説明

像加熱装置

【課題】加熱部材の外部に設けられ加熱部材の周方向の一部領域を被加熱部Bとして輻射熱Aを照射して非接触で加熱する外部輻射加熱手段43と、を有し、ニップ部で画像tを担持した記録材Sを挟持搬送しつつ加熱する外部加熱方式の像加熱装置29において、像加熱が高速化して加熱部材41の急激な温度低下が発生した場合においても、立ち上がり時間が短く、かつ安価で安定した加熱部材41の温度制御が行える装置を提供する。
【解決手段】外部輻射加熱手段43は、輻射熱を発する輻射熱源45と、輻射熱源から加熱部材へと照射される輻射熱量を調節する輻射熱量調節手段47と、を有し、ニップ部よりも加熱部材回転方向下流側で被加熱部よりも加熱部材回転方向上流側での加熱部材の表面温度を検知する温度検知手段THと、温度検知手段で検出した表面温度に基づき輻射熱量調節手段を制御する制御手段11と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式・静電記録方式・磁気記録方式などの適宜の画像形成プロセスにより記録材に画像形成を行う画像形成装置に搭載される画像加熱定着装置として用いて好適な、外部加熱方式の像加熱装置に関する。
【0002】
像加熱装置は、記録材上の未定着画像を加熱して固着画像として定着或いは仮定着する定着装置、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢を増大させる光沢増大装置(画像改質装置)を挙げることが出来る。
【背景技術】
【0003】
画像形成装置における定着装置は、作像部に於いて加熱溶融性の樹脂等よりなるトナー(顕画剤)を用いて記録材の面に直接方式若しくは間接(転写)方式で形成された未定着トナー画像を固着画像として加熱定着処理をする装置である。従来そのような定着装置として、画像加熱部材としての加熱ローラを外側から加熱する外部加熱方式(表面加熱方式)の装置がある。
【0004】
特許文献1には、高温の加熱部材を加熱ローラの外面に接触させ、加熱ローラが1周分回転する前に加熱部材の制御温度を上げ、良好な定着に必要なローラ温度の維持を行う技術が開示されている。これにより定着時の加熱ローラの回転1周目と2周目以降の被加熱材加熱ムラ現象を防止することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、加熱ローラの外部に備えた外部加熱源によってローラの表面を非接触で加熱する方式において、外部加熱源への供給電力をPWM制御により連続的に変化させて加熱ローラの表面温度を目標値に制御する技術が開示されている。これにより従来行われてきたON/OFF制御に比べて加熱ローラ表面の安定した温度制御を行うことができるとされている。
【0006】
特許文献3には、定着ベルトを用いた定着方法において、ニップ通過での記録媒体との接触による定着ベルトの温度低下部を狙って、定着ベルトの外部加熱を行う技術も開示されている。これにより、定着ベルトの温度ムラを解消でき、光沢ムラのない高画質の画像を形成できるとされている。
【0007】
特許文献4には、加熱ローラの内部加熱源と外部加熱源とを有する定着方法において、印刷開始から所定時間だけ該両加熱源を併用し、以後は内部加熱源のみの加熱に切り替える技術が開示されている。この方法により、印刷直後の加熱ローラ温度のアンダーシュートを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−253177号公報
【特許文献2】特開2004−198537号公報
【特許文献3】特開2006−308644号公報
【特許文献4】特開2008−262164号公報
【特許文献5】特開2002−119580号公報
【特許文献6】特開2001−282020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方式は、定着プロセスのスループットが高速化し加熱ローラの回転周期が短くなった場合においては、ウォーミングアップ時間の更なる短縮化対策、加熱ローラ回転の1周目と2周目以降とでの急激な温度低下に対する対応対策が望まれている。
【0010】
特許文献2の方式においてカーボンランプヒータへの連続的な電力制御を行うことで加熱ローラの安定した温度制御ができるとされている。しかし、定着プロセスのスループットが高速化した場合にはカーボンランプの電力制御に対する応答性がローラの温度変化に追随できなくなる。
【0011】
図16に特許文献5において開示されているカーボンランプヒータの立ち上がり特性を示す。これよりカーボンランプヒータの立ち上がりは少なくとも数秒は必要であることがわかる。また図17に、特許文献6において開示されているハロゲンランプヒータの立ち上がり特性を示す。このようにカーボンランプヒータより立ち上がり特性の良いハロゲンランプヒータであっても立ち上がりに1secは必要であることがわかる。
【0012】
こうしたランプヒータは特許文献1で用いられるようなセラミックヒータほど熱容量が大きくないためランプ自体のウォーミングアップタイムは短くてすむというメリットがある。しかしながら高速化、小型化の進む定着装置において加熱ローラの回転周期は一般的に1sec以下であり、従って電力制御によっては高速化の進む定着装置の加熱ローラ温度低下に対応できないという課題があった。
【0013】
特許文献3の方式においても特許文献2の場合と同様に、定着プロセスのスループットが高速化した場合には外部加熱源の応答が追いつかないため、対応できなくなるという課題があった。
【0014】
特許文献4の方式において、印刷開始直後のアンダーシュートは軽減されるが、印刷開始から所定時間以降は内部加熱源のみの加熱に切り替わるため、加熱ローラ内面は過剰に加熱されて部材の劣化を引き起こすことになる。加熱ローラの内部加熱を行う場合、ローラ部材の熱抵抗によりローラ内面から表面にかけて温度勾配が生じる。印刷速度が比較的低速なら該温度勾配は小さく問題とならないが、印刷が高速化するにつれ記録媒体へと与えるべき熱流速が増大し、それに伴いローラ内の該温度勾配もより大きなものとなる。
【0015】
つまり、印刷を高速化するためにはローラの内面を表面よりもはるかに高い温度まで持ち上げる必要が生じ、部材の耐熱性及び熱抵抗との兼ね合いから決まる限界速度以上には高速化できないという課題があった。
【0016】
本発明の目的は、外部加熱方式の像加熱装置における上記各問題点を解決し、立ち上がり時間が短く、画像加熱部材の安定した温度制御が可能でかつ安価な高速対応の像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係る像加熱装置の代表的な構成は、回転可能な加熱部材と、前記加熱部材とニップ部を形成するバックアップ部材と、前記加熱部材の外部に設けられ前記加熱部材の周方向の一部領域を被加熱部として輻射熱を照射して非接触で加熱する外部輻射加熱手段と、を有し、前記ニップ部で画像を担持した記録材を挟持搬送しつつ加熱する像加熱装置であって、前記外部輻射加熱手段は、輻射熱を発する輻射熱源と、前記輻射熱源から前記加熱部材へと照射される輻射熱量を調節する輻射熱量調節手段と、を有し、前記ニップ部よりも加熱部材回転方向下流側で前記被加熱部よりも加熱部材回転方向上流側での前記加熱部材の表面温度を検知する温度検知手段と、前記温度検知手段で検出した前記表面温度に基づき前記輻射熱量調節手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の像加熱装置によれば、電力の入力に対して温度変化の時間応答性の良くない輻射加熱源を用いた場合においても、加熱部材の急激な温度変化による加熱ムラを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図2の画像形成装置における定着装置部分の拡大模式図である。
【図2】画像形成装置の一例の概略の内部機構を示した縦断正面模式図である。
【図3】加熱ローラ表面の温度と与えるべき熱量の関係を示す図である。
【図4】定着装置の動作制御フローチャートである。
【図5】第1の実施形態におけるヒータユニットの概略断面図およびヒータ(ハロゲンランプヒータ)から発せられる輻射エネルギーの照度分布を示す図である。
【図6】図5における照度分布とそれに対応する積算分布を示す図である。
【図7】定着装置およびその周辺の機構を示す概略断面図である。
【図8】比較例を示す2次元熱伝導シミュレーション結果図である。
【図9】本発明者らが測定したハロゲンランプの立ち上がり、立下り特性実測結果である。
【図10】従来例を示す2次元熱伝導シミュレーション結果図である。
【図11】第1の実施形態の効果(本発明の効果)を示す2次元熱伝導シミュレーション結果図である。
【図12】第2の実施形態のヒータユニットを示す概略断面図である。
【図13】第3の実施形態のヒータユニットを示す概略断面図である。
【図14】(a)、(b)は第3の実施形態3における外部輻射加熱源と光反射部材の相対位置関係によって変化する輻射エネルギーの照度分布を示す図である。
【図15】(a)、(b)は第3の実施形態3各開口率の、外部輻射加熱源の位置と輻射熱量の関係を示す図である。
【図16】特許文献3に記載のカーボンランプヒータの立ち上がり特性を示す図(特許文献5)である。
【図17】特許文献4に記載のハロゲンランプヒータの立ち上がり特性を示す図(特許文献6)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
[第1の実施形態]
(1)画像形成装置例の全体的概略構成
図2は本発明に従う像加熱装置を画像加熱定着装置として搭載した画像形成装置の一例の概略の内部機構を示した縦断正面模式図である。この画像形成装置1は電子写真デジタル複写機である。2は画像形成部を収容している装置本体、3は装置本体2の上部に配設された画像読み取り部(イメージリーダー)である。
【0022】
画像読み取り部3において、プラテンガラス4上に原稿Oを画像面下向きで所定の載置基準に従って載置し、原稿圧着板5を被せる。原稿圧着板5を原稿自動送り装置(ADFやRDF)にして原稿Oをプラテンガラス4上に自動送りさせることもできる。
【0023】
操作盤(コントローラ部)6により所望の複写条件が設定された後、コピースタートキーが押されると、移動光学系7が移動動作して原稿面が光学走査される。移動光学系7はプラテンガラス4の下面に沿って所定の速度V,V/2で移動して原稿Oの画像面を照射する光源やミラー等を有する。これにより、原稿面の画像情報が結像レンズ8,撮像素子(CCD)9にて電気的画像信号として光電読み取りされる。
【0024】
光電読み取りの画像信号は画像形成信号を生成する画像処理部10に入力して処理が施されて装置本体2側の制御回路部(制御手段)11に入力する。制御回路部11は画像読み取り部3や操作盤6との間で各種の電気的情報の授受を行う。かつ、装置本体2の画像形成部の画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って統括的に制御する。従って、以下に説明する画像形成動作は制御回路部11によって制御される。操作盤6には使用者が所望の画像形成実行条件等を制御回路部11に入力したり、設定したりすることができる各種の操作キーや表示器等が配設されている。
【0025】
装置本体2内の画像形成部は、本実施形態においては、露光手段としてレーザスキャナ(レーザ走査露光装置)12を用いた電子写真プロセス機構である。13は像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、ドラムと記す)であり、矢印の反時計方向に所定の速度で回転駆動される。回転駆動されたドラム13はその周面が一次帯電器14により所定の極性・電位に一様に帯電される。その帯電処理面に対してスキャナ12による走査露光がなされる。
【0026】
スキャナ12は制御回路部11から画像形成信号の入力を受けてその入力信号に対応して変調したレーザ光Lを出力してドラム面を走査露光する。これにより、ドラム13面に画像読み取り部3で読み取り処理された原稿Oの画像情報に対応した静電潜像が形成される。その静電潜像が現像装置15によりトナー画像として現像される。そのトナー画像が、ドラム1と転写帯電器16との対向部である転写部17において、転写部17に給紙機構部18から給紙された記録材(記録媒体:以下、シートと記す)Sに対して転写される。シートSは複写機1によって画像が形成可能な紙や合成樹脂等のシート状物である。
【0027】
給紙機構部18は上下2段のシートカセット19,20を有する。また、装置本体2の左側面に配設された手差し給紙部(マルチ・パーパス・トレイ)21を有する。また、再搬送路(反転搬送路)22を有する。
【0028】
そして、予め指定されたカセット19又は20、或いは手差し給紙部21の給紙ローラ23が駆動されることで、カセット19又は20、或いは手差し給紙部21に積載されているシートSが1枚ずつ分離給送される。そのシートSが搬送路24を通ってレジストローラ対25に到達して斜行が矯正された後、ドラム13の回転に同期してレジストローラ対25により転写部17に搬送される。
【0029】
転写部17に搬送されたシートSは転写帯電器16による転写電界によりドラム13の面に密着すると共にドラム13側のトナー画像の静電転写を受ける。転写部17を通ったシートSは分離帯電器26の作用でドラム13の面から順次に分離されてベルト搬送装置29の回動するベルト29aの上に乗って定着装置30へ導入されてトナー画像の定着処理を受ける。定着装置30については次の(2)項で詳述する。また、シート分離後のドラム13面はクリーニング装置27により転写残トナーが除去されて清掃され、イレーサランプ28により除電露光を受けて繰り返して作像に供される。
【0030】
定着装置30を出たシートSは、指定モードが片面画像形成モードの場合には、進路がフラッパ31の動作によりフラッパ上面側の水平搬送路32側にされる。そして、排出ローラ対33に中継ぎされて排出口34から装置本体2の右側面に配設された排出トレイ35に排出される。
【0031】
また、指定モードが両面画像形成モードの場合には、定着装置30を出た第1面の画像形成済みのシートSは、進路がフラッパ31の動作によりフラッパ下面側の下降搬送路36側にされてスイッチバック搬送路37に導入される。搬送路37に導入されたシートSはスイッチバックされて、進路がフラッパ38の動作により再搬送路22側にされる。そして、シートSは再搬送路22を通って再び搬送路24に導入されることで表裏反転された状態で転写部17に対して再給送される。これによりシートSの第2面に対するトナー画像の転写がなされる。
【0032】
以後、シートSは片面画像形成モードの場合と同様にベルト搬送装置29により定着装置30に導入されることで第2面に対するトナー画像の定着処理を受け、両面画像形成物として搬送路32, 排出ローラ対33, 排出口34を通ってトレイ35に排出される。
【0033】
(2)定着装置30
図1は図2における定着装置30の部分の拡大図である。この定着装置30は回転可能な加熱部材(画像加熱回転体)としての加熱ローラ(定着ローラ)41を有する。また、加熱ローラ41とニップ部(定着ニップ部)Nを形成するバックアップ部材(対向部材:記録材Sを加熱部材41に押圧する部材)としての加圧ローラ42を有する。そして、加熱ローラ41の外部に設けられ、加熱ローラ41の周方向の一部領域を被加熱部Bとして輻射熱Aを照射して非接触で加熱する外部輻射加熱手段としてのヒータユニット43を有する。
【0034】
a)加熱ローラ41
本実施形態において、加熱ローラ41はローラ基体としての芯金41aの外周面に弾性層41bと離型層41cを順次に積層した外径51mmのローラである。本実施形態において、芯金41aはアルミ製の中空ローラ、弾性層41bは厚さ500μmのゴム層、離型層41cは厚さ25μmのPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)等のフッ素樹脂である。ゴム層41bには光吸収材としてカーボンブラックがまぜられており、ゴム層41bはユニット43から発せられる輻射エネルギーを吸収して昇温する。
【0035】
加熱ローラ41は定着装置30の装置枠体(装置フレーム)40の手前側と奥側の側板間に回転可能に軸受されて保持されている。加熱ローラ41は制御回路部11で制御される回転駆動手段としてのモータMの回転力が伝達されることで矢印の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0036】
b)加圧ローラ42
本実施形態において、加圧ローラ42はローラ基体としてのアルミ製の芯金42aの外周面に厚さ500μmの断熱発泡ゴム層42bが巻かれた構造の外径51mmのローラである。加圧ローラ42は加熱ローラ41の下側において該ローラ41に対して並行に配列されている。そして、制御回路部11で制御される当接離間手段44により加圧ローラ41の下面に対して所定の押圧力で圧接させた当接状態と加熱ローラ41から離れた離間状態とに状態転換可能にされている。
【0037】
当接離間手段44の具体例は図の煩雑を避けるために省略したけれども、例えば次のような構成にすることができる。加圧ローラ42を装置枠体40の手前側と奥側の側板間に回転可能に軸受保持させる。手前側と奥側の軸受はそれぞれ手前側と奥側の側板に対して上下方向にスライド移動可能に配設する。各軸受を付勢部材により上方に移動付勢することで加熱ローラ41の下面に対して所定の押圧力で圧接させた当接状態にする。また、各軸受を付勢部材の付勢力に抗してカム機構やソレノイド機構により下降動させることで加熱ローラ41から離れた離間状態に転換させる。
【0038】
ここで、加熱ローラ41に対する加圧ローラ42の離間状態には、加圧ローラ42の加熱ローラ41に対する圧接力が実質的に解除されて加圧ローラ42が加熱ローラ41に対して線接触的に接している状態も含むものとする。
【0039】
加熱ローラ41に対する加圧ローラ42の当接状態において、両ローラ41と42の間にはシートSの搬送方向aにおいて所定幅のニップ部(定着ニップ部)Nが形成される。そして、加熱ローラ41に対する加圧ローラ42の当接状態において、加熱ローラ41が回転駆動されることで、加圧ローラ42はニップ部Nにおける摩擦力で従動回転する。
【0040】
c)ヒータユニット43
ユニット43は、加熱ローラ41の上側、即ち加熱ローラ41を中にして加圧ローラ42とは180°反対側において、装置枠体40の手前側と奥側の側板間に定置配設されている。ユニット43は、輻射熱Aを発する輻射熱源45を有する。また、輻射熱源45が発する輻射熱Aを加熱ローラ41に向かわせる反射部材46を有する。また、制御回路部11で制御されて、輻射熱源45から加熱ローラ41へと照射される輻射熱量を調節する輻射熱量調節手段47を有する。
【0041】
本実施形態においては、輻射熱源45として素線径2mmのハロゲンランプヒータを用いている。ヒータ45は加熱ローラ41に対して並行に配列されており、加熱ローラ41の軸線に沿って長い。そして、装置30に通紙可能な最大幅サイズの記録材の幅に対応する加熱ローラ41の長さ領域に対して輻射熱を長さ方向において均一な照度分布で照射することができる有効発熱長さを有する。ヒータ45は制御回路部11で制御される電源部(外部輻射加熱源電力供給手段)Eから電力の供給がなされることで点灯して輻射熱Aを発する。
【0042】
本実施形態において反射部材46は、横断面において内面を放物面形状部とした、加熱ローラ41の軸線に沿って長い反射笠である。反射笠46の開口部46aは加熱ローラ41の上面に対向している。W46は開口部46aの短手方向(加熱ローラ41の母線方向に直交する方向)の開口部幅である。本実施形態においてその開口部幅W46は52.8mmである。放物面形状部の表面は放物面鏡として金メッキや研磨アルミ面のような高反射率部材で構成されている。ヒータ45はこの反射笠46の内部において中心を放物面鏡の焦点の位置にして配設されている。
【0043】
従って、ヒータ45から発して放物面鏡面で反射された輻射熱Aは平行光線となって開口部46aから出て加熱ローラ41の上面を照射する。これにより、加熱ローラ41のカーボンブラックが混ぜられているゴム層41bが輻射エネルギーを吸収して昇温する。即ち、加熱ローラ41の上面側が被加熱部Bとして非接触で外部加熱(表面加熱)される。
【0044】
本実施形態において輻射熱量調節手段47は、反射笠46の開口部46aの開口部面積(開口部幅)を開口部短手方向に広狭変更するためのスライド板型の可動の遮光部材(シャッター:以下、スライド板と記す)47aを有する構成となっている。本実施形態においては、スライド板47aは開口部46aの短手方向の一方側と他方側とにそれぞれ配設した2枚構成としてある。そして、その一方側と他方側のスライド板47aがそれぞれ開口部46aを閉じる方向と開く方向とに連動して対称な動作をするように連動機構(不図示)で連結されている。
【0045】
また、輻射熱量調節手段47は、その連動機構を動作させるための駆動手段(不図示)を有する。駆動手段は連動機構を介して開口部46aの開口部面積が2枚のスライド板47aの対称な開閉動作により所定に広狭変更されるように制御回路部11で制御される。
【0046】
輻射熱量調節手段47の上記の連動機構や駆動手段の具体例は図の煩雑を避けるために省略したけれども、例えば次のような構成にすることができる。2枚のスライド板47aの連動機構はリンク機構やラック−ピニオン機構で構成することができる。駆動手段はソレノイドやモータを用いることができる。ソレノイドのレスポンスタイムは1/60秒であり、本実施形態における加熱ローラ41の回転周期500msec(後述)よりも十分に短い時間で動作する。ソレノイドには多位置制御が可能なステップロータリーソレノイドがある。
【0047】
d)画像定着
回転する加熱ローラ41の表面がユニット43の輻射熱Aの照射を受けて所定の定着温度に加熱温調されている状態においてニップ部NにシートSが導入される。即ち、定着装置30に対して転写部17側から未定着のトナー画像tを担持したシートSが搬送装置28で搬送され、ガイド部材48にガイドされて加熱ローラ41と加圧ローラ42との圧接部であるニップ部Nに導入される。
【0048】
そして、シートSはニップ部Nにより挟持搬送されて加熱ローラ41の熱とニップ圧を受ける。これにより、未定着のトナー画像tがシートSに対して固着画像として熱圧定着される(シートSに熱エネルギーを付与する加熱工程)。ニップ部Nを出たシートSは加熱ローラ41の面から分離されて、定着出口ローラ対49に中継ぎされて定着装置30から出る。ローラ対49は加熱ローラ41の回転に連動して回転する。
【0049】
電源部Eからヒータ45への投入電力は、制御回路部11により予め設定されたプリントモードごとの所望値に設定される。普通紙モードやコート紙モードといった紙種の異なるプリントモードでは、紙の熱物性値が異なるために同じニップ時間であっても加熱ローラ41から紙へ移動する熱量は異なる。また、低光沢モードや高光沢モードのようなモードでは、一般的に加熱ローラ41の送り速度を変えることでニップ時間を調節し、画像の光沢性を調節する。
【0050】
従って、こういったモード違いによっても加熱ローラ41から紙側へと移動する熱量が異なる。このようにプリントモードによって加熱ローラ41から紙側へと移動する熱量が異なるため、それぞれのモードにおいて必要な電力値に設定する。
【0051】
加熱ローラ41の外側には加熱ローラ41の表面温度を検知する温度検知手段としての温度センサTHが配設されている。この温度センサTHは、ニップ部Nよりも加熱部材回転方向下流側で、ユニット43による加熱ローラ41の被加熱部Bよりも加熱部材回転方向上流側での加熱ローラ41の表面温度を非接触式または接触式で検知(モニター)する。
【0052】
温度センサTHによりモニターされた温度情報(温度に関する電気的情報)は制御回路部11に入力する。制御回路部11はその入力情報を元に予め設定された供給熱量テーブルを斟酌して輻射熱量調節手段47の動作が決定される。
【0053】
即ち、制御回路部11は温度センサTHで検出した加熱ローラ41の表面温度に基づき輻射熱量調節手段47を制御して加熱ローラ41の表面温度を所定の温度に温調する。本実施形態においては、制御回路部11は温度センサTHで検出した加熱ローラ41の表面温度に基づき輻射熱量調節手段47のスライド板47aを動作させて反射笠開口部46aの開口部面積を変更する。これによってヒータ45から加熱ローラ41へと照射される輻射熱量を調節することで加熱ローラ41の表面温度を所定の温度に温調する。
【0054】
テーブル化すべき温度と熱量の関係を図3に示す。これらの関係はトナーや紙(シートS)、加熱ローラ41の熱物性や構成、加熱ローラ表面温度の測定位置などにより異なるので、定着装置30の各種の仕様において事前に求めテーブル化しておく。
【0055】
(3)定着装置の動作制御
図1と図4により定着装置30の動作制御を説明する。複写機1は操作盤6のメイン電源スイッチがOFFのときは運転休止状態である。定着装置30に関しては、モータMはOFF、ヒータ45に対する電源EもOFFである。加圧ローラ42は離間状態に保持されている。
【0056】
1)メイン電源スイッチが投入(ON)されると複写機1は運転開始となる。制御回路部11はメインモータ(不図示)を起動させてドラム13を駆動させた状態にして電源投入時に複写機1に行う所定のウォーミングアップ動作(前多回転動作)を開始する。制御回路部11はその動作の実行を終了したらメインモータを止めて待機モードに移行し、プリントモードスタート信号の入力待ちをする。
【0057】
2)制御回路部11は上記のウォーミングアップ動作において定着装置30については次のような動作制御をする。スライド板47aが十分に開き動作して反射笠開口部46aの開口率が100%(開口部−全開状態)となるように輻射熱量調節手段47を制御する(ステップS101)。
【0058】
3)モータMを起動して加熱ローラ41を回転駆動させると共に電源EをONにしてヒータ45を点灯させる(S102)。これにより、加熱ローラ41の表面が開口率100%の反射笠開口部46aから出光する輻射熱Aにより非接触で外部加熱される。即ち、加熱ローラ41のウォーミングアップが開始される。このとき、加圧ローラ42は加熱ローラ42に対して離間状態に保持されている。
【0059】
4)上記の加熱ローラ41のウォーミングアップ開始と同時に温度センサTHにて加熱ローラ41の温度が測定され、その温度情報が制御回路部11に入力する。制御回路部11は加熱ローラ41の表面温度が所定の定着開始温度T1になったかを判断する(S103)。温度がT1になっていない場合は加熱ローラ41のウォーミングアップを続行する。
【0060】
5)温度T1に達した場合は、待機モード(S104)へと移行する。この待機モードにおいて、定着装置30においては、モータMのONが維持されて加熱ローラ41の回転は継続されると共に、ヒータ45には加熱ローラ41の温度が定着開始温度T1に維持できるだけの電力が電源Eから投入される。つまり、加熱ローラ41が定着開始温度T1の状態での放熱熱量とつりあうだけの電力が投入される。この状態において、制御回路部11はプリントモードスタート信号の入力待ちをする。
【0061】
6)使用者が操作盤6により所望のプリントモードを選択し、その他の所要の複写条件を設定してプリントモードスタートキーが押されると、制御回路部11は、メインモータを起動させてドラム13を駆動させ、プリントモードをスタートさせる(S105)。プリントモードの選択は、前記のように、プリントを行う紙種や定着画像の所望の光沢度の選択などである。
【0062】
7)制御回路部11は、プリントモードの実行に先立って、或いは画像形成部における画像形成動作に並行して、定着装置30については次ぎのような動作制御をする。
【0063】
ヒータ45に対する投入電力に関して、選択されたプリントモードに応じ予めモードごとに設定された電力を決定する(S106)。次いで、その決定された電力投入時に、S104の待機モード時と同様に放熱量とつりあうだけの輻射熱量が加熱ローラ41に与えられる開口率P0を計算する(S107)。
【0064】
加熱ローラ41は回転している。電源Eからヒータ54に対してS106で決定した電力を投入する(S108)。また、反射笠開口部46aの開口率がS107で計算した開口率P0となるように輻射熱量調節手段47を制御してスライド板47aを動作させる(S109)。この場合、図17に示すようにハロゲンランプヒータ45からの輻射熱量は徐々に立ち上がる。よってヒータ45に電力を投入して立ち上げる際には、放熱とつりあう一定の輻射熱量が得られるようヒータ45の立ち上がり特性に合わせて、開口率を徐々に変化させる。
【0065】
8)その後、S108のヒータ45の点灯から所定の立ち上げ時間t1が経過したかを判断する(ステップS110)。所定時間t1は図17で示すようなヒータ45の立ち上がり特性で決まり、ヒータ45の出力が十分に立ち上がる数秒は時間を置くことが適当である。時間t1が経過して開口率がP0になっていれば、プリントモードをスタートさせ、当接離間手段44を制御して離間状態の加圧ローラ42を加熱ローラ21に対して所定に圧接させた当接状態に転換する(S111)。この状態において定着装置30のニップ部Nへの通紙が開始される(ステップS112)。
【0066】
9)プリント開始時点では輻射熱量調節手段47による反射笠開口部46aの開口率は依然としてP0である。温度センサTHにより加熱ローラ41の表面温度がモニターされ(ステップS112)、該温度が通紙開始温度T1以下になると輻射タイミングt2と開口率Pが計算決定される(ステップS113)。輻射タイミングt2は温度センサTHにより検出される加熱ローラ41の表面部位が加熱ローラ41の回転によりヒータ45による被加熱部Bに移動するまでの時間に相当する。
【0067】
また開口率Pは該検出された加熱ローラ41の温度を用いて図3に示す関係に従って決定される。温度検出からの経過時間が測定され(ステップ114)、該経過時間が輻射タイミングt2経過すると反射笠開口部46aの開口率が、前ステップにて決定されたPに設定される(ステップ115)。
【0068】
10)制御回路部11は以上S112〜S115のステップを、設定された所定枚数分のプリントモードが終了するまで繰り返す(ステップ116)。
【0069】
11)制御回路部11はプリントモードが終了すると、制御回路部11は当接離間手段44を制御して加圧ローラ42を当接状態から離間状態に切り換える(ステップS117)。そして、メイン電源スイッチがOFFでなければ、スライド板47aが十分に開き動作して反射笠開口部46aの開口率が100%(開口部−全開状態)となるように輻射熱量調節手段47を制御する(S119)。そして、ステップS103に移行して次のプリントスタートが信号なされるまでステップS104の状態に保持される。
【0070】
12)また、ステップS118でメイン電源スイッチがOFFであれば、モータMをOFFし、ヒータ45をOFFする(S120)。またメインモータもOFFとする。この状態において、複写機1は運転を終了して休止状態になる。
【0071】
これにより、加熱ローラ41の温度低下部分を的確に加熱することができるので、加熱ローラ41の温度ムラをなくし均一な定着性を確保することができる。
【0072】
ここで、ウォーミングアップ中および待機中でのローラ41の回転に伴う電力を削減するのであれば、ウォーミングアップ中および待機中でのローラ41の回転速度を画像形成動作時(通紙時)よりも適当に遅く設定することで対応することが可能である。
【0073】
(4)輻射熱量調節手段47の動作による輻射エネルギーの調節方法
図5は本実施形態におけるヒータユニット43について開口率100%(開口部−全開状態)における反射笠開口部46aの開口部幅W46に沿う光線追跡シミュレーションから求めた照度分布を示す図である。
【0074】
本実施形態において、反射部材46は、前述したように、ヒータ45の輻射エネルギーを加熱ローラ41へと向かわせるように横断面において内面を放物面形状部とした反射笠である。放物面形状部の表面は放物面鏡として金メッキや研磨アルミ面のような高反射率部材46bで構成されている。ヒータ45の中心は反射笠46の放物面形状部の焦点に一致している。反射笠開口部46aの開口部幅(最大開口部幅)W46は52.8mmである。
【0075】
輻射熱量調節手段47は、反射笠46の開口部46aの開口部面積(開口部幅)を開口部短手方向に広狭変更するための可動のスライド板47aを有する構成となっている。本実施形態においては、スライド板47aは開口部46aの短手方向の一方側と他方側とにそれぞれ配設した2枚構成としてある。そして、その一方側と他方側のスライド板47aがそれぞれ開口部46aを閉じる方向と開く方向とに連動して対称な動作をするように連動機構で連結されている。
【0076】
輻射熱量調節手段47は、その連動機構を動作させるための駆動手段を有する。駆動手段は連動機構を介して開口部46aの開口部面積が一方側と他方側のスライド板47aの対称な開閉動作により所定に広狭変更されるように制御回路部11で制御される。スライド板47aは片面が光吸収加工の施されたアルミ板であり、光吸収加工面(輻射エネルギー吸収面)47bがヒータ22に対向している。光吸収加工面47bは輻射エネルギーを吸収する。
【0077】
こうしてスライド板47aの移動により開口部46aの面積を調節することで、加熱ローラ41へ照射エネルギー量を制御する。スライド板47aは開口部46aの側に進入した状態において進入した部分の内面の光吸収加工面47bが受け取った輻射エネルギーにより発熱する。即ちスライド板47aが発熱するので、基板としてはアルミ板のような耐熱性のあるものが好ましい。さらには発熱した熱を放熱するような機構を設けても良い。
【0078】
図6は図5に示す照度分布の第一象現(図6のア)と、その積算分布を反射笠開口部46aの開口率として(図6のイ)表したものである。図中系列アは縦軸左−横軸下に、系列イは縦軸右−横軸上に対応する。
【0079】
この積算分布に従いスライド板47aの座標を動かして反射笠開口部面積を変更することで加熱ローラ41へ照射される輻射エネルギー量を調節することができる。たとえば開口率35%になるようスライド板47aの座標を設定すれば照射エネルギーの50%を加熱ローラ41へと与えることができることになる。
【0080】
本実施形態においては反射部材46としての反射笠の内面が横断面放物面形状をしているが楕円集光形状でもその他の形状でもかまわない。光線追跡シミュレーションやまたはカロリーメータなどを用いて照度分布を実測し開口率と照射エネルギー量の関係を求めておけば、反射部材46がどのような形状でも同様な制御が行える。
【0081】
(5)定着装置の温調制御
本実施形態において、加熱ローラ41の周速は320mm/secであり、平均ニップ圧は4kgf/cm2、ニップ部幅は8mmとなっている。加熱ローラ41はヒータユニット43にて表面温調温度(T1)が190℃に加熱、維持される。
【0082】
通紙が開始されると、加熱ローラ41の未定着画像tを担持した記録材Sに触れたローラ部分の温度が低下する。加熱ローラ41から記録材Sへ移動した熱量は前述の加熱ローラ41の表面温度低下分に対応している。そこで、制御回路部11は、温度センサTHによる加熱ローラ41の表面温度情報から加熱ローラ41へ与えるべきエネルギー量を決定し、その情報を元に輻射熱量調節手段47のスライド板47aの動作を制御する。即ち、反射笠開口部面積を制御する。
【0083】
これにより通紙時に加熱ローラ41の2周目以降においても加熱ローラ41の表面温度は適温に調節され、1周目と同様な良好な定着状態を実現することができる。
【0084】
本発明の効果を2次元熱伝導シミュレーションを用いて示す。図7は2次元熱伝導シミュレーションを行った系について示す模式図である。シミュレーションは図7に示すように定着装置断面を2次元でモデル化して行っており、加熱ローラ41の回転に伴う温度の時間変化をシミュレートすることができる。
【0085】
図8はヒータ45によりウォーミングアップが終了し、通紙が開始されてからの加熱ローラ41の表面の温度分布の時間変化を示すものであり、本発明で解決する課題を明確に示すための比較例である。図7におけるローラ構成、周速、温度は上述と同じである。図8の横軸は加熱ローラ41の中心からの回転角θ[deg.]であり、ローラ回転方向を正に、θ=0の基準をニップ開始部に取っている。図8中の破線はt=0msecでの温度をウォーミングアップ直後の基準温度としてプロットしている。
【0086】
図8に示すように、通紙が始まるとニップ部Nにて記録材Sと接触した加熱ローラ41の表面温度は低下し、ローラ41の周方向に温度ムラが生じる。本発明はこの温度ムラをヒータ45からのエネルギー供給により解消し、ローラ回転2周目以降においても1周目と同様な所望の定着状態を維持するものである。
【0087】
ローラ回転2周目以降においても安定、良好な定着性を維持するためには、ニップ部Nで失った加熱ローラ41の熱エネルギーを効率よくかつ適切な量供給する必要がある。供給するエネルギー量が過剰であればホットオフセットの原因となり、逆に過少であれば画像の光沢不足やコールドオフセットの原因となる。外部加熱方式はローラ表面に直接エネルギーを供給できるためローラ周方向の温度ムラに迅速に対応できる利点がある。
【0088】
しかし、その反面、回転するローラ表面上の温度ムラがヒータ45の位置に到達するタイミングとエネルギー供給のタイミングとがずれると、エネルギー供給量が過剰または過少となり、上記と同様の問題が生じる。従って、ヒータユニット43には、供給エネルギー量を適切かつ迅速に調節する能力が求められる。
【0089】
図9はハロゲンランプヒータ45のタングステン素線温度を放射温度計でモニターし、その立ち上がり、立下り特性を測定した結果である。図17と同様にランプからの照射出力が立ち上がるのに1sec(立ち上がり時間)かかっており、さらに立下りには10sec以上の時間を要する。つまり、本実施形態のようにローラ41の回転周期がヒータ45の立ち上がり時間1sec以下である場合においては、ヒータ45の通電制御によるローラ表面の温度調節は不可能である。
【0090】
仮に通紙タイミングを予想して通紙1sec前にヒータ45の加熱を開始したとしても、加熱する必要のないローラ表面を加熱することになり、ホットオフセットの原因になってしまう。また、記録材Sにカット紙を用いる場合においても、加熱ローラ41が記録材Sと接したときと加圧ローラと42接したときとで加熱ローラ41の温度低下幅は異なるため加熱ローラ41に温度ムラが生じ、上述と同様な問題が発生する。
【0091】
つまり、紙間時間がヒータ45の立ち上がり時間以下の高速定着機の場合、この温度ムラに対応するにはヒータユニット43には紙間時間以下での立ち上がり、立下り性能が必要となる。これもヒータ45の通電制御によって対応することは到底不可能である。
【0092】
図10は図7の構成においてヒータ45の照射エネルギー制御を投入電力制御で行ったときの、加熱ローラ表面温度の時間変化を示すシミュレーション結果図であり、本発明の効果を明示するための従来例である。
【0093】
ヒータ45はθ=180deg.に位置している。制御回路部11は時間分解能25msecの温度センサTHにてθ=90deg.のローラ表面温度をモニターしている。そして、制御回路部11は、温度センサTHでの検知温度とテーブルを元に、最大供給エネルギー量を電源部(外部加熱源電力供給手段)Eで制御し、加熱ローラ41の温度ムラに対応する供給エネルギー量を制御する。
【0094】
エネルギーの供給タイミングは、ヒータユニット43の設置位置と加熱ローラ41の周速から照射の時間遅れを算出し、温度センサTHの信号をトリガーにして制御回路部11が輻射熱量調節手段47を制御する。
【0095】
本実施形態ではローラ41の回転周期が500msecなので、温度センサTHで温度を検出した125msec後に所望のエネルギー量を供給する。t=0secまでの待機時には放熱との釣り合いを取るためヒータ45からの供給は200Wであった。一方、通紙により温度低下したローラ表面温度から割り出したローラ41へ供給すべき熱量は720Wであった。
【0096】
本比較例では輻射エネルギー制御をヒータ45への投入電力制御で行っている。つまり温度センサTHで温度を検知した125msec後にヒータ45に720Wの電力を投入することになる。図9にて示したようにヒータ45は電力を印加してから立ち上がるまでに1sec程度の時間を要するため、加熱ローラ41を必要なだけ加熱することができない。これにより加熱ローラ2回転目は1回転目より温度ができてしまし、この温度ムラが画像の光沢ムラを引き起こす。
【0097】
一方、本発明を用いることで上記の問題は解決される。図11は図1の構成における加熱ローラ表面温度の時間変化を示すシミュレーション結果図である。ここでは前述の比較例とは異なり、ヒータユニット43からの供給エネルギー量制御はスライド板47aの開閉で行っている。
【0098】
本実施形態においてのヒータ45への投入電力は800Wであった。よって待機時にはスライド板47aによる反射笠開口部46aの開口率を28%に調節することで、200Wの輻射熱量を与える。そして通紙が開始されると開口率を81%へ広げることにより輻射熱量を200Wから720Wへと変化させ、ローラ41の温度制御を行った(図6参照)。
【0099】
このように本発明を用いることで加熱ローラ41に生じた温度ムラは適切に解消され、1回転目で低下した加熱ローラ41の温度も、所望の定着温度である初期状態(図10中破線)まで回復することができた。輻射熱量調節手段47の機械的動作にて輻射エネルギー量を調節するので、電力の入力に対して温度変化の時間応答性の良くない輻射加熱源45を用いた場合においても、加熱ローラ41の急激な温度変化による加熱ムラを防止することができる。
【0100】
また、本実施形態では外部輻射加熱手段としてのヒータユニット43のヒータ45のみにより加熱ローラ温度を維持する構成であったが、別法として、ヒータユニット43のヒータ45と加熱ローラ内の内部加熱源(不図示)を併用して行うこともできる。その場合、待機モード時は内部加熱源から加熱ローラに200Wを与え温度を維持し、通紙によって温度低下した部分にはヒータユニット43から520W供給することで同様の効果を得ることができる。
【0101】
以上のように本発明を用いることにより、加熱ローラ41への適切かつ迅速な供給エネルギー量の制御が可能となる。従ってローラ回転2周目以降に生じる温度低下に適切に対応でき、良好かつ安定した定着状態を維持することができた。
【0102】
[第2の実施形態]
図12は輻射熱量調節手段47の他の構成形態例を示すものである。第1の実施形態の装置30と共通する構成部材、部分には同じ符号を付して再度の説明を省略する。
【0103】
本実施形態における外部輻射加熱手段としてのヒータユニット43は、輻射熱源であるハロゲンランプヒータ45が発する輻射熱Aを加熱ローラ41へと向かわせる反射部材として次のような構成の反射部材46を有する。即ち、加熱ローラ41に対向する第1の開口部46aと加熱ローラ41に対向しない第2の開口部46cとを備えた反射部材46を有する。反射部材46の内面はて金メッキや研磨アルミ面のような高反射率部材46bで構成されている。
【0104】
第1の開口部46aの開口部幅W46は所定幅に設定されており、常に開放されている。第2の開口部46cは本実施形態においてはヒータ45を中にして第1の開口部46aの側とは反対側に配設されている。輻射熱量調節手段47は第2の開口部46cについてその開口部面積を加熱ローラ41の母線方向に直交する方向に関して広狭変更する可動のスライド板47aを有する。スライド板47aのヒータ45に対向する部分(遮光部材内面)は金メッキや研磨アルミ面のような光反射部材47cで構成されている。
【0105】
本実施形態においてこの輻射熱量調節手段47は反射部材46の第2の開口部46cについて第1の実施形態の場合と同様に開口部面積(開口部幅)を開口部短手方向に広狭変更するためのスライド板47aを有する構成となっている。スライド板47aは開口部46cの短手方向の一方側と他方側とにそれぞれ配設した2枚構成としてある。その一方側と他方側のスライド板47aがそれぞれ第2の開口部46cを閉じる方向と開く方向とに連動して対称な動作をするように連動機構で連結されている。
【0106】
そして、その連動機構を動作させるための駆動手段を有する。駆動手段は連動機構を介して第2の開口部46cの開口部面積がスライド板47aの対称な開閉動作により所定に広狭変更されるように制御回路部11で制御される。
【0107】
反射部材46の内面は高反射率部材で構成しているので、ヒータ45から発せられた輻射エネルギーは反射部材46の中を反射して第1の開口部46aおよび第2の開口部46cから出て行く。第1の開口部46aから出た輻射エネルギーは加熱ローラ41の上面(被加熱部B)に当ることで加熱ローラ41を外部加熱する。第2の開口部46cから出た輻射エネルギーは第2の開口部46cに対向して配設されている光吸収性の熱浴50に当って吸収される。
【0108】
そして、制御回路部11により輻射熱量調節手段47が制御されてスライド板47aの動作で第2の開口部46cの開口部面積が広狭調節されることで、第1の開口部46aから加熱ローラ41に照射される輻射エネルギー量が調節される。即ち、図12の(a)のように第2の開口部46cの開口部面積が広く調節されることで第1の開口部46aから加熱ローラ41に照射される輻射エネルギー量が少なくなる。また、(b)のように第2の開口部46cの開口部面積が狭く調節されることで第1の開口部46aから加熱ローラ41に照射される輻射エネルギー量が多くなる。
【0109】
つまりこれにより、第1の実施形態の定着装置30と同様な照射エネルギーが可能となり、通紙時に加熱ローラ41の2周目以降においても加熱ローラ41の表面温度は適温に調節され、1周目と同様な良好な定着状態を実現することができた。
【0110】
反射部材46の第2の開口部46b、即ち加熱ローラ41に対向しない第2の開口部46bは1つでなく、それぞれ加熱ローラ41に対向しない複数の開口部とした構成にすることもできる。
【0111】
[第3の実施形態]
図13は輻射熱量調節手段47の更に他の構成形態例を示すものである。第1の実施形態の装置29と共通する構成部材、部分には同じ符号を付して再度の説明を省略する。
【0112】
本実施形態における外部輻射加熱手段としてのヒータユニット43は、輻射熱源45が発する輻射熱Aを加熱ローラ41へと向かわせる反射部材46を有する。反射部材46の反射面の一部は光吸収部材46dで構成されている。そして、外部輻射加熱手段47は、輻射熱源45と反射部材46との相対位置関係を変更することによって輻射熱源45から加熱ローラ41へと照射される輻射熱量を調節する。
【0113】
本実施形態における反射部材46は短軸長a=27mm、長軸長b=32.5mm、焦点距離f=(b2−a20.5≒18.1mmの楕円集光形状をなしている。また、この反射部材46は楕円中心から距離Lの位置に加熱ローラ41に対抗対してする開口部46aを持ち、この開口部46aは光吸収部材46dで幅Wに設定されている。本実施形態ではL=fとなっている。また輻射熱源45はハロゲンランプヒータであり、素線径は2mmである。
【0114】
ヒータ45は支持部材(不図示)に支持されている。反射部材46も別の支持部材(不図示)に支持されている。そのヒータ支持部材または反射部材支持部材、もしくはその両方の支持部材は定着装置30の装置枠体40の手前側と奥側の側板に対して可動式支持部材としてある。輻射熱量調節手段47は、その可動式支持部材を動作させるための駆動手段(不図示)を有する。駆動手段はヒータ45と反射部材46との相対位置関係を変更することによってヒータ45から加熱ローラ41へと照射される輻射熱量を調節するように制御回路部11で制御される。
【0115】
輻射熱量調節手段47の上記の可動式支持部材や駆動手段の具体例は図の煩雑を避けるために省略したけれども、例えば次のような構成にすることができる。可動式支持部材はリンク機構やラック−ピニオン機構で構成することができる。駆動手段はソレノイドやモータを用いることができる。ソレノイドのレスポンスタイムは1/60秒であり、本実施形態における加熱ローラ41の回転周期500msecよりも十分に短い時間で動作する。ソレノイドには多位置制御が可能なステップロータリーソレノイドがある。
【0116】
図14の(a)は開口部幅W≧24.1mm(最大開口部幅)において、位置固定の反射部材46に対してヒータ45の位置を図中y軸方向に動かした場合(図13の(b)α=+0〜5mm)の光線追跡シミュレーションの結果である。ヒータ45が焦点位置からずれるに従って照度分布も変化する。続いて図14の(b)は横軸を開口率(最大開口部幅に対する開口部幅Wの割合)としたときの積算照度分布である。
【0117】
以上より、開口部幅Wと反射部材46に対するヒータ45の位置との関係による、加熱ローラ41への輻射エネルギー量を求めることができる。図15に開口部幅Wを24.1mm以下にした場合の、各開口率におけるヒータ22の位置と照射エネルギー量(ランプからの総照射エネルギー量に対する加熱ローラ41への照射エネルギー量の割合)との関係を示す。これらの関係を利用することで照射エネルギー量の調節が可能となる。
【0118】
つまり、光吸収性部材46dにより最大開口部幅以下の開口部Wを形成しておけば、ヒータ45の位置を調節することによって加熱ローラ41へ照射される輻射加熱量を調節することができる。さらに、ヒータ45の位置調節は機械的に行うので、ヒータ45の立ち上がり時間(1sec)よりも短い時間分解能で輻射加熱量を調節することができる。よって第1の実施形態、および第2の実施形態で示したものと同様の効果を得ることができる。
【0119】
また、ここで重要なのはヒータ45の位置と反射部材46との位置関係であるため、相対的に反射部材46の位置を変更する構成にしても同様の効果を得ることができる。
【0120】
さらにまた、開口部46aを第1の実施形態で示したようなスライド板式機構にして、本実施形態と組み合わせてもよい。
【0121】
さらにまた開口部46aを光吸収部材46dで構成しなくとも、反射部材46の反射面の一部が光吸収部材で構成されているか、加熱ローラ41以外の方向に向く別の開口が形成されている構成でも良い。これらによってもヒータ45の位置を変更した際に輻射エネルギー量もそれに応じて変化するので同様の効果を得ることができる。
【0122】
そしてまた、加熱ローラ41の表面位置が楕円ミラーの焦点位置に重ならないような範囲で輻射エネルギー量を調節できるよう、楕円ミラーの形状を適切に選ぶとなお良い。ローラ表面を焦点位置からずらすことで、ローラ41の局部的な過昇温による部材の熱的ダメージを低減することができる。
【0123】
[その他の装置構成]
1)本発明に係る像加熱装置は、実施形態の画像加熱定着装置30としての使用に限られない。記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢を増大させる光沢増大装置(画像改質装置)としても有効に使用することができる。
【0124】
2)回転可能な加熱部材41は実施形態のローラ体に限られない。回動可能なエンドレスベルト体の形態であってもよい。
【0125】
3)加熱部材とニップ部を形成するバックアップ部材は実施形態のローラ体に限られない。回転駆動されるエンドレスベルト体にすることもできる。また、バックアップ部材は、板状あるいはパッド状であって、加熱部材に対する対向面を低摩擦材料面とした非回転の部材(固定式加圧部材)とすることもできる。そして、このバックアップ部材を加熱部材に対して当接状態と離間状態とに転換する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0126】
29・・像加熱装置、11・・制御手段、41・・加熱部材、N・・ニップ部、42・・バックアップ部材、43・・外部輻射加熱手段、45・・輻射熱源、47・・輻射熱量調節手段、TH・・温度検知手段、A・・輻射熱、B・・被加熱部、S・・記録材、t・・画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な加熱部材と、前記加熱部材とニップ部を形成するバックアップ部材と、前記加熱部材の外部に設けられ前記加熱部材の周方向の一部領域を被加熱部として輻射熱を照射して非接触で加熱する外部輻射加熱手段と、を有し、前記ニップ部で画像を担持した記録材を挟持搬送しつつ加熱する像加熱装置であって、
前記外部輻射加熱手段は、輻射熱を発する輻射熱源と、前記輻射熱源から前記加熱部材へと照射される輻射熱量を調節する輻射熱量調節手段と、を有し、
前記ニップ部よりも加熱部材回転方向下流側で前記被加熱部よりも加熱部材回転方向上流側での前記加熱部材の表面温度を検知する温度検知手段と、
前記温度検知手段で検出した前記表面温度に基づき前記輻射熱量調節手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記外部輻射加熱手段は、前記輻射熱源が発する輻射熱を前記加熱部材へと向かわせる反射部材を有し、
前記輻射熱量調節手段は、前記反射部材の前記加熱部材に対向する開口部の開口部面積を前記加熱部材の母線方向に直交する方向に関して広狭変更する可動の遮光部材を有し、
前記遮光部材は前記輻射熱源に対向する部分が光吸収部材で構成されており、
前記制御手段は前記温度検知手段で検出した前記表面温度に基づき前記遮光部材を動作させて前記開口部面積を変更することによって前記輻射熱源から前記加熱部材へと照射される輻射熱量を調節することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記外部輻射加熱手段は、前記輻射熱源が発する輻射熱を前記加熱部材へと向かわせる反射部材であって、前記加熱部材に対向する第1の開口部と前記加熱部材に対向しない第2の開口部とを備えた反射部材を有し、
前記輻射熱量調節手段は、前記第2の開口部の開口部面積を前記加熱部材の母線方向に直交する方向に関して広狭変更する可動の遮光部材を有し、
前記遮光部材は前記輻射熱源に対向する部分が光反射部材で構成されており、
前記制御手段は前記温度検知手段で検出した前記表面温度に基づき前記遮光部材を動作させて前記開口部面積を変更することによって前記第1の開口部から前記加熱部材へと照射される輻射熱量を調節することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記外部輻射加熱手段は、前記輻射熱源が発する輻射熱を前記加熱部材へと向かわせる反射部材を有し、
前記反射部材の反射面の一部は光吸収部材で構成されており、
前記外部輻射加熱手段は、前記輻射熱源と前記反射部材との相対位置関係を変更することによって前記輻射熱源から前記加熱部材へと照射される輻射熱量を調節することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−226141(P2012−226141A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94025(P2011−94025)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】