光スキャナ
【課題】駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とを提供すること。
【解決手段】第1軸線を中心として揺動可能な揺動部分と、揺動部分の両側に連結される一対の捩れ梁部分と、一対の捩れ梁部分の他端に連結される本体部分と、を有する平板状の構造体と、揺動部分を揺動可能に構成される駆動部と、構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備える光スキャナである。揺動部分は、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、揺動部分から第1軸線に沿って延出し、構造体を含む面に平行且つ第1軸線に沿う方向に交差する第2方向の長さが、一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む。
【解決手段】第1軸線を中心として揺動可能な揺動部分と、揺動部分の両側に連結される一対の捩れ梁部分と、一対の捩れ梁部分の他端に連結される本体部分と、を有する平板状の構造体と、揺動部分を揺動可能に構成される駆動部と、構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備える光スキャナである。揺動部分は、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、揺動部分から第1軸線に沿って延出し、構造体を含む面に平行且つ第1軸線に沿う方向に交差する第2方向の長さが、一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ等の光を走査する光スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、揺動するミラーによりレーザ光などの光を走査する光スキャナが知られている。光スキャナの例として、捩れ梁部で揺動可能に支持されたミラーが、圧電素子などの駆動部によって揺動されるものが挙げられる。ミラーが揺動すると、ミラーには動的な歪が生じる。この動的な歪みを低減するために、特許文献1には、反射面を有する補強部を、捩れ梁部によって支持される基盤部に対して接着する構成が開示される。特許文献1において、補強部の平面視形状は、基盤部の平面視形状と同一に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らによって、共振周波数にて駆動される光スキャナにおいて補強部と基盤部とが同一平面視形状に形成される場合、光スキャナを駆動する時間に依存して、共振周波数が低下する傾向が発見された。駆動時間に依存して共振周波数が低下すると、光スキャナを製造し、製品に組み込んだ後で、光スキャナの共振周波数が低下することとなる。例えば、光スキャナが走査型画像表示装置に用いられる場合、光スキャナの共振周波数に合わせて画像光の強度変調が行われる。この場合、光スキャナが製品に組み込まれた後の共振周波数の低下は、画像が正しく表示されなくなる事態を生じる可能性がある。また、光スキャナがレーザプリンタに用いられる場合も、光スキャナの共振周波数に合わせて印刷のためのレーザの強度変調が行われる。そのため、製品に組み込んだ後の共振周波数の低下は、印刷される画質の低下を招く可能性がある。
【0005】
本発明は、補強部を有する光スキャナにおいて、駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、第1軸線を中心として揺動可能に構成され、前記第1軸線に対して線対称に形成される揺動部分と、その一端が前記揺動部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行な第1方向に前記揺動部分から延出する一対の捩れ梁部分と、前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記揺動部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、を有する平板状の構造体と、駆動電圧が印加されることで前記構造体に対して周期的に力を与え、前記揺動部分を前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、前記構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、前記揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備え、前記揺動部分は、前記揺動部分と前記一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、前記揺動部分から前記第1方向に延出し、前記構造体を含む面に平行且つ第1方向に直交する第2方向の長さである第1長さが前記一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、前記ミラー部と前記揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む、ことを特徴とする光スキャナである。
【0007】
本発明者らの解析の結果、揺動部分が揺動する際に、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に、最も応力が集中することが分かった。本発明の一側面に係る光スキャナでは、ミラー部が、揺動部分の一方の面に固定される。そのため、仮に特許文献1のように、補強部と揺動部分とが同一平面視形状に形成される場合、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に対しても、ミラー部が固定されている。換言すれば、特許文献1に開示の光スキャナでは、ミラー部と揺動部分との固定位置が、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に一致する。そのため、光スキャナの駆動時に揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に集中する応力が、ミラー部と揺動部分との固定位置にも働くこととなる。ミラー部と揺動部分との固定位置にこの応力が働き続けることによって、ミラー部と揺動部分との固定状態が徐々に変化(例えばミラー部が剥離)する可能性がある。駆動時間に依存した共振周波数の低下は、このような固定状態の変化が原因の一つとして考えられる。なお、ミラー部は特許文献1における補強部に相当し、揺動部分は特許文献1における基板部に相当する。
【0008】
本発明の一側面に係る光スキャナにおいて、揺動部分は、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む。具体的には、応力緩和構造は、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられる。応力緩和構造は、揺動部分から揺動の中心軸である第1軸線に平行な第1方向に延出する。応力緩和構造は、構造体を含む面に平行且つ第1方向に直交する第2方向において、一対の捩れ梁部分よりも幅広な第1長さを有する。この応力緩和構造により、ミラー部と揺動部分との固定位置が、応力が集中する位置である揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置から離間される。離間することでミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が低減され、ミラー部と揺動部分との固定状態の変化が防止される。従って、光スキャナの駆動時間に依存した共振周波数の低下を防止することが可能となる。
【0009】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における端部から延出し、前記揺動部分から離間するに従い前記第1長さが小さくなるテーパー状に形成されてもよい。
【0010】
応力緩和構造は、揺動部分の第2方向における端部から延出する。揺動部分のサイズが予め決まっていれば、応力緩和構造の形状を決定する変数としては、第1方向における長さだけを設定すればよい。そのため、少ない試行錯誤の回数で、適切な応力緩和構造の形状を決定することが可能となる。即ち、設計上導入が容易となる。
【0011】
また、前記応力緩和構造は、前記応力緩和構造の前記第1方向における長さである第2長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第2長さを有してもよい。
【0012】
応力緩和構造によって、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力が緩和される。このとき、応力緩和構造が小さすぎると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力を十分に低減できない可能性がある。そこで、応力緩和構造の第2長さは、第2長さの変動に対して固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定される。従って、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0013】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第1方向における長さに対する、前記第2長さの比が、0.2以上0.4以下となるように形成されてもよい。
【0014】
後記する図13に示されるように、揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.2」以上であれば、第2長さの変動に対して、固定位置に働く応力の変動が緩やかになり、十分な応力の低減が可能になる。一方、図14に示されるように、共振周波数の低下を防止するという観点からは、第2長さは小さいほど望ましい。揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.4」以上の場合は、第2長さが増加しても応力は殆ど変わらない。そのため、応力の低減と共振周波数の低下防止という両観点を両立するためには、揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.2」以上「0.4」未満となることが望ましい。
【0015】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分から前記第1方向に沿って延出する第1辺と、前記第1辺の前記揺動部分と反対側の端部に接続され、前記第2方向に沿って前記一対の捩れ梁に向かって伸長する第2辺とを含んでよい。
【0016】
応力緩和構造は、第1辺と第2辺とを有する。即ち、応力緩和構造の形状を決定する変数としては、第1辺と第2辺との2つの形状を設定する必要がある。従って、応力緩和構造が取りうる形状の自由度が増し、より最適に近い応力緩和構造の形状に近づける設計が可能となる。
【0017】
また、前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第1長さを有してもよい。
【0018】
応力緩和構造によって、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力が緩和される。このとき、応力緩和構造が小さすぎると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力を十分に低減できない可能性がある。そこで、応力緩和構造の第1長さは、第1長さの変動に対して固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定される。従って、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0019】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.4以上1以下となるように形成されてもよい。
【0020】
応力緩和構造の第1長さが変化すると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が変化する。後記する図5に示されるように、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0」(応力緩和構造が存在しない場合)から大きくなるに従い、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が減少する。そして、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.4」以上では、応力の減少は緩やかになる。従って、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.4」以上「1」以下となるように応力緩和構造を形成することで、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0021】
さらに、前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記光スキャナの共振周波数の値が飽和する値に設定された前記第1長さを有してもよい。
【0022】
応力緩和構造が大きくなると、揺動部分の質量が増加することにより、揺動部分が揺動する際の慣性モーメントが増加する。慣性モーメントの増加は、共振周波数の低下に繋がる。そこで、応力緩和構造の第1長さは、第1長さの変動に対して揺動部分の揺動における共振周波数の値が飽和する値に設定される。従って、応力緩和構造によってミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減を行う際に、共振周波数の低下が防止できる。
【0023】
さらに、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.6以下となるように形成されてもよい。
【0024】
応力緩和構造の第1長さが変化すると、光スキャナの共振周波数の値が変化する。後記する図6に示されるように、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0」(応力緩和構造が存在しない場合)から「0.6」程度までは、共振周波数の値は略一定となる。一方、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.6」より大きい場合、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が増加するに伴い、共振周波数の値は減少する。従って、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.6」以下となるように応力緩和構造を形成することで、応力緩和構造によってミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減を行う際に、共振周波数の低下が防止できる。
【0025】
さらに、前記ミラー部は、前記構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成され、デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いて、前記揺動部分の一方の面に固定されてもよい。
【0026】
これによれば、ミラー部は、構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成される。ミラー部と揺動部分とが熱硬化性接着剤で固定される場合、接着剤の硬化時に熱が印加される。ミラー部と構造体との線膨張係数が異なるため、両者が加熱された状態で接着剤によって固定されると、常温に戻った際に線膨張係数の差に起因して両者の縮小量に差が生じる。この縮小量の差によって、応力がミラー部に発生する。この応力によって、ミラー部に静的歪みが発生する。ミラー部の静的歪みの量が大きくなると、入射光が反射される際に入射光の波面が乱れ、光学性能の低下に繋がる。そのため、ミラー部の静的歪みの量は小さいほどよい。後記する図7に示されるように、接着剤のデュロメータ硬度が高くなるほど、ミラー部130の変形量(=静的歪み)が大きくなる。図7から明らかに、接着剤のデュロメータ硬度がD65よりも大きい場合、ミラー部に変形が生じる。一方で、接着剤のデュロメータ硬度がD65以下の場合、ミラー部に変形は殆ど生じない。従って、デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いてミラー部が揺動部分の一方の面に固定されることで、ミラー部の静的歪みを抑えることが可能となる。
【0027】
さらに、前記揺動部分の他方の面と、前記揺動部分の一方の面であって前記ミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられ、前記構造体の共振周波数を調整する質量片をさらに備えてもよい。
【0028】
これによれば、光スキャナの共振周波数を調整する質量片が、揺動部分の他方の面と、揺動部分の一方の面であってミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられる。従って、質量片がミラー部への入射光を遮蔽することなく、光スキャナの共振周波数を調整できる。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の他の側面は、上記した何れかの光スキャナを準備する準備工程と、前記光スキャナの共振周波数の値を決定する振動数決定工程と、前記決定工程において決定された前記共振周波数の値と、目標とする共振周波数の値とに基づいて、前記質量片が設けられる前記揺動部分上の位置を決定する位置決定工程と、前記位置決定工程において決定された前記揺動部分上の位置に対して、前記質量片を付加する付加工程とを備えることを特徴とする光スキャナの製造方法である。
【0030】
これにより、準備された光スキャナの共振周波数を、目標とする共振周波数に合わせこむことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、補強部を有する光スキャナにおいて光スキャナの駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る光スキャナ100の斜視図。
【図2】比較例に係る光スキャナ500の斜視図。
【図3】応力緩和構造111aを有する場合(実施形態)と、有さない場合(比較例)とにおける、測定回数ごとの共振周波数の変化を説明する図。
【図4】光スキャナ100の平面図。
【図5】応力緩和構造111aの左右及び前後方向の幅を変化させた場合における、ミラー部130と揺動部分111との固定位置における応力の変化を説明する図。
【図6】応力緩和構造111aの左右及び前後方向の幅を変化させた場合における、光スキャナ100の共振周波数の変化を説明する図。
【図7】ミラー部130と揺動部分111とを固定する熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度を変化させた場合における、ミラー部130の変形量の変化を説明する図。
【図8】光スキャナ100の共振周波数を調整する工程を説明する図。
【図9】光スキャナ100の作成工程を説明する図。
【図10】(A)目標共振周波数と光スキャナ100の共振周波数との差分に対し、質量片140の付加量及び付加位置とを対応付けたテーブル、(B)光スキャナ100における質量片140の付加位置を説明する図。
【図11】第2実施形態に係る光スキャナ200の斜視図。
【図12】光スキャナ200の平面図。
【図13】応力緩和構造211aの前後方向の幅を変化させた場合における、ミラー部130と揺動部分211との固定位置における応力の変化を説明する図。
【図14】応力緩和構造211aの前後方向の幅を変化させた場合における、光スキャナ200の共振周波数の変化を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
[光スキャナ100の構成]
以下に図面を参照しつつ、本発明の一側面を反映した第1実施形態を示す。図1に示されるように、光スキャナ100は、構造体110と、台座120とを有する。ミラー部130は、圧電素子114によって、第1軸線sを中心軸として揺動する。この揺動によって、ミラー部130に入射した光は走査される。
【0034】
構造体110は、前後方向に平行な一対の短辺と、左右方向に平行な一対の長辺とから構成される、平面視矩形の板状構造である。なお、前後方向は第1軸線sに平行である。構造体110は、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113を有する。本体部分113の一方の面(例えば、上面)には、圧電素子114が設けられる。本実施形態では、構造体110は、ステンレスやチタンなどの金属材料によって構成される。但し、構造体110は、シリコンなどの半導体材料によって形成されてもよい。なお、構造体110は、図1において、前後左右面に平行である。また、構造体110の前後方向、左右方向、上下方向のサイズは、例えば、それぞれ20mm、30mm、0.1mm程度である。
【0035】
揺動部分111の上面には、レーザ等の光を反射するミラー部130が固定される。平面視矩形のミラー部130は、サファイヤやダイヤモンドなどの誘電体によって構成される。そのため、ミラー部130は、揺動部分111と線膨張率が異なる。ミラー部130の上面又は下面には、レーザ等の光を反射するために、スパッタリングや蒸着などの方法で金属薄膜が成膜される。揺動部分111とミラー部130との固定は、例えばエポキシ系、フェノール系、シリコン系などの熱硬化性接着剤によって行われる。揺動部分111及びミラー部130は、第1軸線sに対して線対称に設けられる。
【0036】
揺動部分111は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造111aを含む。応力緩和構造111aは、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置に設けられる。換言すれば、応力緩和構造111aは、揺動部分111から、第1方向の一例である前後方向に延出する。応力緩和構造111aの左右方向の幅は、一対の捩れ梁部分112の左右方向の幅よりも大きい。応力緩和構造111aは左右方向に幅広に構成されるので、前後方向の単位長さ辺りの面積に着目すると、応力緩和構造111aの前後方向の単位長さ辺りの面積は、一対の捩れ梁部分112の前後方向の単位長さ辺りの面積よりも大きい。具体的には、応力緩和構造111aは、第1辺と第2辺とを有する平面視矩形に形成される。第1辺は、揺動部分111から前後方向に沿って延出する辺である。第2辺は、第1辺の揺動部分111と反対側の端部に接続され、左右に沿って一対の捩れ梁112に向かって伸長する辺である。そして、応力緩和構造111aは、孔などの空隙を有さずに、連続体として、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112とを繋ぐ。応力緩和構造111aは、第1軸線sが一対の捩れ梁部分112の中心線に十分一致するように、線対称に形成される。なお、ミラー部130と揺動部分111との固定位置とは、前後方向において、ミラー部130が上面に載っていない揺動部分111の位置と、ミラー部130が上面に載っている揺動部分111の位置との境界部分に対応する。また、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置とは、前後方向において、一対の捩れ梁部分112の左右方向の幅が拡がる部分、即ち、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置との境界部分に対応する。
【0037】
一対の捩れ梁部分112の一端は、揺動部分111の前後方向における両側にそれぞれ連結される。一対の捻れ梁部分112は、前後方向に平行に揺動部分111から延出する。ここで、第1軸線sは、一対の捩れ梁部分112の中心を通る。一対の捩れ梁部分112によって、揺動部分111は、第1軸線s回りに揺動可能に弾性的に支持される。つまり、一対の捩れ梁部分112は、揺動部分111を第1軸線s回りに揺動可能に支持するトーションバーとしての役割を持っている。
【0038】
本体部分113は、一対の捩れ梁部112の他端に連結され、揺動部分111から離間し、且つ第1軸線sに交差する方向に延出する。本実施形態では、本体部分113は、一対の捩れ梁部112との連結部分から左右方向の両側へと延出する。本体部分113は、被固定部分113aを有する。被固定部分113aは、一対の捩れ梁部分112及び揺動部分111を挟んで、一対設けられる。本実施形態では、本体部分113の前後方向における端部に、左右方向に沿って矩形の貫通孔Aが一対設けられる。前後方向において、この貫通孔Aよりも揺動部分111から遠い位置に存在する本体部分の領域が、被固定部分113aである。この被固定部分113aにおいて、構造体110と台座120とが固定される。
【0039】
本体部分113の上面には、駆動部としての圧電素子114が設けられる。圧電素子114は、本体部分113の前後方向おける中間位置であって、左右方向における両端部に、一対設けられる。圧電素子114は、例えば、厚さ30μm〜100μmの平板状に成形されたチタン酸ジルコン酸鉛などの圧電材料の両面に対して、電極層として金や白金等を0.2μm〜0.6μm積層することで形成される。圧電素子114と本体部分113とは、導電性接着剤で接着される。そして、圧電素子114の上面に、ワイヤボンディングなどで金などの金属細線(非図示)が接続される。
【0040】
応力緩和構造111aの上面には、質量片140が設けられる。質量片140は、第1軸線sに対して線対称となる位置に設けられる。質量片140は、第1軸線sを中心とした、揺動部分111の揺動時の慣性モーメントを増加させる機能を有する。質量片140が設けられる位置は、応力緩和構造111aの上面に限定されない。慣性モーメントを調整することで、光スキャナ100の共振周波数が所望の値となるように、質量片140が設けられる位置は適宜変更される。なお、質量片140は、アクリル系,エポキシ系,シリコン系等の接着剤が用いられてよい。質量片140の比重上昇や密着性向上のため、これらの接着剤に対して添加物が付加されてもよい。また、質量片140は、紫外線、加熱、湿度等の印加によって硬化される。なお、揺動部111の熱による歪や、工程の最適化を考慮すると、紫外線硬化型の接着剤が質量片140として用いられるのが望ましい。
【0041】
台座120は、左右方向に伸びる一対の柱状部材で構成される。台座120は、構造体110の被固定部分113aの下面に固定される。台座120の前後方向の幅は、被固定部分113aの前後方向の幅と同一又はそれ以下に設定される。台座120の上下方向の厚みは、構造体110の上下方向の厚みに比べて十分に大きく、例えば1mm程度である。そのため、構造体110が揺動しても、台座120は、殆ど変形しない。換言すれば、光スキャナ100が駆動される場合、被固定部分113aは台座120と一体として殆ど変形せず、一対の貫通孔Aの前後方向における内側の構造体110の部分が揺動する。台座120は、例えば、ステンレス等の金属材料によって構成される。
【0042】
[光スキャナ100の駆動]
構造体110は金属で形成されるので、構造体110と圧電素子114の上面に接続された金属細線との間に電圧を印加することで、圧電素子114を変形させることが可能となる。右側に設けられる圧電素子114と左側に設けられる圧電素子114とには、逆位相となるように交流電圧(駆動信号)がそれぞれ印加される。この交流電圧の周波数が、光スキャナ100の共振周波数に相当する場合、圧電素子114の変形に伴い、本体部分114に板波が励起される。この板波が、本体部分113及び一対の捩れ梁部分112を介して揺動部分111に伝達されることで、揺動部分111は、所定の共振周波数において第1軸線s回りに揺動する。ここで、構造体110は、被固定部分113aにおいて台座120に固定され、被固定部分113aに挟まれる本体部分113は、台座120によって宙に浮いた状態となっている。そのため、光スキャナ100の駆動時に、本体部分113は上下方向に変位する。しかし、捩れ梁部分112は、本体部分113の振動の節となる位置に設けられるので、本体部分113が上下方向に変位しても、捩れ梁部分112は、上下方向への変位が抑制される。なお、交流電圧の周波数は、光スキャナ100の共振周波数に厳密に一致しなくても差し支えない。光スキャナ100のQ値に応じて、交流電圧の周波数は、光スキャナ100の共振周波数からオフセットされても差し支えない。
【0043】
[共振周波数の駆動時間依存性]
本発明では、ミラー部130を有する光スキャナ100において、応力緩和構造111aのおかげで、駆動時間に依存して共振周波数が低下することが防止される。応力緩和構造111aの効果を確認するため、比較例として、応力緩和構造111aを有さない光スキャナ500が作成された。
【0044】
光スキャナ500は、光スキャナ100と比較して、構造体510の構成において異なる。より具体的には、揺動部分511に応力緩和構造111aが設けられていない点において、光スキャナ500は、光スキャナ100に相違する。換言すれば、光スキャナ500において、揺動部分511は、ミラー部130と平面視において同一形状に形成される。なお、光スキャナ500において、光スキャナ100と共通の構成は、光スキャナ100と同一の番号を付与することで、説明を省略する。
【0045】
図3を参照して、応力緩和構造111aの効果を説明する。図3における横軸は、光スキャナの共振周波数を測定した回数を表す。測定回数を重ねる度に、光スキャナの累積駆動時間は増加する。即ち、図3の横軸は、光スキャナの製造完了からの駆動時間に対応している。図3における縦軸は、各測定回数における共振周波数を、初回の共振周波数で除算した割合を示す。図3において、四角と実線で示されるデータは、光スキャナ100の実測データである。図3において、菱形と破線で示されるデータは、光スキャナ500の実測データである。
【0046】
光スキャナ100の共振周波数は、測定回数を重ねても、殆ど変化しない。一方で、光スキャナ500の共振周波数は、測定回数を重ねるごとに、徐々に減少する。この結果から、応力緩和構造111aが設けられることによって、光スキャナ100においては、駆動時間に依存して共振周波数が低下することが防止されていることが分かる。
【0047】
駆動時間に依存して共振周波数が低下する原因は、必ずしも明らかになっていない。ただ、前記したように、揺動部分が揺動する際に、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に、最も応力が集中することは事実である。仮説として、この応力が揺動部分とミラー部との固定位置に作用することにより、揺動部分とミラー部との固定状態が変化すること(例えば接着剤の剥離など)が、駆動時間に依存して共振周波数が低下する原因の一つとして考えられる。
【0048】
光スキャナ500では、揺動部分500とミラー部130との固定位置は、前後方向において、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置に一致する。そのため、光スキャナ500では、揺動部分511と一対の捩れ梁部分112との接続位置に働く応力は、そのままミラー部130と揺動部分111との固定部分に作用する。一方で、光スキャナ100では、応力緩和構造111aが設けられることで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置が、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置から離間される。従って、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力が低減され、ミラー部130と揺動部分111との固定状態の変化が防止される。その結果、応力緩和構造111aが設けられる光スキャナ100においては、駆動時間に依存した共振周波数の低下が防止される。
【0049】
[応力緩和構造111aの検討]
応力緩和構造111aが設けられる光スキャナ100においては、応力緩和構造111aが設けられない光スキャナ500と比較して、駆動時間に依存した共振周波数の低下が防止される。ここでは、応力緩和構造111aの望ましい形態を検討する。
【0050】
図4を用いて、応力緩和構造111aの形状を説明する。揺動部分111の左右方向における長さ及び応力緩和構造111aの左右方向における長さは、それぞれMx及びXと標記される。なお、揺動部分111の左右方向における長さとは、一対の捩れ梁部分112からの揺動部分111の左右方向における端部までの長さのことである。同様に、応力緩和構造111aの左右方向における長さとは、一対の捩れ梁部分112からの応力緩和構造111aの左右方向における端部までの長さ、換言すれば、第2辺の左右方向における長さのことである。揺動部分111の前後方向の長さは、Myと標記される。前後方向において、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置からの応力緩和構造111aの長さ、換言すれば、第1辺の前後方向における長さは、Yと標記される。以下、光スキャナ100と同様の構造体110の条件(外形及び材質)において、X及びYの値をシミュレーションによって変化させることで、応力緩和構造111aの望ましい形態を検討する。
【0051】
先ず、図5を用いて、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力に焦点を当てる。図5の縦軸は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の大きさを示す。具体的には、図5の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造111aを備えた光スキャナ100におけるミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の値を、光スキャナ500におけるミラー部130と揺動部分511との固定位置に働く応力の値で除した割合を示す。図5の横軸は、Xの値をMxで除した割合を示す。図5において、Y/Myが「0」の場合、即ち応力緩和構造111aが存在しない光スキャナ500の場合が、菱形のプロットで示される。Y/Myが「0.21」、「0.42」「0.83」の場合は、四角と一点鎖線、三角と破線、丸と実線、でそれぞれ示される。
【0052】
図5から明らかに、X/Mxの値が「0」から大きくなるに従い、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力が減少する。そして、X/Mxの値がある値以上の場合、応力の減少傾向が緩やかになる。具体的には、Y/Myが「0.21」の場合、X/Mxの値が「0.2」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.2」以上の領域では、応力の値は、X/Mxに関らずほぼ一定となる。Y/Myが「0.42」の場合、X/Mxの値が「0.4」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.4」以上の領域では、応力の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。Y/Myが「0.83」の場合、X/Mxの値が「0.5」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.5」以上の領域では、応力の減少傾向が緩やかになる。Y/Myの値が大きくなるほど、応力の減少傾向が緩やかになるX/Mxの値は大きくなる傾向にある。しかし、図5を概して見た場合、全体的な傾向として、X/Mxの値が「0.4」以上の場合、応力の減少傾向が飽和していると言える。即ち、X/Mxの値を、X/Mxの値の変動に対して、応力の値の変動量が飽和する値に設定することで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。応力の値の変動量が飽和する値とは、例えば、X/Mxの値が「0.4」以上「1」以下の範囲である。
【0053】
次に、図6を用いて、光スキャナ100の共振周波数に焦点を当てる。図6の縦軸は、光スキャナ100の共振周波数の大きさを示す。具体的には、図6の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造111aを備えた光スキャナ100における共振周波数の値を、光スキャナ500における共振周波数の値で除した割合を示す。図6の横軸は、図5の場合と同様に、Xの値をMxで除した割合を示す。図6において、Y/Myのそれぞれの値に対して適用されるシンボルは、図5の場合と同様である。
【0054】
図6から明らかに、X/Mxの値が「0」から大きくなるに従い、光スキャナ100の共振周波数が減少する。具体的には、X/Mxの値がある値以下では、共振周波数は略一定に振舞う。そして、X/Mxの値がある値を超えると、共振周波数はX/Mxの増加に伴い減少に転じる。具体的には、Y/Myが「0.21」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は若干減少する。Y/Myが「0.42」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は減少する。Y/Myが「0.83」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxの増加にともない若干減少する。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は急激に減少する。Y/Myの値が大きくなるほど、X/Mxの値が「0.6」を超える領域における共振周波数の減少度合いは大きくなる。換言すれば、X/Mxの値が「0.6」以下の領域の場合、Y/Myの値に関らず、X/Mxの値の変動に対して、共振周波数の値は飽和していると言える。従って、X/Mxの値が「0.6」以下の場合、共振周波数の低下が防止できる。
【0055】
本実施形態では、揺動部分111とミラー部130との固定は、熱硬化性接着剤によって行われる。ミラー部130と構造体110との線膨張率が異なるので、硬化時の温度と常温との差によって熱膨張による変形量の差が生まれる。この変形量の差が応力となり、ミラー部130の静的歪みを引き起こす。ミラー部130の静的歪みの量が大きくなると、入射光が反射される際に入射光の波面が乱れ、光学性能の低下に繋がる。光スキャナ100の光学性能を維持するために、ここでは、接着剤の種類を検討する。
【0056】
[ミラー部130の固定方法の検討]
図7を用いて、実測したミラー部130の変形量を、熱硬化性接着剤の硬度に着目して説明する。図7の縦軸は、熱硬化性接着剤の硬化によって変形したミラー部130の変形量の実測値を、硬化時の温度で除した割合である。熱膨張による変形量は温度に依存するため、硬化時の温度が高くなるほど、同じ接着剤を用いてもミラー部130の変形量は大きくなる。今回、接着剤の硬度によるミラー部130の変形量への影響を調べるため、ミラー部130の変形量を硬化時の温度で除することで、硬化時の温度の違いに起因するミラー部130の変形量の差を無くしている。図7の横軸は、硬化した熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度である。なお、測定にはタイプDデュロメータを用いた。タイプDにおける値であることを示すため、図7の横軸の値は、数値の前に「D」を付与している。
【0057】
図7から明らかに、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が「D70」以上の領域では、デュロメータ硬度の値の増加に伴って、ミラー部130の変形量は増加する。一方で、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が「D60」の場合は、ミラー部130に変形は生じない。この傾向は、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が低い場合、硬化した接着剤が緩衝材の役割を果たし、ミラー部130と構造体110との線膨張率の差に起因する変形量の差を吸収するためと考えられる。即ち、デュロメータ硬度が「D65」以下の熱硬化性接着剤を用いた場合、接着剤の硬化によっては、ミラー部130に静的歪みは生じない。
【0058】
ミラーの静的歪みを防止する観点からは、硬化時にデュロメータ硬度の低い熱硬化接着剤、具体的には「D65」以下の熱硬化接着剤が、ミラー部130と揺動部分111との固定に用いられるのがよい。ここで、デュロメータ硬度の低い接着剤は、一般的に剥離強度が低い。仮に、応力緩和構造111aが設けられない光スキャナ500の場合、剥離強度の低い接着剤は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に集中する応力に耐え切れず、駆動時間の増加に伴い共振周波数の低下をより引き起こし易い。しかし、本実施形態では、応力緩和構造111aが設けられているため、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に応力は集中しない。従って、接着剤の剥離強度を気にすることなく、ミラーの静的歪みを防止するために、デュロメータ硬度の低い接着剤の使用が可能となる。
【0059】
[共振周波数の調整方法]
前記した光スキャナ100は、質量片140が設けられる位置を適切に選定することで、共振周波数の値を調整することが可能となる。以下、図8から図10を用いて、この調整方法を説明する。
【0060】
工程S11において、光スキャナ100が作成される。なお、工程S11の詳細は、図9を用いて後に説明される。
【0061】
工程S12において、作成された光スキャナ100の共振周波数が取得される。共振周波数は、光スキャナ100を実際に駆動することで実測を行う、光スキャナ100の形状に基づいて、予め定められた対応関係を利用することで決定する、などの方法で取得されてよい。共振周波数の実測は、例えばミラー部130に対して光を入射し、反射された走査光を検出することで行われる。具体例としては、走査光の移動する走査領域内に光センサが設けられ、走査光の受光に対応する出力が光センサから得られるタイミングに基づいて、共振周波数が決定される。一方、光スキャナ100の形状に基づく場合、例えば、揺動部分130や一対の捩れ梁部分112の設計値に対して、対応する共振周波数の値がシミュレーションや実測で求められる。そして、揺動部分130や一対の捩れ梁部分112のサイズの変化量に対する、共振周波数の変化量の値がシミュレーションや実測で求められる。このサイズの変化量と共振周波数の変化量との対応関係を用いて、構造体110のサイズの実測値から、光スキャナ100の共振周波数が決定される。
【0062】
工程S13において、所望の共振周波数の範囲と、工程S12において取得された光スキャナ100の共振周波数の値とが比較される。ここで、所望の共振周波数の範囲は、例えば光スキャナ100が組み込まれるプリンタやレーザディスプレイなどの製品の仕様に基づいて、予め決定されている。
【0063】
工程S14において、工程S13にて比較された結果に基づき、取得された光スキャナ100の共振周波数が、所望の共振周波数の範囲に含まれるか否かが判断される。光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲に含まれる場合(S14:Yes)、その光スキャナ100は仕様を満たすため、工程S15においてOK判定がなされる。OK判定のなされた光スキャナ100は、製品として利用される。
【0064】
光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲に含まない場合(S14:No)、工程S16において、光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも高いか否かが判断される。光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも高い場合(S16:Y)、工程S16にて、構造体110及び/又はミラー部130に対して質量片140が付加される。質量片140の付加位置及び付加量は、図10を用いて後に説明される。その後、質量片140を付加された光スキャナ100を用いて、工程S12以降が再度実行される。
【0065】
質量片140を付加することで、揺動部分111の慣性モーメントが上昇する。慣性モーメントの上昇は、光スキャナ100の共振周波数を低下させる。従って、質量片140の付加によっては、共振周波数を下げる調整のみが可能となる。そのため、光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも低い場合(S16:N)、調整が不可能であるため、NG判定がなされる(S18)。NG判定のなされた光スキャナ100は、不良品として、製品として利用されない。
【0066】
[光スキャナ100の作成]
図9を用いて、光スキャナ100の作成工程を説明する。ここでは、構造体110が金属で構成される場合を例に取り、説明を行う。先ず、工程S110において、構造体110が形成される。構造体110を構成する金属板(例えば、ステンレスやチタンなど)が、構造体110の外形と等しい大きさに分割される。そして、分割された金属板において、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113が、所定の除去加工によって形成される。所定の除去加工には、例えば、エッチング、プレス加工、放電加工、レーザ加工などが含まれる。一例として、ウェットエッチングが行われる場合、分割された金属板の、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113に対応する位置に、マスキングのためのレジスト膜が形成される。その後、ウェットエッチングによって構造体の外形が形成された後に、レジスト膜が除去される。なお、構造体の外形に比して十分大きな金属板に複数の構造体の外形が形成された後に、個々の構造体に分割される多数個取りが実行されても差し支えない。
【0067】
次に、工程S111において、予め圧電材料の両面に電極層を備えたバルクの圧電素子114が、構造体110に実装される。この実装は、例えば、エポキシ系、アクリル系、シリコン系等の合成樹脂材料に金属フィラーなどの導電材を含有する導電性接着剤を用いて行われる。具体的には、構造体110の本体部分113に塗布された導電性接着剤の上に、圧電素子114が設置される。圧電素子114の設置後、100〜200℃の雰囲気に保たれた加熱炉内に構造体110が30〜60分間装入されることによって、導電性接着剤が硬化する。以上で、圧電素子114の実装が完了する。
【0068】
次に、工程S112において、台座120が作成される。台座120の外形は、構造体110の場合と同様に、台座120の構成材料に対して、エッチングやプレスなどの除去加工を施すことで得られる。
【0069】
次に、工程S113において、台座120と構造体110とが固定される。この固定は、例えば、レーザ溶接などによって、構造体の被固定部と台座とが溶着されることで行われる。ただし、熱硬化接着剤を利用した接着や、所定の締め具を利用したクランピングなど、他の固定方法によって、構造体110と台座120とが固定されても差し支えない。
【0070】
そして、工程S114において、圧電素子114と構造体110とに対して、ワイヤボンディングによって信号線が接続される。この信号線は、非図示の交流電源に接続される。構造体110と圧電素子114とは導電性接着剤によって接着されているので、光スキャナ100の駆動時には、この信号線を介して圧電素子114と構造体110との間に交流電圧(駆動信号)が印加される。以上で、光スキャナ100の作成工程が終了する。
【0071】
[質量片140の付加]
質量片140の付加は、目標とする共振周波数(例えば、所望の共振周波数範囲の中心値)と、工程S12で取得された光スキャナ100の共振周波数との差分(離間周波数df)に対し、質量片140の付加量及び付加位置とを対応付けたテーブル(図10(A))に基づいて行われる。離間周波数dfが30Hz未満の場合、位置「C」に対して、df×65μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「C」は、図10(B)に示されるように、応力緩和構造111aの上下両面に対応する。位置「C」は、第1軸線sから比較的近い距離である。遠い距離に質量を塗布した場合に比べて周波数感度が低いため、位置「C」に質量を塗布することで、周波数の微調が可能となる。離間周波数dfが30Hz以上100Hz未満の場合、位置「B」に対して、df×43μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「B」は、図10(B)に示されるように、揺動部分111の前後方向における中心位置であって、第1軸線sから左右方向離間した揺動部分111の下面に対応する。離間周波数dfが100Hz以上の場合、位置「A」に対して、df×28μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「A」は、図10(B)に示されるように、応力緩和構造111aの第1軸線sから最も離間した上下両面、換言すれば、応力緩和構造111aの4隅に対応する。位置「A」は、第1軸線sから比較的遠い距離である。遠い距離に質量塗布した場合は周波数感度が高いため、位置「A」に質量を塗布することで、周波数を大きく調節することが可能となる。このように、離間周波数dfの値が大きいほど、第1軸線sからの離間距離が大きい位置に質量付加することで、質量片140の付加による慣性モーメントの上昇量が大きく設定されている。
【0072】
<第2実施形態>
[光スキャナ200の構成]
本発明の他の側面を反映した第2実施形態を示す。第2実施形態に係る光スキャナ200は、第1実施形態に係る光スキャナ100と比較して、揺動部分、具体的には応力緩和構造の形状において相違する。そのため、光スキャナ200において、光スキャナ100と同一の構造に対しては、同一の番号を付与することで説明が省略される。
【0073】
図11に示されるように、光スキャナ200は、構造体210と、台座120とを有する。構造体210は、揺動部分211、一対の捩れ梁部分112、本体部分113を有する。構造体210において、一対の捩れ梁部分112、本体部分113の形状は、図1に示される構造体110の場合と同一である。
【0074】
揺動部分211は、ミラー部130と揺動部分211との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造211aを含む。応力緩和構造211aは、揺動部分211と一対の捩れ梁部分112との接続位置に設けられる。具体的には、応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部から延出する。応力緩和構造211aは、前後方向において、揺動部分211から離間するに従い左右方向の幅が小さくなるように、換言すれば、テーパー状に形成される。例えば、揺動部分211に対して左後の部分に形成される応力緩和構造211aは、揺動部分211の左端から右後方向に延出し、一対の捩れ梁部分112に対して接続される。別の表現をすれば、応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部と一対の捩れ梁部分112の所定の位置とから延出し、両延出位置を概して直線的に接続する構造とも表される。
【0075】
[応力緩和構造211aの検討]
前記した第1実施形態における応力緩和構造111aでは、第1辺と第2辺との長さを調整することで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力及び共振周波数の変動が調べられた。第1実施形態では、第1辺と第2辺との長さという2つの変数が調整可能なため、設計の自由度が増し、固定位置に働く応力及び共振周波数をより精度よく設定できるという利点がある。一方で、応力緩和構造111aでは、変数が2つあるため、より最適な形状を得るために多くの試行錯誤を必要とする。第2実施形態における応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部から延出するテーパー状の形状を示す。そのため、応力緩和構造211aにおける調整可能な変数としては、前後方向における長さだけである。変数が1つだけになるので、設計上導入が容易となり、少ない試行錯誤の回数で、適切な応力緩和構造の形状を決定することが可能となる。
【0076】
図12を用いて、応力緩和構造211aの形状をより詳細に説明する。揺動部分211の前後方向における長さ及び応力緩和構造211aの前後方向における長さは、それぞれMy及びYと標記される。なお、揺動部分111の前後方向における長さMyは、ミラー部130の前後方向の長さに一致する。応力緩和構造211aの前後方向における長さとは、揺動部分211と一対の捩れ梁部分112との接続位置から、応力緩和構造211aが一対の捩れ梁部分112に合流する位置までの長さのことである。以下、光スキャナ200と同様の構造体210の条件(外形及び材質)において、Yの値をシミュレーションによって変化させることで、応力緩和構造211aの望ましい形態を検討する。
【0077】
先ず、図13を用いて、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力に焦点を当てる。図13の縦軸は、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の大きさを示す。具体的には、図13の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造211aを備えた光スキャナ200におけるミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の値を、光スキャナ500におけるミラー部130と揺動部分511との固定位置に働く応力の値で除した割合を示す。図13の横軸は、Yの値をYxで除した割合を示す。
【0078】
図13から明らかに、Y/Myの値が「0」から大きくなるに従い、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力が減少する。そして、Y/Myの値がある値以上の場合、応力の減少傾向が緩やかになる。具体的には、Y/Myの値が「0.2」未満の領域では、Y/Myの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、Y/Myの値が「0.2」以上「0.4」未満の領域では、応力の減少傾向が緩やかになる。そして、Y/Myの値が「0.4」以上の領域では、応力の値は、Y/Myの値に関らずほぼ一定となる。従って、Y/Myの値が「0.2」以上となるように応力緩和構造211aを形成することで、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0079】
次に、図14を用いて、光スキャナ200の共振周波数に焦点を当てる。図14の縦軸は、光スキャナ200の共振周波数の大きさを示す。具体的には、図14の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造211aを備えた光スキャナ200における共振周波数の値を、光スキャナ500における共振周波数の値で除した割合を示す。図14の横軸は、図13の場合と同様に、Yの値をMyで除した割合を示す。
【0080】
図14から明らかに、Y/Myの値が「0」から大きくなるに従い、光スキャナ200の共振周波数が減少する。そして、その減少傾向はほぼ単調減少である。従って、共振周波数の低下を防止するという観点からは、応力緩和構造211aにおけるY/Myの値は小さいほど望ましい。先に説明したように、図13における応力の低減という観点からは、Y/Myの値が「0.2」以上が望ましい。また、図13において、Y/Myの値が「0.4」以上の場合は、Y/Myの値が増加しても応力は殆ど変わらない。そのため、応力の低減と共振周波数の低下防止という両観点を両立するためには、Y/Myの値が「0.2」以上「0.4」未満となることが望ましい。
【0081】
本発明は、今までに述べた実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形・変更が可能である。以下にその一例を述べる。
【0082】
前記した実施形態において、構造体110は金属で構成される。しかし、本発明は、応力緩和構造111aが設けられることで、ミラー部130を有する光スキャナ100において、駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な点に特徴がある。そのため、構造体110が例えばシリコンなどの非金属で構成されても、本発明の範囲に含まれる。同様に、構造体110や台座120の形状も、前記した実施形態には限定されない。応力緩和構造111aを含む揺動部分111と、一対の捩れ梁部分112と、本体部分113と、揺動部分111に固定されるミラー部130を有する平板状の構造体110が、台座に対して固定されるタイプの光スキャナ100は、全て本発明の範囲に含まれる。また、前記した実施形態では、駆動部として圧電素子114が利用される。しかし、磁石とコイルパターンとの組み合わせによる電磁駆動方式や、極板間に働く静電気力による静電駆動方式など、他の駆動方式を採用した光スキャナであっても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100,200,500 光スキャナ
110,210 構造体
111,211,511 揺動部分
111a,211a 応力緩和構造
112 捩れ梁分
113 本体部分
113a 被固定部分
114 圧電素子
120 台座
130 ミラー部
140 質量片
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ等の光を走査する光スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、揺動するミラーによりレーザ光などの光を走査する光スキャナが知られている。光スキャナの例として、捩れ梁部で揺動可能に支持されたミラーが、圧電素子などの駆動部によって揺動されるものが挙げられる。ミラーが揺動すると、ミラーには動的な歪が生じる。この動的な歪みを低減するために、特許文献1には、反射面を有する補強部を、捩れ梁部によって支持される基盤部に対して接着する構成が開示される。特許文献1において、補強部の平面視形状は、基盤部の平面視形状と同一に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らによって、共振周波数にて駆動される光スキャナにおいて補強部と基盤部とが同一平面視形状に形成される場合、光スキャナを駆動する時間に依存して、共振周波数が低下する傾向が発見された。駆動時間に依存して共振周波数が低下すると、光スキャナを製造し、製品に組み込んだ後で、光スキャナの共振周波数が低下することとなる。例えば、光スキャナが走査型画像表示装置に用いられる場合、光スキャナの共振周波数に合わせて画像光の強度変調が行われる。この場合、光スキャナが製品に組み込まれた後の共振周波数の低下は、画像が正しく表示されなくなる事態を生じる可能性がある。また、光スキャナがレーザプリンタに用いられる場合も、光スキャナの共振周波数に合わせて印刷のためのレーザの強度変調が行われる。そのため、製品に組み込んだ後の共振周波数の低下は、印刷される画質の低下を招く可能性がある。
【0005】
本発明は、補強部を有する光スキャナにおいて、駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、第1軸線を中心として揺動可能に構成され、前記第1軸線に対して線対称に形成される揺動部分と、その一端が前記揺動部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行な第1方向に前記揺動部分から延出する一対の捩れ梁部分と、前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記揺動部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、を有する平板状の構造体と、駆動電圧が印加されることで前記構造体に対して周期的に力を与え、前記揺動部分を前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、前記構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、前記揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備え、前記揺動部分は、前記揺動部分と前記一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、前記揺動部分から前記第1方向に延出し、前記構造体を含む面に平行且つ第1方向に直交する第2方向の長さである第1長さが前記一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、前記ミラー部と前記揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む、ことを特徴とする光スキャナである。
【0007】
本発明者らの解析の結果、揺動部分が揺動する際に、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に、最も応力が集中することが分かった。本発明の一側面に係る光スキャナでは、ミラー部が、揺動部分の一方の面に固定される。そのため、仮に特許文献1のように、補強部と揺動部分とが同一平面視形状に形成される場合、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に対しても、ミラー部が固定されている。換言すれば、特許文献1に開示の光スキャナでは、ミラー部と揺動部分との固定位置が、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に一致する。そのため、光スキャナの駆動時に揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に集中する応力が、ミラー部と揺動部分との固定位置にも働くこととなる。ミラー部と揺動部分との固定位置にこの応力が働き続けることによって、ミラー部と揺動部分との固定状態が徐々に変化(例えばミラー部が剥離)する可能性がある。駆動時間に依存した共振周波数の低下は、このような固定状態の変化が原因の一つとして考えられる。なお、ミラー部は特許文献1における補強部に相当し、揺動部分は特許文献1における基板部に相当する。
【0008】
本発明の一側面に係る光スキャナにおいて、揺動部分は、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む。具体的には、応力緩和構造は、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられる。応力緩和構造は、揺動部分から揺動の中心軸である第1軸線に平行な第1方向に延出する。応力緩和構造は、構造体を含む面に平行且つ第1方向に直交する第2方向において、一対の捩れ梁部分よりも幅広な第1長さを有する。この応力緩和構造により、ミラー部と揺動部分との固定位置が、応力が集中する位置である揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置から離間される。離間することでミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が低減され、ミラー部と揺動部分との固定状態の変化が防止される。従って、光スキャナの駆動時間に依存した共振周波数の低下を防止することが可能となる。
【0009】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における端部から延出し、前記揺動部分から離間するに従い前記第1長さが小さくなるテーパー状に形成されてもよい。
【0010】
応力緩和構造は、揺動部分の第2方向における端部から延出する。揺動部分のサイズが予め決まっていれば、応力緩和構造の形状を決定する変数としては、第1方向における長さだけを設定すればよい。そのため、少ない試行錯誤の回数で、適切な応力緩和構造の形状を決定することが可能となる。即ち、設計上導入が容易となる。
【0011】
また、前記応力緩和構造は、前記応力緩和構造の前記第1方向における長さである第2長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第2長さを有してもよい。
【0012】
応力緩和構造によって、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力が緩和される。このとき、応力緩和構造が小さすぎると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力を十分に低減できない可能性がある。そこで、応力緩和構造の第2長さは、第2長さの変動に対して固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定される。従って、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0013】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第1方向における長さに対する、前記第2長さの比が、0.2以上0.4以下となるように形成されてもよい。
【0014】
後記する図13に示されるように、揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.2」以上であれば、第2長さの変動に対して、固定位置に働く応力の変動が緩やかになり、十分な応力の低減が可能になる。一方、図14に示されるように、共振周波数の低下を防止するという観点からは、第2長さは小さいほど望ましい。揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.4」以上の場合は、第2長さが増加しても応力は殆ど変わらない。そのため、応力の低減と共振周波数の低下防止という両観点を両立するためには、揺動部分の第1方向における長さに対する第2長さの比が「0.2」以上「0.4」未満となることが望ましい。
【0015】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分から前記第1方向に沿って延出する第1辺と、前記第1辺の前記揺動部分と反対側の端部に接続され、前記第2方向に沿って前記一対の捩れ梁に向かって伸長する第2辺とを含んでよい。
【0016】
応力緩和構造は、第1辺と第2辺とを有する。即ち、応力緩和構造の形状を決定する変数としては、第1辺と第2辺との2つの形状を設定する必要がある。従って、応力緩和構造が取りうる形状の自由度が増し、より最適に近い応力緩和構造の形状に近づける設計が可能となる。
【0017】
また、前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第1長さを有してもよい。
【0018】
応力緩和構造によって、ミラー部と揺動部分との固定位置における応力が緩和される。このとき、応力緩和構造が小さすぎると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力を十分に低減できない可能性がある。そこで、応力緩和構造の第1長さは、第1長さの変動に対して固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定される。従って、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0019】
また、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.4以上1以下となるように形成されてもよい。
【0020】
応力緩和構造の第1長さが変化すると、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が変化する。後記する図5に示されるように、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0」(応力緩和構造が存在しない場合)から大きくなるに従い、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力が減少する。そして、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.4」以上では、応力の減少は緩やかになる。従って、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.4」以上「1」以下となるように応力緩和構造を形成することで、ミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0021】
さらに、前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記光スキャナの共振周波数の値が飽和する値に設定された前記第1長さを有してもよい。
【0022】
応力緩和構造が大きくなると、揺動部分の質量が増加することにより、揺動部分が揺動する際の慣性モーメントが増加する。慣性モーメントの増加は、共振周波数の低下に繋がる。そこで、応力緩和構造の第1長さは、第1長さの変動に対して揺動部分の揺動における共振周波数の値が飽和する値に設定される。従って、応力緩和構造によってミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減を行う際に、共振周波数の低下が防止できる。
【0023】
さらに、前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.6以下となるように形成されてもよい。
【0024】
応力緩和構造の第1長さが変化すると、光スキャナの共振周波数の値が変化する。後記する図6に示されるように、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0」(応力緩和構造が存在しない場合)から「0.6」程度までは、共振周波数の値は略一定となる。一方、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.6」より大きい場合、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が増加するに伴い、共振周波数の値は減少する。従って、揺動部分の第2方向における長さに対する第1長さの比が「0.6」以下となるように応力緩和構造を形成することで、応力緩和構造によってミラー部と揺動部分との固定位置に働く応力の低減を行う際に、共振周波数の低下が防止できる。
【0025】
さらに、前記ミラー部は、前記構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成され、デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いて、前記揺動部分の一方の面に固定されてもよい。
【0026】
これによれば、ミラー部は、構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成される。ミラー部と揺動部分とが熱硬化性接着剤で固定される場合、接着剤の硬化時に熱が印加される。ミラー部と構造体との線膨張係数が異なるため、両者が加熱された状態で接着剤によって固定されると、常温に戻った際に線膨張係数の差に起因して両者の縮小量に差が生じる。この縮小量の差によって、応力がミラー部に発生する。この応力によって、ミラー部に静的歪みが発生する。ミラー部の静的歪みの量が大きくなると、入射光が反射される際に入射光の波面が乱れ、光学性能の低下に繋がる。そのため、ミラー部の静的歪みの量は小さいほどよい。後記する図7に示されるように、接着剤のデュロメータ硬度が高くなるほど、ミラー部130の変形量(=静的歪み)が大きくなる。図7から明らかに、接着剤のデュロメータ硬度がD65よりも大きい場合、ミラー部に変形が生じる。一方で、接着剤のデュロメータ硬度がD65以下の場合、ミラー部に変形は殆ど生じない。従って、デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いてミラー部が揺動部分の一方の面に固定されることで、ミラー部の静的歪みを抑えることが可能となる。
【0027】
さらに、前記揺動部分の他方の面と、前記揺動部分の一方の面であって前記ミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられ、前記構造体の共振周波数を調整する質量片をさらに備えてもよい。
【0028】
これによれば、光スキャナの共振周波数を調整する質量片が、揺動部分の他方の面と、揺動部分の一方の面であってミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられる。従って、質量片がミラー部への入射光を遮蔽することなく、光スキャナの共振周波数を調整できる。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の他の側面は、上記した何れかの光スキャナを準備する準備工程と、前記光スキャナの共振周波数の値を決定する振動数決定工程と、前記決定工程において決定された前記共振周波数の値と、目標とする共振周波数の値とに基づいて、前記質量片が設けられる前記揺動部分上の位置を決定する位置決定工程と、前記位置決定工程において決定された前記揺動部分上の位置に対して、前記質量片を付加する付加工程とを備えることを特徴とする光スキャナの製造方法である。
【0030】
これにより、準備された光スキャナの共振周波数を、目標とする共振周波数に合わせこむことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、補強部を有する光スキャナにおいて光スキャナの駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る光スキャナ100の斜視図。
【図2】比較例に係る光スキャナ500の斜視図。
【図3】応力緩和構造111aを有する場合(実施形態)と、有さない場合(比較例)とにおける、測定回数ごとの共振周波数の変化を説明する図。
【図4】光スキャナ100の平面図。
【図5】応力緩和構造111aの左右及び前後方向の幅を変化させた場合における、ミラー部130と揺動部分111との固定位置における応力の変化を説明する図。
【図6】応力緩和構造111aの左右及び前後方向の幅を変化させた場合における、光スキャナ100の共振周波数の変化を説明する図。
【図7】ミラー部130と揺動部分111とを固定する熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度を変化させた場合における、ミラー部130の変形量の変化を説明する図。
【図8】光スキャナ100の共振周波数を調整する工程を説明する図。
【図9】光スキャナ100の作成工程を説明する図。
【図10】(A)目標共振周波数と光スキャナ100の共振周波数との差分に対し、質量片140の付加量及び付加位置とを対応付けたテーブル、(B)光スキャナ100における質量片140の付加位置を説明する図。
【図11】第2実施形態に係る光スキャナ200の斜視図。
【図12】光スキャナ200の平面図。
【図13】応力緩和構造211aの前後方向の幅を変化させた場合における、ミラー部130と揺動部分211との固定位置における応力の変化を説明する図。
【図14】応力緩和構造211aの前後方向の幅を変化させた場合における、光スキャナ200の共振周波数の変化を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
[光スキャナ100の構成]
以下に図面を参照しつつ、本発明の一側面を反映した第1実施形態を示す。図1に示されるように、光スキャナ100は、構造体110と、台座120とを有する。ミラー部130は、圧電素子114によって、第1軸線sを中心軸として揺動する。この揺動によって、ミラー部130に入射した光は走査される。
【0034】
構造体110は、前後方向に平行な一対の短辺と、左右方向に平行な一対の長辺とから構成される、平面視矩形の板状構造である。なお、前後方向は第1軸線sに平行である。構造体110は、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113を有する。本体部分113の一方の面(例えば、上面)には、圧電素子114が設けられる。本実施形態では、構造体110は、ステンレスやチタンなどの金属材料によって構成される。但し、構造体110は、シリコンなどの半導体材料によって形成されてもよい。なお、構造体110は、図1において、前後左右面に平行である。また、構造体110の前後方向、左右方向、上下方向のサイズは、例えば、それぞれ20mm、30mm、0.1mm程度である。
【0035】
揺動部分111の上面には、レーザ等の光を反射するミラー部130が固定される。平面視矩形のミラー部130は、サファイヤやダイヤモンドなどの誘電体によって構成される。そのため、ミラー部130は、揺動部分111と線膨張率が異なる。ミラー部130の上面又は下面には、レーザ等の光を反射するために、スパッタリングや蒸着などの方法で金属薄膜が成膜される。揺動部分111とミラー部130との固定は、例えばエポキシ系、フェノール系、シリコン系などの熱硬化性接着剤によって行われる。揺動部分111及びミラー部130は、第1軸線sに対して線対称に設けられる。
【0036】
揺動部分111は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造111aを含む。応力緩和構造111aは、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置に設けられる。換言すれば、応力緩和構造111aは、揺動部分111から、第1方向の一例である前後方向に延出する。応力緩和構造111aの左右方向の幅は、一対の捩れ梁部分112の左右方向の幅よりも大きい。応力緩和構造111aは左右方向に幅広に構成されるので、前後方向の単位長さ辺りの面積に着目すると、応力緩和構造111aの前後方向の単位長さ辺りの面積は、一対の捩れ梁部分112の前後方向の単位長さ辺りの面積よりも大きい。具体的には、応力緩和構造111aは、第1辺と第2辺とを有する平面視矩形に形成される。第1辺は、揺動部分111から前後方向に沿って延出する辺である。第2辺は、第1辺の揺動部分111と反対側の端部に接続され、左右に沿って一対の捩れ梁112に向かって伸長する辺である。そして、応力緩和構造111aは、孔などの空隙を有さずに、連続体として、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112とを繋ぐ。応力緩和構造111aは、第1軸線sが一対の捩れ梁部分112の中心線に十分一致するように、線対称に形成される。なお、ミラー部130と揺動部分111との固定位置とは、前後方向において、ミラー部130が上面に載っていない揺動部分111の位置と、ミラー部130が上面に載っている揺動部分111の位置との境界部分に対応する。また、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置とは、前後方向において、一対の捩れ梁部分112の左右方向の幅が拡がる部分、即ち、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置との境界部分に対応する。
【0037】
一対の捩れ梁部分112の一端は、揺動部分111の前後方向における両側にそれぞれ連結される。一対の捻れ梁部分112は、前後方向に平行に揺動部分111から延出する。ここで、第1軸線sは、一対の捩れ梁部分112の中心を通る。一対の捩れ梁部分112によって、揺動部分111は、第1軸線s回りに揺動可能に弾性的に支持される。つまり、一対の捩れ梁部分112は、揺動部分111を第1軸線s回りに揺動可能に支持するトーションバーとしての役割を持っている。
【0038】
本体部分113は、一対の捩れ梁部112の他端に連結され、揺動部分111から離間し、且つ第1軸線sに交差する方向に延出する。本実施形態では、本体部分113は、一対の捩れ梁部112との連結部分から左右方向の両側へと延出する。本体部分113は、被固定部分113aを有する。被固定部分113aは、一対の捩れ梁部分112及び揺動部分111を挟んで、一対設けられる。本実施形態では、本体部分113の前後方向における端部に、左右方向に沿って矩形の貫通孔Aが一対設けられる。前後方向において、この貫通孔Aよりも揺動部分111から遠い位置に存在する本体部分の領域が、被固定部分113aである。この被固定部分113aにおいて、構造体110と台座120とが固定される。
【0039】
本体部分113の上面には、駆動部としての圧電素子114が設けられる。圧電素子114は、本体部分113の前後方向おける中間位置であって、左右方向における両端部に、一対設けられる。圧電素子114は、例えば、厚さ30μm〜100μmの平板状に成形されたチタン酸ジルコン酸鉛などの圧電材料の両面に対して、電極層として金や白金等を0.2μm〜0.6μm積層することで形成される。圧電素子114と本体部分113とは、導電性接着剤で接着される。そして、圧電素子114の上面に、ワイヤボンディングなどで金などの金属細線(非図示)が接続される。
【0040】
応力緩和構造111aの上面には、質量片140が設けられる。質量片140は、第1軸線sに対して線対称となる位置に設けられる。質量片140は、第1軸線sを中心とした、揺動部分111の揺動時の慣性モーメントを増加させる機能を有する。質量片140が設けられる位置は、応力緩和構造111aの上面に限定されない。慣性モーメントを調整することで、光スキャナ100の共振周波数が所望の値となるように、質量片140が設けられる位置は適宜変更される。なお、質量片140は、アクリル系,エポキシ系,シリコン系等の接着剤が用いられてよい。質量片140の比重上昇や密着性向上のため、これらの接着剤に対して添加物が付加されてもよい。また、質量片140は、紫外線、加熱、湿度等の印加によって硬化される。なお、揺動部111の熱による歪や、工程の最適化を考慮すると、紫外線硬化型の接着剤が質量片140として用いられるのが望ましい。
【0041】
台座120は、左右方向に伸びる一対の柱状部材で構成される。台座120は、構造体110の被固定部分113aの下面に固定される。台座120の前後方向の幅は、被固定部分113aの前後方向の幅と同一又はそれ以下に設定される。台座120の上下方向の厚みは、構造体110の上下方向の厚みに比べて十分に大きく、例えば1mm程度である。そのため、構造体110が揺動しても、台座120は、殆ど変形しない。換言すれば、光スキャナ100が駆動される場合、被固定部分113aは台座120と一体として殆ど変形せず、一対の貫通孔Aの前後方向における内側の構造体110の部分が揺動する。台座120は、例えば、ステンレス等の金属材料によって構成される。
【0042】
[光スキャナ100の駆動]
構造体110は金属で形成されるので、構造体110と圧電素子114の上面に接続された金属細線との間に電圧を印加することで、圧電素子114を変形させることが可能となる。右側に設けられる圧電素子114と左側に設けられる圧電素子114とには、逆位相となるように交流電圧(駆動信号)がそれぞれ印加される。この交流電圧の周波数が、光スキャナ100の共振周波数に相当する場合、圧電素子114の変形に伴い、本体部分114に板波が励起される。この板波が、本体部分113及び一対の捩れ梁部分112を介して揺動部分111に伝達されることで、揺動部分111は、所定の共振周波数において第1軸線s回りに揺動する。ここで、構造体110は、被固定部分113aにおいて台座120に固定され、被固定部分113aに挟まれる本体部分113は、台座120によって宙に浮いた状態となっている。そのため、光スキャナ100の駆動時に、本体部分113は上下方向に変位する。しかし、捩れ梁部分112は、本体部分113の振動の節となる位置に設けられるので、本体部分113が上下方向に変位しても、捩れ梁部分112は、上下方向への変位が抑制される。なお、交流電圧の周波数は、光スキャナ100の共振周波数に厳密に一致しなくても差し支えない。光スキャナ100のQ値に応じて、交流電圧の周波数は、光スキャナ100の共振周波数からオフセットされても差し支えない。
【0043】
[共振周波数の駆動時間依存性]
本発明では、ミラー部130を有する光スキャナ100において、応力緩和構造111aのおかげで、駆動時間に依存して共振周波数が低下することが防止される。応力緩和構造111aの効果を確認するため、比較例として、応力緩和構造111aを有さない光スキャナ500が作成された。
【0044】
光スキャナ500は、光スキャナ100と比較して、構造体510の構成において異なる。より具体的には、揺動部分511に応力緩和構造111aが設けられていない点において、光スキャナ500は、光スキャナ100に相違する。換言すれば、光スキャナ500において、揺動部分511は、ミラー部130と平面視において同一形状に形成される。なお、光スキャナ500において、光スキャナ100と共通の構成は、光スキャナ100と同一の番号を付与することで、説明を省略する。
【0045】
図3を参照して、応力緩和構造111aの効果を説明する。図3における横軸は、光スキャナの共振周波数を測定した回数を表す。測定回数を重ねる度に、光スキャナの累積駆動時間は増加する。即ち、図3の横軸は、光スキャナの製造完了からの駆動時間に対応している。図3における縦軸は、各測定回数における共振周波数を、初回の共振周波数で除算した割合を示す。図3において、四角と実線で示されるデータは、光スキャナ100の実測データである。図3において、菱形と破線で示されるデータは、光スキャナ500の実測データである。
【0046】
光スキャナ100の共振周波数は、測定回数を重ねても、殆ど変化しない。一方で、光スキャナ500の共振周波数は、測定回数を重ねるごとに、徐々に減少する。この結果から、応力緩和構造111aが設けられることによって、光スキャナ100においては、駆動時間に依存して共振周波数が低下することが防止されていることが分かる。
【0047】
駆動時間に依存して共振周波数が低下する原因は、必ずしも明らかになっていない。ただ、前記したように、揺動部分が揺動する際に、揺動部分と一対の捩れ梁部分との接続位置に、最も応力が集中することは事実である。仮説として、この応力が揺動部分とミラー部との固定位置に作用することにより、揺動部分とミラー部との固定状態が変化すること(例えば接着剤の剥離など)が、駆動時間に依存して共振周波数が低下する原因の一つとして考えられる。
【0048】
光スキャナ500では、揺動部分500とミラー部130との固定位置は、前後方向において、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置に一致する。そのため、光スキャナ500では、揺動部分511と一対の捩れ梁部分112との接続位置に働く応力は、そのままミラー部130と揺動部分111との固定部分に作用する。一方で、光スキャナ100では、応力緩和構造111aが設けられることで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置が、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置から離間される。従って、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力が低減され、ミラー部130と揺動部分111との固定状態の変化が防止される。その結果、応力緩和構造111aが設けられる光スキャナ100においては、駆動時間に依存した共振周波数の低下が防止される。
【0049】
[応力緩和構造111aの検討]
応力緩和構造111aが設けられる光スキャナ100においては、応力緩和構造111aが設けられない光スキャナ500と比較して、駆動時間に依存した共振周波数の低下が防止される。ここでは、応力緩和構造111aの望ましい形態を検討する。
【0050】
図4を用いて、応力緩和構造111aの形状を説明する。揺動部分111の左右方向における長さ及び応力緩和構造111aの左右方向における長さは、それぞれMx及びXと標記される。なお、揺動部分111の左右方向における長さとは、一対の捩れ梁部分112からの揺動部分111の左右方向における端部までの長さのことである。同様に、応力緩和構造111aの左右方向における長さとは、一対の捩れ梁部分112からの応力緩和構造111aの左右方向における端部までの長さ、換言すれば、第2辺の左右方向における長さのことである。揺動部分111の前後方向の長さは、Myと標記される。前後方向において、揺動部分111と一対の捩れ梁部分112との接続位置からの応力緩和構造111aの長さ、換言すれば、第1辺の前後方向における長さは、Yと標記される。以下、光スキャナ100と同様の構造体110の条件(外形及び材質)において、X及びYの値をシミュレーションによって変化させることで、応力緩和構造111aの望ましい形態を検討する。
【0051】
先ず、図5を用いて、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力に焦点を当てる。図5の縦軸は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の大きさを示す。具体的には、図5の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造111aを備えた光スキャナ100におけるミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の値を、光スキャナ500におけるミラー部130と揺動部分511との固定位置に働く応力の値で除した割合を示す。図5の横軸は、Xの値をMxで除した割合を示す。図5において、Y/Myが「0」の場合、即ち応力緩和構造111aが存在しない光スキャナ500の場合が、菱形のプロットで示される。Y/Myが「0.21」、「0.42」「0.83」の場合は、四角と一点鎖線、三角と破線、丸と実線、でそれぞれ示される。
【0052】
図5から明らかに、X/Mxの値が「0」から大きくなるに従い、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力が減少する。そして、X/Mxの値がある値以上の場合、応力の減少傾向が緩やかになる。具体的には、Y/Myが「0.21」の場合、X/Mxの値が「0.2」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.2」以上の領域では、応力の値は、X/Mxに関らずほぼ一定となる。Y/Myが「0.42」の場合、X/Mxの値が「0.4」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.4」以上の領域では、応力の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。Y/Myが「0.83」の場合、X/Mxの値が「0.5」未満の領域では、X/Mxの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、X/Mxの値が「0.5」以上の領域では、応力の減少傾向が緩やかになる。Y/Myの値が大きくなるほど、応力の減少傾向が緩やかになるX/Mxの値は大きくなる傾向にある。しかし、図5を概して見た場合、全体的な傾向として、X/Mxの値が「0.4」以上の場合、応力の減少傾向が飽和していると言える。即ち、X/Mxの値を、X/Mxの値の変動に対して、応力の値の変動量が飽和する値に設定することで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。応力の値の変動量が飽和する値とは、例えば、X/Mxの値が「0.4」以上「1」以下の範囲である。
【0053】
次に、図6を用いて、光スキャナ100の共振周波数に焦点を当てる。図6の縦軸は、光スキャナ100の共振周波数の大きさを示す。具体的には、図6の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造111aを備えた光スキャナ100における共振周波数の値を、光スキャナ500における共振周波数の値で除した割合を示す。図6の横軸は、図5の場合と同様に、Xの値をMxで除した割合を示す。図6において、Y/Myのそれぞれの値に対して適用されるシンボルは、図5の場合と同様である。
【0054】
図6から明らかに、X/Mxの値が「0」から大きくなるに従い、光スキャナ100の共振周波数が減少する。具体的には、X/Mxの値がある値以下では、共振周波数は略一定に振舞う。そして、X/Mxの値がある値を超えると、共振周波数はX/Mxの増加に伴い減少に転じる。具体的には、Y/Myが「0.21」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は若干減少する。Y/Myが「0.42」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxに関らずほぼ一定となる。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は減少する。Y/Myが「0.83」の場合、X/Mxの値が「0.6」以下の領域では、共振周波数の値はX/Mxの増加にともない若干減少する。そして、X/Mxの値が「0.6」を超える領域では、X/Mxの増加に伴い、共振周波数の値は急激に減少する。Y/Myの値が大きくなるほど、X/Mxの値が「0.6」を超える領域における共振周波数の減少度合いは大きくなる。換言すれば、X/Mxの値が「0.6」以下の領域の場合、Y/Myの値に関らず、X/Mxの値の変動に対して、共振周波数の値は飽和していると言える。従って、X/Mxの値が「0.6」以下の場合、共振周波数の低下が防止できる。
【0055】
本実施形態では、揺動部分111とミラー部130との固定は、熱硬化性接着剤によって行われる。ミラー部130と構造体110との線膨張率が異なるので、硬化時の温度と常温との差によって熱膨張による変形量の差が生まれる。この変形量の差が応力となり、ミラー部130の静的歪みを引き起こす。ミラー部130の静的歪みの量が大きくなると、入射光が反射される際に入射光の波面が乱れ、光学性能の低下に繋がる。光スキャナ100の光学性能を維持するために、ここでは、接着剤の種類を検討する。
【0056】
[ミラー部130の固定方法の検討]
図7を用いて、実測したミラー部130の変形量を、熱硬化性接着剤の硬度に着目して説明する。図7の縦軸は、熱硬化性接着剤の硬化によって変形したミラー部130の変形量の実測値を、硬化時の温度で除した割合である。熱膨張による変形量は温度に依存するため、硬化時の温度が高くなるほど、同じ接着剤を用いてもミラー部130の変形量は大きくなる。今回、接着剤の硬度によるミラー部130の変形量への影響を調べるため、ミラー部130の変形量を硬化時の温度で除することで、硬化時の温度の違いに起因するミラー部130の変形量の差を無くしている。図7の横軸は、硬化した熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度である。なお、測定にはタイプDデュロメータを用いた。タイプDにおける値であることを示すため、図7の横軸の値は、数値の前に「D」を付与している。
【0057】
図7から明らかに、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が「D70」以上の領域では、デュロメータ硬度の値の増加に伴って、ミラー部130の変形量は増加する。一方で、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が「D60」の場合は、ミラー部130に変形は生じない。この傾向は、熱硬化性接着剤のデュロメータ硬度が低い場合、硬化した接着剤が緩衝材の役割を果たし、ミラー部130と構造体110との線膨張率の差に起因する変形量の差を吸収するためと考えられる。即ち、デュロメータ硬度が「D65」以下の熱硬化性接着剤を用いた場合、接着剤の硬化によっては、ミラー部130に静的歪みは生じない。
【0058】
ミラーの静的歪みを防止する観点からは、硬化時にデュロメータ硬度の低い熱硬化接着剤、具体的には「D65」以下の熱硬化接着剤が、ミラー部130と揺動部分111との固定に用いられるのがよい。ここで、デュロメータ硬度の低い接着剤は、一般的に剥離強度が低い。仮に、応力緩和構造111aが設けられない光スキャナ500の場合、剥離強度の低い接着剤は、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に集中する応力に耐え切れず、駆動時間の増加に伴い共振周波数の低下をより引き起こし易い。しかし、本実施形態では、応力緩和構造111aが設けられているため、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に応力は集中しない。従って、接着剤の剥離強度を気にすることなく、ミラーの静的歪みを防止するために、デュロメータ硬度の低い接着剤の使用が可能となる。
【0059】
[共振周波数の調整方法]
前記した光スキャナ100は、質量片140が設けられる位置を適切に選定することで、共振周波数の値を調整することが可能となる。以下、図8から図10を用いて、この調整方法を説明する。
【0060】
工程S11において、光スキャナ100が作成される。なお、工程S11の詳細は、図9を用いて後に説明される。
【0061】
工程S12において、作成された光スキャナ100の共振周波数が取得される。共振周波数は、光スキャナ100を実際に駆動することで実測を行う、光スキャナ100の形状に基づいて、予め定められた対応関係を利用することで決定する、などの方法で取得されてよい。共振周波数の実測は、例えばミラー部130に対して光を入射し、反射された走査光を検出することで行われる。具体例としては、走査光の移動する走査領域内に光センサが設けられ、走査光の受光に対応する出力が光センサから得られるタイミングに基づいて、共振周波数が決定される。一方、光スキャナ100の形状に基づく場合、例えば、揺動部分130や一対の捩れ梁部分112の設計値に対して、対応する共振周波数の値がシミュレーションや実測で求められる。そして、揺動部分130や一対の捩れ梁部分112のサイズの変化量に対する、共振周波数の変化量の値がシミュレーションや実測で求められる。このサイズの変化量と共振周波数の変化量との対応関係を用いて、構造体110のサイズの実測値から、光スキャナ100の共振周波数が決定される。
【0062】
工程S13において、所望の共振周波数の範囲と、工程S12において取得された光スキャナ100の共振周波数の値とが比較される。ここで、所望の共振周波数の範囲は、例えば光スキャナ100が組み込まれるプリンタやレーザディスプレイなどの製品の仕様に基づいて、予め決定されている。
【0063】
工程S14において、工程S13にて比較された結果に基づき、取得された光スキャナ100の共振周波数が、所望の共振周波数の範囲に含まれるか否かが判断される。光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲に含まれる場合(S14:Yes)、その光スキャナ100は仕様を満たすため、工程S15においてOK判定がなされる。OK判定のなされた光スキャナ100は、製品として利用される。
【0064】
光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲に含まない場合(S14:No)、工程S16において、光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも高いか否かが判断される。光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも高い場合(S16:Y)、工程S16にて、構造体110及び/又はミラー部130に対して質量片140が付加される。質量片140の付加位置及び付加量は、図10を用いて後に説明される。その後、質量片140を付加された光スキャナ100を用いて、工程S12以降が再度実行される。
【0065】
質量片140を付加することで、揺動部分111の慣性モーメントが上昇する。慣性モーメントの上昇は、光スキャナ100の共振周波数を低下させる。従って、質量片140の付加によっては、共振周波数を下げる調整のみが可能となる。そのため、光スキャナ100の共振周波数が所望の共振周波数の範囲よりも低い場合(S16:N)、調整が不可能であるため、NG判定がなされる(S18)。NG判定のなされた光スキャナ100は、不良品として、製品として利用されない。
【0066】
[光スキャナ100の作成]
図9を用いて、光スキャナ100の作成工程を説明する。ここでは、構造体110が金属で構成される場合を例に取り、説明を行う。先ず、工程S110において、構造体110が形成される。構造体110を構成する金属板(例えば、ステンレスやチタンなど)が、構造体110の外形と等しい大きさに分割される。そして、分割された金属板において、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113が、所定の除去加工によって形成される。所定の除去加工には、例えば、エッチング、プレス加工、放電加工、レーザ加工などが含まれる。一例として、ウェットエッチングが行われる場合、分割された金属板の、揺動部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113に対応する位置に、マスキングのためのレジスト膜が形成される。その後、ウェットエッチングによって構造体の外形が形成された後に、レジスト膜が除去される。なお、構造体の外形に比して十分大きな金属板に複数の構造体の外形が形成された後に、個々の構造体に分割される多数個取りが実行されても差し支えない。
【0067】
次に、工程S111において、予め圧電材料の両面に電極層を備えたバルクの圧電素子114が、構造体110に実装される。この実装は、例えば、エポキシ系、アクリル系、シリコン系等の合成樹脂材料に金属フィラーなどの導電材を含有する導電性接着剤を用いて行われる。具体的には、構造体110の本体部分113に塗布された導電性接着剤の上に、圧電素子114が設置される。圧電素子114の設置後、100〜200℃の雰囲気に保たれた加熱炉内に構造体110が30〜60分間装入されることによって、導電性接着剤が硬化する。以上で、圧電素子114の実装が完了する。
【0068】
次に、工程S112において、台座120が作成される。台座120の外形は、構造体110の場合と同様に、台座120の構成材料に対して、エッチングやプレスなどの除去加工を施すことで得られる。
【0069】
次に、工程S113において、台座120と構造体110とが固定される。この固定は、例えば、レーザ溶接などによって、構造体の被固定部と台座とが溶着されることで行われる。ただし、熱硬化接着剤を利用した接着や、所定の締め具を利用したクランピングなど、他の固定方法によって、構造体110と台座120とが固定されても差し支えない。
【0070】
そして、工程S114において、圧電素子114と構造体110とに対して、ワイヤボンディングによって信号線が接続される。この信号線は、非図示の交流電源に接続される。構造体110と圧電素子114とは導電性接着剤によって接着されているので、光スキャナ100の駆動時には、この信号線を介して圧電素子114と構造体110との間に交流電圧(駆動信号)が印加される。以上で、光スキャナ100の作成工程が終了する。
【0071】
[質量片140の付加]
質量片140の付加は、目標とする共振周波数(例えば、所望の共振周波数範囲の中心値)と、工程S12で取得された光スキャナ100の共振周波数との差分(離間周波数df)に対し、質量片140の付加量及び付加位置とを対応付けたテーブル(図10(A))に基づいて行われる。離間周波数dfが30Hz未満の場合、位置「C」に対して、df×65μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「C」は、図10(B)に示されるように、応力緩和構造111aの上下両面に対応する。位置「C」は、第1軸線sから比較的近い距離である。遠い距離に質量を塗布した場合に比べて周波数感度が低いため、位置「C」に質量を塗布することで、周波数の微調が可能となる。離間周波数dfが30Hz以上100Hz未満の場合、位置「B」に対して、df×43μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「B」は、図10(B)に示されるように、揺動部分111の前後方向における中心位置であって、第1軸線sから左右方向離間した揺動部分111の下面に対応する。離間周波数dfが100Hz以上の場合、位置「A」に対して、df×28μgの質量片が、第1軸線sに対して線対称となるように付加される。位置「A」は、図10(B)に示されるように、応力緩和構造111aの第1軸線sから最も離間した上下両面、換言すれば、応力緩和構造111aの4隅に対応する。位置「A」は、第1軸線sから比較的遠い距離である。遠い距離に質量塗布した場合は周波数感度が高いため、位置「A」に質量を塗布することで、周波数を大きく調節することが可能となる。このように、離間周波数dfの値が大きいほど、第1軸線sからの離間距離が大きい位置に質量付加することで、質量片140の付加による慣性モーメントの上昇量が大きく設定されている。
【0072】
<第2実施形態>
[光スキャナ200の構成]
本発明の他の側面を反映した第2実施形態を示す。第2実施形態に係る光スキャナ200は、第1実施形態に係る光スキャナ100と比較して、揺動部分、具体的には応力緩和構造の形状において相違する。そのため、光スキャナ200において、光スキャナ100と同一の構造に対しては、同一の番号を付与することで説明が省略される。
【0073】
図11に示されるように、光スキャナ200は、構造体210と、台座120とを有する。構造体210は、揺動部分211、一対の捩れ梁部分112、本体部分113を有する。構造体210において、一対の捩れ梁部分112、本体部分113の形状は、図1に示される構造体110の場合と同一である。
【0074】
揺動部分211は、ミラー部130と揺動部分211との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造211aを含む。応力緩和構造211aは、揺動部分211と一対の捩れ梁部分112との接続位置に設けられる。具体的には、応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部から延出する。応力緩和構造211aは、前後方向において、揺動部分211から離間するに従い左右方向の幅が小さくなるように、換言すれば、テーパー状に形成される。例えば、揺動部分211に対して左後の部分に形成される応力緩和構造211aは、揺動部分211の左端から右後方向に延出し、一対の捩れ梁部分112に対して接続される。別の表現をすれば、応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部と一対の捩れ梁部分112の所定の位置とから延出し、両延出位置を概して直線的に接続する構造とも表される。
【0075】
[応力緩和構造211aの検討]
前記した第1実施形態における応力緩和構造111aでは、第1辺と第2辺との長さを調整することで、ミラー部130と揺動部分111との固定位置に働く応力及び共振周波数の変動が調べられた。第1実施形態では、第1辺と第2辺との長さという2つの変数が調整可能なため、設計の自由度が増し、固定位置に働く応力及び共振周波数をより精度よく設定できるという利点がある。一方で、応力緩和構造111aでは、変数が2つあるため、より最適な形状を得るために多くの試行錯誤を必要とする。第2実施形態における応力緩和構造211aは、揺動部分211の左右方向の端部から延出するテーパー状の形状を示す。そのため、応力緩和構造211aにおける調整可能な変数としては、前後方向における長さだけである。変数が1つだけになるので、設計上導入が容易となり、少ない試行錯誤の回数で、適切な応力緩和構造の形状を決定することが可能となる。
【0076】
図12を用いて、応力緩和構造211aの形状をより詳細に説明する。揺動部分211の前後方向における長さ及び応力緩和構造211aの前後方向における長さは、それぞれMy及びYと標記される。なお、揺動部分111の前後方向における長さMyは、ミラー部130の前後方向の長さに一致する。応力緩和構造211aの前後方向における長さとは、揺動部分211と一対の捩れ梁部分112との接続位置から、応力緩和構造211aが一対の捩れ梁部分112に合流する位置までの長さのことである。以下、光スキャナ200と同様の構造体210の条件(外形及び材質)において、Yの値をシミュレーションによって変化させることで、応力緩和構造211aの望ましい形態を検討する。
【0077】
先ず、図13を用いて、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力に焦点を当てる。図13の縦軸は、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の大きさを示す。具体的には、図13の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造211aを備えた光スキャナ200におけるミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の値を、光スキャナ500におけるミラー部130と揺動部分511との固定位置に働く応力の値で除した割合を示す。図13の横軸は、Yの値をYxで除した割合を示す。
【0078】
図13から明らかに、Y/Myの値が「0」から大きくなるに従い、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力が減少する。そして、Y/Myの値がある値以上の場合、応力の減少傾向が緩やかになる。具体的には、Y/Myの値が「0.2」未満の領域では、Y/Myの値の増加に伴い応力の値は減少する。そして、Y/Myの値が「0.2」以上「0.4」未満の領域では、応力の減少傾向が緩やかになる。そして、Y/Myの値が「0.4」以上の領域では、応力の値は、Y/Myの値に関らずほぼ一定となる。従って、Y/Myの値が「0.2」以上となるように応力緩和構造211aを形成することで、ミラー部130と揺動部分211との固定位置に働く応力の低減が十分に可能となる。
【0079】
次に、図14を用いて、光スキャナ200の共振周波数に焦点を当てる。図14の縦軸は、光スキャナ200の共振周波数の大きさを示す。具体的には、図14の縦軸は、ある形状を有する応力緩和構造211aを備えた光スキャナ200における共振周波数の値を、光スキャナ500における共振周波数の値で除した割合を示す。図14の横軸は、図13の場合と同様に、Yの値をMyで除した割合を示す。
【0080】
図14から明らかに、Y/Myの値が「0」から大きくなるに従い、光スキャナ200の共振周波数が減少する。そして、その減少傾向はほぼ単調減少である。従って、共振周波数の低下を防止するという観点からは、応力緩和構造211aにおけるY/Myの値は小さいほど望ましい。先に説明したように、図13における応力の低減という観点からは、Y/Myの値が「0.2」以上が望ましい。また、図13において、Y/Myの値が「0.4」以上の場合は、Y/Myの値が増加しても応力は殆ど変わらない。そのため、応力の低減と共振周波数の低下防止という両観点を両立するためには、Y/Myの値が「0.2」以上「0.4」未満となることが望ましい。
【0081】
本発明は、今までに述べた実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形・変更が可能である。以下にその一例を述べる。
【0082】
前記した実施形態において、構造体110は金属で構成される。しかし、本発明は、応力緩和構造111aが設けられることで、ミラー部130を有する光スキャナ100において、駆動時間に依存して共振周波数が低下することを防止可能な点に特徴がある。そのため、構造体110が例えばシリコンなどの非金属で構成されても、本発明の範囲に含まれる。同様に、構造体110や台座120の形状も、前記した実施形態には限定されない。応力緩和構造111aを含む揺動部分111と、一対の捩れ梁部分112と、本体部分113と、揺動部分111に固定されるミラー部130を有する平板状の構造体110が、台座に対して固定されるタイプの光スキャナ100は、全て本発明の範囲に含まれる。また、前記した実施形態では、駆動部として圧電素子114が利用される。しかし、磁石とコイルパターンとの組み合わせによる電磁駆動方式や、極板間に働く静電気力による静電駆動方式など、他の駆動方式を採用した光スキャナであっても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100,200,500 光スキャナ
110,210 構造体
111,211,511 揺動部分
111a,211a 応力緩和構造
112 捩れ梁分
113 本体部分
113a 被固定部分
114 圧電素子
120 台座
130 ミラー部
140 質量片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線を中心として揺動可能に構成され、前記第1軸線に対して線対称に形成される揺動部分と、
その一端が前記揺動部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行な第1方向に前記揺動部分から延出する一対の捩れ梁部分と、
前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記揺動部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、を有する平板状の構造体と、
駆動電圧が印加されることで前記構造体に対して周期的に力を与え、前記揺動部分を前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、
前記構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、前記揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備え、
前記揺動部分は、前記揺動部分と前記一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、前記揺動部分から前記第1方向に延出し、前記構造体を含む面に平行且つ前記第1方向に直交する第2方向の長さである第1長さが前記一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、前記ミラー部と前記揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む、
ことを特徴とする光スキャナ。
【請求項2】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分の前記第2方向における端部から延出し、
前記揺動部分から離間するに従い前記第1長さが小さくなるテーパー状に形成される、
請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項3】
前記応力緩和構造は、前記応力緩和構造の前記第1方向における長さである第2長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第2長さを有する、
請求項2に記載の光スキャナ。
【請求項4】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分の前記第1方向における長さに対する、前記第2長さの比が、0.2以上0.4以下となるように形成される、
請求項3に記載の光スキャナ。
【請求項5】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分から前記第1方向に沿って延出する第1辺と、
前記第1辺の前記揺動部分と反対側の端部に接続され、前記第2方向に沿って前記一対の捩れ梁に向かって伸長する第2辺とを含む、
請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項6】
前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第1長さを有する、
請求項5に記載の光スキャナ。
【請求項7】
前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.4以上1以下となるように形成される、
請求項6に記載の光スキャナ。
【請求項8】
前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記光スキャナの共振周波数の値が飽和する値に設定された前記第1長さを有する、
請求項5〜7の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項9】
前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.6以下となるように形成される、
請求項8に記載の光スキャナ。
【請求項10】
前記ミラー部は、
前記構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成され、
デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いて、前記揺動部分の一方の面に固定される、
請求項1〜9の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項11】
前記揺動部分の他方の面と、前記揺動部分の一方の面であって前記ミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられ、前記構造体の共振周波数を調整する質量片をさらに備える、
請求項1〜10の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項12】
請求項11に記載の光スキャナの製造方法であって、
請求項5〜10の何れか1項に記載の光スキャナを準備する準備工程と、
前記光スキャナの共振周波数の値を決定する振動数決定工程と、
前記決定工程において決定された前記共振周波数の値と、目標とする共振周波数の値とに基づいて、前記質量片が設けられる前記揺動部分上の位置を決定する位置決定工程と、
前記位置決定工程において決定された前記揺動部分上の位置に対して、前記質量片を付加する付加工程と、
を備えることを特徴とする光スキャナの製造方法。
【請求項1】
第1軸線を中心として揺動可能に構成され、前記第1軸線に対して線対称に形成される揺動部分と、
その一端が前記揺動部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行な第1方向に前記揺動部分から延出する一対の捩れ梁部分と、
前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記揺動部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、を有する平板状の構造体と、
駆動電圧が印加されることで前記構造体に対して周期的に力を与え、前記揺動部分を前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、
前記構造体と別体に形成され、入射した光を反射する反射面を有し、前記揺動部分の一方の面に固定されるミラー部と、を備え、
前記揺動部分は、前記揺動部分と前記一対の捩れ梁部分との接続位置に設けられ、前記揺動部分から前記第1方向に延出し、前記構造体を含む面に平行且つ前記第1方向に直交する第2方向の長さである第1長さが前記一対の捩れ梁部分よりも大きく構成され、前記ミラー部と前記揺動部分との固定位置における応力を緩和する応力緩和構造を含む、
ことを特徴とする光スキャナ。
【請求項2】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分の前記第2方向における端部から延出し、
前記揺動部分から離間するに従い前記第1長さが小さくなるテーパー状に形成される、
請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項3】
前記応力緩和構造は、前記応力緩和構造の前記第1方向における長さである第2長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第2長さを有する、
請求項2に記載の光スキャナ。
【請求項4】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分の前記第1方向における長さに対する、前記第2長さの比が、0.2以上0.4以下となるように形成される、
請求項3に記載の光スキャナ。
【請求項5】
前記応力緩和構造は、
前記揺動部分から前記第1方向に沿って延出する第1辺と、
前記第1辺の前記揺動部分と反対側の端部に接続され、前記第2方向に沿って前記一対の捩れ梁に向かって伸長する第2辺とを含む、
請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項6】
前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記固定位置における応力の値の変動量が飽和する値に設定された前記第1長さを有する、
請求項5に記載の光スキャナ。
【請求項7】
前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.4以上1以下となるように形成される、
請求項6に記載の光スキャナ。
【請求項8】
前記応力緩和構造は、前記第1長さの変動に対して、前記光スキャナの共振周波数の値が飽和する値に設定された前記第1長さを有する、
請求項5〜7の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項9】
前記応力緩和構造は、前記揺動部分の前記第2方向における長さに対する前記第1長さの比が0.6以下となるように形成される、
請求項8に記載の光スキャナ。
【請求項10】
前記ミラー部は、
前記構造体の材質と線膨張率の異なる材質によって構成され、
デュロメータ硬度がD65以下となる熱硬化性接着剤を用いて、前記揺動部分の一方の面に固定される、
請求項1〜9の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項11】
前記揺動部分の他方の面と、前記揺動部分の一方の面であって前記ミラー部から離間した位置との少なくとも一方に設けられ、前記構造体の共振周波数を調整する質量片をさらに備える、
請求項1〜10の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項12】
請求項11に記載の光スキャナの製造方法であって、
請求項5〜10の何れか1項に記載の光スキャナを準備する準備工程と、
前記光スキャナの共振周波数の値を決定する振動数決定工程と、
前記決定工程において決定された前記共振周波数の値と、目標とする共振周波数の値とに基づいて、前記質量片が設けられる前記揺動部分上の位置を決定する位置決定工程と、
前記位置決定工程において決定された前記揺動部分上の位置に対して、前記質量片を付加する付加工程と、
を備えることを特徴とする光スキャナの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−64843(P2013−64843A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203089(P2011−203089)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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