側鎖にアントラセン残基を有するフェノール誘導体及びその製造方法
【課題】光通信分野等の光学用材料として光導波路、光学フィルム、屈折率変換材料等に好適に使用できる材料であり、カリックスアレーン化合物に光反応性基としてノルボルナジエンやアントラセンを導入し、熱安定性に優れ、光照射により屈折率が大きく変化する特性を有し、アントラセン残基を側鎖に結合したフェノール誘導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フェノール誘導体またはポリフェノール誘導体を重合開始剤としたポリメタアクリル酸グリシジルエステルの側鎖にアントラセン残基を導入した重合体。
【解決手段】フェノール誘導体またはポリフェノール誘導体を重合開始剤としたポリメタアクリル酸グリシジルエステルの側鎖にアントラセン残基を導入した重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にアントラセン残基を有するフェノール誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、携帯電話やパソコン等、情報通信機器の普及が進んでいる。情報通信機器に要求される特性として、情報処理能力や情報伝達速度が挙げられる。
これまでの情報通信システムは、電気信号、又は光信号と電気信号を相互に変換することにより行われている。しかしながら、より大容量の情報を扱うには、このシステムでは限界がくるものと予想される。そのため、光信号と電気信号を変換せずに光信号のまま通信するシステムが検討されている。
【0003】
検討事項の1つとして、光信号のままスイッチを行う、光スイッチングシステムが注目されている。光は、電気的にスイッチングが困難である広帯域の信号のスイッチングだけでなく、電気的には取り扱うことのできない数ギガヘルツ以上の信号も高速にスイッチングすることができる。その中で、光異性化及び光二量化を用いた屈折率変換型の系が注目されている。屈折率変換材料には、Lorentz−Lorentzの式より、光反応前後の分子屈折と密度変化が大きいものが求められている。
【0004】
ところで、スターポリマーは、ハイパーブランチポリマーやデンドリマーと共に分岐ポリマーとして位置づけられ、その特性も対応する直鎖状ポリマーとは異なることが知られている。また、スターポリマーは、コア部に近くなるほどセグメント密度が高く、腕の長さが短いスターポリマーにおいては直鎖状ポリマーよりも分子密度が高いことから、屈折率も高くなることが報告されている(非特許文献1)。従って、スターポリマーを屈折率変換材料へと応用した場合、直鎖状ポリマーよりも大きな屈折率変化が期待できる。
【0005】
本発明者らは、カリックスアレーン化合物に光反応性基としてノルボルナジエンやアントラセンを導入し、熱安定性に優れたカリックス誘導体類を提案している。これらのカリックス誘導体は、光照射によって屈折率が大きく変化する特性を有することを報告している(特許文献1、特許文献2)。
また、上記のカリックス誘導体類は、これまでの直鎖状ポリマーと比較して大きな屈折率変化を示すことを報告している。
さらに、光二量化に伴う屈折率変化はノルボルナジエンやアゾベンゼンの光異性化よりも大きくなることも明らかとしている(非特許文献2)。
【非特許文献1】H.Kudo, H.Inoue, T.Nishikubo, and T.Anada, Polymer Jornal, Vol.38, No.3 (2006)
【非特許文献2】H.Kudo, W.Ueda, K. Sejio, K. Mitani, T. Nishikubo, and T. Anada, Bull. Chem.Soc.Jpn., 77, 1415 (2004)
【特許文献1】特開2003−306470号公報
【特許文献2】特開2004−262822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の知見に基づき光通信分野等の光学用材料として好適に使用できる材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、側鎖にアントラセン残基を有するフェノール誘導体が高い屈折率を有し、また、光学用材料として使用できることを見出した。
本発明によれば、以下のフェノール誘導体及びその製造方法等が提供される。
1.下記式(1)又は(2)で表されるフェノール誘導体。
【化4】
[式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R3は下記式(3a)又は式(3b)で表わされる基である。
【化5】
(式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)]
2.下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、下記式(6a)又は式(6b)で表わされる化合物を反応させる1に記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化6】
(式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
3.上記1のフェノール誘導体を含有し、その屈折率が1.500〜1.900の範囲である光学用材料。
4.上記3に記載の光学用材料からなる光導波路。
5.上記3に記載の光学用材料からなる光学フィルム。
6.上記3に記載の光学用材料からなる屈折率変換材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学用材料として有用なフェノール誘導体及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフェノール誘導体は、下記式(1)又は(2)で表される。
【化7】
【0010】
式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基(−OH)又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、R3はアントラセン構造を有する基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素である。
【0011】
本発明のフェノール誘導体は、その構造単位中に光反応性基を有するため、特定の光、例えば、紫外線を受けることによってその特性が変化する光反応特性を有する。また、式(2)のフェノール誘導体は、カリックスアレーン骨格を有するため、式(1)のフェノール誘導体である線状化合物に比べ、分子密度が高く、屈折率が高いという特性が得られる。
【0012】
上記式(1)及び(2)において、R1が示す炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等がある。
R1は、好ましくは水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0013】
R2が示す炭素数1〜20の2価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、エチリデン基、アセチレン基や、フェニレン基等の芳香族基等が挙げられる。また、これらの有機基にハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基等の置換基が結合した基でもよい。R2は好ましくは、イソプロピリデン基、プロピレン基、エチリデン基である。
【0014】
R3は下記式(3a)、又は式(3b)で表わされる基である。
【化8】
【0015】
式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。
R4が示す2価の有機基としては、例えばメチレン基、エチレン基、アセチレン基;フェニレン基等の芳香族基;エステル基、ケトン基、アセチル基、チオケトン基、−CH2−OCO−(CH2)2−CO−、−CH2−CO−等が挙げられる。
R4は好ましくは、ケトン基、−CH2−OCO−(CH2)2−CO−、−CH2−CO−である。
【0016】
nは重合度であり、1〜1000の整数である。用途にもよるが、nは樹脂として使用できるため、10〜500の範囲であることが好ましい。
mは、4〜10の整数であり、好ましくは4〜6である。
【0017】
続いて、本発明のフェノール誘導体の製造方法について説明する。
本発明のフェノール誘導体の製造方法は、下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、式(6a)又は式(6b)で表わされる化合物を反応させる。
【化9】
【0018】
式中、m、n、R1、R2及びR4は、それぞれ上記式(1)〜(3b)のものと同様の基を表す。
上記式(1)のフェノール誘導体を製造する場合は、式(4)と式(6a)又は式(6b)の化合物を、上記式(2)のフェノール誘導体を製造する場合は、式(5)と式(6a)又は式(6b)の化合物を反応させる。
【0019】
尚、式(4)又は(5)の化合物は、下記式(7)、(8)で示される開始剤にグリジルメタクリレートを反応させることにより得ることができる。
【化10】
(式中、m、X、R1、R2は式(1)(2)と同じである。)
【0020】
上記式(7)、(8)で示される開始剤とグリジルメタクリレートの反応は、好ましくは、遷移金属、リガンドの存在下で反応を行う。この方法は、国際公開第97/18247号において例証されている。
還元段階に関与可能な遷移金属を含む化合物は、式:Mn+X’n(式中、MはCu、Au、Ag、Hg、Ni、Pd、Pt、Rh、Co、Ir、Fe、Ru、Os、Re、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta及びZnから選択することができ、−X’はハロゲン(特に臭素又は塩素)、OH、(O)1/2、1〜6の炭素原子を有するアルコキシ基、(SO4)1/2、(PO4)1/3、(HPO4)1/2、(H2PO4)、トリフレート、ヘキサフルオロホスファート、メタンスルホナート、アリールスルホナート、SeR、CN、NC、SCN、CNS、OCN、CNO、N3及びR’CO2基で、R’がH、又は直鎖状又は分枝状で1〜6の炭素原子を有するアルキル基、又は一又は複数のハロゲン原子、特にフッ素及び/又は塩素原子で置換されていてもよいアリール基を示すことができ、nは金属の電荷である)に相当するものから選択することができる。
好ましくは、Mが銅又はルテニウムを表し、X’が臭素又は塩素を表すものが選択される。特に塩化銅を挙げることができる。
【0021】
さらにリガンドとして、一酸化炭素;置換されていてもよいポルフィリン類及びポルフィセン類;置換されていてもよいエチレンジアミン及びプロピレンジアミン;第3級アミンを有するポリアミン類、例えばペンタメチルジエチレントリアミン;置換されていてもよいアミノプロパノール及びアミノエタノール等のアミノアルコール類;置換されていてもよいエチレングリコール又はプロピレングリコール等のグリコール類;置換されていてもよいベンゼン等のアレーン類;置換されていてもよいシクロペンタジエン;置換されていてもよいピリジン類及びビピリジン類;アセトニトリル;1,10−フェナントロリン;クリプタンド類及びクラウンエーテル類;又はスパルテインを挙げることができる。
好ましいリガンドは、C2−C15アルキル基、特にC6−C12基、中でもノニル基で置換されていてもよいピリジン類及びビピリジン類;又は第3級アミンを有するポリアミン類、例えばペンタメチルジエチレントリアミンから特に選択される。
【0022】
式(7)、(8)の開始剤、遷移金属を含有する化合物及び活性剤として作用するリガンドの存在下において、モノマーであるグリシジルメタクリレートを重合させることにより、結果として式(4)、(5)により表すことのできる構造を有するフェノール誘導体が得られる。
【0023】
反応に用いる溶剤は、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0024】
反応温度は、通常、−50〜100℃の間で行うが、好ましくは0〜70℃、より好ましくは0〜40℃である。反応温度が−50℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
【0025】
式(4)又は(5)の化合物と、式(6a)又は式(6b)の化合物を反応させる工程においては、溶媒中において、必要により触媒を用いて行うことができる。
【0026】
触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩を使用できる。
【0027】
触媒の量は、式(4)又は式(5)の化合物が有するエポキシ基に対し、好ましくは0.1〜10mol%、より好ましくは3〜7mol%用いる。
【0028】
溶媒としては、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができ、好ましくは1−メチル−2−ピロリドンである。
【0029】
反応温度は、通常、30〜100℃の間で行うが、好ましくは50〜80℃である。反応温度が30℃未満だと反応時間が長くなるおそれがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こるおそれがある。また、反応時間は、24〜48時間で行うことが望ましい。
尚、反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0030】
本発明のフェノール誘導体は、単独で、又は各種添加剤や樹脂等を混合した状態で、光学用材料として好適に使用できる。
本発明の光学用材料の屈折率は1.500〜1.900であることが好ましい。本発明では、このような高い屈折率を有する材料を得ることができる。
【0031】
本発明の光学用材料は、溶媒に溶解して溶液とし、任意の支持体上に塗布して乾燥処理することにより、成膜することができる。
本発明のフェノール誘導体を溶解するための溶媒としては、メチルセルソルブアセテート、テトラヒドロフラン、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、クロロホルム、塩化メチレン等を用いることができる。
溶液を使用することにより、例えば、基板等に光導波路を形成することができる。
【0032】
また、フェノール誘導体が樹脂の場合、射出成形や押出成形等、公知の成形方法により、光学フィルム等の成形品を製造できる。
【0033】
本発明のフェノール誘導体は、光照射により光二量化生成物が得られることから、光記憶素子や光スイッチシステム等に用いられる屈折率変換材料として極めて有用である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
下記式(1a)で示される化合物(以下(1a)と略す)を合成した。
【化11】
【0036】
ナスフラスコに、下記式(4a)の化合物を0.057g(0.02mmol)、9−アントラセンカルボン酸(以下9−ATCと略す)を0.120g(0.54mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(以下TBABと略す)を0.006g(0.018mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.8mLに溶解させた。その後、70℃、48時間反応させた。
【化12】
【0037】
尚、(4a)の合成は、後述する合成例1で説明する。
反応終了後、反応母液をクロロホルムで希釈し、NaHCO3溶液で2回、水で2回洗浄を行い、有機層を、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。
乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、両溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、(1a)を淡黄色固体として0.11g(収率85.0%)得た。
得られた化合物の赤外分光分析(IR)及び1H−NMR測定の結果を以下に示す。
・IR(KRS,cm−1):
3485(νO−H)、1727(νC=O ester)、1447(νC=C aromatic)、1201、1151(νC−O−C ester)、892(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.85−1.40(m,Ha)、1.76−1.91(m,Hb)、4.00−4.17(m,Hc,d)、4.55−4.65(m,He)、5.53(br,Hf)、7.44(br,Hg)、8.02(br,Hh)、8.55(br,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化13】
【0038】
また、重合度(n)の異なる(4a)を用いて同様に反応を行った。(4a)への9−アントラセンカルボン酸の導入率を1H−NMRより算出した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2
下記式(1b)で示される化合物(以下(1b)と略す)を合成した。
【化14】
【0041】
ナスフラスコに、(4a)の化合物を0.057g(0.02mmol)、2−アントラセンカルボン酸(以下、2−ATCと略す)を0.12g(0.54mmol、エポキシ基に対して1.5倍)、テトラブチルアンモニウムブロミドを0.006g(5mol%,0.018mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.8mLに溶解させ、70℃、48時間反応させた。
良溶媒としてテトラヒドロフラン、貧溶媒としてメタノールとジエチルエーテルの混合溶媒(1:4)を用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、淡黄色固体を収量0.10g(82%)得た。構造確認はIR、1H NMRにより行った。
・IR(KRS,cm−1):
3429(νO−H)、1719(νC=O ester)、1582(νC=C aromatic)、1234、1151(νC−O−C ester)、890(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.82−1.37(m,Ha)、1.86−2.17(m,Hb)、4.01−4.28(m,Hc,d,e)、5.44(br,Hf)、7.32(br,Hg)、7.73(br,Hh)、8.19−8.43(m,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化15】
【0042】
また、重合度(n)の異なる(4a)を用いて同様に反応を行った。(4a)への2−アントラセンカルボン酸の導入率を1H−NMRより算出した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例3
下記式(2a)で示されるフェノール誘導体(以下(2a)と略す)を合成した。
【化16】
【0045】
ナスフラスコに下記式(5a)の化合物を0.046g(0.002mmol)、9−アントラセンカルボン酸を0.10g(0.45mmol)、TBABを0.005g(0.015mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.5mLに溶解させた。その後、70℃、48時間反応させた。
【化17】
【0046】
尚、(5a)の合成は、後述する合成例2で説明する。
反応終了後、反応母液をクロロホルムで希釈し、NaHCO3溶液で2回、水で2回洗浄を行い、有機層を、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、両溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、(2a)を淡黄色固体として0.081g(収率:76.0%)得た。
得られた高分子化合物のIR分析結果及び1H−NMR測定の結果を以下に示す。
・IR(KRS,cm−1):
3484(νO−H)、1726(νC=O ester)、1450(νC=C aromatic)、1200、1149(νC−O−C ester)、893(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.91−1.40(m,Ha)、1.76−1.91(m,Hb)、3.97−4.12(m,Hc,d)、4.51−4.61(m,He)、5.48(br,Hf)、7.39(br,Hg)、7.97(br,Hh)、8.51(br,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化18】
【0047】
また、重合度(n)の異なる(5a)を用いて同様に反応を行った。(5a)への9−アントラセンカルボン酸の導入率を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例4
下記式(2b)で示されるフェノール誘導体(以下(2b)と略す)を合成した。
【化19】
【0050】
ナスフラスコに、(5a)の化合物を0.046g(0.002mmol)、2−ATCを0.10g(0.46mmol、エポキシに対して1.5倍)、TBABを0.005g(5mol%,0.015mmol)加え、NMP 1.6mLに溶解させ、70℃、48時間反応させた。
良溶媒としてTHF、貧溶媒としてメタノールとジエチルエーテルの混合溶媒(1:4)を用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、淡黄色固体を0.086g(収率:83%)得た。構造確認はIR、1H NMRにより行った。
・IR(KRS,cm−1):
3429(νO−H)、1717(νC=O ester)、1582(νC=C aromatic)、1234、1151(νC−O−C ester)、890(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.90−1.37(m,Ha)、1.74−2.16(m,Hb)、4.08−4.29(m,Hc,d,e)、5.43(br,Hf)、7.29(br,Hg)、7.70(br,Hh)、8.17−8.41(m,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化20】
【0051】
また、重合度(n)の異なる(5a)を用いて同様に反応を行った。(2b)への2−アントラセンカルボン酸の導入率を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
評価例1
実施例1で合成したポリマー(1a)(n=20、30、40)の光異性化反応を、以下の方法で評価した。
(1a)をTHFに溶解させ、石英セルに塗布してフィルムを作製した後、室温で減圧乾燥した。このフィルムに、光源として500Wキセノンランプを用いて光照射[1.8−2.0mW/cm2(313nm)]を行い、UVスペクトルを用いて9−ATC残基に基づく吸収波長の減少を追跡した。光照射の時間は0秒〜3600秒とした。
【0054】
各光照射時間におけるUVスペクトルを図1に示す。図1aは重合度nが20の(1a)のUVスペクトルであり、図1bはnが30の(1a)のUVスペクトルであり、図1cはnが40の(1a)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、9−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射60分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図1d、図1eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表5に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。
【0055】
【表5】
【0056】
評価例2
実施例2で合成したポリマー(1b)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図2に示す。図2aは重合度nが20の(1b)のUVスペクトルであり、図2bはnが30の(1b)のUVスペクトルであり、図2cはnが40の(1b)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、2−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射60分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図2d、図2eに示す。
一次速度プロットから算出した異性化速度を表6に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。
【0057】
【表6】
【0058】
評価例3
実施例3で合成したポリマー(2a)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図3に示す。図3aは重合度nが20の(2a)のUVスペクトルであり、図3bはnが30の(2a)のUVスペクトルであり、図3cはnが40の(2a)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、9−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射45分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図3d、図3eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表7に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。また、異性化速度は9−ATC残基を有するポリマーの方が速かった。
【0059】
【表7】
【0060】
評価例4
実施例4で合成したポリマー(2b)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図4に示す。図4aは重合度nが20の(2b)のUVスペクトルであり、図4bはnが30の(2b)のUVスペクトルであり、図4cはnが40の(2b)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、2−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射45分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した2−ATC残基光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図4d、図4eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表8に示す。その結果、腕の長さの短いポリマーほど、高い異性化率と高い異性化速度を示した。
【0061】
【表8】
【0062】
評価例5
上記実施例1−4で合成したポリマー(1a)、(1b)、(2a)、(2b)の光照射前後の屈折率変化を測定した。具体的には、シリコンウエハー上に各ポリマーのフィルムを作製し、光照射前のフィルムについてエリプソメータ(波長632.8nm)を用いて屈折率を測定した。
その後、光源として500Wキセノンランプ((1.8−2.0mW/cm2(313nm))を用いて光照射を行った。光照射後にフィルムの屈折率を測定した。また、光照射前のフィルムのガラス転移点(Tg)を測定した。表9に測定結果を示す。
【0063】
【表9】
【0064】
表9の結果から、Δnの値は、スターポリマー(2a、2b)と直鎖状ポリマー(1a、1b)で異なり、腕の長さが短いほどスターポリマーのΔnの値は直鎖状ポリマーよりも大きな値を示すことが判明した。従って、腕の長さの短いスターポリマーは、直鎖状ポリマーよりも光反応前後の密度変化が大きいことが明らかとなった。
【0065】
合成例1[式(4a)の合成]
(1)単官能性開始剤[4−tert−ブチル−2−ブロモイソブチリルオキシベンゼン]の合成
三つ口ナスフラスコに、4−tert−ブチルフェノール(4−tert−BuPhOH) 3.0g(20mmol)をTHF 80mLに溶解させ、系内を窒素雰囲気下にした。続いてトリエチルアミン(NEt3)を3.0g(30mmol)加えた後、氷冷下、2−ブロモイソブチリルブロミド(BIB)6.9g(30mmol)をTHF 20mLで希釈した溶液をゆっくり滴下し、室温下、24時間反応させた。析出した塩をろ別し、溶液を減圧留去した後、クロロホルムで希釈し、1N塩酸で1回、飽和重曹水で3回、水で2回洗浄を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。乾燥剤をろ別後、溶液を減圧留去し、析出した固体をn−ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより白色針状結晶を得た。
収量は4.3g(72%)、融点は59.2−60.0℃であった。
【0066】
(2)式(4a)の合成
アンプル管に、上記(1)で合成した開始剤を0.030g(0.1mmol)、2,2’−ビピリジン(bpy)を0.032g(0.2mmol)、グリシジルメタクリレート(GMA)を0.315g(2.22mmol)、CuClを0.010g(0.1mmol)量り取り、DMF 2mLに溶解させた。その後、二方コックを取り付け凍結・脱気を数回行い、封管した。室温にて解凍後、室温下、48時間反応させた。反応終了後、良溶媒としてTHF、貧溶媒として水を用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収後、再びTHFに溶解し、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥することにより白色粉末固体を得た。
収量は0.28g(83%)、数平均分子量(Mn)=3700、分子量分布(Mw/Mn)=1.24であった。
尚、MnおよびMw/Mnは下記の条件で測定した。
・サイズ排除クロマトグラフィー(SEC):東ソー(株)製 HLC−8020(カラム:TSKgelG1000H、溶媒:THF、標準:ポリスチレン)
【0067】
合成例2[式(5a)の合成]
(1)8官能性開始剤の合成
三つ口ナスフラスコに、カリックス[4]レゾルシンアレーンを0.544g(1mmol)、NEt3を1.21g(12mmol)加え、THF 25mLに溶解させた。その後、BIB 2.75g(12mmol)をTHF 5 mLで希釈し、窒素雰囲気下、氷冷下で徐々に滴下しながら加え、30分撹拌し、50℃で48時間反応させた。反応終了後、析出した塩をろ別し、溶液をクロロホルムで希釈し、炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で1回、水で3回洗浄を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、大量のメタノールに注いで固体を析出させた。これを2回繰り返し、得られた白色粉末固体をクロロホルムを用いて再結晶を行うことにより白色板状結晶を得た。
収量は1.2g(68%)、融点は337.2−337.9℃であった。
【0068】
(2)式(5a)の合成
アンプル管に、上記(1)で合成した開始剤を0.022g(0.0125mmol)、CuClを0.010g(0.1mmol)、bpyを0.032g(0.2mmol)、GMAを0.473g(3.33mmol)量りとり、DMF 5mLに溶解させた。その後、二方コックを取り付け凍結・脱気を数回行い、封管した。室温にて解凍後、室温下、24時間反応させた。反応終了後、良溶媒としてTHF、貧溶媒として水を用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収後、再びTHFに溶解し、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥することにより白色粉末固体を得た。
収量は0.30(61%)、Mn=17200、Mw/Mn=1.21であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のフェノール誘導体は、光記憶素子や光スイッチングシステム等に用いられる光学用材料として極めて有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】重合度nが20である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1b】重合度nが30である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1c】重合度nが40である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1d】UVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図1e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図2a】重合度nが20である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2b】重合度nが30である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2c】重合度nが40である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2d】UVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図2e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図3a】重合度nが20である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3b】重合度nが30である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3c】重合度nが40である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3d】UVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図3e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図4a】重合度nが20である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4b】重合度nが30である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4c】重合度nが40である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4d】UVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図4e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にアントラセン残基を有するフェノール誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、携帯電話やパソコン等、情報通信機器の普及が進んでいる。情報通信機器に要求される特性として、情報処理能力や情報伝達速度が挙げられる。
これまでの情報通信システムは、電気信号、又は光信号と電気信号を相互に変換することにより行われている。しかしながら、より大容量の情報を扱うには、このシステムでは限界がくるものと予想される。そのため、光信号と電気信号を変換せずに光信号のまま通信するシステムが検討されている。
【0003】
検討事項の1つとして、光信号のままスイッチを行う、光スイッチングシステムが注目されている。光は、電気的にスイッチングが困難である広帯域の信号のスイッチングだけでなく、電気的には取り扱うことのできない数ギガヘルツ以上の信号も高速にスイッチングすることができる。その中で、光異性化及び光二量化を用いた屈折率変換型の系が注目されている。屈折率変換材料には、Lorentz−Lorentzの式より、光反応前後の分子屈折と密度変化が大きいものが求められている。
【0004】
ところで、スターポリマーは、ハイパーブランチポリマーやデンドリマーと共に分岐ポリマーとして位置づけられ、その特性も対応する直鎖状ポリマーとは異なることが知られている。また、スターポリマーは、コア部に近くなるほどセグメント密度が高く、腕の長さが短いスターポリマーにおいては直鎖状ポリマーよりも分子密度が高いことから、屈折率も高くなることが報告されている(非特許文献1)。従って、スターポリマーを屈折率変換材料へと応用した場合、直鎖状ポリマーよりも大きな屈折率変化が期待できる。
【0005】
本発明者らは、カリックスアレーン化合物に光反応性基としてノルボルナジエンやアントラセンを導入し、熱安定性に優れたカリックス誘導体類を提案している。これらのカリックス誘導体は、光照射によって屈折率が大きく変化する特性を有することを報告している(特許文献1、特許文献2)。
また、上記のカリックス誘導体類は、これまでの直鎖状ポリマーと比較して大きな屈折率変化を示すことを報告している。
さらに、光二量化に伴う屈折率変化はノルボルナジエンやアゾベンゼンの光異性化よりも大きくなることも明らかとしている(非特許文献2)。
【非特許文献1】H.Kudo, H.Inoue, T.Nishikubo, and T.Anada, Polymer Jornal, Vol.38, No.3 (2006)
【非特許文献2】H.Kudo, W.Ueda, K. Sejio, K. Mitani, T. Nishikubo, and T. Anada, Bull. Chem.Soc.Jpn., 77, 1415 (2004)
【特許文献1】特開2003−306470号公報
【特許文献2】特開2004−262822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の知見に基づき光通信分野等の光学用材料として好適に使用できる材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、側鎖にアントラセン残基を有するフェノール誘導体が高い屈折率を有し、また、光学用材料として使用できることを見出した。
本発明によれば、以下のフェノール誘導体及びその製造方法等が提供される。
1.下記式(1)又は(2)で表されるフェノール誘導体。
【化4】
[式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R3は下記式(3a)又は式(3b)で表わされる基である。
【化5】
(式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)]
2.下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、下記式(6a)又は式(6b)で表わされる化合物を反応させる1に記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化6】
(式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
3.上記1のフェノール誘導体を含有し、その屈折率が1.500〜1.900の範囲である光学用材料。
4.上記3に記載の光学用材料からなる光導波路。
5.上記3に記載の光学用材料からなる光学フィルム。
6.上記3に記載の光学用材料からなる屈折率変換材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学用材料として有用なフェノール誘導体及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフェノール誘導体は、下記式(1)又は(2)で表される。
【化7】
【0010】
式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基(−OH)又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、R3はアントラセン構造を有する基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素である。
【0011】
本発明のフェノール誘導体は、その構造単位中に光反応性基を有するため、特定の光、例えば、紫外線を受けることによってその特性が変化する光反応特性を有する。また、式(2)のフェノール誘導体は、カリックスアレーン骨格を有するため、式(1)のフェノール誘導体である線状化合物に比べ、分子密度が高く、屈折率が高いという特性が得られる。
【0012】
上記式(1)及び(2)において、R1が示す炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等がある。
R1は、好ましくは水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0013】
R2が示す炭素数1〜20の2価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、エチリデン基、アセチレン基や、フェニレン基等の芳香族基等が挙げられる。また、これらの有機基にハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基等の置換基が結合した基でもよい。R2は好ましくは、イソプロピリデン基、プロピレン基、エチリデン基である。
【0014】
R3は下記式(3a)、又は式(3b)で表わされる基である。
【化8】
【0015】
式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。
R4が示す2価の有機基としては、例えばメチレン基、エチレン基、アセチレン基;フェニレン基等の芳香族基;エステル基、ケトン基、アセチル基、チオケトン基、−CH2−OCO−(CH2)2−CO−、−CH2−CO−等が挙げられる。
R4は好ましくは、ケトン基、−CH2−OCO−(CH2)2−CO−、−CH2−CO−である。
【0016】
nは重合度であり、1〜1000の整数である。用途にもよるが、nは樹脂として使用できるため、10〜500の範囲であることが好ましい。
mは、4〜10の整数であり、好ましくは4〜6である。
【0017】
続いて、本発明のフェノール誘導体の製造方法について説明する。
本発明のフェノール誘導体の製造方法は、下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、式(6a)又は式(6b)で表わされる化合物を反応させる。
【化9】
【0018】
式中、m、n、R1、R2及びR4は、それぞれ上記式(1)〜(3b)のものと同様の基を表す。
上記式(1)のフェノール誘導体を製造する場合は、式(4)と式(6a)又は式(6b)の化合物を、上記式(2)のフェノール誘導体を製造する場合は、式(5)と式(6a)又は式(6b)の化合物を反応させる。
【0019】
尚、式(4)又は(5)の化合物は、下記式(7)、(8)で示される開始剤にグリジルメタクリレートを反応させることにより得ることができる。
【化10】
(式中、m、X、R1、R2は式(1)(2)と同じである。)
【0020】
上記式(7)、(8)で示される開始剤とグリジルメタクリレートの反応は、好ましくは、遷移金属、リガンドの存在下で反応を行う。この方法は、国際公開第97/18247号において例証されている。
還元段階に関与可能な遷移金属を含む化合物は、式:Mn+X’n(式中、MはCu、Au、Ag、Hg、Ni、Pd、Pt、Rh、Co、Ir、Fe、Ru、Os、Re、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta及びZnから選択することができ、−X’はハロゲン(特に臭素又は塩素)、OH、(O)1/2、1〜6の炭素原子を有するアルコキシ基、(SO4)1/2、(PO4)1/3、(HPO4)1/2、(H2PO4)、トリフレート、ヘキサフルオロホスファート、メタンスルホナート、アリールスルホナート、SeR、CN、NC、SCN、CNS、OCN、CNO、N3及びR’CO2基で、R’がH、又は直鎖状又は分枝状で1〜6の炭素原子を有するアルキル基、又は一又は複数のハロゲン原子、特にフッ素及び/又は塩素原子で置換されていてもよいアリール基を示すことができ、nは金属の電荷である)に相当するものから選択することができる。
好ましくは、Mが銅又はルテニウムを表し、X’が臭素又は塩素を表すものが選択される。特に塩化銅を挙げることができる。
【0021】
さらにリガンドとして、一酸化炭素;置換されていてもよいポルフィリン類及びポルフィセン類;置換されていてもよいエチレンジアミン及びプロピレンジアミン;第3級アミンを有するポリアミン類、例えばペンタメチルジエチレントリアミン;置換されていてもよいアミノプロパノール及びアミノエタノール等のアミノアルコール類;置換されていてもよいエチレングリコール又はプロピレングリコール等のグリコール類;置換されていてもよいベンゼン等のアレーン類;置換されていてもよいシクロペンタジエン;置換されていてもよいピリジン類及びビピリジン類;アセトニトリル;1,10−フェナントロリン;クリプタンド類及びクラウンエーテル類;又はスパルテインを挙げることができる。
好ましいリガンドは、C2−C15アルキル基、特にC6−C12基、中でもノニル基で置換されていてもよいピリジン類及びビピリジン類;又は第3級アミンを有するポリアミン類、例えばペンタメチルジエチレントリアミンから特に選択される。
【0022】
式(7)、(8)の開始剤、遷移金属を含有する化合物及び活性剤として作用するリガンドの存在下において、モノマーであるグリシジルメタクリレートを重合させることにより、結果として式(4)、(5)により表すことのできる構造を有するフェノール誘導体が得られる。
【0023】
反応に用いる溶剤は、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0024】
反応温度は、通常、−50〜100℃の間で行うが、好ましくは0〜70℃、より好ましくは0〜40℃である。反応温度が−50℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
【0025】
式(4)又は(5)の化合物と、式(6a)又は式(6b)の化合物を反応させる工程においては、溶媒中において、必要により触媒を用いて行うことができる。
【0026】
触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩を使用できる。
【0027】
触媒の量は、式(4)又は式(5)の化合物が有するエポキシ基に対し、好ましくは0.1〜10mol%、より好ましくは3〜7mol%用いる。
【0028】
溶媒としては、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができ、好ましくは1−メチル−2−ピロリドンである。
【0029】
反応温度は、通常、30〜100℃の間で行うが、好ましくは50〜80℃である。反応温度が30℃未満だと反応時間が長くなるおそれがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こるおそれがある。また、反応時間は、24〜48時間で行うことが望ましい。
尚、反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0030】
本発明のフェノール誘導体は、単独で、又は各種添加剤や樹脂等を混合した状態で、光学用材料として好適に使用できる。
本発明の光学用材料の屈折率は1.500〜1.900であることが好ましい。本発明では、このような高い屈折率を有する材料を得ることができる。
【0031】
本発明の光学用材料は、溶媒に溶解して溶液とし、任意の支持体上に塗布して乾燥処理することにより、成膜することができる。
本発明のフェノール誘導体を溶解するための溶媒としては、メチルセルソルブアセテート、テトラヒドロフラン、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、クロロホルム、塩化メチレン等を用いることができる。
溶液を使用することにより、例えば、基板等に光導波路を形成することができる。
【0032】
また、フェノール誘導体が樹脂の場合、射出成形や押出成形等、公知の成形方法により、光学フィルム等の成形品を製造できる。
【0033】
本発明のフェノール誘導体は、光照射により光二量化生成物が得られることから、光記憶素子や光スイッチシステム等に用いられる屈折率変換材料として極めて有用である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
下記式(1a)で示される化合物(以下(1a)と略す)を合成した。
【化11】
【0036】
ナスフラスコに、下記式(4a)の化合物を0.057g(0.02mmol)、9−アントラセンカルボン酸(以下9−ATCと略す)を0.120g(0.54mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(以下TBABと略す)を0.006g(0.018mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.8mLに溶解させた。その後、70℃、48時間反応させた。
【化12】
【0037】
尚、(4a)の合成は、後述する合成例1で説明する。
反応終了後、反応母液をクロロホルムで希釈し、NaHCO3溶液で2回、水で2回洗浄を行い、有機層を、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。
乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、両溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、(1a)を淡黄色固体として0.11g(収率85.0%)得た。
得られた化合物の赤外分光分析(IR)及び1H−NMR測定の結果を以下に示す。
・IR(KRS,cm−1):
3485(νO−H)、1727(νC=O ester)、1447(νC=C aromatic)、1201、1151(νC−O−C ester)、892(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.85−1.40(m,Ha)、1.76−1.91(m,Hb)、4.00−4.17(m,Hc,d)、4.55−4.65(m,He)、5.53(br,Hf)、7.44(br,Hg)、8.02(br,Hh)、8.55(br,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化13】
【0038】
また、重合度(n)の異なる(4a)を用いて同様に反応を行った。(4a)への9−アントラセンカルボン酸の導入率を1H−NMRより算出した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2
下記式(1b)で示される化合物(以下(1b)と略す)を合成した。
【化14】
【0041】
ナスフラスコに、(4a)の化合物を0.057g(0.02mmol)、2−アントラセンカルボン酸(以下、2−ATCと略す)を0.12g(0.54mmol、エポキシ基に対して1.5倍)、テトラブチルアンモニウムブロミドを0.006g(5mol%,0.018mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.8mLに溶解させ、70℃、48時間反応させた。
良溶媒としてテトラヒドロフラン、貧溶媒としてメタノールとジエチルエーテルの混合溶媒(1:4)を用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、淡黄色固体を収量0.10g(82%)得た。構造確認はIR、1H NMRにより行った。
・IR(KRS,cm−1):
3429(νO−H)、1719(νC=O ester)、1582(νC=C aromatic)、1234、1151(νC−O−C ester)、890(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.82−1.37(m,Ha)、1.86−2.17(m,Hb)、4.01−4.28(m,Hc,d,e)、5.44(br,Hf)、7.32(br,Hg)、7.73(br,Hh)、8.19−8.43(m,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化15】
【0042】
また、重合度(n)の異なる(4a)を用いて同様に反応を行った。(4a)への2−アントラセンカルボン酸の導入率を1H−NMRより算出した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例3
下記式(2a)で示されるフェノール誘導体(以下(2a)と略す)を合成した。
【化16】
【0045】
ナスフラスコに下記式(5a)の化合物を0.046g(0.002mmol)、9−アントラセンカルボン酸を0.10g(0.45mmol)、TBABを0.005g(0.015mmol)加え、1−メチル−2−ピロリドン1.5mLに溶解させた。その後、70℃、48時間反応させた。
【化17】
【0046】
尚、(5a)の合成は、後述する合成例2で説明する。
反応終了後、反応母液をクロロホルムで希釈し、NaHCO3溶液で2回、水で2回洗浄を行い、有機層を、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、両溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてジエチルエーテルを用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、(2a)を淡黄色固体として0.081g(収率:76.0%)得た。
得られた高分子化合物のIR分析結果及び1H−NMR測定の結果を以下に示す。
・IR(KRS,cm−1):
3484(νO−H)、1726(νC=O ester)、1450(νC=C aromatic)、1200、1149(νC−O−C ester)、893(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.91−1.40(m,Ha)、1.76−1.91(m,Hb)、3.97−4.12(m,Hc,d)、4.51−4.61(m,He)、5.48(br,Hf)、7.39(br,Hg)、7.97(br,Hh)、8.51(br,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化18】
【0047】
また、重合度(n)の異なる(5a)を用いて同様に反応を行った。(5a)への9−アントラセンカルボン酸の導入率を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例4
下記式(2b)で示されるフェノール誘導体(以下(2b)と略す)を合成した。
【化19】
【0050】
ナスフラスコに、(5a)の化合物を0.046g(0.002mmol)、2−ATCを0.10g(0.46mmol、エポキシに対して1.5倍)、TBABを0.005g(5mol%,0.015mmol)加え、NMP 1.6mLに溶解させ、70℃、48時間反応させた。
良溶媒としてTHF、貧溶媒としてメタノールとジエチルエーテルの混合溶媒(1:4)を用いて再沈精製を2回行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥させることにより、淡黄色固体を0.086g(収率:83%)得た。構造確認はIR、1H NMRにより行った。
・IR(KRS,cm−1):
3429(νO−H)、1717(νC=O ester)、1582(νC=C aromatic)、1234、1151(νC−O−C ester)、890(νC−O−C epoxy)
・1H NMR(600MHz,DMSO−d6,TMS) δ(ppm):
0.90−1.37(m,Ha)、1.74−2.16(m,Hb)、4.08−4.29(m,Hc,d,e)、5.43(br,Hf)、7.29(br,Hg)、7.70(br,Hh)、8.17−8.41(m,Hi)
1H−NMR測定による水素原子の同定結果を下記に示す。
【化20】
【0051】
また、重合度(n)の異なる(5a)を用いて同様に反応を行った。(2b)への2−アントラセンカルボン酸の導入率を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
評価例1
実施例1で合成したポリマー(1a)(n=20、30、40)の光異性化反応を、以下の方法で評価した。
(1a)をTHFに溶解させ、石英セルに塗布してフィルムを作製した後、室温で減圧乾燥した。このフィルムに、光源として500Wキセノンランプを用いて光照射[1.8−2.0mW/cm2(313nm)]を行い、UVスペクトルを用いて9−ATC残基に基づく吸収波長の減少を追跡した。光照射の時間は0秒〜3600秒とした。
【0054】
各光照射時間におけるUVスペクトルを図1に示す。図1aは重合度nが20の(1a)のUVスペクトルであり、図1bはnが30の(1a)のUVスペクトルであり、図1cはnが40の(1a)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、9−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射60分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図1d、図1eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表5に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。
【0055】
【表5】
【0056】
評価例2
実施例2で合成したポリマー(1b)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図2に示す。図2aは重合度nが20の(1b)のUVスペクトルであり、図2bはnが30の(1b)のUVスペクトルであり、図2cはnが40の(1b)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、2−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射60分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図2d、図2eに示す。
一次速度プロットから算出した異性化速度を表6に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。
【0057】
【表6】
【0058】
評価例3
実施例3で合成したポリマー(2a)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図3に示す。図3aは重合度nが20の(2a)のUVスペクトルであり、図3bはnが30の(2a)のUVスペクトルであり、図3cはnが40の(2a)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、9−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射45分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図3d、図3eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表7に示す。その結果、異性化率はすべて同様の値となった。また、異性化速度は9−ATC残基を有するポリマーの方が速かった。
【0059】
【表7】
【0060】
評価例4
実施例4で合成したポリマー(2b)(n=20、30、40)の光異性化反応を、評価例1と同様にして評価した。
各光照射時間におけるUVスペクトルを図4に示す。図4aは重合度nが20の(2b)のUVスペクトルであり、図4bはnが30の(2b)のUVスペクトルであり、図4cはnが40の(2b)のUVスペクトルである。
いずれの図においても、光照射時間が長くなるにつれて、2−ATC残基に起因する吸収が減少し、光照射45分後で光定常状態に達したことが確認できた。
得られたUVスペクトルから算出した2−ATC残基光照射時間と異性化率の関係及び反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした結果をそれぞれ図4d、図4eに示す。
さらに、一次速度プロットから算出した異性化速度を表8に示す。その結果、腕の長さの短いポリマーほど、高い異性化率と高い異性化速度を示した。
【0061】
【表8】
【0062】
評価例5
上記実施例1−4で合成したポリマー(1a)、(1b)、(2a)、(2b)の光照射前後の屈折率変化を測定した。具体的には、シリコンウエハー上に各ポリマーのフィルムを作製し、光照射前のフィルムについてエリプソメータ(波長632.8nm)を用いて屈折率を測定した。
その後、光源として500Wキセノンランプ((1.8−2.0mW/cm2(313nm))を用いて光照射を行った。光照射後にフィルムの屈折率を測定した。また、光照射前のフィルムのガラス転移点(Tg)を測定した。表9に測定結果を示す。
【0063】
【表9】
【0064】
表9の結果から、Δnの値は、スターポリマー(2a、2b)と直鎖状ポリマー(1a、1b)で異なり、腕の長さが短いほどスターポリマーのΔnの値は直鎖状ポリマーよりも大きな値を示すことが判明した。従って、腕の長さの短いスターポリマーは、直鎖状ポリマーよりも光反応前後の密度変化が大きいことが明らかとなった。
【0065】
合成例1[式(4a)の合成]
(1)単官能性開始剤[4−tert−ブチル−2−ブロモイソブチリルオキシベンゼン]の合成
三つ口ナスフラスコに、4−tert−ブチルフェノール(4−tert−BuPhOH) 3.0g(20mmol)をTHF 80mLに溶解させ、系内を窒素雰囲気下にした。続いてトリエチルアミン(NEt3)を3.0g(30mmol)加えた後、氷冷下、2−ブロモイソブチリルブロミド(BIB)6.9g(30mmol)をTHF 20mLで希釈した溶液をゆっくり滴下し、室温下、24時間反応させた。析出した塩をろ別し、溶液を減圧留去した後、クロロホルムで希釈し、1N塩酸で1回、飽和重曹水で3回、水で2回洗浄を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。乾燥剤をろ別後、溶液を減圧留去し、析出した固体をn−ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより白色針状結晶を得た。
収量は4.3g(72%)、融点は59.2−60.0℃であった。
【0066】
(2)式(4a)の合成
アンプル管に、上記(1)で合成した開始剤を0.030g(0.1mmol)、2,2’−ビピリジン(bpy)を0.032g(0.2mmol)、グリシジルメタクリレート(GMA)を0.315g(2.22mmol)、CuClを0.010g(0.1mmol)量り取り、DMF 2mLに溶解させた。その後、二方コックを取り付け凍結・脱気を数回行い、封管した。室温にて解凍後、室温下、48時間反応させた。反応終了後、良溶媒としてTHF、貧溶媒として水を用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収後、再びTHFに溶解し、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥することにより白色粉末固体を得た。
収量は0.28g(83%)、数平均分子量(Mn)=3700、分子量分布(Mw/Mn)=1.24であった。
尚、MnおよびMw/Mnは下記の条件で測定した。
・サイズ排除クロマトグラフィー(SEC):東ソー(株)製 HLC−8020(カラム:TSKgelG1000H、溶媒:THF、標準:ポリスチレン)
【0067】
合成例2[式(5a)の合成]
(1)8官能性開始剤の合成
三つ口ナスフラスコに、カリックス[4]レゾルシンアレーンを0.544g(1mmol)、NEt3を1.21g(12mmol)加え、THF 25mLに溶解させた。その後、BIB 2.75g(12mmol)をTHF 5 mLで希釈し、窒素雰囲気下、氷冷下で徐々に滴下しながら加え、30分撹拌し、50℃で48時間反応させた。反応終了後、析出した塩をろ別し、溶液をクロロホルムで希釈し、炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、1N塩酸で1回、水で3回洗浄を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。乾燥剤をろ別後、溶液を濃縮し、大量のメタノールに注いで固体を析出させた。これを2回繰り返し、得られた白色粉末固体をクロロホルムを用いて再結晶を行うことにより白色板状結晶を得た。
収量は1.2g(68%)、融点は337.2−337.9℃であった。
【0068】
(2)式(5a)の合成
アンプル管に、上記(1)で合成した開始剤を0.022g(0.0125mmol)、CuClを0.010g(0.1mmol)、bpyを0.032g(0.2mmol)、GMAを0.473g(3.33mmol)量りとり、DMF 5mLに溶解させた。その後、二方コックを取り付け凍結・脱気を数回行い、封管した。室温にて解凍後、室温下、24時間反応させた。反応終了後、良溶媒としてTHF、貧溶媒として水を用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収後、再びTHFに溶解し、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈精製を行った。析出した固体を回収し、減圧乾燥することにより白色粉末固体を得た。
収量は0.30(61%)、Mn=17200、Mw/Mn=1.21であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のフェノール誘導体は、光記憶素子や光スイッチングシステム等に用いられる光学用材料として極めて有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】重合度nが20である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1b】重合度nが30である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1c】重合度nが40である(1a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図1d】UVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図1e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図2a】重合度nが20である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2b】重合度nが30である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2c】重合度nが40である(1b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図2d】UVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図2e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図3a】重合度nが20である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3b】重合度nが30である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3c】重合度nが40である(2a)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図3d】UVスペクトルから算出した9−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図3e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【図4a】重合度nが20である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4b】重合度nが30である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4c】重合度nが40である(2b)の各光照射時間におけるUVスペクトルである。
【図4d】UVスペクトルから算出した2−ATC残基の光照射時間と異性化率の関係を表わした図である。
【図4e】反応初期の異性化率を一次速度式にプロットした図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は(2)で表されるフェノール誘導体。
【化1】
[式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R3は下記式(3a)又は式(3b)で表わされる基である。
【化2】
(式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
【請求項2】
下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、下記式(6a)又は(6b)で表わされる化合物を反応させる請求項1に記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化3】
(式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
【請求項3】
請求項1のフェノール誘導体を含有し、その屈折率が1.500〜1.900の範囲である光学用材料。
【請求項4】
請求項3に記載の光学用材料からなる光導波路。
【請求項5】
請求項3に記載の光学用材料からなる光学フィルム。
【請求項6】
請求項3に記載の光学用材料からなる屈折率変換材料。
【請求項1】
下記式(1)又は(2)で表されるフェノール誘導体。
【化1】
[式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R3は下記式(3a)又は式(3b)で表わされる基である。
【化2】
(式中、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
【請求項2】
下記式(4)又は式(5)で表わされる化合物と、下記式(6a)又は(6b)で表わされる化合物を反応させる請求項1に記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化3】
(式中、mは4〜10の整数であり、nは1〜1000の整数である。R1は水素、水酸基又は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20の2価の有機基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R4は炭素数1〜20の2価の有機基である。)
【請求項3】
請求項1のフェノール誘導体を含有し、その屈折率が1.500〜1.900の範囲である光学用材料。
【請求項4】
請求項3に記載の光学用材料からなる光導波路。
【請求項5】
請求項3に記載の光学用材料からなる光学フィルム。
【請求項6】
請求項3に記載の光学用材料からなる屈折率変換材料。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【公開番号】特開2008−208322(P2008−208322A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103805(P2007−103805)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名 応用化学科卒業研究・博士論文・修士論文発表会 主催者名 学校法人 神奈川大学 開催日 平成19年2月19日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名 応用化学科卒業研究・博士論文・修士論文発表会 主催者名 学校法人 神奈川大学 開催日 平成19年2月19日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
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