説明

傾斜機能材料の製造方法及びその成形装置

【課題】
この発明は、長尺、大口径であるパイプ形状の連続的な傾斜機能材料の緻密な焼結体を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。また、この製造方法に適した装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の傾斜機能材料の製造方法は、2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成するステップと、該スラリーに遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形するステップと、該成形物を乾燥するステップと、該乾燥させた成形物をプラズマ焼結により焼結するステップを踏むものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス、金属、樹脂などの内、異なる2つ以上の材料の異なる機能を同時に生かすことが可能な傾斜機能材料の製造方法と、その成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜機能材料は、宇宙往還機において、地球再突入時に機体にかかる、1,800℃以上の高温から機体を保護する熱遮蔽材料など耐熱材料として活用することを目的に開発がなされたものである。傾斜機能材料はセラミックス、金属、樹脂などの内、機能の異なる2種類以上の材料を、それぞれの材料の組成比率が連続的に変化する組成遷移層を介して接合することにより、それぞれの材料の熱膨張差による接合面での剥離等を抑制し、各材質の異なる機能を有効に活用しようとするものである。この製造方法としては、化学蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)やドクターブレードを用いた薄膜積層法など、さまざまな方法が開発されている。複数の材料機能を有効に活用することが可能であるため、さまざまな分野での活用が提案されており、低価格で且つ容易に製造する技術の開発が望まれている。
【0003】
粉末材料を水やアルコールなどの溶媒中に分散させたスラリーを用いて成形を行う技術は陶磁器産業では古くから用いられている技術であり、近年では、ニアネットでの成形が可能であるなどの特徴から、工業製品分野向けのセラミックス成形技術としても活用されている。傾斜機能材料の分野では、単一材料が分散した二種類のスラリーを、その混合比率を連続的に変化させながら積層していく、スラリー積層法が提案されている。
【0004】
遠心力を利用したセラミックスや複合材の製造方法の例として、特許文献1、特許文献2又は特許文献3に開示されている。特許文献1には、超伝導体の完全反磁性を利用して磁束遮蔽をする磁気シールド体の製造方法が開示されている。この製造方法は、焼成により高温超伝導体となる結晶形態が板状結晶であり、仮焼粉末の泥漿を遠心成形し、得られた円筒形成形体を焼成することから成っている。遠心力によって管状鋳型の内部に仮焼粉末の泥漿を均一な厚みで着肉させ、固化した後に鋳型から円筒形成形体を取り出すので、円筒形成形体は密度、厚さが均一であり、焼成して得られた磁気シールド体も密度が均一となる。
【0005】
特許文献4には、金属酸化物からなる原料粉末を含む泥漿について、遠心力を利用して固液の分離を行って固形成形体を得て、得られた固形成形体を解砕して粒状としたものにマイクロ波を照射し、平均粒径が1μm以下、且つマイクロビッカース硬度が18GPa以上である焼結砥粒を得る高速遠心成形法が開示されている。この高速遠心成形法によれば、成形と同時に脱泡も行われるので、原理的に欠陥のない高品質な成形体が得られ、1μm以下の原料を均一且つ高充填度に成形するファインセラミックスの複雑形状製品の作成に適している。また、金型を使用できるので、形状の自由度や寸法精度に優れるという特徴を持っている。
【0006】
特許文献2には、金属、セラミックス等の粉体を液体に混練してなる泥漿、懸濁液などの流動体を底部が密閉された型内に入れ、型の底部を遠心機の回転方向外方に向けて遠心機を回転させた後、型の上部に分離された液体を除去して、固形状の成形体を得る成形方法が開示されている。また、非特許文献1には、液中沈降法を用いた傾斜成分充填層の作製と題して、粉粒体粒子の粒径や密度によって液中沈降速度が異なることを利用して、遠心沈降によって、傾斜成分粒子充填層を簡単に作製することが開示されている。
【0007】
本発明者等が先に提示した特許文献5には金属、セラミックス等の異なる二種類の粉末材料を水及び分散材と共に混合し、分散剤の添加量を調整することにより得られた凝集状態のスラリーに遠心力を付加することにより、組成傾斜層を有する傾斜機能材料が成型されること、更に形成された傾斜機能材料成型体を凍結乾燥法により乾燥することで亀裂のない乾燥体を得られることが開示されている。
【0008】
しかしながら、遠心力を付加することにより形成された傾斜組成を有する成形体において、充分に機能を発揮出来うる、緻密な焼結体を得る焼結方法については開示されていないため、実用化が進んでいないのが現状である。すなわち、従来の傾斜機能材料製造技術は、PVD、CVD等のように特殊でかつ高価な設備を必要とするものが主体であり、イニシャルコスト、ランニングコストの増大、熟練した技術者が必要である等の理由から充分に活用されているとは言い難い状況にある。そして、この解決策として提示されている遠心力を利用した製造技術においては、緻密な焼結体を得るための方法として、ホットプレス(以下HP)法などが提起されているが、パイプ形状など異形形状のサンプルの焼結は不可能であり、汎用性の高いパイプ形状品などは事実上製造が困難な状況である。また、緻密な傾斜機能材料焼結体を得るための焼結方法として放電プラズマ焼結法(SPS法)が実施されているが、粉末積層による傾斜機能材料の形成による製造のためパイプ状傾斜機能材料の成型を行う場合、粉末の積層体を形成することが困難であり、大型の製品が出来ない、連続的な組成傾斜を有する傾斜機能材料が得られないといった問題を抱えている。
【特許文献1】特許第3005660号明細書 平成12年1月31日公報発行「磁気シールド体の製造方法」
【特許文献2】特開平5−65504号公報 「成形方法」 平成5年3月19日公開
【特許文献3】特開平3−36340号 「真壁用断熱通気部材」 平成3年2月18日公開
【特許文献4】特開平11−71576号公報 「高速遠心成形法とマイクロ波焼結法による焼結砥粒及びその製造方法」 平成11年3月16日公開
【特許文献5】特開2004−82618号広報 「傾斜機能材料、並びに傾斜機能材料の製造方法及び装置」 平成16年3月18日公開
【非特許文献1】粉体光学学会誌35,「液中沈降法を用いた傾斜成分充填層の作製」 555−559頁(1998年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、長尺、大口径であるパイプ形状の連続的な傾斜機能材料の緻密な焼結体を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。また、この製造方法に適した装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の傾斜機能材料の製造方法は、2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成するステップと、該スラリーに遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形するステップと、該成形物を乾燥するステップと、該乾燥させた成形物をプラズマ焼結により焼結するステップを踏むものとした。
また、円筒状の型枠にスラリーを入れ、遠心力を付加することにより外周から内周にかけて傾斜組成を連続形成すると共にパイプ形状を成形する手法を採用した。
また、分散材の添加量を調整することにより、スラリーの凝集状態を制御する手法を採用した。
本発明の傾斜機能材料の製造方法では、遠心力場での成形に用いる型材として石膏、多孔質テフロン(登録商標)、多孔質焼結金属からなる多孔質材料のいずれかを用い、遠心力により傾斜組成を形成すると共に、スラリー中の溶媒を系外に排出させる手法を取り入れた。
【0011】
本発明の傾斜機能材料の縦型遠心成形装置は、高速回転が可能な駆動モーターと、型を装着する回転テーブル、型を固定する手段及び制御部を備えるものであって、成型用型枠を前記モーターの縦方向回転軸と同軸上或いは該回転軸と平行に1本以上配置して遠心成形を行うようにした。
本発明の傾斜機能材料の成型用縦型遠心成型装置は、太陽歯車、内歯車、遊星歯車及び該遊星歯車を軸支する部材から構成される遊星歯車機構であって、前記遊星歯車が結合された成型用型枠を自転及び公転運動の組み合わせによる遊星運動させることによって遠心力を付加するようにした。
本発明のパイプ材は、パイプ形状を呈し、外周面から内周面にかけて、異なる2種類以上の材質の組成比が連続的に層変化した緻密な傾斜機能材料焼結体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の傾斜機能材料の製造方法は、2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成し、該スラリーに遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形するようにしたので、これまで形成に時間と特殊な装置を必要としていた成形を簡便に行なえるばかりでなく、形成が困難であったパイプ状の傾斜機能材料についても外周から内周にかけて傾斜組成を容易に連続形成することができ、かつ、加工品の大型化が可能になる。そして、その成形物を乾燥させた後従来粉体成形を前提としていたプラズマ焼結プラズマ焼結法による焼結を可能にしたことにより、平板形状に限らずこれまで製造が困難であったパイプ状の連続的な組成傾斜を有する傾斜機能材料の緻密な傾斜機能材料も製造することが可能となった。そして、粉末材料としてはセラミックス、金属、粉末樹脂素材を適宜選択組み合わせて実施することができるものである。
【0013】
また、本発明の傾斜機能材料の製造方法では、分散材の添加量によってスラリーの凝集状態を制御する手法を採用することによって、組成傾斜を最適形成して緻密な傾斜機能材料を製造することが可能である。
本発明の傾斜機能材料の製造方法では、遠心力場での成形に用いる型材として石膏、多孔質テフロン(登録商標)、多孔質焼結金属といった多孔質材料を用いることによって、遠心力により傾斜組成を形成すると共に、スラリー中の溶媒を系外に排出させるようにしたから、分離された溶剤を排出するという従来の工程を省くことが出来、製造工程の簡略化と時間の節約という効果を奏する。
【0014】
本発明の傾斜機能材料の縦型遠心成形装置は、高速回転が可能な駆動モーターと、型を装着する回転テーブル、型を固定する手段及び制御部を備えるものであって、成型用型枠を前記モーターの縦方向回転軸と同軸上或いは該回転軸と平行に1本以上配置して遠心成形を行うようにしたものであるから、先に本発明者等が提示した特許文献5の装置より、長尺のパイプ製造用であっても場所をとることなく設置することが出来る。
本発明の傾斜機能材料の成型用縦型遠心成型装置は、太陽歯車、内歯車、遊星歯車、及び遊星歯車を軸支する部材から構成される遊星歯車機構であって、成型用型枠を自転及び公転運動の組み合わせによる遊星運動させることによって遠心力を付加するようにしたものであるから、高速駆動によって高い遠心力が得られ、短時間で組成傾斜の形成と溶剤の分離が出来る。
本発明のパイプ材は、パイプ形状の外周面から内周面にかけて、異なる2種類以上の材質の組成比が連続的に層変化した緻密な傾斜機能材料焼結体であるから、耐熱や耐腐食性が求められる熱交換器用のパイプや科学機器用のパイプとして広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の傾斜機能材料の製造方法は、前述したように長尺、大口径であるパイプ形状の連続的な傾斜機能材料の緻密な焼結体を製造することを可能にする製造方法を提示することを目的課題としてスタートした。ところで、本発明者等は先に2種以上の固体粒子が液体中に分散した混合物に遠心力を作用させて前記固体粒子を組成比率が連続的に変化した組成遷移層を含む沈積物として沈積させ、前記沈積物を凍結して前記沈積物に含まれる凍結状態の前記液体成分を取り除くことにより前記沈積物を乾燥して得られる焼結前の傾斜機能材料について、更に長尺、大口径であるパイプ形状のものの製造についても特許文献5によって提示した。しかし、最終段階の焼結工程において緻密な焼結体を得る焼結法として知られているHP法がパイプ形状のような異形物には適用できないため、求められる緻密な傾斜機能材料焼結体が得難い状況であったところ、本発明において放電プラズマ焼結法を採用することにより、求められる緻密な傾斜機能材料焼結体であるパイプ材の安定製造が可能となったものである。
【0016】
本発明に係る傾斜機能材料の製造方法では、2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成するステップと、該スラリーに遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形するステップと、該成形物を乾燥するステップを踏んで焼結前の傾斜機能材料を作るが、この工程は先の特許文献5に示した技術と基本的に同じである。図8に示す傾斜機能材料の製造装置は、特許文献5に開示の回転軸を横置きした円筒形遠心分離装置であって、基台11と、基台11に回転自在に横置き状態に支持された回転ドラム12とを備えている。回転ドラム12はその一端(図では右端)においては軸部となっており、軸部は基台11に立設された支持枠11aに設けられた軸受によって回転自在に支持されている。また、回転ドラム12の他側(図では左端)は、基台11に立設された支持枠11bの四隅に設けられたローラ13によって回転自在に支持されている。回転ドラム12の内部には、環状の溝12aを置いて、成形用の型として自転軸回りに回転対象な円筒状型枠14が配置されており、円筒状型枠14は両端で回転ドラム12に固定されている。基台11には、また、駆動モータ3が載置されており、ベルト等の無端伝動帯が駆動モータ3と軸部12bとに巻掛けられている。回転ドラム12の他側の端部及びそれに対応した円筒状型枠14の自転軸方向他方の端部は、閉鎖可能な開口12cとなっており、その開口12cを通して、固体粒子を液体中に分散させた混合物や液体窒素等の凍結用液体の注入を可能にしている。即ち、凍結用液体は、開口12cを通して回転ドラム12の軸方向に進退可能であると共に管中心回りに回転可能な可動供給管15aと、その先端部に接続し、径方向に延びた供給ノズル15bとを備えている。
【0017】
図8(a)及び(b)に示す製造装置によれば、混合物収容工程においては、開口12cを通して固体と液体との混合物が円筒状型枠14内に注入され、その後の遠心沈積工程において、駆動モータ3を駆動することによって無端伝動帯を介して回転ドラム12及び円筒状型枠14を自転軸である水平回転軸の回りに速度ωで回転する。この場合、混合物の固体成分は、遠心力の作用によって、円筒状型枠14の内壁面に沿って円筒状沈積物20として沈積する。固体成分を金属粉末とセラミックス粉末のような2種類以上の成分とすると、円筒状沈積物20は、遠心分離作用により、円筒状型枠14の内壁面寄りから、先に沈積する外側の金属層16、金属とセラミックスとの組成比率が連続的に変化した組成遷移層17、最後に沈積する内側のセラミックス層18とが層状に積層して形成される。次の凍結乾燥工程において、開口12cから挿入した可動供給管15aが回転しながら進退させて供給ノズル15bから液体窒素等の凍結用液体を注入することにより、円筒状沈積物20が凍結され、凍結された円筒状沈積物20を真空環境下に置くことにより凍結した液体成分が直接に昇華して乾燥され、その結果、成形体として、ひび割れ、層間剥離や型崩れのない乾燥した円筒状成形体19が得られる。図8の(C)に示す円筒状成形体19は、その後の焼成工程において、適宜に成型・焼成されて傾斜機能を持つ円筒状製品とされる。
【0018】
円筒状製品を製造する装置として本発明では図1に示すような縦型の遠心成形装置を提示する。回転軸を鉛直方向にした駆動モータ3の軸に結合し回転容器1を載置固定するカップリング機構2を回転自在に取り付ける。回転容器1には型枠が挿入され、該型枠内に混合物収容工程においては、開口部から固体と液体との混合物(スラリー)が円筒状型枠内に注入され、その後の遠心沈積工程において、駆動モータ3を駆動することによってカップリング機構2を介して回転容器1及び円筒状型枠を自転軸である駆動モータ3の回転軸の回りに速度ωで回転する。この場合、混合物の固体成分は、遠心力の作用によって、円筒状型枠の内壁面に沿って円筒状沈積物として沈積する。固体成分を金属粉末とセラミックス粉末のような2種類以上の成分とすると、円筒状沈積物は、遠心分離作用により、図8の(c)と同様に、円筒状型枠の内壁面寄りから、先に沈積する外側の金属層16、金属とセラミックスとの組成比率が連続的に変化した組成遷移層17、最後に沈積する内側のセラミックス層18とが層状に積層して円筒状成形体19が形成される。
この縦型の遠心成形装置は図8に示す横型に較べ、作業場の省スペースが図れる利点がある。
【0019】
本発明では、更に量産化を図るものとして、鉛直方向に平行して複数の円筒型遠心分離部を併設した装置を提示する。図2に示すものは遊星歯車機構を用いた例で、Aは平面図であり、BはAにおけるイ−イ断面図そしてCは歯車機構を説明する部分拡大図である。この例は円板型の回転テーブル4上に4つの回転ドラムが90度間隔で回転可能に配置されている。各回転容器1内には円筒状の型枠が収納固定され、該回転容器1の底部には回転軸1aが下方に向けて延在し、前記回転テーブル4に設けられた穴部を貫通して歯車7が取り付けられている。各回転容器1の回転軸1aに取り付けられたこの4つの歯車7は、太陽歯車5に噛み合わされると共に該太陽歯車5と同心関係にある内歯歯車6にも噛み合わされるように組み合わされ、遊星歯車として作動する。中央の太陽歯車5はモータ3の回転軸と結合されており、モータの駆動によりこの太陽歯車5が回転されると、4つの遊星歯車7は固定された内歯歯車6との間で回転させられる。今図に示すように太陽歯車5が反時計方向に回転されたとすると、各遊星歯車7は時計方向に回転力を受け自転を行うと共に、固定された内歯歯車6と噛み合わされている関係で前記太陽歯車5の周りを反時計方向に公転させられることになる。2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成し、該スラリーを各回転ドラム内に収納された円筒状の型枠に注入し、遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形する。1度に複数(この例では4つ)のパイプ形状の傾斜機能材を成形させることができることとなり、量産を可能とするだけでなく、この遠心成形装置は図8に示す従来の横型のものに較べ、縦型であることから作業場の省スペースが図れる。
なお、この遊星歯車機構は太陽歯車を回転駆動し内歯歯車を固定として説明したが、これに限られることなく、太陽歯車を固定とし内歯歯車を回転駆動させる形態でもよい。また、内歯画車を太陽歯車と反対方向に回転させることで自転・公転運動は高速化を図ることも可能である。
【0020】
次に、本発明の最も特徴的な放電プラスマ焼結法を実施するための装置について説明する。図3は、この実施の形態で使用される放電プラズマ焼結装置の概略構成を示す構成図である。この放電プラズマ焼結装置は、水冷真空チャンバー内に設置されており、パンチ電極を兼ねた加圧機構としての上下ラム9と、図示していない焼結電源と、加圧機構および焼結電源を制御する制御装置とから構成されている。上下のラム間には焼成サンプルを収納するスペースを備えたカーボン製の型枠8aとそのスペース内に収納された焼成サンプルを上下から加圧するためのカーボン製型8bとが組み合わされている。また、この装置には焼成サンプルの温度状態をモニターするため前記カーボン製の型枠に熱電対10が取り付けられている。
この放電プラズマ装置では、焼結前の傾斜機能材料を収納スペースに入れ、制御装置の制御によって、焼結電源からオン−オフで繰り返し電圧・電流を印加することで、加圧機構で圧力がかけられた被加工物内で放電点とジュール発熱点が移動し、被加工物全体に分散されてオンの状態での現象(ジュール熱による溶解)と効果(高速拡散)が、被加工物内に均一に繰り返されて緻密な焼結が施される。
【0021】
本発明に係る傾斜機能材料の製造方法のフローについて図4を参照しながら説明する。まず、Aに示したフローであるが、ステップ1でセラミックス、金属、粉末樹脂素材の中から2種類以上組み合わされた粉末材料に有機系分散剤の配合を行い、ステップ2でそれを水またはエタノール、メタノール、アセトン、エチレングリコール、トルエン、キシレン等の有機溶剤である溶媒と混合する。このようにして作られたスラリーをステップ3では石膏、多孔質テフロン(登録商標)、多孔質焼結金属等の多孔質材料からなる型枠に注入し、遠心分離装置にかけて傾斜組成を形成する。この傾斜組成を形成する遠心分離動作では、型枠として多孔質材料が用いられていることにより、分離された溶媒は多孔質材料を経て系外に排出させられる。ステップ4ではこれを自然乾燥させ、ステップ5では更に乾燥度を高めるために加熱して乾燥する。このようにして成形されたものを放電プラズマ装置によって焼結する。これが型枠の材料として多孔質材料を用いたときの製造フローである。
【0022】
次に型枠の材料として塩化ビニール、アクリル、ポリプロピレン、PET等非吸水性、非透水性のものを用いたときの製造フローを図4のBに示す。ステップ1とステップ2、すなわち、スラリーを作るところまでは先のフローと変わりは無い。ステップ3で遠心分離を行うが、このときの型枠は非吸水性、非透水性であるから、分離された溶媒は上澄み液として型枠内に残るので、ステップ4ではこの上澄み液を排出する。更に、ステップ5では液体窒素などを吹き付けて凍結乾燥を実行する。凍結の過程で溶媒は表面に染み出され昇華して排出除去される。このようにして成形されたものをステップ6において放電プラズマ装置を用いて焼結工程を実行する。
【実施例1】
【0023】
図4のAに示した本発明に係る製造フローに従って作られた傾斜機能材料の1実施例について説明する。原料としてステンレス鋼パウダーと部分安定化ジルコニアを選択した。この原料の比重と平均粒子径は表1に示すとおりであった。
【表1】

この原料と分散剤を表2に示す割合で配合し、水を加え、遠心成型で適切な組成傾斜層が得られる凝集条件を見極めるべく分散剤添加量を変化させて、ポットミルにて5時間の混合を行なった後、粒子の沈降試験による凝集状態の観察及び遠心力を負荷しての傾斜性の確認を行なった。図5のAに沈降試験による分散剤量と凝集域と分散域の関係を示し、図5のBに分散剤量と組成傾斜層の有無の関係を示す。Aに示されるように沈降試験では分散剤の添加率が低いと凝集状態を示し、添加量を増やすと層分離するが更に添加量を増やすと再度凝集状態となる。また、ステンレス鋼パウダー(SUS)の配合率が高いほど層分離傾向が見られた。遠心力をかけて傾斜性を確認した結果はBに示されるように分散剤の添加率が低いと混合形態を示し、添加量を増やすと傾斜形成が示されるが更に添加量を増やすと異種材料の層分離を示すものであった。
【表2】

上記結果より良好な傾斜性が得られた配合1、分散剤0.4wt%の配合にて、図1に示した1軸遠心成形機を用いて傾斜機能材料の成形を行なった。このときの成形用モールドは吸水性のある石膏型を用いて行ったので、遠心分離動作において傾斜組成を形成すると共にスラリー中の水が系外に排出された。脱枠後自然乾燥させ更に110℃に加熱して強制乾燥を行なった。図6に示すものは乾燥後の成形体の断面を部分拡大した写真であるが、この写真から判るように中が空洞部となったパイプ状でかつ内周面から外周面にかけて連続的な組成傾斜を有する傾斜機能材料成形体を得ることが出来た。
【0024】
得られた傾斜機能材料成形体を図3に示した放電プラズマ焼結装置にて焼結操作を行った。パイプ形状の上記傾斜機能材料成形体を放電プラズマ装置の収納スペースに入れ、3メガPaで加圧した状態で焼結を実行した。このときの焼結度は融点の高いセラミックスの吸水率の変化にて評価を行なった。その評価結果を図7のグラフに示す。計測温度は放電プラズマ焼結工程において熱電対にて計測した温度であり、サンプルの温度とは若干の差異があるが、計測温度1100℃でほぼ真比重に近い比重となり、吸水率もほぼ0となって良好な焼結体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の製造手法により、単純形状に限らず異形製品についても傾斜機構材料としての緻密な焼結体が提供でき、広い分野での利用が期待できる。例えば、耐熱機能を備えたものであることによって金属溶融容器に用いる大型のるつぼ、転炉等に、発熱機能を持ったものして電磁調理器の発熱材、高温保持用の流体ノズル、有機物反応容器等に、機器の低摩擦機能材料としてピストン型超高圧ポンプ、軸受、エンジン用シリンダ、対塩水の超高圧ポンプ用シリンダ等に、更には流体導管機能材として耐熱・耐腐食性の熱交換器や科学機器用の導管にと利用分野が想定される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る傾斜機能材料製造用の縦型遠心成形装置を説明する図である。
【図2】遊星歯車機構を用いた複数の傾斜機能材料を同時に形成する縦型遠心成形装置を説明する図である。
【図3】本発明に係る傾斜機能材料製造用の放電プラズマ焼結装置を説明する図である。
【図4】本発明に係る傾斜機能材料製造の工程を説明するフローチャートである。
【図5】本発明に係る傾斜機能材料製造の原料について適正配合を調べた実験結果を示すグラフである。
【図6】パイプ形状体を本発明の装置で製造した1実施例の断面写真である。
【図7】実施例サンプルの放電プラズマ焼結工程における温度に対する吸水率と比重データの計測結果を示すグラフである。
【図8】本発明に係る傾斜機能材料製造の基礎となる従来の遠心成形装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0027】
1 回転容器 1a 回転軸
2 カップリング機構 3 駆動モータ
4 回転テーブル 5 太陽歯車
6 内歯歯車 7 遊星歯車
8a カーボン製型枠 8b カーボン製型
9 上下ラム 10 熱電対
11 基台 11a,11b 支持枠
12 回転ドラム 13 ローラ
12a 環状の溝 12b 軸部
12c 開口 14 円筒状型枠
15a 可動供給管 15b 供給ノズル
16 金属層 17 組成遷移層
18 セラミックス層 19 円筒状成形体
20 円筒状沈積物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の粉末材料に有機系分散剤及び溶媒を加えスラリーを作成するステップと、該スラリーに遠心力を付加することにより傾斜組成を形成すると共に形状を成形するステップと、該成形物を乾燥するステップと、該乾燥させた成形物をプラズマ焼結により焼結するステップからなる傾斜機能材料の製造方法。
【請求項2】
円筒状の型枠にスラリーを入れ、遠心力を付加することにより外周から内周にかけて傾斜組成を連続形成すると共にパイプ形状を成形する請求項1に記載の傾斜機能材料の製造方法。
【請求項3】
分散材の添加量を調整することにより、スラリーの凝集状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の傾斜機能材料の製造方法。
【請求項4】
遠心力場での成形に用いる型材として石膏、多孔質テフロン(登録商標)、多孔質焼結金属からなる多孔質材料のいずれかを用い、遠心力により傾斜組成を形成すると共に、スラリー中の溶媒を系外に排出することを特徴とする請求項1に記載の傾斜機能材料の製造方法。
【請求項5】
高速回転が可能な駆動モーターと、型を装着する回転テーブル、型を固定する手段及び制御部を備えるものであって、成型用型枠を前記モーターの縦方向回転軸と同軸上或いは該回転軸と平行に1本以上配置して遠心成形を行うことを特徴とする傾斜機能材料の縦型遠心成形装置。
【請求項6】
太陽歯車、内歯車、遊星歯車及び該遊星歯車を軸支する部材から構成される遊星歯車機構であって、前記遊星歯車が結合された成型用型枠を自転及び公転運動の組み合わせによる遊星運動させることによって遠心力を付加することを特徴とするパイプ形状の傾斜機能材料成型用縦型遠心成型装置。
【請求項7】
パイプ形状を呈し、外周面から内周面にかけて、異なる2種類以上の材質の組成比が連続的に層変化した緻密な傾斜機能材料焼結体であるパイプ材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−103135(P2006−103135A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292480(P2004−292480)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(598052713)長崎菱電テクニカ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】