説明

偏波分離素子

【課題】
小型化・集積化が可能で、かつ作製が容易で、しかも光ファイバーとの結合を簡単に行うことができる偏波分離素子を提供する。
【解決手段】
スラブ光導波路からなる偏波分離素子1であって、スラブ光導波路のコア層12を形成する材料が複屈折材料であって、その屈折率が、下クラッドまたは上下クラッドとの境界面に平行な偏波成分のみをもつTE波と、前記境界面に垂直な偏波成分のみをもつTM波とで異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型化・集積化が可能で、かつ作製が容易で、しかも光ファイバーとの結合を簡単に行うことができる偏波分離素子に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光の2成分(平行偏光:p偏光成分、直交偏光:s偏光成分)を分離するための偏波分離デバイスとして、図7に示すような偏光ビームスプリッター(PBS)キューブ9が知られている(たとえば、特許文献1参照)。PBSキューブ9は、2つの直角プリズムを組み合わせてキューブに構成したもので、界面に多層膜91が形成されている。PBSキューブ9は、レーザビーム等の光をp偏光成分とs偏光成分に分離することができ、たとえば光アイソレータを用いた距離測定等に応用される。
【特許文献1】特開平8−110406号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、図7に示したPBSキューブ9は、直角プリズムを用いているため平面化が不可能であり、従って集積化ができない。また、直角プリズムの界面に多層膜91を形成しなくてはならないため製造が必ずしも容易ではなく、製造コストが高くなる。さらに、入射光が空間ビームであるため、光ファイバーを入射光路や出射光路としてもつ光学系との接続には、コリメータ等の部品が必要となる。
【0004】
本発明の目的は、小型化・集積化が可能で、かつ作製が容易で、しかも光ファイバーとの接続が容易なスラブ光導波路からなる偏波分離素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏波分離素子は(1)〜(5)を要旨とする。
(1)「 スラブ光導波路からなる偏波分離素子であって、
前記スラブ光導波路のコアを形成する材料が複屈折材料であって、その屈折率が、下クラッドまたは上下クラッドとの境界面に平行な偏波成分のみをもつTE波と、前記境界面に垂直な偏波成分のみをもつTM波とで異なることを特徴とする偏波分離素子。」を要旨とする。
【0006】
(2)「入射ポートとTE波出射ポートとTM波出射ポートとを備え、前記入射ポートからの入射光のTE波が前記TE波出射ポート部分で結像し、TM波が前記TM波出射ポート部分で結像することを特徴とする(1)に記載の偏波分離素子。」
【0007】
(3)「偏波結合素子として機能する偏波分離素子であって、TE波入射ポートとTM波入射ポートと出射ポートを備え、前記TE波入射ポートからのTE波および前記TM波入射ポートからのTM波が前記出射ポート部分で結像することを特徴とする(1)に記載の偏波分離素子。」
【0008】
(4)「前記各ポートに光ファイバーが接続されてなることを特徴とする(2)または(3)に記載の偏波分離素子。」
なお、本発明の偏波分離素子では、偏波分離と偏波結合とを同時に行うこともあり、出射ポートが入射射ポートとして同時機能することもあるし、入射ポートが出射ポートとして同時機能することもある。偏波分離素子は、たとえば、1つの入射ポートと1つの出射ポートを備えるようにしてもよい。また、たとえば、1つの入射ポートと2つの出射ポートを備えるようにしてもよいし、2つの入射ポートと2つの出射ポートを備えるようにしてもよい。
【0009】
本発明において、「コアを形成する材料」は、典型的には複屈折材料であり、LiNbO3、Ta25、TiO2、Bi35、CeO2、KNbO3、LiTaO3、KTaO3やこれらに金属をドープして使用できる。また、「コアを形成する材料」として、光学異方性を有する有機材料、または高分子材料を使用することもできる。
また、本発明ではクラッドは、コアに対して屈折率が低く、コアとともに導波路を形成することができる透明材料であれば、どのような材料でも使用可能である。
【0010】
本発明の偏波分離素子では各ポートにチャネル導波路を付加し、これを介して光ファイバーを接続することができる。
【0011】
また、本発明者らの先提案にかかる「導波路の接続構造」(特願2005−90324)の技術を用いることで、本発明の偏波分離素子を容易に他のデバイスに光接続することが可能である。
具体的には、先細り形成された光ファイバーの先端を、光ファイバーのコアと偏波分離素子のコアとが光学的に結合されるように各ポートに接続することができる。この場合、偏波分離素子がマウントされた基台に光ファイバー装着溝を形成し、当該光ファイバー装着溝に光ファイバーの先細りとなった部分を装着することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の偏波分離素子は、スラブ型光導波路を使用しているので、小型化・集積化が可能でかつ作製が容易である。
また、光ファイバーとの結合を簡便に行うことができるので、光ファイバーを用いた光学系において、本発明の偏波分離素子をアイソレータにおける偏光ビームスプリッターとして使用することもできるし、直線偏光変換素子として直線偏光の入射を前提とするデバイス等と組み合わせて使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の偏波分離素子の実施形態を説明する。以下の説明において、スラブ型光導波路、入射ポート,出射ポートのチャネル導波路等は実寸法比とは異なるモデルで示してある。
図1(A)は偏波分離素子1の斜視図、図1(B)は偏波分離素子1の平面説明図である。
図1(A),(B)に示すように偏波分離素子1は、スラブ型光導波路からなり、クラッドとして作用する基板(クラッド層11)上に矩形状のコア層12が形成されている。このスラブ導波路は多モード干渉(MMI)導波路として動作する。本実施形態では、偏波分離素子1として、コア層12の下にクラッド層12が形成されている例を示すが、上下にクラッド層が形成される構造であってもよい。
【0014】
本発明では、少なくともスラブ導波路のコア層12が複屈折材料でであり、TE波の屈折率n0(TE)と、TM波の屈折率ne(TM)とが異なれば両波の分離が可能である。本実施形態では、LiNbO3からなる基板に、Tiがドープされたコア層(Ti:LiNbO3(TiがドープされたLiNbO3)を形成することで、偏波分離素子1を作製した。
【0015】
コア層の屈折率は、Tiの濃度を調整することにより制御することができる。クラッドとの屈折率差を1%以下とすることでシングルモード条件を満たしやすい。
本実施形態では、クラッド層11(LiNbO3)とコア層12(Ti:LiNbO3)のTE波の屈折率n0(TE)とTM波の屈折率ne(TM)とを〔表1〕に示す値で設定した。
【0016】
【表1】

なお、n0(TE),ne(TM)は波長1550nmのビームについての値である。また、ΔTE,ΔTMは、Ti:LiNbO3とLiNbO3の屈折率差である。
図1(A),(B)に示すように、コア層12の矩形の一辺にはチャネル導波路を用いた入射ポートP1が形成され、対向する辺には、同様にチャネル導波路を用いたTM波出射ポートP2とTE波出射ポートP3とが形成されている。以下の実施形態では、偏波分離素子1を用いて偏波を分離する場合について説明するが、ポートP2とポートP3とを入射ポートとし、ポートP1を出射ポートとして、偏波分離素子1により偏波を結合することもできる。なお、図1(A),(B)では、コア層12の入射ポートP1が形成された辺にポートP4を形成してある。ポートP4は、偏波分離素子1を種々の光学システムに組み込んだときに、出射ポートや入射ポートとしてとして使用される。
【0017】
これらのポートP1,P2,P3には、光ファイバーが接続される。これらのポートに光ファイバーを接続するために、チャネル導波路を用いず、前述した本発明者らの先提案にかかる「導波路の接続構造」(特願2005−90324)の技術を用いることで、容易に他のデバイスとの光接続が可能である。
【0018】
図2(A),(B)に、偏波分離素子がマウントされた基台に光ファイバー装着溝を形成し、光ファイバー装着溝に光ファイバーの先細りとなった部分を装着した例を示す。図2(A)は偏波分離素子1を平面視した図、(B)は偏波分離素子1を側面視した断面図((A)におけるA−A断面)である。図2(A),(B)では、矩形の基台2の一方の側には溝21が形成され、他方の側(対向する側)には溝222が形成されている。そして、溝21に先細りに形成した光ファイバー31がセットされ、溝22に先細りに形成した融着延伸光ファイバー32(2つの光ファイバー321と322からなる)がセットされている。なお、図1(A),(B)のポートP4にも光ファイバーを接続する場合には、溝21を溝22と同様に構成し光ファイバー31に代えて先細りに形成した融着延伸光ファイバーを用いる。
【0019】
基台2の上面の溝21,22間には偏波分離素子1が形成されており、光ファイバー31の先端は偏波分離素子1の入射ポートP1に接続され、融着延伸した光ファイバー32の先端は偏波分離素子1のTM波出射ポートP2とTE波出射ポートP3とに接続されている。偏波分離素子1は、上述したようにクラッド層11とコア層12とから構成されている。光ファイバー31のコア311は偏波分離素子1のコア層12に光学的に接続されている(接続点をaで示す)。また、融着延伸した光ファイバー32を構成する光ファイバー321,322のコア3211,3221も、偏波分離素子1のコア層12に光学的にそれぞれ接続されている(接続点をb,cで示す)。
【0020】
TM波はTM波出射ポートP2位置で結像し、TE波はTE波出射ポートP3位置で結像するように、コア層12の縦長W,横長L、入射ポートP1,TM波出射ポートP2,TE波出射ポートP3の位置が設定されている。なお、図1(A),(B)では入射ポートP1はコア層12の矩形辺の上端に設定してあり、TM波出射ポートP2,TE波出射ポートP3はコア層12の矩形辺(入射ポートP1が設けられた辺に対向する辺)の上下端に設定してある。
【0021】
《設計例》
以下に設計例を示す。
入射ポートP1および出射ポートP2,P3の幅WPは、低損失化のために、シングルモード条件を満たす範囲でできるだけ広く設計する。ここでは、WP=3.5μmとした。
また導波路縦幅Wは、28.5μmとした。なお、入射ポートP1および出射ポートP2,P3の長さgは12.5μmとした。
TE波およびTM波の結像位置をそれぞれシミュレートして求め(図3(A),(B)参照)、結像距離が一致する長さ(L=5.97mm)を導波路横幅(コア層12の矩形長)とした。
図4に上記の設計によるスラブ型光導波路(コア層12)の設計値を示す。なお、スラブ導波路の厚さ(コア層12の層厚)は、厚さ方向では単一モードとなるような値に設定すればよい。
【0022】
《検証結果》
図4の設計値に基づき偏波分離素子1を作製し、その特性を測定した結果、TE波の挿入損失は1.89dB、TM波の挿入損失は1.28dBであり、出射ポートP3においてTE波がTM波から受けるクロストークは−26.9dBであり、出射ポートP2においてTM波がTE波から受けるクロストークは−20.0Bであった。
【0023】
さらに、挿入損失の波長依存性およびクロストークの波長依存性についても検証した。
挿入損失の波長依存性を調べるため、波長を1500nmから1600nmまで10nmステップでスキャンした結果を図5に示す。許容損失を仮に3dBとすると、波長範囲は1523〜1581nmとなり波長依存性については寛容であることがわかる。
クロストークの波長依存性を調べるため、波長を1500nmから1600nmまで10nmステップでスキャンした結果を図6に示す。許容損失を仮に17dBとすると、波長範囲は1524〜1588nmとなりクロストークについても波長依存性については寛容であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の偏波分離素子の一実施形態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
【図2】チャネル導波路を用いずに光ファイバーを偏波分離素子に装着した例を示す図であり、(A)は偏波分離素子を平面視した図、(B)は偏波分離素子を側面視した断面図である。
【図3】(A)はTE波の結像位置を示す図、(B)はTM波の結像位置を示す図である。
【図4】本発明の偏波分離素子の各部の設計値を示す図である。
【図5】挿入損失の波長依存性についての検証結果を示す図である。
【図6】クロストークの波長依存性についての検証結果を示す図である。
【図7】偏光ビームスプリッターキューブを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 偏波分離素子
2 基台
11 基板
12 コア層
21,22 溝
31,32(321,322) 光ファイバー
311,3211,3221 コア
P1 入射ポート
P2,P3 出射ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ光導波路からなる偏波分離素子であって、
前記スラブ光導波路のコアを形成する材料が複屈折材料であって、その屈折率が、下クラッドまたは上下クラッドとの境界面に平行な偏波成分のみをもつTE波と、前記境界面に垂直な偏波成分のみをもつTM波とで異なることを特徴とする偏波分離素子。
【請求項2】
入射ポートとTE波出射ポートとTM波出射ポートとを備え、前記入射ポートからの入射光のTE波が前記TE波出射ポート部分で結像し、TM波が前記TM波出射ポート部分で結像することを特徴とする請求項1に記載の偏波分離素子。
【請求項3】
偏波結合素子として機能する偏波分離素子であって、
TE波入射ポートとTM波入射ポートと出射ポートを備え、前記TE波入射ポートからのTE波および前記TM波入射ポートからのTM波が前記出射ポート部分で結像することを特徴とする請求項1に記載の偏波分離素子。
【請求項4】
前記各ポートに光ファイバーが接続されてなることを特徴とする請求項2または3に記載の偏波分離素子。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256400(P2007−256400A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77892(P2006−77892)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】