説明

偏心重錘式起振機の可逆回動機構

【課題】 偏心重錘式起振機において、固定偏心重錘と可動偏心重錘との位相差を増減調節して起振力を制御する可逆回動機構を改良して、連結部の応力を緩和するとともに、異常振動を防止する。
【解決手段】 選択図(図1)の上段は従来例、下段は実施例で有る。(B1)に示すように、交差連通孔21cに圧力油を供給する2本の平行油路21dを、スイベル部21gの側から穿孔し、連結部21eには油路を設けない。かつ、前記2本の平行油路21dは、そのf−f断面を描いた(B3)に表されているように、回転軸21の軸心に関して対称に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打ち等に用いられる偏心重錘式起振機に係り、特に、偏心重錘の位相を制御して起振力を調節するための可逆回動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、公知の偏心重錘式起振機の1例を示し、模式的に描いた断面図である。
この種の起振機は振動杭打抜機に賞用され、偏心重錘を回転させて振動を発生する機能と、偏心重錘を回転させた侭で起振力を増減調節する機能とを有している。
起振機ケース7を貫通せしめて、内軸8aと外管8bとから成る2重管8が設けられている。
【0003】
前記の内軸8aは回転軸駆動機器(例えば油圧モータ)11によって回転駆動され、かつ、キーKを介して固定偏心重錘9を固着さている。
外管8bは、前記の回動軸駆動機器11によって直接的に回転駆動されず、次に述べるようにして、可逆回動機構12を介して回転駆動されるようになっており、可動偏心重錘10を回着されている。
前記の可逆回動機構12は、ハウジング12aの中に回転軸12bが配設されていて、スイベルジョイント18を介して送給される圧力油により、前記回転軸12bがハウジング12aに対して相対的に正,逆回動する。この作動は相対的であるから、ハウジング12aが回動軸12bに対して正,逆回動すると見ることもできる。回動角は一般に180度未満である。
【0004】
前記可逆回動機構12の回転軸は回転駆動機器11によって高速回転(例えば毎分1200回転)せしめられている。従って、可逆回動機構12は軸心Xの周りに高速回転している。なお、本発明において軸心とは回転軸の中心線をいう。
前記可逆回動機構は、油圧揺動モータと類似の原理で作動する。
図3に、従来例の油圧揺動モータの断面図を示す。この図は、油圧機器の教科書に掲載されている説明図と同様で、公知のものである。
【0005】
(図3参照)油圧揺動モータの構造は、円筒状のハウジング1の中に出力軸2が回動可能に支承されていて、該出力軸には1対のベーン4a,4bが軸心に対称に設けられていて、該ベーンの先端はハウジング1の内周面に接している。
一方、ハウジング1の内周面には1対のブロック3a,3bが固設されていて、その先端が出力軸2に接している。
【0006】
流出入孔1aからハウジング1の中へ矢印aのように圧力油を注入すると、符号5aを付して示した室の圧力が上昇して加圧室となる。連通孔2aによって加圧室5aと連通されている符号5bの室も圧力が上昇して加圧室となる。
これら加圧室5a,5bの圧力油によってベーン4a,4bが押動されて、出力軸2が図の左回り(反時計方向)に回動しようとする。
【0007】
このとき、流出入孔1bからの油の流出(矢印b)を自由ならしめると、符号6aを付して示した室、及び、連通孔2bを介してこれに連通された室6bの圧力が解放されて、前記出力軸2の左回り回動を妨げない。このようにして出力軸2が図の左回り方向に回動せしめられる。
前記と反対に、反矢印b方向に圧力油を注入して、反矢印a方向に油を流出させると、回動軸2は前記と反対に、図の右回り方向に回動する。
【0008】
図2に示した起振機の可逆回動機器11を「図3に示した油圧揺動モータに類似した機構」で構成した状態を模式的に描いた斜視図を図4に示す。
ただし、図3に示した従来例の油圧揺動モータによって、図2に示した起振機の可逆回動機構12を構成できるものではなく、従来例の油圧揺動モータの作動原理を応用しつつ改良を加えた機器を構成しなければならない。
次に、起振機の可逆回動機構11に求められる機能と、従来例の油圧揺動モータとの相違について説明する。
【0009】
図3に示した従来例の油圧揺動モータは、元来、ハウジング1をベース部材に固定して出力軸2を比較的低速(例えばrpm換算100程度)で往復回動させる。このため、ハウジング1に台座1cが一体的に連設されている。
しかし、図4に示した可逆回動機構11のハウジング14は、外管8bを介して可動偏心重錘10に直結されている(本発明において回転部材が直結されているとは、双方の回転部材が同一回転速度で同方向に回転するように拘束されていることをいう)。
【0010】
前掲の図2を参照して説明したように、内軸8aは回転軸駆動機器によって回転駆動される。該内軸8aに固着されている回転軸16は高速(例えば1200rpm)で回転し、油圧力を介してハウジング14を同じ方向に高速回転させる(このような使い方をするので、図4に符号16で示した部材は出力軸と呼ぶに相応しくない)。
図2を参照して先に説明した油圧揺動モータの作動原理と類似の作動によって、図4のハウジング14と回転軸16とが相対的に正,逆回動すると、固定偏心重錘9と可動偏心重錘10との位相差が増減する。
双方の偏心重錘の位相差が変わると、両方の偏心重錘の総合偏心モーメントが変化して起振力が変化する。
【特許文献1】 特開2002−177887号公報
【特許文献2】 特開平10−183619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3に示した油圧揺動モータのハウジング1は静止部材であり、図4に示した可逆回動機構11のハウジング14は高速回転部材であるから、両者の稼働条件は非常に異なっている。
しかるに、従来の可逆回動機構は既製品の油圧揺動モータを加工修正したり、在来の油圧揺動モータに設計的改良を加えて製作したりしていたので、回転に関する動バランスや、応力分布について、以下に述べるような問題が有った。
【0012】
図1は、可逆回動機構の回転軸を示し、(A1),(A2),及び(A3)は従来例、(B1),(B2),及び(B3)は本発明の1実施形態である。
図1(A1)に実線で描かれているのは公知の回転軸の正面図、(A2)はそのc−c断面図、(A3)は同じくd−d断面図である。
回転軸21に、その軸心X−Xに関して対称となるよう、2枚のベーン21aが設けられている。
前記ベーン21aの両側に、図外のベアリングで支持するためのジャーナル部21bが形成されている。図において左側のジャーナル部21bの左側に、図外の回転駆動機器と連結するための連結部が形成されている。
【0013】
図3に示した油圧揺動モータの出力軸2には、2個のベーン4a,4bの根本部を相互に結ぶ連通孔2a,2bが立体交差状に設けられて交差連通孔を形成している。図1に示した回転軸21aには、これと同様の作用をするための交差連通孔21cが設けられている。
前記交差連通孔21cに圧力油を供給するため、図1(A1)の公知例には隠れ線で描かれた平行油路21dが穿たれている。
この平行油路21dは、図1(A3)に示されているように交差連通孔21cと交わって連通している。
仮想線で描いて符号21g′を付して示したような、スイベル軸受を構成するためのスイベル軸を連設した公知例も有るが、交差連通孔21cと連通させるための平行油路21dは残存している(これを無くすると、交差連通孔21cに圧力油を供給することが困難になるからである)。
【0014】
図1の上段(A1〜A3)に示した公知例の回転軸においては、連結部21eの中に平行油路21dが穿たれているので、次に述べるイ,ロ、両項の不具合が有った。
イ.断面c−cを描いた図1(A2)に表わされているように、連結部21eの有効断面積が小さくなる。
この部分は繰り返してねじり応力を受けるので疲労破損し易い。現実には、応力の集中を生じるキー溝21fの隅から疲労が発生し、進行して破断に至っている。
ロ.平行油路21dが、軸心X−Xに関して対称でないから、高速回転したとき動バランスが崩れて異常振動を発生する。
軸心に関して対称でない理由は次のとおりである。
(a)キー溝21fとの関係で、穿孔位置の取り合わせ上、偏らせざるを得なかった。
(b)それよりも何よりも、従来技術における油圧揺動モータは、連続高速回転を想定していなかった。
動バランスは、これを偏心重錘式起振機の可逆回動機構に応用しようとした故に発生した問題である。
【0015】
本発明は、以上に述べた事情に鑑みて為されたものであって、その目的とする処は、
a.回転軸における応力分布の最大値を減少させ、
b.軸心に関する偏心モーメントが微小な、偏心重錘式起振機の可逆回動機構を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために創作した本発明の基本的な原理について、その1実施形態に対応する図1(B1)、(B2)、(B3)を参照して略述すると次のとおりである。
i.ベーン21aの両側に設けた2個のジャーナル部21bの内、連結部21eと反対側のジャーナル部21bに隣接せしめて、スイベル軸受用のスイベル軸となるスイベル部21gを設け、このスイベル部21gの軸端から、「スイベル部のリング溝r」及び交差連通孔21cに交らせて(連通せしめて)平行油路21dを穿つ。
ii.前記の平行油路21dを、軸心X−Xに関して対称に配置する。
【0017】
前述の原理に基づく具体的構成を、その1実施形態に対応する図1(B)、同(B2)、及び同(B3)について見ると次のごとくである(ただし、本発明の要件を図面どおりに限定するものではない)。
請求項1に係る偏心重錘式起振機の可逆回動機構は、(図4参照)固定偏心重錘9又は可動偏心重錘10の何れか片方に連結された円筒状のハウジング14の中に、
固定偏心重錘又は可動偏心重錘の何れか他方に連結された回転軸が、同心に収納されている可逆回動機構において、
(図1(B1),(B2)参照)回転軸21の中央部付近に2枚のベーン21aが、軸心Xに関して対称に設けられるとともに、
片方のベーンの根本部と他方のベーンの根本部とを結ぶ2本の交差連通孔21eが形成され、
前記ベーンの軸心方向両側に、それぞれジャーナル部21bが形成されていて、これら2箇所のジャーナル部の内の片方から最寄の軸端までの間に、2重管の内軸に直結される連結部21eが形成されるとともに、他方のジャーナル部と最寄の軸端までの間に、複数のリング溝を有するスイベル部21gが形成されており、
前記2本の交差連通孔のそれぞれと、前記複数のリング溝の内の2本それぞれとを連通する2本の平行油路21dが設けられていて、該平行油路が前記の連結部21eに達していないことを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明は前記請求項1の構成要件に加えて、前記2本の平行油路21dのそれぞれが、回転軸21の軸心Xと平行な直線状の孔であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、さらに、前記2本の平行油路21dが、前記回転軸21の軸心Xに関して対称に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によると、交差連通孔に対して圧力油を供給するための油孔(平行油路)が連結部に達していないので、該連結部の有効断面積が油孔によって減少せしめられることが無く、応力が緩和される。
請求項2の発明を適用すると、平行油路が最短経路で圧力油を供給し、かつ、該油路の穿孔作業が容易である。
請求項3の発明を適用すると、油路の穿孔によって偏心モーメントが発生しない。従って、高速回転させても異常振動を生じる虞れが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の1実施形態に係る回転軸を、従来例の回転軸と対比できるように描いてあり、概要的には上段が従来例、下段が実施形態である。
上段の(A1)、(A2)、及び(A3)に描かれている従来例については既に説明したとおりである。
(B1)は本実施形態に係る回転軸21の正面外観図であり、従来例における(A1)に対応する。
(B2)はe−e断面図であって、従来例における(A2)に対応し、
(B3)はf−f断面図であって、従来例における(A3)に対応している。
【0021】
(B1)に表されているように、本実施形態の回転軸21は、その軸心X−X方向について中央部付近にベーン21aが、軸心に関して対称に設けられており、
その両側に、それぞれジャーナル部21bが形成されている。
図において左側のジャーナル部21bと軸端との間に連結部21eが形成されている。ただし、本例の回転軸には2箇所の軸端が有るので、単に「軸端との間」では分かり難いが、ここでは左側の軸端との間に連結部21eが形成されている。
本発明を実施する際、2個のジャーナル部の何れかについて、そのジャーナル部に近い方の軸端(これを最寄りの軸端と呼ぶ)との間に連結部21eを形成する。
前記最寄の軸端について、そのジャーナル部から見て、ベーンと反対側の軸端と考えても良い。
【0022】
連結部21eに隣接していない方のジャーナル部21b(図において右側のジャーナル部21b)と、最寄の軸端(図において右端)との間に、スイベルジョイントのスイベル軸となるスイベル部21gが形成されており、
このスイベル部には複数個のリング溝rが形成されている。
スイベル部21gの軸端から交差連通孔21cまで、軸心Xと平行に、かつ前記複数のリング溝rの何れかに連通せしめて、2本の真直な平行油路21dが穿たれている(軸端は盲栓で閉塞されている)。
【0023】
(B3)に表されているように、2本の平行油路21dは軸心に関して対称に配置されている。
このため、平行油路21dは穿っても、回転軸21の重心が軸心上から偏心しない。
上述の構成により、連結部21eとスイベル部21gとが、それぞれ回転軸21の両端に位置するようになる。
その結果、「スイベル部21gの軸端から交差連通孔21cに至る平行油路21d」は連結部21eに達しない。
(B2)に表されているように、連結部21eの断面に油路が存在せず、従来例の(A2)に比して有効断面積が大きく、応力分布の最大値が低い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 上段は従来例の回転軸を、下段は本発明の1実施形態における回転軸を、それぞれ描いてある。
【図2】 公知の偏心重錘式起振機を模式的に描いた断面図である。
【図3】 従来例の油圧揺動モータを描いた模式的な断面図である。
【図4】 偏心重錘式起振機における起振力制御機構を説明するための模式的な要部斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
8…2重管
8a…2重管の内軸
8b…2重管の外管
9…固定偏心重錘
10…可動偏心重錘
11…回転軸駆動機器
21…回転軸
21a…ベーン
21b…ジャーナル部
21c…交差連通孔
21d…平行油路
21e…連結部
21f…キー溝
21g…スイベル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定偏心重錘又は可動偏心重錘の何れか片方に連結された円筒状のハウジングの中に、
固定偏心重錘又は可動偏心重錘の何れか他方に連結された回転軸が、同心に収納されている可逆回動機構において、
前記回転軸の中央部付近に2枚のベーンが、軸心に関して対称に設けられるとともに、
片方のベーンの根本部と他方のベーンの根本部とを結ぶ2本の交差連通孔が形成され、
前記ベーンの軸心方向両側に、それぞれジャーナル部が形成されていて、これら2箇所のジャーナル部の内の片方から最寄の軸端までの間に、2重管の内軸に直結される連結部が形成されるとともに、他方のジャーナル部と最寄の軸端までの間に、複数のリング溝を有するスイベル部が形成されており、
前記2本の交差連通孔のそれぞれと、前記複数のリング溝の内の2本それぞれとを連通する2本の平行油路が設けられていて、該平行油路が前記の連結部に達していないことを特徴とする、偏心重錘式起振機の可逆回動機構。
【請求項2】
前記2本の平行油路のそれぞれが、前記回転軸の軸心と平行な直線状の孔であることを特徴とする、請求項1に記載した偏心重錘式起振機の可逆回動機構。
【請求項3】
前記2本の平行油路が、前記回転軸の軸心に関して対称に配設されていることを特徴とする、請求項2に記載した偏心重錘式起振機の可逆回動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−58104(P2010−58104A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256828(P2008−256828)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】