光ジャイロ
【課題】移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる光ジャイロを提供する。
【解決手段】リング形状の導波路を有する光共振器と、一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、光共振器から光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備える。検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように2つの導波部が配置される。光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように検出用導波路に対して配置される。
【解決手段】リング形状の導波路を有する光共振器と、一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、光共振器から光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備える。検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように2つの導波部が配置される。光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように検出用導波路に対して配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング形状の導波路を有する光共振器と光検出器とを備える光ジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ジャイロ(所謂リングレーザジャイロ)として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1では、基質内に、リング形状の導波共振体と、出力導波管が形成されている。出力導波管として、導波共振体から時計回りの光を取り出す出力導波管と、導波共振体から反時計回りの光を取り出す出力導波管を有し、これら2つの出力導波管は導波共振体に結合されている。そして、各出力導波管から出力される光の干渉光が、基質とは別に形成された光検出器にて検出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−500720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出するには、時計回りの光と反時計回りの光とがなす干渉縞の周期(間隔)が大きいことが重要である。このように干渉縞の周期が大きいと干渉縞が明確となり、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。
【0005】
これに対し、特許文献1には、出力導波管(出力ファイバー)が互いになす角度Aと、出力導波管に対して光検出器のなす角度Bとが、光検出器の大きさに関連して干渉パターンの空間分離を最適にするように波長に基づいて選択されるとの記載がある。しかしながら、角度A,Bの好ましい値、干渉パターンの空間分離と光検出器の大きさとの関連性、及び、干渉パターンの空間分離と波長との関係について何ら記載されていない。すなわち、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出するために重要な要素である干渉縞の周期について、該周期を最適にする構成が何ら開示されていないに等しい。
【0006】
また、特許文献1では、基質に設けられた導波共振体及び出力導波管と、光検出器とを別体としているため、出力導波管と光検出器の相対的な位置関係にばらつきが生じやすい。このため、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することが困難である。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる光ジャイロを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の光ジャイロは、
リング形状の導波路を有する光共振器と、
一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、
光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、光共振器から光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備え、
検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの導波部が配置され、
光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように、検出用導波路に対して配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、同一の基板上に、光共振器、光検出器、検出用導波路を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。
【0010】
また、2つの導波部の出力端から出力される光のなす角が1度よりも大きい構成に較べて、時計回りの光と反時計回りの光による干渉縞の周期を大きくすることができる。また、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が40度よりも大きい構成に較べて、時計回りの光と反時計回りの光による干渉縞の周期を大きくすることができる。これら配置と干渉縞の周期との関係については、本発明者によって確認されている。
【0011】
以上より、本発明によれば、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一基板に、光共振器、光検出器、検出用導波路が集積されるので、光ジャイロの体格を小型化することもできる。
【0012】
なお、各導波部の出力端から出力される光のなす角とは、光の広がりを考慮して、光強度が最大値の1/2となる範囲を光の範囲とし、この範囲で規定される光同士のなす角度である。
【0013】
請求項2に記載のように、2つの導波部の出力端に、該出力端から出力される光を平行光とするレンズがそれぞれ設けられ、
平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、レンズを含んで2つの導波部が配置されると良い。
【0014】
これによれば、請求項1の効果に加え、レンズによって光を平行光とするため、集光する構成に較べて干渉縞が検出しやすくなる。これにより、移動する物体の角速度及び回転方向を、より精度良く検出することができる。また、光検出器に光が当たりやすくなるため、消費電力を低減することもできる。
【0015】
請求項3に記載のように、リング形状の光共振器の内側に、検出用導波路及び光検出器が配置され、
検出用導波路は、光共振器を構成する導波路の内側面から光検出器へ導く構成が好ましい。
【0016】
これによれば、光ジャイロの体格をより小型化することができる。
【0017】
請求項4に記載のように、光共振器を構成する導波路のコアとクラッドとの屈折率差が0より大きく0.1以下であることが好ましい。
【0018】
光共振器から検出用導波路にしみ出す光(エバネッセント波)の量は、光共振器を構成する導波路の内側面のほうが外側面より少ない。これに対し、本発明によれば、コアとクラッドとの屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、導波路全体からしみ出す光の量を増加させることができる。このため、導波路の内側面からしみ出す光の量も増加し、消費電力をより低減することができる。また、光共振器を構成する導波路の内側に光検出器及び検出用導波路を配置して光ジャイロの体格を小型化しつつ、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。屈折率差と光のしみ出し量との関係については、本発明者によって確認されている。
【0019】
請求項5に記載のように、光検出器が基板に実装され、基板が、光検出器の実装面に、光検出器を位置決めするためのガイド部を有する構成としても良い。これによれば、光共振器及び検出用導波路が構成された基板とは別の基板に光検出器が形成されながらも、光共振器及び検出用導波路が構成された基板に光検出器を精度良く位置決めして実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る光ジャイロの概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿い、導波路の概略構成を示す断面図である。
【図3】光検出器の概略構成を示す平面図である。
【図4】検出用導波路及び光検出器の周辺を示す平面図である。
【図5】2つの出力端から出力される光のなす角(β+θ)と、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図6】検出用導波路に対する光検出器のなす角αと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図7】図2のA1−A2間における光強度分布を示す図である。
【図8】コアとクラッドの屈折率差と光のしみ出し量との関係を示す図である。
【図9】第2実施形態に係る光ジャイロにおいて、検出用導波路及び光検出器の周辺を示す平面図である。
【図10】各レンズから出力される平行光のなす角θと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図11】検出用導波路に対する光検出器のなす角αと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
(第1実施形態)
図1に示すように、光ジャイロ10は、要部として、基板11の一面上に配置された、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14を有する。図1に示す例では、さらに基板11の一面上に配置された励起用光源15を有する。
【0022】
基板11の一面には、光が伝搬される導波路が形成されており、この導波路により光共振器12と検出用導波路14が構成されている。本実施形態では、基板11として単結晶シリコンを採用し、導波路が、二酸化シリコンからなるクラッド20と、クラッド20よりも屈折率の高い材料(例えば窒化シリコンやリンドープ二酸化シリコン)からなるコア21によって構成されている。また、図2に例示する光共振器12側の導波路のように、コア21は断面矩形状とされ、矩形のコア21を取り囲むようにクラッド20が配置されている。すなわち、コア21における基板11側の下面、該下面と反対の上面、及び両側面に、クラッド20が接している。
【0023】
この導波路は所定形状にパターニングされており、導波路のうち、光共振器12を構成する部分が、基板11の一面に沿って延びたリング形状となっている。このリング形状としては、円形状、多角形状などを採用することができる。本実施形態では、図1に示すように、光共振器12の導波路が円形(真円)のリング状となっている。
【0024】
また、光共振器12の導波路を構成するコア21には、ネオジウムなどの希土類元素がドーピングされている。このため、励起用光源15からの光により励起されて、光共振器12の導波路内にレーザ光を生じるようになっている。このとき、レーザ光として、図1に示すように、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWが生じる。
【0025】
一方、検出用導波路14は、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWとをそれぞれ光共振器12内から取り出し、光検出器13に導くべく、時計回り用の導波部40と反時計回り用の導波部41を有する。この検出用導波路14は、光共振器12を構成する導波路のコア21からしみ出す光(エバネッセント波)が伝搬されるように、光共振器12の導波路と光学的に結合されていれば良い。したがって、検出用導波路14が光共振器12に接していても良いし、エバネッセント波が伝搬される範囲で検出用導波路14と光共振器12との間に僅かな隙間を有しても良い。
【0026】
本実施形態では、導波路のうち、検出用導波路14を構成する部分が略U字状となっており、U字の一方の脚部が時計回り用の導波部40、他方の脚部が反時計回り用の導波部41となっている。しかしながら、検出用導波路14としては、略U字状に限定されるものではなく、導波部40,41を独立した2本の導波路として構成することもできる。
【0027】
また、本実施形態では、検出用導波路14が、光共振器12におけるリング形状の導波路に対し、該導波路の内側面(内周面)に結合されている。そして、図1に示すように、光共振器12における検出用導波路14との光学的結合部分と、光共振器12における励起用光源15からの励起光の入射部分とが、円形(真円)の導波路の中心を挟んで対向する位置となっている。しかしながら、光共振器12における検出用導波路14との光学的結合部分は、光共振器12における励起用光源15からの励起光の入射部分に対して対向する位置に限定されるものではない。
【0028】
光検出器13は、角速度の大きさ及び回転方向を検出すべく、図3に示すように一方向に配列された複数の光検出素子31を有している。本実施形態では、p導電型の単結晶シリコンからなり、一面が長方形をなす基板30の一面側表層に、長方形の短手辺に沿ってn導電型の領域が形成され、これによりpn接合構造の光検出素子31が構成されている。そして、複数の光検出素子31が、基板30の長手方向において、所定の周期(間隔)Dで設けられている。この周期Dは、干渉縞の周期よりも小さい周期であれば良く、好ましくは干渉縞の周期の1/10倍以下とすると良い。干渉縞の周期に対して小さいほど、干渉縞の僅かなシフトを検出することが可能となる。本実施形態では、例えば周期Dを1μmとして複数の光検出素子31が設けられている。
【0029】
この光検出器13は、検出用導波路14の2つの導波部40,41からそれぞれ出力される光による干渉光を検出すべく、導波部40,41からそれぞれ出力される光が重なりあう位置に設けられる。本実施形態では、図1に示すように、リング形状の光共振器12の内側であって、検出用導波路14と励起用光源15との間に設けられている。
【0030】
また、光検出器13は、基板11の一面に設けられたガイド部16により、基板11に対して所定位置に位置決めされるようになっている。本実施形態では、ガイド部16が、クラッド20同様、基板11の一面上に設けられた二酸化シリコンをパターニングすることで構成されている。このガイド部16は、基板11の一面に沿う形状が略L字状とされ、一対のガイド部16が、光検出器13を構成する基板30の対角位置に設けられている。なお、ガイド部16としては、基板11の一面から突出するものに限定されない。例えば、基板11を一面側からエッチングしてなる凹部をガイド部16としても良い。
【0031】
励起用光源15は、光共振器12内でレーザ発振すべく、励起光を光共振器12に出力するものである。本実施形態では、励起用光源15として半導体レーザを採用している。本実施形態では、図1に示すように、励起用光源15も、リング形状の共振器12の内側に設けられている。
【0032】
このように構成される光ジャイロ10では、励起用光源15からの光が光共振器12の導波路に入射されると、光共振器12内にレーザ発振が生じ、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWが生じる。これら光CW,CCWは、光検出器13の位置において重なり合い、干渉縞を形成する。光CW,CCWは、光ジャイロ10が回転するとサニャック効果を受けるので、これにより干渉光のパターン(干渉縞)が光検出素子31の配列方向においてシフトする。したがって、例えば配列方向におけるシフト量により角速度を検出し、シフト方向により回転方向を検出することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る光ジャイロ10の、主たる特徴部分について説明する。
【0034】
本実施形態では、図4に示すように、検出用導波路14が、時計回りの光CW用の導波部40と反時計周りの光CCW用の導波部41を有している。そして、各導波部40,41の出力端40a,41aから出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの導波部40,41が配置されている。
【0035】
ここで、出力端40a,41aから出力される光のなす角について詳細に説明する。図4に示す符号40b,41bは、各導波部40,41の出力端40a,41a付近での光軸を示す。出力端40a,41aから出力される光は、光軸40b,41bを中心として広がる。光軸40b,41bのなす角をθ度、出力される光の広がり角をともにβ度とすると、出力端40a,41aから出力される光のなす角は、図4に示すように(β+θ)度となる。なお、広がり角βは、光強度が最大値の1/2となる角度である。
【0036】
図5は、出力端40a,41aから出力される光のなす角(β+θ)と干渉縞の周期との関係を示す図である。図5では、後述する角度αを0度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図5に示すように、出力端40a,41aから出力される光のなす角(β+θ)が1度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光のなす角(β+θ)が1度以下においては、1度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0037】
また、図4に示すように、2つの導波部40,41の光軸40b,41bを線対称の関係とする基準軸14aに対し、光検出器13における光検出素子31が配列された配列方向のなす角αが、0度よりも大きく40度以下となるように配置されている。
【0038】
図6は、基準軸14aに対する光検出器13の角度αと干渉縞の周期との関係を示す図である。図6では、上記した角度(β+θ)を1度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図6に示すように、基準軸14aに対する光検出器13の角度αが40度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光検出器13の角度αが40度以下においては、40度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0039】
以上より、本実施形態では、上記した2つの条件をともに満たすので、時計回りの光CWと反時計回りの光CCWによる干渉縞の周期を大きくすることができる。このように干渉縞の周期を大きくすると、光検出器13上において干渉縞のパターンが明確となるので、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、干渉縞の周期が大きいため、干渉縞の周期以上とならない範囲で光検出素子31の周期Dも大きくすることができる。このため、光検出器13を形成しやすい。
【0040】
また、同一の基板11上に、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14、励起用光源15を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一の基板11上に集積するため、光ジャイロ10の体格を小型化することもできる。
【0041】
次いで、本実施形態では、光共振器12を構成する導波路のコア21とクラッド20との屈折率差が0より大きく0.1以下となっている。
【0042】
図7に示すように、光共振器12を構成する導波路のコア21の端部(表面)での光強度をIaとすると、光強度Iaから光強度がIaの1/2となる範囲までを、コア21から光がしみ出した量とする。図8に示すように、コアとクラッドとの屈折率差が0.1よりも大きいと、屈折率差によって光のしみ出し量は殆ど変化せず、小さい値となっている。一方、屈折率差が0.1以下においては、屈折率差が0.1より大きい場合に較べて屈折率差による光のしみ出し量の変化量が大きく、屈折率差が小さいほどしみ出し量が大きくなっている。
【0043】
光共振器12の導波路から検出用導波路14にしみ出す光(エバネッセント波)の量は、光共振器12を構成する導波路の内側面(内周面)のほうが外側面(外周面)より少ない。これに対し、本実施形態によれば、コア21とクラッド20との屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、光共振器12を構成する導波路全体からしみ出す光の量を増加させることができる。このため、光共振器12を構成する導波路の内側面からしみ出す光の量も増加する。したがって、コア21とクラッド20との屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、消費電力を低減することができる。また、光共振器12を構成する導波路の内側に光検出器13及び検出用導波路14を配置して、光ジャイロ10の体格を小型化しつつ、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。
【0044】
次に、本実施形態に係る光ジャイロ10の、その他の特徴部分について説明する。
【0045】
本実施形態では、リング形状の光共振器12の内側に、検出用導波路14及び光検出器13が配置されており、検出用導波路14が、光共振器12を構成する導波路の内側面から光検出器13へ光を導くようになっている。このため、リング形状の光共振器12の外側に検出用導波路14及び光検出器13が配置される構成に較べて、光ジャイロ10の体格を小型化することができる。特に本実施形態では、励起用光源15についても、リング形状の光共振器12の内側に配置するため、励起用光源15を備える構成において、光ジャイロ10の体格をより小型化することができる。
【0046】
また、本実施形態では、導波路(光共振器12及び検出用導波路14)が形成される基板11とは別の基板30に光検出器13が構成されている。そして、基板11の一面に設けられた位置決め用のガイド部16により、光検出器13が基板11に対して位置決めされ、この位置決め状態で光検出器13が基板11に実装されている。このように、ガイド部16を用いるため、基板11とは別の基板30に光検出器13が構成されながらも、光共振器12及び検出用導波路14が構成された基板11に光検出器13を精度良く位置決めし、実装することができる。特に本実施形態では、導波路を構成するクラッド20と同一材料を用いてガイド部16を形成するため、製造工程の増加を抑制することもできる。
【0047】
(第2実施形態)
第1実施形態では、検出用導波路14の出力端40a,41aから出力された光を、他の光学素子を介さずに光検出器13に照射する例を示した。これに対し、本実施形態では、図9に示すように、検出用導波部14を構成する2つの導波部40,41の出力端40a,41aに、該出力端40a,41aから出力される光を平行光とするレンズ40c,41cがそれぞれ設けられており、各レンズ40c,41cから出力される平行光を光検出器13に照射する。そして、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、レンズ40c,41cを含んで2つの導波部40,41が配置されている点を特徴とする。
【0048】
ここで、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角について詳細に説明する。出力端40a,41aから出力される光は、導波部40,41の光軸40b,41bを中心として広がり、レンズ40c,41cにて平行光とされる。このため、レンズ40c,41cから出力される光のなす角は、導波部40,41の光軸40b,41bのなす角θと一致する。
【0049】
図10は、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角θと干渉縞の周期との関係を示す図である。図10では、角度αを0度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図10に示すように、平行光のなす角θが1度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、平行光のなす角θが1度以下においては、1度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0050】
また、本実施形態においても、図9に示すように、2つの導波部40,41の光軸40b,41bを線対称の関係とする基準軸14aに対し、光検出器13における光検出素子31が配列された配列方向のなす角αが、0度よりも大きく40度以下となるように配置されている。
【0051】
図11は、基準軸14aに対する光検出器13の角度αと干渉縞の周期との関係を示す図である。図11では、上記した角度θを1度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図11に示すように、基準軸14aに対する光検出器13の角度αが40度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光検出器13の角度αが40度以下においては、40度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0052】
以上より、本実施形態では、上記した2つの条件をともに満たすので、時計回りの光CWと反時計回りの光CCWによる干渉縞の周期を大きくすることができる。このように干渉縞の周期を大きくすると、光検出器13上において干渉縞のパターンが明確となるので、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、干渉縞の周期が大きいため、干渉縞の周期以上とならない範囲で光検出素子31の周期Dも大きくすることができる。このため、光検出器13を形成しやすい。
【0053】
また、同一の基板11上に、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14、励起用光源15を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一の基板11上に集積するため、光ジャイロ10の体格を小型化することもできる。
【0054】
また、レンズ40c,41cよって光を平行光とするため、集光する構成に較べて干渉縞を検出しやすくなる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、第1実施形態に示す構成に較べて、光検出器13に光が当たりやすくなるため、消費電力を低減することもできる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0056】
本実施形態では、励起用光源15からの光を用いて光共振器12内でレーザ発振させ、時計回りで伝搬する光CWと反時計回りで伝搬する光CCWを生じさせる例を示した。しかしながら、光CWと反時計回りで伝搬する光CCWを生じさせる構成は、上記例に限定されるものではない。例えば、光共振器12のコア21を化合物半導体で構成するとともに、基板11の一面側表層にpn接合部を設けて電流を流し、これにより、光共振器12の導波路内にキャリアを注入してレーザ発振させても良い。また、光共振器12を構成するリング形状の導波路の一部に半導体レーザを設けても良い。
【0057】
本実施形態では、光共振器12のリング形状の導波路の内側に、光検出器13、検出用導波路14が配置される例を示した。しかしながら、光共振器12のリング形状の導波路の外側に、光検出器13、検出用導波路14が配置された構成としても良い。また、励起用光源15も、光共振器12のリング形状の導波路の外側に配置することができる。
【符号の説明】
【0058】
10・・・光ジャイロ
11・・・基板
12・・・光共振器
13・・・光検出器
14・・・検出用導波路
14a・・・基準軸
20・・・コア
21・・・クラッド
31・・・光検出素子
40,41・・・導波部
CW・・・時計回りで伝搬する光
CCW・・・反時計回りで伝搬する光
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング形状の導波路を有する光共振器と光検出器とを備える光ジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ジャイロ(所謂リングレーザジャイロ)として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1では、基質内に、リング形状の導波共振体と、出力導波管が形成されている。出力導波管として、導波共振体から時計回りの光を取り出す出力導波管と、導波共振体から反時計回りの光を取り出す出力導波管を有し、これら2つの出力導波管は導波共振体に結合されている。そして、各出力導波管から出力される光の干渉光が、基質とは別に形成された光検出器にて検出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−500720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出するには、時計回りの光と反時計回りの光とがなす干渉縞の周期(間隔)が大きいことが重要である。このように干渉縞の周期が大きいと干渉縞が明確となり、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。
【0005】
これに対し、特許文献1には、出力導波管(出力ファイバー)が互いになす角度Aと、出力導波管に対して光検出器のなす角度Bとが、光検出器の大きさに関連して干渉パターンの空間分離を最適にするように波長に基づいて選択されるとの記載がある。しかしながら、角度A,Bの好ましい値、干渉パターンの空間分離と光検出器の大きさとの関連性、及び、干渉パターンの空間分離と波長との関係について何ら記載されていない。すなわち、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出するために重要な要素である干渉縞の周期について、該周期を最適にする構成が何ら開示されていないに等しい。
【0006】
また、特許文献1では、基質に設けられた導波共振体及び出力導波管と、光検出器とを別体としているため、出力導波管と光検出器の相対的な位置関係にばらつきが生じやすい。このため、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することが困難である。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる光ジャイロを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の光ジャイロは、
リング形状の導波路を有する光共振器と、
一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、
光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、光共振器から光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備え、
検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの導波部が配置され、
光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように、検出用導波路に対して配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、同一の基板上に、光共振器、光検出器、検出用導波路を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。
【0010】
また、2つの導波部の出力端から出力される光のなす角が1度よりも大きい構成に較べて、時計回りの光と反時計回りの光による干渉縞の周期を大きくすることができる。また、2つの導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、光検出素子が配列された配列方向とのなす角が40度よりも大きい構成に較べて、時計回りの光と反時計回りの光による干渉縞の周期を大きくすることができる。これら配置と干渉縞の周期との関係については、本発明者によって確認されている。
【0011】
以上より、本発明によれば、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一基板に、光共振器、光検出器、検出用導波路が集積されるので、光ジャイロの体格を小型化することもできる。
【0012】
なお、各導波部の出力端から出力される光のなす角とは、光の広がりを考慮して、光強度が最大値の1/2となる範囲を光の範囲とし、この範囲で規定される光同士のなす角度である。
【0013】
請求項2に記載のように、2つの導波部の出力端に、該出力端から出力される光を平行光とするレンズがそれぞれ設けられ、
平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、レンズを含んで2つの導波部が配置されると良い。
【0014】
これによれば、請求項1の効果に加え、レンズによって光を平行光とするため、集光する構成に較べて干渉縞が検出しやすくなる。これにより、移動する物体の角速度及び回転方向を、より精度良く検出することができる。また、光検出器に光が当たりやすくなるため、消費電力を低減することもできる。
【0015】
請求項3に記載のように、リング形状の光共振器の内側に、検出用導波路及び光検出器が配置され、
検出用導波路は、光共振器を構成する導波路の内側面から光検出器へ導く構成が好ましい。
【0016】
これによれば、光ジャイロの体格をより小型化することができる。
【0017】
請求項4に記載のように、光共振器を構成する導波路のコアとクラッドとの屈折率差が0より大きく0.1以下であることが好ましい。
【0018】
光共振器から検出用導波路にしみ出す光(エバネッセント波)の量は、光共振器を構成する導波路の内側面のほうが外側面より少ない。これに対し、本発明によれば、コアとクラッドとの屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、導波路全体からしみ出す光の量を増加させることができる。このため、導波路の内側面からしみ出す光の量も増加し、消費電力をより低減することができる。また、光共振器を構成する導波路の内側に光検出器及び検出用導波路を配置して光ジャイロの体格を小型化しつつ、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。屈折率差と光のしみ出し量との関係については、本発明者によって確認されている。
【0019】
請求項5に記載のように、光検出器が基板に実装され、基板が、光検出器の実装面に、光検出器を位置決めするためのガイド部を有する構成としても良い。これによれば、光共振器及び検出用導波路が構成された基板とは別の基板に光検出器が形成されながらも、光共振器及び検出用導波路が構成された基板に光検出器を精度良く位置決めして実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る光ジャイロの概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿い、導波路の概略構成を示す断面図である。
【図3】光検出器の概略構成を示す平面図である。
【図4】検出用導波路及び光検出器の周辺を示す平面図である。
【図5】2つの出力端から出力される光のなす角(β+θ)と、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図6】検出用導波路に対する光検出器のなす角αと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図7】図2のA1−A2間における光強度分布を示す図である。
【図8】コアとクラッドの屈折率差と光のしみ出し量との関係を示す図である。
【図9】第2実施形態に係る光ジャイロにおいて、検出用導波路及び光検出器の周辺を示す平面図である。
【図10】各レンズから出力される平行光のなす角θと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【図11】検出用導波路に対する光検出器のなす角αと、干渉縞の周期との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
(第1実施形態)
図1に示すように、光ジャイロ10は、要部として、基板11の一面上に配置された、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14を有する。図1に示す例では、さらに基板11の一面上に配置された励起用光源15を有する。
【0022】
基板11の一面には、光が伝搬される導波路が形成されており、この導波路により光共振器12と検出用導波路14が構成されている。本実施形態では、基板11として単結晶シリコンを採用し、導波路が、二酸化シリコンからなるクラッド20と、クラッド20よりも屈折率の高い材料(例えば窒化シリコンやリンドープ二酸化シリコン)からなるコア21によって構成されている。また、図2に例示する光共振器12側の導波路のように、コア21は断面矩形状とされ、矩形のコア21を取り囲むようにクラッド20が配置されている。すなわち、コア21における基板11側の下面、該下面と反対の上面、及び両側面に、クラッド20が接している。
【0023】
この導波路は所定形状にパターニングされており、導波路のうち、光共振器12を構成する部分が、基板11の一面に沿って延びたリング形状となっている。このリング形状としては、円形状、多角形状などを採用することができる。本実施形態では、図1に示すように、光共振器12の導波路が円形(真円)のリング状となっている。
【0024】
また、光共振器12の導波路を構成するコア21には、ネオジウムなどの希土類元素がドーピングされている。このため、励起用光源15からの光により励起されて、光共振器12の導波路内にレーザ光を生じるようになっている。このとき、レーザ光として、図1に示すように、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWが生じる。
【0025】
一方、検出用導波路14は、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWとをそれぞれ光共振器12内から取り出し、光検出器13に導くべく、時計回り用の導波部40と反時計回り用の導波部41を有する。この検出用導波路14は、光共振器12を構成する導波路のコア21からしみ出す光(エバネッセント波)が伝搬されるように、光共振器12の導波路と光学的に結合されていれば良い。したがって、検出用導波路14が光共振器12に接していても良いし、エバネッセント波が伝搬される範囲で検出用導波路14と光共振器12との間に僅かな隙間を有しても良い。
【0026】
本実施形態では、導波路のうち、検出用導波路14を構成する部分が略U字状となっており、U字の一方の脚部が時計回り用の導波部40、他方の脚部が反時計回り用の導波部41となっている。しかしながら、検出用導波路14としては、略U字状に限定されるものではなく、導波部40,41を独立した2本の導波路として構成することもできる。
【0027】
また、本実施形態では、検出用導波路14が、光共振器12におけるリング形状の導波路に対し、該導波路の内側面(内周面)に結合されている。そして、図1に示すように、光共振器12における検出用導波路14との光学的結合部分と、光共振器12における励起用光源15からの励起光の入射部分とが、円形(真円)の導波路の中心を挟んで対向する位置となっている。しかしながら、光共振器12における検出用導波路14との光学的結合部分は、光共振器12における励起用光源15からの励起光の入射部分に対して対向する位置に限定されるものではない。
【0028】
光検出器13は、角速度の大きさ及び回転方向を検出すべく、図3に示すように一方向に配列された複数の光検出素子31を有している。本実施形態では、p導電型の単結晶シリコンからなり、一面が長方形をなす基板30の一面側表層に、長方形の短手辺に沿ってn導電型の領域が形成され、これによりpn接合構造の光検出素子31が構成されている。そして、複数の光検出素子31が、基板30の長手方向において、所定の周期(間隔)Dで設けられている。この周期Dは、干渉縞の周期よりも小さい周期であれば良く、好ましくは干渉縞の周期の1/10倍以下とすると良い。干渉縞の周期に対して小さいほど、干渉縞の僅かなシフトを検出することが可能となる。本実施形態では、例えば周期Dを1μmとして複数の光検出素子31が設けられている。
【0029】
この光検出器13は、検出用導波路14の2つの導波部40,41からそれぞれ出力される光による干渉光を検出すべく、導波部40,41からそれぞれ出力される光が重なりあう位置に設けられる。本実施形態では、図1に示すように、リング形状の光共振器12の内側であって、検出用導波路14と励起用光源15との間に設けられている。
【0030】
また、光検出器13は、基板11の一面に設けられたガイド部16により、基板11に対して所定位置に位置決めされるようになっている。本実施形態では、ガイド部16が、クラッド20同様、基板11の一面上に設けられた二酸化シリコンをパターニングすることで構成されている。このガイド部16は、基板11の一面に沿う形状が略L字状とされ、一対のガイド部16が、光検出器13を構成する基板30の対角位置に設けられている。なお、ガイド部16としては、基板11の一面から突出するものに限定されない。例えば、基板11を一面側からエッチングしてなる凹部をガイド部16としても良い。
【0031】
励起用光源15は、光共振器12内でレーザ発振すべく、励起光を光共振器12に出力するものである。本実施形態では、励起用光源15として半導体レーザを採用している。本実施形態では、図1に示すように、励起用光源15も、リング形状の共振器12の内側に設けられている。
【0032】
このように構成される光ジャイロ10では、励起用光源15からの光が光共振器12の導波路に入射されると、光共振器12内にレーザ発振が生じ、光共振器12内を時計回りで伝搬する光CWと、反時計回りで伝搬する光CCWが生じる。これら光CW,CCWは、光検出器13の位置において重なり合い、干渉縞を形成する。光CW,CCWは、光ジャイロ10が回転するとサニャック効果を受けるので、これにより干渉光のパターン(干渉縞)が光検出素子31の配列方向においてシフトする。したがって、例えば配列方向におけるシフト量により角速度を検出し、シフト方向により回転方向を検出することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る光ジャイロ10の、主たる特徴部分について説明する。
【0034】
本実施形態では、図4に示すように、検出用導波路14が、時計回りの光CW用の導波部40と反時計周りの光CCW用の導波部41を有している。そして、各導波部40,41の出力端40a,41aから出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの導波部40,41が配置されている。
【0035】
ここで、出力端40a,41aから出力される光のなす角について詳細に説明する。図4に示す符号40b,41bは、各導波部40,41の出力端40a,41a付近での光軸を示す。出力端40a,41aから出力される光は、光軸40b,41bを中心として広がる。光軸40b,41bのなす角をθ度、出力される光の広がり角をともにβ度とすると、出力端40a,41aから出力される光のなす角は、図4に示すように(β+θ)度となる。なお、広がり角βは、光強度が最大値の1/2となる角度である。
【0036】
図5は、出力端40a,41aから出力される光のなす角(β+θ)と干渉縞の周期との関係を示す図である。図5では、後述する角度αを0度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図5に示すように、出力端40a,41aから出力される光のなす角(β+θ)が1度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光のなす角(β+θ)が1度以下においては、1度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0037】
また、図4に示すように、2つの導波部40,41の光軸40b,41bを線対称の関係とする基準軸14aに対し、光検出器13における光検出素子31が配列された配列方向のなす角αが、0度よりも大きく40度以下となるように配置されている。
【0038】
図6は、基準軸14aに対する光検出器13の角度αと干渉縞の周期との関係を示す図である。図6では、上記した角度(β+θ)を1度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図6に示すように、基準軸14aに対する光検出器13の角度αが40度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光検出器13の角度αが40度以下においては、40度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0039】
以上より、本実施形態では、上記した2つの条件をともに満たすので、時計回りの光CWと反時計回りの光CCWによる干渉縞の周期を大きくすることができる。このように干渉縞の周期を大きくすると、光検出器13上において干渉縞のパターンが明確となるので、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、干渉縞の周期が大きいため、干渉縞の周期以上とならない範囲で光検出素子31の周期Dも大きくすることができる。このため、光検出器13を形成しやすい。
【0040】
また、同一の基板11上に、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14、励起用光源15を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一の基板11上に集積するため、光ジャイロ10の体格を小型化することもできる。
【0041】
次いで、本実施形態では、光共振器12を構成する導波路のコア21とクラッド20との屈折率差が0より大きく0.1以下となっている。
【0042】
図7に示すように、光共振器12を構成する導波路のコア21の端部(表面)での光強度をIaとすると、光強度Iaから光強度がIaの1/2となる範囲までを、コア21から光がしみ出した量とする。図8に示すように、コアとクラッドとの屈折率差が0.1よりも大きいと、屈折率差によって光のしみ出し量は殆ど変化せず、小さい値となっている。一方、屈折率差が0.1以下においては、屈折率差が0.1より大きい場合に較べて屈折率差による光のしみ出し量の変化量が大きく、屈折率差が小さいほどしみ出し量が大きくなっている。
【0043】
光共振器12の導波路から検出用導波路14にしみ出す光(エバネッセント波)の量は、光共振器12を構成する導波路の内側面(内周面)のほうが外側面(外周面)より少ない。これに対し、本実施形態によれば、コア21とクラッド20との屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、光共振器12を構成する導波路全体からしみ出す光の量を増加させることができる。このため、光共振器12を構成する導波路の内側面からしみ出す光の量も増加する。したがって、コア21とクラッド20との屈折率差が0.1よりも大きい構成に較べて、消費電力を低減することができる。また、光共振器12を構成する導波路の内側に光検出器13及び検出用導波路14を配置して、光ジャイロ10の体格を小型化しつつ、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。
【0044】
次に、本実施形態に係る光ジャイロ10の、その他の特徴部分について説明する。
【0045】
本実施形態では、リング形状の光共振器12の内側に、検出用導波路14及び光検出器13が配置されており、検出用導波路14が、光共振器12を構成する導波路の内側面から光検出器13へ光を導くようになっている。このため、リング形状の光共振器12の外側に検出用導波路14及び光検出器13が配置される構成に較べて、光ジャイロ10の体格を小型化することができる。特に本実施形態では、励起用光源15についても、リング形状の光共振器12の内側に配置するため、励起用光源15を備える構成において、光ジャイロ10の体格をより小型化することができる。
【0046】
また、本実施形態では、導波路(光共振器12及び検出用導波路14)が形成される基板11とは別の基板30に光検出器13が構成されている。そして、基板11の一面に設けられた位置決め用のガイド部16により、光検出器13が基板11に対して位置決めされ、この位置決め状態で光検出器13が基板11に実装されている。このように、ガイド部16を用いるため、基板11とは別の基板30に光検出器13が構成されながらも、光共振器12及び検出用導波路14が構成された基板11に光検出器13を精度良く位置決めし、実装することができる。特に本実施形態では、導波路を構成するクラッド20と同一材料を用いてガイド部16を形成するため、製造工程の増加を抑制することもできる。
【0047】
(第2実施形態)
第1実施形態では、検出用導波路14の出力端40a,41aから出力された光を、他の光学素子を介さずに光検出器13に照射する例を示した。これに対し、本実施形態では、図9に示すように、検出用導波部14を構成する2つの導波部40,41の出力端40a,41aに、該出力端40a,41aから出力される光を平行光とするレンズ40c,41cがそれぞれ設けられており、各レンズ40c,41cから出力される平行光を光検出器13に照射する。そして、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、レンズ40c,41cを含んで2つの導波部40,41が配置されている点を特徴とする。
【0048】
ここで、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角について詳細に説明する。出力端40a,41aから出力される光は、導波部40,41の光軸40b,41bを中心として広がり、レンズ40c,41cにて平行光とされる。このため、レンズ40c,41cから出力される光のなす角は、導波部40,41の光軸40b,41bのなす角θと一致する。
【0049】
図10は、各レンズ40c,41cから出力される平行光のなす角θと干渉縞の周期との関係を示す図である。図10では、角度αを0度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図10に示すように、平行光のなす角θが1度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、平行光のなす角θが1度以下においては、1度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0050】
また、本実施形態においても、図9に示すように、2つの導波部40,41の光軸40b,41bを線対称の関係とする基準軸14aに対し、光検出器13における光検出素子31が配列された配列方向のなす角αが、0度よりも大きく40度以下となるように配置されている。
【0051】
図11は、基準軸14aに対する光検出器13の角度αと干渉縞の周期との関係を示す図である。図11では、上記した角度θを1度、波長を900nmとしたときの結果を示している。図11に示すように、基準軸14aに対する光検出器13の角度αが40度よりも大きいと、角度によって干渉縞の周期は殆ど変化せず、周期も小さい値となっている。一方、光検出器13の角度αが40度以下においては、40度より大きい場合に較べて角度による干渉縞の周期の変化量が大きく、角度が小さいほど干渉縞の周期が大きくなっている。
【0052】
以上より、本実施形態では、上記した2つの条件をともに満たすので、時計回りの光CWと反時計回りの光CCWによる干渉縞の周期を大きくすることができる。このように干渉縞の周期を大きくすると、光検出器13上において干渉縞のパターンが明確となるので、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、干渉縞の周期が大きいため、干渉縞の周期以上とならない範囲で光検出素子31の周期Dも大きくすることができる。このため、光検出器13を形成しやすい。
【0053】
また、同一の基板11上に、光共振器12、光検出器13、検出用導波路14、励起用光源15を備えるため、相対的な位置関係のばらつきを抑制することができる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、同一の基板11上に集積するため、光ジャイロ10の体格を小型化することもできる。
【0054】
また、レンズ40c,41cよって光を平行光とするため、集光する構成に較べて干渉縞を検出しやすくなる。これによっても、移動する物体の角速度及び回転方向を精度良く検出することができる。また、第1実施形態に示す構成に較べて、光検出器13に光が当たりやすくなるため、消費電力を低減することもできる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0056】
本実施形態では、励起用光源15からの光を用いて光共振器12内でレーザ発振させ、時計回りで伝搬する光CWと反時計回りで伝搬する光CCWを生じさせる例を示した。しかしながら、光CWと反時計回りで伝搬する光CCWを生じさせる構成は、上記例に限定されるものではない。例えば、光共振器12のコア21を化合物半導体で構成するとともに、基板11の一面側表層にpn接合部を設けて電流を流し、これにより、光共振器12の導波路内にキャリアを注入してレーザ発振させても良い。また、光共振器12を構成するリング形状の導波路の一部に半導体レーザを設けても良い。
【0057】
本実施形態では、光共振器12のリング形状の導波路の内側に、光検出器13、検出用導波路14が配置される例を示した。しかしながら、光共振器12のリング形状の導波路の外側に、光検出器13、検出用導波路14が配置された構成としても良い。また、励起用光源15も、光共振器12のリング形状の導波路の外側に配置することができる。
【符号の説明】
【0058】
10・・・光ジャイロ
11・・・基板
12・・・光共振器
13・・・光検出器
14・・・検出用導波路
14a・・・基準軸
20・・・コア
21・・・クラッド
31・・・光検出素子
40,41・・・導波部
CW・・・時計回りで伝搬する光
CCW・・・反時計回りで伝搬する光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング形状の導波路を有する光共振器と、
一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、
前記光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、前記光共振器から前記光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備え、
前記検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの前記導波部が配置され、
前記光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの前記導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、前記光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように、前記検出用導波路に対して配置されていることを特徴とする光ジャイロ。
【請求項2】
2つの前記導波部の出力端に、該出力端から出力される光を平行光とするレンズがそれぞれ設けられ、
前記平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、前記レンズを含んで2つの前記導波部が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光ジャイロ。
【請求項3】
リング形状の前記光共振器の内側に、前記検出用導波路及び前記光検出器が配置され、
前記検出用導波路は、前記光共振器を構成する導波路の内側面から前記光検出器へ導くことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ジャイロ。
【請求項4】
前記光共振器を構成する導波路のコアとクラッドとの屈折率差が0より大きく0.1以下であることを特徴とする請求項3に記載の光ジャイロ。
【請求項5】
前記光検出器は、前記基板に実装され、
前記基板は、前記光検出器の実装面に、前記光検出器を位置決めするためのガイド部を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の光ジャイロ。
【請求項1】
リング形状の導波路を有する光共振器と、
一方向に配列された複数の光検出素子を有する光検出器と、
前記光共振器内を時計回り及び反時計回りで伝搬する光を、前記光共振器から前記光検出器へ導く検出用導波路と、を同一の基板上に備え、
前記検出用導波路は、時計回りの光用の導波部と反時計周りの光用の導波部を有し、各導波部の出力端から出力される光のなす角が、0度よりも大きく1度以下となるように、2つの前記導波部が配置され、
前記光検出器は、各導波部の出力端から出力される光が重なりあう位置であって、2つの前記導波部の光軸を線対称の関係とする軸と、前記光検出素子が配列された配列方向とのなす角が、0度よりも大きく40度以下となるように、前記検出用導波路に対して配置されていることを特徴とする光ジャイロ。
【請求項2】
2つの前記導波部の出力端に、該出力端から出力される光を平行光とするレンズがそれぞれ設けられ、
前記平行光のなす角が0度よりも大きく1度以下となるように、前記レンズを含んで2つの前記導波部が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光ジャイロ。
【請求項3】
リング形状の前記光共振器の内側に、前記検出用導波路及び前記光検出器が配置され、
前記検出用導波路は、前記光共振器を構成する導波路の内側面から前記光検出器へ導くことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ジャイロ。
【請求項4】
前記光共振器を構成する導波路のコアとクラッドとの屈折率差が0より大きく0.1以下であることを特徴とする請求項3に記載の光ジャイロ。
【請求項5】
前記光検出器は、前記基板に実装され、
前記基板は、前記光検出器の実装面に、前記光検出器を位置決めするためのガイド部を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の光ジャイロ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−122815(P2012−122815A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272906(P2010−272906)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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