説明

光ケーブル

【課題】光ケーブルの製造で、上巻テープがスロットの外面に巻き付けられるまで光ファイバ心線がスロットの溝から外に飛び出さないようにし、粗巻き紐無しの光ケーブルを提供する。
【解決手段】光ケーブル11は、溝付のスロット12と、スロット12の溝12aに収納した光ファイバ心線14と、スロット12の外周に巻きつけた上巻きテープ16と、上巻きテープ16の外周に形成したシースとを有する。スロット12は、溝12aの側壁を構成するリブ12bを有している。リブ12bは、スロット12の径方向の外側端部において側壁が溝12aの幅方向内側に向けて突出した突出部12cを有する。また、突出部12dによって側壁が溝の幅方向内側に曲折する部分近傍のリブ12aに、スロット12の径方向に深さを有するノッチ12dが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットの溝に多数本の光ファイバ心線を収納し、スロットの外周を上巻テープおよびシースを施してなる光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバによる家庭向けのデータ通信サービス(FTTH:Fiber To The Home)の加入者に対して、幹線光ケーブル等からドロップ光ケーブルを用いて光ファイバが引き落されている。加入者宅への光ファイバの引き落しは、例えば、市街の電柱等に布設された幹線光ケーブルを、通常、クロージャと称されている接続函で分岐し、分岐された光ファイバ心線にドロップ光ケーブルを融着接続又は光コネクタを用いて接続している。
【0003】
幹線光ケーブルは、例えば、図4に示すように、SZ状に形成された複数条の溝2aを有し、中心にテンションメンバ3を埋設した樹脂製のロッドからなるスロット2(スペーサとも言う)が用いられる。スロット2の溝2aには、複数本の単心の光ファイバ心線あるいは多心の光ファイバテープ心線(以下、テープ心線も含めて光ファイバ心線と言う)4を収納している。
【0004】
SZ状の溝2aを有するスロット2を用いた光ケーブル1は、光ケーブルの収納長がSZ溝2aの溝方向が反転する反転部間を結ぶ距離より長くなるため、図5に示すように、ケーブル中間部で光ファイバ心線4を取り出すのが容易であるという利点がある。しかし、光ケーブルの製造工程においては、溝2aに収納した光ファイバ心線4が外に飛び出しやすいという欠点も併せ持っている。
【0005】
そのため、ケーブル製造の集線工程中で、スロット内に収納した光ファイバ心線4が溝2aから脱落するのを防止するために、多数の光ファイバ心線4を集線して溝2a内に収納した後、直ちに粗巻き紐5を巻き付けている。そして、この粗巻き紐5の上から、上巻テープ6(押え巻とも言う)を巻き付けて、光ファイバ心線4を覆っている。そして、上巻テープ6の外側を、押出し成形によるシース7(外被とも言う)により被覆した形状のものが一般的である。(例えば、特許文献1参照)
【0006】
しかし、光ファイバを引き落とす場合、幹線光ケーブル1の中間部分の外被(シースともいう)7を部分的に切裂いて剥ぎ取り、露出された上巻テープ6を除去し、次いで、粗巻き紐5を解すという作業が行なわれるが、粗巻き紐5を取り除く作業は煩雑で手間を要するという問題があった。また、光ケーブルを解体する場合、外被7を切裂いてリサイクル用として回収すると共に、上巻テープ6と粗巻き紐5は、短く切断して廃棄しているが、粗巻き紐5の切断が上手くいかず、溜りとなって連続的な解体作業を中断させたりするなどの問題があった。
【0007】
この問題を解決する方法として、図6に示すように、上巻テープ6を開き巻きで形成し、上巻テープ6の隙間6aの部分から粗巻き紐5aの一部が露出するようにし、外被7の成形時の熱でシース7の内面に融着させる方法が知られている。(例えば、特許文献2参照)
この方法によれば、外被7を剥ぎ取る際に、粗巻き紐5の融着部分が切断されるので、粗巻き紐5の切断除去が容易となり、中間分岐作業を効率よく実施することが可能となる。また、解体作業においても、粗巻き紐5の絡まりや溜りをなくし、スムーズな解体を行なうことが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−212523号公報
【特許文献2】特開2008−107757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の光ケーブルは、光ファイバ心線を収納したスロットに対して粗巻き紐5が巻き付けられている。粗巻き紐5は、光ケーブルの製造段階では必要であり、上巻テープ6が施された後は不要であるという性質のものであるが、上巻テープ6の下に巻き付けられているので、除去するのも難しい。しかし、この粗巻き紐5があると、中間分岐作業や解体作業で、粗巻き紐5を除去するための煩雑さがあり、作業性を低下させる要因となっている。
【0010】
また、粗巻き紐5は、光ファイバ心線4を収納したスロット2に直接横巻きされているため、中間分岐作業等のときに粗巻き紐5のみを切断しようとした場合にも、その切断作業時に光ファイバ心線を傷付ける危険があり、この点においても粗巻き紐5が作業性を低下させる要因となっている。
【0011】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、光ケーブルの製造工程中に光ファイバ心線がスロットの溝から外に飛び出さないようにし、粗巻き紐を有しない解体性のよい光ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による光ケーブルは、溝付のスロットと、スロットの溝に収納した光ファイバ心線と、スロットの外周に巻きつけた上巻きテープと、上巻きテープの外周に形成したシースとを有する光ケーブルであり、スロットは、溝の側壁を構成するリブを有し、リブは、その径方向の外側先端部に、溝の幅方向に突出した突出部を有することを特徴とする。
【0013】
突出部における溝の幅は、溝に収納される光ファイバ心線の幅よりも大きい。また、突出部における溝の幅をW、溝に収納する光ファイバ心線の幅をD、光ファイバ心線の厚さをT、光ファイバ心線の溝深さ方向の積層数をn、とするとき、D<W<√{D-2+(nT)2}を満たすようにする。
また、リブは、突出部によって側壁が溝の幅方向内側に曲折する部分近傍に、スロットの径方向に深さを有するノッチが形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スロットのリブが溝の幅方向に突出した突出部を備えることで、スロットの溝内に光ファイバ心線を安定して収納保持させた状態に保つことができるので、粗巻き紐を用いる必要がなくなり、粗巻き紐を有しない解体性のよい光ケーブルを提供することが可能となる。この結果、従来必要とされた粗巻き紐の巻回工程を省略することで製造工程の合理化を図ることができ、さらに光ケーブルの中間分岐作業や解体作業において、粗巻き紐の除去による煩雑さが解消され、作業性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る光ケーブルの一実施形態を示す図である。
【図2】本発明に係る光ケーブルの他の実施形態を示す図である。
【図3】本発明に係る光ケーブルの実施例における溝外れの評価結果を示す表である。
【図4】従来の光ケーブルの一例を示す図である。
【図5】従来の光ケーブルから光ファイバ心線を取り出すときの状態を説明する図である。
【図6】上巻きテープを開き巻きで形成した従来の光ケーブルの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る光ケーブルの一実施形態を示す図で、図1(A)は光ケーブルの断面構成図、図1(B)は図1(A)の光ケーブルの要部を拡大して示す図である。
本発明に係る光ケーブルは、数条の溝12aを有し、中心にテンションメンバ13を埋設した樹脂製のロッドからなるスロット12が用いられる。溝12aは、所定の周期で反転されたSZ溝として形成されている。
【0017】
スロット12の2つの溝12aの間には、リブ12bが形成されている。これらのリブ12bは、溝12aの側壁を構成している。スロット12の溝12aには、複数本の単心の光ファイバ心線あるいは多心の光ファイバテープ心線(以下、テープ心線も含めて光ファイバ心線という)14が収納される。図1の実施形態では、多心のテープ心線を用いた構成を示している。
【0018】
光ファイバ心線14が収納されたスロット12の外面には、上巻テープ16が巻き付けられ、溝12a内の光ファイバ心線14が外に飛び出るのを防止する。また、上巻テープ16は、開き巻きあるいは重ね巻きのいずれでもよく、外被17の成形時の熱が収納されている光ファイバ心線14に及ばないように熱絶縁すると共に、上巻テープ16に吸水性のものを用いることにより、防水機能を持たせることもできる。上巻テープ16の外周には、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂で、押出し成形による外被(シースともいう)17が形成される。本実施形態では、従来の粗巻き紐は必要ない。
【0019】
スロット12のリブ12bは、スロット12の径方向の外側端部(外周部)において、溝の幅方向内側に突出した突出部12cを有している。この突出部12cにより、溝12aの側壁を構成するリブ12bは、スロット12の外周部において溝12aの内側に向かって鉤状に曲折した形状となっている。突出部12cを設けることで、突出部12cおける溝12aの幅が、それ以外の部分の溝12aの幅よりも狭くなっている。
【0020】
このような鉤状の突出部12cを設けることにより、光ケーブルの製造工程において溝12aに収納した光ファイバ心線4を、溝12aから脱落しにくくすることができる。これにより、従来、光ファイバ心線14を集線して溝12a内に収納した後に施されていた粗巻き紐を省略することが可能となる。粗巻き紐がない光ケーブルは、部材の削減及び製造工程の合理化を実現するとともに、光ケーブルの切断作業時や解体時における作業性を向上させることができる。
【0021】
突出部12cの好適な寸法に関して、突出部12cにおける溝12aの溝幅をW、溝12aに収納する光ファイバ心線14の幅をDとするとき、溝幅Wは、光ファイバ心線14の幅Dよりも大きくする。これにより、光ケーブルの製造工程において溝12aに光ファイバ心線14を安定して収納させることができる。
また、光ファイバ心線14の厚さをT、光ファイバ心線の溝深さ方向の積層数をn、とするとき、
D<W<√{D-2+(nT)2
の関係を持つように構成する。√{D-2+(nT)2}は、幅Dで厚さTを有する光ファイバ心線14をn層に積層した積層体の対角線の長さに相当する。この関係を有することにより、溝12aで積層された光ファイバ心線14が溝12aの内部で回転した場合でも、溝12aから外部に飛び出すことを防ぐことができる。
【0022】
図2は、本発明に係る光ケーブルの他の実施形態を示す図で、図2(A)は光ケーブルの断面構成図、図2(B)は図2(A)の光ケーブルの要部を拡大して示す図である。
図2に示す実施形態では、図1の構成に加えて、スロット12のリブ12bの外周面にノッチ12dを設けている。ノッチ12dは、溝12aの内側に向かって鉤状に形成された突出部12cの付け根部分、つまり側壁が溝の幅方向内側に曲折する部分近傍に設けられ、スロット12の径方向に深さを有するように形成されている。
【0023】
このようなノッチ12dを形成することにより、光ケーブルの分岐作業時や解体時に光ファイバ心線14を取り出す際に、ノッチ12dによって突出部12cを容易に変位させることができ、溝幅Wを拡げて光ファイバ心線14の取り出し作業性を向上させることができる。この場合、リブ12bに形成した突出部12cの存在にかかわらず光ファイバ心線14の取り出し作業性を悪化させることがなく、突出部12cによる光ファイバ心線14の脱落防止効果を得ることができる。
【0024】
図1及び図2に示すような鉤状の突出部12cを備えた構成のスロット12において、突出部12dの溝幅Wを変更し、光ファイバ心線14としてテープ心線を使用してその収納枚数に応じたテープ心線の溝外れの状態を評価した。テープ心線の溝外れの良否は、光ケーブル製造の集線工程中において、スロット11の溝12aに収納した光ファイバ心線4が溝外れを生じるか否かによって判定した。この場合、従来の粗巻き紐を使用することなく集線工程を実施した。図3にその評価結果を示す。
【0025】
本評価に用いたテープ心線として、厚さTが0.31mm、幅Dが1.10mmの寸法のものを用い、1つの溝12aに実装するテープ心線の積層数nを2枚または5枚とした。また、スロット12は、突出部12cの溝幅Wを1.11〜2.00mmの間で段階的に変更し、テープ心線の溝外れの良否判定を行った。
この場合、√{D-2+(nT)2}の値xは、テープ心線の積層数n=2のときには、x=1.26であり、積層数n=5のときには、x=1.90となる。また、溝幅Wは、全ての条件において、D<Wとした。
【0026】
図3に示すように、テープ心線の積層数n=2の場合、溝幅W=1.11、1.25mmのときにテープ心線の溝外れがなく良好な結果であったが、溝幅W=1.50、2.00mmのときには、テープ心線の溝外れが発生する場合があった。つまり、値x=1.26よりも溝幅Wが小さいときは、溝外れがなく良好であり、1.26よりも溝幅Wが大きいときには、溝外れが発生する場合があった。
【0027】
また、テープ心線の積層数n=5の場合、溝幅W=1.11、1.25、1.50mmのときにテープ心線の溝外れがなく良好な結果であったが、溝幅W=2.00mmのときには、テープ心線の溝外れが発生する場合があった。つまり、値x=1.90よりも溝幅Wが小さいときには、溝外れがなく良好であり、1.90よりも溝幅Wが大きいときには、溝外れが発生する場合があった。
つまり、本実施例で実施した条件においては、D<W<√{D-2+(nT)2}を満たす条件でスロットを構成したときに、光ファイバ心線の溝外れがなく良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0028】
1,11…光ケーブル、2,12…スロット、2a,12a…溝、4,14…光ファイバ心線(光ファイバテープ心線を含む)、5…粗巻き紐、6,16…上巻テープ、7,17…シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝付のスロットと、該スロットの溝に収納した光ファイバ心線と、前記スロットの外周に巻きつけた上巻きテープと、前記上巻きテープの外周に形成したシースとを有する光ケーブルにおいて、
前記スロットは、前記溝の側壁を構成するリブを有し、
前記リブは、前記スロットの径方向の外側先端部に、前記溝の幅方向に突出した突出部を有することを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記突出部における前記溝の幅は、前記溝に収納される光ファイバ心線の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
前記突出部における前記溝の幅をW、前記溝に収納する光ファイバ心線の幅をD、光ファイバ心線の厚さをT、光ファイバ心線の溝深さ方向の積層数をn、とするとき、
D<W<√{D-2+(nT)2
であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ケーブル。
【請求項4】
前記リブは、前記突出部によって前記側壁が前記溝の幅方向内側に曲折する部分近傍に、前記スロットの径方向に深さを有するノッチが形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−59542(P2011−59542A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211298(P2009−211298)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】