説明

充填材用水硬性組成物

【課題】混練後1時間程度でも高い流動性を有し、且つ、優れた水中不分離性をも有し、しかも充填後2時間程度の短時間で所定の強度を発現することが可能な充填材用水硬性組成物を提供する。
【解決手段】カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント、水、1種以上のカチオン性界面活性剤〔化合物(A)〕、及び、1種以上のアニオン性芳香族化合物〔化合物(B)〕を含有する充填材用水硬性組成物であって、前記化合物(A)の水溶液と前記化合物(B)の水溶液が特定の粘度挙動を示す充填材用水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性粉体として超速硬性セメントを主成分とした充填材用の水硬性組成物に関し、高流動性と優れた水中不分離性を有すると共に、充填後の流動性消失時間を制御でき、且つ初期強度発現にも優れる充填材用水硬性組成物とその充填工法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築用に使用される充填材の要求性能としては、(1)充填部位に隙間が発生しないようにするための所定作業時間内における高流動性の確保、(2)充填後、極力短時間での強度発現、(3)充填箇所に水が存在する場合、材料が希釈されない等が挙げられる。特に、鉄道、道路、空港などのコンクリート構造物の補修工事における空隙充填用として充填材を使用する場合、交通の遮断から開放までの時間を極めて短くすることが必要である。また、上述の工事現場に河川や海が隣接する場合には、施工箇所に水が存在する場合が多くあり、水中不分離性も必要となる。
【0003】
このようなセメントモルタルなどに高流動性を付与する方法としてセメント分散剤の使用が挙げられる。逆に流動性を速やかに低下させ、高い早期強度を得る方法としては、セメントの初期の水和を早めて水和生成物を形成、凝結・硬化を促進させたりする物質を添加する方法がある。後者の場合、多くは無機電解質であり、CaCl2、Na2CO3、K2SO4、Al(OH)3、NaAlO2、アルミン酸カルシウム・ナトリウム類、か焼ミョウバン石、水ガラス(コンクリート総覧:技術書院出版、1988年発行)などがある。特許文献1等には、急結剤としてカルシウムアルミネートやアルカリアルミン酸塩、硫酸アルミニウムなどを使用した材料を使用した施工方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの化合物は、添加と共に水和反応が急激に進むため、長時間の流動性を確保することが難しい。また、アルカリを多量に含む強アルカリ性であるため工事作業者の人体、特に目や皮膚、呼吸器への悪影響が指摘されているほか、強アルカリによる周囲の環境への汚染の危険性、塩素による腐食や長期強度の確保が難しい物質もある。
【0005】
一方、アルカリや塩素を含まない有機系の混和剤として、特許文献2には、セメント、多価アルコール及びイソシアネートを含有する急結材が提案されているが、多価アルコールとイソシアネートによる反応物では十分な水中分離抵抗性性を付与する事はできず、またイソシアネートには強い毒性があるため、水の存在する施工箇所には十分な管理が必要とされる。
【0006】
一方、特許文献3には、特定2種の水溶性低分子化合物を使用することで、高い水中不分離性を発現させることが提案されている。また、特許文献4には、短期の強度発現に優れるセメント組成物が提案されている。
【特許文献1】特開平11−302057号公報
【特許文献2】特開平9−53013号公報
【特許文献3】特開2003−313536号公報
【特許文献4】特開2005−289722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、混練後1時間程度でも細部流入を確実にする高い流動性を有し、且つ、優れた水中不分離性をも有し、しかも充填後2時間程度の短時間で所定の強度を発現することが可能な充填材用水硬性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント、水、1種以上のカチオン性界面活性剤〔以下、化合物(A)という〕、及び、1種以上のアニオン性芳香族化合物〔以下、化合物(B)という〕を含有する充填材用水硬性組成物であって、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせである充填材用水硬性組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント、水、1種以上のカチオン性界面活性剤〔以下、化合物(A)という〕、及び、1種以上のアニオン性芳香族化合物〔以下、化合物(B)という〕を含有する充填材用水硬性組成物を用いた充填工法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
充填材用水硬性組成物が、化合物(A)及び化合物(B)のいずれかの一方と、水と、超速硬性セメントとを混合した後、得られた混合物を施工現場に搬送し、充填前に化合物(A)及び化合物(B)の他方を混合して得られる組成物であり、且つ最初に水と超速硬性セメントとを混合してから前記組成物の充填作業直前まで前記混合物及び/又は前記組成物の攪拌を継続し、
前記組成物を施工部分に充填する、充填工法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の充填材用水硬性組成物は、充填の際に細部流入を確実にする高い流動性及び優れた水中不分離性を有し、しかも短時間で所定の強度を発現するため、鉄道、道路、空港などのコンクリート構造物の補修工事や地盤中の空隙部における空隙充填用として、さらには使用箇所に水が存在する場合にも有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の充填材用水硬性組成物に用いられる超速硬性セメントは、カルシウムアルミネート類を必須成分とする。
【0012】
カルシウムアルミネート類としては、C11A7・CaX2、C3A、CA、C2AS、C3A3・CaSO4、C12A7、C6AF2、C4AF〔式中、CはCaOを表す。AはAl2O3を表す。SはSiO2を表す。(但し、CaSO4のSは硫黄原子を示す。)FはFe2O3を表す。Xはハロゲン元素を表す。〕及び非晶質カルシウムアルミネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分とするカルシウムアルミネート類が好ましい。
【0013】
このようなカルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメントとしては、好ましくは、11CaO・7Al23・CaX2(但し、Xはハロゲン元素を表す)を主成分とするものであり、かかる成分を主成分とする超速硬性セメントを用いることで、下記化合物(A)と化合物(B)、更に高性能減水剤との配合において、上記本発明の効果を更に良好に発現できるものとなる。前記成分以外の好ましい成分としては、3CaO・SiO2、2CaO・SiO2、4CaO・Al23・Fe23、CaSO4等の成分及び非晶質カルシウムアルミネートが挙げられる。
【0014】
また、かかる超速硬性セメントは、そのSO3/Al23(モル比)が好ましくは1.0〜1.3、より好ましくは1.0〜1.2である。これはSO3/Al23(モル比)が前記範囲内であると、低温での初期強度発現性、特に混練後2時間程度後の強度発現性に優れることとなるからである。
【0015】
本発明の充填材用水硬性組成物は、カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(以下、化合物(A)という)とアニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(以下、化合物(B)という)を含有する。
【0016】
本発明では、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせは、化合物(A)の粘度100mPa・s以下の水溶液SAと化合物(B)の粘度100mPa・s以下の水溶液SBとを50/50の重量比で混合した混合水溶液の粘度を、高次構造体を形成することにより混合前のいずれの水溶液の粘度よりも少なくとも2倍高くすることができる化合物の組み合わせである。より好ましくは少なくとも5倍、更に好ましくは少なくとも10倍、更により好ましくは少なくとも100倍、特に好ましくは少なくとも500倍高くすることができるものを用いる。ここで、粘度は、20℃の条件でB型粘度計(No.3ローター、1.5r/minから12r/min)で測定されたものをいう。この場合、前記の粘度挙動は、1.5r/minから12r/minの回転数の何れかで発現されればよい。更に、本発明に係る化合物(A)と化合物(B)を、水と水硬性粉体と混合するときの操作性の観点から、混合前の化合物(A)の水溶液と、化合物(B)の水溶液のそれぞれの20℃における粘度が、それぞれ好ましくは50mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下で、両液を混合したときに同様の増粘効果を発現することが望ましい。
【0017】
化合物(A)としては、4級塩型カチオン性界面活性剤が好ましい。4級塩型のカチオン性界面活性剤としては、分子構造中に、10から26個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を、少なくとも1つ有しているものが好ましい。例えば、アルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ピリジニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)イミダゾリニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、タロートリメチルアンモニウムクロライド、タロートリメチルアンモニウムブロマイド、水素化タロートリメチルアンモニウムクロライド、水素化タロートリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルプロピルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。水溶性と増粘効果の観点から、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド等が好ましい。また、増粘効果の温度安定性の観点から、化合物(A)として、上記のアルキル基の炭素数の異なるカチオン性界面活性剤を2種類以上併用することが好ましい。
【0018】
特に、塩害による鉄筋の腐食やコンクリート劣化を防止する観点から、塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0019】
塩素等のハロゲンを含まない4級塩として、アンモニウム塩やイミダゾリニウム塩等が挙げられ、具体的にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、タロートリメチルアンモニウムメトサルフェート、タロージメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、等が挙げられる。水溶性と増粘効果の観点から、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート及びオクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等が好ましい。塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩は、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、炭酸ジメチルで3級アミンを4級化することで得ることができる。
【0020】
化合物(B)として、芳香環を有するカルボン酸及びその塩、芳香環を有するホスホン酸及びその塩、芳香環を有するスルホン酸及びその塩が挙げられ、具体的には、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、p−フェノールスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸等であり、これらは塩を形成していていも良く、これらを2種以上併用してもよい。ただし、重合体である場合は、重量平均分子量(例えば、ゲルーパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキシド換算)500未満であることが好ましい。増粘効果の観点から、p−トルエンスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、スチレンスルホン酸及びそれらの塩が好ましい。
【0021】
本発明の水硬性組成物においては、化合物(A)の有効分と化合物(B)の重量比(有効分)は、目的とする増粘の程度や充填材の流動性に応じて適宜決めればよいが、得られる粘度と高次構造体の形状の観点から、化合物(A)/化合物(B)=80/20〜2/98、好ましくは70/30〜2/98、より好ましくは50/50〜5/95が適している。化合物(A)と化合物(B)の会合体を十分な大きさに形成させ所定の粘弾性を得る観点から化合物(A)が重量比で80以下で好ましい。また、当該会合体の安定性を良好にし適度な流動性が得られ材料分離を起さない観点から化合物(B)の重量比で98以下が好ましい。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、化合物(A)と化合物(B)の合計の含有量(有効分)が水100重量部に対して0.01〜20重量部、更に0.1〜15重量部、特に0.3〜10重量部の範囲であることが、水中不分離性等の材料分離を抑制する点で好ましい。
【0023】
本発明に係る化合物(A)と化合物(B)とを併用することで特徴的なスラリーレオロジー特性が得られるのは、以下の理由によると考えられる。化合物(A)と化合物(B)とを混合した時に、水相中に短時間で会合体を形成し、効率的に粘性を付与できると考えられる。そして会合体のレオロジー特性は高い粘弾性を有していることが挙げられる。この特徴により、本発明の未だ固まらない充填材の表面は粘弾性の高い会合体により覆われていると考えられるため、本充填材が流動性を消失し、硬化するまでの間、セメント粒子の飛散を抑制する効果のために優れた水中不分離性を発現すると考えられる。しかしながら、普通セメントに化合物(A)と化合物(B)との組み合わせると流動性を有する水硬性組成物となるため、限定注入をする目的でタイミング良く流動性を消失させることが困難である。
【0024】
本発明の充填材用水硬性組成物は、更に、凝結調整剤を含有することが好ましい。凝結調整剤は、有機酸系(例えば、住友大阪セメント(株)製:ジェットセッター)が好適である。超速硬性セメント100重量部に対する凝結調整剤の添加量は0〜2重量部である。なお、超速硬性セメントの凝結調整を行うにあたり凝結調整剤を添加しない場合もある。また、本凝結調整剤は水溶液として添加する事も出来る。
【0025】
超速硬性セメントは水と混合すると数十秒で硬化する。そこで更に凝結調整剤を併用して混合攪拌すると流動性のある水硬性組成物が得られるが、この水硬性組成物は攪拌を終了すると硬化を開始し可使時間後は急激に流動性が低下する。また、凝結調整剤は添加量に対する硬化発現が敏感であるので、厳密な添加量の調整が要求される。
【0026】
超速硬性セメント、凝結調整剤、化合物(A)及び化合物(B)とを併用することにより、流動性の制御と水中不分離性の両立により容易に限定注入が可能となり、短期強度発現を達成する水硬性組成物を得ることができた。これは、超速硬性セメントが、化合物(A)と化合物(B)による会合体により覆われるため水中不分離性を発現すると共に凝結調整剤により硬化発現を緩和し、しかも該会合体と凝結調整剤の効果と相まって超速硬性セメントの凝集速度を低下させて流動性を発現するが、該会合体は超速硬性セメントの硬化反応を阻害しないため短期強度が得られると考えられる。
【0027】
本発明の充填材用水硬性組成物は、更に、分散剤を含有しても良い。分散剤は、減水剤としてリグニンスルホン酸塩及びその誘導体、オキシカルボン酸塩、高性能減水剤及び高性能AE減水剤として、ナフタレン系(花王(株)製:マイテイ150)、メラミン系(花王(株)製:マイテイ150V−2)、ポリカルボン酸系(花王(株)製:マイテイ3000、NMB社製:レオビルドSP、日本触媒社製:アクアロックFC600、アクアロックFC900)等が挙げられる。その中でも、高性能減水剤、特に、ポリカルボン酸系高性能減水剤が水硬性組成物の流動性と粘性を両立出来るという意味で、好適である。また、超速硬性セメント100重量部に対する高性能減水剤の添加量は、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは、0.05〜3重量部、特に好ましくは0.1〜1重量部である。
【0028】
本発明の充填材用水硬性組成物は、更に、消泡剤を含有することができる。消泡剤としては、シリコーン系消泡剤(例えば、旭電化工業株式会社製 アデカネートB−211F)を例示できる。かかる消泡剤は、エントラップトエアを除去し、強度低下を防ぐ機能を有する。消泡剤を含有する場合は、超速硬性セメント重量部に対して0.001〜0.5重量部、更に0.03〜0.2重量部の含有量であることが消泡剤の効果、経済的な観点から好ましい。
【0029】
本発明の充填材用水硬性組成物は、さらに、高性能減水剤及び消泡剤のいずれか一方または両方を含有することが好ましい。
【0030】
本発明の充填材用水硬性組成物は、フィラーも併用することができ、例えば炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。
【0031】
また、本発明の充填材用水硬性組成物は細骨材を含有することもできる。細骨材としては、特に限定されるものではないが、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、軽量細骨材(人工及び天然)、再生細骨材、珪砂6〜7号等の比較的粒径の細かい細骨材を使用できる。特に珪砂を主成分とするものであって、その他に石灰岩や安山岩などの砕砂、高炉スラグ砕砂、フェロニッケルスラグ砕砂などを含むものは、本発明の充填材用水硬性組成物の流動性向上効果及び2時間の短期強度発現性の両方に優れる効果を、より有効に発現できることとなり、好適に用いることができる。これらの細骨材の含有量は、通常、充填材用水硬性組成物中、35〜80重量%であることが好ましく、40〜65重量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の充填材用水硬性組成物には、公知の無機系急結剤(材)や瞬結剤(材)を使用することができる。急結剤としては、無機塩系のものとして、炭酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム類、カルシウムサルホアルミネート、か焼ミョウバン石等の急結剤が挙げられる。
【0033】
また必要に応じて、本発明においては、収縮低減剤、高分子エマルジョン等の公知の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0034】
本発明の充填材用水硬性組成物は、既設コンクリート構造物の補修や地盤中の空隙部の充填に使用され、鉄道、道路、空港などの交通インフラに加え、橋脚・橋梁・橋台の補修、河川・貯水池の補修工事、水封トンネルの補修工事に使用される。また、土木分野に使用する場合は、地盤の崩落防止や掘削後の地山や岩盤を安定にする水硬性組成物として使用できる。
【0035】
本発明の充填材用水硬性組成物は、上記超速硬性セメント、化合物(A)及び化合物(B)、凝結調整剤、必要に応じて添加されるポリカルボン酸系高性能減水剤及び/又は消泡剤、細骨材、その他の添加剤(材)をそれぞれ所定量混合して調製することができる。この混合の条件、混合機の種類などに限定はなく、それぞれの材料を施工時に混合して用いてもよいし、予め、その一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存の任意の装置が使用可能であり、例えば、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、ナウタミキサ、傾動ミキサ等のセメント用ミキサ、ハンドミキサ、ポットミルなどの慣用の混合機を用いることができる。
【0036】
上記混練する際に使用される混練水量は、使用する材料の種類や配合により変化させることができるため、一義的に決定されるものではないが、通常、水/超速硬性セメント比(重量比)で20〜200%が好ましく、特に30〜160%が好ましい。かかる範囲で水を配合することにより、十分な作業性と十分な強度発現性が得られることとなる。
【0037】
このように、本発明の充填材用水硬性組成物は、水と混練して硬化させるとき極めて良好な流動性と水中不分離性を示し、しかも短期強度の発現が極めて迅速に行うことができる。またその充填2時間の短期強度発現性はコンクリートの圧縮試験方法(JIS A 1108−1999)により測定された値により表すと、基準値0.3N/mm2以上の値を有することが好ましい。
【0038】
本発明の充填材用水硬性組成物は、上記効果を有するため、鉄道、道路、空港などのコンクリート構造物の補修工事や交通の遮断から開放までの時間を極めて短くすることが可能となり、また、上述の施工箇所や地盤中の空隙部に水が存在する場合でも水中不分離性を有していることから材料の希釈が起こらずに、有効である。
【0039】
なお、本発明の充填材用水硬性組成物において、超速硬性セメント、水、凝結調整剤、化合物(A)、化合物(B)の合計含有量は、組成物中、60重量%以上、更に80重量%以上、特に95重量%以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の充填材用水硬性組成物を使用する充填工法としては、ミキサー等で化合物(A)及び化合物(B)のいずれかの一方を含む水、超速硬性セメント、凝結調整剤、更に必要に応じて高性能減水剤及び/又は消泡剤を混合した後、得られた混合物を、例えばアジテーター車で施工現場に搬送し、例えば定置式アジテーターに移し攪拌を継続する。充填作業開始前に化合物(A)及び化合物(B)の他方を混合し充填材用水硬性組成物を製造し、そのまま充填作業直前まで、例えば定置式アジテーター中で攪拌を続け、施工部分に充填する充填工法が挙げられる。最初に水と超速硬性セメント混合後から充填直前まで、前記混合物及び/又は前記組成物の攪拌を継続することで、水和反応物の生成による流動性の低下を抑制できる。
【0041】
本発明の充填材用水硬性組成物を使用する充填工法として、化合物(A)及び化合物(B)のいずれかの一方と、水、超速硬性セメント、凝結調整剤、更に必要に応じて高性能減水剤及び/又は消泡剤等を混合して得られた混合物を、該混合物の調製場所とは異なる場所に移動させ、充填前に化合物(A)及び化合物(B)の他方を前記混合物に混合して得た充填材用水硬性組成物を、対象箇所に充填する充填工法も挙げられる。
【実施例】
【0042】
表1に示した配合条件で、超速硬性セメント〔フィルコンPSS、住友大阪セメント株式会社製(主成分:11CaO・7Al23・CaX2(但し、Xはハロゲン元素を表す))〕、水道水(20℃)、消泡剤〔アデカネートB―211F、旭電化工業株式会社製〕及び凝結調整剤〔ジェットセッター、住友大阪セメント株式会社製〕を攪拌翼付ミキサー(ナショナルハンドミキサーMK−H3、松下電器産業株式会社製)で速度段階1に設定し、1分間攪拌した後、高性能減水剤〔マイテイ3000S、花王株式会社製〕、化合物(B)を添加し、上述のミキサーで2分間攪拌した。得られた混合物を250rpmのメカニカルミキサーで60分間攪拌した。この混合物に化合物(A)を添加し、さらに60分間攪拌した後、攪拌を停止した直後のサンプル(充填材となる水硬性組成物)の流動性、水中不分離性を測定した。また、攪拌停止2時間後の圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。なお、化合物(A)、化合物(B)は表2に示すものを、表3の組み合わせ及び添加量で用いた。また、表4に、実施例で用いた化合物(A)及び化合物(B)の組み合わせに関して、化合物(A)及び化合物(B)の水溶液の20℃における粘度と、それらを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度を示した。
【0043】
・流動性試験
直径50mm×高さ51mmの塩ビ管を使用し、調製した充填材を塩ビ菅に充填した後、垂直に引き上げ、広がった充填材の直径を測定した。
【0044】
・水中不分離性試験:
調製した充填材を10g計り取り、水道水400mlが入った500mlビーカーに静かに沈降させる。充填材が水中に舞い上がった状態を目視(肉眼)により観察し、下記の基準で評価を行った。
○:水相が透明であり、沈降した空隙充填材の全体が確認できる。
△:水相が濁るが、ビーカーの底で沈降した空隙充填材の一部が見える。
×:水相が濁り、ビーカーの底が見えない。
【0045】
・圧縮強度試験:
攪拌を停止した直後の充填材をプラスティックモールド(直径50mm×高さ100mm)に充填し、充填2時間後の充填材の強度をJIS A 1108−1999により測定した(目標値は、充填2時間後で、0.3N/mm2以上)。
【0046】
【表1】

【0047】
W/Cは、水/超速硬性セメントの重量百分率(重量%)である。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント、水、1種以上のカチオン性界面活性剤〔以下、化合物(A)という〕、及び、1種以上のアニオン性芳香族化合物〔以下、化合物(B)という〕を含有する充填材用水硬性組成物であって、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせである充填材用水硬性組成物。
【請求項2】
前記超速硬性セメントの必須成分であるカルシウムアルミネート類はC11A7・CaX2、C3A、CA、C2AS、C3A3・CaSO4、C12A7、C6AF2、C4AF〔式中、CはCaOを表す。AはAl2O3を表す。SはSiO2を表す。(但し、CaSO4のSは硫黄原子を示す。)FはFe2O3を表す。Xはハロゲン元素を表す。〕及び非晶質カルシウムアルミネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分とする請求項1記載の充填用水硬性組成物。
【請求項3】
化合物(A)と化合物(B)の重量比が、(A)/(B)=80/20〜2/98である請求項1又は2記載の充填材用水硬性組成物。
【請求項4】
さらに、凝結調整剤を含有する請求項1〜3いずれか記載の充填材用水硬性組成物。
【請求項5】
さらに、高性能減水剤及び消泡剤のいずれか一方または両方を含有する請求項1〜4いずれか記載の充填材用水硬性組成物。
【請求項6】
充填2時間後の充填材の強度が0.3N/mm2以上となる請求項1〜5いずれか記載の充填材用水硬性組成物。
【請求項7】
既設コンクリート構造物の補修材又は地盤中の空隙部への充填材として用いられる請求項1〜6いずれか記載の充填材用水硬性組成物。
【請求項8】
カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント、水、1種以上のカチオン性界面活性剤〔以下、化合物(A)という〕、及び、1種以上のアニオン性芳香族化合物〔以下、化合物(B)という〕を含有する充填材用水硬性組成物を用いた充填工法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
充填材用水硬性組成物が、化合物(A)及び化合物(B)のいずれかの一方と、水と、超速硬性セメントとを混合した後、得られた混合物を施工現場に搬送し、充填前に化合物(A)及び化合物(B)の他方を混合して得られる組成物であり、且つ最初に水と前記超速硬性セメントとを混合してから前記組成物の充填作業直前まで前記混合物及び/又は前記組成物の攪拌を継続し、
前記組成物を施工部分に充填する、充填工法。

【公開番号】特開2008−273775(P2008−273775A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118495(P2007−118495)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】