説明

光エンコーダ

【課題】本発明は、高分解能を備えると同時に、光学要素のアライメントが容易な光エンコーダを提供することを目的とする。さらに、本発明は、新規な光学要素を含むことによって従来の光エンコーダにおいて必須であった波長板や偏光板などの追加の構成を必要としないコンパクトな光エンコーダを提供することを目的とする。
【解決手段】測定対象に形成されたスケールの格子周期よりも、分岐した2つの回折光を合波する側の回折格子の格子周期を大きくすることによって、2つの回折光の集光角度を小さくする。このように構成することによって、合波する側の回折格子を設置する光軸方向の位置の許容範囲が大きくなり、アライメントが格段に容易になる。また、このように構成しても、光エンコーダの高精度な分解能を維持しうることを実証した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に測定対象の移動量を測定する光エンコーダに関し、より詳細には、光学系の設計において自由度が大きく、光学要素の位置あわせが容易な光エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回折格子が形成されたスケールを用いて測定対象の移動量をμm以下のオーダーで高精度に測定する格子干渉型変位測定装置としての光エンコーダが実用化されている。一般に、光エンコーダにおいては、回折格子が形成されたスケールに対し、同一波長の2つのコヒーレント光を等しい入射角で入射させたのち、それぞれの回折光を合波干渉させた結果得られる光強度信号からスケールの移動量が導出される。特開平6−194189号公報(特許文献1)が開示する従来型の光エンコーダにおいては、光源からの光をビームスプリッタにより二分割し、分割された2つの光をスケールに入射させる構成を採用していたが、特許文献1が開示するミラーやレンズなどの光学要素からなる光学系においては、2つの光を等しい入射角で入射させるためのアライメントは容易ではなかった。加えて、特許文献1が開示する光エンコーダにおいては、ビームスプリッタにより2つの光を生成する構成を採用しているため、2つの光の光量を等しくすることができず、その結果、高い分解能の実現が難しかった。
【0003】
この点につき、特開平6−229718号公報(特許文献2)は、光源からの光を二分割する手段として透過型の回折格子を用いることによって、光源光を等しい光量を有する+1次および−1次回折光に分離してスケールに対して光源の光軸に対して対称に入射させる構成を開示する。さらに、特許文献2は、上述した+1次および−1次回折光を回折格子によって合波する構成も同時に開示する。合波干渉法の原理によれば、スケールの格子周期が短いほど高精度に変位を測長できるが、分離した光を合波する側の回折格子の格子周期もこれに合わせて同様に短くするとすれば、分離した光を合波する側の回折格子の厳密な位置あわせ精度が要求されることとなる。この点につき、特許文献2は、上記光学系を構成する複数の回折格子の格子周期の関係について、何ら具体的な開示をするものではなかった。
【特許文献1】特開平6−194189号公報
【特許文献2】特開平6−229718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、高分解能を備えると同時に、光学要素のアライメントが容易な光エンコーダを提供することを目的とする。さらに、本発明は、新規な光学要素を含むことによって従来の光エンコーダにおいて必須であった波長板や偏光板などの追加の構成を必要としない
コンパクトな光エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、分解能を犠牲にすることなく、光学要素のアライメントの困難性を緩和することのできる光エンコーダの光学系の構成につき鋭意検討した結果、合波する側の回折格子の格子周期をスケールの格子周期よりも大きくとっても、変位の精度には関係なく合波干渉部の位置あわせが容易になることに加え、スケールに照明する光を1箇所にしても再現性のある実用的な分解能が実現しうることを見出し、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、回折光分岐部と回折光合波干渉部とを含む光エンコーダであって、前記回折光分岐部および前記回折光合波干渉部はプレナー型回折格子で構成され、前記回折光分岐部の回折格子周期よりも、前記回折光合波干渉部の回折格子周期の方が大きい光エンコーダが提供される。本発明においては、前記回折光合波干渉部の回折光を合波する回折格子の周期方向の幅が、干渉縞の明暗を一様に検出する長さ以下とすることが好ましい。
【0007】
また、本発明によれば、前記回折光分岐部で回折された2つの回折光の各光路に対して1/4波長板が配設された光エンコーダが提供される。さらに本発明の別の構成によれば、前記回折光分岐部で回折された2つの回折光のうち、一方の回折光の光路に1/2波長板が配設され、さらに、前記回折光合波干渉部の後方に1/4波長板が配設された光エンコーダが提供される。
【0008】
さらに加えて、本発明の別の構成によれば、前記回折光合波干渉部の回折光を合波する回折格子が、A相の信号を生成するための第1の回折格子とB相の信号を生成するための第2の回折格子からなり、前記第1の回折格子の格子周期と前記第2の回折格子の格子周期は等しく、前記第1の回折格子および前記第2の回折格子の回折格子位置は、互いに周期方向に対し前記格子周期の1/8だけシフトしている、光エンコーダが提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、高分解能を備えると同時に、光学要素のアライメントが容易な光エンコーダが提供される。また、本発明によれば、波長板や偏光板などの追加の構成を必要としないコンパクトな光エンコーダが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態である光エンコーダ10の概略図を示す。なお、図1には、光エンコーダ10の機能を説明するために矢印で光路を示している(以下、図2〜図4において同様)。本実施形態の光エンコーダ10は、ヘリウム−ネオンレーザ、固体レーザ、半導体レーザといった光源12から照射されるコヒーレント光を+1次回折光と−1次回折光に分岐させるための回折光分岐部Rと、当該分岐した回折光を合波させるための回折光合波干渉部Iと、合波干渉光を検出するための光検出部Dとを含んで構成される。
【0012】
光源12から照射されるコヒーレント光は、反射型回折格子として構成されるスケール14の周期方向に対して垂直に入射したのち、+1次と−1次に回折される。この+1次および−1次の2つの回折光aおよびbはスケール14の相対的な変位に対応した位相差をもっており、回折光合波干渉部Iにおいて合波されると同時に干渉して、その干渉光強度が光検出部Dにより検出される。この信号より、スケール14の相対的変位量を測定することができる。なお、図1においては、スケール14からの0次光(直進光)は図示されていないが、必要に応じて遮断されているものとする(以下、図2〜図4において同様)。
【0013】
本実施形態においては、スケール14は、移動ステージ15によって移動自在とされており、移動方向Mに垂直な格子構造を有するプレナー型の回折格子として構成されており、光源12からの入射光が入射方向に対して回折角θをもって対称に回折されるように配置されている。ただし、実際の構成にあっては、スケール14からの戻り光が光源12に直接戻らないように、回折方向と垂直方向の角度を、90°からわずかにずらすことが好ましい。
【0014】
スケール14に反射して回折した2つの回折光aおよびbは、それぞれ回折格子16aおよび回折格子16bに入射する。回折格子16aおよび16bは、いずれもスケール14と同じ格子周期の回折格子として構成されており、スケール14の周期方向と回折格子16a、16bの周期方向とが平行になるように、2つの回折格子16a、16bが配置される。このように構成されるため、2つの回折光aおよびbは、それぞれ、回折格子16aおよび16bを通過後、平行な2つのビームa’およびb’になる。すなわち、本実施形態においては、スケール14と回折格子16aおよび16bによって回折光分岐部Rが構成される。
【0015】
次に分岐して平行光となったビームa’およびb’は、それぞれが位相調節装置として用いられる1/4波長板18aおよび18bを経たのち、回折格子20によって回折され、集光する。回折格子20は、スケール14、回折格子16a、16bの周期方向とその周期方向が平行となるように配置されている。ここで、1/4波長板18aおよび18bの光軸は、ビームa’およびb’の偏光方向に対しそれぞれ+45°および−45°の角度をなして配置されており、ビームa’およびb’は、それぞれ1/4波長板18aおよび18bを経たのち、右回り円偏光a”および左回り円偏光b”となったのち、回折格子20によって回折される。回折した2つのビームa”およびb”が集光して重なる位置に回折格子22が配設されており、回折格子22によって合波され干渉を生じる。回折格子22は、スケール14、回折格子16a、16b、および回折格子20の周期方向とその周期方向が平行となるように配置されている。すなわち、本実施形態においては、回折格子20と回折格子22によって回折光合波干渉部Iが構成される。
【0016】
次に、合波干渉された合波干渉光cは、干渉縞の明暗が一様な部分を取り出すために配設されたスリット24によって回折方向のビーム幅を制限されたのち、一部は、ハーフミラーもしくはビームスプリッタによって構成される透過・反射板26を通過して偏光板28に入射し、この偏光板28によって回折光a、bの偏光と同じ方向かもしくはこれと45°ずれた偏光成分が取り出され、A/B相信号として光検出器30によって検出される。また、他の一部は、透過・反射板26で反射されたのち偏光板28に入射し、この偏光板28によって検出器30で検出したA/B相信号の偏光とは45°偏光がずれた偏光成分が取り出され、A/B相信号として光検出器32によって検出される。すなわち、本実施形態においては、透過・反射板26、偏光板28、光検出器30、32によって光検出部Dが構成される。
【0017】
なお、光検出部Dにおいて検出される2つのA/B相信号は、スケール14の移動方向Mに対し90°位相がずれた正弦波信号として検出される。移動ステージ15の所定の移動方向に対して、位相が90°遅れる側の検出信号をB相信号、基準となる検出信号をA相信号と決めれば良く、A相信号、B相信号は固定的なものではなく、A/B相信号の相互の位相差が90°になっていることが重要である。A相信号およびB相信号は、この2つの信号を用いることによって、移動方向等を含めたスケール14の変位が高精度に測定される。以上、本実施形態の光エンコーダ10の物理的構成をその機能とともに説明してきたが、さらに、本実施形態の光エンコーダ10の特徴について以下説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の光エンコーダ10においては、光を分岐、集光、および干渉させる手段がすべてプレナー型回折格子によって構成されている。このように構成することによって、従来のレンズやミラーなどを用いた光学系に比べてそのアライメントが格段に容易になる。すなわち、所望の光路を設計するにあたって、上述したスケール14、回折格子16、回折格子20および回折格子22について格子周期を設計するだけで一義的に所望の光路が実現できる。本実施形態の光エンコーダ10においては、スケール14の格子周期と回折格子16の格子周期が等しくなるように設計されているため、スケール14に反射して回折した2つの回折光aおよびbは、それぞれ回折格子16aおよび回折格子16bによって自動的に平行光a’b’になる。本実施形態においては、このように分岐した2つの回折光を回折して平行光にする構成を採用することによって、光エンコーダ10の光学系を光源12の光軸に対して対称に構築することが可能となることに加え、回折光分岐部Rと回折光合波干渉部Iとの離間距離Sを自由に設計することが可能となるため、装置設計における自由度が増大する。
【0019】
さらに、本実施形態の光エンコーダ10は、以下に説明する特徴を有する。従来、分岐させた2つの回折光を合波させる構成においては、回折光を分岐する側の回折格子の格子周期と回折光を合波させる側の回折格子の格子周期が等しくなるように設計することが常識とされていた。これは、通常、できるだけ周期を短くした方がコンパクトに機器を構成できると同時に、同じ周期の回折格子で平行ビームa’、b’を回折させた方が、空間的な位相の平均的な乱れを少なくでき、波面収差の少ないビームa”、b”を用いて合波させることにより高精度な合波干渉信号を得ることを企図するからである。しかしながら、本発明者は、光エンコーダ10のアライメントについて検討した結果、図1に示す光エンコーダ10において、回折光分岐部Rを構成するスケール14、回折格子16の格子周期と、回折光合波干渉部Iを構成する回折格子20、22の格子周期をあえて異ならしめるという着想を得、実際に、両者の格子周期を異ならしめて回折格子22のアライメント精度を緩和させても、検出信号が劣化することなく高精度な変位を測定できることを実証した。
【0020】
すなわち、本実施形態の光エンコーダ10において、回折光合波干渉部Iの格子周期は、回折光分岐部Rの周期格子よりも大きくなるように設計されている。このように構成することによって、測定精度の向上を企図して回折光分岐部Rの格子周期を短くすることに伴い、非常に大きくならざるを得ないスケール14の回折角度θに対し回折格子20、22の格子周期を回折光分岐部Rの格子周期よりも大きくなるように設計することで、回折格子20で回折されて回折格子22に集光・合波されるビームa”、b”の集光角度θ”を小さくすることが可能となる。その結果、集光角度θ”が小さいほど、集光ビームa”、b”の光軸方向に重なる領域が広がるので、回折格子22を設置する光軸方向の位置の許容範囲が大きくなり、光エンコーダ10のアライメントが格段に容易になる。すなわち、本発明によれば、測定精度を犠牲にすることなく再現性のある位置あわせが可能な、極めて実用的な測長器が構築される。
【0021】
以上、本発明を図1に示す実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。以下、図2および図3にそれを例示して説明する。
【0022】
図2は、本発明の第2の実施形態である光エンコーダ40を示す。図2においては、図1に示した光エンコーダ10と共通する構成要素について同じ符号を用い、また、光エンコーダ10について既述した部分ついてはその説明を省略するものとする(以下、図3および図4においても同様)。
【0023】
第2の実施形態である光エンコーダ40においては、ビームa’が位相変調装置として用いられる1/2波長板42を経ることによって直線偏光の回折光の偏光が90°回転させられたのち回折格子20に入射する一方、ビームb’はそのまま回折格子20に入射する。その結果、ビームa’およびビームb’の2つの回折光の偏光方向が直交するように構成されている。さらに、第2の実施形態である光エンコーダ40においては、回折格子22による合波干渉光が、その偏光方向と45°の角度をなしている1/4波長板44を経たのち、一部は、透過・反射板26を通過して偏光板28に入射し、この偏光板28によって回折光a、bの偏光と同じ方向かもしくはこれと45°ずれた偏光成分が取り出され、A/B相信号として光検出器30によって検出される。また、他の一部は、透過・反射板26で反射されたのち偏光板28に入射し、この偏光板28によって光の回折光と45°偏光がずれた偏光成分が取り出され、A/B相信号として光検出器32によって検出される。この場合も、光検出器30,32において検出される2つのA/B相信号は、スケール14の移動方向Mに対し相互に90°位相がずれた2つの正弦波信号として検出される。このようにして、光エンコーダ40は、図1に示した光エンコーダ10と同様に高精度なリニア変位計として機能する。なお、本発明における回折光分岐部は、図1および図2に示した構成に限定されるものではないことに留意されたい。この点につき、さらに、本発明の第3の実施形態として図3を参照して説明する。
【0024】
図3は、本発明の第3の実施形態である光エンコーダ50を示す。本発明は、図1および図2に示したように、光源12からの光をスケールに直接的に垂直入射させるものに限定されるものではなく、図3に示されるように、光源12からの光を透過型の回折格子52に対して垂直入射させ、分岐した2つの回折光をスケール54上の離間した2点に入射させ、そこからの回折光を回折光合波干渉部Iにおいて合波干渉させる構成をも含む概念である。なお、図3においては、その説明の便宜のため、1/2波長板および1/4波長板を省略しているが、第1および第2の実施形態について上述したように、ビームa’、ビームb’、およびビームcの光路上の所定の位置に1/2波長板もしくは1/4波長板が適宜配設されることを理解されたい。
【0025】
さらに、本発明の第4の実施形態を、図4を参照して説明する。図4は、本発明の第4の実施形態である光エンコーダ60を示す。図4に示されるように、光エンコーダ60においては、上述した第1〜第3の実施形態において用いられていた1/2波長板、1/4波長板、偏光板など、A/B相信号を生成するための追加の構成を必要としない。本実施形態においては、回折格子62が、A/B相信号生成の機能を併せもつ。以下、本実施形態における回折格子62について図5を参照して以下説明する。
【0026】
図5は、本実施形態における回折格子62とその後方に配置される透過・反射板26とを示す概略図である。回折格子62は、A/B相信号生成用の回折格子AとA/B相信号生成用の回折格子Bという2つの回折格子から構成されており、回折格子Aと回折格子Bとは、両者の共通する周期構造方向Xに対して垂直方向に距離dをもって離間して配置されている。回折格子Aと回折格子Bは、同じ格子周期Pを有しており、且つ、回折格子Aと回折格子Bとは、その回折格子位置が、格子周期Pの1/8だけずれて配置されている。回折格子Aと回折格子Bがこのように配置されている結果、回折格子Aで合波干渉された光強度と回折格子Bで合波干渉された光強度は、互いに90°だけ位相がずれた正弦波状のA/B相信号となる。
【0027】
回折格子Aを経た合波干渉光は、図示しないスリットを経て、透過・反射板26の透過部tを通過したのち、図示しない光検出器によってA/B相信号として検出される一方、回折格子Bを経た合波干渉光は、透過・反射板26の反射部rで反射されたのち、図示しない光検出器によってA/B相信号として検出される。本実施形態においては、回折格子Aからの合波干渉光と回折格子Bからの合波干渉光が互いに混入しないようにするため、回折格子Aと回折格子Bとの離間距離dを100〜150μmとすることが好ましい。
【0028】
図4には、回折格子62の後方にスリット24を配置する構成を示したが、本実施形態においては、図5に示した回折格子62の横幅Wを、スリット24の開口部の幅と同じ大きさにすることによって、干渉光強度が一様に変化する領域を選択することができ、その結果、スリット24を省略することができる。なお、この構成は、上述した第4の実施形態に限らず、図1〜図3に示した実施形態における回折格子22についても同様に適用することができることはいうまでもない。すなわち、回折格子22の格子構造が作製されている領域の横幅を、スリット24の開口部の幅と同じ大きさにすることによってスリット24を省略することができる。
【0029】
さらに、本実施形態においては、回折格子Aおよび回折格子Bのそれぞれの配置位置方向に対応するように2分割された受光器を用いて、A相、B相に対応する信号を直接検出するようにすれば、透過・反射板26を省略することができ、光エンコーダ60をさらにコンパクトな構成にすることが可能となる。
【0030】
なお、本発明におけるプレナー型回折格子は、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーで作製したマスクパターンを用いて、軟質ガラス、パイレックス(登録商標)、石英ガラス、ゼロ膨張ガラスなどの基板を直接エッチングしたり、または、石英ガラス、シリコンなどで作製した金型を用いてレプリカ(複製)を作製して、その周期構造を形成することが可能であり、また、これを反射型回折格子として作製する場合には、これらの回折格子の表面に誘電体多層膜や反射金属膜などの光反射膜をコーティングするか、もしくは、基板に、誘電体多層膜や反射金属膜などの光反射膜をコーティングした上に、上述した材料で周期構造を形成することによって作製することができる。また、本発明においては、第1〜第4の実施形態における回折格子16および回折格子20をブレーズ回折格子とすることができる。回折格子16および回折格子20にブレーズ回折格子を採用することによって回折効率が向上し、光の利用効率が高くなるので、低出力の小型で安価な半導体レーザを用いることができ、コンパクトな装置を構成することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の光エンコーダについて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
図1に示した第1の実施形態である光エンコーダ10を下記の条件で実際に構築して性能評価を行った。本実施例においては、スケール14および回折格子16に1200本/mm(周期:0.833μm)の回折格子を用い、回折格子20および回折格子22に110本/mm(周期:0.909μm)の回折格子を用いた。なお、スリット24の開口幅を100μmとした。なお、本実施例においては、光源12には、635nmの半導体レーザを用い、移動ステージ15にピエゾステージを用いて、スケール14を約10nmステップで移動させた。光検出器には、Siフォトダイオードを用いた(以下、実施例2についても同様)。
【0033】
図6にA相とB相の出力信号を示し、これをリサージュ図形にしたものを図7に示す。図6に示される正弦波信号の1周期は、スケール周期の半分の0.4166μmに相当し、約40分割で0.01μmの分解能であり、これ以下のnmオーダの分解能が得られることが示された。
【0034】
(実施例2)
図4に示した第4の実施形態である光エンコーダ60を下記の条件で実際に構築して性能評価を行った。本実施例においては、スケール14および回折格子16に1200本/mm(周期:0.833μm)の回折格子を用い、回折格子20に110本/mm(周期:0.909μm)の回折格子を用いた。また、回折格子62の回折格子Aおよび回折格子Bにいずれも110本/mm(周期:0.909μm)の回折格子を用い、且つ、回折格子Aと回折格子Bの間隙dを150μmとした。なお、スリット14の開口幅を100μmとした。
【0035】
図8にA相とB相の出力信号を示し、これをリサージュ図形にしたものを図9に示す。図8に示される正弦波信号の1周期は、スケール周期の半分の0.4166μmに相当し、約40分割で0.01μmの分解能であり、これ以下のnmオーダの分解能が得られることが示された。
【0036】
併せて、図4に示した構成からスリット14を除去し、回折格子62(回折格子Aおよび回折格子B)の格子幅Wを100μmにして、上述したのと同様に測定を行った。その結果、スリット14を除去したにもかかわらず同等の高分解能が得られることが示された。これらの回折格子に対する実際の集光角度:θ”は、使用波長をλ、回折格子の周期をPとすると、θ”=sin-1(λ/P)で表される。すなわち、使用波長を0.635μmとすると、周期が0.833μm(1200本/mm)、1.6μm(625本/mm)、3.33μm(300本/mm)、9.09μm(110本/mm)の回折格子に対する集光角度:θ”は、それぞれ、49.7°、23.4°、11.0°、4°となる。よって、回折格子の周期が大きくなるにつれて、ほぼ比例的に位置合わせ精度が緩和できることがわかる
【0037】
また、回折格子20および回折格子62に300本/mm(周期:3.33μm)を用いた場合については、110本/mmに比較すると合波位置に合わせる精度が厳しくなるものの、625本/mm(周期:1.6μm)の回折格子では再現性の良い位置合わせが難しかったのに対して、この300本/mmの回折格子では、再現性のある位置あわせが充分に可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上、説明したように、本発明によれば、高分解能を備えると同時に、光学要素のアライメントが容易な光エンコーダが提供される。また、本発明によれば、波長板や偏光板などの追加の構成を必要としないコンパクトな光エンコーダが提供される。本発明の光エンコーダは、光学装置のコンパクト化および製造コストの低減化に資することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態である光エンコーダの概略図。
【図2】本発明の第2の実施形態である光エンコーダの概略図。
【図3】本発明の第3の実施形態である光エンコーダの概略図。
【図4】本発明の第4の実施形態である光エンコーダの概略図。
【図5】本発明の第4の実施形態である光エンコーダにおける回折格子とその後方に配置される透過・反射板とを示す概略図。
【図6】実施例1の光エンコーダのA相とB相の出力信号を示す図。
【図7】実施例1の光エンコーダの出力信号の一周期分をリサージュ図形にした図。
【図8】実施例4の光エンコーダのA相とB相の出力信号を示す図。
【図9】実施例4の光エンコーダの出力信号の一周期分をリサージュ図形にした図。
【符号の説明】
【0040】
10…光エンコーダ、12…光源、14…スケール、15…移動ステージ、16…回折格子、18…1/4波長板、20…回折格子、22…回折格子、24…スリット、26…透過・反射板、28…偏光板、30…光検出器、32…光検出器、40…光エンコーダ、42…1/2波長板、44…1/4波長板、50…光エンコーダ、52…回折格子、54…スケール、60…光エンコーダ、62…回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折光分岐部と回折光合波干渉部とを含む光エンコーダであって、
前記回折光分岐部および前記回折光合波干渉部はプレナー型回折格子で構成され、
前記回折光分岐部の回折格子周期よりも、前記回折光合波干渉部の回折格子周期の方が大きい光エンコーダ。
【請求項2】
前記回折光合波干渉部の回折光を合波する回折格子の周期方向の幅が、干渉縞の明暗を一様に検出する長さ以下である、
請求項1に記載の光エンコーダ。
【請求項3】
前記回折光分岐部で回折された2つの回折光の各光路に対して1/4波長板が配設される、
請求項1および2のいずれか1項に記載の光エンコーダ。
【請求項4】
前記回折光分岐部で回折された2つの回折光のうち、一方の回折光の光路に1/2波長板が配設され、さらに、前記回折光合波干渉部の後方に1/4波長板が配設される、
請求項1および2のいずれか1項に記載の光エンコーダ。
【請求項5】
前記回折光合波干渉部の回折光を合波する回折格子が、A相の信号を生成するための第1の回折格子とB相の信号を生成するための第2の回折格子からなり、
前記第1の回折格子の格子周期と前記第2の回折格子の格子周期は等しく、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子の回折格子位置は、互いに周期方向に対し前記格子周期の1/8だけシフトしている、
請求項1および2のいずれか1項に記載の光エンコーダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−249456(P2008−249456A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90525(P2007−90525)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】