説明

光ディスク装置および光ディスクの再生方法

【課題】再生信号の品位が低い場合はディフェクトとして検出せずに、適応型等化器の係数制御器の係数学習を継続し、エラーレートを向上する。
【解決手段】最尤復号器のパスメモリの最終段の記憶部の全部の記憶素子が一致しない場合はディフェクトとして検出するように閾値判定回路104、106の閾値を初期設定する。ディフェクトの検出回数が所定値以上になると、記憶部の1個の記憶素子が一致しなくてもディフェクトとして検出しないように閾値判定回路104、106の閾値を1つ減算する。これにより、これ以降は、パスメモリの記憶部の1個の記憶素子が不統一であってもディフェクトとして検出されず、係数制御器の係数学習が継続され、品位の低い再生信号に対しても正しく最尤復号することができ、エラーレートを向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの情報を再生する光ディスク装置に関し、特に光ディスクの読取り不良(ディフェクト)が生じた際に再生処理の誤動作を回避する光ディスク装置および光ディスクの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク装置が広く普及してきており、様々な方式の研究開発が行われ製品化されている。
【0003】
特に、光記録再生の分野においても高密度記録化が進んできており、線方向の記録密度が大幅に増大している。また、レーザ波長が短くなり、レンズの開口度も大きくなるため、チルトによる再生信号品位の劣化が顕著になってきている。このためこれらの対策として、PRML(Partial Response and Maximum Likelihood)信号処理方式の応用が盛んに行われている。この方式は、光ディスク装置に応用されるものであり、PRML信号処理方式は従来のレベルスライス方式に比べ、光ディスク上に高密度に記録された情報においても高い信号品質が得られることが知られており、HD映像の録画を目的とした次世代の光ディスク装置への応用も検討されている。
【0004】
一方、光ディスク装置においては、再生する媒体がリムーバブルディスクであるため、ハードディスク装置と異なり、ディスク上にほこり・指紋などの汚れや、傷等のディフェクトがあるディスクに対しても、安定して信号再生することが望まれている。ディスクにディフェクトがあると信号が乱され再生できなくなるばかりか、再生信号に対する制御量を管理するフィルタ内部にもその影響が残ってしまうため、ディフェクト復帰後もすぐには回復せず、正常なデータであっても一定時間異常なデータを送出し続けてしまう誤動作を引き起こす恐れがある。ディフェクトが検出されると、再生信号に対する制御量の学習を停止し、制御量は現在の値を保持する、もしくはディフェクト時の係数に置き換える。
【0005】
ディフェクトの検知の一例として、ローパスフィルタ等を用いて光ディスクから得た信号のピーク検波及びボトム検波を行い、ピーク値・ボトム値が閾値を超えた場合に光ディスクにディフェクトが有ると判断する技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−166121号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会誌Vol. 81, No. 5, pp. 497-505, 1998年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の判断手法では、ディフェクトではなく再生信号の品位が低い場合でもピーク値・ボトム値が閾値を超える場合がある。そのような場合、ディフェクトとして検出し、再生信号に対する制御量の学習を停止してしまうと、エラーレートを向上できない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、再生信号の品位が悪い場合をディフェクトとして検出せずに、制御量の学習を継続し、エラーレートを向上できる光ディスク装置および光ディスクの再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様による光ディスク装置は、光ディスクの再生信号を記録再生系の二値化特性に合わせて波形等化する等化手段と、前記等化手段の出力を二値化する最尤復号手段と、前記等化手段への入力信号と前記最尤復号手段からの出力信号とに応じて前記等化手段の波形等化特性を制御する制御手段と、前記最尤復号手段の出力信号に基づいて光ディスクのディフェクトを検出する検出手段とを具備し、前記ディフェクト検出手段の検出基準は前記最尤復号手段の出力信号に応じて可変である。
【0009】
本発明の他の実施態様による光ディスクの再生方法は、光ディスクの再生信号を記録再生系の二値化特性に合わせて波形等化する等化ステップと、波形等化後の信号を二値化する最尤復号ステップと、波形等化前の信号と二値化信号とに応じて前記等化ステップの波形等化特性を制御する制御ステップと、二値化信号に基づいて光ディスクのディフェクトを検出するステップとを具備し、前記ディフェクト検出の検出基準は二値化信号に応じて可変である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ディフェクト検出の基準が最尤復号手段の出力に応じて可変であるので、再生信号の信号品位の低い場合はディフェクトとして検出せずに波形等化の学習を進め、エラーレートを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を以下に図面を参照して説明する。
【0012】
本発明の一実施形態に係わる光ディスク装置の構成例を図1に示す。データの記録及び再生の対象となる媒体、例えばDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク10へレーザ光を照射して反射光を受光し読み取り信号を出力する光ピックアップヘッド(PUH)12が設けられる。ピックアップヘッド12で読み取られた微弱なアナログ信号である再生信号がプリアンプ14で増幅される。増幅された再生信号がプリイコライザ16でフィルタ処理が施され、適切な帯域制限と必要に応じた波形整形が行われる。プリイコライザ16の出力信号がA/D変換器18でA/D変換される。A/D変換器18の出力がオフセット・ゲイン制御器20でオフセット・ゲインが制御される。
【0013】
A/D変換器18に入力する再生クロック生成に関しては再生波形自体からクロックを抽出する。そのため、オフセット・ゲイン制御器20の出力が位相比較器36、周波数比較器38に供給され、周波数比較器38により再生波形と信号周波数との周波数誤差を検出し、位相比較器36により理想サンプリング点との位相誤差を検出する。この周波数誤差、位相誤差に基づく制御はPLL(Phase Locked Loop)制御として知られており、周波数制御と位相制御はともに同一のループフィルタ40によってなされ、VCO(Voltage Controlled Oscillator)42によりA/D変換器18にクロックが供給される。ループフィルタ40には一般的には積分器が用いられており、ディフェクト時にはループフィルタ40の出力、すなわちVCO42の制御電圧にも影響が及び、PLLのロック状態が外れる危険性がある。なお、VCO42の出力クロックは他の回路にも供給され、タイミング制御が行われる。
【0014】
オフセット・ゲイン制御器20の出力がアシンメトリ補正器22でアシンメトリ補正された後、適応型等化器24に供給される。本実施形態の光ディスク装置は二値化方式としてPRML(Partial Response and Maximum Likelihood)方式を採用している。本実施形態では、記録再生系をPR(h0,h1,h2,h3)特性と仮定している。括弧内はインパルス応答列である。つまり、記録ビット“1”に対して再生信号のサンプル値はh0,h1,h2,h3の振幅を持つ系列として現れ、それより外側のサンプル点では0となる。再生信号系列は、各記録ビットに対するインパルス応答の加算で表現され、その加算結果はパスと呼ばれる。ビット系列とパスとは1対1に対応している。等化器24は光ディスク10の再生信号を使用するPR特性に合わせ込む(波形等化する)FIR型フィルタからなる。光ディスク10の再生信号特性と似通ったPR特性を選択することにより、等化による雑音成分の増幅が抑制される。上述したように、適応型等化器24は再生信号を目標のPR特性(PRクラス)に応じた応答波形(パーシャルレスポンス波形信号)に波形等化する。このときの等化特性(FIR型フィルタの係数)は、係数制御器26によって調整される。
【0015】
適応型等化器24の出力が最尤復号器(ビタビ復号器)28に供給される。最尤復号器28は等化後の再生信号を“0”または“1”の判定を行い、二値の識別信号へと復号する。実際の再生信号は雑音を含んでいるので、いかなるパスとも完全には一致しない。最尤復号器28では各サンプル点における実際の再生信号と想定される全てのパスとの誤差を累積加算し、累積加算値が最も小さいパスを選択する。そして、選択したパスに対応するビット系列を識別信号として出力する。最尤復号器では、再生信号のある一点のサンプルから値を決定するのではなく、PR特性の持つ既知の相関を利用し、複数点のサンプルから値を決定する。そのため、最尤復号器は雑音に強い。
【0016】
最尤復号器28により得られたバイナリデータは、RLL復調器30によりRLL変調の逆の処理(復調)が行われ、記録したデータを得ることができる。RLL復調器30の出力が復調された信号に対してエラー訂正を行うECC回路32を介してインターフェース部34に供給される。
【0017】
最尤復号器28の復号結果が係数制御部26、ディフェクト検出回路44にも供給される。係数制御器26はアシンメトリ調整部22から出力された再生信号と最尤復号器28から出力された識別信号とに基づいて適応型等化器24の等化係数(タップ係数)を最適化する。
【0018】
A/D変換器18の出力とオフセット・ゲイン調整器20の出力と最尤復号器28の出力とに応じて光ディスクの欠陥を検出するディフェクト検出回路44が設けられる。ディフェクト検出回路44の検出結果は制御部46に供給される。制御部46は係数制御器26やその他のブロックの動作を制御する。
【0019】
PUH12、プリアンプ14、プリイコライザ16以外の回路は一つの半導体チップ(光ディスク装置用コントローラ)2内に集積されている。各ブロックは、制御部46を通して制御されている。
【0020】
図2は適応型等化器24の一例を示す。適応型等化器24はFIR型フィルタからなり、アシンメトリ調整部22の出力である再生信号をそれぞれ別個のタップ係数と増幅する9個の乗算器(×)と、乗算器(×)の出力を遅延して次の乗算器(×)の出力と加算する8組の遅延回路(D)と加算器(+)の多段接続からなる。
【0021】
図3は適応型等化器24のタップ係数を制御する係数制御器26の一例を示す。タップ係数はアシンメトリ調整部22の出力である再生信号と、最尤復号器28の出力である識別信号とに応じて決定される。決定方法には種々のアルゴリズムがあるが、図3はLMS(Least Mean Square)アルゴリズムと呼ばれる適応学習方法が用いられる場合を示す。
【0022】
識別信号は理想信号/誤差信号算出部166に入力され、等化誤差信号が算出される。等化誤差信号と遅延器160、165を介した再生信号が乗算器164を介して各フィルタ161に供給される。各フィルタ161はフリップフロップ回路162及びアンプ部163をそれぞれ有し、適応型等化器24に供給すべきタップ係数値を算出している。
【0023】
この学習方法は、最尤復号器28の出力結果から理想信号/誤差信号算出部166によって目標等化特性に対する等化誤差信号が生成され、フィルタ161では、この等化誤差信号の2乗平均値を最小にするようタップ係数値を更新していき、所望の等化特性に変更させていく。なお、LMSアルゴリズムにおける適応学習に関しては、非特許文献1に、詳しく記述されている。
【0024】
図4に最尤復号器28の構成図を示す。図は、一般的なビタビ復号回路の構成を示している。最尤復号器28はブランチメトリック計算回路52、加算・比較・選択回路54、パスメモリ56、パス決定回路58、パスメトリックメモリ60からなる。ブランチメトリック計算回路52は適応型等化器24からの入力を用いて、ブランチメトリック計算を行う。加算・比較・選択回路54はブランチメトリック計算回路52の出力をパスメトリックメモリ60に記憶されているパスメトリックとの加算、比較、選択を行い、パスとパスメトリックを決定する。パスメモリ56はパスの選択の経過を保存している。
【0025】
パスメモリ56の構成を図5に示す。パスメモリ56は、記憶部62とパス選択回路64から構成され、それが多段に接続されている。記憶部62、…62の記憶素子数は、最尤復号で仮定しているPRクラスの状態数によって決まる。図5は、PR(h0,h1,h2,h3)で表されるPRクラスでの例を示している。加算・比較・選択回路54から選択信号が入力され、それに応じて、パス選択回路64、…64n−1が切り替わり、適切な生き残りパスが各記憶部62、…62の各記憶素子s0、s1、s3、s4、s6、s7に保存される。周波数や位相の引き込みが完了し、トランスバーサルフィルタの係数学習も安定すると、システムが定常状態になり、最尤復号回路が正常な復号データを出力する。記憶素子は過去3ビットの再生信号の状態に対応し、s0は“000”、s1は“001”、s3は“011”、s4は“100”、s6は“110”、s7は“111”を示す。
【0026】
図6に、パスメモリ56の最終段の記憶素子62の保存内容を示す。縦軸は、PRクラスの各状態に対応する記憶内容に対応している。符号の最小ラン長が2以上で、かつPR(1,2,2,1)やPR(3,4,4,3)等のPR(h0,h1,h2,h3)などの場合、6状態であるため、記憶素子は、図のように縦方向には6段となる。横軸方向に時間の経過を表している。i〜i+5は、システムが安定し、正常な復号データが出力されている場合の記憶素子内容を示している。図のように、6つの記憶素子の内容は、1または0で統一される。
【0027】
光ディスク10は、傷や指紋等の汚れ、その他の条件によって、反射率が変わり、PUH12で取得される信号レベルが変化する場合がある。このようなディフェクト状態では、係数学習など、適応的に動く回路は、係数学習を止めて初期化する、あるいは現在の値を保持する、もしくは非ディフェクト時の係数に置き換える。あるいは、ゲインの変更等の動作モードを変更してもよい。
【0028】
通常とは異なる信号状態は、ディフェクト検出回路44にてディフェクトとして検出され、制御部46等を通じて、係数制御器26での適応学習処理を止める等の処理が行われる。
【0029】
図7は、正常な状態のDVD−ROMからの再生信号の波形である。
【0030】
図8は、一時的に振幅が小さくなるディフェクトが混入したDVD−ROMからの信号波形である。図8(a)は、DVD−ROMの再生波形を示している。図8(b)は、ローパスフィルタで得たDVD−ROM波形のエンベローブ波形を示している。図8(c)は、ディフェクト検出信号を示している。ディフェクト検出信号が高レベルの状態は、ディフェクトを検出したことを示している。このような波形のエンベローブが大きく変化するような波形は、特許文献1に記載のようにローパスフィルタを用いる等の手段を用いてエンベローブの変化を見ることで、ディフェクトとして検出することが可能である。
【0031】
図9に、速い周期で振幅が変動するディフェクトが混入したDVD−ROM波形を示す。図9(a)は、DVD−ROMの波形を示している。図9(b)は、ローパスフィルタで得たDVD−ROM波形のエンベローブ波形を示している。図9(c)は、ディフェクト検出信号を示している。ローパスフィルタ等を用いたディフェクト検出手法では、このようなエンベローブの変化が少ないディフェクトを検出することが困難である。
【0032】
図8や図9等で示すディフェクトが混入した場合のパスメモリ56の最終段の記憶部62は、図6のj〜j+2のように、6つの記憶素子の内容が統一されない。この特性を利用することで、従来では検出が難しかったエンベローブが大きく変化しないディフェクトに関しても、検出が可能となる。この特性を利用したディフェクト検出回路(これは図1のディフェクト検出回路ではない)を図10に示す。パスメモリ56の最終段の記憶部62、もしくはパスが確定するのに充分な段数を経た後の記憶部の出力に一致検索回路66を接続する。
【0033】
一致検索回路66の構成の一例を図11に示す。パスメモリの記憶部62から入力される信号をAND回路70とOR回路72で受ける。パスメモリの記憶部62の内容が1または0で統一されていると、AND回路70とOR回路72の出力が入力されるNOR回路74の出力は0となり、ディフェクト無しとなる。パスメモリの記憶部62の内容が1または0で統一されていないと、NOR回路74の出力は1となり、ディフェクトとして検知できる。
【0034】
ディフェクト検知信号は、NOR回路74の出力をそのまま用いても良いし、図11のように、ディフェクトの検知を止めるディフェクト検知停止信号との論理積を取るAND回路76の出力信号を用いても良い。例えば、周波数や位相が安定しない状況や係数学習が学習の途中である場合などで、ディフェクトの検出をしたくない場合には、ディフェクト検知停止信号を用いて、ディフェクト検出を止めることができる。
【0035】
図13に、図9と同じ条件での図11での方式のディフェクト検出の様子を示している。図13(a)はDVD−ROMの波形を示している。図13(b)は、ローパスフィルタで得たDVD−ROM波形のエンベローブ波形を示している。図13(c)に示すように、従来のエンベロープ変化を用いた手法では検出が困難なディフェクトを検出できる。
【0036】
一致検索回路66の構成の他の例を図12に示す。パスメモリの記憶部62から入力される1や0の数をカウンタ80と82を用いて計測する。計測結果を閾値判定回路84、86で所定の閾値と比較し、計測結果が閾値以下、もしくは閾値より小さい場合にOR回路88の出力からディフェクト検知信号を出力する。図11と同様に、ディフェクト検知信号は、OR回路88の出力をそのまま用いても良いし、ディフェクトの検知を止めるディフェクト検知停止信号との論理積を取るAND回路90の出力信号を用いても良い。図12の閾値判定回路84、86の閾値をパスメモリの記憶部の記憶素子全数とすると、図12は図11と実質的に等価となる。
【0037】
図10に示したディフェクト検出回路は最尤復号器28のパスメモリ56の特定の段の記憶部の状態に基づいているが、図14に示すように、パスメモリ56の状態が収束しない(6つの記憶素子の状態が統一されない)のはディフェクト時に限らず再生信号の品位が悪い場合もある。再生信号の品位は規格で規定されているが、規格を満たしていてもプレス精度が低い、反射率が低い、あるいは多層ディスクの場合に層間干渉が生じた場合に再生信号のS/N比が低下し、パスメモリ56の記憶素子の状態が不統一になる場合がある。このように再生信号の品位が悪くパスメモリ56の記憶素子の状態が不統一になった場合(図14のk〜k+2)、ディフェクトとして検出しない方が良い場合もある。ディフェクトとして検出すると、係数制御器26は係数学習を止めて現在の値を保持する、もしくは非ディフェクト時の係数に置き換えてしまうからである。ディフェクトではなく再生信号の品位が悪い場合は、適応型等化器24の係数学習を進めれば、システムが安定しパスメモリ56の記憶素子のデータが統一されることがある。図10に示したディフェクト検出回路は信号品位が悪い場合の対応が不十分である。
【0038】
図1に示した本実施形態のディフェクト検出回路44は、入力信号の品位に応じて、ディフェクト/非ディフェクトの検出基準を可変する機能を持つものであり、その構成を図15に示す。
【0039】
パスメモリ56の最終段の記憶部62、もしくはパスが確定するのに充分な段数を経た後の記憶部から出力される“1”や“0”の数をカウンタ100、102を用いて計測する。計測結果を閾値判定回路104、106で所定の閾値と比較し、計測結果が閾値以下、もしくは閾値未満の場合にOR回路108の出力からディフェクト検知信号を出力する。このため、記憶素子のデータが“1”または“0”に統一されるまでの間にディフェクトを検出することが出来る。ディフェクト/非ディフェクトの検出基準である閾値判定回路104、106の閾値(“1”または“0”の個数)は後述する閾値決定回路118により可変である。
【0040】
OR回路108から出力された信号は、AND回路110で安定再生通知信号との論理積が演算される。安定再生通知信号は本装置が安定に動作しているか否かを示すもので、具体的には、制御部46が位相比較器36、周波数検出器38の動作結果に基づいて再生クロックの位相、周波数が安定していると判断できる時は安定再生通知信号を出力する。AND回路110の出力がAND回路112と非収束回数カウンタ114に入力される。そのため、非収束回数カウンタ114は、安定再生時にもかかわらずパスメモリが収束していない状況が起こった回数をカウントしている。
【0041】
入力信号の品位が良い場合は、非収束回数カウンタ114の値はディフェクト時のみ増加する。しかし、入力信号の品位が悪い場合は、非収束回数カウンタ114の値はディフェクト時以外にも増加する。すなわち、非収束回数カウンタ114のカウント値が増加する場合は、入力信号の品位が悪いという可能性がある。
【0042】
非収束回数カウンタ114の出力は閾値判定回路116に供給され、所定の閾値と比較される。閾値判定回路116が非収束回数カウンタ114の出力が閾値以上、もしくは超えていることを検出すると、閾値決定回路118は、カウンタ100、102の出力を閾値判定する閾値判定回路104、106の閾値を変更し、パスメモリが収束している(非ディフェクト)かどうかを判断する基準を緩くして、ディフェクトが検出され難くなるようにする。つまり、パスメモリが収束した、すなわちディフェクトではないと判定されるカウンタ100、102の“1”、“0”カウント値の上限値を減少する。このため、係数制御器26による適応型等化器24の係数学習が進み、低品位の再生信号でも安定に再生できるようになる可能性が高い。
【0043】
例えば、状態数が6の場合、初期には、6状態を示すパスメモリの最終段の6個の記憶素子がすべて同じとなると収束したと見なし、それ以外をディフェクトと判断するため、閾値判定回路104、106の閾値を6とする。そして、閾値判定回路116にて非収束回数カウンタ114のカウント値が閾値を超えたと判断した場合は、適応学習などを進めるために1個の記憶素子の状態が一致していなくても収束した(非ディフェクト)として扱うように閾値決定回路118は閾値判定回路104、106の閾値を5とする。すると、ディフェクトが検出され難くなり係数学習が進み、これ以降、再生信号の品位が低いことにより閾値判定回路104、106が状態の不一致を検出することが無く、ディフェクトのみを検出することができる。図16に信号品位が悪い場合の非収束回数カウンタ114のカウント値を示す。図16(a)は入力信号であり、図7と同じである。図16(b)は図11に示した一致検索回路から出力されたディフェクト検知信号を計数するカウンタのカウント値、図16(c)は図15に示す非収束回数カウンタ111のカウント値を示す。
【0044】
AND回路110の出力信号(ディフェクト検知信号)はそのまま出力しても良いし、図11の場合と同様に、ディフェクトの検知を止めるディフェクト検知停止信号との論理積を取るAND回路112の出力信号を用いても良い。
【0045】
従来のエンベローブ検波によるディフェクト検出方法と、図11の一致検索回路を含むディフェクト検出回路、及び図15のディフェクト検出回路44において、入力波形を変えたときのシミュレーションによるビットエラーレート(bER)の様子を図17に示す。図17は6種類の入力信号についてビットエラーレートをシミュレーションした結果を示す。図17から本実施形態の閾値を変える一致検索回路を含むディフェクト検出回路がビットエラーレートを低減するのに有効であることが分かる。
【0046】
図18に上記動作のフローチャートを示す。閾値決定回路118は閾値判定回路104、106の閾値を初期設定する(ブロック#2)。このときはパスメモリ56の記憶部の全部の記憶素子が一致しない限りディフェクトとして検出するように、閾値は記憶素子の全数とする。
【0047】
この状態で再生を開始し、本装置が安定に動作するまでは安定再生通知信号が出力されないので、たとえ閾値判定回路104、106がカウンタ100、102のカウント値が閾値以下、あるいは未満であると判定しても、AND回路110はディフェクト検知信号を出力しない(ブロック#4)。
【0048】
安定再生通知信号が出力されている間は閾値判定回路104、または106がカウンタ100、または102のカウント値が閾値以下、あるいは未満であると判定すると、非収束回数カウンタ114はカウントアップする(ブロック#6)。
【0049】
閾値判定回路116でこのカウント値が第1の閾値以上、あるいは超えたことが検出されると(ブロック#8)、再生信号の品位が低いためにパスメモリ56の最終段あるいはパスが確定するのに充分な段数を経た後の記憶部から出力される“1”や“0”の数が不統一になっている可能性があるので、このような場合をディフェクトと見なさないように閾値判定回路104、106の閾値を1だけ減少する(ブロック#10)。これにより、これ以降は、パスメモリ56の記憶部の1個の記憶素子が不統一であってもディフェクトとして検出されない。すなわち、係数制御器26の係数学習が継続され、品位の低い再生信号に対しても正しく最尤復号することができる。
【0050】
しかし、非収束回数カウンタ114がさらにカウントアップした場合に対処するために、閾値判定回路116は判定する閾値を第1の閾値から第2の閾値に変更する。第2の閾値は第1の閾値以上の値である。そのため、非収束回数カウンタ114のカウント値がさらに増加し、第2の閾値以上、あるいは超えたことが検出されると(ブロック#12)、閾値判定回路104、106の閾値を再び1だけ減少する(ブロック#14)。必要に応じて、上記動作(ブロック#12、#14)をさらに繰り返しても良い。
【0051】
図18の動作はディフェクトが検出され難い状態なので、この動作をリセットしたいことがある。例えば、誤学習になっている場合や再生動作が安定していない場合等、制御部46からリセット信号が出力、あるいはユーザの操作によりリセット信号が出力されると、閾値判定回路104、106の閾値が初期値に戻る(ブロック#2)。
【0052】
以上説明したように本実施形態によれば、短い周期で振幅が変動するディフェクトが混入していても、光ディスクの欠陥を検出し、よりディフェクトに強い再生が可能になる。さらに、最尤復号器の持つパスメモリ内に蓄えられているパス選択結果の収束状況を見て、従来では検出が難しかったディフェクトを検出するとともに、入力信号の品位に応じて、ディフェクトとして判定する収束状況の閾値を静的にあるいは動的に変えるので、リードチャネル内部で入力信号によって適応的に学習するので、適応学習過程における誤学習を防ぐとともに、必要な学習を進めることができる。これによって、システム出力のビットエラーレートを向上させることが可能となる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。図15のカウンタ100及び102は1つのカウンタで実装しても良い。“1”や“0”の数を知ることができれば、カウンタ100、102でなく、他の実装形態でもかまわない。図15の閾値判定回路104、106の閾値の決定に際して、非収束回数カウンタ114等を使うのではなく、図1の最尤復号器28からの復号データを入力とするエラー訂正の各種情報(エラー箇所の数や訂正回数等)を元に閾値を決めてもよい。検知したディフェクト情報を元に、最尤復号器28内のブランチメトリック計算に用いる係数を変えるなどしても良い。検知したディフェクト情報を元に、図1のオフセット・ゲイン制御器20の動作を変えるなどしても良い。検知したディフェクト情報を元に、位相比較器36、周波数検出器38、ループフィルタ40、VCO42からなるPLL回路の動作を変えるなどしても良い。
【0054】
なお、上記実施形態では、光ディスクに欠陥が見つかった場合に、係数制御器26による適応学習処理を停止させていた。しかし、光ディスクに欠陥が見つかった場合に、アシンメトリ調整部22が、光ディスクに欠陥が見つかる直前の調整量に基づいてアシンメトリ補正を行うように制御部46がアシンメトリ調整部22に制御信号を送るようにしても良い。同様に、光ディスクに欠陥が見つかった場合に、ループフィルタ40が、光ディスクに欠陥が見つかる直前に発振器42に出力していた信号(調整量)を発振器42に出力するよう制御部46がループフィルタ40に制御信号を送るようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係わる光ディスク装置の概略構成を示す図。
【図2】図1に示す適応型等化器24の構成の一例を示すブロック図。
【図3】図1に示す係数制御器26の構成の一例を示すブロック図。
【図4】図1に示す最尤復号器28の構成の一例を示すブロック図。
【図5】図2に示すパスメモリ56の構成の一例を示す図。
【図6】パスメモリ56の最終段のメモリの保存内容の一例を示す図。
【図7】DVD−ROM波形の一例を示す図。
【図8】ディフェクトが入ったDVD−ROM波形の一例を示す図。
【図9】ディフェクトが入ったDVD−ROM波形の他の例を示す図。
【図10】図9に示したディフェクトを検出するディフェクト検出器の一例を示す図。
【図11】図10に示す一致検索回路の一例を示す図。
【図12】図10に示す一致検索回路の他の例を示す図。
【図13】図11に示す一致検索回路の動作の一例を示す図。
【図14】信号品位が悪い場合のパスメモリ56の最終段のメモリの保存内容の一例を示す図。
【図15】図1に示すディフェクト検出器44の構成の一例を示す図。
【図16】信号品位の悪い場合の図15に示すディフェクト検出器の動作の一例を示す図。
【図17】従来方式と本発明方式のビットエラー率のシミュレーション結果の一例を示す図。
【図18】本発明のディフェクト検出方式の概略を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0056】
10…光ディスク,12…光ピックアップ,16…プリイコライザ,18…A/D変換器,24…適応型等化器,26…係数制御器,28…最尤復号器,30…RLL復調器,32…ECC処理部,34…I/F,36…位相比較器,38…周波数比較器,40…ループフィルタ,42…発振器,44…ディフェクト検出回路,46…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの再生信号を記録再生系の二値化特性に合わせて波形等化する等化手段と、
前記等化手段の出力を二値化する最尤復号手段と、
前記等化手段への入力信号と前記最尤復号手段からの出力信号とに応じて前記等化手段の波形等化特性を適応的に制御する制御手段と、
前記最尤復号手段の出力信号に基づいて光ディスクのディフェクトを検出する検出手段とを具備し、
前記ディフェクト検出手段の検出基準は前記最尤復号手段の出力信号に応じて可変である光ディスク装置。
【請求項2】
前記最尤復号手段は前記等化手段の出力に対してブランチメトリックを計算するブランチメトリック計算手段と、前記ブランチメトリック計算手段により計算されたブランチメトリックに基づいて最尤パスメトリックを選択するパスメトリック選択手段と、複数の記憶素子からなるメモリを複数段有し、前記パスメトリック選択手段による選択結果の時間経過を記憶するパスメモリ部とを具備し、
前記ディフェクト検出手段は前記パスメモリ部の所定の段のメモリの記憶素子のうち同じデータを記憶する記憶素子の数が所定数以下の場合にディフェクトを検出し、該所定数はディフェクトの検出回数に応じて可変であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記ディフェクト検出手段は、前記パスメモリ部の最終段もしくは最終段近傍の段のメモリ内の全記憶素子が記憶する“1”または“0”データをカウントする第1のカウンタと、前記第1のカウンタの出力が第1の閾値以下の場合にディフェクト検知信号を出力する閾値判定回路と、前記ディフェクト検知信号をカウントする第2のカウンタと、前記第2のカウンタの出力が第2の閾値以上の場合に前記第1の閾値を減少する閾値決定回路とを具備することを特徴とする請求項2記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記閾値判定回路の出力と前記第2のカウンタの間に接続され、光ディスク装置の再生動作が安定した時に出力される安定通知信号と前記ディフェクト検知信号との論理積を演算する論理積回路をさらに具備することを特徴とする請求項3記載の光ディスク装置。
【請求項5】
前記検出手段がディフェクトを検出すると、前記制御手段は波形等化特性の適応的な制御動作を停止し、波形等化特性を所定の特性に固定することを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項6】
光ディスクの再生方法において、
光ディスクの再生信号を記録再生系の二値化特性に合わせて波形等化する等化ステップと、
波形等化後の信号を二値化する最尤復号ステップと、
波形等化前の信号と二値化信号とに応じて前記等化ステップの波形等化特性を適応的に制御する制御ステップと、
二値化信号に基づいて光ディスクのディフェクトを検出するステップとを具備し、
前記ディフェクト検出の検出基準は二値化信号に応じて可変である光ディスクの再生方法。
【請求項7】
前記最尤復号ステップは前記等化ステップの出力に対してブランチメトリックを計算するブランチメトリック計算ステップと、前記ブランチメトリック計算ステップにより計算されたブランチメトリックに基づいて最尤パスメトリックを選択するパスメトリック選択ステップと、前記パスメトリック選択ステップによる選択結果の時間経過を複数の記憶素子からなるメモリを複数段有するパスメモリ部に記憶するステップとを具備し、
前記ディフェクト検出ステップは前記パスメモリ部の所定の段のメモリの記憶素子のうち同じデータを記憶する記憶素子の数が所定数以下の場合にディフェクトを検出し、該所定数はディフェクトの検出回数に応じて可変であることを特徴とする請求項6記載の再生方法。
【請求項8】
前記ディフェクト検出ステップは、前記パスメモリ部の最終段もしくは最終段近傍の段のメモリ内の全記憶素子が記憶する“1”または“0”データをカウントする第1のカウンタステップと、前記第1のカウンタステップのカウント値が第1の閾値以下の場合にディフェクト検知信号を出力する閾値判定ステップと、前記ディフェクト検知信号をカウントする第2のカウンタステップと、前記第2のカウンタステップの出力が第2の閾値以上の場合に前記第1の閾値を減少する閾値決定ステップとを具備することを特徴とする請求項7記載の再生方法。
【請求項9】
前記第2のカウンタステップは前記閾値判定ステップから出力されるディフェクト検知信号と再生動作が安定した時に出力される安定通知信号との論理積をカウントすることを特徴とする請求項8記載の再生方法。
【請求項10】
前記検出ステップがディフェクトを検出すると、前記制御ステップは波形等化特性の適応的な制御動作を停止し、波形等化特性を所定の特定に固定することを特徴とする請求項6記載の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−70512(P2009−70512A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239769(P2007−239769)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】