説明

充填物

【課題】
本発明は、環境負荷が少なく人体に対する安全性が高く、化学系染料や抗菌剤を用いることなく、汎用性、耐久性、制菌性に優れ、かつ保温性に優れた充填物を提供する。
【解決手段】
布帛を縫合した袋状物の中に充填材料を詰めた充填物において、前記充填材料のうち少なくとも50重量%が羽毛で構成され、かつ、充填物中に、粒径が0.001〜1.0μmの多孔質物質を含むプラスイオン化物質とワイン抽出物とを1〜10重量%の範囲内で含有してなることを特徴とする充填物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学染料や抗菌剤を使用することなく、優れた制菌性や汎用性、耐久性を有し、かつ保温性を向上させた上に、環境負荷が少なく人体に対して安全性が高い充填物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、羽毛や綿わたといった天然素材や合繊中綿などの主として保温性向上を目的とした充填材料は、衣服や寝具といった生活用品として幅広く使用されている。また、これら充填材料を包む布帛には、一般に充填材料の漏れ出しを防ぐためコーティング加工やシレ加工といった防風防水遮断性を向上した、すなわち通気量を著しく低く抑えた布帛が用いられることが多い。しかしながら遮断性を高めたが故に、製品使用中に僅かに浸み込む汗や残留皮脂などが効率的に発散できず、特定の温湿度と相まることで、充填材料内において雑菌や黴の繁殖を促し、時には特有の嫌な臭いを発生するなど充填材料自体の品質低下を招くという欠点があった。
【0003】
そのため、従来から充填材料に抗菌性や消臭性を付与する試みがなされており、特に近年は、環境問題への配慮から天然由来成分による抗菌性や消臭性の付与が切望されている。例えば、特開2001-123376号公報には、動物性材料をカテキンなどで処理した防臭マスキング効果が開示されており、特開2001−131865号公報には、繊維製品をカチオン化処理した後、赤ワインブドウ液抽出物溶液加工し、金属化合物系媒染剤で処理する抗菌繊維製品の製造方法が提案されている。
【0004】
また、保温性向上手段としては、特開平1−132886号公報には、繊維製品に石英はん岩の粉末を水溶性アクリル樹脂液に混合分散・熱水注入し、これに植物性エキスを添加混合して後処理を行う染色方法が示されている。この方法は、石英はん岩の遠赤外線放射作用を利用して繊維品類の保温性を付与し、更にニンニクや唐辛子といった植物性エキスを併用して保温機能などを高めたものである。
【特許文献1】特開2001-123376号公報
【特許文献2】特開2001−131865号公報
【特許文献3】特開2001−132886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のうち、特開2001-123376号公報では、抗菌性や消臭性、耐久性に難があり、製品の実際使用や洗濯液中において、カチオン剤が他の夾雑成分をも結合吸着することで抗菌などの効果効能が経時変化が起きやすいという問題を有していた。特に充填材料が抜けずに洗浄液が出入りし易い通気量10cc/cm2/sec以上の布帛を用いた生活用品は著しい効能劣化に至るなどの問題点があった。
【0006】
また、特開2001−131865号公報では、単に通常の衣料における抗菌効果を目的とした技術が記載されているのみであり、保温性に乏しいものであった。
【0007】
また、特開平1−132886号公報においては、金属化合物媒染剤や化学系染料を用いるため、環境への影響を無視できないこと、更にその使用により工程も長くなりコスト高となるなどの問題点があった。
【0008】
本発明は、このような背景下において、金属化合物媒染剤や化学系染料を用いることなく、環境的に有利な条件において抗菌性能を付与することができ、しかも実使用における耐久性や適正コストを有し、かつ保温性が向上された充填物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、布帛を縫合した袋状物の中に充填材料を詰めた充填物において、前記充填材料のうち少なくとも50重量%が羽毛で構成され、かつ、充填物中に、粒径が0.001〜1.0μmの多孔質物質を含むプラスイオン化物質とワイン抽出物とを1〜10重量%の範囲内で含有してなることを特徴とする充填物を見出すにいたった。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、化学染料や抗菌剤を使用することなく、優れた制菌性や汎用性、耐久性を有し、かつ保温性を向上させた上に、環境負荷が少なく人体に対して安全性が高い充填物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の布帛を縫合した袋状物の中に充填材料を詰めた充填物としては、衣類、帽子、手袋、履物、インテリア用品あるいは寝具等が挙げられ、具体的には、ダウンジャケット、靴下、羽毛入り布団、クッションあるいは寝袋など、洗濯回数が少なくかつ使用期間が長い生活用品があげられる。
【0013】
充填材料の材質は、主に羽毛単独と羽毛と合繊繊維もしくは合繊綿との混合である。特に羽毛については、ダウンとフェザーを混合したものが一般的に使用されている。ここでいうダウンとは、カモ、アヒル、ガチョウなど、水鳥の胸部分に生えている非常に柔らかい羽のことで、中央から柔らかい糸状の羽が放射線状に伸びた球形状をしているものである。よって、非常に柔らかく、細い羽が互いに絡み合い、多くの空気層を構成するために、フェザーに比べて嵩高で、保温性にも優れている。フェザーとは水鳥の体を覆う羽のことで、羽軸があり、細い毛が木の枝のように生えている。ちょうど木の葉のような形状をしており、ダウンに比べると硬く嵩高性も劣る。ダウンの方が風合い、嵩高性に優れているために一般的にはダウンの混合比率が大きい方が良いとされている。しかし、ダウンの方がフェザーに比べて高価なため、風合い、嵩高性などを考慮しながら混合比率が決められる。本発明においては、充填材料のうち少なくとも50%が羽毛であり、好ましくは70%以上であり、羽毛100%は更に好適である。
【0014】
本発明の充填材料には、前記羽毛や合成繊維の表面、また袋状物を構成する布帛の表面に、粒径が0.001〜1.0μmの多孔質物質を含むプラスイオン化物質とワイン抽出物が、その合計の含有割合として、充填物対比1〜10重量%となる範囲において、付着されている。
【0015】
本発明におけるプラスイオン化物質は、粒径が0.001〜1.0μmの多孔質物質を含むもので、カルボキシ基などのアミノ酸を基としたカチオン剤や、第4級アンモニウム塩などタンパクの基となるキト酸やセリシンなどを可水溶性にする物質や、珪素や貝などの鉱物質微粉末が好適であり、これらを単体で若しくは併用して用いることができる。
【0016】
プラスイオン化物質は、ワイン抽出物の電荷数との差が3以上に、好適には電荷数の差が5以上となるようプラスイオン化することにより、ワイン抽出物を吸着させる。
【0017】
なお、微粒子の大きさは小さい程効果的であり、0.001〜0.3μm程度がより好適である。また、これは粒子の大きなアクリル樹脂やウレタン樹脂などを糊として天然染料や化学染料を繊維材料に吸着させるものとは本質的に異なるものである。微粒子のプラスイオン化物質にてワイン抽出物を吸着することで、充填材料表皮に薄くソフトに固定した状態を実現でき、その結果、ワイン抽出物の吸収した色相反射が生まれ、より自然な色彩表現が実現される。
【0018】
このプラスイオン化物質を被染色材料に吸着させる具体的な工程を説明する。
被染色繊維材料が鳥類などのケラチンを成分とする羽毛単独の場合には、プラスイオン化物質を1.0μm以下の大きさとし、水溶液PHを7以上11未満とし、ワイン抽出物を10〜50重量%加え温度80℃以上で30分以上保持浸漬し、適時水洗・脱水・乾燥する。
【0019】
また、袋状物を構成する布帛に合成繊維を単独で使用した場合には、プラスイオン化物質を1.0μm以下の大きさとし、水溶液のPHを11以上とし、ワイン抽出物を10〜50重量%加え、温度80℃以上で30分以上保持浸漬し、適時水洗・脱水・乾燥する。
【0020】
なお、アルカリ条件下で充填材料や布帛を活性化した場合は、ワイン抽出物を付着させた後に酢酸、クエン酸、酒石酸などで中和処理をすることが望ましい。
【0021】
染色機の種類は限定される物でなく、オーバーマイヤー式、パドル式、ウォッシャー式染色機など、温度、容量、生産効率などに応じて適時選択したらよい。
【0022】
袋状物の材料は、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維、綿や絹、羊毛などの天然繊維、あるいは化学繊維と天然繊維の混紡・交織・交編品など任意であり、必要に応じて、染色、プリント、コーティング、ラミネート、シレ加工、撥水加工などを行なう。これらの中では、通気量をコントロールするコーティング、ラミネート、シレ加工を適宜行い、袋状物を構成する布帛の通気量が0.5cc/cm2/sec以上、10cc/cm2/sec未満であることが好ましい。0.5cc/cm2/sec未満であれば実着用等で潰れた充填材料層が膨らみづらく保温性の低下が懸念される一方、10cc/cm2/secを越えると、断熱効果の高い空気層の換気が度々行われることで保温性が低下すると共に、汗や雑菌に加え洗浄液浸入を伴い易いため、抗菌性能の性能低下を起こしやすい。これらを鑑みると布帛の通気量は1.0cc/cm2/sec以上、5.0cc/cm2/sec未満であれば、保温性や抗菌性に加え、強度や製造コスト面からも好適である。通気量の測定は、JIS−L−1096、A法に基づき測定した。
【0023】
以上の加工により、ファンデルワールス力で吸着した多孔質微細粉の外面に付いたプラスイオン化物質はケラチンなどの充填材料表皮のアニオンに連鎖し、より強固に物質周囲に吸着するため、その堅牢性を高めるとともに、天然抗菌成分による雑菌の繁殖を抑制し、かつ、ダウンの放射線状に伸びた球形状の羽の絡まりが更に柔らかくなることから空気の含有量を増大し、保温性の向上を実現することもできる。
【0024】
本発明の充填物は、衣類、帽子、手袋、履物、インテリア用品、寝具等として好適に用いられる。
【0025】
以下に本発明の幾つかの実施例について説明する。
【実施例】
【0026】
実施例1
羽毛8kgに付着している、埃、土や肉片などを、界面活性剤を用い水洗した。羽毛80%(ダウン90:フェザー10)、ポリエステル綿20%からなる充填材料10kgを用意した。
【0027】
次いで、充填材料対比2重量%の浸透剤(CIO−AX:シオンテック社)と、0.02μmのカリウム微細粉3重量%を混合したプラスイオン化物質(PEシオール:シオンテック社)とを、水160Lに対して、20重量%投入した。
【0028】
ここに、上記で用意した充填材料10kgを投入し、約5分間浸漬した後、5分程撹拌した。その後、溶液がPH8.5程度になるべくソーダ灰水溶液などでPH調整後、80℃まで昇温させ約40分保温し、ブローおよび水洗した。
【0029】
その後、ワイン抽出物(市販飲用赤ワイン:CASASOLA社)30重量%を投入し、80℃まで昇温させ約40分保持後にブローし、水洗および脱水処理を行い、乾燥機にて乾燥した。
【0030】
結果、ワイン抽出物等の吸着量は5.1重量%であり、表面にはピンク系の染色がなされた。
【0031】
充填材料を確認したところ、羽毛の損傷もなく、かつ、JIS L 1902抗菌試験においても、洗濯前後のいずれにおいても黄色ブドウ状球菌に対する静菌活性値が2.2を超え、優れた抗菌性を有していた。
【0032】
通気量0.8cc/cm2/secのナイロン100%平織物(22cm角)の袋状布帛に約2.5gの上記充填材料を封入縫合した座布団をカトーテック社:KES−F7にて測定した結果、保温性3.72と優れていた。
実施例2
実施例1において、ワイン抽出物の投入量を10重量%に変更した以外は、同様にして座布団を得た。
【0033】
座布団のワイン抽出物等の吸着量は1.1重量%で、表面には淡いピンク系の染色がなされた。
【0034】
充填材料を確認したところ、羽毛の損傷もなく、かつ、JIS L 1902抗菌試験においても、洗濯前後のいずれにおいても黄色ブドウ状球菌に対する静菌活性値が2.2を超え、優れた抗菌性を有していた。実施例1と同様にして保温性を測定した結果、3.21と保温性素材として好適な結果を得た。
実施例3
実施例1において、充填材料を、羽毛100%(ダウン90:フェザー10)とした以外は、度浦有にして座布団を得た。
【0035】
座布団のワイン抽出物等の吸着量は1.4重量%で、表面には淡いピンク系の染色がなされた。
【0036】
充填材料を確認したところ、羽毛の損傷もなく、JIS L 1902抗菌試験においても、洗濯前後のいずれにおいても黄色ブドウ状球菌に対する静菌活性値が2.2を超える抗菌性を有し、実施例1と同様にして保温性を測定した結果、3.33と優位な結果を得た。
実施例4
実施例3において、ナイロン100%の平織物に代えて、通気量0.1cc/cm2/sec以下のナイロンコーティング布帛を用いて、座布団を得た。
【0037】
座布団の保温性を測定した結果、3.22と好適であった。
実施例5
実施例3において、ナイロン100%の平織物に代えて、15cc/cm2/secのポリエステル100%ツイル織物を用いて、座布団を得た。
【0038】
座布団の保温性を測定した結果、3.06と好適であった。
比較例1
実施例3において、プラスイオン化物質とワイン抽出物による染色加工を行わない以外は、実施例3と同様にして座布団を得た。
【0039】
充填材料を確認したところ、羽毛の損傷もなく、嵩高性は実施例2と同等であるが、JIS L 1902抗菌試験では、洗濯前後のいずれにおいても黄色ブドウ状球菌に対する静菌活性値が1.9以下であった。座布団の保温性を測定した結果、2.90であった。
比較例2
実施例1において、充填材料を、羽毛40%(ダウン90:フェザー10)ポリエステル綿60%からなるものにした以外は、実施例1と同様にして、座布団を得た。
【0040】
座布団のワイン抽出物等の吸着量は0.7重量%で、表面はほぼ無色であった。
【0041】
充填材料を確認したところ、羽毛の損傷はなく、嵩高性は実施例1より劣り、JIS L 1902抗菌試験では、洗濯前後のいずれにおいても黄色ブドウ状球菌に対する静菌活性値が1.7以下であった。座布団の保温性は2.56にとどまった。
【0042】
実施例および比較例について、表1に示した。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛を縫合した袋状物の中に充填材料を詰めた充填物において、前記充填材料のうち少なくとも50重量%が羽毛で構成され、かつ、充填物中に、粒径が0.001〜1.0μmの多孔質物質を含むプラスイオン化物質とワイン抽出物とを1〜10重量%の範囲内で含有してなることを特徴とする充填物。
【請求項2】
前記袋状物を構成する布帛の通気量が0.5cc/cm2/sec以上、10cc/cm2/sec未満であることを特徴とする請求項1に記載の充填物。
【請求項3】
前記プラスイオン化物質とワイン抽出物とが、前記袋状物を構成する布帛に付着してなることを特徴とする請求項1または2に記載の充填物。
【請求項4】
前記プラスイオン化物質が、アミノ酸を基としたカチオン剤、第4級アンモニウム塩および鉱物質微粉末から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の充填物。
【請求項5】
前記充填物が、衣類、帽子、手袋、履物、インテリア用品および寝具から選ばれるものである請求項1〜4のいずれかに記載の充填物。

【公開番号】特開2008−115510(P2008−115510A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302521(P2006−302521)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】