前記偏光分離素子に導くことにより、前記第1偏光状態の前記第1色光で前記第1反射型液晶表示素子を照明し、前記第1偏光状態の前記第2色光で前記第2反射型液晶表示素子を照明しており、
前記第1反射型液晶表示素子及び前記第2反射型液晶表示素子から出射する、前記第1偏光状態とは偏光方向が直交する第2偏光状態の前記第1色光と前記第2偏光状態の前記第2色光とを、前記偏光分離素子で色合成した上で前記投射光学系に導くことを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2006−79058(P2006−79058A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149943(P2005−149943)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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