説明

偏光板対及び液晶表示装置

【課題】 黒表示時の斜め視野における光漏れと色シフトを低減できる液晶表示装置を提供する。
【解決手段】
位相差板119は、第1偏光板101の光出射側に配置され、面内位相差が0〜10nmで、厚み方向位相差が0〜35nmの複屈折特性を有する。位相差板117及び位相差板118は、第2偏光板105の光入射側に配置される。位相差板117は、面内位相差が0〜15nmで、厚み方向位相差が50〜123nmの複屈折特性を有する。また、かつ、正の一軸性の光学特性を有し、光軸が前記偏光層面に垂直になるように配置される。位相差板118は、面内位相差が35〜245nmの複屈折を有し、該複屈折特性の面内光学軸のうちで屈折率が大きい方の光学軸と前記第1の偏光層の光吸収軸とが直交するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板対及び液晶表示装置に関し、更に詳しくは、表示コントラストの視野角特性と表示色の視野角特性が改善できる偏光板対、及び、そのような偏光板対を用いたホモジニアス配向の液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画素電極とコモン電極との間に基板に平行な電場を形成して画像表示を行うIPS(インプレーンスイッチング)モードの液晶表示装置が提案されている。このIPSモードの液晶表示装置(液晶表示素子)は、TNモードの液晶表示装置に比して、広い視野角が得られることで知られている。IPSモードの液晶表示装置は、一対の基板と、これらに狭持された液晶層と、各基板の外側に貼り付けられた第1及び第2の偏光板とで構成されている。
【0003】
第1及び第2の偏光板は、液晶表示装置において、液晶の配向の変化を可視化させる働きを有する。偏光板は、通常、偏光層に透明保護膜(TAC:トリアセチルセルロース)を積層して構成されている。偏光層は、入射光を互いに直交する2つの偏光成分に分け、そのうちの一方である振動方向が偏光層の透過軸と平行な成分のみ通過させ、他方の成分である振動方向が偏光層の吸収軸と平行な成分を吸収、又は、分散する光学素子である。液晶表示素子では、偏光板と液晶層との配向方向が、電極間に電場を印加していないときに黒表示となるように設定され、電場を印加したときにλ/2となるように液晶層の配向を変化させ、白表示となるように設定されている。
【0004】
一般に、透過型IPSモードなどのホモジニアス配向の液晶層を有する液晶表示装置は、液晶セルをその厚さ方向の両側から偏光板で挟んで構成され、両側の偏光層は互いの透過軸を直交させて配置されている。透過軸を直交させた一対の偏光層は、直交偏光子と呼ばれる。一般に、直交偏光子の特性は視野角依存性があり、直交偏光子に対して斜め方向から光が入射すると透過軸の方向が変化する。従って、垂直入射光に対して、第1及び第2の偏光層を各々の透過軸が互いに直交するように重ね合わせても、斜め入射光に対しては交差角度が直角からずれ、第1の偏光層を通過した偏光は第2の偏光層の透過軸と平行な方向の成分を有し、この成分が第2の偏光層を透過して光漏れを生じる。
【0005】
上記した直交偏光子の視野角依存性は、液晶表示装置の画面の明るさ、コントラスト、色合いなどを良く視認できる視覚範囲(視野角)を狭くする原因となる。視野角の広い液晶表示装置を実現するためには、直交偏光子の視野角依存性を低減して光漏れのほとんど生じない、視覚範囲(視野角)を広くする光学補償偏光板の開発が必須であり、これまでに、いくつか提案されている。例えば、IPSモードなどのホモジニアス配向の液晶表示装置に関して、上記した光漏れを抑制する技術としては、特許文献1に記載された技術がある。この技術では、二軸性の複屈折フィルム(光学補償層)を用いて、斜め入射光の第2の偏光子の透過軸と平行となる成分が垂直となるように補償して、光漏れを抑制している。
【特許文献1】特開2001−242462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、液晶層と同様に波長依存性を有する光学補償層を追加するため、単純に一枚追加しただけでは、特定の波長に対しては効果が期待できるものの、全ての波長を光学補償することができないことで光漏れが生じ、漏れる光の波長によって方位角に依存した色つきも生じるという問題がある。また、偏光板は、通常、偏光層と透明保護層で構成されているが、この透明保護層は厚みに応じたリタデーションを有しており、光入射側の偏光板で直線偏光となった斜め入射光が、透明保護層で楕円偏光となり、液晶層で更に偏光変化を起こして、不用意な光漏れと色つきを増加させるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、斜め入射時における偏光層を透過した光の偏光状態を垂直入射時と等しくする働きを有し、広い波長範囲において偏光子の光学特性の変化を補償でき、視野角の広い液晶表示装置を実現できる偏光板対、及び液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の偏光板対は、相互に対向し、それぞれが偏光層を含む第1及び第2の偏光板から成る偏光板対であって、前記第1の偏光板は、面内位相差が0〜10nmで、厚み方向位相差が0〜35nmの複屈折特性を有する第1の位相差板を、前記偏光層の前記第2の偏光板に近い側の面に備え、前記第2の偏光板は、面内位相差が35〜245nmの複屈折を有し、該複屈折特性の面内光学軸のうちで屈折率が大きい方の光学軸と前記第1の偏光層の光吸収軸とが平行又は直交するように配置される第2の位相差板と、面内位相差が0〜15nmで、厚み方向位相差が50〜123nmの複屈折特性を有し、かつ、正の一軸性の光学特性を有し、光軸が前記偏光層面に垂直になるように配置された第3の位相差板とを、前記偏光層の前記第1の偏光板に近い側の面に備えることを特徴とする。
【0009】
例えば、第1の偏光板側を光入射側に配置し、第2の偏光板側を光出射側に配置する場合について考える。また、第2偏光板では、第2偏光板の偏光層の第1の偏光板に対向する側(光入射側、液晶表示装置における液晶層側)に配置される第2及び第3の位相差板が、光入射側から第3の位相差板、第2の位相差板の順序で配置する場合について考える。本発明の偏光板対では、第1の偏光板の偏光層の第2の偏光板に対向する側(光出射側、液晶表示装置における液晶層側)に、偏光層の保護層の役割を兼ねる第1の位相差板を配置する。この第1の位相差板の厚み方向の位相差を小さく、望ましくは17nm以下とすることで、液晶層に斜めに入射する光が、偏光層の保護層で楕円偏光になるのを抑える。これにより、液晶層で生じる波長に依存した位相変化を低く抑え、直線偏光に近い状態で光を通過させることができる。また、光出射側では、正の一軸光学特性で光軸が偏光層面に垂直な方向の第3の位相差板で、液晶層から出射した直線偏光をいったん楕円偏光に変換し、次いで、位相差板面内の光学軸方向の屈折率がn1<n2の光学特性を持つ第2の位相差板で、第3の位相差板から出射される楕円偏光を再び直線偏光に戻す。液晶層から出射した偏光の偏光軸方向と第2の位相差板を出射した後の偏光の偏光軸方向とは異なっており、第2の位相差板の面内位相差を350〜245nmの範囲内、第3の位相差板の厚み方向の位相差を50〜123nmの範囲内に設定することで、直交偏光子の視野角依存性を打ち消すことができる。1枚の二軸位相差板で、例えば直線的に一方向に光学補償した場合には、位相差板が有する複屈折率の波長依存性がそのまま色分散として現れる。これに対し、本発明では、2枚の正の一軸位相差板の組み合わせで2方向に光学補償することによって、出射側で波長依存性を打ち消して、色分散を低減する。これにより、本発明の偏光板対を用いた液晶表示装置において、液晶層と第1〜第3の位相差板との複屈折率波長依存性を低く抑えて、正面方向と斜め視野方向の色味の変化(色度差)を悪化させずに、黒表示時の斜め方向の光漏れを抑えることができ、液晶表示装置の視野角特性を改善することができる。第1の偏光板を光出射側に配置し、第2の偏光板を光入射側に配置する場合にも、第1〜第3の位相差板を用いて光学補償することにより、上記と同様な効果を得ることができる。
【0010】
本発明の偏光板対では、前記第3の位相差板の面内位相差が0〜7nm、厚み方向の位相差(ni1)が0〜17nmの範囲であり、前記第2の位相差板の面内位相差が0〜10nm、厚み方向の位相差(nc1)が、
57.0−0.23×ni1+0.11×ni12≦ nc1 ≦ 120.0−0.42×ni1−0.08×ni12
の範囲であることが好ましい。この場合、正面視野と斜め視野とにおける色度差を、光学補償なしの場合に比して、低く抑えることができる。
【0011】
本発明の偏光板対では、前記第1の偏光板は前記偏光層の前記第2の偏光板から遠い側の面に、前記第2の偏光板は前記偏光層の前記第1の偏光板に遠い側の面に、それぞれ保護層を備える構成を採用できる。これら保護層には、例えば、偏光保護層として一般的に用いられるTACを用いることができる。
【0012】
本発明の偏光板対では、前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板に近い側に配設される構成を採用することができる。或いは、これに代えて、前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板よりも遠い側に配設される構成を採用することもできる。第2の位相差板と、第3の位相差板の順序を入れ替えても、効果は同等であり、セル設計に応じて、適宜選択すればよい。
【0013】
本発明の液晶表示装置は、上記本発明の偏光板対と、ホモジニアス配向の液晶層と、該液晶層を挟む一対の基板とを備え、第1及び第2の偏光板が前記一対の基板を挟んで配置されることを特徴とする。
【0014】
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板対を用いることで、黒表示時の斜め視野方向方の光漏れを抑えることができると共に、色つきのない光学補償が可能となり、視野角特性を改善できる。
【0015】
本発明の液晶表示装置では、前記第2の位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と平行又は直交する構成を採用できる。
【0016】
本発明の液晶表示装置では、前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板に近い側に配設されており、前記第2位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と直交する構成を採用できる。また、前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板よりも遠い側に配設されており、前記第2位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と平行する構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の偏光板対及び液晶表示装置では、例えば光入射側に第1の偏光板を配置し、第1の偏光板の偏光層を通過した光を第1の位相差板で偏光変化させ、その後、第2及び第3の位相差板で更に偏光変化させた光を第2偏光板の偏光層に入射する。このように光学補償することで、第2の偏光板の偏光層の位置で光分散が少ない状態を作り出すことができ、黒表示時の斜め視野における光漏れを低減し、液晶表示素子の表示品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の液晶表示素子を断面図で示している。この液晶表示素子100は、ホモジニアス配向の液晶層を有する、IPSモードの液晶表示装置の液晶表示素子として構成され、バックライト光源側から順に光入射側の第1偏光板101、薄膜トランジスタ・アレイ基板(TFT基板)102、液晶層103、カラーフィルタ(CF)基板104、及び、光出射側の第2偏光板105を有する。液晶層103とTFT基板102との間には、配向膜111が配置され、液晶層103とCF基板104との間には配向膜113が配置される。TFT基板102は、ガラス基板106、絶縁層107、TFT108、画素電極109、及び、対向電極110を有する。
【0019】
TFT108は、画素電極109に供給する電位を制御する。液晶表示素子100では、画素電極109と対向電極110とがTFT基板102上に形成され、液晶層103の液晶分子112に横方向の電場が印加される。絶縁層107は、シリコン窒化膜を含む。CF基板104は、カラーフィルタ114、遮光層115、及び、ガラス基板116を有する。カラーフィルタ114は、液晶層103を通過した光を、RGBの3原色の何れかの色に着色する。遮光層115は、TFT108や図示しないデータ線等を遮光する。ただし、モノクロの液晶表示素子においてはカラーフィルタ114を除いた構成となる。
【0020】
図2(a)及び(b)は、それぞれ、図1の液晶表示装置100の一部を拡大して示している。図2(a)は、光出射側の第2偏光板105、位相差板117、118、及び、CF基板104を構成するガラス基板116を示しており、同図(b)は、光入射側の第1偏光板101、位相差板119、及び、TFT基板102を構成するガラス基板106を拡大して示している。光入射側の第1偏光板101は、同図(b)に示すように、例えばPVAからなる偏光層120、及び、例えばTACから成る保護層121を有する。また、光出射側の第2偏光板105は、同図(a)に示すように、偏光層120、及び保護層124を有する。
【0021】
位相差板117(nc)、118(na)、及び、119(ni)は、それぞれ所定の光学特性を有する。光出射側では、図2(a)に示すように、ガラス基板116上に位相差板118及び位相差板117が順次にこの順で積層され、その上に、第2偏光板105が配置される。一方、光入射側では、同図(b)に示すように、第1偏光板101上に位相差板119が配置され、その上に、ガラス基板106が配置される。これら位相差板117、118、119は、例えばフィルム貼り付けやコーティングにより形成される。
【0022】
通常、偏光板は、偏光層の両側を保護層(TAC)で挟み込んだ形で使用される。本実施形態では、第1偏光板101のガラス基板106側に位相差板119(ni)を配置し、偏光層120を保護層121と位相差板119で挟み込んで、位相差板119に保護層の役割も持たせている。同様に、第2偏光板105のガラス基板116側に位相差板117(nc)、118(na)を配置して、位相差板117(nc)、118(na)に保護層の役割も持たせている。
【0023】
ここで、保護層121、124は、それぞれ、光軸が偏光板面に垂直方向の負の一軸位相差板と同様に作用し、それぞれの厚みに応じた位相差を有するが、偏光層120の外側に配置されているため表示に影響はない。また、位相差板119として、厚み方向の位相差が0nmのものを使用する場合には、位相差板119では、偏光光の位相変化が起きないため、第1偏光板101をガラス基板106に直接貼り付けても、位相差板119の厚み方向位相差が0nmの場合と、同等の効果を得ることが出来る。
【0024】
上記、液晶表示装置100を構成する光学補償偏光板を、図2の構造でシミュレーションし、位相差板117、118、119の位相差を含む光学特性について、黒表示時の斜め視野における光漏れを、気にならないレベルにまで低減できる条件を求めた。なお、シミュレーションに先立ち、通常のIPSモードの液晶表示素子において、バックライトの輝度を徐々に低下させたとき、バックライトの輝度をどのレベルまで下げると、黒表示時の斜め視野における光漏れが表示品質にあまり影響を与えなくなるのかを実験により確認した。実験の結果、バックライトの輝度を通常の1/2とすれば、黒表示時の斜め視野における光漏れは、表示にあまり影響を与えなくなり、バックライトの輝度を1/4にすれば、斜め視野における光漏れは殆ど観察されないことを確認できた。そこで、上記黒表示時斜め視野から観察した場合における光漏れが気にならないレベルとしては、直交偏光子を斜めから観察した場合における光漏れの輝度(光漏れ量)を基準として、その光漏れの量が、半分となるレベルを採用した。また、正面方向、及び斜め視野方向から観察したときの色度差が光学補償して悪化しない範囲(光学補償なしの正面と斜め視野方向の色度差を1として比較、色度差にはΔu‘v’を用いた。)を併せて範囲選択の条件に採用した。これらの斜め視野方向としては、偏光板の光軸からの方位角45度、極角45度となる方向を採用した。
【0025】
各位相差板の位相差については、図3に示すように、面内の光学的主軸方向の屈折率をn1、n2とし、厚さ方向の屈折率をnzとするとき、換算の厚みをd[mm]として、面内の位相差を(n1−n2)×dの絶対値として定義し、厚み方向の位相差を[{(n1+n2)/2}−nz]×dの絶対値として定義する。シミュレーションでは、(n1−n2)≒0の一軸光学特性を有する位相差板117(n1、n2<nz)、119(n1、n2≧nz)、n1<n2の光学特性を有する位相差板118を使用した。軸配置は位相差板118の光軸を偏光層120の光軸と直交させ、位相差板117の光軸を偏光層面に垂直にし、位相差板119を偏光層面に垂直に配置し、液晶配向方向を位相差板118の光軸と一致させて行った。なお、この構成においては、液晶配向方向が偏光層の光軸に平行又は垂直のどちらであっても、液晶層での位相変化を抑える構成であるため、光学補償効果に大きな差はない。
【0026】
図4は、シミュレーションにより得られた、位相差板119の厚み方向の位相差と透過率比との関係を示している。シミュレーションでは、位相差板118の面内位相差を130nmとし、位相差板117の厚み方向位相差が50nmと80nmの場合について、位相差板119の厚み方向位相差を0〜50nmの範囲で変化させて、直交偏光子(光学補償なし)を斜め視野から観察した際の透過率との比を求めた。図4に示すように、位相差板119の厚み方向位相差の全範囲において、透過率比は0.5以下であり、光学補償による視野角特性の向上の効果が確認できる。それぞれの位相差板の効果の詳細を見ていくと、位相差板117の厚み方向位相差については50nmより大きくし、位相差板119の厚み方向位相差については50nmより小さくすることで、透過率比が低下し、光学補償の効果が高いことが分かる。
【0027】
図5は、シミュレーションにより得られた、位相差板117の厚み方向の位相差と透過率比との関係を示している。このシミュレーションでは、位相差板118の面内位相差を130nmとし、位相差板119の厚み方向の位相差を0nmとした。図5を参照すると、位相差板118の厚み方向の位相差が50nm〜123nmの範囲では、透過率比が1よりも小さくなることがわかる。図6は、シミュレーションにより得られた、位相差板118の面内位相差と透過率比との関係を示している。このシミュレーションでは、位相差板117の厚み方向の位相差を80nmとし、位相差板119の厚み方向の位相差を0nmとした。図6を参照すると、位相差板118の面内方向の位相差が、35nm〜245nnの範囲では、透過率比を0.5以下とすることができ、黒表示時の方位角45度、極角45度の方向からの斜め視野における光漏れを気にならないレベルとすることができることがわかる。
【0028】
図7は、シミュレーションにより得られた、位相差板119の厚み方向の位相差と、色度差の比との関係を示している。このシミュレーションでは、位相差板118の面内位相差を130nmとし、位相差板117の厚み方向が50nmと80nmの場合について、位相差板119の厚み方向の位相差を0〜50nmの範囲で変化させて、正面視野と斜め視野における色度差の比を求めた。図7に示すように、位相差板117の厚み方向の位相差が50nmの場合には、位相差板119の厚み方向の位相差が0〜50nmの全範囲で、色度差が1以下となり、正面視野と斜め視野方向の色度差が悪化しない。また、位相差板117の厚み方向の位相差が80nmの場合には、位相差板119の厚み方向の位相差が35nm以下で色度差比が1以下となり、更には、17nm以下で、色度差比を0.5以下とすることができる。
【0029】
図8は、位相差板117の厚み方向の位相差と、位相差板119の厚み方向の位相差との組み合わせと、色度差比との関係を示している。上記のように、色度差比には、位相差板117の厚み方向の位相差に依存性があることから、輝度低下に効果のあった位相差板117の厚み方向位相差(50〜123nm)を含む範囲でシミュレーションを行い、色度差が1以下となる、位相差板117と119の厚み方向位相差の組合せを導出したことろ、図8に示すシミュレーション結果が得られた。同図において、透過率比が0.5以下となり、かつ、色度差比が1以下となる部分を選択すると、同図中に長方形の太線で囲った部分、すなわち、位相差板119の厚み方向リタデーションが0〜35nmの範囲で、かつ、位相差板117の厚み方向リタデーションが50〜123nmの範囲が得られる。また、位相差板117の厚み方向位相差nc1とし、図8において、色度差比の低減の効果が大きい範囲として、色度差比が半分(0.5)となる範囲を求めると、位相差板119の厚み方向位相差ni1が0〜17nmの範囲で、
57.0-0.23×ni1+0.11×ni12 ≦ nc1 ≦ 120.0-0.42×ni1-0.08×ni12
が得られる。
【0030】
本実施形態例では、位相差板117、119の位相差の組み合わせを、図8中の太線枠に示す範囲にし、かつ、位相差板118の位相差を、図6中の透過率比が0.5以下となる範囲に設定することで、正面方向と斜め視野方向の色度差を悪化させないで、黒表示時の斜め視野方向における光漏れを気にならないレベルにまで低減している。これは、位相差板117、118、119の位相差を、上記範囲内の組み合わせに設定することにより、液晶層103、CF基板104で生じる光の分散を、位相差板117、118によって抑えることができ、その結果、光出射側の第2偏光板105を構成する偏光層120の位置で、光分散が少ない状態を作り出すことができるためであると考えられる。
【0031】
本実施形態では、光入射側の第1偏光板101の液晶層103側の偏光層120の保護層として、厚み方向に位相差が小さい、好ましくは、厚み方向の位相差が17nm以下の位相差板119(ni)を使用し、液晶層103に斜めに入射する光が偏光保護層で楕円偏光になることを抑える。これにより、液晶層103で生じる、波長に依存した位相変化を低く抑え、直線偏光に近い状態で、光を通過させることができる。一方、光出射側では、正の一軸光学特性で光軸が偏光層面に垂直な方向の位相差板117(nc)によって、液晶層103から出射した直線偏光をいったん楕円偏光に変換し、次に、位相差板面内の光学軸方向屈折率がn1<n2なる光学特性である位相差板118(na)で、位相差板117(nc)から出射した楕円偏光を再び直線偏光に戻す。液晶層103から出射した偏光の偏光軸の方向と、位相差板118(na)を出射した後の偏光の偏光軸の方向とは異なっており、位相差板118(na)の面内位相差を35〜245nmとし、位相差板117(nc)の厚み方向の位相差を50nm〜123nmの範囲に設定することで、斜め入射光に対して交差角度が直角からずれるという直交偏光子の視野角依存性を打ち消す、つまり、出射側の第2偏光板の吸収軸方向に偏光軸を変化させることができる。
【0032】
1枚の二軸位相差板を用いて、一方向に、例えば直線的に光学補償した場合には、位相差板が有する複屈折率の波長依存性がそのまま色分散として現れることになる。これに対し、2枚の正の一軸位相差板の組み合わせで二方向に光学補償することによって、例えば波長依存性の大きい短波長ほど遠回りさせ、出射側で波長依存性が打ち消され、色分散が小さくなる。これにより、液晶層103と光学補償層(位相差板117(nc)、118(na))との複屈折波長依存性を低く抑えて、黒表示時の斜め方向の光漏れを抑えると同時に、色付きのない広い波長域で光学補償が可能となり、視野角特性を改善でき、液晶表示素子の表示品質を向上させることができる。
【0033】
液晶表示装置では、視認性向上を目的として、表面をヘイズ処理した偏光板を用いることがある。そのような液晶表示装置では、黒表示時に斜め方向の光漏れが大きいと、斜め方向の出射光が、偏光板の表面処理によって正面視野方向へ出射されて、正面視野におけるコントラスト比を悪化させる問題がある。本実施形態では、位相差板117、118、119を用いて光学補償することによって斜め方向の光を低減することができるため、黒表示時に、偏光板の表面処理によって正面方向へ出射される光を抑制することができ、黒表示時の正面方向の輝度を低下させることによって、正面方向のコントラスト比を向上し、より高精細な表示が可能となる。
【0034】
図9(a)及び(b)は、本発明の第2実施形態の液晶表示素子における光出射側の第1偏光板101付近、及び、光出射側の第2偏光板105付近をそれぞれ拡大して示している。本実施形態の液晶表示素子は、図1に示す第1実施形態の液晶表素子100と同様な構成を有している。本実施形態では、CF基板104(図1)を構成するガラス基板116上に位相差板117及び位相差板118が順次にこの順で積層され、位相差板117及び118の積層順が、図2(a)に示す順序と反対となる点で、第1実施形態と相違する。本実施形態においては、位相差板117は、第2偏光板105の偏光層120を保護する役割も果している。
【0035】
シミュレーションにより、位相差板117、118、119の位相差を含む光学特性について、黒表示時の斜め視野における光漏れを気にならないレベルに低減できる条件を求めた。シミュレーション条件については、第1実施形態におけるシミュレーションの条件と同じ条件を用い、位相差板118の光軸については、偏光層120の光軸と直交する方向とした。このような条件でシミュレーションを行ったところ、図4〜図8に示す、第1実施形態と同様なシミュレーション結果が得られた。本実施形態のように、一軸光学特性を有する位相差板117(n1、n2<nz)と、n1<n2の光学特性を有する位相差板118との積層順を逆にした液晶表示素子についても、第1実施形態と同様に、位相差板117、118、119の位相差の組み合わせを所定の範囲内の組合せとすることで、黒表示時の斜め方向の光漏れを低減し、液晶表示素子の表示品質を向上できる。
【0036】
図10(a)及び(b)は、本発明の第3実施形態の液晶表示素子における光出射側の第1偏光板101付近、及び、光出射側の第2偏光板105付近をそれぞれ拡大して示している。本実施形態の液晶表示素子は、図1に示す第1実施形態の液晶表素子100と同様な構成を有している。本実施形態は、位相差板117(nc)が、2つの位相差板123、125からなる点で、第2実施形態と相違する。
【0037】
位相差板123及び125は、それぞれ偏光板面に垂直方向に光軸を有する一軸位相差板として構成される。位相差板123及び125の何れか一方を、偏光板の保護層として一般的に用いられるTACを用いて構成し、他方を、TACで過不足する位相差を補うように構成し、2つの位相差板123及び125を合わせて、第2実施形態の位相差板117と同じ光学特性を有するように設定する。このように、位相差板117を、2つの位相差板123、125の積層により構成する場合にも、位相差板117全体の位相差を、第2実施形態と同様とすることで、第2実施形態と同様に、黒表示時の斜め方向の光漏れを低減して、液晶表示素子の表示品質を向上できる。
【0038】
なお、上記実施形態では、第1偏光板101及び位相差板119(ni)を光入射側に配置し、第2偏光板105、及び、位相差板117(nc)、118(na)を光出射側に配置する例を示したが、この順序を逆にして、第1偏光板101及び位相差板119(ni)を光出射側に配置し、第2偏光板105、及び、位相差板117(nc)、118(na)を光入射側に配置することもできる。光入射方向を入れ替えて、第2偏光板105側から光を入射する場合でも、位相差板117〜119の組み合わせによる光学補償の効果は、第1偏光板101側から光を入射する場合と同等である。
【0039】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の偏光板対及び液晶表示素子は、上記実施形態例にのみ限定されるものではなく、上記実施形態例の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態の液晶表示素子の断面図。
【図2】(a)及び(b)は、それぞれ、図1の液晶表示素子100の部分を拡大して示す、実施例1の断面図。
【図3】位相差板のリタデーションを提示する斜視図。
【図4】位相差板117、119と透過率比の関係を示すグラフ。
【図5】位相差板117と透過率比との関係を示すグラフ。
【図6】黒表示時の光漏れを低減できる位相差板119の面内位相差の範囲を示すグラフ。
【図7】位相差板117、119と色度差比の関係を示すグラフ。
【図8】透過率比を0.5以下、色度差比を1以下とする、位相差板117と119の厚み方向位相差の範囲を示すグラフ。
【図9】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の第2実施形態の液晶表示素子の一部を拡大して示す断面図。
【図10】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の第3実施形態の液晶表示素子の一部を拡大して示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
100:液晶表示素子
101、105:偏光板
102:TFT基板
103:液晶層
104:カラーフィルタ基板
106、116:ガラス基板
107:絶縁層
108:TFT
109:画素電極
110:対向電極
111、113:配向膜
112:液晶分子
114:カラーフィルタ
115:遮光層
117:位相差板nc
118:位相差板na
119:位相差板ni
120:偏光層
121、124:保護層(TAC)
123、125:位相差板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に対向し、それぞれが偏光層を含む第1及び第2の偏光板から成る偏光板対であって、
前記第1の偏光板は、面内位相差が0〜10nmで、厚み方向位相差が0〜35nmの複屈折特性を有する第1の位相差板を、前記偏光層の前記第2の偏光板に近い側の面に備え、
前記第2の偏光板は、面内位相差が35〜245nmの複屈折を有し、該複屈折特性の面内光学軸のうちで屈折率が大きい方の光学軸と前記第1の偏光層の光吸収軸とが平行又は直交するように配置される第2の位相差板と、面内位相差が0〜15nmで、厚み方向位相差が50〜123nmの複屈折特性を有し、かつ、正の一軸性の光学特性を有し、光軸が前記偏光層面に垂直になるように配置された第3の位相差板とを、前記偏光層の前記第1の偏光板に近い側の面に備えることを特徴とする偏光板対。
【請求項2】
前記第3の位相差板の面内位相差が0〜7nm、厚み方向の位相差(ni1)が0〜17nmの範囲であり、前記第2の位相差板の面内位相差が0〜10nm、厚み方向の位相差(nc1)が、
57.0−0.23×ni1+0.11×ni12≦ nc1 ≦ 120.0−0.42×ni1−0.08×ni12
の範囲である、請求項1に記載の偏光板対。
【請求項3】
前記第1の偏光板は前記偏光層の前記第2の偏光板から遠い側の面に、前記第2の偏光板は前記偏光層の前記第1の偏光板に遠い側の面に、それぞれ保護層を備える、請求項1又は2に記載の光学補償用偏光板対。
【請求項4】
前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板に近い側に配設される、請求項1〜3の何れか一に記載の偏光板対。
【請求項5】
前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板よりも遠い側に配設される、請求項1〜3の何れか一に記載の光学補償用偏光板対。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか一に記載の偏光板対と、ホモジニアス配向の液晶層と、該液晶層を挟む一対の基板とを備え、第1の偏光板と第2の偏光板とが前記一対の基板を挟んで配置されることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】
前記第2位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と平行又は直交する、請求項6に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板に近い側に配設されており、前記第2位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と直交する、請求項6に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記第2の位相差板が、前記第3の位相差板よりも前記第1の偏光板よりも遠い側に配設されており、前記第2位相差板の屈折率が大きい方の光学軸が、前記ホモジニアス配向の液晶層の光軸と平行する、請求項6に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−79115(P2007−79115A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266723(P2005−266723)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(303018827)NEC液晶テクノロジー株式会社 (547)
【Fターム(参考)】